JP4245420B2 - パウダースラッシュ成形方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、パウダースラッシュ成形方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
パウダースラッシュ成形方法は、加熱した金型の型面にプラスチックパウダーを付着させて溶融プラスチック被膜を形成し、その後冷却して前記溶融プラスチック被膜を硬化させることにより型面形状のプラスチック皮膜にし、前記プラスチック皮膜を前記型面から剥がすものであり、自動車のインストルメントパネルの表皮など、種々のプラスチック被膜の成形方法として多用されている(特許文献1参照。)。
【0003】
また、エアバッグドア部分が一体に形成されたエアバッグドア一体型インストルメントパネルの表皮については、エアバッグ膨張時の開裂部として、表皮の裏面に溝や切れ込みなどからなる強度低下部を設け、平常時には前記開裂部が表皮表面側から見えないようにした、いわゆるインビジブルタイプが提案されている(特許文献2参照。)。
【0004】
【特許文献1】
特開2000−102938号
【特許文献2】
特開2002−347557号
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来のパウダースラッシュ成形方法では、図3に示すような型面凹部42における径の小さいピン角部(曲面の半径が小さい部分)43で、溶融プラスチック被膜50と型面41間にエアが閉じこめられてエア溜まりを生じやすく、その結果プラスチック被膜のピン角部の表面に外観及び性能を低下させるピンホールが発生しやすい。特に、プラスチックパウダーが溶融粘度の高い場合に、前記エア溜まりを生じやすく、前記ピンホールの発生が増大する傾向にある。
【0006】
前記エア溜まりを生じ難くする方法として、プラスチックパウダーに可塑剤を添加したものを用いることにより、前記プラスチックパウダーの溶融粘度を低下させることが行われている。しかし、前記プラスチックパウダーの種類によっては、可塑剤を添加すると良好な物性や品質が得られないものがあり、そのようなプラスチックパウダーを用いるパウダースラッシュ成形方法にあっては、前記ピンホールを防ぐことが難しかった。例えば、前記インビジブルタイプのエアバッグドア一体型インストルメントパネル用表皮の好ましい成形材料として挙げられる非架橋タイプのTPU(熱可塑性ポリウレタン)は、可塑剤を添加すると傷付きやすくなるため、可塑剤を添加することができず、あるいは可塑剤の添加量が少量に制限され、前記溶融粘度の低下に限界があった。また、前記型面41の温度を上げてプラスチックパウダーの溶融粘度を低下させることも考えられるが、その場合には型面41の加熱及び冷却のための時間が増大し、プラスチック被膜の成形サイクルが長くなって生産性が低下するようになる。したがって、特に非架橋タイプのTPUパウダーを用いてパウダースラッシュ成形方法によりプラスチック被膜を成形する場合には、成形時間の増大を抑えながら前記ピン角部におけるピンホールの発生を防ぐのが難しかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は前記の点に鑑みなされたもので、ピン角部でピンホールが生じにくく、しかも生産性の低下及びコストの増大を抑えることのできるパウダースラッシュ成形方法を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は、加熱した金型の型面にプラスチックパウダーを付着させて溶融プラスチック被膜を形成し、その後冷却して前記溶融プラスチック被膜を硬化させることによりプラスチック皮膜にし、前記プラスチック皮膜を前記型面から剥がすパウダースラッシュ成形方法において、前記型面の凹部のピン角部に付着させるプラスチックパウダーを、前記型面の他部に付着させるプラスチックパウダーよりも粒径の小さいものにしたことを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下添付の図面に従ってこの発明を詳細に説明する。図1はこの発明の一実施形態に係るパウダースラッシュ成形方法におけるプラスチックパウダー付着および溶融プラスチック被膜形成工程を示す断面図、図2は同実施形態における剥離工程を示す断面図である。
【0010】
この発明におけるパウダースラッシュ成形方法では、中心粒径(平均粒径とも称される。)の異なる少なくとも二種類のプラスチックパウダーを用いる。前記プラスチックパウダーとしては、従来、パウダースラッシュ成形方法に用いられている公知の熱可塑性プラスチックパウダーを使用することができる。特に、インビジブルタイプのエアバッグドア一体型インストルメントパネル用表皮を成形する場合には、前記のように非架橋タイプのTPUからなるプラスチックパウダーが好ましい。
【0011】
この発明のパウダースラッシュ成形方法で使用する金型は、パウダースラッシュ成形方法に用いられる公知のものを用いることができ、その金型におけるプラスチック被膜形成用型面には、少なくとも凹部が形成されていると共にその凹部には半径(R)又は面取り幅の小さいピン角部が形成されている。図1の(A)に示す金型10は、プラスチック被膜としてインビジブルタイプのエアバッグドア一体型インストルメントパネル用表皮を、パウダースラッシュ成形するためのものであり、プラスチック被膜形成用型面11に形成された凹部12に、半径(R)の小さいピン角部13が形成されている。前記型面11のピン角部13の半径(R)は前記インストルメントパネル用表皮の形状等に応じて適宜の値とされるが、この発明では、特に1.5mm以下の場合に、前記型面11のピン角部13で形成されるプラスチック被膜のピン角部についてピンホールの発生防止効果が顕著となる。
【0012】
また、前記金型10は、前記型面11を加熱するための公知の加熱手段が設けられている。図示の例では、オイル等の加熱媒体を循環させるための配管15が前記金型10の外面に配設され、図示しない熱媒体供給装置と接続されている。
【0013】
この発明のパウダースラッシュ成形方法では、図1の(A),(B)に示すように、まず、前記金型10の型面11における前記凹部12のピン角部13に、第一のプラスチックパウダーPaを付着させる。
【0014】
前記ピン角部13に付着させる前記第一のプラスチックパウダーPaは、後に前記型面11の他部(一般部)14に付着させる第二のプラスチックパウダーPbよりも中心粒径が小さいものとされる。具体的には中心粒径150μm以下が好ましい。前記第一のプラスチックパウダーPaの中心粒径が150μmを超えると、前記型面11のピン角部13と該ピン角部13に付着した前記第一のプラスチックパウダーPaの層との間に閉じこめられたエアが、後の第二のプラスチックパウダーPbの溶融被膜形成時に外部へ逃げにくくなって、前記ピン角部13で形成されるプラスチック被膜のピン角部表面にピンホールが発生し易くなる。これは、前記第一のプラスチックパウダーの中心粒径が大きくなると、前記第一のプラスチックパウダーの溶融速度が遅くなって流動性が低下するためと推測される。それに対して、前記第一のプラスチックパウダーPaの中心粒径が小さくなり過ぎると、前記エアが逃げやすくなってピンホールが発生しにくくなる反面、前記ピン角部13に付着した前記第一のプラスチックパウダーPaは、粒子表面積の総和が増大してブロッキングしやすくなり(塊になりやすくなり)、得られるプラスチック被膜の品質が不安定になりやすい。そのため、前記第一のプラスチックパウダーPaの中心粒径は、150μm以下であり、より好ましい範囲は90〜130μmである。
【0015】
前記ピン角部13への第一のプラスチックパウダーPaの付着は、粉体塗装により、あるいは柄杓、筒などを用いて手動又は自動で前記ピン角部13に第一のプラスチックパウダーPaを載置し、前記型面11の熱によって前記第一のプラスチックパウダーPaを軟化あるいは溶融することにより行われる。前記第一のプラスチックパウダーPaの付着量は、前記型面11の他部14にこの後付着される第二のプラスチックパウダーPbの量等により異なるが、少なくとも前記ピン角部13が前記第一のプラスチックパウダーPaで覆われる程度とされる。また、前記型面11の温度は、前記第一のプラスチックパウダーPaが軟化して前記ピン角部13に付着する程度が好ましく、前記第一のプラスチックパウダーPaの種類等によって相違するが、前記第一のプラスチックパウダーPaが非架橋タイプのTPUからなる場合の例として、160〜260℃程度を示す。
【0016】
前記ピン角部13への第一のプラスチックパウダーPaの付着を、この後に行う前記型面11の他部14への第二のプラスチックパウダーPbの付着に先立って行うため、前記第一のプラスチックパウダーPaを第二のプラスチックパウダーPbに邪魔されることなく、確実に前記ピン角部13に付着させることができる。
【0017】
次に、前記他部14への第二のプラスチックパウダーPbの付着を、図1の(C),(D)に示すように行う。前記第二のプラスチックパウダーPbは、前記第一のプラスチックパウダーPaよりも中心粒径が大きいもの、具体的には、130〜240μmのものが好ましい。前記第二のプラスチックパウダーPbの中心粒径が240μmより大きい場合は、前記型面11のピン角部13以外の他部14で形成されるプラスチック被膜の部分にもピンホールが発生し易くなり、それに対し130μmより小さいと、前記第二のプラスチックパウダー製造時の粉砕コストが嵩むようになる。
【0018】
前記型面11の他部14への前記第二のプラスチックパウダーPbの付着は、前記ピン角部13に前記第一のプラスチックパウダーPaが付着した前記金型10を、前記第二のプラスチッパウダーPbが収容されたバケット20に被せ、図示しない回転装置で前記金型10及びバケット20を交互に倒立するように回転させ、その回転の際に前記型面11上方で前記バケット20が倒立状態となることによって前記第二のプラスチックパウダーPbを落下させて前記型面11に堆積させ、前記堆積した第二のプラスチックパウダーPbを前記型面11の熱によって軟化あるいは溶融させることにより行う。その際、前記第二のプラスチックパウダーPbは、前記型面11のピン角部13では、既に前記第一のプラスチックパウダーPaが付着しているため前記第一のプラスチックパウダーPa上に堆積し、それに対し、前記型面11の他部14では、前記第一のプラスチックパウダーPaに邪魔されることなく、直接型面11に堆積する。そのため、前記第二のプラスチックパウダーPbは、前記型面11と直接接触する前記他部14においては型面11の熱によって所要厚みに付着するが、前記第一のプラスチックパウダー11aの存在によって前記型面11と直接接触できない前記ピン角部13については、前記第一のプラスチック11a上に薄く付着し、あるいはほとんど付着することがない。このように、前記型面11には、前記ピン角部13に付着した前記第一のプラスチックパウダーPaと、前記他部14に付着した前記第二のプラスチックパウダーPbが連続する付着層を構成する。
【0019】
前記金型10及び前記バケット20の回転時における型面11の温度は、前記第一のプラスチックパウダーPa及び第二のプラスチックパウダーPbが溶融する温度とされ、前記第一のプラスチックパウダーPa及び第二のプラスチックパウダーPbの種類等によって異なるが、第一のプラスチックパウダーPa及び前記第二のプラスチックパウダーPbが非架橋タイプのTPUからなる場合の例として、190〜260℃を挙げる。
【0020】
前記金型10及び前記バケット20を加熱しながら所要回数回転させて、前記金型10の型面11に所要厚みの溶融プラスチック被膜Pcを形成した後、前記回転を停止して、前記金型10内で余剰となった前記第二のプラスチックパウダーPbを前記バケット20に回収する。また、前記配管15の熱媒体の温度を低くすること等により前記金型10の型面11を冷却して、前記溶融プラスチック被膜Pcを硬化させることによりプラスチック被膜を形成する。その後、図2に示すように、前記型面11からプラスチック被膜30を剥がすことにより、パウダースラッシュ成形が終了する。このようにして得られたプラスチック被膜30は、前記型面11のピン角部13で形成されたピン角部分31にピンホールのない、あるいは少ない良好な外観となっている。
【0021】
【実施例】
以下具体的な実施例について説明する。汎用TPU樹脂(商品名:E785QSDH、日本ミラクトラン社製)100重量部、紫外線吸収剤(商品名:チヌビン120、長瀬産業社製)0.3重量部、光安定剤(商品名:チヌビン622、長瀬産業社製)0.5重量部、酸化防止剤(イルガノックス1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.3重量部の混合物を用い、押出成形機により非架橋タイプのTPUペレットを形成した。このようにして得られた非架橋タイプのTPUペレットを冷凍粉砕して中心粒径110μmの第一のプラスチックパウダーPaと、中心粒径130μmの第二のプラスチックパウダーPbを形成した。なお、中心粒径の測定は、エアージェットシール法により行った。
【0022】
その後、前記インビジブルタイプのエアバッグドア一体型インストルメントパネル用表皮の成形用金型10を220℃に加熱して、前記型面11のピン角部13(半径Rは1.0mm)に、前記第一のプラスチックパウダーPaを柄杓により、前記ピン角部13が覆われる厚みに載置した。
【0023】
次に、前記第二のプラスチックパウダーPbを収容したバケット20と、前記第一のプラスチックパウダーPaが前記型面11のピン角部13に付着した金型10を組合せて合体させ、前記金型10の型面11の温度を220℃に加熱して、前記金型10とバケット20が交互に倒立するように前記金型10とバケット20を一方向及び逆方向へ各2回転させ、前記型面11に溶融プラスチック被膜を形成した。その後、前記加熱を停止して冷却し、前記合体を解除して前記型面11からプラスチック被膜を剥がし、実施例品を得た。
【0024】
それに対し、前記第一のプラスチックパウダーPaを前記ピン角部13に付着させる工程を省略して、前記第二のプラスチックパウダーPbが収容された前記バケット20と前記金型10とを組合せて合体させ、前記金型10の型面11の温度を220℃に加熱して、前記金型10とバケット20が交互に倒立するように前記金型10とバケット20を一方向及び逆方向に各2回転させ、前記型面11に溶融プラスチック被膜を形成した後、前記加熱を停止して冷却し、前記合体を解除して前記型面11からプラスチック被膜を剥がし、比較例品を得た。
【0025】
このようにして得られた実施例品と比較例品について、その外観を観察したところ、実施例品は、前記ピン角部で形成された部分を含めてピンホールの無い、良好な外観であったのに対し、比較例品は、前記ピン角部で成形された部分にピンホールが見られ、外観が劣っていた。
【0026】
【発明の効果】
以上図示し説明したように、この発明のパウダースラッシュ成形方法によれば、型面のピン角部で形成される部分にピンホールの無い、良好な外観を有するプラスチック被膜を得ることができる。しかも、中心粒径の小さいプラスチックパウダーをピン角部のみに付着させるため、パウダーにする粉砕コストが高い中心粒径の小さいプラスチックパウダーの使用量が少なくて済み、プラスチック被膜のコスト上昇を極力抑えることができる。さらに、型面の温度上昇によってプラスチックパウダーの溶融粘度を低下させるのと異なるため、型面の加熱及び冷却のための時間が増大せず、生産性の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施形態における溶融被膜形成工程までを示す断面図である。
【図2】同実施形態におけるプラスチック被膜剥離工程を示す断面図である。
【図3】エア溜まりを生じやすい型面の凹部におけるピン角部を示す断面図である。
【符号の説明】
10 金型
11 型面
12 凹部
13 ピン角部
14 型面の他部
20 バケット
Pa 第一のプラスチックパウダー
Pb 第二のプラスチックパウダー
Pc 溶融プラスチック被膜
30 プラスチック被膜

Claims (5)

  1. 加熱した金型の型面にプラスチックパウダーを付着させて溶融プラスチック被膜を形成し、その後冷却して前記溶融プラスチック被膜を硬化させることによりプラスチック皮膜にし、前記プラスチック皮膜を前記型面から剥がすパウダースラッシュ成形方法において、
    前記型面に形成された凹部のピン角部に付着させるプラスチックパウダーを、前記型面の他部に付着させるプラスチックパウダーよりも中心粒径が小さいものにしたことを特徴とするパウダースラッシュ成形方法。
  2. 前記型面のピン角部には前記型面の他部よりも先にプラスチックパウダーを付着させることを特徴とする請求項1に記載のパウダースラッシュ成形方法。
  3. 前記型面のピン角部に付着させるプラスチックパウダーの中心粒径が150μm以下、前記型面の他部に付着させるプラスチックパウダーの中心粒径が130μm〜240μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のパウダースラッシュ成形方法。
  4. 前記ピン角部の半径は1.5mm以下であることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のパウダースラッシュ成形方法。
  5. 前記プラスチックパウダーが非架橋TPUであることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載のパウダースラッシュ成形方法。
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