JP4132928B2 - 優れた大入熱溶接部特性と低い降伏比を有する鋼材 - Google Patents

優れた大入熱溶接部特性と低い降伏比を有する鋼材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は主に鉄鋼業で実施され、本発明による鋼材は、建築や橋梁をはじめとする各種の溶接鋼構造物に用いられる。特に、耐震性能と大入熱溶接部性能が要求される高層建築向けの4面ボックス柱(箱型断面柱)への使用が好適である。
【0002】
【従来の技術】
エレクトロガス溶接やエレクトロスラグ溶接などの溶接入熱量の大きな高能率溶接を適用するほど溶接熱影響部(Heat Affected Zone:HAZ)の組織は粗大化し、HAZは脆化する。引張強度が500〜600MPa級の鋼成分においては、成分的な焼入性に起因して上部ベイナイト主体のHAZ組織が形成されることが多い。上部ベイナイトは局部的な脆化相であるMA(Martensite−Austenite Constituent:島状マルテンサイトと呼ばれる場合もある)を多く含有するため、靭性が劣る。つまり、500〜600MPa級鋼材に大入熱溶接を適用すると、粗大な上部ベイナイトによってHAZ組織が構成され、HAZ靭性が著しく劣化する。従って、微細なフェライト主体のHAZ組織を目指す必要がある。
【0003】
本発明者らは、特開2001−316758号公報でMgとBを複合的に添加することで母材強度の確保と大入熱HAZ靭性の向上を両立する技術を発明した。この場合、母材圧延後の冷却ではBによって焼入性を高めて高強度化をはかった。一方、大入熱溶接後の冷却ではBによって焼入性を低めて上部ベイナイトの生成を抑制してフェライト主体組織に制御し、Mg添加によって組織微細化をはかった。このように、母材とHAZの焼入性に対して相反する目的でBを用いると、HAZ軟化が大きくなる問題点が浮上し、溶接構造物としての溶接部強度が不十分になる懸念が生じた。そこで、HAZ軟化を小さく抑える新しい技術が必要となった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は下記の特性を満たす鋼材を提供することである。特に、HAZ軟化を小さくすることが主たる課題である。
【0005】
(1)母材特性
500〜600MPa級の引張強度(TS)と80%以下の降伏比(YR)を有する。
【0006】
(2)溶接部特性
溶接入熱量が10〜100kJ/mmであるHAZにおいて、0℃で100J以上のシャルピー吸収エネルギー(平均値)を有し、母材平均硬さからHAZ最軟化部硬さを差し引いた軟化代がビッカース硬さで50以下である。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、質量%で
C :0.08〜0.16%、
Si:0.4%以下、
Mn:1.0〜2.0%、
P :0.02%以下、
S :0.001〜0.005%、
Al:0.001〜0.01%、
Ti:0.005〜0.017%、
Mg:0.0005〜0.005%、
B :0.0003〜0.003%、
O :0.001〜0.004%、
N :0.002〜0.008%
を含有し、さらに必要に応じて
Ca:0.0005〜0.01%、
REM:0.0005〜0.01%、
Zr :0.0005〜0.01%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%、
Cr:0.05〜0.5%、
Mo:0.05〜0.3%、
Nb:0.005〜0.02%、
V :0.005〜0.1%
の1種または2種以上を含有し、質量%を用いて計算される[1]式および[2]式を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなる化学成分を有し、TiとMgを含有する0.01〜0.5μmの粒子が10000個/mm2以上存在し、Bを含有する0.1〜10μmの粒子が50個/mm2以上存在し、MnとSを含有する0.1〜10μmの粒子が10個/mm2以上存在することを特徴とする、優れた大入熱溶接部特性と低い降伏比を有する鋼材。
(Ti+1.77Al)/N≦10 ・ ・ ・[1]
Si+Cu+Ni+Cr+Mo≦2.0 ・ ・ ・[2]
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の狙いは下記を満たすことである。
(1)母材強度 :TS≧500MPa
(2)母材の降伏比 :YR≦80%
(3)大入熱HAZの靭性 :vE0≧100J
(4)大入熱HAZの軟化 :母材Hv−HAZ最軟化部Hv(△Hv)≦50
【0009】
先述したように、特開2001−316758号公報では(1)と(3)に対して相反するBの効果を利用した。その結果、(4)が満足できないことが課題であった。これを解決するために、本発明では(1)に対してBを利用せず、(3)に対してのみ積極的にBを利用することを考えた。図1にオーステナイト(γ)温度域における冷却曲線とB析出挙動の関係を模式的に示す。母材圧延後の冷却速度はここで想定する大入熱溶接後のそれよりも大きい。従来技術である特開2001−316758号公報では、母材冷却時にはBをγ中に固溶させて焼入性を高めるために利用し、一方、HAZ冷却時にはBをγ中に析出させて焼入性を低下させる(フェライト変態核として作用させる)ために利用した。これに対して、本発明では図1に示すBの実線である析出曲線を点線で示す析出曲線のように短時間側へ移動(矢印方向)させることで母材冷却時にもBを析出させ、焼入性を高めないようにすることを目指した。Bは鉄炭化物(例えばFe23(CB)6)や窒化物(例えばBN)として析出するため、Bと結合できるCやNを提供することがB析出を促す考え方となる。そのためには下記が方針となる。
a)Cを多くする
b)Nを多くする
c)γ温度域での冷却過程でBに先だってCおよびNと結合する元素を少なくする
a)とb)については、母材およびHAZの靭性や溶接性などからこれらの上限がきまる。そこで、c)に着目して検討した結果、下記の有効性が見いだされた。
[1] TiとAlをNに対して適正に減ずることでこれらの窒化物の生成を抑制し、Bと結びつくために有効な固溶Nを残す
[2] NbとMoを最小限に抑えてこれらの炭化物の生成を抑制し、Bと結びつくために有効な固溶Cを残す。
【0010】
▲1▼のためには、Bに先だって窒化物を形成しやすいTiとAlをできるだけ少なくすることが望ましいが、母材やHAZの組織粒微細化やHAZ脆化や脱酸などの観点からTiとAlの範囲はきまる。後述する本発明のTi量、Al量、N量の範囲でこれらの量的バランスを検討した結果、下記の式を満たすときに固溶Nが多く確保され、BNの析出が促進されることが判明した。
(Ti+1.77Al)/N≦10 ・ ・ ・[1]
[1]式の左辺は、Tiに対するAlの質量数の比である1.77を用いて、Nに対するAlの量的バランスをTiに換算して表した指標である。この指標を用いてBNの析出挙動を検討した結果、この値が10以下であるときに母材冷却時にB窒化物の析出が促され、安定的にBが焼入性に効かなくなることを発見した。▲2▼のためには、Bに先だって炭化物を形成しやすいNbとMoをできるだけ少なくすることが望ましい。母材の組織微細化や析出強化の観点からこれらの元素が必要な場合でも、極力少なくすることが固溶Cの確保に有効である。後述する本発明のC量の範囲では、MoとNbの上限をそれぞれ0.3%、0.03%に抑えることで母材冷却時にB炭化物やB鉄炭化物の析出が促され、安定的にBが焼入性に効かなくなることを発見した。このように、母材製造時にBが焼入性に効かないように化学成分を工夫し、Bによる変態強化を小さくすることが(4)のHAZ軟化低減に有効である。従って本発明では、B以外の強化元素に頼って従来から知られている母材製造方法を広く組み合わせることで母材強度を確保する。
【0011】
次に、HAZ靭性の観点から析出物粒子の分散状態について説明する。80%以下の低い降伏比を安定的に確保するために、本発明では0.08%以上の比較的高いC量を必要とする。高いC量は硬化相の分率と硬さを増加させて降伏比を低下させる常套手段である。しかしながら、よく知られているように高いC量はHAZ靭性にとって有害である。さらに、本発明が対象とする大入熱HAZでは組織粗大化の有害性が重畳する。このような状況下で良好なHAZ靭性を得るためには従来よりも格段にHAZ組織を微細化する必要がある。そのためには下記の二つの手段が有効である。
d)γ粒成長抑制:ピンニング効果
e)γ粒内変態フェライト(IGF)の生成促進:IGF効果
【0012】
ピンニング効果のためには、TiとMgを含有する0.01〜0.5μmの粒子を10000個/mm2以上存在させる必要がある。この粒子の典型的な形態は、MgとAlからなる0.01〜0.1μmの酸化物に0.01〜0.5μmのTiNが複合析出した粒子であるが、他の形態も存在しうる。溶融線近傍の高温に曝されるHAZでこれらの粒子がγ粒の成長を強力に抑制し、HAZ組織を微細化する。このような粒子を10000個/mm2以上の生成させるためには、化学成分を本発明範囲に制御する必要がある。このような粒子が10000個/mm2未満ではピンニング効果が不十分となって良好なHAZ靭性は得られない。
【0013】
IGF効果のためには、Bを含有する0.1〜10μmの粒子を50個/mm2以上、MnとSを含有する0.1〜10μmの粒子を10個/mm2以上存在させる必要がある。BはB窒化物やB鉄炭化物などとして析出し、大入熱溶接特有の遅い冷却速度の助けをかりてIGF変態核として機能する。これらのB析出物は単独で析出したり、酸化物や硫化物の上に複合析出する場合がある。Mnを含有する硫化物もIGF変態核として機能する。これらの硫化物は単独で析出したり、酸化物の上に複合析出する場合がある。Bを含有する0.1〜10μmの粒子を50個/mm2以上、MnとSを含有する0.1〜10μmの粒子を10個/mm2以上存在させるためには、化学成分を本発明範囲に制御する必要がある。これらの粒子が所定の個数に満たない場合には、IGF変態核の個数が不足して組織微細化が不十分となり、良好なHAZ靭性は得られない。
【0014】
以上説明した粒子の分散状態は通常の母材製造条件の影響をほとんど受けない。例えば本発明は、鋼片を1000〜1200℃程度に加熱してこれをAr3以上の温度域で圧延を終え、空冷あるいは水冷によって鋼材を冷却し、必要に応じて焼き戻しや焼きならしなどを適用して製造される。これら加熱、圧延、冷却、熱処理の条件によって上述した粒子の分散状態はほとんど影響されない。従って、母材の強度、靭性、降伏比などを達成するために板厚に応じた適当な製造条件を選ぶことができる。
【0015】
化学成分の限定理由について説明する。
【0016】
Cは500〜600MPa級の母材強度と80%以下の低い降伏比を安定的に確保するために0.08%以上必要である。さらに、母材製造時と大入熱溶接時にB鉄炭化物を析出させるためにも0.08%以上の高いCが有効である。大入熱溶接の冷却過程でHAZに析出したB鉄炭化物は、遅い冷却速度の助けをかりてIGF変態核として有効に機能し、焼入性を積極的に低下させ、上部ベイナイトの生成を抑えて微細なフェライトを生成させる。つまり、母材の観点から必要とするCを、HAZではBと結合させて組織微細化のために利用するのである。Cが多すぎると母材及びHAZの靭性が低下すると共に溶接性が劣化するため、その上限を0.16%とする。
【0017】
Siは脱酸のために鋼に含有されるが、多すぎると溶接性およびHAZ靭性が劣化するため、上限を0.4%とする。AlやTiやMgによっても脱酸は可能であるから、Siを低減しても問題ない。特に、後述するCu、Ni、Cr、Moなどが多く含まれる場合、Siが高いとMAの生成が助長されるので、Siはできるだけ少ないことが望ましい。
【0018】
Mnは母材及び溶接部の強度、靭性の確保に不可欠であるから1.0%以上必要である。特にHAZでは硫化物を形成してIGF生成に貢献する。しかし、Mnが多すぎるとHAZ靭性の劣化、スラブ中心偏析の助長、溶接性の劣化、などが生じるため上限を2.0%とする。
【0019】
Pは本発明において不純物元素であり、良好な母材とHAZの材質を確保するために0.02%以下に低減する必要がある。
【0020】
SはMnを含む硫化物を形成してIGF生成に貢献する。そのために0.001%以上のSが必要である。Sが0.001%未満ではMnとSを含有する0.1〜10μmの粒子を10個/mm2以上確保することが困難である。Sが0.005%を超えると粗大な硫化物が生成して脆性破壊を促すため、これが上限である。
【0021】
Alは脱酸剤として作用すると共に、Mgと共に数10nmの超微細酸化物を構成してHAZでのピン止め効果を担う。そのためには0.001%以上のAlが必要である。Alが0.001%未満になると超微細Mg酸化物の個数が不足して、TiとMgを含有する0.01〜0.5μmの粒子を10000個/mm2以上確保することが困難である。Alが多すぎるとBに先だってNと結合し、B窒化物の形成を阻害するから、その上限は0.01%である。[1]式を満たす意味でもAlは少ない方が好ましい。
【0022】
TiはTiNを生成して超微細Mg酸化物の上に0.01〜0.5μmの大きさで複合析出し、HAZでピンニング効果をもたらす。そのため0.005%以上のTiが必要である。Tiが0.005%未満になるとTiNが不足して、TiとMgを含有する0.01〜0.5μmの粒子を10000個/mm2以上確保することが困難である。TiNは鋳片加熱時にもピンニング効果を発揮して、母材組織の微細化を通じた強靭化にも効果がある。Tiが多すぎるとTiCが析出して著しいHAZ脆化を生じるため、Tiの上限は0.03%である。SiやAlやMgが低い場合はTiが脱酸剤として作用する。
【0023】
MgはAlと共に超微細酸化物を構成してTiNと複合し、HAZでピンニング効果を担う。そのために0.0005%以上のMgが必要である。Mgが0.0005%未満になると超微細Mg酸化物の個数が不足して、TiとMgを含有する0.01〜0.5μmの粒子を10000個/mm2以上確保することが困難である。Mgが0.005%を超えても超微細酸化物の個数は飽和するため、これが上限である。
【0024】
Bは大入熱HAZで窒化物あるいは鉄炭化物として析出し、遅い冷却速度の助けをかりてIGF変態核として有効に機能し、焼入性を積極的に低下させ、上部ベイナイトの生成を抑えて微細なフェライトを生成させる。そのためには0.0003%以上のBが必要である。Bが0.0003%未満ではBを含有する0.1〜10μmの粒子を50個/mm2以上確保することが困難である。本発明ではBを母材製造時においても析出させ、焼入性に効かないように工夫し、母材強度をBに頼らないで獲得する。Bが多すぎると母材製造時にも固溶Bが存在して焼入性を高めてしまい、大きなHAZ軟化をもたらすため、上限を0.003%とする。
【0025】
Oは超微細Mg酸化物を構成してHAZでのピンニング効果を担う。そのためには0.001%以上のOが必要である。Oが0.001%未満になると超微細Mg酸化物の個数が不足して、TiとMgを含有する0.01〜0.5μmの粒子を10000個/mm2以上確保することが困難である。Oが多すぎると10μmを超える大きな酸化物が増えて脆性破壊を促すため、その上限を0.004%とする。
【0026】
NはTiNを生成して超微細Mg酸化物に複合析出し、HAZでのピンニング効果を担う。そのためには0.002%以上のNが必要である。Nが0.002%未満になるとTiNが不足して、TiとMgを含有する0.01〜0.5μmの粒子を10000個/mm2以上確保することが困難である。Nが多すぎると固溶Nが増えて脆化が助長されるため、その上限を0.008%とする。
【0027】
さらに、Ti、Al、Nの量的バランスを[1]式を満たすように制御する必要がある。[1]式が満たされないと、母材製造時に固溶Bが多く存在して焼入性が高まってしまい、大きなHAZ軟化をもたらす。
【0028】
次に選択元素の規定理由を説明する。
【0029】
Ca、REM、Zrは脱酸剤や脱硫剤として作用して母材およびHAZの材質改善に寄与できる。これらの効果を発揮するためには、いずれの元素も0.0005%以上必要である。しかし、これらの元素が多すぎると酸化物や硫化物が凝集合体して粗大化し、母材やHAZの材質を劣化させる恐れがあるため、いずれの上限も0.01%とする。ここでのREMとは、La、Ceなどのランタノイド系の元素をさし、これらの元素が混在したミッシュメタルを添加しても上述の効果は得られる。
【0030】
Cu、Ni、Cr、Moは母材の強度、靭性、耐食性や溶接性を向上させることに有効であり、そのめにはいずれの元素も0.05%以上必要である。しかし、これらの元素は大入熱HAZに上部ベイナイトの生成を促すと共に、MAの生成を助長する。また、Moは炭化物を形成してB鉄炭化物の析出を妨害するため、Moはできるだけ少ないことが望ましい。これらの観点から各元素の上限はCu≦1.0%、Ni≦1.0%、Cr≦0.5%、Mo≦0.3%とする必要がある。さらに、Siも含めた[3]式を満たすことで、MA生成を抑制する必要がある。[3]式を満たさないと、MAが多量に生成して、HAZ靭性が劣化する。
【0031】
Nbは母材組織の微細化に有効な元素であり、母材の強度、靭性を向上させる。また、大入熱HAZ組織をフェライト主体に制御する場合、HAZ軟化が懸念されるが、Nbによる析出強化によってHAZ軟化を相殺することができる。以上の効果を発揮するためには0.005%以上のNbが必要である。しかし、Nbは炭化物を形成してB鉄炭化物の析出を妨害する上、HAZ硬化が著しくなると靭性が劣化するため、その上限を0.02%とする。
【0032】
Vは析出強化によって母材の強度向上に有効である。そのためには0.005%以上必要である。しかし、Vが多すぎると溶接性やHAZ靭性が劣化するため、その上限を0.1%とする。VはMoやNbに比べてγ中でBに先だって炭化物を形成する力が弱いので、B鉄炭化物の析出を邪魔する悪影響は小さい。従って、母材強度に積極活用できる。
【0033】
本発明は、鉄鋼業の製鋼工程において所定の化学成分に調整し、連続鋳造した鋳片を再加熱して圧延、冷却、熱処理の各工程を様々に制御して厚板あるいはH形鋼として製造される。板厚が大きい場合や600MPa級の高い強度を得る場合には、圧延後の直接焼入や加速冷却、あるいは再加熱焼入などの製造プロセスが有効である。低い降伏比を安定的に確保するためには二相域熱処理を施せばよい。焼き戻しや焼きならしによって強度と靭性を調整してもよい。鋳片を再加熱することなくホットチャージ圧延することも可能である。
【0034】
本発明で規定した析出物粒子の分散状態は、例えば以下のような方法で定量的に測定される。TiとMgを含む0.01〜0.5μmの粒子の個数は、母材鋼材の任意の場所から抽出レプリカ試料を作製し、これを透過電子顕微鏡(TEM)を用いて10000〜50000倍の倍率で少なくとも1000μm2以上の面積にわたって観察し、対象となる粒子の個数を測定し、これを単位面積当たりの個数に換算する。このとき、TiとMgの分析はTEMに付属のエネルギー分散型X線分光法(EDS)による組成分析によって行われる。このような同定を測定するすべての粒子に対して行うことが煩雑な場合、簡易的には次の手順による。まず、対象となる大きさの粒子の個数を測定する。次に、このような方法で個数を測定した粒子のうち、少なくとも10個以上について上記の要領で元素の同定を行い、TiとMgが含まれる割合を算出する。そして、はじめに測定された粒子個数にこの割合を掛け合わせる。同様にして、Bを含有する0.1〜10μmの粒子やMnとSを含有する0.1〜10μmの粒子の個数を測定することができる。0.5μmを超える大きさの粒子については、母材鋼材の任意の場所からブロック試料を採取して鏡面研磨した後、X線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて粒子の個数測定と元素分析を行うことも有効である。
【0035】
【実施例】
表1に連続鋳造した鋼の化学成分を、表2に化学成分を関係付ける式の要件と各種粒子の個数を、表3に鋼材の板厚、母材製造法、母材材質、HAZ特性を示す。
【0036】
本発明鋼は板厚が50〜120mmであり、母材TSが560〜700MPa、母材YRが71〜76、母材vTrsが−50℃以下であり、溶接入熱量が50〜120kJ/mmのエレクトロスラグ溶接部のボンド部の0℃でのシャルピー吸収エネルギーが100Jを超えている。このように、母材とHAZの特性がバランスよく達成される。
【0037】
一方、比較鋼は化学成分が適正でないために、母材YR、HAZ靭性、HAZ軟化などの材質が劣っている。鋼7はCが少なすぎるためにYRが高い。加えて、固溶Cが少なくて母材製造時にBが焼入性に効くためHAZ軟化が大きい。鋼8はSが少なすぎるためにMnとSを含む粒子個数が不足し、HAZ靭性が劣る。鋼9はAlが少なすぎるために超微細Mg酸化物の個数が少なく、TiとMgを含む粒子の個数が不足してHAZ靭性が劣る。鋼10はTiが少なすぎるためにTiNの個数が少なく、TiとMgを含む粒子の個数が不足してHAZ靭性が劣る。鋼11はMgが少なすぎるために超微細Mg酸化物の個数が少なく、TiとMgを含む粒子の個数が不足してHAZ靭性が劣る。鋼12はBが少なすぎるためにBを含む粒子の個数が不足してHAZ靭性が劣る。鋼13はNが少なすぎるためにTiNの個数が少なく、TiとMgを含む粒子の個数が不足してHAZ靭性が劣る。加えて、固溶Nが少なくて母材製造時にBが焼入性に効くためHAZ軟化が大きい。鋼14はNが多すぎるため、HAZが固溶Nによって著しく硬化してHAZ靭性が劣る。鋼15はTi、Al、Nのバランスが不適正であるため、固溶Nが少なくて母材製造時にBが焼入性に効くためHAZ軟化が大きい。鋼16はSi、Cu、Ni、Cr、Moの和が多すぎるため、HAZに多量のMAが生成してHAZ靭性が劣る。
【0038】
【表1】
Figure 0004132928
【0039】
【表2】
Figure 0004132928
【0040】
【表3】
Figure 0004132928
【0041】
【発明の効果】
本発明によって、大入熱溶接を施してもHAZ靭性が良好でHAZ軟化が小さく、低い降伏比を有する500〜600MPa級鋼材が提供可能となった。その結果、溶接能率、溶接部耐破壊性、耐震性などを高い次元で満たす溶接鋼構造物の製作が可能となり、溶接施工コストが大幅に低減して溶接鋼構造物の安全性が格段に進歩した。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は母材製造時と大入熱溶接時の冷却過程におけるγ温度域でのB析出挙動の概念を示す図である。

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C :0.08〜0.16%、
    Si:0.4%以下、
    Mn:1.0〜2.0%、
    P :0.02%以下、
    S :0.001〜0.005%、
    Al:0.001〜0.01%、
    Ti:0.005〜0.017%、
    Mg:0.0005〜0.005%、
    B :0.0003〜0.003%、
    O :0.001〜0.004%、
    N :0.002〜0.008%
    を含有し、質量%を用いて計算される[1]式を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなる化学成分を有し、TiとMgを含有する0.01〜0.5μmの粒子が10000個/mm2以上存在し、Bを含有する0.1〜10μmの粒子が50個/mm2以上存在し、MnとSを含有する0.1〜10μmの粒子が10個/mm2以上存在することを特徴とする、優れた大入熱溶接部特性と低い降伏比を有する鋼材。
    (Ti+1.77Al)/N≦10 ・ ・ ・[1]
  2. 質量%で、
    Ca :0.0005〜0.01%、
    REM:0.0005〜0.01%、
    Zr :0.0005〜0.01%
    の1種以上を含有することを特徴とする、請求項1記載の優れた大入熱溶接部特性と低い降伏比を有する鋼材。
  3. 質量%で、
    Cu:0.05〜1.0%、
    Ni:0.05〜1.0%、
    Cr:0.05〜0.5%、
    Mo:0.05〜0.3%、
    Nb:0.005〜0.02%、
    V :0.005〜0.1%
    の1種または2種以上を含有し、かつ、質量%を用いて計算される[2]式を満たすことを特徴とする、請求項1または2記載の優れた大入熱溶接部特性と低い降伏比を有する鋼材
    Si+Cu+Ni+Cr+Mo≦2.0 ・ ・ ・[2]
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