JP4171196B2 - 吹錬工程の管理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、転炉で鉄鋼用鉄原料(溶銑など)を吹錬するに際して、アルミナを含有する不定形廃耐火物を有効に再利用できる吹錬工程の管理方法、及びこの方法を利用した鋼の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アルミナを含有する耐火物(アルミナ質耐火物など)は、製鋼用耐火物等として利用されており、殆どの耐火物は使用後、産業廃棄物として処理され、極一部の耐火物が高炉の出銑樋の流し込み用原料として再利用されている。しかし製鋼用アルミナ含有耐火物は、使用中の強度を向上させるため金属製ファイバー又はワイヤーが少量添加されていることが多く、これらメタルの混入のために再利用に悪影響を与える。すなわちファイバーやワイヤーが混入している場合には、目的とする耐火物組成にコントロールすることができず、所定の強度を発揮させることができない。そのため、耐火物として再利用し難い。
【0003】
一方、特開2000−104109号公報には、耐火物を内張りした反応容器において、CaOおよびMgOを合計で40wt%以上含有するスラグを用いて溶融金属を精錬する方法であって、前記反応容器中にアルミナを5wt%以上含有する物質(鋼の連続鋳造用のノズル耐火物など)を添加することを特徴とするスラグの未滓化CaO、MgO低減方法が開示されている。この方法はCr鉱石の溶融還元精錬に好適に適用され、例えば、実施例では300mm以下に粉砕した連続鋳造用ノズル耐火物屑を用い、67分吹錬することによって精錬している。
【0004】
しかし、この方法はCr鉱石を溶融還元精錬するため1チャージ(バッチ)の処理時間に60〜70分もかけることができ、その間にCaOを滓化できるに過ぎず、処理時間が短い精錬に適用することはできない。例えば、転炉で鋼を精錬する場合、吹錬時間は通常15分程度であり、このような短時間では連続鋳造用ノズル耐火物を用いてもCaOなどを滓化できない。
【0005】
また転炉での精錬(脱リン)に際して、溶銑予備処理によって予備的に脱リン及び脱硫した溶銑を用いる場合、溶銑中のSi含有量が低いため、精錬時に発生するSiO2量も少なくなる。SiO2量が少ないと精錬炉(転炉)で脱リンのために添加する焼成石灰が滓化しにくくなる虞があるため、SiO2源を多く添加して塩基度(CaO/SiO2)を調整すると共に、ホタル石などの滓化促進剤を多く添加する必要がある。特に、カーボン濃度が大きい鋼(例えば、吹止時のカーボン濃度が0.15%以上の鋼)を精錬する場合、溶鋼に酸素を供給しても鉄よりも先にカーボンが燃焼するため、精錬スラグ中の酸化鉄濃度が上昇し難く、脱リンのために添加した焼成石灰の滓化が特に困難になる。そのため、ホタル石などの滓化促進剤を大量投入する必要がる。
【0006】
しかし、ホタル石を多量に投入すると、転炉精錬後に発生するスラグは多量のフッ素を含有し、さらに前記スラグは路盤材や土木工事用原料に使用されることが多いため、フッ素成分が少しずつ溶出して土壌汚染を引き起こす虞があり、環境保全上重要な問題となっている。
【0007】
なお耐火物を利用する発明ではないが、特開平8−157921号公報には、上底吹転炉形式の炉において転炉滓と酸化鉄とを主成分とする脱りん用フラックスを用い、処理中のスラグ条件を重量%で塩基度(%CaO/%SiO2)=1.2〜2.0、(Al2O3)=2〜16%、(T.Fe)=7〜30%に制御して脱りんする方法が開示されており、例えば実施例のNo.8(表2)では、脱りん処理中のスラグ組成がCaO=41wt%、SiO2=23wt%、T.Fe=7wt%、Al2O3=10.2wt%であることが記載されている。また特開平9−59709号公報にも、上底吹転炉形式の炉において転炉滓と酸化鉄とを主成分とする脱りん用フラックスを用い、処理中のスラグ条件を重量%で塩基度(%CaO/%SiO2)=1.2〜2.0、(Al2O3)=2〜15%、(T.Fe)=7〜25%、(MnO)=5〜15%に制御して脱りんする方法が開示されており、例えば実施例のNo.4(表2)では、脱りん処理中のスラグ組成が、CaO/SiO2=1.82、T.Fe=23wt%、MnO=8.5wt%、Al2O3=6.8wt%であることが記載されている。これら公報の実施例に記載されている組成を整理すると、特開平8−157921号公報の場合、α=%CaO/(SiO2+%Al2O3+%T.Fe)=1.0、β=%SiO2/α=23、γ=%Al2O3/α=10、δ=%T.Fe/α=7程度であり、特開平9−59709号公報の場合、α=%CaO/(SiO2+%Al2O3+%T.Fe)=0.7、β=%SiO2/α=33、γ=%Al2O3/α=10、δ=%T.Fe/α=35程度である。しかしこれら特開平8−157921号公報及び特開平9−59709号公報に記載の方法では、スラグの滓化に時間がかかり効率が悪い。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、転炉での製鋼用鉄原料(溶銑など)を吹錬するに際して、アルミナを含有する耐火物を用いても、メタル混入による悪影響を排除でき、ホタル石を用いることなく精錬用副原料(CaOなど)を短時間で滓化できる鋼の製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アルミナを含有する耐火物として不定形耐火物を使用し、さらには吹錬時に生成するスラグの組成が特定の範囲になるように前記不定形耐火物と精錬用副原料(CaOなど)の量を調整すると、メタル混入による悪影響を排除でき、速やかにCaOを滓化できることを見出し、また特定の計算式に基づいて吹錬時の酸素の噴出圧力を制御することによってもメタル混入による悪影響を排除でき、速やかにCaOを滓化できることを見出し本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明に係る吹錬工程の管理方法は、転炉での製鋼用鉄原料の吹錬に際して、アルミナ含有不定形廃耐火物(例えば、見掛け気孔率15%以上、平均粒径3〜50mm程度の不定形廃耐火物)と他の成分とを副原料として用いる場合に、吹錬時に生成するスラグが下記式(1)〜(4)を満足するように前記副原料の構成を調整する。
【0011】
α=%CaO/(%SiO2+%Al2O3+%T.Fe)=0.7〜3 …(1)
β=%SiO2/α=3〜40 …(2)
γ=%Al2O3/α=0.7〜7 …(3)
δ=%T.Fe/α=5〜27 …(4)
[式中、%CaO、%SiO2、%Al2O3、%T.Feは、それぞれ、吹錬時に生成するスラグ中のCaO含量(質量%)、SiO2含量(質量%)、Al2O3含量(質量%)、トータル鉄含量(質量%)を示す]
本発明の吹錬工程の管理方法は、さらに、吹錬時に生成するスラグ中のMnO濃度を5〜15質量%にする為に、所定期間(例えば、吹錬工程中〜後期)、下記式(5)に基づいて計算される噴出酸素の衝突圧力Psと溶鋼質量Wとの比率(Ps/W)を50Pa/t以下に制御する。
【0012】
Ps=C×(X*−X0 *)-2×[P0(X*=15)−P] …(5)
[式中、Psは噴出酸素の溶鋼に対する衝突圧力(Pa)を示す。Cは、下記式(6)で算出される数値を示し、X*は下記式(7)で算出される無次元距離を示し、X0 *は下記式(8)で算出される無次元の仮想原点を示す。P0(X*=15)は、前記無次元距離X*が15のときの下記式(9)で算出される絶対圧力(Pa)を示し、Pは大気圧(Pa)を示す。
【0013】
C=−26.3×M2+11.8×M+162 …(6)
X*=X/D …(7)
X0 *=1.2×M2−0.6×M+2.2 …(8)
P0(X*=15)=[0.25×M2−1.1×M+1.43]×P0(X*=0) …(9)
(式中、Mは、M=噴出酸素の速度V0(m/s)/音速V(m/s)によって算出される送酸速度(マッハ数)を、Xは酸素導入管出口から湯面までの距離(m)を、Dは酸素導入管出口の口径(m)を示す。P0(X*=0)は、無次元距離X*が0のときの絶対圧力(Pa)を示す)]
前記他の成分としてマンガン成分を用いてもよく、所定期間、前記Ps/Wを50Pa/t以下に制御することにより、吹錬時に生成するスラグ中のMnO濃度を5〜15質量%に調整してもよい。
【0014】
本発明は、管理方法である。
【0015】
【発明の実施の形態】
[アルミナを含有する廃耐火物]
本発明で廃材として利用するアルミナ含有耐火物は、煉瓦などの定形耐火物ではなく、不定形耐火物(粒状耐火物、ねり土状耐火物など)である。不定形耐火物は、気孔率が高く、不定形耐火物の周囲に存在する精錬用副原料(カルシウム成分など)と効率よく反応する。そのため、他のアルミナ源に比べて、より短時間で精錬用副原料(特にCaO)の融点を下げることができ、速やかに滓化できる。
【0016】
アルミナ含有廃耐火物の見掛け気孔率は、例えば、15%以上、好ましくは20%以上、さらに好ましくは25%以上である。アルミナ含有廃耐火物の見掛け気孔率が高いほど、他の精錬用副原料(CaOなど)を極めて速やかに滓化できる。なお、廃耐火物の見掛け気孔率は、通常、50%以下、好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下である。
【0017】
なお見掛け気孔率は、JIS R 2205に準拠して測定できる。
【0018】
またアルミナ含有廃耐火物は、適当に粉砕又は粉粒してもよく、粉砕又は粉粒後の廃耐火物の平均粒径は、例えば、50mm以下、好ましくは40mm以下、さらに好ましくは30mm以下であってもよい。廃耐火物を細かく粉砕又は粉粒することによって耐火物の溶解性又は溶融性を高めることができ、他の精錬用副原料(カルシウム成分など)をさらに速やかに滓化できる。
【0019】
なお廃耐火物の平均粒径が小さ過ぎると、転炉に投入する際に廃耐火物が飛散し易くなり、廃耐火物が有効に機能せず、滓化速度が逆に低下する虞がある。そのため、廃耐火物の平均粒径は、通常、3mm以上、好ましくは4mm以上、さらに好ましくは5mm以上である。
【0020】
アルミナ含有廃耐火物中のアルミナ含有量は、例えば、30質量%以上、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。アルミナ含有量が高いほど、精錬用副原料の滓化剤として有利に利用できる。なおアルミナ含有量は、通常、99質量%以下(例えば、90質量%以下)程度である。
【0021】
前記アルミナ含有廃耐火物は、SiO2を含有していてもよい。SiO2を含有する場合、アルミナ含有廃耐火物をSiO2源としても使用でき、転炉スラグの塩基度を調整するためのケイ素成分(ろう石、珪石、蛇紋岩など)の使用量を低減できる。アルミナ含有廃耐火物のSiO2含有量は、例えば、1〜50質量%程度、好ましくは5〜20質量%程度である。
【0022】
前記アルミナ含有耐火物は、アルミナ系耐火物[(高)アルミナ質耐火物(例えば、Al2O3含有量:50〜98質量%程度、SiO2含有量:1〜50質量%程度の(高)アルミナ質耐火物)、アルミナ黒鉛質耐火物(例えば、Al2O3含有量:30〜70質量%程度、SiO2含有量:0〜40質量%程度のアルミナ黒鉛質耐火物)、アルミナクロム質耐火物(例えば、Al2O3含有量30〜70質量%、SiO2含有量:1〜20質量%程度のアルミナクロム質耐火物)]、ムライト質耐火物(例えば、Al2O3含有量:60〜80質量%、SiO2含有量:20〜30質量%程度のムライト質耐火物)、粘土質耐火物(例えば、Al2O3含有量:30〜50質量%、SiO2含有量:40〜80質量%程度の粘土質耐火物)、ジャモット質耐火物(例えば、Al2O3含有量:30〜50質量%、SiO2:含有量40〜70質量%程度のジャモット質耐火物)などから適宜選択できる。
【0023】
前記アルミナ含有耐火物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
[製鋼用鉄原料の精錬(吹錬)]
本発明では前記廃耐火物と他の成分とを副原料として用い、転炉で製鋼用鉄原料[溶銑、くず鉄(スクラップ)など]を鋼に精錬する。精錬には慣用の方法が利用でき、例えば、上吹が可能な転炉(LD転炉などの上吹転炉、上底吹転炉など)を用い、転炉に製鋼用鉄原料を投入し上吹式の酸素導入管(ランス)から送酸して吹錬する方法が利用できる。
【0025】
なお前記溶銑はそのまま用いてもよいが、本発明では、溶銑予備処理により予備的に脱リン及び脱硫した溶銑が有利に利用できる。溶銑予備処理すると、溶銑中のSi含有量が低下し、一般には、精錬炉(転炉)で脱リンのために添加するカルシウム成分の滓化が困難になる虞があるのに対して、本発明では、不定形の廃耐火物を用いると共に、後述するように転炉スラグの組成が特定の範囲になるように廃耐火物の量を調整しているため、他の成分(カルシウム成分など)を容易に滓化できる。
【0026】
また前記製鋼用鉄原料のカーボン濃度は、比較的高くてもよく、例えば、0.2〜1質量%程度であってもよい。カーボン濃度が高い原料を精錬(吹錬)する場合、酸化鉄濃度が上昇し難いため、一般には、カルシウム成分の滓化が困難になる虞があるのに対して、本発明では前述の溶銑予備処理の場合と同様の理由により、他の成分(カルシウム成分など)を容易に滓化できる。
【0027】
前記他の成分には、カルシウム成分(消石灰、生石灰、石灰岩など)、ケイ素成分(珪石、ろう石、蛇紋岩など)、マグネシウム成分(ドロマイト、マグネサイト、カーナライトなど)、マンガン成分(Mn鉱石、Mn合金、Mn含有スラグなど、特にフェロマンガン)が挙げられる。前記カルシウム成分は、例えば、脱リン剤として使用でき、前記ケイ素成分は、例えば、塩基度調整剤として使用できる。
【0028】
本発明では、副原料(前記耐火物及び他の成分)の構成を調整することにより、吹錬時に生成するスラグ(精錬スラグ)中の各成分が下記式(1)〜(4)の範囲になるようにする。副原料の構成を調整すると、耐火物を再利用する場合であっても、耐火物中のメタル混入による悪影響を排除でき、ホタル石を用いることなく他の成分(カルシウム成分など)を短時間で滓化できるため、脱リン不足を防止できる。さらには、スロッピングも防止でき、生産性が低下する虞がない。特に下記式(1)〜(4)の範囲になるように成分量を調整する条件下でアルミナ含有不定形耐火物を用いると、成分量調整による滓化効果と、耐火物の高い反応性とが相俟って、極めて効率よく(例えば、短時間で)スラグを滓化できる。
【0029】
α=%CaO/(%SiO2+%Al2O3+%T.Fe)=0.7〜3 …(1)
β=%SiO2/α=3〜40 …(2)
γ=%Al2O3/α=0.7〜7 …(3)
δ=%T.Fe/α=5〜27 …(4)
[式中、%CaO、%SiO2、%Al2O3、%T.Feは、それぞれ、精錬スラグ中のCaO含量(質量%)、SiO2含量(質量%)、Al2O3含量(質量%)、トータル鉄含量(質量%)を示す]
上記式(1)〜(4)は全体として、脱リン等に使用されるカルシウム成分(CaOなど)と、このCaOの融点を下げるために用いる珪素成分(SiO2など)、酸化鉄(T.Fe)、及びアルミニウム成分(Al2O3など)との配合比率を規定している。
【0030】
詳細には、上記式(1)のパラメーターαは、スラグ中のCaOと、融点降下物質であるSiO2、T.Fe、Al2O3との比率を示しており、この値が小さいほどCaOが溶解し易くなる。
【0031】
上記式(2)、(3)、又は(4)のパラメーターβ、γ、又はδは、スラグ中のSiO2、Al2O3、又はT.FeとCaOとの比率を反映している。そして単純にCaOと対比するのではなく、前記パラメーターαと対比することによって、CaOの溶解性や精製効率(脱リン効率など)に対する精度のよい指標とすることができる。
【0032】
αの好ましい範囲は、0.9以上(特に、1以上)、2.5以下(特に、2以下)である。また、βの好ましい範囲は、5以上(特に、8以上)、30以下(特に、14以下)である。γの好ましい範囲は、1以上(特に、2以上)である。δの好ましい範囲は、5以上(特に7以上)、19以下(特に、15以下)である。
【0033】
副原料(廃耐火物及び他の成分)の投入量は、前記精錬スラグ中の成分を調整でき、かつ製鋼用鉄原料を精錬(脱りんなど)できる限り特に限定されないが、例えば、廃耐火物の投入量は、製鋼用鉄原料1tに対して、通常、0.1〜10kg程度、好ましくは0.5〜7kg程度である。また、ケイ素成分、カルシウム成分、マグネシウム成分、及びマンガン成分の投入量は、製鋼用鉄原料1tに対して、それぞれ、0.5〜10kg(好ましくは1〜7kg)、5〜50kg(好ましくは10〜20kg)、3〜20kg(好ましくは5〜15kg)、0.5〜10kg(好ましくは1〜7kg)程度であってもよい。
【0034】
前記副原料(副生スラグ及び他の成分)の投入時期は特に限定されないが、通常、吹錬工程中期迄に、例えば、吹錬工程が時間のファクターで70%(好ましくは50%、さらに好ましくは30%)進行する迄に、好ましくは吹錬開始前又は製鋼用鉄原料装入前に、略全量(全投入量に対して、80質量%以上、好ましくは90質量%以上、特に100質量%)を投入(又は入れ置き)する。吹錬工程中期迄に副原料を略全量添加すると、スラグの滓化を促進できる。
【0035】
なお吹錬工程の始点は、酸素導入管からの送酸の開始時点である。また吹錬工程の終点は、鋼が製品適性を有するに至る時点(例えば、リン含有量が0.015質量%以下、C含有量が0.50質量%以下になる時点)である。
【0036】
吹錬に要する時間は、通常、30分以下(10〜30分程度)、好ましくは20分以下(10〜20分程度)、さらに好ましくは15分以下(10〜15分程度)である。
【0037】
吹錬工程では、酸素の供給強さ(ハードブロー、ソフトブローなど)を適宜選択してもよい。本発明では、少なくとも所定期間ソフトブローすることが多く、例えば、吹錬開始時にハードブローし、時間のファクターで吹錬工程が30%以上(好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上)進行するとソフトブローに切り替えることが多い。所定期間ソフトブローすることにより、スラグ中のT.Fe濃度を高めることができ、前記組成パラメーターα〜δを容易に制御できる。
【0038】
なお、従来においても、スラグ中のT.Fe濃度を高めるためソフトブローが利用されていたものの、ブローの強さを酸素ジェットによる溶鋼の凹み深さLと鋼浴深さLoの比(L/Lo)で管理しており、溶鋼の脱炭に対する酸素の使用効率(脱炭酸素効率)を制御できない。すなわち、スラグメタル間の反応を正確に制御できず、スラグ中のT.Fe濃度を精度よく制御できない。これに対して、本発明では、下記式(5)及び図1に基づいて計算される噴出酸素の衝突圧力Psと溶鋼質量Wとの比(Ps/W)により酸素の供給強さを管理しており、ソフトブロー時には、Ps/Wを50Pa/t以下に制御している。すなわちこの方法では、酸素ジェットの衝突エネルギーを溶鋼の単位質量当たりの値で規定しているため、酸素ジェットの脱炭酸素効率を制御できる。その結果、脱炭以外に使用される酸素(すなわち、溶鋼を酸化しスラグの酸化鉄濃度を高めてしまう酸素)の量を制御でき、スラグ中のT.Fe(酸化鉄濃度)を任意の値に制御することができる。このようにしてスラグメタル間の反応を正確に制御できるため、スラグ中のT.Fe濃度を安定して15質量%以上にできる。
【0039】
Ps=C×(X*−X0 *)-2×[P0(X*=15)−P] …(5)
[式中、Psは噴出酸素の溶鋼に対する衝突圧力(Pa)を示す。Cは、下記式(6)で算出される数値を示し、X*は下記式(7)で算出される無次元距離を示し、X0 *は下記式(8)で算出される無次元の仮想原点を示す。P0(X*=15)は、前記無次元距離X*が15のときの下記式(9)で算出される絶対圧力(Pa)を示し、Pは大気圧(Pa)を示す。
【0040】
C=−26.3×M2+11.8×M+162 …(6)
X*=X/D …(7)
X0 *=1.2×M2−0.6×M+2.2 …(8)
P0(X*=15)=[0.25×M2−1.1×M+1.43]×P0(X*=0) …(9)
(式中、Mは、M=噴出酸素の速度V0(m/s)/音速V(m/s)によって算出される送酸速度(マッハ数)を、Xは酸素導入管出口から湯面までの距離(m)を、Dは酸素導入管出口の口径(m)を示す。P0(X*=0)は、無次元距離X*が0のときの絶対圧力(Pa)を示す)]
図1は、前記式(5)〜(9)の変数D、X、X*、Ps、P0(X*=0)、P0(X*=15)、X0 *の概念を説明するための装置概略図である。すなわち、変数Dは、酸素導入管2の出口の口径(m)を示し、変数Xは、前記酸素導入管2の出口から湯面1までの距離(m)を示す。そして変数X*は、前記変数XをD分割した値であり、前記変数Xと軸が等しい。すなわち酸素導入管2の出口では、X*=0であり、距離X/D毎にX*の値は1増大し、湯面1ではX*=Dである。Psは湯面1(すなわち、X*=D)での噴出酸素の衝突圧力を示し、P0(X*=0)は酸素導入管2の出口での絶対圧力(Pa)を示し、P0(X*=15)は酸素導入管2の出口からの距離X/Dが15の場所での絶対圧力(Pa)を示す。X0 *は、ノズルから高速(例えば、超音速)で噴出した酸素が一定の距離までは殆ど減速することなく進行し、一定の距離を越えると減速し始める場合の前記一定距離(臨界距離)を示す。
【0041】
特に、ソフトブロー時に、前記式(5)及び図1に基づいて計算される比Ps/Wを50Pa/t以下(例えば、10〜50Pa/t、好ましくは10〜40Pa/t、さらに好ましくは10〜30Pa/t)に制御すると、他の成分としてマンガン成分を用いた場合、スラグ中のMnO濃度を5〜15質量%に制御でき、スラグの滓化を促進できる。
【0042】
本発明によれば、耐火物を再利用して吹錬するにも拘わらず、吹錬時に生成するスラグを確実に滓化できるため、他の成分(カルシウム成分など)による脱りんを確実に行うことができる。すなわち得られた鋼は、廃耐火物を再利用して精錬したにも拘わらず、品質上、従来の鋼に比べて遜色なく、種々の用途に使用できる。
【0043】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0044】
実施例1〜4及び比較例1〜4
実施例では図2に示す上底吹転炉を用いて、溶銑及びスクラップを精錬した。すなわち図2の上底吹転炉は、上部に開口部を有する転炉本体3と、この転炉本体3に装入した製鋼用鉄原料5及び吹錬時に生成するスラグ4に底側からガスを吹き込むための底吹ガス配管6と、前記製鋼用鉄原料5及びスラグ4の上側から酸素を吹き付けるための酸素導入管(酸素ランス)2とを備えている。実施例では、この転炉本体3に製鋼用鉄原料5として溶銑及びスクラップを総量で100t装入し、表1に示す副原料(アルミナ含有不定形廃耐火物、珪石、蛍石、焼成石灰、軽焼ドロマイト、FeMnなど)を前記転炉本体3の上方に備え付けられた副原料投入ホッパー8から転炉3の上部開口部を通じて転炉本体3内に投入した。その後、酸素ランス2から酸素を供給した。なお酸素供給時(吹錬工程)の送酸のブロー強さは図3に示す通りであり、実施例1〜4及び比較例2〜3では吹錬工程前半50%(時間基準)の衝突圧力Psと溶鋼質量Wとの比Ps/Wを70Pa/tに制御し、吹錬工程後半50%(時間基準)の前記Ps/Wを30Pa/tに制御した。また比較例1では、吹錬工程前半50%(時間基準)のPs/Wを70Pa/tに制御し、後半50%(時間基準)のPs/Wを60Pa/tに制御した。
【0045】
なお前記不定形廃耐火物は、見掛け気孔率が17%であり、粒径約10〜50mmに整粒した。組成は、Al2O3含量85質量%、SiO2含量10質量%、MgO含量3質量%、メタル(ステンレス)含量2質量%であった。
【0046】
また溶銑としては溶銑予備処理したものを用いた。組成は、C含量4.00質量%、Si含量痕跡量(トレース)、Mn含量0.15質量%、P含量0.020質量%、S含量0.020質量%であり、残部は実質的に鉄である。
【0047】
吹錬中は精錬スラグの滓化度を目視で観察するとともに、スラグの組成を分析し、上記式(1)〜(4)によって計算される組成パラメーターα〜δを算出した。
【0048】
また得られた鋼のP含量及びC含量を測定し、鋼の製品適性を下記基準に従って判断した。
【0049】
○…P含量が0.015%以下であり、かつC含量0.40〜0.45質量%である
×…P含量が0.015%を超える
結果を表2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
表2から明らかなように、実施例の方法によれば、副原料として不定形の廃耐火物を用いると共に、吹錬時に生成するスラグが特定の組成を有するように副原料を投入しているため、精錬スラグの滓化度を良好にでき、さらには得られた鋼の製品適性を満足できる。これに対して、比較例の方法によれば、吹錬時に生成するスラグが特定の組成を有していないため、滓化不足又は滓化過剰が生じ、脱りん不足を生じ、得られた鋼は製品として使用できない。
【0053】
さらに、前記実施例1〜4及び比較例1〜4において、吹錬時に生成したスラグ中のフッ素濃度(質量%)を測定した。また、この精錬スラグから溶出するフッ素の量を以下のようにして測定した。
【0054】
[フッ素溶出量(mg/l)の測定]
採取したスラグから中小礫を除き、粗砕後、目開き2mmの金属製篩を通過させることによって粉状スラグを得る。この粉状スラグを十分に混合した後、純水で希釈した塩酸(希釈後のpH=5.8〜6.3)に前記粉状スラグを濃度10w/v%となるように加える。なお前記粉状スラグの希塩酸液(以下、試料液と称する)の容量が500ml以上となるように、十分な量の希塩酸を使用する。
【0055】
振とう機を用いて前記試料液を6時間連続して振とうする。昭和46年12月環境庁告示第59号付表6に掲げる方法に準拠して、振とう後の試料液中のフッ素濃度を測定する。
【0056】
結果を図4及び図5に示す。
【0057】
図4及び図5から明らかなように、比較例4では蛍石を用いているため、フッ素が多量に溶出し土壌汚染を引き起こす虞がある。これに対して実施例では、蛍石に代えて廃耐火物を使用しているため、フッ素が溶出する虞がなく土壌汚染を引き起こす虞がない。
【0058】
実施例5〜8
見掛け気孔率が5%(実施例5)、10%(実施例6)、20%(実施例7)、又は25%(実施例8)のアルミニウム含有不定形廃耐火物を用いる以外は、実施例3と同様にした。焼成石灰の溶解指数(滓化度)の経時変化を各実施例毎に測定した。
【0059】
なお、前記溶解指数は、以下のようにして求めた。すなわち炉内に投入した焼石灰等のCaO成分が焼結状態である場合を未滓化(溶解指数=0.0)、フォーミングスラグが生成している場合を良好(溶解指数=1.0)とし、その間の滓化度(溶解指数)を複数段階に分けて、目視で評価した。
【0060】
結果を図6に示す。
【0061】
図6から明らかなように、廃耐火物の見掛け気孔率が高くなるほど、焼成石灰は速やかに滓化する。
【0062】
実験例1
耐火物の平均粒径を1〜50mmの範囲で変化させる以外は、実施例3と同様にした。吹錬開始後、15分の時点での焼成石灰の溶解指数を測定した。
【0063】
結果を図7に示す。
【0064】
図7から明らかなように、平均粒径が3〜50mm程度の範囲で、焼成石灰を極めて速やかに滓化できる。
【0065】
実験例2〜8
吹錬後半50%のPs/Wを10Pa/t(実験例2)、20Pa/t(実験例3)、30Pa/t(実験例4)、40Pa/t(実験例5)、50Pa/t(実験例6)、60Pa/t(実験例7)、又は70Pa/t(実験例8)にする以外は、実施例3と同様にした。各実験例毎に、スラグ中のMnO濃度を測定した。
【0066】
結果を図8に示す。
【0067】
図8から明らかなように、吹錬後半のPs/Wを小さくする程、MnO濃度を高めることができる。
【0068】
【発明の効果】
本発明によれば、アルミナを含有する耐火物として不定形耐火物を使用すると共に吹錬時に生成するスラグの組成が特定の範囲になるように前記不定形耐火物と精錬用副原料(CaOなど)の量を調整しているため、又は特定の計算式に基づいて酸素の噴出圧力を制御しているため、メタル混入による悪影響を排除でき、ホタル石を用いなくても精錬用副原料(CaOなど)を短時間で滓化できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は本発明の吹錬方法を説明するための概念図である。
【図2】 図2は実施例の吹錬方法に用いる転炉の装置概略図である。
【図3】 図3は実施例における吹錬進行度(時間基準)とPs/Wとの関係を示すグラフである。
【図4】 図4は実施例1〜4及び比較例1〜4における精錬スラグ中のフッ素濃度を示すグラフである。
【図5】 図5は実施例1〜4及び比較例1〜4で生成した精錬スラグからのフッ素の溶出量を示すグラフである。
【図6】 図6は吹錬時間と溶解指数との関係を示すグラフである。
【図7】 図7は廃耐火物の平均粒径と溶解指数との関係を示すグラフである。
【図8】 図8は酸素導入管からのブロー強度(Ps/W)とスラグ中のMnO濃度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1…湯面
2…酸素導入管
3…転炉本体
4…吹錬時生成スラグ
5…精錬用鉄原料
Claims (3)
- 転炉での製鋼用鉄原料の吹錬に際して、アルミナ含有不定形廃耐火物と他の成分とを副原料として用いる場合に、
(I)吹錬時に生成するスラグが下記式(1)〜(4)を満足するように前記副原料の構成を調整し、
α=%CaO/(%SiO2+%Al2O3+%T.Fe)=0.7〜3 …(1)
β=%SiO2/α=3〜40 …(2)
γ=%Al2O3/α=0.7〜7 …(3)
δ=%T.Fe/α=5〜27 …(4)
[式中、%CaO、%SiO2、%Al2O3、%T.Feは、それぞれ、吹錬時に生成するスラグ中のCaO含量(質量%)、SiO2含量(質量%)、Al2O3含量(質量%)、トータル鉄含量(質量%)を示す]
(II)かつ吹錬時に生成するスラグ中のMnO濃度を5〜15質量%にする為に、吹錬工程中〜後期に、下記式(5)に基づいて計算される噴出酸素の衝突圧力Psと溶鋼質量Wとの比率(Ps/W)を50Pa/t以下に制御する吹錬工程の管理方法。
Ps=C×(X*−X0 *)-2×[P0(X*=15)−P] …(5)
[式中、Psは噴出酸素の溶鋼に対する衝突圧力(Pa)を示す。Cは、下記式(6)で算出される数値を示し、X*は下記式(7)で算出される無次元距離を示し、X0 *は下記式(8)で算出される無次元の仮想原点を示す。P0(X*=15)は、前記無次元距離X*が15のときの下記式(9)で算出される絶対圧力(Pa)を示し、Pは大気圧(Pa)を示す。
C=−26.3×M2+11.8×M+162 …(6)
X*=X/D …(7)
X0 *=1.2×M2−0.6×M+2.2 …(8)
P0(X*=15)=[0.25×M2−1.1×M+1.43]×P0(X*=0) …(9)
(式中、Mは、M=噴出酸素の速度V0(m/s)/音速V(m/s)によって算出される送酸速度(マッハ数)を、Xは酸素導入管出口から湯面までの距離(m)を、Dは酸素導入管出口の口径(m)を示す。P0(X*=0)は、無次元距離X*が0のときの絶対圧力(Pa)を示す)] - 前記不定形廃耐火物の見掛け気孔率が15%以上である請求項1に記載の吹錬工程の管理方法。
- 前記不定形廃耐火物の平均粒径が3〜50mmである請求項1又は2に記載の吹錬工程の管理方法。
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