JP2004329426A - ステント - Google Patents
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Abstract
【課題】生物学的生理活性物質の分解、劣化が起こることがなく、安定した状態でステント本体に担持させることが可能であり、なおかつ病変部に留置した後、生物学的生理活性物質の生体管腔内への放出が促進されるようにコントロールすることができるステントの提供。
【解決手段】生体内の管腔に留置するためのステントであって、ステント本体と、前記ステント本体の表面に設けられた、少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質を含有する生物学的生理活性物質層と、前記生物学的生理活性物質層の外表面を被覆する第1の制御体よりなり、前記第1の制御体には、第2の制御体が包埋または分散されており、前記第2の制御体は、前記第1の制御体よりも前記生物学的生理活性物質層に含有される生物学的生理活性物質の透過係数が大きいことを特徴とするステント。
【選択図】図3
【解決手段】生体内の管腔に留置するためのステントであって、ステント本体と、前記ステント本体の表面に設けられた、少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質を含有する生物学的生理活性物質層と、前記生物学的生理活性物質層の外表面を被覆する第1の制御体よりなり、前記第1の制御体には、第2の制御体が包埋または分散されており、前記第2の制御体は、前記第1の制御体よりも前記生物学的生理活性物質層に含有される生物学的生理活性物質の透過係数が大きいことを特徴とするステント。
【選択図】図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、血管、胆管、気管、食道、尿道などの生体管腔内に生じた狭窄部もしくは閉塞部に留置することにより、これら病変部を開存状態に維持するステントに関する。より具体的には、生体管腔内の病変部に留置した後、病変部の再狭窄を抑制する作用を有する脂溶性の生物学的生理活性物質の生体管腔への放出が促進されるようにコントロールすることができるステントに関する。
【0002】
【従来の技術】
一つの例として、虚血性心疾患に適用される血管形成術について説明する。
【0003】
我が国における食生活の欧米化が、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)の患者数を急激に増加させていることを受け、それらの冠動脈病変を軽減化する方法として経皮的経血管的冠動脈形成術(PTCA)が施行され、飛躍的に普及してきている。現在では、技術的な発展により適用症例も増えており、PTCAが始まった当時の限局性(病変の長さが短いもの)で一枝病変(1つの部位にのみ狭窄がある病変)のものから、より遠位部で偏心的で石灰化しているようなもの、そして多枝病変(2つ以上の部位に狭窄がある病変)へとPTCAの適用が拡大されている。PTCAとは、患者の脚または腕の動脈に小さな切開を施してイントロデューサーシース(導入器)を留置し、イントロデューサーシースの内腔を通じて、ガイドワイヤを先行させながら、ガイドカテーテルと呼ばれる長い中空のチューブを血管内に挿入して冠状動脈の入口に配置した後ガイドワイヤを抜き取り、別のガイドワイヤとバルーンカテーテルをガイドカテーテルの内腔に挿入し、ガイドワイヤを先行させながら、バルーンカテーテルをX線造影下で患者の冠状動脈の病変部まで進めて、バルーンを病変部内に位置させて、その位置で医師がバルーンを所定の圧力で30〜80秒間、1回または複数回膨らませる手技である。これにより、病変部の血管内腔は拡張され、それにより血管内腔を通る血流は増加する。しかしながら、カテーテルによって血管壁が傷つけられたりすると、血管壁の治癒反応である血管内膜の増殖が起こり30〜40%程度の割合で再狭窄が報告されている。
【0004】
この再狭窄を予防する方法は、これまで確立されるに至っていないが、ステントやアテローム切除カテーテル等の器具を用いる方法等が検討され、ある程度の成果をあげている。ここで言うステントとは、血管あるいは他の生体管腔が狭窄もしくは閉塞することによって生じる様々な疾患を治療するために、その狭窄もしくは閉塞部位を拡張し、その内腔を確保するためにそこに留置することができる管状の医療用具である。それらの多くは、金属材料または高分子材料よりなる医療用具であり、例えば金属材料や高分子材料よりなる管状体に細孔を設けたものや、金属材料のワイヤや高分子材料の繊維を編み上げて円筒形に成形したもの等様々な形状のものが提案されている。ステント留置の目的は、PTCA等の手技を施した後に起こる再狭窄の予防、およびその低減化を狙ったものであるが、これまでのところステントのみでは狭窄を顕著に抑制することができていないのが実状である。
【0005】
そして近年では、このステントに抗癌剤等の生物学的生理活性物質を担持させることによって、生体管腔内の留置部位で長期にわたって局所的にこの生物学的生理活性物質を放出させ、再狭窄率の低減化を図る試みが盛んに提案されている。例えば、特許文献1には、ステント本体の表面に治療のための物質とポリマーとの混合物をコーティングしたステントが提案されており、また特許文献2にはステント本体の表面に薬剤層を設け、さらにこの薬剤層に、薬剤を溶出するための生体適合性ポリマー層を設けたステントが提案されている。
しかしながら、特許文献1で提案されているステントは、治療のための物質(生物学的生理活性物質)がポリマー中に取り込まれているため、ポリマーが生物学的生理活性物質に対して化学的に作用することで生物学的生理活性物質が分解、劣化してくるという問題、すなわち生物学的生理活性物質の安定性という点で問題が生ずる。一例を挙げると、ポリ乳酸をポリマーとして選択した場合、ポリ乳酸は生体内で分解される性質を持つため、単に生物学的生理活性物質を体内で放出するという点では優れた機能を発揮するが、一方でこのポリ乳酸は分解される時に酸を発生するという性質を持っている。従って、生物学的生理活性物質として酸に弱いものを選択した場合、ポリ乳酸が分解されることにより、生物学的生理活性物質が分解、劣化してくるという問題が生ずる。
【0006】
一方、特許文献2で提案されたステントは、薬剤層(生物学的生理活性物質層)と生体適合性ポリマー層が別の層に分かれているため、ポリマーによる生物学的生理活性物質の分解、劣化という点では不安はないが、生物学的的生理活性物質がポリマー層の表面に溶出するまで、ある一定の期間を必要とする。また、例えばバルーンカテーテルで狭窄部を拡張してステントを留置した後、比較的短期間、具体的には例えば3日以内に炎症が起こる場合がある。特許文献2で提案されたステントは、このような炎症を抑制するのに必要な生物学的生理活性物質が溶出するのにある程度の期間を要し、生物学的生理活性物質が必要な時にポリマー層の表面から溶出してこないおそれがある。
【0007】
【特許文献1】
特開平8−33718号公報
【特許文献2】
特開平9−56807号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、生物学的生理活性物質の分解、劣化が起こることがなく、安定した状態でステント本体に担持させることが可能であり、なおかつ生体管腔内の病変部に留置した後、生物学的生理活性物質の生体管腔内への放出が促進されるようにコントロールすることができるステントを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(11)の本発明により達成される。
【0010】
(1)生体内の管腔に留置するためのステントであって、
その両末端部が開口し、該2つの末端開口部の間に長手方向に延在する円筒状のステント本体と、
前記ステント本体の表面に設けられた、少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質を含有する生物学的生理活性物質層と、
前記生物学的生理活性物質層の外表面を被覆する第1の制御体よりなり、
前記第1の制御体には、第2の制御体が包埋または分散されており、
前記第2の制御体は、前記第1の制御体よりも前記生物学的生理活性物質層に含有される少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質の透過係数が大きいことを特徴とするステント。
【0011】
(2)前記第1の制御体は、高分子有機化合物からなるポリマー層であることを特徴とする(1)のステント。
【0012】
(3)前記第2の制御体は、脂溶性物質であることを特徴とする(1)または(2)のステント。
【0013】
(4)前記ステント本体は、金属材料で形成されていることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかのステント。
【0014】
(5)前記ステント本体は、高分子材料で形成されていることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかのステント。
【0015】
(6)前記生物学的生理活性物質層は、脂溶性の生物学的生理活性物質のみにより形成されていることを特徴とする(1)ないし(5)のいずれかのステント。
【0016】
(7)前記脂溶性の生物学的生理活性物質は、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、抗高脂血症薬、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗アレルギー剤、抗酸化剤、レチノイド、チロシンキナーゼ阻害剤、抗炎症剤、生体由来材料よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)ないし(6)のいずれかのステント。
【0017】
(8)前記第2の制御体をなす前記脂溶性物質は、分子量1000以下の脂溶性低分子化合物であることを特徴とする前記(3)ないし(7)のいずれかのステント。
【0018】
(9)前記脂溶性低分子化合物は、植物油および動物油よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(8)のステント。
【0019】
(10)前記脂溶性低分子化合物は、トコフェノールであることを特徴とする(8)のステント。
【0020】
(11)前記脂溶性低分子化合物は、ビタミンEであることを特徴とする(8)のステント。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のステントを添付図面に示す好適な実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
本発明のステントは、ステント本体と、該ステント本体の表面に設けられた、生物学的生理活性物質層と、該生物学的生理活性物質層の外表面を被覆する第1の制御体よりなる。
図1は、本発明のステントの一態様を示す側面図であり、図2は、図1の線A−Aに沿って切断した拡大横断面図であり、図3は、図1の線B−Bに沿って切断した部分拡大縦断面図である。
【0023】
図2および図3に示す本発明のステント1は、ステント本体2と、該ステント本体2の表面に設けられた生物学的生理活性物質層3と、該生物学的生理活性物質層3の外表面を被覆する第1の制御体4よりなる。図示したステント1において、第1の制御体4は、高分子有機化合物からなるポリマー層である。該ポリマー層4中には、第2の制御体5が包埋もしくは分散されている。図2および図3に示したステント1では、第2の制御体5は、ポリマー層4を貫通しており、外部と生物学的生理活性物質層3とを連絡する通路をなしている。
本発明のステント1において、前記生物学的生理活性物質層3は、少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質を含有しており、前記第2の制御体5は、前記ポリマー層4よりも前記生物学的生理活性物質層3中に含有される少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質の透過係数が大きいことを特徴とする。
【0024】
本発明のステント1は、上記構成であることにより、該ポリマー層4中に脂溶性の生物学的生理活性物質が透過し易い通路(第2の制御体)5を有する。これにより、ステント1を生体管腔内の病変部に留置した後、生物学的生理活性物質層3に含有される脂溶性の生物学的生理活性物質は、該通路5を通過して比較的速やかに生体管腔内に放出される。言い換えれば、該通路5によって、生物学的生理活性物質の生体管腔内への放出が促進されるようにコントロールされている。
【0025】
図4および図5は、それぞれ図2および図3と同様の図であり、図2および図3に示すステント1とは、ポリマー層4中における第2の制御体5の分散形態が異なっている。図4および図5に示すステント1では、第2の制御体5はポリマー層4を貫通する通路をなしておらず、ポリマー層4中に海島状に存在している。
図4および図5に示すステント1では、ステント1を生体管腔の病変部に留置した後、生物学的生理活性物質層3中の生物学的生理活性物質がポリマー層4を透過していく際に、生物学的生理活性物質の透過係数がポリマー層4よりも大きい相(第2の制御体)5が存在するため、生物学的生理活性物質が比較的速やかに生体管腔内に放出される。言い換えれば、該相5によって、生物学的生理活性物質の生体管腔内への放出が促進されるようにコントロールされている。
【0026】
なお、図2および図3に示すステント1においても、生物学的生理活性物質はポリマー層4を貫通する通路をなしている第2の制御体5のみを通過して生体管腔内に放出されることを必ずしも意味するものではない。すなわち、生物学的生理活性物質は、第2の制御体5ではなく、ポリマー層4を通過して生体管腔内に放出されてもよい。
【0027】
まず、ステント1を構成する各構成要素について詳細に説明する。
ステント本体2は、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体である。円筒体の側面は、その外側面と内側面とを連通する多数の切欠部を有し、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっており、血管のような脈管、または胆管等の生体管腔内に留置され、その形状を維持する。
図1に示す態様において、ステント本体2は、弾性線材からなり、内部に切り欠き部を有する略菱形の要素21を基本単位とする。複数の略菱形の要素21が、略菱形の形状がその短軸方向に連続して配置され結合することで環状ユニット22をなしている。環状ユニット22は、隣接する環状ユニットと線状の弾性部材23を介して接続されている。これにより複数の環状ユニット22が一部結合した状態でその軸方向に連続して配置される。ステント本体2は、このような構成により、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体をなしている。ステント本体2は、略菱形の切り欠き部を有しており、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっている。
【0028】
ただし、本発明において、ステント本体は図示した態様に限定されず、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体であって、その側面上に、外側面と内側面とを連通する多数の切欠部を有し、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造を広く含む。
【0029】
このような径方向の拡縮可能の構造のステント本体の具体例としては、例えば特開平9−215753号公報、特開平7−529号公報に開示されているような弾性線材をコイル状に屈曲させて、それを複数接続して円筒形状にされた例で弾性線材同士のすき間が切欠部をなすステント本体;特表平8−502428号公報および特表平7−500272号公報に開示されているような、弾性線材をジグザグ状に屈曲させてそれを複数接続して円筒形状にされた例で弾性線材同士のすき間が切欠部をなすステント本体;特表2000−501328号公報および特開平11−221288号公報に開示されているような、弾性線材をへび状平坦リボンの形に曲げて、これをマンドリルにへリックス状に巻きつけて円筒形状にされた例で弾性線材同士のすき間が切欠部をなすステント本体;特表平10−503676号公報に開示されているような、図1のステント本体とは切欠部の形状が異なり、メアンダー(meander)模様の形状であるメッシュ状の構造をしたステント本体;特表平8−507243号公報に開示されているような、板状部材をコイル状に屈曲させて円筒形状にされた例で隣接するコイル部分間のすき間が切欠部をなすステント本体等が挙げられる。
【0030】
また、特公平4−68939号公報には、弾性板状部材をらせん状に成形して円筒形状にされた例で隣接するらせん部分のすき間が切欠部をなすステント本体、弾性線材を編組して円筒形状にされた例で弾性線材同士のすき間が切欠部をなすステント本体を含む複数の異なる構造を有する円筒形状のステント本体等が例示される。この他、ステント本体は、板バネコイル状、多重螺旋状、異型管状等であってもよい。また、特公平4−68939号公報の図2(a),(b)には弾性板状部材を渦巻き状に曲げて円筒形状にしたステント本体が記載されているが、このように円筒体の側面に切欠部を有しないが、円筒体の径方向に拡縮変形可能に構成された円筒形状のステント本体も本発明のステント本体として使用することができる。これら上記の全ての文献および特許出願は、引用することで本明細書の一部をなす。
【0031】
留置後のステント本体の拡張手段は、特に限定されず、自己拡張型、すなわち細く小さく折り畳んだステント本体を保持している力を除くことで、自らの復元力で半径方向に拡張するタイプのものであってもよく、バルーン拡張型、すなわちステント本体を内側からバルーンを拡張して外力によって半径方向に拡張するタイプのものであってもよい。
【0032】
ステント本体の材料としては、高分子材料、金属材料、炭素繊維、セラミックス等が挙げられ、ある程度の剛性と弾性を有するものであれば特に制限はないが、生体適合性を有する材料であることが好ましい。
具体的には、高分子材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、セルロースアセテート、セルロースナイトレート等のセルロース系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等の含フッ素ポリマー等が挙げられる。金属材料としては、例えばステンレス鋼、タンタル、チタン、ニッケルチタン合金、タンタルチタン合金、ニッケルアルミニウム合金、インコネル、金、プラチナ、イリジウム、タングステン、コバルト系合金等が挙げられる。ステンレス鋼の中では、最も耐食性が良好であるSUS316Lが好適である。
【0033】
ステント本体は、上記例示した材料から、その適用箇所または拡張手段に応じて適宣選択した材料により好適に形成することができる。例えばステント本体を金属材料で形成した場合、金属材料は強度に優れているため、ステントを病変部に確実に留置することが可能である。ステント本体を高分子材料で形成した場合、高分子材料は柔軟性に優れているため、ステントの病変部への到達性(デリバリー性)という点で優れた効果を発揮する。
また、ステントが自己拡張型である場合、元の形状への復元力が必要なことからチタンニッケル等の超弾性合金等が好ましく、バルーン拡張型である場合、拡張後の形状復帰が起こりにくいことが好ましいことからステンレス鋼等が好ましい。
また、ステント本体を炭素繊維で作製した場合、高強度で、かつ柔軟性に優れており、しかも生体内での安全性が高いという点で優れた効果を発揮する。
【0034】
ステント本体の大きさは適用箇所に応じて適宣選択すれば良い。例えば、心臓の冠状動脈に用いる場合は、通常拡張前における外径は1.0〜3.0mm、長さは5〜50mmが好ましい。
上記したように、ステント本体が線状部材で構成される場合、ステント本体を多数の切欠部を有するように構成する線状部材の幅方向の長さは、好ましくは0.01〜0.5mmであり、より好ましくは0.05〜0.2mmである。
ステント本体の製造方法は、特に限定されず、ステントの構造および材料に応じて、通常使用される製造方法から適宜選択すればよい。
【0035】
ステント本体2の表面には、生物学的生理活性物質層3が設けられている。図示した例では、ステント本体2を構成する線状部材の表面を覆うように生物学的生理活性物質層3が形成されている。ここでステント本体が、上記例示した線状部材以外で構成されるものである場合、ステント本体の構成要素、具体的には板状部材等の表面を覆うように生物学的生理活性物質層3を形成する。
【0036】
生物学的生理活性物質層3は、少なくとも1種類以上の脂溶性の生物学的生理活性物質を含む。生物学的生理活性物質層3に含まれる生物学的生理活性物質は、脂溶性であって、本発明のステントを生体管腔の病変部に留置した際に再狭窄を抑制する効果を有するものであれば特に限定されず、具体的には、例えば抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、抗高脂血症薬、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗アレルギー剤、抗酸化剤、レチノイド、チロシンキナーゼ阻害剤、抗炎症剤、生体由来材料等が挙げられる。
【0037】
抗癌剤としては、より具体的には、例えば塩酸イリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセル水和物、メトトレキサート等が好ましい。
【0038】
免疫抑制剤としては、より具体的には、例えば、シロリムス、タクロリムス水和物、アザチオプリン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル等が好ましい。
【0039】
抗生物質としては、より具体的には、例えば、マイトマイシンC、塩酸ドキソルビシン、アクチノマイシンD、塩酸イダルビシン、塩酸ピラルビシン等が好ましい。
【0040】
抗リウマチ剤としては、より具体的には、例えば、金チオリンゴ酸ナトリウム、ペニシラミン、ロベンザリット二ナトリウム等が好ましい。
【0041】
抗血栓薬としては、より具体的には、例えば、へパリン、塩酸チクロピジン、ヒルジン等が好ましい。
【0042】
抗高脂血症薬としては、より具体的にはHMG−CoA還元酵素阻害剤やプロブコールが好ましい。そして、HMG−CoA還元酵素阻害剤としては、より具体的には、例えば、セリバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン等が好ましい。
【0043】
ACE阻害剤としては、より具体的には、例えば、トランドラプリル、シラザプリル、塩酸テモカプリル、塩酸デラプリル、マレイン酸エナラプリル等が好ましい。
【0044】
カルシウム拮抗剤としては、より具体的には、例えば、ニルバジピン、塩酸ベニジピン、ニソルジピン等が好ましい。
【0045】
抗アレルギー剤としては、より具体的には、例えば、トラニラストが好ましい。
【0046】
抗酸化剤としては、より具体的には、例えば、エピガロカテキンガレートが好ましい。
【0047】
レチノイドとしては、より具体的には、例えば、オールトランスレチノイン酸が好ましい。
【0048】
チロシンキナーゼ阻害剤としては、より具体的には、例えば、ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチン等が好ましい。
【0049】
抗炎症剤としては、より具体的には、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドやアスピリンが好ましい。
【0050】
生体由来材料としては、より具体的には、例えば、EGF(epidermal growth factor)、VEGF(vascular endothelial growth factor) 、HGF(hepatocytegrowth factor) 、PDGF(platelet derived growth factor) 、BFGF(basic fibroblast growth factor) 等が好ましい。
【0051】
生物学的生理活性物質層3は、上記例示した脂溶性の生物学的生理活性物質のうち、一種類のみを含んでもよく、または二種類以上の異なる生物学的生理活性物質を含んでもよい。二種類以上の生物学的生理活性物質を含む場合、その組み合わせは上記例示した脂溶性の生物学的生理活性物質から必要に応じて適宜選択すればよい。
【0052】
ステント本体2を構成する線状部材の表面に生物学的生理活性物質層3を形成する方法は、ステント本体2を構成する線状部材の表面に均一に生物学的生理活性物質層3を形成することができれば特に限定されず、例えば、生物学的生理活性物質を加熱融解させてステント本体2を構成する線状部材の表面に塗布するか、または加熱融解させた生物学的生理活性物質中にステント本体2を浸漬し、その後生物学的生理活性物質を冷却し、固化させることで生物学的生理活性物質層3を形成することができる。また、生物学的生理活性物質を適当な溶媒に溶解させて溶液を作製し、この溶液中にステント本体2を浸漬し、その後引き上げて、溶媒を蒸散若しくは他の方法で除去することでステント本体2を構成する線状部材を被覆する方法、あるいはこのような溶液をスプレーを用いてステント本体2を構成する線状部材に噴霧するか、または他の手段でステント本体2を構成する線状部材の表面に塗布し、溶媒を蒸散もしくは他の方法で除去することでステント本体2を構成する線状部材を被覆する方法等が挙げられる。
【0053】
なお、ステント本体2を構成する線状部材に対する生物学的生理活性物質の付着力が不足しており、生物学的生理活性物質のみではステント本体2を構成する線状部材の表面に層を形成することができないと考えられる場合、生物学的生理活性物質層3に粘着性を付与する追加成分を溶液に加えることが好ましい。具体的には例えば、追加成分として、分子量1000以下の低分子量の高級脂肪酸、例えば魚油、植物油、脂溶性ビタミン、例えばビタミンA、ビタミンE等を溶液に加えることが好ましい。更に、生物学的生理活性物質と混合する追加成分の融点が生物学的生理活性物質の機能を損わない程度に低い場合には、ステント本体2を構成する線状部材に被覆して乾燥させた後で、上記混合物質の融点以上に加熱することで熱融着させ、より強固に生物学的生理活性物質をステント本体2を構成する線状部材へ固定することが可能となる。
【0054】
なお、生物学的生理活性物質を溶解させるのに好適な溶媒が存在し、かつ、生物学的生理活性物質のみでステント本体2を構成する線状部材の表面に層を形成することができるのであれば、生物学的生理活性物質のみを溶媒に溶解させた溶液に、ステント本体2を浸漬して乾燥する方法、あるいは前記溶液をスプレーを用いてステント本体2を構成する線状部材に噴霧して乾燥する方法が最も簡易であり、最も好ましく適用される。
【0055】
生物学的生理活性物質層3の量は、ステントの形状および寸法によるが、病変部への到達性(デリバリー性)や血管壁への刺激性などのステント本体の性能を著しく損なわない範囲で、なおかつ生物学的生理活性物質の放出による効果が十分に発揮される範囲で設定される。生物学的生理活性物質層3の量は、好ましくは100〜1,000μg/cm2 であり、より好ましくは200〜400μg/cm2 である。
【0056】
生物学的生理活性物質層3は、その外表面が第1の制御体をなすポリマ−層4で被覆されている。
ポリマー層4を形成するポリマーは、特に限定されないが、生体安定性が高いものが好ましく、例えばスチレン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー、アクリレート・メタクリレート系ポリマー、セルロースナイトレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカブロラクトン、及びこれらを二種類またはそれ以上を組み合わせた共有結合性もしくは混合ポリマーなどが挙げられる。最も好ましいのはスチレン系エラストマーであるが、必要とされる機械的物性値或いは所望する生物学的生理活性物質の放出速度に合わせて適宜選択されるべきである。
【0057】
ポリマー層4の厚さは、生物学的生理活性物質層3と同様、病変部へのデリバリー性や血管壁への刺激性などステント本体2の性能を著しく損なわない程度に設定されるべきであることから、好ましくは1〜75μm、更に好ましくは1〜25μm、最も好ましくは1〜10μmの範囲である。
【0058】
ポリマー層4の厚さが1〜75μmであると、生物学的生理活性物質層3の外表面を覆う保護層としての機能に優れており、かつステント1自体の外径が大きくなり過ぎず、病変部へのデリバリーに支障をきたすおそれがない。
【0059】
ポリマー層4中には、生物学的生理活性物質層3に含有される少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質の透過係数がポリマー層4よりも大きい第2の制御体5が包埋もしくは分散されている。
したがって、第2の制御体5は、生物学的生理活性物質層3に含有される生物学的生理活性物質およびポリマー層4を形成するポリマーとの関係で好適なものが選択される。ここで第2の制御体5は、生物学的生理活性物質層3に含有される生物学的生理活性物質のうち、少なくとも1種の生物学的生理活性物質の透過係数がポリマー層4よりも大きければよく、生物学的生理活性物質層3に含有される全ての生物学的生理活性物質の透過係数がポリマー層4よりも大きいことは必ずしも必要ではない。したがって、生物学的生理活性物質層3に含有される生物学的生理活性物質のうち、ステント1を生体管腔内の病変部に留置した後、比較的速やかに放出されることが好ましいものの透過係数がポリマー層4より大きくなるように第2の制御体5を選択すればよい。
【0060】
生物学的生理活性物質層3は、脂溶性の生物学的生理活性物質を含有するため、第2の制御体5は脂溶性物質であることが好ましい。
図2および図3に示すステント1において、第2の制御体5が脂溶性物質である場合、ステント1を生体管腔内の病変部に留置した後、生体管腔内の体液がステント1の外面(ポリマー層4の外面)と接触する。これにより、脂溶性物質自身が体液側へと溶出する場合がある。脂溶性物質が体液側へと完全に溶出した場合、図6および図7に示すように、ポリマー層4中の脂溶性物質があった部分には中空の細孔6が形成される。この結果、生物学的生理活性物質はさらに速やかに放出されるようになる。
【0061】
図4および図5に示すステント1についても、ポリマー層4中に海島状に存在している脂溶性物質(第2の制御体)5が体液側へと溶出する場合がある。このような場合、脂溶性物質5があった部分に空孔が形成されて、上記と同様に生物学的生理活性物質はさらに速やかに放出されるようになる。
【0062】
これらの場合に、ポリマー層4中の脂溶性物質は、短期間で溶出して細孔6または空孔を形成してもよく、また、長期間にわたり徐々に溶出して細孔6または空孔を形成してもよい。これらの溶出形態は、生物学的生理活性物質の所望する放出挙動により適宜選択されるべきである。しかしながら、生体への影響を考慮すると、生物学的生理活性物質の放出に関して所望の挙動が得られる限り、脂溶性物質は長期間にわたり徐々に溶出するよう設計することが好ましい。なお、細孔6または空孔が形成されるまでに要する時間、および脂溶性物質が溶出して細孔6または空孔が形成される割合は脂溶性物質の溶解度や添加量によって制御することができる。
【0063】
脂溶性物質は、ポリマー層4を形成するポリマーよりも生物学的生理活性物質層に対する透過係数が大きいものであれば特に限定されないが、上記のように体内に脂溶性物質自身が溶出する可能性があることを考慮すると、医学的に安全なものが好ましい。
ポリマー層4中に容易に混合され、かつポリマー層4中に容易に分散されることから、脂溶性物質は、分子量1000以下の脂溶性低分子化合物であることがより好ましい。
【0064】
更にまた、ポリマー層4を形成するポリマーと同一の溶媒に溶解し、ポリマー層4中に容易に混合されることから、脂溶性低分子化合物は植物油および動物油からなる群から選択されるものが好ましい。
これらのうち、コレステリンを含まないことから植物油がより好ましい。
【0065】
その中でも、最も好ましい脂溶性物質としてトコフェロール類が挙げられ、その中でもビタミンEが最適に用いられる。
【0066】
脂溶性物質の濃度は、ポリマー層4を形成するポリマーの質量に対して1〜300質量%が好ましく、更に好ましくは10〜200質量%である。
【0067】
脂溶性物質の濃度がポリマーの質量に対して1〜300質量%であると、ポリマー層4が十分な強度を有し、生物学的生理活性物質層3の外表面を覆う保護層としての機能に優れており、かつステント1を生体管腔に留置した後、ステント表面から比較的速やかに生物学的生理活性物質が放出される効果において優れている。
【0068】
生物学的生理活性物質層3の表面をポリマー層4で覆うための方法、およびポリマー層4中に脂溶性物質を含有させる方法は特に限定されないが、例えば、ポリマーと脂溶性物質を溶媒に溶解させて溶液を作製し、予め生物学的生理活性物質層3を設けたステント本体2をこの溶液に浸漬して乾燥する方法、あるいは予め生物学的生理活性物質層3を設けたステント本体2に、スプレーを用いて前記溶液を噴霧して乾燥する方法等が挙げられる。
【0069】
上述したように、本発明のステント1は、ポリマー層4中に、生物学的生理活性物質層3に含有される少なくとも1種の生物学的生理活性物質の透過係数がポリマー層4より大きい第2の制御体が包埋または分散されているため、ステント1を生体管腔内の病変部に留置した後、生物学的生理活性物質の生体管腔内への放出が促進されるようにコントロールすることができる。例えば、ステント留置後3日以内で起こる炎症を抑制するための生物学的生理活性物質をタイムリーに放出することが可能である。
【0070】
また、本発明のステント1は、ポリマー層4と生物学的生理活性物質層3とが別の層に分かれているため、ポリマーの作用による生物学的生理活性物質の分解、劣化が起こるという問題もない。従って、生物学的生理活性物質は、ステント1から放出されるまで、ステント本体2に安定した状態で担持させることが可能である。また、ポリマーと生物学的生理活性物質との組み合わせが限定されることもない。
【0071】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
図1に示す外径2.0mm、長さ15mmの円筒形状で、略菱形の切り欠き部を有するステント本体(材質:SUS316L)を構成する線状部材(幅:0.1mm)の表面に、抗高脂血症薬であるピタバスタチン(以下、「PV」を略す。)をテトラヒドロフラン(以下、「THF」と略す。)に溶解させた溶液(PV濃度1wt%)をハンドスプレー(マイクロスプレーガン−II、NORDSON製)により噴霧し、溶媒であるTHFを乾燥した後、約300μgのPVがステント本体外面に塗布されていることを確認した(生物学的生理活性物質層の形成)。このとき生物学的生理活性物質層の厚さは約5μmであった。そして、スチレン系エラストマーとビタミンEとを質量比1:1で、かつ総ポリマー濃度が約1wt%となるようにへプタンに溶解させた溶液を上記と同じハンドスプレーにて噴霧して、真空下で乾燥させることによって、溶媒であるヘプタンを完全に揮発させて、ポリマー層が生物学的生理活性物質層を完全に覆ったことを確認した(ポリマー層の形成)。ステントにコートされたポリマー質量は約300μgであった。このとき、ポリマ一層の厚さは約5μmであった。
【0073】
そして、このステントについて生物学的生理活性物質(PV)放出量を測定した。測定は、上記ステントを4%ウシ血清アルブミン(BSA)添加逆浸透(RO) 水l0ml内に浸漬し37℃下で攪拌して、所定時間毎にサンプリングを行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(日立製)にて4%BSA中に放出されたPV量を定量した。結果を表1に示す。なお、表1におけるPVの放出量は、ステントに塗布したPVの量に対する割合(%)で示している。
【0074】
表1に示すように、実施例1のステントでは、4%BSA内に浸漬した後、3日後にステントに塗布したPVの約65%が放出されたことが確認された。
【0075】
(比較例1)
図1に示す外径2.0mm、長さ15mmの円筒形状で、略菱形の切り欠き部を有するステント本体(材質:SUS316L)を構成する線状部材(幅:0.1mm)の表面に、PVをTHFに溶解させた溶液(PV濃度1wt%)をハンドスプレー(マイクロスプレーガン−II、NORDSON製)により噴霧し、溶媒であるTHFを乾燥した後、約300μgのPVがステント本体外面に塗布されていることを確認した(生物学的生理活性物質層の形成)。このとき、生物学的生理活性物質層の厚さは、約5μmであった。そして、スチレン系エラストマーを総ポリマー濃度が1wt%となるようにヘプタンに溶解した溶液を上記と同じハンドスプレーにて噴霧して、真空下で乾燥させることによって、溶媒であるヘプタンを完全に揮発させて、ポリマー層が生物学的生理活性物質層を完全に覆ったことを確認した(ポリマ一層の形成)。ステントにコートされたポリマー質量は約300μgであった。また、このときポリマー層の厚さは約5μmであった。
【0076】
そして、このステントについて実施例1と同様の方法で生物学的生理活性物質(PV)放出量の測定を行なった。結果を表1に示した。
【0077】
表1に示すように、比較例1のステントは、4%BSA内に浸漬した後、3日後ではステントに塗布したPVの放出がほとんど認められなかった。
【0078】
(実施例2)
図1に示す外径2.0mm、長さ15mmの円筒形状で、略菱形の切り欠き部を有するステント本体(材質:SUS316L)を構成する線状部材(幅:0.1mm)の表面に、抗高脂血症薬であるシンバスタチン(以下、「SV」と略す。)をTHFに溶解させた溶液(SV濃度1wt%)をハンドスプレー(マイクロスプレーガン−II、NORDSON製)により噴霧し、溶媒であるTHFを乾燥した後、約300μgのSVがステント本体外面に塗布されていることを確認した(生物学的生理活性物質層の形成)。このときの生物学的生理活性物質層の厚さは約5μmであった。そして、スチレン系エラストマーとビタミンEとを質量比1:0.25で、かつ総ポリマー濃度が約1wt%となるようにへプタンに溶解させた溶液を上記と同じハンドスプレーにて噴霧して、真空下で乾燥させることによって、溶媒であるヘプタンを完全に揮発させて、ポリマー層が生物学的生理活性物質層を完全に覆ったことを確認した(ポリマー層の形成)。ステントにコートされたポリマー質量は約300μgであった。また、このとき、ポリマ一層の厚さは約5μmであった。
【0079】
そして、このステントについて、実施例1と同様の手順で生物学的生理活性物質(SV)放出量の測定を行なった。結果を表1に示した。
【0080】
表1に示すように、実施例2のステントは、4%BSA内に浸漬した後、3日後には、ステントに塗布したSVが全て放出されていることが確認された。
【0081】
(比較例2)
図1に示す外径2.0mm、長さ15mmの円筒形状で、略菱形の切り欠き部を有するステント本体(材質:SUS316L)を構成する線状部材(幅:0.1mm)の表面に、SVをTHFに溶解させた溶液(SV濃度1wt%)をハンドスプレー(マイクロスプレーガン−II、NORDSON製)により噴霧し、溶媒であるTHFを乾燥した後、約300μgのSVがステント本体外面に塗布されていることを確認した(生物学的生理活性物質層の形成)。このときの生物学的生理活性物質層の厚さは約5μmであった。そして、スチレン系エラストマーを総ポリマー濃度が1wt%となるようにヘプタンに溶解した溶液を上記と同じハンドスプレーにて噴霧して、真空下で乾燥させることによって、溶媒であるヘプタンを完全に揮発させて、ポリマー層が生物学的生理活性物質層を完全に覆ったことを確認した(ポリマ一層の形成)。ステントにコートされたポリマー質量は約300μgであった。また、このとき、ポリマー層の厚さは約5μmであった。
【0082】
そして、このステントについて実施例1と同様の方法で生物学的生理活性物質(SV)放出量の測定を行なった。結果を表1に示した。
【0083】
表1に示すように、比較例2のステントは、4%BSA内に浸漬した後、3日後に、ステントに塗布したSVの約40%しか放出されていないことが確認された。
【0084】
表1:生物学的生理活性物質(PV・SV)の放出量(%)
【0085】
【発明の効果】
以上述べた様に、本発明のステントは、生体内の管腔に留置するためのステントであって、その両末端部が開口し、該2つの末端開口部の間に長手方向に延在する円筒状のステント本体と、前記ステント本体の表面に設けられた、少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質を含有する生物学的生理活性物質層と、前記生物学的生理活性物質層の外表面を被覆する第1の制御体よりなり、前記第1の制御体には、第2の制御体が包埋または分散されており、前記第2の制御体は、前記第1の制御体よりも前記生物学的生理活性物質層に含有される少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質の透過係数が大きいことを特徴とするため、生物学的生理活性物質の分解、劣化が起こることがなく、安定した状態でステント本体に担持させることが可能であり、なおかつ生体管腔内の病変部に留置した後、生物学的生理活性物質の生体管腔内への放出が促進されるようにコントロールすることができる。
【0086】
本発明において、ステント本体が金属材料で形成されている場合、金属材料は強度に優れているため、ステントを病変部に確実に留置することが可能である。
【0087】
本発明において、ステント本体が高分子材料で形成されていることを特徴とする場合、高分子材料は柔軟性に優れているため、ステントの病変部への到達性(デリバリー性)という点で優れた効果を発揮する。
【0088】
なお、前記生物学的生理活性物質層が、生物学的生理活性物質層のみより形成されていることを特徴とする場合は、簡易的な方法で生物学的生理活性物質層を設けることが可能である。
【0089】
なお、前記生物学的生理活性物質が、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、抗高脂血症薬、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗アレルギー剤、抗酸化剤、レチノイド、チロシンキナーゼ阻害剤、抗炎症剤、生体由来材料よりなる群から選ばれた少なくとも1種のものであることを特徴とする場合は、再狭窄を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のステントの一態様を示す正面図である。
【図2】図1の線A−Aに沿って切断した拡大横断面図である。
【図3】図1の線B−Bに沿って切断した部分拡大縦断面図である。
【図4】図2と同様の図であり、ポリマー層における第2の制御体の分散が異なる態様を示している。
【図5】図3と同様の図であり、ポリマー層における第2の制御体の分散が異なる態様を示している。
【図6】図2と同様の図であり、ポリマー層中の第2の制御体(脂溶性物質)が溶出した後、細孔が形成された状態を示している。
【図7】図3と同様の図であり、ポリマー層中の第2の制御体(脂溶性物質)が溶出した後、細孔が形成された状態を示している。
【符号の説明】
1:ステント
2:ステント本体
21:略菱形の要素
22:環状ユニット
23:弾性部材
3:生物学的生理活性物質層
4:第1の制御体(ポリマー層)
5:第2の制御体(脂溶性物質)
6:細孔
【発明の属する技術分野】
本発明は、血管、胆管、気管、食道、尿道などの生体管腔内に生じた狭窄部もしくは閉塞部に留置することにより、これら病変部を開存状態に維持するステントに関する。より具体的には、生体管腔内の病変部に留置した後、病変部の再狭窄を抑制する作用を有する脂溶性の生物学的生理活性物質の生体管腔への放出が促進されるようにコントロールすることができるステントに関する。
【0002】
【従来の技術】
一つの例として、虚血性心疾患に適用される血管形成術について説明する。
【0003】
我が国における食生活の欧米化が、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)の患者数を急激に増加させていることを受け、それらの冠動脈病変を軽減化する方法として経皮的経血管的冠動脈形成術(PTCA)が施行され、飛躍的に普及してきている。現在では、技術的な発展により適用症例も増えており、PTCAが始まった当時の限局性(病変の長さが短いもの)で一枝病変(1つの部位にのみ狭窄がある病変)のものから、より遠位部で偏心的で石灰化しているようなもの、そして多枝病変(2つ以上の部位に狭窄がある病変)へとPTCAの適用が拡大されている。PTCAとは、患者の脚または腕の動脈に小さな切開を施してイントロデューサーシース(導入器)を留置し、イントロデューサーシースの内腔を通じて、ガイドワイヤを先行させながら、ガイドカテーテルと呼ばれる長い中空のチューブを血管内に挿入して冠状動脈の入口に配置した後ガイドワイヤを抜き取り、別のガイドワイヤとバルーンカテーテルをガイドカテーテルの内腔に挿入し、ガイドワイヤを先行させながら、バルーンカテーテルをX線造影下で患者の冠状動脈の病変部まで進めて、バルーンを病変部内に位置させて、その位置で医師がバルーンを所定の圧力で30〜80秒間、1回または複数回膨らませる手技である。これにより、病変部の血管内腔は拡張され、それにより血管内腔を通る血流は増加する。しかしながら、カテーテルによって血管壁が傷つけられたりすると、血管壁の治癒反応である血管内膜の増殖が起こり30〜40%程度の割合で再狭窄が報告されている。
【0004】
この再狭窄を予防する方法は、これまで確立されるに至っていないが、ステントやアテローム切除カテーテル等の器具を用いる方法等が検討され、ある程度の成果をあげている。ここで言うステントとは、血管あるいは他の生体管腔が狭窄もしくは閉塞することによって生じる様々な疾患を治療するために、その狭窄もしくは閉塞部位を拡張し、その内腔を確保するためにそこに留置することができる管状の医療用具である。それらの多くは、金属材料または高分子材料よりなる医療用具であり、例えば金属材料や高分子材料よりなる管状体に細孔を設けたものや、金属材料のワイヤや高分子材料の繊維を編み上げて円筒形に成形したもの等様々な形状のものが提案されている。ステント留置の目的は、PTCA等の手技を施した後に起こる再狭窄の予防、およびその低減化を狙ったものであるが、これまでのところステントのみでは狭窄を顕著に抑制することができていないのが実状である。
【0005】
そして近年では、このステントに抗癌剤等の生物学的生理活性物質を担持させることによって、生体管腔内の留置部位で長期にわたって局所的にこの生物学的生理活性物質を放出させ、再狭窄率の低減化を図る試みが盛んに提案されている。例えば、特許文献1には、ステント本体の表面に治療のための物質とポリマーとの混合物をコーティングしたステントが提案されており、また特許文献2にはステント本体の表面に薬剤層を設け、さらにこの薬剤層に、薬剤を溶出するための生体適合性ポリマー層を設けたステントが提案されている。
しかしながら、特許文献1で提案されているステントは、治療のための物質(生物学的生理活性物質)がポリマー中に取り込まれているため、ポリマーが生物学的生理活性物質に対して化学的に作用することで生物学的生理活性物質が分解、劣化してくるという問題、すなわち生物学的生理活性物質の安定性という点で問題が生ずる。一例を挙げると、ポリ乳酸をポリマーとして選択した場合、ポリ乳酸は生体内で分解される性質を持つため、単に生物学的生理活性物質を体内で放出するという点では優れた機能を発揮するが、一方でこのポリ乳酸は分解される時に酸を発生するという性質を持っている。従って、生物学的生理活性物質として酸に弱いものを選択した場合、ポリ乳酸が分解されることにより、生物学的生理活性物質が分解、劣化してくるという問題が生ずる。
【0006】
一方、特許文献2で提案されたステントは、薬剤層(生物学的生理活性物質層)と生体適合性ポリマー層が別の層に分かれているため、ポリマーによる生物学的生理活性物質の分解、劣化という点では不安はないが、生物学的的生理活性物質がポリマー層の表面に溶出するまで、ある一定の期間を必要とする。また、例えばバルーンカテーテルで狭窄部を拡張してステントを留置した後、比較的短期間、具体的には例えば3日以内に炎症が起こる場合がある。特許文献2で提案されたステントは、このような炎症を抑制するのに必要な生物学的生理活性物質が溶出するのにある程度の期間を要し、生物学的生理活性物質が必要な時にポリマー層の表面から溶出してこないおそれがある。
【0007】
【特許文献1】
特開平8−33718号公報
【特許文献2】
特開平9−56807号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、生物学的生理活性物質の分解、劣化が起こることがなく、安定した状態でステント本体に担持させることが可能であり、なおかつ生体管腔内の病変部に留置した後、生物学的生理活性物質の生体管腔内への放出が促進されるようにコントロールすることができるステントを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(11)の本発明により達成される。
【0010】
(1)生体内の管腔に留置するためのステントであって、
その両末端部が開口し、該2つの末端開口部の間に長手方向に延在する円筒状のステント本体と、
前記ステント本体の表面に設けられた、少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質を含有する生物学的生理活性物質層と、
前記生物学的生理活性物質層の外表面を被覆する第1の制御体よりなり、
前記第1の制御体には、第2の制御体が包埋または分散されており、
前記第2の制御体は、前記第1の制御体よりも前記生物学的生理活性物質層に含有される少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質の透過係数が大きいことを特徴とするステント。
【0011】
(2)前記第1の制御体は、高分子有機化合物からなるポリマー層であることを特徴とする(1)のステント。
【0012】
(3)前記第2の制御体は、脂溶性物質であることを特徴とする(1)または(2)のステント。
【0013】
(4)前記ステント本体は、金属材料で形成されていることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかのステント。
【0014】
(5)前記ステント本体は、高分子材料で形成されていることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかのステント。
【0015】
(6)前記生物学的生理活性物質層は、脂溶性の生物学的生理活性物質のみにより形成されていることを特徴とする(1)ないし(5)のいずれかのステント。
【0016】
(7)前記脂溶性の生物学的生理活性物質は、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、抗高脂血症薬、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗アレルギー剤、抗酸化剤、レチノイド、チロシンキナーゼ阻害剤、抗炎症剤、生体由来材料よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)ないし(6)のいずれかのステント。
【0017】
(8)前記第2の制御体をなす前記脂溶性物質は、分子量1000以下の脂溶性低分子化合物であることを特徴とする前記(3)ないし(7)のいずれかのステント。
【0018】
(9)前記脂溶性低分子化合物は、植物油および動物油よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(8)のステント。
【0019】
(10)前記脂溶性低分子化合物は、トコフェノールであることを特徴とする(8)のステント。
【0020】
(11)前記脂溶性低分子化合物は、ビタミンEであることを特徴とする(8)のステント。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のステントを添付図面に示す好適な実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
本発明のステントは、ステント本体と、該ステント本体の表面に設けられた、生物学的生理活性物質層と、該生物学的生理活性物質層の外表面を被覆する第1の制御体よりなる。
図1は、本発明のステントの一態様を示す側面図であり、図2は、図1の線A−Aに沿って切断した拡大横断面図であり、図3は、図1の線B−Bに沿って切断した部分拡大縦断面図である。
【0023】
図2および図3に示す本発明のステント1は、ステント本体2と、該ステント本体2の表面に設けられた生物学的生理活性物質層3と、該生物学的生理活性物質層3の外表面を被覆する第1の制御体4よりなる。図示したステント1において、第1の制御体4は、高分子有機化合物からなるポリマー層である。該ポリマー層4中には、第2の制御体5が包埋もしくは分散されている。図2および図3に示したステント1では、第2の制御体5は、ポリマー層4を貫通しており、外部と生物学的生理活性物質層3とを連絡する通路をなしている。
本発明のステント1において、前記生物学的生理活性物質層3は、少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質を含有しており、前記第2の制御体5は、前記ポリマー層4よりも前記生物学的生理活性物質層3中に含有される少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質の透過係数が大きいことを特徴とする。
【0024】
本発明のステント1は、上記構成であることにより、該ポリマー層4中に脂溶性の生物学的生理活性物質が透過し易い通路(第2の制御体)5を有する。これにより、ステント1を生体管腔内の病変部に留置した後、生物学的生理活性物質層3に含有される脂溶性の生物学的生理活性物質は、該通路5を通過して比較的速やかに生体管腔内に放出される。言い換えれば、該通路5によって、生物学的生理活性物質の生体管腔内への放出が促進されるようにコントロールされている。
【0025】
図4および図5は、それぞれ図2および図3と同様の図であり、図2および図3に示すステント1とは、ポリマー層4中における第2の制御体5の分散形態が異なっている。図4および図5に示すステント1では、第2の制御体5はポリマー層4を貫通する通路をなしておらず、ポリマー層4中に海島状に存在している。
図4および図5に示すステント1では、ステント1を生体管腔の病変部に留置した後、生物学的生理活性物質層3中の生物学的生理活性物質がポリマー層4を透過していく際に、生物学的生理活性物質の透過係数がポリマー層4よりも大きい相(第2の制御体)5が存在するため、生物学的生理活性物質が比較的速やかに生体管腔内に放出される。言い換えれば、該相5によって、生物学的生理活性物質の生体管腔内への放出が促進されるようにコントロールされている。
【0026】
なお、図2および図3に示すステント1においても、生物学的生理活性物質はポリマー層4を貫通する通路をなしている第2の制御体5のみを通過して生体管腔内に放出されることを必ずしも意味するものではない。すなわち、生物学的生理活性物質は、第2の制御体5ではなく、ポリマー層4を通過して生体管腔内に放出されてもよい。
【0027】
まず、ステント1を構成する各構成要素について詳細に説明する。
ステント本体2は、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体である。円筒体の側面は、その外側面と内側面とを連通する多数の切欠部を有し、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっており、血管のような脈管、または胆管等の生体管腔内に留置され、その形状を維持する。
図1に示す態様において、ステント本体2は、弾性線材からなり、内部に切り欠き部を有する略菱形の要素21を基本単位とする。複数の略菱形の要素21が、略菱形の形状がその短軸方向に連続して配置され結合することで環状ユニット22をなしている。環状ユニット22は、隣接する環状ユニットと線状の弾性部材23を介して接続されている。これにより複数の環状ユニット22が一部結合した状態でその軸方向に連続して配置される。ステント本体2は、このような構成により、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体をなしている。ステント本体2は、略菱形の切り欠き部を有しており、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっている。
【0028】
ただし、本発明において、ステント本体は図示した態様に限定されず、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体であって、その側面上に、外側面と内側面とを連通する多数の切欠部を有し、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造を広く含む。
【0029】
このような径方向の拡縮可能の構造のステント本体の具体例としては、例えば特開平9−215753号公報、特開平7−529号公報に開示されているような弾性線材をコイル状に屈曲させて、それを複数接続して円筒形状にされた例で弾性線材同士のすき間が切欠部をなすステント本体;特表平8−502428号公報および特表平7−500272号公報に開示されているような、弾性線材をジグザグ状に屈曲させてそれを複数接続して円筒形状にされた例で弾性線材同士のすき間が切欠部をなすステント本体;特表2000−501328号公報および特開平11−221288号公報に開示されているような、弾性線材をへび状平坦リボンの形に曲げて、これをマンドリルにへリックス状に巻きつけて円筒形状にされた例で弾性線材同士のすき間が切欠部をなすステント本体;特表平10−503676号公報に開示されているような、図1のステント本体とは切欠部の形状が異なり、メアンダー(meander)模様の形状であるメッシュ状の構造をしたステント本体;特表平8−507243号公報に開示されているような、板状部材をコイル状に屈曲させて円筒形状にされた例で隣接するコイル部分間のすき間が切欠部をなすステント本体等が挙げられる。
【0030】
また、特公平4−68939号公報には、弾性板状部材をらせん状に成形して円筒形状にされた例で隣接するらせん部分のすき間が切欠部をなすステント本体、弾性線材を編組して円筒形状にされた例で弾性線材同士のすき間が切欠部をなすステント本体を含む複数の異なる構造を有する円筒形状のステント本体等が例示される。この他、ステント本体は、板バネコイル状、多重螺旋状、異型管状等であってもよい。また、特公平4−68939号公報の図2(a),(b)には弾性板状部材を渦巻き状に曲げて円筒形状にしたステント本体が記載されているが、このように円筒体の側面に切欠部を有しないが、円筒体の径方向に拡縮変形可能に構成された円筒形状のステント本体も本発明のステント本体として使用することができる。これら上記の全ての文献および特許出願は、引用することで本明細書の一部をなす。
【0031】
留置後のステント本体の拡張手段は、特に限定されず、自己拡張型、すなわち細く小さく折り畳んだステント本体を保持している力を除くことで、自らの復元力で半径方向に拡張するタイプのものであってもよく、バルーン拡張型、すなわちステント本体を内側からバルーンを拡張して外力によって半径方向に拡張するタイプのものであってもよい。
【0032】
ステント本体の材料としては、高分子材料、金属材料、炭素繊維、セラミックス等が挙げられ、ある程度の剛性と弾性を有するものであれば特に制限はないが、生体適合性を有する材料であることが好ましい。
具体的には、高分子材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、セルロースアセテート、セルロースナイトレート等のセルロース系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等の含フッ素ポリマー等が挙げられる。金属材料としては、例えばステンレス鋼、タンタル、チタン、ニッケルチタン合金、タンタルチタン合金、ニッケルアルミニウム合金、インコネル、金、プラチナ、イリジウム、タングステン、コバルト系合金等が挙げられる。ステンレス鋼の中では、最も耐食性が良好であるSUS316Lが好適である。
【0033】
ステント本体は、上記例示した材料から、その適用箇所または拡張手段に応じて適宣選択した材料により好適に形成することができる。例えばステント本体を金属材料で形成した場合、金属材料は強度に優れているため、ステントを病変部に確実に留置することが可能である。ステント本体を高分子材料で形成した場合、高分子材料は柔軟性に優れているため、ステントの病変部への到達性(デリバリー性)という点で優れた効果を発揮する。
また、ステントが自己拡張型である場合、元の形状への復元力が必要なことからチタンニッケル等の超弾性合金等が好ましく、バルーン拡張型である場合、拡張後の形状復帰が起こりにくいことが好ましいことからステンレス鋼等が好ましい。
また、ステント本体を炭素繊維で作製した場合、高強度で、かつ柔軟性に優れており、しかも生体内での安全性が高いという点で優れた効果を発揮する。
【0034】
ステント本体の大きさは適用箇所に応じて適宣選択すれば良い。例えば、心臓の冠状動脈に用いる場合は、通常拡張前における外径は1.0〜3.0mm、長さは5〜50mmが好ましい。
上記したように、ステント本体が線状部材で構成される場合、ステント本体を多数の切欠部を有するように構成する線状部材の幅方向の長さは、好ましくは0.01〜0.5mmであり、より好ましくは0.05〜0.2mmである。
ステント本体の製造方法は、特に限定されず、ステントの構造および材料に応じて、通常使用される製造方法から適宜選択すればよい。
【0035】
ステント本体2の表面には、生物学的生理活性物質層3が設けられている。図示した例では、ステント本体2を構成する線状部材の表面を覆うように生物学的生理活性物質層3が形成されている。ここでステント本体が、上記例示した線状部材以外で構成されるものである場合、ステント本体の構成要素、具体的には板状部材等の表面を覆うように生物学的生理活性物質層3を形成する。
【0036】
生物学的生理活性物質層3は、少なくとも1種類以上の脂溶性の生物学的生理活性物質を含む。生物学的生理活性物質層3に含まれる生物学的生理活性物質は、脂溶性であって、本発明のステントを生体管腔の病変部に留置した際に再狭窄を抑制する効果を有するものであれば特に限定されず、具体的には、例えば抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、抗高脂血症薬、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗アレルギー剤、抗酸化剤、レチノイド、チロシンキナーゼ阻害剤、抗炎症剤、生体由来材料等が挙げられる。
【0037】
抗癌剤としては、より具体的には、例えば塩酸イリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセル水和物、メトトレキサート等が好ましい。
【0038】
免疫抑制剤としては、より具体的には、例えば、シロリムス、タクロリムス水和物、アザチオプリン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル等が好ましい。
【0039】
抗生物質としては、より具体的には、例えば、マイトマイシンC、塩酸ドキソルビシン、アクチノマイシンD、塩酸イダルビシン、塩酸ピラルビシン等が好ましい。
【0040】
抗リウマチ剤としては、より具体的には、例えば、金チオリンゴ酸ナトリウム、ペニシラミン、ロベンザリット二ナトリウム等が好ましい。
【0041】
抗血栓薬としては、より具体的には、例えば、へパリン、塩酸チクロピジン、ヒルジン等が好ましい。
【0042】
抗高脂血症薬としては、より具体的にはHMG−CoA還元酵素阻害剤やプロブコールが好ましい。そして、HMG−CoA還元酵素阻害剤としては、より具体的には、例えば、セリバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン等が好ましい。
【0043】
ACE阻害剤としては、より具体的には、例えば、トランドラプリル、シラザプリル、塩酸テモカプリル、塩酸デラプリル、マレイン酸エナラプリル等が好ましい。
【0044】
カルシウム拮抗剤としては、より具体的には、例えば、ニルバジピン、塩酸ベニジピン、ニソルジピン等が好ましい。
【0045】
抗アレルギー剤としては、より具体的には、例えば、トラニラストが好ましい。
【0046】
抗酸化剤としては、より具体的には、例えば、エピガロカテキンガレートが好ましい。
【0047】
レチノイドとしては、より具体的には、例えば、オールトランスレチノイン酸が好ましい。
【0048】
チロシンキナーゼ阻害剤としては、より具体的には、例えば、ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチン等が好ましい。
【0049】
抗炎症剤としては、より具体的には、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドやアスピリンが好ましい。
【0050】
生体由来材料としては、より具体的には、例えば、EGF(epidermal growth factor)、VEGF(vascular endothelial growth factor) 、HGF(hepatocytegrowth factor) 、PDGF(platelet derived growth factor) 、BFGF(basic fibroblast growth factor) 等が好ましい。
【0051】
生物学的生理活性物質層3は、上記例示した脂溶性の生物学的生理活性物質のうち、一種類のみを含んでもよく、または二種類以上の異なる生物学的生理活性物質を含んでもよい。二種類以上の生物学的生理活性物質を含む場合、その組み合わせは上記例示した脂溶性の生物学的生理活性物質から必要に応じて適宜選択すればよい。
【0052】
ステント本体2を構成する線状部材の表面に生物学的生理活性物質層3を形成する方法は、ステント本体2を構成する線状部材の表面に均一に生物学的生理活性物質層3を形成することができれば特に限定されず、例えば、生物学的生理活性物質を加熱融解させてステント本体2を構成する線状部材の表面に塗布するか、または加熱融解させた生物学的生理活性物質中にステント本体2を浸漬し、その後生物学的生理活性物質を冷却し、固化させることで生物学的生理活性物質層3を形成することができる。また、生物学的生理活性物質を適当な溶媒に溶解させて溶液を作製し、この溶液中にステント本体2を浸漬し、その後引き上げて、溶媒を蒸散若しくは他の方法で除去することでステント本体2を構成する線状部材を被覆する方法、あるいはこのような溶液をスプレーを用いてステント本体2を構成する線状部材に噴霧するか、または他の手段でステント本体2を構成する線状部材の表面に塗布し、溶媒を蒸散もしくは他の方法で除去することでステント本体2を構成する線状部材を被覆する方法等が挙げられる。
【0053】
なお、ステント本体2を構成する線状部材に対する生物学的生理活性物質の付着力が不足しており、生物学的生理活性物質のみではステント本体2を構成する線状部材の表面に層を形成することができないと考えられる場合、生物学的生理活性物質層3に粘着性を付与する追加成分を溶液に加えることが好ましい。具体的には例えば、追加成分として、分子量1000以下の低分子量の高級脂肪酸、例えば魚油、植物油、脂溶性ビタミン、例えばビタミンA、ビタミンE等を溶液に加えることが好ましい。更に、生物学的生理活性物質と混合する追加成分の融点が生物学的生理活性物質の機能を損わない程度に低い場合には、ステント本体2を構成する線状部材に被覆して乾燥させた後で、上記混合物質の融点以上に加熱することで熱融着させ、より強固に生物学的生理活性物質をステント本体2を構成する線状部材へ固定することが可能となる。
【0054】
なお、生物学的生理活性物質を溶解させるのに好適な溶媒が存在し、かつ、生物学的生理活性物質のみでステント本体2を構成する線状部材の表面に層を形成することができるのであれば、生物学的生理活性物質のみを溶媒に溶解させた溶液に、ステント本体2を浸漬して乾燥する方法、あるいは前記溶液をスプレーを用いてステント本体2を構成する線状部材に噴霧して乾燥する方法が最も簡易であり、最も好ましく適用される。
【0055】
生物学的生理活性物質層3の量は、ステントの形状および寸法によるが、病変部への到達性(デリバリー性)や血管壁への刺激性などのステント本体の性能を著しく損なわない範囲で、なおかつ生物学的生理活性物質の放出による効果が十分に発揮される範囲で設定される。生物学的生理活性物質層3の量は、好ましくは100〜1,000μg/cm2 であり、より好ましくは200〜400μg/cm2 である。
【0056】
生物学的生理活性物質層3は、その外表面が第1の制御体をなすポリマ−層4で被覆されている。
ポリマー層4を形成するポリマーは、特に限定されないが、生体安定性が高いものが好ましく、例えばスチレン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー、アクリレート・メタクリレート系ポリマー、セルロースナイトレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカブロラクトン、及びこれらを二種類またはそれ以上を組み合わせた共有結合性もしくは混合ポリマーなどが挙げられる。最も好ましいのはスチレン系エラストマーであるが、必要とされる機械的物性値或いは所望する生物学的生理活性物質の放出速度に合わせて適宜選択されるべきである。
【0057】
ポリマー層4の厚さは、生物学的生理活性物質層3と同様、病変部へのデリバリー性や血管壁への刺激性などステント本体2の性能を著しく損なわない程度に設定されるべきであることから、好ましくは1〜75μm、更に好ましくは1〜25μm、最も好ましくは1〜10μmの範囲である。
【0058】
ポリマー層4の厚さが1〜75μmであると、生物学的生理活性物質層3の外表面を覆う保護層としての機能に優れており、かつステント1自体の外径が大きくなり過ぎず、病変部へのデリバリーに支障をきたすおそれがない。
【0059】
ポリマー層4中には、生物学的生理活性物質層3に含有される少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質の透過係数がポリマー層4よりも大きい第2の制御体5が包埋もしくは分散されている。
したがって、第2の制御体5は、生物学的生理活性物質層3に含有される生物学的生理活性物質およびポリマー層4を形成するポリマーとの関係で好適なものが選択される。ここで第2の制御体5は、生物学的生理活性物質層3に含有される生物学的生理活性物質のうち、少なくとも1種の生物学的生理活性物質の透過係数がポリマー層4よりも大きければよく、生物学的生理活性物質層3に含有される全ての生物学的生理活性物質の透過係数がポリマー層4よりも大きいことは必ずしも必要ではない。したがって、生物学的生理活性物質層3に含有される生物学的生理活性物質のうち、ステント1を生体管腔内の病変部に留置した後、比較的速やかに放出されることが好ましいものの透過係数がポリマー層4より大きくなるように第2の制御体5を選択すればよい。
【0060】
生物学的生理活性物質層3は、脂溶性の生物学的生理活性物質を含有するため、第2の制御体5は脂溶性物質であることが好ましい。
図2および図3に示すステント1において、第2の制御体5が脂溶性物質である場合、ステント1を生体管腔内の病変部に留置した後、生体管腔内の体液がステント1の外面(ポリマー層4の外面)と接触する。これにより、脂溶性物質自身が体液側へと溶出する場合がある。脂溶性物質が体液側へと完全に溶出した場合、図6および図7に示すように、ポリマー層4中の脂溶性物質があった部分には中空の細孔6が形成される。この結果、生物学的生理活性物質はさらに速やかに放出されるようになる。
【0061】
図4および図5に示すステント1についても、ポリマー層4中に海島状に存在している脂溶性物質(第2の制御体)5が体液側へと溶出する場合がある。このような場合、脂溶性物質5があった部分に空孔が形成されて、上記と同様に生物学的生理活性物質はさらに速やかに放出されるようになる。
【0062】
これらの場合に、ポリマー層4中の脂溶性物質は、短期間で溶出して細孔6または空孔を形成してもよく、また、長期間にわたり徐々に溶出して細孔6または空孔を形成してもよい。これらの溶出形態は、生物学的生理活性物質の所望する放出挙動により適宜選択されるべきである。しかしながら、生体への影響を考慮すると、生物学的生理活性物質の放出に関して所望の挙動が得られる限り、脂溶性物質は長期間にわたり徐々に溶出するよう設計することが好ましい。なお、細孔6または空孔が形成されるまでに要する時間、および脂溶性物質が溶出して細孔6または空孔が形成される割合は脂溶性物質の溶解度や添加量によって制御することができる。
【0063】
脂溶性物質は、ポリマー層4を形成するポリマーよりも生物学的生理活性物質層に対する透過係数が大きいものであれば特に限定されないが、上記のように体内に脂溶性物質自身が溶出する可能性があることを考慮すると、医学的に安全なものが好ましい。
ポリマー層4中に容易に混合され、かつポリマー層4中に容易に分散されることから、脂溶性物質は、分子量1000以下の脂溶性低分子化合物であることがより好ましい。
【0064】
更にまた、ポリマー層4を形成するポリマーと同一の溶媒に溶解し、ポリマー層4中に容易に混合されることから、脂溶性低分子化合物は植物油および動物油からなる群から選択されるものが好ましい。
これらのうち、コレステリンを含まないことから植物油がより好ましい。
【0065】
その中でも、最も好ましい脂溶性物質としてトコフェロール類が挙げられ、その中でもビタミンEが最適に用いられる。
【0066】
脂溶性物質の濃度は、ポリマー層4を形成するポリマーの質量に対して1〜300質量%が好ましく、更に好ましくは10〜200質量%である。
【0067】
脂溶性物質の濃度がポリマーの質量に対して1〜300質量%であると、ポリマー層4が十分な強度を有し、生物学的生理活性物質層3の外表面を覆う保護層としての機能に優れており、かつステント1を生体管腔に留置した後、ステント表面から比較的速やかに生物学的生理活性物質が放出される効果において優れている。
【0068】
生物学的生理活性物質層3の表面をポリマー層4で覆うための方法、およびポリマー層4中に脂溶性物質を含有させる方法は特に限定されないが、例えば、ポリマーと脂溶性物質を溶媒に溶解させて溶液を作製し、予め生物学的生理活性物質層3を設けたステント本体2をこの溶液に浸漬して乾燥する方法、あるいは予め生物学的生理活性物質層3を設けたステント本体2に、スプレーを用いて前記溶液を噴霧して乾燥する方法等が挙げられる。
【0069】
上述したように、本発明のステント1は、ポリマー層4中に、生物学的生理活性物質層3に含有される少なくとも1種の生物学的生理活性物質の透過係数がポリマー層4より大きい第2の制御体が包埋または分散されているため、ステント1を生体管腔内の病変部に留置した後、生物学的生理活性物質の生体管腔内への放出が促進されるようにコントロールすることができる。例えば、ステント留置後3日以内で起こる炎症を抑制するための生物学的生理活性物質をタイムリーに放出することが可能である。
【0070】
また、本発明のステント1は、ポリマー層4と生物学的生理活性物質層3とが別の層に分かれているため、ポリマーの作用による生物学的生理活性物質の分解、劣化が起こるという問題もない。従って、生物学的生理活性物質は、ステント1から放出されるまで、ステント本体2に安定した状態で担持させることが可能である。また、ポリマーと生物学的生理活性物質との組み合わせが限定されることもない。
【0071】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
図1に示す外径2.0mm、長さ15mmの円筒形状で、略菱形の切り欠き部を有するステント本体(材質:SUS316L)を構成する線状部材(幅:0.1mm)の表面に、抗高脂血症薬であるピタバスタチン(以下、「PV」を略す。)をテトラヒドロフラン(以下、「THF」と略す。)に溶解させた溶液(PV濃度1wt%)をハンドスプレー(マイクロスプレーガン−II、NORDSON製)により噴霧し、溶媒であるTHFを乾燥した後、約300μgのPVがステント本体外面に塗布されていることを確認した(生物学的生理活性物質層の形成)。このとき生物学的生理活性物質層の厚さは約5μmであった。そして、スチレン系エラストマーとビタミンEとを質量比1:1で、かつ総ポリマー濃度が約1wt%となるようにへプタンに溶解させた溶液を上記と同じハンドスプレーにて噴霧して、真空下で乾燥させることによって、溶媒であるヘプタンを完全に揮発させて、ポリマー層が生物学的生理活性物質層を完全に覆ったことを確認した(ポリマー層の形成)。ステントにコートされたポリマー質量は約300μgであった。このとき、ポリマ一層の厚さは約5μmであった。
【0073】
そして、このステントについて生物学的生理活性物質(PV)放出量を測定した。測定は、上記ステントを4%ウシ血清アルブミン(BSA)添加逆浸透(RO) 水l0ml内に浸漬し37℃下で攪拌して、所定時間毎にサンプリングを行い、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(日立製)にて4%BSA中に放出されたPV量を定量した。結果を表1に示す。なお、表1におけるPVの放出量は、ステントに塗布したPVの量に対する割合(%)で示している。
【0074】
表1に示すように、実施例1のステントでは、4%BSA内に浸漬した後、3日後にステントに塗布したPVの約65%が放出されたことが確認された。
【0075】
(比較例1)
図1に示す外径2.0mm、長さ15mmの円筒形状で、略菱形の切り欠き部を有するステント本体(材質:SUS316L)を構成する線状部材(幅:0.1mm)の表面に、PVをTHFに溶解させた溶液(PV濃度1wt%)をハンドスプレー(マイクロスプレーガン−II、NORDSON製)により噴霧し、溶媒であるTHFを乾燥した後、約300μgのPVがステント本体外面に塗布されていることを確認した(生物学的生理活性物質層の形成)。このとき、生物学的生理活性物質層の厚さは、約5μmであった。そして、スチレン系エラストマーを総ポリマー濃度が1wt%となるようにヘプタンに溶解した溶液を上記と同じハンドスプレーにて噴霧して、真空下で乾燥させることによって、溶媒であるヘプタンを完全に揮発させて、ポリマー層が生物学的生理活性物質層を完全に覆ったことを確認した(ポリマ一層の形成)。ステントにコートされたポリマー質量は約300μgであった。また、このときポリマー層の厚さは約5μmであった。
【0076】
そして、このステントについて実施例1と同様の方法で生物学的生理活性物質(PV)放出量の測定を行なった。結果を表1に示した。
【0077】
表1に示すように、比較例1のステントは、4%BSA内に浸漬した後、3日後ではステントに塗布したPVの放出がほとんど認められなかった。
【0078】
(実施例2)
図1に示す外径2.0mm、長さ15mmの円筒形状で、略菱形の切り欠き部を有するステント本体(材質:SUS316L)を構成する線状部材(幅:0.1mm)の表面に、抗高脂血症薬であるシンバスタチン(以下、「SV」と略す。)をTHFに溶解させた溶液(SV濃度1wt%)をハンドスプレー(マイクロスプレーガン−II、NORDSON製)により噴霧し、溶媒であるTHFを乾燥した後、約300μgのSVがステント本体外面に塗布されていることを確認した(生物学的生理活性物質層の形成)。このときの生物学的生理活性物質層の厚さは約5μmであった。そして、スチレン系エラストマーとビタミンEとを質量比1:0.25で、かつ総ポリマー濃度が約1wt%となるようにへプタンに溶解させた溶液を上記と同じハンドスプレーにて噴霧して、真空下で乾燥させることによって、溶媒であるヘプタンを完全に揮発させて、ポリマー層が生物学的生理活性物質層を完全に覆ったことを確認した(ポリマー層の形成)。ステントにコートされたポリマー質量は約300μgであった。また、このとき、ポリマ一層の厚さは約5μmであった。
【0079】
そして、このステントについて、実施例1と同様の手順で生物学的生理活性物質(SV)放出量の測定を行なった。結果を表1に示した。
【0080】
表1に示すように、実施例2のステントは、4%BSA内に浸漬した後、3日後には、ステントに塗布したSVが全て放出されていることが確認された。
【0081】
(比較例2)
図1に示す外径2.0mm、長さ15mmの円筒形状で、略菱形の切り欠き部を有するステント本体(材質:SUS316L)を構成する線状部材(幅:0.1mm)の表面に、SVをTHFに溶解させた溶液(SV濃度1wt%)をハンドスプレー(マイクロスプレーガン−II、NORDSON製)により噴霧し、溶媒であるTHFを乾燥した後、約300μgのSVがステント本体外面に塗布されていることを確認した(生物学的生理活性物質層の形成)。このときの生物学的生理活性物質層の厚さは約5μmであった。そして、スチレン系エラストマーを総ポリマー濃度が1wt%となるようにヘプタンに溶解した溶液を上記と同じハンドスプレーにて噴霧して、真空下で乾燥させることによって、溶媒であるヘプタンを完全に揮発させて、ポリマー層が生物学的生理活性物質層を完全に覆ったことを確認した(ポリマ一層の形成)。ステントにコートされたポリマー質量は約300μgであった。また、このとき、ポリマー層の厚さは約5μmであった。
【0082】
そして、このステントについて実施例1と同様の方法で生物学的生理活性物質(SV)放出量の測定を行なった。結果を表1に示した。
【0083】
表1に示すように、比較例2のステントは、4%BSA内に浸漬した後、3日後に、ステントに塗布したSVの約40%しか放出されていないことが確認された。
【0084】
表1:生物学的生理活性物質(PV・SV)の放出量(%)
【0085】
【発明の効果】
以上述べた様に、本発明のステントは、生体内の管腔に留置するためのステントであって、その両末端部が開口し、該2つの末端開口部の間に長手方向に延在する円筒状のステント本体と、前記ステント本体の表面に設けられた、少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質を含有する生物学的生理活性物質層と、前記生物学的生理活性物質層の外表面を被覆する第1の制御体よりなり、前記第1の制御体には、第2の制御体が包埋または分散されており、前記第2の制御体は、前記第1の制御体よりも前記生物学的生理活性物質層に含有される少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質の透過係数が大きいことを特徴とするため、生物学的生理活性物質の分解、劣化が起こることがなく、安定した状態でステント本体に担持させることが可能であり、なおかつ生体管腔内の病変部に留置した後、生物学的生理活性物質の生体管腔内への放出が促進されるようにコントロールすることができる。
【0086】
本発明において、ステント本体が金属材料で形成されている場合、金属材料は強度に優れているため、ステントを病変部に確実に留置することが可能である。
【0087】
本発明において、ステント本体が高分子材料で形成されていることを特徴とする場合、高分子材料は柔軟性に優れているため、ステントの病変部への到達性(デリバリー性)という点で優れた効果を発揮する。
【0088】
なお、前記生物学的生理活性物質層が、生物学的生理活性物質層のみより形成されていることを特徴とする場合は、簡易的な方法で生物学的生理活性物質層を設けることが可能である。
【0089】
なお、前記生物学的生理活性物質が、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、抗高脂血症薬、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗アレルギー剤、抗酸化剤、レチノイド、チロシンキナーゼ阻害剤、抗炎症剤、生体由来材料よりなる群から選ばれた少なくとも1種のものであることを特徴とする場合は、再狭窄を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のステントの一態様を示す正面図である。
【図2】図1の線A−Aに沿って切断した拡大横断面図である。
【図3】図1の線B−Bに沿って切断した部分拡大縦断面図である。
【図4】図2と同様の図であり、ポリマー層における第2の制御体の分散が異なる態様を示している。
【図5】図3と同様の図であり、ポリマー層における第2の制御体の分散が異なる態様を示している。
【図6】図2と同様の図であり、ポリマー層中の第2の制御体(脂溶性物質)が溶出した後、細孔が形成された状態を示している。
【図7】図3と同様の図であり、ポリマー層中の第2の制御体(脂溶性物質)が溶出した後、細孔が形成された状態を示している。
【符号の説明】
1:ステント
2:ステント本体
21:略菱形の要素
22:環状ユニット
23:弾性部材
3:生物学的生理活性物質層
4:第1の制御体(ポリマー層)
5:第2の制御体(脂溶性物質)
6:細孔
Claims (11)
- 生体内の管腔に留置するためのステントであって、
その両末端部が開口し、該2つの末端開口部の間に長手方向に延在する円筒状のステント本体と、
前記ステント本体の表面に設けられた、少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質を含有する生物学的生理活性物質層と、
前記生物学的生理活性物質層の外表面を被覆する第1の制御体よりなり、
前記第1の制御体には、第2の制御体が包埋または分散されており、
前記第2の制御体は、前記第1の制御体よりも前記生物学的生理活性物質層に含有される少なくとも1種の脂溶性の生物学的生理活性物質の透過係数が大きいことを特徴とするステント。 - 前記第1の制御体は、高分子有機化合物からなるポリマー層であることを特徴とする請求項1に記載のステント。
- 前記第2の制御体は、脂溶性物質であることを特徴とする請求項1または2に記載のステント。
- 前記ステント本体は、金属材料で形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のステント。
- 前記ステント本体は、高分子材料で形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のステント。
- 前記生物学的生理活性物質層は、脂溶性の生物学的生理活性物質のみにより形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のステント。
- 前記脂溶性の生物学的生理活性物質は、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、抗高脂血症薬、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗アレルギー剤、抗酸化剤、レチノイド、チロシンキナーゼ阻害剤、抗炎症剤、生体由来材料よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のステント。
- 前記第2の制御体をなす前記脂溶性物質は、分子量1000以下の脂溶性低分子化合物であることを特徴とする請求項3ないし7のいずれかに記載のステント。
- 前記脂溶性低分子化合物は、植物油および動物油よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項8に記載のステント。
- 前記脂溶性低分子化合物は、トコフェノールであることを特徴とする請求項8に記載のステント。
- 前記脂溶性低分子化合物は、ビタミンEであることを特徴とする請求項8に記載のステント。
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