JP5164156B2 - インクジェット印刷技術を用いた基板上への細胞のパターンニング - Google Patents
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近年、インクジェット印刷技術を用いて基板上に望みのパターンで細胞を配置する方法が注目されている。
従来用いられている方法としては大きく2通りに分けられ、(1)細胞分散液をインクジェットプリンターのインクタンクにインクの代わりに入れ、細胞分散液の液滴を基板上に噴射することで基板上に直接細胞を配置する方法(非特許文献1、2)と(2)細胞接着性タンパク質溶液をインクタンクにインクの代わりに入れ、細胞接着性タンパク質溶液の液滴を基板に噴射して、細胞接着性タンパク質を基板上に固定化することで細胞接着部を作製後、その基板上に細胞を播種し、細胞接着部に細胞を接着させる方法(非特許文献3)である。
上記(1)の方法を用いた場合、液滴吐出ヘッドの流路や吐出口における細胞の詰まり、操作過程において細胞の機能や成長に悪影響を及ぼす細菌、カビ、酵母などの微生物が混ざるコンタミネーションの危険性、インクタンクなどの滴下溶液供給部に生細胞を設置した状態での長期保存の困難さ、など多くの問題がある。
上記(2)の方法では、インクジェット印刷技術を用いて、細胞接着性タンパク質を基板上に配列させるが、以前から、インクジェット印刷技術は、多数のタンパク質のスポットを基板上に配列させたタンパク質マイクロアレイや、複数の抗原・抗体を基板上に固定化した検査用キットの作製を目的として、基板上にタンパク質を配列させる際に活用されている(特許文献1、2)。これらの技術と同様の手法を、細胞接着性タンパク質を基板上に配列させるために適用したものが、上記(2)の方法である。しかしながら、タンパク質は種々の化学組成を有する物質に非特異的に吸着する性質があり、滴吐出ヘッドの流路や吐出口における詰まりの原因となる。また、インクジェット印刷技術においては、その原理上、種々の物理的な力や微小な液滴故の高い表面エネルギーなどタンパク質の高次構造変化を引き起こす要因が多数存在し、タンパク質の高次構造破壊やそれに伴うタンパク質の凝集なども詰まりの原因となり得る。更に、滴下溶液供給部にタンパク質溶液を設置した状態で室温にて長期間安定に保存することが困難であることや同一条件で操作した場合においても、基板上に固定化されたタンパクの量やその状態などが均一でないなどの問題もある。
タンパク質固定化基板においては、滴吐出ヘッドの流路や吐出口におけるタンパク質の詰まりを防止し、安定にタンパク質溶液の液滴を噴射して基板上に固定化する方法としてタンパク質溶液に安定化剤として糖類、アミン化合物、界面活性剤等を添加する方法が報告されているが(特許文献3、4)、細胞を配置するための細胞接着性タンパク質溶液の場合には、細胞接着性タンパク質を基板上に固定化した後で細胞を播種して培養することを考えると、細胞の機能に影響を与えるものや細胞毒性がある物質を添加することは好ましくない。
Tao Xu et. al. Biomaterials, 2006年、27巻、p.3580-3588. Tao Xu et. al. Biomaterials, 2005年、26巻、p.93-99. Roth E. A. et. al. Biomaterials, 2004年、25巻、p.3707-3715.
そして本発明の目的は、細胞非接着性を有する基板上の特定領域のみを細胞接着性へと変換することにより自在な細胞接着領域のパターンを作製し得る方法、及び、装置を提供することである。
更に、本発明は、上記の細胞接着領域に細胞を配置することにより得られる細胞のパターン、およびそれを利用した複数の細胞間の相互作用の解析などの細胞に関する分析方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ね、本発明者らの上記知見をさらに発展させ、以下の発明を完成させることができた。
本発明の細胞非接着性基板は、ポリエポキシ化合物からなる架橋剤を用いて架橋処理を行なったアルブミンに水分保持可能な可塑剤を添加し、その溶液を基板上にキャストすることにより、基板表面に細胞非接着性の性質を有するアルブミンフィルム層を形成させることで作製される。このアルブミンフィルムコーティング基板をタンパク質変性剤や正電荷を有する高分子化合物溶液などの特定の化学薬品溶液に曝露することによりフィルムの細胞非接着性の性質を細胞接着性へと変換できることに着目し、インクジェット印刷技術を用いて特定の化学薬品溶液を望みのパターンで滴下することで、細胞非接着性を有するアルブミンフィルムコーティング基板の望みの領域のみを細胞接着性に変換し、基板上に自在に細胞を配置することが可能であるという知見を得た。
〔1〕 基板表面の所望の位置に細胞が配置された細胞固定化基板の製造方法であって、以下の工程(a)〜(c)を含む製造方法;
(a)基板表面に細胞非接着性を保持したアルブミンフィルム層を設け、基板表面を細胞非接着性にする工程、
(b)工程(a)で基板表面に設けられたアルブミンフィルム層を細胞接着性へと変換し得る変換用溶液を、インクジェット印刷技術を用いて噴射することで基板表面に細胞接着領域のパターンを創生する工程、
(c)前記細胞接着領域に細胞を配置する工程。
〔2〕 工程(a)において基板表面に設けられたアルブミンフィルム層が、アルブミンをポリエポキシ化合物からなる架橋剤を用いて架橋処理後、水分保持可能な可塑剤を添加した架橋アルブミン溶液を基板表面に塗布することで設けられたものである、前記〔1〕に記載の細胞固定化基板の製造方法。
〔3〕 前記ポリエポキシ化合物が、エチレングリコールジグリシジルエーテル、もしくは、エチレングリコール単位の繰り返し数が8以下であるポリエチレングリコールジグリシジルエーテルであり、前記可塑剤が、グリセリン、糖類又はポリエチレングリコールである、前記〔2〕に記載の細胞固定化基板の製造方法。
〔4〕 前記変換用溶液が、架橋剤溶液、タンパク質の変性を促す溶液、有機溶媒、正電荷を有する高分子化合物溶液、またはそれらを組み合わせた混合溶液であることを特徴とする、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の細胞固定化基板の製造方法。
〔5〕 前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の細胞基板の製造用の装置であって、前記細胞非接着性基板に対して前記変換用溶液を噴射するための溶液噴射装置と、当該変換用溶液を噴射する位置を指示するための制御装置と、前記細胞接着領域に細胞を配置するための装置とを備えることを特徴とする、細胞固定化基板の製造用の装置。
〔6〕 前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の細胞固定化基板の製造方法を用いて製造された細胞基板。
〔7〕 前記〔6〕に記載の細胞固定化基板を用いることを特徴とする、複数の細胞間における細胞間相互作用の解析方法。
〔8〕 前記〔6〕に記載の細胞固定化基板を用いることを特徴とする、擬似生体組織の構築方法。
本発明においては、インクジェット印刷技術を用いて従来のようにタンパク質や細胞を滴下するのではなく、化学薬品溶液を滴下するので、タンパク質や細胞を滴下する際に問題となる滴吐出ヘッドの流路や吐出口における詰まりの問題もなく、また、良好な再現性も期待できる。更に、詰まりの問題がないことから、吐出口をより微細に加工して緻密なパターンを描くことも可能である。細胞のサイズは一般的に直径が約10〜100μmと非常に小さなことから、より厳密に細胞を基板上に配置するためにも吐出口をより微細にし得る本発明の意義は大きい。滴下溶液として生きている細胞や種々の環境の変化で容易に高次構造が変化するタンパク質を用いる場合に比べて取り扱いが格段に容易であり、インクジェット印刷技術による液滴の滴下の際に生じる種々の負荷に対しても安定なので安定剤の添加を必要としないことや、インクタンクなどの滴下溶液供給部に滴下する溶液を入れた状態で室温において長期に保存しておくことができるなどの利点もある。
本発明の方法を用いて基板上に自在な細胞のパターンを作製でき、細胞センサー、細胞アレイ、細胞間相互作用の解析用ツール、擬似生体組織などの細胞デバイスの構築に広く応用可能である。
なお、本発明の細胞非接着性基板表面層の原料である血清アルブミンは、生体由来のタンパク質であって、従来から細胞培養液中にも添加されることの多い物質であり、細胞に対する毒性などの心配も無い。
本発明においては、細胞非接着性を保持したアルブミンフィルム層を有する細胞非接着性基板を用いているが、その製造方法は、アルブミン溶液に対して、ポリエポキシ化合物からなる架橋剤を添加して架橋処理した後に、水分保持可能な可塑剤を添加して基板表面にキャストすることで、細胞非接着性を保持したアルブミンフィルム層を基板表面に設けることができる。
ここで用いられる基板としては、アルブミンと架橋剤の反応液をキャストできる平面状表面を有する支持体をいう。基板材料としては、平滑な表面をもつよう成型され得る固体材料であればいずれでもよく、例えば、ガラス、石英、プラスチックなどが挙げられるがそれらに限定されない。また、その形状としては、平面上表面があればよく、平板上に限定されることなく、細胞培養用に広く普及しているシャーレやプレートのようなものであってもよい。
本発明において「アルブミン」とは、血清アルブミンを意味する。また、血清アルブミンは血清中のみならず、肺、心臓、腸、皮膚、筋肉や涙、汗、唾液、胃液、腹水などにも存在する事が知られており、血清由来のアルブミンに限定されない。
本発明に用いられる架橋剤は、架橋反応後に親水性が付与される架橋剤のうちでも、特に複数のエポキシ基を有する架橋剤であるポリエポキシ化合物からなる架橋剤であり、たとえば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル等を用いることができる。中でも、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(n=1〜8)、すなわちエチレングリコール繰り返し単位(n)が1〜8である場合のポリエチレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。nが増大するほど疎水的になるため、nが9以上の場合は、水分保持用の可塑剤を添加してもなお脆く、良好なしなやかさを保持したフィルムは作製できなかった。
また、本発明における可塑剤としては、水分保持可能なものであれば何でもよいが、親水性に優れたものが望ましい。特に、グリセリン、糖類、ポリエチレングリコールなどの高分子化合物等が好ましい。
本発明の変換用溶液を滴下する装置としては、既存のコンピューター用のプリンターとして一般的に広く用いられているインクジェットプリンターのシステムをそのまま利用でき、文字、イラスト、図形など様々なパターンを基板上に自在に描写することが可能である。方式としては、インクに熱を加え沸騰した気泡の圧力でインクを飛ばすサーマルジェット方式、または、ピエゾ素子の振動によりインクを発するピエゾ素子方式などがあるがどのような方式でも適用可能である。
本発明において基板上に細胞を配置する工程とは、基板上に所望のパターンに基づいて、自由に特定の細胞を接着させる工程を意味し、複数の細胞のスポットを一定の領域内に整列させて固定化した細胞アレイを提供することも含まれる。また、基板表面全体に細胞含有液を接触させることで、細胞接着性領域のパターンに従った細胞のパターンが形成されるが、基板表面の細胞接着領域の一部のみを残して他をシールした上で細胞含有液を接触させることを繰り返せば、複数の細胞からなる細胞パターンが形成できる。さらに、その後、細胞非接着領域として残った領域に対してさらに変換用溶液をインクジェット噴射して細胞接着領域に変換し、この新しく細胞接着領域に変換された領域に対して別の細胞含有液を接触させる工程を繰り返すことで、より複雑な細胞パターンを形成することができる。なお、この細胞の基板表面へのパターニング方法に関しては、本出願と同日付で特許出願している。
なお、本発明の実施例で用いられる改造型プリンターは、市販のインクジェットプリンター(商品名;PIXUS iP4300, キヤノン社製)のインクタンク部分からインクを取り除き、代わりに正電荷を帯びた高分子溶液、例えば0.01%のポリエチレンイミン溶液などを充填し、正電荷を帯びた高分子溶液の液滴をインクと同様に基板上に滴下できるように改造を施したプリンターである。
(参考例1)
ウシ血清アルブミン(SIGMA社製)とエチレングリコールジグリシジルエーテル(Wako社製)をそれぞれ3%と215 mMの濃度で20mlのpH 7.4のリン酸緩衝液(PBS)に溶解し、24時間、室温にて攪拌する事により架橋反応を行った。室温にて透析を行う事により未反応のエチレングリコールジグリシジルエーテルを除き、可塑剤としてグリセリンを143μl加えた後、PBSを用いて溶液量を30mlにメスアップした。
このようにして作製した混合溶液をポリプロピレン製の文具用ファイルの上にキャストし、室温にて一晩放置することにより、フィルムを作製した。架橋処理をしていないアルブミンから作製したフィルムは容易に水に溶解するが、この架橋処理を行ったアルブミンを用いて作製したフィルムは水に不溶性であった。
また、このフィルム上への細胞接着を検討するために、上記の混合溶液をろ過滅菌後、細胞培養用シャーレに加え、クリーンベンチ中にて一晩風乾することによりシャーレ上にフィルムを形成させた。この架橋アルブミンフィルムコーティング細胞培養用シャーレにマウス繊維芽細胞株L929を4.8×104 cells/cm2の濃度で播種した。37℃、5%CO2の条件にて5時間培養後において、何もコーティングしていない細胞培養用シャーレには非常に多くの細胞接着が見られその接着率は87%であったが(図2-a参照)、架橋アルブミンフィルムコーティング細胞培養用シャーレ上には細胞の接着が見られなかった(図2-b参照)。このように、天然のアルブミンの有する細胞非接着性を保持した水に不溶性の透明アルブミンフィルムを作製することができた。
参考例1に記載の方法により作製した架橋アルブミンフィルムコーティング細胞培養用シャーレに10%グルタルアルデヒド溶液(Wako社製)、6M グアニジン塩酸塩溶液(Wako社製)、ジメチルスルホキシド(DMSO,ナカライ社製)、0.005% ポリオルニチン溶液(SIGMA社製)、0.2% ポリエチレンイミン溶液(SIGMA社製)、超純水をそれぞれ加え、室温にて1時間曝露した。その後、添加した溶液を吸引し超純粋でよく洗浄した。この種々の化学薬品溶液に曝露した架橋アルブミンフィルムコーティング細胞培養用シャーレにマウス繊維芽細胞株L929を2×104 cells/cm2の濃度で播種し、37℃、5%CO2の条件にて培養した。培養6時間後において、超純水に曝露した架橋アルブミンフィルムコーティングシャーレには細胞の接着は見られず、フィルムの細胞非接着性は保持されていたが(図3-f参照)、グルタルアルデヒド溶液(図3-a参照)、グアニジン塩酸塩溶液(図3-b参照)、DMSO(図3-c参照)、ポリオルニチン溶液(図3-d参照)、ポリエチレンイミン溶液(図3-e参照)に曝露した架橋アルブミンフィルムコーティングシャーレでは細胞接着が見られるようになった。特にグアニジン塩酸塩溶液、ポリオルニチン溶液、ポリエチレンイミン溶液に曝露した場合において、顕著な細胞接着が見られた。このように、天然のアルブミンの有する細胞非接着性を保持しているアルブミンフィルムを種々の化学薬品溶液に曝露することにより、細胞接着性へと変換できることが分かった。
ウシ血清アルブミン(SIGMA社製)とエチレングリコールジグリシジルエーテル(Wako社製)をそれぞれ3%と215 mMの濃度で20mlのpH 7.4のリン酸緩衝液(PBS)に溶解し、24時間、室温にて攪拌する事により架橋反応を行った。室温にて透析を行う事により未反応のエチレングリコールジグリシジルエーテルを除き、可塑剤としてグリセリンを143μl加えた後、PBSを用いて溶液量を30mlにメスアップした。
このようにして作製した混合溶液をろ過滅菌後、ガラス基板上に加えてクリーンベンチ内にて一晩風乾することにより、ガラス基板上にフィルムを形成させた。このアルブミンフィルムコーティングガラス基板上にインクジェットプリンター(商品名;PIXUS iP4300, キヤノン社製)のインクタンクに0.01%のポリエチレンイミン溶液(SIGMA社製)を充填した改造型プリンターを用いて8フォントの大きさで「AIST」の文字をポリエチレンイミン溶液の液滴で印刷した。PBSで3回洗浄した後、マウス繊維芽細胞株L929を4.8×105
cells/cm2の濃度で基板全面に播種した。37℃、5%CO2の条件にて6時間培養後において、図4に示すように、ポリエチレンイミン溶液を滴下した部分のみに細胞接着が見られ、基板上の望みの位置に細胞を配置することができ、細胞で文字を描くことができた。
ポリエチレンイミン(SIGMA社製)とfluorescein-4-isothiocyanate(同仁化学研究所社製)をそれぞれ1%と1.7 mMの濃度で0.15M の炭酸緩衝液(pH 9)に溶解し、室温、遮光条件下において6時間攪拌する事により反応を行い、FITCで蛍光標識されたポリエチレンイミンを作製した。
実施例1と同様の方法により作製したアルブミンフィルムコーティングガラス基板上に、インクジェットプリンターのインクタンクに0.01%のFITCで蛍光標識したポリエチレンイミンポリエチレンイミン溶液を充填した改造型プリンターを用いて8フォントの大きさで「PEI」の文字をFITC標識化ポリエチレンイミン溶液の液滴で印刷した。PBSで3回洗浄した後、蛍光顕微鏡により観察した写真を図5に示す。PEIの鮮明な蛍光像が見られ、アルブミンフィルム上にポリエチレンイミンをコンピューター上で設定したデザインに基づいて正確に印刷できることが分かった。
実施例1と同様の方法により作製したアルブミンフィルムコーティングガラス基板上に、インクジェットプリンターのインクタンクに0.01%のポリエチレンイミン溶液(SIGMA社製)を充填した改造型プリンターを用いて8フォントの大きさのピリオドの列をポリエチレンイミン溶液の液滴で印刷した。PBSで3回洗浄した後、マウス由来神経芽細胞腫Neuro-2a細胞をピリオドの列を印刷した基板上に5×105 cells/cm2の濃度で基板全面に播種した。37℃、5%CO2の条件にて5時間培養後において、図6に示すように、ポリエチレンイミン溶液を滴下した部分のみに細胞接着が見られ、基板上の望みの位置に細胞を配置することができた。
これは、8フォントの大きさのピリオド状の領域(直径 約300μm)に接着した細胞がそれぞれ明確に分離されて観察できたことを示すものであるから、狭い領域中の決められた位置に多数の細胞を配置する必要のある細胞アレイの製造にとってもきわめて有用な技術であることが示された。今回は一般家庭向けの市販プリンターを用いたために8フォント以下のサイズをプリントすることができなかったが、プリンターの工夫次第では更に小さいドットを作製可能であり、1枚の基板上に非常に多数の細胞を配列することが可能である。
実施例1と同様の方法により作製したアルブミンフィルムコーティングガラス基板上にインクジェットプリンターのインクタンクに0.01%のポリエチレンイミン溶液を充填した改造型プリンターを用いて図7aに示した勾配のパターンに基づいてポリエチレンイミン溶液の液滴で印刷した。PBSで3回洗浄した後、マウス繊維芽細胞株L929細胞を5×105 cells/cm2の濃度で基板全面に播種した。37℃、5%CO2の条件にて5時間培養後において、図7bに示すように、濃度勾配のパターンに応じた細胞接着挙動が見られ、濃度が濃い部分には多くの細胞が接着し、濃度が薄くなるに従って接着する細胞の減少が見られた。
このように、インクジェット印刷技術を利用することで、簡便に濃度勾配パターンを描くこともできる。
Claims (7)
- 基板表面の所望の位置に細胞が配置された細胞固定化基板の製造方法であって、以下の工程(a)〜(c)を含む製造方法;
(a)アルブミンをポリエポキシ化合物からなる架橋剤を用いて架橋処理後、水分保持可能な可塑剤を添加した架橋アルブミン溶液を基板表面に塗布することにより、基板表面に細胞非接着性を保持したアルブミンフィルム層を設け、基板表面を細胞非接着性にする工程、
(b)工程(a)で基板表面に設けられたアルブミンフィルム層を細胞接着性へと変換し得る変換用溶液を、インクジェット印刷技術を用いて噴射することで基板表面に細胞接着領域のパターンを創生する工程、
(c)前記細胞接着領域に細胞を配置する工程。 - 前記ポリエポキシ化合物が、エチレングリコールジグリシジルエーテル、もしくは、エチレングリコール単位の繰り返し数が8以下であるポリエチレングリコールジグリシジルエーテルであり、前記可塑剤が、グリセリン、糖類又はポリエチレングリコールである、請求項1に記載の細胞固定化基板の製造方法。
- 前記変換用溶液が、架橋剤溶液、タンパク質の変性を促す溶液、有機溶媒、正電荷を有する高分子化合物溶液、またはそれらを組み合わせた混合溶液であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の細胞固定化基板の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の細胞基板の製造用の装置であって、基板表面に細胞非接着性を保持したアルブミンフィルム層を設けた細胞非接着性基板に対して、アルブミンフィルム層を細胞接着性へと変換し得る変換用溶液を噴射するための溶液噴射装置と、当該変換用溶液を噴射する位置を指示するための制御装置と、当該変換溶液の作用で細胞接着性に変換された細胞接着領域に細胞を配置するための装置とを備えることを特徴とする、細胞固定化基板の製造用の装置。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の細胞固定化基板の製造方法を用いて製造された、基板上の所望の位置に細胞が配置された細胞固定化基板。
- 請求項5に記載の細胞固定化基板を用いることを特徴とする、複数の細胞間における細胞間相互作用の解析方法。
- 請求項5に記載の細胞固定化基板を用いることを特徴とする、擬似生体組織の構築方法。
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