JP4227742B2 - 高度分枝状パーフルオロオレフィン、極安定パーフルオロアルキルラジカル及びこれらの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高度分枝状パーフルオロオレフィン、ヘキサフルオロプロペン三量体にトリメチルパーフルオロアルキルシランを反応させることよりなる高度分枝状パーフルオロオレフィンを製造する方法、極安定パーフルオロアルキルラジカル、及び、高度分枝状パーフルオロオレフィンをフッ素化して極安定パーフルオロアルキルラジカルを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
極めて安定な極安定パーフルオロアルキルラジカルとして、例えば特開平1−29175号公報には、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)等が開示されている。
【0003】
この公報には、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)は、例えば加熱等によりトリフルオロメチル遊離基を発生し、このトリフルオロメチル遊離基は、例えば重合触媒として用い得ることが記載されている。
【0004】
極安定パーフルオロアルキルラジカルは、例えば、対応するパーフルオロオレフィンをフッ素化することにより得る方法が知られている。この場合、パーフルオロオレフィンは、極安定パーフルオロアルキルラジカルの前駆体として機能することとなる。
【0005】
パーフルオロオレフィンの合成方法としては、例えば、ヘキサフルオロプロペンのアミン系触媒によるオリゴマー化方法が知られている。
【0006】
このオリゴマー化方法としては、例えば、ジメチルスルホキシドを溶媒として用い、トリス[2(2H−ヘキサフルオロプロポキシ)エチル]アミン及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンの共存下で、3種類のヘキサフルオロプロペン三量体の混合物が生成させる方法が報告されている(T.Martini and S.P.v.Halasz,Tetrahedron Lett.,2129−2132(1974))。
【0007】
3種類のヘキサフルオロプロペン三量体としては、パーフルオロ(3−エチル−2,4−ジメチル−2−ペンテン)、パーフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)及びパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−ヘプテン)が挙げられる。
【0008】
このうち、パーフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)を直接フッ素化すると、極安定パーフルオロアルキルラジカルであるパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−エチル−3−ペンチル)(以下、「極安定パーフルオロアルキルラジカル(dR)」という。)が90重量%程度の収率で得られることが報告されている(K.V.Scherer,T.Ono,K.Yamanouchi,R.Fernandez,P.Henderson,J.Am.Chem.Soc.,107,718−719(1985),U.S.Pat.4,626,608)。
【0009】
パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−エチル−3−ペンチル)は、パーフルオロ(3−エチル−2,4−ジメチル−2−ペンテン)を直接フッ素化することによっても得られることが知られている。
【0010】
パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−エチル−3−ペンチル)とパーフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)とを一緒に加熱して反応させると、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)が得られることが知られている。この反応では、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−エチル−3−ペンチル)は、トリフルオロメチル化試薬として作用するものと考えられる。
【0011】
しかしながら、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)は、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−エチル−3−ペンチル)を用いた合成方法では痕跡量しか得られず、実用的でないという問題があった。パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)を合成するその他の方法は、従来知られていなかった。
【0012】
パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)を収率良く合成するためには、前駆体となるパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)を用いることが望ましいと考えられる。
【0013】
しかしながら、このように高度に枝分かれし立体的に込み入ったパーフルオロオレフィンは、合成が極めて難しいとされ、その合成方法は従来知られていなかった。合成方法としては、工業的利用のため、簡便で高収率のものが望ましい。
【0014】
高度に枝分かれした高度分枝状パーフルオロオレフィン類は、フッ素化によりラジカル類を生成するものと考えられ、得られるラジカル類は、立体障害により極めて安定であり、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)と同様に、重合触媒等として利用することができるものと期待される。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、高度分枝状パーフルオロオレフィンを簡便に高収率で製造する方法、新規の高度分枝状パーフルオロオレフィン、極安定パーフルオロアルキルラジカルを製造する方法、及び、新規の極安定パーフルオロアルキルラジカルを提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記一般式(1)
[(CF3)2CF][(CF3)2CY]C=C(CF3)Z (1)
(式中、Y及びZは同一又は異なって、F若しくはRfを表し、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。但し、YとZがともにFである場合を除く。)で表されることを特徴とする高度分枝状パーフルオロオレフィンである。
【0017】
本発明は、上記高度分枝状パーフルオロオレフィンを製造するためのパーフルオロオレフィン製造方法であって、ヘキサフルオロプロペン三量体と、下記一般式(2)
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表し、R1、R2及びR3は同一又は異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表す。)で表されるトリアルキルパーフルオロアルキルシランとを非プロトン性極性溶媒中でフッ化物イオンを触媒として反応させることよりなるものであることを特徴とするパーフルオロオレフィン製造方法である。
【0020】
本発明は、上記高度分枝状パーフルオロオレフィンをフッ素化することにより下記一般式(1R)
[(CF3)2CF][(CF3)2CY]Ra−CF(CF3)Z (1R)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Y及びZは同一又は異なって、F若しくはRfを表し、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。但し、YとZがともにFである場合を除く。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルを製造することよりなることを特徴とする極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法である。
【0021】
本発明は、下記一般式(4)
[(CF3)2CF][(CF3)2CRf]C=C(CF3)Rf (4)
(式中、Rfは同一又は異なって、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)をフッ素化することにより下記一般式(3R)
[(CF3)2CF]2Ra−CF(CF3)Rf (3R)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Rfは上記と同じ。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)を製造することよりなることを特徴とする炭素減少極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法である。
【0022】
本発明は、下記一般式(4R)
[(CF3)2CF][(CF3)2CRf]Ra−CF(CF3)Rf (4R)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Rfは同一又は異なって、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されることを特徴とする極安定パーフルオロアルキルラジカル(BR)である。
【0023】
本発明は、下記一般式(5R)
[(CF3)2CF][(CF3)2CRf]Ra−CF2(CF3)(5R)(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されることを特徴とする極安定パーフルオロアルキルラジカル(CR)である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明の高度分枝状パーフルオロオレフィンは、上記一般式(1)で表されることを特徴とするものである。
従って、本発明の高度分枝状パーフルオロオレフィンは、下記一般式(3)
[(CF3)2CF]2C=C(CF3)Rf (3)
(式中、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)、
【0025】
上記一般式(4)
[(CF3)2CF][(CF3)2CRf]C=C(CF3)Rf (4)
(式中、Rfは同一又は異なって、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)、又は、
【0026】
下記一般式(5)
[(CF3)2CF][(CF3)2CRf]C=CF(CF3)(5)
(式中、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)である。
【0027】
上記Rfとしては炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基であれば特に限定されず、直鎖状であってもよいし、分枝状であってもよいが、精製、分析が容易であることから、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0028】
上記一般式(1)中、YはRfであることが好ましい。この場合、本発明の高度分枝状パーフルオロオレフィンは、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)又は上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)である。上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)としては、2種類の幾何異性体の何れであってもよいが、立体障害がより少なく充分に安定性が高い点から、E体よりもZ体であることが好ましい。
【0029】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)としては、好ましくはパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)(以下、「高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)」という。)である。上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)としては、好ましくはパーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)(以下、「高度分枝状パーフルオロオレフィン(b)」という。)である。上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)としては、好ましくはパーフルオロ(4,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)(以下、「高度分枝状パーフルオロオレフィン(c)」という。)である。
【0030】
本発明の高度分枝状パーフルオロオレフィンは、界面活性剤、医薬、農薬等の合成中間体として利用されるだけでなく、後述する本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法において、極安定パーフルオロアルキルラジカルの前駆体としての働きを有することとなる。
【0031】
本発明のパーフルオロオレフィン製造方法は、上記高度分枝状パーフルオロオレフィンを製造するためのものであって、ヘキサフルオロプロペン三量体と上記一般式(2)で表されるトリアルキルパーフルオロアルキルシランとを非プロトン性極性溶媒中でフッ化物イオンを触媒として反応させることよりなるものであることを特徴とするものである。
【0032】
上記ヘキサフルオロプロペン三量体としては、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−エチル−2−ペンテン)(以下、「トリマーA」という。)、パーフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)(以下、「トリマーB」という。)、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−ヘプテン)(以下、「トリマーC」という。)等が挙げられる。なかでも、収率が良好である点から、上記トリマーA及び上記トリマーBが好ましい。
【0033】
上記ヘキサフルオロプロペン三量体としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、上記トリマーAのみであってもよいし、上記トリマーBのみであってもよいし、上記トリマーA及び上記トリマーBの混合物であってもよいし、これらに上記トリマーCが混合していてもよい。上記トリマーCが混合している場合、反応溶液における純度を高めるため、上記トリマーCは少量であることが好ましい。
【0034】
上記トリアルキルパーフルオロアルキルシランとしては、上記一般式(2)で表されるものであれば特に限定されないが、上記一般式(2)におけるRfとしては、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0035】
上記一般式(2)におけるRfは、本発明のパーフルオロオレフィン製造方法において、上記ヘキサフルオロプロペン三量体に導入されるパーフルオロアルキル基となる。即ち、得られる高度分枝状パーフルオロオレフィンにおける上記一般式(1)中のRfは、上記トリアルキルパーフルオロアルキルシラン分子における上記一般式(2)中のRfに由来する。
【0036】
上記一般式(2)におけるR1、R2又はR3は、メチル基であることが好ましい。R1、R2及びR3は、同一であることが好ましく、何れもメチル基であることがより好ましい。
上記トリアルキルパーフルオロアルキルシランとしては、原料コストの面から、トリフルオロメチルトリメチルシランが好ましい。
【0037】
本発明のパーフルオロオレフィン製造方法に用いられる非プロトン性極性溶媒としては特に限定されず、例えば、グライム系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)等が挙げられる。上記グライム系溶媒としては、例えばジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられ、これらの更に高次の同族体であってもよい。
【0038】
上記非プロトン性極性溶媒としては、一般に、反応速度が速い点から、ジメチルホルムアミド(DMF)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)が好ましく、反応速度が速く反応の選択性が高い点から、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)がより好ましい。
【0039】
本発明の高度分枝状パーフルオロオレフィン製造方法は、フッ化物イオンを触媒とするものである。上記フッ化物イオンは、フッ化物イオンを発生する化合物を用いることにより触媒として機能させることができる。
【0040】
このような化合物としてはフッ化物イオンを発生し得るものであれば特に限定されず、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、酸性フッ化カリウム、フッ化セシウム、テトラブチルアンモニウムフルオライド、テトラメチルアンモニウムフルオライド、トリス(ジメチルアミノ)スルホニウムトリメチルシリルジフルオライド、テトラブチルアンモニウムジフルオロトリフェニルスタネイト、ピリジニウム(ポリフッ化水素)、トリエチルアミン(3フッ化水素)等が挙げられる。このうち、ピリジニウム(ポリフッ化水素)は、Olah試薬とも称される。
【0041】
本発明のパーフルオロオレフィン製造方法によって得られる高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、上記一般式(1)で表されるものであれば特に限定されないが、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)が好ましく、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)がより好ましい。上記高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、また、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(b)及び上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(c)が好ましい。
【0042】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンは、ヘキサフルオロプロペン三量体、非プロトン性極性溶媒等の種類や添加量、反応条件等によるが、通常、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)及び上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)からなる群の少なくとも2種の混合物として得られる。下記反応式にRfがトリフルオロメチル基である場合を例示する。
【0043】
【化4】
【0044】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、例えば、ヘキサフルオロプロペン三量体としてトリマーAを用いる場合、高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)の収率が高く、例えば15〜80重量%であり、高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)の収率は高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)の収率よりも有意に低く、例えば10〜50重量%以下であり、高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)の収率は5重量%以下であり、実質的にゼロである場合もあるという傾向にある。
【0045】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、例えば、ヘキサフルオロプロペン三量体としてトリマーBを用いる場合、高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)の収率が高く、例えば30〜95重量%であり、高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)の収率は高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)の収率よりも有意に低く、例えば45重量%以下であり、高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)の収率は5重量%以下であり、実質的にゼロである場合もあるという傾向にある。
【0046】
本発明のパーフルオロオレフィン製造方法において、高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)を選択的に得るためには、非プロトン性極性溶媒として1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを用いることが好ましい。非プロトン性極性溶媒として1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを用いると、通常生じる副生成物が実質的に生成しない。上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)としては、高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)を目的とする場合、選択性が高くなる点で好ましい。
【0047】
本明細書において、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)を選択的に得る反応における「選択的」とは、目的とする生成物が、高収率で得られることを意味する。上記「高収率」とは、収率が60重量%以上である場合をいう。
【0048】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)を選択的に得る反応は、出発物質であるヘキサフルオロプロペン三量体の未反応物が残存するものであってもよく、未反応物の残存量は、通常、出発物質の25重量%以下である。反応生成物である上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)を可能な限り高純度で得るため、例えば、用いるトリアルキルパーフルオロアルキルシランの添加量を多くすることにより、未反応物の残存量を減少することができる場合がある。
【0049】
本発明のパーフルオロオレフィン製造方法において、通常、反応温度の下限は0℃、上限は70℃であり、好ましい下限は0℃、好ましい上限は30℃であり、一般に室温で反応を行うことができるので、加熱する必要は特になく、簡便で省エネルギー化を図ることができる。
【0050】
本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法は、上記高度分枝状パーフルオロオレフィンをフッ素化することにより上記一般式(1R)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルを製造することよりなることを特徴とするものである。
【0051】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、本発明の高度分枝状パーフルオロオレフィンとして上述したものを用いることができ、これらは、本発明のパーフルオロオレフィン製造方法として上述した方法により得ることができる。
【0052】
本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法に用いる高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、上述の高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)、高度分枝状パーフルオロオレフィン(b)又は高度分枝状パーフルオロオレフィン(c)が好ましく、なかでも、極安定パーフルオロアルキルラジカルを収率よく合成し得る点から、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)がより好ましい。高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、2種以上を用いてもよいが、生成する極安定パーフルオロアルキルラジカルの純度を高める点から、1種を用いることが好ましい。
【0053】
本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法におけるフッ素化は、フッ素ガスを用いて行うものであることが好ましい。上記フッ素ガスは、希釈してもよいし、希釈せず無希釈のものであってもよい。上記フッ素ガスの希釈としては、例えば、窒素、アルゴン等の非反応性気体により行うことが好ましい。上記フッ素ガスとしては、純粋なものであることが好ましい。
【0054】
本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法におけるフッ素化は、通常、反応容器の底部に希釈したフッ素ガス又は無希釈の純フッ素ガスを通気させることにより行うか、又は、密閉容器を用い、フッ素ガスによる加圧下で反応させることも可能である。フッ素ガスの圧力は、10気圧(絶対圧)で反応させることができ、好ましくは1〜10気圧(絶対圧)である。
【0055】
上記フッ素化により、高度分枝状パーフルオロオレフィンが有する二重結合を構成する炭素原子の一方にフッ素原子が付加し、上記二重結合を構成する他方の炭素原子上に不対電子を有してなる極安定パーフルオロアルキルラジカルを得ることができる。本明細書においては、上記フッ素化を「直接フッ素化」ということがある。
【0056】
上記フッ素化は、1気圧(絶対圧)の条件下で行う場合、反応温度は、極安定パーフルオロアルキルラジカルの収率を高める点から、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、反応を進行させる点から、−10℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、収率と反応進行とを考慮すると、好ましい上限は10℃、より好ましい上限は5℃であり、好ましい下限は−10℃、より好ましい下限は−5℃である。
上記フッ素化は、1気圧(絶対圧)の条件下で行う場合、通気時間は、極安定パーフルオロアルキルラジカルの収率を高める点から、通常、500時間以上が好ましく、720時間以上がより好ましい。
上記フッ素化は、反応時間を短縮化するためには、加圧下及び/又は例えば−5〜5℃等の低温下に行うことが好ましく、特に、工業化のためには、加圧下であり−5〜5℃等の低温下で行うことが好ましい。
【0057】
本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法により得られる極安定パーフルオロアルキルラジカルは、上記一般式(1R)で表されるものであれば特に限定されない。
【0058】
上記一般式(1R)において、Rfとしては炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基であれば特に限定されず、直鎖状であってもよいし、分枝状であってもよいが、精製、分析が容易であることから、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。上記Rfは、本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法に用いた高度分枝状パーフルオロオレフィンを表す上記一般式(1)におけるRfに由来するものである。
【0059】
上記一般式(1R)において、Raは不対電子1個を有する炭素原子である。本明細書において、「不対電子1個を有する炭素原子」とは、遊離基が有する不対電子を原子上に有している炭素を意味する。
【0060】
上記一般式(1R)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルは、下記一般式(3R)
[(CF3)2CF]2Ra−CF(CF3)Rf (3R)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Rfは前記と同じ。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)、
【0061】
下記一般式(4R)
[(CF3)2CF][(CF3)2CRf]Ra−CF(CF3)Rf (4R)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Rfは同一又は異なって、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(BR)、又は、
【0062】
下記一般式(5R)
[(CF3)2CF][(CF3)2CRf]Ra−CF2(CF3)(5R)(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(CR)である。
【0063】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)としては、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)(以下、「極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)」という。)が好ましい。上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(BR)としては、パーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)(以下、「極安定パーフルオロアルキルラジカル(bR)」という。)が好ましい。上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(CR)としては、パーフルオロ(4,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)(以下、「極安定パーフルオロアルキルラジカル(cR)」という。)が好ましい。
【0064】
本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法により得られる極安定パーフルオロアルキルラジカルとしては、用いる高度分枝状パーフルオロオレフィンの種類や反応条件等により、通常、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)から上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)が主生成物として得られ、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)から上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(BR)が主生成物として得られ、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)から上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(CR)が主生成物として得られる。
【0065】
従って、下記反応式に示すように、本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法における主生成物として、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)は上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)から得られ、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(bR)は上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(b)から得られ、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(cR)は上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(c)から得られる。
【0066】
【化5】
【0067】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルは、化学構造にもよるが、通常、90℃未満である温度において充分に安定である。上記極安定パーフルオロアルキルラジカルは、加熱等により分解し、例えばβ−開裂を起してトリフルオロメチル遊離基を発生するが、通常、90℃未満である温度において半減期が6時間以上である。
【0068】
なかでも、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)は、0℃では純フッ素ガスとさえ反応しないほど充分に安定であり、室温では1年を超えるような長期間において化学変化を起さない。なお、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)は、90℃に加熱すると半減期約6時間で分解し、トリフルオロメチル遊離基を発生する。
【0069】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルは、このように充分に極めて安定であるので、例えば90℃以上の温度に加熱したときに放出するトリフルオロメチル等の低分子量のパーフルオロアルキルラジカルを高分子合成における重合開始剤として用いることができるほか、電子スピン共鳴(ESR)の標準物質、表面処理剤、複雑形状を有する容器の漏れを調べる試薬、乳剤として生体のイメージング等に用いることができる。
【0070】
なかでも、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)及び上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(bR)、特に上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)は、高い対称性を有するので、ESRの標準物質として好適に用いることができる。
【0071】
本発明の炭素減少極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法は、高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)をフッ素化することにより極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)を製造することよりなることを特徴とするものである。
【0072】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)及び上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)としては、上述したものと同様であり、上記フッ素化は、本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法において上述したフッ素化と同様の方法により行うものである。
【0073】
本発明の炭素減少極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法は、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)をフッ素化することにより、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)よりも炭素数の少ない上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)を生成するものである。
【0074】
本発明の炭素減少極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法の反応温度としては特に限定されないが、好ましい下限は−78℃、好ましい上限は45℃であり、より好ましい下限は−10℃、より好ましい上限は15℃である。
【0075】
この反応の機構としては明確ではないが、上記フッ素化により、フッ素原子が二重結合に付加して不対電子を生じ、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)を表す一般式(4)における1個のRfを分解して遊離基として放出するものと考えられる。この反応は、特に0℃〜室温程度の反応温度で純粋なフッ素ガスを用いてフッ素化を行う場合に起こりやすい。上記Rfは、パーフルオロトリメチル基であることが好ましい。
【0076】
上述の本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法では、上述のように、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)は、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)と炭素数が同じである高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)から得ることができる。この反応は、特に0℃程度の反応温度で純粋なフッ素ガスを用いてフッ素化を行うと、定量的に進行する。
【0077】
従って、反応温度を調節することにより、目的とする極安定パーフルオロアルキルラジカルを得ることができる。このように反応温度の調節は、特に、用いる高度分枝状パーフルオロオレフィンが上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)と高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)とを含む混合物である場合、有用であると考えられる。
【0078】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)を本発明の炭素減少極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法により得る反応と、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法により得る反応の例として、極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)を高度分枝状パーフルオロオレフィン(b)と高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)から得る反応について、下記反応式に示す。
【0079】
【化6】
【0080】
本発明の炭素減少極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法による極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)の生成反応は、同時に上述の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法による極安定パーフルオロラジカル(BR)の生成反応を伴うものであってもよい。
【0081】
本発明の高度分枝状パーフルオロオレフィンは、上述の化学構造を有するものであるので新規化合物であり、上述のように極安定パーフルオロアルキルラジカルの前駆体として用いることができる。
本発明のパーフルオロオレフィン製造方法は、上述のように、簡便な方法により上記高度分枝状パーフルオロオレフィンを高収率で得ることができるものである。
【0082】
本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法は、上述のように、安価で簡便な方法により高収率で純度良く極安定パーフルオロアルキルラジカルを得ることができるものであり、反応のスケールアップが容易であるので、大量合成を必要とする工業的利用に適している。
【0083】
本発明の炭素減少極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法は、上述のように、簡便な方法により高収率で極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)を得ることができるものであり、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(AR)を得るための製造方法として選択の幅を広くすることができる。
【0084】
上述の極安定パーフルオロアルキルラジカル(BR)も、本発明の一つである。上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(BR)としては、上述の極安定パーフルオロアルキルラジカル(bR)が好ましい。
【0085】
上述の極安定パーフルオロアルキルラジカル(CR)もまた、本発明の一つである。上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(CR)としては、上述の極安定パーフルオロアルキルラジカル(cR)が好ましい。
【0086】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(BR)及び上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(CR)は、上述したように、充分に極めて安定であるので、例えば90℃以上に加熱してトリフルオロメチル等の低分子量のパーフルオロアルキルラジカルを放出させ、重合開始剤等として用いることができる。
【0087】
【実施例】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。実施例中に記載の19F−NMR(282.24MHz)は、重水素化クロロホルムを溶媒として用い、フルオロホルム(CFCl3)を内部標準として測定したものである。19F−NMRにおける化学シフト値は、フルオロホルムより高磁場での吸収をマイナスとし、δppmで表した。ガスクロマトグラフィーの測定には、キャピラリーカラム(NB−1、 0.25μm、1.5mmφ×60m)を用い、検出器にはFIDを用いた。また、分取ガスクロマトグラフィーには、Fomblinを液相とするパックドカラムを用いた。質量分析スペクトル(MS)は、ガスクロマトグラフィー−四重極質量分析計(GC−MS)で、イオン化電位は70eVで測定した。
常磁性核磁気共鳴吸収スペクトル(ESR)の測定は、溶媒にFC−72(パーフルオロヘキサンを主成分とするパーフルオロカーボン)を用いて行った。
【0088】
実施例1
パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)の合成
パーフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)を主成分とするヘキサフルオロプロペン三量体混合物(10重量%のパーフルオロ(3−エチル−2,4−ジメチル−2−ペンテン)を含む)の1mmol(450mg)とトリフルオロメチルトリメチルシランの1.1mmol(23.4mg)を、10ml容のフッ素樹脂製反応容器に取り、これに1mlのジメチルホルムアミド、更に0.3mmolの酸性フッ化カリウム(KHF2)を加えた。フッ素樹脂製マグネット攪拌子を入れ、室温で1時間激しく攪拌した。透明な下層のパーフルオロカーボン層は、分取ガスクロマトグラフィー(液相としてFomblinを用いたカラムを使用)で各成分に分け、19F−NMRにより構造を確認した。また、キャピラリーカラム(NB−1、0.25μm、1.5mmφ×60m)を用いたガスクロマトグラフィーによる面積比から計算した主生成物のパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)の収率は、62.7重量%であった。
【0089】
19F−NMR:56.07(3F,doublet quartet,J= 58.6,12.0Hz),59.35(3F,septet quartet,J=15.5,12.0Hz),70.11(6F,multiplet),70.56(6F,broad doublet,J=36.4Hz),153.6(1F,septet doublet,J=35.7,12.7Hz),157.5(1F,quartet doublet,J=58.6,12.0Hz)
【0090】
MS(m/z,%):481(M−F,1.3),393(C9F15,1.9),343(C8F13,2.2),293(C7F11,2.5),243(C6F9,1.7),205(C5F4CF3,1.7),181(C4F7,1.2), 155(C5F5,1.7),124(C4F4,1.0),119(C2F5, 1.3),100(C2F4,1.3),93(C3F3,1.3),69(CF3,100)
【0091】
副生成物として、パーフルオロ(4,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)とパーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)が、それぞれ2.6及び13.3重量%の収率であった。出発原料のパーフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)及びパーフルオロ(3−エチル−2,4−ジメチル−2−ペンテン)は、それぞれ、7.1重量%及び14.2重量%含まれていた。
【0092】
パーフルオロ(4,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)の19F−NMR:60.05(9F,doublet quartet,J =26.7,13.2Hz),66.29(3F,decaplet doublet,J=11.7,4.3Hz),67.03(1F,septet doublet quartet,39.7,15.5,4.2Hz),72.38 (6F,doublet,J=39.5Hz),166.3(1F,decapletdoublet,J=26.7,15.5Hz).
【0093】
パーフルオロ(4,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)のMS(m/z,%):393(C9F15,3.6),343(C8F13,2.1),293(C7F11,1.7),255(C5F3(CF3)2,0.7),243(C6F9,1.4),205(C5F4CF3,1.2),200(C4F8,0.9),181(C4F7,1.0),155(C5F5,1.0),150(C3F6,0.6),143(C4F5,1.3),131(C3F5,1.1),124(C4F4,1.2),119(C2F5,2.3),117(C5F3,0.7),100(C2F4,1.1),93(C3F3,1.8),69(CF3,100),50(CF2,0.8)
【0094】
パーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)の19F−NMR:55.09(3F,septet,J=12.9 Hz),56.83(3F,decaplet,J=15.5Hz),57.98(9F,broad singlet),70.40(6F,broad singlet),146.99(1F,decaplet,J=31.7Hz)
【0095】
パーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)のMS(m/z,%):443(C10F17,1.1),393(C9F15,0.9),355(C5F2(CF3)2(C2F5),0.7),293(C7F11,1.0),243(C6F9,0.6),205(C5F4CF3,1.7),200(C4F8,0.7),181(C4F7,1.8),155(C5F5,1.0),131(C3F5,0.9),124(C4F4,0.7),117(C5F3,0.7),100(C2F4,0.7),93(C3F3,1.1),69(CF3,100),50(CF2,0.7).
【0096】
実施例2
パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)の合成
パーフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)を主成分とするヘキサフルオロプロペン三量体混合物(10重量%のパーフルオロ(3−エチル−2,4−ジメチル−2−ペンテン)を含む)の1mmol(450mg)とトリフルオロメチルトリメチルシランの4.0mmol(568.8mg)を、10ml容のフッ素樹脂製反応容器に取り、これに1mlのジメチルホルムアミド、更に0.1mmolの酸性フッ化カリウム(KHF2、7.8mg)を加えた。フッ素樹脂製マグネット攪拌子を入れ、室温で1時間激しく攪拌した。透明な下層のパーフルオロカーボン層を、キャピラリーカラム(NB−1、0.25μm、1.5mmφ×60m)を用いたガスクロマトグラフィーにより分析した。面積比より計算した主生成物のパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)及びパーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)の収率は、それぞれ63.5重量%、及び36.5重量%であった。
従って、上記反応条件では、副生成物としてパーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)のみを含みパーフルオロ(4,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)を含まないことがわかった。
【0097】
実施例3
パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)の選択的合成
パーフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)を主成分とするヘキサフルオロプロペン三量体混合物(10重量%のパーフルオロ(3−エチル−2,4−ジメチル−2−ペンテン)を含む)の1mmol(450mg)とトリフルオロメチルトリメチルシランの2.0mmol(284.4mg)を、10ml容のフッ素樹脂製反応容器に取り、これに1mlの1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを、更に0.1mmolの酸性フッ化カリウム(KHF2、7.8 mg)を加えた。フッ素樹脂製マグネット攪拌子を入れ、室温で1時間激しく攪拌した後、更に1.0mmolのトリフルオロメチルトリメチルシラン(142.2mg)と0.1mmolの酸性フッ化カリウム(KHF2、7.8mg)を加え、更に室温で1時間激しく攪拌した。反応終了後、透明な下層のパーフルオロカーボン層を、キャピラリーカラム(NB−1、0.25μm、1.5mmφ×60m)を用いたガスクロマトグラフィーにより分析した。面積比より計算した主生成物のパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)の収率は、89.6重量%であった。残りは、出発原料のパーフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)及びパーフルオロ(3−エチル−2,4−ジメチル−2−ペンテン)で、それぞれ4.2重量%と2.6重量%であった。
【0098】
実施例4
パーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)の合成
パーフルオロ(3−エチル−2,4−ジメチル−2−ペンテン)の1mmol(450mg)とトリフルオロメチルトリメチルシランの4.0mmol(568.8mg)を10ml容のフッ素樹脂製反応容器に取り、これに1mlのジメチルホルムアミド、更に0.1mmolの酸性フッ化カリウム(KHF2、7.8mg)を加えた。フッ素樹脂製マグネット攪拌子を入れ、室温で1時間激しく攪拌した後に、更に1.0mmolのトリフルオロメチルトリメチルシラン(142.2mg)と0.1mmolの酸性フッ化カリウム(KHF2、7.8mg)を加え、更に室温で1時間激しく攪拌した。反応終了後、透明な下層のパーフルオロカーボン層を、キャピラリーカラム(NB−1、0.25μm、1.5mmφ×60m)を用いたガスクロマトグラフィーにより分析した。面積比より計算した主生成物のパーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)は、74.5重量%であった。副生成物としてパーフルオロ4,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテンが、収率25.5重量%で得られた。出発原料のパーフルオロ(3−エチル−2,4−ジメチル−2−ペンテン)は、完全に反応して消失していた。
【0099】
実施例5
パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)の直接フッ素化(室温)
実施例3により得たパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)(12g、24mmol)を、20mL容のHauk cylinderに取り、フッ素樹脂製のマグネチック攪拌子を入れてからフッ素のラインに接続した。Cylinderを液体窒素で冷却し、真空ポンプで内部を減圧にした。Freeze−and−thawを3回行い、容器内部を窒素で置換してから、純フッ素ガスをラインから導入し、室温下、1気圧(絶対圧)の条件で攪拌して反応を行った。10日間反応を行った後に、反応液を取り出しガスクロマトグラフィー−四重極質量分析計(GC−MS)及び、ESRで分析した。ガスクロマトグラフィーの面積比から、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)の収率は、51重量%であった。残りの49重量%は、飽和体のパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピルペンタン)であった。パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)は、Fomblinを液相として用いたパックドカラムによるガスクロマトグラフィーにより分取して精製し、FC−72(パーフルオロヘキサンを主成分とするパーフルオロアルカン)に溶解してESR試料を調製した。構造は、MSとESRで確認した。
MSm/z(%):481(C10F19,0.3),431(C9F17,0.6),393(C9F15,0.6),381(C8F15,0.6),362(C8F14,1.2),355(C9F13,1.3),343(C8F13,2.8),293(C7F11,3.7),281(C6F11,5.9),267(C8F9,1.4),255(C7F9,0.3),243(C6F9,2.2),231(C5F9,0.2),205(C6F7,1.0),193(C5F7,1.2),181(C4F7,0.8),169(C3F7,0.3),155(C5F5,1.0),150(C3F6,1.3),143(C4F5,1.2),131(C3F5,0.8),124(C4F4,1.1),119(C2F5,5.7),117(C5F3,0.6),105(C4F3,0.4),100(C3F4,1.7),93(C3F3,1.6),74(C3F2,1.0),69(CF3,100),50(CF2,1.3).
【0100】
実施例6
パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)の直接フッ素化(0℃)
実施例3により得たパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)(3.1g、6.2mmol)を10ml容のフッ素樹脂反応管に取り、5mlのFC−72を加えて溶解した。フッ素樹脂製のマグネチック攪拌子を入れ、フッ素ガス導入管を試験管の底部に置き、氷―水浴で反応容器を冷やした。純フッ素ガスを導入し、激しく攪拌した。反応を30日間行い、出発原料が完全にパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)へと変換された。ガスクロマトグラフィーにより、反応は定量的に進行していることがわかった。構造は、実施例1と同様に、ESRで確認した。
【0101】
実施例7
パーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)の直接フッ素化(0℃)
実施例4により得たパーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)(80mg、0.145mmol)を10ml容のフッ素樹脂製反応管に取り、5mlのFC−72に溶解した。フッ素樹脂製のマグネチック攪拌子を入れ、フッ素ガス導入管を試験管の底部に置き、氷―水浴で反応容器を冷やした。純フッ素ガスを導入し、4時間激しく攪拌した。反応液のガスクロマトグラフィー分析から、原料の30.7重量%が消費し、極安定パーフルオロアルキルラジカルのパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)及びパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)に変換されていることがわかった。消費した原料に対する収率では、それぞれ、35.2重量%及び、64.8重量%であった。
【0102】
【発明の効果】
本発明のパーフルオロオレフィン製造方法により、高度分枝状パーフルオロオレフィンを簡便な方法で収率良く得ることができる。本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法は、従来微量にしか得られなかった極安定パーフルオロアルキルラジカルを、容易かつ高収率で得ることができる。本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカルは、充分に安定であり、加熱によるラジカル放出性から種々の用途がある。本発明の高度分枝状パーフルオロオレフィンは、上記極安定パーフルオロアルキルラジカルの前駆体となるものである。
Claims (15)
- 下記一般式(1)
[(CF3)2CF][(CF3)2CY]C=C(CF3)Z (1)
(式中、YはRfを表し、ZはF若しくはRfを表し、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されることを特徴とする高度分枝状パーフルオロオレフィン。 - パーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)又はパーフルオロ(4,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)である請求項1記載の高度分枝状パーフルオロオレフィン。
- トリアルキルパーフルオロアルキルシランは、トリフルオロメチルトリメチルシランである請求項3記載のパーフルオロオレフィン製造方法。
- 高度分枝状パーフルオロオレフィンを製造するためのパーフルオロオレフィン製造方法であって、ヘキサフルオロプロペン三量体と、下記一般式(2)
前記トリアルキルパーフルオロアルキルシランは、トリフルオロメチルトリメチルシランであり、
前記非プロトン性極性溶媒は、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンであり、下記一般式(3)
[(CF3)2CF]2C=C(CF3)Rf (3)
(式中、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)を選択的に得ることができるパーフルオロオレフィン製造方法。 - 高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)は、収率60重量%以上で得ることができる請求項5記載のパーフルオロオレフィン製造方法。
- 高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)は、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)である請求項5又は6記載のパーフルオロオレフィン製造方法。
- 請求項1記載の高度分枝状パーフルオロオレフィンをフッ素化することにより下記一般式(1R)
[(CF3)2CF][(CF3)2CY]Ra−CF(CF3)Z (1R)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Y及びZは異なって、F若しくはRfを表し、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルを製造することよりなることを特徴とする極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法。 - フッ素化は、フッ素ガスを用いて行うものである請求項8記載の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法。
- フッ素ガスは、純粋なものである請求項9記載の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法。
- Y及びZは異なって、F若しくはトリフルオロアルキル基を表すものである請求項8、9、10又は11記載の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法。
- 高度分枝状パーフルオロオレフィンは、パーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)又はパーフルオロ(4,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)である請求項8、9、10、11又は12記載の極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法。
- 下記一般式(4)
[(CF3)2CF][(CF3)2CRf]C=C(CF3)Rf (4)
(式中、Rfは同一又は異なって、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)をフッ素化することにより下記一般式(3R)
[(CF3)2CF]2Ra−CF(CF3)Rf (3R)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Rfは前記と同じ。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)を製造することよりなることを特徴とする炭素減少極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法。 - Rfは、パーフルオロトリメチル基を表すものである請求項14記載の炭素減少極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法。
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