JP2004019010A - 難燃性皮革様シート基体およびその製造方法 - Google Patents

難燃性皮革様シート基体およびその製造方法 Download PDF

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延藤 芳樹
Yoshiaki Yasuda
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Abstract

【課題】ハロゲンフリーで難燃性に優れ、インテリア分野、特に乗物用座席等の表面強度を必要とする用途に適し、ソフトな風合いを有する難燃性皮革様シート基体を提供する。
【解決手段】0.5デシテックス以下で、かつ実質的にリン原子を含まないポリエステル樹脂で構成される極細繊維(a)からなる絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体(C)からなる層(A)、0.5デシテックス以下で、かつ極細繊維を構成するポリエステル樹脂中のリン原子濃度が6,000〜50,000ppmである極細繊維(b)からなる絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなる層(B)が質量比率(A)/(B)=10/90〜50/50の範囲で積層されており、さらに高分子弾性体中に金属水酸化物が含有されていることを特徴とする難燃性皮革様シート基体。
【選択図】なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハロゲンフリーで難燃性に優れ、特に耐磨耗性や剥離強度等の表面強度が要求される用途であるインテリア分野、特に乗物用座席等の難燃性を必要とする用途に好適な、極細繊維および高分子弾性体からなる、ソフトな風合いを有する難燃性皮革様シート基体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
人工皮革は、インテリア、衣料、靴、鞄、手袋等様々な用途に利用されてきたが、最近、インテリア分野、特に鉄道車両用座席や自動車用座席、航空機用座席等の上張材に用いられる分野においては、安全上、環境上の観点から、ハロゲンフリーの難燃性能を付与することが極めて重要テーマとなっている。
【0003】
人工皮革は、銀付調とスエード調の2つに大別されるが、そのベースとなる基体層は、極細繊維不織布の絡合空間に高分子弾性体を有する構造となっている。このような人工皮革基体層に難燃性を付与する方法としては、基体層自体、基体層表面を起毛して染色したスエード調シート、あるいは基体層上に乾式法や湿式法によって銀面を設けた銀付調シートに、難燃剤を含浸させることによって付与する方法(以下、後加工法)、難燃性を有する織編物をベースとするシートを起毛面あるいは銀面と反対側の面に接着する方法、難燃性微粒子を繊維形成熱可塑性ポリマー、または繊維絡合不織布に含浸させる高分子弾性体中に練り込む方法などが一般に行われている。
【0004】
上記方法のうち、後加工法の場合には、皮革様シートに難燃剤含有液を含浸し、乾燥する方法が一般的であるが、このような方法の場合には、繊維が極細繊維束で難燃剤が微粒子である場合、極細繊維束の内部まで難燃剤が侵入することはほとんどなく、難燃剤の大部分は繊維束の外部や高分子弾性体の表面に存在することとなる。このような状態の場合には、外観が難燃剤により汚された形となって悪化するとともに、難燃剤が容易に脱落して、耐久性ある難燃効果は得られない。また難燃剤の脱落を防ぐために、バインダー樹脂中に難燃剤を練り込み、このバインダー樹脂液をシートに含浸する方法もあるが、このような方法を用いても、極細繊維束の内部までは浸透せず、また難燃剤は樹脂に覆われるため難燃能が大きく低下し、さらにシートにも樹脂が充填されるため、充分な難燃性を示すほどの難燃剤を使用するとシートの有する柔軟性が損なわれ、かつ良好な立毛状態が得られない等の欠点が生じていた。
また、難燃性を有するシートを起毛面あるいは銀面の反対側のいわゆる裏面に張り合せる方法の場合には、一般にリン系やハロゲン系化合物等の難燃剤を織布あるいは編物に付与したシート状物を人工皮革や、合成皮革の裏面に張り合せる方法が用いられるが、特に、不織布をベースとする人工皮革の場合、織布、編物をベースとする難燃シートを張り合せることによって、不織布特有の高級な風合や感性が損なわれることになる。
【0005】
難燃剤を熱可塑性ポリマーに練り込む方法の場合には、一般に用いられている具体的方法としては、リン系またはハロゲン系化合物を有効成分とする難燃剤を、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、ポリスチレン等の成形材料に練り込み、難燃効果を付与する方法である。一方、ポリアミド系ポリマー、ポリエステル系ポリマー等への該難燃剤の練り込みは、溶融紡糸温度における難燃剤とポリマーの安定性の点から紡糸温度の設定、ポリマーおよび難燃剤の選択等に制約があり、生産性に問題があった。
特に、上記の難燃剤を繊維に練り込む方法の場合には、難燃性微粒子の粒径と繊維断面積の関係から、繊維物性の低下が著しく、実際にスエードに応用した場合には耐磨耗強度が極端に低下し、銀付に加工した場合にも剥離強度が低下するため、実用に耐え得るものは得られない。さらに、ハロゲン系化合物を有効成分とする難燃剤についても、優秀な難燃性能を付与できる反面、上記の問題と同様に物性低下の問題を抱えている上、燃焼時に人体に有害な物質を発生するという問題がある。したがって、含ハロゲン化合物の使用は、乗物の座席シート等に用いられる用途には好ましいとはいえない。
また、高分子弾性体に難燃剤を練りこむ方法の場合には、繊維に難燃手法を施さず、高分子弾性体のみに難燃剤を処方すると、一般に充分な難燃性が得られず、逆に充分な難燃性を達成できるほど難燃剤を付与すると風合が硬くなり、人工皮革として使用可能な範囲を外れる。
したがって、充分な難燃性と人工皮革として使用可能な風合を達成するためには、極細繊維と高分子弾性体ともに、難燃性を付与することが必要である。
【0006】
これらの問題をクリアし、極細繊維に難燃性を付与せしめる方法として、有機リン成分共重合樹脂を用いる方法がある。有機リン成分共重合樹脂としては、セルロース、ポリエステル、フェノール等への共重合樹脂が知られているが、例えば特開昭51−82392号公報、特開昭55−7888号公報、特公昭55−41610号公報に記載されているような公知の有機リン成分共重合ポリエステルを用いることができる。しかしながら、これらの発明は、難燃性ポリエステル自体に関するものであり、これらを極細繊維に加工したものに弾性重合体を付与した場合の難燃性については言及していない。
【0007】
さらに、特開2001−164423号公報に記載されているように、リン化合物を共重合させたポリエステルを用いて難燃繊維を得る手法もあるが、極細繊維に加工して人工皮革に応用する記載はない。実際に応用しても、充分な難燃性が得られる量のリン化合物を共重合した繊維を厚み方向に均一組成で用いた場合には、共重合ポリエステルの繊維強度は、非共重合ポリエステルの繊維強度と比較して低いため、ソファー、カーシート等の表面強度を必要とする用途に用いると、糸切れ等の問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ソフトな風合いを有し、かつハロゲンフリーの、耐久性に優れた難燃性皮革様シート基体であって、特にソファー、カーシート等、表面強度の必要な用途に好適な皮革様シート基体を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
環境への影響の少なく、かつ難燃性を有し、特に、本来のポリエステル樹脂が有する強度物性を損なわず、インテリア用途に充分な表面強度を有する皮革様シートを得るにあたり、難燃剤とシート基体の構成について鋭意検討した結果、表面強度を重視した層と、難燃性を重視した層を積層させることによって、両目的が達成できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、 下記の層(A)および層(B)
(A)0.5デシテックス以下で、かつ実質的にリン原子を含まないポリエステル樹脂で構成される極細繊維(a)からなる絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体(C)からなる層、
(B)0.5デシテックス以下で、かつ極細繊維を構成するポリエステル樹脂中のリン原子濃度が6,000〜50,000ppmである極細繊維(b)からなる絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなる層、
が、質量比率(A)/(B)=10/90〜50/50の範囲で積層されており、さらに高分子弾性体中に金属水酸化物が含有されていることを特徴とする難燃性皮革様シート基体である。
【0010】
また、極細繊維(a)と極細繊維(b)の総質量に対するリン原子の平均濃度が3,000ppm以上の難燃性皮革様シート基体である
さらには、金属水酸化物含有量が高分子弾性体(C)100質量部に対して10〜200質量部の難燃性皮革様シート基体ある。
そして上記難燃性皮革様シート基体が用いられてなるスエード調人工皮革、あるいは上記難燃性皮革様シート基体が用いられてなる銀付調人工皮革であって上記人工皮革が上張材として用いられている乗物用座席である。
【0011】
また、難燃性皮革様シート基体を製造するに際し、下記▲1▼〜▲3▼の工程
▲1▼それぞれ実質的にリン原子を含まないポリエステルを極細繊維成分とする極細繊維発生型繊維(a’)をウェブ(Wa’)とし、有機リン成分共重合ポリエステルを極細繊維成分とする極細繊維発生型繊維(b’)をウェブ(Wb’)とした後、ウェブ(Wa’)とウェブ(Wb’)を積層し、絡合一体化して不織布を製造する工程、
▲2▼該不織布に金属水酸化物を含有する高分子弾性体(C)を付与する工程、
▲3▼極細繊維発生型繊維(a’)および(b’)を0.5デシテックス以下の極細繊維(a)および(b)に変換する工程、
を▲1▼▲2▼▲3▼の順序または▲1▼▲3▼▲2▼の順序で行うことを特徴とする難燃性皮革様シート基体の製造方法である。
【0012】
また、 難燃性皮革様シート基体を製造するに際し、下記▲1▼’〜▲4▼’の工程
▲1▼’実質的にリン原子を含まないポリエステルを極細繊維成分とする極細繊維発生型繊維(a’)を用いて不織布を製造し、有機リン成分共重合ポリエステルを極細繊維成分とする極細繊維発生型繊維(b’)を用いて不織布を製造する工程、
▲2▼’それぞれの不織布に金属水酸化物を含有する高分子弾性体(C)を付与する工程、
▲3▼’極細繊維発生型繊維(a’)および(b’)を0.5デシテックス以下の極細繊維(a)および(b)の束に変換する工程、
▲4▼’極細繊維(a)からなる層と極細繊維(b)からなる層を積層する工程、を▲1▼’▲2▼’▲3▼’▲4▼’の順序または▲1▼’▲2▼’▲4▼’▲3▼’の順序で行うことを特徴とする難燃性皮革様シート基体の製造方法である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる0.5デシテックス以下の極細繊維は、従来公知の方法で作られる。例えば、相溶性の小さい少なくとも2種類のポリマーからなり、断面において少なくとも1種類のポリマーが島成分、そしてそれ以外の少なくとも1種類のポリマーが海成分となっている極細繊維発生型繊維から少なくとも1成分(通常は海成分ポリマー)を溶解又は分解除去することにより得る方法や、相溶性のない2種以上のポリマーが接合した断面形状を有する張り合わせ型の極細繊維発生型繊維を機械的または化学的な処理により2成分の界面で剥離させることにより得る方法がある。さらにメルトブローン法などのように直接極細繊維を製造する方法もある。得られる極細繊維の束を構成する極細繊維の単繊維繊度を0.5デシテックス以下、特に0.2デシテックス以下とするためには、張り合わせ型の極細繊維発生型繊維を用いるよりは繊維断面が海島構造となっている極細繊維発生型繊維を用いる方が工程上有利である。
【0014】
本発明を構成する繊維の平均単繊維繊度は0.5デシテックス以下であることがソフトな風合いならびに天然皮革様の充実感を得る上で必須であり、0.2デシテックス以下が好ましい。すなわち、0.5デシテックスを越えると、得られる皮革様シート基体の風合いならびに充実感が劣る傾向にあり、特にスエード調人工皮革とした場合には、毛羽感やライティング効果が劣る傾向にある。
【0015】
該極細繊維発生型繊維を構成する島成分ポリマーとしては、本発明ではポリエステルが用いられ、有機リン成分を実質的に共重合させていないポリエステル樹脂(以下、未変性ポリエステル)、または共重合させたポリエステル樹脂(リン共重合ポリエステル)が用いられる。ここで、リン共重合ポリエステルを得るための製法は特に限定されないが、例えばジカルボン酸ジエステルとジオールとのエステル交換法によってエステル交換反応の際に有機リン化合物を添加する方法や、重縮合反応前または反応の初期段階において有機リン化合物を添加する方法がある。また、ジカルボン酸とジオールとのエステル化法による場合にも任意のエステル化反応段階において有機リン化合物を添加する方法を採ることができる。反応に用いる有機リン化合物としては、前述の公報中に挙げられているような、オキサホスホラン、ホスフィン酸誘導体、ホスファフェナントレン誘導体等の公知のリン原子含有化合物を使用できる。また、母体となるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等をはじめとする公知のポリエステルおよびそれらの変性ポリマー、混合ポリマー、共重合ポリマー等を用いることができる。
【0016】
このリン共重合ポリエステルを用いた場合、リン成分が共重合すなわち共有結合によりポリマーと結合しているため、紡糸時およびその後の人工皮革製造の諸工程において難燃剤の脱落等のトラブルが生じない。また、昨今の環境事情より忌避されている含ハロゲン化合物の使用を回避できる。この際、該有機リン成分共重合ポリエステルは、十分に強度等の繊維物性を発揮する樹脂であってかつ紡糸条件下で海成分ポリマーより溶融粘度が大きく、かつ表面張力が大きい樹脂が好ましく、溶融紡糸可能な樹脂であるのが好ましい。例えば、オリフィス口径:2mmφ、荷重:325gで測定した紡糸温度におけるメルトフローレートが5〜50g/10分、繊維強度が1.0〜5.0g/デシテックスである樹脂が好ましい。また、有機リン成分共重合ポリエステル中のリン原子濃度は6,000ppm〜50,000ppmであることが必要である。6,000ppm未満では、リン成分非共重合ポリエステルからなる層と積層して本発明の皮革様シート基体とした場合、満足できる難燃性能が得られない。逆に50,000ppmを超えると、ポリエステル樹脂自体が脆化して、紡糸性が悪化したり、得られた極細繊維の強度、伸度が低下する。
【0017】
また、本発明の皮革様シート基体を構成する2種類の層(A)および層(B)の質量比率は、(A)/(B)=10/90〜50/50であることが難燃性、シート基体の表面物性、強伸度物性の観点で必須である。層(A)の質量比率が10未満の場合には、比較的強度物性の弱いリン共重合ポリエステルからなる層の影響で、皮革様シート基体自体の強伸度物性が低下する傾向があり、特に極細繊維(a)、(b)からなる不織布層を積層させ絡合一体化させた後に高分子弾性体(C)を含浸させる製造法により本発明の皮革様シートを得た場合には、比較的強度物性の弱い繊維が表面層に混ざるために、表面強度も低下する傾向がある。逆に層(A)の質量比率が50を超えた場合には、シート基体の難燃性が低下する傾向がある。
さらに、極細繊維(a)、(b)の総質量に対する平均リン原子濃度は、3,000ppm以上であることが好ましい。3,000ppm未満の場合には、極細繊維自体の難燃性が不充分となり、高分子弾性体に難燃剤を処方しても、皮革様シート基体としての風合と、難燃性のバランスを取りにくくなる傾向がある。
【0018】
ここで、本発明に用いられる該極細繊維は、カーボンブラック等により原着されていてもよい。原着する場合、カーボンブラックの使用量は通常、0.5〜8%程度である。もちろん、カーボンブラックの添加量が増えるにつれて、繊維自体の黒度が増し、より少ない染料で、より濃色が得られる利点があるものの、海島構造繊維の島形状が不安定となって紡糸性が低下し、繊維強度も低下する傾向がある。また、カーボンブラックは、それ自体易燃性であるため、添加することによって極細繊維の難燃性を低下させる傾向もあることから、紡糸性、難燃性の観点で、より好ましくは0.5〜3%である。そしてこの場合には、極細繊維(a)、(b)の総質量に対するリン原子の平均濃度を増加させることが好ましい。例えばカーボンブラック使用量が極細繊維を構成する樹脂成分100質量部に対し1質量部の場合には6000ppm以上、2質量部の場合には、8000ppm以上であることが難燃性効果が安定的に得られる点で好ましい。
【0019】
一方、海成分ポリマーとしては、島成分ポリマーと溶剤または分解剤に対する溶解性又は分解性を異にし(島成分ポリマーよりも溶解性又は分解性が大きい)、島成分ポリマーとの相溶性の小さい樹脂であり、例えばポリエチレン、ポリスチレン、エチレンープロピレン共重合体などのポリマーから選ばれた少なくとも1種のポリマーである。例えばポリスチレンやポリエチレンはトルエンやトリクレンにより容易に抽出可能である。そしてこの海島構造繊維から海成分ポリマーを抽出又は分解除去することにより海島構造繊維を極細繊維束に変換することができる。なお本発明において海島構造繊維は、繊維横断面において、海成分ポリマーが島成分ポリマーにより複数個に分割されていてもよく、例えば海成分ポリマーと島成分ポリマーとがそれぞれ層となり、多層張り合わせ状態となっているような繊維であってもよい。なお島成分ポリマーは繊維長さ方向に切れ目なく連なっていても、あるいは不連続の状態であってもよい。また海島構造繊維の繊維横断面における島の個数は特に規定されないが、極細繊維束への変換後に単繊維繊度が0.5デシテックス以下になるように設定する必要がある。本発明に用いられる海島構造繊維の製造法としては各種溶融紡糸法(チップブレンド方式、ニードルパイプ法式、張り合せ方式等)が挙げられる。また本発明に用いられる海島構造繊維を構成する海成分ポリマーと島成分ポリマーとの比率は質量比で8:2〜2:8の範囲が好ましい。
本発明において、海島構造繊維から海成分ポリマーを除去した後に形成される極細繊維束を構成する極細繊維の太さは、外観や風合の観点から、0.5デシテックス以下であることが前記したように必須であり、特に0.001〜0.2デシテックスの範囲が好ましい。なお、繊維の島成分ポリマーには、上記したリン共重合ポリエステルの他に、先述したカーボンブラックや、各種安定剤等が添加されていてもよい。
【0020】
本発明においては、高分子弾性体中にも難燃剤を包含せしめる。
高分子弾性体としては、例えば、平均分子量500〜3000のポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等のジオールあるいはポリエステルポリエーテルジオール等の複合ジオール等から選ばれた少なくとも1種類のポリマージオールと、4、4’ージフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの芳香族系、脂環族系、脂肪族系のジイソシアネートなどから選ばれた少なくとも1種類のジイソシアネートと、エチレングリコール、イソホロンジアミン等の2個以上の活性水素原子を有する少なくとも1種類の低分子化合物とを所定のモル比で反応させて得たポリウレタンおよびその変性物が挙げられ、その他に、ポリエステルエラストマー、スチレン−イソプレンブロック共重合体の水素添加物等の高分子弾性体およびアクリル系等の樹脂なども挙げられる。またこれらを混合した重合体組成物でもよい。しかし、柔軟性、弾性回復性、多孔質高分子弾性体形成性、耐久性等より上記のポリウレタンが好ましく用いられる。
【0021】
高分子弾性体に分散せしめる難燃剤としては、一般に樹脂に対して使用されるような公知の難燃剤、例えば、リン系、窒素系の有機難燃剤、金属水酸化物や赤リン、シリコン系の無機化合物等が考えられるが、高分子弾性体および極細繊維の劣化を促進しないこと、また、本発明における処理工程中においては凝固浴や極細繊維発生工程での処理液により実質的に溶解・分解しないことが求められる。これらの条件に加えて、高分子弾性体中に分散させ、前述の有機リン成分共重合ポリエステルよりなる極細繊維と組み合わせて皮革様シート基体とし、燃焼させる際の効果発現温度の観点から鋭意研究を行なった結果、金属水酸化物であることが重要である。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましく用いられ、水酸化アルミニウムがより好ましいことが判明した。ここで、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物は高分子弾性体100質量部に対して10〜200質量部が好ましく、より好ましくは30〜100質量部である。本発明を構成する繊維を原着するカーボンブラックの使用量が多くなるにつれて、使用する金属水酸化物の量も増やすほうが、難燃性をより安定化させる観点で好ましい。また、本発明の効果を損なわない限りにおいて、金属水酸化物以外の難燃剤を添加することも可能である。
【0022】
金属水酸化物が10質量部未満では皮革様シート基体とした際に充分な難燃性が得られず、200質量部を越えると高分子弾性体が金属水酸化物を充分に保持することが困難となって、コンパウンド自体の脆化や、物性低下が起こり、また得られる皮革様シート基体の風合が硬くなる傾向がある。用いられる金属水酸化物の粒子径については、公知の範囲であって、特に限定されるものではないが、含浸液への分散安定性・難燃効果を両立する点から、粒子径が平均2μm以下、特に1μm以下の金属水酸化物微粒子が好ましい。また、この金属水酸化物粒子には、必要に応じて耐湿・耐熱・耐水・耐酸性等の性能向上のための各種処理を施したものを使用できる。
【0023】
また、得られる皮革様シート基体の濃色感を向上する目的で、高分子弾性体にもカーボンブラックを添加してもよい。特に、黒等の濃色に加工する場合には、むしろ添加したほうが好ましい。この場合、使用するカーボンブラックの添加量は、高分子弾性体100質量部に対して0〜7質量部であり、好ましくは、0〜5質量部である。この様に、カーボンブラックを高分子弾性体に添加した場合には、金属水酸化物は、上述した10〜200質量部の範囲内で使用量を増やすほうが、難燃性をより安定化させる観点で好ましく、例えばカーボンブラックを3質量部使用した場合、金属水酸化物の添加量は25質量部以上が好ましく、40質量部以上がより好ましい。
【0024】
次に、本発明の製造方法について説明するが、本発明は、大きく分けて2通りの方法にて製造することが可能である。そして製造法1の場合には、ウェブ(Wa’)が主体的になる層とウェブ(Wb’)が主体的になる層をそれぞれ層(A)と層(B)と定義し、製造方法2の場合には、0.5デシテックス以下の極細繊維(a)からなる基体層と0.5デシテックス以下の極細繊維(b)からなる基体層をそれぞれ層(A)と層(B)と定義する。
<製造法1>
下記▲1▼〜▲3▼の工程
▲1▼それぞれ実質的にリン原子を含まないポリエステルを極細繊維成分とする極細繊維発生型繊維(a’)をウェブ(Wa’)とし、有機リン成分共重合ポリエステルを極細繊維成分とする極細繊維発生型繊維(b’)をウェブ(Wb’)とした後、ウェブ(Wa’)とウェブ(Wb’)を積層し、絡合一体化して不織布を製造する工程、
▲2▼該不織布に金属水酸化物を含有する高分子弾性体(C)を付与する工程、
▲3▼極細繊維発生型繊維(a’)および(b’)を0.5デシテックス以下の極細繊維(a)および(b)に変換する工程、
を▲1▼▲2▼▲3▼の順序または▲1▼▲3▼▲2▼の順序で行うことを特徴とする難燃性皮革様シート基体の製造方法。
【0025】
<製造法2>
下記▲1▼’〜▲4▼’の工程
▲1▼’実質的にリン原子を含まないポリエステルを極細繊維成分とする極細繊維発生型繊維(a’)を用いて不織布を製造し、有機リン成分共重合ポリエステルを極細繊維成分とする極細繊維発生型繊維(b’)を用いて不織布を製造する工程、
▲2▼’それぞれの不織布に金属水酸化物を含有する高分子弾性体(C)を付与する工程、
▲3▼’極細繊維発生型繊維(a’)および(b’)を0.5デシテックス以下の極細繊維(a)および(b)の束に変換する工程、
▲4▼’極細繊維(a)からなる層と極細繊維(b)からなる層を積層する工程、を▲1▼’▲2▼’▲3▼’▲4▼’の順序または▲1▼’▲2▼’▲4▼’▲3▼’の順序で行うことを特徴とする難燃性皮革様シート基体の製造方法。
【0026】
先に製造法1について、説明する。
<極細繊維発生型繊維の製造>
まず、前述したような公知の紡糸方法により島成分ポリマーに、実質的にリン原子を含まないポリエステルおよびリン共重合ポリエステルを用いた極細繊維発生型繊維をそれぞれ(a’)および(b’)として紡糸する。カーボンブラックにより原着する場合には、紡糸原料である樹脂ペレットにドライブレンドしても良いし、原料樹脂あるいは紡糸性を損なわない範囲の他樹脂をベースとするマスターバッチを作製し、それをブレンドして紡糸してもよい。その後、延伸、捲縮、カット等の工程を通り、ステープルを製造する。繊維ステープルとしては、繊度1.0〜10.0デシテックスが良好なカード通過性を確保する点で好ましく、さらに好ましくは3.0〜6.0デシテックスである。次に該繊維ステープルをカードで解繊し、ウェッバーを通してウェッブを形成し、得られたウェッブを、所望の重さ及び厚さに重ね合わせる。その際、本発明の製造法1においては、実質的にリン原子を含まないポリエステルからなる極細繊維発生型繊維ウェッブ(Wa’)と、リン共重合ポリエステルからなる極細繊維発生型繊維ウェッブ(Wb’)をそれぞれ作製し、それら同士を所望の重さおよび厚さに重ね合わせる。重ね合わせは方法としては、(Wa’)を皮革様シート基体上層とし(Wb’)を皮革様シート基体下層となるように2層に積層するのが一般的であるが、(Wa’)、(Wb’)、(Wa’)または、(Wb’)、(Wa’)、(Wb’)となるように3層のサンドイッチ構造として、積層したウェブを絡合処理後、高分子弾性体溶液を含浸後、および極細繊維発生型繊維の極細繊維化後のいずれかのタイミングにおいてスライスし、2枚取りしてもよい。
【0027】
積層する比率としては、0.5デシテックス以下で、かつ実質的にリン原子を含まないポリエステル樹脂で構成される極細繊維(a)からなる絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体(C)からなる層(A)と0.5デシテックス以下で、かつ極細繊維を構成する有機リン成分共重合ポリエステル樹脂中のリン原子濃度が6,000〜50,000ppmである極細繊維(b)からなる絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなる層(B)の質量比が、先述の理由によって(A)/(B)=10/90〜50/50であることが必須であり、好ましくは(A)/(B)=15/85〜30/70である。(A)が10未満の場合には、絡合不織布化する際に、リン共重合ポリエステルからなる繊維が表面付近に出てきやすくなり、特にスエード調人工皮革に応用した場合、表面物性の低下につながる。逆に50を越えた場合には、難燃性レベルが低下する傾向がある。
【0028】
次いで、公知の方法、例えばニードルパンチ方法や高圧水流絡合処理方法等で絡合処理を行って不織布とするか、あるいはこのステープルを重ね合わせた編織布に水流等を使用して3次元絡合させて複合不織布とする。なお、該ウェブ(Wa’)およびウェッブ(Wb’)は予め絡合処理を施しておいてからそれぞれを積層してさらに絡合処理する方法も場合により行うことは可能である。
該不織布は、皮革様シートとした際の厚さ等を考慮して目的に応じた形態にすることが好ましいが、目付けとしては200〜1500g/m、厚みとしては1〜10mmの範囲が工程中での取り扱いの容易さの観点から好ましい。なお、必要に応じて上記方法により製造された不織布に、ポリビニルアルコール系の糊剤を付与したり或いは構成繊維の表面を溶融したりして不織布構成繊維間を接着し、不織布を仮固定する処理を行ってもよい。これらの処理を行うことにより、その後に行う高分子弾性体溶液の含浸等の工程で不織布が張力等により構造破壊することを防ぐことができ、特に構成繊維の表面を溶融面だしした場合には、得られる皮革様シート基体の面平滑性を向上することができる。
【0029】
<高分子弾性体の付与>
不織布に高分子弾性体を付与する際には、高分子弾性体を含有する液状組成物を該不織布に含浸付与し、然る後に該不織布を凝固浴に浸漬して高分子弾性体を凝固させ、多孔質状の高分子弾性体を形成させる方法、あるいは高分子弾性体エマルジョン液に該不織布を浸漬し、エマルジョンを加熱ゲル化させる方法等が好ましく用いられる。
前述した難燃剤すなわち金属水酸化物は、高分子弾性体を含有する液状組成物を用いる場合にも、高分子弾性体エマルジョンを用いる場合にも、予め分散させておくことが好ましい。このような高分子弾性体と難燃剤を含む液状物質には、金属水酸化物の分散安定性を向上する目的で、必要に応じて凝固調節剤、分散剤等の添加剤が配合されていてもよく、また、本発明の趣旨を損なわない範囲で、樹脂の劣化防止剤、着色剤等を添加してもよい。
【0030】
<極細繊維化>
極細繊維発生型繊維は、島成分ポリマーあるいは該繊維を構成する1成分のみ対して非溶剤であって、かつ先に高分子弾性体が含有されている場合には高分子弾性体に対しても非溶剤であり、さらに海成分ポリマーあるいは該繊維を構成する他成分に対して溶剤または分解剤である薬剤を用いて処理することで極細繊維束に変換する。この工程において、先に高分子弾性体を含有させた場合にも、該溶剤または分解剤は高分子弾性体に対して非溶剤または非分解剤であるため、金属水酸化物粒子はそのほとんどが該弾性体中に容易に脱落しないような状態で残る。
【0031】
海成分ポリマー除去後のシートに占める高分子弾性体の比率は固形分として質量比で10%以上が好ましく、30〜50%の範囲がより好ましい。高分子弾性体比率が10%未満では緻密な多孔質高分子弾性体が形成されにくく、極細繊維発生後に金属水酸化物粒子の脱落が生じやすくなる傾向があり、また得られる皮革様シート基体の力学強度が低下する傾向がある。
【0032】
以上のようにして得られる本発明の難燃性皮革様シート基体は、高分子弾性体の含浸工程と、極細繊維束化の工程が、この順であっても良いし、逆であっても構わない。
【0033】
次に製造法2について説明する。
<極細繊維発生型繊維の製造>
製造法2においても、極細繊維発生型繊維の紡糸法に関しては製造法1と同様の方法が用いられる。しかしながら製造法2においては、極細繊維発生型繊維(a’)からなるウェブ(Wa)のみを用いたものと極細繊維発生型繊維(b’)からなるウェッブ(Wb)のみを用いたものとを、それぞれ次工程へおくり、所望の重さおよび厚さに重ね合わせたウェッブとする。そして、製造法1と同様にして3次元絡合し、それぞれウェブ(Wa)のみを用いた不織布とウェッブ(Wb)のみを用いた不織布を作成する。なお必要に応じて行う処理についても、製造法1と同様に行うことができる。
【0034】
<高分子弾性体の付与>
高分子弾性体の付与は、製造法1と全く同様の方法でそれぞれの不織布に含浸付与する。
【0035】
<極細繊維化>
極細繊維化についても、製造法1と全く同様の方法にて行う。
また、高分子弾性体の付与工程と極細繊維束化の工程の順序についても、製造法1と同様、この順序でもよく、また逆の順序であっても良い。
【0036】
<積層>
本発明の製造法2においては、極細繊維発生型繊維の製造、高分子弾性の付与、極細繊維化の同じ工程順を通り、リン原子を実質的に含まない極細繊維(a)からなる層(A)とリン共重合ポリエステルからなる極細繊維(b)からなる層(B)の2種類を、接着樹脂を用いて接着することによって積層することを特徴とする。
【0037】
接着樹脂については、公知のものを使用することができ、特に限定されないが、高分子弾性体を構成するポリマーと同種のポリマが好んで用いられ、例えば、不織布に付与される高分子弾性体としてポリウレタンが用いられる場合には、接着樹脂としてもポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。そして接着樹脂中にも金属水酸化物を含有するのが好ましく、不織布内部に含有付与された高分子弾性体に対する金属水酸化物の含有量の範囲と同じであることがより好ましい。
接着に用いられる樹脂の塗布方法も、特に限定されるものではないが、該樹脂を溶剤に溶解して塗布する方法や、ホットメルト法等がある。該接着用樹脂の塗布形態に関しては、得られる皮革様シート基体の風合、柔軟性の観点で接着樹脂が不連続状に存在していることが好ましく、グラビアロールを用いた方法が好適に用いられる。この場合、50〜200メッシュロールで塗布するのが好ましく、接着樹脂の塗布量は固形分で1〜30g/m程度である。しかしながら、接着剤全面に連続的に塗布する場合でも、張り合せる非多孔質フィルムの膜厚を薄くするなどの方法により風合、柔軟性を調整することが可能である。
【0038】
この様に、極細繊維と高分子弾性体からなる2種類の層(A)および層(B)を接着する場合、それぞれの質量比が前述した理由によって(A)/(B)=10/90〜50/50となるように設計することが必須であり、好ましくは(A)/(B)=15/85〜30/70の範囲である。
極細繊維と高分子弾性体からなる2種類の層(A)および層(B)を接着する方法は、工程的には接着工程が増えるため、工程の煩雑化、コストアップにはつながるものの、層(A)および層(B)を構成する繊維のリン共重合量を変更するのみならず、極細繊維の繊度や、含有される高分子弾性体中の金属水酸化物の含有量も各層で変更することもできる。
【0039】
例えば、より外観を向上させるために表面として層(A)の極細繊維の繊度をより細くして、裏面として層(B)の極細繊維をより太くすることにより強伸度物性を確保する。
また、より表面強度を向上させるために表面層(A)を構成する高分子弾性体中の金属水酸化物添加量を少なめにし、逆に裏面層(B)への添加量を多めにすることによって皮革様シート基体としての難燃性を確保することも可能である。
【0040】
本発明の難燃性皮革様シート基体は、公知の方法を用いて、その表面を毛羽立てることによりスエード調人工皮革を得ることができる。本発明の趣旨からして、実質的にリン原子を含まないポリエステルの極細繊維からなる層の表面を毛羽立たせ、スエード調人工皮革とする。また、公知の方法を用いて毛羽感の短いヌバックライクな外観や、スエードと銀付の中間的な外観を有する人工皮革も得ることができる。得られたスエード調人工皮革は通常、公知の方法により染色する。
【0041】
また、本発明の難燃性皮革様シート基体は、その表面に樹脂の皮膜を形成する(以下、造面)ことによって銀付調人工皮革を得ることができる。この場合にも、造面する側の面は、得られる銀付調人工皮革の剥離強力の点から、実質的にリン原子を含まない未変性ポリエステルからなる層(A)とすることが好ましい。造面方法は、公知の湿式法、乾式法の他に、溶剤等で基体表面を溶解した後に、エンボス等で表面を平滑化あるいは、表面に凹凸を付与する方法もあり、特に限定されるものではない。
造面に用いられる樹脂は、該皮革様シート基体を構成する高分子弾性体樹脂と同種類の樹脂であることが好ましく、例えば高分子弾性体にポリウレタン樹脂を用いた場合には、ポリウレタン樹脂が用いられる。
造面する樹脂層の厚さについては、特に限定されるものではないが、通常10〜300ミクロン程度に設計される場合が多い。特に、造面樹脂層が厚い、例えば50ミクロンを超える場合には、公知の難燃剤を添加することが好ましく、リン系、金属水酸化物系等から選ばれる1種類以上の難燃剤を添加することが非ハロゲンの難燃化手法で統一されることから好ましい。この場合の添加量は、特に限定されるものではないが、造面の工程安定性や、造面皮膜の強度の観点で、造面樹脂100質量部に対し、難燃剤は0〜100質量部の範囲で用いられる場合が多い。
【0042】
このようにして得られたスエード調、あるいは銀付調人工皮革は、乗物用座席、特に自動車用座席、鉄道車両用座席、飛行機用座席、船舶用座席等の難燃性が要求される座席の上張材に好適に用いられる。座席の上張材は、裏面に織編物等の補強材を張り合せて用いられる場合があるが、本発明の難燃性皮革様シート基体から得られる人工皮革も同様に、補強材を張り合せることができる。この場合、補強材も難燃化されている方が好ましいことは言うまでもなく、さらに本発明の趣旨からは、非ハロゲン系の難燃化手法により難燃化されている補強材が好ましいが、補強材自体の難燃性の有無、難燃化の手法については、特に限定するものではない。
用途については、もちろん上記用途のみに限定されるものではなく、その他にも、ソファーの上張り材等の一般インテリア用品、衣料、靴、鞄、小物入れ等の雑貨の他、幅広く利用することができる。
【0043】
【実施例】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。また、本発明で言う繊維の太さ及び金属水酸化物の平均粒径に関しては以下の方法により求めた。また、実施例中の難燃性評価は、下記方法に従って測定した。
【0044】
[繊維の太さ]:電子顕微鏡にて500〜2000倍程度の倍率で観察した繊維径実測値から換算した。
[金属水酸化物の平均粒径]:電子顕微鏡観察による実測値により求めた。
[難燃性試験方法]:JIS D1201自動車室内用有機資材の燃焼性試験方法の燃焼試験により、
易燃性:燃焼速度が100mm/minを超えるもの
遅燃性:燃焼速度が100mm/min以下のもの
自消性:標線から50mm以内かつ60sec以内に消火したもの
に区分した。
また実施例中のシート中のリン原子濃度は、ジャーレルアッシュ社製ICP発光分析装置IRIS APにて測定した。
[磨耗強度]:JIS L1096の磨耗強さC法(テーバー形法)において、磨耗輪CS−10、荷重500g、回転数500回転としたときの重量減少量を測定した。また、以下の基準により本発明者の目視による外観評価も行った。
5:変化なし
4:ほとんど変化していない
3:若干磨耗が見られる
2:かなり磨耗が見られる
1:激しく磨耗している
[風合]:染色したサンプルを用い、発明者らが触感で判定した。○:天然皮革並で良好、×:硬い、またはゴムライク
【0045】
紡糸例1〜4
公知のポリエステル重合方法を用い、リン系難燃剤M−Ester(三光(株)製,分子量434,リン含量7wt%)を重合中に添加して、リン原子濃度3,000ppm、8,000ppm、12,000ppmの3種のリン共重合ポリエステルを得た。また、リン系難燃剤を添加せずに重合した未変性ポリエステルも得た。得られたポリエステルを島成分ポリマーに、高流動性低密度ポリエチレンを海成分ポリマーに用いた海島型複合紡糸繊維(海成分ポリマー/島成分ポリマー=35/65,島数50)を溶融紡糸により得て、これを75℃の温水中で2.5倍に延伸し、繊維油剤を付与し、機械捲縮をかけて乾燥後、51mmにカットして5.0デシテックスのステープルとした。
【0046】
【表1】
Figure 2004019010
【0047】
実施例1
紡糸例4、紡糸例2で得られたステープルをクロスラップ法でそれぞれ目付130g/m、520g/mのウェッブを形成した後積層して合計のウェッブ目付を650g/mとし、ついで両面から交互に合わせて約2500P/cmの条件でニードルパンチングした。さらに、90℃の熱水中で収縮後、乾燥巾セットし、加熱された状態でカレンダーロールにてプレスすることで表面の平滑な絡合不織布をつくった。この絡合不織布の目付は760g/m、見かけ密度は、0.48g/cmであった。この絡合不織布に、ポリカーボネート系ポリウレタンを主体とする固型分14%のポリウレタンのジメチルホルムアミド(以下DMFと略すこともある)溶液100部に対して、平均粒径1μmの水酸化アルミニウムをDMF中に40%分散させた液17.5部を添加して調整した含浸液(ポリウレタン/水酸化アルミニウム=100:50)を含浸し、ついでこの含浸させた不織布をDMF/水混合液の中に浸漬して湿式凝固した後、熱トルエン中で海島型複合繊維中の海成分ポリマーを溶出除去して極細繊維を発現させ、難燃性能を持った厚さ1.3mmの皮革様シート基体を得た。
【0048】
極細繊維の平均繊度は0.2デシテックスであった。皮革様シート基体中の繊維の質量とポリウレタンの質量比率は約79:21であった。また得られた皮革様シート基体の繊維断面を顕微鏡にて観察したところ、水酸化アルミニウム粒子が多孔質高分子弾性体の内部に多く存在していることを確認した。
得られた皮革様シート基体の難燃性と、該皮革様シート基体の表面をバフィングしてスエード調人工皮革として、以下の染色条件にて染色したものの難燃性、磨耗強度、風合を評価した結果を表2に示す。
染色条件
染色: ジェット染色機、120℃×40分、
染料: Miketon Polyester Blue FBL 3%owf
【0049】
【表2】
Figure 2004019010
比較例1
紡糸例4、紡糸例1で得られたステープルをクロスラップ法でそれぞれ目付130g/m、520g/mのウェッブを形成した後積層して合計のウェッブ目付を650g/mとした以外は、実施例1と同様にして厚さ1.3mmの皮革様シート基体を得た。
極細繊維の平均繊度は0.2デシテックスであった。皮革様シート基体中の繊維の質量とポリウレタンの質量比率は約79:21であった。また得られた皮革様シート基体の繊維断面を顕微鏡にて観察したところ、水酸化アルミニウム粒子が多孔質高分子弾性体の内部に多く存在していることを確認した。
得られた皮革様シート基体の難燃性と、該皮革様シート基体表面をバフィングしてスエード調人工皮革として、実施例1と同様に染色したものの難燃性、色濃度、風合を評価した結果を表2に示す。
【0050】
比較例2
紡糸例2で得られたステープルのみを用いて目付650g/mのウェッブを形成した以外は、実施例1と同様にして厚さ1.3mmの皮革様シート基体を得た。
極細繊維の平均繊度は0.2デシテックスであった。皮革様シート基体中の繊維の質量とポリウレタンの質量比率は約79:21であった。また得られた皮革様シート基体の繊維断面を顕微鏡にて観察したところ、水酸化アルミニウム粒子が多孔質高分子弾性体の内部に多く存在していることを確認した。
得られた皮革様シート基体の難燃性と、該皮革様シート基体表面をバフィングしてスエード調人工皮革として、実施例1と同様に染色したものの難燃性、色濃度、風合を評価した結果を表2に示す。
【0051】
実施例2
紡糸例4と紡糸例3で得られたステープルを用いて、それぞれ260g/m、390g/mの目付けのウェッブを形成した後に積層して合計のウェッブ目付を650g/mとした以外は、実施例1と同様にして厚さ1.3mmの皮革様シート基体を得た。
極細繊維の平均繊度は0.2デシテックスであった。皮革様シート基体中の繊維の質量とポリウレタンの質量比率は約79:21であった。また得られた皮革様シート基体の繊維断面を顕微鏡にて観察したところ、水酸化アルミニウム粒子が多孔質高分子弾性体の内部に多く存在していることを確認した。
得られた皮革様シート基体の難燃性と、該皮革様シート基体表面をバフィングしてスエード調人工皮革として、染色したものの難燃性、色濃度、風合を評価した結果を表2に示す。
【0052】
比較例3
実施例2と同様の絡合不織布に、ポリカーボネート系ポリウレタンを主体とする固型分14%のポリウレタンのジメチルホルムアミド(DMF)溶液のみを含浸し、ついでこの含浸させた不織布をDMF/水混合液の中に浸漬して湿式凝固した後、熱トルエン中で海島型複合繊維中の海成分ポリマーを溶出除去して極細繊維を発現させ、難燃性能を持った厚さ1.3mmの皮革様シート基体を得た。極細繊維の平均繊度は0.2デシテックスであった。皮革様シート基体中の繊維の質量とポリウレタンの質量比率は約85:15であった。また得られた皮革様シート基体の繊維断面を顕微鏡にて観察したところ、多孔質高分子弾性体の内部には水酸化アルミニウム粒子が存在しないことを確認した。
得られた皮革様シート基体の難燃性と、該皮革様シート基体表面をバフィングしてスエード調人工皮革として、染色したものの難燃性、色濃度、風合を評価した結果を表2に示す。
【0053】
実施例3
紡糸例4で得られたステープルをクロスラップ法で目付650g/mのウェッブを形成し、ついで両面から交互に合わせて約2500P/cmの条件でニードルパンチングした。さらに、90℃の熱水中で収縮後、乾燥巾セットし、加熱された状態でカレンダーロールにてプレスすることで表面の平滑な絡合不織布をつくった。この絡合不織布の目付は770g/m、見かけ密度は、0.49g/cmであった。この絡合不織布に、ポリカーボネート系ポリウレタンを主体とする固型分14%のポリウレタンのジメチルホルムアミド(DMF)溶液100部に対して、平均粒径1μmの水酸化アルミニウムをDMF中に40%分散させた液17.5部を添加して調整した含浸液(ポリウレタン/水酸化アルミニウム=100:50)を含浸し、ついでこの含浸させた不織布をDMF/水混合液の中に浸漬して湿式凝固した後、熱トルエン中で海島型複合繊維中の海成分ポリマーを溶出除去して極細繊維を発現させ、厚さ1.3mmのシート基体を得た。該シート基体を片面から0.35mmの厚さでスライスをした後、スライス面をバフィングして、厚さ0.26mmのシート(A)を得た。
一方、紡糸例2で得られたステープルをクロスラップ法で520g/mのウェッブを形成した以外は、同様の方法で厚さ1.0mmのシート(B)を得た。
【0054】
この様にして得られたシート(B)の片面に、接着剤としてポリウレタン(大日精化(株)製、ハイムレンNPU−5:ポリエーテル系ポリウレタン)をDMFに溶解したものに平均粒径1μmの水酸化アルミニウムを該ポリウレタンの固形分100質量部に対して40質量部添加した接着剤を用いて、グラビア140メッシュロールで点状塗布(塗布量:固形分3g/m)した直後にシート(A)のバフ面を重ね合わせて接着・乾燥を行った。得られた皮革様シート基体を構成するシート(A)とシート(B)の質量比は、目付けからの計算値で20/80となった。
得られた皮革様シート基体の難燃性と、該皮革様シート基体の(A)層からなる面を表面となるようにバフィングしてスエード調人工皮革とし、染色したものの難燃性、色濃度、風合を評価した結果を表2に示す。
【0055】
応用例1(銀付調人工皮革への応用)
ポリカーボネートジオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートから重合して得られたポリウレタンを主体とするポリウレタンに、カーボンブラックを加えて黒色に調色したポリウレタン組成物溶液を離型紙上に塗布、乾燥して厚さ15ミクロンの被膜を得た。そして、その上に、接着層として2液型ポリウレタン、ポリイソシアネート硬化剤、アミン系触媒、溶剤からなる混合液を固形分で20g/m塗布、乾燥し、乾燥直後の粘着性を有する状態のものを、実施例1で得られたスエード調人工皮革の染色物表面に重ね合わせ、プレスして張り合せた。その後、60℃で48時間放置してから離型紙を剥がして銀付人工皮革とした。
得られた銀付人工皮革は、平滑で高級感のある外観と柔軟な風合いを兼ね備えており、さらにFMVSS−302試験により難燃と判定された。
【0056】
応用例2(カーシートへの応用)
実施例1で得られたスエード調人工皮革の染色物、応用例1で得られた銀付調人工皮革を用いて、それぞれ実際にカーシート用の座席を作製したところ、強度等に起因する加工上の問題は発生せず、天然皮革使用時に近い感触・外観ならびにカーシートに必要な難燃性を併せ持つ座席となった。
【0057】
【発明の効果】
本発明のシート基体は、ハロゲンフリーで難燃性に優れ、かつ該難燃性の耐久性にも極めて優れている。本発明の難燃性皮革様シート基体は、皮革様のソフトな風合いを有し、スエード調ならびに銀付調人工皮革の基体層として極めて優れており、自動車用座席、鉄道車両用座席、航空機の座席、ソファーの上張り材等の表面強度を必要とする用途に適している。

Claims (8)

  1. 下記の層(A)および層(B)
    (A)0.5デシテックス以下で、かつ実質的にリン原子を含まないポリエステル樹脂で構成される極細繊維(a)からなる絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体(C)からなる層、
    (B)0.5デシテックス以下で、かつ極細繊維を構成する有機リン成分共重合ポリエステル樹脂中のリン原子濃度が6,000〜50,000ppmである極細繊維(b)からなる絡合不織布とその内部に含有された高分子弾性体からなる層、
    が、質量比率(A)/(B)=10/90〜50/50の範囲で積層されており、さらに高分子弾性体中に金属水酸化物が含有されていることを特徴とする難燃性皮革様シート基体。
  2. 極細繊維(a)と極細繊維(b)の総質量に対するリン原子の平均濃度が3,000ppm以上である請求項1記載の難燃性皮革様シート基体。
  3. 金属水酸化物の含有量が高分子弾性体(C)100質量部に対して10〜200質量部である請求項1または2記載の難燃性皮革様シート基体。
  4. 請求項1〜3いずれかに記載の難燃性皮革様シート基体が用いられてなるスエード調人工皮革。
  5. 請求項1〜3いずれかに記載の難燃性皮革様シート基体が用いられてなる銀付調人工皮革。
  6. 請求項4または5に記載されている人工皮革が上張材として用いられている乗物用座席。
  7. 難燃性皮革様シート基体を製造するに際し、下記▲1▼〜▲3▼の工程
    ▲1▼それぞれ実質的にリン原子を含まないポリエステルを極細繊維成分とする極細繊維発生型繊維(a’)をウェブ(Wa’)とし、有機リン成分共重合ポリエステルを極細繊維成分とする極細繊維発生型繊維(b’)をウェブ(Wb’)とした後、ウェブ(Wa’)とウェブ(Wb’)を積層し、絡合一体化して不織布を製造する工程、
    ▲2▼該不織布に金属水酸化物を含有する高分子弾性体(C)を付与する工程、
    ▲3▼極細繊維発生型繊維(a’)および(b’)を0.5デシテックス以下の極細繊維(a)および(b)に変換する工程、
    を▲1▼▲2▼▲3▼の順序または▲1▼▲3▼▲2▼の順序で行うことを特徴とする難燃性皮革様シート基体の製造方法。
  8. 難燃性皮革様シート基体を製造するに際し、下記▲1▼’〜▲4▼’の工程
    ▲1▼’実質的にリン原子を含まないポリエステルを極細繊維成分とする極細繊維発生型繊維(a’)を用いて不織布を製造し、有機リン成分共重合ポリエステルを極細繊維成分とする極細繊維発生型繊維(b’)を用いて不織布を製造する工程、
    ▲2▼’それぞれの不織布に金属水酸化物を含有する高分子弾性体(C)を付与する工程、
    ▲3▼’極細繊維発生型繊維(a’)および(b’)を0.5デシテックス以下の極細繊維(a)および(b)の束に変換する工程、
    ▲4▼’極細繊維(a)からなる層と極細繊維(b)からなる層を積層する工程、を▲1▼’▲2▼’▲3▼’▲4▼’の順序または▲1▼’▲2▼’▲4▼’▲3▼’の順序で行うことを特徴とする難燃性皮革様シート基体の製造方法。
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