JP4235851B2 - 3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化方法および3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物 - Google Patents

3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化方法および3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化方法および安定化された3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼは臨床検査の分野ではケトン体の測定に利用されている。ここで、ケトン体とは、アセトン、アセト酢酸、3−ヒドロキシ酪酸等を指すが、これらは遊離脂肪酸の肝臓代謝産物であり、絶食状態やインスリン不足状態時に産生されることが知られている。ケトン体の過剰産生が原因で起こる糖尿病性ケトアシドーシスはインシュリン欠乏と拮抗ホルモンの過剰が原因で起こり、最終的には致死的状態に至る危険な病態である。
【0003】
上記アセト酢酸や3−ヒドロキシ酪酸の測定に際して、3−ヒドキシ酪酸デヒドロゲナーゼは溶液状や粉末状,または固定化や酵素センサーとして用いられている。しかし、3−ヒドキシ酪酸デヒドロゲナーゼは不安定な酵素であり、長期間に渡りその活性を維持することは難しかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記のような事情に鑑み、長期に渡り保存安定性に優れた3−ヒドキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化方法並びに安定化された3−ヒドキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼに2価金属イオンおよび/またはハロゲン化アルカリ金属塩を配合することにより3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化の実現が可能であることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は以下のような構成からなる。
【0006】
(1)3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼに2価金属イオンおよび/またはハロゲン化アルカリ金属塩を配合せしめることを特徴とする3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化方法。
(2)2価金属イオンがMg2+、Mn2+およびCa2+よりなる群から選ばれた少なくとも1種である(1)記載の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化方法。
(3)2価金属イオンが0.1mM以上含有される(1)または(2)に記載の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化方法。
(4)ハロゲン化アルカリ金属塩が塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウムおよび臭化カリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種である(1)〜(3)のいずれかに記載の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化方法。
(5)ハロゲン化アルカリ金属塩が0.05M以上含有される(1)〜(4)のいずれかに記載の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化方法。
(6)3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼに2価金属イオンおよび/またはハロゲン化アルカリ金属塩を配合せしめたことを特徴とする3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物。
(7)2価金属イオンがMg2+、Mn2+およびCa2+よりなる群から選ばれた少なくとも1種である(6)記載の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物。
(8)2価金属イオンが0.1mM以上含有される(6)または(7)に記載の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物。
(9)ハロゲン化アルカリ金属塩が塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウムおよび臭化カリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種である(6)〜(8)のいずれかに記載の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物。
(10)ハロゲン化アルカリ金属塩が0.05M以上含有される(6)〜(9)のいずれかに記載の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施態様として、3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼを含む緩衝液中に、2価金属イオンおよび/またはハロゲン化アルカリ金属塩を配合せしめることによる3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化方法がある。
【0008】
従来から用いられている緩衝液としては、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、GOOD緩衝液などが挙げられる。トリス緩衝液,リン酸緩衝液は濃度、温度によって変動しやすいが、安価という利点がある。一方、GOOD緩衝液にはMES、Bis−Tris、ADA、PIPES、ACES、BES、MOPS、TES、HEPES、Tricine、Bicine、POPSO、TAPS、CHES、CAPSなどが例示され、液状診断薬には有用であるが高価である。この中では、トリス緩衝液やGOOD緩衝液の中のPOPSOやTricineが好ましい。また、該緩衝液のpHは7.0〜9.5であることが好ましい。
【0009】
本発明において用いられる3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼとは、EC1.1.1.30である以下の反応を触媒する酵素である。
D−3−ヒドロキシ酪酸 + NAD+ ←→ アセト酢酸 + NADH
【0010】
本発明において、上記酵素は、例えば、シュードモナス(Pseudomonas )、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)、ロドスピリウム(Rhodospirillum)、リゾビウム(Rhizobium ),アルカリゲネス(Alcaligenes )などの微生物から採取されるもの、またはこれらの遺伝子を他の微生物に組み込まれた遺伝子組換え微生物より製造されたものなどがあり、また、遺伝子的に性質を改変したものも含有する。
【0011】
3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼを含む緩衝液中の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ濃度は、酵素の起源によっても異なるが、通常、約0.1〜20U/mlの範囲で好適に用いられる。
【0012】
本発明において用いられる2価金属イオンとしては、Mg2+、Mn2+、Ca2+等が挙げられる。さらに、ハロゲン化アルカリ金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化ナトリウム等が挙げられる。より具体的には、2価金属イオンからなる塩、例えば、Mg2+、Mn2+、Ca2+等の塩が使用できるが、それらの塩化物、フッ化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩等が使用できる。また、アルカリ金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等が挙げられる。
【0013】
3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼを含む緩衝液の2価金属イオンの濃度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1mM以上、特に好ましくは0.1〜100mMの範囲で用いられる。また、ハロゲン化アルカリ金属塩の濃度も特に限定されるものではないが、好ましくは0.05M以上、特に好ましくは0.05〜0.5Mで用いられる。
【0014】
本発明において、3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ溶液には、さらに防腐剤、界面活性剤などを3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの反応に特に悪い影響を及ぼさないような範囲で添加してもよい。防腐剤としては、アジ化ナトリウム、キレート剤、抗生物質、防菌剤、防黴剤などが挙げられる。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤などが挙げられる。また、該緩衝液中にはケトン体測定に必要な他の試薬が含まれていても良い。
【0015】
3−ヒドロキシ酪酸測定試薬としては、一般に3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの他、NAD+ 、乳酸デヒドロゲナーゼ阻害剤等が含まれる。また3−ヒドロキシ酪酸測定呈色試薬には、更に、電子伝達体、テトラゾリウム塩等が含有される。
【0016】
電子伝達体としては、例えば、ジアホラーゼや中間電子キャリアー等が挙げられる。中間電子キャリアーとしては、ジアフォラーゼ、PMS、1−メトキシPMS、メルドラブルー等が挙げられる。これらのうち1−メトキシPMSとジアフォラーゼが好ましい。テトラゾリウム塩にはモノテトラゾリウム塩、ジテトラゾリウム塩があるが、例えば、NTB、INT、MTT、ニトロ−TB、WST−1、WST−3などが挙げられる。このうち、水溶性の高いニトロ−TB、WST−3が好ましい。
【0017】
アセト酢酸測定試薬としては,3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの他に、NADH、乳酸デヒドロゲナーゼ阻害剤等が含まれる。
【0018】
本発明の別の実施態様としては、3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼに2価金属イオンおよび/またはハロゲン化アルカリ金属塩が配合された安定化固相組成物がある。
【0019】
該組成物には、一般的に緩衝剤、3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、NAD+ 、電子伝達体、テトラゾリウム塩および2価金属イオン、または/およびハロゲン化アルカリ金属塩が含有されている。一般的には、上記各試薬をバインダーに分散し、固相に塗布し、乾燥させて組成物とする。
【0020】
バインダーとしては、例えば、ゼラチン、アルギン酸、デキストラン、プルラン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、酢酸セルロース、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラールが挙げられる。
【0021】
固相としては、例えば、プラスチックフィルム、吸収性紙、カーボン、コラーゲン、セロファン、ガラス、金属、ヒドロキシメチルメタアクリレートゲル等が挙げられる。
【0022】
また、センサとしての組成物としては、例えば、3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの他に、NAD+ 、電極、メディエーター、バインダー等が挙げられる。
【0023】
本発明における上記安定剤を含む3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物は、安価に、しかも他の組成物に悪影響を与えることなく、良好に活性保持ができる。また、いずれの起源の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼにも応用可能である。
【0024】
本発明における3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ活性の測定は以下の測定条件で行う。
【0025】
<試薬>
A.0.1M トリス塩酸緩衝液(pH8.5)
B.158mM 3−ヒドロキシ酪酸溶液
C.27.9mM NAD+ 溶液
【0026】
<測定条件>
上記A液2.3ml、B液0.5ml、C液0.2mlをキュベットに調製し、37℃で約5分予備加温後、0.1mlの酵素溶液を加え、緩やかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で340nmの吸光度変化を5分間記録し、その直線部分から1分間当たりの吸光度変化を測定する。盲検は酵素溶液の代わりに蒸留水を試薬混液に加えて、以下同様に吸光度変化を測定する。上記条件で1分間に1μmolのNADHを生成する酵素量を1単位(U)とする。
【0027】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は実施例により特に制限されるものではない。
【0028】
(実施例1)
シュードモナス属由来の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(東洋紡績製HBD−301)5U/mlを50mMの各種緩衝液に添加し、37℃で5日間保存し、活性残存率(すなわち、溶解直後の活性値に対する活性値の割合)を調べた。緩衝液中での活性残存率(すなわち、安定性)を表1に示す。
【0029】
【表1】
Figure 0004235851
【0030】
3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安価な緩衝液であるK−リン酸やTris−塩酸中では安定性は非常に劣った。PIPES緩衝液中では安定であるが、この緩衝液は高価であり、また3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの活性が発揮できるアルカリ性領域では緩衝能がない。
【0031】
(実施例2)
シュードモナス属由来の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(東洋紡績製HBD−301)5U/mlを50mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)およびTricine緩衝液(pH8.5)に添加し、さらに表2に示すような添加剤を添加し、37℃で5日間保存し、活性残存率(溶解直後の活性値に対する活性値の割合)を調べた。緩衝液中での活性残存率(安定性)を表2に示す。
【0032】
【表2】
Figure 0004235851
【0033】
表2に示すように、2価金属であるMg2+の添加とハロゲン化アリカリ金属塩であるNaClの添加により3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定性は著しく向上した。
【0034】
(実施例3)
シュードモナス属由来の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(東洋紡績製HBD−301)5U/mlを50mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)に添加し、さらに、表3に示す添加剤を添加し、37℃で7日間保存し、活性残存率(溶解直後の活性値に対する活性値の割合)を調べた。緩衝液中での活性残存率(安定性)を表3に示す。
【0035】
【表3】
Figure 0004235851
【0036】
表3に示す通り、NaClの他のハロゲン化アルカリ金属塩やMg2+の他の2価金属塩でも安定化効果が認められた。
【0037】
(実施例4)
シュードモナス属由来の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(東洋紡績製HBD−301)5U/mlを50mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)に添加し、さらに、表3に示す添加剤を添加し、37℃で7日間保存し、活性残存率(溶解直後の活性値に対する活性値の割合)を調べた。緩衝液中での活性残存率(安定性)を表4に示す。
【0038】
【表4】
Figure 0004235851
【0039】
(実施例5)
シュードモナス属由来の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(東洋紡績製HBD−301)5U/mlを50mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)に添加し、さらに、MgCl2 またはNaClをそれぞれ最終濃度1mM、0.25Mとなるよう添加した。本酵素溶液0.1mlを濾紙(アドバンテック東洋131)に添加した後、風乾した。本濾紙を40℃で1週間保存した後、濾紙より酵素を50mM トリス−塩酸緩衝液、pH8.5で抽出して活性を求めた。酵素活性の残存率は濾紙に添加した酵素量に比較して表5の通りであった。固相状態でも本発明の組成物は非常に安定化されていることが示された。
【0040】
【表5】
Figure 0004235851
【0041】
【発明の効果】
上述したように、本発明の方法においては、実施例から明らかなように、3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼを含む組成物中に、2価金属イオンおよび/またはハロゲン化アルカリ金属塩を共存せしめることより、従来よりはるかに安定な3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物が得られる。また、これら添加剤は非常に安価であり、しかも好適な緩衝液を用いることにより効果的となる。

Claims (6)

  1. シュードモナス属由来の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼに0.1〜100mMの、Mg 2+ およびCa 2+ よりなる群から選ばれた少なくとも1種である2価金属イオンおよび/または0.05〜0.5Mの塩化ナトリウムを配合せしめることを特徴とする3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化方法。
  2. 2価金属イオンが0.1〜5mM含有される請求項1に記載の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化方法。
  3. 塩化ナトリウムが0.05〜0.25M含有される請求項1または2に記載の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼの安定化方法。
  4. シュードモナス属由来の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼに0.1〜100mMの、Mg 2+ およびCa 2+ よりなる群から選ばれた少なくとも1種である2価金属イオンおよび/または0.05〜0.5Mの塩化ナトリウムを配合せしめたことを特徴とする3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物。
  5. 2価金属イオンが0.1〜5mM含有される請求項4に記載の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物。
  6. 塩化ナトリウムが0.05〜0.25M含有される請求項4または5に記載の3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ組成物。
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