JP4211296B2 - 内燃機関のノック制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、火花点火式の内燃機関、特に吸気弁の閉時期を変更可能な可変動弁機構を備えた内燃機関のノッキング(ノック)を抑制するノック制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
特開2000−205096号公報には、空気と燃料の混合気を圧縮して点火プラグにより着火する火花点火式の内燃機関において、ノックの発生を抑制するノック制御装置が開示されている。このノック制御装置は、周知のように、ノックセンサから出力される所定レベルのノック信号に基づいて、点火時期をフィードバック制御する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ノックがあるときにノックセンサから出力される信号Sと、ノックが無いときにノックセンサから出力されるノイズ信号Nとの信号比S/Nが悪化すると、ノックが出ていなくてもノックを誤検出したり、逆にノックが発生しているのにノックを検出できないおそれがある。特に、ノック検出区間に吸気弁の閉時期がラップしていると、バルブ着座に起因する振動・騒音によりS/Nが悪化し易い。更に、この吸気弁の閉時期を変更可能な可変動弁機構を具備する内燃機関においては、吸気弁の閉時期とノック検出区間との重なり度合いが、吸気弁の閉時期に応じて異なるものとなってしまう。
【0004】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、吸気弁の閉時期に応じて、ノック信号を良好に検出できないシーン、つまりノック制御を行うことができない状況を精度良く判定し、ノック制御が不可能となる状況を可及的に少なくして、燃費や排気性能の向上を図ることを主たる目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る内燃機関は、所定レベルのノック信号を検出するノック検出手段と、少なくとも吸気弁の閉時期を変更可能な可変動弁機構と、を備えている。機関回転数及び機関負荷の少なくとも一方に基づいて、ノックが有るときにノック検出手段から出力される推定ノック信号とノックが無いときにノック検出手段から出力される推定ノイズ信号との信号比を推定する。この信号比に基づいて、正確なノック信号の検出が可能であるか否かを判定する。そして、上記の推定ノック信号を、吸気弁の閉時期に基づいて更新する。
【0006】
上記ノック信号の検出が可能であると判定された場合、周知のように、このノック信号に基づいてトレースノック制御を行い、点火時期をフィードバック制御する。一方、正確なノック信号の検出が不可能と判定された場合、ノックが確実にでないように、点火時期の遅角量を充分に大きく設定することとなる。
【0007】
【発明の効果】
本発明によれば、可変動弁機構による吸気弁の閉時期の変化に応じて、ノック制御が不可能となる状況を精度良く判定することができる。このため、ノック制御が不可能と判定される状況を可及的に少なくして、燃費の低下や排気・出力性能の低下を有効に抑制することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0009】
図1は、本発明に係る内燃機関のノック制御装置を簡略的に示すブロック図である。この内燃機関は、ノックを生じる燃焼室内の振動を検出可能なノック検出手段としてのノックセンサ10と、吸気弁の閉時期(IVC)を含むバルブリフト特性を変更可能な可変動弁機構として、クランク角度に対する吸気弁のリフト中心角の位相を連続的に変更可能な位相変更機構(VTC)12と、吸気弁の作動角及びバルブリフト量を連続的に変更可能なリフト・作動角変更機構(VEL)14と、を有している。
【0010】
ノックセンサ10は、シリンダブロックに取り付けられて振動を検出するピックアップセンサであり、例えば図2(a)に示すように、V型6気筒のエンジンに対し、一方のバンクにのみ一箇所に配設され、あるいは図2(b)に示すように、各バンク毎に合計2箇所に配設される。いずれの場合でも、センサ10は吸気弁が配置されるバンク内側寄りに配設される。センサ10を複数箇所に配設する場合でも、ある気筒に対して使用するセンサを運転条件に応じて変更しても検出精度等にあまり影響はないので、特定の気筒に対して使用するセンサは予め一義的に設定されている。例えば図2(b)の例では、右バンクの#1,#3,#5気筒には同じ右バンクに配設されたセンサ10Rを用い、左バンクの#2,#4,#6気筒には同じ左バンクに配設されたセンサ10Lを用いる。
【0011】
可変動弁機構12,14は、本出願人による特開2002−89303号公報や特開2002−89341号公報にも開示されており、ここでは簡単に説明する。位相変更機構12は、ヘリカルスプラインやベーンを利用して、クランクシャフトに連動して回転するカムスプロケット又はカムプーリに対し、カム駆動軸(カムシャフト)を相対的に回動するものである。リフト・作動角変更機構14は、吸気弁を駆動する揺動カムとカム駆動軸(カムシャフト)とをロッカーアームを介して機械的に連係し、このロッカーアームの揺動中心位置を変化させることにより、吸気弁の作動角及びバルブリフト量を連続的に変更するものである。なお、リフト・作動角変更機構14に代えて、バルブリフト特性の異なる複数のカムを切り換えるカム切換機構を用いても良い。
【0012】
ノック制御装置は、周知のように、ROM,RAM,CPU,及び入出力インターフェースを備えたエンジンコントロールユニット16を備えている。このエンジンコントロールユニット16は、後述する様々な手段やフローチャートをプログラムとして記憶及び実行する機能を有している。
【0013】
ノック制御手段18は、ノックセンサ10から出力される所定レベルのノック信号に基づいて、ノックが生じない範囲で点火時期を可及的に進角するトレースノック制御、すなわち点火時期のフィードバック制御を行う。具体的には、ノック検出区間内で、所定のスライスレベルを超えるノック信号の発生頻度が所定値以上となると、点火時期を遅角させてノッキングを速やかに回避し、かつ、ノック信号の発生頻度が所定値に満たない状況では、点火時期を進角限界(MBT)へ向けて徐々に進角させていく。上記のノック検出区間やスライスレベルは、機関回転数や機関負荷に基づいて気筒毎にそれぞれ設定される。
【0014】
ノック検出可否判定手段20は、機関回転数及び機関負荷等に基づいて、上記のノック制御手段18によるトレースノック制御に用いられる正確なノック信号の検出が可能か否かを判定する。遅角量算出手段22は、ノック検出可否判定手段20により正確なノック信号の検出が不可能であると判定された場合の点火時期の遅角量を、機関回転数及び負荷に基づいて算出する。点火時期制御手段24は、ノック制御手段18又は遅角量算出手段22により設定される遅角量に基づいて点火時期を制御する。つまり、ノック制御手段18では単に進角限界からの遅角量が設定され、この遅角量に基づいて点火時期制御手段24が点火時期を制御することとなる。
【0015】
図3は、本発明の第1実施例に係る制御の流れを示すフローチャートである。このルーチンは各気筒毎に実行される。
【0016】
S(ステップ)1では、機関回転数Neと機関負荷に対応するスロットル開度TVOとに基づいて、ノックがあるときにノックセンサ10から出力される推定ノック信号Sを演算する。S2では、点火気筒判別信号IGNcylと気筒別ノック(振動)伝達係数テーブルCf()とにより気筒別ノック伝達係数Cf(IGNcyl)を算出し、その係数Cf(IGNcyl)を乗じることにより推定ノック信号Sを更新する。上記の係数Cf(IGNcyl)は、気筒の位置や剛性等に応じて、気筒毎にそれぞれ異なる値が与えられる。
【0017】
S3では、ノックがないときにノックセンサ10から出力される推定ノイズ信号Nのうち、推定機械ノイズNkを、機関回転数Neを回転マップNkf()にマッピングすることにより演算する。S4では、推定ノイズ信号Nの推定燃焼ノイズNcを、機関回転数Ne及びスロットル開度TVOを回転マップNcf()にマッピングすることにより推定する。
【0018】
これらS3及びS4では、推定ノイズ信号Nを正確に推定するために、この推定ノイズ信号Nを、ピストンの擦動音やクランクシャフトの回転音などの機械推定ノイズNkと、燃焼室で発生して共振する(燃焼圧やバルブが燃焼室壁を加振させる)推定燃焼ノイズNcと、に分けて推定している。上記の推定燃焼ノイズNcは、燃焼による振動成分と、主として吸気弁のバルブ着座に起因する燃焼室振動成分と、に大別される。燃焼圧変化が加振源となる振動成分の強度(振幅)は、燃焼圧の変化dP/dtの2乗に比例する(dPは燃焼圧の変位)。これはノックの様な急速燃焼でも通常燃焼でも基本的に同じである。バルブ着座などが加振源となる振動成分の強度は、dx/dtの2乗に比例する(dxはバルブ着座時の変位で、カムのランプ速度[mm/rad]とエンジン回転数などで表される)。
【0019】
推定ノイズ信号NのdP/dtつまり燃焼速度は、ほぼエンジン回転数と負荷に依存すると考えてよい。なお、点火時期も燃焼速度に影響を与えるが、一般的に点火時期も主としてエンジン回転数と負荷により与えられるため、敢えて点火時期の影響を考慮しなくてもよい。推定ノック信号SのdP/dtすなわちノッキング燃焼速度は、例えば数1000m/sと非常に大きく、推定ノイズ信号NのdP/dtに比して数10倍程度であるため、これをその他の振動と判別することで、ノックを検出することができる。dx/dtは、カムやバルブスプリングにより動かされる吸排気弁の変位であり、バルブ着座状態ではランプの変位となるので、ほぼエンジン回転数に比例する(但し、電磁駆動弁の場合には回転数によらずほぼ一定となる)。バルブ着座振動の多くはバルブとバルブシートとの衝突に起因して発生する。筒内直接噴射式のエンジンでは、燃料噴射用のインジェクタも燃焼室を直接的に加振するので、同様にdx/dtの2乗に比例する振動を発生する。ただし、インジェクターのノズル着座振動の大きさは、一般的に電磁石とスプリングなどによるものなので、エンジン回転数には特に比例せず、ほぼ一定である。
【0020】
S5及びS6では、可変動弁機構12,14によるバルブリフト特性の設定に基づいて、吸気弁の閉時期に相当するバルブ着座位置VT(ATDC)を算出する。具体的には、S5では、リフト・作動角変更機構14によるバルブリフト量の可変量VLとランプ位置変化量テーブルRTvf()とに基づいてランプ位置変化量RTvf(VL)を算出し、この値RTvf(VL)を、位相変更機構12による進角側への位相変換角が0(ゼロ)のとき、すなわち最遅角位相における着座位置VTC0として設定する。S6では、このVTC0から位相変換角進角値VTCTを減ずることにより、吸気弁の閉時期(IVC)つまりバルブ着座位置VTを求める。
【0021】
S7では、バルブ着座位置VTが、ノック検出開始位置KNSとノック検出終了位置KNEの間のノック検出区間KNS〜KNEの範囲内に存在しているかが判定される。つまり、IVCがノック検出区間KNS〜KNEとラップしているかが判定される。
【0022】
バルブ着座位置VTがノック検出区間にあると判定された場合、下記のS8〜12の処理により、推定ノイズ信号Nを更新(補正)する(推定ノイズ信号更新手段)。具体的には、S8では、機関回転数Neと回転数バルブ着座振動係数テーブルNvf()とにより回転数バルブ着座振動係数Nvf(Ne)を算出するとともに、バルブリフト可変量VLとランプ速度係数テーブルRSvf()とによりランプ速度係数RSvf(VL)を算出し、両者Nvf(Ne),RSvf(VL)を乗算することにより、バルブ着座ノイズNvを算出する。S9では、バルブリフト可変量VLからリフト別バルブ着座気筒相対位置テーブルVLCf()をルックアップしてバルブ着座気筒相対位置Vofsを求める。S10では、点火気筒判別信号IGNcylとバルブ着座気筒相対位置Vofsとを加算してバルブ着座気筒判別信号VALcylを求める。S11では、バルブ着座気筒判別信号VALcylから気筒別ノック伝達係数テーブルCf()をルックアップして気筒別ノック伝達係数Cf(VALcyl)を算出し、このCf(VALcyl)を乗じてバルブ着座ノイズNvを更新する。S12では、S11で更新されたNvを加算することにより推定機械ノイズNkを更新する。
【0023】
S13では、推定機械ノイズNkと推定燃焼ノイズNcとを加算して推定ノイズ信号Nを求める。このNkは、S7の判定が否定されたときはS3で求められた値となり、S7の判定が肯定された場合にはS12で更新された値となる。S14では、推定ノック信号Sと推定ノイズ信号Nとの信号比S/N(SN)を求める(信号比推定手段)。
【0024】
S15では、この信号比SNが、予め設定されたノック制御可否しきい値SNsl以下であるかを判定する(ノック検出可否判定手段20)。SNがSNsl以下であれば、ノック検出が不可能であると判定し(S16)、SNがSNslよりも大きければ、ノック検出が可能であると判定する(S17)。
【0025】
S16でノック検出が不可能であると判定された場合には、ノックの発生によりエンジンの耐久性を低下させたり搭乗者に不快感を与えない様に、点火時期の遅角量(進角限界MBT又は設定基本点火時期からの遅角量)を、オクタン価や環境(大気温度など)の変化を見込んで、充分なマージン(余裕代)を持つ大きな値に設定する。この設定は図1の遅角量算出手段22により行われる。この遅角量の設定の一例を表1に示す。
【0026】
【表1】
Figure 0004211296
【0027】
このように遅角量のマージンが、ノックが確実にでないように個体差や経年変化などを見越して充分に大きな値に設定されるため、ある運転条件では点火時期がノック限界よりも大きく遅角することになり、燃費や出力の悪化を招くおそれがある(条件によるが、その運転点(モード燃費ではない)で1〜5%程度悪化するおそれがある)。そこで本実施例では、S15の判定を厳密に行い、ノック制御が出来ない状況を可及的に少なくしている。具体的には、上述したように、S15の判定に用いる信号比SNの推定ノイズ信号Nを、推定機械ノイズNkと推定燃焼ノイズNcとに分けて、それぞれを機関運転状態に応じて推定し、かつ、バルブ着座位置VTに応じて推定機械ノイズNkを更新している。
【0028】
近年、ノックが生じる燃焼室で大きな衝撃を発生させ、しかも発生タイミングが変化する可変動弁機構や筒内直接噴射式の高圧インジェクタなどが普及し始めている。これらは、S/N比に基づいて制御を行うノック制御にとっては、ノイズ信号を増大するノイズ源であり、ノック制御を困難にしている。加えて、可変動弁機構による吸排気弁、特に吸気弁の閉時期の変化に応じて、そのノイズを生じるタイミングも変動することになるため、ノック制御が出来なくなる領域を運転条件より一義的に決めることが困難となっている。そこで本実施例では、吸気弁の時期に応じた適切な判定を行えるように、上述したように吸気弁の閉時期に応じて推定ノイズ信号Nを更新している。
【0029】
バルブ着座ノイズNvに影響を与える主要な要因として、着座エネルギーの変化(後述する式(1),(2)及び表2参照)と、着座タイミングの変化と、が挙げられる。着座エネルギーの変化は、着座速度の他、質量・材質・バルブスプリングのバネ係数・減衰力(各部フリクションや筒内圧など)などにより決まる衝撃エネルギーの変化に相当する。前者の速度は、エンジン回転数、使用カム(カム切換え機構の場合)、バルブリフト可変量(リフト・作動角変更機構の場合)などに応じて変動し、後者は動弁系の持つ特性の他、バルブ休止などによっても変化する。このバルブ休止として、複数の吸気弁を持つエンジンで幾つかの吸気弁を休止するものと、燃料の滞留を抑制するために吸気弁を僅かに開けるものとがあり、双方ともカム切換え機構のカムプロフィールの設定により実現可能である。使用するカムによっては、カムランプ速度の変化を含む場合がある。着座タイミングは、ノック検出区間に対する相対的なタイミングである。この着座タイミングがノック検出区間に入るか入らないかは気筒数や点火順序などに応じて変化する。
【0030】
本実施例では、ノックを検出する点火気筒毎に設定されるノック伝達係数Cf(IGNcyl)を乗じて推定ノック信号Sを更新している(S2)。また、バルブ着座位置VTがその気筒のノック検出区間内にある場合には、S7の判定が肯定されて、エンジン回転数の二乗に比例するバルブ着座ノイズNvを加算して推定ノイズ信号Nを更新している(S12,S13)。このNvは、バルブ着座発生気筒毎に設定されるバルブ着座振動係数Nvf(Ne)を乗じて算出される。このように、ノック伝達係数やバルブ着座振動係数を気筒毎に持つことで、気筒別に信号比S/Nを正確に推定することができ、かつ、エンジン回転数や負荷に応じて係数を補正する必要もないので、制御の簡素化とROM容量の削減化によりコストを抑制することが可能となる。なお、上記のバルブ着座振動係数はノック伝達係数と同じ値であってもよい。カム切換え機構を備える場合には、バルブ着座振動係数をカム毎に与えてもよい。リフト・作動角変更機構によりランプ速度が変化する場合、典型的にはバルブ着座振動係数がバルブリフト量にほぼ比例して大きくなる。
【0031】
・着座エネルギーの変化について
上述したように推定ノック信号S,推定ノイズ信号Nの双方に係数を乗じているのは、ノックセンサ10に対する振動発生気筒の相対位置の違いを加味して、その減衰率や共振の感度を持たせるように、センサが検出する着座エネルギーを計算するためである。加振源でのエネルギーは気筒(位置)が変わっても大きく変わらないが、センサ10が検出している位置でノック制御をすることになるので、各気筒からセンサヘの振動伝達経路の共振・減衰などを係数として予め持たせておかないと、実際のS/N比と近い特性を得ることができない。センサでの信号強度は(1)式による。
【0032】
【数1】
センサでの信号強度=気筒毎の伝達係数×加震源のエネルギー…(1)
加振源のエネルギーは、式(2)にて近似できる。
【0033】
【数2】
加振源のエネルギー=C×(dy/dt)2…(2)
Cは加振源毎の係数であり、dy/dtはその加振時の変位であり、例えば表2の様な種類がある。
【0034】
【表2】
Figure 0004211296
【0035】
・着座位置の変化について
ノイズ信号は、ノック検出区間内で発生する様々な加振源の振動を含んでいる。表2に示す様な加振源の中には、ノック検出区間に対して相対的に発生タイミングを変えるものがある。中でも、吸気弁閉時期近傍で生じるバルブ着座ノイズは、バルブリフト特性の変化に応じて発生タイミング及び加振エネルギーが大きく変化する。
【0036】
図4はノック検出区間と着座タイミングとの関係の一例を示している。この図4は、図2に示すような6気筒のエンジンで、ある気筒のIVCを変化させた場合に、その気筒の吸気弁閉時期の着座タイミングが、どの気筒のノック検出区間に重なるかを示している。但し、ここではノック検出区間を約10〜70[ATDC]、IVCの変化範囲を0〜90[ATDC]としている。同図に示すように、バルブタイミング、ひいてはIVCの設定に基づいて、対象となる気筒のノック検出区間に、どの気筒(位置)のバルブ着座タイミングが入っているかを判別することができる。なお、バルブタイミングを変化させる機構がない場合、バルブ着座位置はクランク角度に対して常に一定であるので、ノック検出区間も固定であれば、バルブ着座タイミングとノック検出区間との相対関係も変化することはない。
【0037】
補足として、図2に示すようなV6エンジンでノック検出区間が10〜70[ATDC]の場合の、IVCのノック検出区間への混入範囲(重なり合う範囲)の一例を表3に示す。
【0038】
【表3】
Figure 0004211296
【0039】
なお、排気弁の閉時期EVCは、運転条件に応じて変化させることがあまりないのでノックの検出性に影響が少ない。これに対し、IVCは、可変動弁機構により運転条件に応じて変更されることが多いのでEVCに比してノックの検出性に大きな影響を与える。
【0040】
図5は、本発明の第2実施例に係る制御の流れを示すフローチャートの一部で、図3のS7〜S12の部分に相当する。他のS1〜S6及びS13〜S17の処理は第1実施例と同様である。第1実施例では、簡易的にバルブ着座開始位置VTがノック検出区間に入っているかを求めているが、この第2実施例では、推定ノイズ信号Nの推定精度を更に向上するために、バルブ着座振動区間を算出し、このバルブ着座振動区間とノック検出区間との重なり度合いを算出し、この重なり度合いに応じて推定ノイズ信号Nを更新している。
【0041】
詳しくは、S21では、機関回転数Neからバルブ着座振動区間テーブルVVDf()をルックアップしてバルブ着座振動区間VVDf(Ne)を算出し、このVVDf(Ne)をバルブ着座位置VTに加算してバルブ着座振動終了位置VTEを算出する。
【0042】
S22では、バルブ着座振動区間VVDf(Ne)がノック検出区間KNS〜KNEの範囲と重なり合っている(ラップしている)かを判定する。詳しくは、バルブ着座位置VTとバルブ着座振動終了位置VTEの少なくとも一方がノック検出開始位置KNSとノック検出終了位置KNEとの間に存在しているかを判定する。
【0043】
S22が肯定されればS23以降へ進む。S23〜S26の処理は、図3のS8〜S11の処理と同様である。すなわち、S23では、機関回転数Neから回転数バルブ着座振動係数テーブルNvf()をルックアップして回転数バルブ着座振動係数Nvf(Ne)を算出するとともに、バルブリフト量VLとランプ速度係数テーブルRSvf()からランプ速度係数RSvf(VL)を算出し、両者Nvf(Ne),RSvf(VL)を乗算することにより、バルブ着座ノイズNvを推定する。S24では、バルブリフト可変量VLとリフト別バルブ着座気筒相対位置テーブルVLCf()からバルブ着座気筒相対位置Vofsを求める。S25では、点火気筒判別信号IGNcylとバルブ着座気筒相対位置Vofsとを加算してバルブ着座気筒判別信号VALcylを求める。S26では、バルブ着座気筒判別信号VALcylと気筒別ノック(振動)伝達係数テーブルCf()から気筒別ノック(振動)伝達係数Cf(VALcyl)を算出し、このCf(VALcyl)を乗じてバルブ着座ノイズNvを補正・更新する。
【0044】
S27では、バルブ着座振動区間VT〜VTEがノック検出区間KNS〜KNEの範囲内に完全に含まれているかを判定する。具体的には、VTがKNS以上であり、かつ、VTEがKNE以下であるかを判定する。
【0045】
このS27が否定されれば、S28〜S31へ進み、ノック検出区間KNS〜KNEに対するバルブ着座振動区間VT〜VTEの重なり度合いに応じて、バルブ着座ノイズNvを補正・更新する。
【0046】
具体的には、VTがKNS未満である場合、つまり着座開始位置VTがノック検出区間に含まれない場合、S28からS29へ進み、検出開始位置KNSに対する着座開始位置VTの進角量(KNS−VT)に基づいて、ノック検出区間KNS〜KNEに対するバルブ着座振動区間VT〜VTEの重なり度合いCcを算出する。一方、VTがKNS以上である場合、つまり着座開始位置VTがノック検出区間に含まれる場合、S28からS30へ進み、着座開始位置VTに対する検出開始位置KNSの進角量(VT−KNS)に基づいて、ノック検出区間KNS〜KNEに対するバルブ着座振動区間VT〜VTEの重なり度合いCcを算出する。
【0047】
S31では、この重なり度合いCcを乗じることによりNvを補正・更新する。S32では、S26又はS31で設定されたNvを加算することによりNkを補正・更新する。以降、図3のS13〜17へ進み、上述したように、推定ノイズ信号Nを推定し(S13)、信号比SNを推定し(S14)、信号比SNと判定しきい値SNslとを比較して(S15)、正確なノック信号の検出が可能であるか否かを判定する(S16,S17)。
【0048】
図6(a)は、バルブ着座振動を含む波形特性を示している。図6(b)に示すように、この波形の積分値が60〜90%に達する時点までをバルブ着座振動区間とすればよい。このバルブ着座振動区間とノック検出区間との重なり度合いを図6(c)に示している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る内燃機関のノック制御装置を簡略的に示すブロック図。
【図2】ノックセンサの配置例を簡略的に示す説明図。
【図3】第1実施例に係る制御の流れを示すフローチャート。
【図4】 ノック検出区間と幾つかの気筒の吸気弁の時期との関係を示す特性図。
【図5】第1実施例に係る制御の流れを示すフローチャートの一部。
【図6】ノック検出区間とバルブ着座振動区間との重なり度合いを示す説明図。
【符号の説明】
10…ノックセンサ(ノック検出手段)
12,14…可変動弁機構
18…ノック制御手段
20…ノック検出可否判定手段
22…遅角量算出手段

Claims (5)

  1. ノック検出手段と、
    このノック検出手段から出力される所定レベルのノック信号に基づいてノック制御を行うノック制御手段と、
    機関回転数及び機関負荷の少なくとも一方に基づいて、ノックが有るときにノック検出手段から出力される推定ノック信号とノックが無いときにノック検出手段から出力される推定ノイズ信号との信号比を推定する信号比推定手段と、
    この信号比に基づいて、上記ノック信号の検出が可能であるか否かを判定するノック検出可否判定手段と、
    少なくとも吸気弁の閉時期を変更可能な可変動弁機構と、
    上記吸気弁の閉時期に基づいて上記推定ノイズ信号を更新する推定ノイズ信号更新手段と、
    を有し、上記信号比推定手段は、上記推定ノイズ信号更新手段により更新された推定ノイズ信号を用いて上記信号比を推定する内燃機関のノック制御装置。
  2. 上記ノック制御手段は、上記ノック信号に基づいて点火時期をフィードバック制御し、
    かつ、上記ノック検出可否判定手段によりノック信号の検出が不可能と判定された場合に、機関回転数又は機関負荷の少なくとも一方に基づいて、点火時期の遅角量を設定する遅角量設定手段を有する請求項1に記載の内燃機関のノック制御装置。
  3. 上記推定ノイズ信号更新手段は、
    少なくとも機関回転数に基づいて推定機械ノイズを算出し、
    少なくとも機関回転数及び機関負荷に基づいて推定燃焼ノイズを算出し、
    少なくとも機関回転数に基づいてバルブ着座ノイズを算出し、
    このバルブ着座ノイズ推定機械ノイズと推定燃焼ノイズとに基づいて上記推定ノイズ信号を算出する請求項1又は2に記載の内燃機関のノック制御装置。
  4. 上記推定ノイズ信号更新手段は、
    上記吸気弁の閉時期に対応するバルブ着座位置を推定し、
    このバルブ着座位置がノック検出区間に存在する場合に、上記推定ノイズ信号を更新する請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関のノック制御装置。
  5. 上記推定ノイズ信号更新手段は、
    機関回転数と吸気弁のバルブリフト特性とに基づいてバルブ着座振動区間を推定し、
    このバルブ着座振動区間とノック検出区間との重なり度合いを算出し、
    この重なり度合いに応じて上記推定ノイズ信号を更新する請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関のノック制御装置。
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