JP4253861B2 - セルロース誘導体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なセルロース誘導体或いは澱粉誘導体からなる有機、無機複合材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
日常生活で大量に消費されているポリオレフィンや芳香族ポリエステル等は、有限な資源である石油から由来した材料であり、且つ年々増加するゴミの問題となっている。対策としては、ゴミの分別回収によるマテリアルリサイクルやケミカルリサイクル、サーマルリサクルで自然環境への負荷の低減を図っているが、その為にかかるコストやリサイクル化された材料の物性劣化、そして二酸化炭素放出による地球温暖化の問題、さらに未だ行楽地での投げ捨てによる環境汚染が懸念される。
【0003】
この様な状況下で、環境面、資源面で負荷の少ない材料系が注目され、中でもセルロースは、天然再生可能な地球上で無尽蔵に近い量で存在する天然高分子資源であり、その加工品である紙は、最近、特に注目され、リサイクルにおいても幅広い対応が可能で、且つ近年、製紙業界では故紙の再利用(マテリアルリサイクル)が活発に行われる一方、他の可燃性のゴミと一緒になってもサーマルリサイクルによってエネルギーに変換が可能であることから需要がますます増加している。
【0004】
しかし、セルロースの加工品である紙の構造は、セルロース分子が水素結合したものであり、本質的に水に弱く剛性も乏しい。これは、紙の構成繊維が水素結合で結びつけられている為で、この水素結合は水によって容易に切断されてしまうからである。また、紙は耐熱性が低いことも問題である。建材関係において紙は、 壁紙を代表として用いられているが、耐熱性等の物性が要求される。また、近年、壁紙の燃焼による有害物質の発生が問題となっているが、これは接着剤や紙中に含まれる添加成分が原因であり、無公害な材料系が求められている状況である。
【0005】
また、再生セルロースであるビスコースレーヨンは、セルロース本来の特性から、湿潤強度が弱い。さらに、澱粉も以前は「 のり」 としての需要が高かったが、やはり耐水性の課題や合成樹脂フィルムの接着の為、各種合成接着剤へと移行していった。澱粉のりの特徴は紙を強力に接着することにある。これは紙を構成するセルロースと同じ多糖類であるため、親和性が高い為である。その為、今でも、紙製の包装材料の接着の他に製本にも用いられている。工業的には、段ボールの製造の際の中芯とライナーの接着に使われている。しかしながら、最近、需要の高い耐水ダンボールでは、耐水性の解決策として、澱粉のりにレゾシノール・ホルムアルデヒド樹脂等を加えているが人体に有害な物質と言える。また、耐水化ダンボールに含浸されるワックスエマルジョン等と澱粉のりとの接着力が課題となるケースがある。総じてセルロース誘導体や澱粉の欠点は、耐熱性、耐光性、耐水性であると考えられる。
【0006】
また、セルロースの加工品である紙の欠点も同じようなもので、それを改善させる方法としては、従来、撥水性を向上させる場合には、プラスチックやアルミニウムと貼り合わせることが多いが、これも本質的な紙の耐水性の向上ではない。紙自体に、塗布あるいは含浸させることにより耐水性を付与し向上させる方法としては、エポキシ樹脂やメラニン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂を被膜や含浸させたりアリジリン化合物やエチレン尿素等を架橋剤として添加する方法があるが、剛性が不十分である場合が多い。さらに、これらの含浸紙、あるいはコーティング紙は、故紙の再生処理に適さない、即ちアルカリ加水分解が不可能な材料や、あるいは再生紙に悪影響を及ぼす含有量を有している場合がある。
【0007】
各種樹脂系の塗布、或いは内添、含浸方法による紙の物性においても、耐水性という面で、例えば沸騰水に入れておくと、紙との界面剥離を引き起こしてしまうことが多い。これは、紙の構成成分であるセルロースと各種樹脂との親和性が低いことが主たる原因と考えられる。
【0008】
紙との親和性が最も高いと考えられるものは、当然、その構成成分であるセルロースである。そして、セルロースは、前述の様に環境調和型の天然再生資源であり、近年、問題となっている石油問題や環境汚染問題に対応した材料系であることから、繊維素系樹脂、即ちセルロース誘導体が紙との親和性において最も適切と考えられる。
紙との親和性が求められる添加剤としては一つに紙力増強剤が挙げられるが、従来、カルボキシメチルセルロースやヒドロキシメチルセルロースといったセルロース誘導体も使われている。
【0009】
紙に強度を付与する含浸剤としてはその他に、資源的にも豊富で環境的に負荷が少なくアルカリ加水分解が可能なアルコキシ基を含有するシラン系の無機材料(珪酸塩)が、強固なシロキサン結合を形成することから注目されている。
【0010】
珪酸塩の特徴、及び優位性を挙げると、まず▲1▼資源的にみても、無尽蔵であり石油資源に依存しない。▲2▼不燃性であり、無煙で有毒ガスがでない。▲3▼炭素- 炭素結合に比べて、無機のシロキサン結合は熱安定性に優れ、熱分解しにくい。▲4▼耐水・耐油・耐溶剤性が優れている。▲5▼塗膜は、固く摩耗しにくい。▲6▼低公害で自然にやさしい。等が考えられる。
【0011】
これらの特徴は、前述のセルロース誘導体や紙の特徴である自然環境への調和という点で合致し、且つ短所である低い耐熱性、耐光性、耐水性を補う物性であることから、セルロース誘導体や紙への応用展開が問題解決の一つの手段と考えられる。
【0012】
セルロース誘導体への珪酸塩の応用展開としては、最近話題のハイブリッド化、即ち有機、無機複合化材料への展開が考えられ、珪酸塩でもシランカップリング剤という有機・無機複合材料があり、近年、特に官能基を有したシランカップリング剤が開発され様々な分野で利用されている。そこで、各種セルロース誘導体と官能基を有したシランカップリング剤との複合化による有機、無機ハイブリッド材料が考えられる。この複合化により、セルロース誘導体の短所を補うだけでなく珪酸塩の短所、即ちシロキサン結合の低柔軟性や低成形性も補うことができる。即ち、材料としては、無機物の特徴(高耐熱性、高弾性率、高強度、高耐食性、高耐候性、高耐溶剤性、高密度)と有機物の特徴(高柔軟性、高成形性、低密度)を兼ね備えた複合材料へ変換できる。
【0013】
しかし、これまでの有機、無機複合材料の多くは、合成高分子の中で多く検討されてきており、例えば、ポリアリレンエーテルケトンとイソシアネート基含有シランカップリング剤を反応させた尿素結合を有した複合材料や、酢酸ビニルとビニルトリエトキシシランの共重合体、そしてエポキシシランとメタクリロキシシランさらにアルコキシチタンとメタクリレートを重合させて複合化し硬化させることでコンタクトレンズ材料がつくられている。これらも、石油資源に依存した現代の産業を反映しているとも言える。また、数少ない各種セルロース誘導体と金属アルコキシドとの複合化も、多いのは混合(ブレンド)によるゾル・ゲル法であり、その主たる相互作用はセルロース誘導体の水酸基とシロキサン結合の水素結合であり、一部のシラノール基とセルロース分子の官能基が直接反応するものがあると考えられている材料系であり、シランカップリング剤の有機系炭素に結合した官能基とセルロース誘導体の官能基が反応し共有結合で複合化した材料系の明確な例は殆どない。
【0014】
また、紙への従来の有機、無機複合化による具体的な方法としては、ウレタン樹脂溶液に粒径0.02〜10um範囲のシリカ系微粒子を混合させたものを紙に含浸させ、耐水性を向上させるものがあるが、紙と含浸剤の相互作用は、主に水素原子と酸素原子の水素結合のみであり強固な結合とは言えず、紙の構成成分であるセルロースとシリカでは水や熱等の外部因子に対する挙動が異なる為、寸法安定性が低い場合が多い。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
この様な状況の中で、近年、資源的、環境的に負荷が少ないことからも注目されているセルロース誘導体と需要が増加している紙の課題である耐熱性、耐光性、耐水性等を付与する含浸剤として、同じく資源的、環境的に負荷が少ないアルコキシシランを利用したものが報告されているが、紙の構成成分であるセルロース分子との相互作用が水素結合のみで弱く寸法安定性に欠け、また複合化というより混合(ブレンド)であるため無機材料の欠点である脆さ等が生じてしまう。本発明の目的は、セルロース誘導体とシランカップリング剤を官能基同志の有機的な共有結合で複合化させることで、有機、無機材料の特色を兼ね備えた複合材料としてのセルロース誘導体を提供するものである。これによって、従来のセルロース誘導体の短所を改善すると共に、本発明のセルロース誘導体を紙の含浸薬剤として、紙に含浸することにより、耐水性、及び堅さ(紙の腰)や剛性、靭性、耐熱性、耐食性、耐溶剤性等を向上させ、さらに含浸薬剤の主成分がセルロース誘導体である為、紙との親和力増大による寸法安定性に優れた含浸紙を提供することができる。
【0016】
【課題を解決する為の手段】
本発明者らは、前記記載の課題を達成すべく鋭意研究した結果、セルロース誘導体の官能基とシランカップリング剤の官能基を付加、あるいはグラフト重合させ新規な複合化機能性セルロース誘導体の発明に到った。これにより、従来のセルロース誘導体の短所を補う機能性セルロース誘導体を提供できた。さらに、本発明のセルロース誘導体を紙への含浸剤として使用することで、無機物と有機物の特徴を兼ね備えた、即ち耐水性、堅さ、剛性、耐熱性、寸法安定性等に優れた機能紙を提供することができた。
【0017】
すなわち、本発明の上記目的は、以下の構成により達成できる。
【0018】
請求項1に関わる発明は、下記一般式1で表わされるシランカップリング剤を付加あるいはグラフト重合したセルロース誘導体である。
【0019】
【化2】
一般式1
【0020】
(式中、R2及びR3はそれぞれ同一若しくは異なる炭素数1〜4の低級アルキルエステル基又は硝酸エステル基を表わし、R7はエチレン基を表わし、R8、R9、R10は同一又は異なる炭素数1〜4の低級アルキル基を表わし、R12はエポキシ基を有する化合物が開環した2価の基を表わし、P は1以上の整数、qは10以上の整数を表わす。)
【0040】
本発明のシランカップリング剤をグラフト化セルロース誘導体の主な特徴は、一般式1で表わす記載のシランカップリング剤のアルコキシ基- OR8 、- OR9 、- OR10を縮合・硬化し強固な、しかも耐熱性、耐候性、耐溶剤性等優れて無機物の特性を有するシロキサン三次元構造を形成することと、グラフト化させたセルロース誘導体が有機材料としての特徴である柔軟性を付与しシロキサン結合の欠点である脆性を補っていることにある。そして、特に紙に含浸させた際は、紙の構成成分であるセルロース分子を本発明に関わる含浸薬剤は基本骨格に有している為、紙との親和性を増大させ寸法安定性を向上させている。
【0041】
これらのことは、PETフィルム等にワイヤーバーで塗工した際、単なるアルコキシシランである場合には、加水分解によって縮合させた塗膜は分散状態で形成できないのに対して、本発明のシランカップラーグラフト重セルロース誘導体を同じく加水分解によって縮合させた塗膜は一様に形成でき、且つ溶剤に不溶になっていることからも明らかである。
【0042】
本発明の幹ポリマーであるセルロースの原料は、高等植物のセルロース即ち、LBKP(針葉樹パルプ)やNBKP(広葉樹パルプ)、又は綿花由来のコットンリンターでも構わない。また、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、小麦、タピオカから得られる澱粉でも、同じ天然高分子の多糖類であることから構わない。その他、天然高分子の多糖類としてマンナン、ガラクタン、アラバン、キシラン、ペクチン等がある。また、カニやエビの甲羅や菌類の菌糸体から得られるキチン、キトサンも天然多糖類であるが、反応性に劣る為、本発明には適さない。
【0049】
さて、本発明に関わるシランカップラーグラフト化セルロース誘導体あるいはシランカップラーオリゴエステル化セルロース誘導体の溶解液、即ち紡糸液、含浸液、塗料等の主成分であるシランカップリング剤のアルコキシシリル基を加水分解させ加熱処理による縮合でシロキサン結合を形成させうる条件としては、一般的にゾル・ゲル法の知見から、酸、又はアルカリを用いp.H.=4以下、あるいはp.H.=10以上の条件下で縮合が始まる。具体的には、酸として塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等が使用できる。アルカリとしては、処理後に揮発によって除去できるアンモニアやヒドロキシアミン等が使用できる。特に、p−トルエンスルホン酸2水和物を使用した場合には、有機系のブレンステッド酸であることからラッカーや乾式紡糸するための紡糸液、含浸液、塗料さらには成形工程において溶剤を有機溶媒で統一することができる。また、この場合、本発明のシランカップラーグラフト化セルロース誘導体、あるいはシランカップラーオリゴエステル化セルロース誘導体のアルコキシ基の加水分解は、空気中の水分の影響もあるが主たるものはp−トルエンスルホン酸に配位した2分子の結晶水である為、加熱乾燥処理時に触媒効果と同時に加水分解が起こると考えられ、溶解液の安定性が良いと考えられる。また、溶解液の溶剤を有機系溶媒だけで統一できる為、固形分比(N.V.)を上げることができる。
【0051】
さらに、詳しく本発明に関わる各種溶解液、具体的には紡糸液、含浸液、塗料等の製造方法を説明すると、シランカップラーグラフト化、或いはオリゴエステル化バイオセルロース誘導体を有機溶剤に溶解して溶解液を調整するか、シランカップリング剤をバイオセルロース誘導体にグラフト化、或いはオリゴエステル化させた反応液をそのまま溶解液とする2つの方法がある。ここで、用いる有機溶剤としては、シランカップラーグラフト化、或いはオリゴエステル化バイオセルロース誘導体を溶解するものであれば良く特に限定はされないが、各種用途の溶液としての塗液安定性を考慮し余り揮発性の高い(低沸点)溶剤は好ましくない。また、人体に害の少ないものが望ましい。具体的には、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類、エタノール、プロパノールのようなアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素、酢酸エチルのようなエステル類、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0052】
<作用>
本発明のシランカップラーグラフト化セルロース誘導体は、資源的にも環境的にも負荷の少ない材料系で構成させれおり、シロキサン三次元結合を付与させることで、セルロース誘導体の物性の欠点を改善したものである。即ち、セルロース誘導体の低い耐熱性、耐光性、耐水性、耐溶剤性、耐食性を改善することで、セルロース誘導体から製造される塗料やラッカー、含浸紙或いはその含浸液、澱粉のり、或いは澱粉のりと接着不良なものへの塗膜、そしてフィルムや成形加工品、繊維或いはその紡糸液、繊維処理剤等の物性及び効果を向上させることができる。
【0053】
【実施例】
次に本発明を実施例に基づき、さらに具体的に説明する。本実施例では、本発明のシランカップラーグラフト化セルロース誘導体或いはシランカップラーオリゴエステル化セルロース誘導体を紙への含浸薬剤として使用した場合についての効果を示す。
【0054】
<製造例1>本発明のシランカップラーグラフト化セルロース誘導体或いはシランカップラーオリゴエステル化セルロース誘導体の出発原料としては、LBKP(広葉樹クラフトパルプ)湿潤シートをJIS−P8209に準拠して離解し、JIS−P8121に準拠して叩解を行い、カナダ式標準型濾水度で411csf である0.3%のLBKPセルロースのスラリー液を使った。300mlの三口フラスコに1g(β−1、4−グルコシド単位のmol濃度;約2.67mmol)のジアセチル化LBKPセルロースコハク酸モノエステルをアセトニトリル100mlに溶解させ、LBKPセルロース誘導体のカルボン酸当量の等molに相当する0.64gの2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(チッソ(株)製、商品名S530)を仕込み、エポキシ基開環架橋用触媒としてSnCl2(塩化第一スズ)を0.0003mol/gの濃度でメタノールに溶解させたものをLBKPセルロース誘導体に対して0.0005mol量添加し、スターラーで撹拌しながら、約80℃で30分間反応させると、本発明のシランカップラーグラフト化LBKPセルロース誘導体の一つであるジアセチル化LBKPセルロースコハク酸モノエステルとエポキシシクロヘキシル基含有シランカップ剤の複合化体が製造できた。
【0055】
<製造例2>
製造例1と同じ0.3%のLBKPセルロースのスラリー液を使った。
300mlの三口フラスコに4g(β−1、4−グルコシド単位のmol濃度;約10.67mmol)のジアセチル化LBKPセルロースコハク酸モノエステル化体をDMF60mlに溶解させ、セルロース誘導体のカルボン酸当量の2倍molに相当する2.13gの無水カルボン酸と、同じくセルロース誘導体のカルボン酸当量の2倍molに相当する5.26gの2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(チッソ(株)製、商品名S530)を同時に仕込み、オリゴエステル化用触媒として、N、N−ジメチルベンジルアミンをジアセチル化LBKPセルロースコハク酸モノエステル化体に対して、0.001mol量添加し,スターラーで攪拌しながら約70℃で1時間反応させると、本発明のシランカップラーオリゴエステル化LBKPセルロース誘導体の一つであるジアセチル化LBKPセルロースコハク酸モノエステルと無水コハク酸、及びエポキシシクロヘキシル基含有シランカップ剤のオリゴエステル化反応による複合体が製造できた。
【0056】
次に、本発明のシランカップラーグラフト化セルロース誘導体を利用した含浸紙の実施例を示す。
<実施例1>
製造例1で製造した本発明に関わるシランカップラーグラフト化LBKPセルロース誘導体をアセトンに固形分比(N.V.)=10wt%で溶解させ、それに硬化剤(東洋インキ( 株) 製、 p−トルエンスルホン酸2水和物含有50wt%i−プロパノ−ル溶液)をセルロース誘導体に対して20wt%添加し攪拌したものを日本板紙( 株) 製のカップ原紙(坪量;320g/m2)のノンクレイ面にワイヤーバーで塗工絶乾量2g/m2になるように塗工し、120℃で1分間乾燥し含浸紙を得た。
【0057】
<実施例2ー1>
製造例2で製造した本発明のシランカップラーオリゴエステル化LBKPセルロース誘導体を酢酸エチルに固形分比(N.V.)=10wt%で溶解させ、それに硬化剤(東洋インキ( 株) 製、 p−トルエンスルホン酸2水和物含有50wt%i−プロパノ−ル溶液)をバイオセルロース誘導体に対して20wt%添加し攪拌したものを日本板紙( 株) 製のカップ原紙(坪量;320g/m2)のノンクレイ面にワイヤーバーで塗工絶乾量4g/m2になるように塗工し、120℃で1分間乾燥し含浸紙を得た。
【0058】
<実施例2ー2>
含浸用原紙を宇都宮製紙( 株) 製のクラフト原紙(坪量;310g/m2 )に替えた以外、実施例2ー1と同じ。
【0059】
<比較例1>
本発明に関わる含浸液を塗工しない実施例1と実施例2- 1で用いた日本板紙( 株) 製のカップ原紙を比較例1とした。
【0060】
<比較例2>
本発明に関わる含浸液を塗工しない実施例2- 2で用いた宇都宮製紙( 株) 製のクラフト原紙を比較例2とした。
【0061】
<比較例3ー1>
本発明に関わる含浸薬剤の原料である2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(チッソ( 株) 製、商品名S530)を、酢酸エチル に固形分比(N.V.)=10wt%で溶解させ、それに硬化剤(東洋インキ( 株) 製、 p−トルエンスルホン酸2水和物含有50wt%i−プロパノ−ル溶液)をシランカップリング剤に対して20wt%添加し攪拌したものを日本板紙( 株) 製のカップ原紙(坪量;320g/m2)のノンクレイ面にワイヤーバーで塗工絶乾量4g/m2になるように塗工し、120℃で1分間乾燥し含浸紙を得た。
【0062】
<比較例3ー2>
含浸用原紙を宇都宮製紙( 株) 製のクラフト原紙(坪量;310g/m2 )に替えた以外、比較例3ー1と同じ。
【0063】
<試験例1> (含浸紙の強度と剛性評価試験)
含浸紙の紙強度と剛性を評価する為にJIS P8125「荷重曲げ方法による板紙のこわさ試験方法」を参考にして、吉沢工業(株)製の「曲げこわさ試験機 BST−150M」を用いて評価した。測定方法は、紙試料を塗工方向に対し平行に縦6cm×横4cmに切り取り. 60℃の環境下で紙の片端を固定して紙中央部を折り曲げることによって、降伏値(gf)とその時の角度(初期勾配;deg)を求めた。降伏値は紙の折れるときの強度、即ち堅さ、初期勾配は紙の折れ難さ(腰)、即ち靭性、剛性の評価と考えられる。測定結果を表1、2に記載する。
【0064】
【表1】
【0065】
表1の結果から,本発明のシランカップリング剤とLBKPセルロース誘導体を共有結合によりグラフト化させた複合材料の含浸薬剤によるシロキサン三次元構造を内部に有した含浸紙(実施例1)となにも含浸されていないカップ原紙(比較例1)の物性の比較をすると、含浸量が約2g/m2 という非常に少ない乾燥塗布量でも、明らかに含浸効果による降伏値,及び初期勾配の向上が認められ、堅さ、剛性共に向上していることが判った。
【0066】
【表2】
【0067】
表2の結果から、やはり本発明のシランカップリング剤をオリゴエステル化させたLBKPセルロース誘導体の含浸紙(実施例2−1、2−2)は、何も含浸してない原紙(比較例1、 2)に比べて、堅さ、及び剛性が向上していることが判った。(なお、比較例1の値が表1と異なるのは、紙のロット差によるものと考えられ、各表中の測定は同じロットの紙で測定を行なっている)。また、比較例3−1、3−2のシランカップリング剤単体の含浸紙と、本発明のシランカップリング剤をオリゴエステル化させたLBKPセルロース誘導体の含浸紙(実施例3−1、3−2)を比べても、本発明のものの方が堅さ及び剛性が向上していることが判った。
【0068】
<試験例2> (含浸紙の吸水度、撥水性試験)
上記で得られた含浸紙の表面吸水度と撥水度を評価する為に、JIS P8140「紙及び板紙の吸水度試験方法( コップ法) 」とJIS P8137「 紙及び板紙のはっ水度試験方法」 を行った。本方法により、紙本来の短所である低い耐水性に対する含浸紙の改善効果を測定することが出来る。測定結果を表- 3に記載する。
【0069】
【表3】
【0070】
表3の結果から、比較例- 1の原紙よりも実施例- 1の本発明のシランカップラーグラフト化LBKPセルロース誘導体の含浸紙の方が、吸水性及び撥水性もかなり改善されていることが判る。
【0071】
【表4】
【0072】
表4の結果から、比較例1、 2の原紙よりも実施例2−1及び実施例2−2の本発明のシランカップラーオリゴエステル化LBKPセルロース誘導体の含浸紙の方が、吸水性及び撥水性がかなり改善されている吸水率も撥水度かなり向上していることが表1の結果と同様に判る。(なお、比較例1の値が表3と表4で異なるのは、紙のロット差によるものと考えられ、各表中の測定は同じロットの紙で測定を行なっている)。また、比較例3−1及び比較例3−2のシランカップリング剤単体の含浸紙と吸水性及び撥水性もかなり改善されている、本発明のシランカップリンラーオリゴエステル化LBKPセルロース誘導体の含浸紙(実施例2−1及び実施例2−2)を比べても、本発明のものの方が吸水性及び撥水性が改善されていることが判った。
【0073】
【表5】
【0074】
<試験例3> (含浸紙の 耐沸騰水性試験)
上記で得られらた含浸紙の含浸面における耐水性の評価として、耐沸騰水性をJIS K- 5400「 塗料の一般試験8.20 耐沸騰水性」 を参考にして、沸騰水中に30分とした以外は、同様に試験した。評価結果を表5、6に記載する。
表5の結果から、実施例1の本発明のシランカップラーグラフト化LBKPセルロース誘導体含浸紙は、非常に少量の塗布量(約2g/m 2 )にも関わらず、耐沸騰水性は良好で含浸紙の層間剥離もなく本発明に関わるシランカップラーグラフト化LBKPセルロース誘導体の紙への高い親和力から紙力増強剤としても働いていることが判った。
【0075】
【表6】
【0076】
表6の結果から、実施例−2−1及び実施例−2−2の本発明のシランカップラーオリゴエステル化LBKPセルロース誘導体含浸紙は、原紙(比較例1、 2)に比べて、耐沸騰水性は非常に向上していることを確認した。(なお、原紙では、カップ原紙(比較例1)の方がクラフト原紙(比較例2)よりも耐水性が高く、その影響が他の含浸紙にも現れている)。シランカップリング剤単体の含浸紙(比較例3−1及び比較例3−2)については、原紙に比べて多少変化が少ない効果に留まった。
( 注1)表中
◎; 極めて良好
○; 良好、
△; やや良好
×; 不良
【0077】
【発明の効果】
本発明のシランカップラーグラフトセルロース誘導体、或いは天然多糖類誘導体は、環境に負荷を与えない材料系で構成されており、即ちセルロース誘導体、或いは天然多糖類誘導体の官能基とシランカップリング剤の官能基を反応させ有機的な共有結合で複合化したアルコキシシリル基を有したハイブリッド化機能性セルロース誘導体、或いは天然多糖類誘導体であり、アルコキシシリル基を加水分解−縮合させることで強固な、且つ無機的な物性を持つシロキサン三次元構造を形成させることができる。
これにより、従来セルロース誘導体、或いは天然多糖類誘導体の短所であった低い耐水性や耐光性、耐候性、耐熱性、耐溶剤性、耐食性等を改善し、また幹ポリマーであるセルロースや多糖類の柔軟性からシロキサン結合の短所である脆性を改善し剛性を向上させている。
この為、本発明のシランカップラーグラフトセルロース誘導体、或いは天然多糖類誘導体の使用用途は多岐にわたり、本発明を利用した塗料やラッカー、澱粉のり、或いは澱粉のりと接着不良なものへの塗膜、そしてフィルムや成形加工品、繊維或いはその紡糸液に対し無機的な物性、具体的にはシロキサン三次元結合を付与させることで、従来課題であった前記物性を改善させる効果がある。
さらに、セルロースの加工品である紙へ含浸させた場合は紙の構成成分であるセルロース分子との親和性も非常に高いため、寸法安定性に優れて、且つ堅さや剛性を向上させ、優れた耐水性、耐吸水性、撥水性、耐沸騰水性を与えることが可能である。
Claims (1)
Priority Applications (1)
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