JP4170010B2 - ステント - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、血管、胆管、気管、食道、尿道などの生体内の管腔に生じた狭窄部もしくは閉塞部の改善に使用されるステントに関する。
【0002】
【従来の技術】
一つの例として、虚血性心疾患に適用される血管形成術について説明する。
【0003】
我が国における食生活の欧米化が、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)の患者数を急激に増加させていることを受け、それらの冠動脈病変を軽減化する方法として経皮的経血管的冠動脈形成術(PTCA)が施行され、飛躍的に普及してきている。現在では、技術的な発展により適用症例も増えており、PTCAが始まった当時の限局性(病変の長さが短いもの)で一枝病変(1つの部位にのみ狭窄がある病変)のものから、より遠位部で偏心的で石灰化しているようなもの、そして多枝病変(2つ以上の部位に狭窄がある病変)へとPTCAの適用が拡大されている。PTCAとは、患者の脚または腕の動脈に小さな切開を施してイントロデューサーシース(導入器)を留置し、イントロデューサーシースの内腔を通じて、ガイドワイヤを先行させながら、ガイドカテーテルと呼ばれる長い中空のチューブを血管内に挿入して冠状動脈の入口に配置した後ガイドワイヤを抜き取り、別のガイドワイヤとバルーンカテーテルをガイドカテーテルの内腔に挿入し、ガイドワイヤを先行させながらバルーンカテーテルをX線造影下で患者の冠状動脈の病変部まで進めて、バルーンを病変部内に位置させて、その位置で医師がバルーンを所定の圧力で30〜60秒間、1回或いは複数回膨らませる手技である。これにより、病変部の血管内腔は拡張され、それにより血管内腔を通る血流は増加する。しかしながら、カテーテルによって血管壁が傷つけられたりすると、血管壁の治癒反応である血管内膜の増殖が起こり30〜40%程度の割合で再狭窄が報告されている。
【0004】
この再狭窄を予防する方法は、これまで確立されるに至っていないが、ステントやアテローム切除カテーテル等の器具を用いる方法等が検討され、ある程度の成果をあげている。ここで言うステントとは、血管あるいは他の管腔が狭窄もしくは閉塞することによって生じる様々な疾患を治療するために、その狭窄もしくは閉塞部位を拡張し、その内腔を確保するためにそこに留置することができる管状の医療用具である。それらの多くは、金属材料または高分子材料よりなる医療用具であり、例えば金属材料や高分子材料よりなる管状体に細孔を設けたものや、金属材料のワイヤや高分子材料の繊維を編み上げて円筒形に成形したもの等様々な形状のものが提案されている。ステント留置の目的は、PTCA等の手技を施した後に起こる再狭窄の予防、およびその低減化を狙ったものであるが、これまでのところステントのみでは狭窄を顕著に抑制することができていないのが実状である。
【0005】
そこで近年では、このステントに抗癌剤等の生物学的生理活性物質を担持させることによって、管腔の留置部位で長期にわたって局所的にこの生物学的生理活性物質を放出させ、再狭窄率の低減化を図る試みが盛んに提案されている。例えば、特開平8−33718号公報にはステント本体の表面に治療のための物質とポリマーの混合物をコーティングしたステントが、また特開平9−99056号公報にはステント本体の表面に対生物作用材料層を設け、さらにこの対生物作用材料層の表面にポリマー製の多孔質材料層を設けたステントが、それぞれ提案されている。
【0006】
しかしながら、特開平8−33718号公報で提案されているステントは、治療のための物質(生物学的生理活性物質)がポリマーと完全に混在しているため、ポリマーが生物学的生理活性物質に対して化学的に作用する場合は、生物学的生理活性物質が分解、劣化してくるという問題、すなわち生物学的生理活性物質の安定性という点で問題が生ずる。また、生体内での分解速度が速いポリマーを選択した場合、短期間(留置後、数日内)で生物学的生理活性物質が全て放出されてしまうため、血管内腔の再狭窄を充分抑制することができないという問題が出てくる。従って、生物学的生理活性物質の分解、劣化を避け、なおかつ生物学的生理活性物質が長期間(留置後、数週間から数ヶ月)にわたって放出されるようにするために、特開平8−33718号公報で提案されているタイプのステントは、ポリマーと生物学的生理活性物質の組み合わせという点で、選択範囲が限定されるという問題がある。
【0007】
一方、特開平9−99056号公報で提案されたステントは、対生物作用材料層(生物学的生理活性物質層)とポリマー層が別の層に分かれているため、ポリマーによる生物学的生理活性物質の分解、劣化という点では不安はないが、生物学的生理活性物質を覆っているポリマー層に多孔体を使用しているため、ポリマー層の一端から他端まで通路が形成されており、生体内に挿入する前の時点、すなわち、製造された時点から、既に生物学的生理活性物質層がステント外雰囲気(ポリマー層の外側)にさらされていることになる。従って、このような構造のステントは、病変部に留置する前に、生物学的生理活性物質が多孔体の通路を通ってステントの外側に放出してしまう可能性がある。また、病変部に留置した後も、生物学的生理活性物質が短期間(留置後、数日内)で急激に放出されるという現象、すなわち初期バーストが起こりやすく、生物学的生理活性物質を長期間(留置後、数週間から数ヶ月)にわたって少しずつ放出することが難しいという問題もあった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、生物学的生理活性物質の分解、劣化が起こることがなく、安定した状態でステント本体に担持させることが可能であり、なおかつ病変部に留置した後、生物学的生理活性物質が短期間で急激に放出されることがなく、長期間にわたって少しずつ放出されるステントを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(7)の本発明により達成される。
【0010】
(1) 生体内の管腔に留置するためのステントであって、前記ステントは、ステント本体と、前記ステント本体の表面に設けられた、少なくとも一種類の生物学的生理活性物質により形成された生物学的生理活性物質層と、前記生物学的生理活性物質層を完全に覆っており、かつ前記生物学的生理活性物質層と連通する通路が存在しないポリマー層を有し、前記ポリマー層の厚さは、全体の厚さに対して部分的に薄い凹部が少なくとも1箇所有り、前記凹部は生体に留置した時に生体組織に接触する前記ステントの外側だけに配置されており、前記ポリマー層を形成するポリマーは、生体内の管腔に留置した後に徐々に分解し生体内に吸収される生分解性ポリマーから成ることを特徴とするステント。
【0011】
(2) 前記ステント本体が金属材料で形成されていることを特徴とする上記(1)に記載のステント。
【0012】
(3) 前記ステント本体が高分子材料で形成されていることを特徴とする上記(1)に記載のステント。
【0013】
(4) 前記生物学的生理活性物質層が、生物学的生理活性物質のみにより形成されていることを特徴とする上記(1)に記載のステント。
【0014】
(5) 前記生物学的生理活性物質層が、生物学的生理活性物質と、低分子の水溶性物質との混合物により形成されていることを特徴とする上記(1)に記載のステント。
【0015】
(6) 前記生物学的生理活性物質が、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、抗炎症剤、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロンおよびNO産生促進物質よりなる群から選ばれた少なくとも1種のものであることを特徴とする上記(1)に記載のステント。
【0016】
(7) 前記生分解性ポリマーが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、セルロース、ポリヒドロキシブチレート−バリレート、ポリオルソエステルのうちの単一物あるいは共重合体や混合物の複合物からなるポリマーのいずれかであることを特徴とする上記(1)に記載のステント。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のステントを添付図面に示す好適な実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明のステントの一様態を示す正面図、図2は図1の線A−Aに沿って切断した拡大横断面図、図3は図1のステントについて、ポリマー層の厚さが薄い凹部に生物学的生理活性物質層まで貫通した微小貫通孔が形成された状態を示す拡大横断面図である。
【0019】
図2および図3に示す本発明のステント1は、ステント本体2と、ステント本体2の表面に設けらた、少なくとも一種類の生物学的生理活性物質により形成された生物学的生理活性物質層3と、生物学的生理活性物質層3を完全に覆ったポリマー層4を有し、ポリマー層4の厚さは、全体の厚さに対して部分的に薄い凹部5が少なくとも1箇所有り、ポリマー層4を形成するポリマーは、生体内の管腔に留置した後に徐々に分解し生体内に吸収される生分解性ポリマーから成る。
【0020】
まず、ステント1を構成する各構成要素について詳細に説明する。
【0021】
ステント本体2は、血管、胆管、気管、食道、尿道などの生体内の管腔に生じた病変部に留置することができれば、その材料、形状、大きさ等を特に限定されない。留置手段としては前述したようなバルーン拡張手段が利用できるが、ステント本体2が弾性体であれば、この弾性力を利用した自己拡張手段を用いることができる。
【0022】
ステント本体2を形成する材料は、適用箇所に応じて適宣選択すれば良いが、例えば金属材料、高分子材料、セラミックス等が挙げられる。ステント本体2を金属材料で形成した場合、金属材料は強度に優れているため、ステント1を病変部に確実に留置することが可能である。また、ステント本体2を高分子材料で形成した場合、高分子材料は柔軟性に優れているため、ステント1の病変部への到達性(デリバリー性)という点で優れた効果を発揮する。
【0023】
金属材料としては、例えばステンレス鋼、Ni−Ti合金、タンタル、チタン、金、プラチナ、インコネル、イリジウム、タングステン、コバルト系合金等が挙げられる。そしてステンレス鋼の中では、最も耐食性が良好であるSUS316Lが好適である。
【0024】
金属材料で形成されたステント本体2の多くは、バルーンを用いて拡張することができる。また擬弾性と呼ばれる金属材料、例えばNi−Ti合金等の応力が一定で歪みが大きく変化する金属材料あるいは応力の増加に応じてなだらかに歪みが増加し変化する金属材料で形成されたステント本体2は、自己拡張が可能であるため、事前に圧縮保持したステント本体2を、病変部で圧縮を開放することで、弾性力により自ら拡張する。
【0025】
高分子材料としては、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテート、セルロースナイトレート、炭素または炭素繊維等の生体適合性高分子材料、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート−バリレート等の生分解性高分子材料が挙げられる。
【0026】
ステント本体2を生分解性高分子材料で形成した場合、ステント本体2が生体内で分解されていくため、時間の経過とともに病変部から消滅する。従って病変部に再度ステントを留置することになっても、最初の留置と同様に処理できるという効果がある。
【0027】
ステント本体2の形状は、生体内の管腔に安定して留置するに足る強度を有するものであれば特に限定されない。例えば、金属材料のワイヤや高分子材料の繊維を編み上げて円筒状に形成したものや、金属材料や高分子材料よりなる管状体に細孔を設けたものが好適に挙げられる。
【0028】
ステント本体2は、バルーン拡張タイプ、自己拡張タイプのいずれであっても良い。また、ステント本体の大きさは適用箇所に応じて適宣選択すれば良い。例えば、心臓の冠状動脈に用いる場合は、通常拡張前における外径は1.0〜3.0mm、長さは5〜50mmが好ましい。
【0029】
ステント本体2の表面には、少なくとも一種類の生物学的生理活性物質により形成された生物学的生理活性物質層3が設けられている。
【0030】
ステント本体2の表面に生物学的生理活性物質層3を設けるための方法は特に限定されないが、例えば、生物学的生理活性物質を融解させてステント本体2の表面に被覆する方法、また生物学的生理活性物質を溶媒に溶解させて溶液を作製し、この溶液にステント本体2を浸漬し、その後引き上げて、溶媒を蒸散もしくは他の方法で除去する方法、あるいはスプレーを用いて前記溶液をステント本体2に噴霧して、溶媒を蒸散もしくは他の方法で除去する方法等が挙げられる。
【0031】
なお、生物学的生理活性物質のステント本体2への付着力が不足していると考えられる場合、生物学的生理活性物質が水溶性である時は、水溶性物質のうち低分子物質であれば、例えば単糖、二糖、オリゴ糖等の糖類もしくは水溶性ビタミンなどを、また高分子物質であればデキストラン、ヒドロキシエチルセルロースなどを水中で混合させてステント本体2に被覆して乾燥することが好ましく、生物学的生理活性物質が脂溶性である時は、低分子の高級脂肪酸、例えば魚油、植物油、脂溶性ビタミン、例えばビタミンA、ビタミンE等を混合させてステント本体2に被覆して乾燥することが好ましい。
【0032】
また、生物学的生理活性物質を容易に溶解させる溶媒が、ステント本体2の表面を容易に濡らすことが可能である場合には、生物学的生理活性物質のみを溶媒に溶解させた溶液に、ステント本体2を浸漬して乾燥する方法、あるいは前記溶液をスプレーを用いてステント本体2に噴霧して乾燥する方法が最も簡易的であり、最も好ましく適用される。
【0033】
なお生物学的生理活性物質は、水溶性あるいは脂溶性であっても容易に血液等の体液中に溶出する。これは血液等の体液の大部分が水で形成されていることに加えて、脂性成分も含まれているからである。
【0034】
生物学的生理活性物質層3の厚さは、病変部への到達性(デリバリー性)や血管壁への刺激性などステント本体2の性能を著しく損なわない程度であり、なおかつ生物学的生理活性物質の効果が確認される厚さで設定されるべきであることから、好ましくは1〜100μm、更に好ましくは1〜50μm、最も好ましくは5〜30μmの範囲である。
【0035】
生物学的生理活性物質層3を形成する生物学的生理活性物質は、ステント1を管腔の病変部に留置した際に再狭窄を抑制する効果があるものであれば特に限定されないが、例えば抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、抗炎症剤、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、NO産生促進物質等が挙げられる。
【0036】
抗癌剤としては、例えばビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、イリノテカン、ピラルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、メトトレキサート等が好ましい。
【0037】
免疫抑制剤としては、例えば、シロリムス、タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロフォスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、グスペリムス、ミゾリビン等が好ましい。
【0038】
抗生物質としては、例えば、マイトマイシン、アドリアマイシン、ドキソルビシン、アクチノマイシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、ペプロマイシン、ジノスタチンスチマラマー等が好ましい。
【0039】
抗リウマチ剤としては、例えば、メトトレキサート、チオリンゴ酸ナトリウム、ペニシラミン、ロベンザリット等が好ましい。
【0040】
抗血栓薬としては、例えば、へパリン、アスピリン、抗トロンビン製剤、チクロピジン、ヒルジン等が好ましい。
【0041】
HMG−CoA還元酵素阻害剤としては、例えば、セリバスタチン、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチン、ニスバスタチン、イタバスタチン、フルバスタチン、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン等が好ましい。
【0042】
ACE阻害剤としては、例えば、キナプリル、ペリンドプリルエルブミン、トランドラプリルシラザプリル、テモカプリル、デラプリル、マレイン酸エナラプリル、リシノプリル、カプトプリル等が好ましい。
【0043】
カルシウム拮抗剤としては、例えば、ヒフェジピン、ニルバジピン、ジルチアゼム、ベニジピン、ニソルジピン等が好ましい。
【0044】
高脂血症剤としては、例えば、プロブコールが好ましい。
【0045】
抗アレルギー剤としては、例えば、トラニラストが好ましい。
【0046】
レチノイドとしては、例えば、オールトランスレチノイン酸が好ましい。
【0047】
抗酸化剤としては、例えば、カテキン類、アントシアニン、プロアントシアニジン、リコピン、β-カロチン等が好ましい。カテキン類の中では、エピガロカテキンガレートが特に好ましい。
【0048】
チロシンキナーゼ阻害剤としては、例えば、ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチン等が好ましい。
【0049】
抗炎症剤としては、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドが好ましい。
【0050】
生体由来材料としては、例えば、EGF(epidermal growthfactor)、VEGF(vascular endothelial growth factor)、HGF(hepatocyte growth factor)、PDGF(platelet derived growth factor)、BFGF(basic fibrolast growth factor)等が好ましい。
【0051】
生物学的生理活性物質層3を形成する生物学的生理活性物質は、再狭窄を確実に抑制するという点を考慮すると、上記物質のうちの少なくとも一種類を含んでいることが好ましい。また、生物学的生理活性物質層3を形成する生物学的生理活性物質を、一種類の生物学的生理活性物質にするのか、もしくは二種類以上の異なる生物学的生理活性物質を組み合わせるのかについては、症例に合せて適宜選択されるべきである。
【0052】
生物学的生理活性物質層3は、その表面がポリマー層4で完全に覆われており、さらにポリマー層4の厚さは、全体の厚さに対して部分的に薄い凹部5が少なくとも1箇所有る。
【0053】
生物学的生理活性物質層3の表面をポリマー層4で覆うための方法は特に限定されないが、例えば、ポリマーを溶媒に溶解させて溶液を作製し、予め生物学的生理活性物質層3を設けたステント本体2をこの溶液に浸漬して乾燥する方法、あるいは予め生物学的生理活性物質層3を設けたステント本体2に、スプレーを用いて前記溶液を噴霧して乾燥する方法等が挙げられる。
【0054】
ポリマー層4に厚さが部分的に薄い凹部5を作る方法は特に限定されないが、例えば、予めステント本体2の表面に一定の厚さで形成したポリマー層4の表面に針を刺してポリマーを部分的に切削する方法、あるいは予めステント本体2の表面に一定の厚さで形成したポリマー層4の表面にエキシマレーザをピンポイントで照射してポリマーを部分的に切削する方法等が挙げられる。
【0055】
ポリマー層4を形成するポリマーは、生体内の管腔に留置した後に徐々に分解し生体内に吸収される生分解性ポリマーであれば特に限定されないが、生体安定性が高くて組織刺激性の低いものであることが好ましく、例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、セルロース、ポリヒドロキシブチレート−バリレート、ポリオルソエステルのうちの単一物あるいは共重合体や混合物の複合物等が挙げられる。
【0056】
ポリマー層4の全体の厚さは、生物学的生理活性物質層3と同様、病変部へのデリバリー性や血管壁への刺激性などステント本体2の性能を著しく損なわない程度に設定されるべきであることから、好ましくは1〜100μm、更に好ましくは10〜50μm、最も好ましくは20〜30μmの範囲である。
【0057】
ポリマー層4の厚さが1μmに満たない場合、生物学的生理活性物質層3を完全に覆う被覆膜としての機能を果たせなくなることが懸念される。また、ポリマー層4の厚さが100μmを越えるとステント1自体の外径が大きくなり過ぎ、特に病変部へのデリバリーに支障をきたすことが容易に予想される。
【0058】
ポリマー層4の凹部5の厚さは、ポリマー層4の全体の厚さに対して特異的であるべきであることから、全体の厚さに対して、好ましくは1〜50%、更に好ましくは5〜40%、最も好ましくは10〜30%の範囲である。
【0059】
ポリマー層4に形成する部分的に薄い凹部5の配置は特に限定されないが、生体内に留置した時に生体組織に接触するステントの外側にある方が好ましく、またステントの外側だけに配置した方が、ステント内腔側の体液中に出てしまう生物学的生理活性物質の量が少なく抑えられ、ステント上に搭載した生物学的生理活性物質を効率的に利用できる。さらに、生物学的生理活性物質の溶出濃度がステントの外側面で均等になる様に配置されることが好ましい。
【0060】
次に、生物学的生理活性物質層3を形成している生物学的生理活性物質がステント1から放出される時のプロセスについて説明する。
【0061】
ステント1が管腔の病変部に留置された後、管腔内の体液がステント1の表面(ポリマー層4の表面)と接触することにより、ポリマー層4が表面から分解してポリマー層4の厚さが薄くなっていく。そして、ポリマー層4の中でポリマー層4に形成された部分的に厚さの薄い凹部5の部分に生物学的生理活性物質層3に通じる微小貫通孔6が形成される。
【0062】
その後、管腔内に存在する体液等の液体が、この微小貫通孔6を通じて生物学的生理活性物質層3に接触する。そして生物学的生理活性物質は、この液体と接触することにより、液体中に溶出される。そして、この溶出された生物学的生理活性物質は、ポリマー層4に形成された微小貫通孔6を通って、ステント1から放出される。
【0063】
さらに後には、ポリマー層4に形成された微小貫通孔6の大きさが増大していき、この微小貫通孔6から溶出される生物学的生理活性物質の量も増えていくが、経時的にステント1に搭載されている生物学的生理活性物質の量が減ってくるので、ステント1から溶出される生物学的生理活性物質の量も漸減していく。
【0064】
最終的にはステント1に形成されたポリマー層4は全て分解して生体内に吸収され、生物学的生理活性物質層3は全て生体内に溶出される。
【0065】
上述のように本発明のステント1は、生体内に挿入して血液等の体液と接触するまでは、生物学的生理活性物質層3とステント1の表面(ポリマー層4の表面)との間を連通する通路が存在しない。そして、管腔の病変部に留置して体液と接触した時点で、初めてポリマー層4に通路が形成される。従って、生物学的生理活性物質を短期間(ステント1を病変部に留置した後、数日内)で急激に放出することがなく、長期間(ステント1を病変部に留置した後、数週間から数ヶ月)にわたって少しずつ放出することが可能である。また、生体内に挿入する前に、ステント1から生物学的生理活性物質が放出されることもない。
【0066】
また、本発明のステント1は、ポリマー層4と生物学的生理活性物質層3が別の層に分かれているため、ポリマーの作用による生物学的生理活性物質の分解、劣化が起こるという問題もない。従って、生物学的生理活性物質は、ステント1から放出されるまで、ステント本体2に安定した状態で担持させることが可能である。また、ポリマーと生物学的生理活性物質の組み合わせが限定されることもない。
【0067】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
(実施例)
外径1.8mm、長さ30mmの円筒状の図1に示すステント本体(材質:SUS316L)の外面に、HMG−CoA還元酵素阻害剤であるシンバスタチン(以下SV)をテトラヒドロフランに溶解させたSVの濃度が5wt%である溶液を、ハンドスプレー(HP−C IWATA製)により噴霧し、約0.3mgのSVがステント本体の外面に塗布されていることを確認した(生物学的生理活性物質層の形成)。このときの生物学的生理活性物質層の厚さは、平均5μmであった。溶媒であるテトラヒドロフランを完全に揮発させた後、ポリグリコール酸(RESOMER RG503 ベーリンガー・インゲルハイム製)をジクロロメタンに溶解させたポリグリコール酸の濃度が10wt%である溶液をハンドスプレー(HP−C IWATA製)により噴霧した後、溶媒であるジクロロメタンを完全に揮発させ、ポリマー層が生物学的生理活性物質層を完全に覆ったことを確認した(ポリマー層の形成)。ポリマー層の厚さは平均50μmであった。そして、ポリマー層に外面から垂直に直径0.56mm、長さ45.5mmの裁縫針を約40μmの深さ刺してから抜いてポリマー層の厚さが部分的に薄い凹部を232個作製した(ポリマー層凹部の形成)。
【0069】
そして、このステントについて生物学的生理活性物質(SV)放出量の測定を行った。
【0070】
測定は、上記ステントを50mlのリン酸緩衝液(pH7.4)中に浸漬した後、その溶液を37℃の恒温槽中に放置し、所定時間毎に上記リン酸緩衝液を採取して、SV放出量を測定した。
【0071】
採取したリン酸緩衝液中に含まれるSVの量、すなわち上記ステントから放出されたSVの量は、分光光度計(UV−2400PC Shimadzu製)を用いて波長238.5nm部分の吸光度を測定し、予め作成した検量線より算出した。結果を表1に示す。なお、表1におけるSVの放出量は、ステント本体に塗布したSVの量に対する割合(%)で示している。
【0072】
表1に示すように、恒温槽中に放置して1週間経過した後、SVが放出され始め、その後は時間(日)の経過とともに、放出されたSVの量が増えていることが確認された。また、短期間で急激にSVが放出される現象(初期バースト)も見られず、約4週間にわたってSVが少しずつ放出されていることが確認された。
【0073】
(比較例1)
外径1.8mm、長さ30mmの円筒状の図1に示すステント本体(材質:SUS316L)の外面に、HMG−CoA還元酵素阻害剤であるシンバスタチン(以下SV)をテトラヒドロフランに溶解させたSVの濃度が5wt%である溶液を、ハンドスプレー(HP−C IWATA製)により噴霧し、約0.3mgのSVがステント本体の外面に塗布されていることを確認した(生物学的生理活性物質層の形成)。このときの生物学的生理活性物質層の厚さは、平均5μmであった。溶媒であるテトラヒドロフランを完全に揮発させた後、ポリグリコール酸(RESOMER RG503 ベーリンガー・インゲルハイム製)をジクロロメタンに溶解させたポリグリコール酸の濃度が10wt%である溶液をハンドスプレー(HP−C IWATA製)により噴霧した後、溶媒であるジクロロメタンを完全に揮発させ、ポリマー層が生物学的生理活性物質層を完全に覆ったことを確認した(ポリマー層の形成)。ポリマー層の厚さは平均50μmであった。
【0074】
そして、このステントについて実施例と同様の方法でリン酸緩衝液中への生物学的生理活性物質(SV)放出量の測定を行った。
【0075】
結果を表1に示す。表1に示すように、ポリマー層に凹部を設けなかった系では、恒温槽中に放置して2週間経過後からSVが放出され始め、その後は4週間後までにわたって急激にSVが放出されていることが確認された。
【0076】
(比較例2)
外径1.8mm、長さ30mmの円筒状の図1に示すステント本体(材質:SUS316L)の外面に、HMG−CoA還元酵素阻害剤であるシンバスタチン(以下SV)をテトラヒドロフランに溶解させたSVの濃度が5wt%である溶液を、ハンドスプレー(HP−C IWATA製)により噴霧し、約0.3mgのSVがステント本体の外面に塗布されていることを確認し、溶媒であるテトラヒドロフランを完全に揮発させた(生物学的生理活性物質層の形成)。このときの生物学的生理活性物質層の厚さは、平均5μmであった。
【0077】
そして、このステントについて実施例と同様の方法でリン酸緩衝液中への生物学的生理活性物質(SV)放出量の測定を行った。
【0078】
結果を表1に示す。表1に示すように、ポリマー層を設けなかった系では、恒温槽中に放置した後、1日で急激にSVが放出されていることが確認された。
【0079】
【表1】
Figure 0004170010
【0080】
【発明の効果】
以上述べたように本発明は、生体内の管腔に留置するためのステントであって、ステント本体と、前記ステント本体の表面に設けられた、少なくとも一種類の生物学的生理活性物質により形成された生物学的生理活性物質層と、前記生物学的生理活性物質層を完全に覆ったポリマー層を有し、前記ポリマー層の厚さは、全体の厚さに対して部分的に薄い凹部が少なくとも1箇所有り、前記ポリマー層を形成するポリマーは、生体内の管腔に留置した後に徐々に分解し生体内に吸収される生分解性ポリマーから成り、前記ステントを生体内の管腔に留置した後に前記ポリマー層の凹部から先に前記生物学的生理活性物質層まで貫通した微小貫通孔が形成され、この微小貫通孔から前記生物学的生理活性物質が生体内に徐々に放出されることを特徴とするため、生物学的生理活性物質は外気に曝されることがなく、また、生物学的生理活性物質とポリマーは混在した状態ではなく生物学的生理活性物質層とそれを覆うポリマー層の界面でしか接触していないため、生物学的生理活性物質の分解、劣化が起こることがなく、安定した状態でステント本体に担持させることが可能である。そして、ステントを病変部に留置した後、生物学的生理活性物質が短期間で急激に放出されることがなく、長期間にわたって少しずつ放出される。さらに、ポリマー層は最終的には生体内で完全に分解吸収され、異物として生体内に残らない。
【0081】
なお、前記ステント本体が金属材料で形成されていることを特徴とする場合、金属材料は強度に優れているため、ステント1を病変部に確実に留置することが可能である。
【0082】
なお、前記ステント本体が高分子材料で形成されていることを特徴とする場合、高分子材料は柔軟性に優れているため、ステントの病変部への到達性(デリバリー性)という点で優れた効果を発揮する。
【0083】
なお、前記生物学的生理活性物質層が、生物学的生理活性物質のみにより形成されていることを特徴とする場合は、簡易的な方法で生物学的生理活性物質層を設けることが可能である。
【0084】
なお、前記生物学的生理活性物質層が、生物学的生理活性物質と低分子の水溶性物質との混合物により形成されていることを特徴とする場合、生物学的生理活性物質が水溶性である時は生物学的生理活性物質のステント本体への付着力を向上させることが可能である。
【0085】
なお、前記生物学的生理活性物質が、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、抗炎症剤、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロンおよびNO産生促進物質よりなる群から選ばれた少なくとも1種のものであることを特徴とする場合は、再狭窄を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のステントの一様態を示す正面図である。
【図2】 図1の線A−Aに沿って切断した拡大横断面図である。
【図3】 図1のステントについて、ポリマー層の厚さが薄い凹部に生物学的生理活性物質層まで貫通した微小貫通孔が形成され状態を示す部分拡大横断面図である。
【符号の説明】
1…ステント、
2…ステント本体、
3…生物学的生理活性剤層、
4…ポリマー層、
5…凹部、
6…微小貫通孔。

Claims (7)

  1. 生体内の管腔に留置するためのステントであって、前記ステントは、ステント本体と、前記ステント本体の表面に設けられた、少なくとも一種類の生物学的生理活性物質により形成された生物学的生理活性物質層と、前記生物学的生理活性物質層を完全に覆っており、かつ前記生物学的生理活性物質層と連通する通路が存在しないポリマー層を有し、前記ポリマー層の厚さは、全体の厚さに対して部分的に薄い凹部が少なくとも1箇所有り、前記凹部は生体に留置した時に生体組織に接触する前記ステントの外側だけに配置されており、前記ポリマー層を形成するポリマーは、生体内の管腔に留置した後に徐々に分解し生体内に吸収される生分解性ポリマーから成ることを特徴とするステント。
  2. 前記ステント本体が金属材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のステント。
  3. 前記ステント本体が高分子材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のステント。
  4. 前記生物学的生理活性物質層が、生物学的生理活性物質のみにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載のステント。
  5. 前記生物学的生理活性物質層が、生物学的生理活性物質と、低分子の水溶性物質との混合物により形成されていることを特徴とする請求項1に記載のステント。
  6. 前記生物学的生理活性物質が、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、抗炎症剤、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロンおよびNO産生促進物質よりなる群から選ばれた少なくとも1種のものであることを特徴とする請求項1に記載のステント。
  7. 前記生分解性ポリマーが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、セルロース、ポリヒドロキシブチレート−バリレート、ポリオルソエステルのうちの単一物あるいは共重合体や混合物の複合物からなるポリマーのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のステント。
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