JP4134645B2 - 摺動面の加工方法およびシリンダブロック - Google Patents

摺動面の加工方法およびシリンダブロック Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワークにおける円周面をなす摺動面にレーザ光を照射することにより油溜まりとして機能する微細な窪み部を形成する摺動面の加工方法および摺動面としてのボア内周面にレーザ光を照射することにより油溜まりとして機能する微細な窪み部が形成されたシリンダブロックに関する。
【0002】
【従来の技術】
ワークにおける円周面をなす摺動面、例えば、シリンダブロックのボア内周面は、ピストンの焼き付きを防止する耐焼き付き性が良好であることが要求されるため、油溜まりとして機能する微細な窪み部が形成されている。
【0003】
油溜まりを形成する加工方法として、ホーニング砥石により微小な網目状の油溜まりを形成するホーニング加工が知られているが、ホーニング砥石を回転および昇降させながらボア内周面の全領域を加工するため、潤滑油を積極的に保持させる必要がある一部の領域の窪みのみを深く形成することは難しい。
【0004】
そこで、ボア内周面のうち潤滑油を積極的に保持させる必要がある一部の領域にレーザ光を照射して微細な窪み部を形成するレーザ微細加工による摺動面の加工方法も提案されている。レーザ微細加工によれば、所望形状の窪み部を必要な領域にだけ簡単に形成することができる。レーザ微細加工による摺動面の加工方法は、例えば、特開平7−40068号公報、特開平6−81030号公報、特開2001−279421号公報に示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−40068号公報
【特許文献2】
特開平6−81030号公報
【特許文献3】
特開2001−279421号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
レーザ微細加工を行うと、当該レーザ微細加工を行った部分(以下、「レーザ加工部」という)の両側に、盛り上がり部位が生じる。この盛り上がり部位を除去するとともに面粗度を向上させるために、レーザ微細加工の後には、ボア内周面の仕上げ加工が行われている。仕上げ加工は、一般に、ホーニング砥石を用いた研削加工により行われている。
【0007】
しかしながら、研削加工を行うと、レーザ加工部に比べて、レーザ微細加工を行っていない部分(以下、「レーザ未加工部」という)が優先的に研磨されてしまい、研削加工が完了した後に、ボア内周面は、レーザ加工部が凸形状に、レーザ未加工部が凹形状になり、全体的にうねった凹凸形状になることがある。うねりの発生原因としては、主として、レーザ加工部の周辺に発生する数ミクロン厚さの硬化された部分とレーザ未加工部の硬化されていない部分との間の硬度差によって砥石の磨耗が不均一になるため、および、砥石の目詰まりが不均一になるためであると考えられる。ボア内周面が全体的にうねった凹凸形状になると、凸形状になった部分の面圧が不均一に高くなる。これにより、摺動面のフリクション特性が悪影響を受け、耐焼き付き性が低下する。
【0008】
したがって、摺動面のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図るためには、円周面をなす摺動面が研削加工後にうねった凹凸形状となることを抑制しつつ、油溜まりとして機能する微細な窪み部を形成する必要がある。
【0009】
本発明は、このような背景の下になされたものであり、円周面をなす摺動面が研削加工後にうねった凹凸形状となることを抑制しつつ、油溜まりとして機能する微細な窪み部を形成でき、もって、摺動面のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図り得る摺動面の加工方法およびシリンダブロックを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、下記する手段により達成される。
【0011】
本発明は、ワークにおける円周面をなす摺動面にレーザ光を照射することにより油溜まりとして機能する微細な窪み部を形成する摺動面の加工方法において、レーザ光を照射して微細な窪み部を形成するレーザ微細加工を行った後に、レーザ微細加工を行った部分とレーザ微細加工を行っていない部分との硬度差を吸収するレーザ焼き入れを行い、その後に、研削加工により前記摺動面を仕上げ加工することを特徴とする摺動面の加工方法である。
【0012】
また、本発明は、摺動面としてのボア内周面にレーザ光を照射することにより油溜まりとして機能する微細な窪み部が形成されたシリンダブロックにおいて、レーザ光を照射して微細な窪み部を形成するレーザ微細加工を行った部分と当該レーザ微細加工を行っていない部分との硬度差を吸収するレーザ焼き入れが施されていることを特徴とするシリンダブロックである。
【0013】
【発明の効果】
本発明によれば、円周面をなす摺動面が研削加工後にうねった凹凸形状となることを抑制しつつ、油溜まりとして機能する微細な窪み部を形成でき、もって、摺動面のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図り得る。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、参考例および本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。第1の実施形態が参考例に係る実施形態、第2の実施形態が本発明に係る実施形態である。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、レーザ加工装置10からボア内周面31にレーザ光を照射して微細な窪み部32を形成している状況を示す図、図2は、ボア内周面31のうちレーザ加工が施される領域を示す斜視図である。なお、図2おいて、レーザ加工が施される領域は二点鎖線にて表される。図3は、図2の3−3線に沿う断面図であり、図3(A)は、レーザ加工後のボア内周面31を示す断面図、図3(B)は、研削加工後のボア内周面31を示す断面図である。
【0016】
図1に示すように、レーザ加工装置10は、レーザ発振器11と、伝達ミラー12と、集光レンズ13が内蔵された集光部14と、集光部14の図中下端に設けられた折り返しミラー15と、集光部14を軸心Oを中心に回転するとともに軸心Oに沿う方向に昇降駆動する駆動装置16と、を有する。レーザ発振器11から出力されたレーザ光20は、伝達ミラー12により集光部14に向けて折り返され、集光レンズ13で集光され、折り返しミラー15により折り返され、シリンダブロック30におけるシリンダボアのボア内周面31(ワークにおける円周面をなす摺動面に相当する)に照射される。レーザ光20を所定パルス周波数(レーザ光20の照射の繰り返し数)で照射しつつ駆動装置16により集光部14を回転させることにより、油溜まりとして機能する複数の窪み部32がシリンダボアの円周方向に沿ってボア内周面31に形成される。その後、駆動装置16により集光部14を軸心方向に移動し、その位置において、再び、レーザ光20を所定パルス周波数で照射しつつ集光部14を回転させることにより、複数の窪み部32が円周方向に沿ってボア内周面31に形成される。
【0017】
図2に示すように、レーザ光20による微細な窪み部32の加工は、シリンダヘッド側開口端から所定寸法の領域に対して施される。この領域は、ピストンの上死点近傍に相当するため熱衝撃が大きく、耐焼き付き性をもっとも向上させなければならない領域である。
【0018】
図3(A)に示すように、レーザ微細加工を行うと、加熱による膨張や蒸発によって、レーザ加工部の両側に、盛り上がり部位33(「デブリ」と称される)が必然的に形成されてしまう。このような盛り上がり部位33がボア内周面31に残ったままでは、ピストンの円滑な摺動が阻害される。
【0019】
そこで、図3(B)に示すように、レーザ微細加工の後に、盛り上がり部位33(同図に破線で示される)を除去し、さらに、レーザ加工部以外の平滑部での面粗度を高めるために、仕上げ加工が行われている。仕上げ加工は、例えば、ホーニング砥石を用いた研削加工により行われる。ホーニング砥石は、回転駆動される円筒状の工具に、径方向外方に拡張自在に取り付けられている。
【0020】
図4は、シリンダボアの軸心方向に沿って隣り合う円周方向に沿う窪み部32の位相を同位相とした対比例の場合および窪み部32の位相をずらした第1の実施形態の場合のそれぞれにおける、窪み部32の配置状況、レーザ微細加工後のボア内周面31を示す断面図、研削加工後のボア内周面31を示す断面図である。符号40は、ホーニング砥石を示している。研削加工時には、ホーニング砥石40は、円筒状の工具とともに回転されながら、シリンダボアの軸心方向に進退移動される。矢印41は、ボア内周面31の円周方向に沿うホーニング砥石40の相対的な移動方向を示し、矢印42は、シリンダボアの軸心方向に沿うホーニング砥石40の相対的な移動方向を示している。
【0021】
図4に示すように、対比例の場合には、研削加工において、レーザ加工部50に比べてレーザ未加工部51が優先的に研磨されてしまう。このため、研削加工が完了した後に、ボア内周面31は、レーザ加工部50が凸形状に、レーザ未加工部51が凹形状になり、全体的にうねった凹凸形状になる。うねりの発生原因としては、前述したように、レーザ加工部50の周辺に発生する硬化された部分とレーザ未加工部51の硬化されていない部分との間の硬度差によって砥石40の磨耗が不均一になるため、および、砥石40の目詰まりが不均一になるためであると考えられる。ボア内周面31が全体的にうねった凹凸形状になると、凸形状になった部分の面圧が不均一に高くなり、摺動面のフリクション特性が悪影響を受け、耐焼き付き性が低下する。
【0022】
これに対して、第1の実施形態の場合には、研削加工が完了した後に、ボア内周面31は全体的にうねった凹凸形状にならない。うねりを抑制できたのは、矢印41、42で示される砥石40の移動方向に沿って位置する窪み部32の分布が砥石40の移動方向に沿ってほぼ均一になって砥石40の磨耗が研削面の全面にわたってほぼ均一になるため、および、砥石40の目詰まりが研削面の全面にわたってほぼ均一になるためであると考えられる。ボア内周面31が研削加工後にうねった凹凸形状となることを抑制しつつ、油溜まりとして機能する微細な窪み部32を形成できるため、面圧が周方向に均一になり、摺動面のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図ることができる。
【0023】
第1の実施形態におけるボア内周面31の加工手順を説明する。
【0024】
まず、レーザ光20を所定パルス周波数で照射しつつ駆動装置16により集光部14を回転し、油溜まりとして機能する複数の窪み部32を円周方向に沿ってボア内周面31に形成する。
【0025】
次いで、駆動装置16により集光部14をシリンダボアの軸心方向に所定距離だけ移動する。その位置において、再び、レーザ光20を所定パルス周波数で照射しつつ集光部14を回転し、複数の窪み部32を円周方向に沿ってボア内周面31に形成する。
【0026】
複数の窪み部32を円周方向に沿って形成した後にシリンダボアの軸心方向に移動した位置において複数の窪み部32を円周方向に沿って形成するときには、シリンダボアの軸心方向に沿って隣り合う円周方向に沿う窪み部32の位相がずれるようにレーザ光を照射する。窪み部32の位相をずらすために、レーザ発振器11からのレーザ光20の出力タイミングをずらす制御が行われる。
【0027】
上述した集光部14の軸心方向への移動と、その位置での円周方向に沿う複数の窪み部32の形成とを繰り返し、図2に二点鎖線で示される領域に対してレーザ微細加工を施す。レーザ光の平均出力、加工速度は適宜選択できるが、一例を挙げれば、レーザ平均出力は10W〜50W、加工速度は5m/min〜15m/minである。
【0028】
レーザ平均出力が10Wよりも小さいと、油溜まりの窪みとして機能させるのに十分な深さの窪み部32を形成することができない。また、レーザ平均出力が50Wよりも大きいとき、例えば100Wのときには、レーザ光の発振効率が低くなり、使用できるのはせいぜい50W程度である。また、現状の生産時には、レーザ平均出力の範囲として10W〜50Wの範囲が、通常、使用されている。以上のことから、さらには省エネルギーについても考慮して、レーザ平均出力は10W〜50Wが好ましい。
【0029】
また、加工速度が5m/minよりも小さいと、従来の加工時間に対して遅くなるので、生産効率(単位時間当たりの加工数)がきわめて低くなる。また、加工速度が15m/minよりも大きいと、パルス周波数をより大きくする必要があるが、パルス周波数が大きすぎると、レーザ加工装置10の消耗が激しく、装置寿命が短くなる。以上のことから、実際の生産時に採用し得る加工速度の下限値および上限値を考慮して、加工速度は5m/min〜15m/minが好ましい。
【0030】
レーザ微細加工が終了したシリンダブロック30は、軸心方向に沿う複数の位置で、複数の窪み部32が円周方向に沿って形成され、さらに、軸心方向に沿って隣り合う円周方向に沿う窪み部32の位相がずれている。図4に示される窪み部32は、半球凹部のような点形状を有している。窪み部32の円周方向のピッチは約0.6mm、軸心方向のピッチは約0.3mmである。
【0031】
レーザ微細加工が完了した後、ホーニング砥石40を用いた研削加工により、ボア内周面31を仕上げ加工する。研削加工時には、ホーニング砥石40は、円筒状の工具とともに回転されながら、シリンダボアの軸心方向に進退移動される。さらに、ホーニング砥石40は、径方向外方に向けて拡張され、ボア内周面31に押圧される。ホーニング砥石40は、比較的高速で回転される一方、比較的低速で進退移動される。
【0032】
研削加工が完了すると、レーザ微細加工により生じた盛り上がり部位33が除去され、ボア内周面31は、所定の面粗度を有する平滑面に仕上げられる。
【0033】
ここで、シリンダボアの軸心方向に沿って隣り合う円周方向に沿う窪み部32の位相をずらしたため、レーザ未加工部51が優先的に研削されることがなくなり、ボア内周面31が研削加工後にうねった凹凸形状となることを抑制しつつ、油溜まりとして機能する微細な窪み部32を形成できる。このように、油溜まりの機能を有する窪み部32と平滑面とを合わせ持つボア内周面31によれば、面圧が周方向に均一になり、摺動面のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図ることができる。
【0034】
以上説明したように、第1の実施形態における摺動面の加工方法によれば、複数の窪み部32を円周方向に沿って形成した後にシリンダボアの軸心方向に移動した位置において複数の窪み部32を円周方向に沿って形成するときに、シリンダボアの軸心方向に沿って隣り合う円周方向に沿う窪み部32の位相がずれるようにレーザ光20を照射し、その後に、研削加工により摺動面を仕上げ加工している。このため、円周面をなす摺動面が研削加工後にうねった凹凸形状となることを抑制しつつ、油溜まりとして機能する微細な窪み部32を形成でき、もって、摺動面のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図ることが可能となる。
【0035】
摺動面として、シリンダブロック30におけるシリンダボアの内周面の場合には、ボア内周面31のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図ることが可能となる。
【0036】
また、第1の実施形態におけるシリンダブロック30は、軸心方向に沿う複数の位置で、複数の窪み部32が円周方向に沿って形成され、さらに、軸心方向に沿って隣り合う円周方向に沿う窪み部32の位相がずれている。このため、円周面をなす摺動面としてのボア内周面31が研削加工後にうねった凹凸形状となることを抑制しつつ、油溜まりとして機能する微細な窪み部32を形成でき、もって、ボア内周面31のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図ることが可能となる。
【0037】
なお、窪み部32は、図4に示した点形状に限られものではなく、油溜まりとして機能し得る限りにおいて、適宜の形状を選択できる。例えば、図5に示すように、窪み部32は、長溝のような線形状を有するものでもよい。また、窪み部32は、楕円のような線形状であってもよい。
【0038】
線形状の窪み部32の場合、当該窪み部32の長手方向(円周方向)の範囲内に溜められた潤滑油が流動ないし移動する。これに対して、点形状の窪み部32における油溜まりは、線形状の窪み部32に比べて潤滑油の流動が少ない。このため、ボア内周面31の単位面積当たりにおける窪み部32の面積が同じ場合には、点形状の窪み部32は、線形状の窪み部32に比べて、油溜まりの途切れる領域が少なくなる。したがって、点形状の窪み部32は、線形状の窪み部32に比べて、焼き付きが生じる焼き付き面圧が高くなり、より効率よく焼き付きを防止することができる。
【0039】
なお、本明細書において、「円周方向に沿う窪み部32」とは、複数の窪み部32がワークの軸心に対して直交する方向に配置される場合のみならず、複数の窪み部32がワークの軸心に対して傾斜する方向に配置される場合をも含む概念である。
【0040】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、ボア内周面31のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図り得る摺動面の加工方法およびシリンダブロック30を提供する点において、上述した第1の実施形態と同じである。但し、第2の実施形態は、レーザ光20を照射して微細な窪み部32を形成するレーザ微細加工を行った後に、レーザ微細加工を行った部分50とレーザ微細加工を行っていない部分51との硬度差を吸収するレーザ焼き入れを行うことにより、ボア内周面31が研削加工後にうねった凹凸形状となることを抑制している。この点で、シリンダボアの軸心方向に沿って隣り合う円周方向に沿う窪み部32の位相をずらすことにより、ボア内周面31が研削加工後にうねった凹凸形状となることを抑制した第1の実施形態と相違している。
【0041】
第2の実施形態では、図1に示したレーザ加工装置10を使用して、図2に二点鎖線で示された領域に対してレーザ光を照射し、油溜まりとして機能する微細な窪み部32を形成する。このレーザ微細加工を行った後に、レーザ微細加工を行ったレーザ加工部50とレーザ微細加工を行っていないレーザ未加工部51との硬度差を吸収するレーザ焼き入れが行われる。
【0042】
レーザ微細加工により発生する盛り上がり部位33は硬化されているので、この盛り上がり部位33にレーザ焼き入れをさらに施すと、前記硬度差を吸収することができなくなる。このため、レーザ焼き入れは、前記硬度差を吸収するという目的に合致した領域、具体的には、レーザ微細加工を行った部分50以外の部分51に対して行う。ここで、「レーザ微細加工を行った部分50」には、窪み部32と、当該窪み部32周辺の盛り上がり部位33とが含まれている。
【0043】
レーザ焼き入れにより前記硬度差を吸収した後に、第1の実施形態と同様に、研削加工によりボア内周面31が仕上げ加工される。
【0044】
レーザ焼き入れは、専用の機械を用いてもよいが、図1に示したレーザ加工装置10を使用して行うこともできる。つまり、レーザ加工装置10から照射されるレーザ光20のパワー密度がほぼ同じでも、レーザ光20の焦点がボア内周面31から離れるように駆動装置16により集光部14を移動することにより、ボア内周面31を溶融することなくレーザ焼き入れを行うことができる。図6には、レーザ光の照射によって、微細加工、焼き入れ、衝撃硬化および溶接のそれぞれを行うときに設定されるレーザ光の照射時間とパワー密度との関係の一例が概略で示される。
【0045】
図7は、研削加工による仕上げ加工の前にレーザ焼き入れを行わない対比例の場合とレーザ焼き入れを行う第2の実施形態の場合のそれぞれにおける、窪み部32の配置状況、レーザ微細加工後のボア内周面31を示す断面図、第2の実施形態の場合のレーザ焼き入れ後のボア内周面31を示す断面図、研削加工後のボア内周面31を示す断面図である。図示するように、シリンダボアの軸心方向に沿って隣り合う円周方向に沿う窪み部32の位相は、対比例および第2の実施形態ともに同位相である。
【0046】
図7に示すように、対比例の場合には、研削加工において、レーザ加工部50に比べてレーザ未加工部51が優先的に研磨されてしまう。このため、研削加工が完了した後に、ボア内周面31は、レーザ加工部50が凸形状に、レーザ未加工部51が凹形状になり、全体的にうねった凹凸形状になる。うねりの発生原因としては、前述したように、レーザ加工部50の周辺に発生する硬化された部分とレーザ未加工部51の硬化されていない部分との間の硬度差によって砥石40の磨耗が不均一になるため、および、砥石40の目詰まりが不均一になるためであると考えられる。ボア内周面31が全体的にうねった凹凸形状になると、凸形状になった部分の面圧が不均一に高くなり、摺動面のフリクション特性が悪影響を受け、耐焼き付き性が低下する。
【0047】
これに対して、第2の実施形態の場合には、研削加工が完了した後に、ボア内周面31は全体的にうねった凹凸形状にならない。うねりを抑制できたのは、レーザ焼き入れによりレーザ未加工部51が硬化されて前記硬度差が吸収され、砥石40の磨耗が研削面の全面にわたってほぼ均一になるため、および、砥石40の目詰まりが研削面の全面にわたってほぼ均一になるためであると考えられる。ボア内周面31が研削加工後にうねった凹凸形状となることを抑制しつつ、油溜まりとして機能する微細な窪み部32を形成できるため、面圧が周方向に均一になり、摺動面のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図ることができる。
【0048】
第2の実施形態におけるボア内周面31の加工手順を説明する。
【0049】
まず、レーザ光20を所定パルス周波数で照射しつつ駆動装置16により集光部14を回転し、油溜まりとして機能する複数の窪み部32を円周方向に沿ってボア内周面31に形成する。
【0050】
次いで、駆動装置16により集光部14をシリンダボアの軸心方向に所定距離だけ移動する。その位置において、再び、レーザ光20を所定パルス周波数で照射しつつ集光部14を回転し、複数の窪み部32を円周方向に沿ってボア内周面31に形成する。
【0051】
上述した集光部14の軸心方向への移動と、その位置での円周方向に沿う複数の窪み部32の形成とを繰り返し、図2に二点鎖線で示される領域に対してレーザ加工を施す。レーザ光の平均出力、加工速度は適宜選択できるが、一例を挙げれば、レーザ平均出力は10W〜50W、加工速度は5m/min〜15m/minである。
【0052】
レーザ微細加工を行った後、レーザ加工部50(微細な窪み部32と、盛り上がり部位33との両者が含まれる)以外のレーザ未加工部51に対してレーザ焼き入れを行う。このとき、レーザ加工装置10は、レーザ光20の平均出力を一定にしたまま、レーザ光20の焦点がボア内周面31から離れるように集光部14が移動される。また、レーザ未加工部51の領域にレーザ焼き入れを行うように、レーザ発振器11の作動および集光部14の移動が制御される。
【0053】
レーザ焼き入れが完了した後、第1の実施形態と同様に、ホーニング砥石40を用いた研削加工により、ボア内周面31を仕上げ加工する。
【0054】
研削加工が完了すると、レーザ微細加工により生じた盛り上がり部位33が除去され、ボア内周面31は、所定の面粗度を有する平滑面に仕上げられる。
【0055】
ここで、研削加工による仕上げ加工の前にレーザ焼き入れを行ったため、レーザ未加工部51が優先的に研削されることがなくなり、ボア内周面31が研削加工後にうねった凹凸形状となることを抑制しつつ、油溜まりとして機能する微細な窪み部32を形成できる。このように、油溜まりの機能を有する窪み部32と平滑面とを合わせ持つボア内周面31によれば、面圧が周方向に均一になり、摺動面のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図ることができる。
【0056】
以上説明したように、第2の実施形態における摺動面の加工方法によれば、レーザ光20を照射して微細な窪み部32を形成するレーザ微細加工を行った後に、レーザ微細加工を行った部分50とレーザ微細加工を行っていない部分51との硬度差を吸収するレーザ焼き入れを行い、その後に、研削加工により摺動面を仕上げ加工している。このため、円周面をなす摺動面が研削加工後にうねった凹凸形状となることを抑制しつつ、油溜まりとして機能する微細な窪み部32を形成でき、もって、摺動面のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図ることが可能となる。
【0057】
レーザ焼き入れを、レーザ微細加工を行った部分50以外の部分51に対して行ったため、前記硬度差を吸収するという目的に合致した領域に対してレーザ焼き入れが行われる。このため、円周面をなす摺動面が研削加工後にうねった凹凸形状となることを確実に抑制しつつ、油溜まりとして機能する微細な窪み部32を形成でき、もって、摺動面のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図ることが可能となる。
【0058】
レーザ微細加工を行った部分50には、窪み部32と、当該窪み部32周辺の盛り上がり部位33とが含まれており、盛り上がり部位33にレーザ焼き入れを施さないようにしている。このため、レーザ微細加工により硬化された盛り上がり部位33の硬度がさらに高められることはなく、前記硬度差を吸収して、円周面をなす摺動面が研削加工後にうねった凹凸形状となることを確実に抑制できる。
【0059】
摺動面として、シリンダブロック30におけるシリンダボアの内周面の場合には、ボア内周面31のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図ることが可能となる。
【0060】
また、第2の実施形態におけるシリンダブロック30は、レーザ光を照射して微細な窪み部32を形成するレーザ微細加工を行った部分50と当該レーザ微細加工を行っていない部分51との硬度差を吸収するレーザ焼き入れが施されている。このため、円周面をなす摺動面としてのボア内周面31が研削加工後にうねった凹凸形状となることを抑制しつつ、油溜まりとして機能する微細な窪み部32を形成でき、もって、ボア内周面31のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性の向上を図ることが可能となる。
【0061】
なお、窪み部32は、半球凹部のような点形状の場合を示したが、図5に示した線形状、または、楕円のような線形状であってもよい。点形状の窪み部32は、線形状の窪み部32に比べてより効率よく焼き付きを防止することが可能である
さらに、第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせた形態とすることもできる。つまり、シリンダボアの軸心方向に沿って隣り合う円周方向に沿う窪み部32の位相をずらし、かつ、レーザ微細加工を行った部分50とレーザ微細加工を行っていない部分51との硬度差を吸収するレーザ焼き入れを研削加工の前に行ってもよい。かかる形態によれば、円周面をなす摺動面が研削加工後にうねった凹凸形状となることを一層確実に抑制しつつ、油溜まりとして機能する微細な窪み部32を形成でき、もって、摺動面のフリクション特性を悪化させず、耐焼き付き性のさらなる向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 レーザ加工装置からボア内周面にレーザ光を照射して微細な窪み部を形成している状況を示す図である。
【図2】 ボア内周面のうちレーザ加工が施される領域を示す斜視図である。
【図3】 図3(A)は、レーザ加工後のボア内周面を示す断面図、図3(B)は、研削加工後のボア内周面を示す断面図である。
【図4】 シリンダボアの軸心方向に沿って隣り合う円周方向に沿う窪み部の位相を同位相とした対比例の場合および窪み部の位相をずらした第1の実施形態の場合のそれぞれにおける、窪み部の配置状況、レーザ微細加工後のボア内周面を示す断面図、研削加工後のボア内周面を示す断面図である。
【図5】 点形状の窪み部を示す図である。
【図6】 レーザ光の照射によって、微細加工、焼き入れ、衝撃硬化および溶接のそれぞれを行うときに設定されるレーザ光の照射時間とパワー密度との関係の一例を示す概略図。
【図7】 研削加工による仕上げ加工の前にレーザ焼き入れを行わない対比例の場合とレーザ焼き入れを行う第2の実施形態の場合のそれぞれにおける、窪み部の配置状況、レーザ微細加工後のボア内周面を示す断面図、第2の実施形態の場合のレーザ焼き入れ後のボア内周面を示す断面図、研削加工後のボア内周面を示す断面図である。
【符号の説明】
10…レーザ加工装置
20…レーザ光
30…シリンダブロック(ワーク)
31…ボア内周面(円周面をなす摺動面)
32…窪み部
33…盛り上がり部位
40…砥石
50…レーザ加工部50(レーザ微細加工を行った部分、窪み部32と盛り上がり部位33とを含む)
51…レーザ未加工部51(レーザ微細加工を行っていない部分)

Claims (7)

  1. ワークにおける円周面をなす摺動面にレーザ光を照射することにより油溜まりとして機能する微細な窪み部を形成する摺動面の加工方法において、
    レーザ光を照射して微細な窪み部を形成するレーザ微細加工を行った後に、レーザ微細加工を行った部分とレーザ微細加工を行っていない部分との硬度差を吸収するレーザ焼き入れを行い、
    その後に、研削加工により前記摺動面を仕上げ加工することを特徴とする摺動面の加工方法。
  2. 前記レーザ焼き入れは、レーザ微細加工を行った部分以外の部分に対して行うことを特徴とする請求項1に記載の摺動面の加工方法。
  3. 前記レーザ微細加工を行った部分には、窪み部と、当該窪み部周辺の盛り上がり部位とが含まれていることを特徴とする請求項2に記載の摺動面の加工方法。
  4. 複数の窪み部は、点形状または線形状であることを特徴とする請求項1に記載の摺動面の加工方法。
  5. 前記摺動面は、シリンダブロックのボア内周面であることを特徴とする請求項1に記載の摺動面の加工方法。
  6. 摺動面としてのボア内周面にレーザ光を照射することにより油溜まりとして機能する微細な窪み部が形成されたシリンダブロックにおいて、
    レーザ光を照射して微細な窪み部を形成するレーザ微細加工を行った部分と当該レーザ微細加工を行っていない部分との硬度差を吸収するレーザ焼き入れが施されていることを特徴とするシリンダブロック。
  7. 複数の窪み部は、点形状または線形状であることを特徴とする請求項6に記載のシリンダブロック。
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