JP4242530B2 - 高分子量ポリエチレンイソフタレートの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高品質でかつ固有粘度[η]が1.3〜3.5の高重合度ポリエチレンイソフタレートを製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンイソフタレート(以下、PEIと略称することがある)は、低結晶性で、かつポリエチレンテレフタレート(PET)と構造異性体の関係にあることより、PETとの相溶ブレンド性が高く、種々のブレンド比の改質ポリエステルを調製することができる。また、近年、PEIの分子骨格に由来する固有の利点である高ガスバリア性、低延伸性、耐湿熱性、低結晶性等を応用したPETとの相溶ブレンド及び/又は共重合体が不織布、枕や寝装用の詰め物等を構成する繊維を接着するためのホットメルト型バインダー繊維、抗ピリング性繊維として、また、ガスバリア性フィルム、各種容器用の有用な素材としてクローズアップされるようになった。
【0003】
しかしながら、PEIは分子構造上、従来のポリエステル重合法ではその重合度をPETのように増加するのが困難であるという問題があり、素材としての単独での使用には十分な重合度を有していない。したがって、この問題を解決し、高重合度のPEIを製造することができれば、PETにはない優れたガスバリア性、高圧縮強度、耐湿熱性を備えた高性能素材を提供することが可能となると思われる。
【0004】
一般に、PEIは、その異性体であり民生用、産業資材として幅広く使用されるPETとほぼ同様の方法、すなわちイソフタル酸とエチレングリコールのエステル化反応又はイソフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル交換反応で得られたビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマー(低重合物)を高真空下に加熱・溶融状態で重縮合する方法で製造されている。これはポリエステルであるPEIの製造法として最も簡便かつ一般的な方法であるが、同時にイソフタル酸を使用することによる副反応が避けられない。すなわち、1,3-ベンゼンジカルボン酸であるイソフタル酸は、テレフタル酸と異なり分子構造が非対称であるため、重縮合反応の初期に環状二量体(エチレンイソフタレート・サイクリックダイマー)を形成しやすく、これが昇華して反応釜内に付着し減圧系を閉塞させて減圧不良にしたり、払い出し時に製品中に混入して異物の原因になるという問題がある。また、二量体形成は重合反応との競争であり、事実上重合速度及び生成ポリマーの重合度を低下させ、オリゴマーを増加する大きな要因となる。更に、ポリマー中に残存する二量体やオリゴマーは生成ポリマーの品質を劣化し、特にこれが成形品の表面にブリードアウトすると白濁した斑点を生じ、製品としての外観上の価値を著しく低下させる。
【0005】
従来、これらの問題を解決する方法として、特開昭59−64625号、特開昭59−64631号では、プロトン酸触媒としてPkaが2.5以下のアルキル又はアリールカルボン酸や鉱酸を使用し、また固有粘度変性剤として多価ジオールを使用することで、生成ポリマーの環状ダイマー含有率を5重量%以下に低減できることを開示している。しかしながら、これらの方法では、得られるポリマーの固有粘度が高々0.7程度であり、また重合に5〜8時間も必要とし、工業的に優れた方法とは言えない。更に、触媒として使用するカルボン酸や固有粘度変性剤である多価ジオールを添加することによるポリマー品質の変化も避けられない。
【0006】
また、特開平06−271658号には、モノマーに特定の脂肪族ジオールを添加・共重合することでも二量体やオリゴマー形成を低減できることが開示されているが、この方法も重合時間や重合度の点で大きな改善は見られず、上記脂肪族ジオール共重合によるPEIの品質変化もあり、好ましいものではない。
【0007】
一方、こうして溶融重合により得たPEIを固相重合にかけることで、その重合度を増加できることは既に知られている。例えば、特開昭61−66716号にはPETとPEIの溶融ブレンドを固相重合にかけることでブレンド体の極限粘度を増加させる方法が、また、特願平05−32062号にはエチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートの共重合体を減圧下210℃で固相重合にかけることで固有粘度約1.2の高重合度共重合体の製造方法が、それぞれ開示されている。しかしながら、これらの高重合度化方法はPETとのブレンド体や共重合体を対象とするものであり、また達成する重合度の点でも十分とは言えない。すなわち、これらの従来法は、PEIそのものの固相重合による、高重合度ポリマーの製造方法としては未だ満足できるものではない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、高重合度ポリエチレンイソフタレート(PEI)の製造におけるこれら未解決の問題を解消し、従来公知の工業的なポリエステル製造プロセスを本質的に変えることなくコスト、生産性の面で実用的であり、かつ高品質でオリゴマー副生を抑えた、繊維、フィルムその他の成形材料として十分な重合度を有する高分子量ポリエチレンイソフタレートを製造する方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、ポリエチレンイソフタレートの重合時に適当な重合促進剤を添加し、更にこれを特定の鎖延長剤で分子量を増加させた後、最終的に固相重合することにより高重合度ポリマーを製造することを考えた。そして、そのような重合促進剤としては、それ自体高い重合活性を有し、成長PEIと共重合する形でPEIの重合を促進し、しかも、一旦ポリマー骨格に組み込まれた後、熱的に不安定で速やかにガス化、脱離して重合系から除去され、同時にその末端がヒドロキシエチル体となるような化合物を想定し、鋭意研究した結果、重合促進剤として蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチル添加した場合には、環状オリゴマー生成が抑制され、しかも、ポリマー末端がヒドロキシエチル体となること、更に、この重合終了時に蓚酸系活性エステル化合物を添加することで上記ヒドロキシ末端が効率よく鎖延長され、これを固相重合にかけることで飛躍的にPEIの分子量が増加し、従来には無い高重合度のPEIを製造可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーを加熱重縮合することにより、エチレンイソフタレート単位50〜99モル%からなるポリエステルを製造する際に、下記式(1)の蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルをイソフタル酸構造単位に対し1〜50モル%の割合で添加して重縮合を行った後、これに下記式(2)の蓚酸系活性エステル化合物からなる鎖延長剤を添加して反応せしめることにより鎖延長し、得られたポリマーを結晶化させた後、固相重合を行い固有粘度1.3〜3.5のポリマーとすることを特徴とする高分子量ポリエチレンイソフタレートの製造方法に係るものである。
【0011】
【化2】
HO−CH2CH2−O−C(O)−C(O)−O−CH2CH2−OH ‥‥(1)
Ar−O−C(O)−C(O)−O−Ar’ ‥‥ (2)
(ここで、Ar及びAr’は、それぞれ、互いに同一の又は相異なる、核置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基である。)
【0012】
そして、かかる本発明は、上記の高重合度(高分子量)ポリエチレンイソフタレートの製造方法において、次のような方法を採用する場合も包含する。
【0013】
1)上記の高重合度ポリエチレンイソフタレートの製造方法において、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、又はイソフタル酸のエチルエステルとエチレングリコールとを反応させてビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーを生成させ、引き続き、これに末端ヒドロキシル化剤としてジヒドロキシ化合物をイソフタル酸構造単位に対し1〜50モル%の割合で添加して重縮合を行った後、更に蓚酸系活性エステル化合物からなる鎖延長剤を添加して反応せしめることにより鎖延長し、得られたポリマーを結晶化させた後、固相重合を行い固有粘度1.3〜3.5のポリマーとする製造方法。
【0014】
2)上記の高重合度ポリエチレンイソフタレートの製造方法において、鎖延長剤としての蓚酸系活性エステル化合物を、重合混合物に対し0.1〜10モル%の割合で添加する製造方法。
【0015】
3)上記の高重合度ポリエチレンイソフタレートの製造方法において、鎖延長反応後の固有粘度0.7〜1.3のポリマーを、加熱結晶化させ固相重合工程に供給する製造方法。
【0016】
4)上記の高重合度ポリエチレンイソフタレートの製造方法において、固相重合を、減圧下又は不活性ガス気流下に70〜180℃の温度に加熱することにより実施する製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の方法について、原料モノマー、重合反応、鎖延長反応、固相重合、得られるポリマーの順で詳細に説明する。
【0018】
<原料モノマー>
本発明では、重縮合反応に供するモノマーとして、ビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマー(低重合物)を使用する。このビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーは、常法によって得ることができるが、具体的には例えば次のようにして得ることができる。
【0019】
(1)充填塔を備えた反応釜にイソフタル酸とエチレングリコールをモル比1.5〜3.5のスラリ状として仕込み常圧下に内温200〜250℃、塔頂温度120〜150℃で副生する水を系外に除去しながら所定の反応率になるまでエステル化反応を行う。
(2)充填塔を備えた反応釜にイソフタル酸ジメチルとエチレングリコールをモル比1.5〜3.5で仕込み、エステル交換触媒としてマンガン、錫、亜鉛、チタン等の金属化合物を添加し、常圧下に内温を150℃〜200℃に昇温しつつ70〜100℃の充填塔で副生するメタノールを系外に除去しながら所定の反応率になるまでエステル交換反応を行う。
【0020】
本発明では、上記ポリエチレンイソフタレートは、その物性操作のために、ポリエチレンイソフタレートとしての性質が本質的に変化しない範囲(例えばポリマー繰り返し単位の30モル%以下、好ましくは15モル%以下)で他の成分を共重合してもよい。共重合させる他の繰り返し単位としては、例えば、エチレンテレフタレート単位、エチレン-2,6-ナフタレート単位、ブチレンテレフタレート単位、ブチレンイソフタレート単位、エチレンフタレート単位等が挙げられる。また、ジフェニルスルホンを主たる繰り返し単位として含有するポリエーテルスルホン、ジフェニルスルホンとビスフェノールAの縮合物を主たる繰り返し単位として含有するポリスルホン、ビスフェノールAの炭酸エステルを主たる繰り返し単位として含有するポリカーボネート等を共重合することもができる。本発明方法によるこれらの共重合体の製造も本発明の範囲に包含されることは言うまでもない。
【0021】
<重縮合反応>
本発明方法によるポリエチレンイソフタレート(PEI)の重合では、上述のようにして得られたビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーを、重合反応釜に移して、重合促進剤である蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルを所定量添加した後、昇温・減圧し、エチレングリコールの沸点以上の温度で約133kPa(1mmHg)以下の減圧下で所定の極限粘度のポリマーとなるまで、通常3〜4時間、重縮合反応を行う。
【0022】
本発明で重合促進剤として添加する蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルは、蓚酸ジメチル等の蓚酸ジエステルを適当なエステル交換触媒存在下に所定量のエチレングリコールと120〜150℃に加熱、エステル交換することにより得ることができる。ここで蓚酸エステルとしては炭素数1〜12のアルコール又はフェノールのジエステルを使用することができる。具体的には蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジn-プロピル、蓚酸ジイソプロピル、蓚酸ジブチル、蓚酸ジペンチル、蓚酸ジヘキシル、蓚酸ジヘプチル、蓚酸ジオクチル、蓚酸ジノニル、蓚酸ジデシル、蓚酸ジウンデシル、蓚酸ジドデシル、蓚酸ジフェニル、蓚酸ジナフチル等を挙げることができ、なかでも蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジフェニル等を好ましく用いることができる。
【0023】
また、重合促進剤である蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルの添加量は、イソフタル酸構造単位に対して1〜50モル%とする必要があり、特に3〜3モル%が好ましい。ここでイソフタル酸構造単位とは、ポリエチレンイソフタレート骨格に組み込まれるイソフタル酸単位のことであり、これはモノマーとして用いるビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーにおけるイソフタル酸単位に相当する。換言すれば、上記モル%は重合モノマーにイソフタル酸自身を用いるときは、そのモル数に対する百分率であり、イソフタル酸エステルを用いるときはそのエステルのモル数に対する百分率に対応する。
【0024】
蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルの添加量が1モル%未満であると環状体の形成が十分に抑制されず、望む重合促進効果を得ることができない。また、これより添加量が多くなると重合促進剤の除去のために、かえって重合に長時間を要するのみならず、促進剤の除去自体が困難となり、ポリマー中に蓚酸骨格が残存し易くなる。蓚酸ビス-2-ヒドロキシアルキルの添加時期は、重縮合反応前が好適であるが、一部の反応が開始した段階でも差し支えない。
【0025】
上記の如く、適当な重合触媒と共に、約133kPa(1mmHg)以下の高真空下に加熱重縮合する際、蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルをイソフタル酸構造単位に対して1〜50モル%添加することで、環状二量体の形成が抑制され、重合反応を促進すると共に、末端ヒドロキシル化剤としても機能し、溶融重合体のポリマー中COOH末端を低減しヒドロキシル末端を増加させる。
【0026】
本発明方法では、予め、重縮合反応でモノマーとなるビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマー(低重合物)を製造しておき、これを用いて上記の重縮合反応及び鎖伸長反応を実施してもよいが、工業的には、ビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーの生成反応と上記の重縮合反応とを併合又は直結して一工程又は一連の工程で実施する方が効率的である。後者の場合は、イソフタル酸又はその低級アルキル(例えばエチル)エステルとエチレングリコールを出発原料とし、これらを反応させてビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレートを生成させた後、引き続いて、上述のような重縮合反応を実施しても差し支えない。
【0027】
この重縮合反応は、通常、触媒の存在下で行なわれる。重縮合反応触媒としては、アンチモン、ゲルマニウム、錫、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マンガン、コバルト、ニッケル等の金属化合物の他、スルホサリチル酸、オルソ-スルホ安息香酸無水物等の有機スルホン酸化合物が好ましく用いられる。触媒添加量は、ジカルボン酸成分1モルに対して1×10-5〜1×10-2モル、好ましくは5×10-5〜5×10-3モルが適当である。
【0028】
反応に際してその簡便化、プロセス改良等のために各種の添加剤を加えることができる。かかる添加剤の例として金属又はその塩、包接化合物、キレート剤、有機金属化合物等を挙げることができる。また、ポリマーの品質向上のための抗酸化剤、安定剤として例えばヒンダードフェノール化合物のようなラジカル補足剤、あるいは蛍光剤、染料のような色調改良剤、カーボンブラック、二酸化チタンのような顔料等の添加物をポリマーに含有してもよい。また、必要に応じ、タルク、マイカのような滑剤を添加してもよい。
【0029】
<鎖延長反応>
本発明方法では、重縮合反応が終了した時点又はその近傍で、重合混合物に、上記式(2)で示される蓚酸系活性エステル化合物を鎖延長剤として、重合混合物に対し0.1〜10モル%、好ましくは0.5〜5モル%、の割合で添加・反応せしめ、分子鎖を延長させて分子量を増加させ、固有粘度1.2以上のポリエチレンイソフタレートとする。
【0030】
本発明で鎖延長剤として添加する蓚酸系活性エステル化合物は、上記式(2)で表わされるものである。式(2)において、Ar及びAr’は、それぞれ、互いに同一の又は相異なる、核置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基を示し、具体的には、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、1-ビフェニル、2-ビフェニル、4-メチルフェニル、4-メトキシフェニル、4-エチルフェニル、4-エトキシフェニル、4-フェノキシフェニル、4-ニトロフェニル、4-クロロフェニル、4-ブロモフェニル、4-フルオロフェニル、4-ヨードフェニル、2-ニトロフェニル、2-メチルフェニル、2-メトキシフェニル、2-エチルフェニル、2-エトキシフェニル、2-フェノキシフェニル、3-メチルフェニル、3-メトキシフェニル、3-エチルフェニル、3-エトキシフェニル、3-フェノキシフェニル、2,3,5,6-テトラメチルフェニル等を例示することができる。これらのうち、Ar、Ar’がともにフェニル又は4-メチルフェニルのものが好ましい。
【0031】
これらの蓚酸系活性エステル化合物も、蓚酸ジメチル等の蓚酸ジエステルを適当なエステル交換触媒存在下に、所定量の上記Ar,Ar’基からなるヒドロキシジアリール化合物と120〜150℃に加熱、エステル交換することにより得ることができる。ここで蓚酸エステルとしては炭素数1〜12のアルコール又はフェノールのジエステルを使用することができる。具体的には蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジn-プロピル、蓚酸ジイソプロピル、蓚酸ジブチル、蓚酸ジペンチル、蓚酸ジヘキシル、蓚酸ジヘプチル、蓚酸ジオクチル、蓚酸ジノニル、蓚酸ジデシル、蓚酸ジウンデシル、蓚酸ジドデシル、蓚酸ジフェニル、蓚酸ジナフチル等を挙げることができ、なかでも蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジフェニル等を好ましく用いることができる。
【0032】
鎖延長剤である蓚酸系活性エステル化合物の添加量は、重合混合物に対し0.1〜10モル%とする必要があり、0.5〜5モル%が好ましい。ここで重合混合物とは、ポリエチレンイソフタレートの重合モノマーと重合促進剤(すなわち蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチル)との合計モル量を意味する。蓚酸系活性エステル化合物の添加量が1モル%以下であるとポリマー鎖延長の効果が十分ではなく、望む分子量増加効果を得ることができない。また、これより添加量が多くなると鎖延長剤が過剰となり、かえって鎖延長効果が著しく低下するか或いは発現しないことになる。また未反応の鎖延長剤の除去のために重合に長時間を要するのみならず、剤の除去自体が困難となり、ポリマー中に異物が残存し易くなる。
【0033】
このように重合終了段階又はその近傍で、鎖延長剤として機能する蓚酸系活性エステル化合物を添加し、更に、5分〜30分程度重縮合反応を継続することでポリマ鎖の延長反応を行わせポリエチレンイソフタレートの分子量を増加する。鎖延長反応後のポリマー固有粘度は0.7〜1.3が好ましい。
【0034】
<固相重合>
このようにして得られた比較的高重合度のポリエチレンイソフタレート(PEI)を冷却後、加熱・結晶化させて、粒径5mm以下に粉砕することで固相重合用のチップを調製する。
【0035】
このチップは、固相重合釜中、窒素等の不活性ガス気流下の常圧又は約133kPa(1mmHg)以下の高真空状態で加熱温度180〜230℃、加熱時間2〜20時間程度の固相重合にかけられ、最終的に固有粘度[η]=1.3〜3.5、好ましくは1.7〜3.0、の高重合度ポリマーとなる。
【0036】
<得られるポリマー(PEI)>
以上のような本発明方法により製造された高重合度ポリエチレンイソフタレート(PEI)は、固有粘度[η](ポリマー120mgをフェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)10mlに溶解させて測定した還元粘度から算出)にして1.3〜3.5、好ましくは1.7〜3.0、の高い重合度を有し、かつオリゴマー含有量も少ないため、溶融成形性が良好で高品質の成形品を与える。
【0037】
また、他の熱可塑性ポリマー(例えば、PET、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、芳香族ポリカーボネート、ナイロン6、ナイロン66等)とブレンドして成形することも出来る。また、成形に際し、難燃剤、安定剤、充填剤、ガラス繊維等を添加することもでき、その応用範囲は広範囲に及ぶ。成形品としては、繊維、フィルム、ボード、ボトル、その他任意の形状の成形品とすることが出来る。また、他の素材と組み合わせ積層フィルム、積層容器等とすることも出来る。更に、適当な溶剤に溶解して溶液成形することも出来、また、塗料成分として利用油することも出来る。
【0038】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明方法によれば、PEI製造において環状体形成の抑制と重合促進が可能となると同時に、鎖延長剤による分子量増加と固相重合とが極めて効率よく機能しPEIの高分子量化が達成される。
その理由については、以下のように考察される。
【0039】
本発明方法では、重合促進のコンセプトとして、ポリマー鎖延長作用が有りかつ重合進行と共にガス化して重合系から消失するような重合促進剤として蓚酸アルキルエステルである蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルを選定し、これを特定量添加すると、該蓚酸アリキルエステルは反応活性が非常に高いため触媒の存在下では他のカルボン酸エステルと容易にエステル交換を起こす。したがって、PEIの重合においても、通常では環状エステル形成により重合進行が阻害され、更に熱分解も加わることでポリマー鎖のCOOH末端が増えるため、重合が遅延されるところを、反応速度の大きな蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルがPEIモノマーと反応することで、PEIモノマー同士の反応による環状エステル化を阻害し、ポリマー成長を促進すると同時に、更に熱分解でCOOH末端となった成長ポリマーとも非常に速く反応するため、再度これをエチレングリコール末端のエステルに戻すことでポリマー成長を加速し、重合度向上を促進する。一方、PEI骨格に共重合された蓚酸は、溶融重合の進行につれ、等モルのエチレングリコールを伴って熱により容易に分解・ガス化しポリマー骨格から除去され、蓚酸が脱離した部分は末端がヒドロキシエチル構造のPEI連鎖が形成される。したがって、この豊富に存在するヒドロキシ末端同士を蓚酸系活性エステル化合物がエステル化・鎖延長を行うことで最終的なPEIの分子量を大きく増加させることが可能となる。
【0040】
そして、固相重合工程では、最終的に蓚酸系活性エステルが結合したポリマー末端同士もしくは未反応の水酸基やカルボ末端と蓚酸エステル末端がと蓚酸の脱離を伴いながら結合することで蓚酸単位を全く含まないポリエステル鎖の安定なエステル結合を形成し、高分子量化を実現する。
【0041】
以上のことから、蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルを重合促進剤に用い重合したPEIを、蓚酸系活性エステル化合物で鎖延長後、固相重合することにより、環状オリゴマーの生成が抑制され、しかも比較的短時間、簡便に高品質の高重合度PEIの重合が可能となったものと考えられる。
【0042】
【実施例】
以下、参考例、実施例及び比較例によって本発明を更に詳しく説明する。ただし、本発明は、これらによっていささかも限定されるものではない。なお、例中の「部」は特にことわらない限り「重量部」を表す。また、固有粘度[η]は、ポリマー120mgをフェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4)10mlに溶解させて測定した還元粘度から算出した値であり、また、例中の( )内の数値は特に断らない限り分子量を表わす。
【0043】
[参考例1]
<蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルの合成>
500mlのナスフラスコ中に蓚酸ジメチル(118.17)118.17部(1モル)、エチレングリコール(61.08)66部(1.1モル)、及びテトラブトキシチタンの1重量%トルエン溶液0.25mlを加え、窒素雰囲気下で140℃に加熱、攪拌を開始した。エステル交換反応の進行につれ、副生するメタノールが留出し始めるので、反応の様子を見ながら加熱、攪拌を継続する。交換反応が充分に進めばほぼ理論量のエチレングリコールが留出するのでそこで操作を終了し、内容物を採取することで目的物である蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルを得た。
【0044】
[実施例1]
<高重合度ポリエチレンイソフタレートの製造>
100mlの三つ口フラスコ中にイソフタル酸ジメチル18.45部(0.095モル)、エチレングリコール14.90部(0.24モル)及びテトラブトキシチタンの1重量%トルエン溶液0.25ml(イソフタル酸に対して約0.03モル%)を加え、窒素雰囲気下で190℃に加熱、攪拌を開始した。エステル交換反応の進行につれ、副生するメタノールが留出し始め、約1時間でほぼ理論量のメタノールが留出して、ビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレートが生成した。
【0045】
次いで、これに蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチル0.9部(0.005モル)を添加し、反応の様子を見ながら徐々に温度を上げ最終的に220℃に加熱した。そして、系を水流アスピレータにて減圧し、240℃でV1反応を30分行った。最終的に真空ポンプにて133kPa(0.1mmHg)まで減圧してV2反応に入り、250℃で更に2時間重縮合反応を行った。反応が充分に進みほぼ理論量のエチレングリコールが留出し重縮合反応が終了したところで(この時点の固有粘度は1.2であった)、更に、この系に鎖延長剤として蓚酸ジフェニル(242.23)0.23g(イソフタル酸に対して1モル%)を加え、更にもう10分減圧下で重縮合反応を行った後、反応を終了し、内容物が温かいうちにサンプリング、ペレット化することでPEIを得た。その固有粘度[η]を測定したところ1.20であった。
【0046】
次いで、得られたPEIペレットを70℃に放置して結晶化させた後、フリーザーにて冷却・粉砕することにより粒径5mm程度のチップを作成した。
【0047】
得られたチップを100mlの三つ口フラスコ中に入れ、内部を十分に窒素置換後、真空下にて220℃に加熱しつつ14時間攪拌して、固相重合を行い高重合度PEIを調製した。
【0048】
このポリマーの固有粘度[η]を測定したところ2.15であった。また、NMR測定(TFA/CDCl3)によるポリマー組成定量を行ったところ、蓚酸成分は含有されていないことを確認した。その結果を表1に示す。
【0049】
[実施例2〜9]
実施例2〜9として、実施例1と同様の方法において、原料モノマー仕込み量、蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチル添加量、蓚酸ジエステル添加量及び溶融重合時間、固相重合の時間及び温度を表1に示す条件にして実験を行った。得られたポリマー(PEI)の特性をそれぞれ表1に示す。
【0050】
[比較例1]
100mlの三つ口フラスコ中にイソフタル酸ジメチル19.42部(0.1モル)、エチレングリコール15.52部(0.25モル)及びテトラブトキシチタン1重量%トルエン溶液0.25ml(イソフタル酸に対して約0.03モル%)を加え、窒素雰囲気下で190℃に加熱、攪拌を開始した。エステル交換反応の進行につれ、副生するメタノールが留出し始め、約1時間でほぼ理論量のメタノールが留出した。
【0051】
次いで、これを徐々に温度を上げながら最終的に220℃に加熱した後、系を水流アスピレータにて減圧し、240℃でV1反応を30分行った。最終的に真空ポンプにて約13.3kPa(0.1mmHg)まで減圧してV2反応に入り、250℃で更に2時間重合した。重合が充分に進みほぼ理論量のエチレングリコールが留出したところで反応を終了し内容物が温かいうちにサンプリング、ペレット化することでPEIを得た。このポリマーの固有粘度[η]を測定したところ0.63であった。
【0052】
次いで、得られたPEIペレットを70℃に放置して結晶化させた後にフリーザーにて冷却・粉砕することで粒径5mm程度のチップを作成した。得られたチップを100mlの三つ口フラスコ中に加え、十分に窒素置換後、真空下で220℃に加熱、14時間攪拌、固相重合を行い高重合度PEIを調製した。このポリマー(PEI)はオリゴマー含量が多いもので、ポリマーの固有粘度[η]を測定したところ0.85であった。その結果を表1に示す。
【0053】
[比較例2〜5]
比較例2〜5として、蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルは無添加とし、原料仕込み量、蓚酸ジフェニルの添加量、溶融重合時間、固相重合の時間及び温度を表1に示すように選定し、それ以外は、実施例1と同様の操作でPEIの製造を行った。得られたポリマー(PEI)の固有粘度[η]等の特性を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
以上の実施例及び比較例の実験結果から、蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルを原料モノマーに添加することで、重合が促進されると共にポリマーのCOOH末端が低減されて環状オリゴマーの生成が抑制され、これを蓚酸系活性エステル化合物で鎖延長した後、更に固相重合を行うことにより、製品ポリマー中にはオリゴマーや重合促進剤である蓚酸エステルが殆ど残存することなく、短時間で高重合度・高品質のPEIの重合が可能であることが明らかである。
Claims (5)
- ビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーを加熱重縮合することにより、エチレンイソフタレート単位50〜99モル%からなるポリエステルを製造する際に、下記式(1)で表わされる蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルをイソフタル酸構造単位に対し1〜50モル%の割合で添加して重縮合を行った後、これに下記式(2)で表わされる蓚酸系活性エステル化合物を添加して反応せしめることにより鎖延長し、得られたポリマーを結晶化させた後、固相重合を行い固有粘度1.3〜3.5のポリマーとすることを特徴とする高分子量ポリエチレンイソフタレートの製造方法。
【化1】
HO−CH2CH2−O−C(O)−C(O)−O−CH2CH2−OH ‥‥(1)
Ar−O−C(O)−C(O)−O−Ar’ ‥‥ (2)
(ここで、Ar及びAr’は、それぞれ、互いに同一の又は相異なる、核置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基である。) - イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、又はイソフタル酸のエチルエステルとエチレングリコールを反応させてビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーを生成させ、引き続き、これに蓚酸ビス-2-ヒドロキシルエチルをイソフタル酸構造単位に対し1〜50モル%の割合で添加して重縮合を行った後、更に、蓚酸系活性エステル化合物からなる鎖延長剤を添加して反応せしめることにより鎖延長し、得られたポリマーを結晶化させた後、固相重合を行い固有粘度1.3〜3.5のポリマーとすることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
- 鎖延長剤としての蓚酸系活性エステル化合物を、重合混合物に対し0.1〜10モル%の割合で添加することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
- 鎖延長反応後の固有粘度0.7〜1.3のポリマーを、加熱結晶化させ固相重合工程に供給することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の製造方法。
- 固相重合を減圧下又は不活性ガス気流下に180〜230℃の温度に加熱することにより実施することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の製造方法。
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