本発明は、車両用駆動装置の制御装置に係り、差動作用により電気的な差動装置として機能する差動機構を備える車両用駆動装置において、特に、車両の振動または騒音の発生を抑制する技術に関するものである。
エンジンの出力を第1電動機および出力軸へ分配する差動機構と、その差動機構の出力軸と駆動輪との間に設けられた第2電動機とを、備えた車両用駆動装置が知られている。例えば、特許文献1に記載されたハイブリッド車両用駆動装置がそれである。このようなハイブリッド車両用駆動装置では差動機構が例えば遊星歯車装置で構成され、その差動作用によりエンジンからの動力の主部を駆動輪へ機械的に伝達し、そのエンジンからの動力の残部を第1電動機から第2電動機への電気パスを用いて電気的に伝達することにより電気的に変速比が変更される変速機例えば電気的な無段変速機として機能させられ、エンジンを最適な作動状態に維持しつつ車両を走行させるように制御装置により制御されて燃費が向上させられる。
特開2000−2327号公報
特開平6−193727号公報
ところで、一般的に、車両においては様々な振動や騒音が発生する。例えば、その振動や騒音は、エンジンの周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うエンジンのトルク変動による回転変動が強制源(振動強制力)となり、そのエンジントルクを伝達するクランクシャフトから駆動輪までの駆動系(動力伝達系)のねじり振動が生じ、特定のエンジン回転速度でその振動が駆動系のねじり共振により増幅されて車両各部に振動やこもり音が発生する現象であり、車両が前後方向に振動するサージと呼ばれる現象や低速こもり音が発生する現象等が良く知られている。
また、エンジンと自動変速機との間にロックアップクラッチ付トルクコンバータを備える車両用駆動装置も良く知られている。例えば、特許文献2に記載された車両用駆動装置がそれである。この車両用駆動装置では、上述したようなこもり音や振動が所定値以上の場合には、ロックアップクラッチをスリップ制御しエンジンのトルク変動をトルクコンバータに吸収させてこもり音や振動の発生を抑制している。
しかしながら、前記特許文献1に示す駆動装置のようにトルクコンバータのような流体伝動装置を備えていない場合には、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路が直結されることになり上記駆動系のねじれ共振により振動や騒音が発生しやすい可能性があった。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、差動作用により電気的な差動装置として機能する差動機構を備える車両用駆動装置において、車両の振動または騒音の発生を抑制する制御装置を提供することにある。
すなわち、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構とその伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機とを有して電気的な無段変速機として作動可能な無段変速部と、前記動力伝達経路の一部を構成し自動変速機として機能する自動変速部とを備えた車両用駆動装置の制御装置であって、(a)前記差動機構に備えられ、前記無段変速部を電気的な無段変速作動可能として前記エンジンの動力が前記差動機構を介して前記駆動輪に至る機械的動力伝達経路と前記第1電動機から前記第2電動機に至る電気的伝達経路とによって動力が伝達されるようにする無段変速状態と、その電気的な無段変速を非作動として前記機械的動力伝達経路のみによって動力が伝達されるようにする有段変速状態とに選択的に切り換えるための差動状態切換装置と、(b) 走行中の車両の振動または騒音を所定値以上とする車両の振動系の共振が発生しないように前記無段変速部の前記無段変速状態と前記有段変速状態とを切り換える切換制御手段とを、含むことにある。
このようにすれば、前記無段変速状態と前記有段変速状態とに切換え可能に構成される無段変速部を備えた駆動装置において、走行中の車両の振動または騒音を所定値以上とする車両の振動系の共振が発生しないように切換制御手段により、前記無段変速部を電気的な無段変速作動可能として前記エンジンの動力が前記差動機構を介して前記駆動輪に至る機械的動力伝達経路と前記第1電動機から前記第2電動機に至る電気的伝達経路とによって動力が伝達されるようにする無段変速状態と、その電気的な無段変速を非作動として前記機械的動力伝達経路のみによって動力が伝達されるようにする有段変速状態とに選択的に切り換えられるので、走行中の車両の振動系の共振の発生が抑制される車両状態となって車両の振動または騒音の発生が抑制される。例えば、無段変速部が有段変速状態から無段変速状態へ切り換えられることで車両状態例えばエンジン回転速度が車速に拘束されない自由回転状態とされて車両の振動系の共振を発生させるエンジン回転速度領域を回避させられ得るので、走行中の車両の振動または騒音の発生が抑制される。或いは、無段変速部が無段変速状態から有段変速状態へ切り換えられることでエンジン回転速度が車速に拘束される回転速度とされて車両の振動系の共振を発生させるエンジン回転速度領域を回避させられ得るので、走行中の車両の振動または騒音の発生が抑制される。
ここで、請求項2にかかる発明では、前記車両の振動系の共振は、前記エンジンの周期的な気筒点火により生ずる共振である。このようにすれば、車両の振動系の共振を発生させる車両状態例えばエンジン回転速度領域を回避させることで、車両の振動系の共振の発生を抑制できて車両の振動または騒音の発生が抑制される。
また、請求項3にかかる発明では、前記車両の振動系の共振は、駆動系のねじり共振である。このようにすれば、駆動系のねじり共振を発生させる車両状態例えばエンジン回転速度領域を回避させることで、駆動系のねじり共振の発生を抑制できて車両の振動または騒音の発生が抑制される。
また、請求項4にかかる発明では、前記車両の振動系の共振は、エンジン懸架系の共振である。このようにすれば、エンジン懸架系の共振を発生させる車両状態例えばエンジン回転速度領域を回避させることで、エンジン懸架系の共振の発生を抑制できて車両の振動または騒音の発生が抑制される。
また、請求項5にかかる発明では、前記所定値以上の車両の振動または騒音が実際に発生する車両状態を判定する振動騒音発生判定手段を更に含み、前記切換制御手段は、その振動騒音発生判定手段の判定結果に基づいて前記無段変速部の前記無段変速状態と前記有段変速状態とを切り換えるものである。このようにすれば、車両の経時変化等のより車両の振動系の共振が発生する車両状態が変化しても前記切換制御手段により車両の振動系の共振の発生が抑制される車両状態とされて車両の振動または騒音の発生が一層抑制される。
また、請求項6にかかる発明では、前記車両の騒音は、こもり音である。このようにすれば、車両の振動系の共振を発生させる車両状態例えばエンジン回転速度領域を回避させることで、車両の振動系の共振の発生を抑制できてこもり音の発生が抑制される。
また、請求項7にかかる発明では、前記車両の振動系の共振が発生しないように前記無段変速部の無段変速状態において前記第1電動機および/または前記第2電動機を用いてエンジン回転速度を変化させる共振抑制制御手段を更に含むものである。このようにすれば、無段変速部の無段変速状態においてはエンジン回転速度が車速に拘束されないので、例えば第1電動機を用いて車速一定のままエンジン回転速度を車両の振動系の共振が抑制される回転速度に積極的に回転制御できて車両の振動または騒音の発生が一層抑制される。
また、請求項8にかかる発明の要旨とするところは、エンジンの出力を第1電動機および伝達部材へ分配する差動機構とその伝達部材から駆動輪への動力伝達経路に設けられた第2電動機とを有して電気的な差動装置として作動可能な動力伝達装置を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、(a)前記差動機構に備えられ、その差動機構を差動作用可能として前記エンジンの動力が前記差動機構を介して前記駆動輪に至る機械的動力伝達経路と前記第1電動機から前記第2電動機に至る電気的伝達経路とによって動力が伝達されるようにする差動状態と、その差動作用を非作動として前記機械的動力伝達経路のみによって動力が伝達されるようにするロック状態とに選択的に切り換えるための差動状態切換装置と、(b) 走行中の車両の振動または騒音を所定値以上とする車両の振動系の共振が発生しないように前記差動機構の前記差動状態と前記ロック状態とを切り換える切換制御手段とを、含むことにある。
このようにすれば、前記差動状態と前記ロック状態とに切換え可能に構成される差動機構を備えた駆動装置において、走行中の車両の振動または騒音を所定値以上とする車両の振動系の共振が発生しないように切換制御手段により、前記差動機構を差動作用可能として前記エンジンの動力が前記差動機構を介して前記駆動輪に至る機械的動力伝達経路と前記第1電動機から前記第2電動機に至る電気的伝達経路とによって動力が伝達されるようにする差動状態と、該差動作用を非作動として前記機械的動力伝達経路のみによって動力が伝達されるようにするロック状態とに選択的に切り換えられるので、走行中の車両の振動系の共振が抑制される車両状態となって車両の振動または騒音の発生が抑制される。例えば、差動機構がロック状態から差動状態へ切り換えられることで車両状態例えばエンジン回転速度が車速に拘束されない自由回転状態とされて車両の振動系の共振を発生させるエンジン回転速度領域を回避させられ得るので、走行中の車両の振動または騒音の発生が抑制される。或いは、差動機構が差動状態からロック状態へ切り換えられることでエンジン回転速度が車速に拘束される回転速度とされて車両の振動系の共振を発生させるエンジン回転速度に変更されるので、走行中の車両の振動または騒音の発生が抑制される。
また、請求項9にかかる発明では、前記車両の振動系の共振は、前記エンジンの周期的な気筒点火により生ずる共振である。このようにすれば、車両の振動系の共振を発生させる車両状態例えばエンジン回転速度領域を回避させることで、車両の振動系の共振の発生を抑制できて車両の振動または騒音の発生が抑制される。
また、請求項10にかかる発明では、前記車両の振動系の共振は、駆動系のねじり共振である。このようにすれば、駆動系のねじり共振を発生させる車両状態例えばエンジン回転速度領域を回避させることで、駆動系のねじり共振の発生を抑制できて車両の振動または騒音の発生が抑制される。
また、請求項11にかかる発明では、前記車両の振動系の共振は、エンジン懸架系の共振である。このようにすれば、エンジン懸架系の共振を発生させる車両状態例えばエンジン回転速度領域を回避させることで、エンジン懸架系の共振の発生を抑制できて車両の振動または騒音の発生が抑制される。
また、請求項12にかかる発明では、前記所定値以上の車両の振動または騒音が実際に発生する車両状態を判定する振動騒音発生判定手段を更に含み、前記切換制御手段は、その振動騒音発生判定手段の判定結果に基づいて前記差動機構の前記差動状態と前記ロック状態とを切り換えるものである。このようにすれば、車両の経時変化等のより車両の振動系の共振が発生する車両状態が変化しても前記切換制御手段により車両の振動系の共振の発生が抑制される車両状態とされて車両の振動または騒音の発生が抑制される。
また、請求項13にかかる発明では、前記車両の騒音は、こもり音である。このようにすれば、車両の振動系の共振を発生させる車両状態例えばエンジン回転速度領域を回避させることで、車両の振動系の共振の発生を抑制できてこもり音の発生が抑制される。
また、請求項14にかかる発明では、前記車両の振動系の共振が発生しないように前記差動機構の差動状態において前記第1電動機および/または前記第2電動機を用いてエンジン回転速度を変化させる共振抑制制御手段を更に含むものである。このようにすれば、差動機構の差動状態においてはエンジン回転速度が車速に拘束されないので、例えば第1電動機を用いて車速一定のままエンジン回転速度を車両の振動系の共振が抑制される回転速度に積極的に回転制御できて車両の振動または騒音の発生が一層抑制される。
ここで、好適には、請求項1乃至7のいずれかに係る車両用駆動装置において、前記無段変速部は、前記差動状態切換装置により前記差動機構が差動作用が働く差動状態とされることで無段変速状態とされ、その差動作用をしないロック状態とされることで有段変速状態とされるものである。このようにすれば、無段変速部が、無段変速状態と有段変速状態とに切り換えられる。
また、好適には、前記差動機構は、エンジンに連結された第1要素と前記第1電動機に連結された第2要素と前記伝達部材に連結された第3要素とを有するものであり、前記差動状態切換装置は、前記差動状態とするためにその第1要素乃至第3要素を相互に相対回転可能とし、前記ロック状態とするためにその第1要素乃至第3要素を共に一体回転させるか或いはその第2要素を非回転状態とするものである。このようにすれば、差動機構が差動状態とロック状態とに切り換えられるように構成される。
また、好適には、前記差動状態切換装置は、前記第1要素乃至第3要素を共に一体回転させるために前記第1要素乃至第3要素のうちの少なくとも2つを相互に連結するクラッチおよび/または前記第2要素を非回転状態とするために前記第2要素を非回転部材に連結するブレーキを備えたものである。このようにすれば、差動機構が差動状態とロック状態とに簡単に切り換えられるように構成される。
また、好適には、前記差動機構は、前記クラッチおよび前記ブレーキの解放により前記第1回転要素乃至第3回転要素を相互に相対回転可能な差動状態とされ、前記クラッチの係合により変速比が1である変速機とされるか、或いは前記ブレーキの係合により変速比が1より小さい増速変速機とされるものである。このようにすれば、差動機構が差動状態とロック状態とに切り換えられるように構成されるとともに、単段または複数段の定変速比を有する変速機としても構成され得る。
また、好適には、前記差動機構動は遊星歯車装置であり、前記第1要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、前記第2要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、前記第3要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つの遊星歯車装置によって簡単に構成され得る。
また、好適には、前記遊星歯車装置はシングルピニオン型遊星歯車装置である。このようにすれば、前記差動機構の軸方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
また、好適には、請求項1乃至7のいずれかに係る車両用駆動装置において、前記自動変速部の変速比と前記無段変速部の変速比とに基づいて前記駆動装置の総合変速比が形成されるものである。このようにすれば、自動変速部の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになるので、無段変速部における電気的な無段変速制御の効率が一層高められる。
また、好適には、請求項8乃至14のいずれかに係る車両用駆動装置において、前記動力伝達経路の一部を構成する自動変速部を備え、その自動変速部の変速比と前記差動機構の変速比とに基づいて前記駆動装置の総合変速比が形成されるものである。このようにすれば、自動変速部の変速比を利用することによって駆動力が幅広く得られるようになるので、差動機構における電気的な差動装置としての制御の効率が一層高められる。
また、好適には、前記自動変速部は有段式自動変速機である。このようにすれば、無段変速部の無段変速状態或いは差動機構の差動状態において無段変速部或いは差動機構と有段式自動変速機とで無段変速機が構成され、無段変速部の有段変速状態或いは差動機構のロック状態において無段変速部或いは差動機構と有段式自動変速機とで有段変速機が構成される。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である制御装置が適用されるハイブリッド車両の駆動装置の一部を構成する変速機構10を説明する骨子図である。図1において、変速機構10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、ケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)を介して直接に連結された動力伝達装置としての無段変速部11と、その無段変速部11と駆動輪38との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている有段式の自動変速機としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この変速機構10は、車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪38との間に設けられて、図5に示すようにエンジン8からの動力を駆動装置の他の一部として動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達する。なお、変速機構10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の変速機構10を表す部分においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。また、上述のように本実施例の変速機構10においてはエンジン8と無段変速部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結は直結的に含まれる。
無段変速部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、この第2電動機M2は伝達部材18から駆動輪38までの間の動力伝達経路を構成するいずれの部分に設けられてもよい。本実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
この動力分配機構16においては、第1キャリヤCA1は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は第1サンギヤS1とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3回転要素(3要素)である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、無段変速部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば無段変速部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動状態とされると無段変速部11も差動状態とされ、無段変速部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合させられると動力分配機構16は、前記差動作用をしない非差動状態、言い換えれば差動作用が不能な非差動状態すなわちロック状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合させられて第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが一体的に係合させられると、動力分配機構16は第1遊星歯車装置24の3要素である第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態すなわち前記差動作用をしない非差動状態とされて、無段変速部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、無段変速部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて第1サンギヤS1がケース12に連結させられると、動力分配機構16は第1サンギヤS1が非回転状態とさせられるロック状態すなわち前記差動作用をしない非差動状態とされて、無段変速部11も非差動状態とされる。また、第1リングギヤR1は第1キャリヤCA1よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、無段変速部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、動力分配機構16を差動状態すなわち非ロック状態と、ロック状態(非差動状態)とに選択的に切換える差動状態切換装置としての係合装置として機能している。すなわち、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、無段変速部11を、電気的な差動装置として作動可能な差動作用が働く差動状態(非ロック状態)例えば変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動可能な差動状態すなわち電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と、上記差動作用をしないロック状態(非差動状態)すなわち電気的な無段変速作動しない変速状態例えば無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動しないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能している。動力分配機構16(無段変速部11)は、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を備えることで、ロック状態と非ロック状態とに切り換え可能な差動機構である。
自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備えている。第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
自動変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。このように、自動変速部20と伝達部材18とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間すなわち無段変速部11(伝達部材18)と駆動輪38との間の動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
以上のように構成された変速機構10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、無段変速部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、変速機構10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた無段変速部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた無段変速部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、無段変速部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
例えば、変速機構10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段「R」が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
しかし、変速機構10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、無段変速部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。
図3は、差動部或いは第1変速部として機能する無段変速部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される変速機構10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
また、無段変速部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第4リングギヤR4を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、無段変速部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の変速機構10は、動力分配機構16(無段変速部11)において、第1遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(第1キャリヤCA1)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(第1サンギヤS1)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(第1リングギヤR1)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部(有段変速部)20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により無段変速状態(差動状態)に切換えられたときは、第1電動機M1の発電による反力を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度が下降或いは上昇させられる。また、切換クラッチC0の係合により第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素が一体回転する非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合によって第1サンギヤS1の回転が停止させられると動力分配機構16は増速機構として機能する非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に無段変速部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、無段変速部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
図4は、本実施例の変速機構10を制御するための電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1、第2電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
電子制御装置40には、図4に示す各センサやスイッチから、エンジン水温を示す信号、シフトポジションを表す信号PSH、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を示す信号、M(モータ走行)モードを指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、出力軸22の回転速度に対応する車速信号、自動変速部20の作動油温を示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、アクセルペダルの操作量を示すアクセル開度信号Acc、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、各駆動輪の車輪速を示す車輪速信号、変速機構10を有段変速機として機能させるために無段変速部11(動力分配機構16)を有段変速状態(ロック状態)に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を示す信号、変速機構10を無段変速機として機能させるために無段変速部11(動力分配機構16)を無段変速状態(差動状態)に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を示す信号、第1電動機M1の回転速度を表す信号NM1、第2電動機M2の回転速度を表す信号NM2、車両の振動を表す振動信号等がそれぞれ供給される。
また、上記電子制御装置40からは、電子スロットル弁の開度を操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、燃料噴射装置によるエンジン8への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、点火装置によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、無段変速部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、上記油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号への制御信号等が、それぞれ出力される。
図5は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図5において、有段変速制御手段54は、例えば記憶手段56に予め記憶された図6の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて変速機構10の変速を実行すべきか否かを判断してすなわち変速機構10の変速すべき変速段を判断して自動変速部20の自動変速制御を実行する。例えば、有段変速制御手段54は、図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を除いた油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。
ハイブリッド制御手段52は、変速機構10の前記無段変速状態すなわち無段変速部11の差動状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて無段変速部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、アクセルペダル操作量Accや車速Vから運転者の要求出力を算出し、運転者の要求出力と充電要求値から必要な駆動力を算出し、エンジン回転速度NEとトータル出力とを算出し、そのトータル出力とエンジン回転速度NEとに基づいて、エンジン出力を得るようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段52は同じ車速および同じ自動変速部20のギヤ比すなわち伝達部材18の回転速度が同じであっても、第1電動機M1の発電量を制御することでエンジン回転速度NEを制御することが可能である。
ハイブリッド制御手段52は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NE例えば目標エンジン回転速度NE *と車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、無段変速部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は予め記憶されたエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとをパラメータとする二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に設定されたエンジン8の最適曲線(マップ、関係)を記憶しており、その最適曲線に沿ってエンジン8が作動させられるように、例えば要求駆動力を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように変速機構10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように無段変速部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通して電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、無段変速部11の電気的CVT機能によって電動機のみ例えば第2電動機M2のみを駆動力源としてモータ発進・走行させることができる。さらに、ハイブリッド制御手段52は、前記モータ発進に替えてエンジン8を駆動力源として車両を発進させるすなわちエンジン発進させる場合には、第1電動機M1の発電による反力を制御することで動力分配機構16の差動作用により伝達部材18の回転速度を引き上げてエンジン発進を制御する。上述したように通常は前記モータ発進が優先して実行されるが、車両状態によってはこのエンジン発進制御も通常実行されるものである。
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止状態又は低車速状態に拘わらず、無段変速部11の電気的CVT機能によってエンジン8の作動状態を維持させられる。例えば、車両停止時に蓄電装置60の充電状態SOCが低下して第1電動機M1による発電が必要となった場合には、エンジン8の動力により第1電動機M1が発電させられてその第1電動機M1の回転速度が引き上げられ、車速Vで一意的に決められる第2電動機M2の回転速度が車両停止状態により零(略零)となっても動力分配機構16の差動作用によってエンジン回転速度NEが自律回転可能な回転速度以上に維持される。
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、無段変速部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを一定に維持したり任意の回転速度に回転制御させられる。言い換えれば、ハイブリッド制御手段52は、エンジン回転速度NEを一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1または第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段52は第2電動機回転速度NM2を引き下げる場合には、エンジン回転速度NEを一定に維持しつつ第2電動機回転速度NM2の引き下げと第1電動機回転速度NM1の引き上げとを実行する。或いは、ハイブリッド制御手段52は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き下げる場合には、第2電動機回転速度NM2は車速Vに拘束されるので第1電動機回転速度NM1を引き下げることによりエンジン回転速度NEの引き下げを実行する。
また、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1を空転させることすなわち第1電動機M1により反力を発生させないことで無段変速部11をトルクの伝達が不能な状態すなわち無段変速部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態とすることができる。
増速側ギヤ段判定手段62は、変速機構10を有段変速状態とする際に切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて記憶手段56に予め記憶された図6に示す変速線図に従って変速機構10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
切換制御手段50は、例えば記憶手段56に予め記憶された前記図6の破線および二点鎖線に示す切換線図(切換マップ、関係)から車速Vおよび出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて変速機構10の変速状態を切り換えるべきか否かを判断してすなわち変速機構10を無段変速状態とする無段制御領域内であるか或いは変速機構10を有段変速状態とする有段制御領域内であるかを判定することにより変速機構10の切り換えるべき変速状態を判断して、変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。
具体的には、切換制御手段50は有段変速制御領域内であると判定した場合は、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段54に対しては、予め設定された有段変速時の変速制御を許可する。このときの有段変速制御手段54は、記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20の自動変速制御を実行する。例えば記憶手段56に予め記憶された図2は、このときの変速制御において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。すなわち、変速機構10全体すなわち無段変速部11および自動変速部20が所謂有段式自動変速機として機能し、図2に示す係合表に従って変速段が達成される。
例えば、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段が判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段50は無段変速部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。また、増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、変速機構10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段50は無段変速部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。このように、切換制御手段50によって変速機構10が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、無段変速部11が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、変速機構10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
しかし、切換制御手段50は、変速機構10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域内であると判定した場合は、変速機構10全体として無段変速状態が得られるために無段変速部11を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段52に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段54には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは記憶手段56に予め記憶された例えば図6に示す変速線図に従って自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段54により、図2の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段50により無段変速状態に切り換えられた無段変速部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
ここで前記図6について詳述すると、図6は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段56に予め記憶された変速線図(関係)であり、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図(変速マップ)の一例である。図6の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。また、図6の破線は切換制御手段50による有段制御領域と無段制御領域との判定のための判定車速V1および判定出力トルクT1を示している。つまり、図6の破線はハイブリッド車両の高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1の連なりである高車速判定線と、ハイブリッド車両の駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部20の出力トルクTOUTが高出力となる高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高出力走行判定線とを示している。さらに、図6の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。つまり、この図6は判定車速V1および判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。なお、この切換線図を含めて変速マップとして記憶手段56に予め記憶されてもよい。また、この切換線図は判定車速V1および判定出力トルクT1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、車速Vおよび出力トルクTOUTの何れかをパラメータとする予め記憶された切換線であってもよい。
上記変速線図や切換線図等は、マップとしてではなく実際の車速Vと判定車速V1とを比較する判定式、出力トルクTOUTと判定出力トルクT1とを比較する判定式等として記憶されてもよい。この場合には、切換制御手段50は、車両状態例えば実際の車速が判定車速V1を越えたときに変速機構10を有段変速状態とする。また、切換制御手段50は、車両状態例えば有段変速部20の出力トルクTOUTが判定出力トルクT1を越えたときに変速機構10を有段変速状態とする。また、無段変速部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障や、故障(フェイル)とか低温による機能低下或いは機能不全が発生した場合には、無段制御領域であっても車両走行を確保するために切換制御手段50は変速機構10を優先的に有段変速状態としてもよい。
上記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクTE、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル開度(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとに基づいて算出されるエンジントルクTEなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル開度に基づいて算出されるエンジントルクTEや要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
また、例えば判定車速V1は、高速走行において変速機構10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において変速機構10が有段変速状態とされるように設定されている。また、判定トルクT1は、車両の高出力走行において第1電動機M1の反力トルクをエンジンの高出力域まで対応させないで第1電動機M1を小型化するために、例えば第1電動機M1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機M1の特性に応じて設定される。
図7は、エンジン回転速度NEとエンジントルクTEとをパラメータとして切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域とのいずれであるかを領域判定するための境界線としてのエンジン出力線を有する例えば記憶手段56に予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)である。切換制御手段50は、図6の切換線図に替えてこの図7の切換線図からエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとに基づいて、それらのエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで表される車両状態が無段制御領域内であるか或いは有段制御領域内であるかを判定してもよい。また、この図7は図6の破線を作るための概念図でもある。言い換えれば、図6の破線は図7の関係図(マップ)に基づいて車速Vと出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標上に置き直された切換線でもある。
図6の関係に示されるように、出力トルクTOUTが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が、有段制御領域として設定されているので有段変速走行がエンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。同様に、図7の関係に示されるように、エンジントルクTEが予め設定された所定値TE1以上の高トルク領域、エンジン回転速度NEが予め設定された所定値NE1以上の高回転領域、或いはそれらエンジントルクTEおよびエンジン回転速度NEから算出されるエンジン出力が所定以上の高出力領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行がエンジン8の比較的高トルク、比較的高回転速度、或いは比較的高出力時において実行され、無段変速走行がエンジン8の比較的低トルク、比較的低回転速度、或いは比較的低出力時すなわちエンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。図7における有段制御領域と無段制御領域との間の境界線は、高車速判定値の連なりである高車速判定線および高出力走行判定値の連なりである高出力走行判定線に対応している。
これによって、例えば、車両の低中速走行および低中出力走行では、変速機構10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上させられる。また、出力トルクTOUTなどの前記駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では変速機構10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行および低中出力走行となって、第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ換言すれば第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値を小さくできて第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。また、他の考え方として、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、ユーザは、例えば図8に示すような有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度NEの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化が楽しめる。
図9は、図5にも示すように手動操作により動力分配機構16の差動状態と非差動状態(ロック状態)すなわち変速機構10の無段変速状態と有段変速状態との切換え選択するための変速状態手動選択装置としてのシーソー型スイッチ44(以下、スイッチ44と表す)の一例でありユーザにより手動操作可能に車両に備えられている。このスイッチ44は、ユーザが所望する変速状態での車両走行を選択可能とするものであり、無段変速走行に対応するスイッチ44の無段と表示された無段変速走行指令釦或いは有段変速走行に対応する有段と表示された有段変速走行指令釦をユーザにより押されることで、それぞれ無段変速走行すなわち変速機構10を電気的な無段変速機として作動可能な無段変速状態とするか、或いは有段変速走行すなわち変速機構10を有段変速機として作動可能な有段変速状態とするかが選択可能とされる。例えば、ユーザは無段変速機のフィーリングや燃費改善効果が得られる走行を所望すれば変速機構10が無段変速状態とされるように手動操作により選択する。また、ユーザは有段変速機の変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化を所望すれば変速機構10が有段変速状態とされるように手動操作により選択する。また、スイッチ44には無段変速走行或いは有段変速走行の何れも選択されない状態である中立位置が設けられており、無段変速走行或いは有段変速走行の何れにも固定しない変速状態が選択可能とされる。例えば、ユーザは所望する変速状態がない場合や固定したくない場合すなわち車両走行において走行状態を無段変速走行或いは有段変速走行に固定したくない場合には、スイッチ44をその中立位置とする。
図5に戻り、手動選択操作判定手段80は、スイッチ44の選択状態すなわち無段変速走行指令釦、有段変速走行指令釦、および中立位置のいずれが選択されている状態かを判定する。また、手動選択操作判定手段80は、スイッチ44の選択状態を判定することで、無段変速走行か有段変速走行かがユーザにより強制されているか否かを判定する。つまり、手動選択操作判定手段80は、無段変速走行指令釦と有段変速走行指令釦との何れかが選択されている状態であると判定した場合には、無段変速走行か有段変速走行かが手動操作により強制されて変速状態がユーザにより固定されていると判定する。
前記切換制御手段50は、上記手動選択操作判定手段80により判定されたスイッチ44の選択状態に基づいて予め記憶された有段変速制御領域或いは無段変速制御領域を変更する変速状態領域変更手段82を備え、その変速状態領域変更手段82により変更された領域に基づいて変速機構10を無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り替える。つまり、切換制御手段50は、スイッチ44において無段変速状態とするか或いは有段変速状態とするかがユーザにより選択操作された場合には、例えば図6に示す切換線図から車両状態の変化に基づいて実行される変速機構10の変速状態の自動切換制御作動に替えて、ユーザによるスイッチ44の選択操作に従って優先的に変速機構10を無段変速状態と有段変速状態とに切り換える。
具体的には、上記変速状態領域変更手段82は手動選択操作判定手段80によりスイッチ44において無段変速走行と有段変速走行との何れかが選択されている状態かが判定された場合にはその判定結果に基づいて予め記憶された有段変速制御領域および無段変速制御領域において一方の領域の全てを他方の領域に変更する。例えば、図6の切換線図において破線(二点鎖線)に示される有段制御領域と無段制御領域との間の境界線が無くなり前記無段制御領域と前記有段制御領域とのいずれか一方に領域が変更される。
そして、切換制御手段50は、上記変速状態領域変更手段82により変更された領域に基づいて変速機構10を無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り替える。また、切換制御手段50は、スイッチ44が前記中立位置の状態であるときすなわちユーザによって所望する変速状態が選択されていないときや所望する変速状態が自動切換のときには、例えば前述したように図6の切換線図から変速機構10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。すなわち切換制御手段50により前記無段変速状態と前記有段変速状態とが手動操作による切換えでなく車両状態に基づいて自動的に切り換えられる。
ところで、車両の走行中においては様々な振動または騒音が発生しているが、この振動または騒音は乗員の快適性の観点や車外騒音など環境に及ぼす影響を考えると極力そのレベルを低減させることが望ましい。例えば、エンジン8の周期的な気筒点火(爆発)やピストンの往復運動に伴うエンジンのトルク変動による回転変動が強制源(振動源、振動強制力)となって振動が発生して車両の振動系の振動例えば駆動系(すなわち動力伝達系)のねじり振動が生じ、例えば特定のエンジン回転速度で発生する車両の振動系の共振例えば駆動系のねじり共振によりその振動が増幅され、車体に伝達されたその振動そのものまたはその振動により生じた騒音例えばこもり音がそれらの大きさによっては乗員に不快感等を与える可能性があった。特に、本実施例ではエンジン8と駆動輪38との間の動力伝達経路が直接的に連結されているのでトルクコンバータ等の流体伝動装置を介して連結されている場合に比較して車両の振動系の共振としての駆動系のねじり共振例えば変速機構10のねじり共振が発生しやすい可能性があった。以下、本実施例では、上記振動または騒音を振動騒音として表す。
そこで、上記車両の振動騒音の発生を抑制するために車両の振動系の共振例えば駆動系のねじり共振の発生を抑制する必要がある。本実施例では、車両の振動騒音を所定値以上とする駆動系のねじり共振が発生しないように、その駆動系のねじり共振が発生しやすい車両状態となっているかを判断しその車両状態を回避する。例えば、振動源であるエンジン回速度NEが駆動系のねじり共振が発生しやすい車両状態としての所定エンジン回転速度領域例えば約1800rpm付近を回避するように制御される。以下に、その制御作動について具体的に説明する。上記所定値以上の振動騒音は、乗員の快適性の観点や車外騒音など環境に及ぼす影響を考慮して予め実験的に定められたものである。
振動騒音領域判定手段84は、車両の振動騒音を所定値以上とするような駆動系のねじり共振が発生する車両状態であるか否かを、例えば実際の車両状態が駆動系のねじり共振が発生する所定の車両状態であるか否かにより判定する。例えば、この所定の車両状態は、車両の振動騒音を所定値以上とするような駆動系のねじり共振が発生する車両状態であって、車両状態をパラメータとして所定の車両状態を有する領域(マップ、関係)として予め実験等により求められて記憶手段56に記憶されているものである。例えば、上記車両状態を表すものはエンジン回転速度NEであり、車両の振動騒音を所定値以上とするような駆動系のねじり共振が発生するエンジン回転速度領域が予め実験等により求められて所定の車両状態としての所定エンジン回転速度領域として記憶されている。また、この所定エンジン回転速度領域は、エンジン回転速度NEはもちろんであるがそれに加えて例えば車速V、エンジン8の可変気筒の状態すなわち稼働しているエンジン8の気筒数、電磁駆動弁に代表される可変サイクルエンジンのサイクル数等で表される車両状態に基づいて定められている。これは、同じエンジン回転速度NEや車速V等であっても上記車両状態の違いにより駆動系のねじり共振が発生したりしなかったりするためであり、駆動系のねじり共振の発生に影響を与える様々な車両状態を考慮して上記所定エンジン回転速度領域が定められている。
共振抑制制御手段86は、上記振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような駆動系のねじり共振が発生する車両状態であると判定された場合には、駆動系のねじり共振の発生を抑制するために例えば上記所定エンジン回転速度領域を回避するようにエンジン回転速度NEを変更する。
ここで、車速Vすなわち出力軸22の回転速度NOUTが略一定速度である場合には、変速機構10のトータル変速比γTを変化させることによりエンジン回転速度NE(=γT×NOUT)が変化させられる。また、このトータル変速比γTは無段変速部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとの積(γT=γ0×γ)であるので、自動変速部20の変速比γが変化しない場合には、エンジン回転速度NEは無段変速部11の変速比γ0を変化させることにより変化させられる。
また、この無段変速部11の変速比γ0は、無段変速部11の無段変速状態においてはハイブリッド制御手段52により無段階に変化させられ、無段変速部11の定変速状態においてはγ0=1(切換クラッチC0係合時)或いはγ0=0.7程度(切換ブレーキB0係合時)に固定される。そうすると、無段変速部11の無段変速状態においては変速比γ0を変化させてエンジン回転速度NEを変化させられるが、無段変速部11の定変速状態においてはエンジン回転速度NEを変化させられない。
そこで、前記切換制御手段50は、振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような駆動系のねじり共振が発生する車両状態であると判定された場合には、無段変速部11を無段変速状態とするために切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。そして、無段変速部11が無段変速状態とされると前記共振抑制制御手段86は、第1電動機M1および/または第2電動機M2の回転速度を制御し無段変速部11の変速比γ0を変化させてエンジン回転速度NEを所定エンジン回転速度領域から回避するようにハイブリッド制御手段52に指令を出力する。
このように、振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような駆動系のねじり共振が発生する車両状態であると判定された場合には、その車両の振動騒音を所定値以上とする駆動系のねじり共振が発生しないように、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態へ切り換えられるか或いは無段変速状態に維持されて、共振抑制制御手段86により第1電動機M1および/または第2電動機M2を用いてエンジン回転速度NEが車速Vおよび自動変速部20の変速比γに拘束されることなく変化させられる。
振動騒音発生判定手段88は、前記所定値以上の振動騒音が実車上で発生したか否かを、例えば車両の加速度を示す加速度信号、車両の振動を表す振動信号、或いは図示しないマイクロフォンにより検出される車室内騒音に基づいて判定する。振動騒音発生判定手段88は、実車上の振動騒音の発生を判定することにより、駆動系のねじり共振が発生する車両状態として予め記憶されている所定の車両状態の他に、新たに発生した駆動系のねじり共振を発生させる車両状態すなわち新たな振動発生領域として前記所定値以上の車両の振動騒音が実際に発生する車両状態を判定する。これにより、例えば駆動系の個体差、タイヤの相違(交換)や個体差、或いは経時的変化により新たに発生した駆動系のねじり共振が発生する車両状態が判定される。
発生領域記憶手段90は、上記振動騒音発生判定手段88により実車上で所定値以上の振動騒音が発生したと判定された場合には、そのときの車両状態例えばエンジン回転速度NE、車速V、稼働しているエンジン8の気筒数、可変サイクルエンジンのサイクル数等を例えば記憶手段56に記憶させる。そして、記憶手段56はこのときの車両状態を、予め求められて記憶されている前記所定の車両状態に加えて、或いは替えて新たに所定の車両状態として記憶する。よって、振動騒音領域判定手段84は、次回において駆動系のねじり共振が発生する車両状態であるか否かの判定を、新たに更新された領域(マップ、関係)すなわち駆動系のねじり共振が発生する新たな所定の車両状態に基づいて判定する。
また、前記振動騒音発生判定手段88により実車上で所定値以上の振動騒音が発生したと判定された場合には、その車両の振動騒音を所定値以上とする駆動系のねじり共振が発生しないように、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態へ切り換えられるか或いは無段変速状態に維持されて、共振抑制制御手段86により第1電動機M1および/または第2電動機M2を用いてエンジン回転速度NEが車速Vおよび自動変速部20の変速比γに拘束されることなく変化させられる。
図10は、電子制御装置40の制御作動の要部すなわち車両における振動騒音の発生を抑制するために駆動系のねじり共振の発生を抑制する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。また、図11は、図10のフローチャートに示す制御作動の一例であって、無段変速部11の定変速状態(ロック状態)において車両の振動騒音を所定値以上とするような駆動系のねじり共振が発生する領域が判定された場合に駆動系のねじり共振を回避する制御作動を説明するタイムチャートである。また、図11の共振を回避する制御作動は、車両定速走行且つ自動変速部20の変速制御が実行されない状態で実行される。
先ず、前記手動選択操作判定手段80に対応するステップ(以下、ステップを省略する)SA1において、スイッチ44の選択状態すなわち無段変速走行指令釦、有段変速走行指令釦、および中立位置のいずれが選択されている状態かが判定されることにより無段変速走行か有段変速走行かがユーザにより強制されているか否かが判定される。無段変速走行か有段変速走行かがスイッチ44によりマニュアルで固定されていると判定されてこのSA1の判断が肯定される場合はSA7において、駆動系のねじり共振の発生を抑制する制御作動以外のその他の通常の制御作動が実行されるか或いは現在の車両走行状態が維持されて本ルーチンが終了させられる。
上記SA1の判断が否定される場合は前記振動騒音領域判定手段84に対応するSA2において、車両の振動騒音を所定値以上とするような駆動系のねじり共振が発生する車両状態であるか否かが、例えば実際の車両状態が予め求められて記憶された駆動系のねじり共振が発生する所定の車両状態であるか否かにより判定される。図11のt1時点は定変速状態(ロック状態)とされている無段変速部11において駆動系のねじり共振が発生する領域となる車両状態例えば所定エンジン回転速度領域と判定されたことを示している。
上記SA2の判断が否定される場合は、前記切換制御手段50に対応するSA3において、例えば図6に示す切換線図から車速Vと出力トルクTOUTとで表される実際の車両状態に基づいて変速機構10の変速状態の切換えが判断される。続く、前記振動騒音発生判定手段88に対応するSA4において、所定値以上の振動騒音が実車上で発生したか否かが、例えば車両の加速度を示す加速度信号や車両の振動を表す振動信号などに基づいて判定される。また、実車上の振動騒音の発生が判定されることにより予め記憶されている前記所定の車両状態の他に、新たな振動発生領域として所定値以上の車両の振動騒音が実際に発生する車両状態が判定される。例えば、実車上の振動騒音の発生が判定されと、そのときの車両状態例えばエンジン回転速度NE、車速V、稼働しているエンジン8の気筒数、可変サイクルエンジンのサイクル数等を新たに発生した駆動系のねじり共振が発生する車両状態として判定する。
上記SA4の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合は前記発生領域記憶手段90に対応するSA5において、上記SA4にて判定された所定値以上の車両の振動騒音が実際に発生する車両状態を例えば記憶手段56に記憶させる。そして、その記憶手段56により上記SA4にて判定された車両状態が、予め求められて記憶された前記所定の車両状態に加えて、或いは替えて新たに所定の車両状態として記憶される。よって、前記SA2における判断は、次回において駆動系のねじり共振が発生する車両状態であるか否かの判定が、実際の車両状態がSA5にて新たに更新された領域(マップ、関係)に基づいて判定される。
前記SA2の判断が肯定される場合或いは上記SA5に続いて前記切換制御手段50および前記共振抑制制御手段86に対応するSA6において、無段変速部11を優先的に無段変速状態へ切り換えるか或いは無段変速状態に維持するために切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令が油圧制御回路42へ出力される。そして、その無段変速部11の無段変速状態において第1電動機M1の回転速度を制御し無段変速部11の変速比γ0を変化させてエンジン回転速度NEを所定エンジン回転速度領域から回避するようにハイブリッド制御手段52に指令が出力される。
図11のt1時点乃至t2時点は、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を解放して無段変速部11の定変速状態(ロック状態)から無段変速状態(差動状態)へ切り換えるように油圧制御回路42に指令が出力されると共に、無段変速状態とされた無段変速部11において第1電動機M1を制御してエンジン回転速度NEが駆動系のねじり共振が発生する車両状態すなわち所定エンジン回転速度領域から回避するように変化させられたことを示している。図11の実線は第1電動機M1の回転速度を引き下げてエンジン回転速度NEが所定エンジン回転速度領域から回避されるように低下させられた場合であり、図11の破線は第1電動機M1の回転速度を引き上げてエンジン回転速度NEが所定エンジン回転速度領域から回避されるように上昇させられた場合である。
上述のように、本実施例によれば、無段変速状態と有段変速状態とに切換え可能に構成される無段変速部11を備えた変速機構10において、例えば、振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振としての駆動系のねじり共振が発生する車両状態であると判定された場合には、その駆動系のねじり共振が発生しないように、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態へ切り換えられるか或いは無段変速状態に維持され、エンジン回転速度NEが車速Vに拘束されないその無段変速部11の無段変速状態において共振抑制制御手段86により第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが前記所定エンジン回転速度領域を回避するように積極的に回転制御されるので、駆動系のねじり共振の発生が抑制されて車両の振動騒音の発生が抑制される。
また、本実施例によれば、車両の振動騒音を所定値以上とする駆動系のねじり共振が発生する所定の車両状態が予め記憶されているので、振動騒音領域判定手段84により駆動系のねじり共振が発生する領域が簡単に判定され、共振抑制制御手段86により車両の振動騒音の発生が抑制される。また、振動騒音発生判定手段88により実車上で所定値以上の振動騒音が発生したと判定された場合には、そのときの車両状態が記憶手段56に予め記憶された前記所定の車両状態に加えて、或いは替えて新たに所定の車両状態として発生領域記憶手段90により記憶される。そして、振動騒音領域判定手段84による駆動系のねじり共振が発生する車両状態であるか否かの判定が発生領域記憶手段90により新たに更新された領域に基づいて判定されるので、例えば駆動系の個体差、タイヤの相違(交換)や個体差、或いは経時的変化により駆動系のねじり共振が発生する車両状態が変化しても、駆動系のねじり共振が発生しないように、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態とされ、共振抑制制御手段86により第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが前記所定エンジン回転速度領域を回避するように積極的に回転制御される。よって、駆動系のねじり共振の発生が抑制されて車両の振動騒音の発生が一層抑制される。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
前述の実施例では、車両の振動騒音を発生させる車両の振動系の共振として駆動系のねじり共振を例示し、その振動騒音を所定値以上とする駆動系のねじり共振が発生しないように、無段変速部11を無段変速状態に維持し或いは切換えて強制源(振動源、振動強制力)であるエンジン回速度NEが駆動系のねじり共振が発生しやすい所定エンジン回転速度領を回避させられる制御作動を示した。ところで、エンジン8を振動源として車両の振動騒音を発生させる車両の振動系の共振としては上記駆動系のねじり共振以外にも排気系の共振、エンジン補機類の共振、駆動系の曲げ共振、駆動系の連成共振、エンジン懸架系の共振、車体系の共振、サスペンション構成部材の共振などが良く知られている。例えば、排気系の共振による車両の振動騒音は、エンジンのトルク変動により生じるエンジン振動が排気マニホールドを経由して排気管系を加振する現象であったり、排気バルブの開閉に伴って生じるエンジン回転速度と気筒数に関係する排気脈動圧を起振源として、排気管系の諸元で決まる共振(共鳴)特性によって特定のエンジン回転速度で増幅された音響エネルギーが排気管系を加振したり車室内にこもり音を発生させる現象である。
そこで、本実施例では、車両の振動騒音(特に、こもり音)を所定値以上とする排気系の共振が発生しないように、その排気系の共振が発生しやすい車両状態となっているかを判断しその車両状態を回避する。例えば、振動源であるエンジン回速度NEが排気系の共振が発生しやすい車両状態としての所定エンジン回転速度領域を回避するように制御される。以下に、その制御作動について具体的に説明する。
図5に戻り、前記振動騒音領域判定手段84は、前述の実施例に替えて或いは加えて、車両の振動騒音を所定値以上とするような排気系の共振が発生する車両状態であるか否かを、例えば実際の車両状態が排気系の共振が発生する所定の車両状態であるか否かにより判定する。例えば、この所定の車両状態は、車両の振動騒音を所定値以上とするような排気系の共振が発生する車両状態であって、車両状態をパラメータとして所定の車両状態を有する領域(マップ、関係)として予め実験等により求められて記憶手段56に記憶されているものである。例えば、上記車両状態を表すものはエンジン回転速度NEであり、車両の振動騒音を所定値以上とするような排気系の共振が発生するエンジン回転速度領域が予め実験等により求められて所定の車両状態としての所定エンジン回転速度領域として記憶されている。また、この所定エンジン回転速度領域は、エンジン回転速度NEはもちろんであるがそれに加えて例えば車速V、エンジン8の可変気筒の状態すなわち稼働しているエンジン8の気筒数、電磁駆動弁に代表される可変サイクルエンジンのサイクル数等で表される車両状態に基づいて定められている。これは、同じエンジン回転速度NEや車速V等であっても上記車両状態の違いにより排気系の共振が発生したりしなかったりするためであり、排気系の共振の発生に影響を与える様々な車両状態を考慮して上記所定エンジン回転速度領域が定められている。
前記共振抑制制御手段86は、前述の実施例に替えて或いは加えて、上記振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような排気系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、排気系の共振の発生を抑制するために例えば上記所定エンジン回転速度領域を回避するようにエンジン回転速度NEを変更する。
前記切換制御手段50は、前述の実施例に替えて或いは加えて、前記振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような排気系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、無段変速部11を無段変速状態とするために切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。そして、無段変速部11が無段変速状態とされると上記共振抑制制御手段86は、第1電動機M1および/または第2電動機M2の回転速度を制御し無段変速部11の変速比γ0を変化させてエンジン回転速度NEを所定エンジン回転速度領域から回避するようにハイブリッド制御手段52に指令を出力する。
このように、振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような排気系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、その車両の振動騒音を所定値以上とする排気系の共振が発生しないように、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態へ切り換えられるか或いは無段変速状態に維持されて、共振抑制制御手段86により第1電動機M1および/または第2電動機M2を用いてエンジン回転速度NEが車速Vおよび自動変速部20の変速比γに拘束されることなく変化させられる。
前記振動騒音発生判定手段88は、前述の実施例に替えて或いは加えて、実車上の振動騒音の発生を判定することにより、排気系の共振が発生する車両状態として予め記憶されている所定の車両状態の他に、新たに発生した排気系の共振を発生させる車両状態すなわち新たな振動発生領域として前記所定値以上の車両の振動騒音が実際に発生する車両状態を判定する。これにより、例えば排気系の個体差、タイヤの相違(交換)や個体差、或いは経時的変化により新たに発生した排気系の共振が発生する車両状態が判定される。
前記発生領域記憶手段90は、前述の実施例に替えて或いは加えて、上記振動騒音発生判定手段88により実車上で所定値以上の振動騒音が発生したと判定された場合には、そのときの排気系の共振を発生させる車両状態例えばエンジン回転速度NE、車速V、稼働しているエンジン8の気筒数、可変サイクルエンジンのサイクル数等を例えば記憶手段56に記憶させる。そして、記憶手段56はこのときの車両状態を、予め求められて記憶されている前記所定の車両状態に加えて、或いは替えて新たに所定の車両状態として記憶する。よって、振動騒音領域判定手段84は、次回において排気系の共振が発生する車両状態であるか否かの判定を、新たに更新された領域(マップ、関係)すなわち排気系の共振が発生する新たな所定の車両状態に基づいて判定する。
また、前述の実施例に替えて或いは加えて、前記振動騒音発生判定手段88により実車上で所定値以上の振動騒音が発生したと判定された場合には、その車両の振動騒音を所定値以上とする排気系の共振が発生しないように、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態へ切り換えられるか或いは無段変速状態に維持されて、共振抑制制御手段86により第1電動機M1および/または第2電動機M2を用いてエンジン回転速度NEが車速Vおよび自動変速部20の変速比γに拘束されることなく変化させられる。
図12は、電子制御装置40の制御作動の要部すなわち車両における振動騒音例えばこもり音の発生を抑制するために排気系の共振の発生を抑制する制御作動を説明するフローチャートであって、前述の実施例における図10のフローチャートに相当するものであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図13は、図12のフローチャートに示す制御作動の一例であって、無段変速部11の定変速状態(ロック状態)において車両のこもり音を所定値以上とするような排気系の共振が発生する領域が判定された場合に排気系の共振を回避する制御作動を説明するタイムチャートであり、前述の実施例における図11のフローチャートに相当するものである。また、図13の共振を回避する制御作動は、車両定速走行且つ自動変速部20の変速制御が実行されない状態で実行される。
先ず、前記手動選択操作判定手段80に対応するステップ(以下、ステップを省略する)SB1において、スイッチ44の選択状態すなわち無段変速走行指令釦、有段変速走行指令釦、および中立位置のいずれが選択されている状態かが判定されることにより無段変速走行か有段変速走行かがユーザにより強制されているか否かが判定される。無段変速走行か有段変速走行かがスイッチ44によりマニュアルで固定されていると判定されてこのSB1の判断が肯定される場合はSB7において、排気系の共振の発生を抑制する制御作動以外のその他の通常の制御作動が実行されるか或いは現在の車両走行状態が維持されて本ルーチンが終了させられる。
上記SB1の判断が否定される場合は前記振動騒音領域判定手段84に対応するSB2において、車両のこもり音を所定値以上とするような排気系の共振が発生する車両状態であるか否かが、例えば実際の車両状態が予め求められて記憶された排気系の共振が発生する所定の車両状態であるか否かにより判定される。図13のt1時点は定変速状態(ロック状態)とされている無段変速部11において排気系の共振が発生する領域となる車両状態例えば所定エンジン回転速度領域と判定されてこもり音の発生が判断されたことを示している。
上記SB2の判断が否定される場合は、前記切換制御手段50に対応するSB3において、例えば図6に示す切換線図から車速Vと出力トルクTOUTとで表される実際の車両状態に基づいて変速機構10の変速状態の切換えが判断される。続く、前記振動騒音発生判定手段88に対応するSB4において、所定値以上のこもり音が実車上で発生したか否かが、例えば図示しないマイクロフォンにより検出される車室内騒音等に基づいて判定される。また、実車上のこもり音の発生が判定されることにより予め記憶されている前記所定の車両状態の他に、新たなこもり音発生領域として所定値以上の車両のこもり音が実際に発生する車両状態が判定される。例えば、実車上のこもり音の発生が判定されと、そのときの車両状態例えばエンジン回転速度NE、車速V、稼働しているエンジン8の気筒数、可変サイクルエンジンのサイクル数等を新たに発生した排気系の共振が発生する車両状態として判定する。
上記SB4の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合は前記発生領域記憶手段90に対応するSB5において、上記SB4にて判定された所定値以上の車両のこもり音が実際に発生する車両状態を例えば記憶手段56に記憶させる。そして、その記憶手段56により上記SB4にて判定された車両状態が、予め求められて記憶された前記所定の車両状態に加えて、或いは替えて新たに所定の車両状態として記憶される。よって、前記SB2における判断は、次回において排気系の共振が発生する車両状態であるか否かの判定が、実際の車両状態がSB5にて新たに更新された領域(マップ、関係)に基づいて判定される。
前記SB2の判断が肯定される場合或いは上記SB5に続いて前記切換制御手段50および前記共振抑制制御手段86に対応するSB6において、無段変速部11を優先的に無段変速状態へ切り換えるか或いは無段変速状態に維持するために切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令が油圧制御回路42へ出力される。そして、その無段変速部11の無段変速状態において第1電動機M1の回転速度を制御し無段変速部11の変速比γ0を変化させてエンジン回転速度NEを所定エンジン回転速度領域から回避するようにハイブリッド制御手段52に指令が出力される。
図13のt1時点乃至t2時点は、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を解放して無段変速部11の定変速状態(ロック状態)から無段変速状態(差動状態)へ切り換えるように油圧制御回路42に指令が出力されると共に、無段変速状態とされた無段変速部11において第1電動機M1を制御してエンジン回転速度NEが排気系の共振が発生する車両状態すなわち所定エンジン回転速度領域から回避するように変化させられたことを示している。図13の実線は第1電動機M1の回転速度を引き下げてエンジン回転速度NEが所定エンジン回転速度領域から回避されるように低下させられた場合であり、図13の破線は第1電動機M1の回転速度を引き上げてエンジン回転速度NEが所定エンジン回転速度領域から回避されるように上昇させられた場合である。
上述のように、本実施例によれば、無段変速状態と有段変速状態とに切換え可能に構成される無段変速部11を備えた変速機構10において、例えば、振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音例えばこもり音を所定値以上とするような車両の振動系の共振としての排気系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、その排気系の共振が発生しないように、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態へ切り換えられるか或いは無段変速状態に維持され、エンジン回転速度NEが車速Vに拘束されないその無段変速部11の無段変速状態において共振抑制制御手段86により第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが前記所定エンジン回転速度領域を回避するように積極的に回転制御されるので、排気系の共振の発生が抑制されて車両のこもり音の発生が抑制される。
また、本実施例によれば、車両のこもり音を所定値以上とする排気系の共振が発生する所定の車両状態が予め記憶されているので、振動騒音領域判定手段84により排気系の共振が発生する領域が簡単に判定され、共振抑制制御手段86により車両のこもり音の発生が抑制される。また、振動騒音発生判定手段88により実車上で所定値以上のこもり音が発生したと判定された場合には、そのときの車両状態が記憶手段56に予め記憶された前記所定の車両状態に加えて、或いは替えて新たに所定の車両状態として発生領域記憶手段90により記憶される。そして、振動騒音領域判定手段84による排気系の共振が発生する車両状態であるか否かの判定が発生領域記憶手段90により新たに更新された領域に基づいて判定されるので、例えば排気系の個体差、タイヤの相違(交換)や個体差、或いは経時的変化により排気系の共振が発生する車両状態が変化しても、排気系の共振が発生しないように、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態とされ、共振抑制制御手段86により第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが前記所定エンジン回転速度領域を回避するように積極的に回転制御される。よって、排気系の共振の発生が抑制されて車両のこもり音の発生が一層抑制される。
前述の実施例では、エンジン8を振動源として車両の振動騒音を発生させる車両の振動系の共振として駆動系のねじり共振や排気系の共振を例示し、その振動騒音を所定値以上とする共振が発生しないようにする制御作動を示した。本実施例では、上記駆動系のねじり共振や排気系の共振以外の良く知られた車両の振動系の共振として前記エンジン懸架系の共振を取り上げる。
一般に、エンジン8は、複数のエンジンマウントにより支持されて車体に固定されている。そして、エンジン8や変速機構10などのパワープラントとそのエンジンマウントとでエンジン懸架系が構成される。例えば、そのエンジン懸架系の共振による車両の振動騒音は、エンジンのトルク変動により生じるエンジン振動がエンジンマウント等を介して車体へ伝達されて車体振動が発生する現象であり、特に、アイドリング時にフロア、シート、およびステアリングホイールに約20〜50Hzの低周波振動が誘起される所謂アイドル振動が発生する現象である。また、エンジン8の往復慣性力により発生した起振力が、主にエンジンマウントから車体に伝達されて高速こもり音を発生させる現象である。
そこで、本実施例では、車両の振動騒音を所定値以上とするエンジン懸架系の共振が発生しないように、そのエンジン懸架系の共振が発生しやすい車両状態となっているかを判断しその車両状態を回避する。例えば、振動源であるエンジン回速度NEがエンジン懸架系の共振が発生しやすい車両状態としての所定エンジン回転速度領域を回避するように制御される。以下に、その制御作動について具体的に説明する。
図5に戻り、前記振動騒音領域判定手段84は、前述の実施例に替えて或いは加えて、車両の振動騒音を所定値以上とするようなエンジン懸架系の共振が発生する車両状態であるか否かを、例えば実際の車両状態がエンジン懸架系の共振が発生する所定の車両状態であるか否かにより判定する。例えば、この所定の車両状態は、車両の振動騒音を所定値以上とするようなエンジン懸架系の共振が発生する車両状態であって、車両状態をパラメータとして所定の車両状態を有する領域(マップ、関係)として予め実験等により求められて記憶手段56に記憶されているものである。例えば、上記車両状態を表すものはエンジン回転速度NEであり、車両の振動騒音を所定値以上とするようなエンジン懸架系の共振が発生するエンジン回転速度領域が予め実験等により求められて所定の車両状態としての所定エンジン回転速度領域として記憶されている。また、この所定エンジン回転速度領域は、エンジン回転速度NEはもちろんであるがそれに加えて例えば車速V、エンジン8の可変気筒の状態すなわち稼働しているエンジン8の気筒数、電磁駆動弁に代表される可変サイクルエンジンのサイクル数等で表される車両状態に基づいて定められている。これは、同じエンジン回転速度NEや車速V等であっても上記車両状態の違いによりエンジン懸架系の共振が発生したりしなかったりするためであり、エンジン懸架系の共振の発生に影響を与える様々な車両状態を考慮して上記所定エンジン回転速度領域が定められている。
前記共振抑制制御手段86は、前述の実施例に替えて或いは加えて、上記振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするようなエンジン懸架系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、エンジン懸架系の共振の発生を抑制するために例えば上記所定エンジン回転速度領域を回避するようにエンジン回転速度NEを変更する。
前記切換制御手段50は、前述の実施例に替えて或いは加えて、前記振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするようなエンジン懸架系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、無段変速部11を無段変速状態とするために切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。そして、無段変速部11が無段変速状態とされると上記共振抑制制御手段86は、第1電動機M1および/または第2電動機M2の回転速度を制御し無段変速部11の変速比γ0を変化させてエンジン回転速度NEを所定エンジン回転速度領域から回避するようにハイブリッド制御手段52に指令を出力する。
このように、振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするようなエンジン懸架系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、その車両の振動騒音を所定値以上とするエンジン懸架系の共振が発生しないように、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態へ切り換えられるか或いは無段変速状態に維持されて、共振抑制制御手段86により第1電動機M1および/または第2電動機M2を用いてエンジン回転速度NEが車速Vおよび自動変速部20の変速比γに拘束されることなく変化させられる。
前記振動騒音発生判定手段88は、前述の実施例に替えて或いは加えて、実車上の振動騒音の発生を判定することにより、エンジン懸架系の共振が発生する車両状態として予め記憶されている所定の車両状態の他に、新たに発生したエンジン懸架系の共振を発生させる車両状態すなわち新たな振動発生領域として前記所定値以上の車両の振動騒音が実際に発生する車両状態を判定する。これにより、例えばエンジン懸架系の個体差、タイヤの相違(交換)や個体差、或いは経時的変化により新たに発生したエンジン懸架系の共振が発生する車両状態が判定される。
前記発生領域記憶手段90は、前述の実施例に替えて或いは加えて、上記振動騒音発生判定手段88により実車上で所定値以上の振動騒音が発生したと判定された場合には、そのときのエンジン懸架系の共振を発生させる車両状態例えばエンジン回転速度NE、車速V、稼働しているエンジン8の気筒数、可変サイクルエンジンのサイクル数等を例えば記憶手段56に記憶させる。そして、記憶手段56はこのときの車両状態を、予め求められて記憶されている前記所定の車両状態に加えて、或いは替えて新たに所定の車両状態として記憶する。よって、振動騒音領域判定手段84は、次回においてエンジン懸架系の共振が発生する車両状態であるか否かの判定を、新たに更新された領域(マップ、関係)すなわちエンジン懸架系の共振が発生する新たな所定の車両状態に基づいて判定する。
また、前述の実施例に替えて或いは加えて、前記振動騒音発生判定手段88により実車上で所定値以上の振動騒音が発生したと判定された場合には、その車両の振動騒音を所定値以上とするエンジン懸架系の共振が発生しないように、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態へ切り換えられるか或いは無段変速状態に維持されて、共振抑制制御手段86により第1電動機M1および/または第2電動機M2を用いてエンジン回転速度NEが車速Vおよび自動変速部20の変速比γに拘束されることなく変化させられる。
図14は、電子制御装置40の制御作動の要部すなわち車両における振動騒音の発生を抑制するためにエンジン懸架系の共振の発生を抑制する制御作動を説明するフローチャートであって、前述の実施例における図10のフローチャートに相当するものであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。また、図15は、図14のフローチャートに示す制御作動の一例であって、無段変速部11の定変速状態(ロック状態)において車両の振動騒音を所定値以上とするようなエンジン懸架系の共振が発生する領域が判定された場合にエンジン懸架系の共振を回避する制御作動を説明するタイムチャートであり、前述の実施例における図11のフローチャートに相当するものである。また、図15の共振を回避する制御作動は、車両定速走行且つ自動変速部20の変速制御が実行されない状態で実行される。
先ず、前記手動選択操作判定手段80に対応するステップ(以下、ステップを省略する)SC1において、スイッチ44の選択状態すなわち無段変速走行指令釦、有段変速走行指令釦、および中立位置のいずれが選択されている状態かが判定されることにより無段変速走行か有段変速走行かがユーザにより強制されているか否かが判定される。無段変速走行か有段変速走行かがスイッチ44によりマニュアルで固定されていると判定されてこのSC1の判断が肯定される場合はSC7において、エンジン懸架系の共振の発生を抑制する制御作動以外のその他の通常の制御作動が実行されるか或いは現在の車両走行状態が維持されて本ルーチンが終了させられる。
上記SC1の判断が否定される場合は前記振動騒音領域判定手段84に対応するSC2において、車両の振動騒音を所定値以上とするようなエンジン懸架系の共振が発生する車両状態であるか否かが、例えば実際の車両状態が予め求められて記憶されたエンジン懸架系の共振が発生する所定の車両状態であるか否かにより判定される。図15のt1時点は定変速状態(ロック状態)とされている無段変速部11においてエンジン懸架系の共振が発生する領域となる車両状態例えば所定エンジン回転速度領域と判定されて車両振動の発生が判断されたことを示している。
上記SC2の判断が否定される場合は、前記切換制御手段50に対応するSC3において、例えば図6に示す切換線図から車速Vと出力トルクTOUTとで表される実際の車両状態に基づいて変速機構10の変速状態の切換えが判断される。続く、前記振動騒音発生判定手段88に対応するSC4において、所定値以上の振動騒音が実車上で発生したか否かが、例えば車両の加速度を示す加速度信号や車両の振動を表す振動信号などに基づいて判定される。また、実車上の振動騒音の発生が判定されることにより予め記憶されている前記所定の車両状態の他に、新たな振動騒音発生領域として所定値以上の車両の振動騒音が実際に発生する車両状態が判定される。例えば、実車上の振動騒音の発生が判定されと、そのときの車両状態例えばエンジン回転速度NE、車速V、稼働しているエンジン8の気筒数、可変サイクルエンジンのサイクル数等を新たに発生したエンジン懸架系の共振が発生する車両状態として判定する。
上記SC4の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが、肯定される場合は前記発生領域記憶手段90に対応するSC5において、上記SC4にて判定された所定値以上の車両の振動騒音が実際に発生する車両状態を例えば記憶手段56に記憶させる。そして、その記憶手段56により上記SC4にて判定された車両状態が、予め求められて記憶された前記所定の車両状態に加えて、或いは替えて新たに所定の車両状態として記憶される。よって、前記SC2における判断は、次回においてエンジン懸架系の共振が発生する車両状態であるか否かの判定が、実際の車両状態がSC5にて新たに更新された領域(マップ、関係)に基づいて判定される。
前記SC2の判断が肯定される場合或いは上記SC5に続いて前記切換制御手段50および前記共振抑制制御手段86に対応するSC6において、無段変速部11を優先的に無段変速状態へ切り換えるか或いは無段変速状態に維持するために切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令が油圧制御回路42へ出力される。そして、その無段変速部11の無段変速状態において第1電動機M1の回転速度を制御し無段変速部11の変速比γ0を変化させてエンジン回転速度NEを所定エンジン回転速度領域から回避するようにハイブリッド制御手段52に指令が出力される。
図15のt1時点乃至t2時点は、切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を解放して無段変速部11の定変速状態(ロック状態)から無段変速状態(差動状態)へ切り換えるように油圧制御回路42に指令が出力されると共に、無段変速状態とされた無段変速部11において第1電動機M1を制御してエンジン回転速度NEがエンジン懸架系の共振が発生する車両状態すなわち所定エンジン回転速度領域から回避するように変化させられたことを示している。図15の実線は第1電動機M1の回転速度を引き下げてエンジン回転速度NEが所定エンジン回転速度領域から回避されるように低下させられた場合であり、図15の破線は第1電動機M1の回転速度を引き上げてエンジン回転速度NEが所定エンジン回転速度領域から回避されるように上昇させられた場合である。
上述のように、本実施例によれば、無段変速状態と有段変速状態とに切換え可能に構成される無段変速部11を備えた変速機構10において、例えば、振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振としてのエンジン懸架系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、そのエンジン懸架系の共振が発生しないように、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態へ切り換えられるか或いは無段変速状態に維持され、エンジン回転速度NEが車速Vに拘束されないその無段変速部11の無段変速状態において共振抑制制御手段86により第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが前記所定エンジン回転速度領域を回避するように積極的に回転制御されるので、エンジン懸架系の共振の発生が抑制されて車両の振動騒音の発生が抑制される。
また、本実施例によれば、車両の振動騒音を所定値以上とするエンジン懸架系の共振が発生する所定の車両状態が予め記憶されているので、振動騒音領域判定手段84によりエンジン懸架系の共振が発生する領域が簡単に判定され、共振抑制制御手段86により車両の振動騒音の発生が抑制される。また、振動騒音発生判定手段88により実車上で所定値以上の振動騒音が発生したと判定された場合には、そのときの車両状態が記憶手段56に予め記憶された前記所定の車両状態に加えて、或いは替えて新たに所定の車両状態として発生領域記憶手段90により記憶される。そして、振動騒音領域判定手段84によるエンジン懸架系の共振が発生する車両状態であるか否かの判定が発生領域記憶手段90により新たに更新された領域に基づいて判定されるので、例えばエンジン懸架系の個体差、タイヤの相違(交換)や個体差、或いは経時的変化によりエンジン懸架系の共振が発生する車両状態が変化しても、エンジン懸架系の共振が発生しないように、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態とされ、共振抑制制御手段86により第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが前記所定エンジン回転速度領域を回避するように積極的に回転制御される。よって、エンジン懸架系の共振の発生が抑制されて車両の振動騒音の発生が一層抑制される。
前述の実施例では、車両の振動騒音を所定値以上とする車両の振動系の共振が発生しないように、無段変速部11が無段変速状態へ切り換えられ、振動源であるエンジン回速度NEが電動機M1を用いて車両の振動系の共振が発生しやすい所定エンジン回転速度領を回避させられる制御作動を示した。ところで、無段変速状態における無段変速部11の変速比γ0が、定変速状態とされた場合の変速比であるγ0=1(切換クラッチC0係合時に相当)或いはγ0=0.7程度(切換ブレーキB0係合時に相当)に維持されてない場合には、無段変速部11を無段変速状態から定変速状態とすることにより変速比γ0を変化させられてエンジン回転速度NEが変化させられる。また、無段変速状態における無段変速部11の変速比γ0がγ0=1或いはγ0=0.7程度の何れかに維持されている場合には、その維持されている変速比γ0ではない他方の変速比γ0となる定変速状態とすればエンジン回転速度NEを変化させられる。すなわち、無段変速部11の無段変速状態においてはその無段変速状態から定変速状態へ切り換えること自体でエンジン回転速度NEを所定エンジン回転速度領域から回避するように変化させられる。
そこで、前記切換制御手段50は、前述の実施例に替えて或いは加えて、無段変速部11が無段変速状態の場合に前記振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、その車両の振動系の共振が発生しないうように無段変速部11を有段変速状態とするために切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。
上述のように、本実施例によれば、無段変速状態と有段変速状態とに切換え可能に構成される無段変速部11を備えた変速機構10において、前述の実施例の効果が得られることに加え、例えば、振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、その車両の振動系の共振が発生しないように切換制御手段50により無段変速部11が有段変速状態へ切り換えられてエンジン回転速度NEが前記所定エンジン回転速度領域を回避するように変化させられるので、車両の振動系の共振の発生が抑制されて車両の振動騒音の発生が抑制される。
本実施例の無段変速部11は無段変速状態と有段変速状態とに選択的に切換え可能であって、無段変速部11の無段変速状態においてはエンジン回転速度NEが車速Vに拘束されない自由回転状態でエンジン8と駆動輪38とが連結され、無段変速部11の有段変速状態においてはエンジン回転速度NEが車速Vに拘束される状態でエンジン8と駆動輪38とが連結される。そうすると、無段変速部11の無段変速状態と有段変速状態とではそれぞれ異なる共振点となることが考えられ、無段変速部11の無段変速状態と有段変速状態とを切り換えること自体で、車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振の発生を抑制できる。
そこで、前記切換制御手段50は、前述の実施例に替えて或いは加えて、無段変速部11が無段変速状態の場合に前記振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、その車両の振動系の共振が発生しないうように無段変速部11を有段変速状態とするために切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する。また、前記切換制御手段50は、無段変速部11が有段変速状態の場合に前記振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、その車両の振動系の共振が発生しないうように無段変速部11を無段変速状態とするために切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する。
また、前記図6に示すような切換線図が、無段変速部11の無段変速状態と有段変速状態とでそれぞれ異なる共振点を考慮して、車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振の発生を抑制できるように、予め実験的に有段制御領域と無段制御領域とが定められても良い。この場合には、切換制御手段50は、その切換線図に基づいて無段変速部11の無段変速状態と有段変速状態とを切り換える。
上述のように、本実施例によれば、無段変速状態と有段変速状態とに切換え可能に構成される無段変速部11を備えた変速機構10において、前述の実施例の効果が得られることに加え、例えば、振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、その車両の振動系の共振が発生しないように切換制御手段50により無段変速部11の無段変速状態と有段変速状態とが切り換えられるので、車両の振動系の共振の発生が抑制されて車両の振動騒音の発生が抑制される。
例えば、前記図10、図12、或いは図14のフローチャートのステップSA6、SB6、或いはSC6において、無段変速部11が無段変速状態へ切り換えられることで、車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振の発生を抑制できる場合もある。
図16は本発明の他の実施例における変速機構70の構成を説明する骨子図、図17はその変速機構70の変速段と油圧式摩擦係合装置の係合の組み合わせとの関係を示す係合表、図18はその変速機構70の変速作動を説明する共線図である。
変速機構70は、前述の実施例と同様に第1電動機M1、動力分配機構16、および第2電動機M2を備えている無段変速部11と、その無段変速部11と出力軸22との間で伝達部材18を介して直列に連結されている前進3段の自動変速部72とを備えている。動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを有している。自動変速部72は、例えば「0.532」程度の所定のギヤ比ρ2を有するシングルピニオン型の第2遊星歯車装置26と例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ3を有するシングルピニオン型の第3遊星歯車装置28とを備えている。第2遊星歯車装置26の第2サンギヤS2と第3遊星歯車装置28の第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第2遊星歯車装置26の第2キャリヤCA2と第3遊星歯車装置28の第3リングギヤR3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結され、第3キャリヤCA3は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結されている。
以上のように構成された変速機構70では、例えば、図17の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、および第2ブレーキB2が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第4速ギヤ段(第4変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、無段変速部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、変速機構70では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた無段変速部11と自動変速部72とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた無段変速部11と自動変速部72とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、変速機構70は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。
例えば、変速機構70が有段変速機として機能する場合には、図17に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ1が最大値例えば「2.804」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.531」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第2ブレーキB2の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「2.393」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
しかし、変速機構70が無段変速機として機能する場合には、図17に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、無段変速部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部72が有段変速機として機能することにより、自動変速部72の第1速、第2速、第3速の各ギヤ段に対しその自動変速部72に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって変速機構70全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
図18は、差動部或いは第1変速部として機能する無段変速部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部72から構成される変速機構70において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放される場合、および切換クラッチC0または切換ブレーキB0が係合させられる場合の動力分配機構16の各要素の回転速度は前述の場合と同様である。
図18における自動変速部72の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第3キャリヤCA3を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応し且つ相互に連結された第2キャリヤCA2および第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応する第2リングギヤR2をそれぞれ表している。また、自動変速部72において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は自動変速部72の出力軸22に連結され、第7回転要素RE7は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
自動変速部72では、図18に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより、第7回転要素RE7(R2)の回転速度を示す縦線Y7と横線X2との交点と第5回転要素RE5(CA3)の回転速度を示す縦線Y5と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第6回転要素RE6(CA2,R3)の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L3と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第3速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第7回転要素RE7に無段変速部11からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、無段変速部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。
本実施例の変速機構70においても、差動部或いは第1変速部として機能する無段変速部11と、有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部72とから構成されるので、前述の実施例と同様の効果が得られる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例の図10、図12、或いは図14のフローチャートにおけるステップSA2、SB2、或いはSC2では、車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振が発生する領域であるか否かが、例えば実際の車両状態が予め記憶された車両の振動系の共振が発生する所定の車両状態であるか否かにより判定されたが、SA4、SB4、或いはSC4と同様に所定値以上の振動騒音が実車上で発生したか否かにより判定されてもよい。このようにすれば、車両の個体差、タイヤの相違(交換)や個体差、或いは経時的変化等を含めた状態で判定することができる。
また、前述の実施例では、切換制御手段50(図10のステップSA3、図12のステップSB3、或いは図14のステップSC3)による変速機構10の変速状態の切換判断には例えば図6の切換線図(切換マップ)が用いられ、振動騒音領域判定手段84(図10のステップSA2、図12のステップSB2、或いは図14のステップSC2)による車両の振動系の共振が発生する車両状態の判定には例えば車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振が発生する所定の車両状態を有する領域(マップ、関係)が用いられたが、それぞれ別々のマップとせずに1つのマップとしてもよい。また、上記振動騒音領域判定手段84による判定結果に基づいて切換制御手段50(図10のステップSA6、図12のステップSB6、或いは図14のステップSC6)により変速機構10の変速状態が切り換えられるので、上記振動騒音領域判定手段84による車両状態の判定に用いられるマップは、車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振が発生する所定の車両状態に基づいてその車両の振動系の共振が発生する領域を回避することが可能なように、変速機構10の変速状態を切り換える為の有段変速制御領域および無段変速制御領域を有する関係例えば有段変速制御領域と無段変速制御領域との境界線を有する関係(マップ)でもある。
また、前述の実施例では、振動騒音領域判定手段84により車両の振動騒音を所定値以上とするような車両の振動系の共振が発生する車両状態であると判定された場合には、その車両の振動系の共振が発生しないように、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態へ切り換えられて、共振抑制制御手段86により第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが車速Vおよび自動変速部20の変速比γに拘束されることなく変化させられたが、必ずしも共振抑制制御手段86により第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが変化させられる必要はない。例えば、切換制御手段50により無段変速部11が無段変速状態とされることでエンジン回転速度NEが車速Vに拘束されない自由回転状態とされるので、エンジンの8の作動状態すなわちスロットル開度等による制御状態によっては現在のエンジン回転速度NEが維持されないか、或いはスロットル開度、吸入空気量、空燃比、或いは燃料噴射量等を制御することなどにより車速Vおよび自動変速部20の変速比γに拘束されることなくエンジン回転速度NEが変化させられて前記所定のエンジン回転速度領域が回避させられ得る。
また、前述の実施例の図10、図12、或いは図14のフローチャートでは、ステップSA1、SB1、或いはSC1において無段変速走行か有段変速走行かがユーザにより強制されていると判定された場合すなわち無段変速走行か有段変速走行かがスイッチ44によりマニュアルで固定されていると判定された場合はSA7、SB7、或いはSC7においてその他の通常の制御作動が実行されたが、無段変速走行か有段変速走行かがマニュアル固定の場合であっても所定値以上の車両の振動騒音が発生した場合には優先的に切換制御手段50により無段変速部11の無段変速状態と定変速状態とが切り換えられてもよい。
また、前述の実施例では、車両の振動騒音を所定値以上とする車両の振動系の共振が発生しないように強制源(振動源、振動強制力)であるエンジン回速度NEが車両の振動系の共振が発生しやすい所定エンジン回転速度領を回避させられる制御作動において、その振動騒音を発生させる車両の振動系の共振として駆動系のねじり共振、排気系の共振、エンジン懸架系の共振を例示したが、これらの共振以外の他の車両の振動系の共振、例えばエンジン補機類の共振、駆動系の曲げ共振、駆動系の連成共振、車体系の共振、サスペンション構成部材の共振などであっても本発明は適用され得る。すなわち、エンジン8を振動源として車両の振動騒音を発生させる車両の振動系の共振であれば、切換制御手段50により無段変速部11が優先的に無段変速状態へ切り換えられ、その無段変速部11の無段変速状態において共振抑制制御手段86により第1電動機M1を用いてエンジン回転速度NEが車両の振動系の共振が発生しやすい所定エンジン回転速度領域を回避するように積極的に回転制御されるので、その車両の振動系の共振の発生が抑制されて車両の振動騒音の発生が抑制される。
また、前述の実施例の変速機構10、70は、無段変速部11(動力分配機構16)が電気的な無段変速機として作動可能な差動状態とそれを非作動とする非差動状態とに切り換えられることで無段変速状態と有段変速状態とに切り換え可能に構成され、この無段変速状態と有段変速状態との切換えは無段変速部11が差動状態と非差動状態とに切換えられることによって行われていたが、例えば無段変速部11が差動状態のままであっても無段変速部11の変速比を連続的ではなく段階的に変化させることにより有段変速機として機能させられ得る。言い換えれば、無段変速部11の差動状態/非差動状態と、変速機構10、70の無段変速状態/有段変速状態とは必ずしも一対一の関係にある訳ではないので、無段変速部11は必ずしも無段変速状態と有段変速状態とに切換可能に構成される必要はなく、変速機構10、70(無段変速部11、動力分配機構16)が差動状態と非差動状態とに切換え可能に構成されれば本発明は適用され得る。
また、前述の実施例の変速機構10、70は、無段変速部11が無段変速状態と定変速状態とに切り換えられることで電気的な無段変速機として機能する無段変速状態と有段変速機として機能する有段変速状態とに切り換え可能に構成されていたが、有段変速状態に切換可能に構成されない変速機構すなわち無段変速部11が切換クラッチC0および切換ブレーキB0を備えず電気的な無段変速機(電気的な差動装置)としての機能のみを有する無段変速部11であっても本実施例は適用され得る。
また、前述の実施例の動力分配機構16では、第1キャリヤCA1がエンジン8に連結され、第1サンギヤS1が第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、第1遊星歯車装置24の3要素CA1、S1、R1のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
また、前述の実施例では、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
また、前述の実施例では、第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に第1電動機M1は第1サンギヤS1に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されてもよい。
また、前述の動力分配機構16には切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられていたが、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は必ずしも両方備えられる必要はない。また、上記切換クラッチC0は、サンギヤS1とキャリヤCA1とを選択的に連結するものであったが、サンギヤS1とリングギヤR1との間や、キャリヤCA1とリングギヤR1との間を選択的に連結するものであってもよい。要するに、第1遊星歯車装置24の3要素のうちのいずれか2つを相互に連結するものであればよい。
また、前述の実施例の変速機構10、70では、ニュートラル「N」とする場合には切換クラッチC0が係合されていたが、必ずしも係合される必要はない。
また、前述の実施例では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチなどの磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
また、前述の実施例では、第2電動機M2が伝達部材18に連結されていたが、出力軸22に連結されていてもよいし、自動変速部20、72内の回転部材に連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、無段変速部11すなわち動力分配機構16の出力部材である伝達部材18と駆動輪38との間の動力伝達経路に、自動変速部20、72が介装されていたが、例えば自動変速機の一種である無段変速機(CVT)、手動変速機としてよく知られた常時噛合式平行2軸型ではあるがセレクトシリンダおよびシフトシリンダによりギヤ段が自動的に切り換えられることが可能な自動変速機等の他の形式の動力伝達装置(変速機)が設けられていてもよい。その無段変速機(CVT)の場合には、動力分配機構16が定変速状態とされることで全体として有段変速状態とされる。有段変速状態とは、電気パスを用いないで専ら機械的伝達経路で動力伝達することである。或いは、上記無段変速機は有段変速機における変速段に対応するように予め複数の固定された変速比が記憶され、その複数の固定された変速比を用いて自動変速部20、72の変速が実行されてもよい。或いは、自動変速部20、72は必ずしも備えられていなくとも本発明は適用され得る。
また、前述の実施例では、自動変速部20、72は伝達部材18を介して無段変速部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20、72が配設されてもよい。この場合には、無段変速部11と自動変速部20、72とは、例えば伝達部材18としてのカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
また、前述の実施例の差動機構としての動力分配機構16は、例えばエンジンによって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1および第2電動機M2に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
また、前述の実施例のスイッチ44はシーソー型のスイッチであったが、例えば押しボタン式のスイッチ、択一的にのみ押した状態が保持可能な2つの押しボタン式のスイッチ、レバー式スイッチ、スライド式スイッチ等の少なくとも無段変速走行(差動状態)と有段変速走行(非差動状態)とが択一的に切り換えられるスイッチであればよい。また、スイッチ44の中立位置に替えて、スイッチ44の選択状態を有効或いは無効すなわち中立位置相当が選択可能なスイッチがスイッチ44とは別に設けられてもよい。また、スイッチ44に替えて或いは加えて、手動操作に因らず運転者の音声に反応して少なくとも無段変速走行(差動状態)と有段変速走行(非差動状態)とが択一的に切り換えられる装置や足の操作により切り換えられる装置等であってもよい。
また、前述の実施例の切換制御手段50に備えられた変速状態領域変更手段82は、スイッチ44の選択状態に基づいて例えば図6の切換線図に示すような有段変速制御領域或いは無段変速制御領域において一方の領域の全てを他方の領域に変更するものであったが、一方の領域の一部分を他方に変更するものであってもよい。図6を例にすれば、スイッチ44における選択状態に基づいて選択された変速状態に切り替えるための領域が拡大されるように前記判定車速V1或いは判定出力トルクT1が変更され破線に示される境界線が移動させられる。
また、前述の実施例の図6では変速機構10の変速状態を切り替えるために無段変速制御領域および有段変速制御領域が記憶されているが、基本は図6の全体が無段制御領域として記憶されてもよく、この場合には変速状態領域変更手段82はユーザの操作による有段変速走行の選択時のみ図6の全体または一部を有段制御領域に変更する。言い換えれば、基本は無段変速状態すなわち無段変速走行として予め記憶され、ユーザの操作による有段変速走行の選択時のみ切換制御手段50は有段変速状態に切り替えるようにしてもよい。これによって、ユーザは有段変速走行のみを選択するだけで有段変速走行と無段変速走行とが選択できることになる。この場合には、スイッチ44は少なくとも有段変速走行が選択可能であればよい。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
本発明の一実施例であるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図である。
図1の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
図1の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図である。
図1の実施例の駆動装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
図4の電子制御装置の制御作動の要部を説明する機能ブロック線図である。
車速と出力トルクとをパラメータとする同じ二次元座標に構成された、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図と変速機構の変速状態の切換判断の基となる予め記憶された切換線図との関係を示す図である。
無段制御領域と有段制御領域との境界線を有する予め記憶された関係を示す図であって、図6の破線に示す無段制御領域と有段制御領域との境界をマップ化するための概念図でもある。
有段式変速機におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度の変化の一例である。
切換装置としてのシーソー型スイッチであって変速状態を選択するためにユーザによって操作される変速状態手動選択装置の一例である。
図5の電子制御装置の制御作動すなわち車両における振動騒音の発生を抑制するために駆動系のねじれ共振の発生を抑制する制御作動を説明するフローチャートである。
図10のフローチャートに示す制御作動であって、無段変速部の定変速状態において駆動系のねじれ共振を回避する制御作動を説明するタイムチャートである。
図5の電子制御装置の制御作動すなわち車両におけるこもり音の発生を抑制するために排気系の共振の発生を抑制する制御作動を説明するフローチャートであって、図10のフローチャートに相当するものである。
図12のフローチャートに示す制御作動であって、無段変速部の定変速状態において排気系の共振を回避する制御作動を説明するタイムチャートであって、図11のタイムチャートに相当するものである。
図5の電子制御装置の制御作動すなわち車両における振動騒音の発生を抑制するためにエンジン懸架系の共振の発生を抑制する制御作動を説明するフローチャートであって、図10のフローチャートに相当するものである。
図14のフローチャートに示す制御作動であって、無段変速部の定変速状態においてエンジン懸架系の共振を回避する制御作動を説明するタイムチャートであって、図11のタイムチャートに相当するものである。
本発明の他の実施例におけるハイブリッド車両の駆動装置の構成を説明する骨子図であって、図1に相当する図である。
図16の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表であって、図2に相当する図である。
図16の実施例のハイブリッド車両の駆動装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対的回転速度を説明する共線図であって、図3に相当する図である。
符号の説明
8:エンジン(駆動力源)
10、70:変速機構(駆動装置)
11:無段変速部(動力伝達装置)
16:動力分配機構(差動機構)
18:伝達部材
20、72:自動変速部
38:駆動輪
40:電子制御装置(制御装置)
50:切換制御手段
86:共振抑制制御手段
88:振動騒音発生判定手段
M1:第1電動機
M2:第2電動機
C0:切換クラッチ(差動状態切換装置)
B0:切換ブレーキ(差動状態切換装置)