JP4212222B2 - 水素除去装置 - Google Patents

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    • Y02E30/30Nuclear fission reactors

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  • Structure Of Emergency Protection For Nuclear Reactors (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、空間内に発生する水素ガスを除去する水素除去装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
水素ガスを発生する装置としては、例えば原子炉格納容器が挙げられる。従来の技術として、まず、原子炉格納容器において水素ガスが発生する場合について説明する。図11は従来の原子炉格納容器の概略系統断面図である。原子炉炉心107を内蔵する原子炉圧力容器101を格納する原子炉格納容器102は、原子炉圧力容器101を包囲する上部ドライウェル103及び下部ドライウェル104と、上部ドライウェル103とベント管106を介して接続し内部にサプレッションプール105aを備えたウェットウェル105とから構成される。
【0003】
原子炉圧力容器101に接続する主蒸気管108等の原子炉一次冷却系配管が万一破断した場合、原子炉格納容器102内の上部ドライウェル103に高温高圧の原子炉一次冷却材が放出され、上部ドライウェル103内の圧力および温度が急激に上昇する。この冷却材は、上部ドライウェル103内の気体と混合して、ベント管106を通して熱エネルギーの吸収作用を有するサプレッションプール105aの水中に放出され、冷却される。
【0004】
この際、原子炉圧力容器101内には非常用炉心冷却系によりサプレッションプール105aの水が注入され炉心107が冷却されるが、この冷却水は長期的には炉心107から崩壊熱を吸収し、破断した配管の破断口からドライウェル102,103に流出される。よって、このとき上部ドライウェル103内の圧力および温度は常にウェットウェル105よりも高い状態となる。このような長期的事象下で軽水炉型原子力発電所の原子炉内では、冷却材である水が放射線分解され、水素ガスと酸素ガスが発生する。
【0005】
さらに、燃料被覆管の温度が上昇する場合には水蒸気と燃料被覆管材料のジルコニウムと間で反応が起こり(Metal-Water反応と呼ばれる。)、短時間で水素ガスが発生し、この水素ガスは破断した配管の破断口等から原子炉格納容器内に放出される。水素ガスは非凝縮性であるから、この原子炉格納容器102内の水素ガス濃度の上昇に連れて、原子炉格納容器102内の圧力が上昇する。
【0006】
水素ガス濃度と酸素ガス濃度が可燃限界を越えたときには、気体は可燃状態となる。さらに水素ガス濃度が上昇すると過剰な反応が起きる可能性がある。
【0007】
こうした事態への有効な対策として、従来の沸騰水型原子力発電設備の場合には、圧力抑制式の原子炉格納容器内を窒素ガスで置換し酸素濃度を低く維持することにより、Metal-Water反応により発生する水素ガスに対しても原子炉格納容器内が可燃性雰囲気となることを防止している。また、外部電源と接続したブロア等の動的手段によって、原子炉格納容器内の水素と酸素を再結合させて水に戻し可燃性ガス濃度の上昇を抑制する手法が考案されている。
【0008】
また、外部電源を必要とせず静的に可燃性ガス濃度を制御する方法として、水素の酸化触媒を用いて再結合反応を促進させる方法が、例えば特表平5−507553号公報に開示されている。
【0009】
こうした方法はある程度酸素ガス濃度が高い場合には有効であるが、一方で、Metal-Water反応によって大量の水素が発生した事象下でかつ酸素ガス濃度が低い状態では、水素の除去を行うことは困難である。この場合、現行のシステムでは原子炉格納容器内雰囲気を環境に放出して原子炉格納容器内圧力を低減し、かかる事象を収束することが計画されているが、同時に放射性廃棄物を環境に放出する可能性がある。
【0010】
そこで、酸素濃度が低く水素の再結合を行うのが難しい場合においても水素を除去する方法として、水素吸蔵合金を用いて水素ガスを処理する方法が考案されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、水素吸蔵合金が吸蔵する水素の重量は、高々その合金重量の数%にすぎない。例えば、水素吸蔵合金として一般的に用いられているTiFe合金の吸蔵水素量は、合金重量の約 1.8%である。よって、上述のMetal-Water反応のような大量に水素ガスが発生するような場合に対処するためには、膨大な量の水素吸蔵合金が必要とされるため、その実現には困難が伴う。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、低酸素条件においても密閉空間に発生する水素を確実に除去し、水素による密閉空間内の圧力の上昇を抑制することにより、空間の健全性を厳に高く確保することを目的とする。特に本発明に係る設置対象が原子炉格納容器である場合には、水素ガスの増加を抑制することで、環境中に格納容器内雰囲気を放出することなく原子炉格納容器の内圧上昇を低減し、かかる事象を収束させることを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明においては、炉心を内包する原子炉圧力容器を包囲する原子炉格納容器の内部に設けられ、窒素と水素からアンモニアを生成する触媒を有する触媒層と、この触媒を内蔵し外気を内部に導入する少なくとも2つの開口部を有する筐体を具備し、この開口部が前記原子炉格納容器内の雰囲気と流通するよう設置してなることを特徴とする水素除去装置を提供する。
【0014】
この構成により、水素除去装置が設置される原子炉格納容器内の水素濃度が上昇した場合に、雰囲気中の水素と窒素とを触媒反応によって結合させ、アンモニアを生成する。アンモニア合成反応は発熱反応であるため、反応熱が発生し触媒層が加熱され、触媒層内のガスが筐体内を上昇し開口部から排出されることにより、自然循環流を生じる。その結果、動的機器を用いることなく、例えば原子炉一次系配管が破断するような事象時に原子炉格納容器内に発生する水素を原子炉格納容器内に存在する窒素と合わせて触媒層に導入して合成することができる。この反応の前後で体積が減少することにより、水素による原子炉格納容器の内圧上昇を抑制することができる。
【0015】
さらに本発明では、酸素と水素から水を生成する触媒を前記筐体内に内蔵してなることを特徴とする。
【0016】
この構成により、空間内の水素濃度が上昇した場合、水素の酸化反応及び水素と窒素の結合によるアンモニア合成反応がほぼ並行して生じ、これらの反応熱によって触媒層および触媒層を通る雰囲気ガスが加熱され、自然循環流が形成される。また、水素の酸化反応による発熱でアンモニア合成触媒が加熱され活性化されることで、アンモニア合成反応の速度が増加し、結果として水素除去速度を増加することができる。また同時に、酸素を消費することにより、雰囲気が可燃限界に至るのを防止することができる。
【0017】
さらに本発明では、前記触媒は Ru,Pd,Pt,Ir,W,Ag,Au,Rh,Re のなかから選択される少なくとも一つの物質からなり、前記触媒層中の前記触媒の含有率が 0.1wt%ないし50wt%の範囲内に設定されることを特徴とする。
【0018】
さらに本発明では、前記触媒層は、前記触媒およびこの触媒を担持する触媒担体とを有し、前記触媒担体は、SiO2,Al2O3,TiO2,ZrO2,C のなかから選択される少なくとも一つの物質を含有することを特徴とする。またこの際、前記触媒担体の比表面積が10m2/gないし200m2/gの範囲内に設定されるのが好適である。
【0019】
さらに本発明では、前記触媒層は、前記触媒の助触媒として、CeO2,La2O3,MgO,K2O,Na2O,CaO,CsOH,CsNO3 のなかから選択される少なくとも一つの物質を含有してなることを特徴とする。またこの際、前記触媒層中の前記助触媒の含有率が 1wt%ないし30wt%の範囲内に設定されるのが好適である。
【0020】
一般に、水素の酸化触媒に比べてアンモニアを合成する触媒ではその起動温度は高くなる。よって、特段の触媒と、触媒担体を選定し、あるいは助触媒を選定する必要が高い。この観点によれば、上述の化学組成により、例えば原子炉格納容器内に設置された場合には、原子炉一次系配管が破断するような事象が発生した後に予測される格納容器内雰囲気条件において、アンモニア合成反応速度が大きい触媒を実現することができる。
【0021】
さらに本発明は、前記触媒は粒状に成型されてなり、前記触媒層はこの粒状の触媒を充填した板状のカートリッジ複数枚を間隙を有しつつ配置して構成されることを特徴とする。
【0022】
この構成により、カートリッジの間隙にガス流路を形成することによって、カートリッジ間のガスは触媒反応熱によって自然循環流を形成するから、動的機器を使用することなく空間内の雰囲気ガスを装置の筐体内の触媒層に取り込むことができる。さらに、エアロゾル状物質とガスとの比重の違いに起因するカートリッジ方向への拡散速度の差を利用して、エアロゾル状の触媒毒物質が触媒層に沈着して触媒の活性を低下させることを防止することにより、触媒の効果を好適に維持することができる。
【0023】
なお、この場合、複数枚のカートリッジは、カートリッジ間の間隙が筐体の底面に対して略垂直となるよう配置してガス流路を設定するのが好適である。
【0024】
さらに本発明では、前記触媒は粒状に成型されてなり、前記触媒層はこの粒状の触媒を充填した柱状のカートリッジから構成され、このカートリッジの少なくとも底部と頂部位置で前記カートリッジの内外の雰囲気が流通するよう設定されることを特徴とする。
【0025】
この構成により、カートリッジ間のガスは触媒反応熱によって自然循環流を形成するから、動的機器を使用することなく雰囲気ガスを装置の筐体内の触媒層に取り込むことができる。さらに、触媒による水素除去効率をより高めることができる。
【0026】
さらに本発明では、前記触媒はメッシュを有するハニカム状に成型されてなることを特徴とする。これにより、水素除去効率が高く、かつエアロゾル状の触媒毒物質が沈着しにくい構成が実現できる。
【0027】
さらに本発明では、前記触媒を加熱する発熱体として、酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化ストロンチウム、水素吸蔵合金のなかから選択される少なくとも一つの物質を具備することを特徴とする。
【0028】
この構成により、発熱体として酸化カルシウムあるいは酸化ナトリウム、酸化ストロンチウムの何れかあるいはこれらの化合物を用いた場合、雰囲気中の水蒸気濃度が上昇したとき、発熱体が水蒸気と反応して発熱するから、触媒体が加熱され、アンモニア合成反応を促進することができる。また、発熱体として水素吸蔵合金を用いた場合、雰囲気中の水素濃度が上昇したとき、水素吸蔵合金の水素吸蔵反応による発熱によって触媒体が加熱され、アンモニア合成反応を促進することができる。
【0029】
さらに本発明では、前記筐体に近接して設置され前記筐体内にガスを導入する送風手段を具備することを特徴とする。これにより、生成したアンモニアを触媒層から速やかに排出することで、合成の逆反応の進行を防止し、以ってアンモニア合成反応を促進することができる。
【0030】
なお、上述の水素除去装置は、原子炉格納容器内に設置されるものであり、具体的な設置場所は限定されないが、特にウェットウェル空間部に配置するのが好適である。これにより、例えば原子炉一次系配管が破断するような事象が発生した後に大量に発生する水蒸気によって、ドライウェル空間からベント管を通ってウェットウェルに移行する水素および窒素、あるいは酸素を、効率よく処理することができる。
【0031】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態の水素除去装置の構成図である。本実施の形態においては、窒素と水素からアンモニアを合成する触媒を有する触媒層1と、触媒層1を内蔵しかつ原子炉格納容器の雰囲気ガスの自然循環流路を形成する筐体2とから構成される。触媒層1は、触媒と、触媒を担持する触媒担体とからなり、筐体2は筐体底部と筐体側面とにそれぞれ開口部3a,3bを有する。触媒層1は例えば筐体2の内壁にレイヤー状に塗布されてなる。ただし触媒層1は、レイヤー状にする場合に限らず、要は筐体2内に固定され設置されていればよい。
【0032】
このような水素除去装置は、特定の事象により水素が発生する可能性のある空間に設置して水素を除去するものであるが、例示的に、この水素除去装置を原子炉格納容器内に配置した場合について以下説明する。図2は水素除去装置の筐体2を原子炉格納容器内に設置した状態を示す断面図である。ここに示した場合では、原子炉格納容器102の上部ドライウェル103およびウェットウェル105にそれぞれ筐体2を設置した場合を示している。
【0033】
筐体2の開口部3a,3bを介して筐体2の内部空間が原子炉格納容器102内雰囲気と流通するように設置する。これにより、例えば原子炉一次系配管が破断するような事象が発生した後に大量に発生する水蒸気によって、上部ドライウェル103に発生する水素や、上部ドライウェル103からベント管106を通ってウェットウェル105に移行する水素や窒素を、以下詳述する作用によって水素除去装置により処理することとする。
【0034】
アンモニア合成反応は
3H2 + N2 → 2NH3
で表される化学反応である。
【0035】
以下例示的に、この水素除去装置を原子炉格納容器内に、筐体2の底面にある開口部3aから外気が筐体2内に導入することができるように例えば原子炉格納容器壁に固着させて設置した場合について説明する。Metal-Water反応によって大量の水素が発生した場合、原子炉格納容器の雰囲気中の水素と窒素が、触媒層1内の触媒の作用によって結合し、アンモニアが生成される。
【0036】
上式によれば、このとき窒素分子1モルと水素分子3モルとが反応して、2モルのアンモニアを生成する。すなわち、ガス状分子のモル数つまり体積が1/2に減少する。よって、アンモニア合成反応によって発生する水素ガスによる圧力上昇が緩和ないし低減できる。
【0037】
また、この反応は発熱反応であるため、筐体2内のガスは、加温されて筐体2内を上昇し、筐体2上部の開口部3bから排出される。また、原子炉格納容器内の雰囲気ガスは筐体2底部の開口部3aから筐体2の内部へと取り込まれる。このように、触媒反応熱を駆動源とする自然循環流によって雰囲気ガスを筐体2内の触媒層1に導く構成をとることにより、ファンのような動的機器が不要な、小型でかつコストやメンテナンスの面で有利な装置が実現できる。
【0038】
原子炉一次系配管が破断する事象が発生すると、ドライウェル103,104内に大量に放出される水蒸気によって、ドライウェル103,104内の窒素、酸素、水素は、ベント管106を通ってウェットウェル105へと移行する。そのため、ウェットウェル105では、水素および窒素の分圧が高くなるから、ドライウェル空間部でこれらを触媒により処理するよりも、ウェットウェル105空間部で処理した方が、触媒による水素除去速度は高くなる。したがって、水素除去装置を、ウェットウェル105空間部に重点的に配置した場合には、特に水素の処理を効率よく行うことができる。
【0039】
図3は、本実施の形態の作用を示すグラフであり、内部が窒素置換されており一次系配管が破断した事象が発生した場合の原子炉格納容器における圧力低減効果を、水素の酸化触媒だけを用いた水素除去装置による場合と、本実施の形態による場合との比較を示している。
【0040】
かかる事象に対して何らの処置を行なわない場合を符号11、水素の酸化触媒のみを配置した水素除去装置を用いた場合を符号12、本実施の形態によるアンモニア合成触媒を配置した水素除去装置を用いた場合を符号13で、それぞれ表している。また、時間は、触媒が起動する時点を起点とする。
【0041】
符号12で示すように、水素の酸化触媒を用いた場合であっても、この場合は、原子炉格納容器内に水素との化合に必要な酸素の量が不足しているため、大量の水素が再結合による除去がなされずに原子炉格納容器内に残留するため、原子炉格納容器内の圧力はほとんど低下しない。
【0042】
一方、符号13で示すように、本実施の形態によれば、原子炉格納容器内に大量に存在する窒素を利用するため、水素を大量に除去することが可能であり、触媒の起動とともに原子炉格納容器内の圧力を持続的に低減させることができる。よって、本実施の形態の圧力低減効果は、他に比べて顕著であるといえる。
【0043】
また、触媒層1を構成する触媒を担持する触媒担体としては、SiO2,Al2O3,TiO2,ZrO2,C のなかから選択される少なくとも一つの物質を用いるのが好適である。なお、Cは主として活性炭をいう。
【0044】
アンモニア合成反応の反応率(反応転化率)は、触媒担体の比表面積により変化する。一般に触媒担体の比表面積が大きいほど触媒によるアンモニア合成反応の効果は大きい。図4は、触媒担体の比表面積(1gあたりの表面積)とアンモニア合成反応率との関係を示すグラフである。ここでは、触媒金属としてRu、触媒担体としてSiO2を使用している。
【0045】
このグラフからもわかるように、比表面積が10m2/g 以上であれば反応率は30%以上となり、特に触媒による水素ガスの処理が効率的に行われるようになることがわかる。また、比表面積は大きい程よいが、図示した範囲では触媒担体の比表面積を 10m2/g ないし 200m2/gの範囲内に設定するのが望ましいことがわかる。
【0046】
一方、触媒担体に担持される触媒としては、活性金属として特にアンモニア合成反応に適した触媒として、Ru,Pd,Pt,Ir,W,Ag,Au,Rh,Re の9種のなかから選択される少なくとも一つの物質を用いるのが好適である。こうした貴金属あるいはそれに類似した物質が好適であり、またこれらの物質の複数を用いることも考えられる。
【0047】
アンモニア合成反応の反応率(反応転化率)は、触媒層中の触媒の含有割合により変化する。触媒は担体を伴ってアンモニア反応を促進するが、触媒の含有割合は必ずしも高ければよいというものではなく、適切な範囲内に設定される必要がある。図5は上述した9種の物質を触媒としてそれぞれ用いた場合の触媒層における含有割合(重量%)とアンモニア合成反応の反応率との関係を示すグラフである。この場合の触媒層は触媒担体としてSiO2を使用した場合を代表して示している。
【0048】
この際、触媒層1における触媒金属の含有率が、0.1wt% ないし 50wt%の範囲内に設定されたときにはじめて反応度が10%超となり、アンモニア合成反応が効率的に行われることがわかる。
【0049】
こうした化学組成は、本実施の形態で例示的に想定される原子炉一次系配管が破断するような事象が発生した後に予測される格納容器内雰囲気条件を考慮したものであり、これによりアンモニア合成反応速度が大きい触媒を実現することができる。
【0050】
なお、本実施の形態においては、変形例として、筐体内にアンモニア合成触媒と共に、水素酸化触媒を配置することが考えられる。この場合、水素酸化反応の反応熱を利用してアンモニア合成触媒を昇温し、触媒活性を向上させると共に、水素酸化触媒により酸素を消費することで、原子炉格納容器内雰囲気が可燃限界に到達することを防止することができる。
【0051】
この際、水素酸化触媒は、アンモニア合成触媒と混合して使用するか、あるいはアンモニア合成触媒の上流側に水素酸化触媒を配置して使用するのが好適である。
【0052】
あるいは、アンモニア合成触媒のなかには、PtやRuのように、それ自体が水素の酸化触媒としても機能しうるものがあるから、こうした触媒を適用することも好適である。
【0053】
さらに、本実施の形態の別の変形例として、上述した組成からなる触媒の助触媒として、CeO2,La2O3,MgO,K2O,Na2O,CsNO3,CaO,CsOH のなかから選択される少なくとも一つの物質を触媒層1に担持してなる構成が考えられる。
【0054】
アンモニア合成反応の反応率(反応転化率)は、触媒層中の助触媒の含有割合によっても変化する。助触媒の含有割合は必ずしも高ければよいというものではなく、適切な範囲内に設定される必要がある。図6は、上述した8種の物質のうち、CeO2,La2O3,MgO,CaO,CsNO3 を触媒としてそれぞれ用いた場合の触媒層における含有割合(重量%)とアンモニア合成反応の反応率との関係を示すグラフである。この場合の触媒層は触媒担体としてSiO2を、触媒としてRuを使用した場合を代表して示している。
【0055】
触媒層1における助触媒の含有率としては、0.1wt%ないし50wt%の範囲内にあることが望ましい。さらに好適には、助触媒の含有率が、1wt% ないし 30wt%の範囲内に設定されると、概ね反応率が20%超となり、アンモニア合成反応が効率的に行われることがわかる。この構成によれば、より触媒の効果すなわちアンモニア合成反応速度を一段と大きくすることができる。
【0056】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態は、上述した第1の実施の形態において用いられる水素除去装置の触媒層の好適な形状に関するものである。図7(b)は、本実施の形態における触媒層1aの構成図である。また図7(a)は(b)の触媒層を構成する複数枚のカートリッジを1枚だけ示している。水素除去装置の他の構成要素は上述の第1の実施の形態と同様であるから、説明は省略する。
【0057】
粒状に成型された触媒4を板状のカートリッジ5aに充填し、カートリッジ5aを複数枚、間隔を有しつつ配置されて触媒体1aを構成し、図1に示した筐体2内に配置することとする。こうして、カートリッジ5aの間隙に、筐体2の底面に対して略垂直にガスの流路が形成される。
【0058】
この際、カートリッジ5aの表面は多孔質状あるいはメッシュ状に成型されており、格納容器内雰囲気ガスがカートリッジ5a内部に流通される構造とする。
【0059】
このとき、複数のカートリッジ5aの間隙には、筐体2の底面に対して略垂直にガスの流路が形成され、触媒が発熱することにより、自然循環流の形成を促進することができる。
【0060】
このガス中には、水素、窒素、酸素のほかに、エアロゾル状の触媒毒物質が混在しており、こうした物質が触媒に付着すると触媒の機能が低下してしまう。しかし、本実施の形態においては、エアロゾル状物質は一般に水素等のガスに比べて比重が大きいから、カートリッジ5aの間隙に形成されるガス流路を上昇する気体中のエアロゾルは殆どがカートリッジ5a内部に入ることなくそのまま上昇する。一方、水素等のガスは比重が小さいため、直ちに上昇はせずにカートリッジ5aの内部方向へ急速に拡散する。このように、比重の違いによるカートリッジ5a方向への拡散速度の差を用いて、エアロゾル状の触媒毒物質の触媒表面への付着を低減することができる。
【0061】
また、本実施の形態によれば、触媒層1aが複数の触媒カートリッジ5aから構成されているため、触媒性能の定期検査やカートリッジ5aの交換作業を容易に行うことができる。
【0062】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態は、上述した第1の実施の形態において用いられる水素除去装置の触媒層の好適な形状に関するものである。図8は、本実施の形態における触媒層1bの構成図である。
【0063】
粒状に成型された触媒4を柱状のカートリッジ5bに充填して触媒層1bを構成する。このカートリッジ5bの頂部6aと底部6bは、多孔質状あるいはメッシュ状に成型されており、格納容器内雰囲気ガスがカートリッジ5b内部に流通される構造とする。
【0064】
また、格納容器内雰囲気ガスは、カートリッジ5bの底部6bから触媒層1b内部に流入し、粒状触媒4間の隙間を通って、カートリッジ5bの頂部6aを通過して、触媒層2から排出される。この構成によれば、上記第2の実施の形態と略同様の作用効果を奏するとともに、触媒層1bにおける粒状触媒4の充填密度が高いために、触媒による水素除去効率をさらに高くすることができる。
【0065】
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態は、上述した第1の実施の形態において用いられる水素除去装置の触媒層の好適な形状に関するものである。図9は、本実施の形態における触媒層1cを模式的に示す斜視図である。
【0066】
触媒担体をハニカム(蜂の巣)状に成型して触媒層1cを形成する。この場合、格納容器内雰囲気ガスは、ハニカム構造内部のメッシュ7からなる流路を通過して、触媒層1cの触媒反応熱によって自然循環する。この作用は上記第2の実施の形態と同様である。
【0067】
また、このとき、ハニカムのメッシュを、100〜1200 cell/inch2 の範囲に設定するのが好適である。これは、19.7〜236.2cell/cm2 に相当し、すなわち、1cm2 の面積にメッシュを 19.7〜236.2 個の割合で設けることを意味する。この構成によって、触媒による水素除去効率を高め、また自然循環速度を大きくすることができる。
【0068】
(第5の実施の形態)
本発明の第5の実施の形態は、上述した第1の実施の形態において用いられる水素除去装置の触媒層およびそれを構成するカートリッジの好適な形状に関するものである。図10(a)(b)(c)は、ともに本実施の形態における触媒層の一部を模式的に示す断面図である。
【0069】
本実施の形態においては、触媒と近接させて発熱体を配置することとする。図中符号4として黒丸で示すように触媒が粒状に成形されている場合、図中符号8として白丸で示すように発熱体を同様に粒状に成形して、専用のカートリッジに充填することとする。
【0070】
図10(a)に示す場合は、粒状触媒4をカートリッジに充填してなる粒状触媒カートリッジ5dと、粒状発熱体8をカートリッジに充填してなる粒状発熱体カートリッジ5eとを、挟むように配置している。あるいは、図10(b)のように、粒状発熱体カートリッジ5eで粒状触媒カートリッジ5dを挟むように配置する。または、図10(c)に示すように、粒状触媒4と粒状発熱体8とを混合して、一つのカートリッジに充填して混合カートリッジ5fとしてもよい。
【0071】
なお、この場合の発熱体8としては、酸化カルシウムあるいは酸化ナトリウム、酸化ストロンチウム、水素吸蔵合金が好適である。すなわち、発熱体8として酸化カルシウムを使用した場合、原子炉一次系配管が破断する事象によって格納容器内に水蒸気が発生し、この水蒸気が触媒層に進入すると、水蒸気と酸化カルシウムが発熱反応して水酸化カルシウムを生じる。
CaO + H2O → Ca(OH)2 + 15.2 kcal
【0072】
この発熱反応によって触媒層がヒートアップされて、触媒4を活性化させることができる。また、触媒4の表面にもし水滴が存在するとその触媒活性は著しく低下してしまうが、発熱体8として酸化カルシウムを用いることにより、触媒4の表面が昇温する以前に触媒4の表面に水滴が付着するのを防止することができる。
【0073】
また、発熱体8として酸化カルシウムに代えて酸化ナトリウムあるいは酸化ストロンチウムを使用した場合にも、上述とほぼ同様の作用効果を奏する。一方、発熱体8として水素吸蔵合金を使用した場合でも、原子炉格納容器内の水素濃度が上昇すると、水素吸蔵合金の水素吸収時の発熱により触媒がヒートアップされ、触媒活性を向上させることができる。
【0074】
なお、上述した各実施の形態においては、水素除去装置のガス流入口付近にファンを設け、筐体2内に格納容器雰囲気ガスを流入させることで、触媒層1のガス交換を促進する形態も考えられる。
【0075】
この場合、触媒反応によって生成したアンモニアの分解反応によるアンモニア合成反応の阻害を抑制するため、生成したアンモニアをファンによって強制的に排除し、アンモニア合成反応速度を向上させることができる。
【0076】
また、上述の各実施の形態においては、水素除去装置を原子炉格納容器内に設置した場合について重点的に説明したが、そのほかにも、水素ガスの濃度が上昇する事象が想定されるプラント等への適用も考えられる。
【0077】
【発明の効果】
本発明によれば、空間内に発生する水素を、空間内に酸素が存在しない条件下でも確実に除去できるので、大量の水素が発生するような状況においても、水素による空間内の圧力の上昇を緩和、抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかる水素除去装置の斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態にかかる水素除去装置を原子炉格納容器に配置した場合の原子炉格納容器の概略系統断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態の水素除去効果を示す原子炉格納容器内の圧力の挙動を示すグラフである。
【図4】本発明の第1の実施の形態における触媒層中の触媒担体の比表面積とアンモニア合成反応の反応率の関係を示すグラフである。
【図5】本発明の第1の実施の形態における触媒層中の触媒金属の含有量とアンモニア合成反応の反応率の関係を示すグラフである。
【図6】本発明の第1の実施の形態における触媒層中の助触媒の含有量とアンモニア合成反応の反応率の関係を示すグラフである。
【図7】(a)は、本発明の第2の実施の形態にかかる原子炉格納容器の水素除去装置に用いられる触媒カートリッジの斜視図であり、(b)はこのカートリッジからなる触媒層の斜視図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態にかかる原子炉格納容器の水素除去装置に用いられる触媒層の斜視図である。
【図9】本発明の第4の実施の形態にかかる原子炉格納容器の水素除去装置に用いられる触媒層の斜視図である。
【図10】(a)(b)(c)ともに、本発明の第5の実施の形態にかかる原子炉格納容器の水素除去装置に用いられる触媒層の一部を示す断面図である。
【図11】従来の原子炉格納容器の概略系統断面図である。
【符号の説明】
1,1a,1b,1c…触媒層、2…筐体、3a,3b…開口部、4…粒状触媒、5a,5b,5c,5d,5e,5f…カートリッジ、7…メッシュ、8…粒状発熱体。

Claims (11)

  1. 炉心を内包する原子炉圧力容器を包囲する原子炉格納容器の内部に設けられ、窒素と水素からアンモニアを生成する触媒を有する触媒層と、この触媒を内蔵し外気を内部に導入する少なくとも2つの開口部を有する筐体を具備し、この開口部が前記原子炉格納容器内の雰囲気と流通するよう設置してなることを特徴とする水素除去装置。
  2. 酸素と水素から水を生成する触媒を前記筐体内に内蔵してなることを特徴とする請求項1記載の水素除去装置。
  3. 前記触媒は Ru,Pd,Pt,Ir,W,Ag,Au,Rh,Re のなかから選択される少なくとも一つの物質からなることを特徴とする請求項1記載の水素除去装置。
  4. 前記触媒層は、前記触媒およびこの触媒を担持する触媒担体とを有し、前記触媒担体は、SiO2,Al2O3,TiO2,ZrO2,C のなかから選択される少なくとも一つの物質を含有することを特徴とする請求項1記載の水素除去装置。
  5. 前記触媒担体の比表面積が10m2/gないし200m2/gの範囲内に設定されることを特徴とする請求項4記載の水素除去装置。
  6. 前記触媒層は、前記触媒の助触媒として、CeO2,La2O3,MgO,K2O,Na2O,CaO,CsOH のなかから選択される少なくとも一つの物質を含有してなることを特徴とする請求項1記載の水素除去装置。
  7. 前記触媒層中の前記助触媒の含有率が 1wt%ないし30wt%の範囲内に設定されることを特徴とする請求項6記載の水素除去装置。
  8. 前記触媒は粒状に成型されてなり、前記触媒層はこの粒状の触媒を充填した板状のカートリッジ複数枚を間隙を有しつつ配置して構成されることを特徴とする請求項1記載の水素除去装置。
  9. 前記触媒は粒状に成型されてなり、前記触媒層はこの粒状の触媒を充填した柱状のカートリッジから構成され、このカートリッジの少なくとも底部と頂部位置で前記カートリッジの内外の雰囲気が流通するよう設定されることを特徴とする請求項1記載の水素除去装置。
  10. 前記触媒はメッシュを有するハニカム状に成型されてなることを特徴とする請求項1記載の水素除去装置。
  11. 前記触媒を加熱する発熱体として、酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化ストロンチウム、水素吸蔵合金のなかから選択される少なくとも一つの物質を具備することを特徴とする請求項1記載の水素除去装置。
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