JP4138434B2 - 薄膜の形成方法、電子デバイスの形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄膜形成材料が溶媒に溶解している溶液の液滴を基板上に配置する工程を有する薄膜の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、有機薄膜(有機物からなる薄膜)を機能性薄膜として有する電子デバイスが注目されており、代表的なものとして有機EL装置が挙げられる。有機EL装置の発光層として使用される有機薄膜としては、例えば真空蒸着法で形成されたAlq3(キノリノール−アルミニウム錯体)からなる薄膜が挙げられる。この薄膜は、通常の真空蒸着法で形成されると、結晶状態ではなくアモルファス状態で得られる。
【0003】
フラーレンからなる層を下地層として設けることにより、真空蒸着法で結晶性のAlq3薄膜が得られることは公知である(例えば、特許文献1参照)。また、この方法で形成された結晶性Alq3薄膜を発光層とすることによって、通常の真空蒸着法で形成されたAlq3薄膜を用いた場合よりも、有機EL装置の発光効率が向上できると記載されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−41070号公報
【0005】
また、液相プロセスで結晶性有機薄膜が形成された例もあり、例えば、材料によっては、有機物の溶液をスピンコート法で塗布する方法で、結晶性有機薄膜を形成できることも発表されている。その材料としては、α−セキチオフェン、ヘキサデカフルオロ銅フタロシアニン、ナフタレンテトラカルボキシルジイミド等が挙げられる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
一方、多くの電子デバイスでは、機能性薄膜がパターニングされて使用されるが、結晶性有機薄膜をフォトリソグラフィ工程とエッチング工程からなる通常のパターニング方法でパターニングすることは、有機物のレジスト耐性が低いために困難である。前述の結晶性有機薄膜でも、各結晶性有機薄膜が記載されている文献にパターニング法についての記載はない。また、結晶の完全性は物性に直接反映されるが、前記各文献にはそれについての詳細な記述もない。したがって、現時点では、パターニングされた結晶性有機薄膜を任意の材料で得ることのできる方法は存在しないと言うことができる。
【0007】
これに対して、インクジェット法で基板上の所定位置に極少量の有機物の溶液を配置し、この配置された溶液を結晶化できれば、パターン状の結晶性有機薄膜を基板上に容易に形成できる。また、この方法では、溶液化可能な全ての材料について結晶性薄膜を形成できるようになり、さらに、原理的には完全な結晶(単結晶)を作ることが可能になる。
【0008】
本発明は、このような点に着目してなされたものであり、基板上の所定位置に配置された極少量の溶液を結晶化させることのできる方法を提供することにより、インクジェット法でパターン状の結晶性薄膜を基板上に容易に形成できるようにすることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、薄膜形成材料が溶媒に溶解している溶液の液滴を基板上に配置する工程を有する薄膜の形成方法において、配置された後の前記液滴近傍での前記溶媒と同じ成分からなる気体の分圧を、当該液滴をなす溶液が過飽和状態になる第1の分圧(例えば、飽和蒸気圧と同じかほぼ同じ分圧)に制御することにより、前記液滴に結晶核を生成させ、前記結晶核の生成後に、前記液滴近傍での前記気体の分圧を、前記結晶核が結晶成長可能となる第2の分圧(例えば、飽和蒸気圧の1/10〜1/100)に低下させることを特徴とする薄膜の形成方法を提供する。
【0010】
本発明はまた、薄膜形成材料が溶媒に溶解している溶液の液滴を基板上に配置する工程を有する薄膜形成方法において、前記配置された液滴をなす溶液を過飽和状態にするとともに、前記液滴近傍での前記溶媒と同じ成分からなる気体の分圧を、当該液滴をなす溶液から溶媒が蒸発し難い第1の分圧(例えば、飽和蒸気圧と同じかほぼ同じ分圧)に制御することにより、前記液滴に結晶核を生成させ、前記結晶核の生成後に、前記液滴近傍での前記気体の分圧を、当該結晶核の結晶成長が更なる結晶核の生成よりも優先的に生じる第2の分圧(例えば、飽和蒸気圧の1/10〜1/100)となるまで低下させることを特徴とする薄膜の形成方法を提供する。
【0011】
この方法によれば、先ず、基板上に配置された直後の液滴をなす溶液が過飽和状態となることによって、結晶化に必要な結晶核が前記溶液内に生成される。次に、前記液滴近傍での前記気体(溶媒と同じ成分からなる気体)の分圧を、前記第1の分圧(液滴をなす溶液から溶媒が蒸発し難い高い分圧)から前記第2の分圧(既に生じた結晶核の結晶成長が、更なる結晶核の生成よりも優先的に生じる低い分圧)となるまで低下させることにより、結晶成長が始まる。
【0012】
したがって、この方法において、例えば、前記液滴の配置をインクジェット法により所定パターンで行うことによって、パターン状の結晶性薄膜を基板上に容易に形成することができる。
ここで、液滴配置工程を例えばインクジェット法で行った場合のように、基板上に配置された液滴の体積が例えば20ピコリットルと極少量である場合には、液滴近傍での前記気体(液滴をなす溶液の溶媒と同じ成分からなる気体)の分圧が低いと、溶媒が液滴から蒸発し易いため、液滴をなす溶液の濃度が急上昇して溶液の過飽和度も急激に高くなり、多数の結晶核が形成されて溶質が粉末化し易い。これに対して、本発明の方法では、液滴配置直後の液滴近傍での前記気体の分圧を、前記第1の分圧(液滴をなす溶液から溶媒が蒸発し難い高い分圧)に制御することにより、液滴をなす溶液が比較的低い過飽和度の過飽和状態で安定する(すなわち、液滴をなす溶液の過飽和度の上昇度合いが穏やかになる)ため、少数(理想的には1個)の核が生成される。
【0013】
また、単結晶の薄膜を形成するためには、1個の核が生成された後にこの核のみを結晶成長させ、他の核形成を生じさせないようにする必要があるが、液滴配置直後の液滴近傍での前記気体の分圧が高いままであると、更なる核が生成されることになる。これに対して、本発明の方法では、結晶核の生成後に前記分圧を、既に生じた結晶核の結晶成長が更なる結晶核の生成よりも優先的に生じる低い分圧(第2の分圧)となるまで低下させることにより、更なる核生成を防止しながら結晶成長を促進している。
【0014】
したがって、本発明の方法においては、前記第1の分圧から第2の分圧への分圧低下を、前記溶液に少数(理想的には1個)の結晶核が生成した直後に急激に行うことによって、例えば、飽和蒸気圧と同じかほぼ同じ分圧である第1の分圧から、1.3Pa(10-2torr)である第2の分圧まで、1〜10秒間で低下させることことによって、液滴をなす溶液の過飽和度を急激に高くして、単結晶の結晶性薄膜を得ることができる。
【0015】
なお、本発明の方法では、配置された直後の液滴をなす溶液が過飽和状態となるようにする必要があり、そのためには、(1)液滴配置工程で溶液を吐出する時に飽和状態となる量の薄膜形成材料を含有している溶液、または(2)前記吐出時に濃度が飽和濃度の1/10以上飽和濃度未満となる量の薄膜形成材料を含有している溶液、または(3)前記吐出時に過飽和状態となる量の薄膜形成材料を含有している溶液を使用することが好ましい。
【0016】
本発明の方法において、前記第1の分圧への分圧制御方法としては、▲1▼前記液滴の吐出間隔(配置間隔)を調整する方法、▲2▼前記溶液の吐出量(前記液滴をなす溶液の量)を調整する方法、▲3▼前記液滴配置工程前に、液滴が配置される位置の前記気体の分圧を調整する方法が挙げられる。
本発明の方法において、前記第1の分圧から第2の分圧への分圧低下方法としては、▲1▼前記液滴近傍の雰囲気を減圧する方法、▲2▼前記液滴近傍の温度を上昇させる方法、▲3▼前記液滴近傍の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換する方法が挙げられる。なお、▲2▼の方法では前記気体の分圧低下が生じない場合(一連の工程を密閉空間で行う場合等)もあるが、その場合でも、温度上昇によって飽和蒸気圧が高くなり、液滴の溶媒が蒸発し易い状態となるため、前記気体の分圧低下が生じた場合と同じ作用(液滴をなす溶液の過飽和度を急激に高くする)が得られる。
【0017】
本発明の方法で使用可能な薄膜形成材料としては、オリゴフェニレンまたはその誘導体、あるいはオリゴチオフェンまたはその誘導体が挙げられる。オリゴフェニレンは下記の(1)式で表され、オリゴチオフェンは下記の(2)式で表され、いずれの場合もnは2以上である。また、いずれの場合もnが2以上6以下であるものが好ましい。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
オリゴフェニレンの例としては、下記の(3)式で示されるp−ターフェニルが挙げられる。オリゴチオフェンの例としては、下記の(4)式で示されるターチオフェンが挙げられる。オリゴフェニレンの誘導体の例としては、下記の(5)式で示される4−アミノ−p−ターフェニルが挙げられる。オリゴチオフェンの誘導体の例としては、下記の(6)式で示される2,2':5',2"−ターチオフェン−5,5"−ジカルボキシアルデヒドが挙げられる。
【0021】
【化3】
【0022】
【化4】
【0023】
【化5】
【0024】
【化6】
【0025】
本発明の方法で使用可能な薄膜形成材料としては、また、下記の(7)式で示されるAlq3(キノリノール−アルミニウム錯体)が挙げられる。
【0026】
【化7】
【0027】
本発明はまた、本発明の方法で薄膜を形成する工程を有する電子デバイスの形成方法を提供する。
本発明はまた、基板を載置するステージと、薄膜形成材料が溶媒に溶解している溶液を液滴として吐出する吐出装置と、前記ステージの上部の気体組成を変化させる気体成分調整装置と、を備えた薄膜形成装置を提供する。
【0028】
本発明はまた、基板を載置するステージと、薄膜形成材料が溶媒に溶解している溶液を液滴として吐出する吐出装置と、前記ステージの上部に所定成分の気体を導入する気体導入装置と、前記ステージの上部の圧力を低下させる減圧装置と、を備えた薄膜形成装置を提供する。
本発明はまた、薄膜形成材料が溶媒に溶解している溶液の液滴を基板上に配置し、前記液滴近傍での前記溶媒と同じ成分からなる気体の分圧を制御することにより、前記液滴に結晶核を生成させた後に前記結晶核を成長させて結晶性薄膜を形成することを特徴とする薄膜の形成方法を提供する。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
前記化学式(3)で示される構造のp−ターフェニル(薄膜形成材料)を、2,3-ジヒドロベンゾフラン(溶媒)に0.1重量%濃度となるように溶解させた。また、シリコン基板の表面に紫外線を照射して、この表面を親インク性(前記溶液によって濡れ易い性質)にした。
【0030】
なお、25℃(溶液吐出時の温度)での2,3−ジヒドロベンゾフランに対するp−ターフェニルの飽和濃度は1.0重量%である。したがって、この溶液のp−ターフェニル濃度は吐出時に飽和濃度の1/10となる。
次に、図1に示す薄膜形成装置を使用して、前記シリコン基板に対する薄膜形成を行った。この装置は、密閉容器1と、この密閉容器1内に設置されたX−Yステージ2と、インクジェット装置のヘッド3と、密閉容器1内を減圧するためのポンプ6と配管7とで構成されている。
【0031】
ヘッド3は密閉容器1の上部に固定されており、このヘッド3内に外部から、前記溶液が供給されるように構成されている。ヘッド3とX−Yステージ2は、互いに向かい合う位置に配置されている。ポンプ6用の配管7は密閉容器1の底部に接続されている。
インクジェット装置としては、セイコーエプソン(株)製のインクジェット装置「MJ−930C」を用いた。ヘッド3としては、ノズルを1個備えたものを使用した。
【0032】
先ず、この装置のX−Yステージ2に、前記処理を行ったシリコン基板を載せて密閉した。次に、この密閉容器1内を25℃に保持し、この基板の表面にヘッド3から、前記溶液を1滴当たり20ピコリットルの吐出量で吐出した。この吐出を、X−Yステージ2を210μmずつ基板の1辺に沿って移動させながら10回繰り返した。ヘッドのノズルと基板との距離は1mmとした。これにより、基板上の一直線に沿ってピッチ210μmで10個の液滴が形成された。
【0033】
この液滴形成を終了すると同時に、減圧ポンプ6を稼働させてこの密閉容器1内を1.3Pa(10-2torr)まで減圧し、この状態を6時間保持した。6時間後に密閉空間から取り出したシリコン基板には、各液滴が形成された各位置に、一辺が20μm〜30μmである略菱形のp−ターフェニル薄膜(厚さ0.5μm)が、略単結晶の状態で形成されていた。p−ターフェニル単結晶薄膜は、各種電子デバイス用の半導体膜として好適に使用可能な機能性薄膜である。
【0034】
これに対して、液滴をピッチ420μmで形成した以外は全て上述の方法を行った場合、6時間後に密閉容器1から取り出したシリコン基板には、各液滴が形成された各位置に、一辺が1μm以下である略菱形のp−ターフェニルからなる微結晶が形成されていた。液滴をピッチ560μmで形成した場合も同様であった。
【0035】
この実施形態では、吐出時の溶液の濃度が飽和濃度の1/10であるため、基板上に配置された直後に液滴をなす溶液が過飽和状態になり易い。また、1滴当たりの吐出量を20ピコリットルとした場合には、液滴をピッチ210μmで形成することによって、配置された直後の液滴近傍での2,3−ジヒドロベンゾフラン(溶媒と同じ成分)からなる気体の分圧が、液滴となっている溶液から2,3−ジヒドロベンゾフラン(溶媒)が蒸発し難い高い分圧となっている。これらのことから、液滴となっている溶液が比較的低い過飽和度の過飽和状態で安定して、少数の核形成がなされたと考えられる。
【0036】
これに対して、同じ吐出量で液滴をピッチ420μmおよび560μmで形成すると、液滴の配置直後に前記気体の分圧が前記高い分圧とならずに、多数の核形成がなされたと考えられる。
また、液滴形成を終了すると同時に密閉空間(密閉容器1)内の減圧を開始することによって、液滴近傍での溶媒蒸気の分圧が、少数の結晶核が形成された段階で急激に低下し、液滴となっている溶液の過飽和度が急激に高くなって、更なる結晶核の形成よりも結晶成長が優先的に生じる状態となり、この減圧状態を6時間保持することによって、結晶成長が促進されたと考えられる。
【0037】
なお、本実施形態では図1に示す薄膜形成装置を使用しているが、減圧をより確実に行うために、図1の薄膜形成装置のヘッド3とステージ2および配管7とを隔てる仕切り板を設けたものを使用してもよい。この仕切り板を設けることにより、密閉容器1内部のヘッド設置側は減圧させずに、ステージ設置側のみを減圧することができる。
<第2実施形態>
1滴当たりの吐出量を40ピコリットルとした以外は全て第1実施形態と同じ方法を行った。液滴の形成ピッチは420μmとした。その結果、6時間後に密閉空間から取り出したシリコン基板には、各液滴が形成された各位置に、一辺が20μm〜30μmである略菱形のp−ターフェニル薄膜(厚さ0.8μm)が、略単結晶の状態で形成されていた。
【0038】
なお、第1実施形態では1滴当たりの吐出量が20ピコリットルであるため、第1実施形態で液滴をピッチ420μmで形成した例が、この実施形態の比較例(対照例)となるが、この例では、上述のように、6時間後に密閉空間から取り出したシリコン基板には、各液滴が形成された各位置に、一辺が1μm以下である略菱形のp−ターフェニルからなる微結晶が形成されていた。
【0039】
以上のことから、液滴をピッチ420μmで形成した場合には、1滴当たりの吐出量を40ピコリットルとすることによって、配置された直後の液滴近傍での2,3−ジヒドロベンゾフランからなる気体の分圧が、液滴をなす溶液から2,3−ジヒドロベンゾフラン(溶媒)が蒸発し難い高い分圧となって、少数の核形成がなされるが、1滴当たりの吐出量を20ピコリットルとすると、液滴の配置直後に前記気体の分圧が前記高い分圧とならずに、多数の核形成がなされたと考えられる。
<第3実施形態>
溶液の吐出直前に基板表面にスピンコート法(回転速度2000rpmで30秒間)により溶媒(2,3−ジヒドロベンゾフラン)を塗布した以外は、全て第1実施形態と同じ方法を行った。液滴の形成ピッチは420μmとした。その結果、6時間後に密閉空間から取り出したシリコン基板には、各液滴が形成された各位置に、一辺が20μm〜30μmである略菱形のp−ターフェニル薄膜(厚さ0.1μm)が、略単結晶の状態で形成されていた。
【0040】
なお、第1実施形態で液滴をピッチ420μmで形成した例が、この実施形態の比較例(対照例)となるが、この例では、上述のように、6時間後に密閉空間から取り出したシリコン基板には、各液滴が形成された各位置に、一辺が1μm以下である略菱形のp−ターフェニルからなる微結晶が形成されていた。
以上のことから、液滴をピッチ420μmで形成した場合には、薄膜形成材料の溶液を吐出する直前に基板表面にこの溶液の溶媒を塗布することによって、配置された直後の液滴近傍での2,3−ジヒドロベンゾフランからなる気体の分圧が、液滴をなす溶液から2,3−ジヒドロベンゾフラン(溶媒)が蒸発し難い高い分圧となって、少数の核形成がなされるが、溶媒塗布を行わないと前記気体の分圧が前記高い分圧とならずに、多数の核形成がなされると考えられる。
<第4実施形態>
上記化学式(4)で示される構造のターチオフェン(2,2':5',2"−ターチオフェン、薄膜形成材料)を、ドデシルベンゼン(溶媒)に、濃度が1.0重量%となるように溶解させて溶液を得た。25℃(溶液吐出時の温度)でのドデシルベンゼンに対するターチオフェンの飽和濃度は1.0重量%である。したがって、この溶液は、吐出時に、ターチオフェンが飽和状態となる。
【0041】
この溶液を用い、1滴あたりの吐出量を20ピコリットルとし、吐出ピッチを210μmとして、第1実施形態と同じ方法を行った。
その結果、6時間後に密閉空間から取り出したシリコン基板には、各液滴が形成された各位置に、10μm×5μmの略長方形のターチオフェン薄膜(厚さ0.5μm)が、略単結晶の状態で形成されていた。ターチオフェン結晶性薄膜は、各種電子デバイス用の半導体膜として好適に使用可能な機能性薄膜である。
<第5実施形態>
前記化学式(5)で示される構造の4−アミノ−p−ターフェニル(薄膜形成材料)を、ジメチルホルムアミド(溶媒)に、濃度が1.0重量%となるように溶解させて溶液を得た。25℃(溶液吐出時の温度)でのジメチルホルムアミドに対する4−アミノ−p−ターフェニルの飽和濃度は1.0重量%である。したがって、この溶液は、吐出時に、4−アミノ−p−ターフェニルが飽和状態となる。
【0042】
この溶液を用い、1滴あたりの吐出量を20ピコリットルとし、吐出ピッチを210μmとして、第1実施形態と同じ方法を行った。
その結果、6時間後に密閉空間から取り出したシリコン基板には、各液滴が形成された各位置に、一辺が20μm〜30μmである略菱形の4−アミノ−p−ターフェニル薄膜(厚さ0.1μm)が、略単結晶の状態で形成されていた。4−アミノ−p−ターフェニル結晶性薄膜は、各種電子デバイス用の半導体膜として好適に使用可能な機能性薄膜である。
<第6実施形態>
前記化学式(6)で示される構造の2,2':5',2"−ターチオフェン−5,5"−ジカルボキシアルデヒド(ターチオフェンの誘導体、薄膜形成材料)を、ジメチルホルムアミド(溶媒)に、濃度が1.0重量%となるように溶解させて溶液を得た。25℃(溶液吐出時の温度)でのジメチルホルムアミドに対する前記誘導体の飽和濃度は1.0重量%である。したがって、この溶液は、吐出時に、前記誘導体が飽和状態となる。
【0043】
この溶液を用い、1滴あたりの吐出量を20ピコリットルとし、吐出ピッチを210μmとして、第1実施形態と同じ方法を行った。
その結果、6時間後に密閉空間から取り出したシリコン基板には、各液滴が形成された各位置に、一辺が20μm〜30μmである略菱形の2,2':5',2"−ターチオフェン−5,5"−ジカルボキシアルデヒド薄膜(厚さ0.1μm)が、略単結晶の状態で形成されていた。2,2':5',2"−ターチオフェン−5,5"−ジカルボキシアルデヒド結晶性薄膜は、各種電子デバイス用の半導体膜として好適に使用可能な機能性薄膜である。
<第7実施形態>
上記化学式(7)で示される構造のAlq3(キノリノール−アルミニウム錯体;薄膜形成材料)を、2,3−ジヒドロベンゾフラン(溶媒)に、濃度が0.1重量%となるように溶解させて溶液を得た。25℃での2,3−ジヒドロベンゾフランに対するAlq3の飽和濃度は1.0重量%であるため、この溶液のAlq3濃度は吐出時に飽和濃度の1/10となっている。
【0044】
この溶液を用い、1滴あたりの吐出量を20ピコリットルとし、吐出ピッチを210μmとして、第1実施形態と同じ方法を行った。
その結果、6時間後に密閉空間から取り出したシリコン基板には、各液滴が形成された各位置に、長さ30μmの針状で厚さ0.1μmのAlq3薄膜が、略単結晶の状態で形成されていた。Alq3単結晶薄膜は有機EL装置の発光層等として好適に使用可能な機能性薄膜である。
<第8実施形態>
図2に示す薄膜形成装置を用いて、本発明の一実施形態に相当する方法を行った。
【0045】
この装置は、密閉容器1と、この密閉容器1内に設置されたX−Yステージ2と、インクジェット装置のヘッド3と、密閉容器1内に溶媒(2,3−ジヒドロベンゾフラン)と同じ成分からなる気体を導入するためのタンク4および配管5と、密閉容器1内を減圧するためのポンプ6と配管7とで構成されている。
ヘッド3は密閉容器1の上部に固定されており、このヘッド3内に外部から、第1実施形態で使用した溶液と同じ溶液が供給されるように構成されている。また、このヘッド3としては、ノズルを1個備えたものを使用した。ヘッド3とX−Yステージ2は、互いに向かい合う位置に配置されている。タンク4内には前記溶液の溶媒である2,3-ジヒドロベンゾフランが入れてあり、タンク4の配管5は密閉容器1の側壁上部に接続されている。ポンプ6用の配管7は密閉容器1の底部に接続されている。
【0046】
先ず、この装置のX−Yステージ2に、第1実施形態と同じ処理を行ったシリコン基板を載せて密閉し、タンク4から2,3−ジヒドロベンゾフランの気体を密閉容器1内に導入して、密閉容器1内のジヒドロベンゾフランの分圧を飽和蒸気圧に保持した。
次に、X−Yステージ2上の基板の表面にヘッド3から、前記溶液を1滴当たり20ピコリットルの吐出量で吐出した。この吐出を、X−Yステージ2を420μmずつ基板の1辺に沿って移動させながら10回繰り返した。ヘッドのノズルと基板との距離は1mmとした。これにより、基板上の一直線に沿ってピッチ420μmで10個の液滴が形成された。
【0047】
この液滴形成を終了すると同時に、タンク4から密閉容器1内への前記気体の導入を停止するとともに、減圧ポンプを稼働させてこの密閉容器1内を1.3Pa(10-2torr)まで減圧し、この状態を6時間保持した。6時間後に密閉容器1から取り出したシリコン基板には、各液滴が形成された各位置に、一辺が20μm〜30μmである略菱形のp−ターフェニル薄膜(厚さ0.5μm)が、略単結晶の状態で形成されていた。
<第9実施形態>
第1実施形態と同じ処理を行ったシリコン基板を、ホットプレートが内蔵されたステージ上に配置し、ホットプレートを加熱しない状態で、この基板の表面に第1実施形態と同じ方法で、同じ溶液の吐出を行った。これにより、基板上にピッチ210μmで10個の液滴が一直線に沿って形成された。
【0048】
この液滴形成を終了すると同時にホットプレートを加熱して、ホットプレート上の基板を30℃、50℃、70℃の各温度に15分間保持した。15分経過後に前記空間から取り出したシリコン基板には、50℃の場合は、各液滴が形成された各位置に、一辺が30μmである略菱形のp−ターフェニル薄膜(厚さ0.4μm)が、略単結晶の状態で形成されていた。30℃の場合は、各液滴が形成された各位置に、一辺が1μm以下である略菱形のp−ターフェニルからなる微結晶が形成されていた。70℃の場合は、各液滴が形成された各位置に、長軸30μm程度の涙形のp−ターフェニル薄膜(厚さ0.3μm)が略アモルファスの状態で形成されていた。
【0049】
ホットプレートを加熱しないで15分保持した場合、15分経過後に前記空間から取り出したシリコン基板には、各液滴が形成された各位置に、粒界を多く含む凸凹上の多結晶状態のp−ターフェニルの塊が形成されているか、微粉末が析出していた。
この実施形態では、液滴の溶媒が蒸発し易い状態にする工程(核形成後の液滴近傍での溶媒と同じ成分からなる気体の分圧低下と同じ作用が得られる工程)を、ホットプレートでの加熱により液滴近傍の温度を上昇させることで行っている。
<第10実施形態>
図3に示すステージ8を用意した。このステージ8は、基板を載せる長方形の台部81と、この台部81の長手方向一端に設けられた気体吹き出し部82と、他端に設けられた気体吸い込み部83とで構成されている。気体吹き出し部82には、横方向に多数の吹き出し口82aが等間隔で形成されている。気体吸い込み部83には、横方向に多数の吸い込み口83aが等間隔で形成されている。これらの吹き出し口82aと吸い込み口83aは、台部81の上方30cmの位置に、互いに対向する配置で形成されている。
【0050】
気体吹き出し部82には外部から不活性ガスが導入され、吹き出し口82aから対向する吸い込み口83aに向けて不活性ガスが吹き出され、この吹き出された不活性ガスが吸い込み口83aから気体吸い込み部83内に吸い込まれるようになっている。これにより、台部81の上方に不活性ガスの層流が形成される。
先ず、このステージ8を密閉空間に配置し、このステージ8上に基板を載せて第1実施形態と同じ方法で前記溶液の吐出を行った。このときにはステージ8による不活性ガスの層流形成を行わず、第1実施形態と同様に、大気圧の空気中で液滴の形成を行った。これにより、基板上にピッチ210μmで一直線に沿って10個の液滴が形成された。
【0051】
この液滴形成を終了すると同時に、ステージ8による不活性ガスの層流形成を行い、この状態で15分放置した。不活性ガスとしては窒素ガスを0.2MPaで吹き出した。その後に密閉空間から取り出したシリコン基板には、各液滴が形成された各位置に、一辺が10μmである略菱形のp−ターフェニル薄膜(厚さ0.5μm)が、略単結晶の状態で形成されていた。ただし、この薄膜には、いくつかの粒界が存在する部分もあった。
【0052】
この実施形態では、核形成後の液滴近傍での溶媒と同じ成分からなる気体の分圧低下を、液滴近傍の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換することで行っている。
なお、図2の装置は請求項13の薄膜形成装置の一実施形態であって、タンク4および配管5が気体導入装置に相当し、ポンプ6および配管7が減圧装置に相当する。また、図2でポンプ6および配管7のない装置は、請求項12の薄膜形成装置の一実施形態であって、この場合にはタンク4および配管5が気体成分調整装置に相当する。
【0053】
また、本発明の方法が実施可能な装置の別の例としては、▲1▼図2の装置で、タンク4、ポンプ6、および配管5,7がなく、ステージ2上にホットプレートとスピコーターを兼ねる装置が設置されているもの、▲2▼図2の装置で、タンク4と配管5がなく、ステージ2上にスピコーターが設置されているもの、▲3▼図2の装置で、ポンプ6および配管7がなく、ステージ2上にホットプレートが設置されているもの、▲4▼図2の薄膜形成装置のヘッド3とステージ2および配管7とを隔てる仕切り板を設けたもの等が挙げられる。
【0054】
なお、前記各実施形態(第1〜第8)では、液滴形成を終了すると同時に密閉空間内の減圧を開始することによって、第1の分圧を第2の分圧に急激に低下させて、液滴をなす溶液の過飽和度を急激に高くして単結晶の結晶性薄膜を得ているが、前記減圧開始のタイミングは液滴形成の終了と同時に限定されるものではなく、他の条件等によって適切なタイミングで行うことができる。第9実施形態の加熱および第10実施形態の気体置換のタイミングについても前記と同様である。
【0055】
本発明の形成方法により形成された結晶性薄膜は、各種電子デバイス(トランジスタ、ダイオード、キャパシタ、有機EL装置における発光層や正孔注入/輸送層等)用の半導体膜として好適に使用できる。また、本発明の方法で薄膜形成がなされた電子デバイスを備えた表示装置としては、液晶表示装置や有機EL表示装置等が挙げられる。これらの表示装置は、例えば、図4に示す各種電子機器に適用することができる。
【0056】
図4(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図4(a)において、符号600は携帯電話本体を示し、符号601は前記表示装置を用いた表示部を示している。
図4(b)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図4(b)において、符号700は情報処理装置、符号701はキーボードなどの入力部、符号703は情報処理装置本体、符号702は前記表示装置を用いた表示部を示している。
【0057】
図4(c)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図4(c)において、符号800は時計本体を示し、符号801は前記表示装置を用いた表示部を示している。
図4(a)〜(c)に示すそれぞれの電子機器は、前記実施形態の方法で形成された結晶性薄膜を半導体膜として使用した電子デバイスを備えた表示装置を表示部として備えたものであり、本発明の薄膜形成方法の特徴を有する。そのため、本発明の薄膜形成方法によれば、これらの電子機器の製造方法を容易にすることができる。
【0058】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の方法によれば、基板上の所定位置に配置された極少量の溶液を結晶化させることができる。その結果、インクジェット法によりパターン状の結晶性薄膜を基板上に容易に形成できるようになる。
また、本発明の装置によれば、本発明の方法が容易に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の方法を実施可能な薄膜形成装置を示す概略構成図である。
【図2】 本発明の薄膜形成装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図3】 本発明の請求項8に係る方法が容易に実施可能なステージを示す概略斜視図である。
【図4】 本発明の方法で薄膜形成がなされた電子デバイスを備えた表示装置を有する電子機器の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
1…密閉容器、2…X−Yステージ、3…ヘッド(インクジェット装置)、4…タンク(気体導入装置、気体成分調整装置)、5…配管(気体導入装置、気体成分調整装置)、6…ポンプ(減圧装置)、7…配管(減圧装置)、8…ステージ、81…基板を載せる台部、82…気体吹き出し部、83…気体吸い込み部、82a…吹き出し口、83a…吸い込み口、600…携帯電話本体、601…表示部、700…情報処理装置、701…入力部、703…情報処理装置本体、702…表示部、800…時計本体、801…表示部。
Claims (11)
- 薄膜形成材料が溶媒に溶解している溶液の液滴を基板上に配置する工程を有する薄膜の形成方法において、
配置された後の前記液滴をなす溶液が過飽和状態になるような溶液を使用し、前記液滴近傍での前記溶媒と同じ成分からなる気体の分圧を、前記溶媒の飽和蒸気圧と同じである第1の分圧に制御することにより、前記液滴に結晶核を生成させ、
前記結晶核の生成後に、前記液滴近傍での前記気体の分圧を、前記結晶核が結晶成長可能となる前記溶媒の飽和蒸気圧の1/10〜1/100である第2の分圧に低下させることを特徴とする薄膜の形成方法。 - 薄膜形成材料が溶媒に溶解している溶液の液滴を基板上に配置する工程を有する薄膜形成方法において、前記配置された液滴をなす溶液を過飽和状態にするとともに、前記液滴近傍での前記溶媒と同じ成分からなる気体の分圧を、当該液滴をなす溶液から溶媒が蒸発し難い第1の分圧に制御することにより、前記液滴に結晶核を生成させ、前記結晶核の生成後に、前記液滴近傍での前記気体の分圧を、当該結晶核の結晶成長が更なる結晶核の生成よりも優先的に生じる第2の分圧となるまで低下させることを特徴とする薄膜の形成方法。
- 前記第1の分圧への分圧制御を、前記液滴の配置間隔の調整によって行う請求項1または2記載の薄膜の形成方法。
- 前記第1の分圧への分圧制御を、前記液滴をなす溶液の量の調整によって行う請求項1または2記載の薄膜の形成方法。
- 前記第1の分圧への分圧制御を、前記液滴を基板上に配置する前に、当該液滴が配置される位置の前記気体の分圧を調整することによって行う請求項1または2記載の薄膜の形成方法。
- 前記気体の分圧を前記第2の分圧に低下させるために、前記液滴近傍の雰囲気を減圧する請求項1または2記載の薄膜の形成方法。
- 前記気体の分圧を前記第2の分圧に低下させるために、前記液滴近傍の温度を上昇させる請求項1または2記載の薄膜の形成方法。
- 前記気体の分圧を前記第2の分圧に低下させるために、前記液滴近傍の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換する請求項1または2記載の薄膜の形成方法。
- 薄膜形成材料はオリゴフェニレンまたはその誘導体である請求項1乃至8のいずれか1項に記載の薄膜の形成方法。
- 薄膜形成材料はオリゴチオフェンまたはその誘導体である請求項1乃至8のいずれか1項に記載の薄膜の形成方法。
- 請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法で薄膜を形成する工程を有する電子デバイスの形成方法。
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