JP4235354B2 - トルシア形高力ボルト及びボルト接合方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、鋼構造建築物を構築する際に、中空角形断面の角形鋼管に、梁材としてH形鋼をスプリットティやエンドプレートなどの接合金物を介して取り付ける、角形鋼管柱とH形鋼梁との高力ボルト接合構造、あるいは建て方の際にナットの締め付けが困難な狭隘な場所にある高力ボルト接合構造において用いられるトルシア形高力ボルト及びこのボルトを用いたボルト接合方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、柱材として、例えば中空角形断面を有する角形鋼管(板材や形材を溶接加工して得られるものを含む、以下「角形鋼管」という)を用い、梁材としてH形鋼(板材や形材を溶接加工して得られたものを含む、以下「H形鋼」という)を用いた両方向ラーメン構造が多用されており、例えば、両方向ラーメン構造を得るための角形鋼管柱とH形鋼梁との接合構造としては、通しダイヤフラム形式の接合構造が一般に知られている。
この形式の接合構造においては、角形鋼管柱とダイヤフラムの接合、ダイヤフラムとH形鋼梁の取付部との接合は溶接によって行われ、取付部とH形鋼梁との接合は、添板を介してボルト(セット)によって行われていた。
【0003】
このような通しダイヤフラム形式の接合構造においては、H形鋼梁に曲げモーメントが作用した場合に生じる上下フランジでの圧縮力及び引張力を、接合部の剛性を低下させずに角形鋼管柱に伝達させることができるものの、その構造は複雑であるため、加工工数が多大となる。また、ダイヤフラムの両面を角形鋼管柱及びコラムコアに溶接する必要があり、溶接量が多くなるとともに、高度の溶接技能が必要になる。
そのため、最近では、図4に示すように、ダイヤフラムを用いず角形鋼管柱1にスプリットティ2を特殊構造で高価なワンサイドボルトや高力ボルト3(詳細説明は省略)で接合し、このスプリットティ2にH形鋼梁4を高力ボルト(セット)5で接合して溶接負担を軽減する、溶接レスの接合構造が採用されている。
【0004】
ここで用いられる高力ボルト3及び5としては、最近では、日本鋼構造協会の規格(JSS II 09−1996)に定められている構造用トルシア形高力ボルト・六角ナット・平座金セット(以下「トルシア形高力ボルト」という)が多用されている。このトルシア形高力ボルトは、ボルトに対して所定の張力を導入できる構造を備えたものであり、図5に示すような構造を有するものである。すなわち、図5(a)に示すように、このトルシア形高力ボルト7は、外周形状が円形の頭部を有し、外周形状が六角形のナット8の雌ねじに螺合する雄ねじ形成部の先端に、トルクコントロール用のピンテール10を形成したものであり、雄ねじ形成部の先端とピンテール10間には破断溝によるブレークネック11が形成されたものであり、雄ねじ部側に座金9(図5(c))を挿通してナット8 (図5(b))を螺合し、このナット側で締め付けるものである。
【0005】
このトルシア形高力ボルト7を、重ね合わせた鋼材12、13のボルト孔に挿入し突出した雄ねじ部に座金9を挿入し、ナット8を螺合して本締め付けする際、図6に示すような特殊な締付具14が使用される。
この締付具14は、ナット8に係合させナットを回すアウタースリーブ14oと、ピンテール10を掴み一定のトルクを与えるインナースリーブ14iとを連動的に動作させる機構を備えたものであり、トルシア形高力ボルト7を締め付ける場合には、この締結具14を用い、インナースリーブ14iでピンテール10を掴みアウタースリーブ14oでナット8を回すことにより、ナット8の回転トルクが反力としてピンテール10のブレークネック11に伝わり、この部分がある一定のトルクで破断する。このときの破断トルクで高力ボルトに導入する張力をコントロールすることができるものである。
【0006】
このようなトルシア形高力ボルトは、例えば、上記のような角形鋼管柱とH形鋼梁のボルト接合構造において、角形鋼管柱にスプリットティをボルト接合する場合、あるいはスプリットティにH形鋼梁を添板を介してボルト接合する場合などに用いて、ナットを接合部位の外側面で螺合して締め付けることが多い。
【0007】
一般に、ナットは、その高さが軸径と概ね同じ寸法になっており、締め付けが完了した状態で高力ボルトの雄ねじ部の先端がねじ山×3相当分程度外部に突出していることが通常であり、しかも座金を介在させる必要があることから、例えば軸径が22mmの高力ボルトの場合では、座金の座面からピンテールのブレークネックの破断面までの寸法は35mm程度になり、鋼部材や接合金物の外面より大きく突出することになる。このような大きな突出部がある場合には、耐火被覆や仕上げ工事の際の支障になるとともに、裸鉄骨の場合では美観を損なうことにもなり意匠上でも好ましくない。
【0008】
一方、例えば、図4に示すような角形鋼管柱とH形鋼梁のボルト接合構造において、H形鋼梁を取り付けるスプリットティを角形鋼管柱にボルト接合する場合には、例えば、特開平6−33929号、特開平6−101284号、特開平7−145638号公報では、ナットを角形鋼管柱の内部側に固定し、ボルトを外部側から挿入して締め付けを行うことが開示されているが、このようなボルト接合構造においては、実質的には上記従来のトルシア形高力ボルトを使用することができず、ボルトに対して簡便な張力導入ができなかった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のようなボルト接合構造において、従来のボルト接合構造でのな問題点を解消するものであり、ボルトの頭部側を回転させることにより締め付ける構造を有し、ボルト頭部側でボルトに対する張力導入を可能とし、外部側での頭部及び座金による突出部高さを低くできるトルシア形高力ボルトとこのボルトを用いたボルト接合方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の目的を達成するために、以下の(1)〜(5)の要旨を有するものである。
(1) 雌ねじに螺合する雄ねじを有しインナースリーブとアウタースリーブが連動的に動作する締結具を頭部側に係合して締め付け可能にした高力ボルトであって、頭部先端にトルクコントロール用のピンテールを形成し頭部とピンテール間に破断溝によるブレークネックを形成したものであり、ボルト頭部の座面と接合対象鋼材との間に、頭部外周径より大径の外周角形の座金を介挿・当接し、ピンテールを締結具のインナースリーブで掴み座金をアウタースリーブに係合して締め付けるように構成し、ボルトの頭部座面と接合対象鋼材との間に介挿・当接される座金のボルト頭部側座面が潤滑処理されあるいはねじ部が潤滑処理されており、この座金は回さないようにするものであるため、接合対象鋼材側の座面に対して粗面化されたことを特徴とするトルシア形高力ボルト。
(2) ボルト強度が800N/mm2以上であることを特徴とする(1)記載のトルシア形高力ボルト。
(3) 頭部先端にトルクコントロール用のピンテールを形成し、頭部とピンテール間に破断溝によるブレークネックを形成した(1)または(2)に記載のトルシア形高力ボルトを用いた鋼材のボルト接合方法であって、雄ねじを固定側になる雌ねじに螺着してボルトを締め付ける際に、ボルト頭部の座面と接合対象鋼材との間に、該頭部外周径より大径の外周角形の座金を介挿・当接し、インナースリーブとアウタースリーブが、座金まで伸びて連動して動作する締結具を用い、インナースリーブでピンテールを掴んで回すことによりアウタースリーブを介して座金の反力として得られる回転トルクによって一定の破断トルクで破断させるブレークネックによってボルトに導入する張力を制御することを特徴とするトルシア形高力ボルトを用いたボルト接合方法。
(4) 用いるトルシア形高力ボルトが通しボルトであって、雄ねじを螺合する雌ねじを形成したものがナットであることを特徴とする(3)に記載のトルシア形高力ボルトを用いたボルト接合方法。
(5) 用いるトルシア形高力ボルトがタップボルトであって、雄ねじを螺合する雌ねじを形成したものが接合対象の鋼材であることを特徴とする(3)に記載のトルシア形高力ボルトを用いたボルト接合方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は、ナットや鋼材に形成された雌ねじに螺合する雄ねじを有し締結具を頭部側に係合して締め付け可能にした高力ボルトであって、頭部先端にトルクコントロール用のピンテールを形成し、頭部とピンテール間に破断溝によるブレークネックを形成したトルシア形高力ボルト(本発明のトルシア形高力ボルトはボルト頭部側の座金を不可欠とするが、タップボルトとして用いる場合には、雄ねじ側のナット、座金は不可欠ではない)で、頭部と反対側の先端にピンテールを形成した従来のトルシア形高力ボルトとは別異のトルシア形高力ボルトであり、主として、通しボルト(重ね合わせた接合対象鋼材を貫通させ雄ねじ部に座金をを挿入し雄ねじ部にナットを螺合するボルトを意味する。以下「通しボルト」という)あるいはタップボルト(ボルトの雄ねじ部を直接に接合対象鋼材に螺合するボルトを意味し、ボルトが、重ね合わせた接合対象鋼材を貫通しても貫通しなくてもよい。以下「タップボルト」という)として使用するものである。
【0013】
本発明のトルシア形高力ボルトは、雄ねじを螺合するナットが、例えば角形鋼管の内部側にある場合、あるいは狭隘な場所にある接合部位でナットを内部側で締め付けるのが困難な場合に用いて特に顕著な効果を奏するものであるが、ナットが外部にあって締め付けが可能な場合にも、図5に示した従来のトルシア形高力ボルトに遜色なく用いることができる。
本発明のトルシア形高力ボルトは、JISで定めるF8T以上、すなわち、引張強度が800N/mm2 以上であることが要求される鋼構造建築物を構築する場合に用いるものであり、例えば、角形鋼管を柱材とし、この柱材にスプリットティやエンドプレート、添板などの接合金物を介してH形鋼梁を取り付ける角形鋼管柱とH形鋼梁とのボルト接合構造、あるいは建て方の際にナットの締め付けが困難な狭隘な場所にある高力ボルト接合構造において主として用いられるものである。
【0014】
この本発明のトルシア形高力ボルトは、インナースリーブとアウタースリーブが連動して動作する公知の締結具と同様の基本原理を利用する締結具(ただし、本発明で用いる締結具は、ピンテールを掴み回して、アウタースリーブに係合した外周形状が角形の座金の反力として得られる回転トルクでピンテールのブレークネックを破断する機構を備えたものである)を用いて、頭部側で締め付けるものである。
こうすることにより、この締結具のインナースリーブでピンテールを掴んで回しアウタースリーブを介して、座金の反力として得られる回転トルクによってピンテールの破断溝によるブレークネックを一定の破断トルクで破断させて、ボルトに対する導入張力を容易にコントロールして安定したボルト接合構造を実現することができる。
【0015】
本発明のトルシア形高力ボルトを使用した接合構造物においては、特に構造物の外面側で頭部と座金による突出高さを極力低くして、耐火被覆や仕上げ工事の際の支障を緩和し、裸鉄骨の場合では美観の低下を緩和するものである。その上で、例えば、上記のように中空角形断面を有する角形鋼管を柱材とし、接合金物を介して、H形鋼梁を取り付ける角形鋼管柱とH形鋼梁との接合構造において、内部側にナットを固定し、外部側でボルトの頭部側を回して締め付ける場合にも、ボルトに対する導入張力を容易にコントロールすることができる。
【0016】
従来、角形鋼管に接合金物をボルト接合する場合に、ボルトを外部側から挿入して締め付けられるワンサイドボルトが多用されているが、このワンサイドボルトは極めて高価であり、ボルトに対する導入張力のコントロールが容易にできない難点があることから、角形鋼管柱の内部側にナットを固定して他種のボルトを外部側から挿入し外部側で締め付けることが試みられており、角形鋼管の内部側へのナット固定手段として簡易な手段の出現によって、ワンサイドボルトより安価でボルトに対して導入する張力のコントロールも容易にでき、安定した接合構造を実現することが可能になる。
【0017】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のトルシア形高力ボルトは、主として、冷間鍛造と転造によって加工成形後、熱処理して容易に得られる800N/mm2 以上の強度を有するものであり、頭部の外周形状は、本締め付けの際には、丸形、楕円、角形のいずれであってももよいが、一次締めの際、解体や補修(含む交換)の際などのことを考慮すれば、一般に用いられる手動式または電動式のスパナなどの回動具を係合して回動できることが好ましい。その意味では六角形が一般的と言えるが、四角形その他の多角形状、楕円形などであってもよい。頭部サイズは、基本的には従来のボルト頭部より若干薄型のものにすることが好ましい。
【0018】
また、頭部の座面に当接する座金は、JISやJSSに定める標準的な材質で形成したものでよく、インナースリーブとアウタースリーブが連動して動作する公知の締結具を用いて本締め付けする場合に、上記したように、アウタースリーブを確実に係合して、座金の反力として得られる回転トルクによってピンテールの破断溝によるブレークネックを一定の破断トルクで破断させるために機能するもので、回さないようにするものである。
この座金は、締結具のアウタースリーブに係合されるため、インナースリーブでピンテールを回すとき支障にならないようにするため、最小外周径をボルト頭部の最大外周径より大径に形成される。
【0019】
なお、この座金は回さないようにするものであるため、剛性を確保する熱処理や、特に接合対象鋼材側の座面に対して粗面化などの高摩擦処理や接着処理が施される。また、外周形状は、締結具のアウタースリーブを確実に係合する関係上、六角形が一般的であるが、四角形その他の多角形状とすることもできる。
ピンテールは、断面形状が多角形や、円形の外周面に多数の軸方向溝を形成したものが主体である。これは外周面を上記の締結具のインナースリーブで掴み回す必要があるため、外周面に軸方向溝による滑り止め機能を形成するためである。このピンテールは、締結具のインナースリーブで掴む必要があり、基本的には外径がボルト軸径と同等または軸径より小さいものにすることが好ましい。
【0020】
ボルト頭部とピンテール間に形成する破断溝は、座金の反力として回転トルク一定の破断トルクで破断させるブレークネックを形成するものであり、ボルト強度に応じて、ボルトに対して所定の張力を導入するためのトルクが作用したときピンテールの原形を維持した状態で破断させるためのものであり、溝形状は、与える破断トルクで精度良く破断できる小径部(溝深さ)を有するV字形状、U字形状などが好ましい。
本発明のトルシア形高力ボルトは、ピンテール、破断溝の形成とともに、例えば冷間鍛造と転造によって量産可能であり安価に得られるものである。
【0021】
本発明のトルシア形高力ボルトを通しボルトとして使用する場合には、雄ねじにはナットが螺合されるが、このナットは、ボルトの強度の6〜7割の強度を有するものであればよく、基本的には、締め付ける際には回わさないものであるため、ボルト頭部側を回して締め付ける場合に回らないようにする必要がある。そのための手段として、ナットと座金を独立させる場合には、座金の両面、ナットの座面に対して粗面化などの高摩擦処理や接着処理を施し、また、座金とナットを一体成型する場合には、座金相当部の座面に対して粗面化などの高摩擦処理や接着処理を施すものである。ナットの外周形状は、六角形が一般的であるが、丸形、他の角形のいずれであってもよい。
ナットと座金を一体に成型する場合には、座面の面積を大きくして摩擦力を高める意味で、座金の座面の面積をナットの面積より大きくすることが有効であるが、両者の外周形状が同一であっても差支えない。このナット側の座金は、省略する場合もあり、不可欠なものではない。
【0022】
なお、従来のトルシア形高力ボルト使用の場合には、安定した張力導入のためにナットのねじ及び座面に潤滑処理を施すのが一般的であるが、本発明のトルシア形高力ボルトの場合にはナットに潤滑処理を行うと、ボルトに張力導入時にボルトの回転に伴いナットが共回りを起こし、円滑で安定した張力導入が困難になる。
本発明のトルシア形高力ボルト使用の場合には、原則として、ボルトの雄ねじが螺合する雌ねじを形成したナットや鋼材は固定される必要がある。また、ボルト頭部の座面と接合対象の鋼材間に介挿・当接される座金は回さない必要がある。この条件が容易に満たされるために、ボルト頭部の座面と座金間、及びナットや鋼材に形成される雌ねじに螺合する雄ねじに潤滑処理を行うことが有効である。この潤滑処理によって、円滑かつ安定的な張力導入が可能である。また、ボルトとナットの共回りを防止するとともに高張力導入の場合の雄ねじと雌ねじ間の焼き付きを防止することができる。潤滑処理には、潤滑剤塗布(含む浸漬)、シート状潤滑剤の貼布または介挿などの処理手段を用いることができる。
【0023】
【実施例】
以下に本発明のトルシア形高力ボルトの実施例を図に基づいて説明する。
図1は、構造(形状)例を、また図2、図3は、使用例を示すものである。
図1において、15は本発明のトルシア形高力ボルトであり、頭部16、軸部17と、固定されるナットや鋼材に形成された雌ねじ(後述)に螺合する雄ねじ部18を有するものであり、頭部16には外周面に滑止19cを有するピンテール19が一体に形成され、ピンテール19と頭部16の境界部の外周にはV形の破断溝によるトルクコントロール用ブレークネック20が形成されたものである。このブレークネック20に対して、締め付けの際に一定のトルクが作用したとき、このブレークネック20を破断させるようにして、所定の破断トルクを与えることによって高力ボルト15に対する導入張力をコントロールできる。
21は、外周形状が角形の座金で、ボルト頭部16の座面16f側に挿入・当接して、接合対象鋼材(図示省略)間の摩擦力を破断トルク発生に利用するものである。
【0024】
この本発明のトルシア形高力ボルト15は、頭部16側を、インナースリーブ14iとアウタースリーブ14oが連動して動作する、例えば図2(a)に示すような締結具(詳細は図示省略)14によって回して締め付けることを前提とした構造を有し、締め付けの際には、頭部16の座面16fに挿入・当接した座金21と接合対象鋼材間の摩擦力を破断トルク発生に利用するものである。
この効果を確実にする摩擦力をより安定的に確保するために、座金21の接合対象鋼材側の座面に対して粗面化などの高摩擦処理を施すものであり、雄ねじ部18側に図2(a)に示すように、ナット(座金)を用いる場合、回らないようにするためナット(座金)の座面に対しても同様の処理や接着処理を施すことができる。
【0025】
また、本発明のトルシア形高力ボルト15には、予めまたは使用する際にボルト頭部16の座面16fと雄ねじ部18に潤滑処理を行うことにより、高張力導入の場合に雄ねじ部18と螺合するナットまたは接合対象鋼材の雌ねじとの間の焼き付きを防止して円滑で安定した張力導入が可能であり、ナットを使用する場合でナットを固着しないときには、ナットの共回りを防止することもできる。
【0026】
例えば、接合金物としてスプリットティを用いる角形鋼管柱とH形鋼梁の高力ボルト接合構造において、図1(a)、(b)に示した本発明のトルシア形高力ボルト15を通しボルトとして用いる場合には、図2(a)に示すように、高力ボルト15を、重ね合わせ角形鋼管柱22のボルト孔22a、スプリットティ23のボルト孔23aに挿入して、雄ねじ部18を角形鋼管柱22のボルト孔22aの出側、すなわち内部側に座金26とともに予め固定されたナット24の雌ねじ25に螺着して手動または電動スパナ(図示省略)を用いて高力ボルト15の頭部16側を回わして一次締め付けを行う。
【0027】
一次締め付け後に、締結具14のインナースリーブ14iでピンテール19を掴むとともに、アウタースリーブ14oを座金21の外周に係合し、インナースリーブ14iでピンテール19を回しアウタースリーブ14oを介して座金21を回すことによって、座金21の回転トルクを反力としてピンテール19のブレークネック20を一定の破断トルクで破断させて、高力ボルト15に対する導入張力を容易にコントロールすることができる。
【0028】
図2(b)は、ブレークネック20が破断してピンテール19が除去された状態を示しており、スプリットティ23の外部側に高力ボルト15の頭部16と座金21が位置し、スプリットティ23の外側表面から高力ボルト15の頭部16の先端、ここではブレークネック20の破断面までの突出高さhaは、角形鋼管柱22の内部側の表面から高力ボルト15の先端面までの突出高さhの60%程度まで低くすることができる。
【0029】
また、図3(a)に示すように、例えば、鋼材27と鋼材28のボルト接合構造において、図1(a)、(b)に示した本発明のトルシア形高力ボルト15をタップボルトとして用いる場合には、この高力ボルト15を、重ね合わせた鋼材28のボルト孔28aに挿入し、雄ねじ部18の先端を鋼材27の雌ねじ29に螺着して、手動または電動スパナ(図示省略)を用いて高力ボルト15を頭部16側で回わして一次締め付けを行う。
【0030】
一次締め付け後に、締結具14のインナースリーブ14iでピンテール19を掴むとともに、アウタースリーブ14oを座金21の外周に係合し、インナースリーブ14iでピンテール19を回しアウタースリーブ14oを介して座金21を回すことによって、座金21の回転トルクを反力としてピンテール19のブレークネック20を一定の破断トルクで破断させて、高力ボルト15に対する導入張力を容易にコントロールすることができる。図3(b)は、ブレークネック20が破断してピンテール19が除去された状態を示している。
【0031】
なお、本発明のトルシア形高力ボルトを用いた接合構造においては、実際には、複数のトルシア形高力ボルトが用いられるが、上記図2、図3の場合では、便宜的に、その内の一本のトルシア形高力ボルトを主体にしたボルト接合構造例で示した。
本発明のトルシア形高力ボルトは、上記のように、通しボルトとして用いた場合も、タップボルトとして用いた場合にも、ボルトに対する導入張力を容易にコントロールすることができ、安定したボルト接合構造の実現に寄与できるものである。
【0032】
なお、本発明のトルシア形高力ボルトを通しボルトとして、角鋼管柱とスプリットティとの接合部位や、ナットの取り付けが困難な狭隘な接合部位などに用いた場合では、ナットを、予め、角鋼管柱の内部側や、狭隘な場所にある接合部位(内部側)に固定して外部側からボルトを挿入してボルト側で締め付けるようにし、外部側においてボルトに対する導入張力を容易にコントロールして安定したボルト接合構造を実現できる。
また、外部側のボルトと座金による突出高さを、ナットを用いた従来のトルシア形高力ボルトの場合より格段に低くすることができ、耐火被覆や仕上げ工事の際の支障を緩和し、裸鉄骨の場合では美観の低下を緩和することができる。
【0033】
本発明は、上記の実施例の内容のみに限定されるものではない。上記では、本発明のトルシア形高力ボルトは角形鋼管柱とH形鋼梁の高力ボルト接合構造に使用する場合を主体にして説明しているが、この接合構造に使用が限定されるものではなく、梁材としてH形鋼梁以外の各種形鋼を用いる場合にも使用が可能である。
ボルト頭部形成条件、ピンテール及び破断溝(ブレークネック)の形成条件、ねじ形成条件、頭部側の座金形成条件、ナット及び座金形成条件、高摩擦処理部位及び処理条件、潤滑処理部位及び処理条件などについては、接合対象物、接合部位、材料強度、設計強度などに応じて、上記請求項を満足する範囲内で変更のあるものである。
【0034】
【発明の効果】
本発明によるトルシア形高力ボルトを通しボルトとして使用した接合構造物においては、特に構造物の外面側でボルト・ナットによる突出高さを極力低くして、耐火被覆や仕上げ工事の際の支障を緩和し、裸鉄骨の場合では美観の低下を緩和することができる。
また、例えば、角形鋼管を柱材とし、接合金物を介して、H形鋼梁を取り付ける角形鋼管柱とH形鋼梁との高力ボルト接合構造、あるいはナットの締め付けが困難な接合部位において、予め内部側にナットを固定し、外部側でボルトの頭部側を回して締め付ける場合、ナットを用いないタップボルトとして使用した場合も、ボルトに対する導入張力を容易にコントロールすることができ、安定した高力ボルト接合構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)図は、本発明のトルシア形高力ボルトの構造例を示す側断面説明図、 (b)図は、(a)図のAa−Ab矢視説明図。
【図2】(a)図は、本発明のトルシア形高力ボルトの使用例を示し、通しボルトとして用いた角形鋼管柱と接合金物とのボルト接合構造例での締め付け完了直前の状態を示す側断面説明図、(b)図は、(a)図の締め付けが完了した状態を示す側断面説明図。
【図3】(a)図は、本発明のトルシア形高力ボルトの他の使用例を示し、タップボルトとして用いた鋼材と鋼材のボルト接合構造例での締め付け完了直前の状態を示す側断面説明図、(b)図は、(a)図の締め付けが完了した状態を示す側断面説明図。
【図4】角形鋼管柱とH形鋼梁のボルト接合構造例を示す立体説明図。
【図5】従来のトルシア形高力ボルト(a)、ナット(b)、座金(c)例を示す説明図。
【図6】従来のトルシア形高力ボルトによるボルト接合構造例を示す断面説明図で、 (a)図は、ナットを1次締め付けした状態を示し、(b)図は、締結具で本締めしている状態を示し、(c)図は、締結具で本締めを完了した状態を示す。
【符号の説明】
1 角形鋼管柱 2 スプリットティ
3、5 高力ボルト 4 H形鋼梁
6 欠番 7 トルシア形高力ボルト
8 ナット 9 座金
10 ピンテール 11 ブレークネック
12、13 鋼材 14 締結具
14i インナースリーブ 14o アウタースリーブ
15 トルシア形高力ボルト 16 頭部
16f 頭部座面 17 軸部
18 雄ねじ 19 ピンテール
19c 滑り止め 20 ブレークネック
21 座金 22 角形鋼管柱
22a ボルト孔(角形鋼管柱) 23 スプリットティ
23a ボルト孔(スプリットティ) 24 ナット
25 雌ねじ 26 座金
27、28 鋼材 28a ボルト孔
29 雌ねじ
Claims (5)
- 雌ねじに螺合する雄ねじを有しインナースリーブとアウタースリーブが連動的に動作する締結具を頭部側に係合して締め付け可能にした高力ボルトであって、頭部先端にトルクコントロール用のピンテールを形成し頭部とピンテール間に破断溝によるブレークネックを形成したものであり、ボルト頭部の座面と接合対象鋼材との間に、頭部外周径より大径の外周角形の座金を介挿・当接し、ピンテールを締結具のインナースリーブで掴み座金をアウタースリーブに係合して締め付けるように構成し、ボルトの頭部座面と接合対象鋼材との間に介挿・当接される座金のボルト頭部側座面が潤滑処理されあるいはねじ部が潤滑処理されており、この座金は回さないようにするものであるため、接合対象鋼材側の座面に対して粗面化されたことを特徴とするトルシア形高力ボルト。
- ボルト強度が800N/mm2以上であることを特徴とする請求項1に記載のトルシア形高力ボルト。
- 頭部先端にトルクコントロール用のピンテールを形成し、頭部とピンテール間に破断溝によるブレークネックを形成した請求項1または請求項2に記載のトルシア形高力ボルトを用いた鋼材のボルト接合方法であって、雄ねじを固定側になる雌ねじに螺着してボルトを締め付ける際に、ボルト頭部の座面と接合対象鋼材との間に、該頭部外周径より大径の外周角形の座金を介挿・当接し、インナースリーブとアウタースリーブが、座金まで伸びて連動して動作する締結具を用い、インナースリーブでピンテールを掴んで回すことによりアウタースリーブを介して座金の反力として得られる回転トルクによって一定の破断トルクで破断させるブレークネックによってボルトに導入する張力を制御することを特徴とするトルシア形高力ボルトを用いたボルト接合方法。
- 用いるトルシア形高力ボルトが通しボルトであって、雄ねじを螺合する雌ねじを形成したものがナットであることを特徴とする請求項3に記載のトルシア形高力ボルトを用いたボルト接合方法。
- 用いるトルシア形高力ボルトがタップボルトであって、雄ねじを螺合する雌ねじを形成したものが接合対象の鋼材であることを特徴とする請求項3に記載のトルシア形高力ボルトを用いたボルト接合方法。
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