JP4231589B2 - 化学蒸着方法及び化学蒸着装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本願の発明は、発熱体を用いて基板に所定の薄膜を作成する化学蒸着方法及び化学蒸着装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
LSI(大規模集積回路)を始めとする各種半導体デバイスやLCD(液晶ディスプレイ)等の製作においては、基板上に所定の薄膜を作成するプロセスが存在する。このうち、所定の組成の薄膜を比較的容易に作成できることから、従来から化学蒸着(Chemical Vapor Deposition、CVD)法による成膜が多く用いられている。
【0003】
CVD法には、プラズマを形成してプラズマのエネルギーにより気相反応を生じさせて成膜を行うプラズマCVD法や基板を加熱して基板の熱により気相反応を生じさせて成膜を行う熱CVD法等の他に、所定の高温に維持した発熱体を経由して原料ガスを供給するタイプのCVD法(以下、発熱体CVD法)がある。このようなタイプの従来の化学蒸着装置について、図5を使用して説明する。図5は、従来の化学蒸着装置の構成を説明する正面断面概略図である。
【0004】
図5に示す化学蒸着装置は、内部で基板9に対して所定の処理がなされる処理容器1と、処理容器1内を所定の圧力に排気する排気系2と、処理容器1内に所定の原料ガスを供給するガス供給系3と、供給された原料ガスが表面を通過するように処理容器1内に設けられた発熱体4と、発熱体4が所定の高温に維持されるよう発熱体4にエネルギーを与えるエネルギー供給機構6と、発熱体4の作用により所定の薄膜が作成される処理容器1内の所定の位置に基板9を保持する基板ホルダー5とを備えている。
【0005】
図5に示す化学蒸着装置では、発熱体4にエネルギーを与えて所定の高温に維持した状態で、処理容器1内に所定の原料ガスを供給する。供給された原料ガスが発熱体4の表面を経由して基板9の表面に到達し、基板9の表面に所定の薄膜が作成される。発熱体4の作用は、成膜の種類等によって異なる。典型的な作用としては、発熱体の表面において原料ガスに分解や活性化等の変化が生じ、この変化による生成物が基板9に到達することにより最終的な目的物である材料の薄膜が基板9の表面に堆積する。
【0006】
このような発熱体4を経由して原料ガスを基板9に到達させると、基板9の熱のみによって反応を生じさせる熱CVD法に比べて基板9の温度を低くできる長所がある。また、プラズマCVD法のようにプラズマを形成することがないので、プラズマによる基板9のダメージといった問題からも無縁である。このようなことから、上記発熱体CVD法は、高集積度化や高機能化が益々進む次世代の半導体デバイスの製作に有力視されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述した発熱体CVD法を行う従来の化学蒸着装置のうち、ある種の装置は、Jan. J. Appl. Pys. Vol.37(1998)pp.3175-3187 等に示されているように、発熱体4と基板9との間にシャッターを備えている。しかしながら、シャッターの技術的意義や具体的な制御方法について説明されている文献はなく、シャッターがどのように動作するかは不明であった。
【0008】
発明者は、図5に示すように従来の装置にシャッター7を付加し、一つの制御例として、以下のようにシャッター7を制御して成膜を試みた。即ち、まず原料ガスの導入を開始し、原料ガスの流量を所定の値に保った後、発熱体4へのエネルギー供給を開始する。エネルギーの供給によって発熱体4の温度が上昇し、熱平衡に達して所定の高温に維持されていることを確認するとともに、排気系2の制御等によって処理容器1内を所定の圧力に調整した後、シャッター7を開くようにした。この制御は、発熱体4の表面で生ずる生成物が基板に到達するのを遮蔽するようにシャッター7が設けられていることを考慮し、原料ガスの流量、処理容器1内の圧力及び発熱体4の温度という各成膜条件が所定の値に維持されていることを確認してからシャッター7を開いて成膜を開始するものである。このようにすれば、成膜の再現性が高く維持され、品質の安定した薄膜が作成できると考えたのである。
【0009】
しかしながら、発明者の実験によると、上記のような制御例では、膜厚の深いところ即ち成膜開始直後のところで膜質が悪くなる問題があることが発見された。発明者は、この問題について鋭意分析したところ、上記シャッター7の制御にその原因があることが明らかになった。
【0010】
つまり、シャッター7は、発熱体4での生成物を基板9に届かないようにする作用は一応あるものの、生成物は気体であり、光のようにシャッター7で完全に遮蔽はされないということである。即ち、生成物は、ランダムな気体運動を繰り返してシャッター7を周り込み、基板9に到達することがある。上記制御例では、発熱体4が所定の高温に維持される以前に既に原料ガスが導入されているので、発熱体4の表面で分解や活性化等の変化が原料ガスに充分に生ぜず、分解や活性化の不充分な原料ガスが基板9に到達していると考えられる。このため、成膜開始初期では、膜質の点で劣悪になる問題が発生すると考えられる。
【0011】
本願の発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、シャッターの開閉制御を最適化して成膜開始初期の膜質の劣悪性を解消した構成の方法及び装置を提供する技術的意義がある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、所定の高温に維持される発熱体が内部に設けられているとともに処理対象物である基板が配置されている処理容器内に原料ガスを導入し、発熱体と基板との間に設けられているシャッターを開閉しながら発熱体の表面における原料ガスの分解及び又は活性化を利用して基板の表面に所定の薄膜を作成する化学蒸着方法であって、
前記発熱体が前記基板に対して光学的に遮蔽される位置である閉位置に前記シャッターを位置させた状態で前記発熱体へのエネルギーの供給を開始する第一の工程と、
エネルギー供給によって前記発熱体が所定の高温に維持された後、前記発熱体が前記基板に対して光学的に遮蔽されない開位置に前記シャッターを退避させて、前記発熱体の熱輻射を前記基板に与えるようにする第二の工程と、
前記発熱体からの熱輻射により上昇した前記基板の温度が安定した後、前記シャッターを前記閉位置に再び位置させ、この状態で前記処理容器内に前記原料ガスの導入をする第三の工程と、
第三の工程の後、前記処理容器内の圧力及び前記原料ガスの流量が所定の値になってから、前記シャッターを前記開位置に再び位置させて前記所定の薄膜を作成する第四の工程とを行うという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、本願の請求項2記載の発明は、内部で基板に対して所定の処理がなされる処理容器と、処理容器内を所定の圧力に排気する排気系と、処理容器内に所定の原料ガスを供給するガス供給系と、供給された原料ガスが表面付近を通過するように処理容器内に設けられた発熱体と、発熱体が所定の高温に維持されるよう発熱体にエネルギーを与えるエネルギー供給機構と、所定の高温に維持された発熱体の表面に供給されることで分解及び又は活性化した原料ガスが到達して所定の薄膜が作成される処理容器内の所定の位置に基板を保持する基板ホルダーとを備えた化学蒸着装置であって、
前記発熱体と前記基板ホルダーとの間に設けられたシャッターと、前記発熱体を前記基板に対して光学的に遮蔽する閉位置と遮蔽しない開位置との間でシャッターを移動させるシャッター駆動部と、シャッター駆動部を制御する制御部とを備えており、
前記制御部は、前記発熱体が所定の高温に維持されている状態で前記シャッターを閉位置から開位置に移動させ、その後、前記発熱体からの熱輻射により上昇した前記基板の温度が安定した後に前記シャッターを開位置から閉位置に移動させ、さらにその後、前記処理容器内に前記原料ガスが導入されて前記処理容器内の圧力及び原料ガスの流量が所定の値になった後に前記シャッターを閉位置から開位置に移動させるようシャッター駆動部を制御するものであるという構成を有する。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。まず、参考例の方法及び装置について説明する。図1は、参考例の化学蒸着装置の構成を説明する正面断面概略図である。
【0014】
図1に示す化学蒸着装置は、内部で基板9に対して所定の処理がなされる処理容器1と、処理容器1内を所定の圧力に排気する排気系2と、処理容器1内に所定の原料ガスを供給するガス供給系3と、供給された原料ガスが表面を通過するように処理容器1内に設けられた発熱体4と、発熱体4が所定の高温に維持されるよう発熱体4にエネルギーを与えるエネルギー供給機構6と、所定の高温に維持された発熱体4の表面に供給されることで分解及び又は活性化した原料ガスが到達して所定の薄膜が作成される処理容器1内の所定の位置に基板9を保持する基板ホルダー5と、発熱体4と基板ホルダー5との間に設けられたシャッター7と、装置の各部を制御する制御部8とを備えている。
【0015】
処理容器1は、気密な真空容器であり、基板9の出し入れを行うための不図示のゲートバルブを備えている。処理容器1は、ステンレス又はアルミニウム等の材質で形成されている。処理容器1は、排気口11を有しており、この排気口11を通じて内部が排気されるようになっている。
排気系2は、ターボ分子ポンプや油回転ポンプ等の真空ポンプ21を備えている。排気系2は、処理容器1の排気口11とつながっており、処理容器1内を1×10-6Pa程度に排気可能に構成されている。尚、排気系2は、バリアブルオリフィス等の排気速度調整器22を備えている。また、処理容器1は、内部の圧力を計測する真空計12を備えている。
【0016】
ガス供給系3は、所定の原料ガスを溜めたガスボンベ31と、処理容器1内に設けられたガス分配器32と、ガスボンベ31とガス分配器32とを繋ぐ配管33と、配管33上に設けられたバルブ34や流量調整器35とから主に構成されている。
ガス分配器32は、円盤状を成す中空の部材である。ガス分配器32は、その中心軸が、基板ホルダー5に保持された基板9の中心軸と同じになるよう設けられている。ガス分配器32は、基板ホルダー5に対向した前面を有している。この前面には、小さなガス吹き出し孔320が基板9の中心軸と対称に多数形成されている。ガスボンベ31から配管33を通してガス分配器32に原料ガスが導入され、この原料ガスがガス吹き出し孔320から吹き出して処理容器1内に供給されるようになっている。
【0017】
発熱体4は、タングステン、モリブデン又はタンタル等の高融点金属からなるものである。発熱体4は、このような金属からなるワイヤー状の部材を曲げて鋸波形にしたものであり、枠体41に保持されている。
エネルギー供給機構6は、発熱体4を通電して発熱体4にジュール熱を発生させるよう構成されている。つまり、エネルギー供給機構6は電気エネルギーを供給して発熱体4を所定の高温に維持するものである。エネルギー供給機構6には例えば3kW程度の商用周波数の交流電源が用いられ、発熱体4を1600〜2000℃程度の高温に維持できるよう構成されている。
【0018】
また、発熱体4の温度を検出する発熱体温度センサ40が設けられている。発熱体温度センサ40としては、例えば赤外線温度計が好適に使用でき、処理容器1に設けた計測窓10を通して発熱体4の温度を検出するよう構成される。発熱体温度センサ40の検出信号は、エネルギー供給機構6にフィードバックされ、発熱体4の通電電流が負帰還制御される。発熱体温度センサ40が設けられない場合、エネルギー供給機構6の電力をオープンループ制御することで、発熱体4が所定の高温に維持されるようにする場合がある。
【0019】
また、基板ホルダー5はその上面に基板9を載置して保持する台状の部材である。尚、基板9の温度を制御するため、基板ホルダー5は温度調節機構を内蔵する場合がある。例えば、基板9を室温以上の温度に温度調節する場合、ジュール熱を発生させるカートリッジヒータ又は輻射加熱ランプ等のヒータが基板ホルダー5内に設けられる。
さらに、基板ホルダー5は、基板9の温度を測定する熱電対等の不図示の基板温度センサを備えている。基板温度センサは、上記温度調節機構が設けられる場合には、そのフィードバック制御に利用され、基板9は成膜中所定の温度に維持される。尚、基板ホルダー5内に冷媒を流通させ、基板ホルダー5を介して基板9を冷却しながら基板9を所定の温度に維持する場合もある。
【0020】
シャッター7は、板状の部材であり、基板ホルダー5の上面と平行になるよう設けられている。シャッター7は、発熱体4からの熱を多く受けるため、モリブデン等の高融点金属やセラミック等の耐熱性を有する材料で形成されている。
シャッター7の大きさは、基板9の大きさよりも少し大きい。例えば、基板9が直径300mmの円形(300mmサイズの半導体ウェーハ)である場合、シャッターは、直径330〜400mm程度の円板とされる。
シャッター7は、シャッター駆動棒71によって支持されている。シャッター駆動棒71は、垂直に延びている部材であり、その上端が、シャッター7の周辺部の一カ所の下面に固定されている。
【0021】
シャッター駆動棒71は、処理容器1の底板部を気密に貫通しており、処理容器1外に位置するその下端には、シャッター駆動部72が連結されている。シャッター駆動部72は、DC若しくはACのサーボモータ、パルスモータ又はロータリーソレノイド等の回転系の駆動源である。シャッター駆動部72は、シャッター駆動棒71を回転させることで、シャッター駆動棒71を中心としてシャッター7を所定角度範囲内で円弧運動させるよう構成されている。シャッター7は、この円弧運動によって、基板ホルダー4に保持された基板9に対して発熱体4を光学的に遮蔽する閉位置と遮蔽しない開位置との間で移動することが可能になっている。
【0022】
次に、参考例の装置の大きな特徴点を成す制御部8の構成について説明する。制御部8は、具体的には、装置全体を制御するマイクロコンピュータであり、搭載された所定のソフトウェアによって動作するものである。制御部8は、ソフトウェアを記憶した記憶部、各種信号を入力する入力部、入力された信号及びソフトウェアに従って制御を判断する判断部、判断結果に従い制御信号を送る出力部等から構成されている。
【0023】
そして、制御部8は、少なくとも、排気系2の排気速度調整器22、ガス供給系3の流量調整器35、シャッター駆動部72に制御信号を送って制御できるよう構成されている。制御部8は、記憶部に記憶したソフトウェアによって特徴付けられるものである。以下、制御部8の説明も兼ねて、上記構成に係る参考例の装置の動作について説明する。以下の説明は、参考例の方法の説明でもある。
【0024】
まず、処理容器1に隣接したセパレーションチャンバー又はロードロックチャンバー等の不図示の予備真空室に基板9が配置されている状態で予備真空室及び処理容器1内を所定の圧力まで排気する。その後、不図示のゲートバルブが開けられ、不図示の搬送機構により基板9が処理容器1内に搬入される。基板9は、基板ホルダー5に載置され保持される。必要に応じて基板ホルダー5内の不図示の温度調節機構が動作し、基板9の温度が所定の値に調節される。尚、シャッター7は閉位置にある。
【0025】
基板9が基板ホルダー5の上面の所定位置に保持されたことを確認した信号が制御部8に送られると、制御部8は、まずエネルギー供給機構6に動作信号を送るようになっている。この動作信号によって、エネルギー供給機構6は発熱体4の通電を開始する。エネルギー供給機構6は、発熱体4の温度を検出する発熱体温度センサ40の信号に従って通電電力を制御し、発熱体4を所定の高温に維持するようにする。
発熱体4が所定の高温に維持されると、この確認信号が制御部8に送られるようになっている。制御部8は、この確認信号が入力されると、ガス供給系3に動作信号を送り、処理容器1内への原料ガスの導入を開始させる。即ち、バルブ34を開き、流量調整器35によって流量を調整しながら、原料ガスを処理容器1内に導入する。
【0026】
処理容器1内の圧力は、真空計12によって計測される。真空計12の計測結果は制御部8に常時送られる。制御部8は、排気系2の排気速度調整器22に制御信号を送り、処理容器1内の圧力が所定の値になるように制御する。そして、制御部8は、処理容器1内の圧力が所定の値に維持されていることを真空計12の計測結果から確認した後、シャッター駆動部72に制御信号を送り、シャッター7を開位置に移動させる。この結果、発熱体4の表面で変化が生じた原料ガスが効率良く基板9の表面に達し、基板9の表面に所定の薄膜が堆積する。
【0027】
薄膜の厚さが所定の値に達するのに必要な時間が経過した後、制御部8は、シャッター駆動部72に制御信号を送ってシャッター7を閉位置に位置させる。同時に、ガス供給系3のバルブ34に制御信号を送ってバルブ34を閉じるとともにエネルギー供給機構6の動作を停止させる。そして、排気系2が動作して処理容器1内を再度所定の圧力まで排気した後、不図示のゲートバルブが開いて不図示の搬送機構が基板9を処理容器1から取り出す。これで、一枚の基板9に対する一連の成膜処理が終了する。
【0028】
成膜の具体例について、シリコン窒化膜を作成する場合を例にして説明する。原料ガスとして、モノシランを流量0.1〜20.0cc/分、アンモニアを流量10.0〜2000.0cc/分の割合で混合して導入する。発熱体4の温度を1600〜2000℃、基板9の温度を200〜350℃、処理容器1内の圧力を0.1〜100Paに維持して成膜を行うと、1〜10nm/分程度の成膜速度でシリコン窒化膜の作成が行える。尚、このようなシリコン窒化膜は、保護膜として効果的に利用できる。
【0029】
次に、上述したような発熱体4を利用した成膜のメカニズムについて以下に説明する。発熱体4を利用することは、前述したように成膜時の基板9の温度を低くするためであるが、何故基板9の温度を低くしても成膜が行えるかについては、必ずしも明らかではない。一つのモデルとして、以下のような表面反応が生じていることが考えられる。
【0030】
図2は、参考例の装置や後述する実施形態の装置における成膜の一つの考えられるモデルについて説明する概略図である。上記シリコン窒化膜を作成する場合を例にとると、導入されたモノシランガスが、所定の高温に維持された発熱体4の表面を通過する際、水素分子の吸着解離反応に類似したシランの接触分解反応が生じ、SiH3 *及びH*という分解活性種が生成される。詳細なメカニズムは明かではないが、モノシランを構成する一つの水素がタングステン表面に吸着することで、その水素とシリコンの結合が弱まってモノシランが分解し、タングステン表面への吸着が熱によって解かれてSiH3 *及びH*という分解活性種が生成されると考えられる。アンモニアガスにも同様な接触分解反応が生じ、NH2 *及びH*という分解活性種が生成される。そして、これらの分解活性種が基板9に到達してシリコン窒化膜の堆積に寄与する。即ち、反応式で示すと、
SiH4(g)→SiH3 *(g)+H*(g)
NH3(g)→NH2 *(g)+H*(g)
aSiH3 *(g)+bNH2*(g)→cSiNx(s)
となる。尚、gの添え字はガス状態、sの添え字は固体状態であることを意味する。
【0031】
また、発熱体4の作用について、Jan. J. Appl. Pys. Vol.37(1998)pp.3175-3187 の論文で詳細な議論がされている。この論文では、発熱体の温度をパラメータにした成膜速度の傾きが発熱体の材料によって異なることから、発熱体の表面で生じているのは単なる熱分解ではなく触媒作用であるとしている(同 Fig.7参照)。このことから、この種のCVD法を触媒化学蒸着(catalytic CVD、cat−CVD)法と呼んでいる。
【0032】
さらに、参考例の装置や実施形態の装置におけるような成膜方法は、発熱体4の表面での熱電子の作用によるものとの考え方もできる。つまり、高温に維持された発熱体4の表面からは、トンネル効果により熱電子がエネルギー障壁を越えて原料ガスに作用したり、仕事関数以上のエネルギーを持った熱電子が原料ガスに作用したりして、この結果、原料ガスが分解したり活性化したりするとの考え方を採ることができる。
【0033】
参考例の装置や実施形態の装置における成膜のメカニズムについては、上記いずれの考え方も採り得る。また、これらの現象が同時に生じているとの考え方を採ることもできる。いずれの考え方を採るにしても、発熱体4の表面では、原料ガスの分解、活性化、又は、分解及び活性化の双方が生じており、これらいずれかの原料ガスの変化に起因して成膜がされている。そして、このような発熱体4を経由して原料ガスを基板9に到達させることにより、基板9の温度を比較的低くして成膜を行うことができる。
【0034】
さて、前述した参考例の装置の動作のうち、エネルギー供給機構6の動作、発熱体4の温度、ガス供給系3の動作、処理容器1内の圧力、シャッター7の位置の各要素について時系列的に示したのが、図3である。この図3に示すように、上述した動作では、発熱体4の温度が所定の高温に安定して維持されている状態で原料ガスが供給される。このため、分解や活性化の不十分な原料ガスが基板9の表面に到達するのが防止される。従って、前述したような成膜開始初期に膜質が悪くなる問題が抑制される。
【0035】
次に、本願発明の方法及び装置の実施形態について説明する。この実施形態は、発熱体4からの熱輻射をも考慮して、成膜開始初期の膜質の劣悪性を解消しようとするものである。
【0036】
発明者の研究によると、前述した成膜開始初期の膜質の劣悪性は、シャッター7を開くことによる基板9の温度上昇にも原因していると考えられる。つまり、シャッター7は、発熱体4を基板9に対して光学的に遮蔽するよう設けられているため、シャッター7を開いた瞬間に発熱体4の熱輻射が基板9に与えられ、瞬間的に激しく温度上昇するものと思われる。基板9はその後に熱平衡に達して安定した温度になるものの、シャッター7を開いた直後では基板9の温度は安定せず、この不安定な温度の時間帯に成膜がされる点も、上述したような膜質の劣悪性の原因であると考えられる。
【0037】
本実施形態の構成では、原料ガスの導入を開始する前にシャッター7を一旦開位置にし、基板9を発熱体4の熱輻射に晒して熱平衡に到達させる。その後、原料ガスを導入して成膜処理を行う。以下、前述した参考例と同様に、制御部8の構成として、実施形態の構成を詳しく説明する。
【0038】
同様に、不図示の予備真空室内に基板9を配置して予備真空室及び処理容器1内を所定の圧力まで排気し、ゲートバルブを開けて基板9を処理容器1内に搬入する。基板9は、基板ホルダー5に載置され保持される。尚、シャッター7は閉位置にある。
基板9が基板ホルダー5の上面の所定位置に保持されたことを確認した信号が制御部8に送られると、制御部8は、エネルギー供給機構6に動作信号を送り、エネルギー供給機構6は発熱体4の通電を開始する。エネルギー供給機構6は、発熱体4の温度を検出する発熱体温度センサ40の信号に従って通電電力を制御し、発熱体4を所定の高温に維持するようにする。
【0039】
発熱体4が所定の高温に維持されると、この確認信号が制御部8に送られる。参考例とは異なり、制御部8は、この確認信号が入力されると、シャッター駆動部72に制御信号を送り、シャッター7を開位置に移動させるようになっている。この結果、基板9が発熱体4からの輻射熱に晒され、温度上昇する。基板9の温度は、基板ホルダー5に設けた不図示の基板温度センサによって常時測定され、その測定結果は、制御部8に送られる。
【0040】
制御部8は、基板温度センサからの信号によって基板9が熱平衡に達したと判断すると、シャッター駆動部72に制御信号を送り、シャッター7を再び閉位置に戻す。この状態で、制御部8は、ガス供給系3に動作信号を送り、流量調整器35によって流量を調整しながら、原料ガスを処理容器1内に導入する。そして、制御部8は、排気系2の排気速度調整器22を制御して処理容器1内の圧力が所定の値になるようにし、処理容器1内の圧力がこの値に維持されていることを真空計12の計測結果から確認した後、シャッター駆動部72に制御信号を送り、シャッター7を開位置に移動させる。この結果、発熱体4の表面で変化が生じた原料ガスが効率良く基板9の表面に達し、基板9の表面に所定の薄膜が堆積する。
【0041】
同様に、薄膜の厚さが所定の値に達するのに必要な時間が経過した後、制御部8は、シャッター駆動部72を制御してシャッター7を閉位置に位置させるとともに、ガス供給系3及びエネルギー供給機構6の動作を停止させる。そして、処理容器1内を再度所定の圧力まで排気した後、不図示のゲートバルブが開いて基板9は処理容器1から取り出される。これで、一連の成膜処理が終了する。
【0042】
前述した実施形態の装置の動作のうち、エネルギー供給機構6の動作、発熱体4の温度、ガス供給系3の動作、処理容器1内の圧力、シャッター7の位置の各要素について、図3と同じように時系列的に示したのが図4である。この図4に示すように、実施形態では、発熱体4の温度が所定の高温に安定して維持されている状態で原料ガスが供給されるのに加えて、基板9が熱平衡に達して温度が安定した後に原料ガスが供給される。このため、分解や活性化の不十分な原料ガスが基板9の表面に到達するのが防止されるとともに、基板9の温度が不安定な時間帯に成膜がされるのが防止される。従って、前述した成膜開始初期に膜質が悪くなる問題がさらに効果的に解消される。
【0043】
具体的な経過時間について図4を用いて説明すると、エネルギー供給機構6が動作を開始してから発熱体4が所定の高温に維持されるまでの時間(t1)は、0.5秒〜2秒程度、シャッター7を開位置に移動させてから基板9が熱平衡に達してシャッター7を閉位置に戻すまでの時間(t2)は、60秒〜360秒程度である。また、シャッター7を閉位置にして原料ガスの導入を開始した後、処理容器1内の圧力が一定の値になったのを確認してシャッター7を再び開位置にするまでの時間(t3)は、5〜120秒程度である。
【0044】
上述した実施形態の装置で作成される薄膜は、シリコン窒化膜に限られるものではなく、シリコン酸化膜、シリコン酸窒化膜などの他の絶縁膜でもよい。また、アルミや銅等の導電膜についても、実施形態の装置を用いて作成できる可能性がある。
【0045】
【発明の効果】
以上説明した通り、本願の請求項1の方法又は請求項2の装置の発明によれば、発熱体の温度が所定の高温に安定して維持されている状態で原料ガスが供給されるので、分解や活性化の不十分な原料ガスが基板の表面に到達するのが防止される。従って、成膜開始初期に膜質が悪くなる問題が生じない。また、この効果に加え、基板が熱平衡に達して温度が安定した後に原料ガスが供給されるので、基板の温度が不安定な時間帯に成膜がされるのが防止される。従って、成膜開始初期に膜質が悪くなる問題がさらに効果的に解消される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 参考例の化学蒸着装置の構成を説明する正面断面概略図である。
【図2】 参考例及び実施形態の装置における成膜の一つの考えられるモデルについて説明する概略図である。
【図3】 参考例の装置の動作のうち、エネルギー供給機構6の動作、発熱体4の温度、ガス供給系3の動作、処理容器1内の圧力、シャッター7の位置の各要素について時系列的に示したタイミングチャートである。
【図4】 実施形態の装置の動作のうち、エネルギー供給機構6の動作、発熱体4の温度、ガス供給系3の動作、処理容器1内の圧力、シャッター7の位置の各要素について時系列的に示したタイミングチャートである。
【図5】 従来の化学蒸着装置の構成を説明する正面断面概略図である。
【符号の説明】
1 処理容器
12 真空計
2 排気系
21 真空ポンプ
22 排気速度調整器
3 ガス供給系
34 バルブ
35 流量調整器
4 発熱体
40 発熱体温度センサ
5 基板ホルダー
6 エネルギー供給機構
7 シャッター
72 シャッター駆動部
8 制御部
9 基板
Claims (2)
- 所定の高温に維持される発熱体が内部に設けられているとともに処理対象物である基板が配置されている処理容器内に原料ガスを導入し、発熱体と基板との間に設けられているシャッターを開閉しながら発熱体の表面における原料ガスの分解及び又は活性化を利用して基板の表面に所定の薄膜を作成する化学蒸着方法であって、前記発熱体が前記基板に対して光学的に遮蔽される位置である閉位置に前記シャッターを位置させた状態で前記発熱体へのエネルギーの供給を開始する第一の工程と、エネルギー供給によって前記発熱体が所定の高温に維持された後、前記発熱体が前記基板に対して光学的に遮蔽されない開位置に前記シャッターを退避させて、前記発熱体の熱輻射を前記基板に与えるようにする第二の工程と、前記発熱体からの熱輻射により上昇した前記基板の温度が安定した後、前記シャッターを前記閉位置に再び位置させ、この状態で前記処理容器内に前記原料ガスの導入をする第三の工程と、第三の工程の後、前記処理容器内の圧力及び前記原料ガスの流量が所定の値になってから、前記シャッターを前記開位置に再び位置させて前記所定の薄膜を作成する第四の工程とを行うこと特徴とする化学蒸着方法。
- 内部で基板に対して所定の処理がなされる処理容器と、処理容器内を所定の圧力に排気する排気系と、処理容器内に所定の原料ガスを供給するガス供給系と、供給された原料ガスが表面付近を通過するように処理容器内に設けられた発熱体と、発熱体が所定の高温に維持されるよう発熱体にエネルギーを与えるエネルギー供給機構と、所定の高温に維持された発熱体の表面に供給されることで分解及び又は活性化した原料ガスが到達して所定の薄膜が作成される処理容器内の所定の位置に基板を保持する基板ホルダーとを備えた化学蒸着装置であって、前記発熱体と前記基板ホルダーとの間に設けられたシャッターと、前記発熱体を前記基板に対して光学的に遮蔽する閉位置と遮蔽しない開位置との間でシャッターを移動させるシャッター駆動部と、シャッター駆動部を制御する制御部とを備えており、前記制御部は、前記発熱体が所定の高温に維持されている状態で前記シャッターを閉位置から開位置に移動させ、その後、前記発熱体からの熱輻射により上昇した前記基板の温度が安定した後に前記シャッターを開位置から閉位置に移動させ、さらにその後、前記処理容器内に前記原料ガスが導入されて前記処理容器内の圧力及び原料ガスの流量が所定の値になった後に前記シャッターを閉位置から開位置に移動させるようシャッター駆動部を制御するものであることを特徴とする化学蒸着装置。
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