JP4193499B2 - 組換え発光蛋白質およびその複合体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アミノ末端領域にシステイン残基を導入した組換えカルシウム結合型発光蛋白質に関する。また、検出すべき物質に特異的に結合するリガンドを該システインを介して結合させた複合体、その複合体を発光性標識として用いる物質の検出方法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
カルシウム結合型発光蛋白質は、カルシウムと特異的に反応し、瞬間発光する蛋白質であり、現在イクオリン、オベリン、クライチン、マイトロコミン、ミネオプシンおよびベルボイン等が知られている。これらの発光蛋白質のカルシウムイオンに対する感受性は非常に高く、その発光感度もまた、市販の検出装置においての検出限界が1ピコグラム以下と非常に高いものである。このため、これらの発光蛋白質は、微量カルシウムイオンの検出・定量や細胞内カルシウムの動的変化のイメ−ジプローブとして用いられている。これらの発光蛋白質は、その発光がカルシウムイオンとの特異的結合による発光であるため、通常の化学発光で問題になるバックグランドがほとんどなく、且つ反応自体が瞬間発光で数秒以内に終了するため、短時間にS/N比のよいシグナルを得ることができるという利点を有する。
【0003】
さらに、その発光反応系は、生物発光と呼ばれる酵素発光反応であり、全て生体内由来の成分で構成されているため、有害な化学物質等(例えばラジオアイソトープや発癌性化合物等)を含んでおらず安全性が高い。このため、当該発光蛋白質は診断薬等における標識としての応用が期待されている。
【0004】
イクオリンをはじめとするカルシウム結合型発光蛋白質をイムノアッセイ等における標識として用いる場合、その標識を検出すべき物質と関連付けることが必要である。つまり、標識となる発光蛋白質を、検出すべき物質に直接結合させるか、または、何らかの物質を介して間接的に結合させる必要がある。本明細書においては、検出すべき物質と発光蛋白質(標識)を関連付ける物質であって、検出すべき物質に直接的に結合する物質、または、検出すべき物質に間接的に結合する物質を「リガンド」と称する。リガンドとしては、後で詳細に説明するように、例えば、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、抗原、抗体等があげられる。
【0005】
カルシウム結合型発光蛋白質は比較的不安定であるため、リガンドとの結合の際にその発光活性が失活する可能性がある。また、より正確な分析・診断結果を得るためには、発光蛋白質とリガンドとの結合比率が1:1またはそれに近いことが所望される。もし、リガンドと発光蛋白質が結合比率1:1にて結合したリガンド−発光蛋白質からなる複合体が得られれば、迅速且つ正確な診断・検出系を確立することができる。
【0006】
カルシウム結合型発光蛋白質の代表的なものは、オワンクラゲ(Aequorea aequorea)から得られたイクオリン(aequorin)である。イクオリンは、アポ蛋白質部分であるアポイクオリン(apoaequorin)と発光基質に相当するセレンテラジン(coelenterazine)と分子状酸素が複合体を形成した状態で存在している。イクオリン分子にカルシウムイオンが結合すると、青色(極大波長465nm)の瞬間発光を示し、セレンテラジンの酸化物であるセレンテラミド(coelenteramide)、二酸化炭素を生成する。発光反応後、アポイクオリンは、EDTA等のキレート剤によりカルシウムイオンを除去し、還元剤、セレンテラジンおよび酸素の存在下にて低温にてインキュベーションすることによってイクオリンに再生することができる。イクオリンは、アポイクオリンをコードする遺伝子の解析により、189個のアミノ酸からなる蛋白質であることが知られている。そのアミノ酸配列は配列番号:1に示される。イクオリンは、カルシウム結合蛋白質のカルモジュリンと相同性があり、カルシウム結合のためヘリックス−ループ−へリックス構造であるEFハンドモチーフが3カ所あることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、X線結晶解析により、C末端付近の184番目のチロシン残基が発光基質であるセレンテラジン(coelenterazine)のペルオキシドの安定化に関与していることが示唆されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
イムノアッセイ等の一般的な診断検出系において、汎用される方法の一つがビオチン−アビジン(またはストレプトアビジン)であり、イクオリンのビオチン化が報告されている(例えば、非特許文献3参照)。Zattaらのビオチン化イクオリンは、イクオリンの遊離のアミノ基(−NH2)をビオチン化したものである。Zattaらの方法により修飾される可能性のあるアミノ基は、アミノ末端のアミノ基1箇所と15箇所のリジンのアミノ基であるが、どのアミノ基がどの程度の比率でビオチン化されるかは一定でない。また特定の部位のアミノ基のみを特異的に修飾する方法は確立されていない。すなわち、イクオリンの遊離のアミノ基を介してビオチンを結合させる方法によっては、高品質なビオチン化イクオリンは未だ提供されていない。
【0008】
カルシウム結合型発光蛋白質には、分子内に3〜6個のシステイン残基が存在することがその遺伝子解析より明らかとなっている。また、イクオリンとオベリンはX−線による構造解析が行われており、全てのシステイン残基はジスルフィド結合を形成しておらず、フリーの状態で存在していることが明らかになっている。さらにイクオリンはシステインの−SH基への低分子化学修飾剤N−エチルマレイミドやヨード酢酸により、容易にその発光活性を失活することも知られている(例えば、非特許文献4参照)。
【0009】
本発明者らは、すでにイクオリンの分子内に存在する3個のシステイン残基をセリン残基に変換したシステインフリーの変異イクオリンが発光活性を有することを報告している(例えば、非特許文献5参照)。このシステインフリーの変異型イクオリンを構成するアポイクオリンの5番目のセリン、53番目のグルタミン酸、71番目のメチオニン、84番目のグルタミン酸をシステインに置換したアポイクオリンを作り、そのシステインを介してチロキシンを結合させたチロキシン−アポイクオリン複合体を作り、これをチロキシン−イクオリン複合体に再生したことが報告されている(例えば、非特許文献6参照)。しかし、これは、天然型イクオリンが持つ3つのシステイン残基を全てセリンに置換し、新たに導入した唯一のシステインを修飾したものである。すなわち、これまで天然型イクオリンがもつ固有の3個のシステイン残基を保持したまま、新たに導入したシステイン残基の−SH基にリガンドを結合させてなお発光活性を維持しているものは得られていない。
【0010】
アポイクオリンを修飾してからイクオリンに再生するLweis等の方法では、再生されたイクオリンを修飾する場合に比較して収率が低い。また、イクオリンへの再生機構を考慮すると、修飾されたイクオリンを再生する方法では、修飾に用いられる化合物は再生過程に影響の少ない特定の化合物に限定される。一方、再生されたイクオリンを修飾する場合には、リガンド分子が特定されることはない。さらに、Lweis等の方法では、リガンド−イクオリン複合体、リガンド−アポイクオリン複合体、未修飾イクオリン、未修飾アポイクオリンの分離が行われていない。したがって、イクオリンに導入したシステイン−SH基を介してリガンドを結合させた均一なリガンド−イクオリン複合体で、実際の分析に応用できるものは未だに提供されていない。
【0011】
【非特許文献1】
Inouye et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82(1985): 3154〜3158
【非特許文献2】
Head et al., Nature 405 (2000): 372〜376
【非特許文献3】
Zatta et al., Anal. Biochem. 194(1991): 185〜191
【非特許文献4】
Shimomura et al., Biochemistry 13(1974): 3278-3286
【非特許文献5】
K. Kurose et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86(1989): 80-84
【非特許文献6】
Lewis et al., Bioconjugate Chem. 11(2000): 65-70 & 140-145
【非特許文献7】
Nomura et al., FEBS Lett. 295(1991): 63-66
【非特許文献8】
Inouye et al., J. Biochem., 105(1989): 473-477
【非特許文献9】
Inouye et al., Protein Expression and Purification 2(1991):
122-126
【非特許文献10】
Shimomura et al., Biochem. J. 296(1993): 549〜551
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、カルシウム結合型発光蛋白質にシステインを導入し、その−SH基を介してリガンドと1:1またはそれに近い結合比率で結合させることによって、発光活性のあるリガンド−発光蛋白質の複合体を提供することを目的とする。また、その複合体をイムノアッセイ等において標識として使用することも本発明の目的である。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、カルシウム結合型発光蛋白質としてイクオリン、リガンドとしてビオチンを用いて、発光蛋白質−リガンドの複合体について検討した。その結果、カルシウム結合型発光蛋白質を構成するアポ蛋白質に、一つのシステインをN−末端領域、特に天然型発光蛋白質のN−末端から4番目のアミノ酸残基までの領域に導入することにより元の発光蛋白質と同じ発光活性のある蛋白質が製造できること、それをリガンドと結合させると結合比率が1:1もしくはそれに近い複合体を製造しうること、その複合体が標識として使用できることを見出した。
【0014】
前述のように、天然型イクオリンに存在するシステインに修飾を施すとその発光活性が低下するので、システインを介してリガンドを結合させるためには、新たにシステインを導入することが必要である。既にC末端領域あるいはC末端のアミノ酸を変更すると発光活性が低下することが知られている(例えば、非特許文献7参照)ので、C末端領域にシステインを導入することは適当でない。このため、イクオリン自身の安定性、アポイクオリンからイクオリンへの再生効率、システイン残基の導入によるイクオリンの高次構造への影響等を考慮した。その結果、天然型のアポイクオリンのN−末端から4番目のアミノ酸残基以内にシステイン残基の導入を試みた。その結果、驚くべきことに、得られたイクオリンは発光活性の低下がないこと、本来存在する3個のシステインに何らの影響がなく導入されたシステインのみにリガンドを結合させ得ること、そのようにして得られたリガンド−イクオリンが元の発光活性を維持していることが判明した。導入されたシステインのみにリガンドが導入され、固有の3個のシステインにリガンドが導入されないのは、(1)導入されたシステインはN−末端付近にあって、蛋白分子の表面に露出している(2)固有の3個のシステインが蛋白分子の内部に存在する(3)リガンドを結合させるための−SH基修飾試薬が蛋白分子内部に入り難い大きさであったことに起因すると考えられる。
【0015】
カルシウム結合型発光蛋白質は、(1)セレンテラジンを基質とする(2)アポ蛋白質とセレンテラジンと酸素が結合して発光蛋白質を構成する(3)その発光蛋白質がカルシウムイオンの作用によって発光しアポ蛋白質とセレンテラミド(セレンテラミンの酸化物)および二酸化炭酸を発生する点で共通し、そのアミノ酸配列において類似性が高い。したがって、このイクオリンについて得られた結果は、他のカルシウム結合型発光蛋白質にも応用できる。
【0016】
本発明は、天然型アポ蛋白質のアミノ末端から4番目のアミノ酸残基内に一つのシステインが導入された天然型または変異型のアポ蛋白質を構成成分とする組換えカルシウム結合型発光蛋白質である。ここで変異型の蛋白質とは、導入したシステインを維持し発光活性を損なわない範囲で、1〜5個のアミノ酸を失欠、置換、付加することによって改変した蛋白質である。蛋白質の改変においては、導入したシステインのみならず天然型発光蛋白質が有する全てのシステインを維持することが望ましい。何故ならば、天然型イクオリンが有する3個のシステインをセリンに変換した場合には、アポイクオリンからイクオリンへの再生に要する時間が3時間から24時間に増加するからである(例えば、非特許文献5参照)。また、カルシウムとの結合のための構造、発光基質の安定化に必要な部位に変更を加えてはならない。カルシウム結合型発光蛋白質としては、イクオリン、オベリン、クライチン、マイトロコミン、ミネオプシンおよびベルボインが挙げられる。システイン導入カルシウム結合型蛋白質は、システイン導入アポ蛋白質を発光基質であるセレンテラジンと酸素の存在下で処理することによって製造される。発光基質としては、セレンテラジンの外に発光活性を有するセレンテラジンのアナログ化合物を用いることもできる。
【0017】
天然型アポイクオリンのアミノ酸配列は、配列番号:1に示される。システインは、アミノ末端のValから4番目のThrまで領域に導入される。したがって、本発明のカルシウム結合型発光蛋白質の1態様は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列のアミノ末端から4番目のアミノ酸残基内に一つのシステインが導入された天然型または変異型のアポ蛋白質を構成成分とする組換えカルシウム結合型発光蛋白質である。配列番号:1のアミノ酸配列のN−末端のValとN−末端から2番目のLysの間、2番目のLysと3番目のLeuの間、3番目のLeuと4番目のThrの間にシステインを挿入することができる。また、N−末端のVal、N−末端から2番目のLys、3番目のLeu、4番目のThrのいずれかをシステインで置換することができる。特に好ましくは、3番目のLeuと4番目のThrの間にシステインを挿入する。
【0018】
アポイクオリンは、遺伝子組換え法によって生産される。アポイクオリンを遺伝子組換え法で製造するに当たって、大腸菌(E. coli)の外膜タンパクA(ompA)遺伝子をアポイクオリン遺伝子と融合させてそれを大腸菌で発現させると高効率でアポイクオリンが生産される。その生産物は、天然型アポイクオリンのN−末端のValがAla-Asn-Ser-で置換されているが、カルシウム結合活性、発光活性において天然型アポイクオリンと同等である(例えば、非特許文献8および非特許文献9参照)。このN−末端にAla-Asn-Ser-を有する変異型アポイクオリンをセランテラジンおよび酸素と結合させたイクオリンが市販されている。この変異型イクオリンにおいては、N−末端から6番目(天然型N−末端から4番目)のThrまでの領域のどこにでもシステインを導入することができる。すなわち、この変異型イクオリンのN−末端のAlaから6番目のThrまでの領域にどこかにシステインを導入することができる。好ましい例は、5番目のLeuと6番目のThrの間にシステインを導入した変異型イクオリンであり、そのアミノ酸配列は配列番号:2に示されている。また、このシステイン導入変異型イクオリンは、6番目のシステインを維持し発光活性を維持する範囲で1〜5個のアミノ酸を失欠、置換、付加することによって改変することができる。したがって、本発明の好ましい他の態様は、配列番号:2に示されるアミノ酸配列を有するアポ蛋白質、または配列番号:2に示されるアミノ酸配列の6番目のシステインを維持し発光活性を維持する範囲で1〜5個のアミノ酸を失欠、置換、付加することによって改変したアポ蛋白質を構成成分とする組換えカルシウム結合型発光蛋白質である。
【0019】
本発明のカルシウム結合型発光蛋白質は、検出すべき物質に特異的なリガンドと結合し複合体を形成する。本発明は上記の組換えカルシウム結合型発光蛋白質に、該システインを介して、検出すべき物質に特異的なリガンドが1:1の比率で結合する複合体に関する。この発光蛋白質とリガンドの結合比率1:1は、1:1またはその近い比率を意味しており、厳格に解釈されるものではない。
【0020】
本発明に言う、リガンドとは 、検出すべき物質に直接的に結合する物質、または、検出すべき物質に間接的に結合する物質である。例えば、イムノアッセイで抗原部位や抗原量を検出する場合の1次抗体である。イクオリンが結合した1次抗体は、検出すべき抗原に結合するので、イクオリンの発光を測定することにより抗原の部位や量が検出できる。この場合は1次抗体がリガンドとなる。
【0021】
感度を高めるために2次抗体を使う方法も周知である。ビオチンを結合させた2次抗体を用い、イクオリンを結合させたアビジンまたはストレプトアビジンを反応させる方法である。この際、アビジンおよびストレプトアビジンがリガンドとなる。この場合に、1分子のアビジンおよびストレプトアビジンが、4分子のビオチンと結合する性質を利用することが出来る。すなわち、イクオリンをビオチンと結合させ次いでそのビオチンを介してアビジンまたはストレプトアビジンに結合させるものである。この場合はビオチンがリガンドとなる。
【0022】
リセプターを検出する場合においては、リセプターに結合するシグナルペプチド(インシュリンのようなホルモン、サイトカイン、TNF、Fasリガンド等)がリガンドとなる。シグナルペプチドを検出する場合にはレセプターを構成するタンパクがリガンドとなる。薬物のレセプターを検出する場合には薬物がリガンドとなり、薬物を検出する場合は薬物レセプターがリガンドとなる。
【0023】
酵素を検出する場合にはその基質がリガンドとなり、酵素の基質を検出する場合には酵素がリガンドとなる。核酸に対して特異的に結合する他の核酸を検出する場合には、相補的な核酸がリガンドとなる。多糖類に対して特異的に結合する他の物質を検出する場合には、多糖類がリガンドとなる。血液凝固因子と特異的に結合しうるレクチンや転写因子等のDNA結合性蛋白質等もリガンドとなり得る。
【0024】
上記の複合体は、システインを導入したアポ蛋白質を遺伝子工学的に生産し、これを酸素の存在下において、セレンテラジンで処理してカルシウム結合型発光蛋白質に再生し、ついで導入されたシステインを介して検出すべき物質に特異的なリガンドを1:1、またはその近くの比率で結合させて製造することができる。このようにアポ蛋白質カルシウム結合型蛋白質として再生した後にリガンドと結合することによって、如何なるリガンドとも結合させることができる。
【0025】
上記の複合体は、検出すべき物質と特異的に結合し、カルシウムイオンによって発光するので、イムノアッセイ等における標識としての使用できる。したがって、本発明は上記複合体を用いるリガンドに特異的な物質の測定方法、および測定のためのキットに関する。
【0026】
他の態様において、本発明はまた、そのアミノ末端の4アミノ酸残基内にシステインを導入したアポ蛋白質をコードするDNA、当該DNAを含む組換え発現ベクター、および組換え発現ベクターで形質転換した宿主細胞に関する。
【0027】
他の態様において、本発明は前記組換え発現ベクターまたは組換え宿主細胞を用いることを特徴とする、本発明のアポ蛋白質の製造方法に関する。具体的には、前記組換え発現ベクターを用いてインビトロ発現を実施または宿主細胞を培養し、産生したアポ蛋白質を単離・精製することからなる。さらに、そのアポ蛋白質を酸素の存在下でセレンテラジンと処理して発光蛋白質に再生し、その発光蛋白質をリガンドと結合させて複合体とする製造法に関する。
【0028】
【発明の実施の態様】
発光蛋白質のN−末端へのシステインの導入は、天然型のN−末端から1〜4番目のアミノ酸のいずれかをシステインで置換する方法、1〜4番目のアミノ酸の間にシステインを挿入する方法のいずれかによって導入することができる。アミノ酸を挿入する方法が好ましい。システインの導入は、当該技術分野において周知の技術、例えばPCR法を用いて発光蛋白質をコードする遺伝子にシステインのコドンを導入することにより実施することができる。次いで、得られたシステイン導入型アポ蛋白質遺伝子を含む組換え発現ベクターを調製し、これを用いて適する宿主細胞内でシステイン導入型アポ蛋白質を発現させる。
【0029】
好ましいアポ蛋白質は、アポイクオリンである。アポイクオリンは配列番号:1で表される天然型アポイクオリンであっても、その変異体であっても良い。その変異体としては、天然型アポイクオリンのN−末端のValがAla-Asn-Ser-で置換されているものが好ましい。システインは、天然型アポイクオリンの4番目のアミノ酸であるThrまでの領域に導入することができる。N−末端がAla-Asn-Ser-で置換されている変異体の場合は、N−末端のAlaから6番目のThrまでの間のどこかにシステインを導入することができる。本発明の最も好ましいシステイン導入型アポイクオリンは、該変異体の5番目のLeuと6番目のThrの間にシステインが導入されたものであり、そのアミノ酸配列は配列番号:2に示される。
【0030】
本発明において、前記発光蛋白質を発現させるために用いるベクターには、無細胞発現系(インビトロ トランスクリプション−トランスレーション)に、および宿主細胞、例えば大腸菌、酵母または動物培養細胞を用いる蛋白質発現系に適するベクターとすることができ、そのようなベクターは市販されているかまたは公知のベクターから容易に作製することができる。例えば、インビトロトランスレーションおよび動物培養細胞における発現に用いるベクターは、ヒトサイトメガロウイルスのimmeadiate−early エンハンサー/プロモター領域を組込み、その下流域にT7のプロモター配列/マルチクローニング部位を有するpTargetTベクターやSV40エンハンサーとSV40のearlyプロモターを有するpSIベクター(プロメガ社)、pBK−CMV、CMV−Script、pCMV−TagおよびpBK−RSV(ストラタジーン社)などである。また、大腸菌、酵母などの微生物宿主における発現に適するベクターは、例えば大腸菌系のT7のプロモターを有するpETシリーズベクター発現システム(例えばpET3a、pET27b(+)、pET28a(+);ノバジェン社)、および酵母系においてはアルコールオキシダーゼのプロモターを有するピチア発現系ベクターpICシリーズベクター(例えばpPIC9K、PIC3.5K;インビトロゲン社)などである。
【0031】
システイン導入型アポイクオリン遺伝子を含む組換え発現ベクターを用いて適する宿主細胞を形質転換し、当該宿主細胞を培養し、次いで発現した所望のアポ蛋白質を単離する。得られたシステイン導入型アポイクオリンを、酸素の存在下においてセレンテラジンと処理して、システイン導入型イクオリンへ再生する。さらに、発光基質であるセレンテラジンの代わりに、セレンテラジン誘導体(アナログ化合物)を用いることにより、発光活性を有する半合成イクオリンを製造することも可能である。半合成イクオリンは、天然イクオリンに比べて、カルシウムに対するレスポンスの異なるもの、S/N比が改善された性質をもつものが報告されている(例えば、非特許文献10参照)。再生されたイクオリンを例えば疎水性クロマトグラフによって精製することにより、未精製アポイクオリンを含まない、高純度システイン導入型イクオリンとすることができる。
【0032】
システイン導入型イクオリンは、導入したシステイン残基の−SH基を介して、特異的リガンドと結合させることができる。特異的リガンドとの結合手段は、リガンドの物理化学的特性等により異なるが、イクオリン分子サイズおよびリガンドとの立体障害を考慮して、直接的にまたはリンカーもしくはスペーサーを介して結合させる。
【0033】
本発明において用いるリンカーもしくはスペーサーは、−SH基と特異的に反応しうるものであれば特に限定されないが、20オングストローム以上の長さを有するものが好ましい。リンカーもしくはスペーサーとして使用しうる種々の−SH基修飾試薬は市販されており、これらを適宜利用することができる。システイン導入型イクオリンにリガンドを結合させる反応は、30℃以下、好ましくは25℃以下、pH6〜8、好ましくはpH6〜7.5で行うのが望ましい。
【0034】
イクオリンを発光蛋白質の代表例とし、実施例にて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
【実施例】
実施例1 システイン挿入アポイクオリン発現ベクターの構築
天然型アポイクオリンのN−末端のValがAla-Asn-Serで置換された変異型アポイクオリンの発現ベクターpiP-HE(例えば、非特許文献8参照)から、アポイクオリン遺伝子のN−末端近傍にある制限酵素部位EcoRIをPCR法で欠失したpiP-HEΔEを構築した。変異型アポイクオリンのN−末端より6番目)(天然型アポイクオリンのN−末端より4番目)にシステイン残基をPCR法で導入することにより、システイン挿入イクオリン遺伝子発現ベクターpiP-HE-Cys4を構築した。具体的に、その構築手順を示す(図1)。
0.1μgのpiP-HEプラスミドをテンプレートとして、各1μgのPCRプライマーOmpA1-XbaI(5'TGG-AAC-TCT-AGA-TAA-CGA-GGG-CAA-AAA 3', SEQ ID NO:3)およびOmpA1-HindIII(5'TCC-AAG-CTT-GGA-GTT-CGC-GGC-CTG 3', SEQ ID NO:4)を用いた。DNA Thermal Cycler(Perkin-Elmer社製)およびAmpli Taq DNAポリメラーゼを含むGeneAmp PCR試薬キット(宝酒造社製)を用いて所望のフラグメントをPCR増幅した後、PCR精製キット(キアゲン社製)でフラグメントを分離、制限酵素XbaIとHindIIIで消化を行い、制限酵素部位EcoRIを欠失したXbaI-HindIIIフラグメントを取得した。一方、piP-HEプラスミドを制限酵素XbaIとHindIIIで消化し、アポイクオリン遺伝子を含むベクター部分をDNA精製キット(キアゲン社製)で単離した。これを増幅したXbaI-HindIIIフラグメントと連結し、得られたプラスミドを用いて大腸菌JM83株を形質転換した。形質転換体の中から、EcoRI部位を欠失したpiP-HEΔEプラスミドを単離した。遺伝子配列の確認は、Taq DyeDeoxy Termintor Cycle sequencing Kit(Applied Biosytems 社製)およびDNA 377 シークエンサー(Applied Biosytems 社製)を用いて決定した。EcoRI部位のみが欠失し、アミノ酸配列はもとの変異型と同一であった。
【0036】
次に0.1μgのpiP-HEΔEプラスミドをテンプレートとして、各1μgのPCRプライマーCys4-AQ (5'GGC-AAG-CTT-TGT-ACT-AGT-GAC-TTC-GAC-AAC-CCA-AGA-TGG 3', SEQ ID NO:5)および630EcoRI-AQ (5'GCC-GAA-TTC-ATC-AGT-GTT-TTA-TTC-AAA 3', SEQ ID NO:6) を用いて、GeneAmp PCR 試薬キット(宝酒造社製)により所望のフラグメントをPCR増幅した後、精製キット(キアゲン社製)でフラグメントを分離し、次いで制限酵素HindIIIとEcoRIで消化して、変異型アポイクオリン遺伝子のN−末端から6番目(天然型アポイクオリン遺伝子のN−末端から4番目に)にシステインを有するHindIII-EcoRIフラグメントを取得した。一方、piP-HEΔEプラスミドを制限酵素HindIIIとEcoRIで消化した後、プロモーターおよびOmpAシグナルペプチドを含むベクター側を単離した。次いで、これをHindIII-EcoRIフラグメントと連結し、得られたプラスミドを用いて大腸菌JM83株を形質転換した。形質転換体の中から、N−末端から6番目にシステインが挿入された変異型アポイクオリン発現するpiP-HE-Cys4プラスミドを単離した。塩基配列を、Taq DyeDeoxy Termintor Cycle sequencing Kit (Applied Biosytems 社製)およびDNA 377 シークエンサー(Applied Biosytems 社製)を用いて決定し、システイン挿入アポイクオリン(Cys4−アポイクオリン)遺伝子を確認した。Cys4−アポイクオリンのアミノ酸配列は配列番号:2で示される。
【0037】
実施例2 システイン挿入型アポイクオリン生産株の分離
宿主として大腸菌WA802株を使用し、実施例1で作製した組換えプラスミドpiP-HE-Cys4を発現ベクターとし、常法により形質転換を実施した。形質転換体20株をLB(水1L中、バクトトリプトン10g、イーストエキストラクト5g、塩化ナトリウム5g,pH7.2)寒天培地にて30℃で一晩培養した後、5mLのアンピシリン含有(50μg/mL)LB液体培地に植菌し、さらに37℃で16時間培養した。次いで、最も高い発光活性を有する菌株、即ち最も高いCys4−アポイクオリン産生菌株を選択し、高発光活性を有する菌株を大量培養用の種株とした。
【0038】
実施例3 システイン挿入型アポイクオリン産生菌株の培養
Cys4−アポイクオリン産生菌株を30℃で一晩培養後、50mLのアンピシリン含有(50μg/mL)LB液体培地に植菌した。さらに30℃で8時間培養した後、新鮮LB液体培地2Lに移し、37℃で一昼夜(18時間)培養した。菌体と培養液を低速遠心分離(5000×g)により分離した。菌体、培養液は両者とも発現したアポイクオリンを含むためそれぞれ保存し、Cys4−アポイクオリン精製の出発材料とした。
【0039】
実施例4 菌体からのシステイン挿入型イクオリンの再生および精製
集菌した菌体は、還元剤のジチオスレイトール(和光純薬社製)200mgを含む400mLの緩衝液(50mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH7.6)に懸濁した。菌体を氷冷下で2分間超音波破砕処理して破砕した後、20分間遠心分離(12000×g)して上澄み液を集めた。少量のメタノールに溶解した化学合成セレンテラジンを、Cys4−アポイクオリンの1.2倍のモル濃度になるように、上記の上澄み液に添加し、4℃で5時間以上放置した。得られた上澄み液を直ちに、カラム緩衝液(20mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH7.6)で平衡化したQ−セファロースカラム(ファルマシア製、直径2cm×10cm)に吸着させ、280nmでの溶出液の吸光度が0.05以下になるまで0.1M NaClを含有する緩衝液でカラムを洗浄した。次いで、カラムに吸着した未再生Cys4−アポイクオリンと再生Cys4−イクオリンの両者を含む画分を0.1M〜0.4M−NaClの直線濃度勾配により溶出した。
【0040】
再生Cys4−イクオリンと未再生Cys4−アポイクオリンとの分離は、ブチルセファロース4ファーストフローゲルクロマトグラフィーによって、次のように実施した。
Q−セファロースカラムから溶出したオレンジ色の溶出液に、最終濃度が2Mになるように硫酸アンモニウムを添加した。添加後、不溶性画分を遠心分離により除去した。次いで、2M 硫酸アンモニウムを含む上述のカラム緩衝液で平衡化したブチルセファロース4ファーストフロー(ファルマシア社、カラムサイズ:直径2cm×8cm)にその上澄み液を加え、硫酸アンモニウムの2M〜1Mの直線濃度勾配により溶出し、発光活性を有する、即ち再生Cys4−イクオリンを含むオレンジ色画分を収集した。一方、未再生のCys4−アポイクオリンはカラム緩衝液でのみ溶出された。
【0041】
精製画分の純度検定は、12%SDS−PAGEにより実施した。その結果、精製画分について分子量25kDa蛋白質に相当する単一バンドが検出され、その純度はデンシトメーターで測定した結果、98%以上であった(図2)。精製蛋白質濃度をウシ血清アルブミンを標品としてBradford法(バイオラッド社製)により決定したところ、2Lの培養菌体からの高純度Cys4−イクオリン収量は44.6mgであった。
【0042】
実施例5 培養液からのシステイン挿入型イクオリンの再生および精製
培養液から純度98%以上のアポイクオリンを取得し、実施例4に従ってイクオリンに再生し、精製した。精製されたイクオリンを12%SDS−PAGEにより分析したところ、実施例4で得られたものと同じであった。培養液2Lから高純度Cys4−イクオリン10.4mgが得られた。
【0043】
実施例6 マレイミド活性化ビオチンによるビオチン化Cys4−イクオリンの調製
精製Cys4−イクオリンのモル数の1.2から3倍当量のマレイミド活性化ビオチンとをPBS溶液(10mM リン酸緩衝液、2.7mM KCl、137mMNaCl、pH7.4)中において、反応温度0〜20℃にて2時間インキュベートすることにより、N−末端に挿入したシステイン残基を特異的にビオチン化した。具体的には次のように実施した。
1.5mlのポリプロピレン製チューブに、800μlのPBS溶液に、PBS溶液に溶解したマレイミド活性化ビオチン(EZ-Link PEO-Maleimide-activated Biotin,Pierce社:スペーサーの長さ:29.1オングストローム)4μl(30nmol)を加え、次いでCys4−イクオリン200μl(10nmol)を添加して、修飾反応を開始させ、暗所で20℃にて2時間反応を行った。修飾反応の経過は、30分ごとに反応液を1μl取り出し、ニトロセルロース膜(バイオラッド社製)にてドットブロットを行い、抗ビオチンウサギ抗体−アルカリフォスファターゼ(シグマ社製)を用いたドットブロット発色法で、ビオチン化を確認した。その結果、0分から1時間で急速にビオチン化が起こるが、2時間以上において顕著なビオチン化の増加は検出されなかった。コントロールとして、システインを挿入していないイクオリンについて、同一の条件でビオチン化を行ったが、ビオチン化はほとんど検出されず、新規に挿入されたシステイン残基のみでビオチン化反応が起こっていることが明らかとなった。
20オングストローム以上のスペーサーを持つマレイミド型の修飾法により、ビオチン以外のリガンド、例えば抗体、抗原、低分子有機化合物等を直接結合させることが可能であることが示された。
【0044】
また、上述のようにして得られたビオチン化Cys4−イクオリンと未反応のCys4−イクオリンの発光活性を比較したところ、ビオチン化により発光活性の低下はほとんど観察されず、ビオチン化Cys4−イクオリンは96%の発光活性を保持していた。また、上記反応系で、反応温度を30℃以上に上げた場合、発光活性は反応時間2時間で50%以下に低下した。さらに、上記反応系をpH8以上で実施すると、発光活性は2時間で、50%以下に低下することも明らかとなった。
したがって、システイン挿入イクオリンのビオチン化反応は、温度30℃以下、好ましくは25℃以下、pH6〜8、好ましくはpH6〜7.5で行うのが望ましい。
反応後、未反応試薬の除去、ビオチン化Cys4−イクオリンの単離および緩衝液交換は、4℃でのセントリコン10(アミコン社製)を用いた遠心型濾過法の単一工程で行った。この工程は、使用目的の反応系に応じて、緩衝液を交換できる利点がある。発光活性の低下を防ぐため、蛋白質濃度を100ng/mL以上で、−80℃以下の温度で保存する。この場合と6ヶ月以上、著しい活性低下は観察されない。
【0045】
実施例7 ヨードアセチル活性化型ビオチンによるビオチン化Cys4−イクオリンの調製
他の代表的なシステイン(−SH)残基への特異的修飾法として、ヨードアセチル型ビオチンを用いたビオチン化を、次のように実施した。
40nmolのヨードアセチル活性化型ビオチン(EZ-Link PEO-Iodoacetyl biotin,Pierce社製:スペーサーの長さ:24.8オングストローム)を含む800μlの50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に、15nmolのCys4−イクオリンを添加し、暗所で20℃にて2時間反応を行った。修飾反応の経過は、30分ごとに反応液を1μl取り出し、ニトロセルロース膜(バイオラッド社製)にてドットブロットを行い、抗ビオチンウサギ抗体−アルカリフォスファターゼ(シグマ社製)を用いたドットブロット発色法で、ビオチン化を確認した。その結果、0分から1時間で急速にビオチン化が起こったが、2時間以上において顕著なビオチン化の増加は検出されなかった。一方、コントロールとしてシステインを挿入していないイクオリンについて、同一の条件でビオチン化を行ったが、ビオチン化はほとんど検出されず、新規挿入イクオリンのみで効率よくビオチン化反応が起こっていることが明らかとなった。
また、上述のようにして得られたビオチン化Cys4−イクオリンと未反応のCys4−イクオリンの発光活性を比較したところ、ビオチン化Cys4−イクオリンは88%の発光活性を保持していた。このことは、ビオチン化に関してマレイミド法等の付加反応のみならず、置換反応を利用して新規挿入システイン残基に特異的なビオチン化が可能であることを示している。さらに、20オングストローム以上のスペーサーを持つヨードアセチル型の修飾法により、ビオチン以外のリガンド、例えば抗体、抗原、低分子有機化合物等を直接結合させることが可能であることが示された。
【0046】
実施例8 ビオチン化Cys4−イクオリンの結合数の決定
実施例4で得られたビオチン化Cys4−イクオリンについて、蛋白質1分子当たりのビオチンの結合個数を確認した。確認手段として、Voyager DE Pro mass spectometer(PerSeptive Biosystem社)を用いたマトリックス支援レーザー脱離イオン飛行時間型質量分析装置(Matrix assisted laser desorption time-of-flight mass spectrometory/MALDI-TOF-MS)法により分子量を測定することにより実施した。この方法はビオチン化されたシステイン挿入型イクオリンとビオチン化されていないものとの分離が可能であり、且つビオチンの結合個数が決定できる。
【0047】
Cys4−イクオリンの計算平均分子量(m/z)は21735.34、1ケ所、2ケ所、3ケ所ビオチン化されたシステイン挿入型イクオリンの計算平均分子量はそれぞれ、22260.96、22786.58、23312.20である。分子量スタンダードとて、アンジオテンシンI (m/z 1296.69), インスリン(m/z 5734.59)、アポミオグロビン(m/z 16952.60)、アポイクオリン(m/z 2163.20)を用いた。使用するマトリックスは、アルファ−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(アルドリッチ社製)とシナピン酸(アルドリッチ社製)より調製した。マトリックス液1.5μlと測定サンプル0.5μlを混合し、次いで風乾した後に混合液を分子量測定に供した。その結果、未反応のCys4−イクオリン、1ケ所のみビオチン化されたCys4−イクオリン、1ケ所のみビオチン化されたCys4−イクオリンとシナピン酸のコンプレックスに相当する分子量、21723.12、22252.23、22474.56のピークが検出された。そのピーク比は4.9:69.6:25.5であった。また2ケ所以上ビオチン化されたCys4−イクオリンは全く検出されなかった。これらの結果より、未反応のCys4−イクオリンは5%以下であり、95%以上の効率でCys4−イクオリン1分子につき、1個のビオチン化が起きていることが明らかとなった。故に、結合比率を1:1で結合したビオチン化イクオリンを安定的に且つ高効率で製造しうる方法が達成された。
【0048】
実施例9 ビオチン化Cys4−イクオリンの検定
1)発光パターンの比較
システインが挿入されていない組換えイクオリン、Cys4−イクオリン、ビオチン化Cys4−イクオリンの1ngに100μlの50mM 塩化カルシウム溶液を添加し、発光量および瞬間発光のパターンをルミノメーター(TD−4000型、ラボサイエンス社製)で測定した(図3)。図中aはシステインが挿入されていない組換えイクオリン、bはCys4−イクオリン、cはビオチン化Cys4−イクオリンのものである。その結果、発光量および発光パターンは3者で変化はなく、システイン残基へのビオチン化修飾により発光活性の低下、カルシウムに対するレスポンスの違いは無いことが明らかとなった。
【0049】
2)ビオチン化Cys4−イクオリンの定量性
ビオチン化Cys4−イクオリンの検出限界と蛋白質濃度に対する直線性についての検討を行った。ビオチン化蛋白濃度を10フェムトグラムから100ナノグラムに希釈し、50mMの塩化カルシウム溶液(100μl)添加し、その発光強度(初期発光最大値:Imax)をルミノメーター(アトー社製、モデルAB2200型)で測定した。3回の測定値の平均値をプロットした結果、直線性が確認された(図4)。ビオチン化Cys4−イクオリンの検出限界は1ピコグラム以下であり、この検出限界は、システインを導入していない組換えイクオリンと同等であった。
【0050】
実施例10 ビオチン化Cys4−イクオリンを用いたアビジンの検出
ビオチン化Cys4−イクオリンのビオチン部分がアビジンを認識し、且つ検出に定量性があるかどうかを直接結合法により確認した。アビジン(和光純薬社製)をTBST溶液(20mM Tris−HCl、pH7.4、150mM NaCl、0.05% Tween20)に溶解したストック溶液(1mg/ml)を希釈して、1ピコグラムから1マイクログラムの濃度で5mlイムノアッセイ用ポリソープチューブ(ヌンク社製)に分注し、アビジンをチューブ内に吸着させた。これとは別にTBST−EDTA溶液(10mM EDTA含有TBST溶液)にて、1%ウシ血清アルブミン(フラクションV、生化学工業社製)溶液を調製した。次いで、200μlの1%ウシ血清アルブミン溶液でアビジンを吸着したチューブをコーティングし、非特異吸着を防止した。このチューブに5μlのビオチン化システイン挿入型イクオリン(100μg/ml)および100μlの1%ウシ血清アルブミン含有TBST−EDTA溶液を加え、室温で20分間放置し、500μlのTBST−EDTA溶液で3回洗浄した。洗浄チューブをルミノメーター(アト−社製、モデルAB2200型)内に装着し、100μlの50mM塩化カルシウム溶液を注入し、発光の初期発光最大値(Imax)を測定した。測定は3回実施し、その平均値をプロットにした(図5)。その結果、直接結合法ではビオチン化Cys4−イクオリン10ナノグラム以上において直線性があり、アビジンの定量が可能であることが示された。故に、本発明のビオチン化Cys4−イクオリンはビオチン−アビジン結合を基本とするイムノアッセイ系において有用であることが示された。
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、カルシウム結合型発光蛋白質のアミノ末端部分にシステイン残基を導入した新規発光蛋白質およびその製造方法が提供される。該発光蛋白質は、前記導入したシステイン残基を介して、検出すべき物質に対する特異的リガンドと1:1の結合比率で結合した複合体を形成する。該複合体はカルシウムイオンによって発光するので、イムノアッセイ等の標識として有用である。
【0052】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】システイン挿入イクオリン発現ベクターの構築を示す概略図である。
【図2】システイン挿入型イクオリンの精製純度をSDS−PAGEにより確認した結果を示す図である。
【図3】aはシステインを導入していないイクオリン、bはCys4−イクオリン、cはビオチン化Cys4−イクオリンの発光量および瞬間発光のパターンである。
【図4】ビオチン化Cys4−イクオリンの検出限界と蛋白質濃度に対する発光活性を示すグラフである。
【図5】ビオチン化Cys4−イクオリンを用いてアビジンを定量した結果を示すグラフである。
Claims (13)
- 配列番号:2に示されるアミノ酸配列を有するアポ蛋白質を構成成分とする組換えカルシウム結合型発光蛋白質。
- 発光基質としてセレンテラジンまたは発光活性を有するそのアナログ化合物を含む、請求項1に記載の組換えカルシウム結合型発光蛋白質。
- 配列番号:2に示されるアミノ酸配列を有するアポ蛋白質をコードするDNA。
- 請求項3に記載のDNAを含む発現ベクター。
- 請求項4に記載の発現ベクターで形質転換した宿主細胞。
- 配列番号:2に示されるアミノ酸配列を有するアポ蛋白質を構成成分とする組換えカルシウム結合型発光蛋白質に、配列番号:2における6番目のシステインを介して、検出すべき物質に特異的なリガンドが1:1の比率で結合する複合体。
- 検出すべき物質に特異的なリガンドがビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、酵素、基質、抗体、抗原、核酸、多糖類、レセプター、またはこれらに結合能を有する化合物である請求項6記載の複合体。
- 検出すべき物質に特異的なリガンドがビオチンである請求項7記載の複合体。
- 発光基質としてセレンテラジンまたは発光活性を有するそのアナログ化合物を含む、請求項6〜8のいずれかに記載の複合体。
- 配列番号:2に示されるアミノ酸配列を有するアポ蛋白質を遺伝子工学的に生産し、これを酸素の存在下でセレンテラジンで処理して組換えカルシウム結合型発光蛋白質とし、配列番号:2における6番目のシステインを介して、検出すべき物質に特異的なリガンドを1:1の比率で結合させることよりなる複合体の製造方法。
- 検出すべき物質に特異的なリガンドがビオチンである請求項10記載の複合体の製法。
- 請求項6〜9のいずれか1つに記載の複合体を用いることを特徴とするリガンドに特異的な物質を測定する方法。
- 請求項6〜9のいずれか1つに記載の複合体を構成成分とすることを特徴とするリガンドに特異的な物質を測定するためのキット。
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