JP4120333B2 - 加工方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車のエンジンでは、シリンダブロックのシリンダボア内をピストンが往復運動し、熱エネルギを機械的エネルギに変えて必要な動力を得ている。与えられた熱エネルギからできるだけ大きな動力を得るためには、シリンダとピストンの間から圧縮された混合気や燃焼した爆発ガスが漏れないようにすると同時に、ピストンの摺動による摩擦や磨耗の少ないことが必要である。
【0003】
摩擦や磨耗を低減し、ピストンの焼き付きを防止するために、シリンダブロック内面に潤滑油が供給されている。供給された潤滑油がすぐに流れてしまってはシリンダブロックが焼き付いてしまうので、潤滑油がすぐに流れずにシリンダブロック内面に保持されるように、シリンダブロック内面には油溜まりとして、砥石を用いたホーニング加工により溝が形成されている。
【0004】
しかし、ホーニング加工によりシリンダボアの内面に溝を形成した場合、砥石による加工である為、溝が連続的になり、潤滑油をより保持させて、耐焼き付性能を向上させるのにも限度がある。
【0005】
そこで、近年では、ホーニング加工に代わって、レーザ光を用いて、シリンダボア内面に凹部(窪み)を形成する技術が知られている。レーザ光を用いることにより、不連続な凹部を形成したり、連続した溝の途中に窪みを形成して潤滑油を保持できるようにしたりすることができ、シリンダボア内面に形成する凹部の形状の自由度を格段に向上させることができる。
【0006】
レーザ光照射により凹部が形成できる仕組みは、次の通りである。シリンダボア内面にレーザ光を照射すると、その表面は、沸騰しレーザ光の圧力により窪みとなり、凹部が形成される。この際、沸騰した一部が飛散して、金属粒(スパッタ)となり、凹部表面や、凹部の外に付着してしまう。これを放っておくと、製品化後、ピストンの摺動中にスパッタが脱落し、シリンダの異常な磨耗や焼き付きの原因となってしまう。このため、レーザ加工後に、高圧洗浄を実施してスパッタを除去することも行われている。
【0007】
しかし、この方法では、凹部の外に付着したスパッタは比較的除去しやすいものの、凹部表面、すなわち、窪みの中に付着したスパッタに高圧水を衝突させにくく、これを除去しきれない場合には、製品化後の異常焼き付きや異常磨耗を完全に防止することができない虞がある。
【0008】
上述のレーザ光を用いてシリンダボア内面に凹部を形成する技術は、次の公開公報に記載されている。
【0009】
【特許文献1】
特開平7−40068号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、レーザ加工時に凹部表面に付着したスパッタが製品化後に脱落して異常焼き付きや異常磨耗を生じることを防止することができる加工方法の提供を目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0012】
本発明の加工方法は、レーザ光を被加工物の表面に照射して凹部を形成する第1工程と、前記第1工程よりも低出力のレーザ光を前記凹部に照射して、前記第1工程の際に前記被加工物から飛散して付着した金属粒を溶融する第2工程とを有する加工方法である。
【0014】
【発明の効果】
本発明の加工方法は、第1工程のレーザ光照射において被加工物から発生し該被加工物の凹部表面に付着した金属粒を、第2工程において溶融する。したがって、金属粒は、凹部表面に一体として付着し、二度と凹部表面から脱落することがなく、金属粒の脱落による異常磨耗や異常焼き付きの発生を防止することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1は、レーザ加工装置10の概略構成を示す図である。
【0018】
レーザ加工装置10は、シリンダブロック30におけるシリンダボアのボア内周面31を加工するための装置である。図1に示すように、レーザ加工装置10は、レーザ発振器11と、伝達ミラー12と、集光レンズ13および該集光レンズ13の図中下端に設けられた折り返しミラー15が内蔵された集光部14と、集光部14を軸心Oを中心に回転するとともに軸心Oに沿う方向に昇降駆動する駆動装置16とを有する。
【0019】
レーザ発振器11は、レーザ光20を出力することができる。レーザ発振器11は、所定周波数(レーザ光20の照射の繰り返し数)のパルス波のレーザ光20、または、連続的に照射される連続波のレーザ光20のいずれかを選択して出力することができる。パルス波のレーザ光20の場合、照射が連続的ではないので、照射が終わってから次の照射までの間にエネルギーが蓄えられ、照射時の出力のピークが連続波の出力のピークに比較して約1000倍程度に強くなる。逆に、レーザ光20が連続波の場合、照射が連続的なので、パルス波のようにエネルギーが蓄えられて出力が爆発的に大きくなるということはなく比較的弱い出力が得られる。
【0020】
伝達ミラー12は、レーザ発振器11からのレーザ光20を集光部14に向けて反射する。集光部14は、伝達ミラー12からのレーザ光20を折り返しミラー15に向けて集光レンズ13で集光する。折り返しミラー15は、集光されたレーザ光20を、反射しシリンダブロック30におけるシリンダボアのボア内周面31に照射する。
【0021】
駆動装置16は、軸心方向に移動させ、また、集光部14を回転させることができる。駆動装置16は、前記集光部14を軸方向に移動させて所定の位置で停止させ該位置で回転させることにより、シリンダボアの内周方向に沿って凹部を形成することができる。これを所定の位置ごとに行うことにより複数の凹部をシリンダボアの内周面に形成することができる。
【0022】
次に、上記レーザ加工装置10を用いたシリンダボアの加工手順について説明する。
【0023】
図2は本発明の加工方法の手順を示すフローチャートである。図3はステップS1におけるレーザ光の照射タイミングを説明するための図、図4はシリンダボアの内面を示す図、図5はステップS1後のボア内周面の表面形状を示す図、図6は図5に示す表面形状のA−A断面図、図7はステップS2におけるレーザ光の照射タイミングを説明するための図、図8はステップS2後のボア内周面の表面形状を示す図、図9は図8に示す表面形状のB−B断面図である。
【0024】
本発明の加工方法は、簡単には、レーザ光をボア内周面に照射して凹部を形成する第1工程(ステップS1)と、第1工程よりも低出力のレーザ光を凹部に照射して、第1工程の際にボア内周面から飛散して付着した金属粒を溶融する第2工程(ステップS2)と、ボア内周面をホーニング仕上げする工程(ステップS3)を有する加工方法である。
【0025】
以下に、各ステップの詳細を説明する。
【0026】
まず、レーザ加工装置10は、レーザ発振器11よりパルス波のレーザ光20を出力し、伝達ミラー12、集光レンズ13および折り返しミラー15を介して、シリンダブロック30のボア内周面31にレーザ光20を照射して、同時に駆動装置16により集光部14を回転させることによって、内周方向に沿って凹部を形成する(ステップS1)。
【0027】
ここで、レーザ加工装置10は、図3(A)に示すように、レーザ光20の出力時間aと非出力時間bを交互に繰り返す。したがって、図4に示すように、凹部32は、連続した溝とはならず飛び飛びの窪みとして、ボア内周面31に形成される。
【0028】
出力時間aの間、集光部14が回転しつつレーザ光が照射されるので、集光部14が回転した回転角に従ってボア内周面31に凹部32が形成される。形成される凹部32の大きさは、レーザ光20の照射開始位置Sから照射終了位置Eまでの長さとは一致しない。これは、パルス波のレーザ光20をボア内周面31に照射した場合、その出力の強さからボア内周面31が沸騰し、沸騰した金属がレーザ光20の圧力により該レーザ光20の照射位置を中心として押し広げられるからである。このようにレーザ光20の照射開始位置Sから照射終了位置Eまでの長さより長い凹部32が形成される。
【0029】
上記のように、凹部32は、ボア内周面31の金属が押し広げられて形成されているので、その縁に山状のデブリ33が形成され、その中に谷部34が形成される。また、レーザ光20の照射の際に沸騰した金属は、その一部の金属粒が飛散し、ボア内周面31に付着する。付着した金属粒は、スパッタ35と呼ばれ、図3(C)に示すように、ボア内周面31の谷部34等に滑らかでない凸部を形成する。
【0030】
より詳細には、図5および図6に示すように、ステップS1のパルス波のレーザ加工後に、凹部32にはデブリ33およびスパッタ35が形成される。さらに、凹部32内には、デブリ33およびスパッタ35の他に、レーザ加工によって生じる盛り上がり部36が形成される。このように、凹部32内には、ステップS1のレーザ加工により、複数の凹凸が形成される。
【0031】
次に、レーザ加工装置10は、レーザ発振器11より連続波のレーザ光20を出力し、ボア内周面31に照射することによって、スパッタ35を溶融する(ステップS2)。
【0032】
スパッタ35を溶融することによって、ボア内周面31におけるスパッタ35による凸部が滑らかになり、また、スパッタ35が変形してボア内周面31に一体不可分に付着する。
【0033】
ここで、レーザ加工装置10は、ステップS1のときと同じ回転速度で集光部14を回転させつつ、図7(A)に示すように、レーザ光20の出力時間cおよび非出力時間dを交互に繰り返す。出力時間cは、ステップS1のレーザ光20の出力時間aよりも長い。これは、凹部32に付着したスパッタ35を全て溶融するためである。換言すると、上述の通り、ステップS1において凹部32はレーザ光20の照射開始位置Sから照射終了位置Eまでよりも長く形成されるので、ステップS2でステップS1のときと同じ出力時間aとしたのでは、凹部32の全体にレーザ光20を照射することができないからである。このように、レーザ加工装置10は、ステップS1よりもステップS2におけるレーザ光20の出力時間を長くすることによって、図7(B)に示すように、レーザ光20の照射区間を広範囲にし、凹部32の一端から最も遠い他端までレーザ光20を照射して、凹部32全体のスパッタ35を溶融している。
【0034】
なお、レーザ光20の出力時間cを出力時間aより長くしても、凹部32のある位置にレーザ光20を照射できなくては意味がない。本実施形態のレーザ加工装置10では、ステップS1およびステップS2共に所定の位置から集光部14の回転およびレーザ光20の出力を開始し、ピッチを調整することによってステップS1で形成した凹部32にステップS2でレーザ光20を照射できるようにしている。ピッチの調整を行わなくても、たとえば、ステップS2において凹部32の位置を検出して該位置にレーザ光20を照射するようにしてもよい。
【0035】
連続波のレーザ光20を凹部32に照射することにより、スパッタ35が溶融されて谷部34の一部となって、図7(C)に示すように凹部32の谷部34が滑らかな形状となる。
【0036】
より詳細には、図8および図9に示すように、ステップS2の連続波のレーザ加工後には、凹部32の周囲にデブリ33は残ったままであるものの、凹部32内のスパッタ35および盛り上がり部36は、滑らかな形状に溶融して凹部32と一体となり、図5および図6に示すような凹凸はなくなる。
【0037】
最後に、ホーニング砥石を用いた研削加工により、ボア内周面31を仕上げ加工する(ステップS3)。研削加工時には、ホーニング砥石は円筒状の工具とともに回転されながら、シリンダボアの軸心方向に進退移動される。さらに、ホーニング砥石は径方向外方に向けて拡張され、ボア内周面31に押圧される。ホーニング砥石は、比較的高速で回転される一方、比較的低速で進退移動される。
【0038】
ホーニング加工が完了すると、レーザ加工時に生じたデブリ33や、ボア内周面31の凹部32外に付着したスパッタ35が除去され、ボア内周面31は所定の面粗度を有する平滑面に仕上げられる。
【0039】
なお、上記レーザ光20による加工において、レーザ光20の平均出力および加工速度は適宜選択できる。一例を挙げれば、パルス波のレーザ光20のレーザ平均出力は39W、加工速度は15m/分であり、連続波のレーザ光20のレーザ平均出力は25W、加工速度は15m/分である。パルス波の周波数は35kHzである。
【0040】
以上説明したように、本発明の加工方法によれば、ステップS1のレーザ加工の際に飛散して凹部32に付着したスパッタ35をステップS2のレーザ加工により溶融するので、スパッタ35を滑らかにし、凹部32と一体不可分に付着させることができる。したがって、本発明の加工方法を、上述のように、シリンダブロック30のボア内周面31の加工に適用した場合には、製品化後、ピストンの摺動中にスパッタ35が凹部32表面から脱落することがなく、スパッタ35の脱落によるシリンダの異常磨耗や焼き付きの発生を防止することができる。
【0041】
また、ステップS2では、ステップS1よりも広範囲に凹部32の一端から最も遠い他端までレーザ光20を照射するので、凹部32内のスパッタ35を全て溶融することができる。
【0042】
さらに、ステップS1では所定パルス周波数で照射され出力ピークの高いパルス波のレーザ光20を用い、ステップS2では連続的に照射され出力ピークの低い連続波のレーザ光20を用いるので、ステップS1で形成した凹部32の形状を損なうことなく、低出力のレーザ光によりスパッタ35を溶融し、凹部32を滑らかな形状にすることができる。
【0043】
加えて、ステップS3において、ホーニング砥石を用いてホーニング仕上げを施すので、ボア内周面31を所望の面粗度を有する平滑面に仕上げることができる。
【0044】
なお、上記実施の形態では、本発明の加工方法をシリンダブロック30のボア内周面31の加工に適用する例について説明してきたが、本発明はこれに限定されない。パルス波のレーザ光による加工が必要であるいかなる製品の加工にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のレーザ加工装置の概略構成を示す図である。
【図2】 本発明の加工方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】 ステップS1におけるレーザ光の照射タイミングを説明するための図である。
【図4】 シリンダボアの内面を示す図である。
【図5】 ステップS1後のボア内周面の表面形状を示す図である。
【図6】 図5に示す表面形状のA−A断面図である。
【図7】 ステップS2におけるレーザ光の照射タイミングを説明するための図である。
【図8】 ステップS2後のボア内周面の表面形状を示す図である。
【図9】 図8に示す表面形状のB−B断面図である。
【符号の説明】
10…レーザ加工装置、
11…レーザ発振器、
12…伝達ミラー、
13…集光レンズ、
14…集光部、
15…折り返しミラー、
16…駆動装置、
20…レーザ光、
30…シリンダブロック、
31…ボア内周面、
32…凹部、
33…デブリ、
34…谷部、
35…スパッタ。

Claims (5)

  1. レーザ光を被加工物の表面に照射して凹部を形成する第1工程と、
    前記第1工程よりも低出力のレーザ光を前記凹部に照射して、前記第1工程の際に前記被加工物から飛散して付着した金属粒を溶融する第2工程と、
    を有する加工方法。
  2. 前記第2工程では、前記第1工程よりも広範囲に、前記凹部の一端から最も遠い他端まで前記レーザ光を照射する請求項1に記載の加工方法。
  3. 前記第1工程のレーザ光は所定パルス周波数で照射されるパルス波のレーザ光であり、前記第2工程のレーザ光は連続的に照射される連続波のレーザ光である請求項1または請求項2に記載の加工方法。
  4. 前記第2工程後、さらに、前記被加工物をホーニング仕上げする工程を有する請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の加工方法。
  5. 前記被加工物は、車両のエンジンに使用されるシリンダブロックであって、前記第1工程において、シリンダボアの円周面にレーザ光が照射されることにより油溜まりとして機能する前記凹部が円周方向に沿って形成される請求項1〜4のいずれか一項に記載の加工方法。
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