本発明の実施例1を図1乃至図20に基づいて説明する。
まず、図1に基づいて内燃機関であるエンジン11の制御システム全体の概略構成を説明する。エンジン11の吸気管12の上流側にはエアクリーナ13が装着され、その下流側には吸入空気量Ga を測定するエアフローメータ14が設置され、更に、その下流側にスロットルバルブ15が設けられている。このスロットルバルブ15の回動軸15aにはDCモータ等のモータ17が連結され、このモータ17の駆動力によってスロットルバルブ15の開度(スロットル開度)が制御され、このスロットル開度がスロットル開度センサ18によって検出される。
スロットルバルブ15を通過した吸入空気をエンジン11の各気筒に導入する吸気マニホールド19には、インジェクタ20が取り付けられ、また、エンジン11の各気筒のシリンダヘッドには点火プラグ21が取り付けられている。エンジン11のクランク軸22に嵌着されたシグナルロータ23の外周に対向してクランク角センサ24が設置され、このクランク角センサ24から出力されるエンジン回転速度信号NeのパルスがエンジンECU25に取り込まれ、このエンジン回転速度信号Neの発生周波数によってエンジン回転速度が検出される。
一方、アクセルペダル26の踏込量(アクセル操作量)がアクセルセンサ27によって検出され、このアクセル操作量に応じた電圧信号Apが電子制御ユニット25にA/D変換器28を介して取り込まれる。また、エアフローメータ14で検出した吸入空気量Ga やスロットル開度センサ18で検出したスロットル開度TAの各電圧信号も、エンジンECU25にA/D変換器28を介して取り込まれる。
このエンジンECU25は、CPU29、ROM30、RAM31等を備えたマイクロコンピュータを主体として構成され、ROM30に記憶されているエンジン制御用の各種ルーチンをCPU29で実行することで、点火プラグ21の点火時期を制御すると共に、インジェクタ駆動回路45を介してインジェクタ20に与える噴射信号のパルス幅を制御し、燃料噴射量を制御する。
また、エンジンECU25は、ROM30に記憶されているスロットル制御用の各種ルーチンをCPU29で実行することで、スロットル開度センサ18で検出したスロットル開度を目標スロットル開度に一致させるように、モータ駆動回路32を介してスロットルバルブ15のモータ17をPID制御等によりフィードバック制御する。尚、電子スロットルシステムの異常時には、モータ駆動回路32からモータ17への通電路中に設けられた安全回路46が作動して、モータ17への通電がOFFされた状態に保たれる。この状態では、退避走行を可能にするために、スロットル開度が所定開度に保持される。
次に、図2及び図3に基づいて自動変速機51の概略構成を説明する。図3に示すように、エンジン11の出力軸には、トルクコンバータ52の入力軸53が連結され、このトルクコンバータ52の出力軸54に、油圧駆動式の変速歯車機構55(変速機構)が連結されている。トルクコンバータ52の内部には、流体継手を構成するポンプインペラ71とタービンランナ72が対向して設けられ、ポンプインペラ31とタービンランナ72との間には、オイルの流れを整流するステータ73が設けられている。ポンプインペラ71は、トルクコンバータ52の入力軸53に連結され、タービンランナ32は、トルクコンバータ52の出力軸54に連結されている。
また、トルクコンバータ52には、入力軸53側と出力軸54側との間を係合又は切り離しするためのロックアップクラッチ56が設けられている。エンジンの出力トルクは、トルクコンバータ52を介して変速歯車機構55に伝達され、変速歯車機構55の複数のギヤ(遊星歯車等)で変速されて、車両の駆動輪(前輪又は後輪)に伝達される。
変速歯車機構55には、複数の変速段を切り換えるための摩擦係合要素である複数のクラッチC0,C1,C2とブレーキB0,B1が設けられ、図4に示すように、これら各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1の係合/解放を油圧で切り換えて、動力を伝達するギヤの組み合わせを切り換えることによって変速比を切り換えるようになっている。
尚、図4は4速自動変速機のクラッチC0,C1,C2とブレーキB0,B1の係合の組合せを示すもので、○印はその変速段で係合状態(トルク伝達状態)に保持されるクラッチとブレーキを示し、無印は解放状態を示している。例えば、Dレンジのスロットル踏み込み状態では、車速が上がるにつれて、1速、2速、3速、4速へとアップシフトしていく。1速から2速への変速では、C0及びB0の係合からB0を解放し、新たにB1を係合する。2速から3速への変速では、C0及びB1の係合からB1を解放し、新たにC2を係合する。3速から4速への変速では、C0及びC2の係合からC0を解放し、新たにB1を係合する。
ここで、例えば、2速から3速への変速時に、B1が何らかの原因で油圧が低圧状態にならず係合状態で固定された場合は、C2を係合することにより、インターロックが発生して駆動輪が停止してしまうことを回避するフェールセーフ機構を設けている。具体的には、変速歯車機構55内の各クラッチに作用する油圧を検出できる位置に各クラッチ毎に油圧スイッチ(図示せず)をフェール検出手段として設置している。この油圧スイッチは、実油圧が閾値以上のときにON(Hi出力)し、実油圧が閾値未満のときにOFF(Lo出力)するように構成され、この油圧スイッチの出力(実油圧)と油圧指令値との関係が合致するか否かを判定することで、異常のあるクラッチを検出するようにしている。この検出結果に基づき、上記のようなインターロックが発生する変速段に変速しないように制御している。
図2に示すように、変速歯車機構55には、エンジン動力で駆動される油圧ポンプ58が設けられ、作動油(オイル)を貯溜するオイルパン(図示せず)内には、油圧制御回路57が設けられている。この油圧制御回路57は、ライン圧制御回路59、自動変速制御回路60、ロックアップ制御回路61、手動切換弁66等から構成され、オイルパンから油圧ポンプ58で汲み上げられた作動油がライン圧制御回路59を介して自動変速制御回路60とロックアップ制御回路61に供給される。ライン圧制御回路59には、油圧ポンプ58からの油圧を所定のライン圧に制御するライン圧制御用の油圧制御弁(図示せず)が設けられ、自動変速制御回路60には、変速歯車機構55の各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1に供給する油圧を制御する複数の変速用の油圧制御弁(油圧制御手段)が設けられている。また、ロックアップ制御回路61には、ロックアップクラッチ56に供給する油圧を制御するロックアップ制御用の油圧制御弁(図示せず)が設けられている。
各油圧制御弁は、例えばリニアソレノイドバルブにより構成され、所定のデューティにて電圧を印加して流れる電流により発生する吸引力にて油圧を制御している。このため、油圧制御弁の電流と油圧は、密接な関係となり、電流値を制御することにより油圧を制御している。また、デューティに対する電流値のばらつきを吸収するため、電流値を自動変速機電子制御回路(以下「AT−ECU」と表記する)70の図示しない電流検出手段によりモニタし、電流値をフィードバック制御するようにしている。
また、ライン圧制御回路59と自動変速制御回路60との間には、シフトレバー65の操作に連動して切り換えられる手動切換弁66が設けられている。シフトレバー65がニュートラルレンジ(Nレンジ)又はパーキングレンジ(Pレンジ)に操作されているときには、自動変速制御回路60の油圧制御弁への通電が停止(OFF)された状態になっていても、手動切換弁66によって変速歯車機構55に供給する油圧が変速歯車機構55をニュートラル状態とするように切り換えられる。
一方、変速歯車機構55には、変速歯車機構55の入力軸回転速度Nt(トルクコンバータ52の出力軸回転速度)を検出する入力軸回転速度センサ68と、変速歯車機構55の出力軸回転速度Noを検出する出力軸回転速度センサ69が設けられている。
これら各種センサの出力信号は、AT−ECU70に入力される。このAT−ECU70は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各ルーチンを実行することで、予め設定した図5の変速パターンに従って変速歯車機構55の変速が行われるように、シフトレバー65の操作位置や運転条件(スロットル開度、車速等)に応じて自動変速制御回路60の各油圧制御弁への通電を制御して、変速歯車機構55の各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1に作用させる油圧を制御することによって、図4に示すように、各クラッチC0,C1,C2と各ブレーキB0,B1の係合/解放を切り換えて、動力を伝達するギヤの組み合わせを切り換えることで、変速歯車機構55の変速比を切り換える。
この際、AT−ECU70は、ダウンシフトを行う場合は、図6、図7に示すように制御する。以下の説明では、クラッチC0,C1,C2とブレーキB0,B1を総称して単に「クラッチ」と簡略化して表記する。また、ダウンシフト制御時に係合状態から解放状態に切り換えるクラッチを「解放側クラッチ」と表記し、解放状態から係合状態に切り換えるクラッチを「係合側クラッチ」と表記する。
図6は、運転者がアクセルペダル26を踏み込んでダウンシフトする“パワーオンダウンシフト”の制御例を示すタイムチャートであり、図7は、運転者の意思によらないダウンシフト中にエンジン出力増大制御を実行する“ETC協調ダウンシフト”の制御例を示すタイムチャートである。
まず、図6を用いてパワーオンダウンシフトの制御例を説明する。
運転者がアクセルペダル26を大きく踏み込んでスロットル開度が急激に開放されると、パワーオンダウンシフトと判定されて、ダウンシフトの変速指令が出力される。この時点t0 で、解放側クラッチの油圧指令値を初期油圧まで低下させた後、解放側クラッチの油圧指令値を一定勾配で低下させる。これにより、解放側クラッチの係合力が低下してエンジン負荷が軽減されるため、変速歯車機構55の入力軸回転速度Nt(トルクコンバータ52の出力軸回転速度)が上昇し始める。
また、ダウンシフトの変速指令が出力された時点t0 で、係合側クラッチが係合力を発生する直前の状態になるように、係合側クラッチの油圧指令値を所定の充填油圧Po に設定して、係合側クラッチに作動油を充填する充填制御を実行する。この充填制御を所定時間tF だけ実行して係合側クラッチが係合力を発生する直前の状態になった時点t1 で、係合側クラッチの油圧指令値を待機油圧PtApまで低下させて充填制御を終了する。この後は、この待機油圧PtApによって係合側クラッチが係合力を発生する直前の状態に保持される。この待機油圧PtApは、係合側クラッチのリターンスプリングのセット荷重相当油圧PsAp付近に設定されている。
その後、入力軸回転速度Ntの吹き上り(Ntの変化率≧判定値)を検出した時点t2 で、入力軸回転速度Ntの吹き上り勾配が所定値になるように解放側クラッチの油圧をフィードバック制御する。このフィードバック制御中は、解放側クラッチの油圧指令値がリターンスプリングのセット荷重相当油圧PsDrよりも少し高くなっている。そして、変速進行割合SftR[=100×(入力軸回転速度Nt−出力軸回転速度No ×変速前ギヤ比)/(出力軸回転速度No ×変速後ギヤ比−出力軸回転速度No ×変速前ギヤ比)]が所定値Bに達した時点t3 で、係合側クラッチの油圧指令値を一定勾配で増加させる制御を開始する。その後、変速進行割合SftRが所定値Aに達した時点t4 で、解放側クラッチの油圧指令値を一定勾配で低下させる。
そして、変速進行割合SftRが所定値Cに達した時点t5 で、係合側クラッチの油圧指令値を最高圧に設定して、係合側クラッチの油圧を最高圧まで増加させる。このように制御することで、入力軸回転速度Ntがダウンシフト先の低速段相当の回転速度に上昇するタイミングに合わせて係合側クラッチの係合力を増加させてダウンシフトを完了する。
次に、図7を用いてETC協調ダウンシフトの制御例を説明する。ETC協調ダウンシフト実行条件が成立してダウンシフトの変速指令が出力された時点t0 で、解放側クラッチの油圧指令値を待機油圧PtDr(解放側クラッチのリターンスプリングのセット荷重相当油圧PsDrよりも少し低い油圧)まで速やかに低下させる。この後は、この待機油圧PtDrによって解放側クラッチが係合力を発生する直前の状態に保持される。このようにする理由は、エンジン出力増大制御による入力軸回転速度Ntの吹き上がりを促進すると共に、該エンジン出力増大制御に伴う車両の飛び出し感を抑制するためである。
このETC協調ダウンシフトにおいても、係合側クラッチの油圧制御は、パワーオンダウンシフトとほぼ同じであり、ダウンシフトの変速指令が出力された時点t0 で、係合側クラッチの油圧指令値を所定の充填油圧Po に設定して、係合側クラッチに作動油を充填する充填制御を実行する。この充填制御を所定時間tF だけ実行して係合側クラッチが係合力を発生する直前の状態になった時点で、係合側クラッチの油圧指令値を待機油圧PtAp(係合側クラッチのリターンスプリングのセット荷重相当油圧PsAp付近)まで低下させて充填制御を終了する。この後は、係合クラッチによる待機油圧PtApによって係合側クラッチが係合力を所望のエンブレ感が発生する状態に保持される。その後の増圧制御については、前述のパワーオンダウンシフトと同様の処理が実施される。
このETC協調ダウンシフトの特徴は、次のようにしてエンジン出力増大制御を実行することである。解放側クラッチの実油圧が待機油圧PtDrまで低下する過程で、解放側クラッチの伝達トルク容量が小さく又は無くなって、エンジン出力が増大しても加速感を生じない“開始油圧”まで低下した時点t6 で、エンジン出力増大制御を開始する。
この際、解放側クラッチの実油圧が開始油圧以下に低下する時点t6 を推定するために、解放側クラッチの油圧指令値に対する実油圧の応答を“1次遅れ+むだ時間”の伝達特性にて近似し、この伝達特性にて演算した実油圧の推定値を前記開始油圧と比較し、実油圧の推定値が前記開始油圧まで低下した時点t6 で、エンジン出力増大制御の開始タイミングに到達したと判定する。
このエンジン出力増大制御の開始タイミングと判定された時点t6 で、スロットル開度指令値を所定のスロットル開き指令値に設定してスロットル開き制御を開始し、それからやや遅れた時点t7 で、燃料カットフラグ(以下「F/Cフラグ」と表記する)をOFFして、燃料噴射復帰制御を開始し、燃料噴射を再開する。
このエンジン出力増大制御(スロットル開き制御と燃料噴射復帰制御)の開始から所定の遅れを持ってエンジン出力が増大する。このエンジン出力増大が遅れる要因として、スロットル開き制御に関しては、スロットルバルブ15の開弁動作の応答遅れ(Ta)と、スロットルバルブ15が実際に開いた時期からエンジン出力が増大するまでの応答遅れ(Tb)があり、燃料噴射復帰制御に関しては、燃料噴射を再開してからエンジン出力が増大するまでの応答遅れ(Tc)がある。
ここで、スロットルバルブ15の開弁動作の応答遅れ(Ta)については、電子スロットルシステムのモータ17の駆動応答性に関連したパラメータ(冷却水温、バッテリ電圧等)のマップにより演算される。また、スロットルバルブ15の開放からエンジン出力が増大するまでの応答遅れ(Tb)については、スロットルバルブ15の開放により増加した吸入空気がシリンダ内に吸入されてから燃焼に至るまでの遅れと、吸気流速に関連したパラメータ(エンジン回転速度、スロットル開度等)のマップにより演算される。また、燃料噴射再開からエンジン出力が増大するまでの応答遅れ(Tc)については、燃料噴射から燃焼に至るまでの時間(クランク軸が720℃A回転するのに要する時間T720℃A)により設定される。
前述したスロットル開き制御(エンジン出力増大制御)の開始タイミング判定により制御開始と判定されると、所望の変速時間及び変速フィーリングを実現する入力軸回転速度Nt挙動となるように設定されたスロットル開き指令値を出力して保持する。このスロットル開き指令値は、エンジン11のフリクションロス、変速前後の入力軸回転速度Ntの変化量に影響を与えるパラメータ(変速パターン[ギヤ比変化]、冷却水温、入力軸回転速度Nt等)の検出結果及び所望の変速時間に基づき設定される。更に、路面勾配の大きさや車体の減速度の大きさによってスロットル開き指令値を変更すれば、よりフィーリングを詳細に所望の状態に合わせることができる。この場合、減速時は、スロットル開き指令値を少なく、加速時は多く設定される。また、スロットル開き指令値は、エアフロメータ14の出力にて補正されるようになっている。これにより、解放側クラッチの油圧が待機油圧PtDr付近に到達した時点で変速歯車機構55の入力軸回転速度Nt(トルクコンバータ52の出力軸回転速度)が上昇し始める。
このエンジン出力増大制御の実行中は、最終的にダウンシフトが終了する時点(変速進行割合SftRが100%となる時点)に合わせてエンジン出力増大制御による実際のエンジン出力増大を終了させるための終了判定をしつつ所定量のエンジン出力増大量を保持している。この終了判定は、前記変速進行割合SftR及び該変速進行割合の単位時間ΔT当たりの変化量ΔSftRにより終了指令から実際にエンジン出力増大がなくなるまでの応答遅れ分を考慮し、この応答遅れ分を相殺可能な制御終了時期は、変速進行割合SftRがいくつになった時点かを演算し、変速進行割合SftRがその演算値を上回ったか否かにて、エンジン出力増大制御であるスロットル開き制御及び燃料噴射復帰制御の終了時期(t8 ,t9 )をそれぞれ判定する。その結果、終了時期(t8 ,t9 )と判定されると、スロットル開き制御においては、スロットル開き指令値を“0”に減衰させるべく、終了制御を実施する。この終了制御では、電子スロットルの過渡再現性が確保するために所定の勾配をもってスロットル開き制御指令値を“0”まで減衰させている。また、燃料噴射復帰制御については、終了判定に従いF/CフラグをONに復帰させて燃料カットを再開する。但し、エンジン回転速度の急激な低下その他の原因でエンジン11側からの燃料カット要求が消滅した場合は、この限りでない。
エンジン出力増大終了応答遅れの要因として、スロットル開き制御に関しては、スロットルバルブ15の全閉動作の応答遅れ(Td)と、スロットルバルブ15が実際に全閉してから実際にエンジン出力増大がなくなるまでの応答遅れ(Te)と、更に終了判定からスロットル開き指令値を“0”に減衰させるまでの時間(Tsd)がある。また、燃料噴射復帰制御に関しては、燃料カットを再開してからエンジン出力がなくなるまでの応答遅れ(Tf)がある。
ここで、スロットルバルブ15の閉弁動作の応答遅れ(Td)については、電子スロットルシステムのモータ17の駆動応答性に関連したパラメータ(冷却水温、バッテリ電圧等)のマップにより演算される。また、スロットルバルブ15の全閉からエンジン出力増大がなくなるまでの応答遅れ(Te)については、スロットルバルブ15の全閉により減少した吸入空気がシリンダ内に吸入されてから燃焼に至るまでの遅れと、吸気流速に関連したパラメータ(エンジン回転速度、スロットル開度等)のマップにより演算される。また、終了判定からスロットル開き指令値を“0”に減衰させるまでの時間(Tsd)については、スロットル開き指令値/減衰勾配により算出される。また、燃料カットを再開してからエンジン出力がなくなるまでの応答遅れ(Tf)については、燃料カット再開から燃料カットを実施した気筒が燃焼行程に至るまでの時間(クランク軸が720℃A回転するのに要する時間T720℃A)により設定される。
一方、解放側クラッチの油圧指令値に関しては、変速進行割合SftRが100%に到達した時点で一定勾配で減衰させる。このように制御することで、ETC協調ダウンシフトを完了する。
以上説明した本実施例1の変速制御は、AT−ECU70とエンジンECU25とが協調して以下の各ルーチンに従って実行される。以下、これら各ルーチンの処理内容を説明する。
[変速制御]
図8の変速制御ルーチンは、エンジン運転中に所定時間毎(例えば8〜32msec毎)に実行される変速制御のメインルーチンである。本ルーチンが起動されると、まずステップ100で、変速が必要か否か(変速指令が出力されたか否か)を判定し、変速が必要でなければ、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
一方、変速が必要であれば、ステップ101に進み、後述する図9の変速種類判定ルーチンを実行して、現在の変速指令に対応する変速種類を判定する。この後、ステップ102に進み、ETC協調ダウンシフト実行フラグxEtcがETC協調ダウンシフト実行条件成立を意味するONにセットされているか否かを判定し、OFFにセットされていれば、ステップ105に進み、変速種類に応じた変速油圧制御ルーチン(図示せず)を実行して、現在の変速指令に応じた変速段に変速して本ルーチンを終了する。
これに対して、ETC協調ダウンシフト実行フラグxEtcがONにセットされていれば、ステップ102からステップ103に進み、後述する図13のスロットル開き制御ルーチンを起動して、スロットル開き制御を実行し、次のステップ104で、後述する図18の燃料噴射復帰制御ルーチンを起動して、燃料噴射復帰制御を実行する。この後、ステップ105に進み、後述する図10の変速油圧制御ルーチンを実行して、現在の変速指令に応じた変速段に変速して本ルーチンを終了する。
[変速種類判定]
次に、図8の変速制御ルーチンのステップ101で実行される図9の変速種類判定ルーチンの処理内容を説明する。本ルーチンが起動されると、まずステップ111で、現在の変速指令がアップシフトかダウンシフトかを判定し、アップシフトと判定されれば、ステップ112に進み、自動変速機51に加わる負荷状態がパワーオン(エンジン11側から自動変速機51が駆動される状態)かパワーオフ(駆動輪側から自動変速機51が駆動される状態)かを判定する。そして、この判定結果に応じて、現在の変速指令に応じた変速種類がパワーオンアップシフト(ステップ118)、パワーオフアップシフト(ステップ119)のいずれに該当するかを判定する。
これに対して、ステップ111で、ダウンシフトと判定されれば、ステップ113に進み、自動変速機51に加わる負荷状態がパワーオンかパワーオフかを判定し、パワーオフと判定されれば、運転者の減速意思によるダウンシフトであるか否かを判定する。ここでは、シフトレバー16の操作によるセレクトシフト、マニュアルモードにおけるステアリング部分に搭載されたスイッチ又はシフトレバー16での操作によるスポーツシフトのいずれかの場合、運転者の減速意思によるダウンシフトと判定する。運転者の減速意思によるダウンシフトと判定された場合、ステップ116に進み、ETC協調ダウンシフト実行条件が成立しているか否かを、例えば制御性確保のために、作動油の油温が、油圧指令値に対する油圧応答の再現性の良い温度領域であるか否かを判定する。その結果、ETC協調ダウンシフト実行条件が成立していると判定された場合は、ステップ117に進み、ETC協調ダウンシフト実行フラグxEtcをONにセットした後、ステップ121に進み、現在の変速の種類をETC協調ダウンシフトと判定する。
また、前記ステップ115で運転者の減速意思によるダウンシフトでないと判定された場合、又は、ステップ116でETC協調ダウンシフト実行条件が不成立と判定された場合は、ステップ122に進み、現在の変速の種類をパワーオフダウンシフトと判定する。
一方、前記ステップ113で、パワーオンと判定された場合は、ETC協調ダウンシフト制御(エンジン出力増大制御)によるパワーオンと、アクセルペダル26の踏み込みによるパワーオンとを区別するため、ステップ114に進み、ETC協調ダウンシフト実行フラグxEtcがONにセットされているか否かを判定し、ONにセットされていれば、ステップ121に進み、現在の変速の種類がETC協調ダウンシフトと判定し、ETC協調ダウンシフト実行フラグxEtcがOFFにセットされていれば、ステップ120に進み、現在の変速の種類がパワーオンダウンシフトと判定する。
[変速油圧制御]
図10の変速油圧制御ルーチンは、変速種類がETC協調ダウンシフトの場合に実行される。本ルーチンが起動されると、まずステップ131で、後述する図11に示す解放側クラッチ油圧制御ルーチンを実行して、解放側クラッチの油圧を制御すると共に、次のステップ132で、後述する図12に示す係合側クラッチ油圧制御ルーチンを実行して、係合側クラッチの油圧を制御する。
この後、ステップ133に進み、ダウンシフトが完了したか否かを、後述する制御段階フラグFlag1=4、且つ、Flag2=5であるか否かで判定する。そして、ダウンシフトが完了した時点で、ステップ134に進み、制御段階フラグFlag1とFlag2を共に初期値「0」にリセットすると共に、その他のフラグxEtc、xEtcTSt、xEtcFSt、xEtcTEd、xEtcFEdを全て「OFF」にリセットして、本ルーチンを終了する。
[解放側クラッチ油圧制御]
次に、図10の変速油圧制御ルーチンのステップ131で実行される図11の解放側クラッチ油圧制御ルーチンの処理内容を説明する。本ルーチンが起動されると、まずステップ141で、制御段階フラグFlag1の値が0〜3のいずれであるか否かで、現在の解放側クラッチ油圧制御の段階を判定する。この制御段階フラグFlag1は、解放側クラッチ油圧制御の各段階に進む毎に1ずつ増加するフラグであり、初期値は0で最大値は4である。従って、解放側クラッチ油圧制御は、4段階のシーケンス制御となる。
解放側クラッチ油圧制御を開始する時点t0 では、制御段階フラグFlag1は初期値(0)に設定されているため、ステップ142に進み、制御段階フラグFlag1を「1」にセットして、次のステップ143に進み、今回のETC協調ダウンシフトで解放制御する解放側クラッチ(y)の実油圧推定値Prealの初期値を当該解放側クラッチ(y)の油圧指令値PyDrで更新した後、ステップ144に進み、当該解放側クラッチの油圧指令値を待機油圧PtDrに設定して、解放側クラッチに供給する油圧を待機油圧PtDrまで低下させる(第1段階の制御)。
次回の本ルーチンの起動時には、既にFlag1=1になっているため、ステップ145に進み、解放側クラッチの油圧を待機油圧PtDrに保持し、次のステップ146で、変速進行割合SftRが100%に近い所定値Fに達したか否かを判定し、所定値Fに達していなければ、そのまま本ルーチンを終了する。その後、変速進行割合SftRが所定値Fに達した時点で、ステップ147に進み、制御段階フラグFlag1を「2」にセットして、この第2段階の制御を終了し、第3段階の制御に移行する。
この第3段階の制御では、まずステップ148で、解放側クラッチの油圧指令値を一定勾配で低下させる。そして、次のステップ149で、解放側クラッチの油圧指令値が0以下に低下したか否かを判定し、解放側クラッチの油圧指令値が0以下に低下するまで、この第3段階の制御(油圧減圧制御)を継続する。その後、解放側クラッチの油圧指令値が最小値(0以下)まで低下した時点で、ステップ150に進み、制御段階フラグFlag1を「3」にセットして、この第3段階の制御を終了し、第4段階の制御に移行する。
この第4段階の制御では、まずステップ151で、解放側クラッチの油圧指令値を0に設定して、解放側クラッチを完全に解放させた状態に維持する。そして、次のステップ152で、制御段階フラグFlag1を「4」にセットして解放側クラッチ油圧制御を終了する。
[係合側クラッチ油圧制御]
次に、図10の変速油圧制御ルーチンのステップ132で実行される図12の係合側クラッチ油圧制御ルーチンの処理内容を説明する。本ルーチンが起動されると、まずステップ161で、制御段階フラグFlag2の値が0〜4のいずれであるか否かで、現在の係合側クラッチ油圧制御の段階を判定する。この制御段階フラグFlag2は、係合側クラッチ油圧制御の各段階に進む毎に1ずつ増加するフラグであり、初期値は0で最大値は5である。従って、係合側クラッチ油圧制御は、5段階のシーケンス制御となる。
係合側クラッチ油圧制御を開始する時点t0 では、制御段階フラグFlag2は初期値(0)に設定されているため、ステップ162に進み、係合側クラッチが係合力を発生する直前の状態になるように、係合側クラッチの油圧指令値を所定の充填油圧Po に設定して、係合側クラッチに作動油を充填する充填制御を実行する。そして、次のステップ163で、制御段階フラグFlag2を「1」にセットした後、ステップ164に進み、充填制御時間をカウントするタイマtを0にリセットして、本ルーチンを終了する。
次回の本ルーチンの起動時には、既にFlag2=1になっているため、ステップ165に進み、充填制御時間タイマtをカウントアップして、現在までの充填制御時間をカウントし、次のステップ166で、充填制御時間タイマtの値が所定時間tF 以上になったか否かを判定し、充填制御時間が所定時間tF になるまでは、係合側クラッチの油圧指令値を充填油圧Po に保持して、充填制御を継続する(ステップ169)。
ここで、所定時間tF は、充填制御により係合側クラッチが係合力を発生する直前の状態になるのに必要な時間であり、予め実験又はシミュレーション等により設定されている。
その後、充填制御時間が所定時間tF になった時点(充填制御により係合側クラッチが係合力を発生する直前の状態になった時点)で、ステップ167に進み、制御段階フラグFlag2を「2」にセットし、次のステップ168で、係合側クラッチの油圧指令値を待機油圧PtApまで低下させて充填制御を終了する。この後は、待機油圧PtApによって係合側クラッチが係合力を発生する直前の状態に保持される。
係合側クラッチの油圧を待機油圧PtApに制御しているときには、制御段階フラグFlag2が「2」になっているため、ステップ170に進み、変速進行割合SftRが所定値D以上(図7参照)に達したか否かを判定し、変速進行割合SftRが所定値D以上に達するまでは、係合側クラッチの油圧指令値を待機油圧PtApに保持する(ステップ173)。
その後、変速進行割合SftRが所定値D以上に達した時点で、ステップ171に進み、制御段階フラグFlag2を「3」にセットし、次のステップ172で、係合側クラッチの油圧指令値を一定勾配で増加させる制御に移行する。
この後、本ルーチンが起動された時は、制御段階フラグFlag2が「3」になっているため、ステップ174に進み、変速進行割合SftRが100%に近い所定値Gに達したか否かを判定し、変速進行割合SftRが所定値Gに達するまでは、係合側クラッチの油圧指令値を一定勾配で増加させる制御を継続する(ステップ177)。
その後、変速進行割合SftRが所定値Gに達した時点で、ステップ175に進み、制御段階フラグFlag2を「4」にセットし、次のステップ176で、係合側クラッチの油圧指令値を最高圧に設定して、係合側クラッチの油圧を最高圧まで増加させる。このように制御することで、入力軸回転速度Ntがダウンシフト先の低速段相当の回転速度に上昇するタイミングに合わせて、係合側クラッチの係合力を増加させてダウンシフトを完了する。
この後、本ルーチンが起動された時は、制御段階フラグFlag2が「4」になっているため、ステップ178に進み、制御段階フラグFlag2が「4」にセットされてから所定時間が経過したか否か(つまり変速進行割合SftRが所定値Gに達してから所定時間が経過したか否か)を判定し、所定時間が経過した時点で、ステップ179に進み、制御段階フラグFlag2を「5」にセットして、係合側クラッチ油圧制御を終了する。
[スロットル開き制御]
図13のスロットル開き制御ルーチンは、図8の変速制御ルーチンのステップ103で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいうエンジン出力増大制御手段としての役割を果たす。
本ルーチンが起動されると、まずステップ201で、スロットル開き制御開始フラグxEtcTStがスロットル開き制御の開始前を意味するOFFであるか否かを判定し、OFFであれば、ステップ203に進み、後述する図14のスロットル開き制御開始判定ルーチンを実行して、スロットル開き制御の開始タイミングであるか否かを判定し、その判定結果に応じてスロットル開き制御開始フラグxEtcTStをセット/リセットする。
この後、ステップ205に進み、スロットル開き制御開始フラグxEtcTStが引き続きOFFのままであるか否かを判定し、OFFのままであれば、ステップ207に進み、スロットル開き制御開始前の吸入空気量の記憶値GaBを現在のエアフローメータ14の検出値Gaで更新して本ルーチンを終了する。
これに対して、上記ステップ205で、スロットル開き制御開始フラグxEtcTStがONにセットされたと判定された場合は、ステップ209に進み、スロットル開度指令値tangleat(スロットル開き量)を図17のスロットル開き量設定マップを用いて、ダウンシフトする変速段と水温と入力軸回転速度Ntに応じて設定する。この後、ステップ210に進み、後述する図16のスロットル開き量補正制御ルーチンを実行して、本ルーチンを終了する。
また、前記ステップ201で、スロットル開き制御開始フラグxEtcTStがスロットル開き制御の実行中を意味するONであると判定された場合には、ステップ202に進み、スロットル開き制御終了フラグxEtcTEdがスロットル開き制御の終了前を意味するOFFであるか否かを判定し、OFFであれば、ステップ204に進み、後述する図15のスロットル開き制御終了判定ルーチンを実行して、スロットル開き制御の終了タイミングであるか否かを判定し、その判定結果に応じてスロットル開き制御終了フラグxEtcTEdをセット/リセットする。
この後、ステップ206に進み、スロットル開き制御終了フラグxEtcTEdが引き続きOFFのままであるか否かを判定し、OFFのままであれば、ステップ209、210の処理を実行して、スロットル開き制御を継続する。
これに対して、上記ステップ206で、スロットル開き制御終了フラグxEtcTEdがONにセットされたと判定された場合は、ステップ208に進み、スロットル開度指令値tangleatを所定量dtangleatずつ減量補正して、スロットル開き指令値tangleatを所定の勾配で“0”に減衰させる終了制御を実行する。
[スロットル開き制御開始判定]
図14のスロットル開き制御開始判定ルーチンは、図13のスロットル開き制御ルーチンのステップ203で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいう出力増大開始タイミング制御手段としての役割を果たす。
本ルーチンが起動されると、まずステップ221で、今回のETC協調ダウンシフトで解放制御する解放側クラッチ(y)の実油圧推定値Prealを当該解放側クラッチ(y)の油圧指令値PyDrの1次遅れ系で近似し、今回の解放側クラッチ(y)の実油圧推定値Prealを次のなまし処理式により算出する。
Preal=m・PyDr+(1−m)・PrealO
ここで、PrealOは前回の実油圧推定値、mはなまし係数(0<m<1)である。尚、実油圧推定値Prealの初期値は、図11の解放側クラッチ油圧制御ルーチンのステップ143で、待機油圧設定直前の解放側クラッチの油圧指令値PyDrに設定される。
上式において、なまし係数mは、演算処理の簡略化のために予め設定した一定値としても良いが、油圧指令値PyDrに対する実油圧の応答性が油温(作動油の粘度)やクラッチの種類等によって変化することを考慮して、油温やクラッチの種類等に応じてマップ又は数式によりなまし係数mを算出するようにしても良い。
実油圧推定値Prealの算出後、ステップ222に進み、今回算出した実油圧推定値Prealを後述する応答遅れ期間の実油圧推定値PrealFの初期値として記憶した後、ステップ223に進み、応答遅れ期間の実油圧推定値PrealFの演算回数をカウントするカウンタcountを0にリセットする。この後、ステップ224に進み、スロットルバルブ15の開弁動作の応答遅れ(Ta)と、スロットルバルブ15が実際に開いた時期からエンジン出力が増大するまでの応答遅れ(Tb)を演算する。この際、スロットルバルブ15の開弁動作の応答遅れ(Ta)については、電子スロットルシステムのモータ17の駆動応答性に関連したパラメータ(冷却水温、バッテリ電圧等)のマップにより演算される。また、スロットルバルブ15の開放からエンジン出力が増大するまでの応答遅れ(Tb)については、スロットルバルブ15の開放により増加した吸入空気がシリンダ内に吸入されてから燃焼に至るまでの遅れと、吸気流速に関連したパラメータ(エンジン回転速度、スロットル開度等)のマップにより演算される。
この後、ステップ225に進み、上記2つの応答遅れの合計時間(Ta+Tb)内における実油圧推定値PrealFの演算回数Nを計算する。
N=(Ta+Tb)/tcal
ここで、tcalは実油圧推定値Prealの演算周期である。尚、演算回数Nは、小数点以下を切り捨て又は四捨五入して整数値とする。
この後、ステップ226に進み、カウンタcountの値が上記Nに達したか否かを判定し、「No」と判定されれば、ステップ227に進み、応答遅れ期間の実油圧推定値PrealFを油圧指令値PyDrの1次遅れ系で近似し、この実油圧推定値PrealFを次のなまし処理式により算出する。
PrealF=m・PyDr+(1−m)・PrealFO
ここで、PrealFOは前回の実油圧推定値PrealF、mはなまし係数(0<m<1)である。この後、ステップ228で、カウンタcountをカウントアップして前記ステップ226に戻る。このような処理を繰り返すことで、カウンタcountの値が上記Nに達するまで、応答遅れ期間の実油圧推定値PrealFの演算を繰り返す。
そして、カウンタcountの値が上記Nに達した時点で、ステップ226からステップ229に進み、実油圧推定値PrealFが開始油圧(所定の伝達トルク容量相当油圧)以下に低下したか否かを判定する。ここで、開始油圧(所定の伝達トルク容量相当油圧)は、解放側クラッチの伝達トルク容量が小さく又は無くなって、エンジン出力が増大しても加速感を生じない油圧に設定されている。この開始油圧は、演算処理の簡略化のために予め設定した一定値としても良いが、エンジン出力が増大しても加速感を生じない油圧は、クラッチの種類や入力トルクTin等によって変化することを考慮して、クラッチの種類や入力トルクTin等に応じてマップ又は数式により開始油圧を算出するようにしても良い。
尚、入力トルクTinは、エンジン運転条件やトルクコンバータ52の特性に基づいて例えば次式により推定すれば良い。
Tin=C(e)×tr(e)×Ne2
C(e):トルクコンバータ容量係数
tr(e):トルク比
Ne:エンジン回転速度
ここで、トルクコンバータ容量係数C(e)とトルク比tr(e)は、それぞれ速度比e(=Nt/Ne)に応じてマップ又は数式等により算出される。
この他、エンジン11の出力トルクを、吸入空気量やスロットル開度を基にして算出して、これに上記トルク比tr(e)を乗算して入力軸トルクTinとする方法を用いても良い。
前述したステップ229で、実油圧推定値PrealFが開始油圧以下に低下していないと判定された場合は、そのまま本ルーチンを終了する。そして、実油圧推定値PrealFが開始油圧以下に低下した時点で、ステップ230に進み、油圧応答の無駄時間Tm分のディレイ処理を行った上で、ステップ231に進み、スロットル開き制御開始フラグxEtcTStをONにセットして本ルーチンを終了する。
[スロットル開き制御終了判定]
図15のスロットル開き制御終了判定ルーチンは、図13のスロットル開き制御ルーチンのステップ204で実行されるサブルーチンである。本ルーチンが起動されると、まずステップ241で、スロットルバルブ15の全閉動作の応答遅れ(Td)と、スロットルバルブ15が実際に全閉してから実際にエンジン出力増大がなくなるまでの応答遅れ(Te)と、更に終了判定からスロットル開き指令値を“0”に減衰させるまでの時間(Tsd)を演算する。ここで、スロットルバルブ15の閉弁動作の応答遅れ(Td)については、電子スロットルシステムのモータ17の駆動応答性に関連したパラメータ(冷却水温、バッテリ電圧等)のマップにより演算される。また、スロットルバルブ15の全閉からエンジン出力増大がなくなるまでの応答遅れ(Te)については、スロットルバルブ15の全閉により減少した吸入空気がシリンダ内に吸入されてから燃焼に至るまでの遅れと、吸気流速に関連したパラメータ(エンジン回転速度、スロットル開度等)のマップにより演算される。また、終了判定からスロットル開き指令値を“0”に減衰させるまでの時間(Tsd)については、スロットル開き指令値/減衰勾配により算出される。
この後、ステップ242に進み、スロットル開き制御終了時(終了制御開始時)の変速進行割合SftRedを次式により算出する。
SftRed=100−DSftR×(Td+Te+Tsd)/tsmp
ここで、DSftRは、変速進行割合SftRの演算周期当たりの変化量(SftRの今回値−前回値)であり、tsmpは、DSftRの演算周期である。
この後、ステップ243に進み、現在の変速進行割合SftRが上記SftRed以上になったか否かを判定し、変速進行割合SftRがまだ上記SftRedに達していなければ、そのまま本ルーチンを終了する。そして、変速進行割合SftRが上記SftRedに達した時点で、ステップ244に進み、スロットル開き制御終了フラグxEtcTEdをONにセットする。
[スロットル開き量補正制御]
図16のスロットル開き量補正制御ルーチンは、図13のスロットル開き制御ルーチンのステップ210で実行されるサブルーチンである。本ルーチンが起動されると、まずステップ251で、スロットル開き量補正制御の実行条件が成立しているか否かを判定する。この実行条件は、例えば、スロットル開き指令からの経過時間が応答遅れ相当時間以上であるか否かで判定し、スロットル開き指令からの経過時間が応答遅れ相当時間未満である場合は、スロットル開き量補正制御の実行条件が不成立となり、そのまま本ルーチンを終了する。その後、スロットル開き指令からの経過時間が応答遅れ相当時間以上になった時点で、スロットル開き量補正制御の実行条件が成立し、ステップ252に進み、スロットル開度指令値tangleat(スロットル開き量)を次式により補正する。
tangleat=tangleat×DGaT/(Ga−GaB)
ここで、DGaTは、吸入空気量Gaのスロットル開き制御による増大量目標値で、スロットル開度指令値tangleatに応じてテーブル等により設定される。GaBは、図13のスロットル開き制御ルーチンのステップ207で記憶されたスロットル開き制御開始直前の吸入空気量である。上式によりスロットル開度指令値tangleat(スロットル開き量)を補正することで、システムの製造ばらつき、経時変化によるばらつき、大気圧や吸気温等の運転条件によるばらつきを補正する。
[燃料噴射復帰制御]
図18の燃料噴射復帰制御ルーチンは、図8の変速制御ルーチンのステップ104で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいうエンジン出力増大制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まずステップ300で、エンジン側で燃料カット要求が発生しているか否かを判定し、燃料カット要求が発生していない場合は、ステップ307に進み、燃料噴射を継続する。
これに対して、ステップ300で、燃料カット要求が発生している(燃料カット中)と判定された場合は、ステップ301に進み、燃料噴射復帰制御開始フラグxEtcFStが燃料噴射復帰制御の開始前を意味するOFFであるか否かを判定し、OFFであれば、ステップ303に進み、後述する図19の燃料噴射開始判定ルーチンを実行して、燃料噴射復帰制御の開始タイミングであるか否かを判定し、その判定結果に応じて燃料噴射復帰制御開始フラグxEtcFStをセット/リセットする。
この後、ステップ305に進み、燃料噴射復帰制御開始フラグxEtcFStが引き続きOFFのままであるか否かを判定し、OFFのままであれば、そのまま本ルーチンを終了するが、ONにセットされたと判定された場合は、ステップ308に進み、燃料噴射を実施する。
また、前記ステップ301で、燃料噴射復帰制御開始フラグxEtcFStが燃料噴射復帰制御の実行中を意味するONであると判定された場合には、ステップ302に進み、燃料噴射復帰制御終了フラグxEtcFEdが燃料噴射復帰制御の終了前を意味するOFFであるか否かを判定し、OFFであれば、ステップ304に進み、後述する図20の燃料噴射復帰制御終了判定ルーチンを実行して、燃料噴射復帰制御の終了タイミングであるか否かを判定し、その判定結果に応じて燃料噴射復帰制御終了フラグxEtcFEdをセット/リセットする。
この後、ステップ306に進み、燃料噴射復帰制御終了フラグxEtcFEdが引き続きOFFのままであるか否かを判定し、OFFのままであれば、ステップ308に進み、燃料噴射を実施する。
また、前記ステップ306で、燃料噴射復帰制御終了フラグxEtcFEdが燃料噴射復帰制御の終了を意味するONと判定された場合は、ステップ309へ進み、燃料カットを再開する。
[燃料噴射開始判定]
図19の燃料噴射開始判定ルーチンは、図18の燃料噴射復帰制御ルーチンのステップ303で実行されるサブルーチンであり、特許請求の範囲でいう出力増大開始タイミング制御手段としての役割を果たす。
本ルーチンが起動されると、まずステップ321で、前記図14のステップ221と同様の方法で、解放側クラッチの油圧指令値PyDr、前回の実油圧推定値PrealO、なまし係数mを用いて、今回の解放側クラッチの実油圧推定値Prealをなまし処理により算出する。
Preal=m・PyDr+(1−m)・PrealO
この後、ステップ322に進み、今回算出した実油圧推定値Prealを後述する応答遅れ期間の実油圧推定値PrealFの初期値として記憶した後、ステップ323に進み、応答遅れ期間の実油圧推定値PrealFの演算回数をカウントするカウンタcountを0にリセットする。この後、ステップ324に進み、燃料噴射再開からエンジン出力が増大するまでの応答遅れ(Tc)を算出する。この際、クランク軸が720℃A回転するのに要する時間T720℃Aを応答遅れ(Tc)として算出する。
この後、ステップ325に進み、上記応答遅れ(Tc)内における実油圧推定値PrealFの演算回数Mを計算する。
M=Tc/tcal
ここで、tcalは実油圧推定値Prealの演算周期である。尚、演算回数Mは、小数点以下を切り捨て又は四捨五入して整数値とする。
この後、ステップ326に進み、カウンタcountの値が上記Mに達したか否かを判定し、「No」と判定されれば、ステップ327に進み、応答遅れ期間の実油圧推定値PrealFを油圧指令値PyDrのなまし処理により算出する。
PrealF=m・PyDr+(1−m)・PrealFO
この後、ステップ328で、カウンタcountをカウントアップして前記ステップ326に戻る。このような処理を繰り返すことで、カウンタcountの値が上記Mに達するまで、応答遅れ期間の実油圧推定値PrealFの演算を繰り返す。
そして、カウンタcountの値が上記Mに達した時点で、ステップ326からステップ329に進み、前記図14のステップ229と同様に、実油圧推定値PrealFが開始油圧(所定の伝達トルク容量相当油圧)以下に低下したか否かを判定する。ここで、開始油圧(所定の伝達トルク容量相当油圧)は、解放側クラッチの伝達トルク容量が小さく又は無くなって、エンジン出力が増大しても加速感を生じない油圧に設定されている。このステップ329で、実油圧推定値PrealFがまだ開始油圧以下に低下していないと判定された場合は、そのまま本ルーチンを終了する。そして、実油圧推定値PrealFが開始油圧以下に低下した時点で、ステップ330に進み、油圧応答の無駄時間Tm分のディレイ処理を行った上で、ステップ331に進み、燃料噴射復帰制御開始フラグxEtcFStをONにセットして本ルーチンを終了する。
[燃料噴射終了判定]
図20の燃料噴射終了判定ルーチンは、図18の燃料噴射復帰制御ルーチンのステップ304で実行されるサブルーチンである。本ルーチンが起動されると、まずステップ341で、燃料カットを再開してからエンジン出力がなくなるまでの応答遅れ(Tf)を算出する。この際、クランク軸が720℃A回転するのに要する時間T720℃Aを応答遅れ(Tf)として算出する。
この後、ステップ342に進み、燃料噴射復帰制御終了時(終了制御開始時)の変速進行割合SftRedを次式により算出する。
SftRed=100−DSftR×Tf/tsmp
ここで、DSftRは、変速進行割合SftRの演算周期当たりの変化量(SftRの今回値−前回値)であり、tsmpは、DSftRの演算周期である。
この後、ステップ343に進み、現在の変速進行割合SftRが上記SftRed以上になったか否かを判定し、変速進行割合SftRがまだ上記SftRedに達していなければ、そのまま本ルーチンを終了する。そして、変速進行割合SftRが上記SftRedに達した時点で、ステップ344に進み、燃料噴射復帰制御終了フラグxEtcFEdをONにセットする。
以上説明した本実施例1によれば、運転者の減速意思に基づいてETC協調ダウンシフトを実行する際に、運転者のアクセル操作によらずエンジン出力を増大させるエンジン出力増大制御を実行するシステムにおいて、エンジン出力増大制御(スロットル開き制御と燃料噴射復帰制御)の開始タイミングを、解放側クラッチの実油圧推定値PrealFが開始油圧(所定の伝達トルク容量相当油圧)以下に低下した時点とするようにしたので、ETC協調ダウンシフト中に、解放側クラッチの油圧がエンジン出力増大制御を開始しても加速感やショックを生じない所定の伝達トルク容量相当油圧以下に低下した時点でエンジン出力増大制御を開始することができる。これにより、エンジン出力増大制御の開始タイミングを精度良く設定することができて、エンジン出力増大制御による加速感やショックを運転者に感じさせずに済む。しかも、タイマに依存することなくエンジン出力増大制御の開始タイミングを設定できるため、単純なロジック構成と少ないパラメータ設定でエンジン出力増大制御を実行でき、実用化が容易であるという利点もある。
しかも、本実施例1では、ETC協調ダウンシフト中にエンジン出力増大制御を開始しても加速感やショックを生じない開始油圧が、変速歯車機構55の入力トルクや解放側クラッチの種類によって変化することを考慮して、入力トルクの推定値と解放側クラッチの種類に基づいて開始油圧を設定するようにしたので、加速感やショックを生じない開始油圧を、変速機構の入力トルクと解放側クラッチの種類に応じて過不足なく設定することができて、エンジン出力増大制御の開始タイミングの設定精度を更に向上させることができる利点がある。
更に、本実施例1では、解放側クラッチの油圧指令値に対する実油圧の応答を“1次遅れ+むだ時間”の伝達特性で近似して、解放側クラッチの実油圧を油圧指令値のなまし演算により算出するようにしたので、解放側クラッチの実油圧を極めて簡単に算出することができる。
上記実施例1,2では、運転者の減速意思に基づいてETC協調ダウンシフトを実行する際に、エンジン出力増大制御(スロットル開き制御と燃料噴射復帰制御)の開始タイミングを、解放側クラッチの実油圧推定値PrealFが開始油圧(所定の伝達トルク容量相当油圧)以下に低下した時点とするようにしたが、図22乃至図31に示す本発明の実施例3では、ETC協調ダウンシフトを実行する際に、エンジン出力増大制御(スロットル開き制御と燃料噴射復帰制御)の開始タイミングを次の3つの時点T1、T2、T3の中から最も早い時点に設定するようにしている。
(1) ETC協調ダウンシフト中に解放側クラッチの油圧が開始油圧(所定の伝達トルク容量相当油圧)以下に低下したと判断される時点T1
(2) ギヤ比変化を検出した時点T2
(3) 変速開始から設定時間が経過した時点T3
この場合、変速開始からの設定時間(T3)は、制御処理の簡略化のために予め設定した一定時間としても良いが、例えば、車速が高速になるほど、エンジン出力増大制御の開始タイミングを早めても、エンジン出力増大制御による加速感やショックを運転者に感じさせない傾向があるため、変速開始からの設定時間(T3)を車速等の運転条件に応じて設定するようにしても良い。このようにすれば、例えば、高速走行時のダウンシフトにおいて、より早期にエンジン出力増大制御を開始することができ、高速走行でのエンジンブレーキの利きを早くすることができる。
以下、本実施例3で使用する各ルーチンの処理内容を説明する。
[変速油圧制御]
図22の変速油圧制御ルーチンは、変速種類がETC協調ダウンシフトの場合に実行される。本ルーチンが起動されると、まずステップ401で、後述する図23の解放側クラッチ油圧制御ルーチンを実行して、解放側クラッチの油圧を制御すると共に、次のステップ402で、前記図12の係合側クラッチ油圧制御ルーチンを実行して、係合側クラッチの油圧を制御する。
この後、ステップ403に進み、ダウンシフトが完了したか否かを、後述する制御段階フラグFlag1=4、且つ、Flag2=5であるか否かで判定する。そして、ダウンシフトが完了した時点で、ステップ404に進み、制御段階フラグFlag1とFlag2を共に初期値「0」にリセットすると共に、その他のフラグxEtc、xEtcTSt、xEtcFSt、xEtcTEd、xEtcFEd、xTSt1、xTSt2、xTSt3、xFSt1、xFSt2、xFSt3を全て「OFF」にリセットして、本ルーチンを終了する。
[解放側クラッチ油圧制御]
次に、図22の変速油圧制御ルーチンのステップ401で実行される図23の解放側クラッチ油圧制御ルーチンの処理内容を説明する。本ルーチンは、前記実施例1で説明した図11の解放側クラッチ油圧制御ルーチンのステップ142とステップ143との間にステップ143aの処理を追加したものである。
本ルーチンでは、ステップ141で制御段階フラグFlag1=0と判定して、第1段階の制御を実行するときに、ステップ142で制御段階フラグFlag1を「1」にセットし、ステップ143で、解放側クラッチの実油圧推定値Prealの初期値を当該解放側クラッチの油圧指令値PyDrで更新した後、ステップ143aに進み、変速開始からの経過時間を計測するタイマTimDrをリセットし、次のステップ144で、解放側クラッチの油圧指令値を待機油圧PtDrに設定する。この後の処理は、前記実施例1で説明した図11の解放側クラッチ油圧制御ルーチンの処理と同じである。
[スロットル開き制御開始判定]
本実施例3においても、前記実施例1で説明した図13のスロットル開き制御ルーチンを実行し、そのステップ203で、図24のスロットル開き制御開始判定ルーチンを実行する。本ルーチンが起動されると、まずステップ411で、図25のタイマ条件判定(スロットル)ルーチンを実行して、変速開始からの経過時間を計測するタイマTimDrの計測時間が所定時間T3t以上であるか否かを判定し(ステップ421)、変速開始からの経過時間(TimDr)が所定時間T3以上であれば、第1のスロットル開き制御開始判定フラグxTSt1をONにセットし、変速開始からの経過時間(TimDr)が所定時間T3tに達していなければ、第1のスロットル開き制御開始判定フラグxTSt1をOFFに維持する。尚、所定時間T3tは、制御処理の簡略化のために予め設定した一定時間としても良いが、車速やシフト位置等の運転条件に応じてマップや数式により設定するようにしても良い。例えば、車速が速くなるほど、所定時間T3tを短い時間に設定したり、シフト位置が高ギヤになるほど、所定時間T3tを短い時間に設定するようにしても良い。
図25のタイマ条件判定(スロットル)ルーチンの処理を終了すると、図24のステップ412に進み、第1のスロットル開き制御開始判定フラグxTSt1がONであるか否かを判定し、ONであれば、ステップ417に進み、スロットル開き制御開始フラグxEtcTStをONにセットする。
一方、第1のスロットル開き制御開始判定フラグxTSt1がOFFであれば、ステップ413に進み、図26のギヤ比変化判定(スロットル)ルーチンを実行して、変速進行割合SftR(ギヤ比)が所定値以上であるか否かを判定する(ステップ431)。変速進行割合SftRは、変速歯車機構55の入力軸回転速度Ntと出力軸回転速度Noの検出値に基づいて算出されるため、両者の検出ばらつきのために、ギヤ比変化が発生していなくても、変速進行割合SftRが“0”付近でばらつく。そこで、ステップ431では、変速進行割合SftRがギヤ比変化発生前の変速進行割合SftRのばらつき範囲を少し越える所定値以上であるか否かを判定し、変速進行割合SftRが所定値以上であれば、ギヤ比変化が発生したと判断して、第2のスロットル開き制御開始判定フラグxTSt2をONにセットし(ステップ432)、変速進行割合SftRが所定値未満であれば、ギヤ比変化発生前と判断して、第2のスロットル開き制御開始判定フラグxTSt2をOFFに維持する。
図26のギヤ比変化判定(スロットル)ルーチンの処理を終了すると、図24のステップ414に進み、第2のスロットル開き制御開始判定フラグxTSt2がONであるか否かを判定し、ONであれば、ステップ417に進み、スロットル開き制御開始フラグxEtcTStをONにセットする。
一方、第2のスロットル開き制御開始判定フラグxTSt2がOFFであれば、ステップ415に進み、図27の開始油圧到達判定(スロットル)ルーチンを実行して、前記図14のルーチンと同じ方法で、実油圧推定値PrealFが開始油圧(所定の伝達トルク容量相当油圧)以下に低下したか否かを判定し、実油圧推定値PrealFが開始油圧以下に低下した時点で、ステップ230に進み、油圧応答の無駄時間Tm分のディレイ処理を行った上で、ステップ231aに進み、第3のスロットル開き制御開始判定フラグxTSt3をONにセットする。実油圧推定値PrealFが開始油圧以下に低下していない場合は、第3のスロットル開き制御開始判定フラグxTSt3をOFFに維持する。尚、図27の開始油圧到達判定(スロットル)ルーチンのステップ221〜230の処理は、図14のルーチンの各ステップ221〜230の処理と同じである。
図27の開始油圧到達判定(スロットル)ルーチンの処理を終了すると、図24のステップ416に進み、第3のスロットル開き制御開始判定フラグxTSt3がONであるか否かを判定し、ONであれば、ステップ417に進み、スロットル開き制御開始フラグxEtcTStをONにセットする。一方、第3のスロットル開き制御開始判定フラグxTSt3がOFFであれば、スロットル開き制御開始フラグxEtcTStをOFFに維持する。
[燃料噴射開始判定]
本実施例3においても、前記実施例1で説明した図18の燃料噴射復帰制御ルーチンを実行し、そのステップ303で、図28の燃料噴射開始判定ルーチンを実行する。本ルーチンが起動されると、まずステップ451で、図29のタイマ条件判定(燃料)ルーチンを実行して、変速開始からの経過時間を計測するタイマTimDrの計測時間が所定時間T3f以上であるか否かを判定し(ステップ461)、変速開始からの経過時間(TimDr)が所定時間T3f以上であれば、第1の燃料噴射開始判定フラグxFSt1をONにセットし、変速開始からの経過時間(TimDr)が所定時間T3に達していなければ、第1の燃料噴射開始判定フラグxFSt1をOFFに維持する。尚、所定時間T3fは、制御処理の簡略化のために予め設定した一定時間としても良いが、車速やシフト位置等の運転条件に応じてマップや数式により設定するようにしても良い。例えば、車速が速くなるほど、所定時間T3fを短い時間に設定したり、シフト位置が高ギヤになるほど、所定時間T3fを短い時間に設定するようにしても良い。
図29のタイマ条件判定(燃料)ルーチンの処理を終了すると、図28のステップ452に進み、第1の燃料噴射開始判定フラグxFSt1がONであるか否かを判定し、ONであれば、ステップ457に進み、燃料噴射復帰制御開始フラグxEtcFStをONにセットする。
一方、第1の燃料噴射開始判定フラグxFSt1がOFFであれば、ステップ453に進み、図30のギヤ比変化判定(燃料)ルーチンを実行して、変速進行割合SftR(ギヤ比)がギヤ比変化発生前の変速進行割合SftRのばらつき範囲を少し越える所定値以上であるか否かで、ギヤ比変化が発生したか否かを判定する(ステップ471)。その結果、変速進行割合SftRが所定値以上と判定されれば、ギヤ比変化が発生したと判断して、第2の燃料噴射開始判定フラグxFSt2をONにセットし(ステップ472)、変速進行割合SftRが所定値未満であれば、ギヤ比変化発生前と判断して、第2の燃料噴射開始判定フラグxFSt2をOFFに維持する。
図30のギヤ比変化判定(燃料)ルーチンの処理を終了すると、図28のステップ454に進み、第2の燃料噴射開始判定フラグxFSt2がONであるか否かを判定し、ONであれば、ステップ457に進み、燃料噴射復帰制御開始フラグxEtcFStをONにセットする。
一方、第2の燃料噴射開始判定フラグxFSt2がOFFであれば、ステップ455に進み、図31の開始油圧到達判定(燃料)ルーチンを実行して、前記図19のルーチンと同じ方法で、実油圧推定値PrealFが開始油圧(所定の伝達トルク容量相当油圧)以下に低下したか否かを判定し、実油圧推定値PrealFが開始油圧以下に低下した時点で、ステップ330に進み、油圧応答の無駄時間Tm分のディレイ処理を行った上で、ステップ331aに進み、第3の燃料噴射開始判定フラグxFSt3をONにセットする。実油圧推定値PrealFが開始油圧以下に低下していない場合は、第3の燃料噴射開始判定フラグxFSt3をOFFに維持する。尚、図31の開始油圧到達判定(燃料)ルーチンのステップ321〜330の処理は、図19のルーチンの各ステップ321〜330の処理と同じである。
図31の開始油圧到達判定(燃料)ルーチンの処理を終了すると、図28のステップ456に進み、第3の燃料噴射開始判定フラグxFSt3がONであるか否かを判定し、ONであれば、ステップ457に進み、燃料噴射復帰制御開始フラグxEtcFStをONにセットする。一方、第3の燃料噴射開始判定フラグxFSt3がOFFであれば、燃料噴射復帰制御開始フラグxEtcFStをOFFに維持する。
以上説明した本実施例3では、図24のスロットル開き制御開始判定ルーチンと図28の燃料噴射開始判定ルーチンの処理によって、エンジン出力増大制御(スロットル開き制御と燃料噴射復帰制御)の開始タイミングが次の3つの時点T1、T2、T3の中から最も早い時点に設定される。
(1) ETC協調ダウンシフト中に解放側クラッチの油圧が開始油圧以下に低下したと判断される時点T1
(2) ギヤ比変化を検出した時点T2
(3) 変速開始から所定時間が経過した時点T3
このように構成すれば、エンジン出力増大制御による加速感やショックを運転者に感じさせない範囲で、より早期にエンジン出力増大制御を開始することができ、ダウンシフト時にエンジンブレーキを早期にきかせることができる。特に、変速開始からの設定時間(T3)を車速等の運転条件に応じて設定するようにすれば、高速走行時のダウンシフトにおいて、より早期にエンジン出力増大制御を開始することができ、高速走行でのエンジンブレーキの利きを良くすることができる。
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管、14…エアフローメータ、15…スロットルバルブ、17…モータ、18…スロットル開度センサ、25…エンジンECU(エンジン出力増大制御手段)、26…アクセルペダル、27…アクセルセンサ、34…アクセルレバー、51…自動変速機、52…トルクコンバータ、53…変速歯車機構(変速機構)、56…ロックアップクラッチ、57…油圧制御回路、58…油圧ポンプ、59…ライン圧制御回路、60…自動変速制御回路、61…ロックアップ制御回路、66…手動切換弁、70…AT−ECU(エンジン出力増大制御手段,出力増大開始タイミング制御手段)、C0〜C2…クラッチ(摩擦係合要素)、B0,B1…ブレーキ(摩擦係合要素)