JP4229591B2 - 前立腺特異的膜抗原の細胞外ドメインに対して特異的なモノクローナル抗体 - Google Patents
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Description
1.発明の分野
本発明は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体、該抗体を生産するハイブリドーマ細胞系、並びにそのような抗体を癌の診断および治療に使用する方法に関する。特に本発明は、PSMAのカルボキシ末端領域の一部と実質的に相同である合成ペプチドに対して産生され、前立腺癌患者の腫瘍細胞表面上および血清中で発現するPSMAと反応するモノクローナル抗体に関する。さらに本発明は、前立腺癌の膜調製物に対して産生され、やはり細胞表面上で発現するPSMAと反応する34のモノクローナル抗体に関する。本発明はまた、上記抗体により検出されるPSMAの新規のタンパク質変異型(PSM')に関する。
【0002】
2.発明の背景
前立腺癌は男性における癌による死亡原因の第2位を占める。実際、前立腺癌はアメリカ人男性において診断される最も一般的な皮膚以外に関わる癌である。高齢男性の人口の増加および前立腺癌に対する認識の広がりによる早期診断の結果、前立腺癌と診断される男性の数は着実に増加している(Parkerら、1997、CA Cancer J. for Clin. 47:5-28)。1997年には334,500人を越える男性が前立腺癌と診断され、この病気によりおよそ41,800人が死亡すると予測された。男性が一生のうちに前立腺癌に罹る危険性は、白人では5人中約1人、アフリカ系アメリカ人では6人中1人である。高い危険性を有するグループは、家系に前立腺癌患者もしくはアフリカ系アメリカ人がいるグループに代表される。前立腺癌と診断された男性のうちの3分の2以上が一生のうちにこの病気が原因で死亡する(Wingoら、1996、CA Cancer J. for Clin. 46:113-25)。また、前立腺癌で死亡していない患者の多くが、疼痛、出血、および尿路閉鎖などの症状を緩和するための継続的な治療を必要とする。つまり、前立腺癌はまた、苦痛および健康維持にかかる出費上昇の主な原因でもある(Catalona、1994、New Eng. J. Med. 331:996-1004)。
【0003】
PSMAは、前立腺組織で発現する分子量120kDaのタンパク質であり、従来7E11-C5と称されるモノクローナル抗体との反応性によって同定されていた(Horoszewiczら、1987、Anticancer Res. 7:927-935;米国特許第5,162,504号)。PSMAは、精製された形態で入手でき (Wrightら、1990、Antibody Immunoconjugates and Radio Pharmaceuticals 3:要約193)、トランスフェリン受容体(Israeliら、1994、Cancer Res. 54:1807-1811)およびNAALADase活性(Carterら、1996、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93:749-753)と配列同一性を有するII型膜貫通タンパク質として特徴づけられる。さらに重要なことに、PSMAは前立腺癌においてより多く発現し、またこれらの患者の血清においても高い量のPSMAが検出される (Horoszewiczら、1987、同上;Rochonら、1994、Prostate 25:219-223;Murphyら、1995、Prostate 26:164-168;およびMurphyら、1995、Anticancer Res. 15:1473-1479)。PSMAをコードするcDNAがクローニングされ (Israeliら、1993、Cancer Res. 53:227-230)、このcDNAは、2つの選択的にスプライシングされたmRNA種、即ち、PSMAをコードする2,653ヌクレオチドを含むmRNA種、およびPSM'と称される2,387ヌクレオチドを含む第2のmRNA種を産生する(Suら、1995、Cancer Res. 55:1441-1443)。本発明以前には、PSM'タンパク質産物は一度も検出されなかったために、PSM'がタンパク質産物をコードするのかそれとも単に未翻訳mRNA種として存在するだけなのか知られていなかった。
【0004】
Carterらによる最近の報告(1996、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、93:749-753)は、PSMAcDNAの一部に相当する1428塩基と、タンパク質N-アセチル化α結合酸性ジペプチダーゼ(NAALADase)のcDNA配列との間に高い同一性があることを示している。NAALADaseは、神経ペプチドN-アセチルアスパルチルグルタミン酸に対する酵素活性を有し、グルタミン酸とN-アセチルアスパラギン酸を生成する。この報告によれば、PSMAタンパク質固有のNAALADase活性は実証されているが、PSMAの触媒部分は同定されていない。NAALADase活性は、PSMAを発現したLNCaP細胞において認められたが、PSMAを発現しないPC3細胞においては認められなかった。PSMAcDNAをPC3細胞にトランスフェクトすることにより、これらの細胞にNAALADase活性およびPSMAの存在が生じた。
【0005】
PSMAおよびPSM'のcDNAの違いは、ヌクレオチド#1〜171またはアミノ酸#1〜57を含む膜貫通、細胞内コード領域の欠損である。PSMAはII型膜タンパク質とされており、II型膜タンパク質の機能的触媒ドメインは分子のC-末端細胞外領域にあることが知られている(DeVriesら、1995、J.Biol.Chem.、270:8712-8722)。
【0006】
良性の過形成または前立腺癌を患う患者の前立腺組織よりも正常な前立腺組織においてより多くのPSM' mRNAが認められた(Suら、1995、同上)。逆に、PSMA mRNAは、前立腺癌を患っていない患者よりも前立腺癌を患っている患者においてより高いレベルで認められた(Suら、1995、同上)。この観察された違いは、先に記載されたPSMAの血清タンパク質量と一致している(Horoszewiczら、1987、同上;Rochonら、1994、同上;Murphyら、1995、同上;およびMurphyら、1995、同上)。これに関連して、前立腺癌患者の血清中のPSMAの上昇量は、病気の進行対緩解に相関しており、予後マーカーとして用い得る(Murphyら、1995、同上)。
【0007】
モノクローナル抗体7E11-C5によって認識されるエピトープは、PSMAの細胞内N-末端領域の最初の6個のアミノ酸にマッピングされた(Troyerら、1995、Urol.Oncol.1:29-37)(図1)。7E11-C5を用いた電子免疫細胞化学によって、この抗体に対するエピトープは細胞質と、特に原形質膜の内葉に局在化していた (Troyerら、1994、Proc.Am.Assoc.Cancer Res.35:283、要約1688)。さらに、モノクローナル抗体7E11-C5は、in vitro検査において、固定および透過した細胞のみを染色し(Horoszewiczら、1987、同上)、この結果、PSMAのN-末端または細胞内ドメインへの7E11-C5エピトープのマッピングと一致する。おそらく壊死および/またはアポトーシスを通じてそのエピトープを露呈すると考えられる前立腺癌をin vivoで検出するのに7E11-C5が有用であるのに対し、PSMAの細胞外ドメインに特異的なモノクローナル抗体は、癌細胞表面上のPSMAをより効率的に検出することを可能にする。また、PSM'はPSMAの細胞内ドメインを欠くために、モノクローナル抗体7E11-C5はPSM'のmRNA転写体の配列に基づいてPSM'を認識しない。
【0008】
本節または本願のその他の全ての節における全参考文献を引用または列挙することにより、それらの参考文献が本発明の先行技術にあたると認めるものではない。
【0009】
3.発明の要旨
本発明は、PSMAの細胞外ドメインに特異的なモノクローナル抗体、該抗体を生産するハイブリドーマ細胞系、該抗体を前立腺癌の診断および治療に使用する方法、並びにそのような抗体により認識されるPSM'として知られるPSMAの変異型タンパク質に関する。
【0010】
本発明の一部は、出願人がPSMAの細胞外ドメインを認識するモノクローナル抗体を発見したことに基づいている。抗体のうちの1つは、アミノ酸配列ESKVDPSK(配列番号1)を有するPSMAのC-末端ペプチドでマウスを免疫することにより産生した。この抗体は、前立腺癌患者の腫瘍細胞溶解物および血清中のPSMAおよびPSM'タンパク質と反応する。また、この抗体は、無傷の腫瘍生細胞を染色し、PSMAまたはPSM'タンパク質の細胞外ドメインに対する特異性が確認された。この抗体はまた、ヒト精液中のPSM'も検出し、このヒト精液中のPSM'はNAALADase活性を示す。更なる例証的なモノクローナル抗体もまた、前立腺癌の膜調製物に対して産生した。これらの抗体は、イムノアフィニティー精製により単離された天然PSMAおよび組換えDNA技術により生産された組換えPSMAを含むPSMAの細胞外ドメインと反応する。これらの抗体の大部分が、PSM'とも反応する。本発明の抗体は、PSMAの細胞内ドメインに対する抗体と組み合わせて、二部位捕捉アッセイにおいて検査サンプル中のPSMAの存在を検出するのに有用となる。さらに本明細書で開示される抗体は、検査サンプル中のPSM'の存在を検出するための二部位捕捉アッセイにおいて使用され得る。
【0011】
本発明は、広範にわたる様々な使用を包含するものであり、以下に限定されないが、患者における前立腺癌の検出またはステージ分類のためにイムノアッセイを開発および使用すること、第一および/または転移前立腺癌をin vivoで画像化すること、細胞傷害剤または化学療法剤にコンジュゲートした抗体を使用する等抗体を治療に使用すること、並びに、抗体断片、キメラ抗体、ヒト化抗体、または二価抗体を構築および使用することを含む。
【0012】
4.図面の簡単な説明
(下記参照)
【0013】
5.発明の詳細な説明
本発明は、PSMAの細胞外ドメインに特異的なモノクローナル抗体、そのような抗体の使用方法、およびそのような抗体により同定されるトランケートタンパク質変異体であるPSM'に関する。本明細書に記載の特定の手順および方法は、マウスを免疫するためのC末端ペプチドまたはPSMA発現性腫瘍膜調製物または精製されたPSMAを用いて例示されるが、それらは本発明の実施を説明するためのものにすぎない。類似の手順および技法が、タンパク質、ペプチド、細胞表面抗原および粗製膜調製物の形態のPSMAに対して免疫された種々の動物宿主に対して同じように適用可能である。
【0014】
5.1 ハイブリドーマ細胞系および抗体産生
第6節(後記)の実施例による特定の実施態様では、PSMAのC末端領域から誘導される合成ペプチドを免疫原として用いた。その結果、3F5.4G6と命名された1つの抗体が、PSMAの細胞外ドメインに結合しており、これは生きている前立腺癌細胞の細胞表面上および前立腺癌患者の血清中に露出していることが示される。さらに、第7節および第8節(後記)の実施例では、PSMA発現性腫瘍膜調製物を用いて動物を免疫した後で、PSMAの細胞外ドメインに対する更なるモノクローナル抗体を産生させることが示されている。これに関連して、PSMAの細胞外ドメインに特異的なモノクローナル抗体を産生するために動物宿主内で免疫応答を生起させる免疫原としては、PSMAを発現するLNCaPのような癌細胞、PSMAコード配列でトランスフェクトした宿主細胞、精製PSMA、PSM'またはPSMA細胞外ドメインペプチドが使用可能である。
【0015】
抗体を産生する可能性のある体細胞、特にBリンパ球は、B細胞ミエローマ系との融合に好適である。分裂中の形質芽球期(dividing plasmablast stage)にある抗体産生細胞が優先的に融合する。体細胞は、抗原感作動物のリンパ節、脾臓および末梢血から得ることが可能であり、選択されるリンパ細胞は、特定の融合系における経験に基づく有用性に大きく依存する。一旦感作されたかまたは超免疫された動物が、抗体産生リンパ球の供給源として使用できる。マウス・リンパ球は、以下に記載するマウスミエローマ系との安定な融合を高比率でもたらす。それらの中でも、BALB/cマウスが好ましい。しかし、他のマウス系統、ウサギ、ハムスター、ヒツジおよびカエルもまた、抗体産生細胞を調製するための宿主として使用可能である。Godingにより概説されているように(Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 第2版、60〜61頁、Orlando, Fla, Academic Press, 1986)、ラット・リンパ球を使用すると幾つかの利点がもたらされることがある。
【0016】
あるいは、抗体の産生能を有するヒト体細胞(特に、Bリンパ球)が、ミエローマ細胞系との融合に好適である。個体の生検した脾臓、扁桃またはリンパ節からのBリンパ球が使用可能であるが、さらに容易に入手可能な末梢血Bリンパ球が好ましい。このリンパ球は、前立腺癌と診断された患者から誘導され得る。さらに、ヒトB細胞は、エプスタイン−バーウイルス(Epstein-Barr virus)により直接不死化してもよい(Coleら, 1995, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc. 77〜96頁)。
【0017】
ハイブリドーマ産生融合法での使用に適するミエローマ細胞系は、好ましくは、非抗体産生性であり、高い融合効率を有し、かつ所望のハイブリドーマの増殖を維持する特定の選択培地で該細胞系を増殖不能にする酵素欠損体である。本発明の融合細胞ハイブリッドの産生に使用可能なそのようなミエローマ細胞系の例としては、P3-X63/Ag8、X63-Ag8.653、NS1/1.Ag4.1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG1.7、S194/5XX0 Bul(これらは全てマウス由来);R210.RCY3、Y3-Ag1.2.3.、IR983Fおよび4B210(ラット由来);ならびにU-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2、UC729-6(これらは全てヒト由来)が挙げられる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 第2版, 65〜66頁,Orlando, Fla, Academic Press, 1986;Campbell, Monoclonal Antibody Technology, Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology 第13巻, BurdenおよびVon Knippenberg編, 75〜83頁, Amsterdam, Elseview, 1984)。
【0018】
抗体産生脾臓またはリンパ節細胞とミエローマ細胞とのハイブリッドの作製方法は、一般に、細胞膜の融合を促進する(化学的または電気的)作用因子(agent)の存在下で体細胞とミエローマ細胞とを各々2:1の比率(但し、この比率は約20:1〜約1:1の間で変えることが可能である)で混合することを含む。この融合手法で用いられる体細胞およびミエローマ細胞の供給源としては、同じ種の動物を用いることが好ましい場合が多い。融合方法は、KohlerおよびMilstein(1975, Nature 256: 495-497; 1976, Eur. J. Immunol. 6: 511-519)ならびにGefterら(1977, Somatic Cell Genet. 3: 231-236)により記載されている。それらの研究者が用いた融合促進剤は、それぞれセンダイウイルスおよびポリエチレングリコール(PEG)であった。Godingが概説している融合方法(1986, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,第2版, 71〜74頁, Orlando, Fla, Academic Press)は上記の融合方法ならびに電気的に誘導される融合を包含しており、これもまた本発明のモノクローナル抗体の作製に好適である。
【0019】
融合手順により、一般に、生存可能なハイブリッドが非常に低い頻度(約1×10-6〜1×10-8個の体細胞)で作製される。生存可能なハイブリッドはこのように低頻度で得られるので、融合細胞ハイブリッドを残りの未融合細胞(特に、未融合ミエローマ細胞)から選別する手段を有することが必須である。さらに、所望の抗体産生ハイブリドーマを他の残りの融合細胞ハイブリッドから検出する手段も必要である。
【0020】
一般に、融合細胞は、選択培地、例えば、ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含有するHAT培地で培養する。HAT培地は、ハイブリッド細胞の増殖(proliferation)を可能にし、通常は無限に分裂し続ける未融合ミエローマ細胞の増殖(growth)を阻止する。アミノプテリンは、テトラヒドロ葉酸塩の生成を阻害することによりプリンおよびピリミジンのde novo合成を遮断する。チミジンの添加によりピリミジン合成の遮断が回避され、一方、ヒポキサンチンが培地に含まれることにより阻害された細胞がヌクレオチド再利用経路を用いてプリンを合成するようになる。用いられるミエローマ細胞は、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)が欠如しており、そのためにその再利用経路を利用できない変異体である。生存ハイブリッドでは、Bリンパ球は、この酵素を産生するための遺伝情報を提供する。Bリンパ球自体は培養下で有限の寿命(約2週間)を有するので、HAT培地で増殖できる細胞だけが、ミエローマ細胞と脾臓細胞とから形成されるハイブリッドである。
【0021】
上記ハイブリッドにより分泌される抗体のスクリーニングを容易にするために、そして個々のハイブリッドが他のものよりも過剰増殖しないようにするために、融合したミエローマおよびBリンパ球の混合物をHAT培地に希釈し、マイクロタイタープレートの複数のウエル中で培養する。2〜3週間で、ハイブリッドクローンが顕微鏡観察下で見えるようになったら、ハイブリッドクローンを含有する個々のウエルの上清液を、特定の抗体についてアッセイする。このアッセイは、高感度で、簡易で、かつ迅速なものでなければならない。アッセイ技術としては、ラジオイムノアッセイ、酵素免疫アッセイ、細胞傷害性アッセイ、プラークアッセイ、ドット免疫結合(dot immunobinding)アッセイなどが挙げられる。
【0022】
所望の融合細胞ハイブリッドを選択し個々の抗体産生細胞系にクローニングしたら、各細胞系は、2つの標準的な方法のいずれかにより増殖させてもよい。ハイブリドーマのサンプルは、最初の融合のための体細胞およびミエローマ細胞を供給するのに用いた種類の組織適合性動物に注射することができる。注射した動物は、融合細胞ハイブリッドにより産生される特定のモノクローナル抗体を分泌する腫瘍を生ずる。この動物の体液(例えば、血清または腹水)を抜き取ることにより、高濃度のモノクローナル抗体が得られる。あるいはまた、個々の細胞系を、実験室用培養容器内でin vitroで増殖させることも可能である。この培養培地も単一の特定のモノクローナル抗体を高濃度で含有しており、これはデカンテーション、濾過または遠心分離により採取できる。
【0023】
ハイブリドーマ技術に加えて、PSMAの細胞外ドメインに特異的なモノクローナル抗体は、当技術分野で良く知られた他の方法によっても作製され得る。例えば、ファージ展示技術を使用した分子的アプローチをPSMAに結合する抗体可変領域の発現に使用し得る(米国特許第5,223,409号、同第5,403,484号および同第5,571,698号)。
【0024】
モノクローナル抗体または抗原結合領域の少なくとも一部を有する該モノクローナル抗体の精製断片[例えば、Fv、F(ab')2、Fab断片](HarlowおよびLane, 1988, Antibody, Cold Spring Harbor)、一本鎖抗体(米国特許第4,946,778号)、キメラまたはヒト化抗体(Morrisonら、1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851;Newubergerら、1984, Nature, 81:6851)および相補性決定領域(CDR)は、慣用の手法により調製可能である。これらの抗体または断片の精製は、例えば、硫酸アンモニウムまたは硫酸ナトリウムにより沈殿させた後で、食塩水への透析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティまたはイムノアフィニティクロマトグラフィー、ならびにゲル濾過、ゾーン電気泳動などを行う、当業者に公知の種々の方法により達成できる(Goding、Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 第2版、104〜126頁、Orlando, Fla, Academic Press参照)。
【0025】
5.2 モノクローナル抗体および PSM' の特性決定
第5.1節(前記)に概略的に説明した技術および第6節〜第8節(後記)で説明する技術を用いて、PSMAの細胞外ドメインの特異的なモノクローナル抗体の産生に基づいて、35のハイブリドーマ細胞系を選択した。本発明は、後記の第6、7、8節で例示されるモノクローナル抗体、ならびに、PSMAおよびPSM'の細胞外ドメインに特異的に結合する他のモノクローナル抗体を包含するものであり、特に、酵素免疫アッセイ、放射線免疫アッセイまたは他の任意の競合結合免疫アッセイで評価された際に、上記の抗体のうちの任意の1つ以上の抗体がPSMAに結合するのを競合的に阻害する全ての抗体を含む。
【0026】
抗体3F5.4G6は、前立腺癌細胞溶解物中および前立腺癌細胞の細胞表面上ならびに前立腺癌患者から得た血清中に発現されるPSMAに特異的に結合するIgMのアイソタイプ抗体である。さらに、3F5.4G6はPSM'にも特異的に結合する。3F5.4G6反応性PSMAエピトープは細胞外でC末端であり、細胞の細胞質で膜結合している7E11-C5により認識されるもの(Horoszewiczら、Anticancer Res. 7:927-936)とは異なる。抗体3D7-1.1および4E10-1.14もまたIgM抗体であり、前立腺癌細胞溶解物中および細胞表面上で発現されるPSMAに結合する。これらの抗体は、原発性前立腺癌および転移性腫瘍(例えば、前立腺癌の骨への転移)の双方を検出するのに使用可能である。さらに、IgGアイソタイプの32の抗体を作製した。これらはPSMAの細胞外ドメイン全体にわたるエピトープに関して特異的であった。IgGアイソタイプ抗体は、補体媒介細胞崩壊を活性化し、それらのFc領域を介して食細胞に結合する。さらに、それらのサイズが小さいことおよびそれらの安定性により、in vivo組織中においてIgGよりも良好な浸透が得られるであろう。
【0027】
抗体応答が生じる際に、抗体産生細胞はまず最初にIgMアイソタイプを分泌し、これは最終的にIgGにスイッチされる。そのようなクラススイッチ事象は、同じ抗原特異性が保持されるような定常領域遺伝子のDNA再編成により生じるものである。異なる抗体のアイソタイプは、異なるエフェクター機能を有する。例えば、IgMおよびIgG4以外の全てのIgGサブクラスは、抗原結合の際に補体を固定する。これに対して、IgEはアレルギー反応において肥満細胞に結合してヒスタミンの放出を誘発する。
【0028】
ハイブリドーマ細胞系も、長期培養の間にクラススイッチ変異体を産生する。特に、IgMからIgGまたはIgG1からIgG2nへとスイッチするモノクローナル抗体はプロテインAに対する高い親和性に基づいて選択されて、これにより、それら抗体の精製が促進される。任意のクラススイッチ変異体を特定の所望のエフェクター機能について選択することができる(Spiraら、1985, Hybridoma Technology in the Biosciences and Medicine, Springer編、77〜88頁, Plenum Press, NY; Harlow およびLane, 1988 Antibodies, Cold Spring Harbor Laboratory)。例示した抗体の場合、それらはIgMのアイソタイプなので、同じ抗原特異性を有するIgG変異体を選択することも望ましく、これは、in vitroまたはin vivoにおける特定の目的にはさらに有用である場合がある。本発明は、3F5.4G6、3D7-1.1および4E10-1.14を含む本発明のモノクローナル抗体のIgG変異体を包含する。
【0029】
第6節〜第8節(後記)では、例示の抗体が120kDaの分子量のタンパク質を認識することが示されている。特に、これらの抗体の大部分はまた、前立腺腫瘍細胞溶解物中の105〜110kDaの分子量のタンパク質を認識する。この120kDaのタンパク質は抗体7E11-C5によっても認識されるが、その低分子量の方のタンパク質は本発明の抗体によってのみ検出される。したがって、その105〜110kDaのタンパク質は、PSM'として知られるmRNAの産物を提示する。しかしながら、本発明以前には、PSM'タンパク質はいっさい報告されておらず、それは未翻訳のmRNAであると考えられていた。PSM'のアミノ酸配列は、そのRNA配列から推定されるように、PSMAの細胞質領域および膜貫通領域が欠如していると予想されるので、7E11-C5が、その細胞内エピトープに対する特異性のために、この産物と反応しないであろうことと矛盾しない。これに対して、PSMAの細胞外ドメインに特異的な抗体はPSM'も認識する。
【0030】
5.3 PSMA 特異的モノクローナル抗体のコード配列
本発明の別の実施形態では、例示のハイブリドーマ細胞系を用いて、抗原結合部位または抗体変異体を含む組成物を製造することが可能であり、該抗体変異体は、ネズミの可変領域または超可変領域をヒトの定常領域もしくは定常および可変フレームワーク領域と組合せたもの、すなわち、キメラまたはヒト化抗体、ならびに患者の抗体由来の抗原結合CDRのみをヒト・フレームワーク領域と結合させて保持するヒト化抗体である(Waldmann, 1991, Science 252:1657, 1662, 特に1658-59、ならびにそこに引用されている文献を参照)。ネズミ抗体の結合特異性を保持しているそのようなキメラまたはヒト化抗体は、本発明による診断、予防または治療の用途のためにin vivoで投与した場合、低下した免疫原性を有すると予想される。
さらに別の実施形態では、本発明は、再編成された活性化免疫グロブリン遺伝子をコードするDNAまたはmRNAの供給源としてハイブリドーマ細胞系を使用することを包含するものであり、この免疫グロブリン遺伝子は単離し、公知の組換えDNA技術によりクローニングし、そしてPSMAの細胞外ドメインに特異的な抗原結合フラグメントの作製のために他の細胞へ移送することが可能である。本発明のハイブリドーマ細胞系の再編成DNAの単離または該ハイブリドーマ細胞系のmRNAからのcDNAの調製により、イントロンを含まない配列が得られる可能性がある。
【0031】
説明のために(しかし限定しようとするものではないが)、以下のようにして免疫発現ライブラリーを作製し、PSMAおよびPSM'に対する抗体結合フラグメントをスクリーニングすることができる(Huseら,1989, Sci. 246:1275-1281;Mullinaxら, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 8045-8099 参照)。全RNAが精製でき(例えば、市販のキットを用いることによる)、軽(L)鎖のためのオリゴ(dT)プライマーおよび重(H)鎖のための特定のプライマーを用いて逆転写酵素を用いてcDNAに変換できる。免疫グロブリンH鎖およびL鎖の配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅は、プライマー対の組を用いて別々に行われる。上流プライマーはリーダーの部分的に保存された配列および/またはVHもしくはVLのフレームワーク領域にハイブリダイズするように設計でき、下流プライマーは定常ドメイン配列にハイブリダイズするように設計できる。そのようなプライマーは、完全長L鎖を維持し、IgGのFdに対応しH−Lジスルフィド結合を保存しているH鎖を付与するであろう。PCR増幅したLおよびH DNA断片を次いで消化し、それぞれHおよびL鎖ベクターに連結する。そのようなベクターはpelBリーダー配列、リボソーム結合部位および終止コドンを含有する。大腸菌(E. coli)中での発現に適切なλファージベクターは、市販のベクター(ImmunoZAP L、ImmunoZAP H;Stratacyte, La Jolla, Ca)から調製できる。連結した組換えファージDNAをin vitroパッケージング抽出物(in vitro packaging extract)と共にバクテリオファージに組み込み、大腸菌を感染させるのに用いる。このようにして作製された免疫発現ライブラリーを、PSMA、PSM'またはそれらの特定のペプチドを用いて抗原結合フラグメントについてスクリーニングする。陽性のクローンは、Mullinaxら(前掲)により記載されているようにしてスクリーニングおよび同定できる。
【0032】
5.4 PSMA 細胞外ドメイン特異的抗体および抗体組成物の使用
本明細書に記載する特定の手法および方法は、本発明のモノクローナル抗体を用いて例示されるが、それらは本発明を実施するための説明にしかすぎない。本発明による以下に記載の手法および方法では、抗原結合領域の少なくとも一部を有するモノクローナル抗体の精製フラグメント(例えば、Fv、F(ab')2、Fabフラグメント)、一本鎖抗体、キメラまたはヒト化抗体またはCDRが使用できる。
【0033】
5.4.1 免疫組織学的および免疫細胞学的適用
本発明のモノクローナル抗体は、組織学的および細胞学的検体中の前立腺癌腫細胞の検出、特に正常組織および非悪性腫瘍からの悪性腫瘍を識別するのに使用することができる。組織検体は該抗体により染色可能であり、それらの結合は、ペルオキシダーゼ、フルオロセイン、アルカリホスファターゼなどの標識に結合した第二抗体により検出し得る。
【0034】
さらに、免疫蛍光法で本発明のモノクローナル抗体を用いて、ヒト組織、細胞および体液の検体を調べることができる。典型的なプロトコールでは、凍結した非固定化組織生検サンプルのクリオスタット切片を含むスライドガラスまたは細胞学的スミアを風乾し、ホルマリンまたはアセトンで固定し、モノクローナル抗体調製物と共に給湿チャンバー内で室温にてインキュベートする。
【0035】
次に、そのスライドガラスを洗浄し、上記モノクローナル抗体に対する抗体の調製物と共にさらにインキュベートする。この抗体は、使用するモノクローナル抗体がマウス脾臓リンパ球とマウスミエローマ細胞系との融合物に由来する場合には、通常は或る特定のタイプの抗-マウス免疫グロブリンである。この抗-マウス免疫グロブリンは、特定の波長で蛍光発光する化合物(例えば、ローダミンまたはフルオロセインイソチオシアナート)でタグ付けする。次いで、サンプル中の染色パターンおよび強度を蛍光顕微鏡により測定し、場合によっては写真に記録する。
【0036】
さらに別の実施形態として、本発明のモノクローナル抗体を用いて組織検体または剥脱細胞(すなわち、前立腺腫瘍の吸引生検から得られる単一細胞調製物)を試験するために、コンピューターで画質向上させた(computer enhanced)蛍光画像分析またはフローサイトメトリーを用いることができる。本発明のモノクローナル抗体は、コンピューターで画質向上させた蛍光画像アナライザーによる、またはフローサイトメーターを用いる生きている腫瘍細胞(すなわち、前立腺腫瘍の吸引生検から得られる単一細胞調製物)の定量に特に有用である。そのようなアッセイにおいて本発明の抗体を用いることは、良性の前立腺腫瘍と悪性の前立腺腫瘍とを区別するのに有用である。何故ならば、該モノクローナル抗体が結合するPSMAは、悪性腫瘍により増大した量で発現されるからである。さらに、PSMA陽性細胞集団の割合は、それ単独で、もしくはこれらの細胞のDNA倍数性の測定と共に、疾患の進行の初期の指標を提供することにより、非常に有用な予後の情報を提供し得る。
【0037】
さらに別の実施態様では、本発明のモノクローナル抗体は、他の既知の前立腺抗体と組合せて使用して、前立腺癌腫の悪性表現型に関するさらなる情報を提供することができる。
【0038】
5.4.2 免疫血清学的適用
本発明のモノクローナル抗体は、その使用を、認識される特異的抗原決定基の存在についてヒト生物学的体液のスクリーニングへも広げることができる。患者から集めた生物学的体液のin vitro免疫血清学的評価によって、非侵襲的に癌を診断することができる。例示として、前立腺液、精液、全血、血清あるいは尿のようなヒト体液を患者から採取し、標準的なラジオイムノアッセイまたは酵素結合(enzyme-linked)イムノアッセイ、競合的結合酵素結合イムノアッセイ、ドットブロットあるいはウェスタンブロット、または当業界で公知の他の測定法において、PSMAおよびPSM'の細胞外ドメインに特異的なモノクローナル抗体を用い、サンプル液中の放出された抗原または細胞膜に結合した抗原として、特異的エピトープについてアッセイすることができる。
【0039】
さらに、PSMAおよびPSM'上の重複していないエピトープに対するモノクローナル抗体を使用することによって、より感度の高いPSMAまたはPSM'タンパク質の診断アッセイを開発することができる。7E11-C5および本発明の抗体のようなPSMAの反対末端に特異的な抗体は、特に、このようなアッセイに使用するのに適している。この点に関し、一つの抗体は生物学的液体中のPSMAまたはPSM'を捕捉する基質に固定させておいてもよく、もう1つの抗体を使用して抗体結合抗原を検出する。また、PSMAおよびPSM'の発現は前立腺癌および正常前立腺組織のそれぞれにおいて増大するので、これら二つの形態を識別する抗体を使用して、処置後の腫瘍の退行対進行をモニターするさらに精確な方法を提供してもよい。本発明の抗体のほとんどは両方の形態を認識するが、7E11-C5のほうはPSMAだけと結合するので、患者における各形態の正確なレベルを測定するのにこれらの抗体を共同して使ってもよい。そうすれば、腫瘍負荷(tumor burden)とその量とを相関させることができる。例えば、7E11-C5は、二部位捕捉アッセイのアンカー抗体として使用することができ、他の細胞外ドメイン特異的抗体のいずれか一つをPSMA定量用の検出抗体として使用することができる。一方、同様な二部位捕捉アッセイに、このPSMA細胞外ドメイン特異的抗体の中の2つの任意の組合せを使用して、全PSM'+PSMA濃度を特異的に測定することもできる。全PSM'+PSMA濃度から単純にPSMAを差し引けば、PSM'を具体的に定量することができる。
【0040】
組織および体液中の細胞外ドメインのPSMAおよびPSM'をモノクローナル抗体によって検出することに加えて、NAALADase酵素活性測定を利用して、組織および/または体液中の細胞外ドメインのPSMAおよび/またはPSM'を定量することができる。
【0041】
例えば、ホモジネートした組織を界面活性剤で可溶化し、遠心分離により不溶性物質をペレット化し、残留上清中のNAALADase活性を測定することによって、組織レベルを測定することができる。同様にして、まず遠心分離により細胞性物質をペレット化し、上清についてNAALADase活性の典型的なエンザイムアッセイを行うことによって、体液中のNAALADase活性を測定することもできる。
【0042】
抗体結合の特異性を利用するNAALADaseアッセイプロトコールもまた適用することができる。例えば、7E11-C5、または本発明の抗体のいずれかを塗布した固体表面は、NAALADaseエンザイムアッセイを用いる検出用のPSMAまたはPSM'を捕捉するのに使用することができるであろう。従ってこれは、細胞外ドメイン特異的抗体がPSMAおよびPSM'の両方に結合するが7E11-C5はPSMAだけに結合するのであれば、所与の検体中の全長PSMAタンパク質およびPSM'を示差的に検出し定量するのに使うことができる。
【0043】
グルタミン酸デヒドロゲナーゼの反応特性を利用して、さらに簡便なNAALADaseエンザイムアッセイを適用することもできる(Frieden, 1959, J. Biol. Chem., 234: 2891)。このアッセイ法では、NAALADase酵素の反応生成物はグルタミン酸である。これは、N-アセチルアスパラギン酸とグルタミン酸を生ずるN-アセチルアスパルチルグルタミン酸の酵素触媒分解から誘導される。NAD(P)+を必要とする工程において、グルタミン酸は、グルタミン酸デヒドロゲナーゼによって触媒される反応で、2-オキソグルタル酸とNAD(P)Hを生ずる。この反応の進行は、NAD(P)+からNAD(P)Hへの変換による340 nmの吸収変化によって容易かつ簡便に測定することができる。こうして、固定化した捕捉抗体を用いる固相フォーマットに適用可能なNAALADase活性のアッセイを改良することができる。このようにして、NAD+またはNAD(P)+の添加前および添加後の340 nmにおける吸収変化に基づき、マイクロプレートリーダーにおいて、多重アッセイを同時に実施することができる。これは固相アッセイだけに限定されるものではない。何故ならば、このタイプのNAALADaseアッセイを用いて、例えば、血清のような溶液アッセイも可能だからである。
【0044】
本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントを含有するキットは、上記の免疫組織学的、免疫細胞学的および免疫血清学的方法による、in vitro診断、予後および/または前立腺癌のモニター用に誂えることができる。キット成分は、水性媒体か、または凍結乾燥形式にパッケージすることができる。酵素や放射性金属イオンのような標識部分が付いたコンジュゲートの形でモノクローナル抗体(またはそのフラグメント)を上記キットに使用する場合、そのようなコンジュゲートの成分は、完全にコンジュゲートした形か、中間体の形、またはキット使用者によりコンジュゲートされる別々の部分として供給することができる。
【0045】
キットは、試験管やバイアル、フラスコ、瓶、注射器などの、一またはそれ以上の容器手段または容器セット手段をコンパクトに収容するようにコンパートメント化したキャリアを含んでもよい。上記容器手段または容器セット手段の第一のものは、モノクローナル抗体(またはその断片)あるいはPSMAまたはPSM'を含んでいてもよい。第二の容器手段または容器セット手段は、第一抗体(またはその断片)PSMAまたはPSM'と結合することができる標識またはリンカー標識中間体を含んでいてもよい。
【0046】
5.4.3 in vivo での診断、予防および治療への使用
本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、in vivoでの前立腺癌細胞のターゲッティングに特に有用である。これらは、検出およびモニター用の腫瘍局在化ならびに原発性前立腺癌および転移の治療に使用することができる。これらをin vivoで適用するには、精製モノクローナル抗体または、Fv、F(ab')2、Fabフラグメントのような抗原結合領域の少なくとも一部をもつモノクローナル抗体の精製フラグメント(HarlowおよびLane, 1988, Antibody, Cold Spding Harbor)、一本鎖抗体(米国特許第4,946,778号)、キメラ抗体またはヒト化抗体(Morrisonら, 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 6851; Newubergerら, 1984, Nature, 81: 6851)、CDR等を使用することが望ましい。上記抗体またはそのフラグメントの精製は、当業者に公知の様々な方法によって行うことができ、そのような公知方法としては、硫酸アンモニウムまたは硫酸ナトリウムにより沈澱させた後で生理食塩水に対する透析、イオン交換クロマトグラフィ、アフィニティあるいは免疫アフィニティクロマトグラフィ、ならびにゲル濾過、ゾーン電気泳動などがある(Goding , Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 第2版、104-126頁、Orlando, Fla, Academic Press参照)。
【0047】
in vivoでの前立腺癌の検出および/またはモニターに使用するには、精製モノクローナル抗体は、コンジュゲートまたは複合体の投与および局在化(loca;lization)後、特定の組織または臓器の画像化を可能にするリポーター群(a reporter group)として役立つ化合物に、直接またはリンカーを介して共有結合させることができる。種々の異なるタイプの物質をリポーター群として役立てることができ、そのような物質には、放射線不透過性染料、放射性金属および非金属同位元素、蛍光原性化合物、発蛍光性化合物、陽電子発生性同位元素、非常磁性金属などがある。
【0048】
前立腺癌のin vivo治療での使用の場合、精製モノクローナル抗体を単独で、あるいは、上記コンジュゲートの投与および局在化後、悪性細胞または組織を死滅および/または増殖抑制する化合物に、直接またはリンカーを介して共有結合させて、使用することができる。抗体をそれ自体で使用する場合、抗体は、補体の固定化または抗体依存細胞の細胞傷害性によって腫瘍破壊を媒介してもよい。あるいは、前記抗体は、相乗的な治療効果を与えるために化学療法剤と併用投与することもできる(BaslyaおよびMendelsohn, 1994, Breast Cancer Res. and Treatment, 29: 127-138)。治療の目的で、放射性金属および非金属同位元素、化学療法剤、毒素などを含む、種々の異なるタイプの物質を該抗体と直接コンジュゲートすることができる(Vitetta および Uhr, 1985, Annu. Rev. Immunol., 3: 197)。
【0049】
別の態様によれば、前立腺癌のin vivo治療のために、本発明のモノクローナル抗体は、二官能性または二重特異的抗体、すなわち、前立腺特異的膜抗原の細胞外ドメインに対して特異的な抗原結合領域および殺腫瘍活性または腫瘍抑制活性をもつエフェクター細胞に特異的な抗原結合領域をもつ抗体の形に改変することができる。二重特異的抗体の二つの抗原結合領域は化学的に結合されているか、または二重特異的抗体を産生するように遺伝子工学的に操作された細胞によって発現することができる(一般に、Fangerら, 1995, Drug News & Perspec., 8(3): 133-137参照)。殺腫瘍活性を有する適切なエフェクター細胞としては、細胞傷害性T細胞(主としてCD8+細胞)、ナチュラルキラー細胞などを例示することができるが、これらには限定されない。本発明による二重特異的抗体の有効量を、前立腺癌患者に投与すると、この二重特異的抗体は、PSMAをもつ原発性または転移性腫瘍の部位に局在化後、悪性細胞を死滅させるか、および/またはその増殖を阻害する。
【0050】
検出、モニターおよび/または治療に有用な、本発明の抗体(またはその断片)の抗体コンジュゲートの作製方法は、米国特許第4,671,958号、4,741,900号および4,867,973号に記載されている。
【0051】
抗体および抗原結合抗体フラグメントを、化学的コンジュゲーションまたは組換えDNA技術により、異種タンパク質またはペプチドにコンジュゲートさせることもできる。得られるキメラタンパク質は、該抗体の抗原結合特異性および該異種タンパク質の機能を有する。例えば、PSMAの細胞外ドメインに特異的な抗体の抗原結合領域をコードするポリヌクレオチドを、T細胞受容体のζ鎖をコードする配列と遺伝子工学的に融合させることができる。この構築物をT細胞で発現させた後、該T細胞をex vivoで増殖させ、前立腺癌の患者に注入する。このキメラタンパク質を発現するT細胞は、抗体の結合特異性の結果としてPSMAを発現する腫瘍を特異的に指向し、腫瘍細胞の殺傷を引き起こす。あるいは、白血球の移動を誘導するか、または腫瘍部位に他の化合物を引きつける親和性を有するタンパク質に抗体を融合させる。この型の具体的なタンパク質としては、ストレプトアビジンがある。ストレプトアビジンがコンジュゲートした抗体と、腫瘍細胞とを結合させた後、腫瘍特異的殺傷を引き起こすビオチン化薬剤、トキシンまたは放射性同位体を添加することができる。
【0052】
上記のタイプの物質のいずれかとコンジュゲートしたモノクローナル抗体(またはその断片)を含む、そのようなin vivo腫瘍局在化および治療法と共に用いるためのキットは以下のように作ることができる。キットの成分は、水性媒体か、または凍結乾燥形態にパッケージすることができる。このモノクローナル抗体(またはその断片)を上記キットの中で放射性金属イオンや治療剤部分のような標識または治療部分が結合したコンジュゲートの形でに使用する場合、そのようなコンジュゲートの成分は、完全にコンジュゲートした形態、中間体の形態、またはキットの使用者がコンジュゲートを生成する別々の部分として供給することができる。
【0053】
6. 実施例:PSMA ペプチドに対するモノクローナル抗体の産生
6.1 材料と方法
6.1.1 免疫用ペプチドの調製
Pierce(Rockford, IL)のEDC方法を用いて、PSMAペプチド番号716〜723(NH2-ESKVDPSK-)(配列番号1)を、キャリアとしてキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と共役結合させた。このペプチド-KLH複合体を、1 mg/mlのムラミルジペプチド(MDP、Pierce, Rockford, IL)を含有する不完全フロイントアジュバント(シグマ社、ミズーリ州セントルイス)に最終濃度250μg/mlで乳化した。乳化抗原調製物を4℃で保存した。
【0054】
6.1.2 免疫
0.1 mlの乳化ペプチドキャリア-複合体を6週間にわたって14日毎に皮下注して、雌のBALB/cマウスを免疫した。マウスから採血し、その血清を抗ペプチド抗体の存在について調べるペプチド特異的ラジオイムノアッセイ(RIA)にて試験した。1:1,000またはそれ以上の力価で抗ペプチド抗体が陽性と出たマウスを融合プロトコルのドナーとして使用した。融合3日前に、生理食塩水に溶かしたペプチド-KLH複合体50μgを腹腔内に投与してマウスを免疫した。
【0055】
6.1.3 細胞融合
同じペプチド-KLH複合体による最終免疫した3日後に、BALB/cマウスの脾臓を無菌的に摘出し、単一細胞懸濁液を作った。浸透ショックにより赤血球を溶解し、残ったリンパ球をRPMI-1640培地に懸濁させた。脾臓細胞を10:1の割合でP3X63Ag8U.1(X63)ミエローマ細胞(CRL 1597、ATCC、Rockville, MD)と混合した(脾臓細胞100 x 106:X63ミエローマ細胞10 x 106)。X63細胞に対する脾臓細胞の融合はGalfreおよびMilsteinの方法によって行った(1981, Methods in Enzymology, Vol. 73, Immunochemical Techniques, Part B)。細胞培養培地(RPMI-1640-20%ウシ胎児血清)中アミノプテリンのインクルージョンによってハイブリドーマ細胞を選択した。
【0056】
6.1.4 一次ハイブリドーマのスクリーニング
各ハイブリドーマ培養液から細胞培養上清50μlを取り、ペプチド特異的抗体が存在するかどうかをペプチド特異的RIAによって試験した。簡単に説明すると、ウシ血清アルブミン(BSA)と共役結合させたペプチドを50μg/mlを予め塗布した96ウェルプロバインド(Pro-Bind)プレート(ファルコン社)のウェルに前記上清を加える。4℃で一晩インキュベーションした後、プレートをPBS-0.1% BSAで4回洗浄する。ウサギ抗マウスIgMとIgG(ICN)の1:500希釈液50μlを各ウェルに加え、プレートを室温で1時間インキュベーションする。プレートを上記のように4回洗浄し、各ウェルに125I-プロテインAを50μl加える。プレートを室温で1時間インキュベーションし、上記のように4回洗浄する。プレートをオートラドフィルム(コダック、X-OMAT)に一晩曝露して現像する。陽性のウェルを選択し、さらなる試験を行うために細胞を細胞培地に広げた。
【0057】
6.1.5 ウェスタンブロットスクリーニング
広げた陽性のウェルから上清を得、これを抗PSMA抗体についてウェスタンブロットアッセイで試験した。PSMAを発現する前立腺腫瘍であるLNCaP腫瘍細胞系(CRL 1740、ATCC、Rockville, MD)の溶解物を90分間175ボルトのSDSポリアクリルアミドゲルにかける。電気泳動タンパク質をイモビロン(Immobilon)-PTM膜に対してエレクトロブロッティングし、その膜を、トリス緩衝生理食塩水中5%のBLOTTOで一晩インキュベーションすることによりブロックした。膜をバイオラッド(Bio-Rad)マルチスクリーン装置(バイオラッド社)に置き、ハイブリドーマ上清約650μlをそれぞれのレーンにピペットで加えた。膜を室温で90分間インキュベーションし、ブロットをトリス緩衝生理食塩水-0.5% Tween-20(TBS-T)で5回洗浄した。洗浄したブロットを、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG(Kirkegaard and Perry Laboratories, Gaithersburg, MD)の1:5,000希釈液と共に室温で1時間インキュベーションした。このブロットを上記のように5回洗浄し、2 mlのLumiGLOTM化学発光基質(KPL, Gaithersburg, MD)と共に1分間インキュベーションした。このブロットをオートラドフィルムに曝露し現像した。陽性のハイブリドーマウェル(抗PSMA反応性)を同定し、さらなる発展(development)用として選択した。
【0058】
6.1.6 限界希釈クローニング
上記のウェスタンブロットアッセイにおいてPSMAに対する反応性によって同定した陽性一次ハイブリドーマウェルを限界希釈法によりクローニングした。クローニングした細胞を、フィーダー細胞集団としての相乗的な胸腺細胞を含有する完全細胞培地の1 mlにつき1個となるよう調整する。細胞懸濁液を96ウェルプレートのウェルに加えて200μlずつのアリコートを作る。7〜10日間培養した後、細胞のコロニーが見えてくる。単一コロニーを含むウェルを取り、その細胞を24ウェルプレートに広げる(1.5 ml培養液)。クローン細胞の上清を得て、上記ウェスタンブロットアッセイにより抗PSMA抗体について試験を行う。陽性クローンを拡大増殖(expand)し液体窒素で凍結する。
【0059】
6.1.7 腹水液の発生と抗体精製
10 x 106のハイブリドーマ細胞を注入する7〜8日前に、プリスタン0.4 mlを腹腔内注射することによりBALB/cマウスを初回抗原刺激を行った。モノクローナル抗体を含有する腹水液を一定時間毎に抜き取って4℃で保存する。ピアース社(Rockford, IL)のImmunoPureTM IgM精製キットを用いて、腹水液からモノクローナル抗体を精製した。
【0060】
6.1.8 PSMA の免疫沈降
約10 x 106のLNCaP腫瘍細胞を、4℃で30分間、1 mlのNP-40細胞融解緩衝液(150 mM NaCl、1% NP-40、50 mM Tris)と共にインキュベーションした。細胞溶解物を12,000 rpmで遠心分離し、得られた上清を正常マウス血清50μlと共に30分間インキュベーションした後で抗マウスIgMアガロースビーズの20%懸濁液60μlを添加することによって予め澄明にした(precleared)。4℃で1時間インキュベーションを行った後、この調製物を遠心分離してビーズを除き、得られた上清を3F5.4G6モノクローナル抗体と反応させた。3F5.4G6モノクローナル抗体の量を変えて(2.5、5および10μg)3個の複製細胞溶解物(replicate lysate)に加え、4℃で1時間インキュベーションした。抗マウスIgMアガロースビーズ(シグマ社)の10%懸濁液100μlを加え、細胞溶解物をさらに1時間4℃でインキュベーションした。12,000 rpmで溶解物を遠心分離して、アガロースビーズをNP-40細胞融解緩衝液で3回洗浄する。電気泳動サンプル緩衝液30μlを該ビーズに加え、95℃で10分間加熱する。1,200 rpmでビーズを簡単に遠心分離して、サンプル緩衝液をSDSポリアクリルアミドゲルに流した。電気泳動後、サンプルを上記のようにエレクトロブロッティングに付し、リポート抗体としてPSMA特異的モノクローナル抗体7E11-C5を使用してウェスタンブロットを行った。
【0061】
6.1.9 フローサイトメトリーによる分析
まず細胞を燐酸緩衝化生理食塩水(PBS)で濯いだ。ベルセン(0.2 g EDTA.4Na/L)溶液(75 cm2フラスコにつき2 ml)を加えた。ベルセン溶液の大部分は、室温で5分間インキュベーションする前にアスピレーションにより除去した。PBSを加えて、ピペッティングにより細胞を移した(dislodge)。細胞をPBSで2回洗浄した後計数した。50万個〜100万個の細胞を、50μlの第一抗体と共に30分間氷上でインキュベーションした後、PBSで2回洗浄した。次いで細胞を、50μlのFITC標識第二抗体(7E11-C5に対するヤギ抗マウスIgGまたは4G6に対するヤギ抗マウスIgG)と共に30分間氷上でインキュベーションした。過剰の第二抗体をPBSで細胞を洗い流す。フローサイトメーター(FACScan, Becton Dickinson, San Jose, CA)を使って蛍光を分析した。その前散乱プロファイルおよび横散乱プロファイルに基づいて分析した細胞集団から細胞破片を除いた。
【0062】
6.1.10 ウェスタンブロットによる血清分析
血清サンプルを細胞融解緩衝液(1%トリトンX-100、50 mM HEPES、10%グリセロール、15 mM MgCl2 、1 mM AEBSF、1 mM EGTA)で1:7に希釈した。LNCaP溶解物を溶解緩衝液で1:35に希釈した。次いで希釈したサンプルをサンプル緩衝液(SDS還元緩衝液)と2:3の割合で合せた。サンプル(20μl)を8.5%のSDS-PAGE(Bio-Rad Protein Assayを用いて測定した場合、最終タンパク質濃度93 mg/サンプル)にかけ、分離したタンパク質を90ボルトで1時間、PVDF膜上にブロットした。次いで該膜を5%ミルク-TBS中で一晩ブロックした。翌日、TBS-T中1時間膜を3μg/mlの7E11-C5抗体でプローブし、TBS-T中で5分間5回洗浄し、TBS-T中30分間167 ng/mlのヒツジ抗マウス西洋ワサビペルオキシダーゼ標識第二抗体でプローブした。再び膜をそれぞれTBS-T中各5分間5回洗浄し、化学発光基質キット(Kirkegaard & Perry Laboratories, Inc., Gaithersburg, MD)(Rochonら, 1994, The Prostate 25: 219-223)を用いて、膜を展開(develop)した。
【0063】
X線フィルムを曝露することによりブロットを可視化し、約120 kDのタンパク質バンドを見えるようにした。ブロット像をマイクロテックスキャンメーカーIIHRスキャナーでスキャンし、「公共領域の国立衛生研究所(NIH)画像プログラム(Wayne Rasbandが米国立衛生研究所で書いたもので、zippy.nimh.nih.govから作者不明のftpによりインターネットから、またはNTIS, 5285 Port Royal Rd., Springfield, VA 22161, part number PB93-504868からのフロッピーディスクで入手可能)を使うマッキントッシュクアドラ(Micintosh Quadra)605コンピューターで行う分析」によって、バンド強度を測定した。全患者サンプルを、健常者の正常ドナーサンプルおよび、標準対照として同じウェスタンブロットから、高いPSMAをもつ前立腺癌患者サンプルに対して評価した。
【0064】
6.1.11 PSM' 酵素活性の検出
受精能力試験のためのWHOガイドラインに従って報酬を支払ったドナーからヒト精液100 mlを採取した。10,000 rpmで30分間遠心分離して細胞物質をペレット化し、上清を注意深く除いて、2回取り替えたpH 7.6の20 mM Tris緩衝液に対して一晩透析した。透析液を再び10,000 rpmで遠心分離し、予めpH 7.6の20 mM Tris緩衝液で洗浄しておいたDEAEセファクリルカラムに流した。次いでこのカラムを再び500 mlの同じ緩衝液で洗浄し、pH 7.6で20 mM 〜200 mMのTris緩衝液勾配を適用してタンパク質を分離した。5 mlの画分を集めた。モノクローナル抗体7E11-C5を使って、各画分におけるPSMAの存在をウェスタンドットブロットにより測定した。7E11-C反応性タンパク質バンドを含有する画分をプールし、70%硫酸アンモニウムを用いて沈澱させた。沈澱したタンパク質を10,000 rpmで30分間遠心分離してペレット化した後、200 mMのTris緩衝液、pH 7.6、1リットルに再懸濁させた。次いで、溶解したタンパク質を、2回取り替えたpH 7.6の20 mM Tris緩衝液に対して一晩透析した。透析物を次いで予め洗浄しておいたセファクリルカラムに流してタンパク質を溶出し、3 mlの画分を集めた。モノクローナル抗体3F5.4G6を使って、溶出タンパク質についてウェスタンドットブロットを行った。画分88-96が陽性であり、これら画分のそれぞれは、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により、その純度について試験した。
【0065】
6.2. 結果
PSMAの細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体を生成するために、このタンパク質のいくつかの領域をそれらの相対親水性に関してHopp & Woods法(1983, Mol. Immunol. 20:483-489)に基づいて分析した。
【0066】
以下の表1は、試験した数種類のペプチドの相対親水性を示す。特に、PSMAのC末端領域中のアミノ酸残基番号716-723 に対応するESKVDPSK (Glu-Ser-Lys-Val-Asp-Pro-Ser-Lys)(配列番号1)の配列をもつペプチドを合成した。さらに、細胞外ドメインに対する抗体を産生するために、表1に示した細胞外ドメインの他の部分や全細胞外ドメインそのものも使用できるだろう。これとは対照的に、残基番号44-58 および番号196-213 に対応する2つのアミノ酸ペプチドは、天然PSMAと結合しない抗ペプチド抗体応答をもたらした。
【0067】
【表1】
表1
【0068】
免疫を行う前に、最初に担体としてのKLHにペプチドESKVDPSK(配列番号1)をコンジュゲートさせた。次に、マウスをこのコンジュゲート物質で免疫し、同じコンジュゲート物質を用いて週1回の間隔で追加免疫した。検出可能な抗ペプチド血清力価を示した動物の脾臓を摘出し、ミエローマ細胞に融合させた。
【0069】
抗原としてペプチド結合BSAを用いて結合アッセイにより初期スクリーニングを実施した。個々のハイブリドーマ培養物から細胞培養上清50μl を分離し、ペプチド特異的ラジオイムノアッセイでペプチド特異的抗体の存在について試験した。簡単に述べると、ウシ血清アルブミン(BSA)に結合させたペプチドを予めコーティングしておいた96ウェルのPro-Bindプレートのウェルに上清を添加した。4℃で一晩インキュベーションした後、プレートをPBSで洗った。1:500 の希釈度のウサギ抗マウスIgMおよびIgG 50μl を各ウェルに添加し、プレートを室温で1時間インキュベートした。その後プレートを4回洗浄し、125I標識プロテインAを各ウェルに添加した。プレートを室温で1時間インキュベートし、上記のように4回洗浄した。プレートをオートラッドフィルムに一晩露光して現像した。陽性のウェルを選択し、以後の試験のために細胞を培地中で増やした。同定された陽性ウェルのうち、3F5と称する一つのハイブリドーマをウエスタンブロットアッセイでさらに試験したところ、その分泌抗体はLNCaP 溶解物中に含まれるPSMAと反応することがわかった。LNCaP細胞をHoroszewiczら(1983, Cancer Res. 43:1809-1818)が記載したとおりに培養し、細胞溶解物をRochonら(1994, Prostate 25:219-223) が記載したとおりに調製した。3F5ハイブリドーマ細胞を限界希釈法によりクローニングし、細胞数を増やし、ウエスタンブロットアッセイで再試験した。3F5.4G6 と称する抗体のサブクローンはLNCaP溶解物中の分子量120 kDaのタンパク質と反応した(図2)。この抗体はIgMとしてアイソタイピングされた。3F5.4G6 のアイソタイプの決定には、Boehringer Mannheim から得られた、マウスモノクローナル抗体のアイソタイピング用のISOStripを用いた。モノクローナル抗体をPBSで1:100 に希釈し、希釈サンプル(150μl)をこのキットと共に供給された展開チューブに添加し、室温で30秒インキュベートした後しばらく攪拌した。次いでチューブの中にアイソタイプストリップを挿入し、5分間展開した。このストリップのラムダまたはカッパセクションおよびクラスまたはサブクラスセクションの一つに青色のバンドが出現した。モノクローナル抗体 3F5.4G6はIgMアイソタイプであると同定された。
【0070】
さらに、モノクローナル抗体 3F5.4G6は、対照としてモノクローナル抗体 7E11-C5を用いて、ステージD2の進行中の前立腺癌患者から採取した血清に対して試験した(図3)。両抗体とも約120 kDa 分子量のバンドを同定した(図3)。3F5.4G6 モノクローナル抗体を用いるLNCaP 細胞の追加のウエスタンブロットアッセイを、IgMに特異的な第二抗体を用いて行った(図4)。モノクローナル抗体 7E11-C5は約120 kDa の単一バンド(すなわち、PSMA)を認識したが、3F5.4G6 は同様の分子量バンドだけでなく約105-110 kDa のバンドも認識した。このバンドはPSM'の想定されたタンパク質形態に一致しており、PSMAとPSM'の両方の細胞外ドメインを特異的に認識する抗体の有用性を示す。
【0071】
7E11-C5 と前立腺癌患者の血清中の120 kDa のタンパク質との反応性は抗体特異的であり、一般的な血清タンパク質と第二抗体との非特異的な反応性によるものでなかった。ウエスタンブロットアッセイでは、血清サンプル由来の分離したタンパク質を含むImmobilon P 紙を、7E11-C5 モノクローナル抗体+HRPに結合させた第二抗体と、またはHRPに結合させた第二抗体のみと反応させた。フィルムを1分間露光し、また、第二抗体と血清中の120 kDa のタンパク質との非反応性を実証するために45分にわたり過度に露光した。さらに、この第二抗体を3F5.4G6 と共に使用して同抗原を検出した。したがって、3F5.4G6 モノクローナル抗体はPSMAとPSM'に特異的であった。
【0072】
図5から、7E11-C5 により同定されたタンパク質はモノクローナル抗体3F5.4G6 によっても認識されたことが裏づけられる。さらに、モノクローナル抗体3F5.4G6 は、モノクローナル抗体7E11-C5 により検出されない105-110 kDa のタンパク質をも認識した。この比較的速く泳動するタンパク質はPSM'に相当する。溶解物を最初に7E11-C5 で沈殿させ、残りのタンパク質を7E11-C5 と反応させたとき、この抗体はいずれのタンパク質も検出しなかった(レーン4)。これに対して、7E11-C5 で前処理した溶解物を3F5.4G6 と反応させたときには、この抗体は約110 kDa のタンパク質を検出した。図6は、3F5.4G6 により免疫沈降された120 kDa タンパク質(すなわち、PSMA)が7E11-C5 によっても認識されたことを示す。
【0073】
図7AおよびBは、FACS分析でモノクローナル抗体3F5.4G6 が生きているLNCaP 細胞を認識したことを示しており、これにより3F5.4G6 はPSMAの細胞外ドメインを認識することが確認される。PSMAの細胞外ドメインを認識する抗体は前立腺癌における診断および/または治療ツールとして特に有用である。
【0074】
ヒト精液をPSMA特異的抗体と反応させて、酵素活性についてアッセイした。図8は、レーン2のモノクローナル抗体3F5.4G6 により認識されたタンパク質はおおよその分子量が90 kDaであることを示す。PSM'はLNCaP 溶解物中で105-110 kDa の分子量をもつことがわかったが、精液中の90 kDaタンパク質はPSM'の非グリコシル化または部分グリコシル化産物であるらしかった。PSM'はいくつかのグリコシル化部位を含むので、この低い分子量は精液中のグリコシダーゼ活性の結果であった。PSMAがこの精製調製物中に存在しないことは、3F5.4G6 がLNCaP 細胞の溶解物中に存在する分子量120 kDa のタンパク質(すなわち、PSMA)を認識した(レーン1)が、レーン2ではこの分子量のタンパク質を認識しなかったという事実から明らかである。さらに、抗体7E11-C5 は精液中の90 kDaバンドを認識しなかった。
【0075】
その後、モノクローナル抗体3F5.4G6 により認識されたPSM'のこの精製調製物をNAALADase活性についてアッセイした。LNCaP 溶解物から調製した高速上清を陽性対照として用いた。3F5.4G6 モノクローナル抗体と陽性に反応するタンパク質であって、それがPSM'であることと一致するタンパク質は、Robinsonら(1987, J. Biol. Chem. 262:14498-14506)により記載されたアッセイを行ったところ、タンパク質1mg当り16.9 nmol/分の固有のNAALADase活性を含んでいた。
【0076】
7. 実施例: PSMA 含有腫瘍細胞膜調製物に対するモノクローナル抗体の産生
7.1 材料と方法
7.1.1 免疫
LNCaP前立腺癌細胞をアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC, Rockville, MD)より入手した。2枚の150mmプレートからLNCaP膜を調製するにあたり、ベルセン溶液中に細胞を移し、遠心して細胞をペレット化した。細胞ペレットに蒸留水を添加し、Dounce型ホモジナイザーを用いて細胞をホモジナイズした。ホモジナイズした懸濁液を30,000×gで遠心し、ペレット化した膜画分を免疫用に用いた。
【0077】
完全フロイントアジュバントに乳化したLNCaP膜調製物を用いて成体雌BALB/cマウスを4回、腹腔内に免疫した。細胞融合を行う5日前に、イムノアフィニティーで精製したPSMA(PBS中)50μgを用いて該マウスを追加免疫した。細胞融合は上記の第6.1.3節に記載のとおり行った。
【0078】
7.1.2 一次ハイブリドーマのスクリーニング
固相ELISA法をベースとするアッセイ法によりPSMA特異的抗体の検出を行った。イムノアフィニティー精製したPSMA、バキュロウイルスで発現させた完全長のPSMA、あるいは細菌で発現させたPSMA断片を含む融合タンパク質をMaxi-Sorp(Nunc Immuno, Rochester, NY)96ウェルプレート上に被覆し、4℃で一晩インキュベートした。プレートをPBS-0.2% Tween-20で洗い、残存した部位を5% BSA溶液を用い1時間室温でブロックした。ハイブリドーマ培養物からの上清50μlをPSMAで被覆したウェルに添加し、そのプレートを室温で2時間インキュベートした。該プレートを上述の方法で洗い、1:600に希釈したウサギ抗マウスIgG及びウサギ抗マウスIgM(ICN, Costa Mesa, CA)50μlを各ウェルに添加した。室温で1時間インキュベートした後、該プレートを上述の方法で洗い、1:400希釈のHRP結合プロテインA(Sigma, St. Louis, MO)50μlを各ウェルに添加した。室温で1時間インキュベートした後、プレートを上述の方法で洗い、100μlのABTS(2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン)-6-スルホン酸 150mgを0.1Mのクエン酸 500ml, pH4.35中に含有する)/過酸化水素(10mlのABTS溶液あたり10μlの30%H2O2を含有)色原体/基質溶液を各ウェルに添加した。プレートをマイクロプレートリーダーで読みとり、OD405を測定した。OD値がバックグラウンドより0.05高い値を示した上清を産生するハイブリドーマを限界希釈法でクローン化し、それ以後の分析に用いた。
【0079】
PSMAの固相への捕捉のために上述のアッセイ法を次のように改変した:40μg/mlの7E11-C5抗PSMAモノクローナル抗体溶液(0.1M NaHCO3結合緩衝液 pH8.2中)50μlを、Maxi-Sorpプレートのウェルに添加し、4℃で一晩付着させた。プレートを上述の方法で洗い、ブロックした。連続希釈したイムノアフィニティー精製PSMA 50μlを、7E11-C5で被覆したウェルに添加し、室温で2時間インキュベートした。十分に洗った後、3D7-1.1あるいは4E10-1.14ハイブリドーマクローンから得た50μlの無希釈の組織培養上清をウェルに添加し、プレートを室温で90分間インキュベートした。上述の方法で洗った後、ウェルを1:1000希釈のペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgM 50μlと反応させ、室温で1時間インキュベートした。十分洗った後、ABTS/H2O2100μlを各ウェルに添加し、プレートをマイクロプレートリーダーで上述の方法で読み取った。
【0080】
7.1.3 PSMA のイムノアフィニティー精製
パッキングされたLNCaP細胞16mlを、5倍容量の25mM Tris-HCl, pH7.4、150mM NaCl、1% NP-40(Sigma, St. Louis, MO)中でPotter-Elvehjem型ホモジナイザーを2往復させてホモジナイズした後、4℃で一晩攪拌した。抽出液を100,000×gで1時間遠心し、さらにペレットから初回同様に再抽出を行った。合わせた上清を、冷室で一晩7E11-C5イムノビーズ(Pierce, Rockford, IL)(3-5ml樹脂ベッド容量)と混合した。該ビーズを遠心し、ホモジナイズ用緩衝液で十分洗い、カラムに注入した。ビーズを再度1%NP-40含有のホモジナイズ用緩衝液で洗った後、1%Triton X-100R(Aldrich, Milwaukee, WI)含有の緩衝液で再度洗った。洗浄後のビーズを100mMのグリシン緩衝液 pH2.5、150mM NaCl、1% Triton X-100Rで溶出し、2ml画分を集めた。タンパク質の溶出はOD280でモニターした。
【0081】
タンパク質を含有する画分をSDS-PAGEゲルで銀染色法及びウエスタンブロッティング法を用いて分析した。典型的な調製物においては、ウエスタンブロッティング法で7E11-C5反応性に対応する120kDaのタンパク質のバンドは60-80%の純度であった。パッキングされた細胞16mlからのおおよその収率は、PSMAタンパク質1mgであった。PSMA調製物中の界面活性剤は、溶液をExtractigelカラム(Pierce)に通すことによって除去した。該タンパク質を、免疫化またはハイブリドーマスクリーニングで使用する前に、凍結乾燥および大量のPBSを用いて透析した。
【0082】
7.1.4 フローサイトメトリー分析
PSMAの外部つまり細胞外のエピトープに対するモノクローナル抗体の認識能をフローサイトメトリーで評価した。LNCaP細胞(PSMAを発現)及びPC-3細胞(PSMA非発現)を組織培養フラスコから新たに採取し、単一細胞懸濁液を調製した。約100万個の細胞を、3D7-1.1あるいは4E10-1.14ハイブリドーマクローンから得た無希釈組織培養上清1ml中に再懸濁し、氷上で2時間インキュベートした。細胞をPBS-0.1% BSA, 0.01%アジ化ナトリウムで2回洗い、1:100希釈のFITC結合ウサギ抗マウスIgM(Jackson ImmunoResearch, WestGrove, PA)100μl中に再懸濁し、氷上でさらに30分間インキュベートした。細胞を上述の方法で2回洗い、500μlの洗浄用緩衝液に再懸濁し、FACSCalibur(Becton-Dickinson, San Jose, CA)を用いてCellQuest取得ソフトウエアで蛍光染色を分析した。
【0083】
7.1.5 ウエスタンブロット分析
3D7-1.1及び4E10-1.14ハイブリドーマクローンから得た組織培養上清のPSMA反応性をウエスタンブロットアッセイで調べた。ウエスタンブロット分析はPelletierとBoyntonのプロトコル(1994, J. Cell. Physiol. 158:427-434) に従って行った。その概略は次のとおりである。LNCaP細胞及びPC-3細胞から得た溶解物、イムノアフィニティー精製したPSMA、あるいはバキュロウイルスで発現させた完全長PSMAを8.5% SDS-PAGEゲル上で電気泳動させ、分離したタンパク質をPVDF膜上に90ボルトで1時間エレクトロブロッティングした。その膜を5% BLOTTO中で一晩ブロックし、適切なクローンから得た無希釈組織培養上清20mlと90分間インキュベートした。上清を除去し、ブロットをTBS-0.5% Tween-20(TBS-T)で5回洗い、1:5000希釈のペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgM第二抗体(Jackson)と室温で1時間反応させた。その膜をTBS-Tで5回洗い、化学発光基質キット(Chemiluminescent Substrate Kit)(KPL, Gaithersburg, MD)を用いて発光させ、X線フィルム(Kodak)に露光させることによって可視化した。
【0084】
7.1.6 バキュロウイルス発現系を用いた組換え PSMA の調製
PSMAの完全長コード配列(Israeliら, 1993, Cancer Res. 53:227-230)を含むインサートを、λpDR2ヒトライブラリー(Clonetech, Palo Alto, CA)からその遺伝子配列に特異的なプローブを用いてクローン化した。インサートはこのベクターからSmaI及びSspI消化によって切り出し、導入ベクターpAcHLT-C(Pharmingen, San Diego, CA)中に、製造者の説明書に従ってクローン化した。この導入ベクターとBacPAK6線状化ウイルスDNA(Clonetech)の共トランスフェクションを行い、その結果、Ni-NTAカラムとの結合によるタンパク質の単離に用いられるポリヒスチジンテールをタンパク質のN末端に持つ、完全長PSMAタンパク質をコードするウイルスが得られた。PSMAタンパク質を産生させるために、プラーク精製した組換えバキュロウイルス粒子を単離、増幅し、5% FBS(Hyclone, Logan, UT)を補給したSFM II培地(Gibco-BRI, Gaithersburg, MD)の存在下でSf9細胞に、感染の多重度を約1:2として感染させた。48時間インキュベーションした後、感染細胞を採取し、1%CHAPSで溶解し、Ni-NTA-アガロース(Quiagen, Chatsworth, CA)を通し、製造者の説明書に従ってイミダゾールで溶出させることにより回収した。最終産物を大量のPBSに対して透析した。
【0085】
7.2 結果
PSMA含有前立腺癌細胞膜に対するモノクローナル抗体を作製した。LNCaP細胞からイムノアフィニティー精製した天然PSMA、並びにアミノ酸の1-173、134-437および438-750の領域に対応する、細菌で発現させたPSMA断片を用いた固相イムノアッセイで、2種のハイブリドーマクローン、3D7-1.1及び4E10-1.14を選択した。天然PSMAとの結合性において、3D7-1.1及び4E10-1.14ハイブリドーマクローンから得た上清は、7E11-C5抗体に匹敵するものであった(図9)。バックグラウンドのBSAに対する非特異的結合は基本的には3種の抗体調製物とも同様であった。
【0086】
エピトープとの結合の特異性を調べると、7E11-C5モノクローナル抗体は、PSMAの細胞内ドメインであるN末端を含むアミノ酸断片1-173に結合した。3D7-1.1及び4E10-1.14はこの断片に対して中等度の結合しか示さなかったが、これら2種のモノクローナル抗体はPSMAのアミノ酸断片134-437(この断片はPSMAの細胞外ドメインの一部である)に最も強い結合性を示した(図9)。この断片はPSM'の一部であるので、これらの抗体はPSM'とも反応する。
【0087】
さらに、3D7-1.1ハイブリドーマクローンから得た上清について、LNCaP細胞及びPC-3細胞の溶解物、及びイムノアフィニティー精製PSMAに対してのウエスタンブロットアッセイを行った。図10は3D7-1.1ハイブリドーマクローンがLNCaP細胞(レーン1)に存在する120kDaバンドとは反応するが、PC-3細胞(レーン2)のバンドとは反応しないことを示している。レーン1及び2のどちらも、おそらくは第二抗体試薬の非特異的結合のためと思われる反応性を示している。イムノアフィニティー精製PSMAを含むレーン3は、3D7-1.1モノクローナル抗体でプローブした場合120kDaに主要なバンドを示している。同様なウエスタンブロットデータが、ブロットの非特異的バックグラウンドは3D7-1.1の場合よりはるかに大きいとはいえ、4E10-1.14クローンの上清でも得られている。このように、3D7-1.1及び4E10-1.14のどちらも、LNCaP細胞に存在する120kDaバンド及びイムノアフィニティー精製PSMAと反応する。
【0088】
バキュロウイルスで発現させた完全長のPSMAをSDS-PAGEゲル上で電気泳動し、PVDF膜にエレクトロブロッティングした。ブロットをミニプロテインIIマルチスクリーン(Mini-Protean II Multi-Screen)装置(Bio-Rad)に挿入し、各種の抗体調製物と反応させ、ウエスタンブロットとして発現させた。図11は3D7-1.1及び4E10-1.14モノクローナル抗体が、7E11-C5モノクローナル抗体が結合するのと同じバンドに対応するタンパク質のバンドと反応したことを示している。
【0089】
LNCaP細胞及びPC-3細胞を3D7-1.1及び4E10-1.14ハイブリドーマクローンから得た上清で染色し、フローサイトメトリーで分析した。2種の抗体のどちらも非固定のLNCaP生きている細胞を染色したが、PC-3細胞は染色しなかった(図12A-D)。これらの結果は、2種の抗体がPSMA分子の細胞外ドメインのエピトープと反応することを確認するものである。さらに、LNCaP染色において、3D7-1.1で見られたショルダーと比較して、4E10-1.14モノクローナル抗体では明らかなシフトが認められたが、これは2種の抗体がPSMA分子の特定の領域において異なるエピトープを認識することを示唆している。
【0090】
PSMAのための二部位捕捉ELISA(two-site capture ELISA)を、7E11-C5モノクローナル抗体をPSMA捕捉試薬として、3D7-1.1及び4E10-1.14モノクローナル抗体をレポーターあるいは検出抗体として用いて開発した。これらの抗体はPSMA分子の異なるエピトープを認識するため(7E11-C5はN末端の6個のアミノ酸と反応し、3D7-1.1及び4E10-1.14は134-475アミノ酸領域内の一つの配列と反応する)、二部位捕捉アッセイにおいては効果的な組み合わせとなる。イムノアフィニティー精製PSMAを連続希釈したものを被験抗原として用いたとき、3D7-1.1と4E10-1.14のどちらの上清も、7E11-C5で被覆した96ウェルプレート上での捕捉後、PSMAを検出し得た(図13)。さらに、LNCaP細胞及び精液から精製したPSMA及びバキュロウイルスで発現させた完全長PSMAの粗調製物を試験した(図14)。PSMA対照抗原、精液、及びバキュロウイルスPSMA調製物では有意に大きいOD405値が得られた。精製PSMAを正常ヒト女性の血清で希釈し、サンプルを二部位捕捉アッセイで調べると、上記と同じ抗体がPSMAを検出した(図15)。PSMAの異なる部分に対するモノクローナル抗体を用いて開発した二部位捕捉アッセイは多様なソースから抗原特異的な様式でPSMAを検出した。
【0091】
PSMA用の二部位捕捉ELISAとしてもう一つ別の方法を3D7-1.1モノクローナル抗体をPSMA捕捉試薬として、7E11-C5モノクローナル抗体をレポーター又は検出試薬として開発した。連続希釈したイムノアフィニティー精製PSMAを被験抗原として用い、3D7-1.1で被覆したプレートで捕捉させ、ビオチン化した7E11-C5モノクローナル抗体を用いて検出した。結果は図16に示す。図16は3D7-1.1や4E10-1.14などのPSMAの細胞外ドメインと特異的に結合するモノクローナル抗体が、PSMAの二部位捕捉ELISAに有用であることを示している。
【0092】
PSMAの捕捉に3D7-1.1が有用であることは、PSMAタンパク質の細胞外ドメインのみに依存したもう一つ別のイムノアッセイが使用しうることを示している。そのような2種の細胞外ドメイン特異的抗体を捕捉及び検出に用いるアッセイは、PSM'のエピトープのタンパク質内での位置によりPSM'を検出しうるであろう。7E11-C5を捕捉又は検出のどちらかに用いたアッセイであれば、特異的にPSM'を除外する。PSM'に特異的なアッセイの1例としては、3D7-1.1又はPSMAの細胞外ドメインに特異的なモノクローナル抗体のうちの1種の抗体をPSMA及びPSM'の捕捉に用いて並行試験を行うものが挙げられる。それに引き続き、4E10-1.14をPSMAとPSM'の全体の検出に用い、7E11-C5をPSMAのみの検出に用いることにより、PSM'の量は単純な引き算によって得られる。このデータからPSM'とPSMAの比率が求められ、それはSuら(Cancer Res. 55:1141-1443, 1995)の文献を考慮すると診断に用いうるものとなろう。
【0093】
SuはPSMAをコードする転写物が前立腺癌患者で選択的によく検出される(正常男性と比べて)ことを示しているが、SuらはPSMA転写物がこれらの患者の体内で実際にタンパク質に翻訳されているかどうかは示していない。さらに、SuはPSM'タンパク質を検出してはいないが、PSM'をコードする転写物が正常男性に選択的によく検出される(前立腺癌患者に比べて)ことを示している。本発明者らは、本出願において、PSMAタンパク質が前立腺癌患者の体の組織及び/又は体液中で(正常男性と比べ)増加していること、及びPSM'タンパク質が正常男性の体の組織及び/又は体液中で(前立腺癌患者と比べ)増加していることを示している。従って、本発明によれば、PSM'のPSMAに対する比は、前立腺癌患者の臨床的評価にあたって、診断上及び/又は予後判定での有用性を有することとなるであろう。
【0094】
完全長PSMAのアミノ酸34-750に対応するPSMA断片を、バキュロウイルス発現系で1.9kbのインサートとして発現させた。バキュロウイルスで発現させたPSMA断片は、その断片のN末端からPSMA細胞外ドメインのさらに76アミノ酸が欠失していることを除けば、PSM'(完全長PSMAの残基58-750に対応している)と非常に類似している。各種のバキュロウイルスで発現させた部分精製PSMA断片及びLNCaP細胞溶解物のウエスタンブロット分析を4E10-1.14モノクローナル抗体をプローブとして用いて行った。結果を図17に示す。
【0095】
1.9kbのPSMA断片(すなわち完全長PSMAのアミノ酸134-750)をコードするインサートあるいは無関係のインサートのどちらかを含むバキュロウイルスを感染させたSF9細胞の粗溶解物のウエスタンブロット分析を、7E11-C5モノクローナル抗体をプローブとして行った。結果を図18に示す。
【0096】
図17は、PSMAの細胞外ドメインに特異的な4E10-1.14などの抗体が、PSM'に非常に類似したバキュロウイルス発現タンパク質にも結合しうることを示している。これに対して図18は、7E11-C5モノクローナル抗体はそのエピトープ特異性の故にそのような性質を有していないことを示している(図18に示すようにバキュロウイルス発現PSMA断片と7E11-C5との陰性の反応性に注目されたい)。バキュロウイルス発現PSMA断片は、N末端から更に76個のアミノ酸(その全てが細胞外ドメインにある)が欠失していることを除けばPSM'(完全長PSMAのアミノ酸58-750に対応)と同一である。3D7-1.1及び4E10-1.14のエピトープ特異性は、PSM'及びPSMAの134-750アミノ酸断片(図9参照)のいずれにも含まれる細胞外ドメインの領域にマッピングされるので、これらの抗体が双方とも天然のPSM'と結合する固有の特性を持っているであろうと考えられ、これは7E11-C5には無いものである。
【0097】
LNCaP細胞由来のPSMA、及びPSMAを含むことが知られたヒト血清及び精液についてのウエスタンブロットのプローブとして3D7-1.1モノクローナル抗体を用いた。結果を図19に示す。
【0098】
約120Kdに移動するPSMAに対応するバンドが全画分に存在した。さらに、抗体3D7-1.1で現出させた場合には、血清及び精液中に、2番目に速く移動する分子量90〜100Kdのバンドが認められた。この速く移動するバンドは血清を7E11-C5抗体を用いた場合のウエスタンブロットには認められなかった(Holmesら,(1996)The Prostate, Supple. 7:25-29参照)。この速く移動する、3D7-1.1と反応するタンパク質のバンドはおそらく体液中に存在するPSM'であろう。
【0099】
8. 実施例: PSMA に対する IgG アイソタイプのモノクローナル抗体の産生
8.1 材料と方法
8.1.1 免疫
BALB/cマウスおよびA/Jマウスを、完全フロイントアジュバント中のLNCaP膜で腹腔内に免疫し、続いて、不完全フロイントアジュバント中の細胞膜で1回後続免疫し(2〜3週間後)、さらにPBS中のイムノアフィニティー精製したPSMA 50μgで3回追加免疫した。PSMAを前述の第7.1.3節に記載の方法に従って精製した。最終追加免疫の5日後に、細胞融合を行った。
【0100】
8.1.2 免疫細胞化学
LNCaP細胞を、生存細胞または固定細胞のどちらかで、免疫細胞化学用のガラススライド上で増殖させた。細胞を、4%パラホルムアルデヒド-PBSを用いて室温で30分間固定し、1% BSA-PBSで洗浄し、PBS中50mM NH4Cl中で10分間急冷して、1% BSA-PBS中ですすいだ。固定細胞に、1% BSA-PBS中0.075% Triton X-100を2分間、室温で透過させた。
【0101】
培養上清としての第一抗体(固定細胞については+0.075% Triton X-100)を、生存細胞には4℃で、または固定細胞には室温で、60分間添加した。第一抗体処理後、生存細胞を冷メタノール中で20分間固定させた。FITC標識ヤギ抗マウス第二抗体(1% BSA-PBS中1:100に希釈、固定細胞については+0.075% Triton X-100)を60分間インキュベートし、大量の1% BSA-PBSで洗浄した。前記スライドにグリセロールをマウントし、蛍光顕微鏡で調べた。
【0102】
8.2 結果
膜由来PSMAおよびイムノアフィニティー精製したPSMAで動物を免疫することにより、それぞれの注入後の血清力価が上昇した。細胞融合を、1:100,000希釈を上回る血清力価を有する動物からの脾臓細胞を用いて行った。該ハイブリドーマを、完全長PSMAを用いて固相ELISAでスクリーニングし、それを、第二抗マウスIgG試薬を用いてIgGアイソタイプの抗体を選択した以外は前述の第7.1.2節に記載の通りに、PSMAタンパク質の一部を含む、細菌で発現させた融合タンパク質との反応性と比較した。更に抗体反応性を、ウエスタンブロット分析、フローサイトメトリー分析により、並びに捕捉抗体として抗体4E10-1.14、およびペルオキシダーゼ結合ウサギ抗マウスIgG第二抗体を用いる、サンドイッチELISA法で評価した。
【0103】
固相イムノアッセイを行って、得られたIgGモノクローナル抗体の各々に結合するエピトープのおおよその位置を決定した。結果を表2で簡単に説明する。表2には、各抗体のアイソタイプサブクラスが含まれる。試験した全32種の抗体のうち、複数の抗体がそれぞれのPSMA断片に結合することが見出され、全抗体が天然PSMAに結合した。2種の抗体、3C2および3C4は、PSMAの1-173断片および134-437断片の両方と反応し、このことは、それらのエピトープがそれらの断片の重複領域中に存在することを示唆している。3種の抗体、3C6、4D4および1G9は天然PSMAのみに結合し、このことは、これらの抗体が変性PSMA断片のいずれにも存在しない天然タンパク質立体構造を認識していることを示唆している。他の2種の抗体、3G6および3F6はまたPSMA断片に結合しなかったが、ウエスタンブロットにおける変性PSMAには結合することができた。
【0104】
【表2】
表2
【0105】
ウエスタンブロット分析を、種々の供与源(すなわち、LNCaP細胞、組換えバキュロウイルスで発現されたPSMAおよび精液)からのPSMAを使用して実施した。結果は概して、抗体の、全ての供与源からのPSMAへの強力な結合、およびPSMA陰性PC-3細胞溶解物への陰性反応性を示している。特定の場合(抗体3E11、2E4、3G6および3F6)には、バキュロウイルス発現PSMAに対する反応性は全く観察されなかったが、LNCaPおよび精液由来のPSMAに対する強力な反応性が観察された。推測するところ、これは、おそらくバキュロウイルスで発現されるタンパク質でポリヒスチジンN末端置換が起こった結果としての、この領域における抗体エピトープの潜在性(crypticity)の違いによるものだろう。
【0106】
32種のモノクローナル抗体を、LNCaP細胞溶解物に存在する、より早く移動する約100kDaのタンパク質バンドに結合する能力に基づいて、グループ分けしうる。ウエスタンブロットもまた、7E11.C5イムノビーズへの結合によって完全長PSMAを除去したLNCaP細胞溶解物を用いて実施した。その結果より、PSMA断片134-437および438-750に特異的な抗体全ての、PSM'への結合が確証される。更に、アミノ酸1-173断片と最も反応性のある抗体3C2および3C4もまたPSM'に結合する。これは更に、これらの抗体に対するタンパク質エピトープがPSM'内にあり、おそらく断片1-173および134-437の間の重複領域中にあることを示す。
【0107】
これらの結果は、抗体2E4および3E11が、どちらもPSM'に対応するタンパク質バンドに結合しないので、最初の57個のアミノ酸に含まれるエピトープに特異的であることを示唆している。しかし、完全長PSMAの細胞内部分に対応するペプチドに対する前記2種の抗体の反応性は、全く観察されなかった。更に、これらの抗体は、FACS分析によると非固定細胞に結合する能力があり、それらが前記タンパク質の膜貫通ドメイン内に含まれるエピトープに特異的であるはずがないことを示している。従って、抗体2E4および3E11は、PSMAの細胞外ドメイン内、おそらくは残基44〜57の間に含まれるエピトープに結合しなければならない。この同様の分析は、抗体3E6および4D8(1-173のPSMA断片に結合するが、134-437断片に結合しない)が、ウエスタンブロットによるとどちらの抗体もPSM'タンパク質に結合するので、概ね残基57-134間のPSMAタンパク質の一部に特異的であることを示す。
【0108】
この抗体のパネルを用いたFACS分析は、PSMAを発現するLNCaP細胞の陽性染色を示す。最も強い変化が、抗体3C6、1G3、3C9、3C4、3G6、3F6、3E11、1D11、3D8、1G9および4D4で観察された。推測するところ、これらの抗体を用いた細胞染色の程度における、少なくともいくつかの多様性は、前記タンパク質のよりC末端部分に分布する10個の潜在的なN結合部位を介するグリコシル化の作用によるものである。
【0109】
免疫細胞化学を、この抗体のパネルを用いて、生きているおよび固定LNCaP細胞の両方について行った。一般的に、生きている細胞の染色強度はフローサイトメトリーで得られる結果を反映した。固定細胞の染色もまた、以下に記載するいくつかの例外を除いて同様であった。
【0110】
抗PSMA抗体7E11.C5は、PSMAの最初の6個のアミノ酸に特異的であり、細胞膜の細胞内側に存在する。生きているLNCaP細胞の7E11.C5による免疫細胞化学的染色は陰性だったが、固定細胞では染色が強かった。従ってこの結果は、抗体が生きている細胞の細胞膜を通過することができないことに関係する、免疫細胞化学で用いられた生きているLNCaP細胞の完全性を証明する。生きているLNCaP細胞の、抗体3C6、4D4および1G9による強い染色が観察され、このことは、該抗体が細胞外に分布するエピトープに結合することを示している。固定細胞の、これらの抗体による弱いまたは陰性の染色が観察されたことは、該抗体が、タンパク質の変性または固定により破壊される天然タンパク質立体構造を認識していることを確証する。これら3種の抗体は、腫瘍イメージングなどの、腫瘍のin vivo診断および治療に、特に有用でありうる。
【0111】
IgM 4E10-l.14抗体を捕捉試薬として用い、続いて各IgGを検出のために使用して、サンドイッチELISA法を行った。検出に用いられた抗体に拘わらず、抗原濃度に対する感受性の線形応答が観察された。
【0112】
結論として、合計32種のIgGモノクローナル抗体がPSMAに対する特異性により選択された。該抗体はPSMAの細胞外ドメイン全体に分布するエピトープに結合する。図20は、これらの抗体の抗体エピトープ特異性の分布を簡略に説明する。3種の抗体は、天然タンパク質立体構造に関係する、より複雑なエピトープに特異的である。また、残基134-750を含むPSMA部分に特異的なIgG抗体は全て、PSM'にも結合する。
9. 細胞系の寄託
次のハイブリドーマ細胞系は1996年3月12日、1997年3月11日、1998年3月17日および1999年3月16日にアメリカンタイプカルチャーコレクション(10801 University Blvd., Manassas, VA 20110-2209)に寄託され、下記の受託番号の指定を受けた。
【0113】
【0114】
本発明は、本発明の個々の態様の説明を意図して例示した実施態様に示される範囲に限定されるものではない。事実、本明細書に示し、記述した事柄に加えて本発明に種々の改変を加えることは、上記の詳細な説明及び添付図面から当業者であれば自明なことであろう。そのような改変は本発明の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0115】
本明細書中に引用された全ての公表文献は参照としてその全文を本明細書中に組み込むこととする。
【図面の簡単な説明】
【図1】 PSMAおよびPSM'抗原の推定アミノ酸配列(配列番号2)(Israeliら、1994、Cancer Res. 54:1807-1811)。PSM' mRNAは、初めの57個のアミノ酸(一行目のアミノ酸配列)をコードするPSMAの5'末端を含まないためアミノ酸58から開始すると考えられる。しかし、本発明以前は、PSM'はタンパク質形態で同定されたことはなかった。下線領域は推定される膜貫通ドメインであり、太字領域(アミノ酸#716〜723)はモノクローナル抗体開発のために選択されたペプチドである。
【図2】 モノクローナル抗体3F5.4G6(第一ハイブリドーマ3F5から誘導されたサブクローン)、およびPSMAに対応する分子量120kDaのLNCaP溶解物中に存在するタンパク質とのその反応性の実例。HRP-抗IgG第二抗体を用いてウェスタンブロットを発色した。レーン1は7E11-C5でプローブしたLNCaP溶解物、レーン2は3F5.4G6でプローブしたLNCaP溶解物である。
【図3】 モノクローナル抗体3F5.4G6(レーン3およびレーン4)、並びに対照として7E11-C5(レーン1およびレーン2)を用いた、前立腺癌患者(D2ステージ)の血清中のPSMAのウェスタンブロットによる実例。
【図4】 モノクローナル抗体7E11-C5(レーン1)および3F5.4G6(レーン2)を使用し、HRP-抗IgM第二抗体を用いて発色したLNCaP溶解物のウェスタンブロットアッセイ。7E11-C5および3F5.4G6の両方が分子量120kDaのタンパク質を認識した。さらに、3F5.4G6はまた、PSM'のタンパク質形態と予測されるものに対応する分子量105〜110kDaのタンパク質も認識した。PSM'中に7E11-C5モノクローナル抗体のエピトープは認められなかったため、7E11-C5はPSM'を認識しなかったことに留意すべきである。抗体3F5.4G6は、PSMAおよびPSM'の細胞外ドメインに対応するタンパク質のC-末端部分(アミノ酸#716〜723)を認識する。
【図5】 モノクローナル抗体7E11-C5および3F5.4G6が同じタンパク質を認識したが、3F5.4G6がさらにPSM'に対応するタンパク質を認識した実例。LNCaP溶解物をまず7E11-C5モノクローナル抗体で免疫沈降し、免疫沈降した物質をSDSゲル上で分離し、ウェスタンブロットアッセイにおいて7E11-C5(レーン1〜4)もしくは3F5.4G6(レーン5〜8)モノクローナル抗体のいずれかでプローブした。レーン1およびレーン5は粗LNCaP溶解物;レーン2およびレーン6は予め濁りを除いたLNCaP溶解物;レーン3およびレーン7は7E11-C5モノクローナル抗体で免疫沈降した物質;そしてレーン4およびレーン8は先に免疫沈降したLNCaP溶解物中に残留したタンパク質であった。抗体7E11-C5は120kDaのタンパク質を免疫沈降し(レーン3)、このタンパク質はまた3F5.4G6によっても認識された(レーン7)。しかし、7E11-C5免疫沈降後、7E11-C5によって免疫沈降されなかった(レーン4)第2のタンパク質は3F5.4G6によって認識され(レーン8)、このタンパク質はPSM'に相当していた。つまり、7E11-C5はPSM'を認識しない。
【図6】 モノクローナル抗体7E11-C5および3F5.4G6が同じ120kDaタンパク質を認識した実例。LNCaP溶解物由来のPSMAをモノクローナル抗体3F5.4G6で免疫沈降し、免疫沈降物中のタンパク質をSDSゲル上で分離し、Immobilon Pに転写し、ウェスタンブロットにおいてモノクローナル抗体7E11-C5でプローブした。レーン1は7E11-C5でプローブしたLNCaP溶解物対照、レーン2は3F5.4G6免疫沈降物である。
【図7】 PSMAの細胞外ドメインへの抗体結合を示した、3F5.4G6モノクローナル抗体によるLNCaP生細胞の認識についてのFACS分析の実例。図7Aは第一抗体のない対照を表し、図7BはFACS分析前に100μg/mlの3F5.4G6と共にインキュベートしたLNCaP細胞を表す。右方向へのシフトはLNCaP生細胞に対する抗体の結合を示す。
【図8】 精液から単離、精製したPSM'とモノクローナル抗体3F5.4G6との反応性の実例。レーン1はLNCaP溶解物、そしてレーン2は精液から精製したPSM'である。SDSポリアクリルアミドゲル上でタンパク質を分離し、Immobilon P紙に転写し、ウェスタンブロット法によりモノクローナル抗体3F5.4G6でプローブした。精液から精製したレーン2に該当するタンパク質は分子量が90kDaであり、おそらく分子量105〜110kDaのグリコシル化されていないまたは部分的にグリコシル化されたPSM'産物と考えられる。
【図9】 天然PSMAおよび3つのPSMA断片とモノクローナル抗体3D7-1.1および4E10-1.14との反応性の実例。マイクロタイター96ウェルプレートを天然PSMAかまたはPSMAの3つの細菌発現されたポリペプチド断片の内の1つで被覆し、ELISAにおいてハイブリドーマ上清と反応させた。3つの検査抗体の全てが天然PSMAと同等の結合を示したのに対して、3D7-1.1および4E10-1.14はPSMAの細胞外ドメイン中のエピトープに対応する断片と強く反応した。
【図10】 モノクローナル抗体3D7-1.1を用いたPSMAのウェスタンブロット分析。レーン1はLNCaP溶解物、レーン2はPC-3溶解物、レーン3はイムノアフィニティーによって精製されたPSMAである。
【図11】 全長バキュロウィルスで発現されたPSMAのウェスタンブロット分析。組換えPSMAをSDS-PAGEゲル上で電気泳動し、エレクトロブロッティングし、種々の抗体調製物でプローブした。レーン1はブランク;レーン2は対照培地(20%FCS含有RPMI 1640);レーン3は3D7-1.1モノクローナル抗体;レーン4は3D7-1.2モノクローナル抗体;レーン5は3D7-1.3モノクローナル抗体;レーン6は3D7-1.7モノクローナル抗体;レーン7は3D7-2.7モノクローナル抗体;レーン8は4E10(親)モノクローナル抗体;レーン9は4E10-1.3モノクローナル抗体;レーン10は4E10-1.14モノクローナル抗体;レーン11はブランク;レーン12はブランク;レーン13は7E11-C5モノクローナル抗体である。
【図12】 PSMAの細胞外ドメインとの抗体結合を例示した、3D7-1.1および4E10-1.14モノクローナル抗体によるLNCaP生細胞の認識についてのFACS分析による実例。図12Aは4E10-1.14と共にインキュベートしたLNCaP細胞を示す。図12Bは4E10-1.14と共にインキュベートしたPC-3細胞を示す。図12Cは3D7-1.1と共にインキュベートしたLNCaP細胞を示す。図12Dは3D7-1.1と共にインキュベートしたPC-3細胞を示す。図12Aおよび12Cにおける右へのシフトのパターンの違いは、2つの抗体がPSMAの異なるエピトープを認識しうることを示している。
【図13】 PSMAのエピトープを区別するために2つのモノクローナル抗体を用いた二部位捕捉ELISAによるPSMAの検出。連続希釈したイムノアフィニティ精製PSMAを7E11-C5で被覆された96ウェルプレートに加え、3D7-1.1または4E10-1.14上清と共にインキュベートすることによって検出した。マイクロプレートリーダーで405nmの吸収を測定した。●は3D7-1.1、■は4E10-1.14を表す。
【図14】 3D7-1.1および4E10-1.14モノクローナル抗体を用いた二部位捕捉ELISAによる、種々の生物学的サンプル中のPSMAの検出。
【図15】 3D7-1.1および4E10-1.14モノクローナル抗体を用いた二部位捕捉ELISAによる、正常なヒト血清で連続希釈したイムノアフィニティー精製PSMAの検出。
【図16】 代替の二部位捕捉ELISAによるPSMAの検出。連続希釈したイムノアフィニティー精製PSMAを3D7-1.1で被覆された96ウェルプレートに加え、ビオチニル化7E11-C5(40μg/ml)次いで西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンと共にインキュベートすることにより検出した。マイクロプレートリーダで405nmの吸収を測定した。7E11-C5をE-Z結合ビオチニル化キット(Pierce)を用いて製造元の使用説明書に従ってビオチニル化した。
【図17】 LNCaP細胞溶解物、および4E10-1.14ハイブリドーマ由来の組織培養上清を用いてプローブした部分精製PSMA断片(バキュロウィルス発現系で1.9kbインサートとして発現された全長PSMAのアミノ酸134〜750に対応する)の種々の画分のウェスタンブロット分析。1.9kb構築物(PSMAのアミノ酸134〜750)に由来するタンパク質産物の同定を矢印で示す。
レーン1はマーカー;レーン2はLNCaP細胞粗溶解物;レーン3はウィルスペレット(即ち、1.9kb PSMA断片を発現するバキュロウィルスに感染させた100,000×gペレットの溶解SF9細胞);レーン4は1.9kb PSMA断片を発現するバキュロウィルスに感染させた溶解SF9細胞由来の100,000×g上清画分;レーン5はNi-NTAマトリックスを通過させた後のレーン4に示す画分の素通り分;レーン6はNi-NTAマトリックスの0.5M NaCl溶出;レーン7はNi-NTAマトリックスの1Mイミダゾール(pH7.6)溶出;レーン8はNi-NTAマトリックスを通過させた後のレーン4に示す画分の素通り分;レーン9はNi-NTAマトリックスの0.5M NaCl溶出;そしてレーン10はNi-NTAマトリックスの1Mイミダゾール(pH7.6)溶出を示す。また、レーン2において、LNCaP細胞で発現されたネイティブ全長PSMAと4E10-1.14モノクローナル抗体との反応性にも注意されたい。
【図18】 関連性のないインサート、またはPSMAの一部(全長PSMAのアミノ酸134〜750)をコードする1.9kbインサートのいずれかを含むバキュロウィルスに感染させたSF9細胞の粗溶解物を抗体7E11-C5でプローブしたウェスタンブロット。レーン12はMWマーカー;レーン3は関連性のないウィルスで感染させたSF9細胞溶解物;レーン4はSF9細胞溶解物;そしてレーン5はウィルスに感染させたSF9溶解物を含む1.9kb PSMAインサートである。SF9細胞またはいずれかのウィルスに感染させたいずれのタンパク質産物でも7E11-C5陽性バンドが観察されなかったことに注意されたい。
【図19】 モノクローナル抗体3D7-1.1を用いてプローブした、LNCaP細胞、ヒト精液、およびヒト血清から得たPSMAおよびPSM'のウェスタンブロット。レーン1はLNCaP細胞溶解物;レーン2は7E11-C5イムノアフィニティー精製されたLNCaP細胞由来PSMA;レーン3はヒト精液;そしてレーン4はヒト男性血清。PSMAおよびPSM'の位置を示している。
【図20】 細菌融合タンパク質として発現されたPSMAおよびPSMA断片の概略図。全長PSMAとはアミノ酸1〜750と定義される。PSM'は、タンパク質の膜貫通ドメイン(TM, 残基20〜43)をも含む最初の57アミノ酸を欠失している。利用されるPSMA断片は、図に示す通り、アミノ酸1〜173、アミノ酸134〜437およびアミノ酸438〜750から成る。抗体は、それらの結合エピトープのおおよその位置に対応するタンパク質領域の下に列挙されている。図の下部には、タンパク質の天然のコンホメーションにのみ結合し、変性タンパク質またはタンパク質断片には結合しない3つの抗体が列挙されている。生きた細胞についてのフローサイトメトリー実験および免疫細胞学に基づき、これらのエピトープは細胞外ドメインのアミノ酸44〜750の内部にマッピングされた。
【配列表】
Claims (36)
- ATCC受託番号HB12491を有する3C6、ATCC受託番号HB12493を有する4D4、およびATCC受託番号HB12495を有する1G9からなる群より選択される、ハイブリドーマ細胞系。
- 生物学的検体中の前立腺特異的膜抗原(PSMA)の存在を検出する方法であって、検体を、PSMAの細胞外ドメイン内の立体構造をとるエピトープに結合するが変性PSMAには結合しない抗原結合領域を有するモノクローナル抗体と接触させ、抗体に結合したPSMAを検出することを含んでなり、該モノクローナル抗体は、 ATCC 受託番号 HB12495 を有する 1G9 、 ATCC 受託番号 HB12491 を有する 3C6 および ATCC 受託番号 HB12493 を有する 4D4 からなる群から選択されるハイブリドーマにより産生される、上記方法。
- 前記検体が生検材料または体液である、請求項2に記載の方法。
- 前記体液が全血、血清、精液、または尿である、請求項3に記載の方法。
- 抗体に結合したPSMAの前記検出を、PSMAに特異的な第二抗体により、PSMAの酵素活性により、またはNAALADaseの酵素活性により行う、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
- NAALADase活性がNAD(P)H の増加により検出される、請求項5に記載の方法。
- 癌細胞により発現された前立腺特異的膜抗原(PSMA)の存在を検出する方法であって、細胞のサンプルを、PSMAの細胞外ドメイン内の立体構造をとるエピトープに結合するが変性PSMAには結合しない抗原結合領域を有するモノクローナル抗体と接触させることを含んでなり、該モノクローナル抗体は、 ATCC 受託番号 HB12495 を有する 1G9 、 ATCC 受託番号 HB12491 を有する 3C6 および ATCC 受託番号 HB12493 を有する 4D4 からなる群から選択されるハイブリドーマにより産生される、上記方法。
- 癌細胞がin vitroで検出される、請求項7に記載の方法。
- 前記抗体がレポーターに共有結合されている、請求項7または8に記載の方法。
- 前記レポーターが酵素、放射線不透過色素、放射性金属アイソトープ、放射性非金属アイソトープ、蛍光原性(Fluorogenic)化合物、蛍光化合物、陽電子放出アイソトープ、または非常磁性金属である、請求項9に記載の方法。
- 生物学的検体中のPSM'タンパク質の存在を検出する方法であって、該検体を、PSMAの細胞外ドメイン内の立体構造をとるエピトープに結合するが変性PSMAには結合しない抗原結合領域を有するモノクローナル抗体と接触させ、抗体に結合したPSM'を検出することを含んでなり、該モノクローナル抗体は、 ATCC 受託番号 HB12495 を有する 1G9 、 ATCC 受託番号 HB12491 を有する 3C6 および ATCC 受託番号 HB12493 を有する 4D4 からなる群から選択されるハイブリドーマにより産生される、上記方法。
- 前記検体が生検材料または体液である、請求項11に記載の方法。
- 前記体液が全血、血清、精液、または尿である、請求項12に記載の方法。
- 抗体に結合したPSM'の前記検出を、PSM'に特異的な第二抗体により、または酵素活性により行う、請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
- 酵素活性がNAALADaseの活性である、請求項14に記載の方法。
- NAALADase活性がNAD(P)H の増加により検出される、請求項15に記載の方法。
- 前立腺癌の患者において前立腺細胞を殺傷するための医薬の製造における、PSMAの細胞外ドメイン内の立体構造をとるエピトープに結合するが変性PSMAには結合しない抗原結合領域を有するモノクローナル抗体の使用であって、該モノクローナル抗体は、 ATCC 受託番号 HB12495 を有する 1G9 、 ATCC 受託番号 HB12491 を有する 3C6 および ATCC 受託番号 HB12493 を有する 4D4 からなる群から選択されるハイブリドーマにより産生される、上記使用。
- 前記抗体が薬剤、トキシンまたはラジオアイソトープとコンジュゲートしている、請求項17に記載の使用。
- 前記モノクローナル抗体が二重特異的抗体であり、殺腫瘍活性または腫瘍抑制活性を有するエフェクター細胞に対して特異的な抗原結合領域をさらに含む、請求項17または18に記載の使用。
- 前記抗体が異種タンパク質またはペプチドとコンジュゲートしている、請求項19に記載の使用。
- 前記異種タンパク質が、前立腺細胞に対して殺腫瘍性である細胞を標的とする、請求項20に記載の使用。
- 前記異種タンパク質が、前立腺細胞に対して細胞傷害性である化合物を標的とする、請求項21に記載の使用。
- PSMAの細胞外ドメイン内の立体構造をとるエピトープに対して特異的な抗原結合領域を有するモノクローナル抗体を含む、前立腺癌を診断、予後判定またはモニターするためのキットであって、該モノクローナル抗体は、 ATCC 受託番号 HB12495 を有する 1G9 、 ATCC 受託番号 HB12491 を有する 3C6 および ATCC 受託番号 HB12493 を有する 4D4 からなる群から選択されるハイブリドーマにより産生される、上記キット。
- 前記抗体またはその抗原結合フラグメントが水性媒体中にまたは凍結乾燥形態でパッケージされている、請求項23に記載のキット。
- PSMAに特異的な第二抗体をさらに含む、請求項23に記載のキット。
- グルタミン酸デヒドロゲナーゼをさらに含む、請求項23に記載のキット。
- PSMAの細胞外ドメインの立体構造をとるエピトープに結合するが変性PSMAには結合しない抗原結合領域を有するモノクローナル抗体であって、 ATCC 受託番号 HB12495 を有する 1G9 、 ATCC 受託番号 HB12491 を有する 3C6 および ATCC 受託番号 HB12493 を有する 4D4 からなる群から選択されるハイブリドーマにより産生される、上記抗体。
- 前記立体構造をとるエピトープが、変性PSMA中には存在しないものである、請求項2〜16のいずれか1項に記載の方法。
- 前記立体構造をとるエピトープが、変性PSMA中には存在しないものである、請求項17〜22のいずれか1項に記載の使用。
- 前記立体構造をとるエピトープが、変性PSMA中には存在しないものである、請求項23〜26のいずれか1項に記載のキット。
- 前記立体構造をとるエピトープが、変性PSMA中には存在しないものである、請求項27に記載の抗体。
- 前記立体構造をとるエピトープが、固定されたPSMA中には存在しないものである、請求項2〜16のいずれか1項に記載の方法。
- 前記立体構造をとるエピトープが、固定されたPSMA中には存在しないものである、請求項17〜22のいずれか1項に記載の使用。
- 立体構造をとるエピトープが、固定されたPSMA中には存在しないものである、請求項23〜26のいずれか1項に記載のキット。
- 前記立体構造をとるエピトープが、固定されたPSMA中には存在しないものである、請求項27に記載の抗体。
- モノクローナル抗体であって、ATCC受託番号HB12495を有する1G9、ATCC受託番号HB12491を有する3C6およびATCC受託番号HB12493を有する4D4からなる群より選択されるハイブリドーマにより産生された第二モノクローナル抗体のその標的エピトープへの免疫特異的結合を競合的に阻害し、かつ、該標的エピトープが前立腺特異的膜抗原(PSMA)の細胞外ドメイン中にある、上記抗体。
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