JP4233681B2 - 噴霧消火方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、噴霧消火方法に関する。更に詳しくは、地下駐車場、ビルなどの建造物に限らず、噴霧ヘッドが設けられるトンネル、橋梁、工場や石油基地などのプラント設備に使用される水性消火薬剤を霧状に噴射することで窒息消火せしめる噴霧消火方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より地下駐車場、ビルなどに設置されている消火設備は、一般に水をスプリンクラヘッドや噴霧ヘッド等から噴霧して消火するいわゆるスプリンクラ消火設備や水噴霧消火設備等といわれる水消火設備や、水の代わりに泡消火薬剤を使用して消火する泡消火設備が使用されている。
【0003】
しかしながら、水噴霧消火では冷却効果は有しているものの、地下駐車場における自動車のガソリン火災等の非水溶性液体に対する消火場面では大量の水を必要とし、且つ消火までに要する時間も非常に長いという欠点を有し、延焼の危険性が高い。一方、泡消火設備は、石油、ガソリン等の可燃性液体の火災の様に、水消火が困難な火災を対象とする場合に主に採用されており、その消火性能は水噴霧と比較すると優れてはいるものの、泡放射ヘッドでは、泡消火液が吸気口から吸引した空気を巻き込んで起泡し、この泡がデフレクタに衝突して分散されるが、この泡は水滴に比べ極めて軽いので、この泡は遠く迄飛ぶことができず、1つの泡放射ヘッドで散布可能な領域は、水消火設備のスプリンクラヘッドや噴霧ヘッド、スプレーヘッド等の散水ヘッドに比べ極めて狭いものとなる。
【0004】
従って、所定範囲全域にわたって泡を散布するためには、散水ヘッドに比べてより多くの泡放射ヘッドが必要となるので、設備費が嵩んでしまうという経済性の問題を有する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、発泡倍率が5倍未満となるようにヘッドから噴霧することで、優れた消火性能と経済性とを両立することのできる噴霧消火方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記事情に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、拡散係数が6以上である水性消火薬剤水溶液を発泡倍率が5倍未満となる様に噴霧することで、これまでの水噴霧、泡放射に比較して優れた消火性能を有し、消火性能、経済性の両面で従来の方式より優位であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は拡散係数が6以上である水性消火薬剤水溶液を、該水性消火薬剤水溶液の発泡倍率が5倍未満となるよう噴霧ヘッドから放射させることを特徴とする噴霧消火方法を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
先ず本発明の消火方法に使用される水性消火薬剤水溶液としては、下記一般式(1)で表される拡散係数が5以上である水性消火薬剤水溶液であれば特に制限はない。
【0009】
S=25−(γL+γi) (1)
式中、Sは拡散係数であり、25の数値は20℃におけるシクロヘキサンの表面張力であり、γLは20℃における水性消火薬剤水溶液の表面張力であり、γiは20℃におけるシクロヘキサンと水性消火薬剤水溶液の界面張力である。
【0010】
一般に界面張力とは2相が接している境界面におけるその界面の面積を縮小する方向に働く力であり、不溶性であるかわずかに溶け合う2種の液体の界面で発現する。このように液体−液体間で働く張力が界面張力である一方で、気体−液体間、あるいは気体−固体間で働く力を表面張力と呼ぶ。
【0011】
上述のように、本発明における表面張力とは水性消火薬剤水溶液の表面と空気との界面に働く力のことであり、界面張力とは水性消火薬剤水溶液と20℃におけるシクロヘキサンとの液体−液体界面に働く力を表す。
【0012】
表面張力の測定にはデュ・ヌーイにより提案された円環法、ウィルヘルミーにより提案された垂直平板法(ウィルヘルミー法)のほかに、毛細管上昇法、滴重法、水滴法、振動ジェット法、静泡法、最大泡圧法、メニスカス落下法などの種々の方法が用いられている。本発明における表面張力、及び界面張力はウィルヘルミー法により測定した値である。ウィルヘルミー法は垂直板法、または吊り板法とも呼ばれ、一般に正常なガラスもしくは薄い金属板の末端を液体に垂直に吊るし、この薄板が下方に引かれる力を測定する方法である。力の測定にはねじりはかりのほか、化学はかり、電子はかりなどの種々の方法が使用されている。この方法の特長は浮力の影響や吊り板が清浄であること、液温などの留意点もあるが、操作が簡便で信頼できる測定値が得られる点にある。
【0013】
一般に拡散係数Sは水成膜形成性を表す指標であり、水成膜形成性は油火災の消火に際して迅速な消火と再着火を防止する機能を発現せしめることから水成膜泡消火薬剤として消防法上の泡消火薬剤の一種として認知されている。〔消防法(昭和23年法律第186号)第21条の2第2項、自治省令第26号(昭和50年12月9日)〕
水成膜泡消火薬剤に関する基礎技術は、既に公知であり、例えば特公昭40−20080号公報、特開昭47−2416号公報、特公昭47−21079号公報、特公昭48−23161号公報、特開昭49−8097号公報、特開昭49−25796号公報、特開昭49−42190号公報、特開昭49−52498号公報、特公昭53−22400号公報、特公昭59−18389号公報、特公平6−87899号公報など多くの技術が公開されており、いずれもフッ素系界面活性剤を必須成分とするものである。また、水成膜泡消火薬剤としての国家検定規格では拡散係数Sが3.5以上であることが定められている。
【0014】
本発明の消火方法で使用する水性消火薬剤水溶液は拡散係数Sが5以上であることを特徴とする。これらのうち、6以上であるのが特に好ましい。
【0015】
本発明に係る噴霧ヘッドは拡散係数Sが5以上で該水性消火薬剤水溶液の発泡倍率が5倍未満となるよう放射するものを使用する。
【0016】
従来使用されている泡スプリンクラ消火設備では、水成膜泡消火薬剤を水で希釈混合後に各種の起泡手段により泡放射を行い、泡と水成膜の両者の空気遮断作用により消火を行うため、拡散係数Sが3.5以上の水成膜泡消火薬剤を用いることにより所望の消火性能を発現することが可能である。
【0017】
本発明の消火方法では前述のように火災時に発生する上昇気流による飛散を防止する目的を達成するために、起泡手段の欠如する噴霧ヘッドまたは起泡した場合においても従来の泡消火薬剤よりも低い発泡倍率である5倍未満となるよう噴霧ヘッドから放射することにより、水性消火薬剤水溶液を直接噴霧し、燃料の表面に直接降下させて水成膜を形成して被覆し、窒息消火させるという特徴を有する。
【0018】
それ故、本発明の噴霧消火方法は、火災面に水性消火薬剤水溶液が接触した時点では、従来の泡消火薬剤と比較すると泡による消火効果は期待できず、水成膜形成能力が消火性能に大きく影響することになる。
【0019】
よって、従来の泡消火薬剤よりも優れた水成膜形成性を有しなければ、所望の性能を発現することができないことになるが、本発明では水性消火薬剤の水成膜形成性の指標となる拡散係数Sが5以上で、且つ発泡倍率が5倍未満で噴霧ヘッドから放射することにより実現したものである。
【0020】
具体的には拡散係数Sが5以上の水性消火薬剤を発泡倍率が5倍未満で消火実験を実施した場合の消火に要する時間は、拡散係数Sが5未満の水性消火薬剤を用いた場合に比して約1/2から1/3の時間で完全消火に至るという格段に優れた消火性能を発現する。
【0021】
本発明における噴霧消火設備としては、水性消火薬剤水溶液を発泡倍率が5倍未満となるよう噴霧ヘッドから被消火対象物に降下させることが可能な設備であれば何ら問題なく使用することができる。
本発明の噴霧ヘッドとしては、従来から提案されているヘッドから水性消火薬剤水溶液を発泡倍率が5倍未満となるようにで放水するものであり、具体的には発泡倍率が5倍未満で放水する閉鎖型あるいは開放型のスプリンクラヘッド、噴霧ヘッド、放水ノズル等が挙げられる。
【0022】
次に噴霧ヘッドとして閉鎖型スプリンクラヘッドを用いた場合の消火設備の一例を挙げ、本発明の消火方法を詳細に説明する。
【0023】
図1において、1は消火水槽、5はポンプ2、逆止弁3、常時は全開状態の制水弁4を介して水槽1に接続された第1の給水本管、6は水性消火薬剤原液槽でこの水性消火薬剤原液槽6には所定の水希釈後に拡散係数が5以上となる水性消火薬剤原液が収納されている。7は給水本管1の基端側に挿入されて設けられたラインプロポーショナーなどの水性消火薬剤混合器で、この水性消火薬剤混合器7には水性消火薬剤原液槽6が接続されている。8−1、8−2は給水本管からたとえばフロア単位で分岐された分岐管、9−1、9−2は分岐管8−1、8−2から分岐された支管、10−1,10−2は支管9−1、9−2から分岐されたたとえば可撓管などの枝管、11は枝管10−1、10−2の先端に接続された閉鎖型スプリンクラヘッドである。このスプリンクラヘッドとしては、スプリンクラ消火設備で用いられているフラッシュ型、マルチ型、馬蹄型等の閉鎖型スプリンクラヘッドが使用できる。12は分岐管8−1、8−2に設けられた常時は全開状態の止水弁、13−1、13−2は分岐管8−1、8−2に設けられた流水を検知したときに流水信号を出力する、例えば逆止弁タイプの流水検知弁などの流水検知装置、14−1、14−2は支管9−1、9−2に接続された消火栓、15−1、15−2は常時閉弁状態の消火栓弁、16−1、16−2は例えば保形性を有するホース、17−1、17−2は例えば棒状と噴霧状の切り換え機構を有する放水ノズルである。18はポンプ2、逆止弁3、制水弁4−2を介して消火設備1に接続された第2の給水本管でこの第2給水本管18には、図示を省略しているが、水性消火薬剤混合器7を除いて第1の給水本管5と同様に、止水弁、流水検知装置を備えた分岐管、支管、枝管、スプリンクラヘッド、消火栓等が接続されており、このスプリンクラヘッドや消火栓は水性消火薬剤水溶液を嫌う場所に設置されている。19は第1給水本管、第2給水本管18の圧力状態を監視する圧力空気槽、20は圧力空気槽18内の圧力が低下したときに圧力信号を出力する圧力スイッチ、21はポンプ2、流水検知装置13−1、13−2、圧力スイッチ20などが接続された制御盤である。通常は、制水弁4、止水弁12は全開状態にあり、消火栓弁15−1、15−2、および放水ノズル17−1,17−2の図示しないコックは閉弁状態となっている。そして、第1の給水本管5の混合器7より二次側から各スプリンクラヘッド11および消火栓14−1、14−2に至る配管には、例えば水性消火薬剤原液が2%混合された水性消火薬剤水溶液が所定の圧力で満たされており、第2の給水本管18側には水が所定の圧力で満たされている。この第1および第2の給水本管5、18の圧力状態を圧力空気槽19で監視しており、本管5、18の圧力が所定圧以下に低下すると圧力スイッチ20が作動して圧力低下信号を制御盤21に出力し、制御盤21はこれを受けてポンプ2を動作させ、水槽1の水を本管5、18に供給して圧力を所定圧に回復させる。
【0024】
第1区画Z1で火災が発生し、その熱によってスプリンクラヘッド11が作動して開栓すると、開栓したヘッド11から水性消火薬剤水溶液の散水が開始される。この散水開始により分岐管8−1に流水が生じ流水検知弁13−1が作動して流水信号を制御盤21に出力し、制御盤21はこの流水信号により第1区画Z1で放水が開始したことを警報表示する。また、ヘッド11の放水開始により、第1給水本管5の圧力が低下すると、圧力空気槽19の圧力が低下して圧力スイッチ20が圧力低下信号を制御盤21に出力する。圧力スイッチ20から圧力低下信号を受信した制御盤21はポンプ2を駆動制御し、消火水槽1の水を第1給水本管5に圧送供給する。この第1給水本管5への消火用水の供給により、水性消火薬剤混合器7では供給される水に作用により水性消火薬剤原液槽6の水性消火薬剤原液を吸引し、水性消火薬剤原液と消火用水を混合して拡散係数が5以上となる例えば2%の水性消火薬剤水溶液を調製し、二次側に供給する。これにより開栓したヘッド11からは拡散係数が5以上である水性消火薬剤水溶液の放水が継続され、水性消火薬剤水溶液は発泡倍率が5倍未満となるようにヘッド11のデフレクタによって水滴状で散水される。
【0025】
一方、第2区画Z2で火災が発生し、消火栓14−2の消火栓弁15−2が開弁操作されるとともにノズル17−2が引き出され、ノズル17−2の図示しないコックが開弁されると、ノズル17−2から拡散係数5以上の水性消火薬剤水溶液が発泡倍率5倍未満で放水が開始される。この消火栓14−2の放水開始により、上記の場合と同様に、流水検知弁13−2が作動して流水信号を、第1給水本管5の圧力低下により圧力スイッチ20が作動して圧力低下信号を出力し、制御盤21の制御によりポンプ2が運転を開始する。これにより、水槽1の消火用水の給水本管5への給水が開始され、水性消火薬剤混合器7で消火用水に水性消火薬剤原液槽6から吸引された水性消火薬剤原液が例えば2%となるように混合され、調製された拡散係数が5以上の水性消火薬剤水溶液が消火栓14−2に供給され、ノズル17−2からの放水が継続される。そして、ノズル17−2の図示しない切り換え部を操作することにより水性消火薬剤水溶液の放水を棒状放水、噴霧状放水のいずれかに選択して水滴状で散水される。なお、ヘッドとしては開放型のヘッド、例えばスプリンクラ消火設備で用いられる開放型スプリンクラヘッドや水噴霧消火設備で用いられる噴霧ヘッドを用いてもよい。 この場合には、図1において閉鎖型スプリンクラヘッド11の代わりに開放型のスプリンクラヘッドあるいは噴霧ヘッドなどの開放型ヘッドを接続するとともに、開放型ヘッドの近傍に火災感知器などの火災監視装置を設け、止水弁12あるいは流水検知弁13−1、13−2の代わりに火災監視装置が火災を検出したときに開弁制御される制御弁を設けるようにすればよい。すなわち、噴霧ヘッドから放水される水性消火薬剤水溶液は、発泡倍率が5倍未満となるように棒状や噴霧状の水滴状で放水される。
【0026】
【実施例】
(実施例1〜7、実施例8(比較例)、実施例9(比較例)、および比較例1〜6)次に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
各水性消火薬剤水溶液の表面張力、シクロヘキサンとの界面張力を下記の方法により測定し、式1により拡散係数を算出した。その結果を表−1にまとめた。これら水性消火薬剤水溶液について、下記に示す方法および条件にて消火実験を実施し、その結果について表−1に併記した。
【0028】
【表1】
【0029】
<表面張力測定(γL)>
内径50mmのガラスシャーレに20℃に保持した水性消火薬剤水溶液を20ミリリットル注ぎ、自動平衡式エレクトロ表面張力計ESB−IV型(協和科学株式会社製)を用いて、ウィルヘルミー法にて測定した。尚、測定には白金板を使用した。
<界面張力測定(γi)>
内径50mmのガラスシャーレに20℃に保持した水性消火薬剤水溶液を20ミリリットル注ぎ、更にシクロヘキサン(試薬特級)を20ミリリットル注ぎ、界面を形成させる。この状態で自動平衡式エレクトロ表面張力計ESB−IV型(協和科学株式会社製)を用いて、ウィルヘルミー法にて測定した。尚、測定には白金板を使用した。
<消火実験>
水性消火薬剤の消火性能は図−2に示す最大防護範囲に設置した噴霧ヘッドの床面の中間にて、60リットルの水および60リットルのノルマルヘプタンを入れた図−3に示すB火災模型を1分間予燃焼し、温度20℃の水性消火薬剤水溶液を、天井設置状態の噴霧ヘッドを使用して、火皿上面2.5メートルの高さから放水圧力2.5kgf/平方センチメートルで放射した場合の消火時間を測定した。
【0030】
【発明の効果】
本発明の噴霧消火方法は、従来の水噴霧、泡放射に比較して優れた消火性能を有し、詳細には本発明の拡散係数が6以上である水性消火薬剤を発泡倍率が5倍未満にて噴霧された該噴霧滴は重く、火災時に発生する上昇気流による飛散を防止できることから、従来に比べ少数の散水ヘッドで従来以上に迅速かつ有効に消火でき、消火性能、経済性の両面で従来の方式より優位である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の消火方法を具体的に示すシステム配置図である。
【図2】実施例で使用した消火実験モデル図である。
【図3】B火災模型図である。
【符号の説明】
1;消火水槽
2;ポンプ
3;逆止弁
4;制水弁
5;給水本管
6;水性消火薬剤原液槽
7;水性消火薬剤混合器
8;分岐管
9;支管
10;支管
11;スプリンクラヘッド
12;止水弁
13;流水検知装置
14;消火栓
15;消火栓弁
16;ホース
17;ノズル
18;給水本管
19;圧力空気槽
20;圧力スイッチ
21;制御盤
Claims (1)
- 拡散係数が6以上である水性消火薬剤水溶液を、該水性消火薬剤水溶液の発泡倍率が5倍未満となるよう噴霧ヘッドから放射させることを特徴とする噴霧消火方法。
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