JP4169581B2 - 難燃性人工皮革 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、柔軟な風合いと優れた難燃性能をもち、ダイオキシンの発生源となるハロゲン化合物を含まない人工皮革を提供し、様々な用途に利用可能なシート部材としての人工皮革を提供する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル繊維など極細合成繊維からなる人工皮革は表面品位の豪華さ、ソフトで膨らみのある風合いの良さ、取り扱いの容易さ、各種堅牢度の良さが買われ、衣料、家庭用家具、車両用シートに市場拡大しているものの合成繊維の弱点である自己消火性の乏しさから難燃性が要求される用途への進出には制限があった。
【0003】
従来、合成繊維の難燃化には塩素や臭素を主体としたハロゲン化合物やアンチモン化合物を含有させる方法で難燃性能を付与する方法が一般的であったが、これら化合物自体の毒性だけでなく、焼却処分時のダイオキシン発生などの危険性が指摘されており、使用が制限される傾向にある。
スエード調人工皮革の難燃加工技術としても特許文献1(特公平3−80914号公報)、特許文献2(特開平5−302273号公報)に見られるように難燃剤をバックコートして行う方法が開示されている。主に、車両用シートや飛行機用シートとしての開発技術であるが、製品風合いが粗硬化し、高級感に乏しい出来栄えになる。また伸びが固定される為、複雑な形をしたシート形状への追随ができなくなる。
【0004】
良好な難燃性能を有し、且つ有害ガス発生のない有機リン系難燃剤を染色後の仕上げ工程で含浸付与する方法もあり、難燃剤としてのリン系化合物は一般に水溶性のものが多く、繊維との親和性が乏しい為、水滴付着によっても簡単に脱落し、難燃性能を喪失してしまう。しかも、難燃性能を発揮させるためには多量に付着させる必要があり、表面のベタツキ感が出るだけでなく、染料のブリードアウトを誘発させる傾向があり、染色堅牢度が低下しやすくなる。或る一定の用途に対して有効な加工方法もあり、特許文献3(特開2002−38374号公報)のようにCDカーテンなどに用いられる人工皮革についての技術が開示されているが、この方法を用いて合成繊維を使用した人工皮革をJIS−D−1201自消性と同時に液滴落下を防ぐためには特許文献3に記載の難燃剤を40%以上付与しなくてはならなくなり、人工皮革の表面はベタツキ、風合いの悪いものになってしまう。
【0005】
特許文献4(特開平7−18584号公報)ではポリウレタンに難燃剤を混合させる方法が開示されているが、この方法ではポリウレタンの樹脂としての性能低下は否めず、特に厳しい耐光性能が要求される車両用シートでは耐えられるレベルではない。一般的にはポリウレタンに難燃剤などの添加物を入れる方法では、難燃性能と樹脂性能の両立は困難である。
リン含有量の多いホスファゼン化合物を染色同浴で吸じんさせる技術が特許文献5(特開2002−105871号公報)で開示されている。この技術の最大の難点は染色機内汚染で連続多量バッチ下では染色機壁が汚れてしまう。汚れ欠点が多発したり簡単な化学洗浄では除去できず、染色機の分解掃除で物理的に付着物を除去せざるを得ないばかりか、排水時の環境負荷も大きい状況になり工業生産には耐えられない技術である。
【0006】
更に、特許文献6(特開2002−115183号公報)ではリン共重合ポリエステルからなる極細繊維不織布一体物に水酸化アルミニウムを含有した高分子弾性体を充填してなる人工皮革が開示されている。一般的に共重合化されたポリエステルは耐光性や耐磨耗強度に関してレギュラーポリエステルに劣り、車両用シートとしての展開においては極めて大きなハンディとなる。また、前記文献の技術のように湿式の溶剤系ポリウレタンを用いてバインドする場合、耐磨耗性や破断強度の観点から25%以上の含浸量が必要である。本来ポリウレタンは燃えやすい為、含浸量が多ければ多いほど難燃性に対しては不利になる。その為、弱点となる難燃性の低下を補う為に水酸化アルミニウムを用いるものであるが、ポリウレタン樹脂としては脆くなる傾向にあり望ましいものではない。
先に開示された従来技術においては、ソフトな風合いを有し、しかも車両用シートのような厳しい耐光性や耐磨耗性の要求にも耐えるスエード調難燃人工皮革を工業的安定に提供しうる技術は未だ開発されていない。
【0007】
【特許文献1】
特公平3−80914号公報
【特許文献2】
特開平5−302273号公報
【特許文献3】
特開2002−38374号公報
【特許文献4】
特開平7−18584号公報
【特許文献5】
特開2002−105871号公報
【特許文献6】
特開2002−115183号公報
【特許文献7】
特許第3047951号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、塩素や臭素を主体としたハロゲン化合物やアンチモン化合物を含まないリン系難燃素材を用いて、耐磨耗性能、耐光堅牢度を保持したスエード調人工皮革を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明のスエード調難燃人工皮革は、前記課題を解決する為、以下の構成からなるものである。
即ち、表層が0.5dtex以下の極細熱可塑性合成繊維からなり、内在する織編物もしくは裏層、もしくはその両方にリン共重合熱可塑性合成繊維を用いたスエード調人工皮革であって、これを構成する成分の内のリン原子の含有率が0.10wt%〜0.32wt%であること、更に、ポリウレタン樹脂が水性ポリウレタン樹脂からなり含有率が5〜20wt%であることからなる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を更に詳細に説明する。
本発明のスエード調難燃人工皮革は、表層の繊維繊度が0.5dtex以下の極細熱可塑性合成繊維からなるものである。
難燃熱可塑性合成繊維としては、難燃剤を共重合させたポリマーを用いるもの、難燃剤を熱可塑性ポリマーに練りこんだもの、難燃剤を熱可塑性合成繊維に吸尽させたものなどが挙げられるが、本発明ではリン系難燃剤を熱可塑性ポリマー分子に共重合させたポリマーを用いる必要がある。難燃剤を熱可塑性ポリマーに練りこんだものは、染色後のアルカリ還元洗浄の際の難燃剤の溶出や糸物性の劣化などの欠点がある。難燃剤を熱可塑性合成繊維に吸尽させたものは、この目的に使用される難燃剤が染料と同じような振る舞いをするため、濃色に染色しようとする際に難燃剤か染料のいずれか、もしくはその両方の付着量が不十分になる。本発明においては、この様な課題を解決するために、リン系難燃剤を熱可塑性ポリマー分子に共重合させたポリマーを用いることにより、このような問題はおこらず、染色条件にかかわらず難燃性能を発揮できる。
【0011】
熱可塑性合成繊維としては、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維などが挙げられるが、耐光性、染色堅牢度などの点からポリエステル系繊維を用いるのが好適である。
ポリエステル系繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどが挙げられるが汎用性の高いポリエチレンテレフタレートを用いるのが一般的である。
リン共重合ポリエステル繊維においては、一般に、通常のポリエステル繊維に比較すると、融点が低くなることや、耐光堅牢度の低下、耐磨耗強度のような繰り返しの屈曲強度に対して耐久性が低下などにより、車両用シートなどの耐久性が要求される分野での応用には制限がある。
【0012】
本発明は、耐久性の要求される用途での実績が十分ある極細熱可塑性繊維を表面層に用いることが特徴である。
極細熱可塑性繊維を用いた人工皮革において、優美なスエード調の表面を創出するには0.5dtex以下の極細繊維を使用することが必要である。より好ましくは0.35dtex以下である。堅牢度や耐久性などから総合的判定をすれば、0.06〜0.2dtexが最も望ましく実用レベルである。0.06dtex未満の繊度になると濃色化の際の染料濃度が非常に大きくなり、染色堅牢度が低下しやすい傾向にあるといえる。
極細熱可塑性繊維は、直接紡糸法によって得ることが出来る。均一な不織布シートを製造するためには直接紡糸法から製造した極細繊維を直接用いることが望ましい。しかし、アルカリ易溶共重合ポリエステルやポリスチレンなどを用いた海島繊維や割繊繊維などから極細繊維を取り出して用いることも可能であるし、海島繊維を極細繊維とせずに不織布シートを作成し、その後に抽出して不織布シートを作成しても良い。
【0013】
本発明の不織布シートを得る最も好ましい態様は前記の直接紡糸法によって得られた極細繊維をカットして短繊維化し、これを水中において分散させる抄造法によって直接シート化し、このシートから水流交絡法によって絡合体を作る技術を適用するものである。この方法によれば内層の中間層に織編物(スクリム)を挿入して不織布シートに必要な機械強度を持たすことが可能であり、不織布の弱点であった寸法安定性を保持させることも可能である。更に、本方法によれば表裏の組成を変えた一体シートを容易に得ることが出来る。つまり、噴射水流の水圧調整によってスクリムとの一体化交絡の程度をコントロールすることが可能であるが、中間層に位置するスクリムの効果で表裏繊維の貫通移動が抑制されるため、裏層の繊維が表層に、表層の繊維が裏層に貫通するようなことは起こらず、表層、スクリム、裏層各層の機能を明確に発現させることが出来るのである。
【0014】
ニードルパンチによる交絡法ではこのようなコントロールは不可能であるため、表裏繊維が渾然となってしまう。繊度を含めた性能の異なる繊維が他の層に貫通してしまった場合、特に裏層繊維が表層に貫通する場合、表層の極細繊維層にそれより太い繊維が貫通することで極細繊維層の緻密さが失われ粗い感じになってしまったり、これを染色した場合には染着性の違いでブツブツしたゴマ塩調の表面になったりして表面品位が大きく損なわれてしまうのである。
本発明に使用するスクリムは通常の熱可塑性繊維又はリン共重合熱可塑性合成繊維からなり、好ましくは通常のレギュラーポリエステルまたはリン共重合ポリエステル繊維からなる。これらは要求される難燃性能において使い分けが可能である。スクリム組織は編物構造でも織物構造でも構わない。編物の場合、シングルニットで22〜28ゲージで編み上げたものが好適である。
【0015】
織物の場合には、より高い寸法安定性と強度が実現できる。加工糸で無撚あるいは400〜1200T/mの有撚使いが好適に使われる。織物においては、経糸及び/又は緯糸に、リン共重合ポリエステル繊維を用いることも本発明の範疇に属する。繊度は55〜220dtexの範囲で必要とする強度により選定することになる。車両用やエアプレーンシートなどのように破断強度や引裂強度で高いスペックを必要とする用途ならば800T/m程度の有撚糸を用い、110dtex/48f以上の繊度の原糸が必要である。
裏層に用いるリン共重合熱可塑性合成繊維の繊度は、2.0dtex以下であることが望ましい。2.0dtexを超えた太い原糸を用いると水流交絡時の静圧が上がらず均一で平滑なシートにならない。車両用やエアプレーンシートなどのように引裂強度が要求される分野では0.5〜1.1dtexのものが平滑性を満たして引裂強度が保持される。0.5dtex未満の原糸を用いると平滑性が向上し一層高級感が増してくるが、本発明の効果を何ら損ねるものではないものの、引裂強度が要求される分野では強度が不十分になることがある。
【0016】
コスト的には裏面にリン共重合ポリエステル繊維を用いてスクリムはレギュラーポリエステルを用いるのが望ましいが、より高い難燃性能を求める際には基布全体におけるリン共重合ポリエステル繊維の割合を高めるためにリン共重合ポリエステル繊維を用いたスクリムを用いることができる。この際、経糸のみ、緯糸のみ、もしくは数本ごとにリン共重合ポリエステルを打ち込むといった設計にしても良い。また、裏面にレギュラーポリエステルを用いたい場合には、スクリムのみをリン共重合ポリエステル繊維を用いるといった方法でも難燃化が可能である。
【0017】
リン共重合ポリエステル繊維の難燃効果は、主としてリン化合物による脱水・炭化作用と熱溶融性によるものであるといえる。脱水・炭化作用はリン系難燃剤の消火効果として一般的な作用である。この作用は溶融したポリマー中に含まれるリン酸がポリマーをすばやく脱水・炭化することにより不燃性の炭化層を形成し、これによってポリマーを炎から遮断することにより消火する作用である。
一方の熱溶融性とは、リン共重合ポリエステル繊維が通常のポリエステル繊維より速やかに溶ける性質に由来するもので、炎が近づいたときにリン共重合ポリエステルは通常のポリエステルよりすばやく溶融して炎から離れることができる。この性質だけではドロップした液滴が他のものに火を移すことになるので、前記の効果との複合であることが重要である。
【0018】
リン化合物による消火効果としては他にも燃焼時に揮発するリン化合物による炎中のラジカル補足効果による消火効果があるが、この効果は炎中でおこる反応のため実験中に観察することが難しい。本発明においては主としてリン化合物による脱水・炭化作用と熱溶融性が燃焼時に観察される。したがって、本発明の効果はこの2つの作用の相乗効果である。すなわち、炎が基布に近づいた際に速やかに溶融して火源から遠ざり、次に溶融したポリマーを脱水・炭化し、不燃性の炭化層で覆う。このようなプロセスで燃焼を速やかに抑制するのが本発明による難燃効果である。
【0019】
リン共重合熱可塑性合成繊維におけるリン原子の含有率は0.1wt%〜2.0wt%のものが望ましい。特に好ましくは0.5wt%〜1.5wt%である。2.0wt%以上のリン原子濃度を含む糸は、糸の機械的性質が悪くなるだけでなく、紡糸の際に糸切れが多くなり工業生産性が低下しやすい。また、0.1wt%以下では基布全体に対するリン原子濃度が低くなりすぎ、難燃性能を発現することが難しくなる。一般的には0.5wt%程度の含有率で生産されることが多く、今回使用したリン共重合ポリエステル繊維である、スーパーエクスター(帝人(株)社製;商品名)もリン原子濃度は0.5wt%のものである。
【0020】
本発明の構成になるリン系共重合ポリエステル繊維である難燃成分の不織布内に占める割合は、リン原子の含有率で0.10wt%〜0.32wt%となるのが望ましい。特に好ましくは0.20wt%〜0.30wt%である。0.10wt%未満ではJIS−D−1201又はFMVSS−302における燃焼性評価で自消性が得られない。0.32wt%を超えて設計するには、難燃糸のリン原子含有率を上げるか、表層の目付を低くして難燃糸の比率を大きくするかの2つの方法があるが、前者では前述のように紡糸の生産性や糸の機械的性質に限界があり、後者では生じる表層の目付が低くなることによる耐磨耗性能の低下が問題となる。耐磨耗性能を維持するために表層の目付量をアップすると不織布全体の目付量が大きく、厚みが厚くなり、平滑で均一な表面性の創出が困難となる。
【0021】
本発明の構成で更に重要な要素は、含浸するポリウレタン樹脂が水性ポリウレタン樹脂であることである。本発明の不織布は中間層に織編物のスクリムを用いているため、不織布単体のときよりも破断強度や引裂強度などの物理的強度が大きく向上している。そのためにポリウレタン樹脂に求める性能はバインダーとしての機能で、充実した風合いや耐磨耗性の向上が主な役割である。水性ポリウレタンは溶剤系ポリウレタンに対して含有量あたりのバインド力が強く、少ない含浸量で要求を満たすことができる。この要素はポリウレタンを含浸してなる人工皮革にとっては極めて重要な要素でポリウレタン樹脂の含浸量が多くなれば燃焼しやすくなり難燃性能は厳しくなる。しかも、溶剤系のポリウレタン樹脂は湿式凝固の際、ミクロ発泡するものが多く空気を抱き込み燃えやすくなるとも考えられる。溶剤系ポリウレタンで含浸量が20%以下では耐磨耗性の保持は困難であるばかりか、風合いもクタクタでファブリックなものになってしまう。スクリムを使わない一枚物の不織布では強度の保持が出来ず最低でも30%以上の含浸量が必要になるのである。本発明の不織布であれば水性ポリウレタンの含浸量は5〜20wt%で、より好ましくは7〜14wt%で充実したソフト風合いと耐久性を兼ね備えることが出来る。20wt%を超えると、風合いが硬く特徴がなくなる。5wt%未満では充実した風合いと耐磨耗を始めとした耐久性が出せない。
【0022】
水性ポリウレタンの凝固法は本発明者らが先に提案した特許文献7(特許第3047951号公報)に開示しているような中性塩による感熱ゲル化による凝固法が望ましい。
本発明の水性ポリウレタン成分の組成としては以下のものが例示される。
ポリオール成分としてポリエチレンアジペートグリコールなどのポリエステルジオール類、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルグリコール類、ポリカーボネートジオール類が挙げられる。イソシアネート成分としては、ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。鎖伸張剤としては、エチレングリコール等のグリコール類、エチレンジアミン、4,4−ジアミノジフェニルメタン等のジアミン類などを挙げることが出来る。
【0023】
本発明は上記各種成分を適宜組み合わして原料ポリウレタンとすることが出来る。特に、難燃性能を出しやすい成分としてはポリカーボネートジオールからなる無黄変ポリウレタンが望ましい。ポリウレタンエマルジョン中に、或いはポリマーチェーン内にヒンダードアミンやヒンダードフェノールなどの耐熱酸化防止剤を組み込むことは本発明の効果を損なうものではない。難燃剤を添加することはポリウレタン樹脂性能の低下、特に染色中のポリウレタン脱落に影響しない程度なら問題ない。しかし、一般的には樹脂としての成膜性能が低下することが多く染色中のポリウレタン脱落を加速するなどの弊害が大きく工業的な連続生産には適さないことが多い。本発明の構成からすればこのような行為が発明の効果を大きく左右する要素ではなく、使用しなくても十分効果は発揮出来る。
【0024】
本発明のスエード調の難燃人工皮革原反は、液流染色機で染色し、還元洗浄をして製品化される。ジェットノズルによる起毛の引き出し効果、生地揉布効果による商品力向上と生産性の観点からみれば液流染色法が最も望ましい。前述した通り、染色処理により難燃剤が脱落することはなく染料濃度によって難燃性能が変動するようなこともない。又、表面層が通常のポリエステル繊維であるから発色の再現性もよく本発明の目的が十分達成される。還元洗浄は二酸化チオ尿素と水酸化ナトリウム又はハイドロサルファイトナトリウムと炭酸ナトリウムのような一般的なアルカリ還元処方が適用出来る。洗濯、ドライクリーニング、湿摩擦堅牢度など各種堅牢度が低下しないように適切な濃度設定で還元処理する必要がある。一般的には染料濃度に合わせて二酸化チオ尿素と水酸化ナトリウムをそれぞれ1〜8g/lの濃度で用いて還元洗浄される。
【0025】
染色加工後、本発明のスエード調難燃人工皮革に更に有機リン系難燃剤を付与することは難燃性能のうち、燃焼物の液滴落下を阻止する性能(ノンドロップ性)を付与する上で有効な手段となる。この場合、本発明の構成であれば前記従来技術の項で説明した有機リン系難燃剤の使用量に対しては1/4以下の使用量という極薄い濃度での使用でも十分な効果が発現する為、風合いのベタツキ感や染料ブリードによる染色堅牢度の悪化が起こらない。
有機リン系難燃剤としては、ポリリン酸カルバメート、リン酸グアニジンホルマリン縮合物、リン酸グアニジンが好適である。染色後の乾燥品に上記有機リン系難燃剤の希釈溶液を含浸し、ピックアップ率50〜100%で絞り、80〜120℃の温度で乾燥して仕上げる。乾燥にはネットドライヤーやピンテンターが適宜使用できる。
【0026】
【実施例】
以下に実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中の測定値は下記の方法によって測定した。
(1)燃焼性:JIS−D−1021。
この試験方法で自消性を有する場合を難燃なレベルとした。自消性をもつ基布同士を比較する参考として、バーナー離炎後の残炎時間を記した。
(2)耐磨耗性:JIS−L−1018(E法:マーチンデール法)。
この試験で50000回磨耗後に中間層のスクリムが露出しないことを合格とした。
(3)耐光性:トヨタ自動車技術標準−キセノンランプC法(グレースケール変退色)。
この方法はスガ試験機社製SC−700FT型試験機(放射照度150W/m2 、波長300〜400nm)を用いて3.8時間の照射時間(73±3℃)と1.0時間の暗時間(38±3℃)を38サイクル繰り返し、変退色用グレースケールで変退色を判定する。この試験方法で3級以上を合格とした。
(4)リン定量:染色した人工皮革を水洗、乾燥して秤量し、これを硫酸−硝酸法で分解後、ICP発光分析装置にて定量し、重量%で表示した。
【0027】
【実施例1〜実施例11、比較例1〜4】
人工皮革用短繊維として、表層用には直接紡糸法によって得られた単繊維繊度0.2dtexの極細ポリエステル繊維を5mmにカットした短繊維を用い、裏層用としては単繊維繊度0.7dtexのリン共重合ポリエステル繊維を10mmにカットしたものと単繊維繊度0.7dtexのレギュラーポリエステル繊維を10mmにカットしたものを0:10、4:6、6:4、8:2、10:0に混合したものを用いた。これらの短繊維を水中に分散させ、抄造法によって表層用は140g/m2 、裏層用は60g/m2 のシートを製造した。表層用シートと裏層用シートの間に166dtex/48f、目付100g/m2 のポリエステル織物を挿入し、3層構造となったシートを高速水流の噴射により絡合させ、3次元交絡不織布を得た。このときに用いた織物は経糸緯糸ともレギュラーポリエステル、経糸はレギュラーポリエステルで緯糸はリン共重合ポリエステル(帝人社製:スーパーエクスター)、経糸緯糸ともリン共重合ポリエステル(同)の3種の織物を使用した。
【0028】
この布帛のオモテ面を#400のサンドペーパーでバフ加工した。つづいて、感熱剤として3wt%の硫酸ナトリウムを含むポリカーボネート系ポリウレタンエマルジョン(日華化学社製;エバファノールAPC−55:商品名)水溶液に含浸し、該ポリウレタン固形分が7%になるようにマングルローラーで絞りとり、ピンテンター乾燥機にて140℃で3分間、加熱乾燥した。こうして得られた人工皮革原反を液流染色機にて130℃染色し、人工皮革を得た。染料は青色分散染料(BlueFBL;住友化学製)を用いた。これらの人工皮革は優美な表面性としなやかな風合いに優れていた。
これらの人工皮革の燃焼性をJIS−D−1201試験機で難燃性を評価した結果、およびマーチンデール耐磨耗性試験の結果、キセノンランプC法による耐光性試験の結果を表1に示す。
【0029】
燃焼性試験の結果、リン原子濃度が0.1wt%以上である実施例1〜11の人工皮革においては炎は標線前に自消し、JIS−D−1201自消性と判定された。0.1%以下のリン原子濃度である比較例1〜4の人工皮革は燃焼速度の低下など、難燃化の効果は見られるものの自消性となるまでの結果は得られなかった。
全ての人工皮革において、マーチンデール磨耗試験においても50000回磨耗後も中間層のスクリムが露出することはなく、耐光性試験の結果も3級と良好で、シート部材として用いるにふさわしい耐磨耗性能と耐光性能をもつことがわかった。
【0030】
【比較例5〜比較例10】
表層用として単繊維繊度0.2dtexの極細リン共重合ポリエステル繊維を5mmにカットした短繊維を100%、もしくは実施例1で使用した極細ポリエステル繊維を50%混合して使用し、裏層用としては単繊維繊度0.7dtexのリン共重合ポリエステル繊維を10mmにカットしたものと単繊維繊度0.7dtexのレギュラーポリエステル繊維を10mmにカットしたものを0:10、5:5、10:0に混合したものを用いた。抄造シートは実施例1〜11及び比較例1〜4と同様にして作成し、交絡以降の工程も同様に作成した。
これら比較例5〜10の人工皮革の燃焼性、耐磨耗性、耐光性試験の結果を表2に示す。これらの人工皮革の中には標線前に自消するものもあったが、比較例5〜10全ての人工皮革で耐光試験結果が1級となった。さらにマーチンデール耐磨耗性試験を行うと5万回磨耗以前に中間層のスクリムが露出した。これらの人工皮革は自消性はあるもののシート部材としての耐磨耗性、耐光性に劣り、実用に供せられるレベルではなかった。
【0031】
【実施例12〜19、比較例11〜20】
表層用には直接紡糸法によって得られた単繊維繊度0.2dtexの極細ポリエステル繊維を5mmにカットした短繊維を用い、裏層用としては単繊維繊度0.7dtexのリン共重合ポリエステル繊維を10mmにカットしたものを用いた。これらを実施例1〜11及び比較例1〜4と同様に抄造し、中間層として経糸はレギュラーポリエステルで緯糸はリン共重合ポリエステル(帝人:スーパーエクスター)からなる166dtex/48f、目付100g/m2 のポリエステル織物を使用した。
【0032】
この基布を実施例1と同様にバフ加工後、ポリウレタンとしてポリカーボネート系ポリウレタン水性エマルジョン(日華化学:エバファノールAPC−55)、ポリエーテル系ポリウレタン水性エマルジョン(日華化学:エバファノールAP−12A)、ポリエーテル系ポリウレタンDMF溶液(大日本インキ:クリスボン)を用いて実施例1と同様にポリウレタン含浸加工した。この際、ポリウレタン濃度が3、5、7、14、20、25wt%になるように調整した。これらの基布の燃焼性、耐磨耗性、耐光性試験の結果を表3に示す。これらの基布のうち、ポリカーボネート系ポリウレタン水性エマルジョンを使用し含浸量が20wt%以下のもの(比較例11、実施例12〜15)、ポリエーテル系ポリウレタン水性エマルジョンを使用し含浸量が20wt%以下のもの(比較例13、実施例16〜19)、ポリエーテル系ポリウレタンDMF溶液を使用し含浸量が5wt%以下のもの(比較例16〜17)は標線前に自消したが、耐磨耗性が低かった。比較例11、13、15、16においては自消性となったものの、風合や耐磨耗性に問題があり実用に供せられるレベルとならなかった。
表3の実施例12〜15、実施例16〜19においてはマーチンデール磨耗試験においても50000回磨耗後も中間層のスクリムが露出することはなく、耐光性試験の結果も3級と良好で、シート部材として用いるにふさわしい耐磨耗性能と耐光性能をもつことがわかった。
【0033】
【実施例20〜33】
表層用には直接紡糸法によって得られた単繊維繊度0.2dtexの極細ポリエステル繊維を5mmにカットした短繊維、裏層用としては単繊維繊度0.7dtexのリン共重合ポリエステル繊維を10mmにカットしたもの、中間層として経糸はレギュラーポリエステルで緯糸はリン共重合ポリエステル(帝人:スーパーエクスター)からなる166dtex/48f、目付100g/m2 のポリエステル織物を用いて実施例1同様に作成した基布を染色後、リン酸グアニジンを主体とし、リンをリン原子濃度で10wt%含む有機リン系難燃剤(日華化学製;ニッカファイノンP−205:商品名)と、ポリリン酸カルバメートを主体とし、リンをリン原子濃度で10wt%含む有機リン系難燃剤(日華化学製;ニッカファイノンP−72:商品名)を0.5〜20%含む溶液に浸漬し、マングルローラーにて100%の絞り率で絞り、110℃に設定したピンテンター乾燥機にて3分間乾燥した。この基布の燃焼性試験の結果を表4に示す。実施例20〜33の全ての人工皮革は自消性であり、かつ残炎時間は0秒であった。さらに難燃剤濃度10wt%omf以上(リン原子濃度1%omf以上)を用いた実施例24〜26、31〜33では液滴落下を防ぐこともできた。難燃剤濃度20wt%omfで加工した基布では風合が若干硬くなったが、実用上で問題となるレベルではなかった。
【0034】
【表1】
Figure 0004169581
【0035】
【表2】
Figure 0004169581
【0036】
【表3】
Figure 0004169581
【0037】
【表4】
Figure 0004169581
【0038】
【発明の効果】
本発明により柔軟な風合いと優れた難燃性能を有し、ダイオキシンの発生源となるハロゲン化合物を含まない人工皮革を提供することができる。この人工皮革はその特徴的構造により、耐磨耗性や耐光性を損なうことなく難燃化されている。また、バッキング法を用いた基布より目付が小さく設計できるため、軽量化の要求されるカーシート、エアプレーンシートに好適である。さらに、その風合のしなやかさからは家具用シートにも好適である。その優れた難燃性能により、公共施設、映画館、劇場などの多くの人が集まる故に、厳しい難燃性が要求される施設のシート部材などにも用いることができる。

Claims (3)

  1. 熱可塑性合成繊維と水性ポリウレタン樹脂を用い、表層、中間層及び裏層の3層構造からなる人工皮革において、該中間層として織編物を用い、該表層が0.5dtex以下の極細熱可塑性合成繊維からなり、該中間層及び/又は該裏層がリン共重合熱可塑性合成繊維から構成され、該人工皮革に含まれるリンの含有率が0.10wt%〜0.32wt%であり、該水性ポリウレタン樹脂の含有率が5〜20wt%であることを特徴とする難燃性人工皮革。
  2. 熱可塑性合成繊維がポリエステル系繊維であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性人工皮革。
  3. 難燃性人工皮革が、染色後に有機リン系難燃剤を付与することを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性人工皮革。
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