JP4244101B2 - 液状カルシウム肥料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液状カルシウム肥料に関する。詳しくは、水溶性カルシウム分を植物の葉、茎、花芽もしくは果実等の地上部に、噴霧、塗布又は浸漬等によって施用する液状カルシウム肥料に関する。
【0002】
【従来の技術】
カルシウムは、植物体内において生じる有機酸の中和やペクチンとの結合による原形質の機能維持、酵素への活性賦活等の作用を持つ植物の生育にとって重要な成分である。しかしながら、カルシウムは、有機酸やペクチンと結合していて植物体内で転流しにくいものであるので、根からのカルシウムの吸収が滞った場合には、古い葉に多く存在していても、新たにカルシウムが必要となった新しい葉や果実に欠乏症を起こさせやすいという問題がある。
【0003】
また、カルシウムは、土壌中では肥料由来の硝酸イオンや塩素イオン、生物の呼吸による二酸化炭素由来の重炭酸イオンなどと随伴して雨水とともに流亡しやすいものであるため、多肥栽培が行われている。また、雨水の縦浸透が大きく、しかもカルシウム要求量の多い植物を栽培する畑栽培においては、絶対量の不足を起こしやすい。更には、仮に土壌中に充分にカルシウムが存在していた場合でも、植物に吸収利用されずに欠乏症を起こすことがある。これは、他の陽イオンであるカリウムやマグネシウム等との拮抗作用によるほか、土壌の乾湿によっても起こることがあり、例えば施設栽培などでは土壌溶液濃度の上昇により吸収が阻害されることがある。カルシウム不足が原因として発生する生理障害には、例えばリンゴのビターピット、柑橘類の浮き皮症、トマトの尻腐れ病、セルリ・白菜の芯腐れ病、イチゴのチップバーン等がある。
【0004】
土壌中のカルシウム不足や、上記のような土壌のコンディションから生じる植物のカルシウム欠乏症を防止するため、植物体の地上部に直接カルシウム水溶液を散布することが試みられている。ここで使用されるカルシウム資材としては、速やかに一定濃度の溶液を調製する利便性と、圃場までの搬送とを考慮して、高濃度の水溶液であることに加えて、貯蔵安定性が高い、肥効が大きい、薬害が少ない、果実など適用部位によっては外観が問題となるためカルシウムの析出による汚れが目立たない、等が重要な要件となる。また、汎用されている水溶性カルシウムとして、塩化カルシウム、硝酸カルシウム等の鉱酸塩があるが、いずれも植物に対して薬害を起こしやすく、この点が未解決課題であった。
【0005】
そこで、薬害が生じにくく、水への溶解度の大きいカルシウム化合物として、有機酸のカルシウム塩を用いる方法が種々提案されている。例えば、特公昭62−28117号公報には蟻酸カルシウムを使用する方法、特開昭60−260487号公報には酢酸カルシウムを使用する方法、特開平4−202080号公報にはプロピオン酸カルシウムを使用する方法がある。しかしながら、これら有機酸のカルシウム塩を単独使用する場合では、最も溶液中のカルシウム濃度を高めることのできる酢酸カルシウムであっても、飽和溶液中の濃度はCaOとして9%(およそ10g/100mL)程度に止まり、しかも貯蔵安定性にもやや難がある。
【0006】
一方、特開平10−120517号公報には、有機酸と、加水分解してグルコースを生成する糖類とを含む水溶液中に、水酸化カルシウムを溶解してなる植物の葉面または果実散布用組成物が提案されている。この発明においては、カルシウム濃度をCaO換算で最大13%程度にすることができるが、糖類の含有量を20〜35%と比較的高くする必要があり、糖類の含有量を低くした場合にはカルシウムの高濃度化に関しては必ずしも満足できるものではなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、高濃度かつ貯蔵安定性にすぐれた液状カルシウム肥料を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、水溶性有機酸及び/又はその塩、糖アルコール、石灰資材及び無機酸を含有するpH4.5〜6.5の水溶液からなり、上記成分の含有量が、水溶性有機酸及び/又はその塩が水溶性有機酸として14〜16.5%、無機酸が11〜22%、糖アルコールが5〜15%、及び石灰資材がCaOとして3〜14%であり、しかも無機酸の添加が、水溶性有機酸及び/又はその塩、無機酸、糖アルコール、及び石灰資材を水に溶解させるときに10〜20%、その後pHを調整するときに更に1〜10%の複数回に分けて行われていることを特徴とする液状カルシウム肥料である。本発明においては、水溶性有機酸及び/又はその塩が酢酸及び/又は酢酸カルシウムであり、糖アルコールがソルビトール及び/又はマンニトールであり、石灰資材が消石灰、生石灰、炭酸カルシウムより選ばれる1種以上であり、無機酸が塩酸であることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、更に詳しく本発明について説明する
【0010】
本発明者らは、水溶性有機酸及び/又はその塩と糖アルコールとを含む水溶液中に、石灰資材を溶解させると、水溶性有機酸及び/又はその塩の水溶液中に石灰資材を溶解させた場合に比べ、カルシウムの溶解度が著しく増加し、しかも水溶液の貯蔵安定性も向上すること、更にはこの液状カルシウム肥料に無機酸を添加しそのpHを4.5〜6.5の弱酸性にすると、液状カルシウム肥料を植物の葉、茎、花芽もしくは果実等の地上部に、噴霧、塗布又は浸漬等によって施用する場合、植物体への吸収効率を向上させることができること、等を見いだし、本発明を完成させたものである。
【0011】
本発明において、水溶性有機酸及び/又はその塩、無機酸、糖アルコール、石灰資材を水に溶解させる手順については特に制限はなく、例えば水中に各種の原料を同時に投入する、水溶性有機酸及び/又はその塩、無機酸、糖アルコールの水溶液を作っておきその中に石灰資材を投入する等の方法を採用することができる。しかし、本発明においては、無機酸は、上記成分を水に溶解させるときと、その後にpHを調整するときの少なくとも2回の複数回に分けて添加することが好ましい。
【0012】
本発明で使用される水溶性有機酸及び/又はその塩としては、例えば蟻酸、酢酸、プロピオン酸等、及びこれらの酸のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の塩類が特に好適であるが、中でも酢酸、酢酸カルシウムが最適である。酢酸カルシウム等の水溶性有機酸のカルシウム塩を用いることによって、石灰資材を兼ねる利点がある。水溶性有機酸及び/又はその塩の液状カルシウム肥料中の水溶性有機酸の濃度は、14〜16.5%である。この範囲を逸脱すると、特に糖アルコール濃度を高めたときに水溶液が不安定になりやすい。
【0013】
糖アルコールとしては、例えばエリスリトール、キシリトール、アラビトール、ソルビトール、マンニトール、ガラクチトール、マルチトール等、種々のものを用いることができる。中でも、炭素数6のソルビトール、マンニトールが最適である。ソルビトールは、農薬の展着剤としても用いられており、本発明の液状カルシウム肥料においてもそれと同様な機能を発揮させる利点がある。糖アルコールの液状カルシウム肥料中の濃度としては、5〜30%であることが好ましい。濃度がこれよりも著しく異なると、水溶液の貯蔵安定性が悪くなる。より好ましい濃度は、5〜15%、特に7〜12%である。
【0014】
石灰資材としては、水溶性有機酸及び/又はその塩の水溶液に溶解するものであれば制約はない。中でも、消石灰、生石灰、炭酸カルシウムが最適である。また、上記水溶性有機酸のカルシウム塩と併用することもできる。石灰資材の液状カルシウム肥料中の濃度は、CaOとして3〜14%である。3%未満では、相対的に使用する水溶液量が多くなるため運搬や取扱いに不利となり、また14%をこえると水溶液の貯蔵安定性が損なわれるようになる。なお、この含有量は溶液の比重を考慮するとおよそ3〜16g/100mLとなる。
【0015】
無機酸としては、塩酸、硝酸等、カルシウムと水溶性の塩を作るものが使用可能である。硝酸を用いた場合、窒素分も同時に植物に供給できる利点があるが、逆にそのために用途が制約される欠点がある。汎用製品とするには塩酸が好ましい。無機酸の濃度は11〜22%であることが好ましい。11%未満になるとカルシウム濃度があげられず、また22%をこえると水溶液が不安定になりやすい。
【0016】
また、無機酸の添加は、pH4.5〜6.5の液状カルシウム肥料が得られる限り、いつの時点で行ってもよいが、水溶性有機酸及び/又はその塩、無機酸、糖アルコール、及び石灰資材を水に溶解させるときに10〜20%とし、その後必要ならばろ過をし、pHを調整する時に1〜10%の少なくとも2回に分けて添加するのが好ましい。その理由は、無機酸を水溶性有機酸及び/又はその塩、無機酸、糖アルコール、及び石灰資材を水に溶解させるときに一括で添加するのに比べ、分割添加すると、カルシウム濃度が増大し、また水溶液の安定化及びpH調整の際に、必要となる無機酸の量を少なくできる利点があるからである。
【0017】
【実施例】
以下、参考例、実施例、比較例をあげて更に具体的に本発明を説明する。
【0018】
参考例1〜5 比較例1、2
表1に示される糖アルコールと酢酸を含有する液温20℃の清水に、表1に示した石灰資材を溶解してカルシウム飽和水溶液を調製し、液状カルシウム肥料とした。得られた水溶液のカルシウム濃度(CaO換算)と貯蔵安定性の測定結果を表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
表1から、比較例1は、比較例2の無添加と比較してもさほど顕著なカルシウム濃度の増大及び水溶液の安定性向上効果は認められなかったが、糖アルコールとしてマンニトール及びソルビトールを用いた参考例1〜4では、いずれも顕著にそれが認められた。糖アルコールとしてキシリトールを用いた参考例5では、参考例1〜4に比べ若干安定性に劣ったが、カルシウム濃度の増大効果は同様に認められた。また、比較例1は水溶液が褐色〜黒色を呈したのに対し、参考例1〜5のいずれもは透明溶液であった。
【0021】
参考例6〜8
水溶性有機酸及び/又はその塩の種類と含有量を表2のように変化させ、糖アルコールとしてソルビトールを15%、石灰資材として消石灰を溶解したこと以外は、参考例1同様にして液状カルシウム肥料を製造した。それらの結果を表2に示す。
【0022】
【表2】
【0023】
表2から、水溶性有機酸及び/又はその塩として、酢酸が最適であることがわかる。また、酢酸カルシウムを用いた場合でも、酢酸を用いた場合とほぼ同等な好結果が得られた。
【0024】
参考例9
ソルビトール濃度を15%、酢酸濃度を表3のようにし、石灰資材として消石灰を溶解したこと以外は、参考例1同様にして液状カルシウム肥料を製造した。その結果を表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
表3から、カルシウム濃度の増大効果と貯蔵安定性の点から、無機酸が含まれていない液状カルシウム肥料においては、酢酸の濃度は10〜20%が好適であることが示された。
【0027】
参考例10
ソルビトール濃度を表4のようにし、酢酸濃度を15%、石灰資材として消石灰を溶解したこと以外は、参考例1同様にして液状カルシウム肥料を製造した。その結果を表4に示す。
【0028】
【表4】
【0029】
表4から、カルシウム濃度の増大効果と貯蔵安定性の点から、ソルビトールの濃度は、5〜30%、特に10〜25%が好適であることが示された。また、マンニトールを用いた場合でも、ソルビトールを用いた場合とほぼ同等な好結果が得られた。
【0030】
実施例1〜4 比較例3、4
ソルビトール、酢酸、塩酸、消石灰を表5に示したように液温20℃の清水に溶解し、液状カルシウム肥料を製造した。得られた液状カルシウム肥料のカルシウム濃度(CaO換算)、pH及び貯蔵安定性を測定した。それらの結果を表5に示す。
【0031】
【表5】
【0032】
表5から、実施例1〜4、比較例3、4の全ては、比較例1、2に比べて、カルシウム濃度の増大効果と貯蔵安定性にすぐれた液状カルシウム肥料を製造することができた。とくに、実施例1〜4と比較例3、4との対比からわかるように、実施例1〜4のように、塩酸の分割添加を行うことによって、カルシウム濃度の増大効果と貯蔵安定性が一段とすぐれ、しかも植物体への吸収効率を向上させることができる、pH4.5〜6.5の液状カルシウム肥料を得ることができた。
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、高濃度かつ貯蔵安定性にすぐれた液状カルシウム肥料が提供される。また、この特性を保持しつつ、植物体への吸収効率を向上させることのできるpH4.5〜6.5の液状カルシウム肥料が提供される。
Claims (2)
- 水溶性有機酸及び/又はその塩、糖アルコール、石灰資材及び無機酸を含有するpH4.5〜6.5の水溶液からなり、上記成分の含有量が、水溶性有機酸及び/又はその塩が水溶性有機酸として14〜16.5%、無機酸が11〜22%、糖アルコールが5〜15%、及び石灰資材がCaOとして3〜14%であり、しかも無機酸の添加が、水溶性有機酸及び/又はその塩、無機酸、糖アルコール、及び石灰資材を水に溶解させるときに10〜20%、その後pHを調整するときに更に1〜10%の複数回に分けて行われていることを特徴とする液状カルシウム肥料。
- 水溶性有機酸及び/又はその塩が酢酸及び/又は酢酸カルシウムであり、糖アルコールがソルビトール及び/又はマンニトールであり、石灰資材が消石灰、生石灰、炭酸カルシウムより選ばれる1種以上であり、無機酸が塩酸であることを特徴とする請求項1記載の液状カルシウム肥料。
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