JP3954363B2 - 低分子ラジカル供給方法、ラジカル運搬分子、重合体製造方法及び重合体 - Google Patents

低分子ラジカル供給方法、ラジカル運搬分子、重合体製造方法及び重合体 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、低分子ラジカルを供給する方法に関し、詳しくは、ラジカル運搬分子から生成した極安定パーフルオロアルキル系ラジカルから低分子ラジカルと上記ラジカル運搬分子とを生成することよりなる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ラジカルは、例えば高分子合成において、熱や光を加えることによりラジカル開始剤から発生させて利用されている。従来、ラジカル開始剤は、一度分解してラジカルを発生してしまうと、ラジカル開始剤として再度用いることはできなかった。
【0003】
ラジカル開始剤のうち、パーフルオロアルキルラジカルを発生させるフッ素系ラジカル開始剤として、米国特許2559630号公報には、ビス(パーフルオロアシル)パーオキシドが開示されており、また、N−トリフルオロメチル−N−ニトロソトリフルオロメタンスルホンアミド(T.Umemoto and A.Ando,Bull.Chem.Soc.Jpn.,59,447−452(1986))等が知られている。
【0004】
フッ素系ラジカル開始剤として、特開平1−29175号公報には、水性系または非水性系において、テトラフルオロエチレン又はクロロフルオロエチレン等のエチレン性不飽和モノマーに対し、化学的に極めて安定なパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)を利用することが提案されている。
【0005】
パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)の極めて高い安定性については、米国特許4626608号公報、K.V.Scherer,T.Ono,K.Yamanouchi,R.Fernandez,P.Henderson,J.Am.Chem.Soc.,107,718−719(1985)にも開示されている。
【0006】
しかしながら、このような化学的に極めて安定な極安定パーフルオロアルキル系ラジカルから、より低分子量の反応性ラジカルを放出させた後、極安定パーフルオロアルキル系ラジカルを生成し、反応性ラジカルを放出させる方法については、開示されていない。
【0007】
これらのパーフルオロアルキルラジカル発生試薬のように高価な場合には、ラジカル発生後もラジカル発生剤として繰り返し利用することができるラジカル供給方法の開発が要望されている。特に、近年では、環境問題を意識して、アトムエコノミーやグリーンケミストリーということが提唱されており、このようなラジカル供給方法の開発への要望は高まりつつある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、極安定パーフルオロアルキル系ラジカルから、より低分子量のラジカルを放出した後、上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルを生成することよりなる低分子ラジカル供給方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ラジカル運搬分子から極安定パーフルオロアルキル系ラジカルを生成させる極安定ラジカル生成反応と、前記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルから低分子ラジカルを放出させるラジカル放出反応とよりなり、上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルは、90℃未満である温度において半減期が6時間以上であり、上記極安定ラジカル生成反応は、上記ラジカル放出反応より生成されるラジカル運搬分子に低分子ラジカル原基を導入して高度分枝状パーフルオロオレフィンを生成する反応と、上記高度分枝状パーフルオロオレフィンから極安定ラジカルを生成させる反応とからなり、上記低分子ラジカル原基は、低分子ラジカルと同じ構造を有する基であり、上記低分子ラジカルは、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキルであることを特徴とする低分子ラジカル供給方法である。
【0010】
【0011】
本発明の低分子ラジカル供給方法は、ラジカル運搬分子から極安定パーフルオロアルキル系ラジカルを生成させる極安定ラジカル生成反応と、前記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルから低分子ラジカルを放出させるラジカル放出反応とよりなり、上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルは、90℃未満である温度において半減期が6時間以上であり、上記極安定ラジカル生成反応は、上記ラジカル放出反応より生成されるラジカル運搬分子に低分子ラジカル原基を導入して高度分枝状パーフルオロオレフィンを生成する反応と、上記高度分枝状パーフルオロオレフィンから極安定ラジカルを生成させる反応とからなり、上記低分子ラジカル原基は、低分子ラジカルと同じ構造を有する基であり、上記低分子ラジカルは、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキルであることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の低分子ラジカル供給方法は、極安定パーフルオロアルキル系ラジカルから低分子ラジカルを放出させるラジカル放出反応を有する。ラジカル運搬分子は、上記ラジカル放 出反応により生成される。
上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルは、加熱等により上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルよりも低分子量である低分子ラジカルを放出することができる遊離基である。
【0013】
上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルとしては、下記一般式(4)
[(CFCF][(CFCY′]Ra−CF(CF)Z′ (4)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表す。Y′及びZ′は同一又は異なって、F若しくは低分子ラジカル原基を表す。但し、Y′とZ′がともにFである場合を除く。)で表される遊離基である。
【0014】
上記低分子ラジカル原基は、低分子ラジカルと同じ構造を有する基である。本明細書において、上記「低分子ラジカル原基」とは、後述するラジカル放出反応により、低分子ラジカルとして上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルから分子外に放出されることとなる基を意味する。
【0015】
上記低分子ラジカル原基は、従って、上記低分子ラジカルと同じ構造を有する基である。本明細書において、上記「同じ構造を有する」とは、構成する原子の配列が同じであることを意味する。
【0016】
上記低分子ラジカル原基は、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキルである。
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
上記低分子ラジカル原基としては、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基であ、より好ましくは、トリフルオロメチル基である。
【0021】
上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルは、好ましくは、下記一般式(11)
[(CFCF][(CFCY]Ra−CF(CF)Z (11)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表す。Y及びZは同一又は異なって、F若しくはRfを表す。但し、YとZがともにFである場合を除く。Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルであるか、又は、下記一般式(5)
[(CFCF]Ra−CF(CF)Z′ (5)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表す。Z′は低分子ラジカル原基を表す。)で表される極安定パーフルオロアルキル系ラジカル(AR′)である。
【0022】
上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルは、より好ましくは、下記一般式[(CFCF]Ra−CF(CF)Z(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表す。ZはRfを表す。)で表されるものである。上記Rfは上記一般式(11)におけるものと同様である。
【0023】
上記一般式(11)において、Rfとしては炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基であれば特に限定されず、直鎖状であってもよいし、分枝状であってもよいが、精製、分析が容易であることから、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。上記Rfは、後述の極安定ラジカル生成反応に用いた高度分枝状パーフルオロオレフィンにおけるRfに由来するものである。
【0024】
上記一般式(11)において、Raは不対電子1個を有する炭素原子である。本明細書において、「不対電子1個を有する炭素原子」とは、遊離基が有する不対電子を原子上に有している炭素を意味する。
【0025】
上記一般式(11)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルは、下記一般式(11a)
[(CFCF]Ra−CF(CF)Rf (11a)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Rfは前記と同じ。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)、
【0026】
下記一般式(11b)
[(CFCF][(CFCRf]Ra−CF(CF)Rf(11b)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Rfは同一又は異なって、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(BR)、又は、
【0027】
下記一般式(11c)
[(CFCF][(CFCRf]Ra−CF(CF
(11c)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(CR)である。
【0028】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)としては、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)(以下、「極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)」という。)が好ましい。上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(BR)としては、パーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)(以下、「極安定パーフルオロアルキルラジカル(bR)」という。)が好ましい。上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(CR)としては、パーフルオロ(4,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)(以下、「極安定パーフルオロアルキルラジカル(cR)」という。)が好ましい。
【0029】
上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルとしては、上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカル(AR)が好ましく、なかでも、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)がより好ましい。
【0030】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルは、化学構造にもよるが、通常、90℃未満である温度において充分に安定である。上記極安定パーフルオロアルキルラジカルは、後述するラジカル放出反応により分解し、低分子ラジカルを発生するが、通常、90℃未満である温度において半減期が6時間以上である。
【0031】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルのうち、なかでも上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)は、0℃では純フッ素ガスとさえ反応しないほど充分に安定であり、室温では1年を超えるような長期間において化学変化を起さない。なお、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)は、90℃に加熱すると半減期約6時間で分解し、トリフルオロメチル遊離基を発生する。
【0032】
上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルは、後述する極安定パーフルオロアルキルラジカルとは異なり、分子内に窒素原子、酸素原子及び/又はイオウ原子を有するものであってもよい。
【0033】
本明細書において、上記「低分子ラジカル」とは、上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルの化学構造の一部に由来する遊離基を意味する。従って上記低分子ラジカルは、極安定パーフルオロアルキル系ラジカルよりも分子量が低い。上記低分子ラジカルは、通常、上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルが有する低分子ラジカル原基が開裂して分子外に放出されてなる遊離基である。上記低分子ラジカルは、例えば上記低分子ラジカル原基がトリフルオロメチル基である場合、極安定パーフルオロアルキルラジカルがβ−開裂を起して生成するトリフルオロメチル遊離基である。
【0034】
上記低分子ラジカルは、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル、又は、下記一般式(1)
RfRa (1)
(式中、Raは不対電子2個を有する窒素原子、不対電子1個を有する酸素原子、又は、不対電子1個を有するイオウ原子を表す。Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される遊離基である。
【0035】
低分子ラジカルは、また、下記一般式(2)
RfRa (2)
(式中、Raは不対電子1個を有する窒素原子を表す。Rfは同一又は異なって、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される鎖状置換アミニル、又は、下記一般式(3)
【0036】
【化5】
Figure 0003954363
【0037】
(式中、Raは前記と同じである。Tはエーテル酸素を1〜2個有していてもよい炭素数4〜6のパーフルオロアルキレン基を表す。)で表される環状置換アミニルであってもよい。
【0038】
上記低分子ラジカルは、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキルであり、トリフルオロメチルがより好ましい。
【0039】
本明細書において、上記「ラジカル放出反応」とは、上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルから上記低分子ラジカルを放出させ、ラジカル運搬分子を再生する反応を意味する。上記低分子ラジカルの放出は、通常、熱及び/又は光により行う。
【0040】
上記ラジカル放出反応としては上記低分子ラジカルを放出するものであれば特に限定されないが、例えば、極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)を90℃に加熱すると、β−開裂を起こしてトリフルオロメチルラジカルを発生し、ラジカル運搬分子としてペルフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)をほぼ定量的に生成する反応が挙げられる。上記パーフルオロ(2、4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)は、0℃では純フッ素ガスとさえ反応しない程充分に安定で、室温では年のオーダーで全く変化しない。
【0041】
本発明において、上記「ラジカル運搬分子」とは、上記ラジカル放出反応により生成するものであって、上述の低分子ラジカル原基を導入することができ、必要に応じて熱、光等の作用により上記低分子ラジカルを放出することができる分子を意味する。
【0042】
上記ラジカル運搬分子としては、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−エチル−2−ペンテン)(以下、「トリマーA」という。)、ペルフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)(以下、「トリマーB」という。)又はパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−ヘプテン)(以下、「トリマーC」という。)等のヘキサフルオロプロペン三量体であることが好ましい。なかでも、上記トリマーA及び上記トリマーBが好ましい。
【0043】
上記トリマーBは、文献記載の方法によって容易に高収率で得られる(W.Dmowski,W.T.Flowers,and R.N.Haszeldine,J.Fluorine Chem.,9,94−96(1977))。生成したトリマーBは、揮発性が高いので、ポリマー合成では、減圧下で冷却したトラップに簡単に回収される。トリマーBは、また、有機溶媒中では、容易にフルオロ相として分離してくるので、回収が極めて簡単である。
【0044】
上記ラジカル運搬分子としては、このように入手容易である点、上述の極安定パーフルオロアルキルラジカルのうち好ましいものである極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)を容易に生成することができる点、及び、有機溶媒中でフルオロ相として容易に分離するのでラジカル運搬分子として簡単に回収できる点から、より好ましい。
【0045】
上記ヘキサフルオロプロペン三量体としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、上記トリマーAのみであってもよいし、上記トリマーBのみであってもよいし、上記トリマーA及び上記トリマーBの混合物であってもよいし、これらに上記トリマーCが混合していてもよい。上記トリマーCが混合している場合、反応溶液における純度を高めるため、上記トリマーCは少量であることが好ましい。
【0046】
上記極安定ラジカル生成反応は、上記ラジカル放出反応より生成されるラジカル運搬分子に低分子ラジカル原基を導入して高度分枝状パーフルオロオレフィンを生成する反応と、上記高度分枝状パーフルオロオレフィンから極安定ラジカルを生成させる反応とからなる。
上記極安定ラジカル生成反応は、ラジカル運搬分子に低分子ラジカル原基を導入する反応を有するものである。上記低分子ラジカル原基としては、上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルが分子内に有するものとして上述したものと同様である。上記極安定ラジカル生成反応は、上記ラジカル運搬分子から上記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルを生成させる反応である。
【0047】
上記極安定ラジカル生成反応において、ラジカル運搬分子に低分子ラジカル原基を導入して高度分枝状パーフルオロオレフィンを生成させる反応は、例えば、上記一般式(11)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルを得る場合、以下の方法により行うことができる。
【0048】
即ち、この場合、上記ラジカル運搬分子に低分子ラジカル原基を導入して高度分枝状パーフルオロオレフィンを生成させる反応は、上記ラジカル運搬分子としてヘキサフルオロプロペン三量体を用い、上記ヘキサフルオロプロン三量体と下記一般式(9)
【0049】
【化6】
Figure 0003954363
【0050】
(式中、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。R、R及びRは同一又は異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表す。)で表されるトリアルキルパーフルオロアルキルシランとを非プロトン性極性溶媒中でフッ化物イオンを触媒として反応させることにより、高度分枝状パーフルオロオレフィンを生成することによりなるものである。
【0051】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンは、下記一般式(10)
[(CFCF][(CFCY]C=C(CF)Z (10)
(式中、Y及びZは同一又は異なって、F若しくはRfを表す。但し、YとZがともにFである場合を除く。Rfは前記と同じである。)で表されるものである。
【0052】
従って、上記高度分枝状パーフルオロオレフィンは、下記一般式(12)
[(CFCF]C=C(CF)Rf (12)
(式中、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)、下記一般式(13)
[(CFCF][(CFCRf]C=C(CF)Rf (13)
(式中、Rfは同一又は異なって、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)、又は、下記一般式(15)
[(CFCF][(CFCRf]C=CF(CF)(15)
(式中、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)である。
【0053】
上記Rfとしては炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基であれば特に限定されず、直鎖状であってもよいし、分枝状であってもよいが、精製、分析が容易であることから、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0054】
上記一般式(10)中、YはRfであることが好ましい。この場合、上記高度分枝状パーフルオロオレフィンは、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)又は上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)である。上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)としては、2種類の幾何異性体の何れであってもよいが、立体障害がより少なく充分に安定性が高い点から、E体よりもZ体であることが好ましい。
【0055】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)としては、好ましくはパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)(以下、「高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)」という。)である。上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)としては、好ましくはパーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)(以下、「高度分枝状パーフルオロオレフィン(b)」という。)である。上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)としては、好ましくはパーフルオロ(4,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)(以下、「高度分枝状パーフルオロオレフィン(c)」という。)である。
【0056】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンは、界面活性剤、医薬、農薬等の合成中間体として利用されるだけでなく、極安定パーフルオロアルキルラジカルの前駆体としての働きを有することとなる。
【0057】
上記トリアルキルパーフルオロアルキルシランとしては、上記一般式(9)で表されるものであれば特に限定されないが、上記一般式(9)におけるRfとしては、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜3の低分子ラジカル原基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0058】
上記一般式(9)におけるRfは、上記ラジカル運搬分子に導入される低分子ラジカル原基である。即ち、得られる高度分枝状パーフルオロオレフィンにおける上記一般式(10)中のRfは、上記トリアルキルパーフルオロアルキルシラン分子における上記一般式(9)中のRfに由来する。
【0059】
上記一般式(9)におけるR、R又はRは、メチル基であることが好ましい。R、R及びRは、同一であることが好ましく、何れもメチル基であることがより好ましい。上記トリアルキルパーフルオロアルキルシランとしては、原料コストの面から、トリフルオロメチルトリメチルシランが好ましい。
【0060】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンを合成する段階で用いられる非プロトン性極性溶媒としては、特に限定されず、例えば、グライム系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)等が挙げられる。上記グライム系溶媒としては、例えばジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられ、これらの更に高次の同族体であってもよい。
【0061】
上記非プロトン性極性溶媒としては、一般に、反応速度が速い点から、ジメチルホルムアミド(DMF)、1−メチル−2−ピロリドン(NMP)及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)が好ましく、反応速度が速く反応の選択性が高い点から、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)がより好ましい。
【0062】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンを生成させる反応は、ラジカル運搬分子から高度分枝状パーフルオロオレフィンを生成する段階でフッ化物イオンを触媒とするものである。上記フッ化物イオンは、フッ化物イオンを発生する化合物を用いることにより触媒として機能させることができる。
【0063】
このような化合物としてはフッ化物イオンを発生し得るものであれば特に限定されず、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、酸性フッ化カリウム、フッ化セシウム、テトラブチルアンモニウムフルオライド、テトラメチルアンモニウムフルオライド、トリス(ジメチルアミノ)スルホニウムトリメチルシリルジフルオライド、テトラブチルアンモニウムジフルオロトリフェニルスタネイト、ピリジニウム(ポリフッ化水素)、トリエチルアミン(3フッ化水素)等が挙げられる。このうち、ピリジニウム(ポリフッ化水素)は、Olah試薬とも称される。
【0064】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、上記一般式(10)で表されるものであれば特に限定されないが、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)が好ましく、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)がより好ましい。上記高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、また、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(b)及び上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(c)が好ましい。
【0065】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンは、ラジカル運搬分子、非プロトン性極性溶媒等の種類や添加量、反応条件等によるが、通常、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)及び上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)からなる群の少なくとも2種の混合物として得られる。下記反応式にRfがトリフルオロメチル基である場合を例示する。
【0066】
【化7】
Figure 0003954363
【0067】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、例えば、ラジカル運搬分子としてトリマーAを用いる場合、高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)の収率が高く、例えば15〜80重量%であり、高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)の収率は高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)の収率よりも有意に低く、例えば10〜50重量%以下であり、高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)の収率は5重量%以下であり、実質的にゼロである場合もあるという傾向にある。
【0068】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、例えば、ラジカル運搬分子としてトリマーBを用いる場合、高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)の収率が高く、例えば30〜95重量%であり、高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)の収率は高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)の収率よりも有意に低く、例えば45重量%以下であり、高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)の収率は5重量%以下であり、実質的にゼロである場合もあるという傾向にある。
【0069】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)を選択的に得るためには、非プロトン性極性溶媒として1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを用いることが好ましい。上記非プロトン性極性溶媒として1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを用いると、通常生じる副生成物が実質的に生成しない。上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)としては、高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)を目的とする場合、選択性が高くなる点で好ましい。
【0070】
本明細書において、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)を選択的に得る反応における「選択的」とは、目的とする生成物が、高収率で得られることを意味する。上記「高収率」とは、収率が60重量%以上である場合をいう。
【0071】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)を選択的に得る反応は、出発物質であるラジカル運搬分子の未反応物が残存するものであってもよく、未反応物の残存量は、通常、出発物質の25重量%以下である。反応生成物である上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)を可能な限り高純度で得るため、例えば、用いるトリアルキルパーフルオロアルキルシランの添加量を多くすることにより、未反応物の残存量を減少することができる場合がある。
【0072】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンの合成に際しては、通常、反応温度の下限は0℃、上限は70℃であり、好ましい下限は0℃、好ましい上限は30℃であり、一般に室温で反応を行うことができるので、加熱する必要は特になく、簡便で省エネルギー化を図ることができる。
【0073】
上記極安定ラジカル生成反応は、上記高度分枝状パーフルオロオレフィンから極安定パーフルオロオレフィンを生成させる反応を有する。
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンを生成する反応により得られた上記高度分枝状パーフルオロオレフィンをフッ素化することにより上記一般式(11)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルが得られる。
【0074】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、上述したものを用いることができ、これらは上述した方法により得ることができる。
【0075】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルの製造に用いる高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、上述の高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)、高度分枝状パーフルオロオレフィン(b)又は高度分枝状パーフルオロオレフィン(c)が好ましく、なかでも、極安定パーフルオロアルキルラジカルを収率よく合成し得る点から、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)がより好ましい。高度分枝状パーフルオロオレフィンとしては、2種以上を用いてもよいが、生成する極安定パーフルオロアルキルラジカルの純度を高める点から、1種を用いることが好ましい。
【0076】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルの製造におけるフッ素化は、フッ素ガスを用いて行うものであることが好ましい。上記フッ素ガスは、希釈してもよいし、希釈せず無希釈のものであってもよい。上記フッ素ガスの希釈としては、例えば、窒素、アルゴン等の非反応性気体により行うことが好ましい。上記フッ素ガスとしては、純粋なものであることが好ましい。
【0077】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルの製造におけるフッ素化は、通常、反応容器の底部に希釈したフッ素ガス又は無希釈の純フッ素ガスを通気させることにより行うか、又は、密閉容器を用い、フッ素ガスによる加圧下で反応させることも可能である。フッ素ガスの圧力は、1〜100気圧(絶対圧)で反応させることができ、好ましくは1〜10気圧(絶対圧)である。
【0078】
上記フッ素化により、高度分枝状パーフルオロオレフィンが有する二重結合を構成する炭素原子の一方にフッ素原子が付加し、上記二重結合を構成する他方の炭素原子上に不対電子を有してなる極安定パーフルオロアルキルラジカルを得ることができる。本明細書においては、上記フッ素化を「直接フッ素化」ということがある。
【0079】
上記フッ素化は、1気圧(絶対圧)の条件下で行う場合、反応温度は、極安定パーフルオロアルキルラジカルの収率を高める点から、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、反応を進行させる点から、−10℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、収率と反応進行とを考慮すると、好ましい上限は10℃、より好ましい上限は5℃であり、好ましい下限は−10℃、より好ましい下限は−5℃である。上記フッ素化は、1気圧(絶対圧)の条件下で行う場合、通気時間は、極安定パーフルオロアルキルラジカルの収率を高める点から、通常、500時間以上が好ましく、720時間以上がより好ましい。上記フッ素化は、反応時間を短縮化するためには、加圧下及び/又は例えば−5〜5℃等の低温下に行うことが好ましく、特に、工業化のためには、加圧下であり−5〜5℃等の低温下で行うことが好ましい。
【0080】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルは、上記一般式(11)で表されるものであれば特に限定されない。
【0081】
上記一般式(11)において、Rfとしては炭素数1〜16の低分子ラジカル原基であれば特に限定されず、直鎖状であってもよいし、分枝状であってもよいが、精製、分析が容易である点から、炭素数1〜3の低分子ラジカル原基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。上記Rfは、上記高度分枝状パーフルオロオレフィンを表す上記一般式(10)におけるRfに由来するものである。
【0082】
上記一般式(11)において、Raは不対電子1個を有する炭素原子である。本明細書において、「不対電子1個を有する炭素原子」とは、遊離基が有する不対電子を原子上に有している炭素を意味する。
【0083】
上記一般式(11)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカルは、上記一般式(14)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)、
【0084】
下記一般式(16)
[(CFCF][(CFCRf]Ra−CF(CF)Rf (16)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Rfは同一又は異なって、直鎖状若しくは分枝状の炭素数1〜16の低分子ラジカル原基を表す。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(BR)、又は、
【0085】
下記一般式(17)
[(CFCF][(CFCRf]Ra−CF(CF)(17)
(式中、Raは不対電子1個を有する炭素原子を表し、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16の低分子ラジカル原基を表す。)で表される極安定パーフルオロアルキルラジカル(CR)である。
【0086】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)としては、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)(以下、「極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)」という。)が好ましい。上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(BR)としては、パーフルオロ(2,4,4−トリメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)(以下、「極安定パーフルオロアルキルラジカル(bR)」という。)が好ましい。上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(CR)としては、パーフルオロ(4,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)(以下、「極安定パーフルオロアルキルラジカル(cR)」という。)が好ましい。
【0087】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルとしては、用いる高度分枝状パーフルオロオレフィンの種類や反応条件等により、通常、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)から上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)が主生成物として得られ、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)から上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(BR)が主生成物として得られ、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(C)から上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(CR)が主生成物として得られる。
【0088】
従って、下記反応式に示すように、反応の主生成物として、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)は上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)から得られ、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(bR)は上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(b)から得られ、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(cR)は上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(c)から得られる。
【0089】
【化8】
Figure 0003954363
【0090】
本発明の低分子ラジカル供給方法は、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)をフッ素化することにより極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)を製造することよりなることを特徴とするものである。
【0091】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)及び上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)としては、上述したものと同様であり、上記フッ素化は、本発明の極安定パーフルオロアルキルラジカルの製造方法において上述したフッ素化と同様の方法により行うものである。
【0092】
上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)をフッ素化することにより、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)よりも炭素数の少ない上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)を生成する。
【0093】
上記炭素減少極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法の反応温度としては特に限定されないが、好ましい下限は−78℃、好ましい上限は45℃であり、より好ましい下限は−10℃、より好ましい上限は15℃である。
【0094】
この反応の機構としては明確ではないが、上記フッ素化により、フッ素原子が二重結合に付加して不対電子を生じ、上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)を表す一般式(13)における1個のRfを分解して遊離基として放出するものと考えられる。この反応は、特に0℃〜室温程度の反応温度で純粋なフッ素ガスを用いてフッ素化を行う場合に起こりやすい。上記Rfは、パーフルオロトリメチル基であることが好ましい。
【0095】
上述のように、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)は、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)と炭素数が同じである高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)から得ることができる。この反応は、特に0℃程度の反応温度で純粋なフッ素ガスを用いてフッ素化を行うと、定量的に進行する。
【0096】
従って、反応温度を調節することにより、目的とする極安定パーフルオロアルキルラジカルを得ることができる。このように反応温度の調節は、特に、用いる高度分枝状パーフルオロオレフィンが上記高度分枝状パーフルオロオレフィン(A)と高度分枝状パーフルオロオレフィン(B)とを含む混合物である場合、有用であると考えられる。
【0097】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(AR)を上記炭素減少極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法により得る反応と、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル製造方法により得る反応の例として、極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)を高度分枝状パーフルオロオレフィン(b)と高度分枝状パーフルオロオレフィン(a)から得る反応について、下記反応式に示す。
【0098】
【化9】
Figure 0003954363
【0099】
本発明の低分子ラジカル供給方法は、上述の構成からなるものであるので、所望により一連の反応を繰り返し行うことができ、工業的に利用することができる。本発明の低分子ラジカル供給方法は、低分子ラジカル基(α・)とその運搬分子であるラジカル運搬分子(β)からなる極安定パーフルオロアルキル系ラジカル(α−β・)をリサイクル可能なラジカル発生システムとして工業的に利用するに当たって、これらの化学種(α・)、(β)、及び(α−β・)が、条件(1)必要に応じて熱をかけることで簡単に(α−β・)からラジカル基(α・)を放出させることができる。
条件(2)(α−β・)は、化学的に極めて安定で、室温では年のオーダーで全く変化しない。
条件(3)熱的にラジカル基(α・)を放出させるときに、同時に(β)を再生する。
条件(4)再生した(β)が容易に回収される。
条件(5)回収した(β)を用いて、容易に(α−β・)を合成できる。
の5つの条件を全て満足するものであり、リサイクル可能なラジカル発生システムを提供することができるものである。
【0100】
本発明の低分子ラジカル供給方法は、低分子ラジカルを分子レベルで化学的に保存し、必要に応じて放出するラジカル運搬分子、及び、上記ラジカル運搬分子を再生利用するリサイクル技術に用いることができる。上記ラジカル運搬分子は、本リサイクル技術を可能にするリサイクル可能な分子である。本発明の低分子ラジカル供給方法によれば、極安定パーフルオロアルキル系ラジカル、特に極安定パーフルオロアルキル系ラジカル(aR)の効率的に利用することができる。
【0101】
本発明の低分子ラジカル供給方法によれば、上記ラジカル運搬分子は、ラジカル放出反応により生成され、このラジカル運搬分子から上述の極安定ラジカル生成反応により極安定パーフルオロアルキル系ラジカルを容易に生成することにより、低分子ラジカルを連続的に供給することができる。
【0102】
本発明の低分子ラジカル供給方法は、工業的に利用価値の高い低分子ラジカルだけを上記低分子ラジカル供給方法の反応系外に放出し、低分子ラジカルの放出時に生成する分子をラジカル運搬分子としてシャトルのように繰り返し利用するものであるので、いわゆるアトムエコノミーの見地からも、一般的な意味での経済の面でも、環境面でも有利なラジカル源を提供することができるものである。
【0103】
上記低分子ラジカル供給方法に用いられることを特徴とするラジカル運搬分子もまた、本発明の一つである。上記ラジカル運搬分子としては、上述のとおりであり、トリマーBが好ましい。
【0104】
上記極安定パーフルオロアルキルラジカルは、充分に極めて安定であり、例えば90℃以上の温度に加熱したときに放出するトリフルオロメチル等の低分子ラジカルを高分子合成における重合開始剤として用いることができるほか、電子スピン共鳴(ESR)の標準物質、表面処理剤、複雑形状を有する容器の漏れを調べる試薬、乳剤として生体のイメージング等に用いることができる。
【0105】
なかでも、上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)及び上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(bR)、特に上記極安定パーフルオロアルキルラジカル(aR)は、高い対称性を有するので、ESRの標準物質として好適に用いることができる。
【0106】
本発明の重合体製造方法は、上述の低分子ラジカル供給方法により放出される低分子ラジカルを重合開始剤として用いることを特徴とするものである。本発明の重合体製造方法は、上記低分子ラジカルを放出させるため、少なくともラジカル放出反応の系は80℃以上である必要があるが、通常、重合体製造により重合熱が生じるので、特に加熱する必要はなく、重合反応とラジカル放出反応の双方を熱効率的に行うことができる。
【0107】
本発明の重合体製造方法において、極安定パーフルオロアルキルラジカルの二量化反応、極安定パーフルオロアルキルラジカルと重合しているポリマー鎖の成長末端との結合は、極安定パーフルオロアルキルラジカルの立体障害により生起しにくい。従って、所望により上記重合体製造方法の反応系と低分子ラジカル供給方法の反応系とを分離することなく行わせることも可能である。
【0108】
上記重合体製造方法により得られたものであることを特徴とする重合体もまた、本発明の一つである。
【0109】
【実施例】
次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。ガスクロマトグラフィーの測定には、キャピラリーカラム(NB−1,0.25μm,1.5mmφ×60m)を用い、検出器にはFIDを用いた。また、分取ガスクロマトグラフィーには、Fomblinを液相とするパックドカラムを用いた。質量分析スペクトル(MS)は、ガスクロマトグラフィー四重極質量分析計(GC−MS)で、イオン化電位は70eVで測定した。常磁性核磁気共鳴吸収スペクトル(ESR)の測定は、溶媒にFC−72(パーフルオロヘキサンを主成分とするパーフルオロカーボン)を用いて行った。
【0110】
実施例1
ベンゼンのトリフルオロメチル化反応におけるリサイクル可能なトリフルオロメチルラジカル発生システム500mL容のナスフラスコにベンゼン100mLと、パーフルオロ−2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル(10mmol,5.19g)を加え、フッ素樹脂でコートされた磁性攪拌子を入れ、ジムロート冷却管を装着した。油浴につけ、良く攪拌しながら、加熱し、還流した。12時間還流したのち、氷−水浴につけ冷やすと、パーフルオロ−4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテンが、フルオロ層として沈み、無色透明な下層を形成するので、ガラス製パスツールピペットで分離した(4.45g,99%回収率)。ベンゼン層は、キャピラリーガスクロマトグラフィー(ベンゾトリフロリドの標品を用いて定量)により分析し、収率77%でベンゾトリフルオリドが含まれていることがわかった。
【0111】
回収されたパーフルオロ−4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテンには、トリフルオロメチルトリメチルシラン(2.84g,20mmol)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(10mL)及び、酸性フッ化カリウム(78mg,1mmol)を加え、室温で1時間激しく攪拌した。下層のフルオロ層を形成している生成物のパーフルオロ−2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテンの収率は、92%(455mg)であった。原料のパーフルオロ−4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテンの回収は8%であった。
【0112】
得られたパーフルオロ−2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテンを0℃で、純フッ素を用いて直接フッ素化を30日間行い、定量的にパーフルオロ−2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル(460mg)を得た。本実施例では、ベンゼンのトリフルオロメチル化反応で、パーフルオロ−4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン及びパーフルオロ−2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチルがリサイクル可能なラジカル発生システムを提供していることを示した。
【0113】
【発明の効果】
本発明の低分子ラジカル供給方法は、上述の構成よりなるので、上記低分子ラジカルの放出とともに生成するオレフィンをラジカル運搬分子として低分子ラジカル発生体を合成することにより一連の反応を繰り返すことができ、低分子ラジカルを連続的に供給することができる。

Claims (12)

  1. ラジカル運搬分子から極安定パーフルオロアルキル系ラジカルを生成させる極安定ラジカル生成反応と、前記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルから低分子ラジカルを放出させるラジカル放出反応とよりなり、
    前記極安定パーフルオロアルキル系ラジカルは、90℃未満である温度において半減期が6時間以上であり、
    前記極安定ラジカル生成反応は、前記ラジカル放出反応より生成されるラジカル運搬分子に低分子ラジカル原基を導入して高度分枝状パーフルオロオレフィンを生成する反応と、前記高度分枝状パーフルオロオレフィンから極安定ラジカルを生成させる反応とからなり、
    前記ラジカル運搬分子に低分子ラジカル原基を導入することは、前記ラジカル運搬分子と下記一般式(9)
    Figure 0003954363
    (式中、Rfは直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基を表す。R 、R 及びR は同一又は異なって、炭素数1〜3のアルキル基を表す。)で表されるトリアルキルパーフルオロアルキルシランとを非プロトン性極性溶媒中でフッ化物イオンを触媒として反応させることにより、前記高度分枝状パーフルオロオレフィンを生成することよりなるものであり、
    前記ラジカル運搬分子は、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−エチル−2−ペンテン)、パーフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)又はパーフルオロ(2,4−ジメチル−3−ヘプテン)であり、
    前記低分子ラジカル原基は、低分子ラジカルと同じ構造を有する基であり、
    前記低分子ラジカルは、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜16のパーフルオロアルキルである
    ことを特徴とする低分子ラジカル供給方法。
  2. ラジカル放出反応は、熱及び/又は光により行うものである請求項記載の低分子ラジカル供給方法。
  3. 非プロトン性極性溶媒は、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンであり、前記高度分枝状パーフルオロオレフィンは、選択的に生成するものである請求項1又は2記載の低分子ラジカル供給方法。
  4. 高度分枝状パーフルオロオレフィンは、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)である請求項1、2又は3記載の低分子ラジカル供給方法。
  5. トリアルキルパーフルオロアルキルシランは、トリフルオロメチルトリメチルシランである請求項1、2、3又は4記載の低分子ラジカル供給方法。
  6. ラジカル運搬分子は、パーフルオロ(4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテン)である請求項1、2、3、4又は5記載の低分子ラジカル供給方法。
  7. 低分子ラジカルは、トリフルオロメチルである請求項1、2、3、4、5又は6記載の低分子ラジカル供給方法。
  8. 極安定パーフルオロアルキル系ラジカルは、パーフルオロ(2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチル)である請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の低分子ラジカル供給方法。
  9. パーフルオロ−2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテンからパーフルオロ−2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチルを生成させる極安定ラジカル生成反応と、
    前記パーフルオロ−2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチルからトリフルオロメチル遊離基を放出させるラジカル放出反応と、
    前記ラジカル放出反応により生成されたパーフルオロ−4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテンとトリフルオロメチルトリメチルシランとを非プロトン性極性溶媒中でフッ化物イオンを触媒として反応させることにより、前記パーフルオロ−4−メチル−3−イソプロピル−2−ペンテンに低分子ラジカル原基であるトリフルオロメチル基を導入しパーフルオロ−2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテンを得る反応とよりなる
    ことを特徴とする低分子ラジカル供給方法。
  10. ラジカル放出反応は、熱及び/又は光により行うものである請求項記載の低分子ラジカル供給方法。
  11. 極安定ラジカル生成反応は、パーフルオロ−2,4−ジメチル−3−イソプロピル−2−ペンテンをフッ素化することによりパーフルオロ−2,4−ジメチル−3−イソプロピル−3−ペンチルを生成することよりなるものである請求項9又は10記載の低分子ラジカル供給方法。
  12. 非プロトン性極性溶媒は、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンである請求項9、10又は11記載の低分子ラジカル供給方法。
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