本発明は、車両に装備されたステアリングコラムに加わる衝撃を吸収する衝撃吸収装置に関し、詳しくは、運転者のステアリングホイールへの二次衝突時における衝撃を吸収するための衝撃吸収装置に関する。
車両の衝突時に発生する運転者のステアリングホイールへの二次衝突の衝撃を吸収するために、多くの車両では、ステアリングホイールを支持するステアリングコラムに対して、衝撃吸収装置が設けられている。運転者の保護という目的から、衝撃吸収装置には、衝撃吸収を効果的に行い得る機能を有することが望まれている。効果的な衝撃エネルギの吸収を目的とする技術として、例えば、下記特許文献1に記載されているような技術が存在する。特許文献1に記載の衝撃吸収装置は、運転者がシートベルトを着用しているか否かによって、衝撃吸収量を変更する機能を有している。シートベルトの着用の有無によって運転者がステアリングホイールに衝突した場合に受ける衝撃が変わり得ることを前提とし、シートベルトを着用していない場合には衝撃が大きくなるものと推定し、衝撃エネルギの吸収量を変更するものである。
特開2002−3612381号公報
上記特許文献1に記載されているように、確かに、二次衝突の衝撃の大きさは、シートベルトの着用の有無によって変わり得る。しかし、二次衝突の衝撃の大きさは、原始的には車両の衝突の衝撃の大きさに依存して変わるものであることから、より効果的な衝撃吸収を実現させるには、車両の衝突の衝撃の大きさを考慮して二次衝突の衝撃を吸収することが望まれる。また、上記特許文献1に記載の技術では、電気的な制御を行って、エネルギ吸収量を変更している。つまり、シートベルト着用の有無に関する電気的信号に基づいて、制御装置がアクチュエータを駆動させるといった手段を採用している。そのような電気的な手段を採用する場合、衝撃吸収装置の構成が複雑になることは否めない。本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、比較的単純な構成によって効率のよい衝撃吸収が可能な衝撃吸収装置を得ることを課題とする。
上記課題を解決するための手段として、本発明の衝撃吸収装置は、
車両の衝突によって引き起こされる運転者のステアリングホイールへの二次衝突においてステアリングコラムに加わる衝撃エネルギを吸収する衝撃吸収装置であって、
前記ステアリングコラムが、前記車両の衝突の後であって前記二次衝突の際、当該ステアリングコラムの前記ステアリングホイール側の一部分のみの移動が許容される構造を有する場合には、その一部分を、当該ステアリングコラムの全体の移動が許容される構造を有する場合には、その全体を、それぞれ、コラム移動部と定義した場合において、当該衝撃吸収装置が、エネルギ吸収荷重が作用する状態において前記コラム移動部の車体に対する相対移動を許容することにより前記衝撃エネルギを吸収するものであり、
当該衝撃吸収装置が、
前記コラム移動部に対して相対移動不能な第1部材と、前記車体に対して相対移動不能な第2部材とを備え、それら第1部材と第2部材とが前記コラム移動部の移動に伴って互いに係合する状態で相対移動することを許容することによって、前記エネルギ吸収荷重として、両者の係合箇所において生じる両者の相対移動に対する抵抗に起因する荷重を発生させる吸収荷重発生装置と、
(A)前記コラム移動部とは別体をなして車両の衝突時に自身の慣性力によって変位する慣性質量体と、(B)その慣性質量体の変位に対してその変位の軌跡を規定するとともにその変位を阻止する方向の力が付与される構造を有して衝突によって車両が受ける衝撃の大きさに応じた変位量となるような前記慣性質量体の変位を許容する慣性質量体変位許容装置とを備え、その慣性質量体の変位に依拠して前記第1部材と前記第2部材との係合状態を変更することによって前記吸収荷重発生装置が発生させる前記エネルギ吸収荷重の大きさを変更し、それによって、前記衝撃エネルギの吸収量であるエネルギ吸収量を、衝突によって車両が受ける衝撃が大きい場合に、小さい場合と比較して、大きくなるように変更するエネルギ吸収量変更機構と
を備えたことを特徴とする。
本発明の衝撃吸収装置は、平たく言えば、物体の有する慣性力を利用して、ステアリングコラムに加わる衝撃のエネルギ吸収量を変更する機能を有する衝撃吸収装置である。衝突時に慣性力に起因して慣性質量体に加わる相対的な力は、車両の衝突の衝撃の大きさに応じたものとなることから、慣性力を利用する本発明の衝撃吸収装置は、衝突の際に車両が受ける衝撃の大きさに応じてエネルギ吸収量を変更することが可能となる。また、本発明の衝撃吸収装置は、慣性質量体を慣性力によって変位させ、その変位することに基づいてエネルギ吸収量の変更をする機構を備えるものであり、電気的な手段を用いずに、機械的な手段によってエネルギ吸収量の変更が可能とされている。なお、詳しい説明は、後の〔発明の態様〕の(1)項等において行う。
本発明の衝撃吸収装置は、車両の衝撃に応じて二次衝突の衝撃エネルギの吸収量を変更できることで、二次衝突の衝撃、つまり、運転者が二次衝突によってステアリングホイールから受ける衝撃を効果的に緩和することが可能である。また、本発明の衝撃吸収装置は、機械的な手段によるエネルギ吸収量変更機構を備えるため、構成を比較的単純化することが可能である。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。本願発明を含む概念である。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも上記発明の理解を容易にするためであり、上記発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項において、(1)項,(2)項,(5)項,(6)項,(7)項,(8)項および(9)項を合せたものが請求項1に相当し、請求項1に(10)項の技術的特徴を付加したものが請求項2に、請求項1に(11)項の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項1に(12)項の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに(13)項の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項5に(14)項の技術的特徴を付加したものが請求項6に、請求項1ないし請求項6のいずれか1つに(2)項の技術的特徴を付加したものが請求項7に、請求項1ないし請求項7のいずれか1つに(3)項の技術的特徴を付加したものが請求項8に、請求項1ないし請求項1ないし請求項7のいずれか1つに(4)項の技術的特徴を付加したものが請求項9に、それぞれ相当する。
(1)車両の衝突によって引き起こされる運転者のステアリングホイールへの二次衝突においてステアリングコラムに加わる衝撃エネルギを吸収する衝撃吸収装置であって、
車両の衝突時に慣性力によって変位する慣性質量体を有し、その慣性質量体の変位に依拠して、前記衝撃エネルギの吸収量であるエネルギ吸収量を変更するエネルギ吸収量変更機構を備えたことを特徴とする衝撃吸収装置。
本項に記載の態様は、ステアリングコラムに加わる衝撃のエネルギ吸収量を変更する機能を有する衝撃吸収装置であり、その変更に際し、物体の有する慣性力を利用する装置である。本項にいう「慣性質量体」は、いわゆる「マス(mass)」と観念されるものであり、実質的に利用可能な慣性力を持ち得る物体を意味する。衝突時において慣性力に起因して慣性質量体に加わる相対的な力(車体を静止座標としてみた場合において、衝突時に慣性質量体を変位させようとする力)は、車両の衝突の衝撃の大きさに応じたものであることから、慣性質量体の慣性力による変位に基づくエネルギ吸収量変更機構は、衝突の際、車両が受ける衝撃の大きさに応じてエネル吸収量を変更することが可能である。なお、衝突において車両が受ける衝撃の大きさは、衝撃の厳しさ、車両減速度の大きさ等と表現することも可能である。本項に記載の衝撃吸収装置は、車両の受ける衝撃の大きさに応じて二次衝突の衝撃エネルギの吸収量を変更できることで、二次衝突の衝撃をより効果的に吸収できる装置となる。なお、ステアリングコラムに加わる衝撃は、運転者が二次衝突によってステアリングホイールから受ける衝撃と相関関係にあるため(概ね作用・反作用の関係にある)、本項に記載の衝撃吸収装置によれば、運転者に与える衝撃を効果的に緩和することが可能である。
エネルギ吸収量を変更する手段として、電気的な手段を採用することも可能である。例えば、衝突時に車両の受ける衝撃の大きさとして車両減速度を検知するセンサを設け、そのセンサからの電気信号を制御装置が受信し、その電気信号に基づいてその制御装置が何らかのアクチュエータを駆動させて、エネルギ吸収量を変更させるような手段である。これに対し、本項におけるエネルギ吸収量変更機構は、電気的な手段を用いないものであり、より詳しく言えば、機械的な手段によるエネルギ吸収量変更機構である。本項にいうところの、慣性質量体の変位に依拠してエネルギ吸収量を変更する態様には、例えば、慣性質量体を慣性力によって変位させ、その変位がトリガとなって吸収量を変更する態様、変更する吸収量の大きさが変位(詳しくは、変位量,変位速度等)に応じて決定される態様,変位を許容することで慣性質量体に何らかの仕事をさせてエネルギ吸収量を変更させる態様(慣性力を直接的に作用させて、あるいは、何らかの伝達手段を介して間接的に作用させて吸収量を変更させる態様等が含まれる)等、種々の態様が含まれる。本項に記載のエネルギ吸収量変更機構は、言い方を換えれば、力学的な原理を主体とした機械的構造の変更機構である。そのため、本項に記載の衝撃吸収装置は、比較的単純な構成の衝撃吸収装置となる。
「慣性質量体」は、例えば車体に対して変位可能、つまり移動可能に設けられ、車両の衝突の際、慣性力によって、車体に対して相対移動するようなものが含まれる。その移動は、並進的な移動のみを意味するのではなく、回転、あるいは並進移動と回転とが複合したものであってもよい。なお、通常の制動時にも慣性質量体が変位可能とすることもできるが、本態様の目的からすれば、通常のブレーキ操作によっては実質上変位が生じず、車両が衝突した場合において実質上の変位が生じるような構成とすることが望ましい。以上説明したような慣性質量体の機能に基づいて本態様の衝撃吸収装置を言い表せば、当該衝撃吸収装置が備えるエネルギ吸収量変更機構は、慣性質量体を制御子とするガバナ的な制御機構であるといえる。
変更される「エネルギ吸収量」は、本衝撃吸収装置によって吸収される衝撃エネルギの総量であってもよい。後に説明するように、衝撃吸収装置は、例えば、ステアリングコラムあるいはそれの一部分(以下、それらを総称して「コラム移動部」という場合がある)が、荷重を受けつつ移動を許容される構造のものとすることが可能である。その場合、コラム移動部の移動ストロークは、車両の構造等からの制約により、十二分には長くできないことから、本項に記載の衝撃吸収装置では、コラム移動部の単位移動距離あたりのエネルギ吸収量が変更されるものであることが望ましい。
本項に記載の態様において、ステアリングコラムの基本的な構成、エネルギ吸収に関する基本的な構成は、特に限定されるものではない。それらの構成については、既に公知の種々の構成を採用することができる。また、エネルギ吸収量変更機構についても、本項においては、具体的な態様が特に限定されるものではない。本項に記載の態様をさらに具体的にした態様(望ましい実施態様を含む)については、以下の項において、詳しく説明する。
(2)前記エネルギ吸収量変更機構が、衝突によって車両が受ける衝撃が大きい場合に、小さい場合と比較して、前記エネルギ吸収量が大きくなるように変更するものである(1)項に記載の衝撃吸収装置。
本項に記載の態様のように、ステアリングコラムに加わる衝撃が大きい場合に、より多くの衝撃エネルギを吸収すれば、運転者に与える衝撃は少なくなる。後に説明するように、コラム移動部を移動させて衝撃を吸収させる場合、コラム移動部が衝撃吸収のために移動可能な範囲、つまり、移動ストロークは、車両の構造,ステアリングコラムの取付け構造等の制約を受ける等して、一定の長さとされることが多い。この場合、その移動ストローク内で効果的に衝撃を吸収するためには、車両が受ける衝撃が大きい場合に、コラム移動部の単位移動距離あたりのエネルギ吸収量を大きくすることが望ましい。このようにすれば、二次衝突において、移動ストローク内において充分な衝撃エネルギを吸収できずに移動ストロークの終端において運転者に与えてしまう衝撃(いわゆる底付きによる衝撃)を効果的に防止、緩和できる。一方、車両が受ける衝撃が小さい場合には、二次衝突の衝撃エネルギ吸収量が比較的小さくされているため、移動ストロークの長い領域にわたって緩やかな衝撃吸収が可能となるのである。
(3)前記エネルギ吸収量変更機構が、衝突によって車両が受ける衝撃の大きさに応じて連続的に前記エネルギ吸収量を変更させるものである(1)項または(2)項に記載の衝撃吸収装置。
本項に記載の態様によれば、無段階にエネルギ吸収量の変更を行うことが可能であるため、きめ細かな変更を行うことが可能となる。
(4)前記エネルギ吸収量変更機構が、衝突によって車両が受ける衝撃が設定された閾値を挟んで大きい場合と小さい場合とで、段階的に前記エネルギ吸収量を変更させるものである(1)項または(2)項に記載の衝撃吸収装置。
本項に記載の態様には、例えば、エネルギ吸収量が大きい状態と、小さい状態との切り替えを行うような態様が含まれる。このような2つの状態での切り替えを行い得るエネル吸収量変更機構は、簡便な機構となる。なお、本項に記載の態様は、2つの状態に限定されるものではなく、複数の離散的な閾値を設定し、エネルギ吸収量の互いに異なる3つ以上の状態を切り替えるような態様であってもよい。また、殆どエネルギ吸収を行わない状態と、実質的にエネルギ吸収を行う状態との間で切り替えるような態様も、本項に記載の態様に含まれる。
(5)前記エネルギ吸収量変更機構が、前記慣性質量体の一定の軌跡に沿った変位であって、衝突によって車両が受ける衝撃の大きさに応じた変位量となる位置までの変位を許容する慣性質量体変位許容装置を有し、その変位量に依拠して前記エネルギ吸収量を変更するものである(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の衝撃吸収装置。
本項に記載の態様は、車両の受ける衝撃の大きさに応じて、エネルギ吸収量を変更する具体的な一態様である。より詳しく言えば、慣性質量体の変位量と車両の受ける衝撃の大きさとが関連付けられた構成に関する一態様である。本項における慣性質量体変位許容装置には、例えば、慣性質量体の変位軌跡を規定する案内手段と、その変位を阻止する方向の力が付与可能な手段とを備えて構成されるような装置が含まれる。抗力の存在下で慣性質量体を移動させれば、慣性質量体の有する慣性エネルギに応じた距離だけ慣性質量体が変位する。本項におけるエネルギ吸収量変更装置は、慣性質量体の移動距離,回転角度等を変位量として、その変位量に応じて、変更するエネルギ吸収量が決定されるように構成することが可能である。なお、慣性質量体の変位を阻止する方向の力は、バネ等の付勢力に起因する力を始めとして、重力,磁力等種々の力に起因する力を採用することができる。また、案内手段は、狭い意味におけるガイドのみを意味するものではなく、例えば、慣性質量体を所定の点を中心として回転可能に保持するような構成も、本項にいう案内手段に該当する。
(6)当該衝撃吸収装置が、前記衝撃エネルギを吸収するためのエネルギ吸収荷重を発生させる吸収荷重発生装置を備え、そのエネルギ吸収荷重が作用する状態において、ステアリングコラムとそれの一部分とのいずれかであるコラム移動部の車体に対する相対移動を許容することによって、前記衝撃エネルギを吸収するものである(1)項ないし(5)項のいずれかに記載の衝撃吸収装置。
本項に記載の態様は、衝撃吸収装置のエネルギ吸収機能に関する基本的構成について限定した態様である。本項における「エネルギ吸収荷重」は、コラム移動部の移動を阻止する力、つまり、抗力であり、コラム移動部の移動に伴う反力と観念することも可能である。エネルギ吸収荷重をコラム移動部に付与してエネルギ吸収を行う本項に示す衝撃エネルギ吸収機能は、既に一般的に用いられている衝撃吸収装置が有する機能であることから、本項に記載の衝撃吸収装置は、実用的な装置となる。
一般に、ステアリングコラムは、車体に、詳しくは、例えばインストゥルメントパネル(計器板)のリンフォースメント(補強部材)等に支持されて固定されており、運転者のステアリングホイールに二次衝突することで衝撃が加わった場合に、その固定が解除される構造となっている。固定が解除された際に、ステアリングコラムの移動が許容されるのであるが、その移動に関して、例えば2つの方式が存在する。その1つは、ステアリングコラムの一部分がコラム移動部として機能し、その一部分の移動が許容される方式、例えば、ステアリングコラムが2つの部分から構成されておりステアリングホイールが取付られる側の部分のみが固定を解除されて移動が許容されるといった方式であり、また、もう1つは、ステアリングコラム全体がコラム移動部とされ、その全体の固定が解除されて移動する方式である。本態様の衝撃吸収装置は、これらのいずれの方式のものにおいても採用可能である。なお、いずれの方式であるかを問わず、衝撃吸収装置は、ステアリングコラム自体の構成要素とされるものであってもよく、また、コラム移動部と車体との取付機構の構成要素とされるものであってもよい。
(7)前記エネルギ吸収量変更機構が、前記吸収荷重発生装置が発生させる前記エネルギ吸収荷重の大きさを変更するものである(6)項に記載の衝撃吸収装置。
上記吸収荷重発生装置を備える態様の衝撃吸収装置において、吸収される衝撃エネルギの吸収量は、コラム移動部の移動距離とエネルギ吸収荷重との積となる。したがって、本項に記載するように、エネルギ吸収荷重を変更すれば、コラム移動部の単位移動距離あたりのエネルギ吸収量を変更することができる。
(8)前記吸収荷重発生装置が、前記コラム移動部に対して相対移動不能な第1部材と、前記車体に対して相対移動不能な第2部材とを備え、それら第1部材と第2部材とが前記コラム移動部の移動に伴って互いに係合する状態で相対移動することを許容することによって、前記エネルギ吸収荷重として、両者の係合箇所において生じる両者の相対移動に対する抵抗に起因する荷重を発生させるものである(6)項または(7)項に記載の衝撃吸収装置。
本項に記載の態様は、上記吸収荷重発生装置を備える態様の衝撃吸収装置において、エネルギ吸収荷重を発生させる具体的な構成を限定した態様である。平たく言えば、コラム移動部に設けられた部材と、車体あるいは移動しないステアリングコラムの一部分に設けられた部材とを、互いに連携させつつ相対移動させることにより、エネルギ吸収荷重を発生させる態様である。「相対移動に対する抵抗」は、摺動する2つの部材において発生する摩擦力,一方あるいは両方の部材を弾性変形,塑性変形等させるための力を始めとして、重力,磁力,電磁力等、種々の力あるいはそれらのうちのいくつかのものが複合した力に起因して発生させ得るものであり、本項においては、それらのいずれに起因するものであってもよい。なお、第1部材および第2部材は、それぞれが1つに限定されるものではない。例えば、第1部材および第2部材の一方が1つとされ、その1つに、第1部材と第2部材との他方が複数とされてそれら複数のものが係合する態様であってもよい。また、複数の第1部材と複数の第2部材とが係合するような態様であってもよい。
(9)前記エネルギ吸収量変更機構が、前記慣性質量体の変位に依拠して、前記第1部材と前記第2部材との係合状態を変更することによって前記吸収荷重発生装置が発生させる前記エネルギ吸収荷重の大きさを変更するものである(8)項に記載の衝撃吸収装置。
上記2種の部材の係合によってエネルギ吸収荷重を発生させる場合において、その荷重の大きさを変更させる一態様である。本項に記載のように、慣性質量体の作用により2部材の係合状態を変更させれば、容易に、エネルギ吸収荷重を変更させることができ、それにより、エネルギ吸収量を変更させることができる。本項にいう「係合状態を変更する」とは、変形部材と変形強要部材との係合位置、係合面積、係合の強さ、係合箇所の数、係合の有無等の係合に関する種々の状態のいずれか1以上のものを変更することを意味する。
(10)前記第1部材と前記第2部材との少なくとも一方が、前記前記コラム移動部の移動に伴って前記係合箇所において変形させられる変形部材とされ、前記吸収荷重発生装置が、前記相対移動に対する抵抗としてのその変形部材の変形に要する力に起因する前記エネルギ吸収荷重を発生させるものであり、
前記エネルギ吸収量変更機構が、その変形部材の変形に要する力の大きさを変更すべく、前記第1部材と前記第2部材との係合状態を変更するものである(9)項に記載の衝撃吸収装置。
本項に記載の態様は、エネルギ吸収荷重の発生に関して部材の変形に要する力を利用する手段を採用する態様であり、例えば、その変形に要する力の反力、つまり、変形に伴う抵抗力あるいはそれの一部を、エネルギ吸収荷重の少なくとも一部とするものが含まれる。変形には弾性変形と塑性変形とがあり、弾性変形を主として利用するものとして、例えば、バネとダンパとを組み合わせた構成のものを採用できる。ところがそのようなものは構造が比較的複雑であることから、塑性変形を利用するものであることが望ましい。塑性変形を利用する具体的な態様は特に限定されるものではないが、例えば、帯状,板状の部材(例えば、エネルギ吸収プレートと呼ばれるもの)を曲げ変形させる力を利用することが可能であり、またそのようなものは、比較的簡単な構造の吸収荷重発生装置となる。具体的には、変形量,変形程度を、慣性質量体の変位に依拠して変更するような態様が含まれる。なお、本項にいう「変形部材の変形に要する力」は、変形の困難さといった広い意味であり、変形応力のみに留まらず、変形に伴って摩擦力等の他の力が働くに場合は、その力に起因する変形の困難さをも含むものであることを意味する。
(11)前記吸収荷重発生装置が、前記相対移動に対する抵抗としての前記係合箇所において前記第1部材と前記第2部材との間に生じる摩擦力に起因する前記エネルギ吸収荷重を発生させるものであり、
前記エネルギ吸収量変更機構が、その摩擦力の大きさを変更すべく、前記第1部材と前記第2部材との係合状態を変更するものである(9)項または(10)項に記載の衝撃吸収装置。
本項に記載の態様は、エネルギ吸収荷重の発生に関して部材間の摩擦力を利用する手段を採用する態様である。摩擦力によるエネルギ吸収荷重の場合、その摩擦力を変更することで、容易に、エネルギ吸収荷重を変更可能である。摩擦力の大きさを変更するための具体的な態様として、慣性質量体の変位に依拠して、例えば、上記2種の部材の接触面の面積を変更する態様、摩擦係数が異なるように接触面を変更する態様、接触面どうしを押し付け合う力の大きさを変更する態様等、種々の態様を採用することが可能である。
(12)前記エネルギ吸収量変更機構が、前記慣性質量体の変位に依拠して、前記第1部材と前記第2部材との少なくとも一方の前記コラム移動部あるいは前記車体に対する相対移動の可否状態を変更することによって、前記吸収荷重発生装置が発生させる前記エネルギ吸収荷重の大きさを変更するものである(8)項に記載の衝撃吸収装置。
本項に記載の態様は、平たく言えば、上記2種の部材の係合によってエネルギ吸収荷重を変更する態様において、2種の部材の少なくとも一方と、その少なくとも一方が固定されるコラム移動部、または、車体あるいは移動しないステアリングコラムの部分との関係状態を、固定される状態と固定されない状態との間で切り替える態様である。例えば、一方の部材とそれが固定されるコラム移動部等とが固定されていない状態において、2つの部材の相対移動を伴わないコラム移動部の移動が許容され、固定される状態において、相対移動を伴うコラム移動部の移動が許容される態様である。2種の部材の相対移動の可否において、エネルギ吸収荷重が実質的に発生する状態と実質的に発生しない状態とを切り替えることが可能となり、エネルギ吸収量を変更することが可能となる。
(13)当該衝撃吸収装置が、運転者のシートベルトの着用の有無に応じて前記慣性質量体の変位を制限若しくは強制する変位規制装置を備えた(1)項ないし(12)項のいずれかに記載の衝撃吸収装置。
運転者のシートベルトの着用の有無は、運転者がステアリングホイールへの二次衝突する際の運転者の速度、すなわち運転者の有する運動エネルギの大きさを左右するものであり、ステアリングコラムに加わる衝撃、ひいては運転者が受ける衝撃の大きさを左右する。したがって、車両の衝突の衝撃のみに依拠するのではなく、シートベルトの着用の有無に基づいて、エネルギ吸収量を変更することが、運転者の保護という目的において、より望ましい。本項に記載の態様によれば、シートベルトの着用の有無に応じて慣性質量体の変位を制限若しくは強制することによって、それに応じたエネルギ吸収量の変更が可能となる。つまり、1つのエネルギ吸収量変更機構によって、車両の衝突の衝撃の大きさと、シートベルトの着用の有無との両方に依拠したエネルギ吸収量の変更が可能となる。
変位規制装置の具体的な構成は、特に限定されるものではないが、例えば、シートベルトの装着の有無を検知するセンサを設け(例えば、シートベルトのバックル部等にスイッチを設ける)、そのセンサの信号に基づいて、エネルギ吸収量変更機構内に設けたアクチュエータを駆動させて、慣性質量体の変位を規制すればよい。なお、本明細書では、慣性質量体の変位の規制とは、変位を制限することと強制することとの両者を含む概念とする。また、変位を制限するとは、変位を禁止すること(変位させないこと)と、変位を抑制すること(変位をより小さくすること)との両者を含むことを意味し、変位を強制するとは、変位をより大きくすることを意味する。
(14)前記変位制限装置が、運転者がシートベルトを装着していない場合に、シートベルトを装着している場合に比較して、当該衝撃吸収装置の前記エネルギ吸収量が大きくなるように、前記慣性質量体の変位を制限若しくは強制するものである(13)項に記載の衝撃吸収装置。
運転者がシートベルトを着用していない場合、着用している場合と比較して、運転者の受ける二次衝突の衝撃は大きくなる。したがって、本項に記載の態様によれば、そのような実情を考慮して、より効果的な衝撃吸収が可能となる。
以下、本発明のいくつかの実施例とそれらの変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
<第1実施例>
図1に、本発明の第1実施例としての衝撃吸収装置が適用されたステアリングコラムの側面図を、図2に、そのステアリングコラムの平面図を、図3に、そのステアリングコラムの側面断面図を、それぞれ示す。なお、これらの図において、右側の端部がステアリングホイール側、左側が車輪側であり、このステアリングコラムは、図1に示すように傾斜した状態で車体に取付けられる。図2は、ステアリングコラムの軸線に直角な方向からの平面図であり、また、図3は、ステアリングコラムを傾斜させていない状態での断面図である。また、本実施例では、説明を簡略化するため、特に断りのない限り、それら図における右側を「車両後方側」あるいは単に「後方側」と、左側を「車両前方側」あるいは単に「前方側」と呼び、右側に向かう方向を「車両後方」あるいは単に「後方」、左側に向かう方向を「車両前方」あるいは「前方」と呼んで、説明を行う(他の実施例も同様とする)。
ステアリングコラム10は、大きくは、シャフト部と、そのシャフト部を挿通させた状態で支持するチューブ部とに区分することができる。シャフト部は、車両後方側に位置する後部シャフト12と車両前方側に位置する前部シャフト14とを含んで構成されている。後部シャフト12はパイプ状に、前部シャフト14はロッド状に形成され、後部シャフト12の前方部分に前部シャフト14の後方部分が挿入されている。後部シャフト12の前方部内周面16,前部シャフト14の後方部外周面18には、それぞれ互いに噛合するスプラインが形成され、後部シャフト12と前部シャフト14は、軸方向に相対移動が可能な状態かつ相対回転が不能な状態で接続されている。また、チューブ部は、後方側に位置する後部チューブ30と、前方側に位置する前部チューブ32とを含んで構成されている。後部チューブ30および前部チューブ32は、ともにパイプ状のものであり、後部チューブ30の前方部分に前部チューブ32の後方部分が挿入されている。前部チューブ32の後方部の外周面には、パイプ状をなすライナ34が設けられており、このライナ34を介することによって、前部チューブ32は後部チューブ30にがたつきなく挿入される。後部チューブ30の内周面と接触するライナ34の外周面は減摩処理が施されており、後部チューブ30と前部チューブ32との軸方向の相対移動を容易ならしめている。また、後部チューブ30の後方端部内面および前部チューブ32の前方端部内面には、それぞれラジアルベアリング36,38が設けられ、後部チューブ30および前部チューブ32は、それぞれ、ラジアルベアリング36,38を介して、後部シャフト12および前部シャフト14の各々を、それらの中間部において回転可能に支持している。このような構造とされていることで、ステアリングコラム10は、伸縮可能とされているのである。また、後部シャフト12の後方端部には、図1に示すように、ステアリングホイール40が取付られ、前部シャフト14の前方端部には、インタミディエットシャフト(図示を省略)が接続される。
本ステアリングコラム10は、後部チューブ30,前部チューブ32のそれぞれにおいて車体に取り付けられる。詳しく説明すれば、前部チューブ32の前方部分には被支持部材50が固定的に設けられており、この被支持部材50の有する軸挿通穴52に車体に固定的に設けられた支持軸(図示省略)が挿通されることによって、前部チューブ32、すなわち、ステアリングコラム10が、その支持軸を中心に揺動可能に取り付けられる。後部チューブ30は、被支持部材54を介して、車体、詳しくはインストゥルメントパネルのリンフォースメント56(図1参照)に取り付けられる。図4を参照して詳しく説明すれば、後部チューブ30には、被保持部材60が固定的に設けられており、この被保持部材60が、被支持部材54の構成部材であるチャンネル形状(コの字形状)をなす保持部材62によって保持されるとともに、被支持部材54のもう1つの構成部材である被支持プレート64(保持部材62に固定されている)がリンフォースメント56の取付部に固定されることで、後部チューブ30が車体に取り付けられるのである。さらに詳しく説明すれば、被支持プレート64は、自身に設けられた切込66の端部に形成された2つの取付穴部68(他の部分より幅広とされて、概ね円形の穴として形成されている)に、それぞれ、リンフォースメント56の取付部から延び出す概ね円柱形状の取付ピン(図示を省略)を挿通させて固定される。
また、ステアリングコラム10は、チルト・テレスコピック機構70を備えている。詳しい説明は省略するが、保持部材62および被保持部材60は、ぞれぞれが、互いに交差する長穴72,74を有しており、これらの長穴72,74に軸部材76が挿入されている。それにより、ステアリングコラム10は、保持部材60に設けられた長穴72の分だけ前記支持軸を中心として揺動可能とされ、また、被保持部材62に設けられた長穴74の分だけ、伸縮可能とされているのである。図1には、チルト・テレスコピック機構のロックレバー78(軸部材76が接続されている)が示されており、このロックレバー78を押し上げることにより(図における実線の位置)、被保持部材60が保持部材62によって強く挟持され、ステアリングコラム10の揺動位置,伸縮位置が固定されるようになっている。位置の調整は、ロックレバー78を押し下げる(図1における2点鎖線の位置)ことによって、固定を解除して行われる。
運転者が二次衝突する等によって、ステアリングホイール40に衝撃が加わった場合、上述した後部チューブ30の車体に対する固定が解除される。上記取付ピンの外径は、切込66の幅より若干小さくされるとともに、取付穴部68への取付ピンの挿入は樹脂製のカラー(図示を省略)を介してなされており、衝撃が加わることにより、そのカラーが破断して、被支持プレート64の固定が解除されるようにされている。固定が解除された場合、取付ピンが切込66にガイドされつつ、後部チューブ30の移動が許容される。これにより、後部チューブ30および後部シャフト12が一体となった状態での移動が許容されるのである。つまり、本ステアリングコラム10では、ステアリングコラム10の後方側に位置する部分がコラム移動部とされており、ステアリングコラム10に衝撃が加わった場合に、そのコラム移動部は、ステアリングコラム10の軸方向の移動(図1〜図4の白抜矢印の方向の移動)が許容されるのである。なお、コラム移動部の移動範囲の終点は、後部チューブ30の前方端が前方チューブ32の外周面の段差に当接することによって規定される。なお、チルト・テレスコピック機構70によって、コラム移動部がいずれの伸縮位置にあるときでも、衝撃吸収のための充分な移動ストロークが確保されるようになっている。
コラム移動部は、上記許容された移動の際に、その移動に対する抗力、つまりエネルギ吸収のための荷重を受ける。本実施例において、ステアリングコラム10は、そのエネルギ吸収荷重を発生させる荷重発生装置100を備えている。荷重発生装置100は、2つの部材の摩擦力によってエネルギ吸収荷重を発生させる装置である。図5〜図7に、荷重発生装置100を示す。なお、図5は、ステアリングコラム10の側面視において示す図であり、図6は、ステアリングコラム10の軸線を含む面での断面図、図7は、軸線に直角な面での断面図である(概ね、図5におけるA−A視)。また、図6および図7では、シャフト部は省略されている。
荷重発生装置100は、主たる構成要素として、摩擦力発生部材としての摩擦プレート102と、摩擦プレート102を押圧するプレート押圧機構104と、プレート押圧機構の押圧を制限するダンパ106とを含んで構成されている。摩擦プレート102は、四角形をなす樹脂製のプレートであり、後部チューブ30に設けられた角穴108に緩みを持つ状態で嵌め込まれており、一方の面が前部チューブ32の外周に沿う形状に形成され、その面が前部チューブ32に接するようにされている。また、摩擦プレート102は、前部チューブ32との間で適当な摩擦力が発生するように摩擦係数が調整されている。後部チューブ30の外周面には、摩擦プレート102を覆う状態でブラケット110が設けられている。ブラケット110の中央には雌ネジ112が螺設されており、この雌ネジ112に、両端に雄ネジ114,116が形成された両ネジボルト118の一方の雄ネジ114が螺合され、その雄ネジ114の先端が、摩擦プレート102の前部チューブ32と接する面とは反対側の面に当接させられている。両ネジボルト118の他方の雄ネジ116は、特殊な形状をなす揺動プレート120に固定される。詳しくは、雄ネジ116は、揺動プレート120に設けられたボルト孔122に挿入され、雄ネジ116に螺合するナット124と両ネジボルト120の鍔126との間に揺動プレート120が挟持されることで、揺動プレート120と両ネジボルト118とが一体化されているのである。揺動プレート120の両ネジボルト118から離れた部分には、円筒形状をなして錘として機能する錘部材128が、ボルト130およびワッシャ132にて固定されている。ブラケット110,両ネジボルト118,揺動プレート120,錘部材128等を含んで、プレート押圧機構が構成されているのである。また、揺動プレート120の一部は折り曲げられ、その折曲部134に、ダンパ106のロッド136の先端が止輪138にて連結されている。ダンパ106は、後部チューブ30に設けられたダンパブラケット140に取り付けられている。
車両が通常の状態で走行している場合、揺動プレート120は、図5に示すような位置に位置している。車両が衝突した場合(車両の正面から後方に向かう方向の成分を含む衝撃を受けるものと仮定する。他の実施例も同様とする)、揺動プレート120は、両ネジボルト118の軸線を中心にして、図における白抜矢印の方向に回転する。両ネジボルト118,揺動プレート120,錘部材128等が一体化されたものは、回転軸線に対して偏心した質量バランスをもっており、車両の衝突時に、慣性力により回転変位させられるのである。つまり、両ネジボルト118,揺動プレート120,錘部材128等が一体化されたもの(以下、「揺動プレート120等」と略す場合がある)は、慣性質量体として機能するのである。揺動プレート120が回転すれば、両ネジボルト118の雄ネジ114の先端が摩擦プレート102を前部チューブ32に向かって押付けるため、その反力、つまり変位を阻止する力に抗って揺動プレート120が回転する。それにより、その回転の変位量は、慣性力の大きさ、つまり、車両が受ける衝撃の大きさに応じた変位量となる。このように、慣性質量体である揺動プレート120等は、一定の軌跡に沿って車両が受ける衝撃の大きさに応じた変位量となる変位が許容されており、本荷重発生装置100は、上記構造の慣性質量体変位許容装置を含むものとされているのである。
慣性質量体である揺動プレート120等が回転変位させられれば、摩擦プレート102と前部チューブ32との間の摩擦力が大きくなり、大きなエネルギ吸収荷重が発生する。発生するエネルギ吸収荷重の大きさは、慣性質量体である揺動プレート120等の変位量、すなわち回転位置に応じて大きくなる。つまり、本荷重発生装置100は、慣性質量体の慣性力により摩擦力を発生させる部材を押付けるようにしてエネルギ吸収荷重を増大させるものであり、車両の受ける衝撃に応じて、連続的にエネルギ吸収荷重が変更させられることになる。そして、車両の受ける衝撃が大きい程、揺動プレート120等の回転による変位量は大きく、それにつれてエネルギ吸収荷重は、大きな荷重とされるのである。なお、慣性質量体が変位させられていない状態でのエネルギ吸収荷重の大きさは、その状態における摩擦プレート102と前部チューブ32との間で発生する摩擦力の大きさを調整することによって、調整可能である。また、先に説明した、前部チューブ32の外周面と後部チューブ30との間に介装されているライナ34との摺動部において調整することも可能である。
ダンパ106は、慣性力による揺動プレート120の回転が瞬間的に行われ、その慣性力によって揺動プレートが回転しすぎたりして最適位置で止まらず、所定のエネルギ吸収荷重に調整することが難しいという問題を解決するために設けられている。このダンパ106の存在により、適切なエネルギ吸収荷重の発生が担保される。なお、ダンパ106のロッド136は、可撓性があり、揺動プレート120が変位した場合でも、その変位をスムーズに抑制することが可能とされている。このダンパ106の働きも調整可能である。このダンパ106の調整、上記慣性質量体が変位させられていない状態でのエネルギ吸収荷重の調整等により、目的に応じた任意の衝撃吸収特性を実現することが可能である。
ここで、上記荷重発生装置100の機能をさらに説明すれば、荷重発生装置100は、コラム移動部を構成する後部チューブ30対して移動不能に設けられた第1部材である摩擦プレート102と、車体に対して移動不能に設けられた第2部材である前部チューブ32とを、互いに係合させつつ、コラム移動部の移動に伴ってそれらの互いの相対移動を許容することによって、その相対移動に対する抵抗としての、両者の係合箇所に生じる摩擦力に起因するエネルギ吸収荷重を発生させる装置である。本実施例の衝撃吸収装置150は、この荷重発生装置100を含んで構成されており、運転者がステアリングホイール40に二次衝突した場合に、ステアリングコラムに加わる衝撃エネルギを、発生するエネルキ吸収荷重の大きさに応じて吸収する。また、上記のように、荷重発生装置100は、摩擦プレート102と前部チューブ32との係合箇所において、慣性質量体である揺動プレート120等の変位に基づいて、それらの係合状態を変更することによって、摩擦力を変更さてエネルギ吸収荷重を変更させる。詳しく言えば、摩擦力発生部材の押付け力を変更することでエネルギ吸収荷重を変更させるのである。荷重発生装置100はそのようなエネルギ吸収荷重変更機構を有するものとされており、したがって、その機構を含んで、本実施例の衝撃吸収装置150におけるエネルギ吸収量変更機構が構成されているのである。
次に、上記実施例の変形例を説明する。図8に、変形例の衝撃吸収装置150が備える荷重発生装置を示す。図8(a)は、図5と同様、ステアリングコラムの側面から見た図であり、図8(b)は、それの一部分を反対側の側面から見た図である。衝撃吸収装置および荷重発生装置は、同じ符号を使用し、同じ構成要素については、同じ符号を使用する(本実施例の他の変形例も同様とする)。
本衝撃吸収装置150を構成する荷重発生装置100は、上記実施例のものに、スプリング160を追加しただけのものである。スプリング160は、圧縮コイルスプリングであり、ダンパ106のロッド136を挿通させた状態で、揺動プレート120の折曲部134とダンパ106のハウジングとの間に介装されており、折曲部134を付勢して、揺動プレート120に、図8(a)における右回転の回転力を与えている。つまり、摩擦プレート102に対して予荷重をかける状態とされている。これにより、確実に、エネルギ吸収荷重を発生させることができるとともに、小さな衝撃においても、慣性質量体である揺動プレート120等を、適切に変位させて、適切な大きさへのエネルギ吸収荷重の変更がより確実となる。
別の変形例を、図9に示す。図9(a)は、図5と同様、ステアリングコラムの側面から見た図であり、図9(b)は、ステアリングコラムの軸方向に直角な面における断面図である(図9(a)におけるB−B断面)。図9に示す荷重発生装置100では、スプリング160に加え、さらに、後部チューブ30の下端部にアクチュエータであるソレノイド170が設けられている。ソレノイド170は、OFF状態(消磁状態)において引込でいる係止ピン172を、ON状態(励磁状態)において突出させるものであり、係止ピン172がステアリングコラム10の軸線に直角な方向に突出する向きに、取付座174を介して、後部チューブ30の外周面に取付けられている。揺動プレート120は、係止ピン172に係止される被係止部176を有しており、係止ピン172が突出する状態において、係止ピン172に被係止部176が係止されて、揺動プレート120の回転が禁止される状態となる。
ソレノイド170の動作制御は、電子制御ユニット(ECU)178によって行われる。運転者が着用するシートベルトのバックル部には、シートベルトの着用の有無を検知するセンサであるシートベルトセンサ180が設けられており、そのセンサ180からの信号に基づいて、シートベルトが着用されている場合、ECU178は、ソレノイド170をON状態とする。逆に、シートベルトが着用されてない場合は、OFF状態であり、係止ピン172は引込んだ状態のままである。シートベルトが着用されていない場合は、二次衝撃における衝撃は大きいと推定され、そのためエネルギ吸収量が大きくなるような変更が許容される。シートベルトが着用されている場合は、衝撃は小さいと推定されて、エネルギ吸収量は小さいままで、それの変更が禁止される。本変形例によれば、運転者のシートベルトの着用の有無に応じて、慣性質量体である揺動プレート120等の変位が規制、詳しくは、制限される。つまり、本衝撃吸収装置150の備えるエネルギ吸収量変更機構は、ソレノイド170,ECU178,シートベルトセンサ180等を含んで構成される変位規制装置を有しているのである。なお、この変形例では、慣性質量体を構成する揺動プレート120の回転を直接禁止するものであるが、例えば、スプリング160の中間部にピンを突き出す等して、スプリング160の付勢力を減少させることによっても、揺動プレート120等の変位を制限することが可能である。また、逆に、シートベルトを装着していない場合において、何らかの手段により揺動プレート120を順回転方向に付勢する等して、揺動プレート120等の変位量が増大するように揺動プレート120の回転を強制することによって、より大きなエネルギ吸収荷重を発生させることも可能である。
<第2実施例>
図10に、第2実施例の衝撃吸収装置のステアリングコラムの側面から見た外観図を示し、図11に、それの構造を説明するための拡大図を、図12に、それの一部分の斜視図を示す。本実施例が適用されるステアリングコラム10は、先の実施例のものと殆ど同じものであるため、同じ構成要素に同じ符号を採用するとともに、説明は省略する。図に示すように、本実施例の衝撃吸収装置200は、コラム移動部を構成する後部チューブ30と車体との間に配設されている。詳しくは、支持部材54とリンフォースメントの取付部202との間に介在するように配設されている。
本衝撃吸収装置200は、先の実施例のものと同様、エネルギ吸収荷重を発生させる荷重発生装置204を含んで構成されている。荷重発生装置204は、主に部材の変形に要する力に起因するエネルギ吸収荷重を発生するものであり、その変形部材としてのエネルギ吸収プレート(以下、「EAプレート」と略す場合がある)210を有している。EAプレート210は、金属製の帯状部材であり、それの前端部が、支持部材54の構成部材である被支持プレート64に立設された掛止ブラケット212に掛止されている。
リンフォースメントの取付部202には、フレーム214が固定して取り付けられており、そのフレーム214に種々の機能部材が組み込まれている。フレーム214は、板材を折り曲げて形成されており、前後方向において対をなす前後壁216、および、両側において対をなす側壁218を有している。フレーム214の下部には、側壁218の各々に両端の各々を固定された2つの丸棒状の固定ロッド220が、互いに平行な状態で配設されている。また、それら固定ロッド220の間には、ステアリングコラム10の軸線に直交する方向に移動可能な可動ロッド222が設けられている。可動ロッド222は、概して、固定ロッド220より径の大きな丸棒状をなし、両端に軸方向に突出する嵌合突起224を有しており、それらの嵌合突起224の各々が、フレーム214の側壁218のそれぞれに設けられた長穴であるガイド穴226に緩やかに嵌合することで、移動可能とされているのである。なお、係合突起224は、断面が略扁平楕円形状とされており、その係合突起224が長穴に嵌合することで、可動ロッド222の回転は禁止されている。
EAプレート210の中間部は、可動ロッド222の外周面に沿うように屈曲された屈曲部228とされており、その屈曲部228の前後において、下方から固定ロッド220によって支持される。可動ロッド222は、EAプレート210の固定ロッド220に支持される面とは反対の面において、EAプレート210と係合する。詳しく言えば、可動ロッド22は、屈曲部228に嵌る状態で、固定ロッド220との間でEAプレート210を挟むように配設されている。
フレーム214には、また、前後壁216の各々に両端の各々を固定された丸棒状のガイドロッド240が、ステアリングコラム10の軸線に平行に位置する状態で配設されている。本荷重発生装置204は、一部がテーパとされた円筒形状をなす慣性質量体としての錘体242を有しており、錘体242は、ガイドロッド240が自身の挿通穴244に貫通するような状態で配設されることで、案内手段であるガイドロッド240に案内されつつ、ステアリングコラムの軸線に平行な方向に移動可能とされている。また、ガイドロッド240を挿通させる状態でスプリング246が配設されている。このスプリング246は、圧縮コイルスプリングであり、錘体242を後方に向かって付勢する付勢手段として機能する。このスプリング246の働きによって、通常状態では、錘体242は後端位置に位置させられている。
ステアリングホイール40に運転者が衝突する場合等、ステアリングコラム10に衝撃が加わった場合、先の実施例で説明したように、後部チューブ30を含むコラム移動部は、固定を解除されて前方への移動が許容される。図13に、コラム移動部が前方へ移動している状態を示す。図に示すように、コラム移動部が前方へ移動するのに従って、EAプレート210も前方へ移動する。その際、EAプレート210は、固定ロッド220と可動ロッド222とに挟まれ、それらによって扱かれるように変形箇所を移動させながら移動するため、その変形抵抗に起因するエネルギ吸収荷重が発生する。そのエネルギ吸収荷重を受けながら移動するため、ステアリングコラム10に加わる衝撃のエネルギが吸収されるのである。
本荷重発生装置204は、車両の衝突時の二次衝突において、その車両の衝突の衝撃の大きさによって、エネルギ吸収荷重が変更される。車両が衝突した場合、慣性質量体である錘体242は、慣性力で前方へ移動する。スプリング246による移動阻止力に抗って移動するため、その移動量つまり変位量は、衝撃の大きさに応じた量となる。衝突の衝撃が小さい場合は、その変位量が小さいため、コラム移動部の移動に伴って、可動ロッド222がEAプレートによって持ち上げられ、可動ロッド222が錘体242のテーパ部248に当接するため、前方へ変位した錘体242は押し戻される。この状態が、図13に示す状態であり、その場合は、EAプレート210の変形量は小さいため、比較的小さなエネルギ吸収荷重が発生する。これに対して、衝突によって車両が受ける衝撃がある閾値を超えて大きい場合は、錘体242は、円筒部250が可動ロッド222と接する位置まで変位させられる。円筒部250が可動ロッド222と接する状態において、可動ロッド222をEAプレートに押付ける力が作用するようにされているため、錘体242が押し戻されることはない。錘体242の円筒部250が可動ロッド222と接したままコラム移動部が移動する状態が、図13(b)に示す状態であり、この状態においては、EAプレート210の変形量は大きく、比較的大きなエネルギ吸収荷重が発生することになる。
本荷重発生装置204についてまとめれば以下のようになる。本荷重発生装置204は、コラム移動部に対して移動不能に設けられた第1部材としてのEAプレート210と、車体に対して移動不能に設けられた第2部材としての固定ロッド220および可動ロッド222とを有し、それら2種の部材は、互いに係合しつつ、コラム移動部の移動に伴って相対移動させられる。そして、その相対移動に対する移動抵抗として、係合箇所においてEAプレート210の変形に要する力に起因するエネルギ吸収荷重を発生させる。慣性質量体である錘体242は、ガイドロッド240,スプリング246等によって構成される慣性質量体変位許容装置によって、衝撃の大きさに応じた変位量となるように変位させられる。この変位量がある閾値を超えて大きい場合、つまり、車両が受ける衝撃がある閾値より大きい場合に、錘体242が作用して、EAプレート210と固定ロッド220および可動ロッド222との係合状態が変更されることで、EAプレート210の変形に要する力が変更され、それに伴って、発生するエネルギ吸収荷重が段階的に変化させられる。つまり、本荷重変更装置204は、慣性質量体である錘体242の変位に依拠してエネルギ吸収荷重を変更する上記構成のエネルギ吸収荷重変更機構を備えるものとされており、そして、そのことにより、荷重変更装置204を含んで構成される本実施例の衝撃吸収装置200は、慣性質量体の変位に依拠してエネルギ吸収量を変更するエネルギ吸収量変更機構を備えるもととされているのである。
次に、上記実施例の変形例を説明する。図14に、変形例の衝撃吸収装置200を示す。図14においては、衝撃吸収装置および荷重発生装置は、同じ符号を使用し、同じ構成要素については、同じ符号を使用する(本実施例の他の変形例も同様とする)。本衝撃吸収装置200、つまり、本荷重発生装置204は、慣性質量体である錘体270と、それの変位を許容する慣性質量体変位許容装置のみが、上記実施例と異なる。
本衝撃吸収装置200においては、錘体270を案内するガイドロッド272が比較的長くされており、それの後方部分にはラチェット歯274が形成されている。錘体270の後方部には、ラチェット歯274と噛合するラチェット爪276を有している。このラチェット歯274およびラチェット爪276によりワンウェイ機構が構成され、錘体270は、前方への移動は許容されるが、後方への移動は禁止されている。また、錘体270のテーパ部278は比較的長く形成されており、想定される錘体270のいずれの変位位置においても、可動ロッド222はテーパ部278と係合するようにされている。このように構成することにより、錘体270の変位量に応じて、他段階にエネルギ吸収荷重、つまりエネルギ吸収量を変更することが可能となる。ラチェット歯274を細かく形成する等すれば、連続的とみなせる態様でのエネルギ吸収量の変更が可能となる。
<第3実施例>
図15に、第3実施例の衝撃吸収装置のステアリングコラムの側面から見た外観図を示し、図16に、それの構造を説明するための一部分の斜視図を、図17に、それの断面図を、図18に、それの一部分を前方から見た図を、それぞれ示す。本実施例が適用されるステアリングコラム10は、先の実施例のものと殆ど同じものであるため、同じ構成要素に同じ符号を採用するとともに、説明は省略する。図15に示すように、本実施例の衝撃吸収装置300は、コラム移動部を構成する後部チューブ30と車体との間に配設されている。詳しくは、支持部材54とリンフォースメントの取付部302との間に介在するように配設されている。
本衝撃吸収装置300は、先の実施例のものと同様、エネルギ吸収荷重を発生させる荷重発生装置304を含んで構成されている。荷重発生装置304は、先の実施例と同様、主に部材の変形に要する力に起因するエネルギ吸収荷重を発生するものであり、その変形部材としてのEAプレート310を有している。
EAプレート310は、概ねU字状に屈曲させられた金属製の帯状材料である。EAプレート310は、被支持部材54の構成部材である保持部材62の一部および被支持プレート64を、U字の内側に内在させる状態で配設されており、屈曲部の内側には、概ね半円筒形状をなす樹脂製の変形強制部材312が、ぴったりと嵌り込むようにされている。この嵌り込みによって、EAプレート310の脱落が防止されている。また、被支持部材54には、被支持プレート64の上面に、EAプレート310を下方から支承するバックアッププレート314が設けられている。また、被支持部材54には、保持部材62および被支持プレート64を貫通する角穴316が設けられ、この角穴316を貫通する状態で、1対のコの字形状の部材が角穴316の側壁面に固定されている。コの字形状の部材は、EAプレート310が変形する際にEAプレート310のU字が拡がるのを防止するための矯正部材318である。
リンフォースメントの取付部302には、コの字状に屈曲されて形成され、1対の腕部330を有するブラケット332が固定されている。ブラケット332には、1対の腕部330に設けられた軸孔334に両端を挿通させた状態で、支持軸336が固定されている。この支持軸336に、慣性質量体である揺動体338が揺動可能に軸支されている。揺動体338は、概してコの字形状に屈曲させられて形成された主部材340と、丸棒からなる錘部材342と、円筒形状のカラー344とを含んで構成されている。主部材340の両側の各々を構成する側部346には軸孔348が設けられ、カラー342は、この軸孔348と同軸的に位置させられかつ両方の側部346を繋ぐ状態で、主部材340に固定される。2つの軸孔348およびカラー342を支持軸336が貫通することで、揺動体338が揺動可能とされているのである。錘部材342は、両方の側部346の先端部においてそれら両側部346を繋ぐように固定されている。上記構成から、揺動体338は、重量バランスが偏ったものとなっており、重力の作用により、平常時には、図15および図17における実線で示す位置に位置させられている。揺動体338は、揺動範囲の終端、詳しくは、図17における右回りの方向における終端において、図17に二点鎖線で示すように位置させられる。つまり、揺動範囲の一方の終端は、ブラケット332に設けられたストッパ350に、揺動体338の錘部材342の外周面が当接することによって規定されるのである。なお、図18(a)は、平常状態を示し、図18(b)は、揺動の終端に位置する状態を示す。
ステアリングホイール40に運転者が衝突する場合等、ステアリングコラム10に衝撃が加わった場合、先の実施例で説明したように、後部チューブ30を含むコラム移動部は、固定を解除されて前方への移動が許容される。本実施例の場合、上記揺動体338の揺動位置によって、エネルギ吸収荷重の発生の有無が決定される。図19に、コラム移動部が固定を解除されて移動している状態を示す。図19(a)は、上記平常状態においてコラム移動部が移動している様子を示す図であり、図19(b)は、揺動体338が揺動範囲の終端位置まで揺動した状態においてコラム移動部が移動している様子を示す図である。
EAプレート310は、上方に位置する方の端部が概ね直角に折り曲げられるとともにT字状に形成されており、その端部が被係止部360とされている。また、揺動体338の主部材340において、側部346を繋ぐ部分である連結部362に切込364が形成されており、その切込364において被係止部360を係止可能とされている。図19(a)に示すように、通常状態においては、連結部362が跳ね上がった状態となっているため、EAプレートの被係止部360は、係止されない。したがって、コラム移動部が移動する場合に、EAプレート310は変形させられずにコラム移動部とともに移動する。そのため、本荷重発生装置304によってはエネルギ吸収荷重は発生しない。これに対し、図19(b)に示すように、揺動体338が、ある揺動位置を越えて揺動する場合、EAプレート310の被係止部360は、連結部362によって係止される。EAプレート310が係止される場合、EAプレート310は車体に対して移動不能とされるため、EAプレート310のU字屈曲部が変形強制部材312によって変形されつつ、コラム移動部と相対移動することになる。この変形に要する力に起因して、本荷重発生装置304は、所定のエネルギ吸収荷重を発生させることになる。
衝突によって車両が衝撃を受ける場合、慣性質量体である揺動体338は、慣性力によって揺動、つまり変位させられる。揺動体338には、その変位を阻止する力としての重力も作用しているため、揺動体338の揺動位置、つまり変位量は、車両の衝撃の大きさに応じた量となる。つまり、本荷重発生装置304は、慣性質量体変位許容装置ををなえており、そのため、上記EAプレート310が係止される程度の変位量となる衝撃を閾値として、それよりも大きな衝撃を受ける場合に、二次衝突の衝撃を吸収するためのエネルギ吸収荷重を発生させることになる。
本荷重発生装置304および本衝撃吸収装置300についてまとめれば、以下のようになる。本荷重発生装置304は、コラム移動部に対して移動不能に設けられた第1部材としての変形強要部材312等と、車体に対して移動不能とされる場合において、その変形強要部材312等と係合しつつ相対移動させられる第2部材としてのEAプレート310とを含んで構成され、それらの相対移動に対する抵抗として、EAプレート310の変形に要する力に起因するエネルギ吸収荷重を発生させる装置である。そして、慣性質量体である揺動体338の変位に基づいて、車体に対するEAプレート310の相対移動の可否の状態を切り替えることで、エネルギ吸収荷重の大きさを段階的に変更する、詳しくは発生の有無を切り替える装置である。つまり、本荷重変更装置304は、慣性質量体である揺動体338の変位に依拠してエネルギ吸収荷重を変更する上記構成のエネルギ吸収荷重変更機構を備えるものとされており、そして、そのことにより、荷重変更装置304を含んで構成される本実施例の衝撃吸収装置300は、慣性質量体の変位に依拠してエネルギ吸収量を変更するエネルギ吸収量変更機構を備えるもとされているのである。
上記実施例の変形例として、揺動体338の変位を許容する装置を、図20のように,構成することも可能である。図20示す変形例の装置では、支持軸336の一方の端部がブラケット332の腕部330から突出しており、この突出部にスプリング370が設けられ、そのスプリング370によって揺動体を338を点線矢印の方向に付勢するように構成されている。なお、平常状態における変位を規定するため、腕部330には、ストッパ372が設けられている。このような構成の装置とすれば、衝突によって車両が受ける衝撃が小さい場合に、不用意に揺動体338が揺動することを防止できる。また、図示は省略するが、衝撃を受けた際に慣性力によって揺動した後、重力によって平常状態に戻ることを阻止するために、揺動体変位許容装置にワンウェイ機構を組み込んでもよい。さらに、上記実施例では、EAプレート310が係止されない場合、すなわち、車両が受ける衝撃が小さい場合、エネルギ吸収荷重を殆ど発生させないようにされているが、例えば、先に説明したところの、前部チューブ32と後部チューブ30との間に介装されているライナ34の摩擦係数の調整,それら2つのチューブ30,32とのクリアランスの調整等により、ベースとなるエネルギ吸収荷重を、本荷重発生装置304とは別の部分において発生させるようにしてもよい。
第1実施例の衝撃吸収装置が適用されたステアリングコラムが車体に取付けられた状態を示す側面図である。
図1に示すステアリングコラムの平面図である。
図1に示すステアリングコラムの側面断面図である。
図1に示すステアリングコラムの後部チューブの取付構造を示す斜視図である。
第1実施例の衝撃吸収装置を構成する荷重発生装置をステアリングコラムの側面視において示す図である。
図5に示す荷重発生装置を示す断面図であって、ステアリングコラムの軸線を含む面における断面図である。
図5に示す荷重発生装置を示す断面図であって、ステアリングコラムの軸線に直角な面における断面図である。
第1実施例の変形例である衝撃吸収装置を構成する荷重発生装置を示す図である。
第1実施例の別の変形例である衝撃吸収装置を構成する荷重発生装置を示す図である。
第2実施例の衝撃吸収装置をステアリングコラムの側面視において示す外観図である。
図10に示す衝撃吸収装置の構造を説明するための一部断面図である。
図10に示す衝撃吸収装置の構造を説明するための部分斜視図である。
図10に示す衝撃吸収装置が衝撃エネルギを吸収している状態を示す図である。
第2実施例の変形例の衝撃吸収装置を示す図である。
第3実施例の衝撃吸収装置をステアリングコラムの側面視において示す外観図である。
図15に示す衝撃吸収装置の構造を説明するための部分斜視図である。
図15に示す衝撃吸収装置の構造を説明するための一部断面図である。
図15に示す衝撃吸収装置の構造を説明するためにそれの一部分を前方から見た図である。
図15に示す衝撃吸収装置において、コラム移動部が固定を解除されて移動している状態を示す図である。
第3実施例の変形例である衝撃吸収装置において、慣性質量体の変位を許容する装置の構成を説明するための図である。
符号の説明
10:ステアリングコラム 12:後部シャフト 14:前部シャフト(第2部材) 30:後部チューブ 32:前部チューブ 40:ステアリングホイール 54:被支持部材 56:リンフォースメント(車体) 70:チルト・テレスコピック機構 100:荷重発生装置 102:摩擦プレート(第1部材) 104:プレート押圧機構 106:ダンパ 118:両ネジボルト 120:揺動プレート(慣性質量体) 128:錘部材(慣性質量体) 150:衝撃吸収装置 170:ソレノイド(変位規制装置) 178:電子制御ユニット 180:シートベルトセンサ 200:衝撃吸収装置 202:取付部(車体) 204:荷重発生装置 210:エネルギ吸収プレート(EAプレート)(第1部材) 220:固定ロッド(第2部材) 222:可動ロッド(第2部材) 228:屈曲部 240:ガイドロッド(慣性質量体変位許容装置) 242:錘体(慣性質量体) 246:スプリング(慣性質量体変位許容装置) 270:錘体(慣性質量体) 272:ガイドロッド(慣性質量体変位許容装置) 274:ラチェト歯 276:ラチェット爪 300:衝撃吸収装置 302:取付部(車体) 304:荷重発生装置 310:エネルギ吸収プレート(EAプレート)(第2部材) 312:変形強制部材(第1部材) 332:ブラケット(慣性質量体変位許容装置) 338:揺動体(慣性質量体) 360:被係止部