JP4255054B2 - 醤油の醸造法 - Google Patents
醤油の醸造法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP4255054B2 JP4255054B2 JP2002369399A JP2002369399A JP4255054B2 JP 4255054 B2 JP4255054 B2 JP 4255054B2 JP 2002369399 A JP2002369399 A JP 2002369399A JP 2002369399 A JP2002369399 A JP 2002369399A JP 4255054 B2 JP4255054 B2 JP 4255054B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- soy sauce
- yeast
- moromi
- lactic acid
- added
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Lifetime
Links
Landscapes
- Soy Sauces And Products Related Thereto (AREA)
Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、醤油麹を食塩水に仕込んで醤油諸味を調製し、これに予め培養した醤油乳酸菌および予め培養した醤油酵母を添加し、以下常法により発酵、熟成を行う醤油の醸造法の改良に関し、確実に、所望のエタノール濃度と乳酸濃度を有し、芳醇な風味を有する醤油を得る方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
伝統的な醤油の醸造法においては、蒸煮大豆と炒熬割砕小麦を混和し、これに醤油用種麹菌を接種培養して醤油麹を調製し、次いで、これを適当量の食塩水に仕込んで醤油諸味を調製し、次いでこれを一定期間発酵、熟成させて熟成諸味を調製し、最後に圧搾、濾過して醸造される。
しかし、この醤油諸味の発酵、熟成は通常開放系で行われており、しかも醤油乳酸菌および醤油酵母などの微生物の人為的添加は殆ど行われず、諸味中で活動する微生物は総てその醸造場、施設、器具などに自然に住み着いている菌群(ナチュラル・フローラ)の自然混入に委ねられていた。本発明では、上記醸造場、施設、器具などに自然に住み着いて、醤油諸味中に自然混入し、増殖している耐塩性の醤油酵母を野生醤油酵母という。
【0003】
このナチュラル・フローラは、非常に多種多様であり、自然混入した耐塩性の野生醤油酵母の中には醤油の品質上、必ずしも好ましくない性質の菌が含まれることもある。また地域により、あるいは時と共にそのナチュラル・フローラの内容も変化するので、醸造場所により製品品質に格差を生じたり、年間を通じて品質の一定した醤油が得られないなどの大きな欠点を有していた。
【0004】
このような見地から、地域的あるいは時間的な制限にとらわれず常に品質の一定した醸造醤油を製造することを目指して、醤油麹を食塩水に仕込んで醤油諸味を調製し、これに予め培養した醤油乳酸菌および予め培養した醤油酵母(以下、優良酵母ということがある)を添加し、以下常法により発酵、熟成を行う醤油の醸造法が開発された。
【0005】
すなわち、醤油麹を食塩水に仕込んで醤油諸味を調製し、これに予め培養した醤油乳酸菌を添加し、培養して諸味中の乳酸菌数が107個/g諸味を越え、乳酸発酵に伴い諸味のpHが5.1〜5.2に低下した時期(通常は、仕込み後20〜40日目)に、予め培養した醤油酵母(主に醤油主発酵酵母Zygosaccharomyces rouxii)を添加し、エタノール発酵を行い、風味の良好な醤油を醸造する方法が知られている(醤油の科学と技術、栃倉辰六郎 編著、財団法人日本醸造協会、1988)(食品微生物ハンドブック、好井久雄、金子安之、山口和夫編著、技報堂出版、1995)。
【0006】
しかし、この方法においては、無殺菌の麹を使用し、微生物学的に開放の仕込みタンクで発酵、熟成させるため、醤油諸味の乳酸発酵および酵母発酵には特定不能で複雑なトラブル要因が入り込み易く、添加したそれらの微生物を長期にわたって、バランスよく安定して生育させ、好ましい発酵を続けることは非常に困難であった。
また純粋培養条件下においては、エタノール生産性が高かったり、あるいは優良な醤油の香気を形成したりする醤油主醗酵酵母株を取得したにも関わらず、これらの株を実際の醸造工程において積極的に利用した場合には、純粋培養条件下で得られたような結果が得られないケースが多い欠点を有していた。
【0007】
このようなことから、近年では、最新式の密閉式独立型の仕込みタンクにより諸味の発酵、熟成管理を行ない、仕込みタンク内の諸味が、隣接する他の仕込みタンクに飛散、混入することを防止し、さらに仕込タンク、仕込み器具、機械およびパイプ(仕込み経路)を使用の都度洗浄したりして、添加した醤油乳酸菌および添加した醤油酵母を長期にわたって、バランスよく安定して生育させ、好ましい乳酸発酵および酵母発酵(アルコール発酵)を続ける努力をしている。
【0008】
しかし、この方法においても、醤油麹や諸味のロットによる違いなどによって、乳酸発酵に伴うpHの低下が一定でなく、酵母の添加時期を熟練者の経験と感による判断を余儀なくされる欠点を有していた。
また、仕込タンクや仕込み経路の洗浄、完全除菌には限界があり、除菌できずに僅かに残存する耐塩性の野生酵母が、醤油諸味に混入し、これが優良酵母添加前に繁殖すると、乳酸発酵を抑制するのみならず、野生酵母によって好ましくない香気を生成する場合がある欠点を有する。
さらに、醤油諸味に添加される醤油酵母(優良酵母)は、必要量を予め培養して保存しておくことが求められているが、予測した添加時期が前または後に大きくズレた場合、添加される醤油酵母が不足したり、また醤油酵母の活性が低下したりして、諸味に添加された後、速やかに酵母発酵が行なわれない欠点を有する。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、醤油麹を食塩水に仕込んで醤油諸味を調製し、これに予め培養した醤油乳酸菌および予め培養した醤油酵母を添加し、以下常法により発酵、熟成を行う醤油の醸造法において、上記の欠点を解消し、確実に、所望のエタノール濃度(例えば3(V/V)%以上)と所望の乳酸濃度(0.8〜1.0(W/V)%)を有し、pH4.6〜4.9を有する、芳醇な風味を有する醤油を得ることを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これらの課題を解決するため、種々検討を重ねた結果、仕込み初期の醤油諸味中の耐塩性の野生醤油酵母(以下、この酵母を野生酵母ということがある)に着目し、その野生酵母に対して生菌数の比で10倍から100倍となるような量の、予め培養した醤油酵母を醤油諸味に添加するときは、乳酸発酵に影響を与えることなく、野生酵母の増殖を抑制し、添加した優良酵母のみを旺盛に増殖させ、エタノール発酵を順調に実施することができることを知った。
また、醤油諸味に対し、仕込み後10日以内に、優良酵母を、予め諸味中に存在する野生酵母に対して10〜100倍となるように添加するときは、極めて少量の優良酵母の添加にて、上記効果を奏することを知った。
またその際に優良酵母の添加量が2×105 個/g諸味を越えると、醤油諸味に共存する乳酸菌の発酵に影響をもたらし、乳酸が生成蓄積しなくなって風味の乏しい醤油となることを知った。
そしてまた、優良酵母を、予め諸味中に存在する野生酵母に対して10〜100倍で、しかも2×105 個以下/g諸味となるように添加するときは、乳酸発酵を抑制することなく優良酵母によるエタノール発酵が十分に行われ、確実に、所望のエタノール濃度(例えば3(V/V)%以上)と所望の乳酸濃度(例えば0.8〜1.0%)を有し、pH4.6〜4.9の芳醇な風味を有する醤油が得られることを知った。
【0011】
本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。すなわち本発明は、醤油麹を食塩水に仕込んで醤油諸味を調製し、これに予め培養した醤油乳酸菌および予め培養した醤油酵母を添加し、以下常法により発酵、熟成を行う醤油の醸造法において、醤油諸味に対し、仕込み後10日以内に、予め培養した醤油酵母および予め培養した醤油乳酸菌を添加し、且つ該醤油酵母を、予め諸味中に存在する野生醤油酵母に対して10〜100倍で、しかも2×105個以下/g諸味となるように添加し、且つまた該醤油酵母添加が、該醤油乳酸菌と同時又は該醤油乳酸菌添加後であることを特徴とする醤油の醸造法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
【0013】
まず、本発明を実施するには、通常の醤油麹の製造法に従って調製し得られた醤油麹を通常の醤油醸造法に従って食塩水に仕込む。
ここに用いる食塩水は、醤油麹に対して1〜3重量倍が好ましく、また、用いる食塩濃度は醸造した醤油の食塩濃度が15〜20(W/V)%、好ましくは16〜18%となるように適宜調整する。
仕込み時の食塩濃度を上記した範囲とすることは重要であって、15%未満であるときは、夏季の気温たる25〜35℃においては醤油諸味が腐造する危険性が非常に高いので好ましくない。
醤油諸味の食塩濃度は、低いほど酵素作用が順調に行われ、また醤油乳酸菌や醤油酵母の繁殖発酵もよく行われて、諸味が早く分解熟成することは事実であるが、その場合、15%未満となると、いわゆる腐敗性の細菌類も旺盛に繁殖することとなり、酸臭や酸味が著しく出、ついには醤油としての価値を全く喪失する結果となる。
諸味の腐敗する食塩濃度は、他の条件、例えば諸味の温度を40℃以上に保持するか、或いは諸味に塩酸や乳酸のような酸を添加してpHを3.0以下にするなどをすることにより腐敗を防止することが可能となる。しかし、これもまた、醤油本来の風味が損なわれ、醤油としての価値を喪失する。
このように、腐敗菌の繁殖や生存に不適当な諸味の温度やpHや諸味液汁窒素濃度であれば食塩濃度が低くても腐敗は起こらないが、これはあくまで特殊な場合であって、一般の醤油の醸造法とは言えない。夏季は17%以上、春秋は15%以上の食塩濃度がなければ、順調に発酵熟成してゆくことはできないのである。なお、醤油諸味を40℃以上で加水分解する方法は、いわゆる温醸臭といわれる異臭が醤油に付着する欠点を有する。
【0014】
次いで、このようにして調製された醤油諸味に対して、予め選択された、または特に育種した、性質の優秀な醤油酵母(優良酵母)および性質の優秀な醤油乳酸菌を添加する。なお、該醤油乳酸菌は、通常の醤油の醸造法に従って添加すればよく、添加は1×104 個/g諸味〜1×107 個/g諸味となるように添加する。
【0015】
本発明において優良酵母の添加は、予め諸味中に存在する野生酵母に対して、10〜100倍とすることが重要であって、倍率が10倍より少な過ぎると、醤油諸味中に共存する野生酵母が相対的に多くなって、醤油主発酵を担う優良酵母が、醤油諸味中に共存する野生酵母群との生存競争に敗れ、生存競争的排除が起こり、駆逐されてしまう危険性を有する。
また反対に100倍より多すぎると共存する乳酸菌が旺盛に繁殖できなくなり、醸造醤油として所望の乳酸濃度と適当なpH(例えばpH4.6〜4.9)を有し、芳醇な風味を有する醤油醤油を得ることができない。
【0016】
また予め培養した醤油酵母および予め培養した醤油乳酸菌の添加時期は、仕込み後10日以内とすることが好ましく、仕込み後7日以内とすることがより好ましい。そして、仕込み時(仕込み直後)から仕込み翌日までの間が最も好ましい。この範囲とするときには、優良酵母の添加量を大幅に節約することが可能となるので好ましい。
反対に、予め培養した醤油酵母を仕込み後11日以降に添加するときは、11日以降の時点において醤油諸味中に共存する野生酵母が非常に多くなって、優良酵母の多量添加を余儀なくされる。その結果、これらの酵母濃度が多くなって乳酸菌の生育が阻害されその結果、乳酸含量が少ない、風味の乏しい醤油となる危険性を有する。また醤油諸味に添加した優良酵母(性質の優秀な醤油主発酵酵母)が、これらの諸味中に共存する野生酵母との生存競争に敗れ、生存競争的排除が起こり、駆逐されてしまう危険性を有する。すなわち優良酵母が旺盛に繁殖できなくなって、本発明の課題を解決することができない危険性を有する。
【0017】
また優良酵母の添加量は、2×105 個以下/g諸味とすることが重要であって、2×105 個/g諸味を越えると、乳酸発酵が旺盛に繁殖できなくなり、所望の乳酸濃度と適当なpH(例えばpH4.6〜4.9)を有し、芳醇な風味を有する醤油醤油を得ることができない恐れがある。
【0018】
本発明において用いられる優良酵母としては、(1)醤油の醸造に関わる耐塩性の醤油酵母、例えば、分類学的にはチゴサッカロマイセス ルーキシー(Zygosaccharomyces rouxii)の一属一種に属し、6〜28(W/V)%の塩化ナトリウムの存在下でもグルコースの存在下で旺盛なエタノール醗酵能を有し、主に醤油諸味のエタノール醗酵に寄与する醤油主醗酵酵母と、
(2)この醤油主醗酵酵母によるエタノール醗酵が終了した頃から活躍し始めて、主として醤油特有の香気の生成に関与する、かつては後熟酵母群とも呼ばれていた、Candida versatilisやCandida etchellsiiなどの耐塩性キャンディダ(Candida)属酵母群ないしは耐塩性トルロープシス(Torulopsis)属酵母群とが挙げられる。
このうち、前者の旺盛なエタノール発酵能を有する醤油主発酵酵母は、特にエタノール濃度が3%(V/V)以上を有する、芳醇な風味を有する醤油を得ることができるので好ましい。
【0019】
本発明者らの検討によれば、一概に醤油主醗酵酵母とひとまとめに言っても、株によってその性質は大きく異なっており、醤油諸味中での増殖能やエタノール発酵能には大きな違いがある。
【0020】
また、発酵、熟成工程を開放下で行い得られる、通常の諸味中には、多数の野生酵母株が混在して、醤油主醗酵酵母叢を形成している。しかし、これらの醤油主醗酵酵母株のすべてが醤油諸味のエタノール醗酵に同等に関与しているわけではなく、主にエタノール醗酵を担っている株はそのうちのほんのごく少数に過ぎない。
【0021】
この野生醤油酵母の中には醤油の品質上、必ずしも好ましくない性質の株が含まれることもある。また地域により、あるいは時と共にその内容も変化するので、醸造場所により製品品質に差がついたり、年間を通じて品質の一定した醤油が得られないなどの欠点を有する。
【0022】
従って、野生醤油酵母の増殖を抑制し、添加した優良酵母の増殖を旺盛に維持することは、極めて重要である。
本発明の上記醤油酵母の添加条件によれば、優良酵母を醤油諸味中に添加した際に、その株が、野生の醤油主醗酵酵母株も含めた、多くの野生酵母株との混合培養条件下において、他の株からの生存競争的排除に打ち勝って、旺盛に増殖することが可能となる。
【0023】
次に、予め培養した醤油酵母および予め培養した醤油乳酸菌を添加した諸味は、以下通常の醤油の醸造法に従って適宜攪拌し、諸味管理を行う。そして室温15〜35℃で、好ましくは20〜30℃に保持し、3〜8カ月間、好ましくは4〜6カ月間、常法により発酵、熟成させる。
【0024】
このようにして得られた熟成諸味は、圧搾、濾過、製成することにより、確実に、所望のエタノール濃度(例えば3(V/V)%以上)と、乳酸濃度(例えば0.8〜1.0(W/V)%)を有し、適度なpH(pH4.6〜4.9)を有する、芳醇な風味を有する醤油を得ることができる。
【0025】
【実施例】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明する。
【0026】
実施例1
通常の醤油麹の製造法に従って調製した醤油麹(20kg)を、仕込み容器内で25(W/V)%の食塩水(30リットル)に仕込み醤油諸味を調製した。
製麹装置や仕込容器は、蒸気にて殺菌し野生微生物(野生醤油酵母および野生乳酸菌など)が極力混入しないように実施した。
一方、予め上記で得た醤油諸味における野生酵母の経日的な消長を調査しておき、仕込み翌日の醤油諸味中の野生酵母数を把握した。
醤油諸味としてからは、通常の醤油醸造法に従って、諸味の品温を20〜25℃で5カ月、時々攪拌しながら保持し、発酵、熟成を行った。
仕込み翌日に、諸味を攪拌するとともに、表1の条件となるように予め培養した醤油酵母(純粋培養酵母)および醤油乳酸菌(純粋培養乳酸菌)を添加した。なお、乳酸菌は全ての試験とも同量とし、諸味g当たり1×106になるように添加した。
こうして得られた熟成諸味の液汁を採取し、成分分析を行った。また官能検査を実施した。結果を表1に示す。
なお、本実施例、実施例2および実施例3において用いる培養酵母は、通常の醤油諸味から公知の慣用手段により採取、分離された酵母で、食塩濃度16.5(W/V)%の醤油諸味中で旺盛にアルコール発酵を行い、アルコールを3.0(V/V)%以上、生成蓄積する能力を有する。
【0027】
表1の「生菌数の測定」:食品微生物ハンドブック(好井久雄・金子安之・山口和夫編著、技報堂出版、第603頁)に記載の方法による。
表1の「醤油の成分分析」:財団法人日本醤油研究所編集「しょうゆ試験法」(昭和60年3月1日発行)に記載の方法による。
【0028】
【表1】
【0029】
表1の結果から、以下のことが判る。
(1)優良酵母の添加倍率が5倍である比較例1の区分は、酸臭を有し、芳醇な風味の醤油を得ることができないことが判る。即ち、添加倍率が10倍より低いと、醤油諸味中に共存する野生酵母が相対的に多くなって、醤油諸味に添加した性質の優秀な醤油主発酵酵母株(優良酵母)が、これらの諸味中に共存する野生の醤油主醗酵酵母群(野生酵母)との生存競争に敗れ、生存競争的排除が起こり、エタノール発酵が旺盛に持続できないことが推定される。
(2)優良酵母の添加倍率が200倍、400倍である比較例2および比較例3の区分は、乳酸濃度が極端に低く、醤油特有の優れた風味を有する醤油を得ることができないことが判る。
(3)また優良酵母の添加倍率が100倍であっても、優良酵母が2×105 個/g諸味を越えた、比較例4の区分は、乳酸濃度が極端に低くなり、所望の乳酸濃度と適度なpH(例えばpH4.6〜4.9)を有し、芳醇な風味を有する醤油醤油を得ることができないことが判る。
(4)これに対し、優良酵母を、10〜100倍であって、しかも2×105 個以下/g諸味となるように添加する本発明の5つの区分は、添加した優良酵母のエタノール発酵が旺盛に行われ、目的とするエタノール濃度が3.0(V/V)%以上、特に3.5%以上の高い醤油を得ることができる。しかも、醤油乳酸菌の乳酸発酵が好適に営まれ、適度な、乳酸含量(0.8〜1.0(W/V)%)を有し、4.8〜4.9のpHを示す醤油が得られることが判る。そして、風味良好な醤油が得られることが判る。
【0030】
実施例2
通常の醤油麹の製造法に従って調製した醤油麹を20kgづつ8区分用意し、それぞれ8つの仕込み容器内で、該醤油麹を25(W/V)%の食塩水(30リットル)に仕込み、混和して醤油諸味を調製した。仕込み直後に、醤油諸味から分離、培養した醤油乳酸菌を1×106個/g諸味となるように添加し、通常の醤油醸造法に従って諸味管理を行い発酵、熟成させた。
一方、予め上記で得た醤油諸味における野生酵母の経日的な消長を調査しておき、仕込み時および仕込み後1、3、5、7、10、12、20日後の野生酵母数を把握した。
次いで、第1区分はそのままで、第2区分は仕込み1日後に、第3区分は仕込み3日後に、第4区分は仕込み5日後に、第5区分は仕込み7日後に、第6区分は仕込み10日後に、第7区分は仕込み12日後に、第8区分は仕込み20日後に、それぞれ表2に記載の培養酵母(予め培養した醤油酵母)を添加し、仕込み容器を23℃の恒温室にて、5カ月間、通常の醤油醸造法に従って諸味管理を行い発酵、熟成させた。
得られた熟成諸味の液汁を採取して実施例1と同様に分析、官能評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
表2の結果から、培養酵母の添加時期は、仕込み後10日以内とすることが好ましい。そして、特に仕込み時または仕込み後7日以内とするときは、所望のエタノールと乳酸濃度を有し、芳醇な風味を有する醤油を得ることが判る。
また、仕込み後10日より後に添加するときは醤油諸味中に共存する野生酵母が非常に多くなって、優良酵母の多量添加を余儀なくされる。その結果、これらの酵母濃度が多くなって乳酸菌の生育が阻害されその結果、乳酸含量が少ない、風味の乏しい醤油となる欠点を有することが判る。
【0033】
実施例3
実施例1と同様の方法で諸味を調製し、仕込み翌日に、諸味を攪拌するとともに、乳酸菌を諸味g当たり1×106になるように添加した。本発明による方法では、優良酵母を野生酵母に対し10倍となる諸味g当たり1×104添加した。対照の方法では、仕込み20日後諸味pHが5.2となった時点で、優良酵母を諸味g当たり2×105となるように添加した。それぞれ5連で行い、仕込み135日後の諸味液汁の乳酸量を表3に示す。なお、諸味の品温は、実施例1と同様とした。
【0034】
【表3】
【0035】
このように、対照区においては、乳酸含量にバラツキが多く、乳酸含量の一定した醤油を得ることが難しいことが判る。
これに対し、本発明区においては、確実に、乳酸含量にバラツキが少なく、乳酸含量の一定な醤油を得ることができることが判る。
【0036】
【発明の効果】
本発明は、予め醤油諸味中に存在する野生酵母に対して生菌数の比で10倍から100倍となるような量の優良酵母を醤油諸味に添加するものであるから、乳酸発酵に影響を与えることなく、野生酵母の増殖を抑制し、添加した優良酵母のみを旺盛に増殖させ、酵母発酵を順調に実施することができる。
また、醤油諸味に対し、仕込み後10日以内に、該醤油酵母を、予め諸味中に存在する野生酵母に対して10〜100倍となるように添加するものであるから、極めて少量の優良酵母の添加にて、上記効果を奏することができる。
またその際に該醤油酵母を、予め諸味中に存在する野生酵母に対して10〜100倍で、しかも2×105 個以下/g諸味となるように添加するものであるから、乳酸発酵を抑制することなく優良酵母によるエタノール発酵が十分に行われ、確実に、所望のエタノール濃度(例えば3(V/V)%以上)と所望の乳酸濃度(例えば0.8〜1.0(W/V)%)を有し、pH4.6〜4.9の芳醇な風味を有する醤油が得られる。
また、醤油麹や諸味のロットによる違いがあっても、確実に所望する醤油を得ることが可能となる。
優良酵母の添加時期は仕込み初期、特に仕込み後10日以内で、しかも野生の醤油酵母数を把握するだけで、優良酵母の添加量が決定でき、エタノール発酵能の最も活性の良い状態の酵母添加が可能となる。さらに、優良酵母の添加時期が延びたりする心配はなく、計画的にしかも過不足のない優良酵母の純粋培養物を調製できる。
また、熟練者による経験と感に基づく判断は不要となる。
また、清浄化した仕込タンクや仕込経路の完全除菌には限界があり、除菌できずに僅かに残存する耐塩性の野生酵母が、醤油諸味に混入していても、これに一定倍率の優良酵母を添加することにより、野生酵母の繁殖を効果的に抑制し、優良酵母のみ旺盛に繁殖させることができる。
また、優良酵母の添加量は常に乳酸発酵を抑制することのない範囲での添加であるので、乳酸発酵も順調に推移し、適度な乳酸含量を有する醤油を得ることができる。
本発明は、従来公知の醤油醸造法、例えば、濃口醤油、淡口醤油、白醤油、溜醤油、再仕込醤油、濃厚醤油などに適用して、確実に所望のエタノールと乳酸濃度を有し、芳醇な風味を有する醤油を得ることができる特徴を有する。
Claims (2)
- 醤油麹を食塩水に仕込んで醤油諸味を調製し、これに予め培養した醤油乳酸菌および予め培養した醤油酵母を添加し、以下常法により発酵、熟成を行う醤油の醸造法において、醤油諸味に対し、仕込み後10日以内に、予め培養した醤油酵母および予め培養した醤油乳酸菌を添加し、且つ該醤油酵母を、予め諸味中に存在する野生醤油酵母に対して10〜100倍で、しかも2×105個以下/g諸味となるように添加し、且つまた該醤油酵母添加が、該醤油乳酸菌と同時又は該醤油乳酸菌添加後であることを特徴とする醤油の醸造法。
- 醤油諸味に対し、仕込み時から仕込み翌日までの間に、予め培養した醤油酵母および予め培養した醤油乳酸菌を添加する請求項1に記載の醤油の醸造法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002369399A JP4255054B2 (ja) | 2001-12-21 | 2002-12-20 | 醤油の醸造法 |
Applications Claiming Priority (3)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2001388748 | 2001-12-21 | ||
JP2001-388748 | 2001-12-21 | ||
JP2002369399A JP4255054B2 (ja) | 2001-12-21 | 2002-12-20 | 醤油の醸造法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2003245053A JP2003245053A (ja) | 2003-09-02 |
JP4255054B2 true JP4255054B2 (ja) | 2009-04-15 |
Family
ID=28676966
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002369399A Expired - Lifetime JP4255054B2 (ja) | 2001-12-21 | 2002-12-20 | 醤油の醸造法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP4255054B2 (ja) |
Families Citing this family (8)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP4671416B2 (ja) * | 2005-08-17 | 2011-04-20 | キッコーマン株式会社 | 糖低減化醤油、粉末醤油および糖低減化醤油の製造法 |
JP4716369B2 (ja) * | 2006-03-22 | 2011-07-06 | キッコーマン株式会社 | 粉末醤油、糖低減化醤油、および糖低減化醤油の製造法 |
EP2805623B1 (en) * | 2009-09-18 | 2016-03-09 | Kikkoman Corporation | Low common salt soy sauce and process for producing same |
JP5412384B2 (ja) * | 2010-08-12 | 2014-02-12 | 億 太院 | 茶茎葉及び/又はサツマイモ茎葉を用いた発酵食品及びその製造方法 |
JP5756066B2 (ja) * | 2012-08-03 | 2015-07-29 | 植田製油株式会社 | 摂餌促進組成物およびそれを含有する飼料 |
JP6433670B2 (ja) * | 2013-05-31 | 2018-12-05 | ヤマサ醤油株式会社 | 醸造醤油および醸造醤油の製造方法 |
CA3231662A1 (en) * | 2021-09-14 | 2023-03-23 | Kikkoman Corporation | Soy sauce rich in organic acid |
CN115381077B (zh) * | 2022-07-27 | 2024-01-16 | 广东厨邦食品有限公司 | 一种提升酱油有机硒浓度的方法 |
-
2002
- 2002-12-20 JP JP2002369399A patent/JP4255054B2/ja not_active Expired - Lifetime
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2003245053A (ja) | 2003-09-02 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP5044769B2 (ja) | 乳酸菌ラクトバシラス・サケイ株、飲料製造方法、食品製造方法、漬け床製造方法、製パン改質原料製造方法 | |
KR100738277B1 (ko) | 저장성과 관능특성이 향상된 포장 김치의 제조방법 | |
CN104694371B (zh) | 一种利用复合菌种混合发酵制备的柑桔果醋及其制备方法 | |
JP4781428B2 (ja) | 醤油香の少ない醸造醤油及びその製造法 | |
CN106901187A (zh) | 一种豆瓣辣椒酱的发酵生产方法 | |
US7056543B2 (en) | Method of brewing soy sauce | |
JP4255054B2 (ja) | 醤油の醸造法 | |
CN105795404A (zh) | 一种无防腐剂长保质期工业化酸菜的快速制作方法 | |
CN105533577A (zh) | 一种蔬菜发酵产品制备方法 | |
CN103004983A (zh) | 双孢菇菇柄酸奶加工工艺 | |
JP5276290B2 (ja) | すんき製造用乳酸菌スターター、該乳酸菌スターターを用いて製造されたすんき及び該すんきの製造方法 | |
CN106235257A (zh) | 一种双菌种协同发酵紫苏粕制备呈味基料的方法 | |
KR102255983B1 (ko) | 유산균을 이용한 묵은지 제조방법 및 그로부터 제조된 묵은지 | |
KR20150132785A (ko) | 채소피클제품을 위한 동치미 발효조미액 제조방법 | |
CN106417633A (zh) | 一种新鲜干酪及其制备方法 | |
JP5964537B1 (ja) | 低pH醤油 | |
KR0160095B1 (ko) | 동치미 맛이 나는 발효음료의 제조방법 | |
JP5412384B2 (ja) | 茶茎葉及び/又はサツマイモ茎葉を用いた発酵食品及びその製造方法 | |
JP3683750B2 (ja) | 再仕込醤油の製造法 | |
JPH0367556A (ja) | 新規な低食塩みそ及びその製造法 | |
JP3904187B2 (ja) | エタノール高生産性醤油主醗酵酵母株の分離識別用寒天培地及び同酵母株の分離法 | |
JPS603805B2 (ja) | 野菜類の塩味性漬物の製造法 | |
JP4885802B2 (ja) | 無塩又は低塩のみそ系調味料の製造法及びその製品 | |
KR20210066356A (ko) | 발효 제어 조성물 및 이의 제조 방법 | |
KR20020089921A (ko) | 배추 즙을 이용한 액상 김치의 제조 방법 및 이 방법에의해 제조된 액상 김치 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20050610 |
|
A977 | Report on retrieval |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007 Effective date: 20080424 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20080509 |
|
A521 | Request for written amendment filed |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20080708 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20080929 |
|
A521 | Request for written amendment filed |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20081125 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20090123 |
|
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20090123 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120206 Year of fee payment: 3 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Ref document number: 4255054 Country of ref document: JP Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120206 Year of fee payment: 3 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130206 Year of fee payment: 4 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20140206 Year of fee payment: 5 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
EXPY | Cancellation because of completion of term |