JP4216635B2 - 含窒素化合物、製造法およびその利用方法 - Google Patents

含窒素化合物、製造法およびその利用方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は ( C1, C2)位置の絶対立体配置の組み合わせが ( 1S, 2R)であることを特徴とする下記一般式I
【0002】
【化8】
Figure 0004216635
【0003】
(式中、Arは無置換または少なくとも1個の置換基を有することができるアリール基であり、R’は水素、アルキル基、アルキルカルボニル基、またはアルコキシ基である)で表わされる新規化合物、当該化合物を含有する Edg ( endothelial differentiation gene、血管内皮細胞分化遺伝子)受容体へ拮抗する医薬、具体的には循環器系疾患(動脈硬化、くも膜下出血後血管攣縮や末梢循環障害)、心臓疾患(心筋梗塞、不整脈)、リウマチ、がん、糖尿病性網膜症、呼吸器疾患を予防もしくは治療するための医薬に関する。
【0004】
【従来の技術】
血清中の ( 2S, 3R) 2-アミノ- 3-ヒドロキシオクタデセン- 1-リン酸 ( AHOP)含有量は、薄層クロマトグラフィーを用いた解析で、 400 nMに及ぶとの報告があり ( 非特許文献1を参照)、重量に換算すると 0.12 mg / Lに相当し、血清アルブミン量に匹敵する量と考える事ができる。また、血清中の AHOP含有量を、放射ラベル体 AHOPを用いて AHOP特異的な受容体への結合放射量より推定した岡島らの報告でも、血清中 AHOPは数百 nMに及ぶ事が確かめられている(非特許文献2、3を参照)。 しかし、 AHOPが生体内で果たしている役割については未だ一致した見解は得られていないものの、損傷部位において活性化を受けた血小板より放出を受ける alpha顆粒中には ADP(アデニンヌクレオチドジリン酸)、 PDGF( platelet derived growth factor、血小板由来増殖因子)、 5HT(serotonin)などと共に、AHOPが著量含まれていて、 AHOPが生体の恒常性を維持するために何らかの役割を担っているものと考えられる。つまり、 ADP、 PDGF、 5HTはいずれも血小板凝集を惹起するアゴニストとして作用するが、 AHOPもこれらアゴニストと同様に血小板凝集を促進するという報告がある(非特許文献4を参照)。即ち、 AHOPは損傷部位における止血を促進し生体の恒常性を維持するが、逆に、動脈硬化症では、血小板凝集は病態を進行させるので、過剰の AHOPは動脈硬化症などの循環器系疾患を進行させる可能性を考える事ができる。
【0005】
1990年に血管内皮細胞よりクローン化されたEdg(endothelial differentiation gene、血管内皮細胞分化遺伝子、非特許文献5を参照)受容体は GTP(グアニントリフォスフェート)結合タンパク質共役性の7回細胞膜貫通型受容体で、リガンド(作動物質)未同定のオーファン受容体だったが、1998年に AHOPが Edg受容体の特異的リガンドである可能性が指摘された(非特許文献6を参照)。その後、 AHOPをリガンドとする 3種類の亜種 Edg - 1、 Edg - 3、 Edg - 5 ( AGR 16 / H 218) 受容体がそれぞれ特異な細胞内情報伝達経路を使って生理作用を発現している可能性が示唆されている。血小板においても Edg受容体が発現している (非特許文献7を参照)事より、先に述べた AHOPによる血小板凝集の作用は、 Edg受容体経由なのかもしれない。また、最近、 Edg−6や Edg−8も AHOP特異的な受容体であると示された。
【0006】
一方、血小板 alpha顆粒より放出される PDGFは収縮型血管平滑筋細胞を合成型に形質転換させ血管平滑筋細胞を増殖させ、また、血管平滑筋細胞を遊走させ、血管を狭窄させる方向に作用する。つまり、 PDGFは動脈硬化を進行させると考えられる( Rossの仮説)。同様に、 AHOPは血管平滑筋細胞の遊走を促進するが、 PDGF存在下で AHOPは PDGFと相乗的に血管平滑筋細胞を遊走させる (非特許文献8を参照)。従って、 AHOPは循環器系疾患を進行させてしまう可能性が考えられる。また、 Tamamaらも AHOPが血管平滑筋細胞の DNA合成を促進し細胞増殖の方向に作用すると示している (非特許文献9を参照)。
【0007】
さて、原虫トリパノゾーマ撲滅薬として開発されたスラミンがウサギ大動脈移植によって誘発させた血管内膜肥厚を抑制し、抗動脈硬化的に作用する可能性が指摘されている (非特許文献10を参照)。 `99年にスラミンが Edg - 3のアンタゴニスト(拮抗物質、受容体に結合して作用を止める)である事が示された (非特許文献11を参照)がスラミンの抗動脈硬化作用が、実は、 Edg受容体への拮抗を機作としていたのかもしれない。
【0008】
AHOPと同様に Edg - 3受容体に作動するスフィンゴシルフォスフォリルコリン (sphingosylphosphorylcholine、SPC、非特許文献12を参照)は用量依存的にラット腎毛細血管を収縮させ、この反応が GTP結合タンパク阻害剤パータシストキシン (PTX)感受性である事より、SPCが Edg受容体経由で血管を収縮させる可能性が示唆されている(非特許文献13を参照)。血小板から放出される alpha顆粒中の 5HTも血管を収縮させ末梢循環障害など循環器系疾患を進行させる事より、 AHOPや SPCなどの Edg受容体作動物質は血管を収縮させ、循環器系疾患を増悪させてしまう可能性が考えられる。
【0009】
杉山らは、ラットにAHOPを尾静脈内投与し血行動態を観察したところ、収縮期血圧、及び左心室内圧の時間微分の2指標が有意に低下し、AHOPが in vivoにおいて心機能低下の方向に作用している可能性を示した(非特許文献14を参照)。
【0010】
Edg - 3受容体は GTP結合タンパク質のサブタイプ G13 / qタイプと共役していて (非特許文献15を参照)、Edg - 3と AHOPが結合すると G13 / qタンパク質経由でイノシトール 3リン酸 ( IP3)が生成する。一方、心筋においてはアンジオテンシン受容体が Edg - 3と同様に IP3を動かすが、アンジオテンシン受容体拮抗薬が心肥大を強く抑制する事より、 Edg受容体拮抗物質が、アンジオテンシン受容体拮抗薬と同様に心肥大に奏効する可能性を考える事ができる。また、 AHOPがムスカリン受容体内向き K+整流を活性化し、不整脈を引き起こす可能性が指摘されている ( 非特許文献16を参照)事より、 Edg受容体拮抗物質が不整脈に奏効する可能性を考える事ができる。
【0011】
血管内皮細胞に及ぼす AHOPの作用を、血管新生動物モデルを用いて検討した結果、 VEGF( vascular endothelial growth factor、血管内皮細胞増殖因子)、や FGF - 2( fibroblast growth factor、繊維芽細胞増殖因子)などの増殖因子による血管新生を、 AHOPが Edg - 1、 Edg - 3と結合する事によって相乗的に促進させ、 Edgがリウマチ、固形がんや糖尿病性網膜症の進行の方向に作用している可能性が指摘されている (非特許文献15を参照)。
【0012】
AHOPと Edg受容体の結合によって引き起こされる過剰な炎症や気道のリモデリングの結果、肺炎、慢性閉塞性気道疾患 ( COPD: chronic obstructive airway disease)、呼吸器系高血圧が進行する可能性が指摘されている (非特許文献17を参照)。
くも膜下出血後の脳底動脈攣縮は脳虚血による予後悪化を引き起こす重大な問題だが、脳底動脈攣縮のメカニズムにはセロトニンやトロンボキサン、エンドセリンが関与していると言われていたもののはっきりしていない。また、くも膜下出血後血管攣縮の直接的治療法は確立されていない。しかし、 Tosakaらは AHOPをイヌ小脳延髄槽内投与したところ、 AHOP用量依存的に 25 nmol / kg(凡そ 7μg / kg)、 50 nmol / kg(凡そ 15μg / kg)と脳底動脈径が縮小し血管攣縮が引き起こされると示した。 50 nmol / kg群では AHOP投与2日後までの長期間にわたって、コントロール群の脳底動脈径と比較して 1 / 3程度に縮小したままで、 AHOPが強い血管攣縮を引き起こした。従って、 Edg受容体への拮抗性を指標にし、かつ上記病気の治療薬として適切であるものを探索する必要がある。
これらの知見を総合すると、 AHOPが Edgと結合すると、血小板が活性化を受け炎症性細胞活性化や血管平滑筋細胞増殖、血行動態悪化など動脈硬化促進的に作用し、また、末梢循環障害、血管新生を促進し、リウマチ、固形がん、糖尿病性網膜症の進行の方向に作用する可能性が示されている事になる。また、呼吸器系疾患を進行させると考えられる。更に、不整脈や心筋梗塞を進行させる可能性が考えられる。即ち、 Edgに拮抗する物質が、抗血小板性、抗循環器系疾患性(例えば抗動脈硬化性)、抗末梢循環障害性、抗リウマチ性、抗がん性、抗糖尿病性網膜症性、抗心臓疾患性(例えば抗不整脈性、抗心筋梗塞性)、抗くも膜下後出血後血管攣縮性、抗呼吸器系疾患性を示す可能性が考えられる。
【0013】
【非特許文献1】
`97 J. of Biochemistry, 121, pp. 969 - 973
【非特許文献2】
`00 Biochemical J., 352, pp 809 - 815、
【非特許文献3】
`00年生化学会要旨集 p. 744、 1 P - 222
【非特許文献4】
`97 JBC. 272, 8, pp. 5291 - 5297
【非特許文献5】
`90 JBC, 265, p. 9308
【非特許文献6】
`98 Science, 279, pp. 1552 - 1555
【非特許文献7】
`00 FEBS Letter, 468, pp. 189-193
【非特許文献8】
`01 Science, 291, pp. 1800 - 1803
【非特許文献9】
`01 Biochemical J. 353, pp 139 - 146
【非特許文献10】
`94 Cardiovascular Res., 28, p. 1166
【非特許文献11】
`99 JBC, 274, 27, p. 18997
【非特許文献12】
`99, BBRC, 260, p. 203
【非特許文献13】
`00 British J. of Pharmacology, 130, pp. 1871 - 1877
【非特許文献14】
`00 Jpn. J. Pharmacol. 82, 338-342
【非特許文献15】
`99 Cell, pp. 301 - 312
【非特許文献16】
`99 Pfugers Arch - Eur J Phisiol, 438, pp. 642 - 648
【非特許文献17】
`00 Pulmonary Pharmacology & Therapeutics 2000, 13, p. 99
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、Edg拮抗活性を有する有用な新規含窒素化合物、その製造法及びその利用方法を提供することにある。さらに詳細には、本発明は、新規な(1S,2R)−2−窒素含有基置換−1−アリール−1,3−プロパンジオール誘導体、当該誘導体の製造方法、及び当該誘導体を含有する医薬組成物を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究を行なった結果、 ( C 1、 C2)位置が ( 1S、 2R)である事を特徴とする下記式I:
【0016】
【化9】
Figure 0004216635
【0017】
(式中、Arは無置換または少なくとも1個の置換基を有することができるアリール基であり、R’は水素、アルキル基、アルキルカルボニル基、またはアルコキシ基である)で表わされる新規化合物が Edg受容体に拮抗する事を見い出し、本発明を完成した。なお、 Arの結合した炭素を C1、その隣の炭素を C2として表記した。
【0018】
すなわち、本発明は、一般式I:
【0019】
【化10】
Figure 0004216635
【0020】
(式中、Arは無置換または少なくとも1個の置換基を有することができるアリール基であり、R’は水素、アルキル基、アルキルカルボニル基、またはアルコキシ基である)で示される新規(1S,2R)−2−窒素含有基置換−1−アリール−1,3−プロパンジオール誘導体化合物にある。
【0021】
さらに、本発明は、式I:
【0022】
【化11】
Figure 0004216635
【0023】
(式中、Arは無置換または少なくとも1個の置換基を有することができるアリール基であり、R’は水素、アルキル基、アルキルカルボニル基、またはアルコキシ基である)で示される(1S,2R)−2−窒素含有基置換−1−アリール−1,3−プロパンジオール誘導体の製造法であって、
式:
【0024】
【化12】
Figure 0004216635
【0025】
(式中、AはNの保護基であり、BおよびCはアルキル基である)
の(R)−ホルミルオキサゾリジン誘導体を、式:
【0026】
【化13】
Ar−MgBr
のグリニヤール試薬と反応させて式:
【0027】
【化14】
Figure 0004216635
【0028】
の化合物を得、当該化合物を脱保護基化し、式:
【0029】
【化15】
Figure 0004216635
【0030】
の化合物を得、必要に応じて2位のアミンの水素をR’基で置換させるか、遊離の塩基にするかまたは他の薬学的に許容できる塩にすることを含む(1S,2R)−2−窒素含有基置換−1−アリール−1,3−プロパンジオール誘導体化合物の製造法にある。
【0031】
また、本発明は、式I:
【0032】
【化16】
Figure 0004216635
【0033】
(式中、Arは無置換または少なくとも1個の置換基を有することができるアリール基であり、R’は水素、アルキル基、アルキルカルボニル基、またはアルコキシ基である)で示される(1S,2R)−2−窒素含有基置換−1−アリール−1,3−プロパンジオール誘導体またはその製薬学的に許容できる塩を含有する医薬組成物、特に、Edg受容体拮抗剤にある。
【0034】
【発明の実施の形態】
本発明は ( C1、 C2)位置の絶対立体配置の組み合せが ( 1S、 2R)である事を特徴とする、一般式I:
【0035】
【化17】
Figure 0004216635
【0036】
(式中、Arは無置換または少なくとも1個の置換基を有することができるアリール基であり、R’は水素、アルキル基、アルキルカルボニル基、またはアルコキシ基である)で示される、含窒素化合物またはこれらの製薬学的に許容される塩に関する。
【0037】
また、本発明は上記一般式Iで表わされる新規含窒素化合物またはこれらの製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する Edg受容体に拮抗する医薬に関する。
【0038】
前記式Iにおける置換基について説明する。
「アリール基」の具体例としては、フェニル基、 1 − ナフチル基および 2 − ナフチル基などがあげられる。
置換することのできるアリール基の置換基には、例えば、アルキル基、ニトロ基、アルコキシ基、ハロゲン原子等があり、アリール基は少なくも1個の置換基を有することができる。置換位置はパラ位が好ましい。
「アルキル基」は、例えば、低級アルキル基であり、その具体例としては、メチル基、エチル基、 n − プロピル基、イソプロピル基、n − ブチル基、イソブチル基、 tert − ブチル基、 sec − ブチル基、 n − ペンチル基、 3, 3 − ジメチルブチル基、 2 − エチルブチル基などの直鎖または分岐鎖または分岐鎖状のアルキル基等があげられる。
「アルキルカルボニル基」は、例えば、炭素数 2〜5のアルキルカルボニルであり、その具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基およびピバロイル基などがあげられる。
【0039】
「アルコキシ基」は、例えば、炭素数 1〜5のアルコキシであり、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、 n − プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n − ブトキシ基、イソブトキシ基、 tert − ブトキシ基、 sec − ブトキシ基、 n − ペントキシ基、 3, 3 − ジメチルブトキシ基、 2 − エチルブトキシ基などの直鎖または分岐鎖または分岐鎖状のアルコキシ基等があげられる。
【0040】
R'の好ましい例はメチル基、エチル基、アセチル基である。
本発明の化合物のうち、特に、下記一般式II
【0041】
【化18】
Figure 0004216635
【0042】
(式中、Rは水素、低級アルキル、例えば、メチル、エチル、プロピル等、または低級アルコキシ、例えば、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ等である。)で表される(1S,2R)−2−アミノ−1−(4置換−フェニル)−1,3−プロパンジオールが好ましい。
【0043】
本発明の化合物は目的に応じて塩を形成でき、例えば、本発明の化合物を医薬用途に用いる場合、製薬学的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、フッ素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩などのハロゲン化水素酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩などの無機酸塩、メタンスルホン酸塩などの低級アルキルスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、 p − トルエンスルホン酸塩などのアリールスルホン酸塩、酢酸塩、フマル酸塩、グリシン塩、アラニン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸塩などがあげられる。本発明の化合物の溶媒和物も本発明に包含されるものであり、溶媒和物としてはアセトン、 2 − ブタノール、 2 − プロパノール、エタノール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどとの溶媒和物があげられる。
【0044】
本発明の式I化合物は、例えば、以下のチャートに示すような製造方法によって製造する事ができる。
【0045】
【化19】
Figure 0004216635
【0046】
反応原料の下記式
【0047】
【化20】
Figure 0004216635
【0048】
(式中、AはNの保護基であり、BおよびCはアルキル基、例えば、メチル基である)の N−保護(R)−ホルミルオキサゾリジン誘導体は公知の方法、例えば、(R) − セリンから森らの方法 (Tetrahedron 1985、 41、 2379 - 2386)によって合成する事ができる。
【0049】
ここで、 Nの保護基 Aとしては、例えば、ベンジルオキシカルボニル(Z)、 t−ブトキシカルボニル(Boc)、 t−アミノオキシカルボニル(Aoc)、イソボニルオキシカルボニル、p−メトキシベンジルオキシカルボニル、2−クロル−ベンジルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、トリフルオロアセチル、フタロイル、ホルミル、 o − ニトロフェニルスルフェニル、ジフェニルスルフェノチオイルなどの基が挙げられる。好ましくは、 Bocが用いられる。
【0050】
次に、この原料N−保護(R)−ホルミルオキサゾリジン誘導体を、式:
【0051】
【化21】
Ar−MgBr
のグリニヤール試薬と反応を実施するのに適当な溶媒、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒中で、適当な反応温度、例えば、-80℃〜室温(25℃)、好ましくは、-15℃〜10℃で反応させて式:
【0052】
【化22】
Figure 0004216635
【0053】
の化合物を得、当該化合物を塩化水素または塩化アセチルなどの塩化水素発生剤と水またはメタノールなどの低級アルコールとの混液で 0℃〜 20℃、好ましくは 20℃で処理する事により脱保護基化し、式:
【0054】
【化23】
Figure 0004216635
【0055】
の化合物を得、必要に応じて2位のアミンの水素をハロゲン化アルキル R'X(Xはハロゲン)とDMF中反応させ、R’基で置換させて式Iの化合物を得る。また、必要に応じて、公知の方法により遊離の塩基にするかまたは他の製薬学的に許容できる塩にする。
本発明の式I化合物は Edg受容体拮抗性を示した。従って、本発明は、本発明の式I化合物を有効成分として含有する医薬組成物、特に、内皮分化遺伝子(Edg)受容体に拮抗する医薬組成物を提供する。
ここで、 Edg受容体に拮抗する医薬組成物とは、 Edg受容体が関与する様々な疾患、例えば AHOPが Edg受容体に反応する事によって生じる疾患を、この反応に拮抗することによって、予防または治療しうる医薬組成物をいう。Edg受容体が関与する様々な疾患とは、例えば、循環器系疾患(動脈硬化、末梢循環障害など)、心臓疾患(心筋梗塞、不整脈など)、呼吸器系疾患(喘息など)、リウマチ、がん、糖尿病性網膜症、くも膜下出血後血管攣縮の予防、若しくは治療があげられる。
本発明における各化合物は経口、または非経口(注射剤、外用剤、坐剤など)で投与する事ができる。その投与量は約 0.0001〜約 1 g / kg体重 / 日を1日1回または複数回の範囲が好適であるが、この投与量は疾患の種類、患者の年齢、体重、症状により適宜増減する事ができる。
【0056】
本発明の化合物を医薬組成物として用いるためには、固体組成物、液体組成物、およびその他の組成物等のいずれの形態でもよく、必要に応じて最適のものが選択される。医薬組成物は本発明の化合物を常用の賦形剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、pH調整剤、溶解剤、などを添加し、常用の製剤技術によって、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、液剤、乳剤、懸濁剤、注射剤、などに調製する事ができる。賦形剤、増量剤としては、たとえば、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、デンプン、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、オリーブ油、カカオバター、エチレングリコールなどやその他常用されるものをあげる事ができる。
【0057】
【実施例】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これは本発明の技術範囲を限定するものではない。
【0058】
(実施例1)(1S, 2R)-2-アミノ-1-フェニル-1,3-プロパンジオール塩酸塩(化合物I)の合成
【0059】
【化24】
Figure 0004216635
【0060】
アルゴン気流下、マグネシウム ( 5.62 g, 231 mmol)とヨウ素(触媒量)の混合物中にブロモベンゼン( 37.7 g, 208 mmol)の THF ( 400 mL)溶液をゆっくりと加え、 Grignard試薬を調製した。アルゴン気流下、 (R)-型の Garnerのアルデヒド ( 20.0 g, 77.1 mmol)の THF ( 200 mL)溶液に −78℃下で先に調製した Grignard試薬をゆっくりと加えた。 0℃下で 2時間撹拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えた。エーテルで抽出し、有機層を水、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー ( 400 g, ヘキサン/酢酸エチル = 20 : 1)により精製し、 tert − ブチル ( 4R) − 2, 2 − ジメチル − 4 − ヒドロキシフェニルメチル − 3 − オキサゾリジンカルボキシレートをジアステレオマー混合物として無色油状で得た ( 17.9 g, 70%)。この化合物はそれ以上精製せずに次の反応に用いた。
1H NMR (CDCl3, 500 MHz):δ = 1.41 ( br. s, 1H, O - H), 1.49, 1.50, 1.54, [ each s, 15H, t-Bu, C(CH3)2], 3.60 - 3.93 ( m, 1H, CH - N), 3.94 - 4.31 ( m, 2H, CH2 - O), 4.74 - 5.27 ( m, 1H, CH - O), 7.22 - 7.47 ( m, 5H, Ph)。
【0061】
Tert−ブチル(4R)−2, 2−ジメチル−4−ヒドロキシフェニルメチル−3−オキサゾリジンカルボキシレート(32.4 g, 105 mmol)のメタノール ( 300 mL)溶液に 0℃下で塩化アセチル(12.0 mL, 169 mmol)をゆっくりと加えた。室温下で 24時間撹拌した後、減圧濃縮した。得られた残さに対して EtOH −エーテルで2回再結晶操作を行うことにより、目的とする化合物を無色針状結晶として 3.64g(17%,2ステップ)得た。
m.p.:160.0 - 165.0℃
[α]D 26 = +46.5 (c = 1.07, MeOH)
IR (ヌジョール): v = 3275 ( br. s, O - H, N - H), 1590 (m), 1100 (m. C - O), 755 (m), 700 (m) cm-1
1H NMR (CD3OD, 500 MHz):δ = 3.44 ( ddd, 1H, J = 9.0, 4.3, 3.7 Hz, 2 - H), 3.54 ( dd, 1H, J = 11.5, 3.7 Hz, 3 - Ha), 3.67 ( dd, 1H, J = 11.5, 9.0 Hz, 3 - Hb), 4.98 ( d, 1H, J = 4.3 Hz, 1 - H), 7.27 - 7.50 ( m, 5H, Ph).
13C NMR (CD3OD, 126 MHz):δ= 58.8, 59.4, 72.0, 127.2, 129.2, 129.7, 141.1.
C9H14ClNO2 ( 203.7): 計算値: C 53.08, H 6.93, N 6.88; 実測値: C 52.85, 6.70, 6.77。
【0062】
(実施例 2) (1S, 2R) − 2 − アミノ − 1 − ( 4 −メチルフェニル) − 1, 3 − プロパンジオール塩酸塩(化合物II)の合成
【0063】
【化25】
Figure 0004216635
【0064】
アルゴン気流下、マグネシウム(730 mg, 30.0 mmol)とヨウ素(触媒量)の混合物中にパラブロモトルエン(4.02 g, 23.5mmol)のTHF (40mL)溶液をゆっくりと加え、 Grignard試薬を調製した。アルゴン気流下、(R)-型の Garnerのアルデヒド(2.10 g, 9.16mmol)のTHF溶液(30mL)に −78℃以下で先に調製したGrignard試薬をゆっくりと加えた。-5〜-1℃で2時間撹拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えた。エーテルで抽出し、有機層を水、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(40 g, ヘキサン/酢酸エチル=10 : 1)により精製し、tert−ブチル(4R)−2, 2 −ジメチル−4−ヒドロキシ( 4 − メチル)フェニルメチル−3−オキサゾリジンカルボキシレートをジアステレオマー混合物として無色油状で得た(1.78g,5.55mmol)。この化合物はそれ以上精製せずに次ぎの反応に用いた。
1H NMR (CDCl3,400MHz):δ=1.43(br. s, 1H, O - H), 1.49, 1.50, 1.54, 1.57 [ each s, 15H, t - Bu, C(CH3)2], 2.34 ( s, 3H, CH3), 3.57 - 3.95 ( m, 1H, CH - N), 3.96 - 4.31 (m, 2H, CH2 - O), 4.96 - 5.25 ( m, 1H, CH - O), 7.16 ( d, 2H, J = 7.8 Hz, Ph), 7.26 ( d, 2H, J = 7.8 Hz, Ph)。
【0065】
tert − ブチル (4R)−2, 2−ジメチル−4−ヒドロキシ(4−メチル)フェニルメチル−3−オキサゾリジンカルボキシレート(1.78 g,5.55mmol)のメタノール(25mL)溶液に、0℃下で塩化アセチル(0.6mL,8.43mmol)をゆっくりと加えた。室温下で24時間撹拌した後、減圧濃縮した。得られた残さに対してメタノールで再結晶操作を行なう事により、目的とする(1S, 2R) − 2 − アミノ − 1 − ( 4 − メチルフェニル) − 1, 3 − プロパンジオール塩酸塩を無色針状結晶として449 mg(2.06mmol, 37%)を得た。
m.p.: 163.5 − 168.0℃
[α]D 26 = +42.2 (c=1.10,MeOH)
IR (ヌジョール): v = 3375 ( br. W, N - H), 3255 (br. m, O - H), 1620 (w), 1600 (w), 1525 (w), 1205 (w), 1065 (m). 1020 (m) cm-1
1H NMR (CD3OD, 400 MHz):δ= 2.33 ( s, 3H, CH3), 3.41 (ddd, 1H, J = 8.8, 4.4, 3.9 Hz, 2 - H), 3.56 ( dd, 1H, J = 11.5, 3.9 Hz, 3 - Ha), 3.67 ( dd, 1H, J = 11.4, 8.8 Hz, 3 - Hb), 4.96 ( d, 1H, J = 4.4 Hz, 1 - H), 7.21 ( d, 2H, J = 7.8 Hz, Ph), 7.29 ( d, 2H, J = 7.8 Hz, Ph)
13C NMR ( CD3OD, 100 MHz):δ= 21.2, 58.9, 59.4, 71.8, 127.1, 130.3, 138.1, 139.1.
C10H16ClNO2 (217.7): 計算値: C55.17, H7.41, N 6.43; 実測値: C 54.84, H 7.14, N 6.22。
【0066】
(実施例3)(1S,2R)−2−アミノ−1−( 4 − メトキシフェニル)−1,3−プロパンジオール(化合物III)の合成
【0067】
【化26】
Figure 0004216635
【0068】
マグネシウム(1.27g, 52.4mmol)、4-ブロモアニソール (9.8g,52.4mmol), ヨウ素(触媒量)をTHF(60ml)中で2時間加熱還流し、Grignard試薬を調製した。アルドリッチから購入した (R)−型の garnerのアルデヒド(t-ブチル (R)-4-ホルミル-2,2-ジメチル-3-オキサゾリジンカルボキシラート、3g,13.1mmol)のTHF(60ml)溶液に先程作ったGrignard試薬(20ml)を-78℃で1時間かけて滴下した。ドライアイスバスを一晩かけてゆっくり室温まで昇温させた。翌日反応を0℃下で水を加えて止めた。2N 塩酸(8ml)を加えて中和した。飽和塩化アンモン溶液(100ml)を加え、EtOAc(150ml)で抽出した。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液(50ml)で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過、濃縮した。粗生成物(黄色油状物,収量5g)をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、tert-ブチル(4R)-2,2-ジメチル-4-ヒドロキシ-4-(p-メトキシフェニル)-3-オキサゾリジンカルボキシラート とそのジァステレオ異性体混合物(3.6g, 82%収率,無色油状物) が得られた。
1H NMR(CDCl3, 270MHz): δ 7.35(m, 2H), 6.9(d, 2H), 5.05(bs, 1H), 4.35-3.85(m, 2H), 3.8(s, 3H), 3.8-3.55(m, 1H), 1.5(m, 15H)。
【0069】
tert-ブチル(4R)-2,2-ジメチル-4-ヒドロキシ-4-(p-メトキシフェニル)-3-オキサゾリジンカルボキシラート (3.6g,10.7mmol) のジオキサン(50ml)溶液に4N 塩酸Dioxane (27ml)を室温で10分かけて滴下した。室温で12時間攪拌後、溶媒を減圧留去した。粗生成物のNMRで2種類の化合物を確認した。比率は約6対4。LCMS分析で二つの化合物は同じ分子量を持つことがわかった。シリカゲルカラムクロマトで精製し2つのフラクションを得た。収量は、フラクション1が1g、フラクション2が660mgだった。フラクションFr2をMeOH/Et2Oから再結晶し、目的の(1S,2R)−2−アミノ−1−( 4 − メトキシフェニル)−1,3−プロパンジオール(白色粉末, 350mg収量, 収率17%)が得られた。純度は89Mol%、96Wt%(不純物はエーテル)だった。
m.p.:94.6-101.2℃
1H NMR(CDCl3, 270MHz): δ 7.3(d, 2H), 6.93(d, 2H), 4.53(d, 1H), 3.83(s, 3H), 3.8-3.6(m, 2H), 3.02(m,1H)
[α]D 20=14.0(C=1.015, MeOH)
【0070】
(実施例4)Edg受容体応答性試験
Edg受容体を細胞表面に発現している前骨髄芽腫細胞株 HL 60を用いて、被験物質の細胞応答性を検討した。細胞応答の指標として、細胞内 Ca2+濃度の上昇を測定した。なお、 HL 60細胞表面上の Edg受容体は、 AHOPと結合すると、 GTP結合タンパク質をリン酸化し、イノシトール 3リン酸 ( IP 3)キナーゼを活性化した後に細胞内 Ca2+濃度が上昇する事が報告されている (FEBS Letter '96, 379, p. 260; BBRC '98, 253, p. 253)。また、血清存在下、長期間培養する事で、 HL 60細胞表面に Edg受容体が発現する様になる事が報告されている。
【0071】
Ca2+キレート試薬 Fura 2-AMを HL 60細胞に取り込ませた。
石英製セル内に細胞懸濁液 1.2 mlを充填し蛍光光度計(パーキンエルマー製、細胞測定用)に装着し、 0.5ミリ秒毎に励起波長を 340 nm( Ca2+をキレートした Fura - 2を励起)と 380 nm(未反応 Fura - 2を励起)に交互に切り替え 510 nmの蛍光光度を測定した。
【0072】
被験物質をそれぞれ 30 μM終濃度で、マイクロシリンジを用いて加えた後蛍光光度を追跡して Ca2+が増加するかどうか検討した。また、被験物質添加後に AHOP(終濃度 1μM)を追加した際、Ca2+が増加するかどうか確認し、各物質の AHOP拮抗性について検討した。
【0073】
化合物I、化合物II、或いは化合物IIIを添加した後、AHOP追加による細胞内Ca2+濃度増加が阻止された事より、これら三物質が Edg拮抗性である可能性が示唆された。
【0074】
次に、拮抗の可能性が示唆された三物質による細胞内Ca2+増加阻止作用の用量依存性を検討した。
その結果、化合物I、化合物II、或いは化合物IIIは何れも用量依存的にAHOPによる HL 60細胞内Ca2+濃度増加を阻止した。化合物I、化合物II、或いは化合物IIIの50%抑制点IC50はそれぞれ 12±3 nM、64±0 nM、或いは 0.2±0.0 μMだった。
【0075】
(実施例 5)3H - AHOPを用いた競合実験
細胞を遠心分離によって回収後 F-12培地( Gibco BRL)( 4℃保存、 10 ml)に懸濁し、RI実験室に搬入した。細胞懸濁液 200 μl( 1×106 cells/ml F- 12)に、終濃度 1 nMの 3H-AHOP(10mCi/1mM)と終濃度100nMの非標識化合物を加え、4℃にて30分間(時々撹拌して)結合試験を行った。12,000rpmにて7分間遠心分離後、上澄を素速く細胞ペレットを傷付けない様に)マイクロピペッターを用いて捨て去り、沈澱した細胞ペレットをレディソルブ(ベックマン) 1.5 mlで懸濁してバイアルに移し液体シンチレーションカウンターL 2100(ベックマン)で放射活性を測定した。細胞に結合した3H-AHOPを定量した。
【0076】
その結果、表1に示すように、 AHOPと同様、化合物I、化合物II、或いは化合物IIIが、3H - AHOPに競合した事より、これら三物質が Edg受容体と特異的に結合していると考えられた。
【0077】
【表1】
Figure 0004216635
【0078】
(実施例 6)疑似血管モデルを用いた抗炎症試験
(1)疑似血管モデルを用いた AHOPの炎症惹起作用
トランスウェル底面の孔膜上に一層のウシ内皮細胞を培養し、トランスウェル上室に蛍光標識したラット好中球浮遊液を加え、下室に AHOPを終濃度 0.1〜10μMとなるように懸濁した。即ち、トランスウェルの上室と下室は内皮層を隔てて隔離され、上室が血管内部、下室が血管外の炎症部に対応する疑似血管in vitro炎症モデルとなっている。上室から内皮層を潜り抜けて下室へ透過した好中球数、及び、内皮層に粘着した好中球数を測定したところ、 AHOP 10 μMにて、有意に好中球の内皮層透過、及び、粘着が促進を受けた。つまり、 AHOPが炎症惹起物質として作用していると考えられた。
(2)炎症細胞 - 血管内皮細胞相互作用に及ぼす Edg拮抗物質の作用
AHOPを炎症惹起物質とし、Edg拮抗性を示す化合物Iが疑似血管 in vitro炎症モデルに及ぼす影響を検討した。即ち、トランスウェル下室に化合物Iを 0.3〜3 μMで添加し、 AHOP 10μMを下室に入れて炎症を惹起した。内皮層に粘着した好中球数、或いは内皮層を抜け下室へ透過した好中球数を測定した結果、化合物I0.3〜 3 μMにて、濃度依存的に好中球透過、及び粘着が抑制を受けた(図1)。
【0079】
体内の損傷部位で、露出を受けたコラーゲン(細胞外マトリックス)が損傷シグナルとして標的になり、血小板が凝集してくるが、凝集して活性化した血小板から放出される PDGFなどの炎症性サイトカインが炎症を進行させる。しかし、重度の炎症は循環器の恒常性を破綻させ、動脈硬化を進行させると考えられている。今回、疑似血管 in vitroモデルに於て、 PDGFを炎症惹起剤として用いた訳ではないが、少なくとも AHOPを炎症惹起剤として用いた場合、化合物Iは抗炎症的に作用する事より、化合物Iは循環器の恒常性を維持し、病態を改善する方向に作用する可能性が考えられる。
【0080】
(実施例 7)合成型血管平滑筋細胞増殖試験
動脈硬化症の進行に伴って血管平滑筋細胞が収縮型から合成型に形質転換し、炎症性サイトカインを分泌しながら血管平滑筋細胞が増殖し動脈硬化巣が進展すると考えられている(ロスの仮説)。血管平滑筋細胞の表面には Edg受容体が発現している事が報告されており( The American Society for Pharmacology and Experimental Therapeutics '00, 58, 449)、AHOPが血管平滑筋細胞を増殖させる事が報じられている(Biochemical J. '01 353, pp 139-146)。今回、化合物Iによる血管平滑筋細胞増殖への作用を検討した。
【0081】
ラット頚動脈内膜をバルーニングによって擦過し、2週間後にエクスプラント法 ( Explant culture)によって調製した血管平滑筋細胞を10%牛胎児血清を含んだDMEM培地 (Gibco)にて培養し、数回経代し安定させた後、5×103 cells / cm2の細胞密度に蒔種し実験に用いた。増殖因子AHOP(1μM)と併せて化合物Iを上述細胞に添加した24時間後、 BrdUアッセイ ( Science '82, 218, p. 474; Cytometry '85,6,p.584)によって細胞密度を測定した。
【0082】
その結果、化合物Iは 0.1〜1μM濃度において、ある程度濃度依存的に血管平滑筋細胞増殖を抑制した(図2参照)。
【0083】
(実施例 8)ex vivo血小板活性〔静脈経路〕
化合物Iのin vivo作用を検討する目的で、ex vivo血小板活性を検討した。
【0084】
実験では、化合物I 10mg/kgをモルモット耳介静脈内に注射した10分後に採血し血小板を調製し、collagen( 0.5〜1μg/ml)、或いはADP(0.3〜3μM)で凝集を惹起して血小板活性を測定した。その結果、コラーゲンで惹起した場合は何ら作用を観察できなかったものの、 ADPで惹起した場合には化合物Iによって凝集が抑制を受けた(図3参照)。
【0085】
次に、 ex vivo血小板試験を、ラットを用いて実施した。ラット尾静脈内に化合物Iを注射した1時間後の血小板活性を、コラーゲン ( 0.7〜5μg / ml) 、或いは ADP ( 0.3〜3μM)によって惹起して検討した。その結果、化合物Iは 0.3〜1 mg/kgの用量にてある程度用量依存的にコラーゲン血小板凝集を抑制したが、 3〜5μg/mlの高濃度コラーゲンによる強い惹起に対しても抑制の作用を示した。一方、ADP血小板凝集に対しても化合物Iは 0.1〜1mg/kgである程度用量依存的に抑制した(図4、図5参照)。
【0086】
(実施例 9) ex vivo血小板凝集(経口経路)
実験では、ラット口腔内に化合物I ( 10、 3、及び 1 mg/kg)を投与した 2時間後の血小板凝集を ADP、及びコラーゲンで惹起させ試験した。
【0087】
その結果、ADP (0.3〜3μM)惹起血小板に対し化合物Iは用量依存的 ( 1〜10 mg/kg)に凝集を抑制した。陽性対照チクロピジンと作用を比較すると、化合物Iはチクロピジンの 1/10の用量でチクロピジンと同等に凝集を抑制すると考えられた〔図6〕。
【0088】
一方、コラーゲン(0.7〜3μg/ml) 惹起血小板に対し化合物Iは 3、10 mg/kgの用量で凝集を抑制した。しかし、陽性対照チクロピジンは100mg/kgの用量でコラーゲン惹起血小板には作用しなかった(図7)。
【0089】
(実施例 10)イヌ脳底動脈マグヌス試験
くも膜下出血後血管攣縮への適応の可能性を探る目的でイヌ脳底動脈血管収縮 in vitro試験を行った。
【0090】
13 kgのビーグル犬より脳底動脈を摘出し、 4 mmの環状標本を作成し、マグヌス管につるした。 Krebs-ringer栄養液を交換しながら 1時間平衡化した後、 60mM KClで非特異的収縮を惹起し各環状標本の収縮力の基準とした。再度、栄養液を交換して平衡化した後、 AHOPを 0.3〜10μMまで累積投与し収縮力を計測した。その結果、 AHOP濃度依存的に血管収縮が観察され、 10μM AHOPによって KCl比 81.8%と強い血管収縮が 1時間以上継続した。
【0091】
一方、化合物I、或いはIIを前処理(10〜20分間)した後に AHOPを 0.3〜10 Mまで累積投与し収縮力を計測した結果、いずれの化合物も AHOP収縮を抑制した(図8、図9)。
【0092】
(実施例 11)ラウリン酸誘発末梢循環障害モデル
ウイスター系雄性ラット(8週齢)に化合物Iを経口投与した 2時間後にラット右大腿動脈内にラウリン酸(10mg/mlを150μl)処置し、その後 1日 2回経口経路で化合物Iを投与した。ラウリン酸処置 3日、7日、 10日、および14日目に脚壊死をスコア評価した。スコア 1は黒変が爪先に限られ、スコア 2は黒変が指部に及ぶ、スコア 3は指部の壊死、そしてスコア 4は指の脱落と評価し、各指のスコアを相加した。その結果、化合物Iは30、100mg/kgで用量依存的に脚壊死を抑制する傾向を示した(図10)。
【0093】
【発明の効果】
本発明の目的化合物である一般式Iで表される(1S,2R)−2−窒素含有基置換−1−アリール−1,3−プロパンジオール誘導体化合物は、優れたEdg受容体拮抗作用を示し、抗循環器系疾患(例えば、抗動脈硬化、抗心臓疾患、抗末梢循環障害)、抗リウマチ、抗癌、抗糖尿病性網膜症、抗呼吸器系疾患や抗くも膜下出血後攣縮を示す医薬用途に有用性を有する新規化学物質を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の化合物Iが0.3〜3μM濃度において、濃度依存的に炎症を抑制することを示す図表である。
【図2】図2は、本発明の化合物Iが0.1〜1μM濃度において、濃度依存的に血管平滑細胞増殖を抑制することを示す図表である。
【図3】図3は、モルモットを用いたex vivo試験においてADPで凝集を惹起した場合、本発明の化合物Iが血小板凝集を抑制することを示す図表である。
【図4】図4は、ラットを用いたex vivo試験〔静脈内投与〕においてコラーゲンで凝集を惹起した場合、本発明の化合物Iが血小板凝集を抑制することを示す図表である。
【図5】図5は、ラットを用いたex vivo試験〔静脈内投与〕においてADPで凝集を惹起した場合、本発明の化合物Iが血小板凝集を抑制することを示す図表である。
【図6】図6は、ラットを用いたex vivo試験(経口投与)においてADPで凝集を惹起した場合、本発明の化合物Iが血小板凝集を抑制することを示す図表である。
【図7】図7は、ラットを用いたex vivo試験(経口投与)においてコラーゲンで凝集を惹起した場合、本発明の化合物Iが血小板凝集を抑制することを示す図表である。
【図8】図8は、イヌ脳底動脈マグヌス試験において AHOPで収縮を惹起した場合、本発明の化合物Iが収縮を抑制することを示す図表である。
【図9】図9は、イヌ脳底動脈マグヌス試験において AHOPで収縮を惹起した場合、本発明の化合物Iが収縮を抑制することを示す図表である。
【図10】図10は、ラウリン酸誘発末梢循環障害ラットにおいて本発明の化合物Iが脚壊死の進行を抑制することを示す図表である。

Claims (10)

  1. 一般式II:
    Figure 0004216635
    (式中、Rは水素、メチル基またはメトキシ基である。)で表される(1S,2R)−2−アミノ−1−(4置換−フェニル)−1,3−プロパンジオールまたはその製薬学的に許容できる塩。
  2. 一般式II:
    Figure 0004216635
    (式中、Rは水素、メチル基またはメトキシ基である。)で表される(1S,2R)−2−アミノ−1−(4置換−フェニル)−1,3−プロパンジオールの製造法であって、
    式:
    Figure 0004216635
    (式中、Aはベンジルオキシカルボニル(Z)、 t−ブトキシカルボニル(Boc)、 t−アミノオキシカルボニル(Aoc)、イソボニルオキシカルボニル、p−メトキシベンジルオキシカルボニル、2−クロル−ベンジルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、トリフルオロアセチル、フタロイル、ホルミル、 o − ニトロフェニルスルフェニル及びジフェニルスルフェノチオイルから選択されるNの保護基であり、BおよびCはアルキル基である)
    の(R)−ホルミルオキサゾリジン誘導体を、式:
    Figure 0004216635
    (Rは上記の定義の通りである。)のグリニヤール試薬と反応させて式:
    Figure 0004216635
    の化合物を得、塩化水素発生剤と水または低級アルコールとの混液で0℃〜20℃で処理し、EtOH−エーテルまたはメタノールで再結晶することにより、式:
    Figure 0004216635
    の化合物を得、アルカリを用いる処理により遊離の塩基にすることを含む(1S,2R)−2−アミノ−1−(4置換−フェニル)−1,3−プロパンジオールの製造法。
  3. 請求項1に記載の化合物またはその製薬学的に許容できる塩を含有する医薬組成物。
  4. Edg受容体拮抗剤である請求項3に記載の医薬組成物。
  5. 循環器系疾患を予防もしくは治療するための請求項4に記載の医薬組成物。
  6. 循環器系疾患が動脈硬化性疾患、心臓疾患、くも膜下出血後血管攣縮、または末梢循環障害症である請求項5に記載の医薬組成物。
  7. リウマチを予防もしくは治療するための請求項4に記載の医薬組成物。
  8. 癌を予防もしくは治療するための請求項4に記載の医薬組成物。
  9. 糖尿病性網膜症を予防もしくは治療するための請求項4に記載の医薬組成物。
  10. 呼吸器系疾患を予防若しくは治療するための請求項4に記載の医薬組成物。
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