JP4238569B2 - パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車等に適用され、ドライバの操舵力をアシストするパワーステアリング装置の技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来の一般的な油圧パワーステアリング装置は、車速に応じて流量を制御できる構成になっており、車速が低いところでは油圧アシストを十分に行なってドライバの肉体的負担を低減する一方、車速の増大に伴い油圧アシスト力を低減し、高速でのしっかり感を向上させようとしている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】
自動車技術会「自動車技術ハンドブック設計編」p548図8-74
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の油圧パワーステアリング装置にあっては、簡素なロータリバルブをコントロールバルブとし、トーションバーの捩れ角が油圧バルブの開度と対応するように構成された油圧回路によって実現されるため、信頼性には優れ、かつ、アシスト力を増減させることは可能であるが、アシスト力の方向を逆転させることは不可能であった。
【0004】
一方、油圧アシスト力に代えモータアシスト力を与える電動パワーステアリング装置は、よくできた油圧パワーステアリング装置を目標性能としているため、逆方向にアシストトルクを加えるという発想はなかった。
【0005】
確かに、パワーステアリングの目的がドライバの肉体的負担の低減、特に低速での取り回し性の向上にあったので、元々マニュアルステアリングで問題となっていなかった高速での肉体的負担に関しては、考慮されなかったという背景がある。
【0006】
しかし、人間-車両系を考慮した場合、操舵トルクに対する車両挙動(例えば、横加速度)のゲインを小さく抑えることは、等価的に位相余裕、ゲイン余裕を増大させることになり、人間にとって扱いやすい車両となることは疑いない。
【0007】
これに対し、ドライバの入力に対する車両挙動のゲインを下げる方法は、後輪操舵や可変ギヤ比のステアリングシステムなどが提案されているものの、操舵トルクに対する車両挙動のゲインを下げる方法は、操舵トルクに応じて後輪を操舵する4WS以外に提案されたものはない。
【0008】
しかし、このような方法は、後輪を操舵する機構などが必要になり、コストも増大するために実現が難しいという問題があった。以上を整理すると、
1.操縦しやすい車両特性としては、操舵トルクに対して車両挙動のゲインを下げることが必要である。
2.しかし、油圧のパワーステアリング装置は、高速でマニュアルステアリングに戻すのが精一杯である。
3.電動パワーステアリング装置で、油圧のパワーステアリング装置ができなかったことを実現するという思想はなかった。
4.操舵トルクに対して車両挙動のゲインを下げる方策としては、操舵トルクに応じた後輪操舵があるものの、システムが複雑になる。
【0009】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、低コストの簡単なシステムで、操舵トルクに対して車両挙動のゲインを下げることにより操縦しやすい車両特性を得ることができるパワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明では、ドライバによって操舵されるステアリングホイールと、前記ステアリングホイールと機械的に接続されて、該ステアリングホイールの操舵に応じて転舵する転舵輪と、一端が前記ステアリングホイールと機械的に接続されると共に、他端が前記転舵輪と機械的に接続されたトーションバーと、操舵状態及び保舵状態で発生するドライバの操舵トルクを、前記トーションバーの捩れ量に基づいて検出する操舵トルク検出手段と、車両の速度を検出する車速検出手段と、これらの検出手段で検出された操舵トルクと車速に基づいて、前記トーションバーと前記転舵輪までの機械的な接続機構に、補助操舵トルクを付加する補助操舵トルク発生手段と、を備えたパワーステアリング装置において、前記補助操舵トルク発生手段は、低速域では操舵トルクが減少する方向に補助操舵トルクを付加し、高速域では操舵トルクが増加する方向に補助操舵トルクを付加するように、前記操舵トルクに対して一次遅れの操舵補助トルクを発生することを特徴とする。
【0011】
ここで、「補助操舵トルク発生手段」とは、ドライバの操舵トルクを補助するアシストトルクを発生する手段をいい、例えば、モータアシスト力や油圧アシスト力等を発生する手段をいう。
【0012】
【発明の効果】
よって、本発明のパワーステアリング装置にあっては、ドライバの操舵トルクを増大させる方向にアシストトルクを加える構成になっているので、簡単に言うと「ハンドルが重くなる」。つまり、同じ操舵トルクをドライバが入力しても、従来の車よりも発生する操舵角が小さくなる。その結果、当然発生するヨーレイトや横加速度も小さくなるので、操舵トルクに対するヨーレイトや横加速度のゲインが低減されることになる。この結果、低コストの簡単なシステムで、操舵トルクに対して車両挙動のゲインを下げることにより操縦しやすい車両特性を得ることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のパワーステアリング装置を実現する実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0014】
(第1実施例)
まず、構成を説明する。
図1は第1実施例のパワーステアリング装置を示す全体システム図である。図1において、1はステアリングホイール、2はコラムシャフト、3はユニバーサルジョイント、4は中間シャフト、5はユニバーサルジョイント、6はピニオン、7はピニオンシャフト、8はラック、9はタイロッド、10は左右の転舵輪、11はアシストピニオン、12は減速機、13は操舵補助モータ、15はコントロールユニット、16はトルク検出機構、17は操舵トルクセンサ(操舵トルク検出手段)、18は車速センサ(車速検出手段)である。なお、アシストピニオン11、減速機12、操舵補助モータ13、コントロールユニット15は、補助操舵トルク発生手段に相当する。
【0015】
前記ステアリングホイール1は、コラムシャフト2の上端部に連結され、このコラムシャフト2は固定部に回転自在に支持されている。前記コラムシャフト2の下端は、ユニバーサルジョイント3、中間シャフト4及びユニバーサルジョイント5を介して下端にピニオン6を取付けたピニオンシャフト7に連結されている。
【0016】
前記ピニオン6は、車両幅方向に水平に延長するラック8に噛合して、ステアリングギヤを構成し、ステアリングホイール1からコラムシャフト2回りの回転運動がラック8の直進運動(並進運動)に変換される。
【0017】
そして、水平に延在するラック8の両端部は、それぞれタイロッド9,9を介してナックル及び転舵輪10,10に接続され、ラック8が水平方向移動(並進運動)することで左右の転舵輪10,10が転舵される。
【0018】
また、前記ラック8には、アシストピニオン11も噛合されており、このアシストピニオン11は、減速機12を介して駆動源となる操舵補助モータ13の回転軸に連結され、操舵補助モータ13が後述するコントロールユニット15から出力されるデューティ制御されたパルス電流によって操舵トルクに応じた操舵補助力を発生するように制御される。
【0019】
さらに、前記ピニオンシャフト7には、トルク検出機構16が設けられている。このトルク検出機構16は、ピニオンシャフト7の下端部とピニオン6の上端部を連結する図示しないトーションバーと、その外周に配置された操舵トルクセンサ17とで構成されている。この操舵トルクセンサ17は、上記トーションバーの捩じれ量から操舵トルクを検出し、その操舵トルクの大きさに応じた且つステアリングホイール1の右切り(ピニオン6からの入力に対しては左回り)で正値、ステアリングホイール1の左切り(ピニオン6からの入力に対しては右回り)で負値の電圧信号でなるトルク検出値Tを、後述するコントロールユニット15に供給する。
【0020】
また、車両には車速を検出する車速センサ18が搭載されており、この車速センサ18によって車両前後方向の車速が検出され、この車速の大きさに応じた電圧信号でなる車速検出値Vがコントロールユニット15に供給される。
【0021】
前記コントロールユニット15では、入力された車速検出値Vと操舵トルク検出値Tとに基づいて所定の演算を行って、操舵補助モータ13に対する操舵トルク指令値を算出し、これを操舵補助モータ13に出力する。
【0022】
次に、作用を説明する。
【0023】
[技術背景]
従来の一般的な油圧パワーステアリングは、例えば、図2(自動車技術会「自動車技術ハンドブック設計編」p548図8-74)に記されているように、車速に応じて流量を制御できる構成になっており、車速が低いところでは油圧アシストを十分に行なってドライバの肉体的負担を低減する一方、車速の増大に伴い油圧アシスト力を低減し、高速でのしっかり感を向上させようとしている。しかし、油圧式パワーステアリングは、例えば、図3(自動車技術会「自動車技術ハンドブック設計編」p542図8-52)のような簡素なロータリバルブをコントロールバルブとして構成される。
【0024】
このロータリバルブは、ハンドル軸の回転により直接作動するバルブである。コントロールバルブは通常V1からV4の可変絞り部を持ち、操舵入力の方向、大きさに応じてパワーシリンダへ供給する作動油の方向、圧力、流量を制御し、操舵入力のないバルブ中立時には、ポンプからの供給流量をタンクへ還流できるようなオープンセンタ型4ポート弁が用いられる。
【0025】
図3(a)はコントロールバルブが中立の状態で、ポンプから供給される作動油は、供給ポートP,V1〜V4の可変絞り、ポートTを通ってタンクへ戻る。このとき、面積でV1=V2,V3=V4であり、ピストンには左右両側からバルブ中立時の等しい油圧が作用しているのでアシスト力は発生しない。
【0026】
図3(b)はロータが操舵入力によりスリーブに対して相対的に右回転した状態(右切り時)であり、V1,V4が開き、V2,V3が閉じる方向になっているために、ポートPからの作動油は絞りV1を経て、パワーシリンダのA室に供給され、B室は絞りV4,ポートTを経てタンクに連通されている。このときのA室の油圧によりピストンが移動すると、B室の作動油はタンクへ排出される。ピストンの移動は、ラック端に連結された操舵リンクによりタイヤを走行させ、車両の進路を変える。ラック時の動きはピニオンを経てスリーブに伝わり、スリーブを右回転させ、スリーブがロータを追う形で追従する。
【0027】
つまり、操舵入力が与えられている間は、ロータとスリーブは操舵負荷に見合う相対変位を保ったまま、ハンドル操作の量だけ回転を続ける。操舵入力を除去する(例えば、手を放す)とトーションバーに蓄積されていた弾性エネルギーにより、ロータが戻され図3(a)の状態に戻り、アシスト力は消失する。
【0028】
以上を簡単に整理すると、従来の油圧パワーステアリングではトーションバーの捩れ角に応じて(すなわちドライバの操舵トルクに応じて)、ドライバの操舵トルクを減じる方向にアシストトルク(補助操舵トルク)を加える構成になっていた。これはトーションバーの捩れ角が油圧バルブの開度と対応するように構成された油圧回路によって実現されるため、信頼性には優れるものの、例えば、アシスト力を増減させることは可能であるが、アシスト力の方向を逆転させることは不可能であった。
【0029】
また、従来の電動パワーステアリングにおいては、よくできた油圧パワーステアリングを目標性能としていたために、逆方向にアシストトルクを加えるという発想はなかった。確かに、パワーステアリングの目的がドライバの肉体的負担の低減、特に低速での取り回し性の向上にあったので、元々マニュアルステアリングで問題となっていなかった高速での肉体的負担に関しては、考慮されなかったという背景がある。そのため、従来例(例えば、特開2002−120745号公報)には、高速でのしっかり感を向上させようとする狙いはあるものの、パワーステアリングでアシストしすぎてしまうトルクを、操舵角速度の大きなときだけ低減して、よりマニュアルステアリング車に近づけようとする解決手段が提案されているに過ぎない。
【0030】
しかし、図4のような人間-車両系を考慮した場合、操舵トルクに対する車両挙動(例えば、横加速度)のゲインを小さく抑えることは、等価的に位相余裕、ゲイン余裕を増大させることになり、人間にとって扱いやすい車両となることは疑いない。しかし、ドライバの入力に対する車両挙動のゲインを下げる方法は、後輪操舵や可変ギヤ比のステアリングシステムなどが提案されているものの、操舵トルクに対する車両挙動のゲインを下げる方法は、操舵トルクに応じて後輪を操舵する4WS以外に提案されたものはない(例えば、安部正人著「自動車の運動と制御」山海堂発行:p197-199)。しかし、このような方法は後輪を操舵する機構などが必要になり、コストも増大するために実現が難しいという問題があった。
【0031】
以上を整理すると、
1.操縦しやすい車両特性としては、操舵トルクに対して車両挙動のゲインを下げることが必要である。
2.しかし、油圧のパワーステアリングは、高速でマニュアルステアリングに戻すのが精一杯である。
3.電動パワーステアリングで、油圧のパワーステアリングができなかったことを実現するという思想はなかった。
4.操舵トルクに対して車両挙動のゲインを下げる方策としては、操舵トルクに応じた後輪操舵があるものの、システムが複雑になる。
【0032】
[補助操舵トルクの決定について]
まず、コントロールユニット15から出力される操舵補助トルク指令値とこの操舵補助トルク指令値に基づいて操舵補助モータ13で発生される実操舵補助力とは1対1に対応しており、これら間に位相遅れはないものと仮定する。
【0033】
補助操舵トルク指令値は、電動パワーステアリングが実現するべき種々の機能により決定される。その機能の代表的なものは、
▲1▼ トルクセンサ出力(つまりドライバ操舵トルク)に応じて出力するベースの補助操舵トルク。これは、従来、ドライバの肉体的負担を低減するために、ハンドルを軽くするように付加していた補助操舵トルクを指す。
▲2▼ ステアリングホイール1や操舵補助モータ13の慣性モーメントを補償する補助操舵トルク。
▲3▼ ドライバがステアリングホィール1から手を放したり、操舵トルクを緩めたときにステアリングホィール1を中立に復元させるための補助操舵トルク。
▲4▼ 操舵系に減衰を付加させるために操舵角速度に応じて付加する補助操舵トルク。
である。
【0034】
本発明第1実施例は、上記▲1▼のベース補助操舵トルクに関するものであり、▲2▼,▲3▼,▲4▼に関しては多数の発明が提案されているが、第1実施例では、そのいずれかを使うものとする。
以下、このベース補助操舵トルクの決定方法を記す。
【0035】
ベース補助操舵トルクTaは、操舵トルクセンサ17の出力と車速によって決定される。基本的には操舵トルクセンサ17の出力をTsとすると、以下のようにTsの一次遅れで計算される。
Ta={K/(1+τs)}・Ts
τは時定数、Kはゲインである。また、sはラプラス演算子を表わす。
【0036】
一次遅れとした理由は以下の通りである。
まず、アクチュエータ系の予期しない動特性(高周波での共振点など)を励起しないように、高周波でゲインを抑制することと、操舵トルクセンサ17のノイズを抑制するために遅れ系とした。また、1次とした理由は、高次の遅れ系では位相遅れが大きくなり、操舵周波数が高くなるとステアリングの引っかかり感や、逆に妙なステアリングの軽さが違和感となる可能性が発生してしまう可能性があるためである。一次遅れの時定数はドライバの違和感とならない範囲、例えば、数10msecで設定すれば良い。一方、ゲインKは、図5に示すように、車速に応じて変化させる。基本的には低速ではハンドルが軽くなり、高速では重くなるように設定する。このとき、従来ではできなかった高速と低速とで必ず符号が逆転するように設定する。こうすることによって、高速でのトルクに対する車両挙動のゲイン抑制を従来ではできなかった範囲で低減可能になる。
【0037】
車速に対するゲインKの変化は滑らかなものとする。これは、例えば一定曲率の道路を加速していったり、減速したりしたときの操舵力変化が不連続にならないようにするためである。このような対策として、車速の演算にローパスフィルタを用いて、急激な車速変化を発生させない方法などを用いても構わない。
【0038】
この例では、K=0になる点を車速80km/hとしたが、この点はベースとなる車両の操舵角に対する車両挙動(例えば、ヨーレイト)のゲインと、アシストしないときの操舵トルクの大きさを調べて、アシストしなくてもトルクに対する車両挙動のゲインが適切な範囲に入っている車速を求めて設定すれば良い。図8ではある車速以上は、ゲインKは一定値とした。これは、高速コーナで操舵トルクが無用に大きくなるのを避けるためである。また、万一の車速センサ18の故障などで低速なのに高速と判断された場合、極端にハンドルが重くなるのを避けるために、逆方向のアシストに限度を設けている。
【0039】
[操舵アシスト作用]
第1実施例装置によれば、ドライバの操舵トルクを増大させる方向にアシストトルクを加える構成になっているので、簡単に言うと「ハンドルが重くなる」。つまり、同じ操舵トルクをドライバが入力しても、従来の車よりも発生する操舵角が小さくなる。その結果、当然発生するヨーレイトや横加速度も小さくなるので、操舵トルクに対するヨーレイトや横加速度のゲインが低減されることになり、上記技術背景でも述べたように、ドライバにとって扱いやすい車両を安く実現することが可能になる。また、この第1実施例装置によれば、今まで言及していなかった次の効果も得られる。
【0040】
図6に示すように操舵系(コラムシャフト上)に剛性(トーションバー)があり、前輪の発生する復元トルク(セルフアライニングトルク:以下、SATと略称する。)に応じて、前輪が切り戻されるような構成になっているとする。操舵トルクが増大するように(従来とは逆方向に)アシストするということは、操舵系のトーションバーの捩れ角を大きくすることになり、簡単に言うと「ハンドルを切っても、思ったよりも前輪が切れない」ということになる。これは、前輪のコンプライアンスアンダーステアが増加した(つまり、前輪の等価コーナリングパワーが低下した)ということを意味する。
このことを、数式を使って説明する。
【0041】
図7は車両の一般的な二輪モデルである。Cf,Crはそれぞれ前輪、後輪のコーナリングパワー(左右二輪分)、lはホィールベース、lf,lrは重心点から前輪,後輪までの距離、mは質量、Iはヨー慣性モーメント、δは前輪の転舵角、γはヨーレイト、βは車体スリップ角、Vは車速を表わしている。また、図6においてハンドル角をθ、ステアリング系のギヤ比をNとし、トーションバーが捩れなければ前輪転舵角δは、
δ=θ/N
で与えられる。この状態で前輪に発生するコーナリングフォースは、
Ff=Cf{δ−(lf/V)γ−β}
となる。しかし、実際にはトーションバーの捩れ角分だけタイヤが切り戻されるため、前輪の転舵角はδよりも小さくなる。この切り戻される舵角をδ0とすると、トーションバーの等価剛性Ksを用いてδ0は次のように表現することが可能になる。
δ0=Ff/Ks
これをまとめると次の式が導かれる。
Ff=Cf{(θ/N)−δ0−(lf/V)γ−β}=Cf{(θ/N)−(Ff/Ks)−(lf/V)γ−β}
Ff{1+(Cf/Ks)}=Cf{(θ/N)−(lf/V)γ−β}
Ff=Cf・{(θ/N)−(lf/V)γ−β}/{1+(Cf/Ks)}=Cf*{(θ/N)−(lf/V)γ−β}
つまり、ハンドルをθだけ操舵したときに発生する前輪のコーナリングフォースFfは、前輪のコーナリングパワーをとみなして発生するコーナリングフォースになる。このとき、
Cf*=Cf・/{1+(Cf/Ks)}
のようになり、結果として前輪のコーナリングパワーが小さくなったことと等価になる。
【0042】
パワーステアリングを逆方向にアシストするということは、同じ角度だけハンドルを操舵した時に、トーションバーの捩れ角が大きくなるということを意味している。つまり、等価的にトーションバーの剛性が低下したことを意味する。そのため、操舵トルクに対して車両状態量(ヨーレイト、横G)のゲインが下がるだけでなく、操舵角に対してもゲインが低減される効果が得られる。また、操舵角に対する周波数応答も図8に示すようになり、操舵角入力に対するヨーレイトの応答性向上効果も得られる。
【0043】
つまり、パワーステアリングのアシストトルク特性を調整してハンドルを重くすることは、ドライバにとって単純に重いステアリングの車を提供するだけでなく、操舵角入力時にもゲインが低下し、ヨーレイトや横加速度の位相遅れが小さいという扱いやすい車となるような効果が期待できる。
【0044】
本来、パワーステアリングはドライバの操舵トルクに応じて補助操舵トルクを付加することにより、主に低速においてドライバの操舵トルクを低減し、ドライバの肉体的負担を少なくするための装置である。しかし、ドライバの操舵トルクを増大させる方向にアシストトルクを加える構成は、全くその逆のことを行なうので、低速においてドライバの肉体的負担が大きくなりすぎる。簡単に言うと「ハンドルが重すぎて、駐車や交差点でのハンドル操作がしにくい」ということになる。そのため、ドライバの操舵トルクを増大させる方向にアシストトルクを加える制御を、高速側だけで実施することにより、このような課題をなくすことが可能になる。この結果、低速域においてドライバの肉体的負担を軽減しながら、高速域においてドライバが扱いやすい車とすることができる。
【0045】
[本発明の操舵アシスト制御と操舵周波数との関係]
例えば、従来のパワーステアリングでもアシストトルクの発生が遅れて、操舵トルクと略逆方向にアシストトルクが発生することがある。これは、ドライバの操舵周波数が高い時に発生する現象であり、本発明はこのような現象を望ましい効果として提案しているものではない。このような現象はむしろアシスト力の追従性が低いために起きるもので、ドライバにとっては「引っかかり感」として認識される。したがって、本発明はこのような現象まで含むものではない。
【0046】
本発明は、ベース補助操舵トルクとして、操舵トルクが増大する方向にアシストトルクを付加するシステムを提案している。したがって、0.1Hzなどの低周波領域において操舵アシスト方向が操舵トルクを増大させているようなシステムは本発明に含まれる。
【0047】
このように書いた背景は、前述のように高周波領域(操舵に関しては高々5Hz程度まで)においては、ステアリングホイールの慣性モーメント補償や、ハンドルの復元性、手放し収れん性のために、様々な制御方法が提案されており、その中には様々な動特性を有するものが含まれるので、現象だけで捉えたのでは、本発明の技術思想に含まれるか否かを判断することは難しいし、本発明はそのような周波数領域での効果だけを狙ったものではないというものである。
【0048】
したがって、本発明の操舵アシスト制御は、低周波域(例えば、0.1Hz以下)で、操舵アシスト方向が操舵トルクの方向と約反対方向となるか否かで判断するものとする。ちなみに、従来のパワーステアリングは低周波で位相が約0度になっているので、そこから大きくずれたものは、本発明に含まれると判断できる。
【0049】
次に、効果を説明する。
第1実施例のパワーステアリング装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0050】
(1) 操舵状態及び保舵状態で発生するドライバの操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ17と、車両の速度を検出する車速センサ18と、これらの検出手段で検出された操舵トルクと車速に基づいて補助操舵トルクを発生するコントロールユニット15等による補助操舵トルク発生手段と、を備えたパワーステアリング装置において、前記補助操舵トルク発生手段は、ドライバの操舵トルクが増加する方向に補助操舵トルクを付加するようにしたため、低コストの簡単なシステムで、操舵トルクに対して車両挙動のゲインを下げることにより操縦しやすい車両特性を得ることができる。
【0051】
(2) 補助操舵トルク発生手段は、低速域では操舵トルクが減少する方向に補助操舵トルクを付加し、高速域ではドライバの操舵トルクが増加する方向に補助操舵トルクを付加するようにしたため、低車速域でのドライバの肉体的負担の軽減と、高車速域での操縦し易さとの両立を図ることができる。
【0052】
(3) 補助操舵トルク発生手段は、操舵トルクと車速によって補助操舵トルクを一次遅れで決定するようにしたため、位相遅れが大きくなる高次の遅れ系とした場合のような、操舵周波数が高くなるときのステアリングの引っかかり感や妙なステアリングの軽さによる違和感を防止することができる。
【0053】
(4) 補助操舵トルク発生手段は、車速に対する補助操舵トルクゲインの変化が滑らかな補助操舵トルクゲイン特性に基づいて補助操舵トルクを決定するようにしたため、例えば、一定曲率の道路を加速していったり、減速したりしたときの操舵力変化が不連続にならないようにすることができる。
【0054】
(5) 補助操舵トルク発生手段は、車速が設定車速以上になると補助操舵トルクゲインが正側から負側に移行し、それ以上の高車速域では負側の一定値を保つ補助操舵トルクゲイン特性に基づいて補助操舵トルクを決定するようにしたため、高速コーナで操舵トルクが無用に大きくなるのを避けることができると共に、万一の車速センサ18の故障などで低速なのに高速と判断された場合、極端にハンドルが重くなるのを避けることができる。
【0055】
(6) 補助操舵トルク発生手段は、少なくとも定常に近い操舵周波数の低い領域にて補助操舵トルクを付加するようにしたため、定常に近い低操舵周波数域での操舵時に操縦しやすい車両特性を得ることができる。
加えて、従来のパワーステアリング装置において、ドライバの操舵周波数が高い時にアシストトルクの発生が遅れて、操舵トルクと略逆方向にアシストトルクが発生する現象と、本発明のパワーステアリング装置とを区別することができる。
【0056】
以上、本発明のパワーステアリング装置を第1実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この第1実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0058】
例えば、第1実施例では、制御ソフトの変更により簡単に採用できる電動パワーステアリング装置への適用例を示したが、本発明の技術内容に基づいてアシスト油圧発生回路を設計することにより、油圧パワーステアリング装置へ適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例のパワーステアリング装置を示す全体システム図である。
【図2】従来の油圧パワーステアリング装置を示す斜視図である。
【図3】従来の油圧パワーステアリング装置におけるロータリバルブ作動説明図である。
【図4】人間自動車系クローズドループを示すブロック図である。
【図5】第1実施例装置において車速に対するアシストトルクゲインを決めるためのアシストトルクゲイン特性図である。
【図6】第1実施例装置での前輪のコンプライアンスアンダーステア説明図である。
【図7】二輪モデルを示す図である。
【図8】前輪のコンプライアンスアンダーステアと車両挙動の関係を示す周波数応答特性図である。
【符号の説明】
1 ステアリングホイール
2 コラムシャフト
3 ユニバーサルジョイント
4 中間シャフト
5 ユニバーサルジョイント
6 ピニオン
7 ピニオンシャフト
8 ラック
9 タイロッド
10 左右の転舵輪
11 アシストピニオン
12 減速機
13 操舵補助モータ
15 コントロールユニット
16 トルク検出機構
17 操舵トルクセンサ(操舵トルク検出手段)
18 車速センサ(車速検出手段)
Claims (4)
- ドライバによって操舵されるステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールと機械的に接続されて、該ステアリングホイールの操舵に応じて転舵する転舵輪と、
一端が前記ステアリングホイールと機械的に接続されると共に、他端が前記転舵輪と機械的に接続されたトーションバーと、
操舵状態及び保舵状態で発生するドライバの操舵トルクを、前記トーションバーの捩れ量に基づいて検出する操舵トルク検出手段と、
車両の速度を検出する車速検出手段と、
これらの検出手段で検出された操舵トルクと車速に基づいて、前記トーションバーと前記転舵輪までの機械的な接続機構に、補助操舵トルクを付加する補助操舵トルク発生手段と、
を備えたパワーステアリング装置において、
前記補助操舵トルク発生手段は、低速域では操舵トルクが減少する方向に補助操舵トルクを付加し、高速域では操舵トルクが増加する方向に補助操舵トルクを付加するように、前記操舵トルクに対して一次遅れの操舵補助トルクを発生することを特徴とするパワーステアリング装置。 - 請求項1に記載されたパワーステアリング装置において、
前記補助操舵トルク発生手段は、車速に対する補助操舵トルクゲインの変化が滑らかな補助操舵トルクゲイン特性に基づいて補助操舵トルクを決定することを特徴とするパワーステアリング装置。 - 請求項1または請求項2に記載されたパワーステアリング装置において、
前記補助操舵トルク発生手段は、車速が設定車速以上になると補助操舵トルクゲインが正側から負側に移行し、それ以上の高車速域では負側の一定値を保つ補助操舵トルクゲイン特性に基づいて補助操舵トルクを決定することを特徴とするパワーステアリング装置。 - 請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載されたパワーステアリング装置において、
前記補助操舵トルク発生手段は、少なくとも定常に近い操舵周波数の低い領域にてドライバの操舵トルクが増加する方向の補助操舵トルクを付加することを特徴とするパワーステアリング装置。
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