JP4155120B2 - X線管およびx線管装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、医療用X線診断装置等で用いられるX線管、および当該X線管が組み込まれたX線管装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
X線を放射するX線管は相当の高電圧で使用される。X線管をそのまま露出して使用するのは、無用のX線にさらされることに加えて、電気的にも極めて危険であるので、防護機能を有する外筒などに収容される。X線管と外筒等の防護機能を併せた装置状態は、一般的にX線管装置と呼ばれている。
【0003】
X線管におけるターゲットを保持する一対のベアリングは、高真空と高温の条件下において、例えば3000rpmから9000rpmの高速回転で使用される。X線管装置が医療用X線診断装置などに組み込まれた場合、X線管の保持姿勢が様々な角度に変化し、ベアリングに対して様々な方向から荷重が作用する。このような苛酷な使用環境下では、保持姿勢によってターゲットの振動が増大してしまうため、ベアリングに予圧を与えてアキシャル隙間を無くし、振動を防止する構造が不可欠となる。
【0004】
従来、一対のベアリングのアキシャル方向の振動を防止する手段として、定位置予圧方式か定圧予圧方式の何れかが採用されていた。
【0005】
定位置予圧方式とは、一対のベアリングの内輪同士の間隔と外輪同士の間隔に一定の差を与えた状態で内外輪を固定し、ベアリングに対してアキシャル方向に一定の予圧を付与する方式である。これにより、ベアリングのアキシャル方向の隙間を予め無くすことができる。
【0006】
定圧予圧方式とは、特許文献1に開示されているように、一対のベアリングの内輪間の距離を固定する一方、外輪をアキシャル方向にスライドできるように設置し、この外輪の間にばねを設置することで、外輪同士の間隔をばねの付勢力によって確保する方式である。この結果、一定の圧力によって常にベアリングのアキシャル隙間が無くなるため、ターゲットの振動を抑制することができる。
【0007】
【特許文献1】
特開平10−106461
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
定位置予圧方式では、内輪間隔と外輪間隔との寸法差を適切に設定して、ベアリングに最適予圧を付与しなければならない。しかしながら、部品の仕上がり精度や各ベアリングのアキシャル隙間自体にばらつきがあるため、X線管毎に、最適な予圧を付与できる寸法差が異なり、組み立て時の調整が極めて面倒であるという問題があった。
【0009】
具体的には、組み立てた段階でターゲットの回転抵抗等を測定し、その回転抵抗が適切でない場合は一旦分解して部材を加工したリ、スペーサを挿入したりして、再度組み立てて回転抵抗を測定する等の繰り返し作業が必要であった。
【0010】
この点、定圧予圧方式は、ばねによってベアリングの外輪をスライドさせて、アキシャル隙間を埋める手法であるので、組み立て時の作業負担は軽減される。しかしながら、医療用X線診断装置のように、装置内でのX線管の保持姿勢が様々に変化する場合、ベアリングに各種方向から荷重が作用し、ばねが伸縮してしまう。
【0011】
特に、ターゲットが上方に位置して、ターゲットの重量がベアリングのアキシャル方向に直接作用すると、この重量に耐え切れずにばねが収縮し、ベアリングの外輪がスライドし、ターゲット全体が大きく移動してしまうという問題があった。例えば、この移動量をできる限り小さくするべく、弾性力の大きなばねを選択すると、反対にベアリングに付与する予圧が大きくなりすぎて回転抵抗が大きくなり、ベアリングの寿命が低下するという矛盾が生じていた。この結果、ばねによる振動の抑制と、ターゲットの自重による軸方向移動の抑制を両立させるには一定の限界があり、上記軸方向移動を抑制することが出来なかった。
【0012】
本発明は、組み立て時の労力を軽減した上で、ターゲットの軸方向振動を低減させることができるX線管およびX線管装置を提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかるX線管は、ターゲットと一体となって回転する支軸と、支軸に設けられて該支軸を回動自在に保持する一対のベアリングと、一対のベアリングの間に設けられ、自身の軸方向寸法によって該一対のベアリングの最小内輪間距離を位置決めする内スリーブ部材と、前記一対のベアリングの間に設けられ、前記内スリーブ部材の軸方向寸法より長く設定された自身の軸方向寸法によって、該一対のベアリングの最小外輪間距離を位置決めする一体外スリーブ部材と、前記一体外スリーブ部材の内周側に軸方向移動自在設けられ、一方のベアリングの外輪端面に当接するスライドリングと、前記一対のベアリング間に設けられ、前記スライドリングを介して前記一方のベアリングの外輪端面を軸方向外側に付勢する予圧ばねと、を有することを特徴とする。
また本発明にかかるX線管装置は、上記X線管と、このX線管を収容すると共に該X線管の周囲に絶縁油を封入可能な外筒と、前記外筒に形成され、前記X線管から放射されるX線を通過させる放射窓と、前記外筒の内部に設置され、前記X線管のターゲットを回動させるステータと、を有することを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態にかかるX線管装置1の断面図である。X線管装置1は、X線管30を収容する外筒2と、外筒2に形成される放射窓3と、陽極側レセプタブル4および陰極側レセプタブル5と、ステータ6等を備える。外筒2は軽合金製で、X線遮蔽用の鉛板が内張りされており、内周側に設置される保持具を介してX線管30を保持している。X線管30の周囲には絶縁油7が封入されている。
【0015】
放射窓3には鉛板が内張りされておらず、X線管30から放射されるX線を外部に放出可能となっている。なお、この放射窓3には可動絞りなどの線束制限機器やシャッタ等を取り付ける為のねじ穴が設けられている。
【0016】
陽極側レセプタブル4および陰極側レセプタブル5には、特に図示しない高電圧供給ケーブルの陽極および陰極ヘッドピンが夫々挿入されており、X線発生に必要な高電圧がX線管装置1に供給される。外筒2の内周側に設置されるステータ6は、磁力によってX線管30のターゲットを回転駆動する。ステータ6の鉄心は外筒2の内側に接してアースされており、また、ステータ6とX線管30との間にはラッパ状の絶縁部材8が挿入され、絶縁耐力を増強している。
【0017】
図2はX線管30を拡大して示した断面図である。
X線管30は、集束陰極31と、陽極構造体50と、これらを収容するガラスバルブ32を有する。集束陰極31はガラスバルブ32に固定され、フィラメント33を備えている。このフィラメント33は、高電圧の印加により陽極構造体50に向かって熱電子を放出する。
【0018】
図3は陽極構造体50を更に拡大して示した断面図である。
陽極構造体50は、上記フィラメント33に対して一定の隙間をあけて配置される円板状のターゲット51と、このターゲット51と同軸状態で一体化されてターゲット51と共に回転する支軸52と、同様にターゲット51と同軸状態で一体化され、支軸52の周囲に配置される筒状のロータ53とを有する。ロータ53におけるターゲット51側の端部が、ボルト54によって支軸52に固定されている。
【0019】
支軸52にはラジアルタイプの一対のベアリング55、56が嵌合され、該支軸52が回動自在に保持されている。一対のベアリング55、56の間には、支軸52の外周面に沿って内スリーブ部材57が挿入されている。この内スリーブ部材57の両端面はベアリング55、56の各内輪55A、56Aの端面に当接している。
【0020】
また同様に、一対のベアリング55、56の間で且つ内スリーブ部材57の外周側には、一体外スリーブ部材58が挿入されている。一体外スリーブ部材58の両端面は、ベアリング55、56の各外輪55B、56Bの端面に当接している。また、一体外スリーブ部材58の軸方向寸法L2は、内スリーブ部材57の軸方向寸法L1より長く設定されている。なお、ここで「一体」外スリーブ部材58と表現したのは、実質的に軸方向寸法の下限値がL2が固定されている事を意味している。例えばこの一体外スリーブ部材58が複数の部材によって構成されて、何らかのスライド構造によって軸方向寸法L2がL1以下に自在に収縮可能となっている場合を含まない、ということである。
【0021】
支軸52におけるターゲット51と反対側の端部には、雄ねじ部52Aが形成されると共に、ターゲット51側には段部52Bが形成されている。雄ねじ部52Aにナット57を羅合させて、一対の内輪55A、56Aおよび内スリーブ部材57を段部52Bに押し付けることで、これらが軸方向に固定されている。その結果、内スリーブ部材57の軸方向寸法L1により内輪55A、56A間の距離が位置決めされる。
【0022】
この状態で、外輪55B、56Bの最小間隔も一体外スリーブ部材58の長さ寸法L2に位置決めされる。既に説明したように、一体外スリーブ部材58の軸方向寸法L2が内スリーブ部材57の軸方向寸法L1より長く設定されていることから、その寸法差ΔL=(L2−L1)によって、ベアリング55、56に予圧が付与される。これにより各ベアリング55、56のアキシャル隙間が減少される。なお、具体的に本実施の形態においては、この寸法差ΔL=(L2−L1)を約30ミクロン〜50ミクロンに設定している。なお、本発明の寸法差ΔLは従来の定位置与圧方式の寸法差よりも小さい。
【0023】
更に、一体外スリーブ部材58の内側にはスライドリング60が軸方向移動自在設けられている。スライドリング60は、一対のベアリング55、56の一方(ここではターゲット51側のベアリング55)の外輪55A端面に当接している。また、一体外スリーブ部材58の内周側には段部58Aが形成されており、この段部58Aとスライドリング60の間に予圧ばね62が圧縮された状態で組み込まれている。この予圧ばね62が、スライドリング60を介してベアリング55の外輪55B端面を軸方向外側(即ちターゲット51側)に付勢し、ベアリング55、56に一定の予圧が付与される。
【0024】
ロータ53と一体外スリーブ部材58の間には、ハウジング63が同軸状に挿入される。ハウジング63の内周側には一対のベアリング55、56が収容されている。ハウジング63の内周面には段部63Aが形成されており、この段部63Aと一体外スリーブ部材58の端面によって、ターゲット51と反対側のベアリング56の外輪56Bが挟持されている。
【0025】
具体的に、ハウジング63に設置されるカシメ用ボルト65の先端を、一体外スリーブ部材58の外周に形成される凹部66の傾斜面に圧接させることによって、一体外スリーブ部材58を段部63A方向にスライドさせ、ベアリング56を挟持する圧力を得ている。
【0026】
一方、ターゲット51側のベアリング55の外輪55Bは、ハウジング63の内周に沿って軸方向にスライド自在に収容されている。この結果、予圧ばね62の付勢力によって外輪55Bがターゲット51側にスライド可能となっている。
【0027】
ハウジング63におけるターゲット51と反対側には、底部63Bが形成されている。この底部63Bにガラスバルブ32(図2参照)が固定される事で、ロータ53とガラスバルブ32の間に微小隙間が確保されるようになっている(図示省略)。また、ハウジング63の外周面とロータ53の内周面の間にも微小隙間が確保されており、ロータ53が、ハウジング63およびガラスバルブ32と非接触状態で回動可能となっている。
【0028】
次に本実施の形態のX線管装置1の作用等について説明する。
本実施の形態では、内スリーブ部材57と一体外スリーブ部材58との寸法差ΔL=(L2−L1)による定位置予圧方式により、一対のベアリング55、56に確実に予圧を付与している。この結果、組み立て段階において、ベアリング55、56のアキシャル隙間を予め小さくすることができると共に、ベアリング55、56の軸方向の可動範囲を予め制限することができる。更に、この定位置予圧方式による予圧量が不足した場合であっても、予圧ばね62が補完的に作用し、定圧予圧式によってベアリング55、56に予圧を付与することが可能となっている。
【0029】
例えば、ターゲット51が下方に位置し、支軸52が鉛直方向に保持された場合、ターゲット51の自重によってターゲット51側のベアリング55も鉛直下方(ターゲット51側)にスライドしようとする。その際、ベアリング55の外輪55Bも鉛直下方に追従移動するので、外輪55B、56Bの間隔が開くことになり、寸法差ΔL=(L2−L1)による予圧の効果が減少してしまう。しかしながら、予圧ばね62が一定の圧力で鉛直下方に外輪55Bを押し下げるので、定位置予圧方式側の予圧効果低下分を定圧予圧方式が補うことになり、アキシャル隙間を常時埋めることが可能になる。
【0030】
また例えば、ターゲット51が上方に位置し、支軸52が鉛直方向に保持された場合、ターゲット51の自重によって、ターゲット51側の外輪55Bが他方の外輪56B側にスライドしようとする。その際、予圧ばね62がターゲット51自重に耐えることができずに圧縮されたとしても、一体外スリーブ部材58によって外輪55B、56Bの最小間隔はL2に制限されているので、外輪55Bのスライドが制限され、定位置予圧を確保した状態で、ターゲット51の軸方向移動を抑制することができる。
【0031】
なお、支軸52が水平方向に延在するときは、与圧ばね62のばね力で外輪55A、55Bを押圧するから、ベアリング球のがたつきを防止でき、振動や騒音を押さえることができる。
【0032】
更に、本実施形態では、外輪55B、56B間の最小寸法はL2に制限されているので、ターゲット51の自重を考慮して予圧ばね62の弾性力を設定することが不要になり、弾性力の小さいばねを採用することができる。例えば本実施形態では0.1kg/cmのばねが採用され、従来の(定圧予圧方式の)約10分の1から15分の1の弾性力となっている。この結果、ベアリング55、56に作用する予圧力を小さく設定できるので、ベアリング55、56の耐久性が向上すると共に、高速回転時の騒音を低減させることができる。
【0033】
更に、予圧ばね62が補完的にアキシャル隙間を埋めることができる分、内スリーブ部材57と一体外スリーブ部材58の寸法差(予圧量)を厳密に調整する必要がなくなり、組み立てが簡単になる。例えば、各部品・部材の加工仕上がり精度や、ベアリング55、56のアキシャル隙間のバラつきなどは、そのまま許容して組み立てたとしても、多少のアキシャル隙間は予圧ばね62によって自動的に埋められる。
【0034】
以上の結果、本実施の形態では、X線管装置1の保持姿勢変化にかかわらず、ターゲット51の振動が抑制されて安定したX線を放射できるようになる。
なお、本実施の形態では、一体外スリーブ部材58に形成される段部58Aによって予圧ばね62が軸方向に保持される場合を示したが、本発明はそれに限定されない。何らかの構造によって、予圧ばね62がスライドリング60を介してベアリング55の外輪55Bを付勢できれば良い。
【0035】
更に本実施の形態では、内スリーブ部材57および一体外スリーブ部材58が筒構造になっている場合に限って示したが、本発明はそれに限定されない。仮に他の形状であったとしても、本発明の目的が達成される範囲内で、内スリーブ部材57と一体外スリーブ部材58の軸方向寸法差ΔL=(L2−L1)を確保し、ベアリング55、56に所定の予圧を付与できれば十分である。
【0036】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、組み立て労力を低減した上でターゲットが高速回転する際の振動・騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本実施の形態のX線管装置の全体構成を示す断面図
【図2】 本実施の形態のX線管の全体構成を示す断面図
【図3】 X線管に組み込まれる陽極構造体を拡大して示す断面図
【符号の説明】
1:X線管装置 30:X線管
50:陽極構造体 51:ターゲット
52:支軸 55,56:ベアリング
57:内スリーブ部材 58:一体外スリーブ部材
60:スライドリング 62:予圧ばね
Claims (2)
- ターゲットと一体となって回転する支軸と、
支軸に設けられて該支軸を回動自在に保持する一対のベアリングと、
一対のベアリングの間に設けられ、自身の軸方向寸法によって該一対のベアリングの最小内輪間距離を位置決めする内スリーブ部材と、
前記一対のベアリングの間に設けられ、前記内スリーブ部材の軸方向寸法より長く設定された自身の軸方向寸法によって、該一対のベアリングの最小外輪間距離を位置決めする一体外スリーブ部材と、
前記一体外スリーブ部材の内周側に軸方向移動自在設けられ、一方のベアリングの外輪端面に当接するスライドリングと、
前記一対のベアリング間に設けられ、前記スライドリングを介して前記一方のベアリングの外輪端面を軸方向外側に付勢する予圧ばねと、
を有することを特徴とするX線管。 - 請求項1記載のX線管と、
前記X線管を収容すると共に該X線管の周囲に絶縁油を封入可能な外筒と、
前記外筒に形成され、前記X線管から放射されるX線を通過させる放射窓と、
前記外筒の内部に設置され、前記X線管のターゲットを回動させるステータと、
を有することを特徴とするX線管装置。
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