JP4234098B2 - 自動二輪車のブレーキ装置 - Google Patents

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Description

この発明は、自動二輪車のブレーキ装置に関するものである。
車両用のブレーキ装置として、ブレーキレバー等のブレーキ操作部の操作量を電気的に検出し、その検出値に基づいて液圧モジュレータで作り出した液圧によって車輪制動手段を操作する所謂バイワイヤ方式(以下、この方式を「バイワイヤ方式」と呼ぶ)のものが案出されている(特許文献1参照)。
特開2001−310717号公報
しかし、この種のブレーキ装置の場合、ブレーキ操作部の操作量の検出から車輪制動手段の液圧を変更するまでにタイムラグが生じる可能性がある。このため、タイムラグが増大する場合等には、液圧モジュレータがブレーキ操作部の操作量に基づいて制御された時点で実際のブレーキ操作部の操作量がさらに増大し、液圧モジュレータの制御目標圧と車輪制動手段の実際の制動圧の乖離幅が大きくなってしまう。したがって、この状況から液圧モジュレータの制御が進行したときに、前記の乖離幅を埋めるように液圧モジュレータが急激に昇圧制御されることは、ライダーのフィーリング上好ましいものではない。
そこでこの発明は、ブレーキ操作部の操作量の検出から車輪制動手段の液圧変更までのタイムラグに起因する制動力の急増を制御して、制動フィーリングの向上を図ることのできる自動二輪車のブレーキ装置を提供しようとするものである。
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ブレーキ操作部(例えば、後述の実施形態におけるブレーキ操作部2)の液圧を検出する入力側圧力センサ(例えば、後述の実施形態における入力側圧力センサ28)と、車輪制動手段の液圧を検出する出力側圧力センサ(例えば、後述の実施形態における出力側圧力センサ29)と、車輪制動手段(例えば、後述の実施形態におけるブレーキキャリパ4)に作用させる液圧を作り出す液圧モジュレータ(例えば、後述の実施形態における液圧モジュレータ6)と、前記入力側圧力センサと出力側圧力センサの検出信号に基づいて前記液圧モジュレータの発生液圧を制御する液圧制御手段(例えば、後述の実施形態におけるコントローラ20)と、を備えた自動二輪車のブレーキ装置において、前記液圧制御手段は、前記入力側圧力センサと出力側圧力センサによって検出される入力側圧力と出力側圧力の乖離幅を基にして液圧目標値を設定し、この液圧目標値の単位時間当たりの変化量に応じて、前記液圧モジュレータの発生液圧の変化速度を制限する変化速度制限手段を備えるようにした。
この構成により、入力側圧力と出力側圧力の乖離幅が大きくなると、液圧モジュレータの発生液圧の変化速度が液圧制御手段によって制限され、車輪制動手段の制動力の急増が抑制されるようになる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記入力側圧力センサの信号と前記出力側圧力センサの信号を単一のコントローラで処理するようにした。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前輪側ブレーキ回路と後輪側ブレーキ回路とを備え、それぞれのブレーキ回路に、前記ブレーキ操作部と、入力側圧力センサと、車輪制動手段と、液圧モジュレータと、液圧制御手段とを備え、前輪側のブレーキ操作部を操作すると、後輪側ブレーキ回路の車輪制動手段にも制動力が発生するようにした。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前後輪の一方側のブレーキ操作部を操作することにより前後の車輪制動手段が連動して制動動作するブレーキシステムと、制動時のブレーキ操作により車輪のスリップ率を制御するシステムとを備えるようにした。
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ブレーキ操作部の操作によりマスタシリンダと前記車輪制動手段の連通が切り離されるとともに、前記マスタシリンダと液損シュミレータ、液圧モジュレータと車輪制動手段とが導通されるようにした。
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ブレーキ操作部の操作量を電気的に検出し、その検出値に基づいて前記液圧モジュレータで作り出した液圧によって前記車輪制動手段を制御するようにした。
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記変化速度制限手段は、前記変化量が規定値以上の場合に前記規定値に固定するようにした。
請求項1に記載の発明によると、入力側圧力と出力側圧力の乖離幅を基にして液圧目標値を設定し、この液圧目標値の単位時間当たりの変化量に応じて、前記液圧モジュレータの発生液圧の変化速度を制限するため、車輪制動手段の制動力の急増を抑制して制動フィーリングの低下を未然に防止することができる。
請求項2に記載の発明によると、入力側圧力センサの信号と出力側圧力センサの信号を単一のコントローラで処理するため、液圧モジュレータの発生液圧の変化速度制限を(不要なコストアップを避け)合理的なコストで実現することが可能になる。
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1はこの発明の1実施形態の自動二輪車のブレーキ装置の液圧回路図を示している。同図に示すようにこの実施形態のブレーキ装置は、相互に独立した前輪側のブレーキ回路1aと後輪側のブレーキ回路1bとがコントローラ(ECU)20により連係されたものである。
ブレーキ操作は、前輪側のブレーキ回路1aではブレーキ操作部2であるブレーキレバーにより、後輪側のブレーキ回路1bではブレーキ操作部2であるブレーキペダルにより各々行われるが、それ以外の構成は前輪側のブレーキ回路1aも後輪側のブレーキ回路1bもほぼ同様であるので、前輪側のブレーキ回路1aについてのみ詳述し、後輪側のブレーキ回路1bについては、前輪側のブレーキ回路1aと同一部分に同一符号を付して重複する説明を省略する。
このブレーキ装置では前後輪ともバイワイヤ方式を採用しており、ブレーキレバー等のブレーキ操作部の操作量(この実施形態では液圧)を電気的に検出し、その検出値に基づいて液圧モジュレータで作り出した液圧によって制動力を発生させている。
また、このブレーキ装置では前後輪の一方側をブレーキ操作することにより前後の車輪制動手段が連動して制動動作するブレーキシステム(CBS;COMBINED BRAKE SYSTEM,以下、「CBS」という。)を採用している。
具体的にはブレーキ操作部2が先に操作された側のブレーキ回路では、マスターシリンダの液圧に基づいて液圧モジュレータにより作用する液圧が先に操作された側のブレーキキャリパにバイワイヤ方式により作用し、また、先に操作された側のブレーキ回路のマスターシリンダ圧に基づいて後に操作された側のブレーキ回路でも液圧モジュレータにより作用する液圧がブレーキキャリパにバイワイヤ方式によって作用する。
更に、このブレーキ装置では制動時のブレーキ操作により車輪のスリップ率を適切に制御するブレーキシステム(ABS:ANTI LOCK BRAKE SYSTEM,以下、「ABS」という。)を採用している。
各ブレーキ回路1a,1bは、ブレーキ操作部2に連動するマスターシリンダ3と、このマスターシリンダ3に対応するブレーキキャリパ4とが主ブレーキ通路5によって接続されたものである。前記主ブレーキ通路5の途中には、後述する液圧モジュレータ6が給排通路7により合流接続されている。
主ブレーキ通路5には給排通路7との合流接続部よりもマスターシリンダ3側に、マスターシリンダ3とブレーキキャリパ4とを連通・遮断する常開型(NO)の第1の電磁開閉弁V1が介装されると共に分岐通路8が接続されている。この分岐通路8には、前記第1の電磁開閉弁V1が主ブレーキ通路5を閉じたときに、ブレーキ操作部2の操作量に応じた擬似的な液圧反力をマスターシリンダ3に作用させる液損シュミレータ9が常閉型(NC)の第2の電磁開閉弁V2を介して接続されている。この第2の電磁開閉弁V2は、反力付与時に分岐通路8を開いてマスターシリンダ3側と液損シュミレータ9とを連通させるものである。
前記液損シュミレータ9は、シリンダ10にピストン11が進退自在に収容され、このシリンダ10とピストン11の間に、マスターシリンダ3側から流入した作動液を受容する液室12が形成されたもので、ピストン11の背部側には、特性の異なるコイルスプリング13と樹脂スプリング14が直列に配置されて、これら二つのコイルスプリング13、樹脂スプリング14によってピストン11(ブレーキ操作部2)に対して立ち上がりが緩やかで、ストロークエンドにおいて立ち上がりが急な特性の反力を付与するようになっている。
そして、前記分岐通路8には第2の電磁開閉弁V2を迂回してバイパス通路15が設けられ、このバイパス通路15には液損シュミレータ9側からマスターシリンダ3方向への作動液の流れを許容する逆止弁16が設けられている。
前記液圧モジュレータ6は、シリンダ17内に設けられたピストン18を、これらシリンダ17とピストン18の間に形成された液圧室19方向に押圧するカム機構21と、ピストン18をカム機構21側に常時押し付けるリターンスプリング22と、カム機構21を作動させる電動モータ23とを備えていて、前記液圧室19が前記給排通路7に連通接続されている。この液圧モジュレータ6は電動モータ23によりカム機構21を介してシリンダ17の初期位置を基準としてピストン18を押圧したり、リターンスプリング22によりピストン18を戻すことにより、液圧室19の圧力を増減して、ブレーキキャリパ4の制動圧力を増減できるようになっている。
ここで、前記電動モータ23は、PWM制御により入力デューティ比(ON時間/ON時間+OFF時間)で決定される電流値を調整することで、前述したカム機構21の回動位置で決定されるピストン18の位置を電気的に正確且つ簡単に調整し、前記液圧室19の圧力を調整するようになっている。
前記カム機構21にはバックアップスプリング24を介して図示しないストッパによりストロークを規制されたリフター25が進退自在に配置され、このリフター25によって液圧室19を縮小する方向にピストン18が常時押圧されている。これにより、前記電動モータ23が非通電状態になった場合に、バックアップスプリング24によりリフター25が押圧されストッパにより停止されてピストン18を初期位置へ戻すようになっている。したがって、主ブレーキ通路5(ブレーキキャリパ4)に作動液を積極的に供給するCBS制御と、ピストン18を後退前進させ液圧室19の減圧、保持、再増圧するABS制御を行うことができる。
前記給排通路7には常閉型(NC)の第3の電磁開閉弁V3が介装されている。前記給排通路7には第3の電磁開閉弁V3を迂回してバイパス通路26が設けられ、このバイパス通路26には液圧モジュレータ6側からブレーキキャリパ4方向への作動液の流れを許容する逆止弁27が設けられている。
ここで、前輪側のブレーキ回路1aと後輪側のブレーキ回路1bには、第1の電磁開閉弁V1を挟んでマスターシリンダ3側である入力側に入力側圧力センサ(P)28が、ブレーキキャリパ4側である出力側に出力側圧力センサ(P)29が各々設けられている。また、前記カム機構21の図示しないカム軸には、角度情報フィードバック用の角度センサ30が設けられ、前記ブレーキキャリパ4には車輪速度を検出する車輪速度センサ31が設けられている。また、制御モードをライダーによる手動操作で切換えるモード切換えスイッチ32が設けられ、CBS制御を希望する場合はライダーがこれを切り替えて選択する。尚、以下の説明はCBS制御が選択された場合の説明である。
コントローラ20は、前記圧力センサ28,29の検出信号、及び角度センサ30の検出信号、車輪速度センサ31の検出信号に基づいて、前記第1の電磁開閉弁V1、第2の電磁開閉弁V2、及び第3の電磁開閉弁V3を開閉制御すると共に、電動モータ23を駆動制御する。
具体的には、一方のブレーキ操作部2が操作されると、そのとき前後輪の速度が車輪速度センサ31から、またブレーキ操作量等の情報が前記圧力センサ28を通してコントローラ20に入力され、このときコントローラ20からの指令によって両方のブレーキ回路の第1の電磁開閉弁V1が主ブレーキ通路5を閉じる方向に維持されると同時に、電磁開閉弁V2,V3が開く方向に維持され、両方の液圧モジュレータ6が各ブレーキキャリパ4に車両の運転条件やブレーキ操作に応じた液圧を供給する。
また、前記コントローラ20は、前輪側の車輪速度センサ31、後輪側の車輪速度センサ31とによって検出された車輪速度のうち、高い方の車輪速度を車両の推定車速vrとして設定して、更に、この推定車速vrと前輪又は後輪の車輪速度との差分に基づいて前輪スリップ率又は後輪スリップ率を算出する。ここで、前輪スリップ率、後輪スリップ率が予め設定されたスリップ率の閾値を超えた場合に、車輪にスリップが発生したと判定して液圧モジュレータ6の液圧を減圧するABS制御を作動開始するようになっている。
上記構成によれば、車両が停止、若しくは、停止に近い状態にある場合(車速=0、若しくは、所定車速以下)には、図1に示すように、前輪側のブレーキ回路1a及び後輪側のブレーキ回路1bにおいては、第1の電磁開閉弁V1が開作動状態、第2の電磁開閉弁V2は閉作動状態、第3電磁開閉弁V3は閉作動状態となっている。したがって、各電磁開閉弁V1,V2,V3には、何ら電力を必要としない。
そして、車両走行中に、ライダーが前輪側のブレーキ操作部2であるブレーキレバーを操作すると、図2に示すように、前輪側のブレーキ回路1aでは第1の電磁開閉弁V1が閉作動、第2の電磁開閉弁V2及び第3の電磁開閉弁V3が開作動される。したがって、主ブレーキ通路5が第1の電磁開閉弁V1の閉作動によってマスターシリンダ3から切り離されると同時に、第2の電磁開閉弁V2の開作動によって分岐通路8、主ブレーキ通路5がマスターシリンダ3と液損シュミレータ9とを導通し、更に第3の電磁開閉弁V3の開作動によって給排通路7、主ブレーキ通路5が液圧モジュレータ6とブレーキキャリパ4とを導通する。
一方、このとき後輪側のブレーキ回路1bでも、同時に第1電磁開閉弁V1が閉作動、第2の電磁開閉弁V2及び第3の電磁開閉弁V3が開作動される。したがって、主ブレーキ通路5が第1の電磁開閉弁V1の閉作動によってマスターシリンダ3から切り離されると同時に、第2の電磁開閉弁V2の開作動によって分岐通路8、主ブレーキ通路5がマスターシリンダ3と液損シュミレータ9とを導通し、更に第3の電磁開閉弁V3の開作動によって給排通路7、主ブレーキ通路5が液圧モジュレータ6とブレーキキャリパ4とを導通する。
これにより、ライダーは前輪側及び後輪側のブレーキ回路1a,1bの液損シュミレータ9によって擬似的に再現されたブレーキ操作感を前後両輪側で感じることが可能になり(図2において鎖線矢印参照)、同時に液圧モジュレータ6の作動による液圧変動は第1の電磁開閉弁V1が閉作動しているためライダー側に伝達されなくなる。また、このとき、これに並行して液圧モジュレータ6の電動モータ23が作動し、カム機構21によりピストン18が押圧されることにより液圧室19の作動液を加圧する。これによって、電動モータ23の制御に応じた液圧が主ブレーキ通路5を通してブレーキキャリパ4に供給される(図2において実線矢印参照)。
また、前輪あるいは後輪(例えば、図2では前輪)の路面とのスリップ率が所定値を超えそうになったことが、前記車輪速度センサ31により検出された場合には、コントローラ20が電動モータ23を制御してピストン18を後退させ(図2に破線矢印で示す)、ブレーキキャリパ4の制動圧を低下させABS制御により車輪のスリップ率を所定値内に戻す。
このとき第1の電磁開閉弁V1は閉じられており、マスターシリンダ3と液圧モジュレータ6の連通は遮断され、ライダーのブレーキ操作部2にABS制御の圧力変化が伝達されることはない。
ここで、前述したのはブレーキ操作部2を操作したがABSが作動しないで車両が停止した場合で説明したが、ABSが作動して車両が停止した場合についても同様に制御できる。つまり、ABSが作動した場合には、ABSでは液圧室19の減圧、保持、再増圧するため、車両がどの時点で停止したかによって、前記マスターシリンダ3側の圧力と、ブレーキキャリパ4側の圧力との大小関係が特定できないため、前述した電動モータ23の正逆転駆動を含みこれをPWM制御して入力デューティ比で決定される電流値を調整することで、増圧側に調整する場合でも減圧側に調整する場合でも、前述したカム機構21の回動位置で決定されるピストン18の位置を電気的に正確かつ簡単に自由に調整することができるのである。
ところで、このブレーキ装置の場合、コントローラ20には入力側圧力センサ28(入力状態検出手段)からマスターシリンダ3側の圧力信号がライダーの操作意思を示す信号として入力されると共に、出力側圧力センサ29からブレーキキャリパ4側の圧力信号がフィードバック信号として入力される。そして、これらの信号を受けたコントローラ20はブレーキキャリパ4の液圧目標値を決定し、その目標値になるように液圧モジュレータ6(電動モータ23)をフィードバック制御する。この実施形態においては、両圧力センサ28,29の信号の検出と目標値の演算等を単一のコントローラ20によって行っている。ただし、コントローラは複数設けることも可能であるが、この実施形態のように単一のコントローラ20によってすべての処理を行うようにすればより合理的な低コスト化を図ることができる。
コントローラ20で設定する液圧目標値は、基本的に、マスターシリンダ3側の入力圧力とブレーキキャリパ4側の出力圧力の差が早期にゼロになるように演算によって求めるが、このブレーキ装置では、この基本演算において液圧目標値の単位時間当たりの変化量(変化速度)が規定値以上になるときに、液圧目標値の変化量がそれ以上大きく変化しないように液圧目標値の変化を制限する(変化速度制限手段を備える)ようにしている。このため、液圧目標値の変化速度が常に規定値以下になり、その結果、液圧モジュレータ6の発生液圧の急激な変化が制限される。
以下、コントローラ20による具体的な液圧制御について図4のフローチャートに従って説明する。なお、ここでは前輪側の液圧制御について説明するが、後輪側についても基本的に同様の制御を行っている。
まず、S101においては、入力側圧力センサ28によってマスターシリンダ3側の液圧fmpを検出すると共に、出力側圧力センサ29によってブレーキキャリパ4側の液圧fcpを検出し、つづく、S102において、ブレーキキャリパ4の仮の液圧目標値fasを、マスターシリンダ圧fmpや、さらにマスターシリンダ圧fmpとブレーキキャリパ圧fcpの乖離幅等から演算によって求める(前述の基本演算)。
次のS103においては、現在の仮の液圧目標値fasから前回の処理の際の仮の液圧目標値fas_pを引いて単位時間当たりの(制御1ループ当たりの)液圧目標値の増減量Δfas(液圧目標値の変化速度)を求め、つづくS104において、増減量Δfasが規定値A以上であるかどうかを判断する。このとき、増減量Δfasが規定値Aに満たない場合には、そのままS106に進み、規定値A以上の場合には、S105に進んで単位時間当たりの液圧目標値の増減量Δfasの値を規定値Aに固定(制限)する。
S106においては、ブレーキキャリパ圧の正規の液圧目標値ftpを、
ftp=ftp_p+Δfas
の演算によって求める。ただし、ftp_pは前回の処理の際の正規の液圧目標値である。
このS106の演算は、前回処理の際の正規の液圧目標値ftp_pに増減量Δfasを加算するものであるが、S105を経ない処理の場合には、前回処理の液圧目標値ftp_pに正味の増減量Δfasがそのまま加算され、S104を経た処理の場合には、前回処理の液圧目標値ftp_pに規定値A分だけ加算される。つまり、S104を経た処理の場合には、液圧目標値ftpの変化速度が制限されることとなる。
次のS107においては、S106で決定した値を液圧目標値ftpとして液圧モジュレータ6の電動モータ23を制御する。
したがって、この処理によれば、単位時間当たりの液圧目標値の増減量Δfasが常に規定値A以下に制限され、液圧モジュレータ6の発生液圧(ブレーキキャリパ圧)の急激な変化が抑制される。
図3の特性図で明らかなように、マスターシリンダ圧fmpが立ち上がると、その立ち上がりに応じて仮の液圧目標値fas(基本演算による単位時間当たりの液圧目標値)もほぼ同様に立ち上がるが、このとき仮の液圧目標値fasの増減量Δfasが規定値A以上になると、増減量Δfasが規定値Aに固定されるように正規の液圧目標値ftpが修正されるため、液圧モジュレータ6によって得られるブレーキキャリパ圧fcpの立ち上がりは全体的に緩やかになる。したがって、このブレーキ装置においては、マスターシリンダ3の入力圧の検出からブレーキキャリパ圧が実際に制御されるまでのタイムラグが大きくなる状況下にあっても、制動力が急増することによる制動フィーリングの低下を確実に防止することができる。
因みに、図5は液圧目標値の増加量に応じて目標値の修正を行わない場合のブレーキ装置の特性図であり、この特性図で明らかなように、修正を行わない場合、マスターシリンダ圧fmpの急激な立ち上がりによってマスターシリンダ圧fmpとブレーキキャリパ圧fcpの乖離幅が広がると、その乖離幅を埋めるようにブレーキキャリパ圧fcpが急激に立ち上がってしまう。
なお、以上の実施形態では、マスターシリンダ圧fmpとブレーキキャリパ圧fcpの乖離幅を正確に演算して仮の液圧目標値fasを求め(図4のS101〜と103)、その仮の液圧目標値fasの単位時間当たりの増減量Δfasに応じて液圧モジュレータ6の発生液圧の変化速度を制限するようにしているが、入力状態検出手段(この実施形態では入力側圧力センサ28)の単位時間当たりの変化量を反映させて液圧モジュレータ6の発生液圧の変化速度を制限するものであれば、必ずしも仮の液圧目標値fasを用いなくても良い。
ただし、この実施形態のように出力側圧力センサ29の検出値をフィードバックしてマスターシリンダ圧fmpとブレーキキャリパ圧fcpの乖離幅を正確に演算し、その乖離幅を考慮した仮の液圧目標値fasを用いるようした場合には、液圧モジュレータ6の発生液圧の変化速度を精度良く制限することが可能になる。つまり、不要な変化速度の制限を可及的に少なくすることが可能であるため、制動フィーリングの向上と制動距離の短縮を両立させることができる。
この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、以上では、ABSとCBSを採用した自動二輪車の実施形態について説明したが、この発明は、ABSやCBSを採用しない自動二輪車においても適用することができる。
この発明の一実施形態を示すブレーキ装置の液圧回路図。 同実施形態を示すブレーキ装置の液圧回路図。 同実施形態を示すものであり、前輪側ブレーキキャリパの目標液圧ftp、同ブレーキキャリパの実液圧fcp、前輪側のマスターシリンダの液圧fmp、前輪側ブレーキキャリパの基本演算目標液圧fasを同一時間軸上に記した特性図。 同実施形態の制動時における液圧モジュレータ制御を示すフローチャート。 目標値の修正を行わない比較例を示すものであり、前輪側のマスターシリン ダの液圧fmpと前輪側のブレーキキャリパの実液圧fcpを同一時間軸上に示した特性図。
符号の説明
2…ブレーキ操作部 4…ブレーキキャリパ(車輪制動手段) 6…液圧モジュレータ 20…コントローラ(液圧制御手段) 28…入力側圧力センサ(入力状態検出手段) 29…出力側圧力センサ

Claims (7)

  1. ブレーキ操作部の液圧を検出する入力側圧力センサと、
    車輪制動手段の液圧を検出する出力側圧力センサと、
    車輪制動手段に作用させる液圧を作り出す液圧モジュレータと、
    前記入力側圧力センサと出力側圧力センサの検出信号に基づいて前記液圧モジュレータの発生液圧を制御する液圧制御手段と、を備えた自動二輪車のブレーキ装置において、
    前記液圧制御手段は、前記入力側圧力センサと出力側圧力センサによって検出される入力側圧力と出力側圧力の乖離幅を基にして液圧目標値を設定し、この液圧目標値の単位時間当たりの変化量に応じて、前記液圧モジュレータの発生液圧の変化速度を制限する変化速度制限手段を備えることを特徴とする自動二輪車のブレーキ装置。
  2. 前記入力側圧力センサの信号と前記出力側圧力センサの信号を単一のコントローラで処理したことを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車のブレーキ装置。
  3. 前輪側ブレーキ回路と後輪側ブレーキ回路とを備え、それぞれのブレーキ回路に、前記ブレーキ操作部と、入力側圧力センサと、車輪制動手段と、液圧モジュレータと、液圧制御手段とを備え、
    前輪側のブレーキ操作部を操作すると、後輪側ブレーキ回路の車輪制動手段にも制動力が発生することを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車のブレーキ装置。
  4. 前後輪の一方側のブレーキ操作部を操作することにより前後の車輪制動手段が連動して制動動作するブレーキシステムと、制動時のブレーキ操作により車輪のスリップ率を制御するシステムとを備えることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車のブレーキ装置。
  5. 前記ブレーキ操作部の操作によりマスタシリンダと前記車輪制動手段の連通が切り離されるとともに、前記マスタシリンダと液損シュミレータ、液圧モジュレータと車輪制動手段とが導通されることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車のブレーキ装置。
  6. 前記ブレーキ操作部の操作量を電気的に検出し、その検出値に基づいて前記液圧モジュレータで作り出した液圧によって前記車輪制動手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車のブレーキ装置。
  7. 前記変化速度制限手段は、前記変化量が規定値以上の場合に前記規定値に固定することを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車のブレーキ装置。
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