JP4186659B2 - 燃料電池用金属製セパレータ及びその製造方法 - Google Patents

燃料電池用金属製セパレータ及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、燃料電池を形成する際に用いられる燃料電池部材、具体的には、複数の単位電池を積層して燃料電池を構成する際に各単位電池間に介装される燃料電池のセパレータや燃料電池を構成する単位電池の電極に係り、特にその基材がアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材、チタン又はチタン合金からなるチタン材、ステンレス鋼材、Ni-Fe合金材等の金属材料で形成された燃料電池部材及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特開平10-228,914号公報
【特許文献2】
特開平11-162,478号公報
【特許文献3】
特開2000-106,197号公報
【特許文献4】
特開2001-15,126号公報
【特許文献5】
特開2001-345,109号公報
【特許文献6】
特開2001-357,859号公報
【0003】
燃料電池は、基本的には、アノード及びカソードからなる一対の電極とこれらの電極間に介装されるプロトン伝導体の電解質膜とで構成された複数の単位電池を、耐酸性、導電性に優れたガス不浸透性の黒鉛材料等で形成されたセパレータで仕切ると共に、これら各単位電池の電極とこの電極に接触する各セパレータの電極接触面との間にはそのいずれか一方に反応ガス流路を形成して構成されている。そして、この燃料電池においては、各単位電池のアノード側に水素等の燃料ガスを、また、カソード側に酸素や空気等の酸化剤ガスをそれぞれ供給し、アノード側で燃料ガスの酸化反応をさせてプロトンと電子とを生成せしめ、プロトンについては電解質膜中を移動させてカソード側に供給すると共に、電子については外部回路に取り出し、また、カソード側では電解質膜中を移動してきたプロトン、外部回路から供給される電子、及び酸化剤ガスを反応させるもので、アノード側で外部回路に取り出した電子が電流として仕事をするように構成されている。
【0004】
このような燃料電池は、非常に高い効率で反応エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能であり、しかも、反応生成物は原理的には水だけであって有害な排気ガスの発生がなく、極めて高効率でクリーンな発電手段であり、特に電解質としてフッ素樹脂系のイオン交換膜を用いる固体高分子形燃料電池については、次世代の電気自動車用発電装置としても期待されていることから、より高効率の発電性能(高発電性能)、長期安定的に出力を得るための耐久性(長期耐久性)、軽量化、低コスト化等のための研究開発が進められている。
【0005】
そして、このような燃料電池に用いるセパレータについてはこれまで主として黒鉛材料が用いられていたが、この黒鉛製セパレータには、その材料自体が高価であるばかりでなく、セパレータ側に反応ガス流路が形成される場合には靭性に乏しくて脆い材質の黒鉛材料に精密な機械加工が必要になって加工コストが高くなり、しかも、耐衝撃性や対振動性等にも乏しく、また、リサイクルも困難であるという問題があった。
【0006】
そこで、近年においては、このような黒鉛製セパレータに替えて、Ni/SUSクラッド材製のセパレータや、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材、チタン又はチタン合金からなるチタン材、ステンレス鋼材、Ni-Fe合金等の金属材料でセパレータ基材を形成し、その少なくとも電極接触面に金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等の貴金属や、銀、窒化クロム、白金族の複合酸化物あるいは炭化ホウ素とニッケルの複合物から選ばれた材料等の導電性皮膜をメッキにより形成せしめた金属製セパレータが提案されている(例えば、特開平10-228,914号、特開平11-162,478号、特開2000-106,197号、特開2001-15,126号等の各公報)。
【0007】
しかしながら、このようなNi/SUSクラッド材製セパレータや金属製セパレータにおいても、例えば、Ni/SUSクラッド材製セパレータには単位電池の電極との接触抵抗が大きく、溶出金属イオンが電解質膜の膜抵抗を増大させ、電池出力を低下させるという問題があり、また、金属製セパレータには、バルク電気抵抗が低い、高い気密性及び機械的強度を有して加工コストの低減が図れる、薄型化が可能で小型化や軽量化が容易である、アルミニウム材を用いた場合には一層の軽量化が可能である、等の利点があるものの、基材の金属が腐食し易く、特にアルミニウム材の場合にはその腐食速度が大きいという問題があり、しかも、この問題を解決するために導電性皮膜の膜厚を大きくするとコストが高くなり、反対に、コストを抑えるために膜厚を薄くするとピンホール又は表面欠陥が発生して腐食の問題を解消できない。
【0008】
そこで、従来においても、金属製セパレータにおける上述した種々の問題を解決するために、例えば、セパレータが電極と接触する電極接触面に金メッキ処理により部分的に厚肉の金メッキ皮膜を設けたり(特開2001-345,109号公報)、あるいは、セパレータが電極と接触する電極接触面に電気メッキによりAu-Ni組成が連続的に変化するAu-Ni傾斜組成皮膜を設けること(特開2001-357,859号公報)が提案されている。
【0009】
しかしながら、前者の部分的に厚肉の金メッキ皮膜を設けることには、メッキ工程間にマスキング工程を必要として工程数が増加するという問題があり、また、後者のAu-Ni傾斜組成皮膜を設けることにはNiイオンの溶出が1ppmでも発生すると電池性能が低下してしまうという問題があって、いずれの場合も、例えば次世代の電気自動車用発電装置等の用途において特に要求される高発電性能、長期耐久性、軽量化、及び低コスト化を必ずしも同時に満足できるものとはいえない。
【0010】
このような問題は、上記燃料電池用セパレータの場合に限らず、燃料電池を構成する単位電池の電極においても全く同様であり、このような燃料電池を形成する際に用いられる燃料電池部材で共通する問題になっている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者らは、例えば次世代の電気自動車用発電装置等の用途において特に有用な高発電性能、長期耐久性、軽量化、及び低コスト化を同時に満足できる燃料電池を製造する上で有用な燃料電池用セパレータや単位電池の電極を開発すべく鋭意検討した結果、セパレータ基材や単位電池の電極を形成する電極基材と言った燃料電池形成基材の材質として高発電性能、軽量化、及び低コスト化を進める上で有利な金属材料を採用し、この燃料電池形成基材にエッチング処理及び所定の亜鉛置換処理を施した後、膜厚0.01〜1μmの貴金属メッキ処理を行い、燃料電池形成基材の表面に膜厚0.01〜1μm及び電気化学的分極特性評価法で測定した分極電流10μA/cm2以下の貴金属メッキ皮膜を形成せしめることにより、目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
従って、本発明の目的は、高発電性能、長期耐久性、軽量化、及び低コスト化を同時に達成でき、例えば次世代の電気自動車用発電装置等の用途に適した燃料電池を製造する上で有用な燃料電池用金属製セパレータや単位電池の電極と言った燃料電池部材を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、高発電性能、長期耐久性、軽量化、及び低コスト化を同時に達成できる燃料電池を製造する上で有用な燃料電池用金属製セパレータや単位電池の電極と言った燃料電池部材の製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、燃料電池を形成する際にセパレータ及び/又は単位電池の電極として用いられる燃料電池部材であり、金属材料で形成された燃料電池形成基材と、この燃料電池形成基材の表面に貴金属メッキ処理により形成され、膜厚が0.01〜1μmであって、電気化学的分極特性評価法で測定した分極電流が10μA/cm2以下である貴金属メッキ皮膜とを有することを特徴とする燃料電池部材である。
【0014】
また、本発明は、燃料電池を形成する際にセパレータ及び/又は単位電池の電極として用いられる燃料電池部材の製造方法であり、金属材料で燃料電池形成基材を形成し、この燃料電池形成基材をエッチング処理した後、酸洗後に亜鉛浸漬を行う亜鉛置換処理を4回以上繰り返し、次いでこの燃料電池形成基材の表面に膜厚0.01〜1μmの貴金属メッキ処理を行うことを特徴とする燃料電池部材の製造方法である。
【0015】
本発明における燃料電池部材とは、燃料電池を形成する際に用いられるセパレータや、燃料電池を構成する単位電池の電極である。そして、このセパレータは、複数の単位電池を積層して燃料電池を構成する際に互いに隣接する各単位電池の電極間に介装されてこれら各単位電池間を仕切るものであって、このようなセパレータは、上記金属材料で形成されたセパレータ基材と、このセパレータ基材の少なくとも電極接触面に形成された上記のような貴金属メッキ皮膜とを有する。また、単位電池の電極は、上記金属材料で形成された電極基材と、この電極基材の表面であって単位電池の電解質側の面に形成された上記のような貴金属メッキ皮膜とを有す。尚、本発明では、燃料電池部材を構成する上記セパレータ基材及び電極基材をまとめて燃料電池形成基材と呼ぶ。
【0016】
本発明における燃料電池部材は、燃料電池用金属製セパレータや、燃料電池を構成する単位電池の電極に用いることができるのは上述のとおりである。以下、具体例として燃料電池用金属製セパレータについて説明するが、特に説明する個所以外は単位電池の電極の場合についても同様である。
【0017】
本発明は、具体的には、複数の単位電池を積層して燃料電池を構成する際に各単位電池間に介装されてこれら各単位電池間を仕切るセパレータであり、金属材料で形成されたセパレータ基材と、このセパレータ基材の少なくとも電極接触面に貴金属メッキ処理により形成され、膜厚が0.01〜1μmであって、電気化学的分極特性評価法で測定した分極電流が10μA/cm2以下である貴金属メッキ皮膜とを有する、燃料電池用金属製セパレータである。
【0018】
また、本発明は、具体的には、複数の単位電池を積層して燃料電池を構成する際に各単位電池間に介装される燃料電池用セパレータの製造方法であり、金属材料でセパレータ基材を形成し、このセパレータ基材をエッチング処理した後、酸洗後に亜鉛浸漬を行う亜鉛置換処理を4回以上繰り返し、次いでこのセパレータ基材の少なくとも電極接触面に膜厚0.01〜1μmの貴金属メッキ処理を行う、燃料電池用金属製セパレータの製造方法である。
【0019】
本発明において、セパレータ基材を形成するための金属材料については、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材、チタン又はチタン合金からなるチタン材、ステンレス鋼材、Ni-Fe合金材等を挙げることができ、特に加工性に優れたアルミニウム材が好ましい。そして、このアルミニウム材については、特に制限されるものではなく、例えば、高純度アルミニウム(JIS H4170; 1N99)や、A1100、A5052、A6063等の種々のアルミニウム合金を挙げることができる。
【0020】
また、金属材料で形成されるセパレータ基材については、その電極接触面に反応ガス流路が形成されているものであっても、また、反応ガス流路が形成されていないものであってもよいが、セパレータ基材が金属材料で形成されていて精密な機械加工が容易であって加工コストが安価であり、燃料電池全体の製造コストを考慮すると、好ましくはその電極接触面に反応ガス流路が形成されているセパレータ基材であるのが望ましい。
【0021】
また、金属材料で形成される電極材については、単位電池を構成する電解質側の面に反応ガス流路が形成されているのがよい。
【0022】
このような金属製のセパレータ基材の表面に形成される貴金属メッキ皮膜については、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)又はこれらの貴金属の合金を用いて形成される貴金属メッキ皮膜を挙げることができ、接触抵抗が低い、化学的に極めて安定である等の観点から、好ましくは金メッキ皮膜である。そして、この貴金属メッキ皮膜については、セパレータ基材の少なくとも電極接触面に形成されていればよいが、長期耐久性の維持、製造工程の簡素化等の観点から、好ましくは表面全面に形成されているのがよい。
【0023】
また、単位電池の電極材の表面に形成される上記貴金属メッキ皮膜については、単位電池を構成する電解質側の面に形成されるのがよい。
【0024】
そして、セパレータ基材の表面に形成される貴金属メッキ皮膜は、その膜厚が0.01μm以上1μm以下、好ましくは0.05μm以上0.5μm以下であるのがよく、また、電気化学的分極特性評価法で測定した分極電流が10μA/cm2以下、好ましくは7μA/cm2以下であるのがよい。膜厚については、0.01μmより薄いと、ピンホールが生じ易くなるという問題があり、反対に、1μmより厚くなると、低コスト化を達成することが困難になる。また、分極電流については、10μA/cm2より高い値であると、得られた貴金属メッキ皮膜がピンホールの無い完全無欠陥であるといえなくなる場合が生じる。貴金属メッキ皮膜については、ピンホールや表面欠陥の無い完全無欠陥である必要があり、少しでもピンホールや表面欠陥が存在すると、これらピンホールや表面欠陥から腐食が始まり、電池出力性能の低下という問題を生じる。
【0025】
ここで、分極電流の測定方法については、電気化学的分極特性評価法で行うが、その具体的方法については以下の通りである。すなわち、例えば酢酸水溶液等の電解質溶液中で、試料を白金対極に対向させて設置し、照合電極として銀塩化銀電極を使用し、この照合電極を飽和塩化カリウム水溶液に浸漬し、飽和塩化カリウム水溶液と試料との間を塩橋で結び、試料、白金対極、及び銀塩化銀電極をポテンシオスタットに接続し、試料の電位を銀塩化銀電極に対して自然電極電位から酸素発生電位までアノード側に走査させた際に試料電極に流れるピーク電流を分極電流として測定する方法である。
【0026】
次に、上述した膜厚0.01〜1μm及び電気化学的分極特性評価法で測定した分極電流10μA/cm2以下の金属製セパレータを製造するには、基本的には、先ず、金属材料でセパレータ基材を形成し、このセパレータ基材をエッチング処理した後、酸洗後に亜鉛浸漬を行う亜鉛置換処理を4回以上繰り返し、次いで膜厚0.01〜1μmの貴金属メッキ処理を行う。
【0027】
ここで、セパレータ基材のエッチング処理は、通常、脱脂処理されたセパレータ基材をエッチング処理液に浸漬して行われる。この目的で用いられるエッチング処理液としては、通常、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液、又は、硫酸-リン酸混合水溶液等の酸水溶液が用いられる。そして、アルカリ水溶液を用いる場合には、その濃度は20g/L以上200g/L以下、好ましくは50g/L以上150g/L以下であって、処理条件としては、通常、浸漬温度が30℃以上70℃以下、好ましくは40℃以上60℃以下であって、浸漬時間が0.5分以上5分以下、好ましくは1分以上3分以下である。また、酸水溶液として硫酸-リン酸混合水溶液を用いる場合には、その濃度は硫酸濃度が10g/L以上500g/L以下、好ましくは30g/L以上300g/L以下でリン酸濃度が10g/L以上1200g/L以下、好ましくは30g/L以上500g/L以下であり、処理条件としては、通常、浸漬温度が30℃以上110℃以下、好ましくは55℃以上75℃以下であって、浸漬時間が0.5分以上15分以下、好ましくは1分以上6分以下である。
【0028】
また、このエッチング処理の後に亜鉛置換処理を行うが、この亜鉛置換処理の酸洗工程では、その酸洗浴として、酸が硝酸、硫酸、塩酸等であって、濃度が5wt%以上50wt%以下の酸水溶液、好ましくは酸が硝酸であって濃度が10wt%以上40wt%以下の酸水溶液、より好ましくは25wt%以上30wt%以下の濃度の硝酸水溶液を用い、浸漬温度が15℃以上30℃以下、好ましくは20℃以上25℃以下であって、浸漬時間が5秒以上120秒以下、好ましくは15秒以上60秒以下の条件で行うのがよい。このような酸洗浴を用いてこのような条件で酸洗を行うことにより、置換亜鉛層を効果的に除去できる。
【0029】
更に、亜鉛置換処理の亜鉛浸漬工程では、その亜鉛浸漬浴として、酸化亜鉛濃度1.5g/L以上60g/L以下、好ましくは3.5g/L以上50g/L以下、及び、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリのアルカリ濃度40g/L以上400g/L以下、好ましくは80g/L以上200g/L以下の酸化亜鉛アルカリ水溶液を用い、浸漬温度が15℃以上30℃以下、好ましくは20℃以上25℃以下であって、浸漬時間が5秒以上120秒以下、好ましくは15秒以上50秒以下の条件で行うのがよい。亜鉛浸漬浴の酸化亜鉛濃度が1.5g/Lより低いと置換亜鉛層が不均一になるという問題があり、反対に、60g/Lより高いと金メッキ皮膜が不均一になるという問題が生じ、また、アルカリ濃度が40g/Lより低いと置換亜鉛層の密着性が低下するという問題があり、反対に、400g/Lより高いとアルミニウム表面の粗さが増大するという問題が生じる。
【0030】
本発明方法においては、上記の酸洗後に亜鉛浸漬を行う亜鉛置換処理を少なくとも4回以上繰り返して行う必要がある。この亜鉛置換処理が3回までであると、貴金属メッキ皮膜に発生するピンホールの個数を測定した場合、貴金属メッキ皮膜の膜厚によって異なるが、ピンホールが数個の範囲で残存し、ピンホールや表面欠陥の無い完全無欠陥の貴金属メッキ皮膜を形成することが困難である。
【0031】
このようにしてセパレータ基材をエッチング処理し、次いで4回以上の亜鉛置換処理を行った後、膜厚0.01〜1μmの貴金属メッキ処理を行う。この貴金属メッキ処理については、例えば無電解メッキ(Me-ELP)、置換メッキ(Me-SP)、電解メッキ(Me-EP)、電解ストライクメッキ(Me-EPS)等のメッキ処理法を挙げることができ、また、そのメッキ浴についても従来と同様の浴組成のものを用いることができる。また、この貴金属メッキ処理における処理条件についても従来と同様の処理条件を採用することができ、採用する貴金属の種類によっても異なるが、例えば金メッキ処理の場合には浴温度が50〜75℃程度で、電流密度が0.1〜0.5A/dm2程度である。
【0032】
また、本発明方法においては、必要によりエッチング処理前のセパレータ基材について表面研磨処理を行い、その表面粗さ{JIS B 0601(2001)}を好ましくは0.02〜0.3μm、より好ましくは0.03〜0.2μmの範囲に調整するのがよい。このエッチング処理前のセパレータ基材の表面粗さが0.3μmより大きいと形成された導電性皮膜にこのセパレータ基材の表面の凹部に起因してピンホールや表面欠陥が発生し易くなり、結果として耐食性が低下し、また、0.02μmより小さくなると、形成された導電性皮膜とセパレータ基材の表面との間の密着性が低下し、セパレータ使用時に電池の電極と接触させた際に局部的に皮膜剥離が生じる場合がある。
【0033】
ここで、エッチング処理前のセパレータ基材の表面粗さを0.02〜0.3μmの範囲に表面研磨処理するための方法については、表面粗さを0.02〜0.3μmの範囲に調整できる方法であれば特に制限されるものではないが、通常は電解研磨、機械研磨、バフ研磨、ブラスト研磨、バレル研磨等の方法が採用され、好ましくは電解研磨処理である。セパレータ基材の表面研磨処理は、セパレータ基材の材質等を考慮し、上記のいずれか1種の処理方法のみで行ってもよいほか、2種以上の処理方法を組み合わせて行ってもよい。
【0034】
上述した本発明の方法によれば、金属材料で形成したセパレータ基材や電極基材の表面に、通常のピンホール検出法では検出できないようなピンホールや表面欠陥を電気化学的分極特性評価法による分極電流により検出し、可及的に薄膜であって無欠陥の貴金属メッキ皮膜を形成せしめることができるので、金属材料それ自体が軽量化に優れた材質であると共に加工性や電導性に優れていることと相俟って、燃料電池の高発電性能、長期耐久性、軽量化、及び低コスト化を同時に満足できる金属製セパレータや単位電池の電極を製造することができる。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下、金属材料としてアルミニウム材を用いてアルミ製セパレータを試作し、得られたセパレータ試作品を用いて行った実験例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0036】
実験例1
板厚5mmのアルミニウム材(1N99)から5mm×100mm×100mmの大きさのセパレータ基材を切り出し、このセパレータ基材の両面にプレス加工により深さ0.8mm及び幅0.8mmの反応ガス流路をそれぞれ形成し、次いで水酸化ナトリウム25g/L、炭酸ナトリウム25g/L、燐酸ナトリウム25g/L、及び界面活性剤1.5g/Lの組成を有する脱脂浴中に、浸漬温度60℃及び浸漬時間5分の条件で脱脂処理し、次いで水洗した後、50g/L-水酸化ナトリウム水溶液をエッチング処理液として浸漬温度50℃及び浸漬時間3分の条件でエッチング処理した。
【0037】
このようにして得られたエッチング処理済のセパレータ基材について、30wt%-硝酸水溶液を酸洗浴とし、また、水酸化ナトリウム100g/L、酸化亜鉛50g/L、塩化第二鉄1g/L、及びロッシェル塩10g/Lの組成を有する亜鉛浸漬浴を用い、室温下に30秒浸漬する酸洗後に室温下に30秒浸漬する亜鉛浸漬を行う亜鉛置換処理を1回から6回(亜鉛置換処理回数:1〜6回)の範囲で行い、次いでシアン金カリウム10g/L、シアン化カリウム30g/L、炭酸カリウム30g/L、及び第二燐酸カリウム30g/Lの組成を有する金メッキ浴を用い、浴温度55℃及び電流密度0.5A/dm2の条件で処理時間を制御して無電解金メッキ処理を行い、各亜鉛置換処理回数のセパレータ基材についてその表面全面に膜厚0.01μm、0.1μm及び1.0μmの金メッキ皮膜を有するアルミ製セパレータの試作品を作製した。
【0038】
このようにして作製した各セパレータ試作品について、硫酸銅20g/Lの水溶液中に室温下で5分間浸漬し、銅の析出部分をカウントし、ピンホールの個数を測定した。
結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
Figure 0004186659
【0040】
また、上記各セパレータ試作品について、試験液としてpH3の酢酸水溶液を用い、参照極として銀塩化銀電極を用い、走査電位を0〜1000mV vs Ag/AgClとし、電気化学的分極特性評価法により分極電流を測定した。
結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
Figure 0004186659
【0042】
更に、上記各セパレータ試作品について、膜電極接合体(ジャパンゴアテックス社製)を用いて単位電池を組み立て、セパレータ試作品の反応ガス流路に水素ガス及び空気を供給して電池発電試験を連続して行い、この発電試験時の電池起電力を測定した。
結果を表3に示す。
【0043】
【表3】
Figure 0004186659
【0044】
更にまた、上記各セパレータ試作品について、上記の膜電極接合体を用いて単位電池を組み立て、セパレータ試作品の反応ガス流路に水素ガス及び空気を供給して電池発電試験を連続して行い、発電試験時の電池起電力が発電開始時の起電力と比較して10%低下する時間を測定し、セパレータ寿命とした。
結果を表4に示す。
【0045】
【表4】
Figure 0004186659
【0046】
この実験例1によれば、表1の結果から亜鉛置換処理回数が1回、2回、3回と増すごとに発生するピンホールの個数が飛躍的に低減しているが、3回の亜鉛置換処理では依然として数個のピンホールが残存し、4回以上の亜鉛置換処理で完全にピンホールの認められない金メッキ皮膜が得られることが判明した。これを表2に示す分極電流でみると、3回の亜鉛置換処理では分極電流が100μA/cm2以上であったものが、4回以上の亜鉛置換処理では略完全に飽和しており、表面欠陥も無い無欠陥の金メッキ皮膜が得られている。
【0047】
そして、表3に示す電池起電力や表4に示すセパレータ寿命をみても、3回の亜鉛置換処理では依然として完全には満足できないものであったものが、4回以上の亜鉛置換処理で完全に飽和し、アルミ製セパレータとしての性能が充分に引き出されることが判明した。
【0048】
実験例2
表5に示すアルミニウム材を用い、2回、3回又は4回の亜鉛置換処理を行い、表5に示す貴金属メッキ処理を行ってセパレータ基材の表面に表5に示す膜厚の貴金属メッキ皮膜を形成した以外は、上記実験例1と同様にして、アルミ製セパレータの試作品を作製した。
得られた各セパレータ試作品について、上記実験例1の場合と同様にして分極電流と電池起電力とを測定した。
結果を表5に示す。
【0049】
【表5】
Figure 0004186659
【0050】
実験例3
表6に示すアルミニウム材を用い、実験例1と同様にして得られた脱脂処理後のセパレータ基材について、エッチング処理する前に、以下に示す方法により表面研磨処理を行い、次いで実験例1と同様に、エッチング処理、4回の亜鉛置換処理、及び表6に示す金メッキ処理を行い、表面に膜厚0.1μmの金メッキ皮膜を有するアルミ製セパレータの試作品を作製した。
【0051】
〔電解研磨〕
過塩素酸220ml/L及び無水酢酸780ml/Lの電解研磨浴を用い、この電解研磨浴中に脱脂処理した上記セパレータ基材を浸漬し、このセパレータ基材を陽極に、また、白金板を陰極にして電流密度10A/dm2の条件で5分間電解研磨処理を施し、その後に水洗し、乾燥した。
〔化学研磨〕
リン酸75%、硝酸20%及び水5%の組成を有する化学研磨浴を用い、90℃で5分間浸漬し、次いで水洗して乾燥した。
【0052】
〔バフ研磨〕
バフとして綿バフを用い、また、研磨材としてアルミナ微粉末(粒度P2500)を使用し、研磨後に水洗し乾燥した。
〔ブラスト研磨〕
ガラスビーズ微粉末(粒度F1200)混合液を空気圧2kg/cm2で吹き付け、研磨後に水洗し乾燥した。
〔機械研磨〕
#600のエメリー研磨紙を用いて研磨した後、再び#2500のエメリー研磨紙を用いて仕上げ研磨を行い、次いで水洗して乾燥した。
【0053】
得られた各セパレータ試作品について、表面研磨処理後のセパレータ基材の表面粗さを測定すると共に、上記実験例1の場合と同様にして分極電流、電池起電力及びセパレータ寿命を測定した。
結果を表6に示す。
【0054】
【表6】
Figure 0004186659
【0055】
【発明の効果】
本発明の燃料電池部材、具体的には、燃料電池用金属製セパレータや単位電池を形成する電極は、高発電性能、長期耐久性、軽量化、及び低コスト化を同時に達成でき、例えば次世代の電気自動車用発電装置等の用途に適した燃料電池を製造する上で極めて有用なものである。

Claims (20)

  1. 燃料電池用のセパレータであり、金属材料で形成されたセパレータ基材と、このセパレータ基材を亜鉛浸漬浴に浸漬して置換亜鉛層を形成した後に貴金属メッキ処理して得た貴金属メッキ皮膜とを有し、貴金属メッキ皮膜は、膜厚が0.01〜1μmであって、pH3の酢酸水溶液を用いて電気化学的分極特性評価法で測定した分極電流が10μA/cm2以下であることを特徴とする燃料電池用金属製セパレータ。
  2. セパレータ基材には、複数の単位電池を積層して燃料電池を構成する際に単位電池の電極と接触する電極接触面に少なくとも上記貴金属メッキ皮膜が形成されている請求項1に記載の燃料電池用金属製セパレータ
  3. セパレータ基材は、その電極接触面に反応ガス流路が形成されている請求項1又は2に記載の燃料電池用金属製セパレータ
  4. セパレータ基材が、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材で形成される請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用金属製セパレータ。
  5. 貴金属メッキ皮膜は、セパレータ基材の表面全面に形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用金属製セパレータ。
  6. 貴金属メッキ処理が金メッキ処理であり、貴金属メッキ皮膜が金メッキ皮膜である請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池用金属製セパレータ。
  7. 貴金属メッキ処理が白金メッキ処理であり、貴金属メッキ皮膜が白金メッキ皮膜である請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池用金属製セパレータ。
  8. 貴金属メッキ処理が白金ロジウムメッキ処理であり、貴金属メッキ皮膜が白金ロジウムメッキ皮膜である請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池用金属製セパレータ。
  9. 燃料電池用のセパレータの製造方法であり、金属材料でセパレータ基材を形成し、このセパレータ基材をエッチング処理した後、酸洗後に亜鉛浸漬を行う亜鉛置換処理を4回以上繰り返し、次いでこのセパレータ基材の表面に膜厚0.01〜1μ m の貴金属メッキ処理を行うことを特徴とする燃料電池用金属製セパレータの製造方法。
  10. セパレータ基材には、複数の単位電池を積層して燃料電池を構成する際に単位電池の電極と接触する電極接触面に少なくとも上記貴金属メッキ処理を行う請求項9に記載の燃料電池用金属製セパレータの製造方法。
  11. セパレータ基材は、その電極接触面に反応ガス流路が形成されている請求項9又は10に記載の燃料電池用金属製セパレータの製造方法。
  12. 亜鉛置換処理の酸洗は、5〜50 wt% 濃度の硝酸水溶液からなる酸洗浴に室温下に5〜120秒間浸漬して行う請求項9〜11のいずれかに記載の燃料電池用金属製セパレータの製造方法。
  13. 亜鉛置換処理の亜鉛浸漬は、酸化亜鉛濃度1.5〜60 g/L 及びアルカリ濃度40〜400 g/L の酸化亜鉛アルカリ水溶液からなる亜鉛浸漬浴に室温下に5〜120秒間浸漬して行う請求項9〜12のいずれかに記載の燃料電池用金属製セパレータの製造方法。
  14. 燃料電池形成基材が、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム材で形成される請求項9〜13のいずれかに記載の燃料電池用金属製セパレータの製造方法。
  15. 貴金属メッキ皮膜は、セパレータ基材の表面全面に形成されている請求項9〜14のいずれかに記載の燃料電池用金属製セパレータの製造方法。
  16. 貴金属メッキ処理が金メッキ処理であり、貴金属メッキ皮膜が金メッキ皮膜である請求項9〜15のいずれかに記載の燃料電池用金属製セパレータの製造方法。
  17. 貴金属メッキ処理が白金メッキ処理であり、貴金属メッキ皮膜が白金メッキ皮膜である請求項9〜15のいずれかに記載の燃料電池用金属製セパレータの製造方法。
  18. 貴金属メッキ処理が白金ロジウムメッキ処理であり、貴金属メッキ 皮膜が白金ロジウムメッキ皮膜である請求項9〜15のいずれかに記載の燃料電池用金属製セパレータの製造方法。
  19. エッチング処理前のセパレータ基材が、表面研磨処理によりその表面粗さが0.02〜0.3μ m の範囲に調整されている請求項9〜18のいずれかに記載の燃料電池用金属製セパレータの製造方法。
  20. 表面研磨処理が、電解研磨処理、機械研磨処理、バフ研磨処理、及びブラスト研磨から選ばれたいずれか1種の処理又は2種以上の処理の組合せである請求項19に記載の燃料電池用金属製セパレータの製造方法。
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