JP4131618B2 - フォトニックデバイス用基板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、III−V族窒化物半導体材料の多層薄膜を、エピタキシャル成長により堆積成膜して構成されたフォトニックデバイス用基板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
上述したIII−V族窒化物半導体材料としては、AlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)が広く使用されている。このようなAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)膜は、MOCVD法によるエピタキシャル成長によって成膜されるが、III族の原料ガスとしては、AlN膜を成膜する際にはTMA(トリメチルアルミニューム)が用いられ、GaN膜を成膜する際にはTMG(トリメチルガリウム)が用いられ、InN膜を成膜する際にはトリメチルインジウム)が用いられ、何れの場合にもV族の原料ガスとしては、NH3(アンモニア)が一般に用いられ、キャリアガスとしてはN2およびH2が用いられている。
【0003】
一般に、AlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)膜を成膜する際には、上述したIII族の原料ガスの供給割合を制御して所望の組成のIII−V族窒化物半導体薄膜を得るようにしているが、AlNのバンドギャップEgが6.2eVであり、GaNのバンドギャップが3.4eVであり、InNのバンドギャップが1.9eVであり、発光波長λとバンドギャップEgとの間には、λ=1240/Egなる関係があるので、これらの窒化物半導体材料を用いた発光デバイスから放射される光の波長は、それぞれほぼ200nm、365nmおよび653nmとなる。また、 これらの窒化物半導体材料を用いた受光デバイスにおいては、上述した波長以下の光を検出できる。
【0004】
また、上述したIII族の原料ガスの混合比を調整することによって、成膜される窒化物半導体材料薄膜の組成を制御することができ、これによって所望の発光波長や受光波長を得ることができる。例えば、TMAとTMGとを混合して、AlxGa1−xN混結晶薄膜を成膜した場合、バンドギャップEgは、ほぼ6.2x+3.4(1−x)と近似でき、発光波長λも、1240/{6.2x+3.4(1−x)}と近似できる。したがって、例えば、x=0.3とすると、発光波長λはほぼ292nmとなる。同様に、受光波長については上述した式で規定される波長以下の波長に感度を有することになる。
【0005】
上述したように、III−V族窒化物半導体材料であるAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)多層薄膜構造を有するフォトニックデバイスを製造するに当たり、サファイア基板のC―面上にMOCVDによって直接AlxGayInzN薄膜をエピタキシャル成長させると、AlxGayInzN薄膜は多くの欠陥を含み、結晶性が非常に悪いものとなり、効率が非常に低いものとなってしまう。
【0006】
そこで、サファイア基板の表面にAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)のデバイス多層膜を直接形成せず、バッファ層として作用するGaN膜を低温CVDのエピタキシャル成長により形成することが提案されている。このような低温のCVDによるエピタキシャル成長で成膜したバッファ層を介在させることにより、サファイア基板の格子定数と、デバイス多層膜の格子定数との10%以上の差異が補償され、結晶性が良好なデバイス多層膜を成膜することができる。また、バッファ層としては、GaN膜の代わりにAlN膜を低温CVDのエピタキシャル成長により形成することも提案されている。
【0007】
従来の発光デバイスは、主として発光波長λが400nm以上の長波長のものであるが、上述したように短波長の青色光や紫外線を発光させるには、デバイス多層膜中のAl組成を増大させる必要がある。また、緑色から青色の従来の発光デバイスにおいても、発光層の光閉じ込めを効率的に行うため、発光層以外のAl組成を増大させる必要がある。このようにアルミリッチなAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)のデバイス多層膜を上述したように低温のCVDによるエピタキシャル成長で形成したバッファ層の上に成膜すると、クラックが発生したり、結晶性が著しく劣化してしまう。
【0008】
その理由は、アルミリッチな(格子定数の小さな)AlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)薄膜をアルミ組成が小さな(格子定数が大きな)バッファ層上に成膜するとデバイス多層膜に引っ張り応力が発生してクラックが発生すると共に、アルミリッチなAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)薄膜の横方向成長速度は遅く、結晶性の悪い低温バッファ層は、AlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)のデバイス多層膜の結晶性の向上を阻害するためであると考えられる。紫外光を受光する受光デバイスにおいても、このような結晶性の劣化により、受光感度が劣化してしまうという問題がある。
【0009】
このような欠点を解消するために、例えば特開平9―64477号公報には、サファイア基板の上に、AlxGa1−xN(1≧x>0)膜をバッファ層として形成し、その上にアルミリッチなAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)デバイス多層膜を成膜した発光デバイスが提案されている。
【0010】
さらに、特開平5―291618号公報には、サファイア基板本体の上にGa1−x−yInxAlyN(1≧x≧0,1≧y≧0)薄膜を形成し、その組成xおよび/またはyを変化させて最終的にGa1−a−bInaAlbN(1≧a≧0,1≧b≧0)の組成となるようにしてバッファ層を成膜し、その上に、Ga1−a−bInaAlbN(1≧a≧0,1≧b≧0)からなるデバイス多層膜を成膜した発光デバイスが開示されている。
【0011】
【発明が解決すべき課題】
上述した特開平9―64477号公報に記載された技術では、高温AlGaNバッファ層を有する基板を用いることにより、その上にアルミリッチなAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)のデバイス多層膜を良好な結晶性を有するものとして成膜することができると共に、デバイス多層膜中におけるクラックの発生も抑止することができる。
【0012】
しかしながら、AlGaNバッファ層を成膜する際の成膜温度を1300℃以上と高くする必要がある。また、AlGaNバッファ層の成膜後に、1500℃程度の高い温度でアニールをする必要がある。このように、高温の処理が必要であるため、MOCVD装置のヒータへの負担が非常に大きくなり、メンテナンスが非常に面倒になり、製造コストも上昇する欠点がある。
【0013】
特に、上述したように短波長の光を発光あるいは受光するフォトニックデバイスを実現するためには、デバイス多層膜にアルミリッチなAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)層を設ける必要があるが、このようなアルミリッチな層の縦横方向の成長速度は遅いので、成膜温度を非常に高くする必要があり、装置への負担が特に大きくなるという問題がある。
【0014】
ここで成膜温度を1200℃程度に低くすると、0.3μm程度の膜厚でバッファ層にクラックが発生してしまうと共に、バッファ層の結晶性が不十分であり、良好な結晶性を有するデバイス多層膜を成膜することができなくなる。
【0015】
また、上述した特開平5―291618号公報に記載された技術では、Ga1−x−yInxAlyN(1≧x≧0,1≧y≧0)バッファ層の組成xおよび/またはyを変化させて最終的にGa1−a−bInaAlbN(1≧a≧0,1≧b≧0)の組成となるようにして基板を形成し、その上に、Ga1−a−bInaAlbN(1≧a≧0,1≧b≧0)からなるデバイス多層膜を成膜したものであるので、デバイス多層膜の結晶性は良好となると共にクラックの発生も有効に抑止されている。さらに、バッファ層の成膜温度も、700℃程度と低温であるので、ヒータに対する負荷も小さくなっている。
【0016】
しかしながら、この公知技術においては、バッファ層とデバイス多層膜とが連続的につながるように組成を制御している。このように、バッファ層とデバイス多層膜との界面で組成が連続的につながっていると、デバイス多層膜からバッファ層への電流の漏れが発生し、その部分での抵抗による損失が発生し、効率が低下してしまうという欠点がある。
【0017】
したがって、本発明の目的は、サファイア基板、SiC基板、GaN基板などの上に、クラックがなく、結晶性に優れたAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)バッファ層を有し、その上にエピタキシャル成長によってクラックがなく、結晶性に優れたAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)デバイス多層膜を成膜して効率の高いフォトニックデバイスを得ることができる基板およびそのようなフォトニックデバイス用基板を製造できる方法を提供しようとするものである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明は、フォトニックデバイス用基板の製造方法に係るものであり、特に、サファイア、ZnO、SiC、Si、GaAs、GaNなどを基板本体として、その一方の表面に堆積形成されたAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)バッファ層と、このバッファ層の表面にエピタキシャル成長により堆積形成されたAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)デバイス多層膜とを具えるフォトニックデバイス用基板において、
前記バッファ層中の、Al組成が最少の部分のAl組成を、前記デバイス多層膜中の少なくとも最大膜厚の層のAl組成以上とし、
前記バッファ層のAl組成xを、前記デバイス多層膜とは反対側よりデバイス多層膜に向けて、連続的またはステップ状にAl組成比xの値が小さくなるように構成し、
前記バッファ層中の、Al組成が最少の部分のAl組成を、AlxGayInzN(x+y+z=1,1.0≧x≧0.5)とし、前記バッファ層を構成するAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)は、(002)ピークにおけるX線ロッキングカーブの半値巾FWHMが90arcsec(ωスキャン)以下であり、前記バッファ層を、前記デバイス多層膜よりも高い基板表面温度で形成し、前記バッファ層内、又は前記バッファ層と前記デバイス多層膜との間において、Al組成の差が10原子%以上の界面を有し、前記デバイス多層膜中のAl組成が最大の層の組成を、AlxGayInzN(x+y+z=1,1.0≧x≧0.3)とする、フォトニックデバイス用基板に関する。
【0019】
このようなフォトニックデバイス用基板は、発光デバイスや受光デバイス用の基板として使用することができる。フォトニックデバイス用基板の好適な例においては、前記バッファ層中の、Al組成が最少の部分のAl組成を、AlxGayInzN(x+y+z=1,1.0≧x≧0.5)とし、さらには、1.0≧x≧0.7とすることが好ましい。フォトニックデバイス用基板の好適な例においては、前記バッファ層の、前記基体本体に最も近い部分がAlNなる組成を有する。これによって、バッファ層内の組成の自由度が高くなるので、所望の特性を有するデバイス多層膜を容易に実現することができる。
【0020】
また、前記バッファ層中において、Al組成の差が10原子%以上である界面を有することが好ましい。同様に、前記デバイス多層膜と前記バッファ層との間において、Al組成の差が10原子%以上の界面を有することが好ましい。このように隣接する層間にAl組成の段差を設けることによって、特に、転位がこのAl段差を越えて上方に伝搬することがなくなる。したがって、このAl組成の段差の上方部分における転位量を抑制することができ、結晶性に優れたデバイス多層膜を得ることができる。
【0021】
さらには、本発明によるフォトニックデバイス用基板は、デバイス多層膜中の、Al組成が最大の層中におけるAl組成をAlxGayInzN(x+y+z=1,1.0≧x≧0.3)とした、短波長光放射用の発光デバイスや短波長光受光用の受光デバイスなどにおいて適用することが好ましい。
【0022】
本発明のフォトニックデバイス用基板の製造方法は、サファイア、ZnO、SiC、Si、GaAs、GaNなどを基板本体として、その一方の表面に堆積形成されたAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)バッファ層と、このバッファ層の表面にエピタキシャル成長により堆積形成されたAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)デバイス多層膜とを具えるフォトニックデバイス用基板の製造方法において、
前記バッファ層中の、Al組成が最少の部分のAl組成を、前記デバイス多層膜中の少なくとも最大膜厚の層のAl組成以上とし、
前記バッファ層のAl組成xを、前記デバイス多層膜とは反対側よりデバイス多層膜に向けて、連続的またはステップ状にAl組成比xの値が小さくなるように構成し、
前記バッファ層を、前記デバイス多層膜の成膜温度よりも高い基板表面温度でMOCVD法によりエピタキシャル成長させて形成し、
前記バッファ層の成膜時の基板表面温度は1100℃以上とし、
前記バッファ層の成膜時の基板表面温度は1300℃未満とし、
前記バッファ層の成膜時における平均ガス流量が1m/秒以上であり、
前記バッファ層内、又は前記バッファ層と前記デバイス多層膜との間において、Al組成の差が10原子%以上の界面を形成することを特徴とする、フォトニックデバイス用基板の製造方法に係るものである。
【0023】
このような本発明による製造方法の好適な実施例においては、前記バッファ層を、前記デバイス多層膜の成膜温度よりも高い基板表面温度でMOCVD法によりエピタキシャル成長させて形成する。具体的には、バッファ層の成膜温度を1100℃以上とする。
【0024】
また、前記AlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)なる組成のバッファ層を成膜する際にキャリアガスとして使用する水素ガス及び窒素ガスの流量比(水素ガス/窒素ガス)を、前記デバイス多層膜を成膜する際にキャリアガスとして使用する水素ガス及び窒素ガスの流量比(水素ガス/窒素ガス)よりも大きくすることが好適である。
【0025】
また、前記AlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)なる組成のバッファ層を成膜する際に使用するV族原料ガスの、III族原料ガスに対する流量比(V族原料ガス/III族原料ガス)を、前記デバイス多層膜を成膜する際に使用するV族原料の、III族原料に対する流量比(V族原料ガス/III族原料ガス)よりも小さくすることも好適である。ここで、III族原料ガスの流量に関しては、二量体化などの重合化が起こっていないとして飽和蒸気圧から計算する。
【0026】
さらに、Alを含むIII族原料ガスとV族原料ガスを用いる場合、基板上部での反応管内における前記原料ガスを含んだ平均ガス流速が1m/秒以上であることが好ましい。この場合の平均ガス流速は、以下の式(1)によって表される。
【0027】
【数1】
{0℃換算のガス流量の合計(リットル/分)/60×103×基板中心上部での反応管断面積(m2)}×{760/反応管内圧力(Torr)} (1)
【0028】
すなわち、全ガス流量が多いほど、また反応管断面積が小さいほど、あるいは反応管内圧力が小さいほど、平均ガス流速が大きくなる。したがって、気相中での原料ガスの反応を抑制し、バッファ層の結晶性をより効果的に向上させることができる。
【0029】
さらに、本発明によるフォトニックデバイス用基板においては、前記バッファ層を、サファイア、SiC、GaNなどの基板本体で支持したものとすることができるが、バッファ層を形成した後に、この基体本体を除去することもできる。
【0030】
また、上述した本発明によるフォトニックデバイス用基板を用いたフォトニックデバイスにおいては、前記デバイス多層膜中のAl組成が最大の層の組成を、AlxGayInzN(x+y+z=1,1.0≧x≧0.3)とすることが好ましい。本発明では紫外線領域でのフォトニックデバイスの実現を主たる目的としているので、デバイス多層膜中の発光層のAl組成xは大きなものとなる。したがって、その周囲に積層される膜のAl組成はさらに大きくなる。例えば発光波長λを300nm程度の紫外線を想定すると、Al組成xは0.3となる。
【0031】
さらに、本発明においては、前記バッファ層中の、Al組成が最少の部分のAl組成を、前記デバイス多層膜中の最大膜厚の層のAl組成以上とするが、この構成は膜中に発生する恐れのあるクラックを抑止するための条件である。デバイス多層膜中の最大膜厚の層の部分では最も大きな応力が発生し、クラックが発生する確率が最も高い部分となる。この最大膜厚の部分に引っ張り応力が発生すると、クラックが発生することになる。この層に圧縮応力を発生させてクラックの発生を抑止するためには、この層よりもバッファ層のAl組成を大きくすることが必要となる。
【0032】
また、本発明においては、前記バッファ層のAl組成xを、前記基板本体側よりデバイス多層膜に向けて、連続的またはステップ状にAl組成比xの値が小さくなるように構成するが、この要件は本発明の最も特徴的なものである。本発明は、従来のような1300℃以上の高温を使用せず、1200℃程度の低温で結晶性が良好なバッファ層を成膜することを目的とするものであるが、1200℃程度の低温で良好な結晶性を有するAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)バッファ層を成膜するためには、バッファ層の膜厚を1μmから2μm程度まで厚くする必要がある。
【0033】
しかしながら、バッファ層の膜厚をこのように厚くするとクラックが発生してしまうという問題がある。その理由は、バッファ層を形成していく際に引っ張り応力が発生し、バッファ層を厚くすればするほど格子定数が大きくなってクラックが入り易くなるためである。これについては、さらに後に詳述する。
【0034】
このような問題を解決するためには、クラックが入る前に、バッファ層の材料を格子定数の大きな材料に変えてしまえば良いことになる。上述したように、バッファ層のAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)組成のAl組成を減らしていくことによって格子定数が大きくなるため、バッファ層内部での応力を防ぐことができ、その結果として1200℃程度の低温でも、クラックを発生することなくバッファ層の膜厚を厚くすることができ、結晶性を良好とすることができる。また、バッファ層にGaを添加することによって、横方向の成長速度を促進する効果も副次的にあるため、転位抑制効果もある。
【0035】
さらに、本発明においては、バッファ層を、前記デバイス多層膜よりも高い基板表面温度で形成するものであるが、これはバッファ層の方がデバイス多層膜に比べてAl組成が多いため、その成膜には高い温度が必要となるためである。したがって、本発明にかかるバッファ層は、高温バッファ層ともいうべきものである。
【0036】
上述したように、バッファ層を形成していく際に引っ張り応力が発生することによって、クラックが入り易くなるが、このことについてさらに説明する。図1は、横軸にバッファ層の基体本体側におけるAlN部分の膜厚を取り、縦軸にこのAlN膜の結晶性の目安となる(002)ピークのX線ロッキングカーブの半値巾(FWHM)を示すものである。AlN膜の膜厚が厚くなるにしたがって半値巾が小さくなり、結晶性が良好となることがわかる。
【0037】
図2AおよびBは、横軸にAlN膜の膜厚を取り、縦軸にAlN膜の格子定数aおよびbをそれぞれ取って示すものである。ここで、格子定数aおよびbは図3に示すように、サファイア基板本体のC−面上に成膜されるAlN結晶の六角柱の底面の一辺の長さおよび高さにそれぞれ対応している。これらの図において、太い実線はAlN膜の理想的な格子定数を示すものである。これらグラフから明らかなように、AlN膜の膜厚が厚くなるにしたがって、格子定数aが延び、格子定数cが縮むことがわかる。
【0038】
以上のことから、AlN膜の膜厚が厚くなるにしたがって結晶性が良好になると共に、面内の格子定数aが延びていくことがわかる。すなわち、AlN膜の膜厚が厚くなると、面内で引っ張り応力が働き、クラックが入り易くなることがわかる。
【0039】
また、本発明の製造方法においても、前記バッファ層内において、Al組成の差が10原子%以上である界面を形成することが好ましく、前記デバイス多層膜と前記バッファ層との間において、Al組成の差が10原子%以上である界面を形成することが好ましい。これによって、上述したように、結晶性に優れたデバイス多層膜を製造することができる。
【0040】
【発明の実施の形態】
図4は、本発明によるフォトニックデバイス用基板の一実施例を製造する一例の工程を示すものである。本例のフォトニックデバイス用基板は、紫外線を放射する発光デバイス用の基板である。C面サファイア(Al2O3)基板本体1をMOCVD室に導入し、この基板本体の表面温度、すなわち成膜温度をほぼ1200℃に保つと共に成膜圧力を15Torrに保って、TMAをIII族の原料ガスとし、アンモニアをV族の原料ガスとし、水素ガスをキャリアガスとして、全ガス流量が10リットル/分となるように導入して気相成長を行い、AlN膜3を約0.5μmの膜厚に成膜する。
【0041】
キャリアガスとして使用する水素ガス及び窒素ガスの流量比(H2流量/N2流量)は無限大となる。また、III族原料ガス流量に対するV族原料ガス流量の比(V族原料ガス流量/III族の原料ガス流量)は450とし、成膜速度が1μm/時間となるように原料ガスの供給量を制御した。この場合、基板中心部上部での反応管断面積が5×10−3m2の横型反応管を用いているため、(1)式より平均ガス流速を計算すると、1.7m/秒となる。
【0042】
本例では、バッファ層2の基板本体1に最も近い部分をAlN膜で形成する。続いてIII族の原料ガスとしてTMGを加えて、Al0.985Ga0.015N膜4をほぼ0.5μmの膜厚に成膜し、さらにTMA原料とTMG原料の流量比を変えて、Al0.85Ga0.15N膜5をほぼ0.5μmの膜厚に成膜する。このようにしてサファイア基板本体1のC−面上に合計でほぼ1.5μmの膜厚の、AlN膜3、Al0.985Ga0.015N膜4及びAl0.85Ga0.15N膜5からなるバッファ層2を形成した基板を形成する。
【0043】
ここで、ガス(V族の原料ガス流量/III族の原料ガス流量)を一定にするように原料ガス供給量を調整している以外、AlN膜3の成膜条件からガス流量は変更させていない。
【0044】
この場合において、バッファ層の(002)ピークのロッキングカーブ半値幅(FWHM)は50arcsecであった。また、AlGaN膜4及び5間におけるAl組成の差が10%以上となっているので、AlGaN膜4内に比較的多量の転位を含んでいたとしても、この転位がAlGaN膜5に伝搬する割合は減少する。
【0045】
図5は、上述したようにして形成した本発明によるフォトニックデバイス用基板のバッファ層2の表面に、MOCVDによるエピタキシャル成長によりデバイス多層膜を形成した紫外線発光デバイスの構成を示す断面図である。この場合、上述したように基板本体1の表面にバッファ層2を成膜した本発明によるフォトニックデバイス用基板をMOCVD装置から一旦取り出してからデバイス多層膜を形成しても良いが、引き続いてAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)のデバイス多層膜をエピタキシャル成長により成膜することもできる。
【0046】
成膜時の基板表面温度は上述したバッファ層2を形成する際の基板表面温度である1200℃よりも低い1050℃とし、キャリアガスとして使用する水素および窒素ガスの流量比(H2流量/N2流量)を、上述したバッファ層2を成膜する場合の流量比以下の1に設定し、デバイス多層膜を成膜する際のV族の原料ガスの流量とIII族の原料ガスの流量比(V族の原料ガス流量/III族の原料ガス流量)を上述したバッファ層2を成膜する際の流量比以上の2000に設定する。
【0047】
このようにキャリアガスとして使用する水素ガスおよび窒素ガスの流量比を、バッファ層2を成膜する場合の流量比以下とするが、その理由は、バッファ層2として良好な結晶性を有するAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)膜を成膜するには、水素ガスの流量を多くするのが望ましいためである。実際に水素ガス流量比を低下させた場合結晶性が劣化し、(002)ピークのX線ロッキングカーブの半値幅(FWHM)が100arcsec以上となった。さらに、バッファ層2を成膜する際のV族の原料ガスの流量とIII族の原料ガスの流量比を、デバイス多層膜を成膜する際のV族の原料ガスの流量とIII族の原料ガスの流量比よりも小さくするが、これは、良好な結晶性を有するバッファ層2を得る上で重要である。
【0048】
ここで、デバイス多層膜の成膜についても、水素ガスの流量を多くし、V族の原料ガスの流量とIII族の原料ガスの流量比を小さくすると、発光特性が劣化する恐れがある。その理由は、AlxGayInzN膜中のGa及びIn濃度が高くなると、水素ガスによるエッチングをより受け易くなり、その結果、前記膜の結晶性が劣化してしまうためである。このため、デバイス多層膜全体としての発光特性および電気特性が劣化してしまうものと考えられる。
【0049】
以下に、フォトニックデバイスとしての発光デバイスを形成する場合について説明する。図5に示すように、最初に、上述したような、バッファ層2の表面に、n型のGaN膜6を厚さ3μmに形成する。この場合において、バッファ層2の最上層を構成するAl0.85Ga0.15N膜5及びGaN膜6間におけるAl組成の差が10%以上となっているので、Al0.85Ga0.15N膜5中に比較的多量の転位を含んでいたとしても、この転位がGaN膜6内に伝搬する割合は減少する。
【0050】
このGaN膜6はデバイス多層膜中で最大の膜厚を有するものであるが、これはAlを全く含んでいないため、バッファ層中のAl組成の最小値が、デバイス多層膜中の少なくとも膜厚最大の層におけるAl組成以上であるという要件を満足する。
【0051】
次いで、GaN膜6上にn型のAl0.10Ga0.90N膜7を厚さ0.1μmに形成する。次いで、このAl0.10Ga0.90N膜7上に発光層としてのIn0.15Ga0.85N膜8を厚さ0.05μmに形成する。さらに、In0.15Ga0.85N膜8上にp型のAl0.10Ga0.90N膜9を厚さ0.1μmに形成した後、このAl0.10Ga0.90N膜9上に、低抵抗p型のGaN膜10を厚さ0.5μmに形成する。
【0052】
最後に、GaN膜6〜p型のGaN膜10の一部分をエッチングにより除去し、GaN膜6の一部の表面を露出させる。そして、GaN膜6の露出した表面上に電極11を形成するとともに、低抵抗のGaN膜10の表面上にも電極12を形成して、目的とする発光デバイスを得る。
【0053】
また、上述した発光デバイスの変型例として、以下に示すような発光デバイスを例示することもできる。図5に示すようにバッファ層2の表面に、先ず,Al組成が0.8のn型のAlGaInN膜6を1〜2μmの膜厚に形成する。このAlGaInN膜6は、デバイス多層膜中で最大の膜厚を有するものであるが、本発明においては、バッファ層2のAl組成の最小値を、この膜厚最大のAlGaInN膜のAl組成以上とする。
【0054】
さらに、図5に示すように、AlGaInN膜6の上に、Al組成が0.50のn型のAlGaInN膜7をほぼ0.5μmの膜厚に成膜する。この場合において、AlGaInN膜6及び7間におけるAl組成の差が10%以上となっているので、AlGaInN膜6内に比較的多量の転位を含んでいたとしても、この転位がAlGaInN膜7に伝搬する割合が減少する。
【0055】
次いで、AlGaInN膜7上に発光層としてAl組成が0.4のAlGaInN膜8をほぼ0.1μmの膜厚に成膜する。この発光層であるAlGaInN膜7の上に、Al組成が0.5のp型のAlGaInN膜9をほぼ0.5μmの膜厚に成膜し、最後にAl組成が0.1以下の低抵抗のp型のAlGaInN膜10をほぼ0.5μmの膜厚に成膜する。最後に、AlGaInN膜6〜10の一部分をエッチングにより除去してn型のAlGaInN膜6の一部の表面を露出させ、そこに電極11を形成すると共に低抵抗のp型AlGaInN膜10の上にも電極12を形成する。
【0056】
図6は、本発明によるフォトニックデバイスの一実施例である紫外線に感度を有するpinタイプのフォトダイオードを製造する一例の工程を示すものである。図6に示すように基板1の表面に、AlN膜3、Al0.985Ga0.015N膜4およびAl0.85Ga0.15N膜5より成るバッファ層2を形成した後、このバッファ層2の表面に、先ず,Al組成が0.5のn型のAlGaInN膜6を1〜2μmの膜厚に形成する。
【0057】
このAlGaInN膜6は、デバイス多層膜中で最大の膜厚を有するものであるが、本発明においては、バッファ層2のAl組成の最小値を、この膜厚最大のAlGaInN膜6のAl組成以上とする。
【0058】
さらに、図6に示すように、AlGaInN膜6の上に、Al組成が0.5のnon-dopeのAlGaInN膜7をほぼ100Åの膜厚に成膜し、さらに、Al組成が0.15のp型のAlGaInN膜8をほぼ100nmの膜厚に成膜し、最後に、AlGaInN膜6〜8の一部分をエッチングにより除去してn型のAlGaInN膜6の一部の表面を露出させ、そこに電極11を形成すると共にp型AlGaInN膜8の上にも電極12を形成してpinタイプのフォトダイオードを完成する。
【0059】
図6に示すフォトダイオードの受光面は電極12を透明電極として図の上側とすることもできるし、基板1を透明とする場合には基板側とすることもできる。
【0060】
上述したように、バッファ層2の成膜条件として、上記(1)式で求めた平均ガス流速を1m/秒以上とする。図7は、横軸に平均ガス流速を取り、縦軸に結晶性を表すX線ロッキングカーブの半値巾(FWHM)を取って示すものである。図7に示されたプロットは、種々のガス流量、反応管断面積、及び反応管内圧力から(1)式を用いて導出した平均ガス流速のデータである。図7から明らかなように、平均ガス流速を1m/秒以上とすることにより、半値巾FWHMが90arcsec以下となり、良好な結晶性を有するバッファ層2が形成できることが確認されている。
【0061】
本発明は上述した実施例にのみ限定されるものではなく、幾多の変更や変型が可能である。例えば、上述した実施例では基板本体を、C−面のサファイアを以て形成したが、サファイアの他の結晶面、ZnOなどの酸化物結晶、SiC、Si、GaAs、GaNなどの半導体結晶で形成された基板本体を用いることもできる。さらに、上述した実施例では、紫外線を放射する発光デバイス用の基板あるいはpinタイプのフォトダイオード用基板としたが、青色などの他の色の光を発生する発光ダイオードや、レーザダイオードなどの他の発光デバイス用の基板、あるいはショットキータイプのフォトダイオードなどの他の受光デバイス用の基板とすることもできる。
【0062】
また、上述した実施例では、サファイア基板本体の上にバッファ層をエピタキシャル成長により成膜してフォトニックデバイス用基板としたが、基板本体上に100μm程度の厚みでバッファ層を形成した後、基板本体を除去することもできる。
【0063】
上述したように、本発明によるフォトニックデバイス用基板およびその製造方法においては、クラックの発生がなく、良好な結晶性を有するAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)のバッファ層を有し、したがってその上に、良好な結晶性を有するAlxGayInzN(x+y+z=1,x,y,z≧0)のデバイス多層膜を成膜することができるフォトニックデバイス用基板を提供することができ、特に青色光から紫外線に亘る短波長の光を発光あるいは受光し、効率が良好で、電気的な特性も良好なフォトニックデバイスを実現するための基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】AlNバッファ層の膜厚と、結晶性との関係を示すグラフである。
【図2】AおよびBは、AlNバッファ層の膜厚と、格子定数aおよびbとの関係を示すグラフである。
【図3】AlNの結晶構造を模式的に示す線図である。
【図4】本発明によるフォトニックデバイス用基板の一実施例を示す断面図である。
【図5】図4に示した基板の上にデバイス多層膜を形成して構成した発光デバイスを示す断面図である。
【図6】本発明によるフォトニックデバイス用基板を用いて形成した受光デバイスを示す断面図である。
【図7】バッファ層成膜時における平均ガス流速とその結晶性との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 C−面サファイア基板本体、 2 バッファ層、 3 AlN膜、 4、5AlGaN膜、 6、7 n型AlGaInN膜、 8 発光層、 9 p型AlGaInN膜、 10 低抵抗p型AlGaInN膜、 11、12 電極
Claims (5)
- サファイア、ZnO、SiC、Si、GaAs、GaNなどを基板本体として、その一方の表面に堆積形成されたAl x Ga y In z N(x+y+z=1,x,y,z≧0)バッファ層と、このバッファ層の表面にエピタキシャル成長により堆積形成されたAl x Ga y In z N(x+y+z=1,x,y,z≧0)デバイス多層膜とを具えるフォトニックデバイス用基板の製造方法において、
前記バッファ層中の、Al組成が最少の部分のAl組成を、前記デバイス多層膜中の少なくとも最大膜厚の層のAl組成以上とし、
前記バッファ層のAl組成xを、前記デバイス多層膜とは反対側よりデバイス多層膜に向けて、連続的またはステップ状にAl組成比xの値が小さくなるように構成し、
前記バッファ層を、前記デバイス多層膜の成膜温度よりも高い基板表面温度でMOCVD法によりエピタキシャル成長させて形成し、
前記バッファ層の成膜時の基板表面温度は1100℃以上とし、
前記バッファ層の成膜時の基板表面温度は1300℃未満とし、
前記バッファ層の成膜時における平均ガス流量が1m/秒以上であり、
前記バッファ層内、又は前記バッファ層と前記デバイス多層膜との間において、Al組成の差が10原子%以上の界面を形成することを特徴とする、フォトニックデバイス用基板の製造方法。 - 前記バッファ層を成膜する際に、キャリアガスとして使用する水素ガス及び窒素ガスの流量比(水素ガス/窒素ガス)を、前記デバイス多層膜を成膜する際にキャリアガスとして使用する水素ガス及び窒素ガスの流量比(水素ガス/窒素ガス)よりも大きくすることを特徴とする、請求項1記載のフォトニックデバイス用基板の製造方法。
- 前記バッファ層を成膜する際に使用するV族原料ガスの、 III 族原料ガスに対する流量比(V族原料ガス/ III 族原料ガス)を、前記デバイス多層膜を成膜する際に使用するV族原料ガスの、 III 族原料ガスに対する流量比(V族原料ガス/ III 族原料ガス)よりも小さくすることを特徴とする、請求項1又は2記載のフォトニックデバイス用基板の製造方法。
- 前記バッファ層を、サファイア、SiC、GaNなどの基板本体の表面に形成した後、この基体本体によってバッファ層を支持した状態で、前記デバイス多層膜を成膜することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載のフォトニックデバイス用基板の製造方法。
- 前記デバイス多層膜中のAl組成が最大の層の組成が、Al x Ga y In z N(x+y+z=1,1.0≧x≧0.3)であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載のフォトニックデバイス用基板の製造方法。
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