JP4195539B2 - 高炉炉底湯流れ検知方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高炉の炉芯状態を検知推定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の高炉の寿命は、多くの高炉において炉床部の耐火物の浸食が最大の支配要因であり、炉床部の耐火物の浸食には溶銑の流れが大きな影響を及ぼすので、局所的に溶銑流が集中して熱負荷が高くならないように操業管理されている。
即ち、図8に示す如く、操業中の高炉1炉内の炉床部分には、炉芯と呼ばれるコークスの充填領域2が存在し、その充填コークス非充填部3には鉱石の還元・溶融によって生じた溶銑・溶滓がたまっている。
【0003】
溶銑の流れ10は炉体の耐火物が欠落した欠損部分9等の浸食プロフィルや浸食面上に生成した凝固層の形状・炉芯の下端形状・炉芯内の通液性などによって異なる。例えば、図8に示す如く、炉芯がほぼ完全に沈下して炉底に近接しているときに比べ、図9に示す如く、炉芯全体が浮上して炉底との間に隙間ができているときは、この隙間を溶銑が多く流れる。また、図示はしないが炉芯の中心部が炉底に接触して周辺部が浮いて隙間があるときは、この周辺部の隙間を通って出銑口へ向かう環状の流れができる。
【0004】
炉底レンガには通常カーボンを主成分とする耐火物が使われているが、溶銑が多く流れる部分に相当する炉底あるいは炉床側壁部の耐火物は熱負荷を多く受ける。通常の高炉操業における操業管理は、炉床部の溶銑流を直接測定することができないため、炉底あるいは炉床側壁部の耐火物に埋設した温度計により耐火物の温度変化を監視し、温度が上昇した場合に、羽口から溶銑凝固層の生成を促進するチタン含有粉体を吹き込んだり、冷却を制御したりして温度上昇を抑制する操業アクションを採る。
【0005】
炉床部の溶銑の流速分布を直接測定する方法はないが、流れの状態を検知する手段としては、例えば羽口から放射性元素を打ち込んで出銑口で放射強度を測定する方法が特開昭62−146206号公報に記載されている。
また、特開平4−297511号公報には、「コークス層の非充填領域」の有無が炉底損耗に大きな影響を及ぼすことに着目し、羽口から熱風とともにCo、Ni、Tiあるいはそれらの酸化物からなる粉体(以下、これをトレーサーという)を吹き込んで、それが排出されるまでに要する時間(排出時間)から炉底にコークス層の非充填領域が形成されているか否かを判断する技術が報告されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
通常行われている耐火物の温度を監視する方法は、耐火物や溶銑凝固層の熱伝導率等の物性値を仮定して耐火物の浸食位置あるいは凝固層の生成ラインを推定する方法であり、それ自身精度よい推定が困難である上に、炉内の溶銑流れは推定できない。また、特開昭62−146206号公報に記載の方法は、高炉休風直後の湯流れの状態から炉底中心部の不活性部分の多少を判断しようとするものであり、測定時期と推定する炉内状況が限定されている。
【0007】
また、特開平4−297511号公報の技術においては、コークス層の非充填領域(コークフリー層)の形成という炉底全域に及ぶ現象が生じているか否かを把握するだけのためにトレーサーの排出時間を調べているにすぎず、炉内の湯流れ状況を的確に把握することは出来ない。そのため局部的であるにせよ炉底あるいは炉床側壁の耐火煉瓦の侵食が懸念されるという炉内状況になったことをタイミングよく的確に推定することは出来ない。
そこで本発明では、炉底部の延命を測る上で、炉底部分の溶銑の湯流れ分布を的確に把握することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
(特徴点)本発明は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を備えている
【0011】
請求項記載の発明は、高炉操業中の複数の羽口に、それぞれ異なる種類のトレーサー物質を投入し、出銑口より出銑した溶銑中の各トレーサー物質をトレーサー物質測定手段により経時的に測定し、次いで、出銑口の切り替えの後に、出銑口切替前と同様にそれぞれ異なる種類のトレーサー物質を複数の羽口に投入し、羽口測定手段により経時的に測定すると共に、出銑口の切り替えの前後の各トレーサー排出状況を、所定の基準値と比較し炉床の湯流れ及び炉芯状態を推定するものである。
【0012】
請求項記載の発明は、出銑口切替後のトレーサー物質を投入する複数の羽口を、出銑口切替前のトレーサー物質を投入する複数の羽口と出銑口と同一の位置関係にある羽口を用いたことを特徴とするものである。
【0013】
さらに、請求項記載の発明は、トレーサー物質測定手段として、レーザ光を用いた測定装置を用いたこと、又は、請求項記載の発明は、トレーサー物質は、Co、Ni、Cr又はCuの金属又はこれらの酸化物であることを特徴とするものである。
【0014】
(作用)
本発明は、上述した特徴点を備えているため、以下に説明するような作用を奏する。
請求項1記載の発明では、高炉操業中に複数の羽口に、それぞれ異なる種類のトレーサー物質を投入し、出銑口内の各トレーサー物質測定手段により経時的に測定している。そして各トレーサー排出状況を、測定したその羽口の高炉炉底部が正常な状態時の正常状態の羽口の基準値と比較する。トレーサー物質は、コークス充填層内を通過するときは、抵抗が大きくゆっくり流れるが、コークス非充填部である溶銑内を通過するときは比較的早く流れる。この為、高炉炉底部が正常な状態時の正常状態の基準値と比較し、投入した羽口の測定曲線を対比し、測定曲線が短時間の方向に平行移動している場合には、コークス非充填部である溶銑の部分を多く流れていることが判る。同様に他の羽口から投入したトレーサー物質の測定値をその羽口の基準値と対比し判別する。ずれる量が他の羽口の測定値と同様の比で早くずれているときは、炉芯が浮上していると推定される。
他方、一つの羽口のみが基準値より速くなっているときは、その羽口近傍の湯流れの異常を推定することが出来る。
【0015】
次に、請求項2記載の発明では、請求項1で測定した結果で、特定の羽口の基準値と異なる場合に、その羽口と近接した1個又は複数個の羽口に異なる2次トレーサー物質を投入し各トレーサー排出状況を測定する。そして、基準値と2次排出状況も加味して比較することにより、当該流路のコークス非充填部の広がり状況を推定できる。
【0016】
請求項3記載の発明は、出銑口に対し左右線対称の位置の羽口から異なるトレーサー物質を投入し、出銑口内の各トレーサー物質測定手段により経時的に測定し、両測定値比較することが出来ることより、左右にばらつきが大きい場合、片方の湯流れが多いこと、即ち炉芯の下端形状が突出していて、コークスの充填層が偏って浮いている、或いは炉芯内の通液性が左右で異なることを推定することが出来る。
【0017】
請求項4及び5記載の発明は、出銑口切替前後の測定値を比較することにより特定の羽口の特異な測定値が測定された場合には、その羽口近傍に耐火物の欠損部分が生じていることになる。また、請求項5に記載の発明の如く、出銑口切替後のトレーサー物質を投入する複数の羽口を、出銑口切替前のトレーサー物質を投入する複数の羽口と出銑口と同一の位置関係にある羽口を用いることによりより、より正確に溶湯流れを判別できる。
【0018】
さらに、トレーサー物質測定手段として、レーザ光を用いた測定装置を用いることにより、連続的にトレーサー物質を数値を測定することが出来るより、確実な湯流れ及び炉芯状態を推定することができる。
又は、トレーサー物質として、Co、Ni、Cr又はCuの金属又はこれらの酸化物を用い、放射性同位元素(RI)を使用せずに安全に測定できるものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づき説明するが、本発明は本実施の形態に限るものではない。
図1は、本発明の炉芯と炉底部の関係を示す縦断面説明図、図2は、本発明の炉と炉芯部の関係を示す横断面説明図である。
高炉炉体1に、炉芯コークス充填層2が、溶銑よりなるコークス非充填部3の上に浮く形式で充填されている。そして、溶銑は、出銑口4より出銑されトレーサー物質測定手段5を設けている出銑樋6に排出される。
また、高炉炉体には複数(図2の実施例ではa〜rの18個)の羽口7が設けられている。
図中8は、羽口7から投入されるトレーサー物質、9は炉底部分に生じている耐火物の欠損部分である。
【0020】
ここでトレーサー物質測定手段5としては、例えば特公平3−39631号公報に記載の技術をはじめとするレーザ発光分析を用いることができる他、溶銑を一定時間ごとにサンプリングし、これを酸で溶解し原子吸光法等により測定するなど適宜測定手段で測定する。
トレーサー物質としては、Co、Ni又はCu等の金属又はこれらの酸化物を用いることが出来る。
【0021】
まず、高炉炉床部の炉芯状態および湯流れが正常な状態時の基準値を事前に求めておく。この基準値は高炉の1炉代を通して変化しない絶対的なものではなく、高炉は火入れ後の経年とともに耐火物が溶損して炉床プロフィルが変化するので、その時々における安定操業時の測定値を次に溶損が累積して変化が顕著になるまでの当面の基準値とする。
例えば、高炉操業開始後では、炉床全休がコークス充填層2でほぼ均一な充填構造をもち、コークス非充填部3がない状態を基準とし、各羽口(a〜r)に、トレーサー物質8を投入し、これを出銭口で測定し、蓄積したデータを正常状態の基準値の波形として求める。このとき図2のc,i,nの羽口から投入したトレーサー物質の測定値を代表として示すと図3のごとくなると考えられる。すなわち、炉床が均一な充填構造の時は、出銑口に近いほど流れが集まるため流速が速く、トレーサー投入羽口が出銑口から近いc,n,iの順にトレーサーの到達が早く、かつ狭く鋭いピークを持つ。
【0022】
これに対して、高炉の経年にともない炉底の耐火物が溶損して炉底が操業開始時に比べて深くなり、炉芯コークスが溶銑の浮力によって浮上し、炉底部にコークス非充填部3が生成した場合は、炉芯コークス充填層2がほぼ均一な充填構造をもち、コークス非充填部3が炉底部全面に一様にある状態を基準とし、各羽口(a〜r)に、トレーサー物質8を投入し、これを出銑口で測定し、蓄積したデータを正常状態の基準値の波形として求める。このとき図2のc,i,nの羽ロから投入したトレーサー物質の測定値を代表として示すと図4のごとくなると考えられる。すなわち、通液抵抗が小さいコークス非充填部3の流速が大きくなり通過流量が増え、逆にコークス充填層2を通過する液量が減って流速は小さくなるため、出銃口近傍のcは高炉操業開始直後に比へてややトレーサーの到達が遅れ、ピークは広く低くなる。出銑口と直角の位階にあるnは流速が遅いコークス充填層2の通過距離が長いためトレーサーの到達は遅く、ピークは低く広くなる。これに対し出銑口と反対側に位置するiはトレーサーが下方に移動して炉底のコークス非充填部3に到達し、流速の速いコークス非充填部を通過する距離が長いため出銑口に早く到達し、ピークは狭く高くなる。
【0023】
次に具体的に、高炉炉底湯流れ検知方法について述べる。
上述の高炉構成で、高炉操業中に例えば羽口7(c,i,n)の3つの羽口にほぼ同時に、それぞれ、Cu,Co及びNiのトレーサー物質8を、それぞれ投入する。出銑口4内の各トレーサー物質測定手段5により経時的に測定している。そして各トレーサー排出状況を、測定したその羽口の高炉炉底部が正常な状態時の基準値と比較する。
ここで、異なるトレーサー物質8を投入するのは、複数の羽口からの測定値を合わせて同時刻の炉内の湯流れを的確に把握することにあり、また他の羽口の測定値と混同を生じることを防止するため、及び近接した羽口の測定も可能とするためである。
【0024】
図5は、3つの羽口7(c,i,n)に投入したトレーサー物質8が、出銑口4から排出された時の、トレーサー物質8の排出状況を、基準曲線c,i,nと測定曲線c′,c″,i′,n′を併せて表した模式的説明図である。
トレーサー物質8は、コークス充填層2内を通過するときは、抵抗が大きくゆっくり流れる。しかし、コークス非充填部3である溶銑内を通過するときは比較的早く流れる。この為、図5の測定曲線c′,i′,n′に示す如く、投入されたトレーサー物質8は、基準値より排出時間が短いときは、コークス非充填部3の部分を多く通過していることになり、トレーサー投入羽口と出銑口の間の炉芯の浮上状態がより大きいと推定することが出来る。
【0025】
また、図5の測定曲線c″に示す如く、羽口7(c)に投入されたトレーサー物質8のみが他の羽口に投入されたトレーサー物質8に比べ、基準値より非常に排出時間が短いときは、羽口7(c)と出銑口4との間の流路のみが、他の流路に比べコークス非充填部3の部分を多く含むことになり、トレーサー物質8が通過するコークス充填層2が一部薄くなっている、或いはこの湯流れのルート上の炉壁に欠損部分9が生じ流路が拡大している場合が推測される。
【0026】
図6は、2つの羽口7(d,o)に投入したトレーサー物質8が、出銑口4から排出された時の、トレーサー物質8の排出状況を、基準曲線d(又はo)と測定曲線d′,o′を併せて表した模式的説明図である。
ここで本来流路の長さは、ほぼ等しいものであることことより、測定曲線d′,o′は一致することになるが、図6に示すように測定曲線d′が大幅にその測定曲線が速い方にずれており、このことは、羽口d側にコークス非充填部3が存在し、コークスの充填層が偏って浮いているか、或いは羽口側の通液性が羽口dに比べて悪いことを推定することが出来る。
【0027】
図7は、3つの羽口7(c,i,n)に投入したトレーサー物質8の測定後、出銑口4をAからBに切替え、前記3つの羽口7(c,i,n)に対応する羽口7(l,r,e)に投入したトレーサー物質8の排出状況を測定した模式的説明図で、切り替え前の測定曲線c′,i′,n′と切り替え後の測定曲線l′,r′,e′を併せて表している。
図において、切替前後において、それぞれの曲線がほぼ同じ値でずれている。これは切替前の出銑口4のA側と切替後出銑口4のB側の炉床の状態が異なる異なることが推測することが出来る。
【0028】
【発明の効果】
本発明は、上述のように複数のトレーサー物質を使用することにより、高炉の炉床の湯流れの状況を把握できまた、コークス充填層の状態、及び高炉炉体底部の耐火物の損傷等の推測することが出来ることより、羽口から溶銑凝固層の生成を促進するチタン含有粉体を吹き込んだり、冷却を制御したりして温度上昇を抑制する操業アクションを採ることが出来、高炉の寿命延長を測ることが出来る等優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の高炉炉床部の炉芯と炉底部の関係を示す縦断面説明図である。
【図2】本発明の高炉炉床部と炉芯部の関係を示す横断面説明図である。
【図3】炉芯が沈降した状態における、正常状態の基準値の波形の一例を示した説明図である。
【図4】高炉を経年使用し炉芯が上昇した状態における、正常状態の基準値の波形の一例を示した説明図である。
【図5】3つの羽口から投入したトレーサー物質の排出状況を表す基準曲線と測定曲線を表した模式的説明図である。
【図6】対称の位置の羽口から投入したトレーサー物質の排出状況を表す基準曲線と測定曲線を表した模式的説明図である。
【図7】出銑口切替前後に、それぞれ投入したトレーサー物質の排出状況を表す基準曲線と測定曲線を表した模式的説明図である。
【図8】高炉の炉床部分を示す断面説明図である。
【図9】高炉の炉床側部に欠損部分が生じた状態を示す断面説明図である。
【符号の説明】
1 高炉炉体
2 炉芯コークス充填層
3 コークス非充填部
4 出銑口
5 トレーサー物質測定手段
6 出銑樋
7 羽口
8 トレーサー物質
9 欠損部分

Claims (4)

  1. 高炉操業中の複数の羽口に、それぞれ異なる種類のトレーサー物質を投入し、出銑口より出銑した溶銑中の各トレーサー物質をトレーサー物質測定手段により経時的に測定し、次いで、出銑口の切り替えの後に、出銑口切替前と同様にそれぞれ異なる種類のトレーサー物質を複数の羽口に投入し、羽口測定手段により経時的に測定すると共に、出銑口の切り替えの前後の各トレーサー排出状況を、所定の基準値と比較し炉床の湯流れ及び炉芯状態を推定する高炉炉底湯流れ検知方法。
  2. 出銑口切替後のトレーサー物質を投入する複数の羽口を、出銑口切替前のトレーサー物質を投入する複数の羽口と出銑口と同一の位置関係にある羽口を用いたことを特徴とする請求項1に記載の高炉炉底湯流れ検知方法。
  3. トレーサー物質測定手段として、レーザ光を用いた測定装置を用いたことを特徴とする請求項1または2に記載の高炉炉底湯流れ検知方法。
  4. トレーサー物質は、Co、Ni、Cr又はCuの金属又はこれらの酸化物であることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の高炉炉底湯流れ検知方法。
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