JP4169826B2 - 粉体皮膜形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、被塗装物の表面に予め形成した粘着層に、粉体を、振動、落下、回転等に代表される外力によって付着もしくは埋め込むことにより粉体皮膜を形成する方法、さらには、粘着層および粉体皮膜に熱、紫外線、電磁波等のエネルギーを与えて溶融もしくは架橋させることにより粉体皮膜を形成する方法において、前記粘着層を形成するに好適な粘着剤およびそれを用いた粉体皮膜形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
被塗装物に粉体を付着させる方法としては、従来、予備加熱した被塗装物に粉体を散布し溶融させることにより付着させる流動浸漬法、粉体を荷電し被塗装物にスプレーする静電スプレー法、電荷を持つ粉体を液体に分散させ、被塗装物に電圧を印加して粉体を被塗装物に担持させる電着法等があった。しかしながら、これらの方法では、被塗装物への粉体の付着不足や、粉体どうしの凝集等に起因して、粉体皮膜が剥離しやすかったり、粉体皮膜に孔が空いたりといった欠陥が生じやすかった。そこで本発明者らは、予め被塗装物の表面に粘着層を形成しておき、この粘着層に付着させた粉体を、振動等の外力を用いて皮膜形成媒体により粘着層に埋め込ませ、その埋め込み作用で表面に押し出された粘着剤に、さらに皮膜形成媒体により粉体を埋め込ませるいった作用を繰り返させた後、粘着剤の表出がとまった時点において粉体皮膜の形成を完了とする方法を、特開平7−62559号公報にて提案し、実用化させている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記皮膜形成方法において予め被塗装物の表面に粘着層を形成するには、例えば、多数の被塗装物を籠容器内に収容し、籠容器ごと粘着剤の貯留槽に浸漬してから取り出した後、粘着剤中の希釈剤を揮発させて形成している。粘着層の厚さは、粘着剤の濃度や粘度によって規定される。ところが、このような粘着層の形成方法を採った場合、通常の粘着剤では、被塗装物どうしが粘着剤により互いに付着してしまう現象が起こる場合があった。その場合には、付着している被塗装物どうしを剥離させる作業を要することとなり、よって工程が繁雑化して生産効率の悪化を招いていた。また、被塗装物どうしが付着していた面の粘着層が規定の厚さにならず、その結果として均一の厚さを有する高品質の粉体皮膜を得ることができないといった問題も生じていた。これらの問題は、特に、互いに重なって付着しやすい平面を大きく有する薄板状の被塗装物に顕著に起こっていた。
【0004】
したがって本発明は、上記のようにして被塗装物の表面に粘着層を形成するにあたって被塗装物どうしの付着を防止することができ、その結果、生産効率の向上ならびに粉体皮膜の高品質化が図られる粉体皮膜形成方法を提供することを目的としている。なお、本発明で言う「粉体皮膜」とは、美観付与とともに表面の耐久性や強度を向上させるための一般的な塗膜の他、研磨用途、滑り止めあるいは滑り性向上、光反射あるいは光反射防止、電気絶縁性等、被塗装物の表面に様々な機能を付与する目的で形成される皮膜を指す。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明に用いられる粉体皮膜形成用粘着剤は、被塗装物の表面に粘着層を形成し、この粘着層に付着させた粉体により粉体皮膜を形成させる粘着剤であって、該粘着剤中に、固体粒子が分散されていることを特徴とするものであり、固体粒子は、互いに近接する被塗装物の粘着層の間を離間させ得るものとされる。
この粘着剤により被塗装物の表面に粘着層を形成するには、例えば、上記のように、多数の被塗装物を籠容器内に収容し、籠容器ごと粘着剤の貯留槽に浸漬してから取り出した後、ドライヤの温風を被塗装物に吹き付けて粘着剤中の希釈剤を揮発させる方法等が好適である。この他には、多数の被塗装物を籠容器内に投入し、籠容器を揺らしながら被塗装物に粘着剤をスプレーし、この後、ドライヤの温風を被塗装物に吹き付けて希釈剤を揮発させる方法でもよい。いずれにしろ、多数の被塗装物の表面にこの粘着剤を一括して付着させた後、希釈剤を揮発させるといった方法が好適である。
【0006】
さて、このように被塗装物の表面に粘着層を形成すると、従来の粘着剤では、被塗装物どうしが付着する場合があったわけである。ところがこの粘着剤によれば、図1に示すように、結着剤中に分散された固体粒子1が、付着しようとする2つの被塗装物Wの粘着層2の間に介在して両者の粘着層2を離間させるスペーサの機能を果たし、被塗装物Wどうしの付着を妨げる。このため、被塗装物どうしの付着が防止され、その結果、被塗装物どうしの付着を解除する作業が省かれて生産効率が向上するとともに、均一な粘着層の厚さが確保され、後に形成される粉体皮膜の高品質化が図られる。
【0007】
ここで、粘着層の厚さは、主成分の結着剤の粘度、希釈剤の含有率、固体粒子の含有率等により調整可能であり任意に設定されるが、薄すぎると後に付着させる粉体を十分に担持することができず、逆に厚すぎると液垂れが生じやすくなる。このような観点から、粘着層の厚さは1〜10μmが好適とされる。したがって、固体粒子が上記のスペーサ機能を発揮するには、5〜20μmの粒子径を有する粒子を含有し、かつ体積平均粒子径が2〜50μmであることが好ましい。固体粒子がスペーサ機能を発揮するための最小粒子径は、粘着層の厚さと比例して増減する。固体粒子の体積平均粒子径は、単に粘着層の厚さよりも大きければよいというものではない。それは、50μmを超えると大きくて重いため貯蔵状態で沈降して固化しやすく、沈降・固化が生じた場合には、使用前に再び分散させなければならなくなり作業能率の低下を招くからである。さらに、固体粒子として体積平均粒子径が50μmを超える無機物を用いた場合には、後に形成される粉体皮膜の表面からその固体粒子が突出して平滑性が低下する場合があるので、平滑性が求められる用途には不適当である。
【0008】
このような理由から上記粒子径を有する固体粒子が好適であり、より好ましくは5〜20μmの粒子径を有する粒子を含有し、かつ体積平均粒子径が2〜30μmの固定粒子であり、さらに好ましくは5〜20μmの粒子径を有する粒子を5〜100重量%含有し、かつ体積平均粒子径が2〜20μmの固定粒子であり、もっとも好ましいのは5〜10μmの粒子径を有する粒子を5〜100重量%含有し、かつ体積平均粒子径が2〜10μmの固定粒子である。なお、固体粒子の上記粒子径および体積平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布計(日機装社製:マイクロトラック)を用いて測定することができる。
そして、固体粒子は粘着剤中の固形分の5〜70重量%であることが好ましい。5重量%未満ではスペーサ機能が不十分であり70重量%を超えると結着成分不足から粘着力の低下、粉体被膜の平滑性不良等の問題が生じるので好ましくない。なお、ここでいう固形分とは、粘着剤製造時に用いる希釈剤を除いた全てのものを示す。
【0009】
また、本発明の粉体皮膜形成方法は、前述の粉体皮膜形成用粘着剤を被塗装物の表面に塗布して粘着層を形成し、次いで、この粘着層に、皮膜形成媒体を介して粉体を付着させもしくは埋め込んで粉体皮膜を形成する粉体皮膜形成方法であって、前記粉体皮膜形成用粘着剤は、互いに近接する被塗装物の粘着層の間を離間させ得るスペーサ機能を有する固体粒子が粘着剤中に分散されてなり、前記固体粒子は、前記粉体皮膜を形成する工程で粉体皮膜に埋め込まれることを特徴としている。
具体的には、前述の粘着剤によって表面に粘着層が形成された多数の被塗装物とともに粉体および皮膜形成媒体を適当な容器内に適宜な割合で投入し、容器を振動あるいは回転させるなどして投入物に外力を与える。粉体は、皮膜形成媒体の表面に付着させた状態で容器内に投入してもよい。すると、粉体は皮膜形成媒体により打撃されて粘着層に付着させられ、さらには埋め込まれ、その埋め込み作用で表面に押し出された粘着剤に、さらに皮膜形成媒体により打撃された粉体が埋め込まれるといった作用が繰り返された後、粘着剤の表出がとまった時点において、粉体による皮膜形成が完了する。固体粒子は、多層化する粉体内に埋め込まれる。本方法によれば、上述したように本発明の粘着剤からなる粘着層は均一な厚さが確保されるので、形成される粉体皮膜も均一な厚さとなり、また、粉体が多層かつ高密度に充填された状態となるので、被塗装物に対する付着状態は強固となり剥離するおそれがない。これらのことから、粉体皮膜の高品質化が図られる。
【0010】
【発明の実施の形態】
次に、本発明をより具体化した実施の形態を説明する。
まず、本発明に用いられる粘着剤を構成する好適な材料を説明する。
(1)結着剤
本発明に用いられる粘着剤を構成する結着剤としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、シリコーン樹脂、ユリア樹脂等の公知の液状あるいは半液状の樹脂や、アミン類、エーテル類、グリコール類、タール類およびスチレン、アクリル、フェノール、イソシアネート等のモノマー、オリゴマー、ポリマー等の公知の液状あるいは半液状の物質を用いることができる。これらの結着剤は、単独または2種以上をブレンドして用いることができ、また、粘着力を調整するために、固形のものと液状のものとをブレンドして用いることもできる。
結着剤が水酸基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、イソシアネート基、アルデヒド基、ニトロ基、スルホン基等の官能基を持つ場合には、その官能基と架橋反応させることができる物質、例えば、フェノール樹脂やポリアミド樹脂等の公知の樹脂や、イミダゾール類、イミダゾリン類、酸無水物類、ヒドラジン類、アミン類、アミド類、二塩基酸、イソシアネート類、イソシアヌレート類等の公知の硬化剤や硬化触媒等を、必要に応じて適宜両添加することが好ましい。
【0011】
(2)固体粒子
粘着剤中に分散される本発明に用いられる固体粒子としては、粘着剤により溶解あるいは膨潤しないものが好適である。具体的には、シリカ、アルミナ、マイカ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ガラス、炭化珪素、タルク、ジルコニウム、酸化鉄、鉄、ニッケル、アルミニウム、ステンレス等の無機物からなる粒子をはじめ、シリコーン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子等の各種架橋樹脂粒子、ジシアンジアミド、イミダゾール、二塩基酸等の有機物の粒子が用いられる。固体粒子の形状は、球状、扁平状、立方体、柱状、円錐状等の各種形状のものをはじめ、不定形のものでもよい。無機物からなる固体粒子の場合、粘着剤により溶解したり膨潤したりするおそれはないが、有機物からなる場合には、結着剤や希釈剤等により溶解あるいは膨潤しないものを適宜選択する必要がある。また、固体粒子は、異なる材質および/または形状からなる2種以上の粒子をブレンドして用いることもできる。
固体粒子は、上述したように、5〜20μmの粒子径を有する粒子を含有し、かつ体積平均粒子径が2〜50μmであること、さらには、粘着剤中の固形分の5〜70重量%含有されていることが、被塗装物どうしの付着を防止するスペーサ機能を発揮するための好適な条件とされる。
【0012】
(3)希釈剤
結着剤が高粘度である場合には、適宜な割合で希釈剤が添加される。希釈剤としては、エーテル類、アルコール類、ケトン類、芳香族化合物等の一般的な希釈剤を用いることができる。
(4)その他の材料
本発明に用いられる粘着剤中には、必要に応じて次のような材料が適宜添加される。その材料とは、例えば、シランカップリング剤等の各種カップリング剤、ベンゾイン等の各種発泡防止剤、アクリルオリゴマー等の各種流展剤、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、銅フタロシアニン、アゾ顔料、縮合多環式化合物顔料等の各種着色剤、アルミニウム粉、銅粉等の金属粉、超微粒子シリカ等の増粘剤、各種酸化防止剤、硬化剤、防錆剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、ワックス等の各種添加剤等である。
【0013】
上記結着剤と固体粒子とを必須の材料とし、その他の材料を必要に応じて適宜選択し、かつ適宜な割合で混合することにより、本発明に用いられる粘着剤が製造される。この粘着剤により被塗装物の表面に粘着層を形成するには、上述したように、まず、多数の被塗装物を籠容器内に収容し、次いで、籠容器ごと粘着剤の貯留槽に浸漬するか、あるいは籠容器を揺らしながら被塗装物に粘着剤をスプレーした後、希釈剤を揮発させるといった方法が用いられる。
【0014】
本発明に用いられる粘着剤が好適に使用される被塗装物としては、自動車、船舶、航空機、自動二輪車、自転車等の部品、家電製品の部品、事務機器の部品、電気・電子部品、建材、玩具、モータコア、磁石等を挙げることができる。また、被塗装物の材質としては、鉄、アルミニウム、ステンレス、真鍮、銅、亜鉛等の一般的な金属およびその合金をはじめ、ガラス、セラミックス、プラスチックス、木材、紙、布等の絶縁性の材質を挙げることができる。
【0015】
さて、本発明に用いられる粘着剤により被塗装物の表面に粘着層を形成した後は、本発明の粉体皮膜形成方法により、熱可塑性あるいは熱硬化性の粉体塗料に代表される各種粉体を付着させて粉体皮膜を形成することができる。以下、その形成方法の一具体例を、図2を参照して説明する。
【0016】
図2は、被塗装物表面の粘着層に粉体塗料を付着させるための外力として振動を用いる加振塗装装置の一例を示している。該装置は、加振機構V上に配置された容器C内に、表面に粘着層が形成された多数のペレット状被塗装物W、皮膜形成媒体および粉体塗料(いずれも図示略)が投入され、これら投入物を、加振機構Vで容器Cごと振動させることにより、被塗装物Wの表面に粉体塗料による粉体皮膜を形成するものである。
【0017】
容器Cは、硬質合成樹脂あるいは金属等の硬質材からなるもので、上部に開口部c1を有する腕状に形成されており、その底部c2の中央部には、上方に膨出して開口部c1と同程度の高さに達する柱状部c3が突設されている。一方、加振機構Vは、機台F上にコイルスプリングf1、f2を介して振動板f3が取り付けられ、振動板f3の上面中央部に上方に延びる垂直軸f4が突設され、振動板f3の下面中央部にモータf5が固定され、このモータf5の出力軸f6に重錘f7が偏心して取り付けられた構成となっている。容器Cは、振動板f3に置かれた状態で、柱状部c3の上端が垂直軸f4の上端に固定されることによりセットされ、モータf5が駆動されて重錘f7が回転すると加振されるようになっている。
【0018】
ここで、容器C内に投入される粉体塗料および皮膜形成媒体を説明する。
・粉体塗料
粉体塗料は、樹脂を含むものであり、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ユリア樹脂、メラニン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂等の、粉体塗料に通常用いられている樹脂を単独で、または混合して用いられる。これらの粉体塗料中の樹脂の主成分が熱硬化性樹脂の場合には、熱硬化性樹脂が持つ官能基と架橋反応し得る官能基を持つ硬化剤を用いることが好ましい。このような硬化剤としては、例えば、アミン、アミド、ジシアンジアミド、カルボン酸、酸無水物、イソシアネート、ポリスルフィド、酸ジヒドラジド、イミダソール等の粉体塗料に用いられている公知の硬化剤を、単独で、または混合して用いられる。粉体塗料には、必要に応じて、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク等の各種充填剤、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の各種増粘剤、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、銅フタロシアニン、アゾ顔料、縮合多環式化合物顔料等の各種着色剤、ポリアクリル酸ブチルエステル等のアクリルオリゴマー、シリコーン等の各種流展剤、ベンゾイン等の各種発泡防止剤、さらには、硬化促進剤、ワックス、カップリング剤、酸化防止剤、磁性粉、各種金属粉等の各種添加剤および各種機能性材料を適宜添加することができる。
【0019】
粉体塗料を製造するには、例えば、上記の材料から構成される粉体塗料組成物をミキサーまたはブレンダー等を用いて乾式混合した後、ニーダーにより溶融混練して冷却する。次に、機械式または気流式の粉砕機を用いて粉砕した後、分級することにより粉体塗料の粒子を得ることができる。また、このような方法の他には、例えば、スプレードライ法または重合法等を挙げることができる。
【0020】
・皮膜形成媒体
皮膜形成媒体は、振動により粉体を打撃して粘着層に付着あるいは埋め込む作用をなすものであり、鉄、炭素鋼、合金鋼、銅および銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金、その他の各種金属、合金からなるもの、あるいは、Al2O3、SiO2、TiO2、ZrO2 、SiC等のセラミックスからなるもの、さらには、ガラス、硬質プラスチックス等からなるもの等が用いられる。また、十分な打撃力を粉体に与えることができるのであれば、硬質のゴムを用いてもよい。皮膜形成媒体の材質およびサイズは、被塗装物の形状およびサイズ、粉体塗料の材質等に応じて適宜選択される。さらに、複数種類の材質およびサイズを混合して用いることもでき、また、表面処理、表面皮膜を施したものを用いることもできる。皮膜形成媒体の形状は、球状、楕円形、立方体、三角柱、円柱、円錐、三角錐、四角錐、菱面体等、各種形状のものを用いることができ、さらには不定形であってもよく、これらを単独種類あるいは複数種類混合して用いることができる。
【0021】
さて、上記のように容器Cが加振されると、容器C内の被塗装物Wの表面の粘着層に粉体塗料が付着し、この付着した粉体塗料は、振動する皮膜形成媒体に打撃されて粘着層に対し圧接あるいは埋め込まれ、粘着層上に強固に付着して粉体付着層を形成する。さらに振動が続いて粉体が皮膜形成媒体に繰り返し打撃されると、粘着剤が粉体付着層の表面に押し出され、その押し出された粘着剤に、さらに粉体塗料が付着する。このような皮膜形成媒体の打撃作用により、粘着層への粉体塗料の多層的な付着が徐々に進行し、固体粒子は、多層化する粉体付着層内に埋め込まれる。そして、被塗装物Wの表面の粉体付着層が皮膜形成媒体に打撃されても粘着剤が表面に押し出されなくなった時点で、実質的な粉体皮膜の形成が完了する。このようにして形成された粉体皮膜は、粉体塗料が多層かつ高密度に充填された状態となり、その付着状態は強固で被塗装物Wから剥離するおそれがない。また、粘着層の厚さが均一に確保されているので、粉体皮膜の厚さも均一となる。
【0022】
本発明の皮膜形成方法を実施する塗装装置は、上記加振塗装装置に限定されず、例えば、容器としては円筒状容器、箱形容器、螺旋管状容器等、種々の容器を用いることができる。また、被塗装物、皮膜形成媒体および粉体塗料を振動させる手段としては、容器を振動させる代わりに、容器内に収容した振動体を振動させることでも可能である。さらに、皮膜形成のために与える外力としては、振動の他に、回転、落下等を採用してもよい。回転の場合には、回転容器や、内側に撹拌羽を有する容器等が用いられる。また、外力として落下を採用する場合には、Vブレンダー、タンブラー等が用いられる。
【0023】
なお、本発明で言う「粉体皮膜」とは、前述したように、粉体塗料を用いた一般的な塗膜の他、研磨用途、滑り止めあるいは滑り性向上、光反射あるいは光反射防止、電気絶縁等、被塗装物の表面に様々な機能を付与する目的で形成される皮膜を指しており、一般的な塗膜以外の例を次に列挙し、本発明の広範囲な有用性を示す。
(a)被塗装物に研削・研磨・研掃機能を付与する。この場合、被塗装物はヤスリとして供される。
用いる粉体の例…アトマイズケルメット粉、青銅粉、ソジウムモンモリロナイト粉、ジルコン砂粉、アルミナ粉、炭化珪素粉、セリウム粉、ガラス粉等。
(b)被塗装物に滑り止め機能を付与する。
用いる粉体の例…アトマイズケルメット粉、青銅粉、ソジウムモンモリロナイト粉、ジルコン砂粉、アルミナ粉、炭化珪素粉、セリウム粉、ガラス粉等。
(c)被塗装物に滑り性(減摩機能)を付与する。
用いる粉体の例…グラファイト、あるいはポリテトラフルオロエチレン、フルオロエチレン−プロピレン共重合体樹脂等の樹脂粉等。
(d)被塗装物に光反射機能を付与する。この場合、被塗装物は反射標識、反射シート、反射クロス等として供される。
用いる粉体の例…ガラス粉等。
(e)被塗装物に光反射防止機能を付与する。
用いる粉体の例…シリカ粉、酸化チタン粉等。
(f)被塗装物に帯電性を付与する。
用いる粉体の例…ナイロン、ポリエチレン、メタクリル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、フルオロエチレン−プロピレン共重合体樹脂等の樹脂粉等。
(g)被塗装物に導電性や非帯電性を付与する。
用いる粉体の例…アルミニウム粉、亜鉛粉、銅粉、金粉、銀粉、ニッケル粉、鉄粉、タングステン粉、カーボンブラック粉等。
(h)被塗装物に電気絶縁性を付与する。
用いる粉体の例…温石綿粉、炭化珪素粉等。
(i)被塗装物に発熱性を付与する。
用いる粉体の例…モリブデン粉、タンタル粉等。
(j)被塗装物に耐食耐熱性を付与する。
用いる粉体の例…ニオブ粉、タンタル粉、カオリナイト粉、カオリン粉、ハロサイト粉、陶石粉、蝋石粉、セリサイト粉、アロフェン粉、シジコン砂粉、アルミナ粉、ガラス粉等。
【0024】
【実施例】
次に、本発明に基づく実施例および本発明に対する比較例により、本発明の効果をより明らかにする。
−粘着剤の製造−
[粘着剤1](固形分中の固体粒子の含有量:32.5重量%)
・結着剤…液状エポキシ樹脂 10.0g
(東都化成社製、商品名:YD−128)
・硬化剤…イミダゾール 0.4g
(四国化成社製、商品名:C11Z)
・固体粒子…シリカ 5.0g
体積平均粒子径:2.3μm
粒子径5〜20μmの粒子の割合:7.4重量%
粒子径5〜10μmの粒子の割合:7.4重量%
(龍森社製、商品名:スリスタライトVX−SR)
・希釈剤…アセトン 490.0g
これら材料を十分混合し、さらに超音波洗浄機により固体粒子を5分間分散させて粘着剤1を得た。
【0025】
[粘着剤2](固形分中の固体粒子の含有量:66.2重量%)
・結着剤…液状エポキシ樹脂 20.0g
(東都化成社製、商品名:YDF−170)
・硬化剤…イミダゾール 0.4g
(四国化成社製、商品名:C11Z)
・固体粒子…水酸化アルミニウム 40.0g
体積平均粒子径:10.2μm
粒子径5〜20μmの粒子の割合:74.0重量%
粒子径5〜10μmの粒子の割合:30.2重量%
(住友化学工業社製、商品名:CL−310)
・希釈剤…アセトン 480.0g
これら材料を十分混合し、さらに超音波洗浄機により固体粒子を5分間分散させて粘着剤2を得た。
【0026】
[粘着剤3](固形分中の固体粒子の含有量:50.0重量%)
・結着剤…液状ポリエステルポリオール 6.0g
(日本ポリウレタン工業社製、商品名:ニッポラン4271)
・硬化剤…ブロックドイソシアネート 4.0g
(日本ポリウレタン工業社製、商品名:コロネート2507)
・固体粒子…シリコーン樹脂微粒子 10.0g
体積平均粒子径:12.0μm
粒子径5〜20μmの粒子の割合:97.5重量%
粒子径5〜10μmの粒子の割合:31.0重量%
(東芝シリコーン社製、商品名:トスパール3120)
・希釈剤…アセトン 490.0g
これら材料を十分混合し、さらに超音波洗浄機により固体粒子を5分間分散させて粘着剤3を得た。
【0027】
[粘着剤4](固形分中の固体粒子の含有量:60.0重量%)
・結着剤…液状ポリエステルポリオール 6.0g
(日本ポリウレタン工業社製、商品名:ニッポラン4271)
・硬化剤…ブロックドイソシアネート 4.0g
(日本ポリウレタン工業社製、商品名:コロネート2507)
・固体粒子…マイカ粒子 15.0g
体積平均粒子径:22.5μm
粒子径5〜20μmの粒子の割合:37.2重量%
粒子径5〜10μmの粒子の割合:17.0重量%
(トピー工業社製、商品名:PDM−6−80)
・希釈剤…アセトン 490.0g
これら材料を十分混合し、さらに超音波洗浄機により固体粒子を5分間分散させて粘着剤4を得た。
【0028】
[比較用粘着剤1]
上記粘着剤1の固体粒子を除いたものを比較用粘着剤1とした。
[比較用粘着剤2]
上記粘着剤3の固体粒子を除いたものを比較用粘着剤2とした。
【0029】
−粘着剤の塗布−
(1)上記粘着剤1〜4および比較用粘着剤1、2を、それぞれ2リットルのビーカー内に注ぎ入れ、スターラーを用いて撹拌状態とする。
(2)被塗装物として、ワッシャ(外径17mm、内径8mm、厚さ2mm)を用いた。直径10cmの半球状のステンレス製籠容器内に被塗装物を20個投入し、これら被塗装物を、籠容器ごと各ビーカー内の粘着剤中に10秒間浸漬した。
(3)籠容器をビーカーから取り出し、十分に粘着剤の液滴を振り切った後、籠容器を揺らしながらドライヤの温風を被塗装物に吹き付け、粘着剤中の希釈剤を揮発させた。これにより、被塗装物の表面に粘着剤による粘着層を形成した。
【0030】
−評価−
上記のようにして被塗装物表面に粘着層を形成した後に、粘着剤1〜4および比較用粘着剤1、2ごとに被塗装物どうしの付着状況を調べ、互いに付着した被塗装物の個数を数えた。その結果は、次の通りであった。
粘着剤1… 0個
粘着剤2… 0個
粘着剤3… 0個
粘着剤4… 0個
比較用粘着剤1…12個
比較用粘着剤2…10個
【0031】
このように、粘着剤1〜4が塗布された被塗装物にあっては、被塗装物どうしの付着は皆無であり、これに対し、固体粒子を含まない比較用粘着剤1、2が塗布されると、被塗装物どうしの付着が多く生じ、本発明の効果が明瞭に確かめられた。
【0032】
次に、粘着剤1、2が塗布された被塗装物には体積平均粒子径が15μmの熱硬化性エポキシ粉体塗料を用い、また、粘着剤3、4が塗布された被塗装物には体積平均粒子径が15μmの熱硬化性ポリエステル粉体塗料を用い、本発明の皮膜形成方法を適用して粉体皮膜を形成した。この後、各被塗装物を180℃で20分間加熱処理して最終的に成膜したところ、いずれも均一かつ平滑な粉体皮膜を得ることができた。
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、多数の被塗装物の表面に粘着層を一括して形成した際にも被塗装物どうしの付着が防止され、その結果、生産効率の大幅な向上ならびに粉体皮膜の高品質化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る固体粒子の作用を表す概念図である。
【図2】 本発明の一実施形態に基づく粉体皮膜形成方法を実施するに好適な加振塗装装置の正面断面図である。
【符号の説明】
1…固体粒子、2…粘着層、W…被塗装物。
Claims (3)
- 粉体皮膜形成用粘着剤を被塗装物の表面に塗布して粘着層を形成し、次いで、この粘着層に、皮膜形成媒体を介して粉体を付着させもしくは埋め込んで粉体皮膜を形成する粉体皮膜形成方法であって、
前記粉体皮膜形成用粘着剤は、互いに近接する被塗装物の粘着層の間を離間させ得るスペーサ機能を有する固体粒子が粘着剤中に分散されてなり、
該固体粒子は、前記粉体皮膜を形成する工程で粉体皮膜に埋め込まれることを特徴とする粉体皮膜形成方法。 - 前記固体粒子は、5〜20μmの粒子径を有する粒子を含有し、かつ体積平均粒子径が2〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の粉体皮膜形成方法。
- 前記固体粒子を、当該粘着剤中の固体分の5〜70重量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の粉体皮膜形成方法。
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