JP4128459B2 - 車両用乗員拘束保護装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、車両衝突の際に乗員を座席に拘束して保護する車両用乗員拘束保護装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両の乗員等を座席に安全に保持するためのシートベルトを巻き取るベルト巻取装置(リトラクタ)としては、急な加速、衝突又は減速に反応する慣性感知手段によってベルト巻取装置を物理的にロックする緊急ロック機構を備えて乗員を拘束する緊急ロック式リトラクタが用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。
また、火薬式のベルト巻取装置(プリテンショナ)を設けて衝突の際にシートベルトの緩みを瞬間的に除くようにしたシートベルト装置も提案されている。
しかしながら、シートベルトを完全にロックしてしまうと、車両が衝突したときに、乗員に対して衝突方向に慣性力が作用するため、シートベルトによって拘束されている乗員はシートベルトに押しつけられて胸部などにダメージを受けるおそれがある。
このため、シートベルトの張力が所定値を越えると、シートベルトがベルト巻取装置から引き出されるようにして乗員の受ける衝撃を緩和するようにした、エネルギ吸収機構(EA機構)を備えたシートベルト装置も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0003】
このシートベルト装置のベルト巻取装置は、図25に示すように、モータ101の回転駆動によってシートベルトを巻回する巻取軸であるリール102の一端部(同図では右端部)には、シートベルトの引出しをロックするベルトロック機構103が設けられてなっている。このベルトロック機構103は、車両に所定の減速度や衝撃が作用したときに、シートベルトの引出しをロックする機能(VSI(Vehicle Sentitive Inertia)機能)と、シートベルトが所定の加速度で急激に引き出されたときに、シートベルトの引き出しをロックする機能(WSI(Webbing Sentitive Inertia)機能)とを備えている。
同図において、リトラクトベース104は、その大部分がコの字状断面を有しており、対向する側板104a,104bには、対向してそれぞれ巻取軸貫通孔が穿設され、リール102がこれら巻取軸貫通孔を挿通した状態で回動自在に軸架されている。
側板104aに設けられた巻取軸貫通孔の内周縁には係合内歯105が形成されており、上記巻取軸貫通孔の外側にはリング部材106が並設されている。
【0004】
リール102の両端面には、リール102を回転自在に支持するための回転支軸が突設されるが、リール102のセンサ側端面には、同図に示すように、別体に構成された支軸ピン107が回転支軸として圧入されている。
また、リール102のセンサ側端面には、同図に示すように、側板104aに構成された係合内歯105に係合可能なロック部材であるボール108を揺動回動可能に軸支する支軸109が突設されている。
また、ポール108が係合内歯105と係合する方向へ揺動回転したときに、ポール108の揺動側端部と反対側のポール後端部108eを位置決めし、係合内歯105との間でポール108に大きな荷重が加わった場合には、その荷重を受ける受圧面110がリール102のセンサ側端面に設けられている。
さらに、リール102のセンサ側端面には、ラッチ部材であるラチェットホイール111に揺動可能に軸支された揺動レバー部材112の反時計周り方向の回転を規制するための係止突起113が設けられている。
【0005】
ポール108の揺動端部には、側板104aに構成された係合内歯105に対応して係合可能な係合歯108cが一体形成されている。また、ポール108の中央部には、支軸109に遊嵌する軸孔108aが貫通されており、ポール108のセンサ側面には、揺動端側に位置する係合突起108bとポール後端側に位置する押圧突起108dとが突設されている。
すなわち、軸孔108aは支軸109に対して遊嵌状態なので、ポール108が支軸109に対して揺動回動可能及び所定量相対移動可能に軸支されている。また、リール102に圧入された支軸ピン107により貫通孔を嵌通された保持プレート118の係止孔118bには、ポール108の軸孔108aを貫通した支軸109の先端がかしめられており、保持プレート118はリール102の端面からポール108が浮き上がるのを防止している。
【0006】
また、ポール108の係合突起108bの端部は、保持プレート118の外側に配設されて支軸ピン107に回動自在に軸支されたラチェットホイール111に形成されているカム孔111aに挿入されている。
ここで、ラチェットホイール111がリール102に対してシートベルト巻取り方向(同図中矢印X1に示す方向)に相対回転すると、カム孔111aが係合突起108bの端部をリール102の回転中心軸から半径方向外方に移動させるように作用するので、ポール108は側板104aに形成された係合内歯105との係合方向へ支軸109を中心に揺動回転させられる。
すなわち、ポール108が、係合内歯105と係合する方向に揺動回転させられ、ポール108の係合歯108cが係合内歯105に係合することによってリール102シートベルト引出し方向の回転を阻止するロック手段を構成している。
【0007】
ラチェットホイール111は、中心孔が支軸ピン107に回動自在に軸支された爪車であり、その外周部には、車体加速度感知部119のセンサアーム120と係合するためのラチェット歯111bが形成されている。
また、支軸ピン107のフランジ部107aは、シートベルトの引出し加速度を感知するベルト加速度感知部114を構成する円盤状のイナーシャプレート121の中心孔121aを軸支している。
ラチェットホイール111の内側面には、一端が保持プレート118の掛止部118cに掛止された引張りコイルばね115の他端を掛止するばね掛止部130が設けられており、引張りコイルばね115は、リール102に対してラチェットホイール111をシートベルト引出し方向に回転付勢している。
【0008】
さらに、ラチェットホイール111の内側面に突設された支軸134には、軸孔112aを軸支された揺動レバー部材112が揺動可能に配設されている。揺動レバー部材112は、リール102のセンサ側端面に突設された係止突起113により反時計周り方向の回転が適宜規制されると共に、ポール108のセンサ側面に突設された押圧突起108dが支軸134と係止突起113との間に当接することによって、時計周り方向の回転が適宜規制されるように、リール102とラチェットホイール111との間に組み付けられている。
【0009】
また、イナーシャプレート121の外側に配設されたギアケース131の中心部には、支軸ピン107を介してリール102を回転自在に軸支する軸支部131bが設けられており、軸支部131bの底面には、支軸ピン107のフランジ部107aが当接し、リール102の軸線方向の位置決め面となっている。さらに、ギアケース131の下部には、車体の加速度を感知する車体加速度感知部119を格納する箱形の格納部が設けられている。
また、車体加速度感知部119の下部には、制御ユニット(不図示)からの指令信号に応答して引出しロックを行うための電磁的アクチュエータ136が設けられている。電磁的アクチュエータ136は、制御ユニットの指令信号によって作動が制御され、ソレノイドと、コイルスプリングと、プランジャとを有している。
【0010】
図26に示すように、時刻tが(t=t0)において、衝突の可能性ありと判断され、モータ101が作動を開始し、シートベルトの張力Fは巻き取りばねによる張力F0から上昇する。時刻tbにおいて、衝突が発生すると、時刻tcにおいて、衝突が検出され、制御ユニットは、ベルトロック機構103を作動させる。
衝突が検出されると、制御ユニットが、電磁的アクチュエータ136のソレノイドの励磁を解除すると、スプリングの付勢力によってプランジャがは持ち上げられる。
プランジャの先端は、センサカバー135の底部の開口を通って、ボールウェイト137を突き上げる。ボールウェイト137が押し上げられると、センサアーム120を同図中上方に移動し、この係止突起120aがラチェットホイール111のラチェット歯111bに噛合する。
【0011】
これにより、ラチェットホイール111のシートベルト引出し方向の回動が阻止される。シートベルトがさらに引き出されてリール102を引き出し方向に回転すると、ラチェットホイール111は、リール102に対して回転遅れを生じ、シートベルト巻取り方向に相対回転する。この係止されたラチェットホイール111とリール102との回転差によって、ラチェットホイール111のカム孔111aがポール108の係合突起108cをリール102の回転中心軸から半径方向外方に移動させていく。
これにより、側板104aの係合内歯105に噛合し、リール102の引き出方向への回転が阻止される。こうして、時刻tが(t=ta)で引出しロックが完了し、以降、シートベルトの張力Fは、(F=Fa)から急激に上昇する。
【0012】
【特許文献1】
特開昭50−79024号公報
【特許文献2】
特公昭59−21624号公報
【特許文献3】
実公平2−45088号公報
【特許文献4】
特開2001−163185号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来技術にあっては、衝突後もモータ101は巻取駆動を継続しており、VSI機能による引出しロックは、センサアーム120が作動してもすぐには引出しロックとならず、センサアーム120によってラチェットホイール111の引き出し側への回転が止められ、止められたラチェットホイール111とリール102との間の回転差によってポール108がリール102の半径方向外方に移動し、側板104aの係合内歯105に噛合してこのとき初めてシートベルトの引き出しが止められる。
したがって、ベルトロック機構103のVSI機能が働いてセンサアーム120が作動してから実際にシートベルトの引き出しが止められるまでには、ある程度のシートベルトの引き出しが行われてしまう。
ここで、モータ101による巻き取りが行われており、引出しロックに至るまでには、モータ101の巻き取り力に逆らって引き出すため、モータ101による巻取り力が小さい場合や、モータ101による巻取り力がない場合に比べて、ロックまでの時間が長くなるという問題があった。
【0014】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、ロックまでの時間を短縮させることができる車両用乗員拘束保護装置を提供することを目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、この発明の構成は、乗員を車両の座席に拘束するシートベルトと、前記シートベルトの引出し量を加減することによって、前記シートベルトによる前記乗員に対する拘束具合を調節するベルト調節手段と前記シートベルトをロックして、該シートベルトが引き出されることを阻止するベルトロック手段とを備えてなる車両用乗員保護装置に係り、前記車両が衝突する直前に、衝突直前信号を生成して出力する衝突直前信号生成手段と、前記車両が衝突したときに衝突信号を生成して出力する衝突信号生成手段と、入力される前記衝突直前信号と前記衝突信号とに基づいて、前記ベルト調節手段及び前記ベルトロック手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記衝突直前信号が入力されると、前記ベルト調節手段を制御して、前記シートベルトによる前記乗員に対する拘束具合をより高める一方、前記衝突信号が入力されると、前記ベルトロック手段を制御して、前記シートベルトの引出しを阻止すると共に、前記ベルト調節手段を制御して、前記シートベルトによる前記乗員に対する拘束具合をより低下させることを特徴としている。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について説明する。説明は、実施例を用いて具体的に行う。
◇第1実施例
図1は、この発明の第1実施例であるシートベルト装置の概略構成を示す図、図2は、同シートベルト装置のベルト巻取装置の構成を示す図、図3は、同ベルト巻取装置の制御ユニットの構成を示すブロック図、図4は、同ベルト巻取装置のポテンショメータの構成を示す回路図、図5は、同制御ユニットのモータ駆動回路の構成を示す回路図、図6は、同ベルト巻取装置の一部分の構成を示す分解斜視図、図7は、同ベルト巻取装置の他の部分の構成を示す分解斜視図、図8は、同ベルト巻取装置のベルトロック機構の構成を示す断面図、図9は、同ベルトロック機構のラチェットホイールの構成を説明するための説明図、図10は、同ベルトロック機構のロックアームの構成を示す図、図11は、同ベルトロック機構のイナーシャプレートの構成を示す図、図12乃至図14は、同シートベルト装置のベルトロック機構の動作を説明するための説明図、図15は、同シートベルト装置の動作を説明するためのフローチャート、図16及び図17は、同シートベルト装置の電磁的アクチュエータの動作を説明するための説明図、また、図18は、時間とシートベルトの張力との間の関係を示す特性図である。
【0023】
図1乃至図3に示すように、この例のシートベルト装置(車両用乗員拘束保護装置)1は、乗員Aを車両の座席2に拘束するシートベルト(ウェビング)3と、シートベルト3を巻き取るベルト巻取装置4と、シートベルト3を乗員Aの肩近傍で折り返すスルーアンカ5と、シートベルト3を挿通して乗員Aの腰部に配置されるバックル6と、バックル6と係合するタングプレート7と、シートベルト4の端部を車体に固定するアンカ8と、バックル6に内蔵されてベルト装着を検出するバックルスイッチ9と、車両の衝突を予知する衝突予知部(衝突直前信号生成手段)11と、車両の衝突を検出する衝突信号生成部(衝突信号生成手段)12とを備えている。
また、車両のハンドルの中央部には、エアバック装置13が設けられている。また、助手席のダッシュボード部やドア部にもエアバック装置が設けられている。
【0024】
ベルト巻取装置4は、図2に示すように、シートベルト3を巻き取るモータ(ベルト調節手段)15等を制御する制御ユニット16を備えるとともに、フレーム17に、シートベルト3を巻回するリール18と、リール18の左端側で結合し、リール18回転の中心軸となるリールシャフト(拘束制限手段)19が回転自在に設けられ、さらに、リールシャフト19の右端部には、シートベルト3の引出しをロックするベルトロック機構(ベルトロック手段)21が設けられてなっている。
ベルトロック機構21は、車両に所定の減速度や衝撃が作用したときに、シーとベルト3の引出しをロックする機能(VSI機能)と、シートベルト3が所定値以上の加速度で急激に引き出されたときに、シートベルト3の引き出しをロックする機能(WSI機能)とを備えている。
【0025】
このベルトロック機構21には、制御ユニット16からの指令信号に応答して引出ロックを行うための電磁的アクチュエータ22が設けられている。電磁的アクチュエータ22は、制御ユニット16の指令信号によって作動が制御され、ソレノイド(励磁コイル)22aと、コイルスプリング22bと、鍔付きのプランジャ(磁心)22cとを有し、車体加速度感知部50の下部に配置されている(図16及び図17参照)。
ベルトロック機構21は、シートベルト引出しのロック状態でもモータ15によるシートベルト3の巻き取りが可能なように構成されている。
【0026】
また、リールシャフト19は、ねじれ軸であり、エネルギ吸収機能を担っている。すなわち、ベルトロック機構21によってリールシャフト19の右端がロックされた状態で、シートベルト3が強い力で引き出されてリール18が回転すると、リールシャフト19自身が軸の周りにねじれて塑性変形する。これにより、シートベルト3が引き出されて、シートベルト3によって乗員Aの身体に作用する衝撃エネルギが吸収される。
【0027】
リールシャフト19に固定されたプーリ24は動力伝達用ベルト25を介したモータ15の軸に固定されたプーリ26と連結している。プーリ24,26の外周にはそれぞれ所定数の外歯が形成され動力伝達用ベルト25の内周にも所定数の内歯が形成されている。
リールシャフト19のプーリ24、モータ用のプーリ26、動力伝達用ベルト25の各歯山は、過不足なく噛み合っており、モータ15の回転は、リールシャフト19に伝達される。
モータ15は、フレーム17に少なくとも2点以上で固定されており、制御ユニット16の指令信号によって動作する。
【0028】
リールシャフト19の最左端に設けられたポテンショメータ27は、図4に示すように、両端に電圧が印加される抵抗体27aと、リールシャフト19の回転に連動する摺動子27bとから構成され、リールシャフト19の基準位置からの回転量に対応した電圧値を制御ユニット16に出力する。
これによって、例えば、シートベルト3の引き出し量を推定することができる。また、シートベルト3の緩みのない状態の電圧値と、シートベルト3の引き出された状態の電圧値とを比較することによって、シートベルト3の緩み量を推定することができる。
【0029】
制御ユニット16は、マイクロコンピュータシステムによって構成され、CPUからなる制御部(制御手段)28と、ROM29aやRAM29bからなる記憶部29と、入力インタフェース31と、出力インタフェース32と、モータ15を駆動するモータ駆動回路33と、エアバッグ点火スクイブ34を駆動するスクイブ駆動回路35と、電磁的アクチュエータ22にソレノイド22aを励磁するための電流を供給するパワー増幅器36とを有している。
制御部28は、例えば、ROM29aに保持された制御プログラムやデータを、RAM29bのワーキングエリアにロードして、モータ15や、ベルトロック機構21を作動させる電磁的アクチュエータ22の動作を制御する。
【0030】
衝突予知部11は、自車両と、前方車両等の障害物との衝突が生ずる可能性があるか、衝突を回避可能か回避不可であるかを判別するために設けられる。例えばレーザレーダ、超音波センサ等の非接触型距離センサによって所定時間毎に自車両と障害物との距離を計測し、この距離の時間的変化から相対速度を算出する。そして、距離を相対速度で除算して衝突までの時間を計算する。
衝突予知部11は、衝突時間が予め設定された所定時間以下ならば、衝突の可能性があるとして衝突予知信号(衝突直前信号)を出力する。この信号は、入力インタフェース31に供給され、RAM29b内に設けられたフラグ領域(フラグレジスタ)の「衝突予知フラグ」をオンに設定する。これにより、制御部28に割り込み処理を開始させる。
【0031】
バックルスイッチ9の出力は、入力インタフェース31を介して、RAM29b内に設けられたフラグ領域に,シートベルト3の装着の有無に対応したフラグの設定を行う。
衝突信号生成部12は、衝突時に車体に発生する衝撃を加速度センサによって検出し、加速度信号を信号処理して大きさや立ち上がり波形に基づいて衝突検出を行い、衝突信号を出力する。この信号は入力インタフェース31に供給され、RAM29b内に設けられたフラグ領域の「衝突検出フラグ」をオンに設定する。これにより、制御部28に割り込み処理を開始させる。
【0032】
なお、ポテンショメータ27の出力電圧は、入力インタフェース31によって、所定周期でA/D変換される。入力インタフェース31は、CPUを内蔵しており、変換された出力電圧データを監視している。
例えば、出力電圧データの前回値と今回値とが相違することによって、リールシャフト19の回転状態を判別し、出力電圧データの前回値と今回値との差の正又は負によって、シートベルト3の引出しフラグ、又は巻取りフラグをRAM29bのフラグ領域に設定する。
または、DMA動作によって出力電圧データをRAM29bの回転量エリアに書き込む。シートベルト3を巻き取った状態の出力電圧データからの引出方向への変化分は、シートベルト3の緩みに相当する。この緩み量は、RAM29bのベルト緩み量エリアに書き込まれる。
【0033】
モータ15に流れる電流値は、モータ駆動回路33に設けられた電流検出器によって電流に対応した電圧値として検出される。この電圧値は、入力インタフェース31において、所定周期でA/D変換され、DMA動作によってRAM29b内のモータ電流領域に書き込まれる。モータ15の電流はモータ15の回転トルクに関係することから、負荷電流値によって回転トルクを推定することができる。モータ15の回転トルクは、シートベルト3の引込力(張力)となる。
制御部28は、制御プログラムに設定された所定の条件が満たされると、モータ15の正転指令、逆転指令、駆動停止指令を出力インタフェースに与える。
出力インタフェース31は、これらの命令に対応したゲート信号を発生し、モータ駆動回路33に供給する。正転指令に対しては、G1、G2をそれぞれ「H」、「L」に、逆転指令に対しては、G1、G2をそれぞれ「L」、「H」に、駆動停止指令に対しては、G1、G2をそれぞれ「L」、「L」に設定する。
【0034】
モータ駆動回路33は、図5に示すように、PNP型のトランジスタQ1、Q2、NPN型のトランジスタQ3、Q4の4つのトランジスタによって、トランジスタブリッジ回路が構成されてなっている。
トランジスタQ1、Q2のエミッタ同士は接続され、この接続点に電源Vcが供給される。トランジスタQ3、Q4のエミッタ同士も接続され、この接続点に接地電位が供給される。
トランジスタQ3、Q4の各エミッタ出力電流は、電流検出器CTによってレベル検出され、レベル検出信号が入力インタフェース31に送られる。入力インタフェース31は、レベル検出信号をA/D変換し、DMA動作によってRAM29bのベルト張力エリアに書き込む。モータ15を流れる負荷電流値は、トルクに関係するので、これにより、シートベルト3の張力を推定することができる。
【0035】
トランジスタQ1のコレクタとトランジスタQ3のコレクタとは、ダイオードD1を介して接続される。トランジスタQ2のコレクタとトランジスタQ4のコレクタとは、ダイオードD2を介して接続される。トランジスタQ1のベースとトランジスタQ4のコレクタとはバイアス抵抗R1を介して接続される。トランジスタQ2のベースとトランジスタQ3のコレクタとはバイアス抵抗R2を介して接続される。トランジスタQ1、Q2の各コレクタ相互間にモータ15が接続される。
【0036】
このモータ駆動回路33において、トランジスタQ3、Q4の各ゲートに正転指令信号が出力インタフェース32から供給されると、トランジスタQ3は導通、トランジスタQ4は非導通となる。トランジスタQ3のコレクタは導通によって接地レベルとなり、抵抗R2を介してトランジスタQ2のベースを低レベル(略接地レベル)にバイアスし、トランジスタQ2を導通させる。トランジスタQ4のコレクタは略電源レベルとなり、抵抗R1を介してトランジスタQ2のベースを高レベルにバイアスし、トランジスタQ1を非導通にさせる。この結果、電源Vc、トランジスタQ2、モータ15、ダイオードD1、トランジスタQ3、接地の経路で順方向の電流路が形成され、モータ15はシートベルト3を巻き取る方向に回転する。
【0037】
トランジスタQ3、Q4の各ゲートに逆転指令信号が出力インタフェース32から供給されると、トランジスタQ3は非導通、トランジスタQ4は導通となる。トランジスタQ4のコレクタは導通によって接地レベルとなり、抵抗R1を介してトランジスタQ1のベースを低レベルにバイアスし、トランジスタQ1を導通させる。トランジスタQ3のコレクタは略電源レベルとなり、抵抗R2を介してトランジスタQ2のベースを高レベルにバイアスし、トランジスタQ2を非導通にさせる。
この結果、電源Vc、トランジスタQ1、モータ15、ダイオードD2、トランジスタQ3、接地の経路で順方向の電流路が形成され、モータ15はシートベルト3を引き出す方向に回転する。
【0038】
トランジスタQ3、Q4の各ゲートに駆動停止指令信号が出力インタフェース32から供給されると、トランジスタQ3、Q4は共に非導通となる。トランジスタQ3が導通状態から非導通状態となった場合、トランジスタQ3のコレクタは、接地レベルから略電源レベルに上昇し、トランジスタQ2のベースを高電位にバイアスして、トランジスタQ2をも遮断する。
同様に、トランジスタQ4が導通状態から非導通状態となった場合、トランジスタQ4のコレクタは、接地レベルから略電源レベルに上昇し、トランジスタQ1のベースを高電位にバイアスして、トランジスタQ12をも遮断する。
このようにして、駆動停止指令が供給されると、ブリッジを構成する各トランジスタが非導通となる。
【0039】
制御部28は、ベルトロック機構21のロック機能を作動させる条件が満たされると、ロック指令信号(ソレノイドの作動指令)を出力インタフェース32に与える。出力インタフェース32のフラグレジスタに設定された作動指令は、パワー増幅器36によって論理レベルの信号からそれ沿い度を駆動できるレベルにパワー増幅され、ソレノイド22aに与えられる。
ソレノイド22aが動作することによって、電磁的アクチュエータ22が移動し、ベルト巻取装置4のロック機構を動作させる。なお、ベルトロック機構21は、作動すると、巻き取ったシートベルト3の引出しを阻止してシートベルト3の緩みを防止するが、シートベルト3の巻取りは許容する構造となっている。
【0040】
次に、図6乃至図14を参照して、この例のシートベルト装置1のベルト巻取装置4の機械的構成について説明する。
図6に示すように、リトラクトベース41は、その大部分がコの字状断面を有しており、対向する側板41a,41bには、対向してそれぞれ巻取軸貫通孔が穿設され、シートベルト3を巻装する巻取軸であるリール18がこれら巻取軸貫通孔を挿通した状態で回動自在に軸架されている。
また、側板41aに設けられた巻取軸貫通孔の内周縁には係合内歯42が形成されており、上記巻取軸貫通孔の外側にはリング部材43が並設されている。リング部材43には、内周縁に沿って絞り加工が施されており、リング部材43が側板41aの外側面にリベット44によって固着された際に、係合内歯42とリング部材43の内周縁との間に軸方向の隙間が生じるように構成されている。
【0041】
リトラクタベース41の側板側には、緊急時にシートベルト3の引出しを阻止するためのベルトロック機構21が配置されている。また、リトラクタベース41の側板側には、タイミングベルト25を介してモータ15によって駆動される軸(リールシャフト19に相当する)45に連結したプーリ24、巻取りばね46、ポテンショメータ27等を含む動力伝達ユニット47が配置されている。
リール18は、アルミニウム合金等で一体成形された略円筒形の巻取り軸であり、シートベルト3が巻回される胴部48には、シートベルト3の端部を挿通させて保持するための直径方向に貫通するスリット状開口28aが設けられている。また、リール18の外周部には、別体で形成されたフランジ部材49が装着され、シートベルト3の巻き乱れを防止する。
また、リトラクタベース41に組み付けたリール18の外周に巻装されたシートベルト3は、リトラクタベース41の背板側の上部に取り付けられたシートベルトガイド51を挿通させることによって、出入位置が規制される。
【0042】
リール18の両端面には、リール18を回転自在に支持するための回転支軸が突設されるが、リール18のセンサ側端面には、図7に示すように、別体に構成された支軸ピン52が回転支軸として圧入されている。
また、リール18のセンサ側端面には、図6に示すように、側板に構成された係合内歯42に係合可能なロック部材であるボール53を揺動回動可能に軸支する支軸54が突設されている。
また、ポール53が係合内歯42と係合する方向へ揺動回転したときに、ポール53の揺動側端部と反対側のポール後端部53eを位置決めし、係合内歯42との間でポール53に大きな荷重が加わった場合には、その荷重を受ける受圧面55がリール18のセンサ側端面に設けられている。
【0043】
さらに、リール18のセンサ側端面には、ロック作動手段のラッチ部材であるラチェットホイール56に揺動可能に軸支された揺動レバー部材57の反時計周り方向の回転を規制するための係止突起58が設けられている。
凹部59は、ラチェットホイール56をシートベルト3引出し方向(図7中矢印X2に示す方向)に回転付勢する引張りコイルばね61と、後述するセンサスプリング62を押圧するロックアーム63のアーム部63cとがリール18に干渉するのを防ぐ逃げである。
ポール53の揺動端部には、側板41aに構成された係合内歯42に対応して係合可能な係合歯53cが一体形成されている。また、ポール53の中央部には、支軸54に遊嵌する軸孔53aが貫通されており、ポール53のセンサ側面には、揺動端側に位置する係合突起53bとポール後端側に位置する押圧突起53dとが突設されている。
【0044】
すなわち、軸孔53aは支軸54に対して遊嵌状態なので、ポール53が支軸54に対して揺動回動可能及び所定量相対移動可能に軸支されている。また、リール53に圧入された支軸ピン52により貫通孔を嵌通された保持プレート64の係止孔64bには、ポール53の軸孔53aを貫通した支軸54の先端がかしめられており、保持プレート64はリール18の端面からポール53が浮き上がるのを防止している。
また、ポール53の係合突起53bの端部は、保持プレート64の外側に配設されて支軸ピン52に回動自在に軸支されたラチェットホイール56に形成されているカム孔56aに挿入されている。
ここで、ラチェットホイール56がリール18に対してシートベルト3巻取り方向(図7中矢印X1に示す方向)に相対回転すると、カム孔56aが係合突起53bの端部をリール18の回転中心軸から半径方向外方に移動させるように作用するので、ポール53は側板41aに形成された係合内歯42との係合方向(図6中矢印Y1に示す方向)へ支軸54を中心に揺動回転させられる。
【0045】
すなわち、ポール53が、係合内歯42と係合する方向に揺動回転させられ、ポール53の係合歯53cが係合内歯42に係合することによってリール18のシートベルト3引出し方向の回転を阻止するロック手段を構成している。
ラチェットホイール56は、図7及び図8に示すように、中心孔が支軸ピン52に回動自在に軸支された爪車であり、その外周部には、車体加速度感知部50のセンサアーム65と係合するためのラチェット歯56bが形成されている。
また、支軸ピン52のフランジ部52aは、シートベルト3の引出加速度を感知する慣性感知手段としてのベルト引出加速度感知部40を構成する円盤状の慣性部材であるイナーシャプレート66の中心孔66aを軸支している。ラチェットホイール56の中心孔周縁でベルト巻取装置4外側に向かって突設された係止爪部67は、係合孔66bに係合してイナーシャプレート66のスラスト方向の位置決めを行っている。
ラチェットホイール56に形成された長孔68には、イナーシャプレート66の係合突出部69が係合しており、長孔68の一端縁68aがベルトロック機構21の非作動時のイナーシャプレート66の回転方向の位置決めを行っている(図9参照)。
【0046】
ラチェットホイール56の外側面には、ロックアーム63を回動自在に軸支する軸部71と、ばねフック部72とが突設されている。イナーシャプレート66には、図11及び図13に示すように、ばねフック部72を挿通させる開口73が形成されている。
この開口73には、ばねフック部72を挿通した状態でイナーシャプレート66がラチェットホイール56に対して相対回転可能な長孔状に形成されており、その一端には、ばねフック部72に対応するばねフック部74が設けられている。
これらの一対のばねフック部間72,74には、圧縮コイルばね75が嵌挿される。この圧縮コイルばね75は、図12に示すように、イナーシャプレート66上の係合突起部69がラチェットホイール56に形成された長孔68の他端縁68bに当接した状態(すなわち、非ロック状態)に保たれるように、付勢している。
【0047】
ラチェットホイール56の内側面には、一端が保持プレート64の掛止部64cに掛止された引張りコイルばね61の他端を掛止するばね掛止部76が設けられており、引張りコイルばね61は、リール18に対してラチェットホイール56をシートベルト3引出し方向に回転付勢している。
ロックアーム63には、図10に示すように、ギアケース77の内歯ギア77aと噛み合い可能な係合爪63bと、ラチェットホイール56の外側面に設けられた一対のフック部56dに両端を支持された線状のセンサスプリング62の長手方向中央部を押圧するアーム部63cとが設けられている。
ここで、ロックアーム63は、係合爪63bが被係合部である内歯ギア77aと噛み合ってラチェットホイール56のシートベルト3引出し方向の回転を阻止する係止部材を構成している。係合爪63bは、センサスプリング62の付勢力により、イナーシャプレート66の当接部78に押圧付勢されている。
なお、アーム部63cの揺動範囲に対応するラチェットホイール56には開口が形成され、アーム部63cが開口を貫通するが、これは、センサスプリング62に対するアーム部63cの係合状態を保証するためのものである。
【0048】
当接部78は、ロックアーム63の係合爪63bの背部63dが摺動するカム面として、イナーシャプレート66の回転がロックアーム63に影響を与えない第1のカム面78aと、リール18に対するイナーシャプレート56の回転遅れに応じて係合爪63bが内歯ギア77aに噛合するようにロックアーム63を揺動させる第2のカム面78bとを備えた構成とされている。
ベルトロック機構21の非ロック状態では、第1のカム面78aがロックアーム63の背部63dに当接しており、イナーシャプレート66のリール18に対する回転遅れが一定量を超えるまでは、背部63dが第2のカム面78bに当接しないようになっている。
第1のカム面68aの長さ(すなわち、第1のカム面68aに背部63dが摺接した状態でイナーシャプレート66が回転する量)は、シートベルト3の全量格納時にイナーシャプレート66に作用する慣性力で、イナーシャプレート66がリール18に対して回転遅れを生じても、その程度の回転遅れでは、ロックアーム63の背部63dが第2のカム面78bには到達しない程度に、第1のカム面68aの長さが設定されている。
【0049】
また、この例のロックアーム63は、係合爪63bとは反対側の揺動端に当接爪63eが形成されている。この当接爪63eに対応するように、イナーシャプレート66には当接爪63eが当接可能な段差部81が設けられている。
段差部81は、非ロック状態でイナーシャプレート66が初期位置にあるとき、当接爪63eが当接することで、ロックアーム63のロック方向への回動を規制するものである。
図13及び図14に示すように、イナーシャプレート66が所定量以上回転遅れを生じ、ロックアーム63の背部63dが第2のカム面78bに当接するときには、第2のカム面78bによる押圧作用によってロックアーム63がロック方向へ揺動可能になる。
さらに、ラチェットホイール56の内側面に突設された支軸82には、軸孔57aを軸支された揺動レバー部材57が揺動可能に配設されている。揺動レバー部材57は、リール18のセンサ側端面に突設された係止突起58により反時計周り方向の回転が適宜規制されると共に、ポール53のセンサ側面に突設された押圧突起53dが支軸82と係止突起58との間に当接することによって、時計周り方向の回転が適宜規制されるように、リール18とラチェットホイール56との間に組み付けられている。
【0050】
また、イナーシャプレート66の外側に配設されたギアケース77の中心部には、支軸ピン52を介してリール18を回転自在に軸支する軸支部77bが設けられており、軸支部77bの底面には、支軸ピン52のフランジ部52aが当接し、リール18の軸線方向の位置決め面となっている。さらに、ギアケース77の下部には、車体の加速度を感知する慣性感知手段である車体加速度感知部50を格納する箱形の格納部83が設けられている。
また、ギアケース77を覆う側板の外側には、センサカバー84が配置される。
【0051】
次に、図12乃至図18を参照して、この例のシートベルト装置1の動作について説明する。
まず、図15を参照して、概略的に説明する。
制御部28は、メインプログラムを実行することによって、シートベルト3の着用フラグを周期的に監視する(ステップST11(図15))。ステップST11で、シートベルト着用フラグがオンとなっていると、制御部28は、衝突の可能性があるか否かを衝突予知フラグの設定の有無によって判別する(ステップST12)。
同フラグがオンであると、モータ駆動回路33を制御し、モータ15をシートベルト3の巻取り方向に回転駆動させて、シートベルト3の巻き取りを行う(ステップST13)。これにより、シートベルト3のある程度の緩みを除去する。ここで、巻き取りは、例えば、シートベルト3が所定の張力を越えるまで、又は所定時間行うものとしても良い。張力は記憶部29のRAM29bの電流値エリアに書き込まれたサンプル値を読み取ることによって、判別可能である。このステップによって、衝突前にシートベルト3の緩みが除去される。次に、ステップST15へ進む。
【0052】
一方、ステップST11で、シートベルト3の未装着、又は衝突予知フラグがオフであると、シートベルト3の緩みを除く必要はないので、制御部28は、シートベルト3を巻き取るモータ15の回転駆動の停止を出力インタフェース32に指令する(ステップST14) 。
これにより、モータ駆動回路33からモータ15への電流供給が停止し、モータ15は動作を停止する。次に、ステップST12へ進む。なお、シートベルト3は、巻取りばねの力によって、非装着の場合は、ベルト巻取装置4内に格納される。シートベルト装着の際には、最低限の緩みが除去される。
【0053】
ステップST15では、制御部28は、衝突検出フラグを周期的に監視する。制御部28は、衝突したか否かを衝突検出フラグの設定の有無により判別する。同フラグがオンであると、ステップST16に進み、モータ15の回転駆動の停止を出力インタフェース32に指令する 。これにより、モータ駆動回路33からモータ15への電流供給が停止し、モータ15は動作を停止する。
また、制御部28は、ロック指令信号を出力インタフェース32に与え、ベルト巻取装置4のベルトロック機構21を作動させ、巻き取ったシートベルト3の引出しを阻止してシートベルト3の緩みを防止するが、シートベルト3の巻き取りは許容する。
さらに、制御部28は、エアバック装置13に点火信号を供給し、火薬を発火させ、燃焼ガスの急膨張によってバッグを展開させる。これによって、乗員Aの車室内への二次衝突を防止する。
【0054】
次に、図12乃至図17を参照して、この例のシートベルト巻取装置1のうち、主としてベルトロック機構21の動作について、詳細に説明する。
まず、通常使用状態(すなわち、ステップST11でシートベルト着用が検知され、ステップST12で衝突の可能性なしと判断されているような場合)では、図12に示すように、ラチェットホイール56は、ばね掛止部76とプレート64のばね掛止部64cに掛止された引張りコイルばね61の付勢力によって、リール18に対してシートベルト引出し方向に付勢されており、カム孔56aに係合突起53bが係合するポール53を係合内歯42と非係合な方向に付勢している。
このため、リール18は回転可能であり、シートベルト3の引出しは自在である。
なお、通常状態では、電磁的アクチュエータ22のソレノイド22aは励磁されており、この状態では、図16に示すように、プランジャ22cは、ボールウェイト86と接触せず、ベルトロック機構21に影響を与えない。
【0055】
ステップST15で、衝突検出フラグがオンとなり、制御部28が、衝突を検知すると、ロック指令信号を出力インタフェース32に与え、ベルト巻取装置4のベルトロック機構21を作動させる。
すなわち、制御部28がシートベルト3をロックすべく、電磁的アクチュエータ22のソレノイド22aの励磁を解除すると、図17に示すように、スプリング22bの付勢力によってプランジャ22cは持ち上げられる。
プランジャ22cの先端は、センサカバー50aの底部の開口を通って、ボールウェイト86を突き上げる。ボールウェイト86が押し上げられると、センサアーム65を図中上方に移動し、この係止突起65aがラチェットホイール56のラチェット歯56bに噛合する。
【0056】
これにより、ラチェットホイール56のシートベルト引出し方向の回動が阻止される。シートベルト3がさらに引き出されてリール18を引き出し方向に回転すると、ラチェットホイール56は、リール18に対して回転遅れを生じ、シートベルト巻取り方向に相対回転する。この係止されたラチェットホイール56とリール18との回転差によって、ラチェットホイール56のカム孔56aがポール53の係合突起53bをリール18の回転中心軸から半径方向外方に移動させていく。
これにより、側板41aの内歯42に噛合し、リール18の引出し方向への回転が阻止される。
この例では、ソレノイド22aに励磁電流を供給しているときに、ロック動作を行わず、励磁電流を遮断すると、ロック動作を行うようにしている。すなわち、低レベルの作動信号を供給することによって、ベルトロック機構21を作動させる。
したがって、シートベルト装置1への電源が遮断された場合に、シートベルト3のロックが行われる。
【0057】
次に、図18を参照して、モータ15を作動させたときのシートベルト3の張力変化を経時的に説明する。
同図で、符号L1は、この例のシートベルト装置1における時間とシートベルトの張力との間の関係を示す特性曲線、符号Laは、従来技術のシートベルト装置における時間とシートベルトの張力との間の関係を示す特性曲線である。
図18に示すように、時刻tが(t=t1)において、制御部28によって、衝突の可能性ありと判断され、モータ15が作動を開始し、シートベルト3の張力Fは巻き取りばねによる張力F0から上昇する。時刻t2において、衝突が発生すると、時刻t3(張力Fは、(F=F1))において、衝突が検出され、制御部28は、モータ15を停止させるとともに、ベルトロック機構21を作動させる。また、制御部28は、エアバック装置13を作動させる。
【0058】
モータ15の停止によって、張力Fは、時刻t3から下がり始め、かつ、乗員Aに対して衝突方向に慣性力が作用するために、シートベルト3には、引き出される方向に力が作用する。そして、時刻t4でシートベルト引出しのロックが完了すると、張力Fは、(F=F2)から急激に上昇する。
ここで、衝突検出時(t=t3)に、一旦、モータ15の駆動力を低下させることによって、衝突検出時以降、モータ15の巻取り力に逆らってシートベルト3が引き出されることによる無駄がないので、衝突から引出しロックまでの時間が短縮される。例えば、従来技術に比べ、衝突からロック完了までに要する時間は、(Δt=ta−t4)短縮されている。
【0059】
なお、衝突検知部12による衝突検知よりも、やベルト引出加速度感知部40や車体加速度感知部50が先に作動して、引出ロックがなされた場合は、同時ではなく、引出ロック後、衝突検知部12に基づく制御部28の制御によって、モータ11の駆動が停止される。
【0060】
この例の構成によれば、衝突検出時に、一旦、モータ15の駆動力を低下させることによって、衝突検出時以降、モータ15の巻取り力に逆らってシートベルト3が引き出されることによる無駄を省くことができるので、衝突から引出しロックまでの時間が短縮される。
【0061】
◇第2実施例
図19は、この発明の第2実施例であるシートベルト装置の電磁的アクチュエータの構成を説明するための説明図である。
この例が上述した第1実施例と大きく異なるところは、第1実施例では、電磁的アクチュエータがセンサアームにラチェットホイールの歯面に対して係止させるようにしたのに対して、電磁的アクチュエータのレバーが直接ラチェットホイールの歯面に作用するうに構成した点である。
これ以外の構成は、上述した第1実施例の構成と略同一であるので、その説明を簡略にする。
【0062】
この例のシートベルト装置の電磁的アクチュエータ22Aは、図19に示すように、フレームに取り付けられたソレノイド88aと、プランジャ88cと、一端部でプランジャ88cと係合し、中央部を回動可能に軸支されたくの字型のレバー88dと、図中時計周り方向の付勢力を与えるコイルスプリング88bとを有している。
レバー88dの爪部が移動してラチェットホイール56の歯面56bに接すると、ラチェットホイール56の回転を阻止してポール53とフレームの係合内歯42とによるロック機構を作動させる。
【0063】
制御部28からソレノイド88aに励磁電流が供給されている通常状態では、ソレノイド88aがコイルスプリング88bに抗してプランジャ88cを引き寄せ、プランジャ88cと一端部で回動自在に軸支されているレバー88dの他端の爪部はラチェットホイール56から離間している。したがって、ロック機構は作動しない。
次に、制御部28が、シートベルト3をロックするべく制御部28からの励磁電流の供給が断たれると、コイルスプリング88bの付勢力によってプランジャ88cが同図において下方に引き出され、レバー88dを回動する。これによって、レバー88dの他端の爪部は、ラチェットホイール56のシートトベルト引出し方向への回転を阻止する。シートトベルト3が引き出されてリール18を引き出し方向に回転すると、係止されたラチェットホイール56とリール18との回転差によってポール53がリール18の半径方向外側に移動し、側板41aの係合内歯42に噛合する。これによって、ロックが完了する。
【0064】
この例の構成によれば、上述した第1実施例と略同様の効果を得ることができる。
【0065】
◇第3実施例
図20は、この発明の第3実施例であるシートベルト装置の構成を説明するための説明図である。
この例が上述した第1実施例と大きく異なるところは、バックル側にシートベルトを引き込みあるいは引き出すベルト調節手段としての電動ウィンチを配置した点である。
これ以外の構成は、上述した第1実施例の構成と略同一であるので、その説明を簡略にする。
【0066】
この例のシートベルト装置(車両用乗員拘束保護装置)1Bでは、図20に示すように、バックル6側にシートベルト3を引き込みあるいは引き出すベルト調節手段として、モータ89aと、バックル6に連結したワイヤ89cを巻き取るリール89bとを有した電動ウィンチ89を備えている。モータ89aが正逆に回転することによってワイヤ89cの引出し及び引込みができる。
制御部28は、モータ15を駆動する代わりに電動ウィンチ89のモータ89aを駆動してシートベルト3の緩みを除去する。この場合も、モータ89aの電流値を検出することによって、シートベルト3の張力を推定することが可能である。
【0067】
このように、この例の構成によれば、上述した第1実施例と略同様の効果を得ることができる。
加えて、車体にシートベルト3の端部を固定した場合に比べてシートベルト3の引き出されている部分の長さが短くなるので、シートベルト3の緩みをより迅速に除去することができる。
【0068】
◇第4実施例
図21は、この発明の第4実施例であるシートベルト装置の構成を説明するための説明図である。
この例が上述した第3実施例と大きく異なるところは、ベルト調節手段としての電動ウィンチをシートベルトの端部を固定するアンカ側に設けた点である。
これ以外の構成は、上述した第3実施例の構成と略同一であるので、その説明を簡略にする。
【0069】
この例のシートベルト装置(車両用乗員拘束保護装置)1Cでは、図21に示すように、ベルトの緩みを除去するベルト調節手段としての電動ウィンチ89をシートベルト3の端部を固定するアンカ側(ラップベルト固定部)に設けている。
【0070】
このように、この例の構成によれば、上述した第3実施例と略同様の効果を得ることができる。
【0071】
以上、この発明の実施例を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。
例えば、上述した実施例では、モータを停止させる場合について述べたが、停止させずに、減速させてモータの駆動力を低下させるようにしても良い。
また、ベルト調節手段としてモータを用いる場合について述べたが、例えば、スプリングを動力源としても良い。
また、ベルト調節手段を、ベルト巻取装置に設けても良いし、ベルト巻取装置以外の箇所に取り付けるようにしても良い。この場合、取付箇所は、例えば、バックル側やラップベルト固定部としても良い。
また、ベルト引出加速度感知部40や車体加速度感知部50から、作動時に制御部28へ感知信号を送出し、制御部28がこの感知信号に基づいて、モータ15を制御するように構成しても良い。また、この感知信号に基づくモータ15の制御を、制御部28とは別の制御手段によって行うようにしても良い。
また、例えば、衝突予知部11の衝突可能性等の判断機能を、制御部28が兼ねるように構成しても良い。
【0072】
また、例えば火薬式のプリテンショナを追加して設けるようにしても良い。このプリテンショナは、ガス発生器と、このガス発生器から発生したガスを封止するシリンダと、シリンダ内をガス圧によって移動するピストンと、ピストンの移動をクラッチ機構を介してリール軸の回転運動に変換する伝達機構とを備え、衝突検出器の出力によって制御部を介して作動し、リールシャフトをシートベルトの巻き取り方向に回転し、シートベルトを強制的に巻き取って、乗員を座席に拘束するようにする。
【0073】
また、ベルト巻取装置を、車体のセンタピラー下部ではなく、座席に取り付けるようにしても良い。
また、電動式ベルト巻取装置と、シートベルトの端部を固定するアンカ側に設けたプリテンショナとにより構成しても良い。
また、第3実施例や第4実施例で示した電動ウィンチに、プリテンショナを組み込むようにしても良い。
また、第3実施例及び第4実施例において、張力可変手段として、例えば、モータで回転駆動されるねじ棒とこのねじ棒上を往復運動するナットとにより、ワイヤを引き込む構成としても良い。
【0074】
また、図22に示すように、シートベルト装置1Dのベルト巻取装着4を、車体のセンターピラー下部ではなく、座席2に取り付けるようにしても良い。
また、図23に示すように、シートベルト装置1Eにおいて、ベルト巻取装着4内と、バックル6側にプリテンショナ91を設けるようにしても良い。
また、図24に示すように、シートベルト装置1Fにおいて、アンカ8側にプリテンショナ92を設けるようにしても良い。
【0075】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、制御手段が、衝突検出時に、ベルト調節手段を制御して、シートベルトの拘束具合をより低下させることによって、衝突検出時以降、例えば、ベルト調節手段の巻取り力に逆らってシートベルトが引き出されることによる無駄を省くことができるので、衝突から引出しロックまでの時間が短縮される。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1実施例であるシートベルト装置の概略構成を示す図である。
【図2】同シートベルト装置のベルト巻取装置の構成を示す図である。
【図3】同ベルト巻取装置の制御ユニットの構成を示すブロック図である。
【図4】同ベルト巻取装置のポテンショメータの構成を示す回路図である。
【図5】同制御ユニットのモータ駆動回路の構成を示す回路図である。
【図6】同ベルト巻取装置の一部分の構成を示す分解斜視図である。
【図7】同ベルト巻取装置の他の部分の構成を示す分解斜視図である。
【図8】同ベルト巻取装置のベルトロック機構の構成を示す断面図である。
【図9】同ベルトロック機構のラチェットホイールの構成を説明するための説明図である。
【図10】同ベルトロック機構のロックアームの構成を示す図である。
【図11】同ベルトロック機構のイナーシャプレートの構成を示す図である。
【図12】同シートベルト装置のベルトロック機構の動作を説明するための説明図である。
【図13】同シートベルト装置のベルトロック機構の動作を説明するための説明図である。
【図14】同シートベルト装置のベルトロック機構の動作を説明するための説明図である。
【図15】同シートベルト装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図16】同シートベルト装置の電磁的アクチュエータの動作を説明するための説明図である。
【図17】同シートベルト装置の電磁的アクチュエータの動作を説明するための説明図である。
【図18】時間とシートベルトの張力との間の関係を示す特性図である。
【図19】この発明の第2実施例であるシートベルト装置の電磁的アクチュエータの構成を説明するための説明図である。
【図20】この発明の第3実施例であるシートベルト装置の構成を説明するための説明図である。
【図21】この発明の第4実施例であるシートベルト装置の構成を説明するための説明図である。
【図22】この発明の第3実施例の変形例であるシートベルト装置の構成を説明するための説明図である。
【図23】この発明の第3実施例の別の変形例であるシートベルト装置の構成を説明するための説明図である。
【図24】この発明の第3実施例のさらに別の変形例であるシートベルト装置の構成を説明するための説明図である。
【図25】従来技術を説明するための説明図である。
【図26】従来技術を説明するための説明図である。
【符号の説明】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F シートベルト装置(車両用乗員拘束保護装置)
3 シートベルト
4 ベルト巻取装置
11 衝突予知部(衝突直前信号生成手段)
12 衝突信号生成部(衝突信号生成手段)
13 エアバック装置
15 モータ(ベルト調節手段)
16 制御ユニット
19 リールシャフト(拘束制限手段)
21 ベルトロック機構(ベルトロック手段)
28 制御部(制御手段)
A 乗員

Claims (5)

  1. 乗員を車両の座席に拘束するシートベルトと、前記シートベルトの引出し量を加減することによって、前記シートベルトによる前記乗員に対する拘束具合を調節するベルト調節手段と前記シートベルトをロックして、該シートベルトが引き出されることを阻止するベルトロック手段とを備えてなる車両用乗員保護装置であって、
    前記車両が衝突する直前に、衝突直前信号を生成して出力する衝突直前信号生成手段と、前記車両が衝突したときに衝突信号を生成して出力する衝突信号生成手段と、入力される前記衝突直前信号と前記衝突信号とに基づいて、前記ベルト調節手段及び前記ベルトロック手段を制御する制御手段とを備え、
    前記制御手段は、前記衝突直前信号が入力されると、前記ベルト調節手段を制御して、前記シートベルトによる前記乗員に対する拘束具合をより高める一方、前記衝突信号が入力されると、前記ベルトロック手段を制御して、前記シートベルトの引出しを阻止すると共に、前記ベルト調節手段を制御して、前記シートベルトによる前記乗員に対する拘束具合をより低下させることを特徴とする車両用乗員拘束保護装置。
  2. 前記ベルト調節手段は、前記シートベルトを巻き取るモータを有し、前記制御手段は、前記衝突直前信号が入力されると、前記モータをその駆動力がより増加するように制御して、前記シートベルトによる前記乗員に対する拘束具合をより高め、前記衝突信号が入力されると、前記モータをその駆動力がより低下するように制御して、前記シートベルトによる前記乗員に対する拘束具合をより低下させることを特徴とする請求項記載の車両用乗員拘束保護装置。
  3. 前記衝突直前信号生成手段は、非接触型距離センサから得られた検出信号に基づいて、前方の障害物に対する前記車両の相対速度を算出し、該算出結果に基づいて、前記車両と、障害物との衝突が生ずる可能性があるか否か、及び衝突の可能性がある場合は、衝突の回避が可能か否かを判別することを特徴とする請求項1又は2記載の車両用乗員拘束保護装置。
  4. 前記シートベルトによる前記乗員に対する拘束具合を制限する拘束制限手段を備えたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の車両用乗員拘束保護装置。
  5. エアバックを展開して乗員の二次衝突を防止するエアバック装置を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載の車両用乗員拘束保護装置。
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