JP4258288B2 - 吸音構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に車両に設けられ、エンジン音等を吸収して騒音を低減する吸音構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、略平らな基板と、当該基板と対向する吸音材と、基板と吸音材との間の空気層を複数の格子状のセルに分割する仕切り板とを備えた吸音構造体が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この従来の吸音構造体は、吸音材背後の空気層の厚さ(即ち、各セルの深さ)を、吸収すべき音波の波長の1/4倍に設定することによって、吸音材による音波のエネルギの効率的な減衰を図っている。この従来の吸音構造体によれば、セルの深さの約4倍の波長を持つ音の周波数成分の吸音率が向上する。
【0003】
【特許文献1】
特開平11−161282号(第6頁、第16図)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、車両のエンジンルームや車室内にはエンジンの燃焼音(約1kHz〜3kHz)を主とする広範な周波数帯域の騒音が存在する。このため、車両のエンジンルーム等においては、ある程度広い周波数帯域の騒音に対して効果的な吸音がなされる必要がある。しかしながら、上述の従来の吸音構造体では、吸音効果が特定の周波数帯域に集中するため、ある程度広い周波数帯域の騒音が存在する空間においては良好な吸音効果が得られないという問題点がある。
【0005】
そこで、本発明は、前記セル構造による特定の周波数帯域での高い吸音効果を維持しつつ、新たな周波数帯域における吸音効果を高めることができる、吸音構造体の提供を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、請求項1に記載する如く、互いに隣接する一端が開口した複数の空間部を備える吸音構造体において、
前記複数の空間部は、前記一端側の開口部に対向する他端が底壁により閉塞されており、
前記複数の空間部は、所定間隔だけ離間した状態で互いに隣接して配置される2つの第1空間部と、前記隣接する2つの第1空間部の間に形成される第2空間部とを含み、
前記隣接する2つの第1空間部の断面積を、該第1空間部の所定の深さまで一定としつつ該所定の深さから減少させることによって、前記第2空間部の断面積を前記所定の深さまで一定としつつ該所定の深さから増加させ、これにより、前記第2空間部を、前記一定の断面積の部分を首部とする共鳴器として機能させ、更に、前記第1空間部の開口部を吸音材により覆うことを特徴とする、吸音構造体により達成される。
【0007】
本発明によれば、互いに隣接して形成される第1空間部及び第2空間部に、それぞれ異なる態様の吸音機能を付与することができる。具体的には、第1空間部の断面積を所定の深さまで一定としつつ該所定の深さから減少させることで、第2空間部の断面積が当該所定の深さまで一定としつつ該所定の深さから増加されるので、第2空間部に共鳴器としての機能を付与することができる。一方、第1空間部の開口部を吸音材により覆うことで、第1空間部を利用した効率的な吸音を実現することができる。また、このような第1空間部及び第2空間部による吸音効果がピークとなるそれぞれの周波数帯域を重ならないように分散させることで、広い周波数帯域で高い吸音効果を得ることが可能となる。
【0008】
また、請求項2に記載する如く、前記第2空間部と、前記第1空間部とが、屈曲した一枚の薄板により仕切られている場合には、第1空間部及び第2空間部を一体的に形成することが可能となり、吸音構造体のコンパクト化が可能となる。また、音波を第1空間部内に効率的に入力させることが可能となり、第1空間部による吸音効果が向上する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施例について図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、本発明による吸音構造体の一実施例を示す断面図である。本発明による吸音構造体10は、一端が開口した筒状の空間部71を複数有する。空間部71は、図1に示すように、下側が頂点となる略ホームベース形の一定断面を有している。但し、空間部71は、図の紙面鉛直方向において、薄板からなる略平らな(紙面に平行な)複数の仕切り板72によって仕切られている。従って、空間部71は、略ホームベース形の一定断面を紙面鉛直方向に押し出し、当該押し出された空間を各仕切り板72により仕切ることによって画成される。即ち、空間部71は、各仕切り板72の間隔に相当する紙面鉛直方向の奥行き寸法を有している。更に他言すると、空間部71は、上方から見た際(図中のZ方向に見た際)、所定の深さh1までは略一定の矩形の断面となり、深さh1からは、深さの増加と共に面積が徐々に小さくなる矩形の断面(深さHでは面積ゼロ)となる。以下、この空間部71を「吸音セル71」という。
【0011】
吸音セル71は、図中の左右方向で、所定間隔R(例えば、10mm〜20mm)だけ互いに離間した態様で複数個設定されている。従って、各吸音セル71の間には、第2の空間部81が複数個形成される。この第2の空間部81は、上方から見た際、所定の深さh1までは略一定の断面積S1(断面形状は矩形)を有し、深さh1からは当該断面積S1から徐々に増加する断面積(断面形状は矩形)を有する。また、第2の空間部81は、空間部71と同様、図の紙面鉛直方向において、上述の複数の仕切り板72によって仕切られている。また、第2の空間部81の底部は、底壁74によって閉塞されている。従って、各第2の空間部81は、他の第2の空間部81とは連通していない。このような第2の空間部81の構成により、断面積S1の首部内の空気が質量mとし、首部より下側の胴部内の空気がバネとして作用するヘルムホルツの共鳴器(レゾネータ)が複数個形成される。以下、この第2の空間部81を「共鳴器81」という。
【0012】
尚、本実施例では、吸音セル71及び共鳴器81は、共通の側壁73及び仕切り板72によって画成されている。即ち、本実施例では、吸音セル71が側壁73及び仕切り板72により上述の断面を有するように画成されることに伴って、共鳴器81(即ち、第2の空間部81)が画成されている。また、共鳴器81の底部を画成する底壁74は、側壁73及び仕切り板72がその上に結合・支持される支持体としても機能する。尚、本実施例の吸音構造体10(側壁73及び仕切り板72)は、アルミニウム板や鋼板等の薄板により形成されてよく、或いは、ポリプロピレン系樹脂のような硬質樹脂により一体成形することも可能である。また、いずれの場合であっても、吸音構造体10の底壁74は、側壁73及び仕切り板72とは別個に形成され(但し、同一の材料から形成されてよい)、側壁73の底部(即ち、略ホームベース形の角部)及び仕切り板72の下側の縁部に接着等により固定されてよい。
【0013】
本発明による吸音構造体10には、吸音材76が設けられる。吸音材76は、各吸音セル71の開口部を覆うように仕切り板72の上縁に接着等により固定される。吸音材76は、吸音性を有する材料から形成され、例えばグラスウールやロックウール等の無機質繊維、アルミニウム繊維等の金属繊維材料、ポリスチレン系樹脂やポリエチレン系樹脂等のような合成樹脂発泡体、ウレタンやゴム系の軟質な材料、多孔質材料等から形成されてよい。但し、共鳴器81(即ち、第2の空間部81)の開口部は、必ずしも吸音材76により覆われる必要はない。
【0014】
本実施例の吸音構造体10は、例えば音源に対して吸音セル71の開口が向くように、また、設置面となる例えばボデーパネルに底壁74が沿うように、ボデーパネルにクリップやスクリュウ等により固定される。但し、本発明は、吸音構造体10の設置方法や設置場所や設置態様(例えば、設置面内での吸音構造体10の向き)を特定するものではない。例えば、吸音構造体10の設置場所としては、フードパネル、フェンダーカバー、ダッシュパネル、ルーフパネル、フロアパネル等であってよい。また、当然に、吸音セル71及び共鳴器81の個数は、吸音構造体10の設置範囲に応じて定まるものである。
【0015】
次に、図2を参照して、本発明による吸音構造体10(吸音セル71)の吸音原理について説明する。図2は、図1と同様の方向から見た際の吸音構造体10の断面を示している。
【0016】
図2を参照するに、波長λの音波が吸音セル71に略垂直に入射した場合、吸音セル71内には入射波と反射波との合成により定在波が形成される。一方、波長λの音波が吸音セル71に斜め方向から入射した場合であっても、側面72により音波の斜め入射角が制限され、各吸音セル71内に定在波が形成される。
【0017】
この定在波は、吸音セル71内において側壁73の底部から波長λの1/4の奇数倍離れた位置で腹を有しており、当該腹で音波の粒子速度が最大となる。従って、粒子速度が最大となる位置に吸音材76を設け、最も高い粒子速度を持つ位置で音波を吸音材76に通過させれば、最も効率的に音波を減衰させることができる。
【0018】
このため、吸音セル71の深さH(吸音セル71内の空気層の最大厚み)は、好ましくは、吸収すべき音波の波長λの1/4倍(若しくはその奇数倍)に設定される。例えば、吸音セル71の深さHは、10mm〜30mmの範囲内で設定される。また、吸音セル71の開口幅D(図1参照)は、吸音セル71に入射可能な音波の周波数を規制するため、吸収すべき周波数帯域の音波の波長λよりも小さく設定される。例えば、吸音セル71の開口幅Dは、40mm〜60mmの範囲内で設定される。但し、吸音セル71の開口幅Dは、各吸音セル71毎に異なるものであってよく、また、奥行き方向と横方向で異なるものであってもよい。
【0019】
更に本実施例では、上述の吸音セル71による吸音効果に加えて、共鳴器81による吸音(消音)効果を得ることができる。尚、共鳴器81による消音原理は、公知であるので詳細な説明は省略するが、共鳴器81の首部内の空気振動により音波のエネルギを減衰するものである。
【0020】
図3は、本実施例の吸音構造体10の吸音率の測定結果を示す図である。なお、図3には、吸音構造体10の開口面に対して垂直方向に音波を入力した際の吸音率を、入力した音波の周波数を横軸にして示している。
【0021】
図3に示すように、本実施例では、2つの周波数帯域で吸音率にピークが現れている。この吸音率の2つのピークが出現する周波数は、共鳴器81の共鳴周波数(固有振動周波数)と、吸音セル71の深さHの4倍の波長を持つ音の周波数とに、それぞれ対応している。
【0022】
従って、本実施例によれば、上述のセル構造の吸音セル71(λ/4の深さH)による吸音効果に加えて、共鳴器81による吸音効果が同時に得られることが理解できる。他言すると、本実施例によれば、セル構造に共鳴器81の機能を付与することで、新たな周波数帯域(即ち、共鳴器81の共鳴周波数に対応する周波数帯域)において高い吸音効果を追加的に得ることが可能となる。この結果、本実施例によれば、広範な周波数帯域で高い吸音効果を得ることができる。
【0023】
この測定結果から明らかなように、吸音セル71の深さH、及び/又は、共鳴器81の共鳴周波数を変更・調整することによって(即ち、吸音率がピークとなる周波数をずらすことで)、互いに離間した2つの周波数帯域に、若しくは、互いに隣接した2つの周波数帯域に、吸音効果を集中させることも可能である。また、各吸音セル71の深さHを異なる値に設定することによって、及び/又は、各共鳴器81の共鳴周波数を異なる値に設定することよって、広範な周波数帯域で吸音効果を得ることも可能である。尚、共鳴器81の共鳴周波数は、公知なように、共鳴器81の胴部の容積や首部の断面積や長さh1等により定まるものであるため、これらの設計事項に基づいて調整可能である。
【0024】
また、本実施例によれば、上述の如く、共鳴器81の共鳴周波数を適切に設定することで、比較的低い周波数帯域の騒音を容易に低減することができる。即ち、セル構造の吸音セル71による吸音効果を、比較的低い周波数帯域(例えば、1kHz以下)において集中させたい場合には、それに対応してある程度大きな吸音セル71の深さH(即ち、吸音構造体10の厚み≧85mm)が必要となるが、かかる厚みのある吸音構造体10を車両に設置できない場合も考えられる。これに対して、本実施例によれば、共鳴器81の共鳴周波数を低い周波数帯域に設定することで、吸音構造体10の厚みを大きくすることなく、比較的低い周波数帯域の騒音を低減することができる。
【0025】
更に、本実施例では、上述の如く、吸音セル71の側壁73により共鳴器81が画成されている。この場合、2つの互いに対向する側壁73は、上述の如く、共鳴器81を画成すべく、深さh1の位置から底部で互いに結合(収束)するように互いに近接する方向に屈曲している(図1参照)。このため、吸音セル71は、上述の如く、音波の入射方向から見て、深さh1の位置から徐々に断面積が小さくなる空間を有することになる。これにより、吸音セル71内での音波の滑らかな伝搬、即ち音響インピーダンスの緩やかな変化が実現される。この結果、本実施例によれば、音波を吸音セル71内に効率的に入力させることが可能となり、吸音セル71による吸音効果が向上する。他言すると、本実施例によれば、屈曲した側壁73により吸音セル71と同時に共鳴器81を形成することで、共鳴器8による消音作用を得ることのみならず、吸音セル71による吸音効果を高めることも可能となる。
【0026】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0027】
例えば、上述した実施例では、断面が略ホームベース形の吸音セル71、及び、これに伴い断面が深さh1の位置からハの字状に広がる共鳴器81を用いて、2形態の吸音効果を実現するものであったが、本発明は、特にこの吸音セル71や共鳴器81の断面形状に限定されることはなく、例えば、図4(A)に示すように、吸音セル71の下側の角部(ホームベース形の角部)を平らに形成することも可能であり、或いは、図4(B)に示すように、断面が下向きの凸字形の吸音セル71、及び、これに伴い断面が上向きの凸字形となる共鳴器81を用いることも可能である。
【0028】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したようなものであるから、以下に記載されるような効果を奏する。本発明によれば、第2空間部に隣接する第1空間部の断面積を、当該第1空間部の所定の深さから減少させることによって、第2空間部に共鳴器としての機能を付与することができ、これにより、第1空間部による吸音効果と同時に、共鳴器(第2空間部)による吸音効果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による吸音構造体の一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明による吸音構造体10の吸音原理の説明図である。
【図3】本実施例の吸音構造体10の吸音率の測定結果を示す図である。
【図4】本発明による吸音構造体の代替実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
10 吸音構造体
71 吸音セル
72 仕切り板
73 側壁
74 底壁
76 吸音材
81 第2の空間部(共鳴セル)
Claims (2)
- 互いに隣接する一端が開口した複数の空間部を備える吸音構造体において、
前記複数の空間部は、前記一端側の開口部に対向する他端が底壁により閉塞されており、
前記複数の空間部は、所定間隔だけ離間した状態で互いに隣接して配置される2つの第1空間部と、前記隣接する2つの第1空間部の間に形成される第2空間部とを含み、
前記隣接する2つの第1空間部の断面積を、該第1空間部の所定の深さまで一定としつつ該所定の深さから減少させることによって、前記第2空間部の断面積を前記所定の深さまで一定としつつ該所定の深さから増加させ、これにより、前記第2空間部を、前記一定の断面積の部分を首部とする共鳴器として機能させ、更に、前記第1空間部の開口部を吸音材により覆うことを特徴とする、吸音構造体。 - 前記第2空間部と、前記第1空間部とは、屈曲した一枚の薄板により仕切られている、請求項1記載の吸音構造体。
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