JP4186335B2 - イオンビーム加工装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はイオンビーム加工装置に関し、特に、集束イオンビーム(略してFIB)を用いるイオンビーム加工装置で、試料から微細な部分を分離する機能を備えたイオンビーム加工装置およびその加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
イオンビーム照射手段のレンズ強度とビーム集束位置の関係を用いた高さ設定の従来技術としては特開平8−315764号に開示されている。その従来技術を図9を用いて説明する。本開示例では、高さ設定する対象物はノズル103であり、対象の高さは試料101の表面からノズル103の先端部103aまでの距離である。予め、集束レンズのレンズ電圧とレンズからビームの集束点までの距離との関係を求めておく。イオンビーム100aをビーム集束レンズのレンズ強度を調整して試料101の加工対象位置に集束し走査する。この時、ビーム照射部から放出される二次粒子を検出して、その信号を走査画像表示手段の輝度信号に用いる事により走査イオン像(略してSIM像)が得られる。ここでの二次粒子は、主に二次電子や二次イオンである。ビームは、試料表面高さ位置にちょうど集束されているため、試料表面が高分解能で観察される。一方、この時ノズル103は走査ビームが照射してもビームが集束していないために、分解能が悪いぼけた像となる。この高さ設定方の設定精度は、ビームの焦点深度で決まる。次に、先に求めた関係より所望の位置(例えば、試料表面から300μm手前の高さ位置)にビームの集束点が来るようにレンズ強度を調整する。このビーム集束状態101で走査イオン像をモニター観察し、ノズル先端103aに焦点が合うようにノズル103を上下に移動調整して設定する。しかし、この従来方法では所望の高さが固定値であり、一度設定すれば再設定の必要がなかったためオペレータは前もって求めたその高さからレンズ強度への換算値を用いるに留まっていた。
【0003】
また、試料基板から微細な部分を分離する機能を備えたイオンビーム加工装置の従来技術としては特許公報2774884号に開示されている。その従来技術を図10を用いて説明する。FIB201による三次元微細加工技術とマイクロマニュピュレーション技術により微細な試料片(分離試料)209を試料基板202から切り出して分離する。試料基板202に角穴203を作成し、試料基板202を傾斜して底穴204を作成する。試料基板202を元に戻し、切り欠き溝205を作成してプローブ231を導入し、プローブ先端を試料表面に接触する。 この分析対象部を含む試料の一部を分離する工程中に、外部から別個に導入したプローブ231と分離試料209をノズル206から導入するガス207にFIB201を照射して形成する堆積膜208によって機械的に接続する。接続後、FIB201により分離した試料209はプローブ231で支持され、搬送される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
試料基板から微細な部分を分離する機能を備えた従来のFIB加工装置(既述の特許公報2774884)は、プローブ231を試料基板202に接触させるには高さ方向(Z方向)に数100μm程度移動せねばならない。しかも、加工領域毎に移動距離は変化する。しかし、プローブ231と試料基板202の接触を検出する機能のみしか持っておらず、試料表面の高さとプローブと試料表面間の高さを計測し、オペレータにその情報を伝える機能はなかった。従って、プローブを試料表面近傍まで移動する際、プローブをどれだけ高さ方向に移動させれば良いかが分からず、もっぱらプローブと試料の衝突回避はオペレータの経験より得られた感に頼っていた。このため、プローブの移動速度が極端に遅くなり、作業効率を悪化させていた。この作業効率を改善するには、その作業のモニターに用いているSIM像の表示手段に試料基板やプローブ自体の高さ情報をも表示する事が課題である。
【0005】
本発明は、FIB走査範囲内にある単数あるいは複数の特定箇所を所望の高さに調整する必要があるイオンビーム加工装置に対して、前記イオンビーム加工装置がオペレータに前記特定箇所の高さ、又は前記特定箇所間の相対高さの少なくとも一つ以上の情報を伝え、オペレータの高さ調整作業を高効率かつ高信頼性下で行えるイオンビーム加工装置とその加工方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のイオンビーム加工装置は、上記課題を解決するためにFIB走査範囲内にある単数あるいは複数の特定箇所にイオンビーム照射手段のレンズ強度を調整して焦点を合せるレンズ電源と、それらレンズ強度から前記特定箇所の焦点位置(高さ)を計算し、前記特定箇所の焦点位置(高さ)、前記特定箇所の相対位置(相対高さ)、前記焦点位置(高さ)あるいは前記相対位置(相対高さ)が許容値を含めた設定値内にあるか否かの判断結果の情報のうち少なくとも一つ以上の情報を表示する表示手段を備えている。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施例を図1〜図4を参照して説明する。図1は、本実施例で用いられるFIB装置の基本構成を示す。イオンビーム照射手段8はイオンビーム4の制御を行う。イオン源1から放出したイオンはコンデンサレンズ2と対物レンズ3により集束されイオンビーム4となり、このイオンビーム4は偏向器5により走査される。イオンビーム4は集束イオンビーム(FIB)であり、そのビーム径は数nmから数μmである。このビーム径範囲のFIBは、焦点深度を用いた高さ計測方法に非常に適している。このイオンビーム照射手段8によりイオンビーム4は平面移動(X、Y軸)と傾斜(T軸)が可能なステージ6に配置された試料7上および平面および高さ方向(X、Y、Z軸)への移動が可能な移動手段9に装着されたプローブ10に集束、走査される。イオンビーム4の走査により発生した二次粒子は二次粒子検出手段11で検出し、その出力信号によりビーム走査像は表示手段12に表示される。ここでの二次粒子は、負電荷を持つ二次電子もしくは正電荷を持つ二次イオンである。試料7とプローブ10は高さが異なり、それぞれ焦点はレンズ電源13により対物レンズ3のレンズ強度を調整することで焦点合わせを行う。この焦点合わせは、オペレータか或いは装置の持つ自動焦点合わせ手段により行う。レンズ電源13などの制御は計算機14を介して行う。 初期状態として、プローブ10は試料7と接触しない高さ、つまり試料より数100μm上方に設定されている。対物レンズ3のレンズ電圧Voと対物レンズ3からビーム集束点までの距離Zとの関係式(Vo=f(Z)、Z=g(Vo))は前もって計算により求めておく。また、この関係式は実験的にも良く合うことを確認しておく。
【0008】
また、SIM像から目視によるジャストフォーカスの試料高さ位置を探す方法による位置精度は±30μmである。従って、プローブ10を試料上数10μmの高さ位置まで移動させる粗移動に関しては、この焦点深度を用いた高さ計測手段が有効である。
【0009】
計算機14には、対物レンズ3のレンズ電圧Voと対物レンズ3からビーム集束点までの距離Zfとの関係式(Vo=f(Zf)、Zf=g(Vo))を予め登録しておき、レンズ電圧Voから高さZ(Z=h-Zf:hは対物レンズ3からステージ6の表面までの距離)を計算し表示手段12に表示する。図3はその表示の一実施例である。表示ウインドウ15の例を(a)〜(f)に示す。この図を参照して操作手順と表示の一実施例を説明する。
【0010】
(1)初めに、試料7にイオンビーム4の焦点を合わせ、SETボタン16をクリックする。
【0011】
(2)この時の対物レンズ3のレンズ電圧Vo1を読み取り、自動的に試料7の高さZ1を計算し、Z軸スケール19に対して高さ表示バー17の1番17aがZ1に相当する位置に表示され、同時に高さ表示欄18の1番18aに高さZ1の計算値が表示される。
【0012】
(3)次に、プローブ10の先端部にイオンビーム4の焦点を合せ、同様にSETボタン16をクリックする。
【0013】
(4)この時の対物レンズ3のレンズ電圧Vo2を読み取り、自動的にプローブ10の先端部の高さZ2を計算し、Z軸スケール19に対して高さ表示バー17の2番17bがZ2に相当する位置に表示され、同時に高さ表示欄18の2番18bに高さZ2の計算値が表示される。箇所1と箇所2の相対高さが相対高さ表示欄20に表示される。
【0014】
測定領域が2箇所の場合には以上で設定は終了する。設定領域が3箇所以上ある場合には(3)から(4)の操作を繰り返す。図3には便宜的に3箇所までの場合が(d)〜(f)に示してある。高さの表示は、(a)(c)(d)(f)の例の様に各測定領域の高さを表示する方法や(b)(e)の例の様に最も低い高さの箇所を基準(Z=0)として各箇所の相対高さを示す方法がある。この基準はオペレータが設定できるし、また設定箇所が3箇所以上ある場合には複数の基準を設定することもできる。この場合、基準とした箇所より低い箇所は無効として無視するように制御する。また、(c)(f)の例の様に焦点深度を用いた高さ計測精度の限界を超えた危険範囲21を示すこともできる。
【0015】
プローブ10の高さ方向(Z方向)への動作に連動して表示バー17も上下動し、相対高さ表示欄20の高さ情報も変化する。焦点深度を用いた高さ計測精度は、コンピュータに予め登録しておく。プローブ10の移動中、その相対高さが焦点深度を用いた高さ計測精度に達した時点で相対高さ表示欄20に「VeryClose」等の表示を行い、注意をオペレータに知らせる、或いはその達したことを知らせる情報およびその越えているか否かの状態情報を色、形、大きさをを変えて表示したり、計算機から音を出す等してオペレータに知らすことも可能である。このオペレータに注意を喚起する相対高さの閾値はオペレータ自ら前もって設定することもできる。また、プローブ10が焦点深度を用いた高さ計測精度に達する、又はオペレータが前もって設定した設定閾値に達するとプローブ10の移動が停止するように制御することも可能である。
【0016】
図2は、プローブ10を試料表面まで降ろして接触し、試料7から分離試料22を切り取り、プローブ10に分離試料22を接着し、接着された分離試料毎プローブを引き上げ被接続体23の上まで移動し、分離試料の付いたプローブを被接続体表面近傍まで降ろし、分離試料22と被接続体23を接着するイオンビーム加工装置の一実施例である。この実施例の場合、高さ計測箇所は3箇所であり、更にプローブ10を試料表面まで降ろして接触する動作と、分離試料の付いたプローブを被接続体表面近傍まで降ろして分離試料22と被接続体23を接着する動作で基準となる箇所が異なる。この場合の表示手段12への各箇所の高さ表示の一実施例を図4に示す。図3に示した実施例に基準箇所登録機能であるStandardボタン24が追加してある。前述したのと同様に、図4を参照して操作手順を説明する。
【0017】
(1)初めに、試料7にイオンビーム4の焦点を合わせ、SETボタン16をクリックする。
【0018】
(2)この時の対物レンズ3のレンズ電圧Vo1を読み取り、自動的に試料7の高さZ1を計算し、Z軸スケール19に対して高さ表示バー17の1番17aがZ1に相当する位置に表示され、同時に高さ表示欄18の1番18aに高さZ1の計算値が表示される。
【0019】
(3)この高さを第一の基準とする場合は、Standardボタン24をクリックする。(4)次に、被接続体23にイオンビーム4の焦点を合わせ、SETボタン16をクリックする。
【0020】
(5)この時の対物レンズ3のレンズ電圧Vo2を読み取り、自動的に被接続体23の高さZ2を計算し、Z軸スケール19に対して高さ表示バー17の2番17bがZ2に相当する位置に表示され、同時に高さ表示欄18の2番18bに高さZ2の計算値が表示される。
【0021】
(6)この高さを第二の基準とする場合は、Standardボタン24をクリックする。(7)次に、プローブ10の先端部にイオンビーム4の焦点を合せ、同様にSETボタン16をクリックする。
【0022】
(8)この時の対物レンズ3のレンズ電圧Vo3を読み取り、自動的にプローブ10の先端部の高さZ3を計算し、Z軸スケール19に対して高さ表示バー17の3番17cがZ3に相当する位置に表示され、同時に高さ表示欄18の3番18cに高さZ3の計算値が表示される。
【0023】
(9)基準箇所として登録した1番の高さ表示欄18aをクリックすると、図4(a)の実施例の様に基準箇所1と箇所3に対する関係が表示される。相対高さ表示欄20には、箇所1と箇所3の相対高さが表示される。
【0024】
(10)基準箇所として登録した2番の高さ表示欄18bをクリックすると、図4(b)の実施例の様に基準箇所2と箇所3に対する関係が表示される。相対高さ表示欄20には、箇所2と箇所3の相対高さが表示される。
【0025】
動作やその他の表示例は既述のものと同様である。
【0026】
次に、前記イオンビーム加工装置において、試料7の複数箇所に対してそれぞれ試料7から分離試料22を切り取り、プローブ10を用いてそれぞれの分離試料22を前述の方法で単一あるいは複数の被接続体23に接着するイオンビーム加工装置の一実施例を示す。前述したのと同様に、図5と図6を参照して操作手順を説明する。
【0027】
図5は、試料7の3箇所から分離試料25a、25b、25cを切り取り、それぞれ3個の被接続体23a、23b、23cに接着する実施例である。各箇所の高さは加工前に全て登録しておく。図6は、表示手段12に表示する一実施例である。基本構成は図4に示した実施例と同様で、3個の加工箇所に対応して3組の高さ表示が可能となっている。この数は加工数に応じて増減する。前述したのと同様に、図6を参照して操作手順を説明する。
【0028】
(1)初めに、試料7の加工箇所25aにイオンビーム4の焦点を合わせ、ZaのSETボタン16aをクリックする。
【0029】
(2)この時の対物レンズ3のレンズ電圧Vo1aを読み取り、自動的に試料7の加工箇所25aの高さZ1aを計算し、Z軸スケール19aに対して高さ表示バー17の1番17aaがZ1aに相当する位置に表示され、同時に高さ表示欄18の1番18aに高さZ1aの計算値が表示される。
【0030】
(3)この高さを第一の基準とする場合は、Standardボタン24aをクリックする。
【0031】
(4)次に、被接続体23aにイオンビーム4の焦点を合わせ、SETボタン16aをクリックする。
【0032】
(5)この時の対物レンズ3のレンズ電圧Vo2aを読み取り、自動的に被接続体23aの高さZ2aを計算し、Z軸スケール19aに対して高さ表示バー17の2番17abがZ2aに相当する位置に表示され、同時に高さ表示欄18の2番18abに高さZ2aの計算値が表示される。
【0033】
(6)この高さを第二の基準とする場合は、Standardボタン24aをクリックする。
【0034】
(7)次に、プローブ10の先端部にイオンビーム4の焦点を合せ、同様にSETボタン16aをクリックする。
【0035】
(8)この時の対物レンズ3のレンズ電圧Vo3aを読み取り、自動的にプローブ10の先端部の高さZ3aを計算し、Z軸スケール19に対して高さ表示バー17の3番17acがZ3aに相当する位置に表示され、同時に高さ表示欄18の3番18acに高さZ3aの計算値が表示される。
【0036】
(9)基準箇所として登録した1番の高さ表示欄18aaをクリックすると、図6(a)の実施例の様に基準箇所1(加工箇所25aに相当)と箇所3(プローブ10の先端部に相当)に対する関係が表示される。相対高さ表示欄20aには、箇所1(加工箇所25a)と箇所3(プローブ10の先端部)の相対高さが表示される。
【0037】
(10)基準箇所として登録した2番の高さ表示欄18abをクリックすると、図6(b)の実施例の様に基準箇所2(被接続体23aに相当)と箇所3(プローブ10の先端部に相当)に対する関係が表示される。相対高さ表示欄20には、箇所2(被接続体23a)と箇所3(プローブ10の先端部)の相対高さが表示される。
【0038】
(11)次に、手順(1)から(8)を加工箇所25b、被接続体23b、プローブ10に対して行い、各々の高さをZbに登録する。表示の切換手順は(9)(10)と同様である。
【0039】
(12)次に、手順(1)から(8)を加工箇所25c、被接続体23c、プローブ10に対して行い、各々の高さをZcに登録する。表示の切換手順は(9)(10)と同様である。
【0040】
動作やその他の表示例は既述のものと同様である。
【0041】
次に、プローブ10を試料7に自動で粗移動させ、その後、微移動に切り替えて接触させるまでの一実施例を説明する。
【0042】
(1)SIM像を用いて予めプローブ10の先端部の位置座標(X、Y)と焦点合わせの対象としている領域の大きさを計算機14にオペレータが登録させる。また、試料7においても高さの比較対象としている位置座標(X、Y)と焦点合わせの対象としている領域の大きさを計算機14に登録させる。
【0043】
(2)上記(1)で登録した試料の特定領域の高さZsを自動焦点合わせ手段(走査電子顕微鏡などで用いられている通常の手段)により行い、その時のレンズ電圧Voと対物レンズ3からビーム集束点までの距離Zとの関係式Z=g(Vo)を用いてZsを測定し、表示手段に表示させる。
【0044】
(3)上記(1)で登録したプローブ10の先端部の高さZpも上記と同様に測定し、表示手段に表示させる。
【0045】
(4)ZpとZsの高さ差の大きさからプローブ10の粗移動のスピードと粗移動を停止するためのZpのしきい値をオペレータが決める。
【0046】
(5)Zpのしきい値は、計算機14を介して表示手段に表示する。
【0047】
(6)決められたプローブの粗移動スピード情報は計算機14を介して移動手段9に伝え、移動スタートの指示によりそのスピードでの移動を開始する。
【0048】
(7)プローブ10の先端部の高さZpは自動焦点合わせ手段を用いて約1秒間隔でくり返し測定し、表示手段上のZp値を常に更新させる。
【0049】
(8)Zpが(5)のしきい値を越えた時点で、プローブの粗移動を停止するとともに、その越えたことをこれまで表示していた表示手段上の高さ情報を色、形、大きさなどを変えて目立たせ、さらには計算機からの発音でオペレータに知らせる。
【0050】
(9)プローブ10の移動を速度のより遅い微移動(速度は前もって実験的に求め計算機14に登録しておく)に切り替える。、プローブ10の試料7への接触判定は前記特許公報2774884に開示されている下記の方法にて行い、接触した時点でプローブ10の微移動を停止する。導電性のプローブ10を高抵抗を介して電圧源(電圧をVsとする)に接続する。プローブ10の電位は、プローブ10が試料7と接触していない時はほぼVsとなり、接触した時は試料7の電位(接地電位)となる。この電位変化は、SIM像の電圧コントラストの変化として現れるので判定は容易である。このSIM像の電圧コントラストの変化をオペレータの目視により検出しプローブ10の試料への接触判定を下す。
【0051】
次に、前述のイオンビーム加工装置を用いて透過型電子顕微鏡(略してTEM)の観察用試料(略してTEM試料)を自動で作製する一実施例を示す。
【0052】
(1)試料7で所望の加工位置に図7(a)に示すクロスマーク26をイオンビーム(ここではFIB)4を走査して作製する。
【0053】
(2)機械的に決まっているプローブ10の先端部の基準位置座標(X、Y、Z)とFIB4を走査する領域の大きさを計算機14に登録する。また、ステージ6の所望の加工位置座標(X、Y、Z)とFIB4を走査する領域の大きさおよび被接続体23の位置座標(X、Y、Z)とFIB4を走査する領域の大きさも計算機14に登録する。
【0054】
所望の加工位置が複数ある場合には複数個分(1)(2)の登録手順を繰り返す。
【0055】
以後の作業は、計算機14が自動で行う。
【0056】
(3)プローブ10の登録情報から、FIB4の走査位置を計算機14が計算してイオンビーム照射手段8を制御する。また計算機14は、登録したプローブ10のZ座標と、前述の関係式(Vo=f(Z))からプローブ10の先端部の焦点レンズ電圧Vo1を計算する。この電圧は、FIB4がプローブ10の先端部に焦点が合うレンズ電圧に極めて近い値であるが、正確に焦点を結ぶ電圧ではない。
【0057】
(4)対物レンズ3のレンズ電圧をVo1に設定し、Vo1を中心にΔVo間隔でレンズ電圧をV=Vo1±ΔVo×n(nは整数)だけ変化させ、各々のレンズ電圧でSIM像を取得する。ΔVoは使用するFIB4のビーム径により最適値が異なるため、予め各ビーム径毎に実験的に最適値を求め、計算機14に登録しておく。計算機14は、走査するFIBのビーム径に合せて最適なΔVoを選択し適用する。
【0058】
(5)取得した各々のSIM像に対して、SIM像の輝度データを微分し、さらに微分したデータをSIM像1枚分積分する。これら各々の値に対してレンズ電圧に関する関係を求め、最小二乗法により極大値を取るレンズ電圧を求める。このレンズ電圧がプローブ10の先端部にFIB4の焦点が合うレンズ電圧Vo1maxとなる。
【0059】
(6)このレンズ電圧Vo1maxから前述の関係式(Z=g(Vo))によってプローブ10の先端部の高さを求め、プローブ10の高さ情報として登録される。
【0060】
(7)次に、計算機14はプローブ10の代わりに順次試料7および被接続体23に対して(3)から(6)の処理を行い、試料7の所望の加工位置と被接続体23の高さ情報を計算して登録する。所望の加工領域が複数ある場合には、複数個分の登録手順を繰り返す。
【0061】
(8)先に登録した試料7の所望の加工位置の高さ情報からFIB4の焦点を所望の加工位置に合わせ、前記クロスマーク26の位置を画像認識方法により検出し、正確な加工位置を算出する。
【0062】
(9)図7(b)に示すように、所望のTEM観察位置を保護するためにノズル27からガス28を導入し、TEM観察位置にFIB4を照射して金属堆積膜29を形成する。
【0063】
(10)図7(c)に示すように、金属保護膜の周りにFIBで溝30と傾斜溝31を作製し、分離試料22を作製する。ここではまだ完全に試料7と分離試料22は分離していない。
【0064】
(11)登録してあるプローブ10の先端部の位置座標(X、Y、Z)情報と試料7の対象領域の位置座標情報からプローブ10の移動距離を求め、プローブ10は粗移動を開始する。Z方向へは予め計算機14に登録してある前述の閾値に達するまでプローブ10は移動する。前述の閾値に達すると、プローブ10は停止する。
【0065】
(12)プローブ10の移動を速度のより遅い微移動(速度は予め実験的に求め計算機14に登録しておく)に切り替え、再度プローブ10は移動を開始し、試料7と接触した時点で移動を停止する。接触判定は前述のプローブ10の電位変化を検出して行う。
【0066】
(13)図7(d)に示すように、プローブ10と分離試料22をノズル27から導入するガス28にFIB4を照射して形成する金属堆積膜29によって機械的に接続する。
【0067】
(14)図7(e)に示すように、試料7と分離試料22を完全に分離し、プローブ10と分離試料22を試料7から引き上げ、基準位置座標へ移動する。
【0068】
(15)図7(f)に示すように、登録した被接続体23の位置座標情報よりプローブ10と分離試料22を被接続体23の上部へ水平移動する。
【0069】
(17)登録してあるプローブ10の基準位置座標と被接続体23の位置座標情報からプローブ10の移動距離を求め、プローブ10は粗移動を開始する。Z方向へは予め計算機14に登録してある前述の閾値に達するまでプローブ10は移動する。前述の閾値に達すると、プローブ10は停止する。
【0070】
(18)プローブ10の移動を速度のより遅い微移動(速度は予め実験的に求め計算機14に登録しておく)に切り替え、再度プローブ10は移動を開始し、被接続体23と分離試料22が接触した時点で移動を停止する。接触判定は前述のプローブ10の電位変化を検出して行う。
【0071】
(19)登録した被接続体23の位置座標情報から被接続体23にFIB4の焦点を合わせる。図7(g)(h)に示すように、分離試料22と被接続体23をノズル27から導入するガス28にFIB4を照射して形成する金属堆積膜29によって機械的に接続し、その後FIB4をプローブ10と分離試料22とを接続した部分に照射して、プローブ10と分離試料22を分離する。
【0072】
所望の分離試料22が複数ある場合には、複数個分(8)から(19)の作業を繰り返す。
【0073】
(20)登録した被接続体23の位置座標情報を用いて(3)から(5)の手順を実行する事により、被接続体23に接続された分離試料22の表面にFIB4の焦点を合わせる。
【0074】
(21)図8(a)に示すように、FIB4を走査し、分離試料22に作製したクロスマーク26の位置を画像認識方法により検出する。
【0075】
(22)予め加工位置はクロスマーク26の位置を基準として登録されている。前記過程(21)で検出したクロスマーク26の位置に対して、予め登録されている加工領域33、34を設定し、FIB4を走査して図8(b)(c)に示すような形状に加工する。薄片部分32がTEM観察する部分である。図8(b)は薄片化した分離試料22を上面から見た図、図8(c)は薄片化した分離試料22の鳥瞰図である。加工領域33、34の加工には、FIBではなく成形イオンビームを用いて加工する事も可能である。
【0076】
所望の分離試料22が複数ある場合には、複数個分(20)から(22)の作業を繰り返す。
【0077】
(24)全ての作業が終了した時点で、その作業が終了したことをこれまで高さ情報等の作業状況を表示していた表示手段12上の表示を色、形、大きさなどを変えて目立たせる、あるいは新たに作業の終了を意味する表示を行う。さらには計算機14からの発音でオペレータに作業の終了を知らせる。計算機14にLANを接続する事で装置の設置場所から離れた別室に設置した新たな表示手段と計算機によっても同様の方法で作業の終了を知らす事ができる。
【0078】
試料を切断する、穴を開ける、溝を掘る、2つの試料を接着する等の加工が容易かつ高速でできることがイオンビーム加工装置、特にイオンビームにFIBや成形ビームを用いたイオンビーム加工装置の最大の特徴であり、電子顕微鏡との大きな違いである。FIB加工装置は、単なる試料の加工に留まらず、前述したように金属を含むガスを導入して金属堆積膜を形成したり、マイクロマニピュレーション機構と組み合わせる事でデバイスを移植する等の応用が可能である。これらの応用にはガス導入用ノズルやマイクロマニピュレータ等外部から導入し、かつ高さ方向に調整移動する導入物が存在する。これら導入物を高さ方向で制御し、高効率、高精度な加工を行うためには本発明は必須である。
【0079】
試料7が絶縁物の場合には、前記イオンビーム加工装置に試料の帯電を中和する帯電中和手段を追加し、試料7の表面に溜まるイオンビームの正電荷の量とほぼ同量の電子を前記帯電中和手段で電子シャワーとして試料7に供給する事で試料7の帯電を防ぐ。この場合には、二次粒子は正電荷を持つ二次イオンを用いる。 本発明のビーム走査範囲内にある単数あるいは複数の特定箇所を所望の高さに調整する手法は、電子ビームやレーザービームなどの集束ビームを用いた作業にも応用展開が可能である。イオンビーム加工装置と走査型電子顕微鏡(略してSEM)をイオンビームと電子ビームの光軸が約60度で交差するように組み合わせた複合マイクロマニピュレーション装置では、電子ビームにより本発明の手法で所望の高さを計測し、この高さ情報をFIBにフィードバックさせてFIBの焦点を調整し各種加工を行う事ができる。この装置では、高さ計測のために電子ビームを用いるので、電子よりも質量の大きいイオンビームを試料に照射する量が減らせ、その結果、試料への損傷を減らす事ができる。ただし、試料が絶縁物の場合には、高さ計測のビームはイオンビームを用いる方が有利である。イオンビームは正電荷を持つため、イオンビームを絶縁物試料上に照射すると試料表面には正電荷が溜まる。この正電荷とほぼ同じ電荷量のSEMの電子ビームを絶縁物試料に照射する事で絶縁物試料上に溜まった電荷を中和する事ができる。したがって、イオンビームを使用すれば、電子ビームを使用した場合と比較すれば多少試料が損傷するが、試料の種類、例えば導体、半導体、絶縁体を問わずに本発明の手法が使用できる。また、イオンビーム加工装置とレーザービームを組み合わせた複合マイクロマニピュレーション装置では、イオンビームにより本発明の手法で所望の高さを計測し、この高さ情報をレーザービーム発生手段にフィードバックさせてレーザービームの焦点が試料上の所望の加工領域にくるようレーザービーム照射手段で焦点位置を調整し、レーザービームで加工を行う事ができる。レーザービームで加工を行う事でさらに高速な加工が実現できる。
【0080】
【発明の効果】
本発明によって、ビーム走査範囲内にある単数あるいは複数の特定箇所を所望の高さに調整移動する際に、レンズ強度から高さを換算するオペレータの作業は不要で、オペレータは前記特定箇所の高さ情報を表示手段により直接確認できる。 また、特に試料高さや所望の高さが加工対象毎に、あるいは時間毎に変化する場合および同一試料でも所望の高さが2つ以上ある場合においても、オペレータは高スループットかつ信頼性の高い高さ調整移動ができる。
【0081】
特に試料基板から微細な部分を分離する機能、被接続体を移動して前記試料基板に接続する機能を備えたFIB加工装置においては、オペレータはFIB走査範囲内にある所望箇所の高さ情報を表示する表示手段により試料、移動手段および被接続体の相対高さ情報が直接確認でき、移動量を確認しながらの移動物体の調整移動が可能になる。その結果、上記の分離作業や接続作業、移動作業が高スループットで、かつ高信頼性下で行う事ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】イオンビーム加工装置の基本構成図。
【図2】マイクロマニピュレーション機構を持つイオンビーム加工装置の基本構成図。
【図3】高さ情報の表示の一実施例を示す図。
【図4】高さ情報の表示の一実施例を示す図。
【図5】同一試料から複数の分離試料を取り出し、複数の被接続体に接続する一実施例を示す図。
【図6】同一試料から複数の分離試料を取り出し、複数の被接続体に接続する場合の高さ情報表示の一実施例を示す図。
【図7】自動透過型電子顕微鏡観察試料作製方法の一実施例を示す図。
【図8】自動透過型電子顕微鏡観察試料作製方法の一実施例を示す図。
【図9】従来技術の説明図。
【図10】従来技術の説明図。
【符号の説明】
1…イオン源、2…コンデンサレンズ、3…対物レンズ、4…イオンビーム、5…偏向器、6…ステージ、7…試料、8…イオンビーム照射手段、9…移動手段、10…プローブ、11…二次粒子検出手段、12…表示手段、13…レンズ電源、14…計算機。

Claims (4)

  1. 試料を配置できるステージと、
    オンビームを走査するイオンビーム照射手段と、
    ビーム照射により被照射部から放出される二次粒子を検出する二次粒子検出手段と、
    マイクロマニピュレーション機構と、
    前記イオンビーム照射手段、及び前記二次粒子検出手段を制御する計算機を含む制御手段とからなるイオンビーム加工装置において、
    オンビーム照射手段のレンズ強度を調整してイオンビームの焦点を合せるレンズ電源を備え、
    前記制御手段が、前記マイクロマニピュレーション機構、及び前記試料にイオンビームの焦点が合うように前記レンズ電源のレンズ電圧を制御し、当該レンズ電圧から、前記マイクロマニピュレーション機構、及び試料の高さを計算し、
    マイクロマニピュレーション機構、及び試料の高さ方向座標が設定値内にあるか否かの判断結果、又は、マイクロマニピュレーション機構、及び試料の相対位置が設定値内にあるか否かの判断結果を表示する表示手段を備えることを特徴とするイオンビーム加工装置。
  2. 請求項1記載のイオンビーム加工装置において、
    前記マイクロマニピュレーション機構が、プローブを含むことを特徴とするイオンビーム加工装置。
  3. 請求項1記載のイオンビーム加工装置において、
    前記表示手段が、マイクロマニピュレーション機構、及び試料の高さ方向座標を表示することを特徴とするイオンビーム加工装置。
  4. 請求項1記載のイオンビーム加工装置において、
    前記表示手段が、マイクロマニピュレーション機構、及び試料の相対位置を表示することを特徴とするイオンビーム加工装置。
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