JP4456322B2 - ステント - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、血管、体腔内に埋没可能で狭窄部の治療に使用されるステントの改良に関し、特に生物学的活性物質を含んだ高分子材料で被覆されて、抗血栓性や血管内膜増殖抑制等の表面を提供し、再狭窄を予防するステントに関する。
【0002】
【従来の技術】
ステントとは、血管や他の生体内の管腔が狭窄や閉塞した場合、当該狭窄部等を拡張し必要な管腔領域を確保するため、当該部位に留置する管状の医療用具である。ステントは、直径が小さいまま体内に挿入し、狭窄部等で拡張させて直径を大きくし当該管腔を拡張・保持するのに使用される。
【0003】
例えば、近年、狭窄した血管の再建を目的として、経皮的冠状動脈血管形成術(以下PTCA:Percutaneous Transluminal Coronary Angioplastyと称する。)により、PTCAバルーンカテーテルによる拡張、及びステントの留置による治療が行われている。当該ステントは、カテーテルに装着したバルーンに空気を送って膨張・拡張して形成された血管内に留置することにより、その再狭窄を防止・抑制させることを企図しているものである。
このように、ステントの留置は、バルーン拡張のみによる血管形成に対し、再狭窄を抑制させる期待のもとに行われているものであったが、実際には、初期の予想ほど再狭窄率の低下を得られていないのが現状である。
これは、ステントの拡張、留置時に、当該ステント自身が引き起こす血管障害のため、血栓の生成や平滑筋の増殖を誘導することが原因の一つであると考えられる。
【0004】
そのため、従来から、カテーテル等においては、これら抗凝血剤等の薬剤を、カテーテルチューブを構成する高分子中に含有若しくは結合させ、局所的にこれら薬剤を徐放させる試みが行われてきた。しかしながら、ステントの場合は、その基材が通常金属であるために、カテーテルで主に行われていたように直接基材へ結合、含浸する等の技術を適用するのは困難である。従って、ステントについては、当該薬剤を高分子と共に有機溶媒に溶解混合し、塗布する方法のみが、実際上、適用可能な方法である。
【0005】
そもそも、従来知られているこれら抗血栓性の代表的な生理活性物質であるヘパリンやウロキナーゼは、実質的に有機溶媒に不溶であるため、上記方法の適用は、実質的には不可能である。さらに、従来、アスピリンやアルガトロバン等の抗凝固剤や抗血小板剤を単独または併用して含む高分子材料からなる被覆層で被覆したステントや当該高分子材料からなるフィルムが巻かれたステントは知られている(例えば、特開平8−224297や特開平8−33718等を参照。)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、薬剤の徐放により再狭窄を抑制するステントにおいて、高分子被覆層(薬剤保持層)を改良することにより、水溶性薬剤の高分子材料中への保持量と徐放性を向上させ、剥離等を伴うことなく、より長期間、当該ステントを体内で安定的に使用しうるようにする技術を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に従えば、以下の発明が提供される。
[1]本発明は、ステント基材(11)の表面に、プライマー層(P)/薬剤保持層(M)/被覆層(12)を順に被覆し、
前記ステント基材(11)は、金属製の略管状体であり、
前記薬剤保持層(M)は、生理活性薬剤を含み当該生理活性薬剤を生体内で徐放し、少なくとも自重の100%以上の水を吸収する吸水性高分子材料からなり、
当該吸水性高分子材料は、ポリプロピレンオキシド鎖、ポリテトラメチレンオキシド鎖等のポリエーテル鎖を構造中に有するポリウレタン系エラストマーであり、
前記プライマー層(P)を構成するプライマーは、前記ステント基材(11)と前記薬剤保持層(M)を構成する吸水性高分子材料の両方に対して親和性の高い材料からなり、
当該プライマーは、加水分解性基と有機官能基を有するエポキシ系、アミノ系、メルカプト系の中から選ばれるいずれかのシランカップリング剤であり、
前記被覆層(12)を構成する高分子材料は、前記薬剤保持層(M)を被覆可能な高分子材料であって、耐加水分解性の高いポリカーボネート系ポリウレタンであり、
前記被覆層(12)及び前記薬剤保持層(M)の厚みは、0.1〜50μmであり、
当該ステントは、これを、pH7.4の緩衝液中で60回/分で振盪した場合において、少なくとも2ケ月間は、当該被覆層(12)及び当該薬剤保持層(M)は剥離せず、かつ、その間に前記生理活性薬剤は液中に徐放を続けることができる安定な被覆を有する、ステント(1)を提供する。
【0008】
[2]本発明は、前記シランカップリング剤が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2アミノエチル)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン3−クロロプロピルトリメトキシシランの中から選ばれるいずれかのシランカップリング剤である、[1]に記載のステント(1)を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のステント1は、ステント基材11の表面に、プライマー層P/薬剤保持層M/被覆層12の順に被覆したステント1である。
前記薬剤保持層Mは、生理活性薬剤を含み当該生理活性薬剤を生体内で徐放し、少なくとも自重の100%以上の水を吸収する吸水性高分子材料からなる。
前記プライマー層Pはステント基材11と薬剤保持層Mを構成する吸水性高分子材料の両方に対して親和性の高い材料からなる。
前記被覆層12は前記薬剤保持層Mを被覆可能な高分子材料からなる。
本発明は、ステント基材11上に薬剤保持層Mを形成するにあたり、まずステント基材11及び薬剤保持層Mを形成する前記吸水性高分子材料の両方に対して親和性の高いプライマーにより、前記ステント基材11表面を処理してプライマー層Pを形成する。
次に吸水性高分子材料を溶解した溶液を調整し、これを前記プライマー層Pを形成したステント基材表面11に塗布または浸漬して溶媒を揮発させることにより、薬剤保持層Mを形成することができる。
また当該薬剤保持層M中に、水溶性の薬剤を導入するには、所望の生理活性薬剤水溶液中に前記薬剤保持層Mを形成したステント基材11を任意の時間浸漬後、乾燥することにより導入することができる。さらに当該薬剤保持層Mを、高分子材料からなる被覆層12で被覆する。このようにしてステント基材11には三層の被覆層(プライマー層P/薬剤保持層M/被覆層12)が形成される。ステント1自体は、ステント基材11も含めて四層構造となる。
【0011】
図1は、本発明のステント1の一例を示す概略図、図2は図1の一部拡大断面図で、ステント1がステント基材11も含めて、ステント基材11、プライマー層P、薬剤保持層M、被覆層12の4層構造よりが形成されている例である。
ステントの基材11を構成する材質は、それ自身公知のものでよく、特に限定するものではないが、例えばSUS316L等のステンレス鋼、Ti−Ni合金、Cu−Al−Mn合金等の形状記憶合金、チタン、チタン合金、タンタル、タンタル合金、プラチナ、プラチナ合金、タングステン、タングステン合金等からなる金属パイプや平板をレーザー加工することにより表面に所定のパターンを形成した略管状体、又はこれら金属のワイヤーにより形成した編目状の略管状体等が使用される。なお、略管状体の形状については、目的の物性が得られるものであれば、特に限定されるものではない。
【0012】
また本発明で使用される薬剤保持層Mは、少なくとも生理活性薬剤を含み、当該生理活性薬剤を生体内で徐放しうる少なくとも自重の100%以上の水を吸収する吸水性高分子材料より形成される。
本発明では、前記吸水性高分子材料として、例えば公知のデンプン・ポリアクリロニトリル加水分解物、デンプン・ポリアクリル酸塩架橋物、架橋カルボキシメチルセルロース、酢酸ビニル・アクリル酸メチル共重合体ケン化物、ポリアクリル酸ナトリウム架橋物、架橋ポリビニルアルコール、ポリアクリクアミド系の材料であって、これらの中で自重の100倍以上の吸水性を有する材料を使用することができるが、本発明で使用する好適な吸水性高分子材料としては、有機溶媒に可溶でステントに被覆できること、少なくともステントの拡張に応じて剥離等することなく、追従できるコンプライアンスのある吸水性高分子材料好ましく、ポリプロピレンオキシド鎖、ポリテトラメチレンオキシド鎖等のポリエーテル鎖を構造中に有するポリウレタン系エラストマー及びこれらを基にしたゲルないしゲル状の吸水性高分子材料が好ましい。
【0013】
なお本発明で使用可能な吸水性高分子材料は、前記に列挙したものに限定されるものではなく、水、血液、生理食塩水に溶解せず、かつ水溶性の生理活性薬剤を効率よく含有させるために、自重の100%以上(自重と同量以上)の水を含有することが可能で、有効量の生理活性薬剤を、生体内において前記被覆層12を通して表面より徐々に溶出(徐放)することが可能であり、前記特性を有するものであれば何でも使用することができる。
【0014】
また前記被覆層12の材料として、ステントとして薬剤保持層Mからの生理活性薬剤の放出を妨げず、被覆層12の種類(材料)及び厚み等を制御することで一定期間以上の徐放性を維持しやすいという理由で、ポリエーテル系、ポリカーボネート系のポリウレタン、ポリエステル及びポリエーテルポリアミド等が好ましい。より具体的には、血管内に留置される血管内ステントは、カテーテルなどの一時的な処置または留置を行う医療用具とは異なり、半永久的に体内に留置(インプラント)するものであるため、耐加水分解性が高いポリカーボネート系のポリウレタンが、本発明の血管内ステントの被覆層12の材料として最も好ましい。
【0015】
後述するように、薬剤保持層Mを構成する吸水性高分子材料をステントの基材11に塗布して乾燥するが、本発明では、前記ステント基材11と、当該ステント基材11に被覆される吸水性高分子材料の両方に対して親和性の高いプライマーで、あらかじめ前処理してステント基材11にプライマー層Pを形成しておくことが重要である。
すなわち、ステント基材11の構成材料(金属)と吸水性高分子材料との両方に対して親和性を有するプライマーにより、まず当該ステント基材11の表面を処理してプライマー層Pを形成し、その後に吸水性高分子材料で塗布し、薬剤保持層Mを形成した後、当該ステント基材11を生理活性薬剤の水溶液中に所定の時間浸漬後、乾燥することにより生理活性薬剤を薬剤保持層M中に導入し、さらに高分子材料よりなる被覆層12を形成するものである。
【0016】
本発明ではかかるプライマーとして、種々のものが使用可能であるが、もっとも好ましくは、加水分解性基と有機官能基を有するシランカップリング剤である。
シランカップリング剤の、当該加水分解基(例えばアルコキシ基)はシラノール基を生成して金属性のステント基材と共有結合等により結合され、一方当該有機官能基(例えエポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、メタクリロキシ等)は、生理活性薬剤を含む吸水性高分子材料と化学結合により結合することにより、当該吸水性高分子材料とステント基材11は、シランカップリング剤を介して、これを使用しない場合に比較して、ずっと密接に固着されるのである。ここで特に好ましくは、有機官能基としてエポキシ基を有するエポキシ系のシランカップリング剤であるが、これと同様の性能を有するアミノ系、メルカプト系のシランカップリング剤も好適に使用することができる。
【0017】
当該シランカップリング剤は、使用する吸水性高分子材料の樹脂の種類により、これに対応する有機官能基を有する適当なものを選択すればよく、例えば以下のものが好適に使用可能である。すなわち、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が好適に使用される。
【0018】
また、プライマーとしては、上記シランカップリング剤の他に、これと同様な機能を有する、テトラブトキシチタネート、テトラステアリルチタネート、テトライソプロポキシチタネート、イソプロポキシチタニウムステアレート、チタニウムラクテートのごとき有機チタン系カップリング剤;アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートのごときアルミニウム系カップリング剤:クロム系カップリング剤;有機リン酸系カップリング剤も適宜使用可能である。
【0019】
前記ステント基材11の構成材料(金属)と吸水性高分子材料との両方に対して親和性を有するシランカップリング剤等のプライマーは、通常、水、適当な有機溶媒、又は水と有機溶媒との混合溶媒に溶解し、これを処理溶液として、基材表面に塗布・乾燥することにより、前処理が行われる。有機溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール又は当該アルコールと水との混合溶媒や、ベンゼン、トルエン、キシレン等が好ましく用いられる。当該処理溶液中のプライマー濃度としては、比較的希薄溶液が用いられ、0.05〜2質量%、好ましくは0.1〜1.0質量%である。
【0020】
本発明においては、ステント基材11に対し、吸水性高分子材料の被覆前に、このようなプライマー処理を実施(プライマー層Pの形成)することにより、吸水性高分子材料の被覆の安定性が飛躍的に高められ、得られたステントは、これを体内に留置し、例えば血管内に埋殖した際に、内膜が形成されるに充分な期間、例えば少なくとも1ヶ月間程度体内に留置した場合においても、水(生理食塩液、リン酸緩衝液)環境下では、剥がれなど全く伴うことなく安定的に被覆層(薬剤保持層M、被覆層12)を維持することができるという顕著な作用効果を奏することができる。この点、ステント基材を構成する金属に、直接的に吸水性高分子材料を塗布した場合には、条件によっては、水環境下において数日〜数週間で被覆層(薬剤保持層M)の剥がれが発生することがありうるため、上記ごとき長期間は、ステントを体内に留置することは到底困難であることと著しい対照をなしているといえる。
【0021】
本発明においては、以上のようにステント基材11にプライマー層Pを形成し、当該ステント基材11に少なくとも自重の100%以上の水を吸収する吸水性高分子材料を被覆して、当該ステント基材11に薬剤保持層Mを形成した後、当該ステント基材11を生理活性薬剤の水溶液中に所定の時間浸漬後、乾燥することにより生理活性薬剤を薬剤保持層M中に導入することができる。さらに当該ステント基材11の薬剤保持層Mを高分子材料により被覆して被覆層12を形成することによりステント基材11も含めて4層構造のステント1とすることができる。
従って、当該薬剤保持層Mに生理活性薬剤を、当該高分子材料に結合していない、すなわち物理的に混合・分散されている状態で生理活性薬剤を含むようなステント1とすることができる。このように、ステント基材11に形成される薬剤保持層M及び被覆層12の厚さは、含有させるべき生理活性薬剤の濃度、所望の溶出量や溶出量の経時変化等に応じて任意に採用できるものであるが、通常、0.1〜200μm、好ましくは0.1〜50μmである。
【0022】
ここで本発明において定義される生理活性薬剤とは、例えばパクリタキセル等の抗がん剤、HGF(hepatocyte grows factor)などの遺伝子治療薬、塩酸チクロピジン等の抗血小板薬、その他抗生物質、免疫抑制剤、スタチン系薬剤など水溶性で薬剤保持層Mに導入でき、また生体内で拡散その他の機構により当該被覆層12から徐々に放出(リリース)されるものであれば、特に限定するものではなく、これらの公知の生理活性薬剤を使用することができるし、さらにこれ以外のものであってもよい。
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明のステントの実施の形態を説明する。
図1は、すでに説明したように、本発明のステントの一例を示す概略図であるが、ステント1は、例えば図2の断面図に示すようにステンレス鋼製のステント基材11から構成され、その外周面にはプライマー層P、薬剤保持層M、被覆層12が順次被覆されている。このステント1の場合、ステント基材11を構成する金属と薬剤保持層Mを構成する吸水性高分子材料との両方に対して親和性を有するプライマーにより、まず当該ステント基材11の表面を処理しプライマー層Pを形成後、その後に吸水性高分子材料で塗布して薬剤保持層Mを形成して、生理活性薬剤を当該薬剤保持層4に導入後、当該薬剤保持層4を高分子材料で被覆することにより被覆層12を形成し、ステント基材11を含めて4層構造としたステント1の一例である。
【0024】
かかる被覆層12、薬剤保持層Mの形成方法は、すでに述べたとおり、被覆用溶液をスプレーによる塗布やディッピングによる塗布により被覆層(被覆層12、薬剤保持層M)の形成が可能である。ここで、スプレーやディッピングの回数は一回でも良いが、被覆層12、薬剤保持層Mを形成する高分子材料の濃度等によって被覆層(被覆層12、薬剤保持層M)の厚さを調整するためは、複数回に分けて塗布する方法が通常用いられる。
【0025】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明がこれらの実施例により限定的に解釈されるものではない。
【0026】
〔比較例1〕(ステントへ塗布した高分子材料の水環境下での安定性試験1)
(1)吸水性高分子であるTecophilic HP-93A-100(ポリエーテルタイプ熱可塑性ポリウレタン,溶液▲1▼とする)及びCarbothane PC-3585A(ポリカーボーネートタイプ熱可塑性ポリウレタン,溶液▲2▼とする)2.0gを、テトラヒドロフラン(THF)100mlに溶解し、その2質量%溶液(溶液▲1▼、▲2▼)を調整した。
(2)図1に示すパターンを形成した管状のステント1(ステント基材11)に溶液▲1▼を塗布乾燥して、薬剤保持層Mを被覆した後、当該ステント1を10%ヘパリンナトリウム水溶液に1時間浸漬した後真空乾燥を行い生理活性薬剤(ヘパリン)を導入した。その後、溶液▲2▼を塗布し被覆層12を形成しステントのサンプルとした。なお、膜厚は約20μm、生理活性薬剤の導入量は約200μgであった。
【0027】
(3)このステントのサンプルを拡張後、pH7.4−リン酸緩衝液3mlが入った試験管に入れ、37℃にて60回/分の速度にて、振盪させながら、経時的にサンプリングして、生理活性薬剤の徐放及び当該ステント表面を目視及び顕微鏡により観察し、塗布膜(薬剤保持層M、被覆層12)の剥がれの有無を観察した。
この結果、当該塗布膜(薬剤保持層M、被覆層12)は、水溶液環境下で約2週間で剥がれを生じることがわかった。生理活性薬剤の徐放は剥れを生じる2週間まで確認できた。
【0028】
〔実施例1〕(ステントへ塗布した高分子材料の水環境下での安定性試験2)
(1)エポキシ系シランカップリング剤(KBM403(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン):信越化学工業社製)1.0gをMeOH/水(50/50)100mlに溶解し、1質量%溶液を調整した。
(2)吸水性高分子であるTecophilic HP-93A-100(ポリエーテルタイプ熱可塑性ポリウレタン,溶液▲1▼とする)及びCarbothane PC-3585A(ポリカーボーネートタイプ熱可塑性ポリウレタン,溶液▲2▼とする)2.0gを、テトラヒドロフラン(THF)100mlに溶解し、その2質量%溶液(溶液▲1▼、▲2▼)を調整した。
【0029】
(3)まず(1)の溶液を、図1に示すパターンを形成した管状のステント1(ステント基材11)に塗布し、メタノール/水を揮発させシランカップリング剤による前処理を行い、プライマー層Pを形成した。次に比較例1と同様の方法により、薬剤保持層Mの形成、生理活性薬剤の導入、被覆層12の形成を行いステントのサンプルとした。なお、膜厚は約20μm、生理活性薬剤の導入量は約210μgであった。
(4)このステントのサンプルを拡張後、pH7.4−リン酸緩衝液3mlが入った試験管に入れ、37℃で60回/分の速度にて、振盪させながら、経時的にサンプリングして、当該ステント表面を目視及び顕微鏡により観察し、薬剤の徐放及び塗布膜(薬剤保持層M、被覆層12)の剥がれの有無を観察した。
実施例1の結果、当該塗布膜(薬剤保持層M、被覆層12)は、水溶液環境下で約2ヶ月以上安定に存在することが確認された。また、微量ながら2ヶ月目においても生理活性薬剤の放出が確認された。
【0030】
〔比較例2〕(比較例として吸水性の低い高分子材料による徐放性試験)
(1)エポキシ系シランカップリング剤(KBM403(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン):信越化学工業社製)1.0gをメタノール/水(50/50)100mlに溶解し、1質量%溶液を調整した。
(2)ペレセン2363−80AE(ポリエーテルタイプ熱可塑性ポリウレタン,溶液▲1▼とする)及びCarbothane PC-3585A(ポリカーボーネートタイプ熱可塑性ポリウレタン,溶液▲2▼とする)各2.0gを、THF100mlに溶解し、2質量%溶液を調製した。
【0031】
(3)図1に示すパターンを形成し、実施例1と同様にエポキシ系シランカップリング剤にて処理してプライマー層Pを形した後、薬剤保持層Mの形成、生理活性薬剤の導入、被覆層12の形成を行いステントのサンプルとした。なお、膜厚は約20μm、薬剤の導入量は約200μgであった。
また同様にステントのサンプルを拡張後、pH7.4−リン酸緩衝液1mlが入った試験管に入れ、37℃にて振盪し評価した。
その結果比較例2のサンプルの当該塗布膜(薬剤保持層M、被覆層12)は、水溶液環境下で約2ヶ月以上安定に存在することが確認されたが、徐放量は微量で、7日目には検出限界以下となった。
【0032】
以上、比較例1、2及び実施例1の結果から、本発明のステントにおいては、塗布膜(薬剤保持層M、被覆層12)は、基本的に、長期間(60日)経過してもステント基材11から剥がれることがないことが確認された。そして、実際に、例えばヘパリンナトリウム等の生理活性薬剤(坑血栓薬剤)を含有せしめた吸水性高分子材料を被覆したステント1からの当該生理活性薬剤のリリース挙動については、30日程度はもちろんのこと、さらに60日程度と長期間にわたっても、当該薬剤保持層M及び被覆層12は、ステント基材11から剥がれることがなく、当該生理活性薬剤の放出速度コントロールが可能であることが確認された。
【0033】
実施例において、生理活性薬剤としてヘパリンナトリウムを例に用いたが、水溶性で薬剤保持層Mに導入でき、また生体内で拡散その他の機構により当該被覆層12から徐々に放出(リリース)されるものであれば、特にこれに限定されるものではない。
【0034】
【発明の効果】
本発明によれば、吸水性高分子からなる薬剤保持層Mを形成し、これに生理活性薬剤を含有、保持させ、最表面を生体内で安定性の高い高分子材料で被覆層12を形成することにより、長期にわたり安定した生理活性薬剤の徐放性と体内での安定性をもつステントを提供することができる。
また本発明のステントによれば、生理活性薬剤の徐放量および速度は、薬剤の含有量、薬剤保持層M及び被覆層12の厚さを適宜変更することでコントロールすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のステントの概略図
【図2】図1のステントの一部拡大断面図
【符号の説明】
1 ステント
11 基材(ステント基材)
12 被覆層
M 薬剤保持層
P プライマー層
Claims (2)
- ステント基材(11)の表面に、プライマー層(P)/薬剤保持層(M)/被覆層(12)を順に被覆し、
前記ステント基材(11)は、金属製の略管状体であり、
前記薬剤保持層(M)は、生理活性薬剤を含み当該生理活性薬剤を生体内で徐放し、少なくとも自重の100%以上の水を吸収する吸水性高分子材料からなり、
当該吸水性高分子材料は、ポリプロピレンオキシド鎖、ポリテトラメチレンオキシド鎖等のポリエーテル鎖を構造中に有するポリウレタン系エラストマーであり、
前記プライマー層(P)を構成するプライマーは、前記ステント基材(11)と前記薬剤保持層(M)を構成する吸水性高分子材料の両方に対して親和性の高い材料からなり、
当該プライマーは、加水分解性基と有機官能基を有するエポキシ系、アミノ系、メルカプト系の中から選ばれるいずれかのシランカップリング剤であり、
前記被覆層(12)を構成する高分子材料は、前記薬剤保持層(M)を被覆可能な高分子材料であって、耐加水分解性の高いポリカーボネート系ポリウレタンであり、
前記被覆層(12)及び前記薬剤保持層(M)の厚みは、0.1〜50μmであり、
当該ステントは、これを、pH7.4の緩衝液中で60回/分で振盪した場合において、少なくとも2ケ月間は、当該被覆層(12)及び当該薬剤保持層(M)は剥離せず、かつ、その間に前記生理活性薬剤は液中に徐放を続けることができる安定な被覆を有する、
ことを特徴とするステント(1)。 - 前記シランカップリング剤が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2アミノエチル)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン3−クロロプロピルトリメトキシシランの中から選ばれるいずれかのシランカップリング剤である、ことを特徴とする請求項1に記載のステント(1)。
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