JP4224341B2 - 無機質複層板の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、無機質複層板の製造方法に関するものである。さらに、詳しくは、この出願の発明は、製造工程および長期使用におけるエフロレッセンスの発生を防止できる無機質複層板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
セメント系の無機質複層板は、外壁材、屋根材等の外装材として広く用いられており、表面に柄、目地等の凹凸模様、着色、塗装等の施された多種多様の意匠を有するものが提供されている。
【0003】
従来の無機質複層板の製造方法では、無機質複層板は、通常、少なくともセメントを主成分とし、補強繊維や無機充填材を添加してなるセメント系原料スラリーを抄造により積層させ、高含水率基板とした後、プレス機によって加圧成形して模様付けし、次いで成形された基板を養生して得られる。また、得られた無機質複層板には、上塗り塗装を施して表面化粧仕上げを行い、化粧塗膜が形成されている。
【0004】
近年はとくに、表面性を高めるため、あるいは重厚感や高級感を与える天然石に近い質感を付与するための方法として、前記のとおりにセメント系原料スラリーを抄造して得られる高含水率基板にセメントを硬化成分として含有する表層材を散布した後、プレス成形を行い、得られた基板を養生する方法が提案され、実施されている。また、このような無機質複層板には、耐水性を高めるためのクリアー塗装が施されている。
【0005】
ところが、上記のごとく提案された無機質複層板の製造方法においては、新たな問題が発生した。つまり、無機質複層板表面の防水性が不十分なため、オートクレーブ養生中や、長期使用中において表面にエフロレッセンスの発生が見られたのである。
【0006】
エフロレッセンスは、セメント中の石灰成分が水に溶け出し、空気中の二酸化炭素と結合して無機質複層板表面に固体として蓄積される白華現象であり、固体として蓄積された炭酸カルシウムが無機質複層板表面を汚染し、意匠性を低下させるだけでなく、発生箇所の付近では「浮き」が生じ、無機質複層板の劣化を引き起こす恐れがある。このようなエフロレッセンスは、表面防水性の不十分な無機質複層板が降雨等に曝され、基板に水が浸透した場合だけでなく、無機質複層板の製造工程において基板に残存する水によっても発生するものである。また、発生したエフロレッセンスは、強アルカリ性のため、オートクレーブ養生時に発生すれば、基板への上塗り塗装の密着性を低下させ、得られる化粧被膜の劣化や剥離の原因となる。さらに、無機質複層板の使用中に発生すれば、化粧被膜の劣化、剥離、退色、変色だけでなく、無機質複層板そのものの劣化、剥離、あるいは退色をも生じさせる。
【0007】
したがって、エフロレッセンスの抑制は、無機質複層板の製造方法において、重要な課題のひとつであるといえる。
【0008】
そこで、これまで、オートクレーブ養生前の基板表面に、シーラー塗装を施し、耐水性被膜を形成してオートクレーブ養生時に石灰成分が水に溶け出し、無機質複層板表面に析出することを防止する方法がとられてきた。そして、これにより、化粧被膜の密着性の低下や無機質複層板の長期使用における無機質複層板表面へのエフロレッセンスの発生が効果的に抑制されてきた。
【0009】
【特許文献1】
特開平10−235633号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような無機質複層板の製造方法においても、無機質複層板の表面粗度やシーラーの塗布量によっては耐水性が不十分となり、オートクレーブ養生時にエフロレッセンスが発生することがあった。さらに、エフロレッセンスは、オートクレーブ養生時のみならず、室温養生(一次養生)でも発生するため、完全にエフロレッセンスの発生を防止することはできなかったのが実情である。
【0011】
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、製造工程におけるエフロレッセンスの発生を防止でき、長期にわたり高い耐水性と塗膜密着性を保持できる意匠性の高い無機質複層板を製造する方法を提供することを課題としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、まず第1には、少なくとも水硬性セメント成分を固形分として含有するセメント系原料スラリーを抄造して得られる高含水率基板に、硬化成分を含有する表層材を散布し、加圧成形および養生する無機質複層板の製造方法において、表層材中の硬化成分の全量を比表面積4000〜10000 cm2/gのスラグとする無機質複層板の製造方法を提供する。
【0013】
また、この出願の発明は、第2には、表層材は硬化促進剤をスラグに対して3重量%以下含有するものとする前記の無機質複層板の製造方法を提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】
この出願の発明の無機質複層板の製造方法では、少なくとも水硬性セメント成分を固形分として含有するセメント系原料スラリーを抄造して得られる高含水率基板に、比表面積4000〜10000 cm2/gのスラグを硬化成分の全量として含有する表層材を散布し、加圧成形および養生する。
【0015】
このとき、セメント系原料スラリーの組成や抄造の条件はとくに限定されない。無機質複層板の製造において通常用いられる条件を適用すればよい。
【0016】
この出願の発明の無機質複層板の製造方法においてセメント系原料スラリーを抄造して得られる高含水率基板に散布される表層材は、従来のセメント系のものではなく、硬化成分が全量、比表面積4000〜10000 cm2/gのスラグに変換されたものである。
【0017】
スラグは、溶融炉において約1,200℃以上で焼却灰等を溶融し、それを冷却して得られるガラス質の固化物であり、原料(下水処理汚泥、鉄鋼石、産業廃棄物など)や製造方法(高炉、製鋼、転炉、電気炉、急冷、徐冷、風砕、水砕、など)の異なる様々なものが知られている。また、スラグは、主にSiO2、CaO、Al2O3、P2O5等からなり、その組成はセメントと類似しているものの、セメントと比較してエフロレッセンスの原因となるカルシウム分(CaO)の含量が少ないことを特徴としている。したがって、表層材中の硬化成分としてスラグを用いた場合には、養生工程や長期使用中におけるエフロレッセンスの発生がほとんどない。
【0018】
この出願の発明の無機質複層板の製造方法において、表層材の硬化成分として使用されるスラグはどのようなものであってもよく、前記の各種のものから選択できる。中でもCaO含量がセメントに比べて少ないものを用いることが好ましく、具体的には、高炉スラグ、転炉スラグ、水砕スラグが例示される。
【0019】
この出願の発明の無機質複層板の製造方法は、前記のとおり、スラグをセメントに替わる硬化成分として用いることにより、オートクレーブ養生時だけでなく、室温養生時や長期使用時におけるエフロレッセンスの発生を防止できるものであるが、スラグは自硬性を有さないため、硬化開始剤を添加する必要がある。また、スラグは、硬化開始剤を用いた場合でも、一般にセメントに比較して硬化速度が遅い。
【0020】
しかし、この出願の発明の無機質複層板の製造方法では、高含水率基板の加圧成形により高含水率基板から表層側へ浸出する白水が硬化開始剤として作用するため、硬化促進剤の添加による製造コストへの影響がない。白水は、高含水率基板中のセメント成分から溶出したアルカリ成分を含有する。したがって、この出願の発明の無機質複層板の製造方法では、高含水率基板の表面に表層材を散布した後、加圧成形することにより、このアルカリ成分を含有する白水が表層材側に浸出し、表層材の硬化反応が開始されるのである。
【0021】
また、この出願の発明の無機質複層板の製造方法では、表層材中の硬化成分として使用されるスラグの比表面積を4000〜10000 cm2/gとすることにより表層材の硬化反応が白水によって確実に開始されるとともに、加圧成形や養生における表層材と高含水率基板の硬化反応速度を同等とすることができる。
【0022】
スラグの比表面積が4000cm2/g未満の場合には、硬化反応速度が遅くなり、十分に硬化させるために高濃度のアルカリ成分が必要となる上、セメント系原料スラリーを抄造して得られる高含水率基板からなる下層と、その上に散布した表層材によって形成される表層が一体化せず、表層の剥離や無機質複層板のミクロクラック等が生じ易くなり、無機質複層板の強度が低下する。一方、スラグの比表面積が10000 cm2/gより大きい場合には、スラグが凝集しやすくなり、均一な表層材が得られ難くなるため、加圧成形や養生により表層材が硬化しない箇所とミクロクラックが多発する箇所が出来るなど、表面性が悪くなる場合がある。
【0023】
この出願の発明の無機質複層板の製造方法では、さらに、表層材に硬化促進剤を添加してもよい。これにより、表層材の硬化反応が高含水率基板の硬化反応と比較して著しく遅い場合でも、加圧成形により高含水率基板から表層材側に浸出する白水によりスラグの硬化が開始された際に、表層材の硬化反応が促進されるように調整できる。このとき、硬化促進剤の量は表層材中のスラグの量に対して3重量%以下とすることが望ましい。硬化促進剤の量が3重量%よりも多い場合には、表層材の硬化反応速度が高含水率基板の硬化反応速度よりも速くなり、表層と下層の密着性が低下し、無機質複層板の強度が低下する場合がある。このような硬化促進剤としては、各種のアルカリ性塩が適用される。中でも、蟻酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等が好ましく例示される。
【0024】
以上のとおりの無機質複層板の製造方法では、エフロレッセンスの原因となるカルシウム分(CaO)の含量が極めて少ないスラグをセメントに替わる表層材硬化成分として用いるため、室温養生やオートクレーブ養生、さらには長期使用におけるエフロレッセンスの発生が完全に防止される。また、スラグの比表面積を4000〜10000 cm2/gとすることにより、スラグの硬化反応が十分に進行し、表層と下層の密着性が高く、高い表面性を有する無機質複層板が得られる。さらに、加圧成形時に高含水率基板から表層材側に浸出する白水をスラグの硬化開始剤として使用することにより、製造コストの大幅な増大も避けられる。
【0025】
もちろん、以上のとおりの無機質複層板の製造方法では、表層材は、硬化成分がスラグであれば、さらに補強繊維、無機充填材、顔料等を含有していてもよい。また、この出願の発明の無機質複層板の製造方法によって製造される無機質複層板には、さらに表面にシーラー塗装や上塗り塗装を施してもよく、これにより耐水性や意匠性を高めることもできる。
【0026】
以下、実施例を示し、さらにこの出願の発明の無機質複層板の製造方法について説明する。もちろん、この出願の発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については、様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0027】
【実施例】
<実施例1>
表1に示した配合で原料スラリーを調製し、抄造して高含水率基板を得た。
【0028】
【表1】
Figure 0004224341
高含水率基板に、比表面積4000 cm2/gのスラグを硬化成分として含有する表2に記載の配合からなる表層材を散布し、プレス機にて3 kgf/cm2で加圧成形した。得られた基材を40〜80℃で12時間養生し(1次、2次養生)、さらに170℃のオートクレーブで6時間オートクレーブ養生して無機質複層板を得た。
【0029】
得られた無機質複層板について、次の評価を行った。
【0030】
(1)比重:JIS A 5418 6.3に準拠
(2)曲げ強度:JIS A 1408に準拠
(3)平面接着強度:JIS A 5908に準拠
(4)エフロレッセンス発生度:外観を目視にて確認した。なお、エフロレッセンスなし(○)、あり(×)とした。
【0031】
(5)ミクロクラック発生度:外観を目視にて確認した。なお、ミクロクラックなし(○)、ミクロクラック5カ所未満(△)、ミクロクラック多数発生(×)とした。
【0032】
結果を表2に示した。
<実施例2>
実施例1において、スラグの比表面積を8000 cm2/gとした以外は同じ方法により無機質複層板を製造し、同様の方法により比重、曲げ強度、平面接着強度、エフロレッセンス発生度およびミクロクラック発生度を評価した。
【0033】
表2に結果を示した。
<実施例3>
実施例1において、スラグの比表面積を10000 cm2/gとした以外は、同じ方法により無機質複層板を製造し、同様の方法により比重、曲げ強度、平面接着強度、エフロレッセンス発生度およびミクロクラック発生度を評価した。
【0034】
表2に結果を示した。
<実施例4>
実施例2において、表層材に硬化促進剤として蟻酸カルシウムをスラグ量に対して0.5重量%(wt%)添加した以外は同じ方法により無機質複層板を製造し、実施例1と同様の方法により比重、曲げ強度、平面接着強度、エフロレッセンス発生度およびミクロクラック発生度を評価した。
【0035】
表2に結果を示した。
<実施例5>
実施例2において、表層材に蟻酸カルシウムをスラグ量に対して1.0 wt%添加した以外は同じ方法により無機質複層板を製造し、実施例1と同様の方法により比重、曲げ強度、平面接着強度、エフロレッセンス発生度およびミクロクラック発生度を評価した。
【0036】
表2に結果を示した。
<実施例6>
実施例2において、表層材に蟻酸カルシウムをスラグ量に対して3.0 wt%添加した以外は同じ方法により無機質複層板を製造し、実施例1と同様の方法により比重、曲げ強度、平面接着強度、エフロレッセンス発生度およびミクロクラック発生度を評価した。
【0037】
表2に結果を示した。
<比較例1>
実施例1において、表層材中の硬化成分をセメントとした以外は、同じ方法により無機質複層板を製造し、同様の方法により比重、曲げ強度、平面接着強度、エフロレッセンス発生度およびミクロクラック発生度を評価し、同様の方法により比重、曲げ強度、平面接着強度、エフロレッセンス発生度およびミクロクラック発生度を評価した。
【0038】
結果を表2に示した。
<比較例2>
実施例1において、スラグの比表面積を2000 cm2/gとした以外は、同じ方法により無機質複層板を製造し、同様の方法により比重、曲げ強度、平面接着強度、エフロレッセンス発生度およびミクロクラック発生度を評価した。
【0039】
結果を表2に示した。
<比較例3>
実施例1において、スラグの比表面積を15000 cm2/gとした以外は、同じ方法により無機質複層板を製造し、同様の方法により比重、曲げ強度、平面接着強度、エフロレッセンス発生度およびミクロクラック発生度を評価した。
【0040】
結果を表2に示した。
<比較例4>
実施例4において、蟻酸カルシウムの添加量を5.0 wt%とした以外は、同じ方法により無機質複層板を製造し、実施例1と同様の方法により比重、曲げ強度、平面接着強度、エフロレッセンス発生度およびミクロクラック発生度を評価した。
【0041】
結果を表2に示した。
【0042】
【表2】
Figure 0004224341
表2より、比表面積4000〜10000 cm2/gのスラグを硬化成分として含有する表層材を高含水率基板上に散布した後、加圧成形、養生することにより、高い強度を有する無機質複層板が得られることが確認された。また、このような無機質複層板では、養生工程におけるエフロレッセンスの発生も、ミクロクラックも見られず、表層と下層の密着性も高かった。(実施例1〜6)
中でも、表層材に硬化促進剤を添加した場合には、とくに曲げ強度が高くなることが明らかになった。(実施例4〜6)
一方、硬化成分としてセメントを含有する従来の表層材を用いた場合には、ミクロクラックは見られず、曲げ強度や表層と下層の密着性は高かったものの、一次養生、二次養生後にエフロレッセンスの発生が見られ、オートクレーブ養生後には多数のエフロレッセンスが確認された。(比較例1)
また、比表面積4000 cm2/g未満のスラグを硬化成分として含有する表層材を用いた場合には、エフロレッセンスの発生は確認されなかったものの、曲げ強度や表層と下層の密着性が著しく低下した。さらに、ミクロクラックの発生も見られた。(比較例2)
さらに、比表面積が10000 cm2/gよりも大きなスラグを硬化成分として含有する表層材を用いた場合にも、曲げ強度や表層と下層の密着性が著しく低下した。また、ミクロクラックの発生も多数見られた。(比較例3)
また、比表面積4000〜10000 cm2/gのスラグを硬化成分として含有する表層材を用いた場合でも、硬化促進剤の量が3 wt%よりも多い場合には、表層と下層の密着性が著しく低下し、曲げ強度も低下した。さらに、ミクロクラックが多数発生した。(比較例4)
【0043】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明により、製造工程におけるエフロレッセンスの発生を防止でき、長期にわたり高い耐水性と塗膜密着性を保持できる意匠性の高い無機質複層板を製造する方法が提供される。
【0044】
以上のとおりの無機質複層板の製造方法では、エフロレッセンスの原因となるカルシウム分(CaO)の含量が極めて少ないスラグを表層材における硬化成分として用いるため、室温養生やオートクレーブ養生、さらには長期使用におけるエフロレッセンスの発生が完全に防止される。
【0045】
また、この出願の発明の無機質複層板の製造方法では、スラグの比表面積を4000〜10000 cm2/gとすることにより、スラグの硬化反応が十分に進行され、表層と下層の密着性が高く、高い表面性を有する無機質複層板が得られる。さらに、加圧成形時に高含水率基板から表層材側に浸出する白水をスラグの硬化開始剤として使用することにより、製造コストの大幅な増大も避けられ、有用性が高い。

Claims (2)

  1. 少なくとも水硬性セメント成分を固形分として含有するセメント系原料スラリーを抄造して得られる高含水率基板に、硬化成分を含有する表層材を散布し、加圧成形および養生する無機質複層板の製造方法において、表層材中の硬化成分の全量を比表面積4000〜10000 cm2/gのスラグとすることを特徴とする無機質複層板の製造方法。
  2. 表層材は硬化促進剤をスラグに対して3重量%以下含有するものとする請求項1の無機質複層板の製造方法。
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