JP3711249B2 - 溶接熱影響部のCTOD特性に優れた500〜550MPa級の降伏強度を有する厚鋼板 - Google Patents

溶接熱影響部のCTOD特性に優れた500〜550MPa級の降伏強度を有する厚鋼板 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は溶接熱影響部(Heat Affected Zone:HAZ)のCTOD特性に優れた500〜550MPa級の降伏強度を有する鋼板であり、主に海洋構造物用として用いられるが、同様の強度とHAZ靭性(CTOD特性)が要求されるその他の溶接構造物へも適用できる。
【0002】
【従来の技術】
北海で使用される海洋構造物の溶接継ぎ手には−10℃でのCTOD特性が要求される。このような厳格なHAZ靭性が要求される鋼材として、例えば「Proceedings of 12th International Conference on OMAE」 1993. Glasgow. UK. ASME. VolumeIII−A. pp.207−214に記載されているように、Tiオキサイド鋼が使用されている。HAZの溶融線近傍は1400℃以上に加熱されるため、TiN粒子によるピン止め効果が消失してオーステナイト(γ)が著しく粗大化してしまい、HAZ組織が粗大化して靭性が劣化する。このような問題点を解決する鋼として上述のTiオキサイド鋼は開発された。この技術は、例えば特開昭63−210235号公報や特開平06−075599号公報に記載されているように、TiN粒子によるピン止め効果が消失して粗大化したγ粒の粒内において、熱的に安定なTi酸化物を変態核として生成する針状フェライトを利用することでHAZ組織の微細化をはかった鋼である。粗大なγ粒を効果的に微細化するこの針状フェライトは粒内変態フェライト(Intra Granular Ferrite:IGF)と呼ばれる。しかしながら、このTiオキサイド鋼の降伏強度は420MPa級までであり、それ以上の降伏強度を有しつつHAZのCTOD特性を保証するような厚鋼板は開発されていない。一方で、海洋構造物を軽量化することで建造コストの低減をはかる動きが活発化しつつあり、海洋構造物を軽量化するために降伏強度の高い厚鋼板が求められている。つまり、従来よりも高強度である500〜550MPa級の降伏強度を有しつつ、CTOD特性を保証できるようなHAZ靭性の優れた厚鋼板が強く望まれている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、降伏強度が500〜550MPa級であり、HAZにおける−10℃でのCTODが0.2mm以上であり、最大板厚が76.2mm(3インチ)までの厚鋼板を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、質量%でC :0.04〜0.14%、Si:0.4%以下、Mn:1.0〜2.0%、P :0.02%以下、S :0.005%以下、Al:0.001〜0.01%、Ti:0.005〜0.03%、Nb:0.005〜0.05%、Mg:0.0001〜0.005%、O :0.001〜0.005%、N :0.001〜0.01%を含有し、Ca:0.0005〜0.005%、REM:0.0005〜0.01%、Zr:0.0005〜0.01%の内の1種以上を含有しさらに必要に応じて質量%でCu:0.05〜1.5%、Ni:0.05〜3.0%、Cr:0.05〜0.5%、Mo:0.05〜0.5%、V :0.005〜0.05%、B :0.0001〜0.003%の内の1種以上を含有し、質量%でTi/(Mg+Al+Ca+REM+Zr)≧1であり、Cu、Ni、Cr、Moの和が3.0%以下であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる化学成分を有し、MgとAlからなる酸化物を内包する0.01〜0.5μmのTiNが10000個/mm2以上存在し、かつ、0.5〜10μmの酸化物が10個/mm2以上存在することを特徴とする、溶接熱影響部のCTOD特性に優れた500〜550MPa級の降伏強度を有する厚鋼板である。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、図1を参酌して本発明を詳細に説明する。図1(a)〜(d)は、本発明におけるHAZ組織制御の考え方を模式的に示す図である。
【0006】
Tiオキサイド鋼の降伏強度を合金元素の添加によって現行の420MPa級から500PMa級、さらには550MPa級へと高めていくと、溶接金属1の溶融線3近傍溶接熱影響部HAZ2が硬化して十分なCTOD特性を確保することが難しくなる。このときのHAZ組織を模式的に図1の(a)に示す。HAZが脆化する第一の原因は、粒内フェライトIGFの生成によって粗大なγ粒の内部を微細化しても、粗大なγ粒のγ粒界4に沿って生成する粗大な粒界フェライト(Grain Boundary Ferrite:GBF)やフェライトサイドプレート(Ferrite Side Plate:FSP)が、HAZの硬化に伴って脆性破壊の発生に対する敏感性を高めるからである。従って、これらのGBFやFSPを微細化することで脆性破壊の発生に対する感受性を小さくする必要がある。第二の脆化原因は、高強度化のために合金元素の添加量を増加させることでHAZの焼入性が高まり、マルテンサイト・オーステナイト混合層MA(Martensite−Austenite constituent)と呼ばれる微視的な脆化相が多く生成し、これが脆性破壊の発生を促すからである。従って、500〜550MPa級の降伏強度を達成する場合においても、MAを可能な限り低減する必要がある。以上から、高い降伏強度のもとで良好な継ぎ手CTOD特性を達成するためには、Tiオキサイド鋼の金属学的効果(IGF効果)を維持しつつ、上記の二つの脆化原因を取り除くことが指針となる。つまり、本発明の要点はHAZ組織を下記の三つの視点から同時に制御することである。
(1) 溶融線近傍HAZのγ粒界に沿って生成するGBFやFSPを微細化する。
(2) 溶融線近傍HAZのγ粒内をIGFの生成によって微細化する。
(3) 溶融線近傍HAZのMA生成量を低減する。
【0007】
まず(1)を達成する手段を説明する。脆性破壊の発生に有害な粗大なGBFやFSPを微細化するためには、γ粒を小さくする必要がある。1400℃を超えて加熱される溶融線近傍HAZのγ粒成長を強力に抑制することを狙いとして、種々の鋼成分について鋭意検討した結果、MgとAlを適正に制御することでMgとAlからなる0.01〜0.1μmの超微細な酸化物を鋼中に数多く分散させ、これを核に0.01〜0.5μmのTiNを複合析出させる技術を発明した。このような複合析出のTiN粒子は、溶融線近傍でも熱的に安定であるため、成長したり溶解したりすることなく強力にγ粒界の移動をピン止めできる。たとえ溶接入熱量の大きな溶接を行っても、溶融線近傍のγ粒を100μm程度の大きさに保つことができる。さらに、γ粒界上に存在するこれらのピン止め粒子自身が、GBFやFSPの変態核として直接機能する場合があり、変態場所の増加を通じることによってもGBFやFSPの微細化に寄与する。このような複合析出のTiN粒子が10000個/mm2以上存在することで、GBFやFSPがCTOD特性に悪影響を及ぼさない大きさまで微細化される。このような複合析出のTiN粒子が10000個/mm2未満であると、γ細粒化やγ粒界上の変態核の個数が不十分となる結果、GBFやFSPが十分に微細化されずCTOD特性が劣化する。この複合携態のTiN粒子には硫化物が析出する場合もあるが、上述したピン止め粒子や変態核としての機能に悪影響を及ぼすものではない。図1の(b)はここで説明した(1)の技術だけを適用したときのHAZ組織の模式図である。GBFやFSPは微細化するが、本技術だけではγ粒内が上部ベイナイト(Bu)と呼ばれるMAを含む脆化組織で覆われてしまい、十分なCTOD特性が得られない。そこで、次に説明する(2)の技術を併用しなければならない。
【0008】
(2)を達成する手段を説明する。本発明は上述した超微細酸化物を多数生成させるめにMgを添加する状況下で、数μm程度の比較的大きな酸化物を利用してIGFを生成させることを追求した。その結果、下記の三つの条件がIGF変態核として重要であることがわかった。
▲1▼ 最低限の個数が存在すること。
▲2▼ 適当な大きさであること。
▲3▼ 酸化物組成が適正であること。
【0009】
▲1▼の観点から、IGF変態核は溶融線近傍HAZにおいて安定に存在し、少なくとも10個/mm2以上必要である。IGF変態核が10個/mm2未満ではHAZ組織の微細化が不十分である。また、▲2▼の観点から、IGF変態核として有効に機能するには0.5μm以上の大きさが必要である。粒子の大きさが0.5μm未満ではIGF変態核としての能力が著しく低下する。これらの条件を満たすために、本発明では0.5μm以上の酸化物をIGF変態核として利用することを検討した。しかし、10μmを超える酸化物は脆性破壊の発生起点として作用するため好ましくない。▲3▼の観点から、酸化物がIGF変態核として有効に機能するためには、酸化物中に2質量%以上のTiを含有することが効果的であることが判明した。そのためには、Tiよりも脱酸力の強いMg、Al、Ca、REM、Zrの添加量を制限して酸化物中のTi含有量を高めなければならない。これらの脱酸元素の添加量を質量%を用いて下式[1]の範囲に制御することで、0.5〜10μmの酸化物中のTi含有量を2質量%以上に制御できることを発見した。
Ti/(Mg+Al+Ca+REM+Zr)≧1 ・ ・ ・[1]
【0010】
このような条件を満足すれば0.5〜10μmのIGF変態核は酸化物単独である必要はない。酸化物上に硫化物や窒化物が析出した複合形態で同様の大きさを有する粒子でもIGF変態核として有効に作用する。図1の(c)は(1)の技術とここで説明した(2)の技術を併用したときのHAZ組織の模式図である。GBFやFSPの微細化に加えて多量のIGFが生成することでHAZ組織は微細化する。しかし、合金成分の添加量が不適切な場合にはMA生成量が増えてCTOD特性が不十分となる。そこで、次に説明する(3)の技術を併用することで安定的にCTOD特性を向上させることが必要である。
【0011】
(3)を達成する手段を説明する。HAZにおけるMA生成挙動は、焼入性と冷却速度に大きく依存することが知られている。本発明におけるHAZの焼入性は、鋼成分に加えてγ粒径やIGF生成能の影響を大きく受ける。従来鋼ではHAZの焼入性に対してγ粒径やIGF生成はほとんど考慮されていないが、本発明鋼はγ粒が小さい上にIGF生成能が高いため、γ粒界やγ粒内でフェライトの変態場所が増加しており、鋼成分が同一である従来鋼に対してHAZの焼入性が著しく低下する特徴を持つ。このような特徴を有する本発明鋼に対して、海洋構造物の溶接施工時の冷却速度(800℃から500℃の冷却時間がおおよそ15s)と本発明のCとMnの範囲を前提に、MAの生成状況に及ぼす合金成分の影響を鋭意検討した。その結果、下記の2点が明らかになった。
▲4▼Nbを従来より高めてもHAZのMA量は増えにくい。
▲5▼Cu、Ni、Cr、Moの和とHAZのMA量の間に非連続的な強い相関がある。
【0012】
▲4▼の観点から、Nbを0.05%まで高めてもHAZのMA量に大きな影響を及ぼさないことがわかった。従来の海構造物向け厚鋼板(継ぎ手CTOD保証鋼)で実際に用いられるNbは、例えば、「Proceedings of 12th International Conference on OMAE」1993. Glasgow. UK. ASME. VolumeIII−A. pp.207−214では420MPa級の降伏強度で0.02%のNbが上限であり、「Proceedings of 12th International Conference on OMAE」 1993. Glasgow. UK. ASME. VolumeIII−A. pp.199−205では460MPa級の降伏強度で0.021%のNbが上限であり、「Proceedings of 13th International Conference on OMAE」 1994. Houston. ASME.VolumeIII. pp.307−314では420MPa級の降伏強度で0.024%のNbである。このように、従来は0.02%程度のNb量が実質的に上限とされており、これに対して本発明はNbを0.05%まで有効に利用できる利点がある。▲5▼の観点から、Cu、Ni、Cr、Moの和が3.0%を超えるとHAZのMA量が急激に増えることがわかった。以上の知見から、500〜550MPa級の降伏強度を保ちつつ板厚を76.2mmまで拡大していく場合の成分設計として、できる限りNbを活用して厚手材の母材強度を稼ぎ、その反面、MA生成を助長するCu、Ni、Cr、Moを削減することが指針となる。Cu、Ni、Cr、Moの削減は合金コストの面からも好ましい。図1の(d)は(1)、(2)の技術にここで説明した(3)の技術を併用したときのHAZ組織の模式図である。HAZ組織の十分な微細化に加えて安定的にMA量が低減されることで、高強度においても良好な継ぎ手CTOD特性が達成される。このように、本発明は(1)、(2)、(3)の技術を同時に発現させることで実現可能となる。
【0013】
次に化学成分の限定理由について説明する。
【0014】
Cは母材とHAZの強度、靭性を確保するために0.04%以上必要である。しかし、0.14%を超えると母材とHAZの靭性が低下すると共に溶接性が劣化するので、これが上限である。
【0015】
Siは脱酸のために添加することができる。しかし、0.4%を超えるとHAZ靭性が劣化する。本発明ではAl、Ti、Mgによっても脱酸は可能であり、HAZ靭性の観点からSiは少ないほどよい。SiはHAZのMA生成を助長するので本発明では好ましくない元素である。
【0016】
Mnは母材とHAZの強度、靭性を確保するために1.0%以上必要である。MnはIGF変態核を構成する硫化物を形成する上でも重要である。しかし、Mnが2.0%を超えると母材やHAZが脆化したり、溶接性が劣化するので、これが上限である。
【0017】
Pは本発明において不純物元素であり、良好な母材とHAZの材質を確保するためには0.02%以下に低減する必要がある。
【0018】
Sは本発明において不純物元素であり、良好な母材とHAZの材質を確保するためには0.005%以下に低減する必要がある。
【0019】
NbはHAZ靭性の劣化を最小限に抑えて母材強度を高めることに極めて有効である。Nbは母材の組織微細化を通じて靭性を高めることにも有効である。本発明の最大板厚である76.2mmで500MPa級の降伏強度を達成しつつ、さらに良好な母材靭性を得るためには、0.005%以上のNbが必須である。しかし、Nbが0.05%を超えるとMA量の増加や析出硬化によってHAZ靭性が劣化するので、これが上限である。Nbは本発明の母材を造り込む上で積極的に用いるべき元素であり、0.02%以上のNbを有効利用することが好ましい。
【0020】
AlはMgと共に0.01〜0.1μmの超微細酸化物を形成し、その上に複合析出するTiNを伴ってピン止め粒子として、さらにはGBFやFSPの変態核として機能し、HAZ組織を微細化する。そのためには0.001%以上必要である。Alが0.001%未満になると10000個/mm2以上の超微細酸化物を確保することができず、γ細粒化やγ粒界上の変態核の個数が不十分となる結果、GBFやFSPが十分に微細化されずにHAZ靭性が劣化する。しかしAlが0.01%を超えると、たとえ前記[1]式を満たす場合でも、IGF変態核として有効な大きさの酸化物中におけるTi含有量が2質量%未満となり、これらの酸化物がIGF変態核としての能力を失う結果、10個/mm2以上のIGF変態核を安定に確保することが難しくなる。このようにIGF変態核の個数が不足するとHAZ靭性は劣化する。従ってAlの上限は0.01%である。
【0021】
TiはTiNを形成して超微細なMgとAlからなる酸化物上に0.01〜0.5μmの大きさで複合析出し、ピン止め粒子として、さらにはGBFやFSPの変態核として機能し、HAZ組織を微細化する。さらに、0.5〜10μmの酸化物中に2質量%以上含有されることを通じてIGF変態を促進する。そのためには0.005%以上必要である。Tiが0.005%未満になるとこのような複合形態のTiN粒子を10000個/mm2以上確保することができず、GBFやFSPが十分に微細化されずにHAZ靭性が劣化する。SiとAlが共に下限に近い場合は脱酸元素が不足する場合があるため、Tiに脱酸を担わせる意味で0.01%以上の添加が望ましい。しかし、Tiが0.03%を超えると、TiCが析出したり、TiNが数μmにまで粗大化するなどして母材やHAZが脆化する。以上の理由からTiの上限は0.03%である。
【0022】
Mgは本発明で重要な役割を担う。MgはAlと共に0.01〜0.1μmの超微細酸化物を形成し、その上に複合析出するTiNを伴ってピン止め粒子として、さらにはGBFやFSPの変態核として機能し、HAZ組織を微細化することである。そのためには0.0001%以上のMgが必要である。Mgが0.0001%未満であると、10000個/mm2以上の超微細MgとAlからなる酸化物を確保することも困難となる。しかし、Mgが0.005%を超えてもその金属学的効果は飽和するため、これを上限とする。
【0023】
Oは超微細なMgとAlからなる酸化物を形成してHAZでのピン止め効果を担うと同時に、0.5〜10μmのTi含有酸化物を形成してHAZでIGF変態核として機能する。これら二つの役割を満たすためには0.001%以上のOが必要である。Oが0.001%未満になると、10000個/mm2以上の超微細酸化物や10個/mm2以上の0.5〜10μm酸化物を確保することが難しくなる。しかし、Oが0.005%を超えると10μmを超える粗大な酸化物が多く生成し、これが母材やHAZで脆性破壊の発生起点として作用するため、0.005%を上限とする。
【0024】
NはTiNを生成して超微細なMgとAlからなる酸化物上に0.01〜0.5μmの大きさで複合析出し、ピン止め粒子として、さらにはGBFやFSPの変態核として機能し、HAZ組織を微細化する。そのためには0.001%以上必要である。Nが0.001%未満になるとこのような複合形態のTiN粒子を10000個/mm2以上確保することができない。しかし、Nが0.01%を超えると固溶Nが増えて母材やHAZが脆化したり、鋳片の表面性状が劣化したりするので、これを上限とする。
【0025】
次に選択元素の限定理由を説明する。
【0026】
Ca、REM、Zrは脱酸剤や脱硫剤として添加することができる。脱酸剤としてO量の低減に寄与する。脱硫剤としてS量の低減に寄与すると同時に、硫化物の形態を制御する。これらの効果を通じて母材とHAZの材質を改善するためには、それぞれ0.0005%以上必要である。しかし、これらの強脱酸元素が多すぎると、たとえ[1]式を満たす場合でも、IGF変態核として有効な大きさの酸化物中におけるTi含有量が2質量%未満となり、これらの酸化物がIGF変態核としての能力を失う結果、10個/mm2以上のIGF変態核を安定に確保することが難しくなる。この意味から、Ca、REM、Zrのそれぞれの上限は0.005%、0.01%、0.01%であり、これら三つの元素の和を0.02%以下に制限する必要がある。ここでのREMとは、La,Ceなどのランタノイド系の元素をさし、これらの元素が混在したミッシュメタルを添加した場合でも同様である。
【0027】
Cu、Ni、Cr、Moは母材の強度、靭性、耐食性や溶接性を向上させることに利用できる。そのめにはいずれの元素も0.05%以上必要である。従来、母材の高強度化、高靭性化、板厚拡大を同時に達する場合にこれらの元素を積極的に利用してきたが、本発明ではHAZのCTOD特性を確保する観点からこれらの元素を極力低減することが好ましい。このような意味から、Cu、Ni、Cr、Moの上限をそれぞれ1.5%、3.0%、0.5%、0.5%に規制し、さらに、これらの元素の和が3.0%以下になるように調整しなければならない。各元素が上限を超えたり、これらの元素の和が3.0%を超えるとHAZのCTOD特性が著しく劣化する。
【0028】
Vは析出強化によって母材およびHAZの強度に有効である。そのためには0.005%以上必要である。しかし、Vが0.05%を超えると溶接性やHAZ靭性が劣化するため、これを上限とする。
【0029】
Bは母材の強度、靭性を向上させるのに有効である。そのためには0.0001%以上必要である。しかし、Bが0.003%を超えると溶接性が著しく劣化するため、これを上限とする。
【0030】
本発明鋼は、鉄鋼業の製鋼工程において所定の化学成分に調整し、連続鋳造した鋳片を再加熱して圧延、冷却、熱処理の各工程を様々に制御して厚鋼板として製造される。板厚76.2mmの鋼板において500〜550MPa級の降伏強度を得るためには、Nb量を最大限に活用するために、圧延後の直接焼入あるいは加速冷却を適用することが有効である。さらに、焼き戻しによって強度と靭性を調整できる。鋳片を一旦冷やすことなくホットチャージ圧延することも可能である。HAZ靭性は鋼成分に加え、ピン止め粒子とIGF変態核の分散状態できまる。これらの粒子の分散状態は母材の製造過程で大きく変化しない。従って、HAZ靭性は母材の製造工程に大きく依存することはなく、どのような加熱、圧延、熱処理の工程を適用してもよい。
【0031】
本発明で規定した介在物の分散状態は、例えば以下のような方法で定量的に測定される。
【0032】
MgとAlからなる酸化物を内包する0.01〜0.5μmのTiNの個数は、母材鋼板の任意の場所から抽出レプリカ試料を作製し、これを透過電子顕微鏡(TEM)を用いて10000〜50000倍の倍率で少なくとも1000μm2以上の面積にわたって観察し、対象となる大きさのTiNの個数を測定し、これを単位面積あたりの個数(個/mm2)に換算する。このとき、MgとAlからなる酸化物とTiNの同定は、TEMに付属のエネルギー分散型X線分光法(EDS)による組成分析と、TEMによる電子線回折像の結晶構造解析によって行われる。このような同定を測定するすべての複合介在物に対して行うことが煩雑な場合、簡易的には次の手順による。まず、四角い形状の介在物をTiNとみなし、対象となる大きさのTiNの内部に介在物が存在するものの個数を測定する。次に、このような方法で個数を測定した複合析出TiNのうち、少なくとも10個以上について上記の要領で詳細な同定を行い、MgとAlからなる酸化物とTiNが複合する割合を求める。そして、はじめに測定された複合析出TiNの個数にこの割合を掛け合わせる。鋼中の炭化物が以上のTEM観察を邪魔する場合、500℃以下の熱処理によって炭化物を凝集・粗大化させ、対象となる複合介在物の観察を容易にすることができる。
【0033】
IGF変態核となる0.5〜10μmの酸化物(硫化物や窒化物が複合する場合もある)の個数は、次のような方法で測定できる。まず、母材鋼板の任意の場所から小片試料を切り出して鏡面研磨試料を作製し、X線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて少なくとも1mm2以上の面積にわたってOの元素マッピングを行い、Oが検出された0.5〜10μmの粒子個数を測定する。これを単位面積あたりの個数(個/mm2)に換算する。あるいは、次の方法によっても測定できる。酸化物以外の炭化物、硫化物、窒化物を溶解する目的で小片試料を高温加熱(例えば1400℃)した後に急冷し、これを鏡面研磨して光学顕微鏡観察を行う。1000倍の倍率で少なくとも3mm2以上の面積にわたって観察し、0.5〜10μmの粒子個数を測定する。これを単位面積あたりの個数(個/mm2)に換算する。
【0034】
【実施例】
表1に連続鋳造した鋼の化学成分を、表2に鋼板の板厚、製造法、ピン止め粒子とIGF変態核の個数、母材材質、溶接条件、HAZ靭性を示す。本発明鋼は38.1〜76.2mmの板厚で、母材の降伏強度(YS)が510〜570MPaであり、溶接入熱量が3.5〜10.0kJ/mmのサブマージアーク溶接による多層盛り継ぎ手ボンド部(CGHAZ)において−10℃で0.2mmを超える良好なCTODを有する。一方、比較鋼は化学成分が適正でないために、76.2mmの板厚で母材あるいはHAZの材質が劣っている。鋼11はSが多すぎるために母材とHAZの靭性が劣っている。鋼12はNbが少なすぎるために母材の強度と靭性が劣っている。鋼13はNbが多すぎるためにHAZ靭性が劣っている。鋼14はAlが少なすぎるためにピン止め粒子の個数が不足してHAZ靭性が劣っている。鋼15はAlが多すぎて脱酸元素のバランスが悪いため、0.5〜10μm酸化物の組成が不適切となり、これらのIGF変態能が低下してHAZ靭性が劣っている。鋼16はTiが少なすぎるためにピン止め粒子の個数が不足し、さらに、脱酸元素のバランスが悪くて0.5〜10μm酸化物の組成が不適切となってIGF変態能が低下してしまい、HAZ靭性が劣っている。鋼17はTiが多すぎるために母材とHAZの靭性が劣っている。鋼18はMgが少なすぎるためにピン止め粒子の個数が不足してHAZ靭性が劣っている。鋼19はOが少なすぎるためにピン止め粒子とIGF変態核の個数が不足してHAZ靭性が劣っている。鋼20はNが少なすぎるためにピン止め粒子の個数が不足してHAZ靭性が劣っている。鋼21はCu、Ni、Cr、Moの和が多すぎるためにHAZ靭性が劣っている。鋼22は脱酸元素のバランスが悪くて0.5〜10μm酸化物の組成が不適切となってIGF変態能が低下してしまい、HAZ靭性が劣っている。
【0035】
【表1】
Figure 0003711249
【0036】
【表2】
Figure 0003711249
【0037】
【発明の効果】
本発明によって高強度かつ極厚である厚鋼板の継ぎ手CTOD特性が格段に向上した結果、海洋構造物の軽量化や大型化に道が開けた。このことによって、海洋構造物の建造コストが大幅に削減できたり、さらに深い海域でのエネルギー開発が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明におけるHAZ組織制御の考え方を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1 溶接金属
2 溶接熱影響部(HAZ)
3 溶接線
4 γ粒界
GBF 粒界フェライト
FSP フェライトサイドプレート
IGF 粒内変態フェライト
Bu 上部ベイナイト
MA マルテンサイト・オーステナイト混合相

Claims (2)

  1. 質量%で
    C :0.04〜0.14%、
    Si:0.4%以下、
    Mn:1.0〜2.0%、
    P :0.02%以下、
    S :0.005%以下、
    Al:0.001〜0.01%、
    Ti:0.005〜0.03%、
    Nb:0.005〜0.05%、
    Mg:0.0001〜0.005%、
    O :0.001〜0.005%、
    N :0.001〜0.01%を含有し、さらに質量%でCa:0.0005〜0.005%、REM:0.0005〜0.01%、Zr:0.0005〜0.01%の内の1種以上を含有し、質量%でTi/(Mg+Al+Ca+REM+Zr)≧1であり、残部が鉄および不可避的不純物からなる化学成分を有し、MgとAlからなる酸化物を内包する0.01〜0.5μmのTiNが10000個/mm2以上存在し、かつ、Ca、REM、Zrの内の1種以上および2質量%以上のTiを含有する0.5〜10μmの酸化物が10個/mm2以上存在することを特徴とする、溶接熱影響部のCTOD特性に優れた500〜550MPa級の降伏強度を有する厚鋼板。
  2. 質量%で、
    Cu:0.05〜1.5%、
    Ni:0.05〜3.0%、
    Cr:0.05〜0.5%、
    Mo:0.05〜0.5%、
    V :0.005〜0.05%、
    B :0.0001〜0.003%
    の内の1種以上を含有し、Cu、Ni、Cr、Moの和が3.0%以下であることを特徴とする請求項1記載の溶接熱影響部靭性のCTOD特性に優れた500〜550PMa級の降伏強度を有する厚鋼板。
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