JP4206566B2 - ガス濃度センサの素子抵抗検出装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば車両用エンジンの排出ガス中の酸素濃度など、被検出ガス中の特定成分の濃度を検出するためのガス濃度センサに適用され、当該ガス濃度センサの素子抵抗を検出する素子抵抗検出装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の車両用エンジンの空燃比制御においては、例えば制御精度を高めるといった要望やリーンバーン化への要望があり、これらの要望に応えるべく、エンジンに吸入する混合気の空燃比(排ガス中の酸素濃度)を広域に且つリニアに検出するリニア式空燃比センサ(酸素濃度センサ)が具体化されている。このような空燃比センサにおいて、その検出精度を維持するためには同センサを活性状態に保つことが不可欠であり、一般にはセンサ素子に付設されたヒータを通電制御することにより当該センサ素子を加熱して活性状態を維持するようにしている。
【0003】
ところで、かかるヒータの通電制御においては、センサ素子の温度(素子温)を検出してその素子温が所望の活性温度(例えば約700℃)になるようにフィードバック制御を実施する技術が従来より開示されている。この場合、センサ素子の抵抗(素子抵抗)が素子温に対して所定の対応関係を有すること(図13)を利用して素子抵抗を検出し、その検出された素子抵抗から素子温が導き出される。こうした素子温の検出法によれば、センサ素子に温度センサを付設することでコストアップを招くなどの問題が回避できる。
【0004】
限界電流式の空燃比センサを用いた既存の空燃比検出装置の構成を、図14を用いて説明する。図14において、マイクロコンピュータ(マイコン)81は印加電圧指令値を出力し、その電圧指令値はD/A変換器82、ローパスフィルタ(LPF)83及びドライブ回路84を介して空燃比センサ85の一方の端子に印加される。同センサ85の他方の端子には電圧バッファ86を介して基準電圧Vrefが印加される。また、空燃比センサ85に電圧を印加した時、同センサ85に流れる電流(素子電流)は電流検出用抵抗87により検出され、その検出値がA/D変換器88を介してマイコン81に取り込まれる。
【0005】
ガス濃度センサの素子抵抗値を検出する手法としては、特開平9−292364号公報が開示されている。これを図15で説明すると、所定の時定数を持たせた電圧を単発的にガス濃度センサに印加して一定時間Ts経過後のピーク電流値ΔI(電流変化量)を計測し、その時の電圧変化量ΔVとピーク電流値ΔIとから素子抵抗を検出するものであった(素子抵抗=ΔV/ΔI)。なお、コンデンサと抵抗とを使った一次のLPFで時定数が作られる。特にジルコニア等の固体電解質を用いた限界電流式センサの場合、インピーダンス特性が印加電圧の周波数1kHz以上の領域で安定することを利用し、その特性に応じた周波数で電圧が印加されるようになっていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術では、センサに電圧を印加して一定時間Ts経過後のピーク電流値ΔI(電流変化量)を計測することで、正確な素子抵抗(素子インピーダンス)が検出できる。しかしながら、素子劣化等に対応するセンサ特性によりピーク電流値ΔIの発生時期が変化すると、正確な素子抵抗が検出できないという問題が生ずる。
【0007】
この問題を図16を用いて説明する。図16において、印加電圧変化(90)に対して正常時の素子電流変化は符号91のような波形となり、一定時間Ts経過後に電流ピーク値(図のA点)が計測される。こうして電流ピーク値が正確に計測できれば、素子抵抗が正確に検出できる。しかしながら、センサの個体差や電極劣化等によって素子電流が符号92,93のように変化すると、ピーク電流値ΔIの発生時期が「A」から「B」,「C」のように変化する。この場合、Ts時間経過のタイミング(実際には、A/D変換器88で読み取るタイミング)で素子電流を計測すると、ピーク電流値ΔIを「B1」又は「C1」で計測してしまう。つまり、B,Cのタイミングで計測される実際の電流ピーク値よりも低い電流値が計測され、正確な素子抵抗が検出できない。
【0008】
また、印加電圧を所定の時定数で変化させるために使用するコンデンサや抵抗等、回路のバラツキによっても素子電流波形は変化し、その時の素子電流の変化は符号94,95のような波形となる。従って、ピーク電流値の発生時期がやはり「A」から「D」,「E」のように変化し、先程と同様、正確に素子抵抗が検出できない。
【0009】
以上のことから素子抵抗を正確に検出するためには、電流ピーク値を正確に計測する必要がある。なお、先述の通り素子抵抗検出時の印加電圧の周波数を1kHz以上(センサによっては10kHz程度)とする場合には、その電流変化を逐次監視して電流ピーク値を計測すると、マイコンの演算負荷が過度に増加したり、他の制御へ悪影響を及ぼすおそれがあった。
【0010】
本発明は、上記問題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、一時的な電圧変化と電流変化とから素子抵抗を検出する素子抵抗検出装置において、素子抵抗を正確に検出することができるガス濃度センサの素子抵抗検出装置を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の素子抵抗検出装置ではその前提として、固体電解質を用いた素子部を有し、電圧の印加に伴い被検出ガス中の特定成分の濃度に応じた電流信号(素子電流)を出力するガス濃度センサに適用され、ガス濃度検出途中の一時的な電圧変化と電流変化とから前記素子部の抵抗値を検出する。
【0012】
そして、請求項1に記載の発明では、ガス濃度検出のために前記素子部に印加した電圧を、センサ特性に応じた周波数で素子検出用の電圧に一時的に切り換え、その時の電圧変化と電流変化とから前記素子部の抵抗値を検出することとし、素子抵抗検出時の電流変化又は電圧変化を監視してその監視結果を保持するためのホールド回路として、素子抵抗検出時における電流変化のピーク値を保持するためのピークホールド回路を備える。素子抵抗検出時における電流変化又は電圧変化を監視してピークホールド回路に記憶保持することで、センサ劣化や回路バラツキ等の要因により電流変化や電圧変化のピーク値の発生時期が変動しても、同ピーク値が容易に且つ正確に計測できる。その結果、素子抵抗が正確に検出できるようになる。
【0013】
しかも上記発明によれば、ピークホールド回路の採用により、マイコンを使用しない回路構成で素子抵抗検出装置が実現でき、低コスト化や小型化を図ることが可能となる。この場合、マイコンの処理能力の限界により印加電圧の周波数が制限されることもない。また、マイコンの演算負荷が過度に増加し、他の制御に悪影響が及ぶなどの不都合も回避される。仮にマイコンを使用した場合には、前記の如く電流変化又は電圧変化を監視し、その監視結果を当該マイコンに入力することで、マイコンの演算負荷を大幅に低減することが可能となる。つまり、素子抵抗算出に用いる電流変化のピーク値は既にホールドされているので、低速なA/D変換器が使用できる。また、A/D変換時間を考慮しなくてもよいため、素子抵抗の検出時間が短縮でき、ひいてはガス濃度の検出不可時間が短縮できる。また、印加電圧の周波数を1kHz以上(センサによっては10kHz程度)で変化させる場合にもその時の電流変化を逐次監視して電流ピーク値が計測できる。それ故、素子抵抗検出時に電圧をセンサ特性に応じた周波数で切り換える装置に好適に採用できる。
【0014】
素子抵抗検出時における電流変化と電圧変化との各データを得るには、請求項1のように前記素子部への印加電圧を一時的に変化させる手法と、請求項2、請求項3の構成のように、素子部に流れる電流値を一時的に変化させる手法とが考えられる。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、ガス濃度検出時に前記素子部に流れる電流の値を、所定値に一時的に切り換え、その時の電圧変化と電流変化とから前記素子部の抵抗値を検出する素子抵抗検出装置であって、素子抵抗検出時に、前記素子部の一方の端子を一時的に開放状態とした後、素子部へ定電流を流す定電流源と、前記開放状態での素子部の一方の端子電圧をサンプルしてこれを保持するサンプルホールド回路と、定電流を流した時の端子電圧を監視し、そのピーク値を保持するピークホールド回路とを備え、これらサンプルホールド回路及びピークホールド回路でそれぞれ保持した電圧値の差に基づいて素子抵抗値を求める。
【0017】
上記請求項2の発明でもやはり、センサ劣化や回路バラツキ等の要因等に関係なく、電流変化又は電圧変化のピーク値が容易に且つ正確に計測できる。その結果、一時的な電圧変化と電流変化とから素子抵抗を検出する素子抵抗検出装置において、素子抵抗を正確に検出することができる。加えて、定電流源による定電流の値が素子抵抗検出時における電流変化量となり、サンプルホールド回路及びピークホールド回路それぞれの出力の差が電圧変化量となる。従って、これら電流変化量と電圧変化量とから素子抵抗値が算出できる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、ガス濃度検出時に前記素子部に流れる電流の値を、所定値に一時的に切り換え、その時の電圧変化と電流変化とから前記素子部の抵抗値を検出する素子抵抗検出装置であって、素子抵抗検出時に、前記素子部に所定の定電流を流す定電流源と、前記定電流源による電流変化前の素子部の両端子間電圧をサンプルしてこれを保持するサンプルホールド回路と、電流変化後の素子部の両端子間電圧を監視し、そのピーク値を保持するピークホールド回路とを備え、これらサンプルホールド回路及びピークホールド回路でそれぞれ保持した電圧値の差に基づいて素子抵抗値を求める。請求項3によれば、定電流を流す前後の電流値の差が素子抵抗検出時における電流変化量となり、サンプルホールド回路及びピークホールド回路それぞれの出力の差が電圧変化量となる。従って、これら電流変化量と電圧変化量とから素子抵抗値が算出できる。
【0021】
上記請求項3の発明では、請求項4に記載したように、ガス濃度検出の状態から素子抵抗検出の状態に切り換える時、切り換え直前に素子部に流れる電流値と同値の定電流を流し、その後、電流値を所定値分だけ変化させるのが望ましい。
【0022】
素子抵抗検出時における電流変化後、その状態のまま継続して電圧ピーク値を検出する場合には、その時の電圧変化量から得られる素子抵抗値は素子部の直流抵抗の値となる(V−I特性上の抵抗支配領域の傾き)。これに対して、請求項5に記載したように、素子抵抗検出時における電流変化後、所定の微小時間でのピーク値をピークホールド回路で記憶保持すれば、素子抵抗値として交流インピーダンスが検出できるようになる。
【0023】
ところで、前記ピークホールド回路で保持した電流変化又は電圧変化の監視結果は、素子抵抗の検出毎に更新する必要があるため、次回の素子抵抗検出前にクリアされる。このとき、仮に前記検出値がクリアされると(0Vが出力されると)、素子抵抗の検出値が一時的に無くなる。そのため、素子抵抗の検出値を使ったヒータ制御や自己診断(ダイアグ処理)に悪影響が及ぶ。そこで本発明では、下記の請求項6〜請求項9の構成を採用することで、各種制御への悪影響を抑制することとしている。
【0024】
請求項6に記載の発明では、前記ピークホールド回路で保持した素子抵抗検出時における電流変化又は電圧変化の監視結果を、次回の素子抵抗の検出時まで保持するためのサンプルホールド回路を更に備える。この場合、電流変化又は電圧変化の監視結果がクリアされた後にもサンプルホールド回路が素子抵抗出力を保持して出力するため、素子抵抗の検出値が無くて各種制御に悪影響が及ぶといった既述の問題が回避される。
【0025】
請求項7に記載の発明では、前記ピークホールド回路で保持した素子抵抗検出時における電流変化又は電圧変化の監視結果を取り込むためのローパスフィルタを備える。この場合、請求項8に記載したように、素子抵抗検出の直前に前記ピークホールド回路のホールド値がクリアされるのが望ましい。
【0026】
請求項7,8の構成によれば、ピークホールド回路のセット/リセットに伴い同回路の出力が変化してもその出力変化がローパスフィルタによりなまされる。そのため、ピークホールド回路の出力を素子電流検出値として継続的に使うことが可能となる。従って、素子抵抗の検出値が無くて各種制御に悪影響が及ぶといった既述の問題が回避される。
【0027】
請求項9に記載の発明では、前記ピークホールド回路で素子抵抗検出時における電流変化又は電圧変化を監視する際に、その時の監視結果の使用を一時的に許可しない旨の信号を出力する。この場合、素子電流検出値が不確かな時に当該監視結果を各種制御に使わせないようにすることができ、各種制御に悪影響が及ぶといった問題が回避される。
【0028】
請求項10に記載の発明では、ガス濃度検出時の素子電流を取り込むためのガス濃度検出用サンプルホールド回路を備え、前記素子抵抗の検出期間において、ガス濃度検出用サンプルホールド回路は同検出期間の直前における素子電流の検出値を保持する。本構成によれば、素子抵抗検出時にはガス濃度検出のための前回検出値(素子電流の前回値)を保持したまま素子抵抗検出値が更新され、また、ガス濃度検出時には素子抵抗検出のための前回検出値(素子電流の前回値)を保持したままガス濃度検出値が更新される。そのため、ガス濃度検出と素子抵抗検出とが連続的に実施でき、何れか一方の値を検出する際にも他方の値が適正に管理保持できる。また、素子抵抗検出時の素子電流の変化によりガス濃度検出値が変動するといった不具合が未然に防止される。
【0029】
請求項11に記載の発明では、ガス濃度検出と素子抵抗検出とを所定のタイミングで切り換えて選択的に実施させるためのタイミング調整回路を備える。タイミング調整回路で各種タイミングを調整することにより、多種多様な演算プログラム(割込み処理)が実施されるマイコンでタイミングを管理する場合と比べ、各種タイミングのバラツキが削減できる。
【0031】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
以下、この発明を空燃比検出装置に具体化した第1の実施の形態を図面に従って説明する。本実施の形態における空燃比検出装置は、自動車に搭載される電子制御ガソリン噴射エンジンに適用されるものであって、同エンジンの空燃比制御システムにおいては空燃比検出装置による検出結果に基づいてエンジンへの燃料噴射量を所望の空燃比に制御する。以下の記載では、空燃比センサを用いた空燃比(A/F)の検出手順、並びに同センサの交流特性を用いた素子抵抗検出手順を詳細に説明する。
【0032】
図1は、本実施の形態における空燃比検出装置の概要を示す構成図である。図1において、空燃比検出装置は限界電流式の空燃比センサ(以下、A/Fセンサという)10を備える。A/Fセンサ10は、固体電解質を有するセンサ素子部10a(図2参照)を備え、エンジンから排出される排ガス中の酸素濃度を検出する。すなわち、A/Fセンサ10は、センサ素子部10aへの電圧印加に伴い、排ガス中の酸素濃度に応じた限界電流(素子電流)を出力する。
【0033】
ここで、センサ素子部10aの構成を図2を用いて説明する。センサ素子部10aは大別して、固体電解質11、ガス拡散抵抗層12、大気導入ダクト13及びヒータ14からなり、これら各部材を積層して構成されている。また、各部材の周囲には保護層15が設けられている。
【0034】
長方形板状の固体電解質11は部分安定化ジルコニア製のシートであり、その上面(ガス拡散抵抗層12側)には白金等からなる多孔質の計測電極16がスクリーン印刷法等により形成されると共に、下面(大気導入ダクト13側)には同じく白金等からなる多孔質の大気側電極17がスクリーン印刷法等により形成されている。
【0035】
ガス拡散抵抗層12は、計測電極16へ排ガスを導入するための多孔質シートからなるガス透過層12aと、排ガスの透過を抑制するための緻密層からなるガス遮蔽層12bとを有する。ガス透過層12a及びガス遮蔽層12bは何れも、アルミナ、スピネル、ジルコニア等のセラミックスをシート成形法等により成形したものであるが、ポロシティの平均孔径及び気孔率の違いによりガス透過率が相違するものとなっている。
【0036】
大気導入ダクト13はアルミナ等の高熱伝導性セラミックスからなり、同ダクト13により大気室18が形成されている。この大気導入ダクト13は大気室18内の大気側電極17に大気を導入する役割をなす。
【0037】
大気導入ダクト13の下面にはヒータ14が取り付けられている。ヒータ14は、バッテリ電源からの通電により発熱する発熱体14aと、それを覆う絶縁シート14bとからなる。但し、図2の構成以外に、発熱体14aを固体電解質11に埋設したり、発熱体14aをガス拡散抵抗層12に埋設したりする構成も可能である。
【0038】
なお上記センサ素子部10aにおいて、計測電極16に達する排ガスは、ガス透過層12aの鉛直方向(図の上下方向)からは侵入せず、ガス透過層12aの側方から侵入する。すなわち、ガス透過層12aの表面はガス遮蔽層12bに被われているため、排ガスは図の鉛直方向からは侵入できず、その方向と直交する側面方向から該透過層12aの内部に侵入する。かかる場合、ガス透過層12aのガス拡散量は、同透過層12aの左右方向の寸法(実際には、ガス透過層12aの側面と計測電極16との距離)に依存するが、この寸法が容易に且つ自在に設定できることから、ガス透過層12aの孔径がばらついても均一で安定したセンサ出力が得られるようになる。
【0039】
上記構成のA/Fセンサ10において、センサ素子部10aは理論空燃比点よりリーン領域では酸素濃度に応じた限界電流を発生する。この場合、センサ素子部10a(固体電解質11)は酸素濃度を直線的特性にて検出し得るものであるが、センサ素子部10aを活性化するには約600℃以上の高温が必要とされ、且つ同センサ素子部10aの活性温度範囲が狭いため、エンジンの排ガスのみによる加熱では活性状態を維持できない。そのため、本実施の形態では、ヒータ14(発熱体14a)の加熱制御によりセンサ素子部10aを活性温度域で保持する。なお、理論空燃比よりもリッチ側の領域では、未燃ガスである一酸化炭素(CO)等の濃度が空燃比に対してほぼリニアに変化し、センサ素子部10aはCO等の濃度に応じた限界電流を発生する。
【0040】
A/Fセンサ10の電圧−電流特性について図3を用いて説明する。図3において、電圧軸V(横軸)に平行な直線部分がセンサ素子部10aに流れる限界電流を特定するものであって、この限界電流(素子電流)の増減は空燃比の増減(すなわち、リーン・リッチの程度)に対応している。つまり、空燃比がリーン側になるほど限界電流は増大し、空燃比がリッチ側になるほど限界電流は減少する。
【0041】
この電圧−電流特性において、電圧軸Vに平行な直線部分よりも小さい電圧域は抵抗支配領域となっており、その抵抗支配領域における一次直線部分の傾きは、センサ素子部10aにおける固体電解質11の内部抵抗(これを素子抵抗という)により特定される。この素子抵抗は温度変化に伴い変化し、例えばセンサ素子部10aの温度が低下すると素子抵抗の増大により上記傾きが小さくなる。
【0042】
一方、図1のスイッチ回路21は、前記A/Fセンサ10への印加電圧を、空燃比検出用の電圧と素子抵抗検出用の電圧とで切り換えるための回路であって、図の接点a,b,cの何れかに選択的に接続される。接点a,b,cにはそれぞれ電源22,23,24が接続されている。この場合、スイッチ回路21の切り換え位置に応じて、電源22〜24のうち何れかの電圧がA/Fセンサ10の印加電圧Vpとなる。
【0043】
ここで、空燃比検出時には、スイッチ回路21の接点aを介して電源22の電圧がA/Fセンサ10に印加される。電源22によれば、例えば前記図3の特性線L1上の電圧、すなわちその時々の空燃比に対応した電圧が、印加電圧VpとしてA/Fセンサ10に印加される(但し、空燃比検出時にVp固定とする構成も可)。
【0044】
また、素子抵抗検出時には、スイッチ回路21の接点b,cを介して電源23,24の電圧がA/Fセンサ10に一時的に印加される。電源23,24によれば、図4(a)の時刻t2〜t4に見られるように、A/Fセンサ10の印加電圧Vpがそれまでの空燃比検出用の電圧から正負両側に一時的に変化する。この場合、A/Fセンサ10の周波数特性に基づき、素子抵抗検出時における印加電圧Vpの周波数は1kHz以上として設定される。但し、より安定した特性を得るためには周波数を3kHz以上とすればよく、周波数を高くすることで、素子抵抗の検出期間、すなわち空燃比の検出不能となる期間を短縮することが可能となる。
【0045】
スイッチ回路21は、タイミング調整回路25からの切換信号SG1に応じて切り換え動作される。タイミング調整回路25は、空燃比検出の途中に一時的に印加電圧Vpを切り換えて素子抵抗が検出できるよう、所定のタイミングでスイッチ回路21に切換信号SG1を出力する。
【0046】
印加電圧VpはLPF(ローパスフィルタ)26に入力され、同LPF26で高周波成分が除去された後、ドライブ回路27に入力される。LPF26の時定数は、既述したようにセンサ素子(固体電解質11)の内部抵抗を測定するのに適した値(例えば4.5kHz)となっている。そして、ドライブ回路27の出力は、電圧AFVとしてA/Fセンサ10の一方の端子に印加される。
【0047】
A/Fセンサ10の他方の端子には、電流検出用抵抗29を介してオペアンプ28の出力端子が接続される。電流検出用抵抗29はA/Fセンサ10に流れる素子電流を電圧値に変換して検出し、その検出値(素子電流の電圧変換値)はサンプルホールド(S/H)回路30並びにピークホールド(P/H)回路31に入力される。
【0048】
S/H回路30は、空燃比検出時の素子電流をサンプルし、タイミング調整回路25から信号SG2が出力されている期間内(SG2のON期間内)においてサンプル値を逐次更新して出力する。S/H回路30の出力は、空燃比の検出値として例えばエンジン制御用ECU(図示略)に対して出力される。そしてこの空燃比検出値は、空燃比フィードバック制御等に用いられる。
【0049】
P/H回路31は、タイミング調整回路25から信号SG3が出力されている期間内(SG3のON期間内)において素子抵抗検出時の素子電流をピークホールドする。なお、ピークホールドした素子電流の検出値は、信号SG3がOFFされる度にリセットされる。
【0050】
P/H回路31にはサンプルホールド(S/H)回路32が接続されており、このS/H回路32はタイミング調整回路25から信号SG4が出力されている期間内(SG4のON期間内)においてサンプル値を逐次更新して出力する。S/H回路32の出力は、素子抵抗の検出値として例えばエンジン制御用ECUに対して出力される。そしてこの素子抵抗検出値は、A/Fセンサ10の活性判定、活性化制御、異常診断(ダイアグ処理)等に用いられる。
【0051】
因みに、A/Fセンサ10の活性化制御においては、センサ素子部10aの温度(素子温)が所定の活性温度(例えば700℃)に維持されるよう、素子温に対して図13の関係にある素子抵抗が目標値に対してフィードバック制御される。この素子抵抗(素子温)のフィードバック制御は、例えば前記ヒータ14への通電デューティ比を制御することで実現される。
【0052】
次に、上記の如く構成される空燃比検出装置の作用を図4を参照しながら説明する。図4には、空燃比検出時において一時的に(例えば128msec毎に)素子抵抗が検出される様子を示す。なお図4において、(a)は印加電圧Vpの変化を、(b)はLPF26の通過後の電圧AFVの変化を、(c)は電流検出用抵抗29により検出される素子電流の変化を、(d),(e)は信号SG2,SG3の変化を、(f)はP/H回路31の出力の変化を、(g)は信号SG4の変化を、それぞれ示す。
【0053】
時刻t1以前は、スイッチ回路21が図1の接点aに接続されており、A/Fセンサ10には空燃比検出用の電圧Vpが印加される。そして、その電圧印加に伴い、空燃比(排ガス中の酸素濃度)に応じて流れる素子電流が電流検出用抵抗29により検出される。このとき、信号SG2〜SG4のうち、S/H回路30に入力される信号SG2だけがONとなっており、S/H回路30はその時々の素子電流の検出値をサンプルし空燃比検出値(A/F値)として出力する。
【0054】
時刻t1では、タイミング調整回路25により信号SG2が立ち下げられると共に、信号SG3が立ち上げられる。信号SG2がON→OFFに切り換えられた時、S/H回路30は信号切換直前の検出値(A/F値)を保持する。これにより、A/F出力用の端子は、時刻t1直前のA/F値出力の状態で保持される。また時刻t1では、信号SG3がOFF→ONに切り換えられることで、P/H回路31が素子電流のピークホールドを開始する。
【0055】
その後、時刻t2では、タイミング調整回路25からの切換信号SG1によりスイッチ回路21が切り換えられて印加電圧Vpが負側→正側の順に変化する(時刻t2〜t4)。このとき、印加電圧VpがLPF26を通して所定の時定数を持って変化する。すなわち、印加電圧VpがなまされながらAFV波形が変化し、その電圧印加に伴い素子電流が流れる。時刻t2以降の素子電流のピーク値はP/H回路31にてホールドされる。
【0056】
但し、S/H回路30は、時刻t1直前の素子電流値をホールドしている。そのため、素子抵抗検出時において印加電圧の変化に伴い素子電流が変化しても、素子電流波形に応じてA/F出力が変化することはない。
【0057】
信号SG4がONとなる時刻t3では、一定期間だけ信号SG4が立ち上げられ、前記P/H回路31でホールドした素子電流のピーク値がS/H回路32でサンプルされると共にそのサンプル値で素子抵抗出力が更新される。そして、この更新された素子抵抗出力(電流ピーク値)を基に素子抵抗値が検出される(素子抵抗値=電圧変化量/電流変化量)。また、素子抵抗の検出値を使って、素子抵抗(素子温)フィードバックによるヒータ通電制御等が実施される。
【0058】
その後、時刻t4では印加電圧Vpが空燃比検出用の電圧値に戻される。また、時刻t5では、信号SG2が立ち上げられると共に、信号SG3が立ち下げられる。従って、S/H回路30による素子電流サンプルが再開され、その素子電流を基に空燃比が検出される。また時刻t5では、P/H回路31のサンプルホールド値がクリアされる。時刻t5以降、次回の素子抵抗検出時までは、先の検出値(SG4=ONでの検出値)が素子抵抗出力としてS/H回路32から出力される。
【0059】
因みに、例えば時間の経過に伴い素子温が上昇する場合、それに伴い素子抵抗は減少する。そのため、素子抵抗検出時におけるVp変化量が一定であれば、素子電流の変化量(P/H回路31のサンプルホールド値)は素子温の上昇に従い大きくなる。
【0060】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下に示す効果が得られる。
(イ)素子抵抗検出時の電流変化を監視し、その時のピーク値を保持するためのP/H回路31を設けた。素子抵抗検出時における素子電流のピーク値をP/H回路31により検出することで、センサ劣化や回路バラツキ等の要因により電流ピーク値の発生時期が変動しても、同ピーク値が容易に且つ正確に計測できる。また、印加電圧の周波数を1kHz以上(センサによっては10kHz程度)とする場合にもその電流変化を逐次監視して電流ピーク値が計測できる。その結果、素子抵抗検出時に電圧をセンサ特性に応じた周波数で切り換える素子抵抗検出装置において、素子抵抗を正確に検出することができる。
【0061】
(ロ)マイコンを使用しない回路構成で空燃比検出装置が実現でき、低コスト化や小型化を図ることができる。この場合、マイコンの処理能力の限界により印加電圧Vpの周波数が制限されることもない。また、マイコンの演算負荷が過度に増加し、他の制御に悪影響が及ぶなどの不都合も回避される。高い周波数で電圧Vpを切り換えることにより、空燃比が検出不能となる期間(素子抵抗の検出期間)を短縮することが可能となる。
【0062】
(ハ)P/H回路31の後段には同回路31で保持したピーク値を取り込み且つ、次回の素子抵抗の検出時までその値を保持するためのS/H回路32を設けた。この場合、電流ピーク値のクリア後にもS/H回路32は当該ピーク値を保持して出力するため、素子抵抗の検出値が無くて各種制御に悪影響が及ぶといった問題が回避される。
【0063】
(ニ)素子抵抗検出時には、空燃比検出のための前回検出値(素子電流の前回値)をS/H回路30で保持したまま素子抵抗出力を更新し、また、空燃比検出時には、素子抵抗検出のための前回検出値(素子電流の前回値)をS/H回路32で保持したままA/F出力を更新した。そのため、空燃比検出と素子抵抗検出とが連続的に実施でき、何れか一方の値を検出する際にも他方の値が適正に管理保持できる。また、素子抵抗検出時の素子電流の変化により空燃比検出値が変動するといった不具合が未然に防止される。
【0064】
(ホ)タイミング調整回路25を設け、同回路25により信号SG1〜SG4の出力のタイミングを調整するようにした。これにより、多種多様な演算プログラム(割込み処理)が実施されるマイコンでタイミングを管理する場合と比べ、各種タイミングのバラツキが削減できる。
【0065】
(ヘ)LPF26の時定数を、センサ素子の内部抵抗を測定するのに適した値(例えば4.5kHz)とした。この場合、A/Fセンサ10への印加電圧の急激な変化が抑制される。また、素子抵抗検出時における電圧印加を必要以上に長引かせることもなく、その電圧印加時間が好適に設定される。
【0066】
(ト)上記の如く素子抵抗値が精度良く検出できれば、その検出結果を用いたA/Fセンサ10の活性化制御(ヒータ通電制御)や異常診断処理等が精度良く実現できるようになる。
【0067】
次に、本発明における第2〜第5の実施の形態を説明する。但し、以下の各実施の形態の構成において、上述した第1の実施の形態と同等であるものについては図面に同一の記号を付すと共にその説明を簡略化する。そして、以下には第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0068】
(第2の実施の形態)
上記第1の実施の形態では、前記図1の通りP/H回路31の出力をS/H回路32に取り込み、素子抵抗検出後には素子抵抗出力をS/H回路32でホールドしたが、この構成を変更する。本実施の形態では、図5に示されるように、P/H回路31の後段において、前記図1のS/H回路32に代えてLPF(ローパスフィルタ)41を設ける。こうした図5の構成において、各種信号の変化を図7のタイムチャートを用いて説明する。図7では(a)〜(g)が本実施の形態の動作に相当するが、そのうち(a)〜(d)は前記図4の(a)〜(d)に一致する。
【0069】
図7では、時刻t11で信号SG3が立ち下げられ、P/H回路31の出力(サンプルホールド値)がクリアされる。また、時刻t12では信号SG2が立ち下げられると共に、信号SG3が立ち上げられる。これによりその直後の時刻t13で、印加電圧Vpの変化に伴う素子電流の変化がP/H回路31にて観測され、そのピーク値がホールドされる。P/H回路31の出力はLPF41を通過して素子抵抗出力となる。なお、時刻t14,t15の動作は前記図4の時刻t4,t5の動作と同じであるため、その説明を省略する。
【0070】
かかる場合、P/H回路31の出力がLPF41を通過することで、時刻t11以降の出力値の変化が所定の時定数でなまされ、同出力値の急激な変化が抑制される。このとき、P/H回路31のリセットに伴いLPF出力(素子抵抗出力)は僅かに変化するが、その変化量は微少であってその際にも素子抵抗の近似値が計測できる。
【0071】
本実施の形態によれば、上記第1の実施の形態と同様に、素子抵抗検出時に電圧をセンサ特性に応じた周波数で切り換える素子抵抗検出装置(空燃比検出装置)において、素子抵抗を正確に検出することができる。また特に、P/H回路31の後段にLPF41を設けたため、P/H回路31の出力を素子電流検出値として継続的に使うことが可能となり、素子抵抗の検出値が無くて各種制御に悪影響が及ぶといった問題が回避される。この場合、素子抵抗検出の直前にP/H回路31のホールド値がクリアされることで、P/H回路31のリセット時間(図7の時刻t11〜t12)を短くし、素子抵抗出力が「0V」近くに低下するのを防止することができる。
【0072】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態では、図6に示されるように、P/H回路31の出力をそのまま素子抵抗出力とする。また、タイミング調整回路25は「使用許可」と「使用不許可」と指示するための使用許可信号を出力する。この使用許可信号は素子抵抗出力と共に、図示しないエンジン制御用ECUに対して出力される。
【0073】
本実施の形態の動作を図7のタイムチャートを用いて説明する。但し、図7では(h)が本実施の形態特有の作用を示す(それ以外は上記実施の形態に準ずる)。つまり、P/H回路31の出力をリセットするよりも若干早い時期(図の時刻t21)に使用許可信号を立ち下げ、P/H回路31の出力(素子抵抗出力)をそれまでの「使用許可」から「使用不許可」にする。その後、素子抵抗検出用の電圧印加後においてP/H回路31の出力がほぼ安定する時期(図の時刻t22)に使用許可信号を立ち上げ、P/H回路31の出力(素子抵抗出力)を「使用許可」に戻す。
【0074】
本実施の形態によれば、上記第1の実施の形態と同様に、素子抵抗検出時に電圧をセンサ特性に応じた周波数で切り換える素子抵抗検出装置(空燃比検出装置)において、素子抵抗を正確に検出することができる。特に本実施の形態では、P/H回路31で素子電流のピーク値を検出する際に、素子抵抗出力の使用を一時的に許可しない旨の信号を出力するため、素子電流検出値が不確かな時に当該出力を各種制御に使わせないようにすることができ、各種制御に悪影響が及ぶといった問題が回避される。
【0075】
(第4の実施の形態)
上記各実施の形態では、素子抵抗検出に際しA/Fセンサの印加電圧を、空燃比検出用の電圧値から素子抵抗検出用の電圧値に一時的に切り換えたが、本実施の形態では、素子抵抗検出に際し、A/Fセンサに流れる電流値を一時的に変化させることとする。
【0076】
図8は、空燃比検出装置の構成を示す電気回路図である。図8において、A/Fセンサ10の一方の端子には、3つの接点a,b,cを持つスイッチ回路51が接続されている。スイッチ回路51は、A/F検出の状態と素子抵抗検出の状態とを切り換えるものであり、空燃比検出の途中に素子抵抗が検出できるよう、タイミング調整回路52により所定のタイミングで切り換え動作される。
【0077】
A/F検出時にはスイッチ回路51の接点がa側に接続される。そして前記図1と同様に、電源22及びドライブ回路27を通じて電圧AFVがA/Fセンサ10に印加され、その時の素子電流(A/Fに応じた限界電流)が電流検出用抵抗29により検出されてS/H回路30に取り込まれる。S/H回路30でサンプル&ホールドされた信号は、A/F出力として外部に出力される。
【0078】
一方、素子抵抗検出時には、スイッチ回路51の接点がb側又はc側に接続される。接点bは開放されている。接点cには定電流回路53が接続されており、この定電流回路53は、電流変化により素子抵抗を検出するための定電流Icstを発生する。
【0079】
A/Fセンサ10のスイッチ回路51側の端子には、S/H回路54とP/H回路55とが各々接続されており、これらS/H回路54とP/H回路55のセット/リセットのタイミングはタイミング調整回路52により操作される。S/H回路54は、スイッチ回路51が接点b側に接続された時、一時的にサンプル状態となり、サンプル値を逐次更新して出力する。また、P/H回路55は、スイッチ回路51が接点c側に接続された時にピーク値をホールドして出力する。S/H回路54の出力とP/H回路55の出力とは、差動増幅器56の−入力端子と+入力端子とにそれぞれ入力され、差動増幅器56は、S/H回路54に保持した電圧とP/H回路55に保持した電圧との差を演算する。差動増幅器56の出力は、S/H回路57を介して素子抵抗出力として外部に出力される。S/H回路57は、次回の素子抵抗の検出時まで差動増幅器56の前回出力を保持するよう構成されている。
【0080】
実際の動作を、図9を用いて説明する。時刻t31以前は、スイッチ回路51が接点a側に操作されており、A/Fセンサ10には電源22によりA/F検出用の電圧が印加されている(A/F検出動作)。
【0081】
時刻t31〜t32では、スイッチ回路51が接点b側に操作されてA/Fセンサ10の一端が開放状態となり、その状態が所定時間(200μsec程度)保持される。そして、S/H回路54がホールド(H)状態からサンプル(S)状態に一時的に切り換えられ、その時のVpの電圧値がS/H回路54によって記憶保持される。
【0082】
また時刻t32では、スイッチ回路51が接点c側に切り換えられ、A/Fセンサ10に定電流回路53から定電流Icstが流れる。そして、定電流回路55による電流変化後、数10μsecが経過する迄の期間(時刻t32〜t33の期間)で、P/H回路55がVpの電圧値をピークホールドし、A/Fセンサ10に定電流Icstが流れた時に発生するVp電圧のピーク値が記憶保持される。
【0083】
本実施の形態では、素子抵抗値として交流インピーダンスを検出することとしており、電流変化後の微小時間(数10μsec)でVp電圧のピーク値を計測する。なお、電流変化後にその状態を比較的長い間保持する場合には、その時の電圧変化量から得られる素子抵抗値は素子直流抵抗となり、これはV−I特性上の抵抗支配領域の傾きに相当する。素子直流抵抗と素子の交流インピーダンスとは特定の関係を有し、一般には「素子直流抵抗>交流インピーダンス」の関係があることが知られている。
【0084】
S/H回路54に保持した電圧値とP/H回路55に保持した電圧値との差が差動増幅器56によって演算され、その演算結果がS/H回路57を経て素子抵抗出力として外部に出力される。その後、時刻t34では、スイッチ回路51が接点a側に戻され、通常のA/F検出が再開される。
【0085】
かかる場合、素子抵抗出力は、外部に接続されるマイコン等(図示略)によって素子抵抗(交流インピーダンス)に変換される。このとき、定電流回路53による定電流Icstが素子抵抗検出時における電流変化量となり、S/H回路54とP/H回路55との出力の差(差動増幅器56の出力)が電圧変化量となる。 差動増幅器56(S/H回路57)の出力を電圧変化量ΔVとすれば、定電流Icstは既知の一定値であるから、ΔV値とIcst値と基づいて素子抵抗値が算出される(素子抵抗値=ΔV/Icst)。
【0086】
以上第4の実施の形態によれば、素子抵抗検出時に素子電流を変化させてその時の電圧変化量を計測する装置において、素子抵抗検出時の電圧変化のピーク値をP/H回路55で保持するので、センサ劣化や回路バラツキ等の要因等に関係なく、電圧変化のピーク値が容易に且つ正確に計測できる。その結果、素子抵抗を正確に検出することができる。また、差動増幅器56の後段にS/H回路57を設けたので、素子抵抗の検出値が無くて各種制御に悪影響が及ぶといった問題が回避される。
【0087】
(第5の実施の形態)
A/Fセンサの素子抵抗を電流変化によって検出する別の方法を、以下に説明する。
【0088】
図10は、空燃比検出装置の構成を示す電気回路図である。図10において、A/Fセンサ10の一方の端子には、2つの接点a,bを持つスイッチ回路61が接続されている。スイッチ回路61は、A/F検出の状態と素子抵抗検出の状態とを切り換えるものであり、空燃比検出の途中に素子抵抗が検出できるよう、タイミング調整回路62により所定のタイミングで切り換え動作される。
【0089】
A/F検出時にはスイッチ回路61の接点がa側に接続される。そして前記図1と同様に、電源22及びドライブ回路27を通じて電圧AFVがA/Fセンサ10に印加され、その時の素子電流(A/Fに応じた限界電流)が電流検出用抵抗29により検出されてS/H回路30に取り込まれる。S/H回路30でサンプル&ホールドされた信号は、A/F出力として外部に出力される。
【0090】
一方、素子抵抗検出時には、スイッチ回路61の接点がb側に接続される。接点bには、S/H回路30の出力に応じた定電流IL1を流すための定電流回路63が接続されている。ここで、A/F検出時にはA/Fセンサ10を流れる素子電流IL0がS/H回路30によりサンプル&ホールドされ、定電流回路63は、S/H回路30のホールド値を基に自身の定電流IL1の値を決定する。定電流回路63によれば、素子抵抗検出の直前での素子電流IL0と同じ値の定電流IL1がA/Fセンサ10に流れる。
【0091】
また、スイッチ回路61の接点bには、3つの接点a,b,cを持つスイッチ回路64が接続されている。スイッチ回路64は、素子抵抗検出時においてA/Fセンサ10に供給される電流を変更するものであり、その接点aは定電流回路65に接続され、接点bは開放され、接点cは定電流回路66に接続されている。定電流回路65は、前記定電流IL1と同じ方向に定電流IL2を流し、定電流回路66は、前記定電流IL1の逆方向に定電流IL3を流す。
【0092】
A/Fセンサ10の両端子間には、S/H回路67とP/H回路68とが接続され、これら各回路67,68はA/Fセンサ10の両端子電圧を取り込んでその値を保持する。S/H回路67の出力とP/H回路68の出力とは、差動増幅器69の−入力端子と+入力端子とにそれぞれ入力され、差動増幅器69はS/H回路67に保持した電圧とP/H回路68に保持した電圧との差を演算する。差動増幅器69の出力は、S/H回路70を介して素子抵抗出力として外部に出力される。S/H回路70は、次回の素子抵抗の検出時まで差動増幅器69の前回出力を保持するよう構成されている。
【0093】
ここで、素子抵抗の検出時には、図11に示されるように現在のA/Fに応じた素子電流IL0を基準として、A/Fセンサ10に流れる素子電流を一時的に変化させ(図中A)、この時のセンサ端子間の電圧変化(図中B)を測定する。そして、素子電流の変化量とセンサ端子間電圧の変化量とからセンサ素子部の交流インピーダンスを算出する。
【0094】
次に、実際の動作を図12を用いて説明する。A/F検出時は、スイッチ回路61が接点a側に操作されており、A/Fセンサ10には電源22によりA/F検出用の電圧が印加されている。このとき、A/Fセンサ10にはA/F相当の素子電流IL0が流れている。
【0095】
素子抵抗検出直前の時刻t41では、S/H回路30をサンプル(S)状態からホールド(H)状態に切り換えることにより、素子抵抗検出中の電圧変動が外部に出力されないようにする。時刻t42では、スイッチ回路61の接点がb側に接続され、素子抵抗の検出が開始される。なお、素子抵抗検出の開始当初には、スイッチ回路64は接点bに接続されている。
【0096】
A/F検出時における素子電流は「IL0」であり、素子抵抗検出の開始当初にはその素子電流IL0と同じ定電流IL1が定電流回路63からA/Fセンサ10に供給される(IL1=IL0)。この定電流IL1の値は、図11で示す「IL0(電流変化時の基準値)」とも一致する。
【0097】
時刻t42後、S/H回路67がホールド(H)状態からサンプル(S)状態に一時的に切り換えられ、素子電流の変化前のセンサ端子間電圧がS/H回路67で記憶保持される。
【0098】
その後、時刻t43では、スイッチ回路64の接点がa側に接続されることにより定電流回路65が選択され、A/Fセンサ10には「IL1+IL2」の電流が流れる。この時刻t43では、P/H回路68が一時的にピークホールドの状態となり、IL2分の電流変化に伴う電圧変化時のピーク値がP/H回路68により記憶保持される。なお本実施の形態でも、素子抵抗値として交流インピーダンスを検出することとし、電流変化後、数10μsec経過までのピーク値がP/H回路68により計測される。
【0099】
また、時刻t44〜t45では、スイッチ回路64の接点がc側に接続されることにより先程のa側とは逆向きの電流が流れる。つまり、A/Fセンサ10に「IL1−IL3」の電流が流され、次回のA/F検出のための準備が行われる。更にその後、時刻t46では、スイッチ回路61が接点a側に戻され、通常のA/F検出が再開される。またその直後に、S/H回路30が元のサンプル状態に戻される。
【0100】
上記の通り素子電流の変化前後のセンサ端子間電圧がS/H回路67とP/H回路68とに記憶保持されると、これら両回路67,68の電圧値の差が差動増幅器69で差動増幅され、その演算結果が素子抵抗出力として外部に出力される。素子抵抗出力は、外部に接続されるマイコン等(図示略)によって素子インピーダンスに変換される。
【0101】
かかる場合、定電流回路65の定電流IL2が素子電流変化量ΔI、S/H回路67とP/H回路68との出力電圧の差(差動増幅器69の出力)が電圧変化量ΔVとなり、これらΔI、ΔVから素子抵抗値が算出される(素子抵抗値=ΔV/ΔI)。
【0102】
以上第5の実施の形態によれば、素子抵抗検出時に素子電流を変化させてその時の電圧変化量を計測する装置において、素子抵抗検出時の電圧変化のピーク値をP/H回路55で保持するので、センサ劣化や回路バラツキ等の要因等に関係なく、電圧変化のピーク値が容易に且つ正確に計測できる。その結果、素子抵抗を正確に検出することができる。
【0103】
また、差動増幅器69の後段には、その出力を次回の素子抵抗の検出時まで保持するためのS/H回路70を設けたので、素子抵抗の検出値が無くて各種制御に悪影響が及ぶといった問題が回避される。
【0104】
なお、本発明は、上記以外に次の形態にて具体化できる。
第1〜第3の実施の形態において、信号SG1〜SG4を出力するためのタイミング調整回路25をマイコンにて具体化する。この場合、マイコンを使うことでコスト高になるものの、既述の通りP/H回路31で素子抵抗検出時の電流ピーク値を計測することで、同ピーク値を誤差無く検出することができる。その結果、素子抵抗の検出精度が向上する。またこの場合、センサ特性に応じた周波数で変化する素子電流を細かく監視する必要がないため、マイコンの演算負荷が大幅に低減される。また、第4,第5の実施の形態においても同様に、タイミング調整回路をマイコンにて具体化しても良い。
【0105】
上記第4,第5の実施の形態において、空燃比検出装置の構成を以下のように変更する。例えば図8において、差動増幅器56の後段に、S/H回路57に代えてLPFを設ける。また図10において、差動増幅器69の後段に、S/H回路70に代えてLPFを設ける。本構成によれば、差動増幅器の出力値の変化がLPFによりなまされ、同出力値を素子電流出力として継続的に使うことが可能となる。従って、素子抵抗の検出値が無くて各種制御に悪影響が及ぶといった既述の問題が回避される。
【0106】
また、上記第4,第5の実施の形態において、素子抵抗検出のための電流変化時など、差動増幅器56,69の出力が安定しない時期に同出力の使用を一時的に禁止する。この場合、不確かな素子抵抗出力が各種制御に使われることはなく、各種制御に悪影響が及ぶといった問題が回避される。
【0107】
上記第4,第5の実施の形態では、素子抵抗検出時における電流変化に対し、単位時間内(数10μsec)の電圧ピーク値をピークホールド回路(P/H回路55,68)で記憶保持したが、この構成を変更する。例えば、素子抵抗検出時における電流変化に対し、単位時間前後(数10μsec前後)の電圧変化をサンプルホールド回路で記憶保持する。かかる場合にも既述の通り、センサ劣化や回路バラツキ等の要因等に関係なく、電圧変化のピーク値が容易に且つ正確に計測でき、結果として素子抵抗を正確に検出することができる。
【0108】
上記各実施の形態では、図2に示す積層型A/Fセンサを用いて空燃比検出装置を具体化したが、同センサをコップ型A/Fセンサに変更してもよい。また本発明は、A/Fセンサを用いた空燃比検出装置以外にも適用できる。つまり、NOx,HC,CO等のガス濃度成分が検出可能なガス濃度センサを用いたガス濃度検出装置にも適用できる。当該他のガス濃度検出装置においても上記実施の形態と同様の手法を用いることで、センサ素子部の抵抗値が正確に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施の形態における空燃比検出装置の概要を示す構成図。
【図2】A/Fセンサのセンサ素子部の構成を示す断面図。
【図3】A/Fセンサの電圧−電流特性を示す図。
【図4】空燃比検出装置の動作を説明するためのタイムチャート。
【図5】第2の実施の形態において空燃比検出装置の構成の一部を示す図。
【図6】第3の実施の形態において空燃比検出装置の構成の一部を示す図。
【図7】第2,第3の実施の形態において空燃比検出装置の動作を説明するためのタイムチャート。
【図8】第4の実施の形態において空燃比検出装置の構成を示す図。
【図9】第4の実施の形態において空燃比検出装置の動作を説明するためのタイムチャート。
【図10】第5の実施の形態において空燃比検出装置の構成を示す図。
【図11】素子抵抗検出時の電流及び電圧変化を示す図。
【図12】第5の実施の形態において空燃比検出装置の動作を説明するためのタイムチャート。
【図13】素子抵抗と素子温との関係を示す図。
【図14】従来技術において空燃比検出装置の概要を示す構成図。
【図15】A/Fセンサの印加電圧と素子電流との推移を示すタイムチャート。
【図16】電流ピーク値の発生時期の変化を説明するためのタイムチャート。
【符号の説明】
10…ガス濃度センサとしてのA/Fセンサ(限界電流式空燃比センサ)、10a…センサ素子部、11…固体電解質、25…タイミング調整回路、26…LPF、30…サンプルホールド(S/H)回路、31…ピークホールド(P/H)回路、32…サンプルホールド(S/H)回路、41…LPF、51…スイッチ回路、52…タイミング調整回路、53…定電流回路、54,57…S/H回路、55…P/H回路、56…差動増幅器、61…スイッチ回路、62…タイミング調整回路、63,65…定電流回路、67,70…S/H回路、68…P/H回路、69…差動増幅器。
Claims (11)
- 固体電解質を用いた素子部を有し、電圧の印加に伴い被検出ガス中の特定成分の濃度に応じた電流信号を出力するガス濃度センサに適用され、ガス濃度検出のために前記素子部に印加した電圧を、センサ特性に応じた周波数で素子検出用の電圧に一時的に切り換え、その時の電圧変化と電流変化とから前記素子部の抵抗値を検出する素子抵抗検出装置であって、
素子抵抗検出時の電流変化又は電圧変化を監視し、その監視結果を保持するためのホールド回路として、素子抵抗検出時における電流変化のピーク値を保持するためのピークホールド回路を備えることを特徴とするガス濃度センサの素子抵抗検出装置。 - 固体電解質を用いた素子部を有し、電圧の印加に伴い被検出ガス中の特定成分の濃度に応じた電流信号を出力するガス濃度センサに適用され、ガス濃度検出時に前記素子部に流れる電流の値を、所定値に一時的に切り換え、その時の電圧変化と電流変化とから前記素子部の抵抗値を検出する素子抵抗検出装置であって、
素子抵抗検出時に、前記素子部の一方の端子を一時的に開放状態とした後、素子部へ定電流を流す定電流源と、前記開放状態での素子部の一方の端子電圧をサンプルしてこれを保持するサンプルホールド回路と、定電流を流した時の端子電圧を監視し、そのピーク値を保持するピークホールド回路とを備え、これらサンプルホールド回路及びピークホールド回路でそれぞれ保持した電圧値の差に基づいて素子抵抗値を求めるガス濃度センサの素子抵抗検出装置。 - 固体電解質を用いた素子部を有し、電圧の印加に伴い被検出ガス中の特定成分の濃度に応じた電流信号を出力するガス濃度センサに適用され、ガス濃度検出時に前記素子部に流れる電流の値を、所定値に一時的に切り換え、その時の電圧変化と電流変化とから前記素子部の抵抗値を検出する素子抵抗検出装置であって、
素子抵抗検出時に、前記素子部に所定の定電流を流す定電流源と、前記定電流源による電流変化前の素子部の両端子間電圧をサンプルしてこれを保持するサンプルホールド回路と、電流変化後の素子部の両端子間電圧を監視し、そのピーク値を保持するピークホールド回路とを備え、これらサンプルホールド回路及びピークホールド回路でそれぞれ保持した電圧値の差に基づいて素子抵抗値を求めるガス濃度センサの素子抵抗検出装置。 - 請求項3に記載の素子抵抗検出装置において、
ガス濃度検出の状態から素子抵抗検出の状態に切り換える時、切り換え直前に素子部に流れる電流値と同値の定電流を流し、その後、電流値を所定値分だけ変化させるガス濃度センサの素子抵抗検出装置。 - 請求項2〜4の何れかに記載の素子抵抗検出装置において、
電流変化後の電圧変化を監視するためのピークホールド回路は、素子抵抗検出時における電流変化後、所定の微小時間でのピーク値を記憶保持するガス濃度センサの素子抵抗検出装置。 - 前記ピークホールド回路で保持した素子抵抗検出時における電流変化又は電圧変化の監視結果を、次回の素子抵抗の検出時まで保持するためのサンプルホールド回路を更に備える請求項1に記載のガス濃度センサの素子抵抗検出装置。
- 前記ピークホールド回路で保持した素子抵抗検出時における電流変化又は電圧変化の監視結果を取り込むためのローパスフィルタを備える請求項1に記載のガス濃度センサの素子抵抗検出装置。
- 請求項7に記載の素子抵抗検出装置において、
素子抵抗検出の直前に前記ピークホールド回路のホールド値がクリアされるガス濃度センサの素子抵抗検出装置。 - 前記ピークホールド回路で素子抵抗検出時における電流変化又は電圧変化を監視する際に、その時の監視結果の使用を一時的に許可しない旨の信号を出力する請求項1に記載のガス濃度センサの素子抵抗検出装置。
- ガス濃度検出時の素子電流を取り込むためのガス濃度検出用サンプルホールド回路を備え、前記素子抵抗の検出期間において、ガス濃度検出用サンプルホール ド回路は同検出期間の直前における素子電流の検出値を保持する請求項1〜9の何れかに記載のガス濃度センサの素子抵抗検出装置。
- ガス濃度検出と素子抵抗検出とを所定のタイミングで切り換えて選択的に実施させるためのタイミング調整回路を備える請求項1〜10の何れかに記載のガス濃度センサの素子抵抗検出装置。
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