JP4181393B2 - 潤滑油皮膜の形成方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、潤滑皮膜の形成方法及び動圧軸受軸受部品に関し、より詳細には基材の損傷などを防ぐために基材の摺動面に形成される潤滑皮膜の形成方法及び潤滑皮膜が形成された動圧軸受部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、流体動圧軸受は、回転側部材と静止側部材との間にオイル等の作動流体を介在させ、動圧発生溝のポンピング作用によって回転時に生じる作動流体中の動圧を利用して回転側部材を支持する構成になっている。このような流体動圧軸受では、回転の開始時及び停止時などの回転数が低くなる時には、回転側部材を支持するための充分な動圧を発生させることができず、軸受を構成する軸受面が摺動することがある。特に、回転側部材の自重等を受けるスラスト軸受部では、軸受面の摺動が発生すると、軸受面の損傷や摩耗が激しく、場合によっては軸受の焼き付きを引き起こし、軸受としての耐久性や信頼性を低下させる原因ともなっていた。
【0003】
そこで、このような軸受の焼き付きを防止するために軸受面、特にスラスト軸受部を構成する軸受面に二流化モリブデン等の固体潤滑剤を塗布して潤滑皮膜を形成することが行われている。
【0004】
この潤滑皮膜の形成に際しては、比較的高粘度の潤滑剤溶液を基材上に塗布し、この基材を回転するなどして遠心力により溶液を基材表面に広げ、潤滑皮膜を形成し、この潤滑皮膜を所定時間加熱して潤滑皮膜を硬化させていた(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−256280号公報
【発明が解決しようとする課題】
上述した潤滑皮膜の形成方法の場合、比較的高粘度の潤滑剤溶液を用いることにより、低粘度潤滑剤溶液をスプレー塗装する場合に必要とされるマスキング部材を用いることなく、所要膜厚の潤滑皮膜を形成することができ、少ない労力と時間で均一な潤滑皮膜を得ることができる利点を有するが、基材上に潤滑皮膜をより広範囲に形成する場合や、基材面とこれに直交する壁面との隅部にまで潤滑皮膜を形成する場合、特に基材面に対して壁面が鋭角をなす場合など、潤滑剤が高粘度なるが故の限界もあり、更なる改良が求められていた。
【0006】
本発明は、従来の技術の有するこのような問題点に留意してなされたものであり、その目的とするところは、少ない労力と時間で所望の厚さの均一な潤滑皮膜をより広範囲に形成できる方法を提供することにあり、さらに、高い生産性を有すると共に、軸受面の摺動が発生しても損傷・摩耗することなく、軸受の焼き付きも起こらず優れた耐久性及び信頼性を有する動圧軸受部品を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明の潤滑皮膜の形成方法においては、皮膜形成面の端縁に該皮膜形成面に対しほぼ直交もしくは鋭角をなす壁面を有する基材に潤滑皮膜を形成する場合に、固体潤滑剤、熱硬化性樹脂及び溶剤を含む粘度が3,000cP以上の潤滑剤高粘度溶液を前記基材の皮膜形成面上に前記壁面の近傍を残して塗布した後、前記潤滑剤高粘度溶液の端縁と前記壁面との間に、固体潤滑剤、熱硬化性樹脂及び溶剤を含む粘度が3,000cP未満の潤滑剤低粘度溶液を塗布し、その後、前記潤滑剤高粘度溶液と潤滑剤低粘度溶液とからなる潤滑皮膜を加熱し硬化させることを特徴とするものである。
【0008】
この場合、前記潤滑剤高粘度溶液の塗布はノズル注入により行い、前記潤滑剤低粘度溶液の塗布はスプレー噴射により行うことが望ましく、さらに、前記基材の皮膜形成面に塗布された潤滑剤高粘度溶液と潤滑剤低粘度溶液とからなる潤滑皮膜を加熱し硬化させた後、当該潤滑皮膜を前記皮膜形成面からの厚みが所定寸法になるまで切削もしくは研磨する工程を付加するのがよい。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
まず、図2は、流体動圧軸受を備えたスピンドルモータの一実施形態を示す断面図である。ブラケット11は中心部に設けられた基板部111と、この基板部111の外周方向に設けられた周壁112と、この周壁112からさらに外方向に延設された鍔部113とからなり、これらが一体且つ同軸的に形成されている。そして、基板部111の外周部上面には、ロータハブ15を軸線方向下側に向かって磁気的に吸引するために、永久磁石または強磁性体から形成される磁気吸引部材Mが周設されている。
【0012】
基板部111の中心部には環状突部114が形成され、その内周に固定スリーブ(スリーブ部材)2が例えば圧入により嵌合固定されている。この固定スリーブ2の中心には軸線方向に貫通孔121が形成され、そしてその下端には貫通孔121より大径で軸線方向下方向に開口した溝部122が形成されている。
【0013】
固定スリーブ2の貫通孔121にシャフト(軸部材)1が一定の間隙を介して挿入され、シャフト1の抜けを防止するために、溝部122に収まる大きさのリング状の抜け止め132がシャフト1の下端に嵌着されている。そして、抜け止め132に蓋をする形でカウンタプレート14が装着されている。
【0014】
略円筒状のロータハブ15は、その上面中央部に形成された孔部151をシャフト1の上端に嵌合させてシャフト1に固定されている。ロータハブ15の外周壁内周面には、周方向に多極着磁された環状のロータマグネット16が全周にわたり配設されている。またロータマグネット16の半径方向内方には、ロータマグネット16に対向してステータ17がブラケット11の環状突部114の外周に配設されている。ステータ17と環状突部114との固定は、圧入による嵌合固定の他、接着剤による固定でもよい。
【0015】
ロータハブ15の外周下側には鍔部154が形成され、ここにハードディスクが装着される。具体的にはロータハブ15の外周部152により位置決めされ、鍔部154の上に1枚又は複数枚のハードディスクが装着された後、クランプ部材などによりネジ止めされて、ハードディスクはロータハブ15に対して保持固定される。
【0016】
シャフト1の軸部131と固定スリーブ2の内周面との間、およびロータハブ15の内天井面155と固定スリーブ2の上面との間には微小間隙が形成され、オイル等の潤滑流体Fが充填保持されている。この潤滑流体Fは、軸部131の下端部並びに抜け止め132と固定スリーブ2の溝部122内周面とカウンタープレート14とで囲まれた空間にも連続して充填されており、潤滑流体Fの界面が、ロータハブ15の内天井面155の外周部に突設された環状壁156の内周面と固定スリーブ2の上部外周に周設された環状溝部21の外周面との間に形成されたテーパシール部3に位置している。このテーパシール部3は、内周下方に向いて拡開するようなテーパ形状を有しており、回転動作時にテーパシール部3の潤滑流体Fを遠心力により上記した微少間隙内に押し込むような力を付与し、潤滑流体Fの漏出を防止するような工夫がなされている。
【0017】
固定スリーブ2の内周面の上部・下部の潤滑流体保持部分には、シャフト1の回転にともない潤滑流体F中に動圧を発生するヘリングボーン状の動圧発生溝123a,123bが形成されている。動圧発生溝123a,123bは、モータ回転時にシャフト1を半径方向に保持する支持力を発生し、これにより1対のラジアル動圧軸受部が構成されている。また、固定スリーブ2の上面にも、シャフト1と共に回転するロータハブ15の回転にともなって潤滑流体F中に動圧を発生する動圧発生溝124が形成されている。この動圧発生溝124は、モータ回転時にロータハブ15を軸線方向上方向に支持する力を発生し、これによりスラスト動圧軸受部が構成されている。
【0018】
他方、ロータハブ15は、ブラケット11の周壁112の下部に周設された磁気吸引部材Mにより軸線方向下方向に磁気吸引されている。動圧発生溝124で発生するスラスト動圧と磁気吸引部材Mで発生する磁気吸引力とが釣り合うことで、モータ回転時にロータハブ15を軸線方向に保持する支持力が発生する。
【0019】
このような構成のスピンドルモータは、ハードドライブディスク装置などに略水平状態で装着されることが多く、この場合、ロータハブ15には軸線方向下方向に磁気吸引部材Mによる引力の他、自重による引力が作用する。このため回転数が低いモータの回転開始時および停止時に固定スリーブ2の上面と摺動し焼き付きが発生しやすいが、固定スリーブ2の上面に形成された動圧発生溝124に対向する、ロータハブ15の内天井面155の位置には、潤滑皮膜Sが本発明の形成方法で形成されており、焼き付きが有効に防止される。
【0020】
図1は、ロータハブ15の内天井面155に対する潤滑皮膜Sの形成方法を説明するために、ロータハブ15を内天井面155が上に向くよう上下反転してその一部を示したものであり、以下、図1を用いて潤滑皮膜Sの形成方法について説明する。
【0021】
皮膜形成面となるロータハブ15の内天井面155に対し、その外周端縁に位置する環状壁156がほぼ直交する壁面となり、内天井面155上に潤滑皮膜Sを形成することにより、固定スリーブ2の上面との間で形成するスラスト動圧軸受部における耐摩耗性を向上させ、長寿命化を図ることができるものである。
【0022】
まず、図1の(a)は、ロータハブ15の内天井面155上に環状壁156の近傍を残して潤滑剤高粘度溶液S1をノズル注入により塗布した状態を示したものである。この潤滑剤高粘度溶液S1は、粘度3,000cP以上とされている。潤滑剤高粘度溶液S1の粘度が3 ,000cP未満であると、溶液塗布時に内天井面155の望まぬ部分にまで溶液が流動することがあるからである。潤滑剤高粘度溶液S1の粘度の好ましい上限値としては10,000cPである。より好ましい粘度の上限値は5,000cPである。
【0023】
本発明で使用する潤滑剤高粘度溶液S1は、固体潤滑剤、熱硬化性樹脂、溶剤を含むものである。この溶液の具体的な状態は、溶剤に熱硬化性樹脂が溶解し、固体潤滑剤は粉粒体として分散している状態である。潤滑剤溶液の粘度は、例えば使用する溶剤の量や種類などにより調節できる。簡便な方法としては、市販されている潤滑剤溶液の溶剤を揮発させて溶液粘度を高くする方法がある。
【0024】
ここで使用する固体潤滑剤としては従来公知のものが使用でき、例えば硫化モリブデン、硫化タングステン、グラファイト、窒化ホウ素、三酸化アンチモン、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、セキボク、ウンモ、タルク、セッケン石、亜鉛華などの1種または2種以上を組み合わせて使用できる。この中でも硫化モリブデン、特に二流化モリブデンが好適に使用できる。熱硬化性樹脂中に均一に分散して摩擦係数を充分に小さくするには、固体潤滑剤の平均粒径としては15μm以下、より好ましくは0.1〜10μmの範囲である。また配合量としては熱硬化性樹脂に対して10〜150w%の範囲である。
【0025】
また使用する熱硬化性樹脂としては、耐熱性を有するものであれば特に限定はなく、例えばポリアミドイミド樹脂やエポキシ樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられ、この中でもポリアミドイミド樹脂が特に望ましい。
【0026】
本発明で使用する溶剤としては、熱硬化性樹脂を溶解するものであれば特に限定はない。例えば熱硬化性樹脂としてポリアミドイミド樹脂を用いる場合にはN−メチル−2−ピロリドンなどの窒素系溶剤;エポキシ樹脂を用いる場合にはメチルエチルケトンなどケトン系溶剤;トルエンやキシレンなど芳香族系溶剤、酢酸ブチルなどエステル系溶剤;アルキッド樹脂を用いる場合には芳香族系溶剤やエステル系溶剤;フェノール樹脂を用いる場合にはエタノールなどアルコール系溶剤やケトン系溶剤、エステル系溶剤;ポリイミド樹脂を用いる場合には窒素系溶剤などが好適に用いられる。
【0027】
溶剤の配合量は、潤滑剤高粘度溶液としての粘度が3,000cP以上となるように適宜調整すればよく、一般に固体潤滑剤と熱硬化性樹脂との総量に対して50〜300vol%の範囲である。
【0028】
潤滑剤高粘度溶液S1の塗布方法については特に限定はなく従来公知の塗布方法を用いることができるが、回転している基材(ロータハブ15)に潤滑剤高粘度溶液S1を塗布するスピンコート法が特に好ましい。具体的には、基材が数回転(好ましくは3回転以上)する間に潤滑剤高粘度溶液S1が基材上に均一に広がるように、基材の回転数及び潤滑剤高粘度溶液の塗布量を調整することが推奨される。例えば、回転するロータハブ(基材)15の内天井面(軸受面)155上の内周部に全周にわたって潤滑剤高粘度溶液S1を滴下する。滴下した潤滑剤高粘度溶液S1は遠心力により、図1の(a)のように内天井面15上を半径方向外側に広がる。そして、潤滑剤高粘度溶液S1の周縁が環状壁156との間に適度な隙間を残した状態でロータハブの15の回転を停止する。このように塗布された潤滑剤高粘度溶液S1は、その粘度が高いので、軸受面上に均一な潤滑皮膜が形成され、加えて、表面張力により潤滑皮膜の周縁が丸まるため、塗布面以外に潤滑剤高粘度溶液S1が広がることがない。
【0029】
次に、潤滑剤高粘度溶液S1が硬化するまでに、図1の(b)のように、内天井面(軸受面)155上の潤滑剤高粘度溶液S1の外周縁と環状壁156との間に、潤滑剤高粘度溶液S1より低粘度の潤滑剤低粘度溶液S2を例えばスプレー噴射により塗布する。
【0030】
この潤滑剤低粘度溶液S2も、固体潤滑剤、熱硬化性樹脂、溶剤を含むものであり、従来用いられていたものと同様に、その粘度が1,500cP程度と低く、潤滑剤高粘度溶液S1の外周縁と環状壁156との間に隙間なく流動し、内天井面(軸受面)155の全面に潤滑剤溶液(S1,S2)を塗布することが可能となる。
【0031】
その後、この状態で潤滑剤高粘度溶液S1及び潤滑剤低粘度溶液S2よりなる潤滑皮膜Sを加熱・硬化させ、図1の(c)に破線で示すように環状壁156の内側面と共に潤滑皮膜Sの上面を切削加工する。これにより図1の(d)に示すように、内天井面(軸受面)155に隙間なく潤滑皮膜Sを形成することができる。
【0032】
形成する潤滑皮膜Sの膜厚としては特に限定はなく、潤滑皮膜Sを形成した基材(ロータハブ15)の使用環境などから適宜決定すればよいが、本発明の形成方法に膜厚は約1〜100μm程度である。
【0033】
潤滑皮膜を形成する対象物である基材としては特に限定はなく、例えば、鉄、炭素鋼、その他合金鋼、銅及び銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金、その他各種金属、合金製あるいはAl23,SiO2,TiO2,ZrO2,SiC等のセラミックス、ガラス、更には、硬質プラスチック等が挙げられる。
【0034】
潤滑皮膜Sをより均一且つ迅速に形成するためには、潤滑剤溶液を塗布する前に基材を予備加熱しておくのがよい。この予備加熱の条件としては例えば100〜150℃、0.5〜1時間である。また潤滑皮膜の形成後の硬化の条件は、熱硬化性樹脂や基材の種類などから適宜決定すればよく、例えば150〜300℃、0.5〜3時間といった条件が例示できる。
【0035】
以上、本発明に従う動圧軸受装置及びこれを用いたスピンドルモータの実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0036】
例えば、上述した実施形態では、基材となるロータハブ15の内天井面155に対してほぼ直交する環状壁156を形成した場合を説明したが、この環状壁156が内天井面155に対して鋭角をなす場合にも本発明を同様に適用できるものである。特に上述の例のように、固定スリーブ2と環状壁156とでテーパシール部3を形成するものでは、テーパシール部3が内方に向けて開口(拡開)するのが潤滑流体Fの漏出防止の点で望ましいが、この特徴・効果をさらに顕著にするために、環状壁156の内周面を環状壁156の先端側に行くに従い内径が小さくなるような傾斜を形成した場合、この内周面は内天井面155に対し鋭角を形成することになり、両面の隅部に対する潤滑皮膜の形成が従来方法では非常に困難なものとなる。しかしながら、本発明の方法によれば、この部分には潤滑剤低粘度溶液を塗布することになり、内天井面と環状壁内周面との境界部(隅部)に潤滑剤溶液を行き渡らせて満たすことが容易に実現する。
【0037】
また、潤滑皮膜を基材上に形成した後、この基材を所定温度で所定時間保持する工程を含むことができる。基材上に潤滑皮膜を形成した後、加熱炉などに入れて潤滑皮膜を硬化させる方法の場合、潤滑皮膜の硬化は外側から内側に向かって進むため、内部が硬化される前に比重の大きい固体潤滑剤が沈殿し均質な皮膜ができず、また皮膜中に存在する気泡が加熱により膨張し表面から抜けるときに、皮膜表面は既に硬化が始まっているため気泡の抜け跡が残り皮膜の表面粗度が大きくなっていた。これに対し、基材を所定温度で所定時間保持すると、潤滑皮膜を加熱炉などに入れる前に基材側から加熱を行って潤滑皮膜を下側から硬化させるので、固体潤滑剤の沈殿が防止できる。また、気泡が潤滑皮膜表面から抜けるときに皮膜表面はまだ硬化していないので、気泡の抜け跡は残らず潤滑皮膜の表面粗度は小さく維持できる。
【0038】
潤滑皮膜形成後の基材の保持温度および保持時間は、熱硬化性樹脂の種類や塗布量などから適宜決定すればよく、例えば保持温度としては50〜60℃の範囲が好ましく、保持時間としては0.5〜2時間の範囲が好ましい。基材を保持するには、例えばホットプレートなどの加熱部材の上に基材を載置すればよい。このようにすれば加熱部材から基材を介して潤滑皮膜へと熱が伝わる。
【0039】
なお、潤滑剤溶液の基材への塗布方法については特に限定はなく、従来公知の方法を用いることができる。例えばスピンコート法、スプレーコート法、フローコート法、ロールコート法、浸漬法などが挙げられる。この中でも生産性や膜厚制御性などの点から前記説明した、高い粘度の潤滑剤高粘度溶液S1をスピンコート法で塗布する方法、低い粘度の潤滑剤低粘度溶液S2をスプレーコート法で塗布する方法が推奨される。
【0040】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したように構成されているので、つぎに記載の効果を奏する。
【0041】
請求項1に記載の潤滑皮膜の形成方法によれば、基材の皮膜形成面上に潤滑剤高粘度溶液を塗布した後、この端縁と皮膜形成面にほぼ直交もしくは鋭角をなす壁面との間に潤滑剤低粘度溶液を塗布し、これらを加熱し硬化させるようにしたので、潤滑剤高粘度溶液により所定の厚さを素早く形成しこれを維持できると共にその周縁にだれが生じなく、しかもその後に塗布される潤滑剤低粘度溶液を潤滑剤高粘度溶液と壁面との間に速やかかつ確実に充填することができ、これら潤滑剤溶液による潤滑皮膜を簡単かつ確実にしかも均一に形成することが可能になり、加えて、皮膜形成面上に形成する潤滑皮膜を壁面までの広範囲に得ることができる。
【0042】
そして、潤滑剤高粘度溶液の塗布をノズル注入により行い、潤滑剤低粘度溶液の塗布をスプレー噴射により行うようにしたので、作業が簡単になる上、マスキング治具などを使用する手間も省け、省力化に大きく寄与でき、さらに、潤滑剤高粘度溶液と潤滑剤低粘度溶液とからなる潤滑皮膜を加熱・硬化させた後、切削もしくは研磨する工程を付加することにより、極めて高精度な膜厚の潤滑皮膜を得ることができるものである。
【0043】
動圧軸受部品にあっては、前記記載の形成方法により動圧軸受部を構成する基材表面に潤滑皮膜を形成したので、高い生産性を有する上、軸受面の摺動が発生しても損傷・摩耗することがなく、また軸受の焼き付きも起こらないものとなる。加えて、基材表面に壁面の位置まで均一な潤滑皮膜を形成できるので、軸受面を広く確保でき、より安定な軸受支持力が得られる一方、動圧軸受部品の小型化に際しても所要の軸受面を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の潤滑皮膜の形成方法の実施形態を示す断面図であり、(a)〜(d)はそれぞれ異なる状態(工程)を示すものである。
【図2】本発明の動圧軸受部品を備えたスピンドルモータの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 シャフト
2 固定スリーブ
15 ロータハブ(基材)
155 内天井面(皮膜形成面)
156 環状壁
S1 潤滑剤高粘度溶液
S2 潤滑剤低粘度溶液
S 潤滑皮膜

Claims (3)

  1. 皮膜形成面の端縁に該皮膜形成面に対しほぼ直交もしくは鋭角をなす壁面を有する基材に潤滑皮膜を形成する方法であって、固体潤滑剤、熱硬化性樹脂及び溶剤を含む粘度が3,000cP以上の潤滑剤高粘度溶液を前記基材の皮膜形成面上に前記壁面の近傍を残して塗布した後、前記潤滑剤高粘度溶液の端縁と前記壁面との間に、固体潤滑剤、熱硬化性樹脂及び溶剤を含む粘度が3,000cP未満の潤滑剤低粘度溶液を塗布し、その後、前記潤滑剤高粘度溶液と潤滑剤低粘度溶液とからなる潤滑皮膜を加熱し硬化させることを特徴とする潤滑皮膜の形成方法。
  2. 前記潤滑剤高粘度溶液の塗布はノズル注入により行い、前記潤滑剤低粘度溶液の塗布はスプレー噴射により行うことを特徴とする請求項1 記載の潤滑皮膜の形成方法。
  3. 前記基材の皮膜形成面に塗布された潤滑剤高粘度溶液と潤滑剤低粘度溶液とからなる潤滑皮膜を加熱し硬化させた後、当該潤滑皮膜を前記皮膜形成面からの厚みが所定寸法になるまで切削もしくは研磨する工程を付加したことを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑皮膜の形成方法。
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