JP4175772B2 - ポリアクリロニトリル系不炎化体の製造方法 - Google Patents

ポリアクリロニトリル系不炎化体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
ポリアクリロニトリルを不炎化処理する技術は、これまで繊維の形態で不炎化繊維として取り組まれている。
【0002】
その得られた不炎化体はまた、炭素繊維を製造する中間体として位置付けられ、より高性能な炭素繊維を得る目的で技術展開がなされて来た。
【0003】
なお、本願明細書において、不炎化処理とは、当該対象に自己消火性を付与する処理を意味し、通常、酸化、環化、架橋化等の各種の化学反応が関与する。また、このような自己消化性を有する物を不炎化体という。
【0004】
これまで取り組まれてきた不炎化繊維を製造する技術としては、例えば、特開平5−339813広報には、ポリアクリロニトリルのみからなるホモポリマーでは、酸化、環化および架橋化反応が遅いためにアクリル酸などのカルボン酸基含有ビニルモノマーを共重合させて反応を促進させ効率的に不炎化繊維を得る方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、酸化反応には当然酸素あるいは空気を必要としており、依然300℃に近い高温が必要とされているし、アクリロニトリル以外の共重合成分により、繊維としての物性や、後の炭素繊維の物性に悪影響を及ぼすことが懸念されている。更には、酸素や空気の存在下での反応を必須とするために、後の炭素繊維化での収率を下げる要因になっている。
【0006】
上記と同様な目的で例えば、Carbon Vol.29,No.8,pp.1081−1090(1991)には、ポリアクリロニトリルに塩基性物質や求核剤を環化助剤として処理せしめ環化を促進する方法が紹介されている。
【0007】
例えば、J.Mats.Sci.Letts.7,pp.628(1988)には、過マンガン酸カリウム水溶液でポリアクリロニトリル繊維を処理し環化を促進することが報告されている。
【0008】
しかしながら、実用に到る効果的な方法が見出されていないのが実状である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本願発明の目的は、効率的にアクリロニトリル樹脂の不炎化体を製造する方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、このような課題に対して鋭意検討した結果、ポリアクリロニトリルのホモポリマーを、従来より低い温度条件下においてすみやかに不炎化できる方法を見出した。
【0011】
すなわち本願発明は、下記のごとく、ポリアクリロニトリル樹脂をヨウ素ガスと酸素とを含むガスと接触させることを特徴とするポリアクリルニトリル系不炎化体の製造方法である。
【0012】
1. ポリアクリロニトリル樹脂をヨウ素ガスと酸素とを含むガスと接触させることを特徴とするポリアクリルニトリル系不炎化体の製造方法。
【0013】
2. ヨウ素ガスと酸素とを含むガスが実質的にヨウ素ガスと空気とよりなるガスであることを特徴とする上記1に記載のポリアクリロニトリル系炭素化体の製造方法。
【0014】
3. ポリアクリロニトリル樹脂中のアクリロニトリルモノマー成分が80〜100モル%であることを特徴とする上記1または2に記載のポリアクリロニトリル系不炎化体の製造方法。
【0015】
4. ポリアクリロニトリル樹脂の形態が繊維状であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のポリアクリロニトリル系不炎化体の製造方法。
【0016】
5. ポリアクリロニトリル樹脂の形態がフィルム状であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のポリアクリロニトリル系不炎化体の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に本願発明を詳述する。
【0018】
本願発明においては、ポリアクリロニトリル樹脂をヨウ素ガスと酸素とを含むガス中に存在せしめて不炎化処理することによってポリアクリルニトリル系不炎化体を低温で効率よく製造することができる。
【0019】
本願発明に用いられるポリアクリロニトリル樹脂は、公知の方法で調製される、アクリロニトリルモノマー成分が80〜100モル%からなるポリマーを用いることができる。また、従来技術の酸化促進効果を持たせるためにアクリロニトリルモノマー以外に他のモノマーを20〜0モル%を共重合せしめて得られる共重合ポリアクリロニトリルも用いることができる。
【0020】
好ましくはアクリロニトリル100モル%から重合せしめて調製されるポリアクリロニトリル樹脂である。
【0021】
本願発明においては、上記ポリアクリロニトリル樹脂をヨウ素ガスと酸素とを含むガスと接触処理する。
【0022】
本願発明に用いられるヨウ素ガスは、公知の方法で調製されるガスを用いることができるが、純度の高いヨウ素を用いることが望ましい。
【0023】
純度が低いと目的の不炎化体が得られなくなったり、不炎化体の力学物性が低下するため、好ましくない。好ましくは99重量%以上、より好ましくは99.5重量%以上、更に好ましくは99.9重量%以上の純度のガスが好ましい。
【0024】
固体ヨウ素を加熱することによりガス化せしめポリアクリロニトリル樹脂が存在する系内へ導入することが望ましい。
【0025】
なお、本願発明における「ヨウ素ガスと酸素とを含むガス」はヨウ素ガスと酸素を含むガスとを混合して作製してもよいが、酸素を含むガス中でヨウ素を気化する方法によっても良い。
【0026】
また、「酸素を含むガス」には窒素、アルゴン、炭酸ガス等の他のガスを共存させても良い。
【0027】
「酸素を含むガス」として最も簡便なものは空気である。すなわち、空気中でヨウ素を気化する方法が、本願発明に係る「ヨウ素ガスと酸素とを含むガス」を作製する方法として好ましい。
【0028】
なお、本願発明に用いることのできる「空気」とは、通常の環境下における大気を意味する。ただし、窒素ガスを更に加える等の修正を加えても良い。
【0029】
空気としては、乾燥空気すなわち、湿気・水分をあまり含んでいない空気が望ましい。水分を含んでいると、目的の不炎化体が得られなくなったり、不炎化体の力学物性が低下するため、好ましくない。水分は少なければ少ないほど好ましい。
【0030】
以下、ポリアクリロニトリル樹脂をヨウ素ガスと酸素とを含むガスにて処理する条件を詳述する。
【0031】
不炎化処理の温度条件としては、0〜500℃の温度条件が好ましい。温度がこの範囲を外れると、目的の不炎化体が得られなくなったり、不炎化体の力学物性が低下するため好ましくない。より好ましくは100〜450℃の範囲である。更に好ましくは200〜400℃の範囲である。
【0032】
ヨウ素ガスは、気体全体のモル量に対して、1〜100モル%の間に保つことが好ましい。濃度がこの範囲を外れると、目的の不炎化体が得られなくなったり、不炎化体の力学物性が低下するため好ましくない。
【0033】
また、その際の圧力条件としては、用いる混合ガスの種類にもよるが、実質的には、全圧として1Pa〜100MPaの範囲である。接触時間は特に制限はないが、好ましくは1秒から10時間である。
【0034】
なお、上記温度は、ポリアクリロニトリル樹脂とガスとの双方の温度を意味するが、両者が同一である必要はなく、また、たとえば一方の温度が両者の接触前に好ましい温度範囲を逸脱していても、両者の接触の結果、好ましい温度範囲に入れば十分である。むしろ、たとえば一方の温度が両者の接触前に好ましい温度範囲を逸脱していても両者の接触の結果、不炎化体が得られれば、好ましい温度範囲に入ったものと推察することができる。故に、加熱されたヨウ素ガスを加熱されていないポリアクリロニトリルと接触させることによって、優れた不炎化体を得ることも可能である。
【0035】
本願発明の不炎化体の製造における形態には制限はないが、本願発明は、形態が繊維状あるいはフィルム状のポリアクリロニトリル系不炎化体を得るための製造方法として有効である。
【0036】
すなわち、ポリアクリロニトリル樹脂を一度可溶性の有機溶媒に溶解せしめたのち、繊維状、フィルム状あるいは他の形態に成形せしめ、これをヨウ素ガス処理することで、目的の繊維状あるいはフィルム状の不炎化体を得ることができる。
【0037】
用いる有機溶媒としては、ポリアクリロニトリルが可溶であれば特に制限はないが、以下に挙げる有機溶媒、すなわち、ハロゲン化炭化水素、非プロトン性極性溶媒を好ましく用いることができる。1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロホルム、ジメチルクロライド、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドがより好ましく、更にはN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドがさらに好ましい。
【0038】
【発明の効果】
本願発明によれば、ポリアクリロニトリル樹脂をヨウ素ガスと酸素とを含むガスと接触させることによって、低温においても効率的に不炎化体を得ることができ、従来一般に用いられているのと同等の不炎化温度を採用する場合には、より短時間に不炎化体とすることが可能である。
【0039】
これは、ヨウ素ガスと酸素とを含むガスが、ポリアクリロニトリル樹脂を速やかに酸化、環化および架橋化反応を進行せしめているからと考えられる。本願発明により得られたポリアクリロニトリル不炎化体は、炎に暴露せしめた場合に従来よりも優れた不炎化性能、寸法安定性を示している。
【0040】
更には、本願発明のポリアクリロニトリル不炎化体を原料として用いることにより、強度に優れた炭素繊維が安定して得られ、プリプレグ、複合材料へ展開することによって従来より機械的強度に優れた製品を安価に得ることができる。
【0041】
【実施例】
以下に本願発明の実施例を詳述する。ただし、本願発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
<燃焼試験>
ガスバーナーの炎を2センチ大の大きさに調製し、そこへ切り取った不炎化体試験サンプルをピンセットで挟み込んで、炎に近づける。
【0043】
炎が試験サンプルに燃え移ったことを確認した後、炎からサンプルを遠ざけ、その後の様子を観察し、自然に炎が消え、自己消火性を示した場合は「○」とし、遠ざけてもそのまま炎が燃えつづける場合を「×」とした。
【0044】
ポリアクリロニトリル樹脂は、アルドリッチ社製のものを使用した。
【0045】
ヨウ素は、関東化学製のもの(純度99.8重量%)を、昇華精製等で精製して使用した。
【0046】
[参考例1]
ポリアクリロニトリル粉末34Kgを、N−メチルピロリドン166Kgに溶解させ、17重量%の溶液を調製した。得られた溶液を湿式紡糸し、単糸0.11テックス,繊維束333テックスのポリアクリロニトリル繊維を得た。
【0047】
[参考例2]
ポリアクリロニトリル粉末34gを、N−メチルピロリドン166gに溶解させ、17重量%の溶液を調製した。得られた溶液をフィルムキャスト法により製膜し、乾燥させることにより、厚さ50μmのポリアクリロニトリルフィルムを得た。
【0048】
[実施例1,2]
参考例1,2で得られたポリアクリロニトリル繊維およびフィルムをそれぞれ耐圧ガラス瓶(容量420mL)の中に入れ、固体ヨウ素1.066gを入れた後、空気置換をして密閉した。その耐圧瓶ごと200℃の熱風乾燥機の中に入れ,2時間後、取りだし放冷した。
【0049】
取り出したサンプルを、燃焼試験を行った結果、いずれの繊維、フィルムも自己消火性を示す不炎化体であった。結果を表1にまとめた。
【0050】
[実施例3〜6]
表1に記載した条件以外は実施例1,2と同様な処置を行った。結果を表1にまとめた。
【0051】
[比較例1,2]
参考例1,2で得られたポリアクリロニトリル繊維およびフィルムをそれぞれそのまま(すなわち、個体ヨウ素を入れず、大気中で)200℃の熱風乾燥機の中に入れたことと、表1に記載した条件以外は実施例1,2と同様な処置を行った。結果を表1にまとめた。
【0052】
[比較例3〜5]
参考例1,2で得られたポリアクリロニトリル繊維およびフィルムをそれぞれ耐圧ガラス瓶(容量420mL)の中に入れ、固体ヨウ素を入れずに空気のみ、あるいは窒素のみで置換をして密閉した。それ以外は、表1に示すように、実施例3〜5と同様な処置を行った。結果を表1にまとめた。
【0053】
【表1】
Figure 0004175772

Claims (5)

  1. ポリアクリロニトリル樹脂をヨウ素ガスと酸素とを含むガスと接触させることを特徴とするポリアクリルニトリル系不炎化体の製造方法。
  2. ヨウ素ガスと酸素とを含むガスが実質的にヨウ素ガスと空気とよりなるガスであることを特徴とする請求項1に記載のポリアクリロニトリル系炭素化体の製造方法。
  3. ポリアクリロニトリル樹脂中のアクリロニトリルモノマー成分が80〜100モル%であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアクリロニトリル系不炎化体の製造方法。
  4. ポリアクリロニトリル樹脂の形態が繊維状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアクリロニトリル系不炎化体の製造方法。
  5. ポリアクリロニトリル樹脂の形態がフィルム状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアクリロニトリル系不炎化体の製造方法。
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