JP4141744B2 - ジルコニアゾルの製造方法及びジルコニア微粉末の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ジルコニウム塩を含む水溶液を加熱して加水分解させるジルコニアゾルの製造方法、及びその方法を用いたジルコニア微粉末の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来よりジルコニア微粉末は、必要に応じてバインダーが添加された後に焼結されて、固体電解質、酸素センサなどの機能性セラミックスや、光コネクタ部品などの構造用セラミックス等として使用されている。このようなジルコニア微粉末の製造方法としては、加水分解法、共沈法、アルコキシド法、水熱合成法などによりジルコニアゾルを得た後、これを脱水・乾燥し、更に仮焼したものを粉砕する方法が一般的であった。なかでも加水分解によりジルコニアゾルを製造する方法は、アルコキシド法や水熱合成法に比べ生産性が高く、また共沈法に比べ得られる微粒子の均一性が良く、焼結温度が低いことなどから、焼結体の機械的特性なども良好になることが知られている。
【0003】
上記の加水分解法は、例えばオキシ塩化ジルコニウムを含む水溶液に、必要に応じてアルカリなどを添加した状態で、加熱・反応させてジルコニウム塩を加水分解させるものである。その際、還流器付きの反応容器を用いて還流しながら反応させる方法(例えば特開2000−185919号公報、特公昭59−39366号公報)など、閉じた系で反応を行うのが通常であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のように閉じた系で反応を行うと、原料のオキシ塩化ジルコニウムに由来する塩素イオンが系内に残存し、加水分解反応が十分進まず、反応に長時間を要するなどの問題があった。また、残存する塩素イオンは、仮焼工程などの高温加熱の際に有毒かつ有害ガスを生じさせるため、十分な洗浄が必要であった。
【0005】
また、特開平3−223115号公報には、成形性が良く、安定化剤の固溶性が良い粉末を製造するため、イオン交換樹脂を用いてpHを0.4〜1に調整する方法が提案されており、この方法でも、ある程度の塩素イオン除去は可能である。
【0006】
しかし、イオン交換樹脂を用いる方法では、コスト的に不利で製造プロセスが複雑になるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、簡易な工程を付加するだけで、低コストで効率良く加水分解反応を進めることができ、後の洗浄工程も簡略化できるジルコニアゾルの製造方法、及びその方法を用いたジルコニア微粉末の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、加水分解反応を促進する方法について鋭意研究したところ、反応容器内の気相中に塩化水素分が一定以上の濃度で蒸発することを見出し、この蒸発成分を系外に排出することで加水分解反応が促進できることに着想し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明のジルコニアゾルの製造方法は、オキシ塩化ジルコニウム及び/又は塩化ジルコニウムを含む水溶液を加熱して加水分解させるジルコニアゾルの製造方法において、前記水溶液からの塩素成分を含む蒸発成分を系外に排出するとともに、前記水溶液に減量に応じた量の水分のみを補給することを特徴とする。
【0010】
上記において前記加熱を減圧下での煮沸温度〜大気圧下での煮沸温度で行うことが好ましい。
【0011】
一方、本発明のジルコニア微粉末の製造方法は、上記何れかのジルコニアゾルの製造方法で得られたジルコニアゾルを、乾燥、仮焼、及び粉砕してジルコニア又は部分安定化ジルコニアの微粉末を得ることを特徴とする。
【0012】
[作用効果]
本発明のジルコニアゾルの製造方法によると、水溶液中の塩素成分が蒸発し、その蒸発成分を系外に排出するため、水溶液中の塩素イオン濃度を減少させることができ、これによって加水分解反応を促進することができる。また、蒸発に伴って水溶液の水分が減少するが、水溶液に水分を補給することで、水分減少による問題を回避することができる。更に、水溶液中の塩素イオン濃度が減少するため、後の洗浄工程も簡略化できる。その結果、簡易な工程を付加するだけで、低コストで効率良く加水分解反応を進めることができ、後の洗浄工程も簡略化できるジルコニアゾルの製造方法が提供できる。
【0013】
その際、減圧下での煮沸温度〜大気圧下での煮沸温度で行うことにより、塩素成分を効果的に蒸発させながら、系外に排出することができ、より効率良く加水分解を行うことができる。
【0014】
一方、本発明のジルコニア微粉末の製造方法によると、上記の如き作用効果を奏する加水分解を行うため、全体として簡易な工程で、低コストで効率良く加水分解反応を進めることができ、後の洗浄工程も簡略化できる製造方法となる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明のジルコニアゾルの製造方法は、オキシ塩化ジルコニウム及び/又は塩化ジルコニウムを含む水溶液を加熱して加水分解させてジルコニアゾルを得るものである。本発明において、ジルコニアゾルとは、ジルコニウム化合物(水和物、水酸化物等)を主成分とし、必要に応じて安定化剤等の添加剤を含むコロイド状物を指す。一方、本発明における部分安定化ジルコニアとは、安定化剤を固溶させることで、正方晶を安定な相(準安定相)として存在させたものである。
【0016】
本発明における加水分解は、オキシ塩化ジルコニウム及び/又は塩化ジルコニウムを含む水溶液(以下「ジルコニウム塩水溶液」と略す場合がある)を加熱して行うが、この水溶液には、硝酸ジルコニル、硫酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムなどが一部含まれていてもよい。また、アルカリまたは酸などを添加して加水分解させることも可能である。更に、部分安定化ジルコニアを得る目的で、後述する安定化剤やその原料となる水溶性化合物を添加してもよい。
【0017】
一方、さらに加水分解反応を促進させるために、ジルコニウム塩水溶液には中和共沈法により生成したジルコニアゾルや、加水分解により生成した水酸化物又は水和物(いわゆるタネ)を添加してもよい。これらのタネは、水洗したものを添加してもよい。加水分解によってタネを調製する場合、本発明のジルコニアゾルの製造方法により得られたジルコニアゾル又はそのろ過物などを使用してもよい。
【0018】
使用するジルコニウム塩水溶液の濃度は、0.01〜4mol/リットルとすることが好ましく、より好ましくは0.1〜2mol/リットルである。
【0019】
ジルコニウム塩水溶液の加水分解は加熱しながら行われ、その際、蒸発が生じるが、本発明では、水溶液からの蒸発成分を系外に排出するとともに、水溶液に水分を補給する。加熱温度は、前述の理由より、減圧下での煮沸温度〜大気圧下での煮沸温度が好ましく、より望ましくは105〜120℃がよい。減圧処理をすれば設備の耐圧下限まで煮沸温度を下げることができるが、設備が過大になり、工業的には不利である。また、大気圧下での煮沸温度を超えて加熱しても、塩素の蒸発を促進する効果はない。
【0020】
水溶液からの蒸発成分を系外に排出する方法としては、凝縮器まで蒸発成分を導いて凝縮器で液化して系外に排出する方法や、キャリアーガス(加熱温度以上が好ましい)によって系外に排出して中和、液化、又は除害などを行う方法、系内を減圧した上で、蒸発成分を導いて凝縮器で液化して系外に排出する方法などが挙げられる。なかでも凝縮器で液化する方法が、操作が簡便であるため、好ましい。凝縮器としては、冷却水を用いるもの、空冷式、冷却装置を備えるものなど何れでもよい。
【0021】
キャリアーガスを使用する場合、空気、窒素、希ガスなどの不活性ガスなど、特に制限なく使用することができる。また、キャリアーガスを循環させながら、その循環経路に設けた凝縮器によって液化成分を系外に排出しつつ、キャリアーガスを系内に戻すようにしてもよい。これによると、蒸発成分の流動と液化が迅速に行え、効率良く蒸発成分の排出が行えるようになる。
【0022】
水溶液に水分を補給する方法としては、減量に応じた水分を連続的又は間欠的に添加する方法が挙げられる。但し、本発明では、ジルコニウム塩水溶液の水分量を厳密に一定に維持する必要はなく、極端な水分量の変化が生じない程度に水分を補給すればよい。水分は、純水、イオン交換水、水道水などを、高温で添加するのが好ましく、80〜99℃で添加するのが好ましい。なお、水溶液の温度を維持できるなら室温でもかまわない。また、上記の凝縮器による液化で生じた塩酸水溶液から、中和沈殿などで塩酸を除去した液を、系内に戻すようにしてもよい。
【0023】
上記のような操作によって、未処理の場合に比べ、塩素含有量が1/2以下のジルコニアゾルを高収率で得ることができる。好ましくは、反応終了時の塩素含有量が未処理の場合に比べ1/3以下となるように条件設定するのが好ましい。その結果、後の洗浄工程を簡略化することができる。また、反応時間を従来の還流を行う場合と比べて、20〜40%程度短縮することができる。
【0024】
一方、本発明のジルコニア微粉末の製造方法は、以上のようなジルコニアゾルの製造方法で得られたジルコニアゾルを、乾燥、仮焼、及び粉砕してジルコニア又は部分安定化ジルコニアの微粉末を得るものである。
【0025】
本発明では、上記のようにして得られたジルコニアゾルをまず乾燥する。乾燥方法は何れの方法でもよく、例えば、ジルコニアゾルを含む懸濁液をそのまま、または該懸濁液に有機溶媒を添加してスプレー乾燥する方法、該懸濁液にアルカリなどを添加して濾過・水洗したあとに乾燥する方法を挙げることができる。但し、一旦ろ過などにより脱水を行った後に乾燥することが、後工程において有害なイオン成分を除去できるため好ましい。また、脱水方法としては、水を減圧留去等により除去し濃縮し、この濃縮した物、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール或いはアセトン等の有機溶媒を加えて溶媒置換を行い、脱水処理し、溶媒を除去する方法もある。
【0026】
また、安定化剤を含む部分安定化ジルコニアの微粉末を得る場合には、ジルコニアゾルの懸濁液に安定化剤を添加して乾燥してもよく、あるいは加水分解のときに前もって添加してもよく、両者に分割して添加してもよい。また、安定化剤を添加してからアルカリを用いて共沈させた後、乾燥を行ってもよい。
【0027】
安定化剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、又はイットリウム、チタン、セリウム、ケイ素、ジスプロシウム、ランタン系希土類、遷移金属等、3価以上の金属元素の水溶性塩、酸化物、水酸化物、水和物などが挙げられる。なお、安定化剤は、仮焼後において、上記金属の酸化物等として機能するが、当該金属酸化物の生成プロセスに応じた原料化合物が通常添加される。
【0028】
また、必要に応じて安定化剤以外の金属化合物、例えば、アルミナ、スピネル、マグネシア、シリカ、ムライトなどを添加してもよい。その際、これらを水溶性化合物として添加してもよいが、工業的には粉体として添加・混合するのが好ましく、本発明の製造方法で得られるジルコニア微粉末に対して、乾式操作で混合したり、仮焼後の粉体に対して混合するのが好ましい。
【0029】
次いで、本発明では、上記の乾燥したジルコニア微粒子を仮焼するが、前記の乾燥と仮焼を分けずに行ってもよい。仮焼温度は、300〜1300℃の範囲にするのが好ましく、より望ましい仮焼温度は、500〜1200℃である。仮焼温度が300℃よりも低くなると、安定化剤と十分に固溶したジルコニア微粉末が得にくくなり、いっぽう、1300℃よりも高くなると、粒子間の焼結による強固な凝集が起こるために分散性のよいジルコニア微粉末が得にくくなる傾向がある。
【0030】
仮焼時の雰囲気ガスは、種々のガスを選択することができる。このときに使用するガスは、水蒸気を含んでいてもよい。ガスの種類としては、空気、二酸化炭素、酸素等を挙げることができる。
【0031】
仮焼の保持時間は、仮焼温度にもよるが例えば0.5〜10時間が適当である。保持時間が0.5時間よりも小さくなると均一に仮焼されにくく、10時間よりも長くなると生産性が低下する傾向がある。
【0032】
得られた仮焼物の粉砕は、湿式粉砕又は乾式粉砕により行うことができる。湿式粉砕の方法としては、湿式ボールミルなどの湿式媒体ミル、高圧高速液流を利用した湿式ミルなどを用いる方法が挙げられる。また、乾式粉砕の方法としては、カウンター式ジェットミル、衝突式ジェットミルなどのジェットミル、乾式ボールミルなどの乾式媒体ミル、その他の機械式衝撃粉砕機などが挙げられる。粉砕は凝集粒子の平均粒子径が2.0μm以下となるまで行うのが好ましい。
【0033】
以上のようにして得ることができるジルコニア微粉末は、典型的には、X線回折法により求めた正方晶率または正方晶率と立方晶率の和が60〜100%であり、凝集粒子の平均粒子径が2.0μm以下であるジルコニア微粉末である。
【0034】
このようなジルコニア微粉末は、通常行われている方法で焼結して焼結体とすることができる。なお、焼結に際し、その温度は1200〜1600℃、特に1300〜1500℃とすることができ、また時間は30分〜4時間とすることができる。
【0035】
【実施例】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における生成率、塩素含有量は下記のようにして測定を行った。
【0036】
〔ジルコニアゾルの生成率〕
誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いて、原料水溶液および得られたジルコニアゾルに含まれるジルコニウムイオン量を各々測定し、両者の差を前者で除した値を百分率で示した。なお、ジルコニウムイオン量の測定は、原料水溶液又はジルコニアゾルを限外ろ過して、得られたろ液に含まれる量を測定した。
【0037】
〔塩素含有量〕
塩素含有量はチップ形塩化物イオン電極を備えたイオン濃度計を用いて測定した。
【0038】
〔実施例1〕
0.4mol/LのZrOCl2 水溶液を攪拌しながら加熱し、150時間、115℃で維持して水和ジルコニアゾルを得た。その際、蒸発分は還流させずに系外で水冷型の凝縮器により液化して排出し、5分ごとの排出重量と同重量の純水(25℃)を5分毎に系内に投入した。得られたジルコニアゾルの生成率は93%、水溶液中の塩素含有量は8900ppmであった。
【0039】
〔実施例2〕
0.2mol/LのZrOCl2 水溶液を攪拌しながら加熱し、80時間、115℃で維持して水和ジルコニアゾルを得た。その際、蒸発分は還流させずに系外で水冷型の凝縮器により液化して排出し、5分ごとの排出重量と同重量の純水(25℃)を5分毎に系内に投入した。得られたジルコニアゾルの生成率は96%、水溶液中の塩素含有量は4300ppmであった。
【0040】
〔比較例1〕
実施例1において、蒸発分を還流させること以外は同じ操作により、加水分解を行った。得られたジルコニアゾルの生成率は89%、水溶液中の塩素含有量は27600ppmであった。
【0041】
〔比較例2〕
実施例2において、蒸発分を還流させること以外は同じ操作により、加水分解を行った。得られたジルコニアゾルの生成率は93%、水溶液中の塩素含有量は13500ppmであった。
【0042】
〔実施例3〕
実施例1で得られたジルコニアゾルをフィルタでろ過し、イットリア換算で3mol%にあたるYC13 水溶液を加え攪拌し、さらにpH10になるまでアンモニア水を滴下し、共沈物を得た。この共沈物をフィルタでろ過し、純水で洗浄し、噴霧乾燥してイットリウム含有水和ジルコニア微粉末を得た。この水和ジルコニアゾルを1050℃、大気下で2時間仮焼し、部分安定化ジルコニア微粉末を得た。
【0043】
得られたジルコニア微粉末のBET比表面積は12.6m2 /gだった。このジルコニア微粉末を流動層式のカウンター式ジェットミル(ホソカワミクロン(株)製、型式:100AFG)にて乾式粉砕した。その際、内蔵する分級機の回転数は18,000rpmとした。得られたジルコニア微粉末の凝集粒子の平均粒径は1.0μm、BET比表面積は12.9m2 /gだった。また、ジルコニア微粉末の正方晶率は93%、単斜晶率は7%だった。
Claims (3)
- オキシ塩化ジルコニウム及び/又は塩化ジルコニウムを含む水溶液を加熱して加水分解させるジルコニアゾルの製造方法において、前記水溶液からの塩素成分を含む蒸発成分を系外に排出するとともに、前記水溶液に減量に応じた量の水分のみを補給することを特徴とするジルコニアゾルの製造方法。
- 前記加熱を減圧下での煮沸温度〜大気圧下での煮沸温度で行う請求項1記載のジルコニアゾルの製造方法。
- 請求項1又は2に記載のジルコニアゾルの製造方法で得られたジルコニアゾルを、乾燥、仮焼、及び粉砕してジルコニア又は部分安定化ジルコニアの微粉末を得るジルコニア微粉末の製造方法。
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