JP4214105B2 - 歯付ベルト及びその製造方法 - Google Patents

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本発明は熱硬化性樹脂材料で成形される歯付ベルトに関する。
熱硬化性樹脂材料で構成される歯付ベルトにおいて、ベルト歯元の抗張力体保護とベルト歯部の補強効果等を目的とする不織布材料を用いた構造のものでは、ベルト歯元部が圧縮不織布層となり、ベルト歯部が非加圧による繊維が拡散した不織布層となることが特許文献1(特公平5−62657号公報)に開示されている。特許文献1に記載された発明は、本出願人が先に開示した発明である。
即ち、第1図(b)に示すようにこの従来例の歯付伝動ベルト1は、歯底部表面2が薄く圧縮されたエラストマ含浸不織布層3とされ、これが抗張力体4を覆っているため、抗張力体4は、接触、摩耗から完全に保護され、側圧力が補強される。歯部は実質的にエラストマ材料により形成されているが、この中には不織布と連続する嵩高不織布繊維3Aが非加圧の拡散状態に分散されているので、この不織布が歯部エラストマの補強繊維的機能を発揮し、歯部の剪断強度を向上させる。歯底部のエラストマ含浸不織布3はもともと嵩高の不織布を圧縮するものであるから、圧縮圧を変化させることにより任意の層圧に出来、従ってPLDも任意に設定出来る。
この従来例の伝動ベルトは以下のようにして製造される。第2図及び第3図(b)に示すように、まず、第2図に示すように嵩高の不織布3は内金型5上で圧縮することなく、巻付け配置され次いで第3図(b)に示すようにその上から巻き付けられる抗張力体4により圧縮され、歯底部成形用突条部分6で所定の層圧Hとされる。このとき、内金型5の歯部成形溝7へは抗張力体4に押されて不織布3が入り込む。
また、このとき圧縮不織布層3は抗張力体4により圧縮され、層圧Hとなり、金型5と抗張力体5との間に介在することとなる。
このような金型を第4図に示すように外金型8に入れ、低粘度の液状エラストマ原料9を注入すれば、原料はスムースに金型空間内の、圧縮、非圧縮の不織布に浸透し、次いで金型内面に規制され、正確な歯形が形成される。これを硬化させ、脱型すれば、伝動ベルトの円筒素形が得られ、これを常法に従って輪状に切断して伝動ベルトが得られる。
本発明者等は、歯部内の不織布の拡散状態と強度などのベルト性能との関係をさらに追求してきた。
不織布を内金型に被覆しただけの拡散状態は、ベルト歯元部(内金型凸部)の圧縮層と連続になるベルト歯部(内金型凹部)では自然拡散であり、ベルト歯部の抗張力体層に近い(歯元)付近では繊維密度が高く、歯先に近くなる程繊維密度が低くなっていて不織布の含浸深さが不十分となり、歯部の剛性不足や、抗張力体層と不織布層間の熱硬化性樹脂材料の透過密度低下から、物理的強度が向上せず、ベルト寿命を延ばすことができなくなるという問題があることを見出した。
さらに、従来の製造法では、不織布の目付量を増やしても十分な強度の向上を図ることができず、特に抗張体の接着力は低下することが確認され、強度が低下することが確認された。本発明者は、不織布繊維の含浸量に注目し、含浸量を多くする為、不織布繊維の目付量を大きくしたベルトを製造し、その含浸状態を見たが、不織布の自然拡散だけでは、目付量を大きくした効果が得られないこと及び、歯元部の繊維量の増加により、ベルトPLDが大きくなり、噛み合い性が悪くなる等の不具合が発生することが研究開発の過程で判明した。
特公平5−62657号公報
本発明は、ベルト歯部に不織布繊維の含浸を深くして歯部の剛性を向上させ、耐久性を向上させた歯付伝動ベルトの製造方法を開発し、高強度・長寿命の歯付伝動ベルトを提供することを目的とする。
本発明は、ベルト歯部に不織布繊維の含浸が深い歯付伝動ベルトとその不織布の被覆状態に工夫を加えた製造法であり、本発明の主な構成はつぎのとおりである。
(1)背部と歯部、背部と歯部の間に抗張体が介在し、抗張体から歯側に不織布が配置された歯付きベルトであって、歯付ベルトの歯形に対応する形状の凹部を形成した内金型と外筒によって構成される金型を用い、内金型に不織布を巻き掛けした後に抗張体を巻き掛けし、熱硬化性合成樹脂を金型に注型して成形された抗張体が歯底面に沿って埋入された熱硬化性樹脂製歯付ベルトにおいて、不織布を内金型に被覆し該不織布を凹部に湾曲させた後に抗張体を巻き掛けすることにより、不織布は、歯底部表面では合成樹脂が含浸して圧縮されており、歯部では歯元から歯高さの70%以上の範囲に不織布繊維が拡散していることを特徴とする熱硬化性樹脂製歯付ベルト。
(2)歯ピッチ8〜14mm歯付ベルトにおいて、不織布の目付量を200g/m2〜600g/m2としたことを特徴とする(1)記載の歯付ベルト。
(3)歯高2.86mm以上の伝動ベルトである事を特徴とする請求項1又は2記載の歯付ベルト。
(4)背部と歯部、背部と歯部の間に抗張体が介在し、抗張体から歯側に不織布が配置された歯付きベルトであって、歯付ベルトの歯形に対応する形状の凹部を形成した内金型と外筒によって構成される金型を用い、内金型に不織布を巻き掛けした後に抗張体を巻き掛けし、熱硬化性合成樹脂を金型に注型して成形する熱硬化性樹脂製歯付ベルトを製造する方法において、不織布を内金型に被覆し該不織布を凹部に湾曲させる工程を、抗張体を巻き掛けする行程の前に設けたことを特徴とする歯底部表面では不織布が圧縮されており、歯部では歯元から歯高さの70%以上の範囲に不織布繊維が拡散している熱硬化性樹脂製歯付ベルトの製造方法。
(5)不織布を内金型の凹部に湾曲させる手段として、該凹部内に入り込むように糸体を該凹部に平行に張設又は棒体を立設する手段によることを特徴とする請求項4記載の歯付ベルト製造方法。
(6)不織布を内金型の凹部に湾曲させる手段として、内金型の溝ピッチに緩く噛合う歯形を設けた冶具を押転させて不織布が外側から内金型凹部入り込むようにする手段によることを特徴とする請求項4記載の歯付ベルト製造方法。
本発明は、不織布の繊維量を増やすことなく、不織布繊維を歯部内に深く拡散したことにより、歯付ベルトの強度を向上させ、耐久性の向上させることができた。
歯部強度や耐トルク強度が向上したことにより、急激な負荷変動を伴う装置・器機の伝動ベルトとしての信頼性を向上させることができる。
駆動力伝動ベルトの強度向上、寿命の向上が実現でき、ベルトを小サイズ化することもできるので、本ベルトを用いた装置の小型化にも寄与できる。
製造方法的にも、基本的に既存の装置を改良することで実現でき、実用性、信頼性においても優れている。
本発明は、ベルト歯部に入る不織布繊維を、歯元付近から歯先付近まで拡散してベルト歯部に入る不織布の含浸深さが深くなり、抗張力体層とベルト歯部層の層間結合力が増すことが歯部の剛性に寄与し、ベルト寿命向上が得られる。さらに、均一な拡散状態にすることにより作用・効果を向上させることができる。
例えば、従来の製造方法による歯高2.86mm、歯ピッチ8mmの歯付ベルトの不織布含浸深さは、ベルト歯高さの44〜60%となるが、同じ不織布の目付量のもので、70%以上の含浸深さにすることにより、歯部の剛性が約10%以上上がり、ベルト寿命が大きく向上する。また、歯高5.00mm、歯ピッチ14mmの歯付ベルトでも同様である。
1.形状、構造
背部と歯部から構成される合成樹脂製の歯付ベルトであって、強度と耐久性が要求される伝動ベルトに適しており、背部と歯部の間に抗張体を介在させ、さらに抗張体の歯側に不織布を配置した歯付伝動ベルトである。不織布は、歯底部表面では合成樹脂が含浸して圧縮されており、歯部では不織布の繊維が歯部内に拡散して、歯部の強度を向上させ耐久性を向上させる機能を果たしている。
2.構成要素
(1) ベルトを構成する合成樹脂の種類は、熱硬化性ポリウレタン樹脂が実用的に優れている。
(2)抗張体は、張力の強い繊維であって、ガラス繊維、ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維等が使用される。モノフィラメント、マルチフィラメント等フィラメントで構成された抗張体が望ましい。通常は、マルチフィラメント(フィラメントを撚糸したもの)の抗張体が用いられている。
(3)不織布は、低密度の嵩高であり、樹脂素材を注入した際に拡散性を持たせることが重要である。嵩高のポリエステル不織布、嵩高ポリアミド不織布などが用いられる。不織布の目付量は、歯ピッチ8〜14mmの歯付ベルトにおいて、不織布の目付量を200g/m2〜600g/m2が好ましい。特に、歯ピッチ8mmの歯付ベルトでは、230〜300g/m2、歯ピッチ14mmでは、390〜500g/m2が好ましい。
(4)内金型凹部内湾曲させて不織布を入り込むようにするために糸体を該凹部に平行に張設又は棒体を立設等の手段を用いる。糸や棒の太さは限定されない。例えば、糸の場合は、0.1〜1.5mm程度の太さを用いることができる。細い糸の場合は、複数用いることができる。
(5)本発明の歯付ベルトは、動力伝達用の伝動ベルトに適している。
3.製法
本発明の製造方法は、歯形を設けた内金型と外金型の間に設けたキャビティー内に合成樹脂を注入し、硬化させて脱型して得た円筒形のベルト素材をベルト幅に輪切りして製造する方法に属する。不織布の繊維を歯部に拡散させるために、内金型に設けた歯部形成用の溝内に入り込むように配置したことが特徴の一つである。不織布を溝内に湾曲配置した状態でポリウレタンエラストマーなどの液状樹脂をキャビティー内に注入すると、不織布の繊維が液状樹脂の充満にしたがって溝内に拡散していくことを利用して、拡散を広く深くするものである。
内金型に設けた歯部形成用の溝内に入り込むように配置する手段は、不織布の外側から溝内に入り込むように溝に平行に糸や棒を張設する手段や溝ピッチに緩く噛合う歯形を設けた冶具を押転するなどの手段を採用することができる。
糸や棒を張設する手段は、円筒形の内金型の上下の端部に張設位置規制手段を設けて、この張設位置規制手段に糸や棒を取り付ける手段を採用できる。糸はそのまま残しておいても樹脂注入前に抜糸しても良い。棒は樹脂注入前に取り外す。糸の種類は、ポリウレタンなどの合成樹脂製などを用いることができる。この糸を残す場合は、ベルトを構成する主材の合成樹脂とのなじみ性などを勘案して選択することができる。
糸や棒は位置ずれしないように規制する。糸や棒を金型の凹部内に位置決めする手段は、例えば、内金型の両端部に規制具を設ける。糸や棒は凹部からはみ出していても、その後の工程である芯糸巻付工程において、内部に押しつけられるので、少なくとも、糸や棒の太さの分は不織布を湾曲させることができる。したがって、太めの糸や棒を使用する場合は、この方法を採用すれば、十分な湾曲を得ることができる。
張設手段である糸や棒を抜き出す場合は、内金型に抗張用の芯線を巻き掛けが終了した後に行うと溝内に押入された不織布の位置ずれが生じない。
製造工程としては、従来の製造工程において、不織布被覆工程と芯線巻き工程の間に不織布の湾曲工程を追加するものである。不織布を湾曲させる手段を製品に残す場合は、他の工程に手を加える必要はないが、不織布を湾曲させる手段を抜き出す場合は、芯線巻き終了後に抜き出し工程を付加する。
4.性能・作用
本発明のベルトは、補強繊維である不織布を均一な分散状態にし、よりベルト歯部に入る含浸深さを深くできるので、歯部の剛性が上がり、理想的な構造となる。
また、同繊維密度の不織布であっても、歯元の抗張力体保護効果を低下せず、ベルト歯部に均一な拡散状態となる不織布繊維が熱硬化性樹脂材料と含浸して、歯部の剛性が上がりベルト寿命向上が得られる。
本発明のベルトの製造方法では、同じ不織布の量(目付量)であっても、予備成形で不織布を溝内へ湾曲させて引き伸ばすことで、より均一な不織布繊維の分散が得られ含浸深さが深くなる。
その結果、ベルト歯高さに対する割合として、従来品ベルトでは44〜60%の含浸深さであるのに対し、本発明歯付ベルトは不織布含浸深さが70%〜95%となり、ベルト歯部の剛性が上がり、ベルト寿命の向上が得られる。
静的条件では、抗張体の引き抜き力が20%以上向上し、歯部剪断力も20%以上向上していることが確認されている。
使用状態を想定した運転条件試験では、スキップトルクが10%以上の向上、連続運転時間は10倍以上の向上が確認されている。
したがって、本発明の歯付伝動ベルトは、寿命向上、強度の向上が実現できた。従来の用途においては、歯付伝動ベルトの小サイズ化を計ることができる。また、歯部剪断力やトルクが大きくなったことにより、急激な負荷変動に対する対応性も向上している。工作機械などの操作性及び信頼性を向上させることができる。
歯高2.86mm 、8mmピッチの円弧歯タイフ゜(STS歯形)、周長1200mm長さ、15mm幅のサイズの(呼称:150 8M 1200)歯付伝動ベルトを製造し、その性能を比較した。
製造工程は、従来の製造工程において、不織布被覆工程と芯線巻き工程の間に不織布を湾曲させる工程を追加するものである。不織布を湾曲させる手段を製品に残す場合は、他の工程に手を加える必要はないが、不織布を湾曲させる手段を抜き出す場合は、芯線巻き終了後に抜き出し工程を付加する。
工程の概略を、図5に示す。
縦糸を張った状態の拡大図を図6に示す。縦糸張設具を設けた内金型の部分斜視図を図7に示す。
図5に従って製造工程を説明する。
歯付ベルトの歯形に対応する溝7を形成した内金型5に嵩高不織布3Aを被せ(c)、その不織布3Aを該歯部成形溝7内へ湾曲させて押し込むように縦糸10を該歯部成形溝7内へ入り込むように掛け回す(d,e)。
さらにその上から抗張体4となる芯線を螺旋状に巻付け(f)、外金型8を被せて、型組し、ポリウレタンエラストマーを注型し、架橋硬化させ(g)、型抜き(h)し、円筒形のベルト素材11(i)を得る。この円筒形のベルト素材11を製品のベルトの巾に輪切りして、製品とする。
主な工程の状態をさらに部分拡大状態を図2、図3(a)、図4〜7に従って説明する。
図2は、図5cに相当し、内金型5に嵩高不織布3Aを被せた状態を示しており、嵩高不織布3Aは、内金型5の歯底部成形用突条部分6に接している。
この状態から内金型5の歯部成形溝7内へ入り込むように嵩高不織布3Aの外側から縦糸10を上下に張ると図6(図5d,e相当)に示すように、嵩高不織布3Aは歯部成形溝7内へ湾曲して押し込まれた状態となる。
この上から、抗張体4となる芯線を通常の方法で、螺旋状に巻きつけていく。
この巻付け工程を示したのが図3(a)では、嵩高不織布3Aは歯底部成形用突条部分6では、厚みがHで示されるまで圧縮され、歯部成形溝7では、該溝内に押し込まれている。その後、外金型8及び上端側、下端側を用いて型組して封鎖した状態を図4(図5g相当)に示す。この状態で、液状のポリウレタン樹脂原料を注入、充填し、加熱を行い、架橋硬化させている。その後脱型して円筒形のベルト素材を得るのである。
本実施例では、縦糸10を掛け回すために、内金型の上面及び下面に縦糸張設具を設けている。図7にその模式図を示す。内金型の上面に縦糸を巻付ける位置を規制する縦糸張設具12を歯部成形溝7内に臨ませて設けている。糸の巻付け位置は、縦糸張設具12に溝を設ける。あるいはV字状の切込みを入れて、強く巻き締めたときに、喰い込んで、弛み止めになるようにする等の手段を講ずることができる。
本実施例では、不織布を湾曲させる手段として、内金型の溝に沿って縦に糸を張る手段を採用して、不織布を溝内に湾曲状に押入している。
目付量250 g/m2、無加圧で総厚が1mmのニードルパンチにより成形され、バインダー処理のされていない嵩高のニードルパンチ式ナイロン不織布を成形用金型5外周に無加圧状態で巻付け、その上から太さ1mmのポリアラミド繊維製の抗張力体4(デュポン社製、商品名ケブラー)を不織布3が金型5の歯底部成形用突条部分6面で厚さHが0.3mmとなるよう一定張力を付加して、スパイラル状に巻付けた。
抗張体を巻き付けた状態の不織布は、第3図に示したように突条部分6上では厚さ0.3mm に圧縮され、溝7では、溝内に張設糸よって糸の太さ分規制されて押し込まれた状態であった。その後、張設糸を引き抜いた。不織布は湾曲した状態であった。
次にこの内金型5を外金型8に入れ、下記配合の液状ポリウレタン樹脂原料を常法により真空下充填し、円筒のベルト素材11を成形した。
配合
プレポリマー 100重量部
硬化剤(3,3′‐ジクロロ−4,4′−ジアミノジフェニルメタン) 13重量部
可塑剤‐(ジ−2‐エチルヘキシル)セバケート(DOS) 10重量部
着色剤 0.5重量部
上記タイミングベルト円筒素形を輪状に切断し、巾6mm、周長486mm、歯ピッチ8mm、歯高2.86mmのタイミングベルトを多数切り出した。
本実施例で製造されたベルトは歯底部が圧縮のポリウレタン含浸不織布層とされ、該層により抗張力体は完全にカバーされており、歯を成形するエラストママトリックス内部には、予め押入された不織布が内金型溝内に液状原料注入により、不織布を構成する短繊維が一部分解されてより深く均一に分散状に歯部樹脂内に拡散していることが確認された。得られた歯付ベルトの断面を図1(a)に示す。歯先近くまで不織布繊維が拡散分布している様子が確認できた。
<比較例>
目付量250g/m2、330g/m2、410g/m2の3種類の不織布を押入しない従来例の製造法によって、実施例1と同サイズの歯付きベルトを製造した。それぞれ比較例1、2、3とする。これらの歯付ベルトと実施例1で得られた歯付きベルトとを評価試験を行った。評価試験は、(1)含浸深さの測定、(2)不織布の目付量と芯体接着力試験、(3)芯体接着力比較試験(4)歯部剪断力比較試験、(5)スキップトルク比較、(6)耐久時間の6項目を行った。
(1)不織布含浸深さの測定
ベルトを数ミリメートルの厚さにカットした断片の歯部を測定歯として、マイクロスコープで約10倍に拡大して、ベルトの歯元から不織布繊維の入っている歯先までの距離を計測した。この距離を歯高で除去して割合を求めて不織布含浸深さの測定した。測定した状態を模式的に図8(測定図)に、測定結果を表1、グラフを図9に示した。
本実施例1と従来例との不織布の含浸状態の写真を図14に示す。
※ 不織布含浸深さ率=含浸深さ/歯高×100%
図14(a)は実施例1であり、歯部の先端付近まで、不織布の繊維が拡散していることが認められた。これに対し、図14(b)の比較例1は、半分程度までしか、繊維が分布しておらず、かつ、不均一で抗張体側及び歯底部付近に密に分布していた。
この比較例1、2、3の結果から、単純に目付量を増やしても不織布の含浸深さは大きくならず、最高値でも60%であった。これに対し、実施例1は73〜92%を測定し、本発明の製造法によって含浸深さを大きくした歯付きベルトが得られることが確認できた。
(2)不織布の目付量と芯体接着力試験
比較例1、2、3を用いて抗張体である芯体の引き抜き力を測定し、不織布の目付量の関係を測定した。
芯体接着力は、芯体2本の3山間の引き抜き力とする。
その測定方法は、図10(a)の様に、予めベルト試料片にその芯体が引き抜ける様に切り込みを入れておき、引張り試験機でその引き抜き力を測定する。この例では、中央部の芯体2本が引き抜き対象であり、それ以外の芯体に荷重がかからないように切断してある。図10(b)に斜視図が示してあり、中央部の芯体2本が3山分が残るように切り込みを入れて、図12に示す治具を用いて引き抜き試験を行うものである。図10(c)に引き抜き後の試験片を模式的に示した。中央部の2本の芯体がベルトから引っぱり出された様子が開示されている。測定方法は、歯部に荷重が負荷されるように治具を工夫した。測定治具を図12に示す。島津オートグラフ引っ張り試験機を用いて50mm/minの速度で引き抜き力を測定した。
結果を表2と図11(グラフ化)に示す。
この結果、比較例1の芯体接着力を基準にすると、比較例2は0.93、比較例3は0.89に止まり、歯部の補強繊維となる不織布の目付量(繊維量)を増やすと、芯体接着力が低くなるという結果が得られた。
(3)芯体接着力比較試験
本実施例1の2種類と比較例1の3種類((2)不織布の目付量と芯体接着力試験と同サンプル)を用いて、含浸深さの違いによる抗張体である芯体の引き抜き力を測定し、含浸深さとの関係を測定した。
測定方法は、(2)の引き抜き力試験と同じ手法である。
結果を表3に示す。
この結果、比較例1A(含浸深さ44%)を基準とすると、比較例1Bは1.04、比較例1Cは1.09であるのに対し、本実施例1Aは1.20、本実施例1Bは1.26となっている。従って、従来例よりも本発明は、芯体引き抜き力において11〜26%増加していることが認められた。
(4)歯部剪断力比較試験
本実施例1の2種類と比較例1の3種類((2)不織布の目付量と芯体接着力試験と同サンプル)を用いて、含浸深さの違いによる1つの歯部の剪断力を測定し、含浸深さとの関係を測定した。
結果を表3に示す。
この結果、比較例1A(含浸深さ44%)を基準とすると、比較例1Bは1.08、比較例1Cは1.16であるのに対し、本実施例1Aは1.22、本実施例1Bは1.24となっている。従って、従来例よりも本発明は、歯部剪断力において、6〜24%増加していることが認められた。
(4)スキップトルク比較
本実施例1の2種類と比較例1の3種類((2)不織布の目付量と芯体接着力試験と同サンプル)を用いて、ベルトをプーリ2軸にかけ、従動側プーリに負荷トルクを増加しつつベルトが歯飛びする時のトルクをスキップトルクとして計測した。測定手段を図13に示す。
結果を表3に示す。
試験条件
プーリ : 24S8M×2
(8mmピッチの円弧歯タイプ(STS歯形)、歯数24歯のプーリ、2軸)
基準初期張力 : To=33Kgf(軸間固定の初期張力) 軸荷重2To=66Kgf
回転数 : 1900rpm
この結果、比較例1A(含浸深さ44%)を基準とすると、比較例1Bは1.01、比較例1Cは1.03であるのに対し、本実施例1Aは1.09、本実施例1Bは1.12となっている。従って、従来例よりも本実施例1は、スキップトルクにおいて、6〜12%増加していることが認められた。
本発明は、歯部の剛性が上がり、スキップトルク(歯飛びトルク)も大きくなることが確認できた。
(5)耐久時間試験
本実施例1の2種類と比較例1の3種類((2)不織布の目付量と芯体接着力試験と同サンプル)を用いて、ベルトをプーリ2軸にかけ、連続運転をしてベルトが歯欠け破損する時間を計測した。
結果を表3に示す。
試験条件
プーリ : 24S8M×2
(8mmピッチの円弧歯タイプ(STS歯形)、歯数24歯のプーリ、2軸)
基準初期張力 : To=33Kgf(軸間固定の初期張力) 軸荷重2To=66Kgf
回転数 : 1900rpm
負荷トルク : 5.0Kgf・m
この結果、比較例1A(含浸深さ44%)を基準とすると、比較例1Bは1.18、比較例1Cは2.39であるのに対し、本実施例1Aは8.93、本実施例1Bは10.82となっている。従って、従来例よりも本実施例1は、3.7〜10.8倍の連続運転耐久性があることが認められた。
本発明の歯付きベルトは、寿命が大きく向上することが確認できた。
不織布量410g/m2、歯高5.00mm、14mmピッチの円弧歯タイフ゜(STS歯形)、周長1200mm長さ、15mm幅のサイズの(呼称:150 8M 1200)歯付伝動ベルトを実施例1と同様の方法により製造した。比較例4として従来法によって製造した。
それぞれ得られた3本のベルトを測定した結果を表4、図15(実施例2、比較例4含浸深さグラフ)に示す。不織布含浸深さは、実施例2は含浸率80%、81%、83%であったのに対して、比較例4は 53%、57%、60%であった。
また、芯体接着力と歯部剪断力について実施例1と同様の手段によりに評価した結果を、表5に示す。表5に試験対象として示した実施例2、比較例4A、4Bは、それぞれ表4中の実施例2 n1、比較例4 n1、n3に該当する。
この結果、芯体接着力においては、比較例4A(含浸深さ53%)を基準とすると、比較例4B(含浸深さ60%)は1.03であるのに対し、本実施例2は1.21となっている。従って、実施例2においても、従来例よりも20%以上増加していることが認められた。
歯部剪断力においては、比較例4A(含浸深さ53%)を基準とすると、比較例4B(含浸深さ60%)は1.02であるのに対し、本実施例2は1.20となっている。従って、実施例2においても、従来例よりも20%以上増加していることが認められた。
スキップトルクや連続駆動による耐久性についても、向上していることが確認できている。
(a)実施例の歯付ベルト、(b)従来例の歯付ベルト。 嵩高不織布被覆拡大図。 (a)実施例の芯線、巻付拡大図、(b)従来例の芯線、巻付拡大図。 金型組図。 製造工程図。 縦糸張設状態拡大図。 縦糸張設具を設けた内金型拡大図。 不織布含浸深さ測定模式図。 不織布の目付量と含浸深さの分布グラフ。 芯体接着力試験図。 不織布目付量と芯体接着力の関係を示すグラフ。 歯部剪断力試験治具。 スキップトルク試験。 (a)実施例1の歯付ベルト断面図、(b)比較例1の歯付ベルト断面図。 実施例2、比較例4含浸深さの分布グラフ
符号の説明
1 歯付伝動ベルト
2 歯底部表面
3 エラストマ含浸不織布層
3A 嵩高不織布繊維
4 抗張力体
5 内金型
6 歯底部成形用突条部分
7 歯部成形溝
8 外金型
9 低粘度の液状エラストマ
10 縦糸
11 円筒形ベルト素材
12 縦糸張設具

Claims (6)

  1. 背部と歯部、背部と歯部の間に抗張体が介在し、抗張体から歯側に不織布が配置された歯付きベルトであって、歯付ベルトの歯形に対応する形状の凹部を形成した内金型と外筒によって構成される金型を用い、内金型に不織布を巻き掛けした後に抗張体を巻き掛けし、熱硬化性合成樹脂を金型に注型して成形された抗張体が歯底面に沿って埋入された熱硬化性樹脂製歯付ベルトにおいて、
    不織布を内金型に被覆し該不織布を凹部に湾曲させた後に抗張体を巻き掛けすることにより、
    不織布は、歯底部表面では合成樹脂が含浸して圧縮されており、歯部では歯元から歯高さの70%以上の範囲に不織布繊維が拡散していることを特徴とする熱硬化性樹脂製歯付ベルト。
  2. 歯ピッチ8〜14mm歯付ベルトにおいて、不織布の目付量を200g/m2〜600g/m2としたことを特徴とする請求項1記載の歯付ベルト。
  3. 歯高2.86mm以上の伝動ベルトである事を特徴とする請求項1又は2記載の歯付ベルト。
  4. 背部と歯部、背部と歯部の間に抗張体が介在し、抗張体から歯側に不織布が配置された歯付きベルトであって、歯付ベルトの歯形に対応する形状の凹部を形成した内金型と外筒によって構成される金型を用い、内金型に不織布を巻き掛けした後に抗張体を巻き掛けし、熱硬化性合成樹脂を金型に注型して成形する熱硬化性樹脂製歯付ベルトを製造する方法において、不織布を内金型に被覆し該不織布を凹部に湾曲させる工程を、抗張体を巻き掛けする行程の前に設けたことを特徴とする歯底部表面では不織布が圧縮されており、歯部では歯元から歯高さの70%以上の範囲に不織布繊維が拡散している熱硬化性樹脂製歯付ベルトの製造方法。
  5. 不織布を内金型の凹部に湾曲させる手段として、該凹部内に入り込むように糸体を該凹部に平行に張設又は棒体を立設する手段によることを特徴とする請求項4記載の歯付ベルト製造方法。
  6. 不織布を内金型の凹部に湾曲させる手段として、内金型の溝ピッチに緩く噛合う歯形を設けた冶具を押転させて不織布が外側から内金型凹部入り込むようにする手段によることを特徴とする請求項4記載の歯付ベルト製造方法。
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