JP4240165B2 - 血小板由来白血球貪食能亢進因子の活性化因子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、白血球による貪食作用を促進させるポリペプチド、及び該ポリペプチドに対してアンタゴニスト活性を有するポリペプチド、及びこれら各々を有効成分として含有する医薬組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
白血球は、体内に進入してきた微生物等の異物及び老廃物等の不要になった自己細胞を摂取、処理し生体の防衛及び清掃の機能を持つ。該作用を貪食作用又は食作用といい、該機能を有するものを貪食細胞又は食細胞という。白血球のうち、貪食作用を有するのは、好中球、単球及び好酸球等である。単球及び好中球は、血液中を流れ、炎症局所に浸潤し、貪食作用を発揮する。また、単球は、血流を離れ特定の臓器等に定着すると、成熟し、マクロファージとなる。マクロファージも、貪食細胞である。好酸球も、弱いが細菌に対する食作用を有する。
【0003】
これら白血球の持つ食作用は、その機能面から、以下の三つに分けることができる。
【0004】
1.生体内に進入した異物粒子に対する非特異的貪食作用
免疫抗体反応において、抗体が生産されるまでの感染初期において、非特異的に、生体に進入した細菌、真菌、原虫、ウイルス等の異物を貪食する。
【0005】
2.免疫応答における特異的貪食作用
貪食細胞は、感染に応答して産出されたIgG抗体で覆われた特定の感染微生物を、補食し、破壊することから、免疫応答の際にも重要な役割を担う。
【0006】
3.損傷細胞や老廃自己細胞の処理
貪食細胞は、上記のような生体内に進入した異物粒子だけでなく、損傷細胞や老変した血球、血栓等の老廃自己成分、癌細胞をも補食する。従って、貪食作用を活性化できれば、生体内に進入した病原性微生物による感染症の予防・治療、免疫力の向上、血栓の速やかな除去が可能となる。一方、貪食細胞は、貪食の際に、細胞殺傷性物質を放出するために、炎症を引き起こす。このため、過剰な炎症の予防・治療の面からは、貪食作用を抑制することが望まれる。このように、白血球による貪食については、活性化/不活性化という相反する作用が求められている。
【0007】
このうち、白血球による貪食作用の活性化には、主に以下の二因子がある。
【0008】
(1)補体の存在下で活性化を引き起こす因子
(2)Fcγ受容体を介して活性化する因子
これまでに、(2)の場合に、分子量が300,000又は150,000の高分子量の活性化因子(MAPP: Macromolecular Activators of Phagocytosis from Platelets)が存在し、トランスフェリンの二量体又は四量体がそれぞれ主な構造を占めていることが明らかになっている(Sakamoto H., et al., Biochem. Biophys. Res. Common 230; 270-274, 1997)。
【0009】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明は、白血球の貪食能亢進作用を活性化又は不活性化することのできる医薬組成物を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
今般、発明者は、血小板に含まれるアポリポ蛋白C3(アミノ酸配列等はAshok V. Hospattankar et al, FEBS Letters, vol.197, 1986, p67-73を参照)が、トランスフェリンを活性化し、白血球の貪食作用を亢進することを見出した(図1)。しかしながら、アポリポ蛋白C3単独では、白血球の貪食作用は亢進されなかった。
【0011】
そこで、課題を解決するため更に鋭意研究を重ねた結果、アポリポ蛋白C3にトロンビンを作用させることにより得られるポリペプチドが、トランスフェリン又はその誘導体と複合体を形成し、白血球貪食能亢進作用を有することを見出した。また、該ポリペプチドのアンタゴニスト活性を有するポリペプチドも同時に見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下のポリペプチド及びこれらを含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【0012】
1.配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド又はその薬学的に許容される塩。
【0013】
2.上記1に記載のポリペプチド又はその薬学的に許容される塩とトランスフェリン又はその誘導体との複合体。
【0014】
3.上記1に記載のポリペプチド又はその薬学的に許容される塩及び薬学的に許容される担体を含む白血球貪食能亢進作用を有する医薬組成物。
【0015】
4.上記1に記載のポリペプチド又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む感染症予防又は治療剤。
【0016】
5.上記1に記載のポリペプチド又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む免疫賦活剤。
【0017】
6.上記1に記載のポリペプチド又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む抗血栓剤。
【0018】
7.上記1に記載のポリペプチドにおいて、1又は数個のアミノ酸が置換、付加又は欠失されたアミノ酸配列を有し、且つ上記1に記載のポリペプチドに対してアンタゴニスト活性を有するポリペプチド又はその薬学的に許容される塩。
【0019】
8.上記7に記載のポリペプチドのうち、配列番号2、3及び4のいずれかのアミノ酸配列を有するポリペプチド又はその薬学的に許容される塩。
【0020】
9.上記7又は8に記載のポリペプチド又はその薬学的に許容される塩及び薬学的に許容される担体を含む白血球貪食能亢進作用を抑制する医薬組成物。
【0021】
10.上記7又は8に記載のポリペプチド又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む抗炎症剤。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明におけるポリペプチドとは、以下に述べる活性を有するものであるならば、オリゴペプチドから蛋白質まで広く含むものとする。
【0023】
1.白血球貪食能亢進活性を有するペプチドについて
本発明のポリペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド(以下、「PMA-II」という)を包含する。PMA-IIは、トランスフェリン又はその誘導体と複合体(以下、単に「複合体」という)を形成し、白血球の貪食能亢進活性を示す。
【0024】
PMA-IIは、例えば、アポリポ蛋白C3に、プロテアーゼの一種であるトロンビンを作用させることにより得ることができる。使用するアポリポ蛋白C3は、市販品を用いても良いが、例えば、血小板を超遠心分離をすると、高密度リポタンパク画分として得ることができ、血漿高密度リポタンパクを常法を用いて脱脂しても得ることができる。アポリポ蛋白C3にトロンビンを作用させてPMA-IIを得る場合は、溶媒中において該二成分を単に混合すればよい。反応の際に使用する溶媒は、生成するPMA-IIが活性を失わないような溶媒であれば特に制限されない。例えば、イオン交換水、蒸留水等の水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、CPD液(クエン酸、クエン酸ナトリウム、ブドウ糖及びリン酸二水素ナトリウムの水溶液)、トリス塩酸緩衝液、酢酸ナトリウム水溶液、クエン酸ナトリウム水溶液等の緩衝液、有機溶媒等が挙げられ、これらの混合溶媒であってもよい。好ましくは、pH6〜8のPBS液、CPD液等の緩衝液である。反応温度は、特に制限されないが、通常10〜45℃、好ましくは30〜40℃である。反応時間は特に制限されないが、通常5分〜2時間であり、好ましくは10分〜1時間である。反応後の溶液を精製するとPMA-IIが得られる。精製方法は、当該分野で通常用いられる方法であれば特に制限されず、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、限外濾過、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー、吸着剤処理、塩析、等電点沈殿法、ポリエチレングリコール分画法等の公知のポリペプチドの単離及び精製法を適宜組み合わせることにより得ることができる。例えば、陰イオン交換クロマトグラフィーにかけると非吸着分画として得ることができる。また、PMA-IIは、上記方法以外にも、後述するようなペプチド合成、組換DNA技術、点突然変異等の常法によって得ることができる。得られたPMA-IIは、当該分野で通常用いられる方法で精製してもよい。
【0025】
本発明のポリペプチドは、PMA-IIにおいて、1又は数個のアミノ酸が置換、付加又は欠失し、且つ白血球の貪食能亢進活性を有するPMA-II誘導体も包含する。PMA-II誘導体は、トランスフェリン又はその誘導体との複合体を形成した際、白血球貪食能亢進活性を失わない程度に、PMA-IIのアミノ酸配列の1又は数個を置換、付加又は欠失したポリペプチドである。PMA-II誘導体の有する白血球貪食能亢進活性は、PMA-IIと質的に同一であればよく、その程度を問わない。この様なPMA-II誘導体を得るためには、PMA-IIの三次元構造、物理化学的性質(例えば、構成するアミノ酸の極性/非極性、酸性/塩基)の変化が最小限となるように、PMA-IIにおいて、1又は数個のアミノ酸を置換、付加又は欠失させればよい。PMA-II誘導体は、後述するようなペプチド合成、組換えDNA技術、点突然変異等の常法によって得ることができる。得られたPMA-II誘導体は、当該分野で通常用いられる方法で精製してもよい。
【0026】
PMA-II誘導体は、PMA-IIにおいて、1又は数個のアミノ酸が置換したアミノ酸配列を有していても良い。置換されてもよいアミノ酸の数は、複合体が貪食能亢進活性を失わない程度であれば特に制限されず、通常1〜3、好ましくは1〜2、より好ましくは1である。
【0027】
PMA-II誘導体は、PMA-IIにおいて、1又は数個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列を有していても良い。付加されてもよいアミノ酸の数は、複合体が上記活性を失わない程度であれば特に制限されず、通常1〜7、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3である。PMA-II誘導体の場合、PMA-IIにおけるアミノ酸付加の位置は、複合体が活性を失わなければ特に制限されないが、PMA-IIの配列のN末端又は配列途中が好ましい。
【0028】
PMA-II誘導体は、PMA-IIにおいて、1又は数個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列を有していても良い。欠失されてもよいアミノ酸の数は、複合体が上記活性を失わない程度であれば特に制限されず、通常1〜3、好ましくは1〜2、より好ましくは1である。PMA-II誘導体の場合、PMA-IIにおけるアミノ酸欠失の位置は、複合体が活性を失わなければ特に制限されないが、PMA-IIの配列のN末端又は配列途中が好ましい。
【0029】
本発明のポリペプチド(PMA-II誘導体及び後述するPMA-IIアンタゴニストを含む)において置換又は付加されるアミノ酸は、ポリペプチドに通常使用される20個のアミノ酸(Gly, Ala, Ser, Val, Thr, Asn, Gln, Pro, Glu, Asp, Leu, Ile, His, Met, Cys, Phe, Tyr, Trp, Lys及びArgのL体)だけでなく、上記アミノ酸のD体及び4−ヒドロキシプロリン、N−メチルリジン、β-アラニン、N−メチルグリシン、N−メチルアスパラギン等の特殊なアミノ酸でもよい。
【0030】
上記PMA-II及びPMA-II誘導体は、複合体が活性を失わない程度に、ペプチド主鎖、側鎖や末端等を保護又は修飾されていてもよい。また、糖鎖(単糖、二糖、オリゴ糖若しくは多糖)が結合した糖蛋白質、脂質が結合したリポ蛋白質等のように複合蛋白質を形成していてもよく及び/又はリン酸化されていてもよい。
【0031】
本発明のポリペプチド(PMA-II誘導体及び後述するPMA-IIアンタゴニストを含む)において、修飾されていてもよい側鎖としては、例えば、イミダゾール基、水酸基、アミノ基、インドール基、チオール基、チオエーテル基、カルボキシル基、カルボキシアミド基、グアニジン基等の官能基が挙げられ、好ましくは、水酸基、アミノ基、カルボキシル基が挙げられる。本発明のポリペプチドが有していてもよい保護基は、当該分野で通常用いられる保護基であれば特に制限されず、例えば、ホルミル基、アセチル基等のC1-6アシル基等が挙げられる。また、本発明のポリペプチドは、ペプチド末端のカルボキシル基及び/又はアミノ基が保護されていてもよい。N末端の保護基としては、例えば、種々のアシル基等が挙げられる。中でも、アセチル(Ac)、Fmoc、Bpoc、トリチル(Trt)、Alloc及びBocが好ましい。C末端の保護基としては、例えば種々のエステル基、置換アミノ基等が挙げられる。中でも、C1-6アルキル基、アリル基、アダマンチル基、ベンジル及びt-ブチル基等とのエステル、-NH3が好ましい。また、ペプチド結合の窒素がN-アルキル化されている等、主鎖が修飾されていてもよい。該アルキルとしては、メチル、エチル基が好ましい。
【0032】
更に、本発明のポリペプチド(PMA-II誘導体及び後述するPMA-IIアンタゴニストを含む)は、薬学的に許容な塩であってもよい。該塩は、本発明のペプチドが有する活性が失わなければ特に制限されず、当該分野で通常用いられている塩でよい。例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、硫酸等)、有機酸(例えば、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等)、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等)、有機塩基等を用いることができる。
【0033】
・トランスフェリン又はトランスフェリン誘導体との複合体について
トランスフェリンとは、βグロブリンの一種で、血液中に吸収された2分子の3価鉄イオンを結合して、細胞増殖やヘモグロビン産出に必要な鉄をトランスフェリン受容体を介して細胞内に供給する鉄運搬蛋白質である。本発明に用いるトランスフェリン又はその誘導体は、PMA-II又はその誘導体と複合体を形成するものであれば特に制限されない。通常分子量15万又は30万のトランスフェリンであり、これらのトランスフェリンは、形式として二量体又は四量体を形成している可能性がある。トランスフェリンは、ヒト血液より自体公知の方法により分離精製(例えば、ゲル濾過)したものや市販品を用いることができる。
【0034】
本発明におけるトランスフェリン誘導体とは、トランスフェリンを架橋剤により架橋させたトランスフェリン多量体である。トランスフェリン誘導体は、配列番号1に記載のポリペプチドと複合体を形成するものであれば特に制限されず、通常二量体又は四量体である。使用する架橋剤は、当該分野で一般的に使用する架橋剤であれば特に制限されず、例えばグルタールアルデヒド、グリオキサール、コハク酸ジアルデヒド等のジアルデヒド類が挙げられる。トランスフェリン誘導体中のトランスフェリンと架橋剤との割合は、複合体の活性が失わなければ特に制限されない。
【0035】
該トランスフェリン又はその誘導体は、PMA-II又はその誘導体と複合体を形成する。複合体中のトランスフェリン又はその誘導体とポリペプチドとの比は、使用するPMA-II又はその誘導体及びトランスフェリン又はその誘導体の種類、及び各々の濃度に依存する。例えば、トランスフェリン二量体又は四量体1に対してポリペプチドは少なくとも1であり、通常二量体1に対してポリペプチド1以上、四量体1に対してポリペプチド2以上である。
【0036】
PMA-II又はその誘導体は、該ポリペプチドのみを投与した場合、血液中のトランスフェリンと複合体を形成し、白血球貪食亢進活性を示す。従って、該ポリペプチドは単独で投与すればよいが、予めトランスフェリン又はその誘導体との複合体を形成させた後投与してもよい。本発明の複合体を得るには、PMA-II又はその誘導体及びトランスフェリン又はその誘導体が活性を失わないような溶媒中で、該二成分を単に混合すればよい。複合体を形成させる際の溶媒としては、複合体の形成に支障がなく、且つ生成する複合体の活性が失われないものであれば特に制限されない。例えば、イオン交換水、蒸留水等の水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、CPD液(クエン酸、クエン酸ナトリウム、ブドウ糖及びリン酸二水素ナトリウムの水溶液)、トリス塩酸緩衝液、酢酸ナトリウム水溶液、クエン酸ナトリウム水溶液等の緩衝液、有機溶媒が挙げられ、これらの混合溶媒であってもよい。好ましくは、pH6〜8のPBS液、CPD液等の緩衝液である。反応温度は、特に制限されないが、通常10〜45℃、好ましくは30〜40℃である。反応時間は、特に制限されないが、通常10分〜3時間、好ましくは20分〜2時間である。
【0037】
・感染症予防又は治療剤としての利用
本発明の複合体は、白血球貪食能亢進作用を有するので、細菌、ウイルス、真菌等の病原微生物による感染症の予防又は治療、症状緩和に有効である。例えば、菌体表層に貪食作用に抵抗するための粘液層や莢膜がある場合でも、本発明の複合体により貪食作用が促進される。細菌としては、サルモネラ、大腸菌、緑膿菌等のグラム陰性菌、ブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌等のグラム陽性菌、ウイルスとしては、ヘルペスウイルス、HIV等、真菌としては、カンジダ、アスペルギルス等が挙げられる。これらの病原微生物による感染症としては、急性胃腸炎、食中毒、尿路感染症、膀胱炎、腎盂炎、肺炎、敗血症、ブドウ球菌症、皮膚疾患、ヘルペスウイルス感染症、帯状ほう疹、白癬、カンジダ症等が挙げられる。
【0038】
・免疫賦活剤としての利用
本発明の複合体は、免疫力亢進に利用できる。具体的には、化学療法や放射線療法後の免疫力低下、抗腫瘍剤との併用、エイズ関連症候群による免疫力低下、日和見感染症等の治療が挙げられる。
【0039】
・抗血栓剤としての利用
本発明の複合体は、白血球による貪食作用を活性化することから、体内の老廃物の除去を促進する。そのため、動脈硬化巣における血栓の除去を目的として、抗血栓剤として利用できる。
【0040】
2.白血球貪食能亢進作用抑制活性を有するペプチドについて
本発明のポリペプチドは、PMA-II(配列番号1)において、1又は数個のアミノ酸が置換、付加又は欠失されたアミノ酸配列を有し、且つPMA-IIに対してアンタゴニスト活性を有するポリペプチド(以下、「PMA-IIアンタゴニスト」という)も包含する。
【0041】
PMA-IIアンタゴニストが有するPMA-IIに対するアンタゴニスト活性とは、白血球貪食能亢進作用を抑制する作用であり、その活性の程度は問わない。また、トランスフェリンとの複合体形成能は問わない。
【0042】
PMA-IIアンタゴニストは、PMA-IIにおいて、1又は数個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有していてもよい。置換されていてもよいアミノ酸の数は、PMA-IIに対するアンタゴニスト活性が失われない程度であれば特に制限されないが、通常1〜3、好ましくは1〜2である。
【0043】
PMA-IIアンタゴニストは、PMA-IIにおいて、1又は数個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列を有していても良い。付加されていてもよいアミノ酸の数は、該アンタゴニスト活性が失われない程度であれば特に制限されないが、通常1〜72、好ましくは1〜30である。付加される箇所は、該活性が失われなければ特に制限されないが、通常C末端である。この様なPMA-IIアンタゴニストとしては、アポリポ蛋白C3のアミノ酸配列の一部を有するポリペプチドが好ましく、配列番号2及び4のポリペプチドが特に好ましい。また、PMA-IIに対して置換又は付加するアミノ酸は、ポリペプチドに通常使用される20種のアミノ酸だけでなく、上述したような特殊なアミノ酸でもよい。
【0044】
PMA-IIアンタゴニストは、PMA-IIにおいて、1又は数個のアミノ酸が欠失されていても良い。欠失されていてもよいアミノ酸の数は、該アンタゴニスト活性を失わない程度であれば特に制限されないが、通常1〜3、好ましくは1〜2、より好ましくは1である。欠失される箇所は、該活性が失われなければ特に制限されないが、通常C末端である。この様なPMA-IIアンタゴニストとしては、配列番号3のポリペプチドが好ましい。
【0045】
また、PMA-IIアンタゴニストは、PMA-IIに対するアンタゴニスト活性を失わない程度に、ペプチド主鎖、側鎖、末端等を修飾又は保護されていてもよい。また、糖鎖(単糖、二糖、オリゴ糖若しくは多糖)が結合した糖蛋白質、脂質類が結合したリポ蛋白質等のように複合蛋白質を形成していてもよく、及び/又はリン酸化されていてもよい。修飾されていてもよい側鎖としては、例えば上述した官能基が挙げられる。また、PMA-IIアンタゴニストが有していてもよい保護基は、当該分野で通常用いられる保護基であれば特に制限されず、例えば、上述した保護基が挙げられる。
【0046】
更に、PMA-IIアンタゴニストは、薬学的に許容される塩であってもよい。該塩は、PMA-IIアンタゴニスト活性を失わなければ、当該分野で通常用いられている塩でよい。例えば、前述の酸及び塩基を用いることができる。
【0047】
PMA-IIアンタゴニストは、例えばペプチド合成、組換DNA技術、点突然変異等の常法によって得ることができる。得られたPMA-IIアンタゴニストは、当該分野で通常用いられる方法で精製してもよい。
【0048】
・抗炎症剤としての利用
貪食細胞は、貪食の際に、細胞殺傷性物質を放出するため、自身の組織にダメージを与え、炎症を引き起こす。従って、貪食作用を抑えることにより、炎症を予防、治療及び症状を緩和することが可能である。症状としては、日焼けや火傷による急性炎症及びリウマチ等の慢性炎症が挙げられる。
【0049】
・ポリペプチドの合成及び精製
PMA-II及びその誘導体並びにPMA-IIアンタゴニストを含む本発明のポリペプチドを合成する場合は、通常用いられる固相合成法、液相合成法のいずれでもよく、公知の方法を組み合わせてもよい。また、市販の各種ペプチド合成装置を利用してもよい。ペプチド合成におけるアミノ基等の保護基、及び縮合反応における縮合剤は、特に限定されず、当該分野において通常用いられるものでよい。例えば、鈴木紘一編「蛋白質工学−基礎と応用」(1992年、丸善株式会社)、ボンダンスキーら著「ペプタイド・シンセシス」(1976年、John Wiley & Sons, N.Y.)及びスチュワートら著「ソリッド・フェーズ・ペプタイド・シンセシス」(1969年、W. H. Freeman and Co., San Francisco)等に記載されたものを用いることができる。
【0050】
組換えDNA技術により本発明のポリペプチドを調製する場合には、常法に従って、本発明ポリペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞を培地中で培養し、該培養物から本発明ポリペプチドを採取することによって調製することができる。 また、点突然変異は、置換ポリペプチドを得るための方法の一つである。宿主細胞としては、微生物〔細菌(例えば、大腸菌、枯草菌)、酵母(例えば、サッカロミセス属)〕、動物細胞(例えば、COS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞)、昆虫細胞(例えば、S.f.細胞)等が使用できる。 ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、バクテリオファージ、バキュロウイルス(核多角体ウイルス)等の昆虫ウイルス等、公知の入手可能なベクターを使用することができる。
【0051】
PMA-II及びその誘導体並びにPMA-IIアンタゴニストを含む本発明のポリペプチドを精製する場合は、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、限外濾過、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー、吸着剤処理、塩析、等電点沈澱法、ポリエチレングリコール分画法等の公知のポリペプチドの単離及び精製法を適宜組合せることにより得ることができる。
【0052】
・剤形
本発明のPMA-II又はその誘導体、トランスフェリン又はその誘導体との複合体及びPMA-IIアンタゴニストは、薬理的に許容される添加剤(例えば、担体、賦形剤、希釈剤、安定化剤等)等の製薬上必要な成分と適宜混合し、散剤、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、注射剤、噴霧剤等の形態で医薬組成物として、自体公知の方法に従い経口的又は非経口的(例えば、静脈内、皮下、筋肉内への注射剤、座薬又は舌下錠)に投与することができる。
【0053】
上記製剤中には、本発明のポリペプチド又は複合体が有効量配合される。一日当りの投与量は、症状の程度;投与対象の年齢、性別、体重、感受性の差;投与の時期、間隔、投与経路、医薬製剤の性質、調剤、種類;有効成分の種類等によって異なり、特に限定されないが、通常、ペプチドで換算すると、哺乳動物1kg体重あたり約0.01〜20mg、好ましくは約0.05〜10mgであり、更に好ましくは0.1〜5mgであり、これを通常1日1〜数回に分けて投与する。トランスフェリン又はその誘導体との複合体として投与する際には、使用するトランスフェリン又はその誘導体の分子量に応じて、換算し直せばよい。
【0054】
上記薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、液状製剤における溶剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等として配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の製剤添加物を用いることもできる。また、安定化剤は、蛋白製剤の安定化剤として通常使用されるものであれば特に限定されない。
【0055】
例えば注射剤とする場合は、自体公知の方法により、本発明ポリペプチドに、希釈剤(生理食塩水、注射用蒸留水、滅菌精製水等)、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、分散剤等を添加し、水性又は油性の静脈、皮下、筋肉内注射剤とする。その際必要により自体公知の方法により凍結乾燥物とすることも可能である。
【0056】
経口投与製剤とするには、自体公知の方法に従い、本発明ポリペプチドを、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤又は滑沢剤等を添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため自体公知の方法でコーティングすることにより経口投与製剤とすることができる。
【0057】
腸溶性製剤とする場合、腸溶相と薬剤含有相との間に両相の分離を目的として、自体公知の方法により中間相を設けることが好ましい。
【0058】
外用剤とするには、自体公知の方法に従い、本発明ポリペプチドを固状、半固状又は液状の外用投与剤とすることができる。たとえば、上記固状のものとしては、本発明ポリペプチドをそのまま、あるいは賦形剤、増粘剤等を添加、混合して粉状の組成物とする。上記液状のものとしては、注射剤の場合とほとんど同様で、油性あるいは水性懸濁剤とする。半固状の場合は、水性又は油性のゲル剤、あるいは軟膏状のものがよい。また、これらはいずれも、pH調節剤、防腐剤等を加えてもよい。
噴霧剤とするには、自体公知の方法に従い、本発明ポリペプチドを、そのまま又は緩衝剤,安定化剤,糖,脱イオン水等(例、0.1〜10mg/ml)に溶解し、ネブライザーで投与する噴霧剤を調整する。緩衝剤は、溶液をpH5〜7の範囲に調整するのに適した組成及びモル濃度を有するのが好ましい。ネブライザー用組成物は、エーロゾルを形成する際に溶液を霧化することにより惹起されるタンパク質の表面誘導凝集(surface induced aggregation)を低減又は防止すべく慣用の界面活性剤を含んでもよい。
【0059】
【発明の効果】
本発明は、白血球による貪食作用を亢進するペプチド(PMA-II)及び該ペプチドに対してアンタゴニスト活性を有するポリペプチドを見出した。即ち、PMA-IIは、トランスフェリン又はその誘導体との複合体を形成し、白血球による貪食機能を活性化することができる。一方、PMA-IIのアンタゴニストは、PMA-IIの有する白血球貪食能亢進作用を抑制することができる。
【0060】
【実施例】
以下、本発明を更に詳しく説明するため種々の実験を行った。本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0061】
実施例1 PMA-IIの単離・精製
市販のアポリポ蛋白C3(Chemicon International社製)に、トロンビン(0.1 unit/ml)を加え、37℃で30分間反応させた。反応後、MONO Qカラム(Pharmacia社製)を用いて陰イオンクロマトグラフィーを行い(溶出液:20 mM トリス塩酸緩衝液、pH 8.0)、非吸着分画として目的のポリペプチドを得た。該非吸着分画を直接Protein sequencer(Applied Biosystem社製)にかけ、アミノ酸配列がHATKTAK(配列番号1)であることを確認した。
【0062】
また、血漿高密度リポタンパクをエーテル/アルコールを用いて脱脂することにより得られたアポリポ蛋白、保存血小板の凍結融解上清、或いは保存血小板の凍結融解上清を更に超遠心分離にかけることにより得た高密度リポ蛋白質分画に対して、トロンビンを作用させた場合にも、同様の結果が得られた。また、保存血小板より精製したアポリポ蛋白を、抗アポリポC3蛋白抗体親和性カラムに通した場合には、吸着分画に白血球貪食亢進作用が見られた。
【0063】
実施例2 トランスフェリン又はその誘導体と血小板由来PMA-IIによる複合体の生成
1.トランスフェリン誘導体の合成・精製
ヒト由来のトランスフェリンに0.2% グルタールアルデヒドを加え、氷上で2時間反応させた。得られた反応溶液ををSuperdex200ゲル濾過カラムにかけ(溶出緩衝液:PBS、溶出速度:1ml/min、分画容量:1ml)、トランスフェリン誘導体を四量体(TF4)と二量体(TF2)に分画した。各分画をnative PAGE(7.5 % ポリアクリルアミドゲル(バイオラド社製)、Tris-glycine緩衝液)にかけ、それぞれ四量体及び二量体を形成していることを確認した。
【0064】
2.複合体の生成及びその貪食係数
得られたトランスフェリン誘導体(TF4及びTF2共に280nmにおけるOD=0.08)に、血小板より作成したPMA-IIを添加し、その貪食係数を求めた(表1)。また、血小板の刺激を避け、血漿をゲル濾過することによりにより得られた分子量15万のトランスフェリン(pre-s-MAPP)或いは分子量30万のトランスフェリン(pre-l-MAPP)を用いて同様の実験を行った。
【0065】
貪食係数は、Sakamoto H.らの方法(J. Leukc. Biol. 50; 356-363, 1991)に従って、ヒト末梢血から分離した好中球の免疫グロブリン感作羊赤血球のマイクロプレート上での貪食を測定し、PBS刺激好中球による羊赤血球の貪食数を100(コントロール)として算出した。表1に示したように、PMA-II、トランスフェリンやその誘導体単独の場合には貪食能亢進作用はみられず、複合体を形成した場合のみ貪食能の大幅な向上がみられた。
【0066】
【表1】
Figure 0004240165
【0067】
実施例3 合成PMA-IIとの複合体によるヒト好中球の貪食能亢進作用
実施例2において得たトランスフェリン誘導体(TF4及びTF2共に280nmにおけるOD=0.08)に、段階希釈された合成PMA-IIをそれぞれ混合し、複合体を形成させた。各々の濃度におけるヒト好中球の貪食係数を求め、表2の結果を得た。
【0068】
【表2】
Figure 0004240165
【0069】
実施例4 複合体のヒト単球の貪食能亢進作用
ヒト単球をSakamotoらの方法(Br. J. Haematol., 57,47-60,1984)により分離し、10 mMの合成PMA-IIとトランスフェリン誘導体(TF2又はTF4(280nmにおけるOD=0.08))との複合体を得た。複合体の貪食係数を、PBS刺激による単球の貪食係数を100(コントロール)として算出した(表3)。トランスフェリン誘導体との複合体は、単球の貪食作用も促進させた。
【0070】
【表3】
Figure 0004240165
【0071】
実施例5 PMA-IIアンタゴニストによる貪食作用の抑制
・トランスフェリン誘導体との複合体産出能:実施例2において得たトランスフェリン誘導体(TF4及びTF2共に280nmにおけるOD=0.08)に、100 pMの各ポリペプチドを加え、37℃で30分間反応させ、複合体産生能を検討した。
【0072】
・白血球貪食亢進作用の抑制:1mMの各ポリペプチドを、血小板由来のMAPPに作用させることにより検討した。血小板由来のMAPPは、Sakamotoらの方法(Sakamoto H., et al., Biochem. Biophys. Res. Common 230; 270-274, 1997)により精製した。
【0073】
HATKTAKDALSSVQESQVAQQAR(配列番号2)、HATKTA(配列番号3)、HATKTAKD(配列番号4)は、いずれもアミノ酸合成装置(Multiple Peptide Synthesizer (SYRO II), MultiSyn Toc GmbH)を用いて、Fmoc固相合成法により化学合成した。
【0074】
配列番号2〜4のポリペプチドは、いずれもトランスフェリン誘導体とは複合体を形成しなかった。また、いずれのポリペプチドも、白血球貪食亢進作用を有するMAPPの機能を抑制した(表4)。
【0075】
【表4】
Figure 0004240165
【0076】
製剤例1(注射剤)
実施例1で得たポリペプチド1mgを滅菌精製水1mlに溶解し、安定化剤としてヒトアルブミンを加え、pHを7.5に調整した。除菌濾過後、バイアル瓶に充填し凍結乾燥して注射剤を調製した。
【0077】
【配列表】
Figure 0004240165
Figure 0004240165

【図面の簡単な説明】
【図1】トランスフェリン(通常二量体及び四量体)は、カルシウムイオンの存在下で、血小板に取り込まれる。トロンビンは、血小板に含まれるPMA-I(アポリポ蛋白C3)に作用し、PMA-IIを産出する。PMA-IIは、トランスフェリンと複合体を形成し、好中球、単球等の白血球の貪食作用を亢進させる。

Claims (5)

  1. 配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド又はその薬学的に許容される塩。
  2. 請求項1に記載のポリペプチド又はその薬学的に許容される塩とトランスフェリン又はトランスフェリンを架橋剤により架橋させたトランスフェリン多量体との複合体。
  3. 請求項1に記載のポリペプチド又はその薬学的に許容される塩及び薬学的に許容される担体を含む白血球貪食能亢進作用を有する医薬組成物。
  4. 配列番号2、3及び4のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチド又はその薬学的に許容される塩。
  5. 請求項に記載のポリペプチド又はその薬学的に許容される塩及び薬学的に許容される担体を含む白血球貪食能亢進作用を抑制する医薬組成物。
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