JP4148500B2 - 細胞培養用の基体、その製造方法、それを用いた細胞培養法及び細胞培養装置 - Google Patents

細胞培養用の基体、その製造方法、それを用いた細胞培養法及び細胞培養装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば細胞の接着、増殖、分化、生存、未分化状態の維持及び細胞死の少なくとも一つの機能を制御しながら細胞を培養するのに用いる細胞培養用の基体、その製造方法、それを用いた細胞培養方法、及び細胞培養装置に関する。更に詳しくは、微小液滴吐出手段により吐出された細胞の接着、増殖、分化、生存、未分化状態の維持及び細胞死の少なくとも一つの機能に影響を与える細胞培養制御用物質が固定化された基体、その製造方法及びそれを用いた細胞培養方法に関する。また本発明は、細胞培養制御用物質として、特に細胞の増殖及び分化の制御の少なくとも一つの機能に影響を与える物質を用いて細胞の増殖や分化を制御しながら培養する方法とそれに好適に用いることのできる細胞培養用の基体、その製造方法及び細胞培養装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、動植物の細胞を種々の条件下において培養する研究、あるいは特定の培養細胞の代謝活動による産生物の研究が活発に行われており、特に人工的には合成が不可能であるか、あるいは合成が極めて困難な物質を特定の細胞活動を利用して製造することが多方面において検討されている。
【0003】
また、細胞工学や医工学の急速な進歩とともに、細胞を用いた超小型バイオセンサーや人工臓器、更にはニューロコンピューターなどが注目を集め、これらの開発が活発に行われている。ところで、細胞の接着、増殖、分化、生存、未分化状態の維持、更には細胞死(アポトーシス)等の機能に影響を与える物質には、個体差があり、且つ複数の物質が複合的に該機能に影響を及ぼしている場合があるため、これらの機能を制御しつつ細胞培養を行う為には、上記したような機能を制御する条件(物質やその組合わせ、比率などを含む)の特定が欠かせない。
【0004】
USP5108926号公報には、インクジェットプリンタを用いて細胞接着性蛋白質を基体に付与してパターンを形成し、細胞のポジショニングを行なう方法やその為の装置が開示されている。
【0005】
また、Biotechnol. Prog.,12, 700-702,(1996)では、細胞の増殖・分化に影響を与える細胞成長因子を基板上にフォトリソグラフィ技術を用いて固定化し、細胞の増殖・分化に与える影響を検討している。
【0006】
また、特表2000-512009号公報では、細胞接着性に影響を与える物質を基板上に固定化し、細胞のスクリーニングを行う方法について提案がなされている。ここでは、基板上に設けられた反応性官能基と細胞接着性物質を二価の架橋試薬により固定化している。また反応性官能基と細胞接着性物質を結合させる際にフォトリソグラフィの手法を用いたことが記載されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記の先行技術に記載されている装置や手法は、例えば効率的な細胞培養を行う上で未だ改良の余地を含んでおり、またフォトリソグラフィの手法の使用は、前記したような機能を制御した細胞培養の低コスト化、更にはこれに基づく病気の治療等の迅速化において未だ十分と言うことはできない。
【0008】
そこで本発明の目的は、上述の従来例が有している課題を解消し、簡便な工程で形成できる細胞の接着、増殖、分化、生存、未分化状態の維持及び細胞死から選ばれる少なくとも一つの機能を制御した培養を行うことのできる細胞培養用基体およびその製造方法を提供し、細胞工学等の研究をさらに発展させ、また細胞を利用した各種デバイスを作製するための基盤となる技術を提供することにある。
【0009】
また、本発明の目的は、これら細胞の接着、増殖、分化、生存、未分化状態の維持及び細胞死から選ばれる少なくとも一つの機能を制御可能な細胞培養方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の一態様にかかる細胞培養用の基体は、細胞の増殖、分化、生存、未分化状態の維持及び細胞死の少なくとも一つの機能に関与する、または細胞を接着するための細胞培養制御用物質を含む液体を微小液滴吐出手段によって基体に付与し、該基体に該細胞培養制御用物質を固定化せしめることによって形成されてなる該細胞培養制御用物質の固定化領域を有する細胞培養用の基体であって、
前記細胞培養制御物質が、細胞外基質蛋白質、抗体、サイトカインの中から選択される少なくとも一つであり、
前記固定化領域が、帯状もしくはドット状のパターンであり、該パターンの幅が、培養しようとする細胞の幅と同等もしくは小さく、且つ2種類以上の細胞培養制御用物質が前記固定化領域に含まれていることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様にかかる細胞培養用の基体の製造方法は、
(i)細胞外基質蛋白質、抗体、サイトカインの中から選択される少なくとも一つである細胞培養制御物質を含む液体を微小液滴吐出手段により基体上の所定領域に付与する工程と、
(ii)前記工程(i)で基体上に付与された該液体中の細胞培養制御用物質を該基体に固定する工程と、
を有し、前記固定化領域が、帯状もしくはドット状のパターンであり、該パターンの幅が、培養しようとする細胞の幅と同等もしくは小さく、且つ2種類以上の細胞培養制御用物質が前記固定化領域に含まれるように形成する
ことを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様にかかる細胞培養方法は、上記の構成を有する細胞培養用基体が担持している細胞培養制御用物質が培養液と接触するようにして細胞培養を行う工程を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様にかかる細胞培養装置は、上記の構成を有する細胞培養用基体が担持している細胞培養制御用物質に培養液が接触する状態で細胞を培養する手段を具備していることを特徴とする。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
(第1の態様)
本発明の第1の態様の特徴事項の一つは、細胞の接着、増殖、分化、生存、未分化状態の維持及び細胞死から選ばれる少なくとも一つの機能に影響を与える細胞培養制御用物質を含む液体を微小液滴吐出手段によって該基体に付与し、該基体に固定化せしめることによって形成されてなる該細胞培養制御用物質の固定化領域を有する細胞培養用の基体にある。
【0020】
以下に本態様にかかる細胞培養用の基体について、それの断面図である図1を用いて説明する。細胞培養用の基体1は、ベース11上に細胞の接着、増殖、分化、生存、未分化状態の維持及び細胞死から選ばれる少なくとも1つの機能を通する細胞培養制御用物質が所望の位置に配置された固定化領域12を有する。この固定化領域内では、ベース11上に、細胞の培養中に培養液中に離脱して、その機能が損なわれないように細胞培養制御用物質が固定化されている。細胞培養制御用物質を基体に固定化されることにより、例えば該基体の細胞培養制御物質付着面が、細胞培養液の流れと接触しても、細胞培養制御用物質が流出してしまうことがない。更に、後述するように、細胞培養の過程において、細胞培養制御用物質が細胞内に取り込まれることを抑制でき、細胞に対して連続的に刺激を与え続けることとなる。その結果として、該物質による細胞培養に与える影響が継続し、例えば細胞の増殖効率の向上等の効果が認められるものである。
【0021】
細胞培養制御用物質は、上記のように基体1への細胞の接着位置の制御、増殖の程度の制御(促進する場合や抑制する場合を含む)、分化の制御(促進する場合や抑制する場合を含む)、生存、未分化状態の維持、更には細胞死(アポトーシス)から選ばれる少なくとも1つの機能に影響を与える物質であることが好ましい。このような物質の例には、例えば細胞外基質蛋白質や細胞の表面と特異的結合能を有する抗体、サイトカインの他、細胞と結合、あるいは、細胞内に取り込まれ、細胞の増殖、分化に影響を与える化学物質などが含まれる。また、細胞外基質蛋白質の例は、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニンなどを含む。また、サイトカインは、例えば細胞成長因子やホルモンと呼ばれるものを含み、細胞成長因子は、例えば神経成長因子(NGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、繊維芽細胞成長因子などを含む。また、ホルモンの例はインスリンやアドレナリンなどを含む。
【0022】
1箇所の固定化領域にて基体に固定化されている細胞培養制御用物質は、1種類でも2種類以上でもよい。例えば、異なる機能を有する2種類以上の細胞培養制御用物質を同一固定化領域内に固定化することにより、細胞の接着、増殖、分化、生存、未分化状態の維持及び細胞死から選ばれる少なくとも1つの更に高度な制御が可能となる。細胞培養制御用物質は、その種類や配置パターンといった化学的・物理的性質の違いにより基体に固定化することができる。
【0023】
また、互いに離間した複数の固定化領域において、基体に固定されている細胞培養制御用物質は、必ずしも同一である必要はなく、細胞培養の目的に応じて各固定化領域に含まれている細胞培養制御用物質が異種のものであってよい。
【0024】
また、1つの固定化領域で複数の細胞培養制御用物質が基体に固定されている場合、互いに離間している複数の固定化領域で、複数の細胞培養制御用物質の組合せは同じであってもよく、また異なっていてもよい。また、複数の互いに離間している固定化領域における細胞培養制御用物質の組合せが同じ場合でも、その濃度比を異ならせることも有用である。かかる基体を用いることで、多種条件下で細胞の接着性、増殖、分化、未分化状態の維持、細胞死などから選ばれる少なくとも1つの機能を制御して培養することができる。複数の細胞培養制御物質の協働が、細胞培養に影響を与える可能性を考慮すると、この様に複数の固定化領域で、細胞培養制御用物質の組合せや、濃度比を変化させることで、如何なる環境が、細胞培養に最も大きな影響を与えるものであるか、といった情報の取得も可能となる。
【0025】
細胞培養制御用物質のベース11上への固定化は、共有結合を介してでも、静電引力を介してでも、生物学的親和性を用いてもよい。共有結合を介してベース11上に固定化する場合は、強固な力で細胞培養制御用物質を固定化でき、細胞や培養液などによりその結合力は影響を受けにくく、ベース上に安定した固定化領域を形成できる。
【0026】
ここで、一具体例として、細胞培養制御用物質12として、インスリンを用いる場合の、インスリンを基板11上に共有結合で固定化する方法を説明する。
【0027】
先ず、インスリンにリンカーとしての4-Azidobenzoic acid N-hydroxysuccinimide ester を導入する(下式参照):
【0028】
【化1】
Figure 0004148500
【0029】
こうして得られたリンカーが結合したインスリン溶液をインクジェットプリンタを用いて、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)製ベース上に吐出する。次いで、このベースに対してUV光を照射すると、リンカーのアジド基が開裂してPET製ベースの炭素原子とアミド結合を形成し、その結果としてインスリンが下記式に示すようにベース表面に共有結合で固定される。
【0030】
【化2】
Figure 0004148500
【0031】
そして本発明者らは、この様に共有結合でインスリンを表面に固定化したベースを用いて細胞培養を行ったときの細胞の成長速度は、インスリンを溶解状態で含む培養液で細胞培養したときと比較して、大幅に増大するとの知見を得ている。このような結果が得られる理由は明らかでないが、インスリンが溶液状態で含まれている場合には、当該インスリンは、細胞によって取り込まれ、消費されてしまうのに対し、ベースに固定化した場合には、細胞によるインスリンの消費が生じ難く、細胞がインスリンによる刺激を継続的に受け続ける為であると考えられる。
【0032】
また、静電引力による固定化の場合は、化学的な処理を行わなくてもベース11上に固定化領域を形成でき、化学的な処理による細胞培養制御用物質の変性の可能性を排除できる。さらに生物学的親和性を用いてベース上11に固定化領域を設ける場合には、細胞培養制御用物質への固定化に必要な処理が比較的容易であり、安定した固定化が可能である。
【0033】
ベース11は、細胞培養制御用物質を安定して固定化できるものであれば材質や形状はいずれでもよい。具体的には、ガラス基板、プラスチックプレート、プラスチックシート、ポリマーフィルム、紙などを好適に用いることができる。さらにベース11は透明であっても、遮光性のものであっても、さらには着色されていてもよい。また、ベース11上に細胞培養制御用物質を固定化するため、あるいは、ベース11上での細胞培養制御用物質の安定性を高めるため、ベース11上の一部、あるいは全面を化学物質により処理したり、放射線を照射する処理を行っても良い。
【0034】
また、ベース11は、細胞培養制御用物質が固定化されている個々の領域12、または、2つ以上の固定領域から形成される固定領域群は基板表面に形成された凹部(窪み又はウェル)内に形成されていてもよい。このことにより、微小液滴吐出手段により配置される液滴の基板の所定位置への配置を容易にすることができ、更に、ウェルにより連結されている個々の領域または領域群ごとに培養液を変えて細胞を培養することができる。
【0035】
また、ベース11は、細胞培養制御用物質が固定化されている個々の領域12、または、2つ以上の領域から形成される領域群が壁状構造物により囲まれていてもよい。このことにより、微小液滴吐出手段により配置される液滴の配置を容易にすることができ、更に、窪みにより連結されている個々の領域または領域群ごとに培養液を変えて細胞を培養することができる。加えてベース11上に壁状構造物を作製するためには、フォトリソグラフィ法などを用いることができ微細な壁状構造物の作製が容易である。なお、ここでのフォトリソグラフィ法を使用は、壁状構造物の形成のためであり、何ら細胞培養制御用物質の浪費にはつながらない。
【0036】
以上説明した構成の細胞培養用基体1の製造方法の具体例を図2を用いて説明する。ベース11は、まず、必要に応じて前述した処理を行ってもよい。具体的には、ベース11の洗浄を行い、所望でない物質を取り去ったり、紫外線をはじめとする放射線の照射やコロナ放電を行ったりすることなど様々な化学的物理的処理を行うことができる。また、ポリマー材料やシランカップリング剤などを必要に応じてベース11上の一部あるいは全面に塗布してもよい。
【0037】
このようなベース11上に細胞培養制御用物質を配置する。配置には、例えば微小液滴吐出手段13を用いる。微小液滴吐出手段とは、1滴あたりの体積が例えば100pl以下、より具体的には例えば2〜4pl程度の液滴が吐出可能なもので、マイクロピペット、マイクロディスペンサーや、インクジェット法を用いた吐出装置が挙げられる。吐出装置が安価に作製、入手でき、微小な液滴を制御された位置に吐出できる点でインクジェット法を用いた吐出装置を特に好適に用いることができる。さらにインクジェット法の中でも、サーマルインクジェット法とピエゾインクジェット法を好適に用いることができ、サーマルインクジェット法による吐出装置は、吐出口の微細加工が容易で、細胞培養制御用物質を含む液体を高密度に所定の位置に吐出することができ、その結果として細胞培養制御用物質を基体上に高精度に配置することができる。また、ピエゾインクジェット法による吐出装置は、圧電素子の変位により、吐出エネルギーを発生させるので、細胞培養制御用物質12に熱的なストレスを付加することがなく、細胞培養制御用物質を含む液体を安定して吐出できる。
【0038】
また、細胞培養制御用物質は、吐出のために適切な溶媒に溶解、もしくは分散される。溶媒(分散媒)としては、細胞培養制御用物質を安定して溶解もしくは分散させることができるものであればいずれでもよいが、水が好適に用いられる。水としてはイオン交換水(脱イオン水)や細胞培養制御用物質12を安定して溶解させるため種々の緩衝液を使用するのが好ましい。
【0039】
また、必要に応じて水溶性溶剤を用いることができる。水溶性溶剤は水に溶解するものであればいずれでもよく、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2から6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリン等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を適宜選択して使用できる。
【0040】
これらの多くの水溶性有機溶剤の中でもジエチレングリコールなどの多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の低級アルキルエーテルが好ましい。
【0041】
これらの中でもエタノールあるいはイソプロピルアルコール、又は多価アルコールの低級アルキルエーテル類を添加することによって、サーマルジェットタイプの場合には、インクジェットの吐出口内の薄膜抵抗体上でのインクの発泡をより安定に行うことができるため好適に用いることができる。
【0042】
また、本発明にかかる少なくとも細胞培養制御用物質12を含む液体には、上記成分のほかに必要に応じて所望の物性値を持つ溶液とするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、無機塩類、有機塩類等を添加することができる。
【0043】
例えば、界面活性剤としては細胞培養制御用物質12に対して保存安定性等の悪影響を及ぼさないものであればいずれでも用いることができ、例えば、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール、アセチレングリコール等の非イオン性界面活性剤があり、これらの1種又は2種以上を適宜選択して使用できる。
【0044】
微小液滴手段によりベース11上の所望の位置に細胞培養制御用物質を配置すると同時あるいは配置後に、細胞培養制御用物質をベース11上に固定化する。ベース11上に細胞培養制御用物質を固定化するために、前記した様に、細胞培養制御用物質に予め固定化の為の処理を施してもよいし、基体上に予め固定化に必要な処理を施しておいてもよい。細胞培養制御用物質への処理としては、共有結合に必要なアミノ基、カルボキシル基、ジスルフィド基、エポキシ基、カルボジイミド基、マレイミド基などの官能基を細胞培養制御用物質12へ導入してもよく、静電引力を介して結合させるのに必要な金属および無機酸化物微粒子やカチオン性高分子やアニオン性高分子など帯電可能な物質を結合させてもよい。また、生物学的親和性を用いて結合させるために、アビジン分子やビオチン分子を結合させてもよく、抗原分子や抗体分子など生物学的親和力により結合しうる物質を結合させてもよい。また、基板表面に、高分子やシランカップリング剤をコーティングし、共有結合に必要なアミノ基、カルボキシル基、ジスルフィド基、エポキシ基、カルボジイミド基、マレイミド基などの官能基を導入してもよいし、基板表面を帯電させるため、金、銀、白金、鉄などの金属やインジウム錫酸化物、酸化チタン、酸化亜鉛などの無機酸化物さらにはポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性高分子など、導電体層や半導体層を予め基板表面に形成してもよい。更には、細胞培養制御用物質に導入した生物学的親和性を有する物質と結合力を有するビオチン分子やアビジン分子、抗体分子や抗原分子、抗体結合能を有するプロテインAなどの蛋白質をベース11表面に設けてもよい。これら物質を導入することにより、ベース11表面と細胞培養制御用物質12との結合力を強固なものにすることができる。
【0045】
固定化の際には、光をはじめとする放射線照射や、加熱などによりエネルギーを外部から加えてもよい。これらエネルギーを外部から加えることでベース11表面と細胞培養制御用物質12の結合を促進することができる。
【0046】
以上のようにして細胞培養用基板1が作製できる。
【0047】
次に前述した細胞培養用基体1を用いた細胞培養方法について述べる。このような細胞培養基体1の少なくとも固定化領域が培養液と接触している状態において細胞を培養することにより、細胞の接着、増殖、分化、生存、未分化状態の維持、細胞死から選ばれる少なくとも一つを制御しながら細胞を培養することができる。細胞は特に制限されるものはないが、好ましくは、固定化した物質により上記した何れかの機能が影響を受ける可能性のある細胞である。細胞を培養する前に必要に応じて細胞培養用基板1上に紫外線などを照射することにより殺菌処理してもよい。これにより所望でない微生物などにより培養が阻害されないようにすることができる。なお、細胞培養用基板1全体を培養液に浸漬して細胞培養を行ってもよいが、少なくとも細胞培養制御用物質が固定化されている領域が培養液と接触していれば、細胞の接着、増殖及び分化の少なくとも一つを制御しながら培養することは可能である。
【0048】
また、細胞培養用基体1上で細胞を培養している際、あるいは一定期間の細胞培養後、培養液中に所望の物質を添加してもよい。これにより細胞の増殖、分化を変化させたり、基板上への接着性を変化させたりすることができる。また、培養液の流れを細胞培養制御用物質に対して接触させて、すなわち培養液を灌流させて培養を行ってもよい。
【0049】
また、細胞培養用基板1上で細胞を培養している際、あるいは一定期間の細胞培養後、培養細胞群を基板上から取り外してもよい。こうすることで培養細胞が取り除かれた基板を再度利用することができ、また、取り外した培養細胞群を人工的に作製した生体組織あるいはその一部として利用することができる。
【0050】
(第2の態様)
次に、本発明にかかる第2の態様について説明する。
【0051】
例えば、生体外において、胚幹細胞を様々な機能を有する細胞に分化させ、増殖させる技術は、今後の再生医療の発展という観点からも極めて重要なものと考えられている。しかし、細胞培養の過程において、細胞を配列させ、その増殖、分化を制御することは極めて困難で、前述のような細胞を利用した研究開発の進展の大きな障壁となっている。蛋白質・核酸・酵素,45〜5,727〜734,(2000)では、細胞の増殖・分化に影響を与える細胞成長因子のパターンを細胞の大きさ以下でフォトリソグラフィ技術を用いて固定化し、基板上で培養された細胞の増殖に与える効果を蛋白質産生量の測定により明らかにしている。また、同文献の中で、神経成長因子のパターンを細胞の大きさ以下でフォトリソグラフィ技術を用いて固定化し、神経細胞の軸索の伸長方向を制御している。
【0052】
しかしながら、フォトリソグラフィ法を用いた培養基体の製造は、露光、現像といったプロセスを繰り返さなければならず製造工程が複雑となる。また、培養基体の製造の過程において、例えば、生体内に少量しか存在しない、細胞の接着、増殖、分化、生存、未分化状態の維持や細胞死の何れかに影響を与えるような生体物質を浪費してしまうなどの課題があった。
【0053】
また、複数の細胞接着性蛋白質や細胞成長因子などの細胞培養制御用物質を用いて細胞の接着・増殖・分化の制御を行う場合は、フォトリソグラフィ法では、必ず固定化済みの物質と、これから固定化する物質とを接触させねばならず、その際にこれら物質間で非特異的な吸着が起こることは不可避で、その結果、所望でない領域に細胞培養制御用物質を固定化してしまい、所望の形で細胞の接着・増殖・分化の制御を行うことは本発明者らの検討では非常に困難であった。
【0054】
しかしながら、上記した第1の態様にかかる基体の製造に用いたような微小液滴吐出手段を利用することで、上記したような種々の課題を解決し、例えば細胞の増殖や分化を高精度に制御することのできる細胞培養用の基体を製造することができる。
【0055】
即ち、第2の態様にかかる細胞培養用の基体は、細胞培養制御用物質が基体上に帯状又はドット状のパターンに配置されてなり、該パターンの幅が、培養しようとする細胞のサイズと同等もしくはそれ以下であり、該パターンが微小液滴吐出手段を用いて形成されてなるものである。
【0056】
なお、ここで「同等」とは、1以上2倍未満の範囲のことを指し、好ましくは、1以上1.5倍未満のことを言う。つまり、パターンの幅は、細胞のサイズの2倍未満とすることが好ましい。このことによりパターン上には細胞は物理的に1つしか付着できず、それにより当該細胞の成長や分化の方向が自ずから規定されてしまうこととなる。その結果として、接着性や配向性、さらに細胞の増殖、分化を個々に制御することが可能となる。
【0057】
具体的には、例えば培養後の細胞に組織的な構造を付与することが可能となる。図3は、本態様にかかる細胞培養基体の製造方法の概略説明図である。図3において31はベース、33はインクジェット記録ヘッド、22はインクジェット記録ヘッド13から吐出された細胞培養制御用物質12を含んでいる液体の滴であり、当該液体の滴をベース31の表面に付着せしめることで細胞培養用の基体3が得られる。そしてこの基体3の、複数の互いに離間した細胞培養制御用物質12の付着部の幅(X)は、好ましくは培養しようとする細胞が該細胞制御用物質付着部の幅方向に2つ並ぶことのないサイズに形成することが好ましく、具体的には、例えば細胞のサイズの2倍未満とする事が好ましい。細胞のサイズはその種類によって異なるが、一般的にミクロンオーダーである。その為、上記方法で細胞培養用の基体を製造する場合において、インクジェット記録ヘッドから吐出させる滴のサイズとしては、例えば100pl以下、特には10pl以下、更には4plもしくはそれ以下が好ましい。滴のサイズをこのように調整することで、培養過程における細胞の制御をより高精度化することが可能である。
【0058】
具体的には、4plの滴を用いた場合、基体の種類や基体の表面状態によっても異なるが例えば10〜30μm程度のドットがベースに形成できる為、かかる液滴のサイズで細胞培養制御用物質が付着された細胞培養用の基体は、細胞の制御された培養に極めて好適に用いることができるものである。かかる方法によれば、細胞培養制御用物質を含む液体を位置制御しながら必要量だけ基板上に吐出すればよく、フォトリソグラフィ法のように、現像工程で取り去られる領域に配置される分まで浪費することがなく、極めて効率的に細胞培養用基体を製造することができる。また、基体上に付着された細胞培養制御用物質は、前記第1の実施態様にて詳述した方法により基体に固定化させることは、より好ましい態様である。この様に、上記した方法によれば、細胞培養制御用物質を含む液体を位置制御しながら必要量だけ基板上に吐出すればよく、フォトリソグラフィ法のように、現像工程で取り去られる領域に配置される分まで浪費することがなく、極めて効率的に細胞培養用基体を製造することができる。
【0059】
ところで、本態様にかかる細胞培養用の基体において、基体上に付着させる細胞培養制御用物質や基体としては、前記第1の実施態様と共通のものを用いることができる為、説明を省略する。また、本態様にかかる基体は、複数の異なるパターン、例えば第1のパターンと第2のパターンとを、1つの基体上に有していてもよい。またその場合、各々のパターンが含んでいる細胞培養用制御物質は同一であっても異なっていてもよい。更に、第1のパターンと第2のパターンが各々複数種の細胞培養制御用物質(例えば第1の細胞培養制御用物質と第2の細胞培養制御用物質)を含んでいてもよい。そして、その場合に、第1及び第2のパターンで、各々が含んでいる第1と第2の細胞培養制御用物質の組合せが同じであっても異なっていてもよい。更に、この組合せが同じ場合においても、第1のパターンと第2のパターンとで、第1及び第2の細胞培養制御物質の比率が異なっていてもよい。この様に基体上に配置する複数のパターンが含む細胞培養制御用物質の種類を様々に調整することで、例えば1つの基体上に異なる機能の細胞を分化、成長させることも可能であると考えられる。
【0060】
図4は、本態様にかかる細胞培養用基体の他の製造方法の説明図である。この方法により得られる基体は、細胞培養制御用物質の表面に細胞が接着できない(細胞非接着)物質を、細胞培養制御用物質が表出している領域の各パターンの幅をその上で培養される細胞の大きさと同等かそれ以下となるように配置したものである。具体的には、ベース11上に予め細胞培養制御用物質12の層を、例えば全面に形成し、その上に細胞非接着物質42を含む液体の滴41を、例えば微小液滴吐出手段13を用いて付与して、細胞培養制御用物質12の層上に選択的に配置し、細胞培養制御用物質12が表出する各領域の幅がその上で培養される細胞の大きさと同等かそれ以下となるようなパターンを形成する。これにより、本態様にかかる細胞培養制御用の基板を得ることができる。これにより細胞非接着物質42の浪費を低減することができる。ここで、細胞非接着物質42は、生体物質に限られず、高分子材料や低分子化合物などでもよく、様々な材料で種々の配置法を用いることが可能であるので、細胞培養制御用物質が表出している領域形成が容易となる。
【0061】
上記図4にかかる方法では、ベース11の表面に細胞培養制御用の物質12の層を予め形成しておいたが、図5に示すように、細胞培養制御用物質12を含む液滴を、微小液滴吐出手段13で付与し、ベース上に付着させ、次いで細胞非接着物質42を含む液滴41を微小液滴吐出手段を用いて付与する。そしてこのときに、該細胞培養制御用物質の付着部12に隣接して、或いは重なって細胞非接着性物質が配置され、その結果として細胞培養制御用物質が露出したパターンの幅を培養しようとする細胞のサイズと同等以下に制御することができる。
【0062】
図6は本態様にかかる細胞培養基体の更に他の実施形態及びその製造方法の概略説明図である。この方法は、例えば、細胞非接着物質42で凸部62を形成する工程と細胞培養制御用物質12を含む液滴22を当該凸部により囲われた部分に付与し、細胞培養制御用物質12を凸部で囲われた部分に配置する工程を含む。この方法を用いることで、例えば基体上に複数の細胞培養制御用物質のパターンを、凸部によって互いに隔離することができる。具体的には、例えば図6に示した様に、ベース11上にフォトレジスト層61を形成し、該フォトレジスト層に選択的な露光を施し、現像することで、細胞非接着性物質42からなる凸部62をベース11上に形成し、その凸部62で囲われた部分に液滴吐出手段13によって細胞培養制御用物質12を付与することで、本態様にかかる細胞培養用の基体1を得ることができる。この方法により予め細胞非接着物質42により細胞培養制御用物質を含む液滴22が吐出される領域が規定されているので、正確に大きさを制御して細胞培養制御用物質12を配置することができる。
【0063】
また、例えば、図7に示すように、図6と同様の方法で形成した細胞非接着物質からなる凸部62を有するベース11に、細胞培養制御用物質12を少なくとも含む液滴を吐出する前に、前記凸部の表面に撥水処理71を施してもよい。この処理により細胞培養制御用物質12を少なくとも含む液滴は、凸部上で弾かれ、凸部により囲われた部分からはみ出すことなく配置することができる。更に、必要に応じて微小液滴手段によりベース11上の所望の位置に細胞培養制御用物質12を配置した後、細胞非接着物質42をベース11上に固定化してもよい。
【0064】
次に前述した、本発明の第2の態様にかかる細胞培養基体を用いて細胞を培養する方法について述べる。細胞培養制御用物質12が配置されている各領域の幅が培養される細胞の大きさと同等かそれ以下の基体上で細胞を培養することにより、個々の細胞の接着性や配向性を制御し、また増殖や分化などの少なくとも1つを制御しながら細胞を培養することができる。このことにより組織培養する際に課題とされていた個々の細胞の配向制御をした上で細胞の増殖や分化をさせることができ、生体内とほぼ同等の組織を形成することが可能となる。ここで培養される細胞は特に制限されるものはなく、いずれの細胞をも培養することができる。細胞を培養する前に必要に応じて培養制御用培養基体1上に紫外線などを照射することにより殺菌処理してもよい。これにより所望でない微生物などにより培養が阻害されないようにすることができる。なお、細胞の培養制御用基体1全体を培養液に浸漬して細胞培養を行ってもよいが、少なくとも細胞培養制御用物質が固定化されている領域が培養液に浸漬されていれば、細胞の接着性や増殖、分化の少なくとも1つを制御しながら培養することが可能である。
【0065】
また、細胞の培養制御用基体1上で細胞を培養している際、あるいは一定期間の細胞培養後、培養液中に所望の物質を添加してもよい。これにより細胞の増殖・分化を変化させたり、基板上への接着性を変化させたりすることができる。
【0066】
また、細胞の培養制御用基板1上で細胞を培養している際、あるいは一定期間の細胞培養後、培養細胞群を基板上から取り外してもよい。こうすることで培養細胞が取り除かれた基板を再度利用することができ、また、取り外した培養細胞群を人工的に作製した生体組織あるいはその一部として利用することができる。
【0067】
ところで、これまで述べてきた細胞培養用基体の製造から、これを用いた培養までを一連の工程として結びつけることで、細胞培養システムを構築することが可能である。具体的には、例えば細胞培養基体の製造から、細胞培養までを一連の工程として処理するシステムである。図9において、901は細胞培養用基体1のベース11の収納室である。ベース11は、ここで必要に応じて基体の殺菌処理などが行われ、細胞培養用基体の製造室902に搬送される。ここでは例えば、上記図2〜図7で説明した細胞培養用基体の製造方法や後述の図8で説明する細胞培養用基体の製造方法の何れかの方法により表面に細胞培養制御用物質が付着した細胞培養基体が作成される。次いで、この基体は、培養室(903)に運ばれ、前記した方法で培養される。そして、培養の結果物は、チャンバー904に搬送され、ここから取り出すことができる。
【0068】
図10は、収納室901から細胞培養用の基体の製造室902の一例の詳細説明図である。ベース11はストッカー1003にセットされており、搬送機1005によりベルトコンベアー1007に送られ、トレー1009に送り出される。1011は、送りのための補助ローラである。トレー1009に送られたベース11は、ポンプ1013での吸引によりトレー1009上にしっかりと吸着固定される。トレー1009上のベース11が第1の処理工程が行われる領域に送り込まれる。1015はUV/O3ランプであり、ベース11の前処理を行う。1017の送りモータで第1の工程の領域から基板が搬出されると、微小液滴吐出手段13によって、細胞培養制御用物質を含む液滴が付与される。細胞培養制御用物質が付与されたベースは、第3の工程の固定化処理が行われる領域に直ちに搬送され該物質はベース上に固定化される。ここではUV照射ランプ1015である。以上の3つの処理工程を経て細胞培養用の基体が形成され、ベルトコンベアー1019と送りローラ1021を介して次の培養室903に搬送される。
【0069】
しかしながら、本願発明にかかる細胞スクリーニング装置は、これら以外の態様であっても、前記目的が達成されるものであれば特に限られるものではない。
【0070】
【実施例】
(第1の態様)
実施例1
(マウス繊維芽細胞STOのインスリンによる増殖促進基板)
ソーダガラス基板上に0.5%の3−アミノプロピルトリエトキシシランのエタノール溶液を塗布し、室温で24時間乾燥した。
【0071】
また、インスリンには、下記の方法に従って、予めN−ヒドロキシスクシンイミド基を導入した。即ち、脱イオン水中に溶解した60mmolのN−ヒドロキシスクシンイミド中に脱イオン水中に溶解した1-エチル-3-(3-(ジメチルアミノ)プロピル)カルボジイミド(WSC)を滴下し、4℃で24時間攪拌した。続いて、リン酸等張緩衝液中に溶解した60mmolのインスリン中に前記反応液を滴下し、4℃で24時間攪拌し、反応生成物をリン酸等張緩衝液により透析して未反応物を除去し、N−ヒドロキシスクシンイミド基を導入したインスリンの溶液を得た。
【0072】
次に、サーマルインクジェット法によるインクジェットプリンターであるキヤノン製BJF870のインクカートリッジをリン酸等張緩衝液で十分に洗浄し、上記で調製した、透析後のインスリン溶液を50%エタノール水溶液で希釈し、50μg/mlに調製した。この溶液をインクジェットプリンターのインクカートリッジに充填し、吐出して基板上へ配置した。描画パターンはプリンターを接続したパーソナルコンピューターにより制御し、1ドロップレットのサイズは約4ピコリットルとした。基板上にインスリン溶液を吐出後、基板を室温で乾燥した後、基板を35℃で1時間インキュベートして、基板上への固定化反応を行った。固定化後の基板は、リン酸等張緩衝液で洗浄し、未反応のインスリンを洗い流した。このようにしてインスリンによる増殖促進基板を作製した。
【0073】
この基板上でマウス繊維芽細胞STOを培養した。培養液は10μg/ml Transferrin を添加したDMEM(Dulbeccos Modified Eagles minimum essential medium)培地を用いた。ガラスシャーレに基板を入れ、5%CO2を含む湿潤空気(95〜100%RH)中で37℃、24時間培養した。基板上の細胞の形態を光学顕微鏡で観察した。その結果、インスリンが固定化された領域では、マウス繊維芽細胞が増殖して密集していることが確認された。
実施例2
(フィブロネクチンとインスリンを固定化した基板)
実施例1と同様にして、フィブロネクチンとインスリンを基板上に固定化した基板を作製した。フィブロネクチンは実施例1と同様の方法で基板上に固定化した。インスリンは同人化学社製ビオチンラベル化キットを用いてビオチン化した。基板上でもビオチンラベル化キットを用い、基板表面にもビオチン基を導入した。続いてアビジンをピエゾジェット法によるインクジェットプリンターであるセイコーエプソン社製インクジェットプリンターPM900Cにより配置し、基板上のビオチンと生物学的親和力により結合させた。さらにビオチンラベルされたインスリンをインクジェットプリンターPM900Cにより配置し、基板上に固定化されているアビジンと反応させて固定化した。なお、基板上には、フィブロネクチンのみが固定化されている領域、インスリンのみが固定化されている領域、及びフィブロネクチンとインスリンとが固定化されている領域の3種類を形成した。フィブロネクチンとインスリンの双方が固定化されている領域は、各々を含む液体の滴が基板上で重なるようにプリンタを制御して形成した。
【0074】
この基板上でマウス繊維芽細胞STOを、トランスフェリンを含まないDMEM培地を用いた以外は実施例1と同様の方法で培養した。培養後、細胞の個数の変化を細胞核を染色し、その数を数えることで行った。培養液から基板を取り出し、リン酸等張緩衝液で洗浄した。続いて、メタノールに30分間基板を浸漬し、基板上に細胞を固定化した。Hoechst33258を1万倍に希釈し、基板上に塗布後、5分間反応させた。その後、リン酸等張緩衝液で洗浄し、蛍光顕微鏡で基板を観察し、染色された核の数を観察した。その結果、フィブロネクチンとインスリンが近接して固定化されている領域では、細胞の増殖が盛んに行われており、10000個/mm2であった。また、インスリンだけが固定化されている領域では、細胞が観察されなかった。さらにフィブロネクチンだけが固定化されている領域では、細胞は10個/mm2程度で、増殖はそれほどなされていなかった。
【0075】
実施例3
(インスリンを場所により密度をかえて固定化した基板)
実施例1と同様にして、インスリンを場所により密度をかえて固定化した基板を作製した。密度を変えるには、描画ソフトでドット密度の異なるハッチングパターンを作製し、パーソナルコンピューターからこのような描画データをプリンターに送信して、基板上の場所によりドット密度が変わるパターンを作製した。具体的には、一定面積の中に50%のドットが形成される領域と、30%のドットが形成される領域と、10%のドットが形成される領域と、2%のドットが形成される領域を作製した。
【0076】
この基板上でマウス繊維芽細胞STOを実施例1と同様の培養法で培養すると、インスリンの密度に応じて細胞の密度が増加している様子が観察された。細胞の密度を実施例2と同様の核染色法を用いて測定したところ、インスリンのパターンが50%ドット領域では、細胞数が10000個/mm2、30%領域では3000個/mm2、10%領域では、300個/mm2、2%領域では100個/mm2であった。
【0077】
実施例4
(インスリンを静電的に基板に固定化させた基板)
基板上にITO(インジウム錫酸化物)をスパッタリング法により形成した。この基板上に何も処理をしていないインスリンをインクジェットプリンターで配置した。実施例1と同様の培養液をpH7.0に保ち、白金電極を対極として基板上に形成されたITOとの間に電圧を印加し、基板表面を正に帯電させた。インスリンは等電点がpH5.3程度であるので、pH7.0付近では負に帯電するため基板上に固定化された。
【0078】
このような基板上でマウス繊維芽細胞STOを培養すると、インスリンが固定化された領域で細胞増殖が観察された。
【0079】
実施例5
(固定化領域が窪んでいる基板)
ガラス基板にフォトレジストOFPR−800(東京応化工業社製)を塗布し、フォトリソグラフィ工程により、微細なレジストパターンを形成した。この基板をフッ酸溶液中に浸漬し、レジストが除かれている部分のガラス表面をエッチングして基板表面を窪ませた。窪みのパターンは培養液が混じり合わないように、互いに連結させなかった。
【0080】
上記基板表面の窪んだ領域に、実施例1と同様のシランカップリング剤で処理した、実施例2で用いた、リンカーを有するフィブロネクチンを含む液体をインクジェットプリンターで吐出し、窪んだ領域の各々にフィブロネクチンの固定化領域を形成した。
【0081】
このようにして作製した基板を用いてマウス繊維芽細胞STOを培養した。
【0082】
窪みにより培養液を変え、牛胎児血清培地、DMEM培地、10μg/mlのトランスフェリンを含むDMEM培地、1%インスリン及び10μg/mlのトランスフェリンを含むDMEM培地を用いたところ、DMEM培地並びにトランスフェリンを含むDMEM培地では細胞増殖は起こらず、牛胎児血清培地、1%インスリンとトランスフェリンとを含むDMEM培地で細胞増殖が観察された。
【0083】
実施例6
(基板上の領域が壁状構造物で囲まれている基板)
上皮細胞成長因子(EGF)は以下の方法により、官能基を導入した。50mmolのジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)のテトラヒドロフラン(THF)溶液をN-ヒドロキシスクシンイミド50mmolと4-アジドベンゼンカルボン酸45mmolのTHF溶液に滴下し、4℃で24時間攪拌しながら反応させた。反応生成物を減圧乾燥後、イソプロパノール/ジイソプロパノール溶液中で再結晶化し精製した。続いてこの反応生成物をジメチルフォルムアミドで溶解し、リン酸等張緩衝液(pH7.0)中に溶解してEGFを少量ずつ滴下していった。4℃で、48時間攪拌し、EGFにアジド基を導入した。
【0084】
また、ポリスルホン基板上にフォトレジストOFPR−800(東京応化工業社製)を塗布し、フォトリソグラフィ工程により、壁状構造物を形成した。
【0085】
続いて基板上の壁状構造物により囲まれている領域にインクジェットプリンターによりアジド基が導入されたEGF溶液を吐出した。乾燥後、紫外線照射ランプを用いて200mJ/cm2照射し、EGFの固定化領域を形成した。未反応のEGFをリン酸等張緩衝液により洗い流して細胞培養用基体を作製した。
【0086】
この基体上でPC12細胞を培養した。培養液には実施例1と同様の培養液を用いた。この基板上で培養するとPC12細胞は増殖せず、樹状突起を伸長して分化した。
【0087】
実施例7
(培養中に化合物を添加する培養法)
実施例6と同様の基板を用い、PC12細胞をDMEM培地中で培養した。培養開始48時間後、固定化領域1には、EGFを添加し、固定化領域2には神経成長因子(NGF)を添加した。また、固定化領域3には何も添加しなかった。
【0088】
その結果、固定化領域1ではPC12細胞が増殖を開始した。また、固定化領域2では樹状突起を伸長していった。さらに固定化領域3では変化が起こらなかった。
【0089】
実施例8
(細胞群を基板から取り外す工程を含む培養法)
ポリスチレン基板上にポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ゲルの層をキャスト法により形成した。この基板上に実施例1の方法でアジド基を導入したインスリンを含む液体を実施例6と同様にして吐出、固定化し、細胞培養用の基体を作製した。この基体上でマウス筋細胞C2C12をDMEM培地中で培養した。インスリンが固定化されたパターンに従ってC2C12細胞が増殖していった。48時間培養の後、培養基板を30℃に冷やすことにより、アクリルアミドゲル層の基板上への接着性が低下し、細胞群が基板上から培養液中に浮遊してきた。この浮遊してきた細胞群を取り出し、細胞群の両端にパルス電位を印加すると細胞群は収縮した。
【0090】
また、細胞を取り外した基板上で例えば37℃程度の温度で再度細胞を培養したところ、インスリンが固定化されているアクリルアミドゲルの層がベースに再び形成され、マウス筋細胞の増殖が確認された。このことは、細胞培養基板が再利用できる可能性を有していることを示唆するものである。
【0091】
(第2の態様)
実施例9
(インスリン基板)
図2に示すようにポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム11上に、サーマルインクジェットプリンター(商品名BJF870;キヤノン(株)社製)を用いて、そのインクジェットヘッド13から細胞培養制御用物質12であるインスリンを吐出し、培養制御用培養基板1であるインスリン基板を作製した。
【0092】
先ず、リン酸等張緩衝液(pH7.0)で、当該インクジェットプリンターのインクカートリッジを十分洗浄した後、インスリンを含有するリン酸等張緩衝液(pH7.0)を50%エタノール水溶液で希釈し、50μg/mlとした溶液をインクカートリッジに充填した。プリンターをコンピューターに接続し、プリンタードライバ付属のノズルチェックパターン印刷を行うことで、1ノズルにより描画される極細線パターンをPETフィルム11上に描画し、インスリンのパターンをフィルム11上に作製した。
【0093】
今回プリンターで吐出した液滴の体積は、下記のようにして測定した。インスリン溶液を充填したインクカートリッジを秤量し、100万ドット吐出した時のカートリッジ重量から吐出された溶液重量を求めた。また、インクの比重を求め、インク一滴あたりの体積を計算したところ3.5plであった。
【0094】
作製したインスリン基板は、インスリンが幅10μmの細線パターンが形成されていた。次いで、該インスリン基板を、殺菌灯を用いて殺菌した後、このインスリン基板をガラスシャーレ中に浸漬して、マウス筋細胞C2C12を培養した。培養液は10μg/ml Transferrin を添加したDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's minimum essential medium)培地を用いた。そして、マウス筋細胞C2C12を播種し、5%CO2を含む湿潤空気(95〜100%RH)中で37℃、24時間培養した。そして、細胞の形態変化を観察したところインスリンの細線パターンに沿って細胞が1列に並んで増殖している様子が観察され、インスリン基板によりマウス筋細胞C2C12の増殖と配向を制御できた。この時細胞の幅は9μmであった。
【0095】
実施例10
(ポリ−L−リジン基板)
図4に示すようにガラス基板11上に細胞培養制御用物質12であるポリ−L−リジンの1%水溶液をスピンコート法により塗布し、基板11上に膜厚10nmのポリ−L−リジン皮膜を形成した。なお、ポリ−L−リジンは細胞の接着性を高める物質である。
【0096】
続いて、ピエゾインクジェットプリンター(商品名:PM900C;セイコーエプソン社製)のインクカートリッジを精製水を用いて洗浄し、細胞非接着物質42のポリアクリル酸を含む下記溶液を充填した。
【0097】
【表1】
Figure 0004148500
【0098】
前記ガラス基板をCD-Rプリントキット(セイコーエプソン社製)上に配置し、インクジェットプリンターをコンピューターと接続し、カートリッジ内の溶液をコンピューターの画像描画ソフトを用いて細胞非接着物質42のポリアクリル酸のパターンが描画されるようにインクジェットヘッド13から吐出した。
【0099】
基板上には、ポリ−L−リジン層の上にポリアクリル酸のパターンが形成され、ポリ−L−リジンが表出している領域がそれぞれ幅7μm以下となっていた。
【0100】
このような基板上で細胞培養を行った。作製したポリ−L−リジン基板をガラスシャーレ内で神経成長因子を添加した実施例1と同様の培養液で培養神経細胞であるマウスDRG細胞を播種した。5%CO2を含む湿潤空気(95〜100%RH)中で37℃で48時間培養したところ、ポリ−L−リジンが表出した領域に沿ってマウスDRG細胞が樹状突起を伸長させている様子が観察された。なお、細胞の大きさは8μmであった。
【0101】
実施例11
(インスリン基板)
図8に示すようにPETフィルムのベース11上に細胞培養制御用物質12であるインスリンが配置された培養制御用培養基体1を作製した。インクジェットプリンターのインクカートリッジを精製水で洗浄後、細胞非接着物質42である撥水処理剤ユニダインTG991(ダイキン工業社製)を30wt%に精製水で希釈した溶液を充填した。インクジェットプリンターから、インクカートリッジと接続されたインクジェットヘッド13と制御基板を取り出し、コンピューター制御でインクジェットヘッドのノズルから吐出する液滴を制御し、更に、ベース11上で所望の位置にインクジェットヘッドを配置できるようにした。PETフィルムはステージ上に固定し、インクジェットヘッドの吐出口下部に配置した。このようにしてPETフィルム上に細胞非接着物質42のパターンを形成した。
【0102】
続いてインスリンはベース11上に固定化するため、以下の方法により、官能基を導入した。50mmolのジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)のテトラヒドロフラン(THF)溶液をN-ヒドロキシスクシンイミド50mmolと4-アジドベンゼンカルボン酸45mmolのTHF溶液に滴下し、4℃で24時間攪拌しながら反応させた。反応生成物を減圧乾燥後、イソプロパノール/ジイソプロパノール溶液中で再結晶化し精製した。続いてこの反応生成物をジメチルフォルムアミドで溶解し、リン酸等張緩衝液(pH7.0)中に溶解してインスリンを少量ずつ滴下していった。4℃で、48時間攪拌し、インスリンにアジド基を導入した。
【0103】
インクカートリッジを精製水で洗浄した後、1%官能基が導入されたインスリンを含む下記リン酸等張緩衝液(pH7.0)を充填した。
【0104】
【表2】
Figure 0004148500
【0105】
前記方法と同様にして、細胞非接着物質42のパターンが形成されたPETフィルムの基板11上に細胞培養制御用物質12であるインスリン溶液をインクジェットヘッド13から吐出した。基板を乾燥後、紫外線照射ランプにより紫外線を照射し、PETフィルム上にインスリンを固定化した。
【0106】
作製した基板を観察したところ、撥水処理剤のパターンに近接するようにインスリンのパターンが形成され、そのパターン幅は7μmであった。
【0107】
このような基板上で細胞培養を行った。作製したインスリン基板をガラスシャーレ内で実施例1と同様の培養液中に浸漬し、チャイニーズハムスター卵母(CHO)細胞を播種した。5%CO2を含む湿潤空気(95〜100%RH)中で37℃、48時間培養したところ、インスリンパターンに沿って1列に並んだCHO細胞が増殖している様子が観察された。なお、細胞の大きさは8μmであった。
【0108】
実施例12
(インターロイキン-1−フィブロネクチン基板)
図5に示すようにPETフィルムの基板11上にインターロイキン-1、フィブロネクチンが固定化された培養制御用培養基板1を作製した。
【0109】
まず、細胞培養制御用物質12であるインターロイキン-1、フィブロネクチンそれぞれに実施例11と同様の方法で固定化のための官能基を導入した。官能基導入後のインターロイキン-1、フィブロネクチンを実施例11と同様に50%エタノール水溶液で50μg/mlに希釈して、それぞれ、予めリン酸等張緩衝液で洗浄し、別々のインクカートリッジに充填して、インクジェットプリンターを用いてベース11上にインクジェットヘッド13から吐出した(図5では、簡略化のため細胞培養制御用物質12であるインターロイキン-1とフィブロネクチンを同じ記号を用いて表示している)。PETフィルムの基板11上で液滴乾燥後、実施例11と同様にして紫外線を照射し、ベース11上に細胞培養制御用物質12であるインターロイキン-1、フィブロネクチンを固定化した。続いて、インクジェットプリンターのインクカートリッジに実施例10で用いた、細胞非接着物質42であるポリアクリル酸溶液を充填し、すでに形成されているインターロイキン-1、フィブロネクチンパターンの表出する領域の幅が8μmとなるように、ポリアクリル酸溶液を吐出した。以上のようにして培養制御用培養基板1のインターロイキン-1、フィブロネクチン基板を作製した。この基板では、インターロイキン-1、フィブロネクチンが固定化されている領域の一部を覆うようにしてポリアクリル酸の皮膜が形成されている。
【0110】
このような培養制御用培養基板1上で細胞培養を行った。作製したインターロイキン-1−フィブロネクチン基板をガラスシャーレ内で実施例9と同様の培養液中に浸漬し、マウス血管内皮細胞を播種した。5%CO2を含む湿潤空気(95〜100%RH)中で37℃、48時間培養したところ、インターロイキン-1−フィブロネクチンパターンに沿って1列に並んでマウス血管内皮細胞が増殖している様子が観察された。なお、細胞の大きさは8μmであった。
【0111】
実施例13
(基板上の領域が壁状構造物で囲まれている基板)
図6に示すようにして、細胞の培養制御用基板1を作製した。
【0112】
上皮細胞成長因子(EGF)には実施例6と同様の方法により官能基を導入した。
【0113】
また、ポリスルホンの基板11上にフォトレジストOFPR−800(東京応化工業社製)を塗布し、フォトリソグラフィ工程により、細胞非接着物質42からなる壁状構造物を形成した。この時壁状構造物の高さを1ミクロンとし、壁状構造物で囲まれた領域の幅を10ミクロンとした。
【0114】
続いて基板11上の壁状構造物により囲まれている領域に、アジド基が導入されたEGF溶液をインクジェットプリンターを用いてインクジェットヘッド13から吐出した。乾燥後、紫外線照射ランプを用いて200mJ/cm2照射した。未反応のEGFをリン酸等張緩衝液により洗い流して細胞の培養制御用基板1を作製した。
【0115】
この培養制御用基板1上でPC12細胞を培養した。培養液には実施例9の培養液を用いた。この培養制御用基板1上で培養するとPC12細胞は増殖せず、パターンに沿って樹状突起を伸長して分化した。
【0116】
実施例14
(基板上の領域が壁状構造物で囲まれている基板2)
培養制御用の基板1を図7に示す方法により作製した。上皮細胞成長因子(EGF)には実施例6と同様の方法により官能基を導入した。また、実施例13同様の方法でポリスルホン基板1上に細胞非接着物質14からなる壁状構造物を形成した。続いてこの基板を反応槽中に入れ、真空ポンプで槽内の圧力を10mPaとし、フッ素化炭化水素ガスを導入し、壁状構造物の表面を撥水処理した。
【0117】
続いて基板11上の壁状構造物により囲まれている領域に、細胞培養制御用物質12であるアジド基が導入されたEGFを含む溶液をインクジェットプリンターにより吐出した。乾燥後、紫外線照射ランプを用いて200mJ/cm2照射した。未反応のEGFをリン酸等張緩衝液により洗い流して細胞の培養制御用基板1を作製した。
【0118】
本実施例では撥水処理を行うことにより、確実にインクジェットプリンターにより吐出された液滴が壁状構造物により囲まれている領域に配置されるようになった。
【0119】
この培養制御用基体1上でPC12細胞を培養した。培養液には実施例1の培養液を用いた。この基体上で培養するとPC12細胞は増殖せず、パターンに沿って樹状突起を伸長して分化した。
【0120】
実施例15
(培養中に化合物を添加する培養法)
実施例10と同様の基板を用い、PC12細胞を実施例9と同様の培養液中で2つのシャーレ中で培養した。培養開始48時間後、一方のシャーレAの培養液に神経成長因子(NGF)を添加し、もう一方のシャーレBの培養液にはEGFを添加した。その結果、シャーレAではパターンに沿って樹状突起を伸長していった。また、シャーレBではパターン沿ってPC12細胞が増殖を開始した。
【0121】
実施例16
(細胞群を基板から取り外す工程を含む培養法)
ポリスチレン基板上にポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)ゲルの層をキャスト法により形成した。この基板上に実施例11の方法でアジド基を導入したインスリンを固定化し、培養基板を作製した。この基板上でマウス筋細胞C2C12を実施例9と同様の培地中で培養した。インスリンが固定化されたパターンに従ってC2C12細胞が増殖していった。48時間培養の後、培養基板を30℃に冷やすことにより、アクリルアミドゲル層の基板上への接着性が低下し、1列に並んだ細胞群が基板上から培養液中に浮遊してきた。この浮遊してきた細胞群を取り出し、細胞群の両端からパルス電位を印加すると細胞群は収縮した。
【0122】
また、細胞を取り外した基板上で例えば37℃程度の温度で再度細胞を培養したところ、インスリンが固定化されているアクリルアミドゲルの層がベースに再び形成され、マウス筋細胞の増殖が確認された。
【0123】
【発明の効果】
本発明にかかる細胞培養用基体は、細胞培養制御用物質を簡易な工程で確実に所望の位置に固定化でき、細胞の接着、増殖及び分化の少なくとも一つを制御しながら細胞を培養することができる。また、本発明にかかる細胞培養法によれば、1枚の基体上で種々の細胞を培養することや、様々な物質による環境下で細胞を培養することが可能となる。また、本発明にかかる細胞の培養制御用の基体は、ベース上に配置された細胞培養制御用物質により、ここの細胞の接着性や配向を制御しながら、細胞の増殖、分化させることができ、生体内と近い環境下での細胞培養が可能で、特に生体内組織とほぼ同等の機能を有する組織を生体外で作製する際に有効である。
【0124】
更に、本発明にかかる細胞培養法により、1枚の基板で種々の細胞を培養することや、様々な物質による環境の元で種々の細胞を培養することが可能である。更にまた、細胞培養制御用物質をベースに固定化することで、細胞に対して刺激を継続的に与えることができる為、細胞の増殖や分化を促進することができ、生体が有する細胞の組織と同様の構造を有する細胞の構造体を基板上にて形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る細胞培養用基体の1例の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施態様に係る細胞培養用基体の製造方法の一具体例を示す工程図である。
【図3】本発明の第2の実施態様に係る細胞培養用基体の製造方法の一具体例を示す工程図である。
【図4】本発明の第2の実施態様に係る細胞培養基体の製造方法の他の具体例を示す工程図である。
【図5】本発明の第2の実施態様に係る細胞培養基体の製造方法の他の具体例を示す工程図である。
【図6】本発明の第2の実施態様に係る細胞培養基体の製造方法の他の具体例を示す工程図である。
【図7】本発明の第2の実施態様に係る細胞培養基体の製造方法の他の具体例を示す工程図である。
【図8】本発明の第2の実施態様に係る細胞培養基体の製造方法の更に他の具体例を示す工程図である。
【図9】本発明に係る細胞培養装置の概略図である。
【図10】図9に記載の細胞培養装置内の細胞培養用基体の収納室及び製造室の内部の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 細胞培養用基体
11 ベース
12 細胞培養制御用物質
13 微小液滴吐出手段
15 紫外線(UV)照射ランプ
22、41 液滴
42 細胞非接着物質
61 フォトレジスト層
62 凸部
71 撥水処理部
901 収納室
902 製造室
903 培養室
904 チャンバー
1003 ストッカー
1005 搬送機
1007、1019 ベルトコンベアー
1009 トレー
1011 補助ローラ
1013 ポンプ
1015 UV/O3ランプ
1017 送りモータ
1021 送りローラ1021

Claims (11)

  1. 細胞の増殖、分化、生存、未分化状態の維持及び細胞死の少なくとも一つの機能に関与する、または細胞を接着するための細胞培養制御用物質を含む液体を微小液滴吐出手段によって基体に付与し、該基体に該細胞培養制御用物質を固定化せしめることによって形成されてなる該細胞培養制御用物質の固定化領域を有する細胞培養用の基体であって、
    前記細胞培養制御物質が、細胞外基質蛋白質、抗体、サイトカインの中から選択される少なくとも一つであり、
    前記固定化領域が、帯状もしくはドット状のパターンであり、該パターンの幅が、培養しようとする細胞の幅と同等もしくは小さく、且つ2種類以上の細胞培養制御用物質が前記固定化領域に含まれていることを特徴とする細胞培養用の基体。
  2. 前記固定化領域において、前記2種以上の細胞培養制御用物質が、それぞれを単独に有する液滴を前記微小液滴吐出手段により吐出して重なりを有するように配置されている請求項1に記載の細胞培養用の基体。
  3. 前記基体が、第1の固定化領域と、該第1の固定領域とは離間した第2の固定化領域とを有している請求項1または2に記載の基体。
  4. 前記第1の固定化領域と第2の固定化領域とが、各々異なる細胞培養制御用物質を有している請求項3記載の基体。
  5. 前記第1の固定化領域が複数の細胞培養制御用物質を含み、前記第2の固定化領域が、複数の細胞培養制御用物質を含み、該第1及び第2の固定化領域が含んでいる複数の細胞培養制御用物質の組合せが異なっている請求項3記載の基体。
  6. 前記第1及び第2の固定化領域が、異なる密度で細胞培養制御用物質を含んでいる請求項3記載の基体。
  7. (i)細胞外基質蛋白質、抗体、サイトカインの中から選択される少なくとも一つである細胞培養制御物質を含む液体を微小液滴吐出手段により基体上の所定領域に付与する工程と、
    (ii)前記工程(i)で基体上に付与された該液体中の細胞培養制御用物質を該基体に固定する工程と、
    を有し、前記固定化領域が、帯状もしくはドット状のパターンであり、該パターンの幅が、培養しようとする細胞の幅と同等もしくは小さく、且つ2種類以上の細胞培養制御用物質が前記固定化領域に含まれるように形成する
    ことを特徴とする細胞培養用の基体の製造方法。
  8. 前記工程(i)において、前記2種以上の細胞培養制御用物質が、それぞれを単独に有する液滴を前記微小液滴吐出手段により吐出して重なりを有するように前記固定化領域に配置する請求項に記載の細胞培養用の基体の製造方法。
  9. 前記細胞培養制御用物質及び前記基体の少なくも一方が、固定用の官能基あるいは化合物を有している請求項7または8のいずれかに記載の製造方法。
  10. 請求項1〜6の何れかに記載の細胞培養用基体が担持している細胞培養制御用物質が培養液と接触するようにして細胞培養を行う工程を有することを特徴とする細胞培養方法。
  11. 請求項1〜6の何れかに記載の細胞培養用基体が担持している細胞培養制御用物質に培養液が接触する状態で細胞を培養する手段を具備していることを特徴とする細胞培養装置。
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