JP4261097B2 - 超電導マグネット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超電導機器に使用される高温超電導永久電流スイッチを利用した超電導マグネットに関する。
【0002】
【従来の技術】
超電導線は電気抵抗が無いため、閉回路を形成し、永久電流により磁場を発生することが可能である。永久電流運転を行なうには、永久電流スイッチを用いる方法が一般的に用いられる。永久電流スイッチは超電導線と、超電導線の超電導状態と常電導状態を切り替えるための手段から構成される。永久電流スイッチは、超電導コイルが閉回路になるように接続される。永久電流スイッチがオフ状態すなわち超電導線が常電導状態なると電気抵抗が発生し、永久電流スイッチと並列に接続された励磁電源により超電導コイルを励磁する。励磁中には、永久電流スイッチの両端に電圧が発生するが、常電導状態の超電導線には有限の抵抗があるために分流し、永久電流スイッチは発熱することになる。永久電流スイッチは、常電導状態での電気抵抗すなわちオフ抵抗が大きいほど発熱が少なくなり、励磁速度を速くすることができる。そこで、永久電流スイッチの電気抵抗を大きくするために、絶縁物基板上に超電導膜を形成し、さらに高温超電導膜の安定性を保持するために、超電導膜側に絶縁物を介して冷却板を配設した構造が考案されている。
【0003】
図11は、従来の永久電流スイッチ1である。高温超電導膜2側に絶縁物7を介在させて冷却板4を配設してある。この構造では、高温超電導膜2を効率良く冷却することが可能であるが、高温超電導膜2に直接絶縁物7と冷却板4を接着させるため、高温超電導膜2にダメージを与える可能性がある。
【0004】
また、冷凍機による伝導で超電導コイル、永久電流スイッチを冷却する場合、永久電流スイッチのオン/オフの時聞は、冷凍機および永久電流スイッチの間に熱スイッチを設置することで大きく改善するが、従来の熱スイッチは制御が複雑で、設置に関しても空間的、重量的に難しい場合が多い。
【0005】
また、永久電流回路を形成するために、永久電流スイッチと超電導コイルは、高温超電導線等で接続するが、この接続部の抵抗は、永久電流減衰の原因となるので、できるだけ接続抵抗を減らす構成が必要となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従来の技術では、高温超電導膜の安定性を保持するために、超電導膜側に冷却板を配設していたため、冷却時の熱収縮率差により超電導膜が劣化する場合があった。
【0007】
そこで本発明の目的は、超電導膜にダメージを与えず、安定性が高く、熱容量の小さな高温超電導永久電流スイッチを提供し、永久電流運転が容易な高温超電導マグネットを提供することである。
【0008】
また、伝導冷却超電導マグネットにおいて、制御が簡単で小さく、軽量な熱スイッチを提供することである。また、永久電流スイッチに偏流が起こりにくい高温超電導マグネットを提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために、本発明は、サファイアもしくはYSZを母材とする絶縁物基板の表面に形成されたYBCOの超電導膜と、前記絶縁物基板の裏面側に積層された冷却板及びスイッチ切替用の加熱手段とで永久電流スイッチ単位体を構成し、前記永久電流スイッチ単位体を1枚もしくは複数枚積層して並列化し、前記1枚もしくは複数枚の永久電流スイッチ単位体それぞれの超電導膜側を離形処理し、前記永久電流スイッチ単位体の1枚もしくは複数枚積層して並列化したものをエポキシ樹脂もしくはフィラー入りエポキシ樹脂で固めて一体化して永久電流スイッチを構成し、前記永久電流スイッチと高温超電導コイルとを真空容器に収容し、前記永久電流スイッチと高温超電導コイルとを超電導線にて電気的に接続し、前記真空容器に、前記高温超電導コイルを冷却する冷凍機を設置し、前記1枚もしくは複数枚の永久電流スイッチ単位体それぞれの冷却板と前記冷凍機とを熱的に接続させる熱スイッチ伝熱板であって、アルミ、銅、銀、又はそれらの少なくとも1つを含む合金を素材とし、かつ、断面積÷長さの値を0.005mm以上、かつ体積を10cm 3 以下にした熱スイッチ伝熱板を前記真空容器内に配設してその一部を前記冷凍機に接続して超電導マグネットを構成し、前記超電導マグネットにおける前記永久電流スイッチ単位体の並列数、前記永久電流スイッチと高温超電導コイルとを電気的に接続する前記超電導線の本数又はその両者を、巻線された高温超電導テープ線材の並列本数と同数、その整数倍もしくは整数分の1にした超電導マグネットを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。なお、本発明は下記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施し得るものである。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態を示す永久電流スイッチ1の断面図を示したものである。高温超電導膜2は、絶緑物基板3の上に形成されている。この絶縁物基板3には、高温超電導膜の結晶成長を促進させる中間層がその表面に配設される場合がある。高温超電導膜2は、絶縁物基板3側に配設した冷却板4により冷却される。さらに、ヒータ5が具備されており、永久電流スイッチ1は、ヒータ5を加熱することでオフ状態になる。電流は、端子6を介して高温超電導膜2に通電される。
【0020】
本実施の形態の永久電流スイッチ1は、図2に示すように、ヒータ5と冷却板4の位置を変えてもよい。また、高温超電導膜2は、図3に示すように絶縁物基板3の表面に回路状に電流経路として形成してもよい。
【0021】
図4は本実施の形態の永久電流スイッチ1の外観を示す図である。図3に示す絶緑物基板3の裏面側に冷却板4とヒータ5とを配設し、超電導コイルと接続するための端子6を具備している。
【0022】
本実施の形態の永久電流スイッチ1において、高温超電導膜2の材料としては、Bi2212,Bi2223,MgO,YBCOが適している。YBCOは、臨界電流密度が高く、抵抗率を高く設計することが可能であるので、特に適している。また、これらの高温超電導膜2を成膜する母材としては熱伝導率が高く、また強度が強いサファイアもしくはYSZが適している。
【0023】
本実施の形態によれば、高温超電導膜2を劣化させることなく、速やかに熱を分散する冷却板5を配設しているため、オフ抵抗が大きく、熱容量が小さく、かつ安定牲の高い永久電流スイッチを提供できる。
【0024】
(第2の実施の形態)
図5は、本発明の第2の実施の形態の永久電流スイッチ1の断面図である。性能が高い高温超電導膜2を形成する目的で、絶縁物基板3には一般的に単結晶が用いられるため、強度的に弱い。そこで本実施の形態では、図4に示した構造の第1の実施の形態の永久電流スイッチを含浸ケース8の中に収納し、エポキシ樹脂9で含浸することによって剛性を強化した構造にしている。ここで、エポキシ樹脂9は、ガラスやセラミックス等のフィラー入りでも良い。含浸ケース8には、強度部材としての役割も持たせることができる。
【0025】
高温超電導膜2は、他の部材と接着すると、冷却時の熱歪みでダメージを受ける可能性があるので、エポキシ樹脂9を含浸する際に高温超電導膜2の面が接着されないように、離形処理するとなお良い。図6は離形処理した場合の永久電流スイッチ1の構成であり、符号10が離形部位である。
【0026】
なお、含浸ケース8は、含浸後に取り外すことも可能である。図7は、エポキシ樹脂を含浸した後に含浸ケース8を除去した構成の永久電流スイッチ1の断面を示している。
【0027】
また、電流容量を増やすために、複数の高温超電導膜2を含浸ケース8に収納し、含浸しても良い。図8はその場合の永久電流スイッチ1の構成を示している。
【0028】
本実施の形態によれば、強度的に弱い絶縁物基板3をエポキシ樹脂9で含浸しているので、剛性が強化され、振動などに強い永久電流スイッチ1が提供できる。
【0029】
(第3の実施の形態)
図9は、本発明の第3の実施の形態の超電導マグネットの構成を示している。本実施の形態の超電導マグネットは、前述した図1乃至図8のいずれかの構造の永久電流スイッチ1と、高温超電導コイル11およびそれらを冷却する冷凍機12、さらにそれら全体を包囲する輻射シールド13と真空容器14から構成される。図9は、永久電流スイッチ1の例として、図4に示す永久電流スイッチ1を搭載した場合の構成を示している。
【0030】
高温超電導コイル11は、伝熱板15を介して冷凍機12によって冷却される。永久電流スイッチ1は、熱スイッチ伝熱板16を介して冷凍機12によって冷却される。永久電流スイッチ1と高温超電導コイル11とが永久電流回路を構成するために、永久電流スイッチ1の端子6に、高温超電導線17が接続されている。この永久電流回路と並列に励磁電源18が接統されており、永久電流スイッチ1と共に永久電流運転を行う。
【0031】
永久電流スイッチ1をオン状態、すなわち超電導状態に保つ場合には超電導転移温度以下、かつ、コイル運転温度とほぼ同じ温度、例えば20K程度になるように冷却する必要がある。一方、永久電流スイッチ1をオフ状態、すなわち常電導状態に保つ場合には超電導転移温度以上、例えば100K程度に維持する必要がある。
【0032】
熱スイッチ伝熱板16として、20Kで熱伝導率が大きく、100Kで熱伝導率が小さな材質のものを用いると、当該熱スイッチ伝熱板16に熱スイッチの機能を持たせることができ、なおかつ、熱スイッチとしての動作を確実に行わせることができる。熱スイッチ伝熱板16の材質としては、アルミ、銅、銀もしくはそれらの少なくとも1つを含んだ合金が適している。
【0033】
永久電流スイッチ1のオフ状態とオン状態を切り替える時間、すなわち、永久電流スイッチ1の約100Kの状態と約20Kの状態を切り替える時間は、熱スイッチ伝熱板16の断面積と長さに影響される。断面積÷長さの値が大きければl00Kから20Kへの冷却特性は向上し、逆に20Kから100Kへの加熱には時間がかかる。断面積÷長さの値が小さい場合には、100Kから20Kへの冷却時間は長くなるが、20Kから100Kへの加熱は容易になる。一方、熱スイッチ伝熱板16の材質として20Kで熱伝導率が大きく、100Kで熱伝導率が小さな材質を用いると、永久電流スイッチ1をオフ状態からオン状態に切り替える時間は、それらの条件とともに、熱スイッチ伝熱板16の熱容量が大きく影響する。これは、熱スイッチ伝熱板16自体の温度が下がらないと熱伝導率が大きくならないためである。
【0034】
これを考慮し、熱スイッチ伝熱板16を設計し、実験により検証したところ、断面積÷長さの値を0.005mm以上、かつ体積を10cm3 以下の条件とした場合に切替時間が数秒〜数分となり、熱スイッチ伝熱板16として適していることが分かった。
【0035】
本実施の形態によれば、安定性の高い永久電流スイッチ1および熱スイッチの機能を有する伝熱板16を用いているので、永久電流運転が容易な超電導マグネットを提供できる。
【0036】
(第4の実施の形態)
図10は、本発明の第4の実施の形態の永久電流回路の接続図である。高温超電導コイル11は、電流容量に合わせてテープ線材を複数本束ねて巻かれることがある。同様に永久電流スイッチ1も、電流容量に合わせて並列化する必要がある場合がある。永久電流回路において、回路が並列化された場合、僅かな抵抗の差で偏流する。偏流は、永久電流スイッチ1の容量を低下させ、クエンチしやすくする。
【0037】
図10の超電導マグネットでは、高温超電導コイル11の線材並列数と永久電流スイッチ1の並列数を一致させており、それぞれを高温超電導線17で接続した構成にしている。この接続方式であれば、接続数および接続条件を並列回路のそれぞれの回路同士で同じにすることができるので、偏流が起こりにくくなる。
【0038】
なお、高温超電導コイル11の線材並列数、永久電流スイッチ1の並列数、そしてそれらを結ぶ高温超電導線17の数は全く同数である必要はなく、整数倍もしくは整数分の1であっても良い。
【0039】
本実施の形態によれば、接続構成を並列回路同士で均一にすることが可能で、永久電流スイッチ1の偏流が少なく、安定牲の高い超電導マグネットを提供できる。
【0041】
【発明の効果】
本発明の超電導マグネットによれば、永久電流運転が容易であり、永久電流スイッチの偏流が少なく、安定性の高い超電導マグネットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態の永久電流スイッチの断面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態の永久電流スイッチの変形例の断面図。
【図3】本発明の第1の実施の形態における高温超電導膜の形状を示す説明図。
【図4】本発明の第1の実施の形態の永久電流スイッチの斜視図。
【図5】本発明の第2の実施の形態の永久電流スイッチの断面図。
【図6】本発明の第2の実施の形態の永久電流スイッチの変形例の断面図。
【図7】本発明の第2の実施の形態の永久電流スイッチの別の変形例の断面図。
【図8】本発明の第2の実施の形態の永久電流スイッチのさらに別の変形例の断面図。
【図9】本発明の第3の実施の形態の超電導マグネットの回路図。
【図10】本発明の第4の実施の形態の超電導マグネットの回路図。
【図11】従来例の永久電流スイッチの断面図。
【符号の説明】
1 永久電流スイッチ
2 高温超電導膜
3 絶縁物基板
4 冷却板
5 ヒータ
6 端子
8 含浸ケース
9 エポキシ樹脂
10 離形部位
11 高温超電導コイル
12 冷凍機
14 真空容器
16 熱スイッチ伝熱板
17 高温超電導線
Claims (1)
- サファイアもしくはYSZを母材とする絶縁物基板の表面に形成されたYBCOの超電導膜と、前記絶縁物基板の裏面側に積層された冷却板及びスイッチ切替用の加熱手段とで永久電流スイッチ単位体を構成し、
前記永久電流スイッチ単位体を1枚もしくは複数枚積層して並列化し、前記1枚もしくは複数枚の永久電流スイッチ単位体それぞれの超電導膜側を離形処理し、前記永久電流スイッチ単位体の1枚もしくは複数枚積層して並列化したものをエポキシ樹脂もしくはフィラー入りエポキシ樹脂で固めて一体化して永久電流スイッチを構成し、
前記永久電流スイッチと高温超電導コイルとを真空容器に収容し、前記永久電流スイッチと高温超電導コイルとを超電導線にて電気的に接続し、前記真空容器に、前記高温超電導コイルを冷却する冷凍機を設置し、前記1枚もしくは複数枚の永久電流スイッチ単位体それぞれの冷却板と前記冷凍機とを熱的に接続させる熱スイッチ伝熱板であって、アルミ、銅、銀、又はそれらの少なくとも1つを含む合金を素材とし、かつ、断面積÷長さの値を0.005mm以上、かつ体積を10cm 3 以下にした熱スイッチ伝熱板を前記真空容器内に配設してその一部を前記冷凍機に接続して超電導マグネットを構成し、
前記超電導マグネットにおける前記永久電流スイッチ単位体の並列数、前記永久電流スイッチと高温超電導コイルとを電気的に接続する前記超電導線の本数又はその両者を、巻線された高温超電導テープ線材の並列本数と同数、その整数倍もしくは整数分の1にしたことを特徴とする超電導マグネット。
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